説明

低収縮AEコンクリートの調製方法及び低収縮AEコンクリート

【課題】練り混ぜ後のコンクリートの連行空気が脱泡せず、かつ経時的に安定した空気量を保つこと、また得られる硬化体の乾燥収縮率が小さく、ひび割れの発生が抑制されること、更に得られる硬化体の凍結融解抵抗性が優れていること、更にまた得られる硬化体の打ち肌面のボイド発生が少なく、表面外観が美麗であること、以上の多機能を同時に備える低収縮AEコンクリートの調製方法及びこの調製方法によって得られる低収縮AEコンクリートを提供する。
【解決手段】予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに、該ベースコンクリート中のセメント100質量部当たり、収縮低減用流動化剤を0.1〜8.0質量部の割合となるよう添加して混合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低収縮AEコンクリートの調製方法及び低収縮AEコンクリートに関し、更に詳しくは収縮低減用流動化剤を用いた低収縮AEコンクリートの調製方法及びこの調製方法によって得られる低収縮AEコンクリートに関する。流動化剤は、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに添加して混合し、かかるベースコンクリートの流動性を増大させる添加剤であり、更に詳しくは予め練り混ぜられた単位水量の少ない硬練りのベースコンクリートに添加して混合し、かかるベースコンクリートの流動性を一時的に高くしてスランプの大きいコンクリートを得るために使用される添加剤である。しかし、近年、流動化剤は大半が高性能AE減水剤に移行し、現在では、流動化剤は一部の場面に限り使用される程度となっている。一方で、土木建築工事におけるコンリート構造物の長寿命化の要求が近年高まっており、コンリート硬化物の耐久性向上対策が重要になっている。そのため、コンリート構造物の乾燥収縮ひび割れの発生を抑制する目的でコンクリートの乾燥収縮量を低減する乾燥収縮低減剤に関心が高まっている。乾燥収縮低減剤は、単独で通常の高性能AE減水剤やAE減水剤とは別々に添加して使用する方法よりも、作業性やコスト面から、乾燥収縮低減剤を予め収縮低減成分として減水成分と混合し、JIS規格に適合した一液の収縮低減型高性能AE減水剤又は一液の収縮低減型AE減水剤として使用される場面が増えている。しかし、収縮低減成分と減水成分を混合し、一液化して使用する方法は収縮低減剤の添加量が固定され、要求水準に対して必然的に少量域の添加水準になるので高水準の収縮低減効果を追求するには限界があり、乾燥収縮低減剤の添加量を調節して使用することができないという問題を抱えている。またかかる問題に対して仮に乾燥収縮低減剤を単独で使用し、後添加することが一部で試みられているが、実際のところ、JIS規格が整備されていない乾燥収縮低減剤を一般使用することができないという問題を抱えている。かかる事情に鑑み、収縮低減性能を付与する一液の収縮低減用流動化剤を使用する方法が有効な手段の一つとして望まれるが、これまでそのような提案はない。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートの乾燥収縮を低減するために各種の乾燥収縮低減剤が知られている(例えば特許文献1〜4参照)。また乾燥収縮低減剤をセメント分散剤と混合して一液化した収縮低減型AE減水剤、或いは収縮低減型高性能AE減水剤(例えば特許文献5〜7参照)も知られている。しかしながら、一般に乾燥収縮低減剤を使用する場合、乾燥収縮低減剤の添加する量を増すと、その収縮低減効果が上昇する性質を有するが、反面で凍結融解抵抗性を著しく低下させるという問題がある。また乾燥収縮低減剤を添加したAEコンクリートの性質の多くは連行した空気泡が練り混ぜ後に経時的に脱泡し易いという傾向があり、特に該AEコンクリートを型枠に流し込み、バイブレータを用いて締め固めながら成型する際に、不安定な空気泡がコンクリート成型体の上層表面に凝縮して大きなボイドが発生し易いという問題も抱えている。流動化剤を後から添加する方法(例えば特許文献8参照)については古くから知られているが、かかる方法は専ら流動性を付与するための技術であり、流動化剤を用いて収縮低減性能と高流動性の双方を付与する具体的な提案はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−37259号公報
【特許文献2】特開昭59−21557号公報
【特許文献3】特開昭59−152253号公報
【特許文献4】特開2010−58996号公報
【特許文献5】特開2004−2175号公報
【特許文献6】特開2009−161428号公報
【特許文献7】特開2010−100478号公報
