説明

低吸油性パン粉およびその製造法

【課題】フライした際の揚げ油の吸油量が低減されてなるパン粉およびその製造方法を提供する。またかかるパン粉を用いて調製される油ちょう食品、ならびにパン粉の吸油性を低減する方法を提供する。
【解決の手段】パン生地原料に、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合してパン生地を調製する工程、調製したパン生地を発酵後、焼成する工程、および焼成したパンを粉砕する工程を経てパン粉を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライした際の揚げ油の吸油量が低減されてなるパン粉およびその製造方法に関する。また本発明はかかるパン粉を用いて調製される油ちょう食品、ならびにパン粉の吸油性を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン粉を使用したフライ食品は、油で揚げた際のサクッとした食感とパン粉独特の食味によって、従来より沢山消費されている食品である。特に近年は、冷凍食品の生産技術や流通技術の向上によって、より大量に生産され、家庭の食卓はもちろん、外食産業や弁当業界にも不可欠のものになっている。
【0003】
フライ食品は、調理する際、パン粉やネタ素材に含まれる水分が揚げ油と交換されることで、食品に熱が伝わり、また、サクッとした食感と食味が向上する。しかし、その一方で、フライ食品の表層部にあるパン粉に大量の揚げ油が保持されることにより、カロリー摂取量が高くなってしまうという問題がある。このため、フライ食品の過食はカロリーの過剰摂取につながり、肥満や成人病などのいわゆるメタボリック症候群の原因となると考えられている。このため、昨今の肥満や成人病などの問題や、消費者の健康意識の高まりから、フライ食品は、過剰のカロリー摂取食品であるとして、需要が低下しているのが現状である。
【0004】
そこで、フライ食品のカロリー摂取量を低減するために、フライによる吸油量を抑えたパン粉が求められるようになっている。
【0005】
従来かかるパン粉の製造方法として、パン生地原料にプロテアーゼまたはアミラーゼを添加してパン中のグルテン蛋白質および澱粉質を酵素分解してパン粉を製造する方法(特許文献1):パン粉にとうもろこしから調製した食物繊維と大豆から調製した蛋白質とを配合する方法(特許文献2):オキアミの殻または成分を配合することでパンの気泡数を増加し、かつ気泡の大きさを小さくするように制御したパンからパン粉を製造する方法(特許文献3および4):小麦粉にトランスグルタミナーゼを作用させてパン粉を製造する方法(特許文献5);小麦粉にアルギン酸類またはアルギン酸類と増粘多糖類を配合してトランスグルタミナーゼを作用させてパン粉を製造する方法(特許文献6);グルタチオン高含有乾燥酵母を有効成分とする吸油抑制剤を加えてパン粉を製造する方法(特許文献7);およびパン生地原料に水溶性食物繊維を配合してパン粉を製造する方法(特許文献8)などが提案されている。
【0006】
上記特許文献8には、水溶性食物繊維としてグルコマンナン(こんにゃくマンナン)が開示されている。当該グルコマンナンは、日本の伝統食であるこんにゃくから調製される水溶性食物繊維である。しかし特許文献8には、グルコマンナンをそのままパン製造の原料として使用することが記載されているにすぎない。
【特許文献1】特開平6−169717号公報
【特許文献2】特開平7−246072号公報
【特許文献3】特開2003−284519号公報
【特許文献4】特開2008−11864号公報
【特許文献5】特開平8−56597号公報
【特許文献6】特開2004−208634号公報
【特許文献7】特開2005−80584号公報
【特許文献8】特開2006−271329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、油で揚げたときに吸油量が少なく、かつ油切れが良く、低カロリーで食感のよい油ちょう食品を調製することができる、低吸油性のパン粉およびその製造方法を提供することである。また本発明は、当該パン粉を用いて調理される油ちょう食品を提供することを目的とする。さらに本発明は、パン粉の吸油性を低減させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、こんにゃく粉をゾル化またはゲル化させた状態でパン生地原料に配合して焼成したパンから製造したパン粉が、通常の方法で製造したパン粉に比して有意に吸油量が低く、しかも油切れが良いことを見出し、かかるパン粉が従来の課題である低カロリーの油ちょう食品の調製に有効に用いることができること、さらにフライ後の食感(サクサク感)がよく、油ちょう食品の問題であるベタツキ感も低減できることを確認した。また、本発明の方法で製造したパン粉で調理した油ちょう食品は、電子レンジで再加熱した場合でも衣のヘタリが少なく、フライ後の食感(サクサク感)が維持できることを確認した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
