説明

低分子量フッ素化界面活性剤を含まないか、または少量含むフルオロポリマー分散系

本発明の態様において、水中に分散された10nm〜400nmの平均粒度を有するフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー分散系、好ましくはPTFE分散系が提供され、それによって、分散系は、35重量%〜70重量%の固体量を有する。この分散系は、1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤(以後、低分子量フッ素化界面活性剤と称される)を含まないか、または分散系の固体総重量を基準として0.05重量%以下の量で低分子量フッ素化界面活性剤を含有する。この分散系は、非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤と1以上の非フッ素化アニオン性界面活性剤との混合物をさらに含む。非フッ素化アニオン性界面活性剤の使用によって、室温(20℃)で低粘度を有する分散系が得られる。この分散系は、さらに、芳香族基含有非イオン性界面活性剤を含まず、従って、環境的により都合がよく、そして退色をより受けにくいコーティングを得ることができる。非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の量および性質は、フルオロポリマー分散系の粘度遷移温度(VTT)(実施例に明示されるように測定される)が少なくとも26℃、好ましくは少なくとも28℃であるように選択される。本発明のさらなる態様において、上記分散系を得る方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量フッ素化界面活性剤を含まないか、またはそれを少量含む水性フルオロポリマー分散系に関する。特に本発明は、固体含量が高く、かつ安定剤として非イオン性界面活性剤を含む、かかるフルオロポリマー分散系の粘度低下に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー、すなわち、フッ素化された主鎖を有するポリマーは、以前から知られており、そして耐熱性、耐化学性、耐候性、UV安定性等のようないくつかの望ましい特性のため、様々な適用において使用されている。例えば、(非特許文献1)に、様々なフルオロポリマーが記載されている。フルオロポリマーは、部分的にフッ素化された主鎖を有してもよく、一般的に少なくとも40重量%がフッ素化されているか、または完全にフッ素化された主鎖を有してもよい。フルオロポリマーの特定の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(FEPポリマー)、ペルフルオロアルコキシコポリマー(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデン(THV)とのターポリマー、およびポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)が挙げられる。
【0003】
基材にコーティングして、例えば、耐化学性、耐候性、撥水性および撥油性等のような望ましい特性を基材にもたらすために、フルオロポリマーを使用することができる。例えば、フルオロポリマーの水性分散系を使用して、キッチンウエアをコーティングし、布または織物、例えば、ガラス繊維を含浸させ、紙またはポリマー基材をコーティングしてもよい。節約のため、および便宜上、フルオロポリマー分散系は、典型的に、35重量%〜70重量%のフルオロポリマー固体を有する。
【0004】
フルオロポリマーの水性分散系を提供するために頻繁に使用される方法は、1以上のフッ素化モノマーの水性乳化重合を伴い、通常、乳化重合後に得られる未加工の分散系の固体含量を増加するための濃縮工程がその後に続く。フッ素化モノマーの水性乳化重合は、一般的に、フッ素化界面活性剤の使用を伴う。頻繁に使用されるフッ素化界面活性剤としては、ペルフルオロオクタン酸およびその塩、特にペルフルオロオクタン酸アンモニウムが挙げられる。使用されるさらなるフッ素化界面活性剤としては、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)および(特許文献7)に開示されるようなペルフルオロポリエーテル界面活性剤が挙げられる。使用されるなおさらなる界面活性剤は、(特許文献8)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)および(特許文献15)に開示されている。
【0005】
これらのフッ素化界面活性剤のほとんどは、低分子量、すなわち、1000g/モル未満の分子量を有する。最近、かかる低分子量フッ素化化合物に関して、環境的な懸念が上がっている。従って、水性分散系からフッ素化低分子量界面活性剤を完全に除去するか、または少なくとも水性分散系中のその量を最小化する、いずれかの手段が取られている。例えば、(特許文献16)および(特許文献17)は、フルオロポリマーを製造するための水性乳化重合を開示しており、それによって、フッ素化界面活性剤の添加を行わずに重合が実行される。他方、(特許文献18)には、限外濾過によってフッ素化界面活性剤の一部が除去される方法が開示されている。この場合、分散系中のフルオロポリマー固体の量も増加し、すなわち、フッ素化界面活性剤を除去しながら、分散系は濃縮される。(特許文献19)は、フルオロポリマー分散系をアニオン交換樹脂と接触させることによってフッ素化界面活性剤の量を低下させる方法をさらに開示する。
【0006】
乳化重合直後の未加工分散系の固体含量は、通常、30重量%までの範囲内であるため、未加工分散系に濃縮工程を受けさせ、そしてその固体含量を増加させる。分散系の安定性を保持するために、典型的に、安定剤の存在下で、特に安定剤として作用する非イオン性界面活性剤の存在下で濃縮を実行する。
【0007】
しかしながら、フッ素化低分子量界面活性剤を含まないか、またはそれを少量のみ含むフルオロポリマー分散系が濃縮される場合、容認できない粘度増加が結果として生じることが見出された。さらに、濃縮された分散系の安定性は、特定の条件下で、低分子量フッ素化界面活性剤の量がより高い分散系よりも低くなり得る。
【0008】