【特許文献8】特開昭61−247653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、1)練り混ぜ後のコンクリートの連行空気が脱泡せず、かつ経時的に安定した空気量を保つこと、2)得られる硬化体の乾燥収縮率が小さく、ひび割れの発生が抑制されること、3)得られる硬化体の凍結融解抵抗性が優れていること、4)得られる硬化体の打ち肌面のボイド発生が少なく、表面外観が美麗であること、以上の1)〜4)の多機能を同時に備えた低収縮AEコンクリートを得ることができる収縮低減用流動化剤を用いた低収縮AEコンクリートの調製方法及びこの調製方法によって得られる低収縮AEコンクリートを提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の課題を解決するべく研究した結果、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに所定割合の収縮低減用流動化剤を添加して混合し、AEコンクリートを調製することが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに、該ベースコンクリート中のセメント100質量部当たり、収縮低減用流動化剤を0.1〜8.0質量部の割合となるよう添加して混合し、乾燥収縮低減性及び高流動性を同時に付与することを特徴とする低収縮AEコンクリートの調製方法に係る。また本発明は、かかる調製方法によって得られる低収縮AEコンクリートに係る。
【0007】
本発明に係る低収縮AEコンクリートの調製方法(以下、単に本発明の調製方法という)は、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに、収縮低減用流動化剤を添加して混合し、低収縮AEコンクリートを調製する方法である。
【0008】
本発明の調製方法では、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに、該ベースコンクリート中のセメント100質量部当たり、収縮低減用流動化剤を0.1〜8.0質量部の割合となるよう添加して混合する。
【0009】
本発明の調製方法に用いる収縮低減用流動化剤は、得られる硬化体の乾燥収縮を低減する機能を有する流動化剤であるが、かかる収縮低減用流動化剤としては、下記のA成分を60〜99.8質量%及び下記のB成分を0.2〜40質量%(A成分とB成分の合計100質量%)の割合から成るものが好ましい。
【0010】
A成分:下記の化1で示される化合物
【0011】
【化1】

【0012】
化1において、
p,q,r:いずれも0又は正の整数であって且つp+q+r=5〜25を満足する整数
【0013】
B成分:下記の水溶性ビニル共重合体から選ばれる一つ又は二つ以上
水溶性ビニル共重合体:分子中に下記の構成単位Cを45〜85モル%、下記の構成単位Dを15〜55モル%及び下記の構成単位Eを0〜5モル%(構成単位Cと構成単位Dと構成単位Eの合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量が3000〜70000の水溶性ビニル共重合体。
【0014】
構成単位C:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位D:分子中に5〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位E:メタリルスルホン酸塩から形成された構成単位
【0015】
A成分は、化1で示される化合物である。かかる化合物はグリセリンのプロピレンオキサイド付加物である。化1において、p、q及びrはいずれも0又は正の整数であって且つp+q+r=5〜25を満足する整数である。なかでも、p、q及びrがいずれも1〜10の整数であって且つp+q+r=7〜20を満足するものが好ましい。化1において、p+q+rはグリセリン1モルに対するプロピレンオキサイドの付加モル数を表し、p+q+rが小さ過ぎる場合には得られる硬化体の乾燥収縮が大きくなり、逆にp+q+rが大きすぎ場合には水に溶け難くなって連行空気量の調製が困難になる。A成分の化1で示される化合物はいずれも公知の方法で合成できる。
【0016】
B成分の水溶性ビニル共重合体は、1)構成単位Cと構成単位Dとで構成された水溶性ビニル共重合体、2)構成単位Cと構成単位Dと構成単位Eとで構成された水溶性ビニル共重合体、以上の1)、2)及び1)と2)の混合物が挙げられる。
【0017】
