説明

低分子量シロキサン化合物の製造方法

【課題】特定の官能基を有する低分子量シロキサン化合物を簡便に高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】特定の官能基を有するシロキサン化合物と特定の官能基を有するアルコキシシラン化合物を酸触媒中で水の存在下、反応させることで定量的にアルコキシシラン化合物のシロキシ部位がシロキサン化合物に挿入された化合物を得ることができる。容易に取り扱いができないクロロシランは使用せずにすみ、目的物の分離が簡単である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化された低分子量シロキサン化合物の安易な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量のポリシロキサン、オリゴシロキサンは、工業用油剤、洗浄剤、化粧品添加剤等に使用されている。低分子量ポリシロキサンの製造法は、シクロオルガノポリシロキサンとトリメチルシロキシ封鎖直鎖状ジメチルシロキサンとを触媒存在下で重合することにより得る方法が一般的である。この方法は、酸触媒による平衡反応であり、数%の環状シロキサンや低分子量のポリシロキサンが生成し、分離は困難であった。平衡反応による低分子量シロキサンの製造法に関しては、例えば、非特許文献1,2に記載されている。
【0003】
これらの低分子量ポリシロキサンの合成の弊害を避けるために、確実な構造のシロキサン化合物の合成方法も提案されている。特許文献1には、1,1,5,5−テトラフェニル−1,3,3,5−テトラメチルトリシロキサンの製造法が提案されている。このトリシロキサンは、高性能真空ポンプ用のオイルとして、有効であると記載されている。具体的には、ピリジンの存在下、ジフェニルメチルシラノールとジメチルクロロシランを反応させることで57%の収率で得られることが記載されている。
【0004】
更に、特許文献2には、同様のフェニル基含有トリシロキサンの効率的な合成方法が開示されている。その方法では、ジフェニルメチルシランを水酸化ナトリウムと反応させて、シラノレート化合物とし、次いで、ジメチルクロロシランを反応させることで、85%の収率で得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第787800号公報
【特許文献2】米国特許第3523131号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JOURNAL of American Soceity、Vol 68、2294−2298、1946.
【非特許文献2】JOURNAL of American Soceity、Vol 76、5190−5196、1954.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特定の官能基を有する低分子量シロキサン化合物を簡便に高収率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、鋭意検討した結果、相当する有機基を有するシロキサン化合物と相当する有機基を有するアルコキシシラン化合物を酸触媒中で水の存在下、反応させることで定量的にアルコキシシラン化合物のシロキシ部位がシロキサン化合物に挿入されることを見出した。
即ち、本発明は、以下の構成をなす。
【0009】
(1).(A)一般式(1)(R13SiO(SiR12O)nSiR13) (R1はアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた1種、または2種以上の有機基、nは0〜2の整数)で示されるシロキサン化合物、(B)一般式(2)(R2mSi(OR34-m) (R2は、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた1種、または2種以上の有機基、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基から選ばれたアルキル基、mは1または2)で示されるアルコキシシラン、(C)酸触媒、(D)水を反応させることを特徴とする低分子量シロキサン化合物の製造方法。
【0010】
(2).(A)成分であるシロキサン上のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた置換基が左右対称に配列されており、一般式(1)のnが0または1であることを特徴とする(1)記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0011】
(3).(A)成分であるシロキサンと(B)成分であるアルコキシシランが(A)/(B)=1.1〜10のモル比で用いられることを特徴とする(1)記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0012】
(4).(A)成分であるシロキサンと(B)成分であるアルコキシシランが(A)/(B)=1.2〜3のモル比で用いられることを特徴とする(1)記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0013】
