説明

低収束性繊維によって強化された熱可塑性樹脂組成物

【課題】発明の目的は、繊維成分および樹脂成分を含有し、外観および耐衝撃性などの機械的強度に優れた成形体が得られる樹脂組成物を提供することにある
【解決手段】本発明は、繊維成分および樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、(i)繊維成分は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなり、単糸の交絡数が繊維1mあたり10個未満の繊維(A−I)であり、(ii)樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂からなることを特徴とする樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維およびポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオレフィン樹脂の剛性や耐衝撃性などの機械的強度を改善するための手段として、フィラーや繊維を混合した成形材料が数多く提案されている。
近年、環境対応への要求の高まりにより、部品の軽量化が強く求められるようになった。その対応策の一つとして、ポリエステル繊維を配合して、ポリオレフィン樹脂の剛性や対衝撃強度などの機械的強度を向上させることが提案されている。
例えば、特許文献1には、マトリックス樹脂成分としてポリオレフィン樹脂、強化繊維として合成有機繊維を含む繊維強化ペレットが提案されている。
また、特許文献2、特許文献3および特許文献4には、機械的強度や耐熱性が改善された樹脂組成物として、ポリアルキレンナフタレート(ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレート)繊維と、ポリプロピレン樹脂とを含有する樹脂組成物が提案されている。
しかしながら、上記公報に記載されている樹脂組成物においても、成形体の外観および耐衝撃性などの機械的強度については、不十分であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−49012号公報
【特許文献2】特開2005−272754号公報
【特許文献3】特開2006−8995号公報
【特許文献4】特開2006−233379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる状況の下、本発明の目的は、繊維成分および樹脂成分を含有し、外観および耐衝撃性などの機械的強度に優れた成形体が得られる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、かかる実情に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、繊維成分として単糸の交絡が少ない繊維、樹脂成分としてポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物から、外観および機械的強度に優れた成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下の発明を包含する。
【0006】
1. 繊維成分および樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
(i)繊維成分は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなり、単糸の交絡数が繊維1mあたり10個未満の繊維(A−I)であり、
(ii)樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂からなる、
ことを特徴とする樹脂組成物。
2. 1〜70重量%の繊維成分と30〜99重量%の樹脂成分(繊維成分と樹脂成分との合計を100重量%とする)とを含有する前項1に記載の樹脂組成物。
3. 繊維(A−I)の重量平均長さが2〜50mmである前項1または2に記載の樹脂組成物。
4. 繊維成分は、繊維(A−I)およびその表面に付着した表面処理剤を含む表面処理繊維(A)である前項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
5. 表面処理剤がポリウレタン樹脂である前項4に記載の樹脂組成物。
6. 樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂(C)並びにポリオレフィン樹脂(C)が不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(B)からなる前項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
7. 繊維成分および樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
(i)繊維成分は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなり、単糸の交絡数が繊維1mあたり10個未満である繊維(A−I)100重量部およびその表面に付着した表面処理剤0.1〜10重量部を含む表面処理繊維(A)であり、
(ii)樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂(C)並びにポリオレフィン樹脂(C)が不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(B)からなる前項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
8. 外形がペレット状である前項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
9. 前項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物から得られる成形体。
10. 自動車内装材部品または自動車外装用部品である前項9に記載の成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物は、外観および耐衝撃性などの機械的強度に優れた成形体を提供することが出来る。また本発明の樹脂組成物は、比重が低い成形体となるので軽量化が要求される成形体に適している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<繊維成分>
(繊維(A−I))
繊維(A−I)は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる。繊維(A−I)はポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなることが好ましい。
ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートとはアルキレンジオールとナフタレンジカルボン酸との縮重合生成物であり、下記式(P)または式(Q)で表されるアルキレンナフタレンジカルボキシレート単位が全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステルが好ましい。ポリエステル中のアルキレンナフタレンジカルボキシレート単位の含有量は、全繰り返し単位量の好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは96〜100モル%である。
【0009】
【化1】

【0010】
アルキレンナフタレンカルボキシレートに含まれるアルキレン基(−C2n−)としては、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。アルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートは、好ましくはポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、より好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである。
ポリアルキレンテレフタレートとは、アルキレンジオールとテレフタル酸との縮重合体であり、下記式(R)で表されるアルキレンテレフタレート単位が全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステルが好ましい。ポリエステル中のアルキレンテレフタレート単位の含有量は、好ましくは全繰り返し単位量の90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは96〜100モル%である。
【0011】
【化2】

【0012】
アルキレンテレフタレートに含まれるアルキレン基(−C2n−)としては、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。アルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。ポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0013】