【0010】
(I)低吸油性パン粉およびその製造方法
(I-1)(1)パン生地原料に、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合してパン生地を調製する工程、(2)調製したパン生地を発酵後、焼成する工程、および(3)焼成したパンを粉砕する工程を有する、低吸油性パン粉の製造方法。
(I-2)さらに(4)粉砕したパン粉を乾燥する工程を有する、(I-1)に記載する低吸油性パン粉の製造方法。
(I-3)上記こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルが、こんにゃく粉100重量部に1000〜6000重量部の水を用いて調製されるものである、(I-1)または(I-2)に記載する低吸油性パン粉の製造方法。
(I-4)パン生地原料中の小麦粉100重量部に対して、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を総量で10〜80重量部の割合で配合することを特徴とする、(I-1)乃至(I-3)に記載する製造方法。
(I-5)(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する製造方法で得られるパン粉。
【0011】
(II)油ちょう食品
(II-1)(I-5)に記載するパン粉を用いて調製されてなる油ちょう食品。
(II-2)上記油ちょう食品が、油ちょうするためにパン粉を用いて調製された油ちょう前の食品である(II-1)記載の油ちょう食品
(II-3)上記油ちょう食品が、油ちょう済食品である(II-1)記載の油ちょう食品。
【0012】
(III)パン粉の吸油性の低減方法
(III-1)パン粉の製造工程において、パン生地原料にこんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合する工程を有することを特徴とする、パン粉の吸油性を低減する方法。
(III-2)上記こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルが、こんにゃく粉100重量部に1000〜6000重量部の水を用いて調製されるものである、(III-1)に記載する方法。
(III-3)パン生地原料中の小麦粉100重量部に対して、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を総量で10〜80重量部の割合で配合することを特徴とする、(III-1)または(III-2)に記載する方法。
(III-4)(1)パン生地原料に、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合してパン生地を調製する工程、(2)調製したパン生地を発酵後、焼成する工程、および(3)焼成したパンを粉砕する工程を用いてパン粉を製造することを特徴とする、パン粉の吸油性を低減する方法。
(III-5)さらに(4)粉砕したパン粉を乾燥する工程を有する、(III-4)に記載する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、吸油率(吸油量)が少なく、かつ油切れの良いパン粉が得られるので、この方法を用いて各種フライ食品を製造すれば、吸油性を抑えてカロリーを低減した油ちょう食品を提供することができる。また、当該油ちょう食品は、油切れの良いためフライ後にベタツキがなく良好な食感(サクサク感)を有している。
【0014】
また、従来、フライ調理された食品(油ちょう食品)は、時間の経過に伴って、べたつきや油にじみなどが表れ、食感などの食味が悪くなるのが通例であったが、本発明のパン粉を用いて調製した油ちょう食品においては、吸油量の低減や油切れの良さなどにより、べたつきや油にじみが少なく、長時間の保存後も良好な食感(サクサク感)を有する。さらに、電子レンジでの再加熱においても同様の効果を有し、電子レンジ再加熱後もサクッとした食感を保つことができる。
【0015】