構成単位Cとしては、1)メタクリル酸から形成された構成単位、2)メタクリル酸塩から形成された構成単位、3)メタクリル酸から形成された構成単位とメタクリル酸塩から形成された構成単位の双方が挙げられる。ここで、メタクリル酸塩から形成された構成単位としては、イ)メタクリル酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩から形成された構成単位、ロ)メタクリル酸のカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩から形成された構成単位、ハ)メタクリル酸のジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩から形成された構成単位等が挙げられる。なかでも、構成単位Cとしてはメタクリル酸塩から形成された構成単位が好ましく、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位がより好ましい。
【0018】
構成単位Dは、分子中に5〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である。なかでも、構成単位Dとしては、分子中に7〜55個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位が好ましい。
【0019】
構成単位Eは、メタリルスルホン酸塩から形成された構成単位である。塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましい。
【0020】
以上説明した水溶性ビニル共重合体は公知の方法(例えば、特開昭58−74552号公報や特開平1−226757号公報に記載されている方法)で合成できる。
【0021】
水溶性ビニル共重合体が以上説明したような構成単位Cと構成単位Dとで構成された水溶性ビニル共重合体から成る場合、かかる水溶性ビニル共重合体は分子中に構成単位Cを45〜85モル%及び構成単位Dを15〜55モル%(構成単位Cと構成単位Dの合計100モル%)の割合で有するものとするが、構成単位Cを50〜80モル%及び構成単位Dを20〜50モル%(構成単位Cと構成単位Dの合計100モル%)の割合で有するものが好ましい。また水溶性ビニル共重合体が構成単位Cと構成単位Dと構成単位Eとで構成された水溶性ビニル共重合体から成る場合、かかる水溶性ビニル共重合体は分子中に構成単位Cを45〜85モル%、構成単位Dを15〜55モル%及び構成単位Eを5モル%以下(構成単位Cと構成単位D+構成単位Eの合計100モル%)の割合で有するものとするが、構成単位Cを49〜80モル%、構成単位Dを19〜50モル%及び構成単位Eを0.3〜4.5モル%(構成単位Cと構成単位Dと構成単位Eの合計100モル%)の割合で有するものとするのが好ましい。いずれの場合も、以上説明した水溶性ビニル共重合体は質量平均分子量3000〜70000のものとするが、6000〜50000のものとするのが好ましい。
【0022】
以上説明した本発明の調製方法に供する収縮低減用流動化剤は、A成分を60〜99.5質量%及びB成分を0.5〜40質量%(A成分とB成分の合計100質量%)の割合から成るものとするのがより好ましいが、なかでもA成分を75〜98質量%及びB成分を2〜25質量%(A成分とB成分の合計100質量%)の割合から成るものとするのが特に好ましい。
【0023】
また本発明の調製方法において、収縮低減用流動化剤は、前記したようなA成分及びB成分の所定割合から成る混合物を水で希釈して均一に溶解した一液型の混合水溶液として用いるのが好ましい。通常は有効成分濃度(A成分及びB成分の合計濃度)が10〜80質量%となるようにして用いるが、好ましくは前記の有効成分濃度が20〜70質量%となるようにして用いる。本発明の調製方法において、かかる一液型の混合水溶液は経時的に安定で均一な状態を保つ。用いる一液型の混合水溶液が経時的に不安定で、溶液が分離したり或いは沈殿物が発生したりすると、トラブルの原因となるため使用できない。
【0024】
本発明の調製方法において、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートは通常、セメント、細骨材、粗骨材、AE減水剤、空気量調節剤及び水等を混練した空気量が2〜6%でスランプの値が8〜15cmの範囲の比較的硬練りのコンクリートを意味する。本発明の調製方法では、かかるベースコンクリートに以上説明したような収縮低減用流動化剤を所定割合で添加して混合する。
【0025】
本発明の調製方法に用いるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントのほかに、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の各種混合セメントが挙げられる。用いるセメントは特に限定されないが、なかでも普通ポルトランドセメント及び/又は高炉セメントが好ましく、高炉セメントではB種が好ましい。また本発明の調製方法に用いる細骨材としては、川砂、山砂、海砂、砕砂等が挙げられ、粗骨材としては、川砂利、砕石、軽量骨材等が挙げられる。