繊維(A−I)を構成する繰り返し単位中に、少量なら他の単位(第三成分)を含んでいても差し支えない。かかる第三成分として、(a)2個のエステル形成性官能基を有する化合物残基が挙げられる。このような2個のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える化合物としては、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのカルボン酸、グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p’−ジヒドロキシフェニルスルホン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコールなどのオキシ化合物が挙げられる。またこれらの誘導体が挙げられる。
【0014】
また前記の例のようなオキシカルボン酸および/または前記の例のようなオキシカルボン酸の誘導体からなる高分子化合物、および前記の例のようなカルボン酸および前記の例のようなカルボン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、前記の例のようなオキシカルボン酸および前記の例のようなオキシカルボン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、前記の例のようなオキシ化合物および前記の例のようなオキシ化合物の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物のうち2種類以上の化合物からなる高分子化合物も前記第三成分の源の例として挙げられる。
第三成分として、(b)1個のエステル形成性官能基を有する化合物残基が挙げられる。このような1個のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える化合物としては、例えば安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0015】
(c)3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える、例えばグリセリン、ペンタエリストール、トリメチロールプロパンなども、重合体が実質的に線状である範囲内で第三成分源として使用可能である。
繊維(A−I)の全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステル中には、二酸化チタンなどの艶消し剤、リン酸、亜リン酸、それらのエステルなどの安定剤が含まれても良い。
このような繊維(A−I)は、機械的な衝撃に対する耐性が高く、また樹脂とのなじみ性に優れる。一方実際に使用する低温領域においては繊維補強の効果が効率的に発揮される。
【0016】
繊維(A−I)の単糸繊度は、好ましくは1〜30dtex、より好ましくは1.5〜25dtexである。単糸繊度の上限値は、好ましくは20dtex、より好ましくは19dtexである。単糸繊度の下限値は、好ましくは2.5dtexである。繊維(A−I)の単糸繊度がこのような範囲にあることにより本発明の目的を達成しやすくなる。単糸繊度が1dtex末満では製糸性に問題が生じる傾向にあり、繊度が大きすぎると繊維/樹脂間の界面強度が低下する傾向にある。また繊維の分散の面からすれば、繊度が1dtex以上であることが好ましく、補強効果の面では繊度が30dtex以下であることが好ましい。
繊維(A−I)を構成するポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は、好ましくは0.7dl/g以上、より好ましくは0.7〜1.0dl/gである。固有粘度は、繊維をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容積比6:4)に溶解し、35℃で測定した粘度から求めた値である。固有粘度が0.7dl/g未満では、繊維の強度、タフネスが低い傾向があり、また、耐熱性が低い傾向にある。一方、固有粘度が1.0dl/gを超えるような材料は、繊維の製造が難しい傾向にある。
【0017】
繊維(A−I)の引張強度は、好ましくは6〜11cN/dtex、より好ましくは7〜10cN/dtex、さらに好ましくは7.5〜10cN/dtexである。6cN/dtex末満では樹脂組成物の引張強度が低くなる傾向にある。また繊維(A−1)の引張弾性率は、好ましくは18〜30GPa、より好ましくは20〜28GPaである。この値が小さいと樹脂組成物の曲げ強度が低くなる傾向にある。
繊維(A−I)の中間荷伸としては、2〜5%であることが好ましく、さらには2.5〜3.5%の範囲内であることが好ましい。ここで中間荷伸とは、繊度1dtexあたり0.04Nの荷重を掛けたときの伸度であり、例えば総繊度1670dtexでは66N、総繊度1100dtexでは44Nの荷重を掛けたときの伸度である。中間荷伸が小さすぎると樹脂組成物の曲げ強度が低下する傾向があり、逆に大きすぎると繊維が伸びにくく、樹脂組成物の耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0018】
繊維(A−I)の180℃における乾熱収縮率は、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下である。乾熱収縮率が8%を超えると成形加工時の熱による繊維の寸法変化が大きくなり、樹脂組成物の成形形状に不良が発生する傾向があり、また、樹脂と繊維間に隙間が生じ、補強効果が低くなる傾向にある。
このような強度を有する繊維(A−I)は、従来公知の方法で製造することができる。即ち、繊維(A−I)は、重合して得られたポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートのチップをさらに固相重合するなどして固有粘度を十分に高め、そのチップを溶融紡糸し、延伸することによって得ることが出来る。紡糸は、マルチフィラメントとして行うことが好ましく、マルチフィラメントの総繊度としては500〜50,000dtex、フィラメント数としては25〜25,000本の範囲であることが好ましい。
【0019】
延伸は、未延伸糸を、紡糸後に一旦巻き取り、その未延伸糸を延伸することにより行うことができる。また、未延伸糸を巻き取らずに連続的に延伸することもできる。延伸して得られる繊維はモジュラスが高く寸法安定性にも優れたものである。
また、繊維(A−I)は、繊維の収束性が低いことが好ましく、例えば、インターレースのような単糸の交絡、製糸油剤、撚りなどが少ないことが好ましい。ポリエステル繊維には、特殊な用途に使用される比較的繊度が高い1本の単糸だけで構成されるモノフィラメントと、繊度が1〜30dtexの単糸(フィラメント)が10〜1000本程度合わされたマルチフィラメントがある。この中で、本発明で用いられるポリエステル繊維は、衣料や産業資材用途に一般に使用され、比較的安価なマルチフィラメントが好ましい。しかし、マルチフィラメントは、製糸工程において糸を取り扱いやすくするために0.5%〜数%の製糸油剤を付与され、収束性を高められている。また、撚り、織り、編みなどの後加工をする際に糸を取り扱いやすくするために、糸の収束性を高める目的で、エアーを用いて単糸を絡めるインターレースなどの単糸交絡処理が、通常は製糸工程において1mあたり10〜20回程度なされている。
【0020】
本発明に用いられるポリエステル繊維は、樹脂の補強用であり、樹脂中で単糸までほぐれ、この単糸が樹脂中に均一に微分散する必要がある。そのためには、人為的に加えられる糸の収束性は低いことが好ましく、単糸の交絡数は、1mあたり10個未満、好ましくは1mあたり6個未満、より好ましくは4個未満である。
マルチフィラメント繊維に交絡が施されているかどうかは、糸を水の上に浮かべることにより確認することができる。この場合、未交絡部は単糸同士が反発して水の上に広がるが、交絡部は糸の絡みで広がらず、節のようになる。また、細く薄いフックや棒をマルチフィラメントに差し込んで糸の長さ方向に動かすことによっても交絡の有無を確認できる。この場合、交絡がなければフックや棒は糸の中を動かすことができるが、交絡があるとそれ以上動かせない。フックや棒を無理に動かそうとすると、その部分で単糸切れや場合によっては断糸が発生する。
また、製糸油剤は繊維(A−I)に対して0.5重量%〜0.1重量%が好ましく、より好ましくは0.4重量%〜0.1重量%である。製糸油剤量が0.5重量%を超えると、繊維の収束性が高まるばかりでなく、成形体中に油剤成分が不純物として混入し、物性低下などの悪影響を及ぼす可能性がある。こういう意味から、製糸油剤量は少ないに越したことはないが、0.1重量%より少なくすると製糸の工程通過性に影響が生じ、高品質な繊維が安定して生産できない可能性がある。
製糸油剤とは、紡糸や延伸などの製糸工程で使用される乳化剤および/または平滑剤を意味する。
【0021】
