説明

低反射膜形成用塗布液およびその調製方法およびそれを用いた低反射部材

【課題】基体上に低反射膜を形成するための、単層膜において低屈折率且つ低反射率を有し、より簡便な方法で大面積の成膜が容易な低反射膜形成用塗布液およびその調製方法およびそれを用いた低反射部材を提供する。
【解決手段】基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液であって、コロイダルシリカに対して、酸化物換算で5質量%以上、40質量%以下のタンタル化合物を含む分散液からなることを特徴とする低反射膜形成用塗布液。長径5nm以上、100nm以下の棒状コロイダルシリカ、粒径5nm以上、50nm以下の球状コロイダルシリカ、およびタンタル化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体上に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液およびその調製方法およびそれを用いた低反射部材に関する。
【0002】
本発明の低反射膜形成用塗布液により低反射膜が表面に形成された低反射部材は、太陽電池用カバーガラス、自動車ガラス、または照明器具の保護部材等に用いられ、特に太陽電池用カバーガラスに好適に用いられる。
【背景技術】
【0003】
低反射膜は、基体の表面反射を防止し、表面反射による光透過率(以下、単に透過率と言うことがある)の損失をなくして、ガラスや透明プラスチック等の透明性基体の透過率を向上させるために、基体表面に形成されるものである。
【0004】
低反射膜は太陽電池用カバーガラス表面に形成される他、スチルカメラ、ビデオカメラ、液晶プロジェクタ等の光学機器向けレンズ等の表面、陰極線管や液晶表示装置等の画像表示面、あるいは複写機、撮像管、LED表示素子、照明、有機EL、窓やショーケース、自動車ヘッドランプのリフレクタ部材等の表面に形成される。
【0005】
太陽電池を屋外使用する際、太陽電池は常時暴露されるので、寒暖の差および風雨に耐える、耐熱性、耐水性および耐摩耗性等の耐候性を有することが要求され、好ましくは保護部材としての太陽電池用カバーガラスを必要とする。太陽電池用カバーガラスには、太陽電池に高い受光効率を得、変換効率を低下させないために、高い透明性および低反射性能が要求される。したがって、劣化しにくく長期にわたり性能を維持できることから、保護部材にはガラス基板が使われ、ガラス基板の表面に低反射膜を形成した太陽電池用カバーガラスが市販されている。例えば、低反射膜を表面に形成してなる太陽電池用カバーガラスは、低反射膜の屈折率が低いほどに透過率が大きくなり、太陽電池の受光効率がよく、光から電気へのエネルギー変換効率が上がる。
【0006】
また、スチルカメラ、ビデオカメラ等では、収差補正のため多群複数のレンズを用いるので表面反射を抑制しないと、解像度が低下するばかりか、フレア、ゴーストの原因となる。よって、レンズ表面の低反射コート、言い換えれば、低反射膜の形成が重要である。
【0007】
表示装置やショーケース等では、低反射膜により表面反射を低下させないと、反射像の映り込みにより視認性が悪くなる。
【0008】
従来、光学レンズおよびプリズムには、透明基体上に屈折率および厚さの異なる薄膜を重ね合わせた多層膜、即ち、マルチコートが多く用いられてきた。反射膜を多層構造にすれば、広範囲の波長域で反射防止が可能となる。しかしながら、複数の薄膜を真空蒸着等により成膜する際、低反射とするためには、各薄膜の厚みの精密制御が必要である。さらに、大板ガラスにマルチコートするには、大型の真空成膜装置が必要であり、技術的に難しく、高価なものとなる欠点があった。
【0009】
このため、最近では、低コストで容易に大面積の低反射部材を作製するに有利な、単層且つより低屈折率の低反射膜の開発が望まれる。単層の低反射膜は、多層膜に比べ、基体への形成が簡便であり、太陽電池用カバーガラスに使用することで、受光効率向上、引いては、光から電気への変換効率向上が図れる。また、自動車ガラス、特にフロントガラスの映り込み防止、照明器具の保護部材、例えば、ガラス板、透明プラスチックに用いての照度向上等に好適に用いられる。
【0010】
単層の低反射膜において、基体表面に形成された膜内部に、屈折率が1である空気を微小ボイド(空隙)またはメタ細孔として取り込むことで、膜の屈折率を低下させる方法が試みられている。例えば、多孔質シリカ膜、中空性シリカ微粒子を用いたシリカ膜からなる低反射膜を基体表面に形成することが検討されている。
【0011】
多孔質シリカ膜は、シリカゾルと、界面活性剤または高沸点溶剤等を混合してなる原料液を、基体に塗布した後、ゾルゲル法で成膜してシリカ膜にメソ細孔を形成すること等で得られる。尚、ゾルゲル法とは、ケイ素アルコキシドおよびそれを脱水縮合したコロイダルシリカからなるゾル等を、其体表面に塗布した後にゲル化させ、その後、加熱焼成することで、非晶質、多結晶等の比較的硬質な膜を形成する技術である。
【0012】
中空シリカ微粒子は、特定のアルキル基を有するアルコキシシラン等を用い、これを凝集縮合させることで、微小ボイドまたはメソ細孔を含有させたシリカ微粒子である。これら中空シリカ微粒子を用いて基体上に形成された膜は、中空シリカ微粒子に由来するボイドまたはメソ細孔を有し、ボイドまたはメソ細孔に含有した空気により低反射膜となる。
しかしながら、中空シリカ微粒子は、製造工程が複雑であるという問題があった。よって、汎用品である太陽電池用カバーガラス、照明器具の保護部材および自動車ガラス向けとして、採用し難い。
【0013】
例えば、特許文献1には、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる多孔質の複合酸化物粒子が、厚さが0.5nm〜20nmである多孔質のシリカ系無機酸化物層で被覆されてなることを特徴とする微粒子が開示される。この微粒子を含有する被膜を基材の表面に形成することで、低屈折率で、樹脂等との密着性、強度、反射防止能等に優れた被膜付きの基材を提供できるとされている。
【0014】
また、特許文献2には、シリカとAl、B、TiO、ZrO、SnO、Ce、P、Sb、MoO、WOから選ばれるシリカ以外の無機酸化物とからなる平均粒径が5nm〜300nmの範囲にある複合酸化物コロイド粒子が水および/または有機溶媒に分散した複合酸化物ゾルであって、前記コロイド粒子は、前記無機酸化物を構成するシリカ以外の元素の一部が除去されると共に粒子表面がシリカ被膜で被覆されてなり、屈折率が1.36〜1.44の範囲にあることを特徴とする複合酸化物ゾルが開示される。当該複合酸化物ゾルを用いて、低屈折率の塗布膜を形成した低反射用の基材が提供できるとされる。
【0015】
具体的には、無機酸化物の一部が除去されボイドが生成した粒子表面を、シリカ皮膜を被覆した中空シリカ微粒子で、中空シリカ微粒子としての複合酸化物コロイド粒子が水および/または有機溶媒に分散した複合酸化物ゾルである。
【0016】
しかしながら、特許文献1または特許文献2に記載の複合酸化物ゾルは、その製造において、無機酸化物の一部を除去する工程、コロイド粒子の表面をシリカ被膜する工程を有し、工程が複雑であるという問題があり、太陽電池用カバーガラス、自動車ガラスおよび照明器具の保護部材向けとしては採用し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際特許公開公報WO00/37359号
【特許文献2】特開2006−117526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
コロイダルシリカを用いた塗布液は、プラスチックのハードコート膜等に利用されるが、コロイダルシリカが塗布液中で加水分解して凝集し固形分が析出する、ゲル化する等の問題があった。また、ゲル化のために所望の硬さ、耐酸、耐アルカリ性が得られなく、一定期間の使用で廃棄せざるを得ない等の問題があった。よって、塗布液の安定性がよほど高くないと、液寿命が得られなく、例えばメーター角(1m×1m)以上の大板に工業的に連続に塗布し、シリカ膜を得ることは、技術的にも経済的にも難しいという問題があった。特に塗布液中の水分濃度の管理がシビアであり、極力水が入らないように操業していた。
【0019】
本発明は、上記問題を解決し、単層膜において低屈折率且つ低反射率を有し、より簡便な方法で、基材表面に大面積の低反射膜を与える液安定性に優れ、優れた液寿命の低反射膜形成用塗布液を与えることを目的とする。
【0020】
また、本発明は、液安定性に優れ、液寿命の長い低反射膜形成用塗布液を用いることで、太陽電池の受光効率向上、自動車のフロントガラスの映り込み防止、照明器具の保護部材として照度向上等に使用する、耐熱性、屋外使用に耐える耐熱性、耐磨耗性等の耐候性および防汚性に優れた低反射部材を効率よく得ることを目的とする。
【0021】
特に、本発明は、太陽電池の保護部材である太陽電池用カバーガラスに低い反射率を与え、太陽電池に高い受光効率、変換効率を与える低反射膜形成用塗布液およびその調製方法およびそれを用いた低反射部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、以下の発明1〜13よりなる。