2002年8月6日出願の本出願人の(特許文献20)において、分散系への非フッ素化アニオン性界面活性剤の添加によって、前記粘度増加が低下した。結果として、多量のフッ素化界面活性剤を含有する分散系に匹敵するレベルまで、分散系の粘度を調節することができた。この出願は、いくつかの可能な非イオン性界面活性剤を開示するが、フルオロポリマー分散系に関して一般的に使用される非イオン性界面活性剤であるトリトン(TRITON)(商標)X−100(エトキシル化アルキルフェノール界面活性剤)を使用して、全ての例が実行された。この界面活性剤は、環境的観点から反対される不都合を有する。さらに、この界面活性剤は、この界面活性剤を含有する分散系から製造されたコーティングにおいて望ましくない退色を引き起こし得る。
【0009】
(特許文献21)において、35重量%〜65重量%のPTFEと、PTFEに関連して2重量%〜10重量%のポリオキシエチレンアルキルエーテル非イオン性界面活性剤とを含有する、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分散系が開示されている。後者は、その曇り点が45℃より高く、そしてエチレンオキシドの量が65重量%〜70重量%であるように選択される。かかる分散系が、室温における粘度が低いように良好なコーティング特性を有しながら、芳香族基含有界面活性剤を含まない利点を提供することが教示された。しかしながら、この分散系は、明白に、フッ素化界面活性剤を使用することによる既知の方法で調製され、従って、多量のフッ素化界面活性剤を有すると考えられる。
【0010】
今や、低分子量フッ素化界面活性剤を含まないか、または実質的に含まず、そして芳香族基を有する非イオン性界面活性剤を含まない、フルオロポリマー、特にPTFEのさらなる水性分散系を見出すことが望まれている。また、かかる分散系が、特に布の含浸に関して、良好なコーティング特性を有することも望ましい。望ましくは、特に周囲条件に関連して、商業的に実行可能な範囲の操作条件で良好なコーティング特性が得られる。さらに望ましくは、この分散系は、低分子量フッ素化界面活性剤を多量に含有する分散系に匹敵するか、またはより良好な、良好なフィルム形成特性を有する。
【0011】
【特許文献1】EP1059342号明細書
【特許文献2】EP712882号明細書
【特許文献3】EP752432号明細書
【特許文献4】EP816397号明細書
【特許文献5】米国特許第6,025,307号明細書
【特許文献6】米国特許第6,103,843号明細書
【特許文献7】米国特許第6,126,849号明細書
【特許文献8】米国特許第5,229,480号明細書
【特許文献9】米国特許第5,763,552号明細書
【特許文献10】米国特許第5,688,884号明細書
【特許文献11】米国特許第5,700,859号明細書
【特許文献12】米国特許第5,804,650号明細書
【特許文献13】米国特許第5,895,799号明細書
【特許文献14】国際公開第00/22002号パンフレット
【特許文献15】国際公開第00/71590号パンフレット
【特許文献16】国際公開第96/24622号パンフレット
【特許文献17】国際公開第97/17381号パンフレット
【特許文献18】米国特許第4,369,266号明細書
【特許文献19】国際公開第00/35971号パンフレット
【特許文献20】国際特許出願第US02/25114号明細書
【特許文献21】米国特許第6,153,688号明細書
【特許文献22】国際公開第94/14904号パンフレット
【特許文献23】EP22257号明細書
【特許文献24】米国特許第3,489,595号明細書
【特許文献25】国際公開第00/35971号パンフレット
【特許文献26】GB642,025号明細書
【特許文献27】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献28】EP818506号明細書
【非特許文献1】「モダン フルオロポリマーズ(Modern Fluoropolymers)」,ジョン シャイラーズ(John Scheirs)編,ウィリー サイエンス(Wiley Science)1997
【非特許文献2】W.C.グリフィン(W.C.Griffin)「カルキュレーション オブ HLB バリュース オブ ノン−イオニック サーファクタンツ(Calculation of HLB Values of Non−Ionic Surfactants)」,ジャーナル オブ ザ ソサエティー オブ コスメティック ケミスツ(Journal of the Society of Cosmetic Chemists)5(1954),第259頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様において、水中に分散された10nm〜400nmの平均粒度を有するフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー分散系、好ましくはPTFE分散系が提供され、それによって、分散系は、35重量%〜70重量%の固体量を有する。この分散系は、1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤(以後、低分子量フッ素化界面活性剤と称される)を含まないか、または分散系の固体総重量を基準として0.05重量%以下の量で低分子量フッ素化界面活性剤を含有する。この分散系は、非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤と1以上の非フッ素化アニオン性界面活性剤との混合物をさらに含む。非フッ素化アニオン性界面活性剤の使用によって、室温(20℃)で低粘度を有する分散系が得られる。この分散系は、さらに、芳香族基含有非イオン性界面活性剤を含まず、従って、環境的により都合がよく、そして退色をより受けにくいコーティングを得ることができる。非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の量および性質は、フルオロポリマー分散系の粘度遷移温度(VTT)(実施例に明示されるように測定される)が少なくとも26℃、好ましくは少なくとも28℃であるように選択される。
【0013】
