説明

低反射透明板及びそれを用いた展示用ケース

【課題】展示物に覆設され、中にある展示物を見え易くすることのできる低反射透明板を提供することにあり、またそれを用いた展示用ケースを提供する。
【解決手段】展示物が外部から見えるように、透明板11が該展示物12に覆設されてなる展示用ケース21であって、該透明板は、テーパー形状の細孔を有する微細構造が発現するモスアイ効果によって低反射率が実現されている反射低減フィルムが、透明なガラス板又は透明な合成樹脂板の片面又は両面に貼り合わされてなる、視感度補正後の反射率が0.3%以下である低反射透明板であり、かつ該低反射透明板は、430nmから780nmの全ての波長領域で透過率が93%以上であり、ヘイズが2%以下のものであることを特徴とする展示用ケース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、展示物を覆設する低反射透明板とそれを用いた展示用ケースに関し、更に詳細には、特定の表面構造によって低反射率が実現され、展示物が外部から見え易くなっている低反射透明板、及びそれを用いた展示用ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
絵画、写真、立体オブジェ等の展示物を、透明板を介してその外側から鑑賞する場合、外側にある照明や景色等が透明板に映り込んだり、透明板が白くかすんで見えたりして、中にある展示物が見え難くなるという問題があった。これは、展示物の前面等に覆設される透明板の表面の反射率が大きいことに起因する。
【0003】
一般に、透明板の反射率を低減させる方式としては、例えば、(1)入射してくる外光を、表面に微粒子等を吹き付けて凹凸を形成した面で散乱させることにより、映り込みを抑制したアンチグレア(ノングレア)方式、(2)誘電体薄膜を真空中で多層形成したドライコーティング方式、また、(3)低屈折率材料を表面に塗布したウエットコーティング方式等が知られている。
【0004】
このような反射率の透明板を展示用に応用した例としては、表示パネルの前面板として、反射防止のためにノングレア処理されたプラスチック基板を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上記(1)ではヘイズが大きくなるため、展示物と透明板との距離が離れると、展示物がボケたり、展示物の輪郭が滲んで見えたりして、展示物がはっきり見え難くなる場合があった。この現象は、シャワーカーテン効果として知られている。また、上記(2)では波長分散のため、透明板や展示物が着色する場合があった。また、上記(3)では十分な低反射率が得られない場合があった。このように、何れの方式にも根本的な大きな問題点があった。
【0006】
一方、液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)等のフラットパネルディスプレイ等の視認性確保のために用いられる反射防止膜として、(4)表面に微細構造を付与することにより、低反射率を発現させる技術が知られている(特許文献2〜特許文献10)。この微細構造は、モスアイ構造(蛾の目(moth−eye)構造)とも呼ばれ、表面に高さ数十nm〜約1000nm程度の、円錐形、紡錘形等の突起又は窪みが設けられているものである。
【0007】
しかしながら、かかる表面にモスアイ構造を有する透明板を展示物に覆設させて使用することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第3093957号公報
【特許文献2】特開平9−193332号公報
【特許文献3】特開2003−162205号公報
【特許文献4】特開2003−215314号公報
【特許文献5】特開2004−004515号公報
【特許文献6】特開2004−059820号公報
【特許文献7】特開2005−010231号公報
【特許文献8】特開2005−092099号公報
【特許文献9】特開2007−199522号公報
【特許文献10】国際公開WO/2007/040159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、反射を防止して中にある展示物を見え易くすることのできる展示用ケースを提供することにあり、またそのための低反射透明板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、その表面の微細構造が発現するモスアイ効果によって低反射率が実現された低反射透明板を展示用ケースに用いることで、中にある展示物が極めて顕著に見え易くなることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、展示物が外部から見えるように、該展示物に覆設される透明板であって、その表面の微細構造が発現するモスアイ効果によって低反射率が実現されたものであることを特徴とする低反射透明板を提供するものである。
【0012】
また本発明は、展示物が外部から見えるように、上記の低反射透明板を該展示物に覆設してなることを特徴とする展示用ケースを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ケース外部にある照明や景色等が、展示物に覆設されている透明板に映り込んだり、該透明板が白くかすんで見えたりすることがなく、中にある展示物を見え易く保ったままで外界から展示物を保護することができる。また、低反射率を実現させるための特定の表面構造によって、該透明板と展示物とが密着している場合は勿論のこと、該透明板とその中にある展示物との距離が離れている場合であっても、シャワーカーテン効果等によって、展示物がボケたり、展示物の輪郭が滲んで見えたりすることがない低反射透明板を提供することができる。
【0014】
