説明

低反り多層フィルム

【課題】食品等の包装材料として使用される多層フィルムであって、カールの発生を防止して取り扱い性を著しく向上させることができる低そり多層フィルムを提供する。
【解決手段】共押出水冷インフレーション法によって製造される多層フィルムであって、最外層にポリアミド樹脂層1、最内層にオレフィン系樹脂層2、およびその間にゴム弾性層4の3層を有し、前記ゴム弾性層4は押出歪を有したまま共押出されていて、この押出歪を開放しようとして縮むゴム弾性層4の収縮力と、前記ポリアミド樹脂層1が冷却水から吸湿した水分を大気中に放湿することで縮むポリアミド樹脂層1の収縮力とが釣り合った状態になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共押出水冷インフレーション法によって成形された食品等の包装材料として使用される多層フィルムであって、円筒状フィルムの成形方向と直交する垂直部分に成形方向への反りの発生が少なく優れた取り扱い性を発揮することができる低反り多層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品や工業部品等の包装材料として異種の樹脂を積層した多層フィルムが広く利用されている。このような多層フィルムでは、フィルム表面の光沢性や滑り性が良好であり、印刷も容易でかつ高い酸素バリアー性を有する等の理由から、最外層にポリアミド樹脂層を用いたものが多い。
【0003】
一方、樹脂製フィルムを袋にする際や、口部を密封する際には、簡便かつ確実なヒートシール法が一般的に利用されている。フィルムの最内層には融点が低く透明性のよいヒートシール性に優れたポリオレフィン系樹脂が使用されることが多い。水冷インフレーション成形法によって得られた円筒状フィルムはフィルムを成形方向と垂直に切断した部分を溶接することにより簡単に袋化し利用されている。
なお、前記ポリアミド樹脂とポリオレフィン系樹脂とは、共押出成形するときに相互に接着し難いので、通常は接着性樹脂層を介した多層フィルムとして一般に使用されている。また、より高度な酸素バリアー性を持たせるために、エチレン−ビニルアルコール共重合体の層を入れることなども知られている。
【0004】
しかし、最外層をポリアミド樹脂層とし、最内層をポリオレフィン系樹脂層とした多層フィルムの場合、共押出水冷インフレーション法によって成形された円筒状フィルムには成形方向に直交する側に外層側に反る現象が見られた。
このような垂直方向側の反りが発生すると、円筒状フィルムの垂直方向切断部をヒートシールすることにより袋化する製袋工程などで袋を積み上げた際に、開口部側となる垂直方向側が膨れ上がって枚数を積み上げられない等の問題があり、更に、内容物の充填時においても袋の供給に支障が出たりするなどの問題があって、フィルムの取り扱い性が劣るという問題があった。
【0005】
ここで、低反りとは水冷インフレーション成形された円筒状フィルムを袋化し使用するに当たり前述のような支障をきたさない程度の反りをいう。なお、作業上支障をきたさない程度の反り度の目安としては、後述する反り度指標(湾曲半径)が少なくとも15mm以上とする。
【0006】
そこで、反りが発生しにくい多層フィルムとして、特許文献1に示されるように、高吸湿性ナイロン層と低吸湿性ナイロン層を組み合わせたもの等が提案されている。しかし、特許文献1のものは共押出水冷インフレーション成形によって得られるフィルムの特徴である柔軟性が低下するおそれがあった。
その他、ポリアミドとポリオレフィンの外層内層対称構成となる中間層にポリアミド、外層,内層にポリオレフィンが使用された低反り多層フィルムの構成もよく知られているが、外層に耐熱性の低いポリオレフィンがあることからヒートシール作業に注意が必要で取り扱い性が難しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−227944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、反り現象の発生原因について検討を行った結果、温度、湿度などの環境影響以外に次のような理由により反り現象が発生するものと推測した。
図3は、従来例における反り現象の発生原因を説明するための説明図である。図において、1は外層側にあるポリアミド樹脂層、2は内層側にあるオレフィン系樹脂層、3はこれらの樹脂層を接着する接着性樹脂層である。
図3に示すように、共押出水冷インフレーション法によって多層フィルムを製造する場合、溶融状態にある共押出樹脂をサーキュラーダイから押出した後、円筒状フィルムの外表面を冷却水に接触することにより冷却固化する。そのとき最外層のポリアミド樹脂層1は直接接触した冷却水により吸湿した状態となる(左図)。次いで、吸湿した状態にあるポリアミド樹脂層1は平衡吸水率より高い吸湿状態にあることが考えられ、徐々に水分を放湿し平衡吸水率に達する(中央図)。この結果、ポリアミド樹脂層1は体積が減少して矢印で示すような収縮力を発生する(右図)。この収縮力の作用により、外側にむけて反りを発生させるものと推測される。
【0009】
本発明は、前記知見をもとに従来の問題点を解決して、ポリアミド樹脂層の放湿に起因する反り発生をなくし、製袋工程や充填工程において優れた取り扱い性を発揮することができる柔軟な低反り多層フィルムを提供することを目的として検討したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の低そり多層フィルムは、共押出水冷インフレーション法によって製造される多層フィルムであって、最外層にポリアミド樹脂層、最内層にオレフィン系樹脂層、およびその間にゴム弾性層の3層を有し、前記ゴム弾性層は押出歪を有したまま共押出されていて、この押出歪を開放しようとして縮むゴム弾性層の収縮力と、前記ポリアミド樹脂層が冷却水から吸湿した水分を大気中に放湿することで縮むポリアミド樹脂層の収縮力とが釣り合った状態になっていることを特徴とするものである。