いくつかの種類の基材をコーティングするために、本発明によるフルオロポリマー分散系、および特にPTFE分散系を都合よく使用することができ、そして特に含浸のために適切である。様々な周囲条件下でそれらを利用することができ、そして典型的に、良好から優秀のフィルム形成特性を有する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、
(a)10nm〜400nmの平均粒度を有するフルオロポリマー粒子を含み、かつ1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤を含むか、またはそれを含まないフルオロポリマー分散系を提供する工程と、
(b)前記分散系中の前記フッ素化界面活性剤の量が、非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の存在下で、分散系の固体総重量を基準として0.05重量%より多い場合、その量を低下させる工程と、
(c)非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の存在下で、フルオロポリマー分散系を濃縮して、前記分散系中のフルオロポリマー固体の量を35重量%〜75重量%のレベルまで増加させる工程と、
(d)前記フルオロポリマー分散系の濃縮前または後に、フルオロポリマー分散系に1以上の非フッ素化アニオン性界面活性剤を添加する工程と
を含む、上記で定義されたフルオロポリマー粒子分散系の提供方法であって、工程(d)後のフルオロポリマー分散系が少なくとも26℃のVTTを有するように、前記工程(b)および/または(c)において使用される前記非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物が選択されるか、あるいはフルオロポリマー分散系のVTTを少なくとも26℃まで調節するために、さらに1以上の非イオン性非フッ素化界面活性剤が添加され、そしてフルオロポリマー分散系が、芳香族基含有非イオン性界面活性剤を含まないように、前記非イオン性非フッ素化界面活性剤が選択される方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
フルオロポリマー分散系は、低分子量フッ素化界面活性剤を含まないか、またはそれを少量で、例えば、(分散系中の固体総重量、特に、フルオロポリマー固体総重量を基準として)0.025重量%未満、好ましくは0.01重量%以下、そして最も好ましくは0.005重量%未満の量で含有し、かつ非フッ素化アニオン性界面活性剤を含有する。分散系は、典型的に、20℃の温度で、10mPa*s〜40mPa*s、好ましくは15mPa*s〜35mPa*s、より好ましくは15mPa*s〜30mPa*sの適切な低粘度を有する。
【0016】
好ましいアニオン性非フッ素化界面活性剤は、4以下、好ましくは3以下のpKaを有する酸基を有する界面活性剤である。非フッ素化アニオン性界面活性剤の例としては、1以上のアニオン性基を有する界面活性剤が挙げられる。アニオン性非フッ素化界面活性剤は、1以上のアニオン性基に加えて、ポリオキシエチレン基のようなオキシアルキレン基中に2〜4個の炭素を有するポリオキシアルキレン基のような他の親水性基、またはアミノ基のような基を含んでもよい。それにもかかわらず、アミノ基が界面活性剤中に含まれる場合、分散系のpHは、アミノ基がそれらのプロトン型ではないようなものであるべきである。典型的な非フッ素化界面活性剤としては、アニオン性炭化水素界面活性剤が挙げられる。用語「アニオン性炭化水素界面活性剤」は、本明細書で使用される場合、分子中に1以上の炭化水素部分、ならびに1以上のアニオン性基、特に、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基およびカルボン酸基のような酸基、およびそれらの塩を含む界面活性剤を包括する。アニオン性炭化水素界面活性剤の炭化水素部分の例は、例えば、6〜40個の炭素原子、好ましくは8〜20個の炭素原子を有する飽和および不飽和脂肪族基を含む。かかる脂肪族基は、直鎖または分枝鎖であってよく、そして環式構造を含有してもよい。炭化水素部分は、芳香族であってもよく、または芳香族基を含有してもよい。加えて、炭化水素部分は、例えば、酸素、窒素およびイオウのようなヘテロ原子を1以上含有してもよい。
【0017】
本発明において使用するためのアニオン性炭化水素界面活性剤の特定の例としては、スルホン酸ラウリルのようなスルホン酸アルキル、硫酸ラウリルのような硫酸アルキル、アルキルアリールスルホネートおよびアルキルアリールスルフェート、ラウリル酸およびそれらの塩のような脂肪(カルボン)酸およびそれらの塩、ならびにリン酸アルキルまたはアルキルアリールエステルおよびそれらの塩が挙げられる。使用可能な市販品として入手可能であるアニオン性炭化水素界面活性剤としては、ステパン カンパニー(Stepan Company)からのポリステップ(Polystep)(商標)A16(スルホン酸ドデシルベンジルナトリウム)、クラリアント GmbH(Clariant GmbH)から入手可能なホスタプアー(Hostapur)(商標)SAS30(スルホン酸第二級アルキルナトリウム塩)、エマルソゲン(Emulsogen)(商標)LS(硫酸ラウリルナトリウム)およびエマルソゲン(Emulsogen)(商標)EPA1954(C12〜C14硫酸アルキルナトリウムの混合物)、ならびにユニオン カーバイド(Union Carbide)から入手可能なトリトン(TRITON)(商標)X−200(アルキルスルホン酸ナトリウム)が挙げられる。スルホネート基を有するアニオン性炭化水素界面活性剤が好ましい。
【0018】
他の適切なアニオン性非フッ素化界面活性剤としては、リン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基および硫酸基ならびにそれらの塩のようなペンディングアニオン性基を有するポリジアルキルシロキサンのようなシリコーンをベースとする界面活性剤が挙げられる。
【0019】