【0023】
[発明1]
基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液であって、タンタル化合物およびコロイダルシリカを含んでなり、コロイダルシリカの質量に対して、タンタル化合物が、酸化物換算で5質量%以上、40質量%以下の範囲に含有されてなる含む分散液からなることを特徴とする低反射膜形成用塗布液。
【0024】
コロイダルシリカは、形状の異なる少なくとも2種類のコロイダルシリカを用いることが好ましく、例えば、棒状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカである。
【0025】
[発明2]
コロイダルシリカに、走査型電子顕微鏡による観察で長径5nm以上、100nm以下の棒状コロイダルシリカおよび粒径5nm以上、50nm以下の球状コロイダルシリカを用いたこと特徴とする発明1の低反射膜形成用塗布液である。
【0026】
[発明3]
棒状コロイダルシリカ:球状コロイダルシリカの質量比が、20:80〜80:20であることを特徴とする発明1または発明2の低反射膜形成用塗布液。
【0027】
[発明4]
タンタル化合物が、Ta(OR5−n (nは、1≦n≦5、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基、s―アミル基、2−エチルヘキシル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基またはフェニル基であり、Xはハロゲン原子である。)であることを特徴とする発明1の低反射膜形成用塗布液。
【0028】
[発明5]
タンタル化合物がTa(OR5−nCl (nは1≦n≦5、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基またはs―アミル基である。)であることを特徴とする発明1の低反射膜形成用塗布液。
【0029】
[発明6]
低反射膜形成用塗布液の全質量に対して、1質量%以上、50質量%以下の水を含有することを特徴とする発明1〜5の低反射膜形成用塗布液。
【0030】
[発明7]
発明1〜6の低反射膜形成用塗布液を用いた低反射膜が形成されてなる太陽電池用カバーガラス。
【0031】
[発明8]
基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液の調製方法であって、タンタル化合物を含む分散液と、コロイダルシリカを含む分散液を混合することを特徴とする発明1〜6の低反射膜形成用塗布液の調製方法。
【0032】
具体的には、コロイダルシリカには、形状の異なる少なくとも2種類のシリカが挙げられる。
【0033】
[発明9]
タンタル化合物に、i−プロパノール(別名、イソプロピルアルコール、2−プロパノール、以下、IPAと略する)溶媒下、下記の反応
TaCl + 4Na(OR) → Ta(ORCl + 4NaCl
尚、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基またはs―アミルである。)で合成されたTa(ORClであることを特徴とする発明8の方法。
【0034】
また、本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射膜は、単層膜においても極めて低い反射率を奏するので、透明基体の片面または両面に形成した場合、高い透過率が得られる。
【0035】
本発明者らは、上記の低反射膜形成用塗布液をガラス板等の基体に塗布し、その後、加熱焼成し、タンタルアルコキシドは酸化タンタル(以下、Taと記す)となり、コロイダルシリカが脱水縮合し硬化したシリカ微粒子をTaがバインダーとして接合してなる低反射膜を得た。
【0036】
本発明は、上記の低反射膜形成用塗布液を基体に塗布した後、加熱焼成して低反射膜を得る低反射膜の形成方法である。
【0037】
[発明10]
発明1〜6の低反射膜形成用塗布液を、基体に塗布し塗膜とした後に加熱焼成して、コロイダルシリカをシリカ微粒子とし、タンタル化合物をタンタル酸化物として塗膜を硬化させ、シリカ微粒子と酸化タンタルを含有させ、シリカ微粒子に対する酸化タンタルの含有が5質量%以上、40質量%以下の範囲であり、屈折率1.20以上、1.40以下である低反射膜を基体上に得ることを特徴とする低反射膜の形成方法。
【0038】
本発明の低反射膜の形成方法において、これらコロイダルシリカが焼成したシリカ微粒子を、タンタルアルコキシドが焼成してなるTaで接合させたことで、微小なボイドを有し、且つ緻密で硬質な低反射膜が得られた。ボイドとして膜中に取り込まれた屈折率1の空気によって、単なるシリカコート(屈折率1.46)に比較してより低屈折率(屈折率1.20以上、1.40以下)の低反射膜が得られた。
【0039】
また、Taの含有効果により、親水性の膜となり、シリカのみの膜と比較して防汚性が得られた。
【0040】
このようにして、屈折率1.20以上、1.40以下の低反射膜が得られ、例えば、基体としての、厚さ3mmの無色透明なガラス板表面に前記低反射膜を形成した場合、低反射部材である低反射膜付きガラス基板に可視光透過率98%が得られた。尚、ガラス板の可視光透過率は90%程度であり、ボイドを有さない通常のシリカコート膜を形成したガラス基板では、可視光透過率は92%である。
【0041】
[発明11]
発明10の低反射膜の形成方法でガラス基体上に低反射膜が形成された、光波長域380nm〜1200nmの平均透過率が95%以上であることを特徴とする低反射部材。
【0042】
尚、平均透過率は、分光光度計を用いて、光の波長域、380nm〜1200nmの透過率を測定し、算出した値である。
【0043】
[発明12]
発明10の透過率曲線の透過率の最大値のピークが500nm以上、900nm以下の範囲であることを特徴とする発明11の低反射部材。
【0044】
尚、透過率曲線とは、ある波長域における分光光度計による透過率の測定値を連続的にプロットした曲線である。
【0045】
[発明13]
発明11または発明12の低反射部材からなることを特徴とする太陽電池用カバーガラス。
【発明の効果】
【0046】
本発明の低反射膜形成用塗布液を用いて得られた低反射膜は単層膜で十分な低反射効果が得られ、大面積への成膜が容易である。
【0047】
即ち、本発明の低反射膜形成用塗布液は様々な方法で大面積への塗布が可能であり、単層膜としては非常に低屈折率である低反射膜が得られた。本発明の低反射膜およびその形成方法により、低反射膜が透明基体表面に形成された低反射部材は、広い波長域において、高い可視透過率を有する。
【0048】
また、本発明により、液安定性に優れる、水が濃度50質量%になるように加えても安定な低反射膜形成用塗布液が得られた。
【0049】
本発明の低反射膜形成用塗布液より得られた低反射膜は、屈折率を低下させるのに十分な微小ボイドを含みながら緻密な膜となり、コロイダルシリカ微粒子をTaがバインダーとして接合することで、微小ボイドとして取り込まれた屈折率1の空気層の効果により、通常のシリカ膜に対して低屈折率(1.20以上、1.40以下)の低反射膜が得られた。加えて、当該低反射膜は、金属酸化物を含むことにより親水性であり、汚れ難く防汚性を有する。
【0050】
また、本発明の低反射膜形成用塗布液を用いて得られた低反射膜は、防汚性に加え、耐熱性、屋外使用に耐える耐磨耗性等の耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】低反射膜付きガラス基板の図面代用SEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図2】低反射膜付きガラス基板の透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明において、低反射膜とは、基体表面の光の反射防止のために基体表面に形成した低屈折率(エリプソメーターで測定した屈折率(nD)=1.40以下)の膜である。また、本発明において、屈折率は、エリプソメーターによる分光エリプソメトリー測定で得られた測定値であり、平均透過率および平均反射率は、分光光度計を用いて、光の波長域、380nm〜1200nmの透過率、反射率を測定し、当該波長域における平均透過率、平均反射率を算出した値である。透過率曲線とは、ある波長域における分光光度計による透過率の測定値を連続的にプロットした曲線である。
【0053】
低反射膜形成用塗布液とは、基体表面に塗布して基体に低反射膜を形成するための液である。低反射膜を表面に形成することで、基体が透明であれば、表面反射による損失なく、透過率が上昇する。例えば、低反射膜を表面に形成してなる太陽電池のカバーガラスは、屈折率が低いほど、透過率が大きくなり、太陽電池の受光効率が良くなり、光から電気へのエネルギー変換効率が上がる。
【0054】
コロイダルシリカとは、酸化ケイ素またはその水和物が凝集したコロイドであり、通常、アルコキシシランを原料とし脱水縮合させたもの、もしくはアルカリシリケートより、イオン交換にてアルカリ分を除去しコロイドとしたものが挙げられる。
【0055】