【0026】
本発明の調製方法は、通常のAEコンクリートに比べて乾燥収縮率を10〜30%程度低減するため、予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリート、通常はスランプの値が8〜15cmの硬練りのベースコンクリートに収縮低減用流動化剤を添加して混合し、目標とするスランプの値が18〜24cmとなるように流動性を高める調製方法である。収縮低減用流動化剤の添加量は、収縮低減用流動化剤のA成分とB成分の組成比率、ベースコンクリートのスランプの値、或いは目標とするスランプの値等によっても異なるが、通常は有効成分換算(A成分及びB成分の合計量の換算)で、セメント100質量部当たり、0.1〜8.0質量部、好ましくは0.3〜5.0質量部の割合となるようにする。
【0027】
また本発明の調製方法において、得られる硬化体の凍結融解に対する抵抗性をより充分に得るためには、空気量調節剤を用いて、調製後の低収縮AEコンクリートの連行空気量が3〜6容量%となるようにするのが好ましく、4〜6容量%となるようにするのがより好ましい。
【0028】
本発明の調製方法によって得られる低収縮AEコンクリートの硬化体は、調製後の低収縮AEコンクリートの連行空気が経時的に安定な空気量を保つため、これを型枠へ充填して脱枠した後のコンクリート打ち肌面が美麗であり、かつ得られる硬化体の乾燥収縮率が小さく、同時に凍結融解に対しても優れた抵抗性を示すことが特長として挙げられる。その理由は、A成分自体の空気連行性が低いため、不安定な巻き込み空気(エントラップドエア)の発生を抑制しつつ目標とする高い流動性が付与されること、AE剤やAE減水剤による微細な空気連行量が安定して保たれるため、得られる硬化体の凍結融解に対する抵抗性が確保されること、高い流動性が付与されて型枠への充填性が助長されるため、得られる硬化体の表面のボイドが抑制されること、必要量の収縮低減用流動化剤がコンクリートに導入されて乾燥収縮率が小さくなること、以上が協力的に作用して総合的に優れた結果が得られるものと推察される。
【0029】
本発明の調製方法では、以上説明した収縮低減用流動化剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、空気連行剤、凝結促進剤、防水剤、防腐剤、防錆剤等の他の添加剤も併用することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、得られる硬化体が優れた圧縮強度を発現するだけでなく、1)練り混ぜ後のコンクリートの連行空気が脱泡せず、かつ経時的に安定した空気量を保つこと、2)得られる硬化体の乾燥収縮率が小さく、ひび割れの発生が抑制されること、3)得られる硬化体の凍結融解抵抗性が優れていること、4)得られる硬化体の打ち肌面のボイド発生が少なく、表面外観が美麗であること、以上1)〜4)の多機能を同時に満足するという効果がある。
【0031】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0032】
試験区分1(A成分等としてのグリセリンのプロピレンオキサイド付加物の合成)
・グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(a−1)の合成
グリセリン184g(2.0モル)をオートクレーブに仕込み、触媒として水酸化カリウムを1.8g加えた後、オートクレーブ内を窒素置換した。攪拌しながら、反応温度を125〜140℃に保ち、プロピレンオキサイド1160g(20モル)を圧入して付加反応を行なった。圧入終了後、同温度で2時間熟成して反応を終了し、生成物を得た。この生成物の残存触媒を吸着材を用いて吸着処理した後、濾別して精製した。得られた精製物は常温で液状の化合物であり、水酸基価等の分析結果により、グリセリンのプロピレンオキサイド10モル付加物(a−1)であった。
【0033】
・グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(a−2)、(a−3)及び(ar−1)〜(ar−3)の合成
グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(a−1)の合成と同様にして、グリセリンのプロピレンオキサイド付加物(a−2)、(a−3)及び(ar−1)〜(ar−3)を合成した。以上で合成したA成分等の内容を表1にまとめて示した。
【0034】
【表1】

【0035】
試験区分2(B成分等としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・水溶性ビニル共重合体(b−1)の合成