更に、色もつかず、表面硬度も充分にある。このように、反射防止性能に優れ、透明板と展示物との距離が離れている場合であっても展示物がはっきりと見え、原理的に着色もなく、表面硬度も充分にあるので、本発明の低反射透明板は、展示用ケース用として、すなわち展示物に覆設して用いる用途に極めて良くマッチングしているものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の低反射透明板に貼り付けられる反射低減フィルムの製造方法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の低反射透明板の表面(反射低減フィルムの表面)を走査電子顕微鏡で観察した写真である。
【図3】本発明の低反射透明板における反射低減フィルムの、5°正反射率の可視領域の測定結果を表す図である。
【図4】反射低減フィルムを厚さ2mmのアクリル板の前後両面に貼り付けた本発明の低反射透明板の透過率と、貼り付けないとき(基材であるアクリル板のみ)の透過率の可視領域の測定結果を表す図である。
【図5】本発明の展示用ケースの一例(密着型の額)の断面図である。
【図6】本発明の展示用ケースの一例(非密着型の額)の斜視図である。
【図7】本発明の展示用ケースの一例(非密着型の額)の断面図である。
【図8】本発明の展示用ケースの一例(標本箱)の斜視図である。
【図9】本発明の展示用ケースの一例(ショーウィンドー)の斜視図である。
【図10】反射低減フィルムを貼り付けた部分と貼り付けていない部分との反射の程度を示す写真である。 (a)反射低減フィルムを貼り付けていない透明板を用いた額 (b)内部の長方形部分にのみ反射低減フィルムを貼り付け、外周部分には貼り付けていない透明板を用いた額
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0017】
本発明の低反射透明板は、展示物が外部から見えるように、該展示物に覆設される透明板であって、その表面の微細構造が発現するモスアイ効果によって低反射率が実現されているものであることを特徴とする。
【0018】
<透明板>
ここで「透明板」とは、厚さが実質的に均一であり、展示物を外界から保護するため、又は、展示物が液体中に存在する場合にはその液体が流れ出ないように該展示物に覆設されるものである。表面にモスアイ効果を奏する微細構造が形成されていない(形成される前の)透明板(例えば、後述する反射低減フィルムを貼り付ける前の透明板)の透過率は、展示物が外部から見える程度に大きければ定量的には特に限定はないが、意識して中を暗く見せたり、着色させたりする場合も考慮すると、波長領域430〜780nmで最も透過率の大きい波長での透過率が、10%以上であることが本発明の前記効果を奏し易いために好ましく、30%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0019】
透明板は、透明であれば着色していてもよく何れの色彩であってもよいが、無色であることが、展示物がそのまま見え、本発明の効果をより顕著に発揮できるため好ましい。透明板の大きさは、中にある展示物に覆設され得るものであれば大きさには特に限定はなく、cmオーダーの小型のものから、数m規模の大型のものまでを含む。また、透明板の全体の形状は、長方形等の四角形のみならず、三角形、多角形、円形、楕円形等あらゆる形状のものを含む。また、透明板の厚さも展示物に良好に覆設できれば特に限定はない。
【0020】
「展示物に覆設される」とは、外側にいる観察者から中にある展示物が見えるよう、透明板が展示物を覆っていればよく、展示物の前面、背面、側面、上面、下面の何れの面に覆設されていてもよく、また、複数の面に覆設されていてもよい。透明板による覆設は、平板状の透明板が展示物を覆っていてもよいし、円筒形状、球形状等に屈曲若しくは湾曲した構造のものが展示物を覆っていてもよい。
【0021】
低反射透明板の材質としては、合成樹脂又は無機物が挙げられる。合成樹脂としては透明であれば特に限定はないが、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース誘導体;エポキシ系樹脂;シリコーン系樹脂等が挙げられる。また、無機物としては、例えば、ガラス等が挙げられる。
【0022】
<展示物>
「展示物」は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等の電気的に表示するディスプレイ以外であって、外部から見ることができるものであれば特に限定はないが、例えば、写真、絵画、版画、書画、印刷物、絵葉書、説明書、カレンダー、パンフレット、時計の表示部分等の二次元展示物;立体オブジェ、動植物標本、医学生物学標本、鉱物標本、貴金属、宝石、骨董品、装飾品、人形、書籍、陳列商品、動植物、人等の三次元展示物等が挙げられる。展示物は、金魚、熱帯魚等の魚類、哺乳類、爬虫類、両生類等の水中動物;水草、海藻等の水中植物;医療用、研究用等の生体展示物等の、純水、海水、ホルムアルデヒド水溶液、アルコール水溶液等の液体中に存するものであってもよい。このうち、本発明においては、写真、絵画、版画、書画、印刷物、立体オブジェ、貴金属、宝石等であることが、本発明の効果をより発揮させ易い等の理由から特に好ましい。
【0023】
<モスアイ効果を奏する微細構造>
本発明において「モスアイ効果」とは、一般に「モスアイ(Moth Eye)構造(蛾の眼構造)」と呼ばれる表面微細構造によって可視領域の波長における反射率が低減される効果をいう。
【0024】
本発明の低反射透明板の表面の微細構造は、モスアイ効果を奏する微細構造であれば特に限定はないが、平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在するものであることが好ましい。
【0025】