棒状コロイダルシリカとは、細長い形状のコロイダルシリカのことをいい、数珠上であっても、湾曲していてもよい。また、球状コロイダルシリカとは、丸い形状のコロイダルシリカをいい、完全な球体でなく、歪な楕円体でもよい。コロイダルシリカ微粒の最大径のことを、棒状コロイダルシリカにおいては長径と言い、球状コロイダルシリカにおいては、粒径と言う。また、棒状コロイダルシリカの最小径を短径という。
【0056】
バインダーとは、結合させるものの意味であり、本発明では、タンタル酸化物がシリカ微粒子の界面にあって、バインダーとして、シリカ微粒子を接合する。
【0057】
1.低反射膜形成用塗布液
本発明の低反射膜形成用塗布液は、タンタル化合物およびコロイダルシリカを含む分散液からなることを特徴とする。
【0058】
シリカ微粒子を含有してなるシリカ膜を形成する際に、シリカ微粒子が球形であると充填し易く、シリカ微粒子の粒度分布を揃えれば、充填密度を高くすることが可能であり、得られたシリカ膜は、最密充填で充填密度70%以上を確保できる。
【0059】
しかしながら、球状のシリカ微粒子同士は、点接触で接合しており、外部から応力を受け微粒子間にせん断力が働けば、脆く容易に破壊されやすく、シリカ膜とした際に耐摩耗性に劣る問題があった。
【0060】
一方、棒状シリカ微粒子は、アスペクト比の大きな嵩高の粒子であり、棒状シリカの充填密度は低く、棒状の粒子が立体的に絡みあい3次元のブリッジ構造を形成するため、得られてなるシリカ膜は充填率が低く、嵩高で空隙率が大きくなる。当該シリカ膜は多孔質で空気層に富み、見かけ屈折率は1.25以下の優れた低反射性能を示すが、摩擦強度は極めて脆く、軽い摩擦程度で簡単に剥離して実用に耐えうるものではないという問題があった。
【0061】
よって、本発明の低反射膜形成用塗布液においては、棒状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカをともに用いることが好ましい。
【0062】
推察すれば、形状の異なるコロイダルシリカが共存した塗布液を用いれば、基体上に塗布した際に、液中でのコロイダルシリカのブラウン運動により、棒状コロイダルシリカが絡みブリッジ上に接合してなる間隙に、球形シリカ微粒子が捕捉された状態で塗膜が形成され、屈折率1の空気が間隙に取り込まれた効果により、低屈折率の膜、即ち、低反射膜が形成されると思われる。
【0063】
具体的には、塗膜の乾燥工程で、棒状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカの空隙の毛管現象により、溶剤の蒸発に連れて、間隙に微細な球形シリカ微粒子が入り込み、形状の異なるシリカがより多くの接点で隣接するため、棒状コロイダルシリカのみを用いたより密、且つ球状コロイダルシリカのみを用いたより粗な空隙率となり、かつ接点が多くより強く接合した摩擦強度に優れた低反射膜が形成されると考えられる。
【0064】
しかしながら、形状の異なるコロイダルシリカを共存させると、ゾルを形成し易く低反射膜形成用塗布液に寿命が得られないという問題があった。
【0065】
本発明の低反射膜形成用塗布液より得られる低反射膜は、形状の異なるシリカ微粒子を、その界面で酸化タンタル(Ta)がバインダーとして接合することで生成した微小ボイドに取り込まれた屈折率1の空気により、低屈折率を得るもので、長径5nm以上、100nm以下の範囲に調製された棒状コロイダルシリカと、粒径5nm以上、50nm以下の範囲に調製された球状コロイダルシリカと、タンタル化合物を分散させた低反射膜形成用塗布液を用いることで、低反射膜中に空気からなる微小ボイドの生成が容易となり、低反射膜のガラス基板に対する付着強度が向上した。
【0066】
本発明の低反射膜形成用塗布液に含有する、棒状コロイダルシリカおよび球状コロイダルシリカを含む全てのコロイダルシリカ中で、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略する)による目視観察で、コロイダルシリカの全個数の90%以上が、前記範囲に入ることが好ましい。残部は前記範囲を満たさない、言い換えれば、前記範囲を外れたコロイダルシリカであり、前記範囲を外れるコロイダルシリカが10%より多く含有されると、微小ボイドの形成に支障をきたし、好ましくない。
【0067】
棒状コロイダルシリカにおいて、長径が5nmより短いと、得られる低反射膜が微小なボイドが多数存在する膜に成り難く、長径が100nmより長いと、微小なボイドが形成され難い。球状コロイダルシリカにおいては、粒径が5nmより小さいと、得られる低反射膜が微小なボイドが多数存在する膜に成り難く、粒径が50nmより大きいと、微小なボイドが形成され難い。
【0068】
また、棒状コロイダルシリカのアスペクト比、即ち、長径/短径は、2以上、10以下であることが好ましい。長径/短径が2より小さい、または10より大きいと、低反射膜中に微小ボイドが形成され難い。
【0069】
本発明の低反射膜形成用塗布液によって得られる低反射膜中において、ボイドは、形状の異なるシリカ微粒子をTaが接合することで形成される。低反射膜形成用塗布液中のコロイダルシリカの質量(固形分の質量、以下同じ)に対して、Ta換算でタンタル化合物の含有が5質量%未満であると、生成されるボイドが少なく、低屈折率の膜が得られない。Ta換算でタンタルアルコキシドの含有が40質量%より多いと、得られる膜の屈折率が高くなり、低反射膜になり難い。好ましくは、10質量%以上、30質量%以下である。
【0070】
即ち、本発明は、基体、特に透明基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液であって、タンタル化合物およびコロイダルシリカを含有する分散液からなることを特徴とする低反射膜形成用塗布液である。
【0071】
コロイダルシリカは形状の異なる少なくとも2種類のシリカであることが好ましい。具体的には、前記形状の異なるコロイダルシリカに、長径5nm以上、100nm以下の棒状コロイダルシリカおよび粒径5nm以上、50nm以下の球状コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0072】
本発明の低反射膜形成用塗布液を用いたことにより、上記シリカ微粒子とTaが接合してなり、シリカ微粒子に対するTaの含有が5質量%以上、40質量%以下の範囲であり、屈折率1.20以上、1.40以下であることを特徴とする低反射膜が得られた。
【0073】
また、本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射膜において、Taを、シリカ微粒子に対し、5質量%以上、40質量%以下の範囲に含ませることで、特に耐熱性、屋外使用に耐える耐磨耗性等の耐久性に優れた低反射膜が得られた。
【0074】
この際、シリカの質量に対する、Taの含有範囲は、5質量%以上、40質量%以下の範囲である。本発明の低反射膜中において、ボイドは金属酸化物の周囲に形成される。コロイダルシリカの質量に対する、金属酸化物の含有が5質量%未満であると、生成されるボイドが少なく低屈折率の膜が得られない。Taの含有が40質量%より多いと、得られる膜の屈折率が高くなり低反射膜にならない。好ましくは、10質量%以下、30質量%以上である。
【0075】
本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射膜において、シリカ微粒子に対し、Taの含有が5質量%以上、40質量%以下の範囲に含有する低反射膜は、膜中に微小なボイドが生成され多孔質でありながら緻密な膜となり、屈折率1の空気を取り込むことで低屈折率化し、上記のようにTaの存在が、ある波長範囲の透過率増大化を担い、その波長範囲の透過率を増大させることで、低屈折率且つ極めて透明な膜が得られ、低反射膜が形成してなる低反射部材の可視光から赤外光域にわたり透過率が改善された。この透明な低反射膜を形成してなる低反射基材は、低反射膜が単層膜にあっても、十分な低反射性能を有する。
【0076】
当該低反射膜は、形状の異なるシリカ微粒子をバインダーとしてのTaが接合することで、微小ボイドを含みながら緻密な膜となり、シリカとバインダーとしてのTaの界面でボイドとして取り込まれた屈折率1の空気層の効果により、低屈折率となった。
【0077】
また、本発明の低反射膜形成用塗布液において、ボイドの生成が容易且つガラス板に対する付着強度に優れた棒状コロイダルシリカ:球状コロイダルシリカの質量比は、20:80〜80:20である。これ以外の範囲は、ボイドの生成が少なく低反射膜が得られ難く、付着強度に劣る。
【0078】
基材表面に低反射膜を形成した低反射部材を量産化する際には、低反射膜形成用塗布液の液安定性が重要である。上記タンタル化合物が分散した本発明の低反射膜形成用塗布液は液安定性が良好であり、好適に用いられる。コロイダルシリカおよび前記タンタル化合物は通常、アルコール等の有機溶媒下で合成され分散液となり、前記タンタル化合物を用いた本発明の低反射膜形成用塗布液は、水を濃度50質量%まで加えても安定であり、安全性に優れ且つ様々な塗布方法に対応する。
【0079】