フルオロポリマー分散系に添加されるアニオン性界面活性剤の量は、一般的に、フッ素化界面活性剤の性質、フルオロポリマーの性質および量、分散系中に存在する非イオン性界面活性剤の性質および量、ならびにフルオロポリマー分散系中に存在し得る低分子量フッ素化界面活性剤の性質および量に依存する。典型的に、アニオン性界面活性剤の量は、分散系中のフルオロポリマー固体重量を基準として、10ppm〜5000ppm、好ましくは100ppm〜3000ppm、より好ましくは100ppm〜2500ppmである。使用されるアニオン性界面活性剤の量が少なすぎる場合、望ましくない高粘度が生じ得る。他方、添加されるアニオン性界面活性剤の量が多すぎる場合も、粘度が高くなり得る。分散系の安定性をさらに望むか、または必要とする場合、フルオロポリマー固体重量を基準として少なくとも2000ppmの量でアニオン性界面活性剤を使用する必要がある。当業者は、慣例の実験によって、分散系中のアニオン性界面活性剤の最適濃度を容易に決定することができる。
【0020】
低分子量フッ素化界面活性剤は、存在する場合、フッ素化モノマーの乳化重合において使用することができるいずれかの低分子量フッ素化界面活性剤であってよく、そして特に、従来技術の考察の点で上記されたものが挙げられる。一般的に使用される低分子量フッ素化界面活性剤は、テロゲンであり、次式:
Y−Rf−Z−M (A)
(式中、Yは、水素、ClまたはFを表し、Rfは、4〜10個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖過フッ素化アルキレンを表し、Zは、COO-またはSO3-を表し、そしてMは、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンのような一価または多価カチオンを表す)に相当するものが挙げられる。
【0021】
低分子量フッ素化界面活性剤は、フルオロポリマー分散系中に存在する場合、分散系中の固体総量を基準として、典型的に、0.025重量%未満、好ましくは0.01重量%以下、そして最も好ましくは50ppm以下の量で存在する。
【0022】
フルオロポリマー分散系は、非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物も含む。非イオン性界面活性剤は、非フッ素化非イオン性界面活性剤である。典型的に、非イオン性界面活性剤は、1以上の非イオン性親水性基に連結した1以上の飽和または不飽和脂肪族部分を含有する界面活性剤である。飽和または不飽和脂肪族部分は、直鎖、分枝鎖および/または環式構造を含み得、そしてそれらは、エステル、エーテル結合、アミド結合等のような官能基を通して非イオン性親水性基に連結し得る。非イオン性親水性基は、一般的に、アルキレン基が2、3または4個の炭素原子を有するオキシアルキレン基を含む。例えば、非イオン性親水性基は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、またはオキシエチレンとオキシプロピレン基を含む、ブロックコポリマーを含むコポリマーであってよい。
【0023】
本発明に従って、非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物は、得られる分散系が、少なくとも26℃、好ましくは少なくとも28℃のVTTを有するように選択される。望ましいVTTを達成するために、非イオン性界面活性剤またはその混合物の性質および量は考慮されるべきである。また、20℃における粘度およびVTTは、分散系中に存在する他の成分、特に使用されるアニオン性界面活性剤の種類に依存し得る。同一の非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物に関して、界面活性剤の増加量は典型的に、VTTの低下をもたらす。他方、分散系のフィルム形成特性が悪化するような低い量が選択されるべきではない。非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物の適切な量は、界面活性剤または混合物の性質に依存し、そして当業者はこれを容易に決定することができる。一般的に、非イオン性界面活性剤の量、または混合物が使用される場合にはその総量は、分散系中の固体総重量を基準として3重量%〜12重量%であり、好ましくは4重量%〜10重量%である。
【0024】
さらに、非イオン性界面活性剤の性質は、望ましいVTTを得るためのもう1つの考察すべき点である。低分子量フッ素化界面活性剤を含まないか、または実質的に含まず、そしてアニオン性非フッ素化界面活性剤を含有する分散系において望ましいVTTを得るために、界面活性剤または界面活性剤混合物中の疎水性および親水性部分は適切に釣り合わされるべきである。従って、非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤混合物において疎水性部分の量および/または長さが、親水性部分の量および/または長さに対して非常に大きい場合、VTTは非常に低いものとなる。他方では、親水性が高すぎる場合、分散系のフィルム形成特性が一般的に低下するため、非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤混合物において親水性基の量および長さは、界面活性剤または混合物の疎水性部分に対して非常に高く選択されるべきではない。当業者は、この目安によって、少なくとも26℃、好ましくは少なくとも28℃の必要なVTTを達成するために、特定の分散系に対して適切な非イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤の混合物を選択することができるであろう。
【0025】
分散系を少なくとも26℃のVTTに調節するために、本発明に関連して使用することができる非イオン性界面活性剤の例は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル界面活性剤、ポリソルベートおよびアルコキシル化アセチレンジオール、好ましくはエトキシル化アセチレンジオールの群から選択することができる。好ましくは、使用される非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤混合物は、11と16との間のHLB(親水−新油性バランス)を有する。HLB数は、界面活性剤を特徴付けるための(非特許文献2)によって紹介された。式HLB=E/5に従って、エチレンオキシド基のみを有する非イオン性界面活性剤のHLB数を算出することができる。ここでは、Eは、エチレンオキシド基の重量%を表している。界面活性剤の混合物の場合、次式:
【数1】

.