乳化剤成分の具体例としては、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールエステル化合物、および多価アルコールエステルアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。より具体的には、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド5〜25モル付加物、ヒマシ油エチレンオキサイド5〜25モル付加物トリオレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド15〜25モル付加物ジステアレート、ソルビトールエチレンオキサイド15〜40モル付加物ペンタオレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド15〜40モル付加物トリステアレートなどが挙げられる。
【0022】
平滑剤の具体例としては、鉱物油、ヤシ油、なたね油、マッコウ油等の天然油、ブチルステアレート、オレイルラウレート、イソステアリルパルミテート等の高級アルコールと高級脂肪酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の高級アルコールと脂肪族2塩基酸のエステル、ネオペンチルグリコールジラウレート、ジエチレングリコールジオレート等の2価アルコールと高級脂肪酸のエステル、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパンデカネート等の3価アルコールと高級脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールテトラオレート等の4価以上のアルコールと高級脂肪酸エステル、ジオレイルフタレート、トリオクチルトリメリテート等の高級アルコールと芳香族カルボン酸のエステルなどが挙げられる。
【0023】
このように、繊維の収束性を低くすることは樹脂組成物の補強に特に有効であり、プルトルージョン法などを用いて長繊維中に樹脂を含浸させる工程で、繊維がより開繊しやすくなり、樹脂が繊維の単糸レベルにまで浸透しやすくなる。繊維の各単糸まで樹脂が浸透し、各単糸表面を樹脂でコーティングすることができれば、次の成形工程で単糸が樹脂中に微分散しやすくなり、成形体の耐衝撃性をより高めることができる。
【0024】
(表面処理繊維(A))
本発明の樹脂組成物において、繊維成分は、表面処理繊維(A)であってもよい。表面処理繊維(A)は、繊維(A−I)と、その表面に付着した表面処理剤を含有する。
(表面処理剤)
表面処理剤の付着量は、繊維(A−I)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.1〜3.5重量部である。
表面処理剤として、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、澱粉、植物抽、およびこれらとエポキシ化合物の混合物が挙げられる。表面処理剤は、ポリオレフィン樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含むことが好ましい。
【0025】
(ポリウレタン樹脂)
表面処理剤として、ポリウレタン樹脂を用いても良い。本発明で用いるポリウレタン樹脂は、分子内に2個水酸基を有する化合物(以下、これをジオール成分と記す)と、分子内に2個イソシアネート基を有する化合物(以下、これをジイソシアネート成分と記す)とを、水を含まず、活性水素を有さない有機溶媒中で付加重合させることにより得ることができる。また、溶媒がない状態で原料を直接反応させることによっても目的物のポリウレタン樹脂を得ることができる。ジオール成分として、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカ−ボネートジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリアセタ−ル、ポリシロキサン等のポリオール化合物、並びにエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール等の低分子量のグリコール類が挙げられる。本発明に使用されるポリウレタン樹脂は、低分子量グリコール成分を多く含むことが好ましい。
【0026】
ジイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネートまたは脂肪族ジイソシアネートが使用される。適用可能なジイソシアネート成分は具体的には、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。本発明に使用されるポリウレタン樹脂は、芳香族系のジイソシアネート成分を多く含むことが好ましい。
【0027】
ポリウレタン樹脂は、ベース繊維の単糸表面まで到達することが好ましいため、ディップ処理でベース繊維に付与することが適当である。そのため、ポリウレタン樹脂は水系のエマルジョンまたはサスペンジョンの形態であることが好ましく、ベース繊維の単糸表面まで到達するためには、エマルジョンまたはサスペンジョンにおけるポリウレタン樹脂の分散粒子径がより小さいことが良い。分散粒子径は、具体的には0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下である。分散粒子径が0.2μm以上あると、ディップ処理でポリウレタン粒子がベース繊維内部の単糸まで到達せず、ベース繊維表面の単糸にしか付与できないおそれがある。
【0028】
ポリウレタン樹脂をエマルジョンまたはサスペンジョンの形態で水に分散させる方法に特に限定はなく、ポリウレタン樹脂中の親水基を利用して自己乳化させエマルジョンを得る方法、自己乳化不能なポリウレタン樹脂を界面活性剤等の分散剤を用いて分散させサスペンジョンを得る方法のいずれを用いても良い。ただ、水分散微粒子の作製と安定化を実施しやすいのはエマルジョンであり、設備的にもエマルジョンの方が有利である。また、サスペンジョンの作製に必要な界面活性剤などの分散剤は、この後の工程で樹脂組成物を作製する際に不純物となる可能性が高く、製品の物性を損なう虞があることから、本発明で使用するポリウレタン樹脂は自己乳化可能なものが好ましい。
ポリウレタン樹脂中への親水基を付与させる方法に特に制限はないが、例えば、付加重合させるジオール成分およびジイソシアネート成分にカルボキシレートやスルフォネートなどのアニオン基または四級アミンなどのカチオン基を有するジオール成分および/またはカルボキシレートやスルフォネートなどのアニオン基または四級アミンなどのカチオン基を有するジイソシアネート成分を加え、共重合させることにより親水基をもつポリウレタン樹脂が得られる。
【0029】
本発明で使用されるポリウレタン樹脂は、マルチフィラメントであるベース繊維の各単糸表面に均一に付着して、単糸を収束させていることが好ましいが、ポリオレフィン樹脂との混練工程では低いシェアで単糸を解離し、ポリオレフィン樹脂中に分散させる働きをなす必要がある。そのためには、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜は伸度が低い弾性体である必要があり、軟らかく粘りがあることは好ましくない。これより、ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の抗張力は、好ましくは10〜60MPa、より好ましくは20〜50MPaである。該樹脂の乾燥皮膜の抗張力が10MPa未満であると、該樹脂の皮膜がすぐに破壊して表面処理繊維(A)に収束性を付与できない。該樹脂の乾燥皮膜の抗張力が60MPaを超えると、混練工程で単糸が解離しにくくなり、表面処理繊維(A)の分散斑が発生しやすくなる。
ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜の伸度は、好ましくは1〜50%、より好ましくは5〜45%、さらに好ましくは10〜40%である。該樹脂の乾燥皮膜の伸度が1%未満であると、該樹脂の皮膜がすぐに破壊して繊維に収束性を付与できない。逆に、50%を超えると、混練工程で単糸が解離しにくくなり、表面処理繊維(A)の分散斑が発生しやすくなる。
抗張力や伸度の測定に用いられるポリウレタン樹脂の乾燥被膜の製造方法は下記の通りである。ガラスシャーレーやテフロン(登録商標)シャーレーなどを用いて、キャスト法によって揮発分を除去し、処理温度は室温〜120℃程度で試料に合わせて適宜、処理時間を設定することにより、良好な乾燥皮膜を得ることができる。膜厚は、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.5〜1.0mmである。この皮膜を測定に合わせて加工する。例えば、抗張力や伸度を測定する際にはダンベル状に試験片を打ち抜き、引張試験の試験片とした。
【0030】
ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜のガラス転移温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは50〜80℃である。該樹脂の乾燥皮膜のガラス転移温度が30℃未満であると、樹脂皮膜に粘りが生じ、混練工程で単糸が解離しにくくなり、繊維の分散斑が発生しやすくなる。該樹脂の乾燥皮膜のガラス転移温度が100℃を超えると樹脂皮膜が硬く、強靭になりすぎて混練工程で単糸が解離しにくくなる。ポリウレタン樹脂としては、30℃以上、好ましくは50℃以上のガラス転移温度を有し、かつ乾燥皮膜が低伸度であるこことが好ましい。このような場合には、表面処理繊維を樹脂成分に混合するまでの工程中では表面処理繊維(A)に収束性を付与し、表面処理繊維束へ樹脂成分を含浸させる工程では工程中でのシェアにより、マルチフィラメントを容易に単糸に解離することができ、より高性能の樹脂組成物となる。