通常、コロイダルシリカの分散液に水を加えることで、コロイダルシリカは不安定になり、固形分が析出することが多く、水は使用されないが、コロイダルシリカと、上記タンタルアルコキシドをともに用いた低反射膜形成用塗布液は、前記アルコキシドの作用により、液の全質量に対し、水を50質量%まで加えても固形分が析出し難い。また、前記低反射膜形成用塗布液に、水を1質量%以上加えることでガラス板との濡れ性が良くなり、本発明の低反射膜形成用塗布液において、全質量に対し、水の含有を1質量%以上、50質量%以下の間で任意に調製できる。好ましくは、1質量%以上、30質量%以下、さらに好ましくは、1質量%以上、10質量%以下である。
【0080】
2.タンタル化合物
本発明の低反射膜形成用塗布液の組成物であるタンタル化合物について説明する。
【0081】
本発明の低反射膜形成用塗布液において、低反射膜に酸化タンタルを含有させるためには、塗布液中における液安定性に優れ固形分析出の懸念が少ないタンタル化合物を用いることがこのましい。
【0082】
タンタル化合物には、タンタルの塩化物、水和物、アルコキシドまたはキレート化合物が挙げられるが、本発明においては、より安定した分散液を与えるTa(OR5−n (nは、1≦n≦5。Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基、s―アミル基、2−エチルヘキシル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基またはフェニル基であり、Xはハロゲン原子である。)が、挙げられる。または、タンタルと、FeまたはMnとの混合アルコキシド(Fe、Mn):Ta=1:2のものが挙げられる。
【0083】
この中でも、タンタルの塩化物且つアルコキシドであるTa(OR5−nClが合成しやすく、本発明において使用しやすいタンタル化合物である。尚、nは、1≦n≦5、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基またはs―アミル基である。
【0084】
本発明の低反射膜形成用塗布液において、とりわけTa(ORClが、液安定性に有用であり、本発明の低反射膜形成用塗布液において、イソプロピルアルコールに分散した分散液としてコロイダルシリカの分散液と混合して使用することが好ましい。尚、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはiso−プルピル基であることが好ましい。
【0085】
Ta(ORClは、メタノール溶媒下またはエタノール溶媒下に合成することが可能であるが、溶媒にIPAを用いることで、コロイダルシリカを含有する分散液と混合し、1質量%以上、50質量%以下となるように水を加えたとしても固形分が析出することが少なく、安定性良好な低反射膜形成用塗布液を与える。
【0086】
IPA溶媒下、Ta(ORClは下記の反応で合成されたものを用いることが好ましい。
【0087】
TaCl + 4Na(OR) → Ta(ORCl+4NaCl
尚、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基またはs―アミル基である。
【0088】
3.コロイダルシリカ
次いで、本発明の低反射膜形成用塗布液の組成物であるコロイダルシリカについて説明する。
【0089】
本発明の低反射膜形成用塗布液にシリカ微粒子を含有させるためのコロイダルシリカを生成するためのケイ素化合物としては、以下の物が挙げられる。
【0090】
好ましいケイ素化合物として、アルコキシドが挙げられ、一般式 Si(OR) (式中、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリブチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基またはフェニル基である。)で表されるアルコキシ化合物またはそれらの加水分解物または部分加水分解物であって、特にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、テトラノルマルブトキシシラン、テトラターシャリブトキシシラン等またはその加水分解物が好ましい。また、アルコキシドの−ORが、塩素原子等のハロゲン原子で置換したものでもよく、例えば、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジノルマルブトキシシランまたはトリクロロノルマルブトキシシラン等が挙げられる。本発明には、これらのケイ素化合物を脱水縮合して、長径、5nm以上、100nm以下に調製した棒状コロイダルシリカ、粒径、5nm以上、50nm以下に調製した球状コロイダルシリカが好適に用いられる。
【0091】
4.低反射膜形成用塗布液の調製
本発明は、基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液の調製方法であって、タンタル化合物を含む分散液と、コロイダルシリカを含む分散液を混合することを特徴とする。コロイダルシリカは、形状の異なる、少なくとも2種類のコロイダルシリカであることが好ましい。
【0092】
本発明の低反射膜形成用塗布液を調製する際、コロイダルシリカの分散液、タングステン化合物の分散液は、液安定性および反応のし易さより、コロイダルシリカの分散液においては、メタノール、エタノール、n−プロパノールもしくはIPA等のアルコール、または酢酸エチル等のエステル系溶剤、アセトン等の極性溶剤が用いられ、タングステン化合物の分散液においては、メタノール、エタノール、n−プロパノールまたはIPA等のアルコールが用いられ、これらを混合して用いる。また、純水を添加してもよい。
【0093】
5.低反射膜形成用塗布液の安定性
次いで、本発明の低反射膜形成用塗布液の安定性について、以下詳細に説明する。
【0094】
ゾル中の金属酸化物前駆体、例えば、金属アルコキシドの安定性を比較したとき、アルコキシシラン等のSi系アルコキシドは経時によるゲル化および固形分の析出なく比較的安定であるが、Al系、Zr系、Ti系、Sn系アルコキシドは不安定であることが、当業者には知られている。
【0095】
本発明のタンタル化合物およびコロイダルシリカの分散液からなる低反射膜形成用塗布液は、水の含有割合が1質量%以上、50質量%以下の範囲で調製され、水を加えたとしても優れた液安定性を示し、固形分が経時により長期にわたり析出することなく、液寿命に優れる。好ましくは、1質量%以上、30質量%、さらに好ましくは、1質量%以上、10質量%以下である。
【0096】
詳しくは、一般的にコロイドの安定性はゼータ電位が重要であり、液中に分散した微粒子は、多くの場合、それ自体のイオン性、双極子特性等により正または負に帯電しており、それらの微粒子は、表面電荷を中和する量の反対符号の電荷で囲まれ、固定層と拡散層から成る電気二重層を形成している。
【0097】
ゼータ電位とは、コロイド中のコロイド粒子の周りに形成する電気二重層中の、液体流動が起こり始める「すべり面」の電位として定義される。 ゼータ電位がゼロに近づくと、コロイド粒子の相互の反発力は弱まりやがて凝集してしまう。ゼータ電位は界面の性質を評価する上で重要な値である。特にコロイドの分散・凝集性、相互作用等の安定性を制御する上での重要な指標となる。コロイド粒子の凝集や分散の制御は、複数の金属アルコキシドを混合して使用する場合において、コロイドの安定性、ポットライフを考慮して、使用する金属アルコキシドを慎重に選択する必要がある。
【0098】
コロイド粒子は表面積をなるべく小さくした方が安定する。表面積が大きいと、コロイド粒子は凝集しようとする傾向がある。金属アルコキシドは、溶液中で極めて小さい微粒子として存在し、コロイダルシリカの様な比較的大きいコロイド粒子の周囲を取り巻くようにすることで、コロイド粒子がより分散し、安定化すると推定される。
【0099】
一方、コロイド粒子は帯電しており、粒子間には静電気的な反発力が働く。この反発力は、コロイド粒子に分散しようとする傾向を与える。ゼータ電位は、この静電気的な反発力の大きさに比例して大きくなるため、コロイド粒子の安定性の指標となる。ゼータ電位がゼロに近づくとコロイド粒子の凝集する傾向が静電気的反発力に打ち勝つため、コロイド粒子の凝集が起こる。逆にゼータ電位の絶対値を大きくするような添加剤をコロイド粒子表面に吸着させることや、pH制御で安定なコロイドを得ることが可能となる。
【0100】
また、ゾル中の金属酸化物前駆体、例えば、金属アルコキシドの安定性を比較したとき、アルコキシシラン等のSi系アルコキシドは加水分解が遅く、経時によるゲル化および固形分の析出なく比較的安定であるが、Al系、Zr系、Ti系、Sn、遷移金属または希土類系のアルコキシドは不安定であることが、当業者には知られている。
【0101】