また、本発明のパン粉は、こんにゃくゲルまたはゾルの配合に基づいてグルコマンナンを含有しているため、血糖値とコレステロールの減少に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(I)低吸油性パン粉およびその製造方法
本発明の低吸油性パン粉は、パン粉の製造において、パン生地原料の一つとして、こんにゃくゲルまたはこんにゃくゾルを用いることを特徴とする。すなわち、本発明の低吸油性パン粉は、(1)こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合してパン生地を調製する工程、(2)調製したパン生地を発酵後、焼成する工程、および(3)焼成したパンを粉砕する工程を経て調製されることを特徴とする。
【0017】
ここでこんにゃくゾルは、こんにゃくの粉に水を配合して膨潤させることによって調製することができる。制限はされないが、具体的には、こんにゃくの粉を30℃以下の水に混合し、これを5〜10分間程度攪拌することによって調製することができる。なお、ここでこんにゃく粉に対する水の割合は、制限はされないが、こんにゃく粉100重量部に対して通常100〜6000重量部を挙げることができる。好ましくは2000〜5000重量部、より好ましくは2500〜3500重量部である。
【0018】
またこんにゃくゲルは、上記方法でこんにゃくゾルを調整する際にこんにゃく粉100重量部に対して、アルカリ剤を3〜10重量部、好ましくは5〜7重量部を加え、pH9以上、好ましくはpH10〜11.5にし、次いでそれらを攪拌しながら加熱することによって調製することができる。加熱温度や加熱時間は特に制限されないものの、通常60℃〜110℃、好ましくは70℃〜90℃の温度で、5〜40分程度、好ましくは5〜15分程度加熱することによって調製することができる。また、アルカリ剤としては、食物添加剤として使用されるアルカリ剤であって、こんにゃくゾルをpH9以上、好ましくはpH10〜11.5に調整できるものを挙げることができ、具体的には水酸化カルシウムや卵殻カルシウムなどのカルシウム塩、および炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩を例示することができる。
【0019】
本発明の低吸油性パン粉は、パン粉用パンの製造において、パン生地原料の一つとして、前述するこんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を用いる以外は、通常のパン粉用パンの処方および製造方法を用いて製造される。具体的には、まず、通常のパン粉用パンの製造におけるパン生地原料である、小麦粉、食塩、糖類、イースト、バター、および所望に応じて乳化剤などに、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を添加混合し、これに水を加えて混捏し、次いで所望により油脂(ショートニング)を加えて再び混捏して、パン生地を調製する。
【0020】
ここでこんにゃくゲルまたはこんにゃくゾルの配合割合としては、パン生地原料として使用する小麦粉100重量部に対して、総量で10〜80重量部、好ましくは20〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部を挙げることができる。10重量部より極度に少ないと本発明の効果の発現が少なくなる傾向があり、また80重量部より極度に多いと、原価が高騰し、またパン粉が固くなり過ぎる傾向があるため、いずれも好ましくない。
【0021】
斯くして調製されるパン生地は通常の発酵工程を経て、焼成される。パン生地を混捏、発酵させる方法は、特に制限されず、いわゆる中種法および直捏庖(ストレート法)のいずれの方法も用いることができる。パン生地の焼成方法も特に制限されず、通常使用される培焼式および電極式のいずれの方法も用いることができる。
【0022】
斯くして焼成されたパンは、次いで粉砕することによりパン粉として調製される。粉砕方法は特に限定されず、定法に従って行うことができ、通常45メッシュ程度のパン粉パウダーから2メッシュ程度の粗目パン粉となるように粉砕される。好ましくは、吸油性と食感の点から、5メッシュ以上、より好ましくは10メッシュ以上になるように粉砕調整される。
【0023】
粉砕後のパン粉は、その後乾燥して、いわゆる干パン粉(ドライパン粉)、あるいはセミドライパン粉とすることもできるし、また乾燥工程を経ずして、生パン粉として使用することもできる。すなわち、本発明のパン粉には、干パン粉(ドライパン粉)、セミドライパン粉、および生パン粉のいずれもが含まれる。吸油性の低さから、好ましくは干パン粉(ドライパン粉)である(実験例2参照)。