(5).(A)成分に対し、(C)成分が0.5〜5重量部であることを特徴とする(1)〜(4)いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0014】
(6).(B)成分に対し、(D)成分が1〜10重量部であることを特徴とする(1)〜(4)いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0015】
(7).(C)成分がアルキルスルホン酸であることを特徴とする(1)〜(6)いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0016】
(8).(C)成分がトルエンスルホン酸である(1)〜(6)いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0017】
(9).(D)成分である水を一括で追加することを特徴とする(1)〜(8)いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【0018】
(10).(D)成分である水を数回に分割し追加することを特徴とする(1)〜(8)いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の低分子量シロキサン化合物の製造方法の発明により、以前の方法で用いられていた環状シロキサン化合物を用いた平衡反応で発生していた副生成物の生成は抑制され、また、シラノール化合物やシラノレート化合物を用いる方法で用いていた危険なクロロシランも用いることなく、シロキサン化合物とアルコキシシランを用いることで簡便に高収率で該化合物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、シロキサン化合物(A)、アルコキシシラン化合物(B)、酸触媒(C)、水(D)を反応させることで、アルコキシシランのシロキシ部位がシロキサン化合物のシロキシ結合部に挿入される。以下に、シロキサン化合物(A)、アルコキシシラン化合物(B)、酸触媒(C)、水(D)について、詳細に説明する。
【0021】
本発明に用いられるシロキサン化合物(A)は、一般式(1)
13SiO(SiR12O)nSiR13 (R1はアルキル基、置換アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた1種、または2種以上の有機基、nは0〜2の整数)で示される構造であり、メチル、エチル、プロピル基などのアルキル基やフェニル基が一般的である。また、ハロゲン基、アルキル基やアルケニル基を置換基として有する置換フェニル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、エチニル基やプロパルギル基などのアルキニル基などを置換基として有することも可能である。また、ヒドロキシル基、チオール基、ハロゲン基を有するアルキル基、グリシジル基などのエポキシ基などの反応性を有する置換基も、反応に用いられる酸触媒で分解しない限り、用いることが可能である。更に、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドを有する置換基も、この発明から除外されるものではない。
【0022】
具体例としては、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、フェニルペンタメチルジシロキサン、1,1−ジフェニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサン、1,1,1−トリフェニルトリメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラフェニルジメチルジシロキサン、ビニルペンタメチルジシロキサン、1,1−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,1,1−トリビニルトリメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラビニルジメチルジシロキサン、アリルペンタメチルジシロキサン、1,1−ジアリルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジアリルテトラメチルジシロキサン、1,1,1−トリアリルトリメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラアリルジメチルジシロキサン、エチニルペンタメチルジシロキサン、1,1−ジエチニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジエチニルテトラメチルジシロキサン、1,1,1−トリエチニルトリメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラエチニルジメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0023】
以上のような具体例が挙げられるが、本発明の中で最も有効な事例としては、最も一般的なメチル基を有するシロキサンに優れた耐久性や光学特性を付与できるフェニル基や反応性を付与できるビニル基、エポキシ基、ヒドロキシアルキル基、チオアルキル基の導入が挙げられる。単純に考えれば、一般的なメチル基を含有するシロキサンに上記の官能基を有するアルコキシシラン化合物を反応させることで達成されるが、シロキサン化合物側にこれらの官能基が有している場合も有効である。