メタクリル酸60g、メトキシポリ(23モル)エチレングリコールメタクリレート310g、メタリルスルホン酸ナトリウム3.5g、3−メルカプトプロピオン酸5.0g及び水540gを反応容器に仕込んだ後、48%水酸化ナトリウム水溶液36gを加え、攪拌しながら部分中和し、均一に溶解した。次に、雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液25gを加えてラジカル重合反応を開始し、5時間反応を継続して反応を終了した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液28gを加えて完全中和し、水溶性ビニル共重合体の40%水溶液を得た。この水溶性ビニル共重合体を分析したところ、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位/メトキシポリ(23モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位/メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位=70/28/2(モル%比)の割合で有する質量平均分子量31200(GPC法、ポリスチレン換算、以下同じ)の水溶性ビニル共重合体(b−1)であった。
【0036】
・水溶性ビニル共重合体(b−2)〜(b−4)及び(br−1)〜(br−4)の合成
水溶性ビニル共重合体(b−1)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(b−2)〜(b−4)及び(br−1)〜(br−4)を合成した。以上で合成した各水溶性ビニル共重合体等の内容を表2にまとめて示した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2において、
M1:メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位
M2:メタクリル酸から形成された構成単位
M3:メトキシポリ(23モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
M4:メトキシポリ(9モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
M5:メトキシポリ(68モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
M6:メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
【0039】
試験区分3(収縮低減用流動化剤の調製)
・収縮低減用流動化剤(p−1)の調製
試験区分1で合成したA成分等としてのグリセリンのプロピレンオキサイド付加物(a−1)を99部と試験区分2で合成したB成分等としての水溶性ビニル共重合体(b−1)の40%水溶液27.5部と水73.5部を混合溶解し、収縮低減用流動化剤(p−1)の有効成分濃度(A成分及びB成分の合計濃度)が55%の水溶液200部を調製した。
【0040】
・収縮低減用流動化剤(p−2)〜(p−12)及び(pr−1)〜(pr−10)の調製
収縮低減用流動化剤(p−1)の調製と同様にして、収縮低減用流動化剤(p−2)〜(p−12)及び(pr−1)〜(pr−10)を調製した。以上で調製した各収縮低減用流動化剤の内容を表3にまとめて示した。
























【0041】
【表3】

【0042】
表3において、
収縮低減用流動化剤の有効成分濃度55%水溶液の経時安定性:100ml容量の共栓付きメスシリンダーに各収縮低減用流動化剤の有効成分濃度55%水溶液を入れ、室温で1週間静置した後、溶液の分離状況を以下の基準で評価した。
○:全く分離せずに均一透明であった。
×:一部又は完全に液相が分離し、或いは沈殿物が認められた。
【0043】
試験区分4(低収縮AEコンクリート等の調製)
実施例1
表4に記載した配合No.1の条件で、パン型強制練りミキサーに普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm、ブレーン値=3300cm/g)、細骨材(岩瀬産砕砂、密度=2.61g/cm、粗粒率=2.83)及び粗骨材(岩瀬産砕石、密度=2.63g/cm、粗粒率=6.74)を順次投入して15秒間空練りした。次いで、目標スランプが8±1cm、目標空気量が4.5±1%の範囲となるよう、AE減水剤(竹本油脂社製の商品名チューポールEX20)及び空気量調節剤(竹本油脂社製の商品名AE200)のそれぞれ所定量を練り混ぜ水で希釈した後に投入して練り混ぜ、硬練りのベースコンクリートを調製した。そして、この硬練りベースコンクリートに試験区分3で調製した収縮低減用流動化剤(p−1)の有効成分濃度55%水溶液の所定量を添加して30秒間練り混ぜ、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±1%の範囲となる低収縮AEコンクリートを調製した。