【0011】
前記ゴム弾性層が、スチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーとオレフィン系樹脂との混合物からなるものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、共押出水冷インフレーション法によって製造される多層フィルムであって、最外層にポリアミド樹脂層、最内層にオレフィン系樹脂層、およびその間にゴム弾性層の3層を有し、前記ゴム弾性層は押出歪を有したまま共押出されていて、この押出歪を開放しようとして縮むゴム弾性層の収縮力と、前記ポリアミド樹脂層が冷却水から吸湿した水分を大気中に放湿することで縮むポリアミド樹脂層の収縮力とが釣り合った状態になっているので、反り発生を抑制する。この結果、従来のように製袋工程や充填工程において優れた取り扱い性を発揮できることとなる。
【0013】
また、請求項2に係る発明では、ゴム弾性層を、スチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーとオレフィン系樹脂との混合物からなるものとしたので、前記ポリアミド樹脂層の収縮力とが釣り合う収縮力を有したゴム弾性層を簡単に成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態を示す拡大断面図である。
【図2】その他の実施の形態を示す拡大断面図である。
【図3】従来例におけるカールの発生原因を説明するための説明図である。
【図4】カール評価方法を示す説明図である。
【図5】湾曲半径を測定する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、共押出水冷インフレーション法によって製造される4層からなる基本的な多層フィルムを示しており、図中1は最外側に位置するポリアミド樹脂層、2は最内側に位置するオレフィン系樹脂層である。なお、前記オレフィン系樹脂層1とポリアミド樹脂層2とは共押出成形するときに相互に接着し難いので、接着性樹脂層3を介して積層した構造となっている。なお、この接着性樹脂層3は一般的なものであり、以下の説明では省略する。また、4は後述するように、収縮力を発揮するゴム弾性層である。
【0016】
前記ポリアミド樹脂層1は、一般に強度があり耐熱性の高い汎用樹脂として知られており、また酸素バリアー性や表面光沢性に優れており、袋の最外層に好適なものである。
具体的には、主にポリアミド6(PA6)やポリアミド6・66などの共重合ナイロンが挙げられる。
【0017】
前記オレフィン系樹脂層2は、融点が前記ポリアミド樹脂層1よりも低く、低温度のヒートシール性に優れ、また透明性にも優れており、袋の最内層に好適なものである。
具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0018】
前記ゴム弾性層4は、収縮力を発揮する層であって、原則としてポリアミド樹脂層1の裏面側に積層されるものであり、本発明特有のものである。このゴム弾性層4は、共押出水冷インフレーション法によってフィルムの製造をした際に、押出歪を有したまま共押出された状態となっており、この押出歪を開放しようとして縮む収縮力が働いている状態にある。
一方、前述したように本発明者は、最外層のポリアミド樹脂層1は冷却水を放湿することで縮むことにより外側にむけカールを発生させるものと推測した。
そこで、本発明では押出歪を開放しようとして縮むゴム弾性層4の収縮力と、前記ポリアミド樹脂層1が冷却水から吸湿した水分を大気中に放湿することで縮むポリアミド樹脂層1の収縮力とを釣り合った状態とすれば、カールの発生を防止することができるとの発想から、本発明に至った。
【0019】
このように、本発明においては前記ポリアミド樹脂層1の収縮力とゴム弾性層4の収縮力とが相殺し合って釣り合っている状態としたので、ポリアミド樹脂層1が収縮して外側へカールすることがなくなる。
このようにポリアミド樹脂層1の収縮力とゴム弾性層4の収縮力とを釣り合った状態とするには、前記ゴム弾性層4を押出歪を有したまま共押出してフィルム成形すればよいが、その成形条件についてはポリアミド樹脂層1とゴム弾性層4の組成や厚み、またゴム弾性材の押出速度やフィルムの引取速度等の条件を制御することにより行うことができる。
【0020】
前記ゴム弾性層4としてはスチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーとオレフィン系樹脂との混合物からなるものを用いることができる。ゴム弾性層4としては好ましくはスチレン系エラストマーとオレフィン系樹脂との混合物からなるものである。ただし、ゴム弾性層4は最内層にエチレン系樹脂を用いた場合や他のオレフィン系樹脂層としてLDPEを用いた場合には、これらの層との接着性が良好であることが好ましいため、これらの場合にはスチレン系エラストマーとオレフィン系樹脂との混合物からなるものの中でも、スチレン系エラストマーとエチレン系樹脂との混合物からなるものがより好ましい。
【0021】
本発明の多層フィルムは、共押出水冷インフレーション法によって製造されるものであって少なくとも最外層のポリアミド樹脂層1と、ゴム弾性層4と、最内層のオレフィン系樹脂層2の3層を有するものであるが、図2に示すように、フィルムの使用目的に応じて、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)からなる他のオレフィン系樹脂層5などの1種又は2種以上を中間層として積層することもできる。また、前記接着性樹脂層3、ゴム弾性層4、他のオレフィン系樹脂層5の積層順についても任意に選択することができる。