【0024】
本発明におけるシロキサン化合物(A)の構造によっては、複数の化合物が生成する可能性がある。一例として、それぞれのケイ素上の置換基が異なる左右非対称の構造を有する場合が挙げられる。例えば、(A)としてフェニルペンタメチルジシロキサンを用いた場合は(一方がフェニルジメチルで一方がトリメチルとなり、左右が非対称となる)、そのままの反応が起これば、フェニルジメチルシロキシ基とトリメチルシロキシ基の間にR22Si基が挿入される。しかし、フェニルペンタメチルジシロキサンは、酸触媒による平衡反応で、ヘキサメチルジシロキサンと1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサンが生成する。このため、実際には、そのまま反応が起こった場合の化合物と上記2種シロキサンにR22Si基が挿入された化合物も生成する。また、別の一例として、左右対称の構造でも、n=2の場合が挙げられる。即ち、ケイ素原子の数が4つになった場合、シロキシ基(R22Si基)が挿入される場所が1位と3位の間と3位と5位の間の2箇所となり、配置が異なる異性体が生成することとなる。
【0025】
もちろん、本発明のシロキサン化合物の構造として、それぞれのケイ素上の置換基が左右対称となる場合は(n=0または1の場合)、単一の化合物が得られることとなり、分離や同定には都合が良い。いずれの場合でも、シロキシ結合にアルコキシシラン化合物(B)のシロキシ部位が1つ挿入されることが本発明の本質である。
【0026】
本発明に用いられるアルコキシシラン化合物(B)は、本発明の反応によりシロキサン化合物(A)のシロキサン結合部位にアルコキシシラン化合物のシロキシ部位が挿入される。そのため、ケイ素原子に結合するアルコキシ基の個数は2個もしくは3個必要となる。アルコキシ基が一つの場合、シロキサン化合物(A)の一部のシロキシ末端と結合し、対応するジシロキサン化合物が生成するのみである。また、アルコキシ基が4個の場合は、ケイ素原子上に官能基がなく、例えば、テトラメトキシシランとヘキサメチルジシロキサンを当該発明の反応系で用いるとテトラキス(トリメチルシリル)シランが生成するように、単に架橋剤としてのみ働くことになる。用いられるアルコキシシランのアルコキシ基の種類としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基が好ましく、Cの数が少ない、メトキシ基、エトキシ基が更に好ましい。C4以上のアルコキシ基も使用可能であるが、加水分解性が大幅に低下し、反応に時間が長くなり、不利となる。
【0027】
アルコキシシラン化合物(B)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ジビニルジイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリイソプロポキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、ジアリルジエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、ジアリルジイソプロポキシシラン、エチニルトリメトキシシラン、エチニルトリエトキシシラン、エチニルトリイソプロポキシシラン、ジエチニルジメトキシシラン、エチニルメチルジメトキシシラン、ジエチニルジエトキシシラン、エチニルメチルジエトキシシラン、ジエチニルジイソプロポキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどのアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル基含有アルコキシシランが挙げられる。また、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのチオアルキル基含有アルコキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルメチルジメトキシシランなどのヒドロキシアルキル基含有アルコキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルメチルジメトキシシラン、3−ヨードプロピルトリメトキシシラン、3−ヨードプロピルメチルジメトキシシランなどのハロゲノアルキル基含有アルコキシシランなどが挙げられる。
【0028】
例えば、(A)成分としてヘキサメチルジシロキサンを用い、上記の中で、ジアルコキシシランを反応させると、3位のケイ素原子上に対応する2個の官能基を有する末端トリメチルシロキシ基で封鎖されたトリシロキサンが生成する。アルコキシシラン化合物によるメチル基の導入も、可能であるが、(A)成分の説明でも記載したように、その他の官能基を導入することの方が、本発明の主旨に合致する。
【0029】