シリカ微粒子をバインダーとして接合させ、微小ボイドを形成することで低反射膜を与える金属酸化物としては、酸化タンタル(Ta、屈折率1.90)の他に、酸化チタン(TiO、屈折率2.2)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO、屈折率1.85)、酸化スズ(SnO、屈折率1.7、酸化アルミニウム(アルミナ:Al、屈折率1.65)、酸化ハフニウム(ハフニア:HfO、屈折率1.90)、酸化クロム(Cr、屈折率2.1)、酸化セリウム(セリア:CeO、屈折率1.8)、酸化モリブデン(MoO、MoO、屈折率1.80)または酸化ランタン(La、屈折率1.75)が挙げられ、棒状コロイダルシリカ、球状コロイダルシリカとこれら金属の化合物を分散させた低反射膜形成用塗布液を調製し基体に塗布後加熱焼成することで、低反射膜が得られる。
【0102】
しかしながら、低反射膜形成用塗布液は、長期安定性が重要であり、室温で30日以上保存できることが好ましい。タンタル酸化物と比較して、他の金属の酸化物を用いた場合、低反射膜形成用塗布液中、安定に分散できない化合物しかない金属もあるばかりか、液安定性において、固形分の析出があり、液寿命が短く低反射膜の性能劣化の懸念等がある。また、得られる低反射膜は硬さに劣り、耐熱性および耐摩耗性に劣る。
【0103】
本発明の低反射膜形成用塗布液は、コロイダルシリカと、タンタル化合物、特にタンタルのアルコキシドを混合させたものであり、コロイダルシリカと、タンタルアルコキシドの組合せにおいて長期に安定であることを見出したものである。
【0104】
6.低反射膜および低反射部材の光学特性
次いで、本発明の低反射膜形成用塗布液を用いて基体表面に形成された低反射膜の光学特性について説明する。
【0105】
低反射膜中に、シリカ(屈折率1.46)とTa(屈折率1.90)等の金属酸化物が共存する場合、その組合せによって、特定の波長範囲の透過率を高める傾向が見られる。当該波長の範囲を厳密に規定することはできないが、金属酸化物の屈折率が低い場合は、シリカ単独の透過率曲線の最大値のピークよりも、ピークはやや長波長側にシフトする。そして金属酸化物の屈折率が高くなるに従い、さらに長波長側にピークを示すようになる。
【0106】
従って、この透過率曲線の最大値のピークがシフトする性質を利用して、高い屈折率1.90を有するTaをシリカ粒子に接合させ、シリカ膜中に分散させた低反射膜の場合、Taの存在により、低反射膜が形成された低反射部材の長波長領域の透過率が高まり、幅広い波長域で透過率を増大させる。
【0107】
形状の異なるコロイダルシリカを含む分散液に、タンタルアルコキシド、例えば、Ta(ORClを含む分散液を混合させた本発明の低反射膜形成用塗布液を、基材に塗布した後に、焼成成膜してなる低反射膜は、低反射膜が形成された低反射部材の長波長領域の透過率が高まる傾向が顕著であり、800nm以上、1200nm以下の波長域において、低反射膜が形成された低反射部材の平均透過率が向上した。
【0108】
これはタンタルアルコキシド、例えば、Ta(ORClの焼成によって生じたTaの低反射膜への含有効果による。尚、Rはメチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基である。
【0109】
詳しくは、シリカのみからなるシリカコート膜を形成してなる低反射部材は、波長500nmにおける透過率が高いので、同様に、シリカ微粒子とTaが混合してなる低反射膜を形成してなる低反射部材においても、波長550nmをピークとする透過率曲線を与えるものと類推されたが、実際にTaと混合すると、最大透過率のピークは、長波長側、500nm〜900nmの間にシフトして、それに伴い長波長領域の透過率が高くなる。このことも、本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射膜が形成された低反射部材の可視光透過率が高くなる要因である。また、最大透過率のピークが、500nm〜900nmの間にシフトしたことで、本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射部材を太陽電池用カバーガラスに使用すれば太陽電池の変換効率が上昇する。
【0110】
また、近年開発されている、CIS薄膜系の薄膜太陽電池および結晶性シリコンは、波長400nm以上、1200nm以下の幅広い吸収を有しており、従来のアモルファスシリコン系と比較して長波長域の光を吸収することが可能で、その吸収のピークが900nm付近にある。前述のように、本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射膜が形成された低反射部材は、紫外・可視光波長域、300nm以上、800nm以下、および近赤外波長域、800nm以上、1200nm以下での高い光透過性を有するので、アモルファスシリコン系太陽電池はもちろんのこと、長波長領域に吸収を有する太陽電池用のカバーガラスとして好適に用いられる。
【0111】
7.塗布方法
次いで、本発明の低反射膜形成用塗布液の塗布方法について説明する。
【0112】
蒸着法およびスパッタ法等の真空中における成膜法では、数種類の組成物を有する混合膜を基体表面に1回の成膜で形成することは難しいが、ゾルゲル法等の湿式塗布法では、基体表面に1回の塗布で形成することは容易である。湿式塗布法は紫外、可視および赤外域に対応する低反射膜および調光膜への幅広い応用が期待され、太陽電池用カバーガラスの製造を始め、ステッパー、レーザー、有機EL、液晶表示素子、LED、照明器具等の
低反射膜および調光膜を有する部材、レンズ等の精密光学機器のみならず、汎用の自動車
用ガラス、特にフロントガラス、照明器具の保護部材の製造に好適に使用される。
【0113】
また、透明基板に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液は、長期安定性が重要であり、室温で30日以上保存できることが好ましい。特に、本発明の低反射膜形成用塗布液は長期安定性に優れ、水を50質量%以下まで加えたとしても安定であり、種々有機溶剤を用いての揮発性、粘度調整、固形分濃度の調整が容易である。好ましくは、30質量%以下、さらに好ましくは、1質量%以上、10質量%以下である。
【0114】
本発明の低反射膜形成用塗布液の基板上への塗布は、浸漬引き上げ法、即ち、ディップコーティング法みならず、スピンコート法、スプレーコート法、リバースロールコーター等によるローラーコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り、またはインクジェット等の様々な塗布方法が適用される。
【0115】
前記塗布方法により、基体上に形成された塗布膜は、80℃以上、150℃以下で10分から6時間乾燥した後、さらに加熱焼成し低反射膜とすることが好ましい。加熱温度は、基材の耐熱温度に応じて決定される。プラスチック製透明基材の場合、概ね300℃以下で処理することが好ましい。また、無機質のガラス基材においては、焼成時間を調整することにより、700℃程度の高温での焼成も可能である。好ましい態様として、500℃以上、700℃以下で2、3分間、即ち、120秒〜150秒間、焼成することにより、耐磨耗性に優れた低反射膜が得られた。特に、ガラス基板とコロイダルシリカと、前タンタルアルコキシドの組合せにおいて、耐熱性および耐磨耗性に優れた低反射膜が得られた。
【0116】
8.低反射膜および低反射部材
本発明の低反射膜の基体表面における、好ましい膜厚は、20nm以上、500nm以下である。膜厚を20nmより薄くすると耐磨耗性に劣る、また成膜が困難である。また500nmより厚くすると、膜厚が不均一となり、成膜し難い。好ましくは、50nm以上、150nm以下である。可視光に対し低い反射率を得るためには、100nm以上、120nm以下であることが好ましい。
【0117】
低反射部材を得るための、本発明の低反射膜形成用塗布液からなる低反射膜を形成するための基体としての透明基板には、無機質のガラス基材、以外に有機質のプラスチック製基材等を用いることが出来る。無機質のガラス基材の例としては、ソーダライムシリケートガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、石英ガラス等の板状のものを用いることができる。さらには、これらガラス基材は、クリアガラス品、グリーン、ブロンズ等の着色ガラス品、UV、IRカットガラス等の機能性ガラス品、低Fe高透過ガラス、強化ガラス、半強化ガラスまたは合せガラス等の安全ガラス品も使用され得る。また、セラミックスとしてはSi、SiC、サファイヤ、Siウェハー、GaAs、InPまたはAlN等の基板にも使用される。
【0118】
また、プラスチック製基材の例としては、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)またはポリイミド等が挙げられる。
【0119】
また、本発明の低反射膜形成用塗布液により低反射膜が形成された低反射部材は、Fe分を極力低減した低Fe高透過ガラス基板を基体とする太陽電池用カバーガラスとして有用である。太陽電池用カバーガラスとして使用する場合においては、高い透過率および低い反射率が要求されるうえ、太陽電池は太陽光に常時暴露されるため、防汚性、耐水性および耐候性等を併せ持つ材料が望まれる。前述のように本発明の形状の異なる前記コロイダルシリカと、タンタル化合物、特にタンタルアルコキシドを用いた低反射膜形成用塗布液により作製された低反射膜付ガラス基板は、防汚性、耐熱性および耐摩耗性に優れる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例に基づき、本発明の低反射膜形成用塗布液およびその調製方法およびそれを用いた低反射部材について説明する。