ここで凸部とは、基準となる面より出っ張った部分をいい、凹部とは、基準となる面より凹んだ部分をいう。本発明の低反射透明板は、その表面に凸部を有していても、凹部を有していてもよい。また、凸部と凹部の両方を有していてもよく、更に、それらが連結して波打った構造を有していてもよい。
【0026】
凸部又は凹部は、低反射透明板の表面全体に均一に存在していることが、上記物性上の効果を奏するために好ましい。凸部の場合には、基準となる面からのその平均高さが、100nm以上1000nm以下であることが好ましく、凹部の場合にも、基準となる面からのその平均深さが、100nm以上1000nm以下であることが好ましい。高さ又は深さは一定でなくてもよく、その平均値が上記範囲に入っていればよいが、実質的に一定の高さ又は一定の深さを有していることが好ましい。
【0027】
凸部の場合でも、凹部の場合でも、その平均高さ又は平均深さは、150nm以上であることが好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。また、600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。平均高さ又は平均深さが小さ過ぎると、良好な光学特性が発現されない場合があり、大き過ぎると製造が困難になる等の場合がある。凸部と凹部が連結して波打った構造を有している場合では、最高部(凸部の上)と最深部(凹部の下)との平均距離は、100nm以上1000nm以下であることが同様の理由から好ましい。
【0028】
本発明の低反射透明板の表面の微細構造は、上記凸部又は凹部が、少なくともある一の方向の平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていることが好ましい。凸部又は凹部は、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよい。また、何れの場合でも、上記凸部又は凹部は、低反射透明板の表面全体に実質的に均一に配置されていることが反射防止性や透過改良性の点で好ましい。また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。
【0029】
凸部又は凹部が、ほぼ規則性を持って配置されている場合、上記のように、少なくともある一の方向の平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていることが好ましいが、最も周期が短い方向(以下「x軸方向」という)への周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていることがより好ましい。すなわち、ある一の方向として、最も周期が短い方向をとったときに、周期が上記範囲内になっていることがより好ましい。更にその際、x軸方向に垂直なy軸方向についても、その周期が50nm以上400nm以下となるように配置されていることが特に好ましい。
【0030】
上記平均周期(凸部又は凹部の配置場所に規則性がある場合は「周期」)は、50nm以上が好ましいが、100nm以上がより好ましく、150nm以上が特に好ましい。また、400nm以下が好ましいが、300nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。平均周期が短すぎても長すぎても、低反射率が十分に実現できない場合がある。
【0031】
平均高さ又は平均深さを平均周期で割った値は特に限定はないが、1以上が光学特性の点で好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上が特に好ましい。また、5以下が低反射透明板の製造プロセスが複雑になり過ぎない点で好ましく、3以下が特に好ましい。
【0032】
<微細構造を有する表面の物性>
本発明の低反射透明板は、表面に上記構造を有することにより、光の反射率を低減させたり、光の透過性を向上させたりする。この場合の「光」は、少なくとも可視光領域の波長の光を含む光である。
【0033】
本発明において、モスアイ効果を奏する微細構造を有する表面の視感度補正後の反射率は0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい(測定例1の図3参照)。表面にモスアイ効果を奏する微細構造を有することによって、上記反射率が達成できる。なお、通常のガラスや透明合成樹脂の平滑な表面の場合、視感度補正後の反射率は約4%である。
【0034】
ここで、「反射率」とは正反射率をいい、反射光の強度の入射光の強度に対する比をいう。具体的には、汎用の分光光度計を用いて測定される5°正反射率が用いられる。「表面の反射率」とは、外部から透明板に光が入射したときの表面での反射率と、透明板内部から外部に光が入射したときの表面での反射率の何れをもいう。すなわち、その何れにおいても、上記反射率を有するものが好ましい。
【0035】
「視感度補正後の反射率」とは、人間の目が明るく感じる波長について重み付け補正した後の反射率のことをいい、光量計に通常の視感度補正フィルターをつけて、光量を人間の目の感度(標準比視感度曲線)に合わせて補正することにより得られる。具体的には、測定された分光反射率をCIE1931に示された方法で、等色関数と標準イルミナントを使用して、数値計算により求められる。
【0036】
本発明において、モスアイ効果を奏する微細構造を有する表面の550nmにおける5°正反射率は0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましく、0.15%以下であることが特に好ましい。表面にモスアイ効果を奏する微細構造を有することによって、上記反射率が達成できる。なお、通常のガラスや透明合成樹脂の平滑な表面の場合、550nmにおける5°正反射率は約4%である。