本発明に用いられる、シロキサン化合物(A)とアルコキシシラン化合物(B)の比率は、アルコキシシラン化合物(B)1molに対し、分子としてのシロキサン化合物(A)が1.1〜10molの割合が好ましい。更に、好ましくは、1.2〜3molである。シロキサン化合物(A)がアルコキシシラン化合物(B)に対し、当量以下の場合、アルコキシシラン化合物(B)の加水分解、縮合反応が進行し、(B)の単独縮合物が生成しやすくなる。当量が多くなる場合は、シロキサン化合物にアルコキシシランのシロキシ部位が確実に挿入されるので、反応としては、問題とならないが、目的物を分離するときに、未反応のシロキサン化合物の除去に多大な労力が必要となる。
【0030】
本発明の反応の触媒である酸触媒(C)は、シロキサン化合物(A)のシロキサン結合を緩やかに切断する効果をもつものであれば良い。一般的にシロキサン結合は酸やアルカリで分断される性質を持っており、高分子量のポリシロキサンは、低分子の環状シロキサン化合物を酸またはアルカリ触媒と作用させることで得られる。
【0031】
酸触媒(C)としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、カルボン酸、スルホン酸に代表される有機が挙げられる。シロキサン化合物との親和性の観点から、有機酸が好ましく、その中でも酸性度の点からスルホン酸が好ましい。スルホン酸に結合する有機基としては、アルキル基、アルキルベンゼン基が選択でき、p−トルエンスルホン酸が入手性の点で好都合である。界面活性剤の原料となる長鎖アルキル基や長鎖アルキルベンゼン基は、反応の観点では特に問題はないが、反応後の酸成分洗浄時に水とシロキサン成分の分離不良を起こす可能性があり、注意が必要である。
【0032】
酸触媒(C)の使用量は、シロキサン化合物(A)100重量部に対し、0.1〜10重量部である。更に好ましくは、0.5〜5重量部である。0.1部以下では、反応が進行しないか、反応しても速度が非常に遅く、実用的でない。10重量部以上では、(B)成分であるアルコキシシラン化合物単独の重合体を生成するなどの副反応が増加する。
【0033】
触媒としては、苛性ソーダやアミン類などのアルカリ触媒の使用も考えられたが、アルコキシシラン化合物である(B)成分の低分子環状体を含む単独重合体の生成が優位に起こり、目的物の収率が低下し、簡便に製造できるとは言い難い。
【0034】
本発明の反応に添加される水(D)は、通常に使用される水であれば、良い。反応系に比較的少量の水を添加することで、アルコキシシラン化合物(B)の加水分解反応を促進させる効果がある。水は、反応の初期に一括で添加しても、反応中に数回に分割して添加してもよい。アルコキシシラン化合物の単独重合体の生成という副反応が若干発生するが、水を徐々に反応系に入れていくほうが、副反応を抑制することができる。
【0035】
本発明の水(D)の添加量は、アルコキシシラン化合物(B)100重量部に対し、0.5〜15重量部、更に好ましくは、1.0〜10重量部である。0.5重量部以下の場合は、アルコキシシラン化合物(B)のアルコキシシリル基部の反応が起こりにくくなる。また、15重量部以上の場合、アルコキシシラン化合物(B)の単独重合体が生成し、目的物の収率が低下する。
【0036】
更に、本発明の反応条件や方法、目的物の分離方法について、述べる。
【0037】
本発明の反応は、バッチ式、連続式などの一般的な反応装置を使用することができる。バッチ式で実施する場合、シロキサン化合物(A)、アルコキシシラン化合物(B)、酸触媒(C)、水(D)の順に反応釜に投入し、撹拌すればよい。水は、一括で初期に添加しても良いし、(A)、(B)、(C)の3種を混合して均一となったところで添加しても、数回に分割して添加しても良い。反応温度は、高いほど迅速に進行することがわかっており、用いる化合物の沸点より低い温度で、より高い温度が好ましい。用いることができるシロキサン化合物(A)の中では、ヘキサメチルジシロキサンの沸点が101℃、アルコキシシラン化合物(B)の中ではジメチルジメトキシシランが81℃と低い沸点となる。これらのことも勘案し、50〜80℃程度での反応が最適である。
【0038】
酸触媒(C)の中で、p−トルエンスルホン酸に代表されるアルキルスルホン酸は常温で固体のものもあるが用いる化合物の多くは液体であり、また、シロキサン化合物(A)とアルコキシシラン化合物(B)は相分離することもないので、そのまま液体を撹拌することで反応は進行する。(D)成分である水は、一部分離した状態となるが、撹拌でその液滴が適度に分散できていれば良い。
【0039】
選択した(A)、(B)成分の混合物が固体または粘度の高い液体の場合、反応系に影響を与えず、(A)、(B)成分と生成したシロキサン化合物を溶解する溶媒を用いても良い。これらの溶媒としては、炭化水素系、ハロゲン系、エーテル系の溶媒が最適である。特に、後の水による酸の洗浄や蒸留による分離を考えた場合、水に溶解せず、沸点の低い溶媒が好ましい。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、クロロホルム、ジエチルエーテルが挙げられる。入手や操作性の点で、トルエンやヘキサンが好ましい。
【0040】
反応終了後は、未反応のシロキサン化合物(A)、シロキサン化合物(A)とアルコキシシラン化合物(B)より生成したシロキサン化合物、酸触媒(C)、水(D)の混合物となる。可能であれば、反応溶液下部に分離する酸触媒を含んだ水を除去し、更に、水による洗浄で(C)成分を除去する。水は少量に越したことはないが、概ね、反応物と同体積の水を反応系に添加し、撹拌すれば良い。撹拌を停止し、下層の水を除去することで洗浄は達成される。この操作を2-3回実施すれば、ほとんどの酸成分(C)は除去できる。