【0121】
最初に基体上に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液について説明する。
【0122】
[低反射膜形成用塗布液]
形状の異なる2種類のコロイダルシリカ(棒状コロイダルシリカ+球状コロイダルシリカ)とタンタルアルコキシドを用いた低反射膜形成用塗布液であって、コロイダルシリカに対するタンタルアルコキシドの含有が酸化物換算で20質量%である低反射膜形成用塗布液(実施例1)、コロイダルシリカに対するタンタルアルコキシドの含有が酸化物換算で40質量%である低反射膜形成用塗布液(実施例2)を用意した。
【0123】
次いで、棒状コロイダルシリカのみとタンタルアルコキシドを用い、棒状コロイダルシリカに対するタンタルアルコキシドの含有が20質量%の低反射膜形成用塗布液(実施例3)を用意した。
【0124】
次いで、球状コロイダルシリカのみとタンタルアルコキシドを用い、球状コロイダルシリカに対するタンタルアルコキシドの含有が20質量%の低反射膜形成用塗布液(実施例4)を用意した。
【0125】
[比較例の塗布液]
コロイダルシリカに対するタンタルアルコキシドの含有が酸化物換算で50質量%である低反射膜形成用塗布液(比較例1)を用意した。
【0126】
次いで、2種類のコロイダルシリカのみを用い、金属アルコキシドを用いない塗布液(比較例2)を用意した。また、2種類のコロイダルシリカとTEOSを用いた塗布液(比較例3)を用意した。また、タンタルアルコキシドのみ(比較例6)からなる塗布液を用意した。
【0127】
実施例1〜4の低反射膜形成用塗布液、および比較例1〜4の塗布液をガラス基板に被覆し膜を成形し、得られた低反射膜付きガラス基板の物性評価を行った。
【0128】
以上、実施例1〜4の低反射膜形成用塗布液および比較例1〜4の塗布液の組成について、表1に纏める。
【表1】

【0129】
次いで、実施例1〜4の低反射膜形成用塗布液および比較例1〜4の塗布液を、厚み3mm、大きさ100mm×100mmの無色透明なソーダライムシリケートガラス基板(以下、単にガラス基板という)に塗布し、表面に低反射膜を形成した低反射膜付きガラス基板を得、得られた低反射膜付きガラス基板の物性評価を行った。物性評価方法を表2に示す。
【表2】

【0130】
本発明の実施例1、2、比較例1〜6について詳細に説明する。
【0131】
実施例1
<コロイダルシリカ分散液の調製>
容量1000mlの3口フラスコに、棒状コロイダルシリカのIPA分散液(日産化学工業株式会社製、品番、IPA-ST−UP、固形分濃度15.2質量%、長径40nm〜100nm)14.28gを量り入れ、IPA106.14gを撹拌しながら加えた。次いで、球状コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、商品名、メタノールシリカゾル、固形分濃度30.2質量%、粒径10nm〜20nm)16.75gに、IPA264.2gを撹拌しながら加えたものを混合して、約401gのコロイダルシリカ分散液、401gを得た。
【0132】
このようにして、コロイダルシリカ分散液において、酸化物(SiO)換算で棒状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカの酸化物換算の質量比が、棒状コロイダルシリカ:球状コロイダルシリカ=30:70になるように調製した。固形分濃度は1.8質量%である。
【0133】
<タンタルアルコキシド分散液の調製>
窒素気流下で、五塩化タンタル8.20gを、容量500mlの3口フラスコに採取し、5℃に氷冷したメタノールを255.10g加えた。これに28質量%濃度のナトリウムメトキシド(和光純薬工業株式会社製)、17.66gを加え、タンタルアルコキシド(Ta(OCH(CHCl)と副生成物のNaClの混合スラリー、281gを得た。
【0134】
次に65℃下に16時間、窒素雰囲気中で還流を行い、室温(約22℃)まで冷却後、窒素を流しつつ加圧ろ過でタンタルアルコキシド(Ta(OCH(CHCl)と副生成物のNaClを濾別した。濾液中のタンタルの濃度はTa換算で1.8質量%であった。
【0135】
<低反射膜形成用塗布液の調製>
前記コロイダルシリカ分散液401gに、窒素雰囲気中で室温下、撹拌しながら、上記で合成したタンタルアルコキシド分散液100.3gを、室温で2時間かけて徐々に滴下し、微乳白色の透明な液を得た。混合後、さらに窒素気流下、60℃下に8時間かけて還流して、コロイダルシリカとタンタルアルコキシドを、酸化物換算の質量比でSiO:Ta=80:20、即ち、タンタルアルコキシドが酸化物換算で20質量%になるように調製し、低反射膜形成用塗布液とした。
【0136】
<低反射膜付きガラス基板の作製>
ガラス基板の表面をアルミナ粒子で湿式研磨し、蒸留水、次いでIPAで洗浄後、100℃に加熱して乾燥させた。表面の状態をみるために、純水の接触角を測定したところ、接触角5°以下の強い親水性を示し、清浄であった。
【0137】
次いで、当該ガラス基板の表面に、ディップ法による低反射膜の形成を行った。
【0138】
前記低反射膜形成用塗布液に洗浄したガラス基板を浸漬し、ディップ法により、上向きに速度4.0mm/secで引き上げ、低反射膜形成用塗布液をガラス基板の両面に塗布した。50℃下に30分間乾燥させ、さらに110℃で60分乾燥させた。これを750℃に加熱した焼成炉に投入して、150秒間保持した後で取り出し、室温下で急冷し、淡青色の反射色を有する低反射膜を両面に成膜してなる低反射膜付きガラス基板を得た。
【0139】
図1に、タンタルアルコキシドを用いた低反射膜付きガラス基板表面の図面代用SEM写真を示す。
【0140】
前記低反射膜形成用塗布液を用いてガラス基板上に形成した低反射膜のSEM鏡による拡大写真である。整然と並ぶ粒子はシリカであり、シリカ微粒子はバインダーの役割を果たすタンタル酸化物により接合され、微小ボイドを含むポーラスな膜でありながら、硬質の膜であった。
【0141】
<低反射膜付きガラス基板の評価>
図2に、タンタルアルコキシドを用いた低反射膜付きガラス基板の透過率曲線を示す。
【0142】
前記低反射膜形成用塗布液を用いてゾルゲル法により、ガラス基板上に低反射膜を形成した。1の透過率曲線が、塗布槽からの引き上げ速度3mm/secで前記基板に塗付した低反射膜付きガラスの透過率曲線、同様に、2の透過率曲線が引き上げ速度5mm/secでの低反射膜付きガラスの透過率曲線、3の透過率曲線が引き上げ速度7mm/secでの低反射膜付きガラスの透過率曲線である。引き上げ速度が速くなるにつれて、膜厚が厚くなり、透過率の最大値のピークは長波長側に移動する。リファレンスの低反射膜を有さない基板の透過率曲線(Rで表す)に比べると、全波長域において、透過率が向上している。
【0143】
前述の引き上げ速度4.0mm/secにおける低反射膜付きガラスの平均透過率を測定したところ、平均透過率は97.9%であり、低反射膜を設けていないガラス基板の平均透過率、90.5%と比較して、7.4%平均透過率が向上した。
【0144】
次いで、膜厚を触針式表面形状測定器で測定したところ、121nmであった。また、屈折率nをエリプソメーターで測定したところ、屈折率はn=1.260であり、低反射膜付きガラスとして満足のいく性能が得られた。
【0145】
次いで、この低反射膜の摩擦強度を摩耗試験機により、パットに取り付けたネル布を用いて、低反射膜つきガラスの表面を15g/cmの荷重で3000回、往復摩擦し、低反射膜の摩擦強度を評価した。外観はややヘイズが見えたが、色調は変化なく、平均透過率を測定したところ、97.5%であり、試験前に比べ、0.4%低下した。また純水の接触角を測定したところ、8.0°であり、強い親水性を示した。
【0146】
また、この低反射膜付きガラスの、25℃、相対湿度50%で30日間経過後の表面抵抗値を測定したところ、9.0exp10Ω.cmであり、優れた帯電防止性能を保持していることを確認した。
【0147】
実施例2
形状の異なるコロイダルシリカを含有するコロイダルシリカ分散液を、実施例1と同様に調製した。次いで、当該コロイダルシリカ分散液に、実施例1で調整したタンタルアルコキシド分散液を、コロイダルシリカの質量に対して、タンタルアルコキシドが酸化物換算で40質量%含有される様に加え、即ち、質量比でコロイダルシリカ:Ta=60:40になるように加え、固形分濃度1.9質量%の低反射膜形成用塗布液を調製した。当該低反射膜形成用塗布液を、実施例9と同様の手順で、ガラス基板に塗布し加熱焼成して低反射膜付きガラス基板を得た。
【0148】