【0031】
ポリウレタン樹脂の軟化温度は、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜150℃、さらに好ましくは100〜140℃である。軟化温度が80℃未満であると、表面処理繊維(A)の製造時のディップ工程における乾燥段階で樹脂が脱落しやすくなり、また脱落した樹脂がディップ設備のローラーやガイド等に付着して工程通過性が悪化する。軟化温度が160℃を超えるとディップ工程における熱処理段階で樹脂が軟化しにくく、繊維の単糸と単糸との間にまで樹脂が行き渡りにくくなる。ポリウレタン樹脂は、適度な軟化温度を持っていることで、ディップ工程における熱処理段階で該樹脂が軟化して繊維の単糸と単糸との間にまで樹脂が行き渡り、ポリウレタン樹脂が冷却されたときには絨維を収束させる機能を発揮することができる。
【0032】
(カップリング剤)
表面処理剤には、樹脂成分との濡れ性や接着性等を改良するため、カップリング剤を配合しても良い。このカップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、クロム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等が挙げられ、好ましくはシラン系カップリング剤またはチタネート系カップリング剤であり、より好ましくはシラン系カップリング剤である。
【0033】
シラン系カップリング剤としては、例えば、トリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、好ましくはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類である。
表面処理剤中のカップリング剤の含有量は、好ましくは0.01重量%〜10重量%、より好ましくは0.02重量%〜5重量%である。
また、他の処理剤成分、例えば通常の鉱物油、脂肪酸エステル類等の平滑剤、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、硬化ひまし油エチレンオキサイド付加物などの乳化剤、その他帯電防止剤、耐熱剤、着色剤等を、本発明の目的を阻害しない範囲内で用いてもよい。
【0034】
(表面処理)
本発明の表面処理繊維(A)は、繊維(A−I)の表面に表面処理剤を付着させたものである。処理は表面処理剤を含んだ処理液を繊維束に含浸させ、熱により乾燥させることが好ましい。乾燥温度としては80〜200℃、時間としては30〜300秒程度であることが、繊維の強度保持と処理剤の接着の面から最適である。また、このとき乾燥機は繊維の表面状態を維持する目的から、非接触型であることが好ましい。
【0035】
<樹脂成分>
(ポリオレフィン樹脂)
樹脂組成物の樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂からなる。ポリオレフィン樹脂は、オレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体からなるポリオレフィン樹脂(C)と、ポリオレフィン樹脂(C)を不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性して得られた変性ポリオレフィン樹脂(B)を包含する。
(ポリオレフィン樹脂(C))
ポリオレフィン樹脂(C)としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂(C)は、好ましくはポリプロピレン樹脂である。ポリオレフィン樹脂(C)は、単一のポリオレフィン樹脂でも良く、2種以上のポリオレフィン樹脂の混合物でも良い。
【0036】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を生成させた後に、該プロピレン単独重合体の存在下にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体等が挙げられる。耐熱性の観点から、ポリプロピレン樹脂として好ましくは、プロピレン単独重合体、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体である。
【0037】
プロピレン−エチレンランダム共重合体の、エチレンに由来する構成単位の含有量(ただし、プロピレンとエチレンの合計量を100モル%とする)、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の、α−オレフィンに由来する構成単位の含有量(ただし、プロピレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体の、エチレンとα−オレフィンに由来する構成単位の合計含有量(ただし、プロピレンとエチレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)は、いずれも50モル%未満である。前記エチレンの含有量、α−オレフィンの含有量およびエチレンとα−オレフィンの合計含有量は、“新版 高分子分析ハンドブック”(日本化学会、高分子分析研究懇談会編 紀伊国屋書店(1995))に記載されているIR法またはNMR法を用いて測定される。
【0038】
ポリエチレン樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体等が挙げられる。なお、エチレン−プロピレンランダム共重合体の、プロピレンに由来する構成単位の含有量(ただし、エチレンとプロピレンの合計量を100モル%とする)、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体に含有されるα−オレフィンの含有量(ただし、エチレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)、エチレン−プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体に含有されるプロピレンとα−オレフィンの合計含有量(ただし、エチレンとプロピレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする)は、いずれも50モル%未満である。
【0039】
ポリオレフィン樹脂(C)の構成成分であるα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等が挙げられる。好ましくは、炭素数4〜8のα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン)である。
【0040】
ポリオレフィン樹脂(C)は、溶液重合法、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等によって製造することができる。また、これらの重合法を単独で用いても良く、2種以上の重合法を組み合わせても良い。ポリオレフィン樹脂(C)のより具体的な製造方法の例としては、例えば、“新ポリマー製造プロセス”(佐伯康治編集、工業調査会(1994年発行))、特開平4−323207号公報、特開昭61−287917号公報等に記載されている重合法が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂(C)の製造に用いられる触媒としては、マルチサイト触媒やシングルサイト触媒が挙げられる。好ましいマルチサイト触媒として、チタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられ、また、好ましいシングルサイト触媒として、メタロセン触媒が挙げられる。ポリオレフィン樹脂(C)としてのポリプロピレン樹脂の製造に用いられる好ましい触媒として、上記のチタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられる。
【0041】
ポリオレフィン樹脂(C)のメルトフローレート(MFR)は、成形体中における表面処理繊維(A)の分散性、成形体の外観不良や衝撃強度という観点から、好ましくは1〜500g/10分、より好ましくは10〜400g/10分、さらに好ましくは20〜300g/10分である。なお、MFRは、ASTM D1238に従い、230℃、21.2N荷重で測定した値である。
ポリオレフィン樹脂(C)としてのプロピレン単独重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.95〜1.00、より好ましくは0.96〜1.00、さらに好ましくは0.97〜1.00である。アイソタクチックペンタッド分率とは、A. ZambelliらによってMacromolecules, 第6巻, 第925頁(1973年)に発表されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、NMR吸収ピ−クの帰属は、Macromolecules, 第8巻, 第687頁(1975年)に基づいて行う。