【0037】
<低反射透明板の構成と物性>
本発明の低反射透明板は、(1)低反射透明板の前面(外側の面)のみにモスアイ効果を奏する微細構造を有していてもよく、(2)低反射透明板の後面(展示物側の面)のみに該構造を有していてもよく、(3)低反射透明板の前後両面に該構造を有していてよいが、このうち、(3)低反射透明板の前後両面にモスアイ効果を奏する微細構造を有していることが、照明の透明板への映り込みや透明板が反射で白くかすむ現象を防止でき、中にある展示物を見え易くできる点で好ましい。
【0038】
本発明の低反射透明板の透過率に関しては、表面に微細構造が形成されていない透明板(形成される前の透明板)又は後述する反射低減フィルムを貼り付ける前の透明板が、可視領域380〜780nmの範囲のある波長領域で透過率90〜92%の通常の無色透明合成樹脂板に対して、表面(片面又は両面、好ましくは両面)にモスアイ効果を奏する微細構造を形成させることによって、上記ある波長領域での透過率90〜92%を96%以上〜98%以上にまで上昇させることができる(測定例1の図4参照)。本発明の低反射透明板は、430〜780nmの全ての波長領域で(好ましくは、380〜780nmの全ての波長領域で)、透過率93%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上であることが特に好ましく、98%以上であることが更に好ましい。本発明によれば、上記の透過率が実現できる。
【0039】
図4の透過率スペクトルで短波長側(380〜430nm)の透過率が急激に低下しているのは、反射低減フィルムを貼り付けられている基材の吸収によるものである。すなわち、基材の吸収という別の要因で透過率が低下しているのであり、前記したモスアイ効果は、図4の透過率が急激に低下している波長範囲(380〜430nm)でも奏されている。それは、図3において、5°正反射率が、可視領域(380〜780nm)の全てにおいて低減していることからも明らかである。
【0040】
本発明の低反射透明板のヘイズは特に限定はないが、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下である。ヘイズは全光透過率に対する拡散透過率の百分率であり、本発明におけるヘイズは後述する評価方法に従い測定したものとして定義される。ヘイズが大き過ぎると、本発明の低反射透明板を展示用ケースに使用した場合、中の展示物が見え難くなる場合がある。特に展示物と低反射透明板の距離が大きいときにその傾向は顕著である。なお、アンチグレア(ノングレア)方式で得られたもののヘイズは通常10%より大きく、本発明に比べて極めて劣っている。本発明の低反射透明板は、ヘイズが大きくなることによって生じる「シャワーカーテン効果」がないので、展示物と低反射透明板との距離が離れている場合に特に有用である。
【0041】
後述する、微細構造を形成させるための型の作製において、陽極酸化に先立ってアルミニウム材料の表面を研摩しておくと、それによって得られた型を用いて得られた低反射透明板は、ヘイズをより小さくすることが可能になり、光の透過性能を著しく向上させることが可能である。
【0042】
<低反射透明板の作製>
本発明の低反射透明板は、透明板自体の表面に前記微細構造を形成したものであってもよいが、表面に上記微細構造を形成した反射低減フィルムを、透明なガラス板又は透明な合成樹脂板の片面又は両面に貼り合わせたものであってもよい。透明板自体に前記微細構造を形成するより、別途、反射低減フィルムを作製してそれを透明なガラス板又は透明な合成樹脂板の片面又は両面に貼り合わせる方が、前記微細構造の形成がし易いために好ましい。更には、反射低減フィルムを透明なガラス板又は透明な合成樹脂板の両面に貼り合わせることが、照明の透明板への映り込みや透明板が反射で白くかすむ現象を防止でき、中にある展示物を見え易くできる点で特に好ましい。
【0043】
<モスアイ効果を奏する微細構造の形成方法>
モスアイ効果を奏する微細構造の形成方法は特に限定はないが、凹凸が逆になった微細構造を有する型に、熱溶融した熱可塑性樹脂若しくはガラス、硬化前の硬化性樹脂等の「微細構造形成材料」を注ぎ、上記型を転写する形成方法が、好適な微細構造が得られる点で好ましい。微細構造形成材料で透明板を作製(型を転写して透明板自体の表面に直接前記微細構造を形成)してもよいし、微細構造形成材料で反射低減フィルムを作製(型を転写してその表面に前記微細構造を有する反射低減フィルムを作製)し、上記したように、得られた反射低減フィルムを透明なガラス板又は透明な合成樹脂板に貼り合わせてもよい。
【0044】
上記「型」の製造方法としては、
(1)アルミニウム材料の表面に、「陽極酸化」と「陽極酸化によって得られた陽極酸化被膜のエッチング」との繰り返しによりテーパー形状の細孔を形成して微細構造を作製する方法
(2)シリコン基板に電子線を照射してパターニングした後、異方性エッチングをして微細構造を作製する方法
(3)表面の平坦な基材上に塗布したフォトレジストに、2本のレーザー光を照射して干渉縞を生じさせて作る干渉露光法
(4)金属製の基材表面を機械的に切削して構造を作製する方法
等が挙げられる。
【0045】
「型」は上記の何れの方法で作製してもよいが、前記した形状の微細構造を好適に形成させる上で、(1)が好ましい。以下、(1)で「型」を作製する方法について述べる。
【0046】
<<型の作製>>
アルミニウム材料とは、主成分がアルミニウムである材料であればよく、純アルミニウム(1000系)、アルミニウム合金の何れでもよい。アルミニウム材料の種類は特に限定はないが、工業的に圧延されたままのアルミニウム板、押出管、引き抜き管等を用いることが、コスト低減や工程簡略化のために好ましい。
【0047】