【実施例】
【0022】
1.実験装置
5台の押出機と1台のサーキュラー多層ダイからなる水冷式共押出インフレーション成形機を使用した。
【0023】
2.多層フィルムの構成
(1)各層の組成
下記の表1に示す組成からなる5層フィルムを成形した。なお、ゴム弾性層に替えて低密度ポリエチレン(LDPE)からなるオレフィン系樹脂層としたものを比較例として示す。
【0024】
【表1】

*表2中の材料は以下の製品を使用していることを示す。
PA6(ナイロン6): 東レ(株)製アミラン(登録商標)CM1021
接着性PE:三菱化学(株)製モディック(登録商標)L553
LDPE(低密度ポリエチレン):日本ポリエチレン(株)製ノバテック(登録商標)LD LM360
スチレン系エラストマーとエチレン樹脂との混合物:三菱化学(株)製ラバロン(登録商標)T3694C
(2)各層の素材
各層の素材を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
3.素材の溶融粘度特性
1)PA6(ナイロン6) 東レ(株)製アミラン(登録商標)CM1021・・・相対粘度3.4
2)接着性PE 三菱化学(株)製モディック(登録商標)L553・・・MFR(190℃) 1.6g/10分
3)LDPE(低密度ポリエチレン) 日本ポリエチレン(株)製ノバテック(登録商標)LD LM360・・・MFR(190℃) 1.1g/10分
4)スチレン系エラストマーとエチレン系樹脂との混合物 三菱化学(株)製ラバロン(登録商標)T3694C・・・MFR(190℃) 2.0g/10分
(注)「ラバロン(登録商標)T3694C」はスチレン系エラストマーとエチレン系樹脂との混合物である。
【0027】
4.加工条件
(1)温度条件
1)第1層 PA6・・・240℃
2)第2層 接着性PE・・・200℃
3)第3層 LDPE・・・200℃
4)第4層 スチレン系エラストマーとエチレン系樹脂との混合物・・・200℃
5)第5層 LDPE・・・200℃
6)サーキュラーダイ・・・240℃

(2)成形条件
1)ブロー比 0.92
2)冷却水温 20℃
3)フィルム乾燥温度 70℃
4)フィルム厚み 0.07mm
【0028】
5.カール性の評価
(1)カール性の評価方法
図4に示すように、フィルムの中央部で10×10センチの正方形を描き、対角線をカットして、各2等片三角形のそり度合いを測定する。図5に示すように、カールしたフィルムの湾曲半径r(mm)を測定し、反り度合いの評価とした。湾曲半径rが小さいほど反り度合いが高いことを表している。
評価環境は25℃、50%相対湿度環境下で実施した。
(2)評価結果
反りの有無、及び湾曲半径(mm)の測定結果を、表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
以上の実施例から明らかなように、本発明のフィルムは成形方向への反りの発生はなかった。成形方向に発生するカールは円筒状フィルムを利用するときの切断部に見られる反りである。垂直方向への反り抑制効果は見られなかった。これは成形時にゴム弾性体が成形方向に歪んでいることが考えられその収縮応力を有しているのでポリアミドの外層への反り応力と相殺し反り低減効果を発現したものと考えられる。
これは、水冷インフレーション成形において、PA6が冷却水と接触することにより吸湿が発生し、その吸湿した水分を放出することによりPA6が収縮しカールと呼ばれる反り現象を発生させると考えられるが、スチレン系エラストマーとエチレン系樹脂との混合物からなるゴム弾性層も成形歪みによって収縮しようとする力が生じているため、ポリアミドの反る応力とスチレン系エラストマーとエチレン系樹脂との混合物からなるゴム弾性層の反る応力が相殺され反り度合いの小さなフィルムが得られるものと考えられる。
【符号の説明】
【0031】
1 ポリアミド樹脂層
2 オレフィン系樹脂層
3 接着性樹脂層
4 ゴム弾性層
5 他のオレフィン系樹脂層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共押出水冷インフレーション法によって製造される多層フィルムであって、最外層にポリアミド樹脂層、最内層にオレフィン系樹脂層、およびその間にゴム弾性層の3層を有し、前記ゴム弾性層は押出歪を有したまま共押出されていて、この押出歪を開放しようとして縮むゴム弾性層の収縮力と、前記ポリアミド樹脂層が冷却水から吸湿した水分を大気中に放湿することで縮むポリアミド樹脂層の収縮力とが釣り合った状態になっていることを特徴とする低そり多層フィルム。
【請求項2】
ゴム弾性層が、スチレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーとオレフィン系樹脂との混合物からなるものである請求項1に記載の低そり多層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22893(P2013−22893A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161637(P2011−161637)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(591072558)MICS化学株式会社 (6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】