【0041】
水による反応物の洗浄後には、未反応のシロキサン化合物(A)と生成した目的物のシロキサン化合物が残る。未反応のシロキサン化合物は、生成した目的物より沸点は低く、一般的な蒸留によって、これらの化合物を分離することができる。シロキサン化合物やアルコキシシラン化合物が固体、または、高粘度である場合に溶媒を用いることができることを記載したが、シロキサン化合物(A)や生成する目的物のシロキサン化合物との蒸留による分離を考慮した選択が必要となる。シロキサン化合物などが高粘度であるということは、比較的沸点が高いことが推察されるので、そのものを溶解できる比較的沸点の低い溶媒を用いておけば、蒸留による分離には支障をきたさない。例えば、シロキサン化合物(A)として、沸点が101℃であり、常温で液体であるヘキサメチルジシロキサンを、アルコキシシラン化合物(B)として、ジフェニルジメトキシシラン(沸点:110℃/1mmHg)を用いて反応させた場合、沸点が265℃の1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−3,3−ジフェニルトリシロキサンが生成する。この場合、反応系からヘキサメチルジシロキサンを系外に、例えば、減圧留去で除去すれば、概ね目的物が残存することとなる。更に、蒸留操作により精製することで、高純度の目的物を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例に先立ち、GCを用いた収率の測定方法を説明する。
【0043】
(収率の測定方法)
生成物の反応率はガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製:GC−2010、カラム:Rtx−5(長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm)を用い、重量法で測定した。n−デカンを内部標準として用いた検量線を作成し、原料の消失を確認し、目的物の収率を算出した。
【0044】
(実施例1)
冷却管を取り付けた50mlの二口フラスコにヘキサメチルジシロキサン 7.1g(43.8mmol)、ジフェニルジメトキシシラン 5g(20.5mmol)、p−トルエンスルホン酸 0.278g 水 0.1gを添加した。マグネチックスターラーで撹拌を実施し、オイルバスにより、80℃に加熱した。撹拌開始後、30分後、1時間後にそれぞれ水 0.1gをフラスコ内に添加し、更に3時間撹拌した。撹拌停止後、内容物は、底部に少量の水が分離しており、上層部のオイル部分をサンプリングした。GCによる分析を行った結果、原料であるヘキサメチルジシロキサンは、40%程度に減少し、ジフェニルジメトキシシランは消失し、3,3−ジフェニルヘキサメチルトリシロキサンが92%の収率(ジフェニルジメトキシシランが基準)で得られた。また、ジフェニルジメトキシシランの一つのメトキシ基がトリメチルシロキシ基に置換した1−メトキシ−1,1−ジフェニルトリメチルジシロキサンが2%程度、2つのジフェニルシロキシ基がヘキサメチルジシロキサンに挿入したと予想される化合物が1−2%生成していた(標準品が入手できなかったため、GCからの推定値)。反応により得られた溶液を50mlの純水で3回洗浄した。水洗後の有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターで残存するヘキサメチルジシロキサンを除去し、7.1gの粗製オイルを得た。
【0045】
(実施例2)
実施例1で用いたヘキサメチルジシロキサンの代わりに1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン 8g(43mmol)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。GCによる分析の結果、目的物である1,5−ジビニル−1,1,5,5−テトラメチル−3,3−ジフェニルトリシロキサンが94%の収率で生成した。
【0046】
(実施例3)
実施例1で用いたヘキサメチルジシロキサンの代わりにビニルペンタメチルジシロキサン 7.6g(43mmol)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。GCによる分析の結果、1−ビニルヘプタメチルトリシロキサンと平衡反応で生成した3,3−ジフェニルヘキサメチルトリシロキサンと1,5−ジビニル−1,1,5,5−テトラメチル−3,3−ジフェニルトリシロキサンが合計で94%の収率で生成した。
【0047】
(実施例4)
実施例1で用いたヘキサメチルジシロキサンの代わりにデカメチルテトラシロキサン 13.5g(43mmol)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。GCによる分析の結果、3,3−ジフェニルデカメチルペンタシロキサンと5,5−ジフェニルデカメチルペンタシロキサンが合計で82%の収率で生成した。
【0048】
(実施例5)
実施例1で用いたジフェニルジメトキシシランの代わりにフェニルメチルジメトキシシラン3.7g(20.5mmol)、p−トルエンスルホン酸 0.248g、水 0.22g(3分割)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。GCによる分析の結果、目的物である3−フェニルヘプタメチルトリシロキサンが72%の収率で生成した。