陽極酸化とは、硫酸やシュウ酸等の酸溶液中で、アルミニウム材料を陽極として直流電流を流し、水が電気分解して発生する酸素とアルミニウムを反応させ、表面に細孔を有する酸化アルミニウムの被膜を形成させるものである。
【0048】
電解液としては、酸溶液であれば特に制限はなく、例えば、硫酸系、シュウ酸系、リン酸系又はクロム酸系の何れでもよいが、型としての皮膜強度が優れている点、所望の細孔寸法が得られる点でシュウ酸系の電解液が好ましい。
【0049】
また、電圧、電流密度、処理時間等は、目的の形状が得られれば特に制限されないが、例えば、シュウ酸系を用いる場合、電圧は20〜120V、処理時間は5〜500秒が好ましく、特に好ましくは、電圧は40〜100V、処理時間は10〜280秒、更に好ましくは、電圧は80〜100V、処理時間は15〜250秒である。
【0050】
電圧が大き過ぎる場合には、形成される細孔の平均間隔が大き過ぎるようになり、この型を転写させることによって得られた微細構造は、凸部又は凹部の平均周期が大きくなり過ぎる場合がある。一方、電圧が小さ過ぎる場合には、細孔の平均間隔が小さ過ぎるようになり、この型を転写させることによって得られた微細構造は、凸部又は凹部の平均周期が小さくなり過ぎる場合がある。本発明の低反射透明板は、その表面に存在する凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在することが好ましいので、電圧はこの範囲に入るように調整されることが好ましい。
【0051】
陽極酸化の処理時間が長過ぎる場合は、凹凸部の高さが高くなり過ぎる場合があり、短過ぎる場合は、凹凸部の高さが低くなり過ぎ、モスアイ効果による低反射率が実現されない場合がある。
【0052】
陽極酸化と後述するエッチングは交互に繰り返すことが好ましい。上記の陽極酸化とエッチングとを組み合わせることで、アルミニウム材料表面上の陽極酸化被膜に形成された、テーパー形状を形成する細孔の孔径、該テーパー形状、細孔の凹凸部の高さ及び深さ等を調整することができる。
【0053】
エッチングの方法は通常知られている方法であれば特に制限なく用いることができる。例えば、エッチング液としては、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸、クロム酸等の酸溶液、又はこれらの混合液を用いることができる。好ましくは、リン酸、硝酸であり、必要な溶解速度が得られる点、より均一な面が得られる点で、更に好ましくはリン酸である。また、エッチング液の濃度や浸漬時間、温度等は、所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、好ましいエッチング溶液の濃度は、リン酸の場合、1重量%〜10重量%であり、更に好ましくは1.5重量%〜2.5重量%である。また、好ましい浸漬時間は、10分〜1時間、更に好ましくは15分〜35分である。
【0054】
<<低反射透明板又は反射低減フィルムの作製に用いる微細構造形成材料>>
本発明の低反射透明板や本発明における反射低減フィルムは、前記の「型」と「微細構造形成材料」を用いて作製される。「微細構造形成材料」としては、特に制限はなく、「硬化性組成物(物質)」、「熱可塑性組成物(物質)」の何れでも好適に使用し得る。本発明における、低反射透明板や反射低減フィルムは、表面にモスアイ構造という極めて特殊な微細構造を有しているので、かかる微細構造に適した機械的強度を与えるため、また、型となる陽極酸化被膜からの剥離性等の点から「硬化性組成物」を用いることが好ましい。
【0055】
「硬化性組成物」とは、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化する組成物である。中でも、光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物が、上記した点から好ましい。「光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物」(以下、「光硬化性組成物」と略記する)としては特に限定はなく、アクリル系重合性組成物又はメタクリル系重合性組成物(以下、「(メタ)アクリル系重合性組成物」と略記する)、光酸触媒で架橋し得る組成物等、何れも使用できるが、(メタ)アクリル系重合性組成物が、本発明の微細構造に適した機械的強度を与える点、型となる陽極酸化被膜からの剥離性がよい点、化合物群が豊富な点等から好ましい。
【0056】
(メタ)アクリル系重合性組成物としては特に限定はないが、ウレタン(メタ)アクリレート、エステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、シリコン(メタ)アクリレート等を、1種又は2種以上併用することが好ましい。「ウレタン(メタ)アクリレート」とは、分子中にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物をいい、「エステル(メタ)アクリレート」とは、分子中に、酸基(酸無水物や酸クロライドを含む)と水酸基との反応で得られたエステル結合を有し、ウレタン結合もシロキサン結合も有さないものをいい、「エポキシ(メタ)アクリレート」とは、エポキシ基に(メタ)アクリル酸が反応して得られる構造を有する(メタ)アクリレート化合物をいい、「シリコン(メタ)アクリレート」とは、分子中にシロキサン結合を有する(メタ)アクリレート化合物をいう。
【0057】
硬化性組成物には、熱重合開始剤、光重合開始剤、光で酸を発生する物質等を含有させることが好ましい。
【0058】