表2の物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、引き上げ速度3.4mm/secの条件で、実施例9と同様に低反射膜を両面に形成してなる、低反射膜付きガラス基板の平均透過率は97.1%であり、低反射膜を設けていないガラス基板の平均透過率、90.5%と比較して、平均透過率が6.6%向上した。次いで、膜厚を触針式表面形状測定器で測定したところ、109nmであった。また、屈折率nをエリプソメーターで測定したところ、n=1.279であり、低反射膜付きガラスとして満足のいく性能であった。
【0149】
次いで、この低反射膜の摩擦強度を摩耗試験機により、パットに取り付けたネル布を用いて、低反射膜付きガラス基板の表面を15g/cmの荷重で3000回、往復摩擦し、低反射膜の摩擦強度を評価した。外観は、やや擦り傷がありヘイズが見えたが、膜は剥離しておらず、平均透過率を測定したところ、96.5%であり、試験前に比べ、0.6%低下した。また純水の接触角を測定したところ19.3°であり、強い親水性を示した。
【0150】
また、この低反射膜付きガラス基板の、室温(25℃)、相対湿度50%下で30日間経過後の表面抵抗値を測定したところ、3.6exp10Ω.cmであり、優れた帯電防止性能を保持していることを確認した。
【0151】
実施例3
実施例1で用いた棒状コロイダルシリカのIPA分散液(日産化学工業株式会社製IPA−ST−UP、固形分濃度15.2質量%、長径40nm〜100nm)をIPAで薄めた後、タンタルアルコキシドが酸化物換算での質量比でSiO:Ta=80:20、即ち、タンタルアルコキシドが酸化物換算で20質量%になるように調製し、固形分濃度2.0質量%の低反射膜形成用塗布液とした。当該低反射膜形成用塗布液を、実施例1と同様の手順で、ガラス基板に塗布し加熱焼成して低反射膜付きガラス基板を得た。
【0152】
表2の物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、引き上げ速度3.0mm/secの条件で、実施例9と同様に膜を両面に形成してなる、低反射膜付きガラスの平均透過率は96.9%であり、低反射膜を設けていないガラス基板の平均透過率、90.5%と比較して、平均透過率が6.5%向上した。次いで、膜厚を触針式表面形状測定器で測定したところ、115nmであった。また、屈折率nをエリプソメーターで測定したところ、n=1.294であり、低反射膜付きガラスとして満足のいく性能であった。
【0153】
次いで、この低反射膜の摩擦強度を摩耗試験機により、パットに取り付けたネル布を用いて、低反射膜付きガラス基板の表面を15g/cmの荷重で3000回、往復摩擦し、低反射膜の摩擦強度を評価した。低反射膜の摩擦強度は、ネル布摩耗試験による3000回往復摩擦後の外観は曇りがあり、部分的に剥離があり、実施例1、2の低反射膜付きガラス基板の摩擦強度に劣っていた。
【0154】
これは、特定の粒径の形状の異なるコロイダルシリカ(棒状コロイダルシリカ+球状コロイダルシリカ)を使わず、棒状コロイダルシリカのみを使ったため、摩擦強度に劣る膜が成膜された結果である。
【0155】
実施例4
実施例1で用いた球状コロイダルシリカのIPA分散液(日産化学工業株式会社製、商品名、メタノールシリカゾル、固形分濃度30.2質量%、粒径○○nm〜○○nm)をIPAで薄めた後、タンタルアルコキシドが酸化物換算での質量比でSiO:Ta=80:20、即ち、タンタルアルコキシドが酸化物換算で20質量%になるように調製し、固形分濃度2.0質量%の低反射膜形成用塗布液とした。当該低反射膜形成用塗布液を、実施例9と同様の手順で、ガラス基板に塗布し加熱焼成して低反射膜付きガラス基板を得た。
【0156】
表2の物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、引き上げ速度3.0mm/secの条件で、実施例9と同様に膜を両面に形成してなる、低反射膜付きガラスの平均透過率は97.0%であり、低反射膜を設けていないガラス基板の平均透過率、90.5%と比較して、平均透過率が6.5%向上した。
【0157】
次いで、膜厚を触針式表面形状測定器で測定したところ、113nmであった。また、屈折率nをエリプソメーターで測定したところ、n=1.307であり、低反射膜付きガラスとして満足のいく性能であった。
【0158】
次いで、この低反射の摩擦強度を摩耗試験機により、パットに取り付けたネル布を用いて、低反射膜付きガラス基板の表面を15g/cmの荷重で3000回、往復摩擦し、低反射膜の摩擦強度を評価した。低反射膜の摩擦強度は、ネル布摩耗試験による3000回往復摩擦後の外観は曇りがあり、部分的に剥離があり、実施例1、2の低反射膜付きガラス基板の摩擦強度に劣っていた。
【0159】
これは、特定の粒径の形状の異なるコロイダルシリカ(棒状コロイダルシリカ+球状コロイダルシリカ)を使わず、球状コロイダルシリカのみを使ったため、摩擦強度に劣る膜が成膜された結果である。
【0160】
比較例1
形状の異なるコロイダルシリカを含有するコロイダルシリカ分散液を、実施例1と同様に調製した。次いで、当該コロイダルシリカ分散液に、実施例1で調整したタンタルアルコキシド分散液を、コロイダルシリカの質量に対して、タンタルアルコキシドが酸化物換算で50質量%含有されるように加え、即ち、SiO:Ta=50:50になるように加え、固形分濃度1.7質量%の低反射膜形成用塗布液を調製した。当該低反射膜形成用塗布液を、実施例1と同様の手順で、ガラス基板に塗布し加熱焼成して低反射膜付きガラス基板を得た。
【0161】
表2の物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、引き上げ速度3.0mm/secの条件で、実施例9と同様に膜を両面に形成してなる、膜付き基板の平均透過率は、膜を設ける前のガラス基板より、2.7%向上し、93.3%であり、低反射膜付きガラスと言えるものではなかった。
【0162】
次いで、膜厚を触針式表面形状測定器で測定したところ、107nmであった。また、膜の屈折率をエリプソメーターで測定したところ、n=1.310であり、屈折率は、所望より高い値であった。
【0163】
これは、コロイダルシリカに対するタンタル化合物の含有が、酸化物換算で5質量%以上、40質量%以下の好ましい含有範囲より外れた結果である。
【0164】
比較例2
実施例1と同様にして、形状の異なるコロイダルシリカを含有するコロイダルシリカ分散液を調製し、ガラス基板に実施例1と同様の手順で塗布後、加熱焼成し低反射膜付きガラス基板を得た。実施例1〜4、比較例1と異なり、低反射膜には金属酸化物が含有されない。
【0165】
次いで、実施例1と同様に低反射膜付きガラス基板の評価を行った。
【0166】
前記物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、平均透過率は、低反射膜を設ける前のガラス基板より、6.9%向上し、97.4%であった。低反射膜の摩擦強度は、ネル布摩耗試験による3000回往復摩擦後の外観は曇りがあり、ヘイズは試験前に比べ、5.7%増大し、部分的に剥離があり摩擦強度に劣っていた。
【0167】
比較例2の低反射膜付きガラス基板は、膜強度に劣り、耐久性に乏しく、実用に耐えるものではなかった。
【0168】
比較例3
実施例1と同様にして、形状の異なるコロイダルシリカを含有するコロイダルシリカ分散液を調製し、TEOSをコロアダルシリカに対する質量比で20質量%となるように加えた。ガラス基板に実施例1と同様の手順で塗布後、加熱焼成し低反射膜付きガラス基板を得た。実施例1〜4、比較例1と異なり、低反射膜には金属酸化物が含有されない。
【0169】
次いで、実施例1と同様に低反射膜付きガラス基板の評価を行った。
【0170】
前記物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、平均透過率は、低反射膜を設ける前のガラス基板より、4.1%向上しており、94.6%であった。低反射膜の摩擦強度は、ネル布摩耗試験による3000回往復摩擦後の外観は曇りがあり、ヘイズは試験前に比べ、5.7%増大し、部分的に剥離があり摩擦強度に劣っていた。
【0171】
比較例4
実施例1で調製したタンタルアルコキシド溶液のみをガラス基板に塗布し、実施例9と同様に加熱焼成して成膜し、酸化タンタル膜付きガラス基板を得た。膜の屈折率は1.86であり、平均透過率はかえって低下した。
【0172】
(結果)
評価結果を表3に示す。
【表3】

【0173】
本発明の低反射膜形成用塗布液による低反射膜が表面に形成された低反射膜付きガラス基板は、親水性、防汚性に優れており、帯電防止性能を有し汚れにくい。特に、表3に示す様に、実施例1、2の低反射膜付きガラス基板は、高い平均透過率を示し、ネル磨耗試験の結果、平均透過率が劣化することなく、秀でた耐久性を示した。
【0174】
[塗布液に対する水の添加]
前記実施例1の低反射膜形成用塗布液、形状の異なるコロイダルシリカの分散液のみの比較例2の塗布液、および形状の異なるコロイダルシリカの分散液にTEOSを加えた比較例3の塗布液に水を添加し、経時による固形分の析出を観察した。
【0175】
具体的には、実施例1の低反射膜形成用塗布液、比較例2および比較例3の塗布液に、純水を10.0質量%を加え、室温(20℃)にて保管し、目視にて白濁および固形分の析出の有無を観察した。
【0176】