ポリオレフィン樹脂(C)がプロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレンブロック共重合体の場合、前記プロピレン単独重合体部のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.95〜1.00、より好ましくは0.96〜1.00、さらに好ましくは0.97〜1.00である。
【0042】
(変性ポリオレフィン樹脂(B))
樹脂成分は、変性ポリオレフィン樹脂(B)であってもよい。変性ポリオレフィン樹脂(B)は、ポリオレフィン樹脂(C)を不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性して得られた樹脂である。
ここで、変性ポリオレフィン樹脂(B)の原料となるポリオレフィン樹脂(C)とは、前述したオレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体からなる樹脂である。また、変性ポリオレフィン樹脂(B)は、換言すれば、オレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体に不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を反応させて生成した樹脂であって、分子中に不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸誘導体に由来する部分構造を有している樹脂である。
変性ポリオレフィン樹脂(B)の例として、次の(B−a)、(B−b)および(B−c)の変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂(B)として、下記(B−a)、(B−b)および(B−c)の変性ポリオレフィン樹脂の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0043】
(B−a) オレフィンの単独重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
(B−b) 2種以上のオレフィンを共重合して得られる共重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
(B−c) オレフィンを単独重合した後に2種以上のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
【0044】
変性ポリオレフィン樹脂(B)は、溶液法、バルク法、溶融混練法等によって製造することができる。また、2種以上の方法を併用しても良い。溶液法、バルク法、溶融混練法等の具体的な例としては、例えば、“実用ポリマーアロイ設計”(井出文雄著、工業調査会(1996年発行))、Prog. Polym. Sci., 24, 81−142(1999)、特開2002−308947号公報、特開2004−292581号公報、特開2004−217753号公報、特開2004−217754号公報等に記載されている方法が挙げられる。
変性ポリオレフィン樹脂(B)としては、市販されている変性ポリオレフィン樹脂を用いても良く、例えば、商品名モディパー(日油(株)製)、商品名ブレンマーCP(日抽(株)製)、商品名ボンドファースト(住友化学(株)製)、商品名ボンダイン(住友化学(株)製)、商品名レクスパール(日本ポリエチレン(株)製)、商品名アドマー(三井化学(株)製)、商品名モディックAP(三菱化学(株)製)、商品名ポリボンド(クロンプトン(株)製)、商品名ユーメックス(三洋化成(株)製)等が挙げられる。
【0045】
変性ポリオレフィン樹脂(B)の製造に用いられる不飽和カルボン酸としては、炭素数3以上の不飽和カルボン酸、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸誘導体としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、金属塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸によるポリオレフィンの変性には、該不飽和カルボン酸の源として、クエン酸やリンゴ酸のように、ポリオレフィンにグラフトする工程で脱水して不飽和カルボン酸を生じるものを用いることが出来る。不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸誘導体として、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸グリシジル、無水マレイン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルである。
【0046】
変性ポリオレフィン樹脂(B)として、(B−c)が好ましい。(B−c)のうち次の(B−d)を用いることがより好ましい。
(B−d)プロピレンを単独重合した後に2種以上のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、無水マレイン酸またはメタクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルをグラフト重合することによって得られる樹脂。
変性ポリオレフィン樹脂(B)の、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する構成単位の含有量は、衝撃強度、疲労特性、剛性等の機械的強度という観点から、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは、0.1〜5重量%、さらに好ましくは、0.2〜2重量%、特に好ましくは、0.4〜1重量%である。なお、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する構成単位の含有量は、赤外吸収スペクトルまたはNMRスペクトルによって、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に基づく吸収を定量して算出した値である。
樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂(C)および変性ポリオレフィン樹脂(B)の混合物であってもよい。
【0047】
樹脂成分中の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体由来の構成単位の含有量が同じである場合、樹脂組成物は不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体での変性の程度の少ない変性ポリオレフィン樹脂(B)のみを樹脂成分として含有するよりは、多量の変性されていないポリオレフィン樹脂(C)と、少量の高度に変性された変性ポリオレフィン樹脂(B)とを組み合せて含有するほうが、樹脂組成物全体の機械的強度という観点から好ましい。これは、変性ポリオレフィン樹脂(B)は、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性すると、生成した変性樹脂中の重合体が、変性前のポリオレフィン樹脂中の重合体の分子量よりも小さな分子量になる傾向があるからである。そのため本発明においては、射出成形に付される樹脂組成物が樹脂成分として変性ポリオレフィン樹脂(B)およびポリオレフィン樹脂(C)を含有する態様が好ましい。
【0048】
樹脂組成物中の繊維成分の含有量および樹脂成分の含有量は、樹脂組成物の剛性や機械的強度という観点や、樹脂組成物の成形体の外観の観点から、それぞれ1〜70重量%および30〜99重量%であることが好ましく、5〜68重量%および32〜95重量%であることがより好ましく、10〜65重量%および35〜90重量%であることがさらに好ましく、15〜60重量%および40〜85重量%であることが特に好ましく、20〜55重量%および45〜80重量%であることが最も好ましい。
樹脂成分が、変性ポリオレフィン樹脂(B)およびポリオレフィン樹脂(C)を含有する場合、変性ポリオレフィン樹脂(B)の含有量およびポリオレフィン樹脂(C)の含有量は、樹脂成分の剛性や機械的強度という観点や、樹脂組成物の繊維束への樹脂成分の含浸性の観点から、それぞれ0.5〜40重量%および60〜99.5重量%であることが好ましく、0.5〜30重量%および70〜99.5重量%であることがより好ましく、1〜20重量%および80〜99重量%であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物には、他の樹脂、例えば1種以上のエラストマーを配合してもよい。エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、PVC系エラストマー等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物には、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤等の安定剤、気泡防止剤、難燃剤、難燃助剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、シリカ等のアンチブロッキング剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、造核剤や結晶化促進剤等を配合しても良い。