「熱可塑性組成物(物質)」としては、熱で軟らかくなる熱可塑性樹脂、熱溶融するガラス等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度以上又は融点まで加熱することによって粘度が減少するものであれば特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン系重合体組成物、アクリロニトリル−スチレン系重合体組成物、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン系重合体組成物、スチレン−(メタ)アクリレート系重合体組成物、ブダジエン−スチレン系重合体組成物等のスチレン系重合体組成物;塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−酢酸ビニル系重合体組成物、プロピレン系重合体組成物、プロピレン−塩化ビニル系重合体組成物、プロピレン−酢酸ビニル系重合体組成物、塩素化ポリエチレン系組成物、塩素化ポリプロピレン系組成物等のポリオレフィン系組成物;ケトン系重合体組成物;ポリアセタール系組成物;ポリエステル系組成物;ポリカーボネート系組成物;ポリ酢酸ビニル系組成物、ポリビニル系組成物、ポリブタジエン系組成物、ポリ(メタ)アクリレート系組成物等が挙げられる。
【0059】
硬化性組成物(物質)及び熱可塑性組成物(物質)には、更に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、潤滑剤、レベリング剤等を配合させることもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0060】
<<反射低減フィルムの製造方法>>
「反射低減フィルム」を例にとって、以下に特に好ましい製造方法を記載するが、低反射透明板に直接前記微細構造を形成する場合も類似の方法を使用することができる。
【0061】
すなわち、上記微細構造形成材料を、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する)、トリアセチルセルロース(以下、「TAC」と略記する)等の基材上に採取し、バーコーター、アプリケーター等の塗工機又はスペーサーを用いて、均一膜厚になるように塗布する。そして、前記表面微細構造をもった型を、微細構造形成材料が塗布された方の面に貼り合わせる。貼り合わせた後、上記微細構造形成材料が硬化性組成物の場合には、(PET、TAC等の)基材側から紫外線照射若しくは電子線照射及び/又は熱により硬化させる。その後、該型から剥離して、本発明における「反射低減フィルム」を作製する。
【0062】
この製造方法を、更に図1を用いて具体的に説明するが、本発明は図1の具体的態様に限定されるものではない。すなわち、型(2)に微細構造形成材料(1)を適量供給又は塗布し(図1(a))、ローラー部側を支点に基材(3)を斜めから貼り合せる(図1(b))。型(2)と微細構造形成材料(1)と基材(3)が一体となった貼合体を、ローラー(4)へと移動し(図1(c))、ローラー圧着させることにより、型(2)が有するモスアイ構造を微細構造形成材料(1)に転写、賦型させる(図1(d))。これを硬化させた後、型(2)から剥離することにより(図1(e))、本発明の目的とする反射低減フィルム(5)を得る。
【0063】
<低反射透明板の覆設>
本発明の低反射透明板は、図5のように展示物に密着して覆設されていても、図6〜9のように、展示物から離れて覆設されていてもよいが、本発明の低反射透明板は、展示物から離れて覆設されていても、他の反射率を低減させる方式に比較して展示物が見え難くならないので、展示物から離れて覆設される形式の展示用ケースに用いられることが特に好ましい。例えば、アンチグレア方式等の他の方式では、展示物から離れて覆設されると、展示物がボケたり、展示物の輪郭が滲んで見えたりする。
【0064】
本発明の低反射透明板は、その表面が、展示物の少なくともある1点から1cm以上離れた場所に覆設されるものであることが、本発明の上記効果がより顕著に発揮される点から好ましい。このうち、低反射透明板の表面と、展示物の少なくともある1点との距離(以下、この距離を「L」で表す)が、1cm以上が好ましく、3cm以上がより好ましく、10cm以上が特に好ましい。
【0065】
<<展示用ケース>>
本発明の低反射透明板は、展示物に覆設する展示用ケースに好適に適用できる。本発明は、展示物が外部から見えるように、上記の低反射透明板を該展示物に覆設してなることを特徴とする展示用ケースでもある。ここで、「展示用ケース」とは、展示物を外部から見えるように収納するもの全般をいう。
【0066】
展示用ケースとしては、前記二次元展示物等を外部から見えるように収納する額(図5、図6及び図7);前記三次元展示物等を外部から見えるように収納する、標本箱(図8)、鑑賞物用ケース若しくは商品ケース;水中動物、水中生物等を外部から見えるように収納する水槽;医療用、研究用等の生体展示物を外部から見えるように収納する標本容器;各種商品等を外部から見えるように収納するショーケースやショーウィンドー(図9);等が挙げられる。このうち、額、標本箱、鑑賞物用ケース、商品ケース又はショーウィンドーであることが、本発明の効果をより顕著に発揮させ易い等の点から特に好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に、製造例及び実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
製造例1
<型の作製>
アルミニウム材料として、99.85%のアルミニウム圧延板(2mm厚)を片面平面バフ研摩盤(Speedfam社製)により、アルミナ系の研摩材(フジミ研磨材社製)を用いて、10分間研摩して鏡面を得た。研摩面をスクラブ洗浄後、非浸食性の脱脂処理を行った。
【0069】
更に、以下に示す陽極酸化条件と、形成された陽極酸化被膜の以下に示すエッチング(孔径拡大)処理条件との組み合わせによりテーパー形状の細孔を有する型を作製した。
<陽極酸化の条件>