に従って、HLB値を算出することができる。ここでは、HLBiは、界面活性剤iのHLBを表し、wiは、界面活性剤混合物中の界面活性剤iの重量分率を表し、そしてnは、界面活性剤混合物を構成する異なる界面活性剤の数を表す。
【0026】
一実施形態において、非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物は、次の一般式:
1−O−[CH2CH2O]n−[R2O]m−R3 (I)
(式中、R1は、少なくとも8個の炭素原子、好ましくは8〜18個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基を表し、R2は、3個の炭素原子を有するアルキレンを表し、R3は、水素またはC1〜C3アルキル基を表し、nは0〜40の値を有し、mは0〜40の値を有し、そしてn+mの合計は少なくとも2である)に相当する。上記一般式が混合物を表す場合、nおよびmは、それぞれの基の平均量を表す。また上記式が混合物を表す場合、脂肪族基R1中の炭素原子の示された量は、界面活性剤混合物中の脂肪族基の平均の長さを表す平均数であってよい。選択された非イオン性界面活性剤の量に依存して、少なくとも26℃の分散系のVTTを得るために、11と16との間、好ましくは12と15との間のHLBを有する界面活性剤または界面活性剤混合物を使用することができる。例えば、m=0である式(I)で表され、11と16との間、好ましくは12と15との間のHLBを有する非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物を使用してよい。市販品として入手可能な非イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤の混合物としては、ゲナポール(GENAPOL)(商標)X−80、mが0である上記式(I)で表される界面活性剤、およびゲナポール(GENAPOL)(商標)PF40、nおよびmの両方が0ではない界面活性剤のような商標ゲナポール(GENAPOL)(商標)でクラリアント GmbH(Clariant GmbH)から入手可能であるものが挙げられる。
【0027】
さらなる実施形態に従って、1以上の、mが0である式(I)で表される界面活性剤と、1以上の、nおよびmのそれぞれが0ではない式(I)で表される界面活性剤との混合物を使用することができる。かかる混合物の例は、ゲナポール(GENAPOL)(商標)X−80とゲナポール(GENAPOL)(商標)PF40との混合物である。
【0028】
なおさらなる実施形態において、1以上の式(I)で表される界面活性剤、特に、mが0である式(I)で表される界面活性剤を、1以上のポリソルベートとの組み合わせで使用する。ポリソルベートは、エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルであり、乳化剤として周知である。有用なポリソルベートとしては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80が挙げられる。ポリソルベート80は、次式:
【化1】

によって表される。
【0029】
ポリソルベート20、40および60は、ポリソルベート80と非常に類似した構造を有する。ポリソルベート20は、ソルビトールのラウリン酸エステルおよびその無水物であり、ソルビトールおよびソルビトール無水物の各モルに対して約20モルのエチレンオキシドを有する。ポリソルベート40は、ソルビトールのパルミチン酸エステルおよびその無水物であり、ソルビトールおよびソルビトール無水物の各モルに対して約20モルのエチレンオキシドを有する。ポリソルベート60は、ソルビトールのステアリン酸エステルとパルミチン酸エステルとの混合物およびその無水物であり、ソルビトールおよびソルビトール無水物の各モルに対して約20モルのエチレンオキシドを有する。一般的に、ポリソルベートと、式(I)で表される界面活性剤との重量比は、1:2〜1:8であり、好ましくは1:3〜1:7である。
【0030】
さらにもう1つの実施形態に従って、1以上の、mが好ましくは0である式(I)で表される界面活性剤と、アルコキシル化アセチレンジオール、好ましくはエトキシル化アセチレンジオールとの界面活性剤混合物によって、少なくとも26℃のVTTを得ることができる。本実施形態において使用するためのエトキシル化アセチレンジオールは、好ましくは11と16との間のHLBを有する。使用してもよい市販品として入手可能なエトキシル化アセチレンジオールとしては、エア プロダクツ(Air Products)から商標スルフィノール(SURFYNOL)で入手可能であるもの、特にスルフィノール(SURFYNOL)(商標)465が挙げられる。一般的に、エトキシル化アセチレンジオールと、式(I)で表される界面活性剤との重量比は、1:2〜1:8であり、好ましくは1:3〜1:7である。
【0031】
分散系に関して少なくとも26℃のVTTを得るために本発明に関連して使用することができる非イオン性界面活性剤のなおさらなる混合物としては、1以上の、m=0である式(I)で表される界面活性剤と、1以上の、nおよびmのそれぞれが0ではない式(I)で表される界面活性剤と、1以上のポリソルベートとの混合物が挙げられる。また分散系は、1以上の式(I)で表される界面活性剤と、1以上のポリソルベートと、1以上のエトキシル化アセチレンジオールとの混合物を含んでもよい。
【0032】
フルオロポリマー分散系中に含有されるフルオロポリマーは、部分的に、または完全にフッ素化された主鎖を有するポリマーである。典型的に、フルオロポリマーは、少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%がフッ素化された主鎖を有するポリマーである。またフルオロポリマーは、例えば、PTFEにおけるような完全にフッ素化された主鎖を有してもよい。フルオロポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであってよく、そして分散系は、異なるフルオロポリマーの混合物を含有してもよい。フルオロポリマーの例としては、溶融物から加工可能であるテトラフルオロエチレンのコポリマー、特に、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキル基が1〜5個の炭素原子を有するペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル、特に、ペルフルオロ(n−プロピルビニル)エーテル、テトラフルオロエチレン/エチレン、テトラフルオロエチレン/トリフルオロクロロエチレン、トリフルオロクロロエチレン/エチレン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデンのコポリマー、ならびにテトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル/ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンのターポリマー、またはテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルおよびテトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルの四成分ポリマーが挙げられる。