【0044】
実施例2〜12及び比較例1〜10
実施例1と同様にして、硬練りのベースコンクリートを調製し、このベースコンクリートに収縮低減用流動化剤の有効成分濃度55%水溶液の所定量を練り混ぜて、各例の低収縮AEコンクリート等を調製した。
【0045】
実施例13〜15及び比較例13、14
配合No.1の条件を配合No.2の条件に変えたこと以外は実施例1と同様にして(用いた高炉スラグセメントB種:密度=3.04g/cm、ブレーン値=3500cm/g)、低収縮AEコンクリート等を調製した。
【0046】
比較例11
表4に記載した配合No.1の条件で、スランプが8cmのベースコンクリートを調製し、このベースコンクリートに市販の流動化剤(竹本油脂社製の商品名ハイフルード)の所定量を添加して30秒間練り混ぜ、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±1%の範囲となるAEコンクリートを調製した。
【0047】
比較例12
表4に記載した配合No.1の条件で、市販の高性能AE減水剤(竹本油脂社製の商品名チューポールHP−11)を使用して、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±1%の範囲となるAEコンクリートを調製した。
【0048】
比較例15
表4に記載した配合No.2の条件で、スランプが8cmのベースコンクリートを調製し、このベースコンクリートに市販の流動化剤(竹本油脂社製の商品名ハイフルード)の所定量を添加して30秒間練り混ぜ、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±1%の範囲となるAEコンクリートを調製した。
【0049】
比較例16
表4に記載した配合No.2の条件で、市販の高性能AE減水剤(竹本油脂社製の商品名チューポールHP−11)を使用して、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±1%の範囲となるAEコンクリートを調製した。
【0050】
【表4】

【0051】
試験区分5(調製した低収縮AEコンクリート等の評価)
試験区分4で調製した各例の低収縮AEコンクリート等について、連行空気量及びスランプを下記のように求め、また各例の低収縮AEコンクリート等から得た硬化体について、乾燥収縮率、凍結融解抵抗性及び圧縮強度を下記のように求めた。結果を表5に示した。
【0052】
・連行空気量(容量%):練り混ぜ直後の低収縮AEコンクリート等及び更に60分間静置の低収縮AEコンクリート等について、JIS−A1128に準拠して測定した。
・スランプ(cm):空気量の測定と同時にJIS−A1101に準拠して測定した。
・乾燥収縮率:JIS−A1129に準拠し、各例の低収縮AEコンクリート等を用いて20℃×60%RHの条件下で保存した材齢26週の供試体についてコンパレータ法により乾燥収縮ひずみを測定し、乾燥収縮率を求めた。この数値は小さいほど、乾燥収縮が小さいことを示す。
・凍結融解耐久性指数(300サイクル):各例の低収縮AEコンクリート等について、JIS−A1148に準拠して測定した値を用い、ASTM−C666−75の耐久性指数で計算した値を示した。この数値は、最大値が100で、100に近いほど、凍結融解に対する抵抗性が優れていることを示す。
・圧縮強度(N/mm):各例の低収縮AEコンクリート等について、JIS−A1108に準拠し、材齢7日と材齢28日で測定した。
【0053】
【表5】

【0054】
表5において、
p−1〜p−12,pr−1〜pr−10:表3に記載の収縮低減用流動化剤等
*1:市販の流動化剤(竹本油脂社製の商品名ハイフルード)
*2:市販の高性能AE減水剤(竹本油脂社製の商品名チューポールHP−11)
添加量:セメント100質量部当たりの収縮低減用流動化剤等の有効成分換算の質量部
比較例3、4及び8:収縮低減用流動化剤等の水溶液が分離したので測定しなかった。
比較例5、6、7及び9:目標のスランプ値が得られなかったので測定しなかった。
【0055】
更に得られた硬化体(実施例1、8、13及び比較例11、12、13の硬化体)を対象として、その表面仕上り状態を目視観察し、下記の方法で評価した。
【0056】
・表面仕上り状態:調製直後の低収縮AEコンクリート等を縦×横×高さが0.15m×1m×1mの木製化粧型枠に流し込み、棒状バイブレータを用いて締め固め、材齢3日後に脱枠した。得られた硬化体の型枠剥離面(横×高さの面の合計2面で2m)に存在する気泡径が3mm以上の気泡数を数え、これを0.3m×0.3m=0.09m中に存在する気泡数に換算し、換算した気泡数の数をもって仕上がり面の良否を評価した。結果を表6に示した。