【0024】
なお、本発明において「低吸油性」とは、パン粉の油ちょうによる吸油率が低いことを意味する。具体的には、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルのいずれをも配合せずに他の条件は同じにして製造したパン粉の吸油率(油ちょう後の重量増加率)に対して、吸油率が低い場合に、当該パン粉を「低吸油性」であるということができる。本発明のパン粉は、こんにゃくゲルやこんにゃくゾルの含水率およびその使用量、ならびにパン粉の乾燥度合い等によって異なるが、その吸油率は、通常20〜36%程度であり、こんにゃくゲルやこんにゃくゾルを用いず他の条件は同じにして調製されるパン粉の吸油率(通常35〜60%程度)よりも、約5〜40%の割合で低い吸油率を有する。
【0025】
本発明は、斯くして調製されるパン粉を用いて調製される油ちょう食品をも提供するものである。本発明でいう油ちょう食品とは、パン粉を含む食品であって油を用いて調理される食品を意味し、具体的には揚げ物(フライ)を例示することができる。揚げ物(フライ)の素材(ネタ)は、特に制限なく、肉類、魚介類、および野菜・山菜を広く挙げることができる。
【0026】
なお、本発明で対象とする油ちょう食品には、油ちょう済みのものだけでなく、油ちょう用に調理されているものの油ちょう前の状態にあるものも含まれる。また冷凍の有無も問わず、油ちょう済みの状態で冷凍されたもの、ならびに油ちょう前の状態で冷凍されているものも含まれる。
【0027】
(II)パン粉の吸油性を低減する方法
本発明はパン粉の吸油性を低減する方法を提供する。
【0028】
当該方法は、パン粉用パンのパン生地原料の一つにこんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を用いて、パン粉を調製することによって実施することができる。具体的には、パン粉用パンの製造工程において、(1)パン生地原料に、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合してパン生地を調製する工程、(2)調製したパン生地を発酵後、焼成する工程、および(3)焼成したパンを粉砕する工程を用いてパン粉を製造することによって実施することができる。また、必要に応じて、粉砕したパン粉を、さらに(4)乾燥する工程に供してもよい。
【0029】
ここで使用するこんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルの調製方法やその含水率、およびパン粉の製造におけるその使用量、ならびにそれを用いたパン粉の製造方法など、いずれも(I)にて前述した通りであり、パン粉の吸油性を低減する方法においても、これらの記載を援用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実験例および実施例を用いて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例等になんら限定されるものではない。
【0031】
参考調製例1 こんにゃくゾルの調製方法
こんにゃく粉((株)誠実村製)1kgに、30℃の水33kgを添加して10分間撹拌して膨潤させ、ゾル状にした。これをこんにゃくゾル(33)として、以下の実験に使用した。
【0032】
参考調製例2 こんにゃくゲルの調製方法
こんにゃく粉((株)誠実村製)1kgに、30℃の水25kg、33kgまたは40kgと水酸化カルシウム50gを添加して15分間撹拌しながら、85℃でさらに30分間加熱してゲル状にした。これらをそれぞれこんにゃくゲル(25)、こんにゃくゲル(33)、およびこんにゃくゲル(40)として、以下の実験に使用した。
【0033】
実施例1〜5 こんにゃくゾルを用いたパン粉の製造方法
参考調製例1に記載する方法で調製したこんにゃくゾル(33)を用いて、表1に記載する各処方に基づいて定法に従って食パンを製造した(実施例1〜5)。また対照例1として、こんにゃくゾルを配合せず、それ以外は同様の方法により食パンを製造した。具体的には、まずパン生地原料として表1に記載する全成分をミキサーで混合した。こうしてできたパン生地を生地ボックスに入れて一次発酵させ、その後、等量分割し、ラウンダーによって丸めた。丸めた生地は、ベンチ処理し、ガス抜き後、パン型に詰める。型詰したパン生地をホイロに入れて二次発酵させ、電極式焼成機もしくは焙焼式焼成機で焼成して食パンを製造した。次いで、これらを十分放冷し、これをフードカッターで7秒間粉砕して生パン粉を作成した(実施例1〜5の生パン粉)。また、これを60℃で70分間送風乾燥して干パン粉を作成した(実施例1〜5の干パン粉)。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例6〜10 こんにゃくゲルを用いたパン粉の製造方法