【0049】
(実施例6)
実施例1では水を0.1gに3分割にして添加したが、実施例5では、水0.3gを初期に一括して添加した。反応は、4時間実施し、同様のGCによる分析を実施した。その結果、88%の収率で、3,3−ジフェニルヘキサメチルトリシロキサンを得た。
【0050】
(実施例7)
実施例1では、反応温度を80℃で実施したが、反応温度を40℃に変更し、同様の操作を実施した。GCによる分析を実施し、89%の収率で3,3−ジフェニルヘキサメチルトリシロキサンを得たことを確認した。
【0051】
(比較例1)
実施例1の酸触媒(C)であるp−トルエンスルホン酸を用いない場合、目的のトリシロキサンは得られず、いずれも原料回収となった。
【0052】
(比較例2)
実施例1の水(D)を用いない場合、目的のトリシロキサンは、15%程度の収率であった。(C)成分であるジフェニルジメトキシシランが約30%残存し、(C)成分であるジフェニルジメトキシシランのメトキシ基が一つトリメチルシロキシ基に置換した化合物が約50%生成した。反応を4時間延長したが、その比率は変化しなかった。
【0053】
(比較例3)
実施例1に対し、酸触媒である(C)の代わりにアルカリ触媒である水酸化ナトリウムを用いた。分割の水(D)を添加後に、GCで分析した結果、目的のトリシロキサンは、7%であり、原料であるジフェニルジメトキシシラン、原料のメトキシ基が一つトリメチルシロキシ基に置換した化合物は検出されなかった。この段階で、反応液は白濁し、乳白色であった。更に、反応を4時間継続した結果、白色の固形物が析出してきた。このときに上澄み液をサンプリングし、GC分析した結果、目的のトリシロキサンは25%生成していた。アルカリ触媒で原料のジフェニルジメトキシランが重合し、4量体の環状オリゴマー(オクタフェニルシクロテトラシロキサン)が主生成物として、生成したと予想された。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1) R13SiO(SiR12O)nSiR13
(R1はアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた1種、または2種以上の有機基、nは0〜2の整数)で示されるシロキサン化合物、
(B)一般式(2) R2mSi(OR34-m (R2は、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた1種、または2種以上の有機基、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基から選ばれたアルキル基、mは1または2の整数)で示されるアルコキシシラン化合物、(C)酸触媒、(D)水を反応させることを特徴とする低分子量シロキサン化合物の製造方法。
【請求項2】
(A)成分であるシロキサン上のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基から選ばれた置換基が左右対称に配列されており、一般式(1)のnが0または1であることを特徴とする請求項1記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項3】
(A)成分であるシロキサンと(B)成分であるアルコキシシランが(A)/(B)=1.1〜10のモル比で用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項4】
(A)成分であるシロキサンと(B)成分であるアルコキシシランが(A)/(B)=1.2〜3のモル比で用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項5】
(A)成分に対し、(C)成分が0.5〜5重量部であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項6】
(B)成分に対し、(D)成分が1〜10重量部であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項7】
(C)成分がアルキルスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項8】
(C)成分がトルエンスルホン酸である請求項1〜6いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項9】
(D)成分である水を一括で追加することを特徴とする請求項1〜8いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。
【請求項10】
(D)成分である水を数回に分割し追加することを特徴とする請求項1〜8いずれか1項に記載の低分子シロキサン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−229186(P2012−229186A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99475(P2011−99475)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】