分散系において使用することができるさらなるフルオロポリマーとしては、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンおよびポリトリフルオロクロロエチレンが挙げられる。また分散系は、ポリテトラフルオロエチレンのような溶融物から加工可能ではないポリマーを含んでもよい。これは、すなわち、ホモポリマーであり、低い割合(0.1モル%〜3モル%)で、ヘキサフルオロプロピレンまたはペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルまたはクロロトリフルオロエチレンのような変性コモノマーを任意に含有することも可能である。少なくとも28℃のVTTを得るために非イオン性界面活性剤混合物を使用することは、非溶融加工性PTFEの分散系に関して特に適合する。
【0033】
分散系中のフルオロポリマーの平均粒度(平均粒径)は、一般的に、10nm〜400nmの範囲内であり、好ましくは25nm〜400nmである。平均粒径は、一般的に動的光散乱によって決定され、そしてそれによって数平均粒径を決定することができる。分散系は、単峯性ならびに二峯性のような多峯性であってよい。分散系中のフルオロポリマーの量は、典型的に、少なくとも35重量%であり、例えば、40重量%〜65重量%である。
【0034】
基材をコーティングするためにフルオロポリマー分散系を使用することができ、そして一般的に、トリトン(TRITON)(商標)X−100のような芳香族基含有非イオン性界面活性剤を含有する同様の分散系に匹敵するか、またはより良好な、良好なフィルム特性を有する。例えば、金属基材、ポリエステルおよびポリプロピレン基材のようなポリマー基材をコーティングするために、または紙をコーティングするために、フルオロポリマー分散系を使用してよい。織物または布、特にガラス繊維基材をコーティングまたは含浸するために、フルオロポリマー分散系を使用してもよい。コーティングの前に、フルオロポリマー分散系をさらなる成分と混合して、特にコーティング適用のために望ましいコーティング組成物を調製してもよい。例えば、(特許文献22)に開示されるように、フルオロポリマー分散系をポリアミドイミドおよびポリフェニレンスルホン樹脂と組み合わせて、基材上に抗粘着性コーティングを提供してもよい。さらなるコーティング成分としては、例えば、(特許文献23)および(特許文献24)に開示されるような無機充填剤、例えば、コロイド状シリカ、酸化アルミニウム、および無機顔料が挙げられる。
【0035】
フッ素化モノマーの乳化重合から得られる、いわゆる未加工分散系から出発することによって、一般的にフルオロポリマー分散系が得られる。低分子量フッ素化界面活性剤の不在下で重合が実行された場合、かかる分散系は、低分子量フッ素化界面活性剤を含まないが、一般的には、実質的な量の低分子量フッ素化界面活性剤を含有する。分散系中の低分子量フッ素化界面活性剤の濃度が、望ましいレベルより高い場合、例えば、0.025重量%より高い場合、少なくともその一部は除去されるべきである。
【0036】
低分子量フッ素化界面活性剤の量を低下させる一実施形態に従って、例えば上記のような非イオン性界面活性剤をフルオロポリマー分散系に添加し、次いで、フルオロポリマー分散系をアニオン交換樹脂と接触させる。かかる方法は、(特許文献25)に詳細に開示されている。適切なアニオン交換樹脂としては、少なくとも3のpKa値を有する酸に相当する対イオンを有するものが挙げられる。
【0037】
本質的に塩基性条件下で、アニオン交換プロセスを好ましく実行する。従って、イオン交換樹脂は、好ましくは、OH-型であるが、弱酸に相当するフッ化物またはシュウ酸塩のようなアニオンも使用されてよい。イオン交換樹脂の具体的な塩基性は、重要ではない。低分子量フッ素化界面活性剤の除去におけるそれらの高い効率のため、強塩基性樹脂が好ましい。イオン交換樹脂を含有するカラムを通してフルオロポリマー分散系を供給することによって、プロセスを実行してよい。あるいは、フルオロポリマー分散系をイオン交換樹脂と撹拌して、その後、フルオロポリマー分散系を濾過によって単離してよい。この方法によって、低分子量フッ素化界面活性剤の量を、150ppm未満、さらには10ppm未満のレベルまで低下することができる。従って、それによって、低分子量フッ素化界面活性剤を実質的に含まない分散系を得ることができる。
【0038】
低分子量フッ素化界面活性剤が、蒸発性であるその遊離酸型である場合、低分子量フッ素化界面活性剤の量を低下するために以下の方法を使用してもよい。非イオン性界面活性剤を水性フルオロポリマー分散系に添加し、そして5未満の水性フルオロポリマー分散系のpH値において、分散系中の蒸発性フッ素化界面活性剤の濃度が望ましい値に達するまで蒸留によって蒸発性フッ素化界面活性剤を除去することによって、水性フルオロポリマー分散系から、遊離酸型である蒸発性フッ素化界面活性剤を除去することができる。この方法によって除去することができる低分子量フッ素化界面活性剤としては、例えば、上記式Aに従う界面活性剤が挙げられる。
【0039】
一般的に、分散系中のフルオロポリマー固体量を増加させることが望ましい。フルオロポリマー固体の量を増加させるために、いずれの濃縮技術を使用してもよい。典型的に、濃縮プロセスにおいて分散系を安定化するために添加された非イオン性界面活性剤の存在下で、これらの濃縮技術を実行する。濃縮のために分散系中に一般的に存在するべき非イオン性界面活性剤の量は、典型的に1重量%〜12重量%であり、好ましくは3重量%〜10重量%である。適切な濃縮方法としては、(特許文献26)に開示されるような限外濾過、熱濃縮、熱デカンテーションおよび電気デカンテーションが挙げられる。
【0040】
限外濾過の方法は、(a)望ましくは濃縮される分散系に非イオン性界面活性剤を添加する工程と、(b)分散系をフッ素化ポリマー分散系濃縮物と水性浸透液に分離するために半浸透性限外濾過膜上で分散系を循環する工程とを含む。循環は、典型的に1秒あたり2〜7メートルの輸送速度であって、ポンプによって作用され、これは、フッ素化ポリマーが、摩擦力を引き起こす化合物との接触をしないようにする。限外濾過の方法は、さらに、濃縮間にいくらかの低分子量フッ素化界面活性剤も除去されるという利点を有する。従って、あるレベルの低分子量フッ素化界面活性剤の除去および分散系の濃縮を同時に実行するために、限外濾過の方法を使用してよい。
【0041】