ガラスフレーク、マイカ、ガラス粉、ガラスビ−ズ、タルク、クレー、アルミナ、カーボンブラック、ウォールスナイト等の板状、粉粒状、ウィスカー状の無機化合物等を配合してもよい。
【0050】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、次の(1)〜(3)の方法等が挙げられる。
(1)各成分の全てを混合して混合物とした後、その混合物を溶融混練する方法。
(2)全成分を逐次添加することにより混合物を得た後、その混合物を溶融混練する方法。
(3)プルトルージョン法。
上記の(1)または(2)の方法において、溶融混練する混合物を得る方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等によって混合する方法が挙げられる。そして、溶融混練する法としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸または二軸押出機等によって溶融混練する方法が挙げられる。
【0051】
本発明の樹脂組成物はプルトルージョン法で製造することができる。プルトルージョン法は、樹脂組成物の製造の容易さ、得られる成形体の剛性と衝撃強度等の機械的強度や制振特性の観点から好ましい。プルトルージョン法とは、基本的には連続した繊維束を引きながら、繊維束に樹脂を含浸させる方法であり、例えば、次の(i)〜(iii)の方法等が挙げられる。
(i) 樹脂成分と溶媒からなるエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸槽の中に繊維束を通し、繊維束に該エマルジョン、サスペンジョンまたは溶液を含浸させた後、溶媒を除去する方法。
(ii) 樹脂成分の粉末を繊維束に吹き付けたのち、または、樹脂成分の粉末を入れた槽の中に繊維束を通し繊維に樹脂成分粉末を付着させたのち、該粉末を溶融して繊維束に樹脂成分を含浸させる方法。
(iii) クロスヘッドの中に繊維束を通しながら、押出機等からクロスヘッドに溶融樹脂成分を供給し、繊維束に該樹脂成分を含浸させる方法。
【0052】
本発明の成形体を構成する樹脂組成物は、上記(iii)のクロスヘッドを用いるプルトルージョン法、より好ましくは、特開平3−272830号公報等に記載されているクロスヘッドを用いるプルトルージョン法で製造することが好ましい。
上記のプルトルージョン法において、樹脂成分の含浸操作は1段で行っても良く、2段以上に分けて行っても良い。また、プルトルージョン法によって製造された樹脂組成物ペレットと、溶融混練法によって製造された樹脂組成物ペレットをブレンドしても良い。
樹脂組成物ペレットを射出成形に適用した場合、射出成形における金型キャビティへの充填しやすさ、強度が高い成形体が得られるという観点から、プルトルージョン法で製造された樹脂組成物ペレットの長さは、2〜50mmであることが好ましい。より好ましい長さは、3〜40mmであり、特に好ましくは5〜30mmである。樹脂組成物ペレットの全長が2mm未満の場合、繊維(A−I)を含有していない樹脂成分と比較して、剛性、耐熱性、衝撃強度および制振特性の改良効果が低いことがある。樹脂組成物ペレットの全長が50mmを超えた場合、成形が困難となることがある。
プルトルージョン法で製造された樹脂組成物ペレットの長さとその樹脂組成物ペレットに含有される繊維(A−I)の重量平均繊維長は等しい。樹脂組成物ペレットの長さとその樹脂組成物ペレット中に含有される繊維(A−I)の長さとが等しいということは、樹脂組成物ペレットに含有される繊維(A−I)の重量平均繊維長が、ペレットの全長の90〜110%の範囲内にあることをいう。
【0053】
重量平均繊維長は、特開2002−5924号公報に記載されている方法(ただし、灰化工程は行わない)によって測定する。即ち、繊維の長さは、以下の(i)〜(iii)の手順で測定する。
(i) 繊維を、その重量の1000倍以上の重量の液体中に均一分散させ、
(ii) 均一分散液から、0.1〜2mgの範囲の量の繊維を含有する量だけを取り出し、
(iii) ろ過または乾燥により、取り出した該均一分散液から繊維を回収し、回収した全繊維の各々について繊維長を測定する。
樹脂組成物ペレット中の繊維(A−I)の重量平均長は、好ましくは2〜50mm、より好ましくは3〜40mm、さらに好ましくは5〜30mmである。また、本発明の樹脂組成物ペレットにおいて、表面処理繊維(A)は、通常、互いに平行に配列している。
本発明の樹脂組成物ペレットに含有する繊維(A−I)は交絡が少ない繊維である。これは、ペレットの長さ1mに相当するペレットから重量平均繊維長測定と同様の手順で樹脂成分を除去し、繊維を回収した場合、例えばペレットが10mmのとき90%以上、ペレットが6mmのとき95%以上が単糸に分散できることからでも分かる。
【0054】
<成形体>
本発明は、本発明の樹脂組成物から得られる成形体を包含する。成形方法としては、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法等が挙げられる。
本発明の成形体に含有する繊維(A−I)の重量平均繊維長は、成形体の機械的強度、耐久性および制振特性の観点から、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは3mm以上であり、更に好ましくは4mm以上である。
本発明の成形体の用途としては、自動車用部品が挙げられ、機械的強度、耐久性、振動減衰特性および良好な外観が必要とされる外装部品、耐熱剛性の要求される内装部品、エンジン内の部品等が挙げられる。
外装部品としては、例えばフェンダー、オーバーフェンダー、グリルガード、カウルルーバー、ホイールキャップ、サイドプロテクター、サイドモール、サイドロアスカート、フロントグリル、サイドステップ、ルーフレール、リアスポイラー、バンパー等が挙げられる。内装部品としては、例えばインパネロア、トリム等が挙げられ、エンジン内の部品としては、例えばバンパービーム、クーリングファン、ファンシュラウド、ランプハウジング、カーヒーターケース、ヒューズボックス、エアクリーナーケース等が挙げられる。
【0055】
また、本発明の成形体の用途としては、各種電気製品の部品、各種機械の部品、構造物等の部品等が挙げられる。各種電気製品の部品としては、例えば電動工具、カメラ、ビデオカメラ、電子レンジ、電気釜、ポット、掃除機、パーソナルコンピューター、複写機、プリンター、FDD、CRTの機械ハウジング等が挙げられ、各種機械の部品としては、例えばポンプケーシング等が挙げられ、構造物等の部品としては、例えばタンク、パイプ、建築用型枠等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例によって、本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例における評価方法を以下に示す。
【0057】
(1)引張強度(単位:MPa)
A.S.T.M D638に従って、下記条件で測定した。
測定温度 :23℃
サンプル厚み:3.2mm
試験速度 :10mm/分
(2)曲げ弾性率(単位:MPa)
A.S.T.M D790にしたがって、下記条件で測定した。
測定温度 :23℃
サンプル厚み:3.2mm
スパン :50mm
試験速度 :2mm/分
(3)曲げ強度(単位:MPa)
A.S.T.M D790にしたがって、下記条件で測定した。
測定温度 :23℃
サンプル厚み:3.2mm
スパン :50mm
試験速度 :2mm/分
(4)面衝撃強度(単位:J)
成形体の衝撃値はHIGH RATE IMPACT TESTER(Reometrics.inc製)により、測定条件としては1/2インチのダート径で、速度の5m/secにより2インチのリングにより固定した80mm×80mm×3mm厚のサンプルを打ち抜き、変位と荷重の波形を測定した。その後、打ち抜きに要するエネルギー値を算出した。
(5)比重
A.S.T.M D792に従って、測定した。
【0058】
(6)重量平均繊維長(単位:mm)
ソックスレー抽出法(溶媒:キシレン)でサンプルより樹脂成分を除去して、繊維を回収し、特開2002−5924号公報に掲載されている方法により、重量平均繊維長を測定した。即ち、繊維の長さは、以下の手順(i)〜(iii)で測定した。
(i)繊維の重量の1000倍以上の重量の液体中に均一分散させ、
(ii)均一分散液から繊維の重量が0.1〜2mgの範囲になるように均一分散液の一部を取り出し、
(iii)ろ過または乾燥により該均一分散液の一部から繊維を取り出し、繊維の全数について繊維長を測定した。
(7)繊維塊(単位:個)
80mm×80mm×3mm厚の射出成形体1枚中にある繊維塊の個数をカウントした。繊維塊の個数が多い場合は繊維分散性が悪く、成形体外観が悪くなり、少ない場合は繊維分散性が良好で、成形体外観が良好になる。
【0059】
<参考例1:低交絡繊維(A−1)の製造>