参考調製例2に記載する方法で調製したこんにゃくゲル(33)を用いて、表2に記載する各処方に基づいて、実施例1〜5と同様に、定法に従って食パンを製造した(実施例6〜10)。また対照例1として、こんにゃくゲルを配合せず、それ以外は同様の方法により食パンを製造した。これをフードカッターで7秒間粉砕して生パン粉を作成した。また、これを60℃で70分間乾燥して干パン粉を作成した。
【0036】
また、こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を用いて、表2に記載する各処方に基づいて同様にして食パンを製造し(こんにゃくゲル(25):実施例11〜15、こんにゃくゲル(40)実施例16〜20)、同様に生パン粉(実施例11〜20の生パン粉)と干パン粉(実施例11〜20の干パン粉)を作成した。
【0037】
【表2】

【0038】
こんにゃくゲル(33)を小麦粉100重量部に対して30重量部の割合で使用して作製した実施例7の生パン粉および干パン粉の成分分析結果を表3に示す。なお、成分分析は、五訂日本食品標準成分表に準拠して行った。また、比較のため、市販の生パン粉(n=2)と干パン粉(n=6)の成分分析結果を併せて記載する。
【0039】
【表3】

【0040】
表3に示すように実施例7の生パン粉及び干パン粉の水分活性は、それぞれ、0.977、0.573であり、市販の生パン粉及び干パン粉とほぼ同等のものであることが確認された。なお、生パン粉は、脱酸素剤などを使用して脱酸素包装するか、または窒素置換包装することにより、また干パン粉はそのままで、長期保存することが可能であった。
【0041】
実験例1 こんにゃくゾルまたはゲルがパン粉の吸油性に及ぼす影響
参考調製例1および2に記載する方法で調製したこんにゃくゾル(33)およびこんにゃくゲル(33)を、それぞれ小麦粉100重量部に対して30重量部の割合で配合して焼成した食パン(実施例2および7)から調製した干パン粉(実施例2および7の干パン粉)と、こんにゃくゾルおよびこんにゃくゾルのいずれも使用しないで焼成した食パン(対照例1)から調製した干パン粉(対照例1の干パン粉)について、下記の方法により吸油率を比較した。
【0042】
(1)油ちょう
上記各干パン粉(実施例2および7の干パン粉、対照例1の干パン粉)をそれぞれ20g、そのまま180℃の油にいれ30秒間揚げた後、網の上に上げて油をきった。
【0043】
(2)吸油率の測定
上記で油ちょうした各パン粉を、五訂増補日本食品標準成分表(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会)の記載に基づいてジエチルエーテルによるソックスレー抽出法に供し、パン粉中に含まれる脂質量を測定した。
【0044】
結果を図1に示す。小麦粉にこんにゃくゾルおよびこんにゃくゲルのいずれも配合しないで作製したパン粉(対照例1の干パン粉)の吸油率は36.7%であったのに対して、小麦粉にこんにゃくゾル(33)およびコンニャクゲル(33)をそれぞれ30重量%配合して作製したパン粉の吸油率は、それぞれ33.4%および31.6%であった。このことから、パン生地原料に、こんにゃくゾルまたはこんにゃくゲルを配合することによって、吸油性が低減したパン粉が調製でき、こんにゃくゾルおよびこんにゃくゲルを配合しないパン粉に比して、油ちょうした場合の脂質量をそれぞれ約9.1%および約14%カットすることができることが判明した。また、この結果より、こんにゃくゾルよりもこんにゃくゲルのほうがパン粉の吸油性を抑制する効果に優れており、油ちょうした場合の脂質カット率が高いこともわかった。
【0045】
ちなみに、表3に記載する市販の干パン粉(n=6)と生パン粉(n=2)の平均吸油率は、それぞれ44.1%および57.9%と極めて高かった。
【0046】
実験例2 こんにゃくゲルがパン粉の吸油性に及ぼす影響
上記実験例1の結果から、こんにゃくゾルよりもこんにゃくゲルの方が、パン粉の吸油性を低下させる能力に優れていることが分かったので、ここでは、こんにゃくゲルを使用して実験した。
【0047】
(1)こんにゃくゲルが生パン粉の吸油性に及ぼす影響