水性分散系中のフルオロポリマー固体を増加するために、熱デカンテーションを利用してもよい。この方法において、非イオン性界面活性剤を、望ましくは濃縮されるフルオロポリマー分散系に添加し、次いで、分散系を加熱して、デカンテーションすることができ、かつ典型的に水およびいくらかの非イオン性界面活性剤を含有する上澄み層が形成される。この時、他の層には、濃縮された分散系が含まれる。この方法は、例えば、(特許文献27)および(特許文献28)に開示されている。
【0042】
熱濃縮は、望ましい濃度が得られるまで、減圧下での分散系の加熱および水の除去を含む。
【0043】
本発明に従って、使用される濃縮法に依存して、濃縮前または後に、粘度を制御するためのアニオン性界面活性剤を添加する。例えば、限外濾過が使用される場合、限外濾過における損失を避けるために、アニオン性界面活性剤を添加し、その後、濃縮を行うことが一般的に好ましい。熱濃縮法が使用される場合、濃縮前に、ならびに濃縮に続いてアニオン性界面活性剤を添加することができる。
【0044】
上記で開示されたように、濃縮および/または低分子量フッ素化界面活性剤の量の低下の手順は、すでに、分散系への非イオン性非フッ素化界面活性剤の添加を含んでもよい。従って、濃縮および/または低分子量フッ素化界面活性剤の除去に添加される非イオン性界面活性剤または界面活性剤混合物の適切な選択によって、本発明に従って、得られる分散系はすでに望ましいVTTを有し得る。しかしながら、分散系に1以上のさらなる非イオン性界面活性剤を添加することによって、濃縮および/またはフッ素化界面活性剤の除去に続いて非イオン性界面活性剤混合物を調節することも可能である。もちろん、分散系から非イオン性界面活性剤を除去することが一般的に困難であるため、濃縮および/または除去プロセスにおいて芳香族基含有非イオン性界面活性剤を使用することは避けられるべきである。
【0045】
以下の実施例を参照にすることによって本発明がさらに説明されるが、本発明をそれらに限定する意図はない。
【実施例】
【0046】
略号:
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
APFOA:ペルフルオロオクタン酸のアンモニウム塩
ゲナポール(Genapol)(商標)X−080:非イオン性EO含有界面活性剤、HLB13、クラリアント GmbH(Clariant GmbH)から市販品として入手可能
ゲナポール(Genapol)(商標)PF40:非イオン性EO/PO含有界面活性剤、クラリアント GmbH(Clariant GmbH)から市販品として入手可能
ポリステップ(Polystep)(商標)A−16:スルホン酸ドデシルベンジルナトリウム、ステパン カンパニー(Stepan Company)から入手可能
ホスタプアー(Hostapur)(商標)SAS30:スルホン酸第二級アルキルナトリウム塩(スルホン酸パラフィン)、クラリアント GmbH(Clariant GmbH)から入手可能
ポリソルベート(Polysorbate)60:ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、HLB14.9、BASFから入手可能
ポリソルベート(Polysorbate)20:ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、HLB16.7、BASFから入手可能
スルフィノール(Surfynol)(商標)465:エトキシル化アセチレングリコール、HLB13、エア プロダクツ(Air Products)から入手可能
スルフィノール(Surfynol)(商標)440:エトキシル化アセチレングリコール、HLB8、エア プロダクツ(Air Products)から入手可能
【0047】
試験法:
粘度
ブルックフィールド レオメーター(Brookfield Rheometer)DV−III、20D/1/sにおいてスピンドル86を使用して、分散系の粘度を測定した。
【0048】
臨界フィルム厚(CFT)
均質なフルオロケミカル分散系で容器を充填した。ピペットを使用して、過剰なフォームを除去した。脱脂されたアルミニウムプレート(19×4×4mm3)を分散系に浸し、プレートを45°の角度で吊るして乾燥させた。プレートを5分間乾燥させて、その後、380℃で10分間加熱した。プレートを冷却し、そして顕微鏡を使用して亀裂に関してコーティングを評価した。ミニテスト(Minitest)4000厚み計を使用して、最大亀裂フィー厚さ(max crack fee thickness)(μm)を測定した。
【0049】
粘度温度遷移(VTT)
粘度温度遷移は、水性分散系の粘度−温度依存性を表す。これは、試料を20℃〜50℃で加熱し、そして1℃ごとに粘度を検査しながら、フルオロポリマー分散系の粘度を測定することによって得られる。VTT点は、粘度が、20℃で測定された粘度より少なくとも10%上昇する温度である。
【0050】
表面張力
ASTM D1331に従って、表面張力計(クルス(Kruess))を使用して、清潔なフレームド白金プレートの手段によって、表面張力を測定した。
【0051】
実施例1
約220nmの粒度を有し、かつ25重量%の固体含量を有するPTFEのフルオロポリマー分散系を、乳化重合から得た。分散系に、分散系中の固体量を基準として5重量%のゲナポール(Genapol)(商標)X−080を添加した。分散系は、分散系の総重量を基準として約0.1重量%のAPFOAを含有した(=ポリマー固体を基準として4350ppm)。乳化ポリマーをアニオン交換樹脂と接触させ、分散系の総重量を基準として7ppmまで分散系中のAPFOAの量を低下させた(=ポリマー固体を基準として30ppm)。限外濾過によって、60重量%のPTFE固体量まで分散系を濃縮した。固体量を基準として2000ppmのA16界面活性剤を添加し、そして濃縮時の界面活性剤の損失を占める固体を基準として5重量%までゲナポール(Genapol)(商標)X−080の量を調節した。得られる分散系は、22mPaの粘度、28℃のVTT、28.9ダインの表面張力および9μmのCFTを有した。従って、得られた分散系は、例えば金属基材をコーティングするために適切であった。
【0052】
実施例2〜14
実施例2〜14において、実施例1に概説されたものと同一手順を繰返したが、表1に示される界面活性剤または界面活性剤の混合物によってゲナポール(Genapol)(商標)X−080を置き換えた。非フッ素化アニオン性界面活性剤として2000ppmのA16を使用して実施例2〜10を製造し、非フッ素化アニオン性界面活性剤として400ppmのホスタプアー(Hostapur)(商標)SAS30を使用して実施例11〜14を製造した。全ての乳濁液に関して、粘度、VTT、表面張力およびCFTを測定した。全ての乳濁液は、少なくとも28のVTTを有した。結果を表1に示す。また界面活性剤混合物のHLB値も表1に報告する。
【0053】
比較例C−1〜C−5