【0057】
【表6】

【0058】
表5及び表6の結果からも明らかなように、各実施例の低収縮AEコンクリートによると、所望の流動性が得られると共に、従来の高性能AE減水剤等を用いたAEコンクリートに比べて得られる硬化体の乾燥収縮率が小さく、同時に優れた凍結融解耐久性及び充分な圧縮強度が得られており、また硬化体表面に粗大な気泡数が少なく外観が平滑で美麗である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め練り混ぜられた硬練りのベースコンクリートに、該ベースコンクリート中のセメント100質量部当たり、収縮低減用流動化剤を0.1〜8.0質量部の割合となるよう添加して混合し、乾燥収縮低減性及び高流動性を同時に付与することを特徴とする低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項2】
収縮低減用流動化剤が、下記のA成分を60〜99.8質量%及び下記のB成分を0.2〜40質量%(A成分とB成分の合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項1記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
A成分:下記の化1で示される化合物
【化1】

(化1において、
p,q,r:いずれも0又は正の整数であって且つp+q+r=5〜25を満足する整数)
B成分:下記の水溶性ビニル共重合体から選ばれる一つ又は二つ以上
水溶性ビニル共重合体:分子中に下記の構成単位Cを45〜85モル%、下記の構成単位Dを15〜55モル%及び下記の構成単位Eを0〜5モル%(構成単位Cと構成単位Dと構成単位Eの合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量が3000〜70000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位C:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位D:分子中に5〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位E:メタリルスルホン酸塩から形成された構成単位
【請求項3】
A成分が、化1中のp、q及びrがいずれも1〜10の整数であって且つp+q+r=7〜20を満足する整数である場合のものである請求項2記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項4】
B成分が、構成単位Dが分子中に7〜55個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である場合の水溶性ビニル共重合体であって且つ質量平均分子量が6000〜50000の水溶性ビニル共重合体から選ばれるものである請求項2又は3記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項5】
収縮低減用流動化剤が、A成分を75〜98質量%及びB成分を2〜25質量%(A成分とB成分の合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項2〜4のいずれか一つの項記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項6】
収縮低減用流動化剤を有効成分濃度が20〜70質量%となるように水で希釈した一液型の水溶液として用いる請求項1〜5のいずれか一つの項記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項7】
ベースコンクリートのセメントが普通ポルトランドセメント及び/又は高炉セメントである請求項1〜6のいずれか一つの項記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項8】
連行空気量を3〜6容量%となるようにする請求項1〜7のいずれか一つの項記載の低収縮AEコンクリートの調製方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つの項記載の低収縮AEコンクリートの調製方法によって得られる低収縮AEコンクリート。

【公開番号】特開2012−254890(P2012−254890A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127843(P2011−127843)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】