固有粘度0.62dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのチップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、固有粘度0.84dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂チップを得た。
このチップを、孔数250ホール、孔径0.6mmの円形紡糸孔を有する紡糸口金からポリマー温度310℃で吐出した。吐出量は、紡糸延伸後の繊度が1100dtexとなるように調整した。吐出した糸状は加熱紡糸筒を通じ、さらに、25℃の冷却風を吹き付けて冷却した。その後、なたね油、硬化ひまし油エチレンオキサイド17モル付加物、ジオクチルスルホサクシネートを混合した製糸油剤を、油分の乾燥後付着量が繊維重量に対して0.3重量%となるように油剤付与装置にて一定量計量供給して付与した後、引取りローラーに導き、未延伸糸として巻取機で巻取った。
【0060】
次いで、この未延伸糸を130m/分の周速で回転する150℃の加熱供給ローラーと180℃の第一段延伸ローラーとの間で5.0倍の第一段延伸を行い、次いで第一段延伸ローラーと180℃に加熱した第二段延伸ローラーとの間で230℃に加熱した非接触式セットバス(長さ70cm)を通し、定長熱セットを行った後、巻取機に巻き取った。製糸の全工程(紡糸工程・延伸工程)において圧縮空気の吹き付けによる、交絡処理は行わなかった。
得られた延伸繊維は繊度1100dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は20μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は8.1cN/dtex、引張弾性率は170cN/dtex、中間荷伸(44Nの荷重)は2.9%、180℃における乾熱収縮率は6.2%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたものであった。
【0061】
<参考例2:表面処理−低交絡繊維(A)の製造>
(低交絡繊維の製造)
上記低交絡繊維(A−1)の製造の際に用いた樹脂チップを、孔数144ホール、孔径0.8mmの円形紡糸孔を有する紡糸口金を用い、紡糸延伸後の繊度が1670dtexとなるように調整して吐出させた以外は低交絡繊維(A−1)と同様の方法で未延伸糸を製造し、第一段延伸及び定長熱セットを行った。 得られた低交絡繊維は、繊度1670dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は35μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は7.9cN/dtex、引張弾性率は165cN/dtex、中間荷伸(6.6Nの荷重)は3.2%、180℃における乾熱収縮率は5.9%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたものであった。
【0062】
(表面処理)
この低交絡繊維を、分子内に親水成分としてカルボキシレートを有し、水中に安定して自己乳化するポリウレタン樹脂処理液を用いてディップ処理した。ポリウレタン樹脂処理液より揮発分である水を蒸発させて得た皮膜物性は、引張強度が35MPa、伸度が30%、ガラス転移温度が61℃、軟化溶融温度が113℃であった。ディップ処理にあたり、処理液のポリウレタン樹脂濃度は8%とし、ポリウレタン樹脂エマルジョンの水分散粒子径は61nmであった。この処理液を用いて繊維にポリウレタン樹脂を付与した後、非接触ヒータにて150℃で15秒乾燥し、引き続き180℃で15秒の熱処理を施し、ポリウレタン表面処理−低交絡繊維Aを得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は2.3重量部であった。
【0063】
<実施例1および2>
特開平3−121146号公報に記載されている方法に従って、表1に示した組成で、ペレット長が11mmの繊維含有ペレットを製造した。なお、含浸温度は200℃、引取り速度は13m/分で行った。即ち、表面未処理繊維(A−1)または表面処理繊維(A)をそれぞれ、通路を波状に加工したクロスヘッドダイを通して引きながら、クロスヘッドダイに接続された押出機から供給される樹脂成分に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り細断し、繊維含有ペレットを得た。
変性ポリプロピレン(B−1)は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(MFR=60g/10分、無水マレイン酸グラフト量=0.6重量%)である。無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂は、特開2004−197068号公報の実施例1に記載された方法に従って作成した。
【0064】
即ち、プロピレンブロック共重合体(固有粘度[η]=2.8(dl/g)、EP含量=21重量%)100重量部に、無水マレイン酸1.0重量部、ジセチル パーオキシジカルボネート0.50重量部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン0.15重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部、酸化防止剤テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.3重量部を添加して十分に予備混合後、予備混合された混合物を単軸押出機の供給口より供給して混練を行い、変性ポリプロピレン樹脂(B−1)を得た。
未変性のポリプロピレン樹脂(C−1)は、プロピレン単独重合体(MFR=120g/10分、アイソタクチックペンタッド分率=0.96)である。
比重、曲げ弾性率、曲げ強度、面衝撃強度、引張強度、重量平均繊維長および繊維塊の評価は、得られた繊維含有ペレットを下記の日本製鋼所成形機を用いて、下記の条件で射出成形した評価用サンプルで行った。その結果を表に示す。
【0065】
〔成形機〕
成形機 :日本製鋼所製成形機J150E
型締力 :150t
スクリュー :深溝スクリュー
スクリュー径 :46mm
スクリューL/D :20.3
〔成形条件〕
シリンダー温度 :200℃
金型温度 :50℃
背圧 :0MPa
【0066】
<参考例3:表面処理−交絡繊維(A)>
(交絡繊維の製造)
巻取機に巻き取る直前に、圧縮空気吹き付けによるインターレース交絡処理を1mあたり10回施した以外は、実施例1と同様の処理を行い、繊度1100dtex、マルチフィラメント構成単糸直径20μm、製糸油剤量0.3重量%の交絡繊維を得た。
【0067】
(表面処理)
この交絡繊維をポリプロピレン−無水マレイン酸グラフト重合物26部、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル52部、ラウリルアミンのエチレンオキシド7モル付加物22部の処理液を用いてディップ処理した。ディップ処理にあたり、処理液の濃度は10%とした。この処理液を用いて繊維にポリプロピレン−無水マレイン酸グラフト重合物などを付与した後、非接触ヒータにて150℃で15秒乾燥し、酸変性ポリプロピレン表面処理−交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対する酸変性ポリプロピレン樹脂固形分の付着量は3.0重量部であった。
【0068】
<比較例1>
表面処理−低交絡繊維(A)の代わりに、参考例3で得られた、表面処理−交絡繊維(A)を用いた以外は実施例1と同様の方法で繊維含有ペレットを製造し評価した。
【0069】
<比較例2>
製糸油剤の乾燥後付着量を繊維重量に対して0.6重量%となるように調整し、延伸工程における延伸後の巻取機に巻き取る直前に圧縮空気吹き付けによるインターレース交絡処理を1mあたり10回施した以外は、参考例2と同様の処理を行い、繊度1100dtex、マルチフィラメント構成単糸直径20μm、製糸油剤量0.6%の表面未処理−交絡繊維(A−2)を得た。
表面未処理−低交絡繊維(A−1)の代わりに表面未処理−交絡繊維(A−2)を用いた以外は実施例2と同様の方法で繊維含有ペレットを製造し評価した。
【0070】
【表1】

【0071】
<実施例3〜5>
実施例1,2と同様の方法で、表2に示した組成で、ペレット長が15mm、5mmまたは3mmの繊維含有ペレットを製造した。そして実施例1,2と同様の方法で比重、曲げ弾性率、曲げ強度、等の各種物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
<参考例3:表面処理−低交絡繊維(A)の製造>
参考例1で製造した低交絡繊維(A−1)を、参考例2と同様の方法で表面処理を行い、ポリウレタン表面処理低交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は2.4重量部であった。
【0074】
<参考例4:表面処理−低交絡繊維(A)の製造>
上記低交絡繊維(A−1)の製造の際に用いた樹脂チップを、孔数500ホール、孔径0.4mmの円形紡糸孔を有する紡糸口金を用い、油分の乾燥後付着量が繊維重量に対して0.1重量%とした以外は低交絡繊維(A−1)と同様の方法で未延伸糸を製造し、第一段延伸及び定長熱セットを行った。