表1に示されるように、低いVTTを有するか、または非常に高い粘度を有する分散系を導くように界面活性剤またはその混合物が使用されたことを除き、実施例1〜14と同一の方法で、比較例C1〜C3およびC−5を製造した。芳香族基含有非イオン性界面活性剤を使用して、比較例C−4を製造した。比較例C−4は、さらに、固体を基準として0.1重量%の量でフッ素化界面活性剤を含有し、アニオン性炭化水素界面活性剤を含有しなかった。
【0054】
以下の表からわかるように、本発明による分散系は、臨界フィルム厚から明らかであるように、良好から改良されたフィルム形成特性を有する。さらに、広い温度範囲で、本発明による分散系を容易にコーティングすることができる。20℃における粘度が非常に高いか、またはVTTが非常に低いように、比較例は良好なコーティング特性を有さない。さらに、本発明による分散系は、芳香族基含有非イオン性界面活性剤を使用する比較例C−4よりも良好な湿潤特性を有する。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に分散された10nm〜400nmの平均粒度を有するフルオロポリマー粒子を含むフルオロポリマー分散系であって、35重量%〜70重量%の固体含量を有し、1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤を含まないか、または前記分散系の固体総重量を基準として0.05重量%以下の量で1000g/モル未満の分子量を有する前記フッ素化界面活性剤を含有し、非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤と1以上の非フッ素化アニオン性界面活性剤との混合物をさらに含み、前記非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の量および性質が、前記フルオロポリマー分散系のVTTが少なくとも26℃であるように選択され、かつフルオロポリマー分散系が芳香族基含有非イオン性界面活性剤を本質的に含まないことを特徴とする、フルオロポリマー分散系。
【請求項2】
前記非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物を、一般式:
1−O−[CH2CH2O]n−[R2O]m−R3 (I)
(式中、R1は、少なくとも8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基を表し、R2は、3個の炭素原子を有するアルキレンを表し、R3は、水素またはC1〜C3アルキル基を表し、nは0〜40の値を有し、mは0〜40の値を有し、そしてn+mの合計は少なくとも2である)で表すことができる、請求項1に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項3】
mが0であり、前記非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物が、11と16との間のHLBを有する、請求項2に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項4】
前記フルオロポリマー分散系が、1以上の、mが0である式(I)で表される非イオン性非フッ素化界面活性剤と、1以上の、nおよびmがそれぞれ0とは異なる式(I)で表される非イオン性非フッ素化界面活性剤とを含む非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物を含む、請求項2に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項5】
前記フルオロポリマー分散系が、1以上の式(I)で表される非イオン性非フッ素化界面活性剤と、1以上のポリソルベートとを含む、請求項2に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項6】
前記フルオロポリマー分散系が、1以上の式(I)で表される非イオン性非フッ素化界面活性剤と、1以上のエトキシル化アセチレンジオールとを含む、請求項2に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項7】
前記エトキシル化アセチレンジオールが、11と16との間のHLBを有する、請求項6に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項8】
フルオロポリマーがポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフルオロポリマー分散系。
【請求項9】
基材のコーティングまたは含浸における、請求項1〜8のいずれか一項に記載のフルオロポリマー分散系の使用。
【請求項10】
前記基材が、金属基材、ガラス繊維布、ポリマー基材および紙を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
(a)10nm〜400nmの平均粒度を有するフルオロポリマー粒子を含み、かつ1000g/モル未満の分子量を有するフッ素化界面活性剤を含むか、またはそれを含まないフルオロポリマー分散系を提供する工程と、
(b)前記分散系中の前記フッ素化界面活性剤の量が、非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の存在下で、分散系の固体総重量を基準として0.05重量%より多い場合、その量を低下させる工程と、
(c)非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物の存在下で、フルオロポリマー分散系を濃縮して、前記分散系中のフルオロポリマー固体の量を35重量%〜75重量%のレベルまで増加させる工程と、
(d)前記フルオロポリマー分散系の濃縮前または後に、フルオロポリマー分散系に1以上の非フッ素化アニオン性界面活性剤を添加する工程と
を含む、フルオロポリマー粒子分散系の提供方法であって、工程(d)後のフルオロポリマー分散系が少なくとも26℃のVTTを有するように、前記工程(b)および/または(c)において使用される前記非イオン性非フッ素化界面活性剤または非イオン性非フッ素化界面活性剤の混合物が選択されるか、あるいはフルオロポリマー分散系のVTTを少なくとも26℃まで調節するために、さらに1以上の非イオン性非フッ素化界面活性剤が添加され、そしてフルオロポリマー分散系が、芳香族基含有非イオン性界面活性剤を含まないように、前記非イオン性非フッ素化界面活性剤が選択される方法。

【公表番号】特表2006−523758(P2006−523758A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508613(P2006−508613)
【出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/001374
【国際公開番号】WO2004/078836
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】