使用液:0.05Mシュウ酸
電圧 :80Vの直流電圧
温度 :5℃
時間 :50秒
【0070】
<エッチングの条件>
使用液:2重量%リン酸
温度 :50℃
時間 :5分
【0071】
陽極酸化とエッチング(孔径拡大)を交互に5回繰り返すことで、平均周期300nm、細孔径開口部160nm、底部50nm、細孔深さ500nmのテーパー形状の細孔を有する陽極酸化被膜表面を有する型を得た。
【0072】
<微細構造形成材料である光硬化性組成物の調製>
下記式(1)で示される化合物(1)11.8重量部、下記化合物(2)23.0重量部、テトラエチレングリコールジアクリレート45.2重量部、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート20.0重量部及び光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.0重量部により、光硬化性組成物(a)を得た。
【0073】
【化1】

[式(1)中、Xは、ジペンタエリスリトール(6個の水酸基を有する)残基を示す。]
【0074】
化合物(2)は、
2HEA−−IPDI−−(アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールとの重量平均分子量3500の末端水酸基のポリエステル)−−IPDI−−2HEA
で示される化合物である。ここで、「2HEA」は、2−ヒドロキシエチルアクリレートを示し、「IPDI」は、イソホロンジイソシアネートを示し、「−−」は、イソシアネート基と水酸基の通常の下記の反応による結合を示す。
−NCO + HO− → −NHCOO−
【0075】
<反射低減フィルムの作製>
上記型の表面に剥離剤を塗布した後、上記光硬化性組成物(a)を塗布し、更にその上に厚さ80μmのTACフィルムを配置して、ローラーの間を通し光硬化性組成物(a)の膜厚を均一にし、かつ型の表面に光硬化性組成物(a)が十分行き渡るようにした。その後、TACフィルム上からUV光を、1mJ/cm照射して光硬化性組成物(a)を硬化させた後、型から機械的に引き剥がした。このようにして、表面にモスアイ効果を奏する微細構造を有する反射低減フィルムを作製した。
【0076】
ほぼ、上記型をそのまま転写した微細構造が得られた。すなわち、凸部底部の幅160nm、凸部上部の幅50nm、凸部平均高さ500nmのテーパー形状の細孔を有する陽極酸化被膜表面を有する型を得た。平均周期は300nmであった。得られた反射低減フィルムの表面を走査電子顕微鏡で観察した写真を図2に示す。
【0077】
測定例1
<5°正反射率の測定>
上記によって作製した反射低減フィルムの裏面(微細構造のない方の面)にクロスニコル配置した偏光板を貼り付け、島津製作所製自記分光光度計UV−3150を使用して、表面の5°正反射率(%)を測定した。その結果を図3に示す。図3から明らかなように、波長380nm〜780nmにおける5°正反射率は、380nm〜780nmの何れの波長でも極めて低いものであった。なお、汎用の無色透明のアクリル板や下記で使用した無色透明のアクリル板の表面の5°正反射率は、380nm〜780nmの何れの波長でも、通常4%以上である。
【0078】
<視感度補正後の反射率の測定>
図3に示された5°正反射スペクトルから、CIE1931に従い、等色関数と標準イルミナントD65を用いて視感度補正した反射率を求めたところ、視感度補正後の反射率は0.09%であった。
【0079】
<透過率の測定>
また、この反射低減フィルムを、厚さ2mmの無色透明のアクリル板の両面に、それぞれ微細構造のない方の面を貼り付け、低反射透明板を作製した。アクリル板自体、及び、得られた低反射透明板の透過率スペクトル(%)を、島津製作所製自記分光光度計UV−3150を用いて測定した。その結果を図4に示す。
【0080】
反射低減フィルムを貼り付けないアクリル板の場合には、波長480nm〜780nmの全領域にわたって、91〜92%の透過率であるが、上記で得られた反射低減フィルムをアクリル板の前後両面に貼り付けたときの低反射透明板の透過率は、97〜98%付近まで向上させることができた。
【0081】
実施例1
展示物として絵画を用い、該絵画と上記で作製された低反射透明板を密着させる形で(L=0(cm))収納する額を作製した(図5)。絵画を額の正面及び斜め前から観察したところ、透明板が反射することも白くかすむこともなく、照明が反射して映り込むこともなく、内部の絵画をはっきりと見ることができた。
【0082】
実施例2
絵画を上記で作製された低反射透明板から離した形で(L=5cm)収納する額を作製した(図6及び図7)。絵画を額の正面及び斜め前から観察したところ、透明板が反射することも白くかすむこともなく、照明が反射して映り込むこともなく、内部の絵画をはっきり見ることができた。
【0083】
実施例3
縦50cm、横35cm、深さ10cm(L=7cm)の標本箱の上面に、上記製造方法によって作製された低反射透明板をセットした(図8)。標本を真上及び斜め上から観察したところ、低反射透明板が反射することも白くかすむこともなく、標本を細部まではっきり見ることができた。
【0084】
実施例4
ショーウィンドーに、上記によって作製された低反射透明板をセットした。展示物として、説明書を低反射透明板から奥行40cmのところ(L=40cm)にセットした(図9)。説明書を正面及び斜め前から観察したところ、透明板が反射することも白くかすむこともなく、説明書のどの部分をもはっきり読むことができた。
【0085】
実施例5
展示物として月の写真を用い、その写真を覆設する厚さ2mmの無色透明のアクリル板のうち、内部の(真ん中の)長方形部分のみについて、両面に上記の反射低減フィルムを貼り付けて低反射透明板を作製した(図10(b))。アクリル板の外周部分には、上記の反射低減フィルムを貼り付けなかった。該写真と低反射透明板の写真側の表面との距離Lは2mmであった。また、どこにも反射低減フィルムを貼り付けていない無色透明のアクリル板でも評価した(図10(a))。