得られた単糸径14μm低交絡繊維は、繊度1100dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は14μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は7.9cN/dtex、中間荷伸(44Nの荷重)は2.9%、180℃における乾熱収縮率は5.4%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたのもであった。
【0075】
(表面処理)
この低交絡細径繊維を参考例2と同様の方法で表面処理を行い、ポリウレタン表面処理低交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は3.4重量部であった。
【0076】
<参考例5:表面処理−低交絡太径繊維(A)の製造>
(低交絡細径繊維の製造)
上記低交絡繊維(A−1)の製造の際に用いた樹脂チップを、孔数96ホール、孔径0.85mmの円形紡糸孔を用い、紡糸延伸後の繊度が1670dtexとなるように調整して吐出させ、油分の乾燥後付着量が繊維重量に対して0.4重量%とした以外は低交絡繊維(A−1)と同様の方法で未延伸糸を製造し、第一段延伸及び定長熱セットを行った。
得られた低交絡繊維は、繊度1670dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は41μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は7.7cN/dtex、中間荷伸(66Nの荷重)は3.6%、180℃における乾熱収縮率は5.2%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたのもであった。
【0077】
(表面処理)
この低交絡太径繊維を参考例2と同様の方法で表面処理を行い、ポリウレタン表面処理低交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は3.0重量部であった。
【0078】
<実施例6,7>
実施例1,2と同様の方法で、表3に示した組成で、ペレット長が11mmまたは15mmの繊維含有ペレットを製造した。そして実施例1,2と同様の方法で比重、曲げ弾性率、曲げ強度、等の各種物性を評価した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
<参考例6:表面処理−低交絡径繊維(A)の製造>
(低交絡繊維の製造)
未延伸糸に対する第一段延伸倍率を5.0倍から4.8倍に変更した以外は上記低交絡繊維(A−1)と同様に行い、ポリエチレンナフタレート低交絡繊維(延伸糸)を得た。
得られた低交絡繊維は、繊度1670dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は35μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は7.6cN/dtex、中間荷伸(66Nの荷重)は3.5%、180℃における乾熱収縮率は5.3%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたのもであった。
【0081】
(表面処理)
この低交絡太径繊維を参考例2と同様の方法で表面処理を行い、ポリウレタン表面処理低交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は3.0重量部であった。
【0082】
<参考例7:表面処理−低交絡径繊維(A)の製造>
未延伸糸に対する第一段延伸倍率を5.0倍から4.6倍に変更した以外は上記低交絡繊維(A−1)と同様に行い、ポリエチレンナフタレート低交絡繊維(延伸糸)を得た。
得られた低交絡繊維は、繊度1670dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は35μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は7.1cN/dtex、中間荷伸(66Nの荷重)は3.9%、180℃における乾熱収縮率は5.0%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたのもであった。
【0083】
(表面処理)
この低交絡太径繊維を参考例2と同様の方法で表面処理を行い、ポリウレタン表面処理低交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は3.0重量部であった。
<参考例8:表面処理−低交絡径繊維(A)の製造>
未延伸糸に対する第一段延伸倍率を5.0倍から4.4倍に変更した以外は上記低交絡繊維(A−1)と同様に行い、ポリエチレンナフタレート低交絡繊維(延伸糸)を得た。
得られた低交絡繊維は、繊度1670dtexであり、マルチフィラメントを構成する単糸の直径は35μmであった。この繊維の固有粘度は0.90dl/gであった。また引張強度は6.5cN/dtex、中間荷伸(66Nの荷重)は4.6%、180℃における乾熱収縮率は4.7%であり、モジュラスが高く、寸法安定性に優れたのもであった。
【0084】
(表面処理)
この低交絡太径繊維を参考例2と同様の方法で表面処理を行い、ポリウレタン表面処理低交絡繊維(A)を得た。ポリエチレンナフタレート繊維100重量部に対するポリウレタン樹脂固形分の付着量は3.0重量部であった。
【0085】
<実施例8,9,10>
実施例1,2と同様の方法で、表3に示した組成で、ペレット長が11mmの繊維含有ペレットを製造した。そして実施例1,2と同様の方法で比重、曲げ弾性率、曲げ強度、等の各種物性を評価した。その結果を表4に示す。
【0086】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の樹脂組成物および成形体は、自動車用部品等に利用することが出来る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成分および樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
(i)繊維成分は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなり、単糸の交絡数が繊維1mあたり10個未満の繊維(A−I)であり、
(ii)樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂からなる、
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
1〜70重量%の繊維成分と30〜99重量%の樹脂成分(繊維成分と樹脂成分との合計を100重量%とする)とを含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
繊維(A−I)の重量平均長さが2〜50mmである請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
繊維成分は、繊維(A−I)およびその表面に付着した表面処理剤を含む表面処理繊維(A)である請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
表面処理剤がポリウレタン樹脂である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂(C)並びにポリオレフィン樹脂(C)が不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(B)からなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
繊維成分および樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
(i)繊維成分は、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなり、単糸の交絡数が繊維1mあたり10個未満である繊維(A−I)100重量部およびその表面に付着した表面処理剤0.1〜10重量部を含む表面処理繊維(A)であり、
(ii)樹脂成分は、ポリオレフィン樹脂(C)並びにポリオレフィン樹脂(C)が不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂(B)からなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
外形がペレット状である請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物から得られる成形体。
【請求項10】
自動車内装材部品または自動車外装用部品である請求項9に記載の成形体。


【公開番号】特開2011−26571(P2011−26571A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144478(P2010−144478)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】