参考調製例2で調製したこんにゃくゲル(33)を、小麦粉100重量部に対してそれぞれ0、20、30、40、60および80重量部の割合で配合して作製した生パン粉(対照例1の生パン粉、実施例6〜10の生パン粉)について、実験例1と同様にして吸油率を測定した。また同様に、こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を使用して作製した生パン粉(実施例11〜20の生パン粉)についても同様に吸油率を測定した。
【0048】
結果を図2に示す。
【0049】
図2からわかるように、こんにゃくゲル(33)を、小麦粉100重量部に対して0、20、40、60、および80重量部の割合で配合して作製した生パン粉の吸油率は、それぞれ40.7%、35.8%、32.3%、30.8%、および29.4%であり、こんにゃくゲル(33)の配合量の増加に応じて吸油率が低下すること、その結果、油ちょうした場合の脂質をカットできることが判明した。こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を用いた場合も同様の結果が得られた。ちなみに、こんにゃくゲル(33)、こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を使用して作製した生パン粉は、いずれもこんにゃくゲルを小麦粉100重量部に対して60重量部配合することによって、こんにゃくゲルを配合しない場合に比して、油ちょうした場合の脂質を約20%カットすることができることがわかった。また、こんにゃくゲルの配合量が増加するに伴って、油ちょう後の食感がクリスピーな硬い食感になることが確認された。その理由として、特に制限はされないものの、パン粉に配合したこんにゃくゲルが、加熱によって硬化すること、またパン粉中の水分と強く結合して油の侵入をはじき出しているためと考えられる。
【0050】
(2)こんにゃくゲルが干パン粉の吸油性に及ぼす影響
こんにゃくゲル(33)を、小麦粉100重量部に対して0、20、40、60および80重量部の割合で配合して作製した干パン粉(対照例1の干パン粉、実施例6〜10の干パン粉)について、実験例1と同様にして吸油率を測定した。また同様に、こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を使用して作製した干パン粉(実施例11〜20の干パン粉)についても同様に吸油率を測定した。
【0051】
結果を図3に示す。
【0052】
図3からわかるように、こんにゃくゲル(33)を、小麦粉100重量部に対して0、20、40、60、および80重量部の割合で配合して作製した干パン粉の吸油率は、それぞれ35.4%、29.2%、25.3%、24.0%および22.4%であり、こんにゃくゲル(33)の配合量が増加するに応じて吸油率が低下すること、その結果、油ちょうした場合の脂質をカットできることが判明した。こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を用いた場合も同様の結果が得られた。ちなみに、こんにゃくゲル(33)、こんにゃくゲル(25)およびこんにゃくゲル(40)を使用して作製した干パン粉は、いずれもこんにゃくゲルを小麦粉100重量部に対して60重量部配合することによって、こんにゃくゲルを配合しない場合に比して、油ちょうした場合の脂質を約30%カットすることができることがわかった。また、生パン粉と同様に、こんにゃくゲルの配合量が増加するに伴って、油ちょう後の食感がクリスピーな硬い食感になることが確認された。
【0053】
実験例3 パン粉の粒度が吸油性に及ぼす影響
参考調製例2で調製したこんにゃくゲル(33)を、小麦粉100重量部に対して30重量部の割合で配合して調製した食パンから調製した生パン粉および生パン粉を、それぞれ多層式振動ふるい機にかけて、粒度毎に分別(分画)した。なお、パン粉を多層式振動ふるい機にかけて、パン粉が通過した直近の篩いのメッシュを、そのパン粉画分のメッシュとした。
【0054】
各画分のパン粉(生パン粉、干パン粉)について、それぞれ実験例1の方法に従って吸油率を測定した。生パン粉の結果を図4、干パン粉の結果を図5に示す。この結果から、パン粉の粒度を5メッシュ以上、好ましくは10メッシュ以上に調整することで、より低い吸油率を有するパン粉を調製することが判明した。
【0055】
実験例4
<実験方法>
(1)対照例1と実施例2および7の生パン粉を、トリ胸肉の表面にまぶしてチキンカツを作製し、油ちょう前に冷凍した(冷凍チキンカツ、各10枚ずつ)。これを冷凍のまま、180℃の菜種サラダ油で4分間揚げ、30秒間軽く油切りした後、あらかじめ重量を測定した、重ねたキッチンペーパーの上に置いて10分間油切りをした。その後、キッチンペーパーの重量を測定して、先に測定した重量との差から、油切りによりチキンカツから放出された油の重量を測定した。