【0086】
該写真を、額の斜め下から観察したところ、「どこにも反射低減フィルムを貼り付けていない無色透明のアクリル板」(図10(a))と、反射低減フィルムを貼り付けていないアクリル板の外周部分(図10(b))は、天井の4本の蛍光灯が映り込み、写真が極めて見にくくなった。一方、反射低減フィルムが貼り付けてあるアクリル板の真ん中の長方形部分(図10(b))は、天井の蛍光灯が映り込まず、反射光で白くかすむこともなく、内部の月の写真をはっきりと見ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の低反射透明板を使用した展示用ケースは、光の反射防止性能、透過性能等に優れていて、中にある展示物等がよく見えるので、美術館、家庭、会社、公共施設等で展示される、絵画・写真・版画等の額や、博物館、販売店等で展示される、骨董品・人形等を収納する透明な箱、貴金属・装飾品等を陳列して展示するための商品ケース、ショーウィンドー等に広く好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0088】
1:微細構造形成材料
2:型
3:基材
4:ローラー
5:反射低減フィルム
6:硬化装置
7:支持ローラー
11:低反射透明板
12:展示物
13:モスアイ効果を有する表面(前面)
14:モスアイ効果を有する表面(後面)
21:額
22:標本箱
23:ショーウィンドー
L:展示物の少なくともある1点から低反射透明板の表面までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
展示物が外部から見えるように、透明板が該展示物に覆設されてなる展示用ケースであって、
該透明板は、平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在するテーパー形状の細孔を有する微細構造が発現するモスアイ効果によって低反射率が実現されている反射低減フィルムが、透明なガラス板又は透明な合成樹脂板の片面又は両面に貼り合わされてなる、視感度補正後の反射率が0.3%以下である低反射透明板であり、
かつ、該低反射透明板は、430nmから780nmの全ての波長領域で透過率が93%以上であり、ヘイズが2%以下のものであることを特徴とする展示用ケース。
【請求項2】
上記反射低減フィルムの微細構造が、該反射低減フィルムが貼り合わされてなる上記低反射透明板のヘイズが小さくなるように以下の陽極酸化に先立ってアルミニウム材料の表面を研摩し、次いで、該アルミニウム材料の表面に、陽極酸化と、該陽極酸化によって得られた陽極酸化被膜のエッチングとを繰り返すことによりテーパー形状の細孔を形成した型に、微細構造形成材料を供給され剥離されることによって得られたものである請求項1に記載の展示用ケース。
【請求項3】
上記反射低減フィルムが、上記テーパー形状の細孔が形成された型に、上記微細構造形成材料が基材上に均一に塗布されたものを、該微細構造形成材料が塗布された方の面を向けて貼り合わせ、その後、該型から剥離することによって作製されたものである請求項1又は請求項2に記載の展示用ケース。
【請求項4】
上記基材が、ポリエチレンテレフタレート又はトリアセチルセルロースよりなる請求項3に記載の展示用ケース。
【請求項5】
上記低反射透明板が、上記反射低減フィルムが透明なガラス板又は透明な合成樹脂板の両面に貼り合わされてなるものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の展示用ケース。
【請求項6】
上記低反射透明板が、上記展示物の少なくともある1点から1cm以上離れた場所に覆設されてなる請求項1ないし請求項5に記載の展示用ケース。
【請求項7】
上記展示物が、写真、絵画、版画、書画、印刷物、絵葉書、説明書、カレンダー、パンフレット、時計の表示部分、立体オブジェ、動植物標本、医学生物学標本、鉱物標本、貴金属、宝石、骨董品、装飾品、人形、書籍、陳列商品、動植物、人、水中動物、水中植物、及び、医療用若しくは研究用の生体展示物の液体中に存するもの、からなる群より選ばれたものである請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の展示用ケース。
【請求項8】
上記展示用ケースが、額、標本箱、鑑賞物用ケース、商品ケース又はショーウィンドーである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の展示用ケース。
【請求項9】
上記展示用ケースが額である請求項8に記載の展示用ケース。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の展示用ケースに覆設される低反射透明板。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の展示用ケースに覆設される低反射透明板用の反射低減フィルム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−63656(P2013−63656A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227606(P2012−227606)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【分割の表示】特願2008−211090(P2008−211090)の分割
【原出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】