形状の異なる2種類のコロイダルシリカ(棒状コロイダルシリカ+球状コロイダルシリカ)にタンタルアルコキシドを加えた実施例1の低反射膜形成用塗布液、および形状の異なる2種類のコロイダルシリカのみの比較例4の塗布液は、純水を10.0質量%添加し、90日経過しても変化はみられなかった。
【0177】
比較して、形状の異なる2種類のコロイダルシリカの分散液にTEOSを加えた比較例3の塗布液は、純水を10%添加し、1週間経過したところ、ゲル化して塗布液として使用不可能であった。
【0178】
次いで、純水を10.0質量%加え、90日経過した実施例1で調製した低反射膜形成用塗布液(実施例5とする)を用い、実施例1と同様にして、ガラス基板に塗布成膜し、得られた低反射膜付きガラス基板の物性評価を行った。
【0179】
実施例5
形状の異なるコロイダルシリカを含有するコロイダルシリカ分散液にタンタルアルコキシド分散液を加えた低反射膜形成用塗布液を、実施例1と同様に調製し、次いで、純水を、液の総重量に対し10.0質量%加え、室温下(20℃)、90日間静置した。静置後の当該低反射膜形成用塗布液を、実施例1と同様の手順で、ガラス基板に塗布後、加熱焼成して低反射膜付きガラス基板を得た。
【0180】
表2の物性評価方法に従い、物性値の測定をしたところ、引き上げ速度3.4mm/secの条件で、実施例1と同様に低反射膜を両面に形成してなる、低反射膜付きガラスの平均透過率は96.6%であり、低反射膜を設けていないガラス基板の平均透過率、90.5%と比較して、平均透過率が6.1%向上した。
【0181】
次いで、膜厚を触針式表面形状測定器で測定したところ、115nmであった。また、屈折率nをエリプソメーターで測定したところ、n=1.264であり、低反射膜付きガラスとして満足の行く性能が得られていた。
【0182】
次いで、この低反射膜の摩擦強度を摩耗試験機により、パットに取り付けたネル布を用いて、低反射膜付きガラスの表面を15g/cmの荷重で3000回、往復摩擦し、低反射膜の摩擦強度を評価した。外観は、やや擦り傷がありヘイズが見えたが、膜は剥離しておらず、平均透過率を測定したところ、95.8%であり、試験前に比べ、0.8%低下した。また純水の接触角を測定したところ14.4°であり、強い親水性を示した。
【0183】
結果を纏めて表4に示す。純水を加えていない実施例1の低反射膜形成用塗布液により低反射膜を両面に形成してなる低反射膜付きガラス基板に対し、純水を10.0質量%加え、且つ90日経過後の実施例5の低反射膜形成用塗布液により低反射膜を両面に形成してなる低反射膜付きガラス基板の物性評価の結果は、実施例1の低反射膜付きガラス基板に劣らない結果であった。
【表4】

【0184】
水を加えることにより、低反射膜形成用塗布液の粘度の調整が容易であり、対応できる塗布方法の選択肢が増す。また、火気に対する安全性等も増す傾向がある。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明の低反射膜形成用塗布液およびその調製方法およびそれを用いた低反射部材により、低屈折率、耐熱性、耐磨耗性および防汚性に優れた低反射膜が形成された低反射部材が得られた。本発明の低反射部材は、太陽電池用カバーガラス、レンズ等の光学材料、陰極線管や液晶表示装置等の画像表示面、窓やショーケース、天窓材、温水器、照明器具等の板ガラスや透明プラスチック等の親水性・防汚性・低反射帯電防止の求められる広い分野において利用できる。 具体的には、本発明の低反射膜形成用塗布液により得られた低反射膜を有する低反射部材は、太陽電池用カバーガラス、自動車用ガラス(特にフロントガラス)、または照明器具の保護部材に好適に使用され、太陽電池の受光効率向上、発電の変換効率の向上、フロントガラスの映り込み防止、または照明器具の保護部材として高い可視光透過率による照度向上等の格別の効果が得られた。
【0186】
また、本発明の低反射膜形成用塗布液は、固形分の析出がなく、液の寿命が長く、水を含有させることが可能で、ガラスとの濡れ性が良く、様々な塗布方法に対応する。
【0187】
また、透過光のピーク波長を太陽電池の特性に合わせてシフトさせて、太陽電池の変換率を向上させることができるので、太陽電池用カバーガラスとして特に有用である。
【0188】
通常、シリカのみからなる低反射膜を有する低反射部材の透過率の最大値のピークは500nm付近であるが、Taを含有させたことで、ピークが500nm〜900nmにずれ、太陽電池用カバーガラスとして使用するに優れた低反射部材が得られた。
【0189】
本発明の低反射部材は、太陽電池用カバーガラスとして使用するに特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液であって、タンタル化合物およびコロイダルシリカを含んでなり、コロイダルシリカの質量に対して、タンタル化合物が、酸化物換算で5質量%以上、40質量%以下の範囲に含有されてなる分散液からなることを特徴とする低反射膜形成用塗布液。
【請求項2】
コロイダルシリカに、走査型電子顕微鏡による観察で長径5nm以上、100nm以下の棒状コロイダルシリカおよび粒径5nm以上、50nm以下の球状コロイダルシリカを用いたこと特徴とする請求項1に記載の低反射膜形成用塗布液。
【請求項3】
棒状コロイダルシリカ:球状コロイダルシリカの質量比が、20:80〜80:20であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低反射膜形成用塗布液。
【請求項4】
タンタル化合物が、Ta(OR5−n (nは1≦n≦5、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基、s―アミル基、2−エチルヘキシル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基またはフェニル基であり、Xはハロゲン原子である。)であることを特徴とする請求項1に記載の低反射膜形成用塗布液。
【請求項5】
タンタル化合物がTa(OR5―nCl (nは、1≦n≦5、Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはiso−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基またはs―アミル基である。)であることを特徴とする請求項1に記載の低反射膜形成用塗布液。
【請求項6】
低反射膜形成用塗布液の全質量に対して1質量%以上、50質量%以下の水を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の低反射膜形成用塗布液。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の低反射膜形成用塗布液を用いた低反射膜が形成されてなる太陽電池用カバーガラス。
【請求項8】
基材に低反射膜を形成するための低反射膜形成用塗布液の調製方法であって、タンタル化合物を含む分散液と、コロイダルシリカを含む分散液を混合することを特徴とする請求項1乃至請求項7に記載の低反射膜形成用塗布液の調製方法。
【請求項9】
タンタル化合物に、イソプロピルアルコール溶媒下、下記の反応
TaCl + 4Na(OR) → Ta(ORCl + 4NaCl
(Rは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i−ブチル基、t―ブチル基、n―アミル基、i―アミル基またはs―アミル基である。)
で合成されたTa(ORClを用いることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の低反射膜形成用塗布液を、基体に塗布し塗膜とした後に加熱焼成して、コロイダルシリカをシリカ微粒子とし、タンタル化合物をタンタル酸化物として塗膜を硬化させ、シリカ微粒子と酸化タンタルを含有させ、シリカ微粒子に対する酸化タンタルの含有が5質量%以上、40質量%以下の範囲であり、屈折率1.20以上、1.40以下である低反射膜を基体上に得ることを特徴とする低反射膜の形成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の低反射膜の形成方法でガラス基体上に低反射膜が形成された、光波長域380nm〜1200nmの平均透過率が95%以上であることを特徴とする低反射部材。
【請求項12】
光透過率曲線の光透過率の最大値のピークが500nm以上、900nm以下の範囲であることを特徴とする請求項11に記載の低反射部材。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の低反射部材からなることを特徴とする太陽電池用カバーガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−150425(P2012−150425A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150703(P2011−150703)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】