(2)その後、5℃条件下で24時間保管し、その後それを試食して食感を評価した。
(3)また、5℃条件下で24時間保管したものを電子レンジで再加熱し、加熱後のチキンカツを試食して食感で評価した。
【0056】
<実験結果>
(1)の結果を表4に、(2)および(3)の結果を表5に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
この結果から、こんにゃくゾルまたはこんにゃくゲルを配合して調製したパン粉を用いて調理した油ちょう食品(チキンカツ)は、油切りがよく、フライに余分な油が残留しにくいことが判明した。また油切り効果は、こんにゃくゾルを使用するよりもこんにゃくゲルを使用するほうが高かった。
【0059】
【表5】

【0060】
この結果からわかるように、こんにゃくゾルまたはこんにゃくゲルを配合して調製したパン粉を用いて調理した油ちょう食品(チキンカツ)は、油ちょう後、1日間放置してもベタツキの発生が抑えられ、サクッとした食感を維持しており、また電子レンジで再加熱した場合でも、衣のヘタリが抑えられ、サクッとした食感を維持または復元できることが判明した。またこうした効果は、こんにゃくゾルを使用するよりもこんにゃくゲルを使用するほうが高かった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】こんにゃくゾルおよびこんにゃくゲルが、干パン粉の吸油率に及ぼす影響を示す(実験例1)。灰色バーは吸油率(%)を、黒バーはカット率(%)を示す。
【図2】こんにゃくゲル(25)、こんにゃくゲル(33)およびこんにゃくゲル(40)が、生パン粉の吸油率に及ぼす影響を示す。
【図3】こんにゃくゲル(25)、こんにゃくゲル(33)およびこんにゃくゲル(40)が、干パン粉の吸油率に及ぼす影響を示す。
【図4】こんにゃくゲルを配合して調製した生パン粉の粒度が吸油率(%)に及ぼす影響を示す。
【図5】こんにゃくゲルを配合して調製した干パン粉の粒度が吸油率(%)に及ぼす影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)パン生地原料に、こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合してパン生地を調製する工程、
(2)調製したパン生地を発酵後、焼成する工程、および
(3)焼成したパンを粉砕する工程を有する、
低吸油性パン粉の製造方法。
【請求項2】
さらに(4)粉砕したパン粉を乾燥する工程を有する、請求項1に記載する低吸油性パン粉の製造方法。
【請求項3】
上記こんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルが、こんにゃく粉100重量部に1000〜6000重量部の水を用いて調製されるものである、請求項1または2に記載する低吸油性パン粉の製造方法。
【請求項4】
パン生地原料中の小麦粉100重量部に対してこんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を、総量で10〜80重量部の割合で配合することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載する低吸油性パン粉の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載する製造方法で得られる低吸油性パン粉。
【請求項6】
請求項5に記載する低吸油性パン粉を用いて調製されてなる油ちょう食品。
【請求項7】
パン粉の製造工程において、パン生地原料にこんにゃくゲルおよびこんにゃくゾルからなる群から選択される少なくとも1種を配合する工程を有することを特徴とする、パン粉の吸油性を低減する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−291105(P2009−291105A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146497(P2008−146497)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(591130021)株式会社誠実村 (2)
【出願人】(504347555)株式会社中温 (5)
【Fターム(参考)】