説明

低吸湿性光学用芳香族ビニル系樹脂組成物

【課題】透明性が良好で成形性の高い、吸湿性が低減された光学用芳香族ビニル系樹脂組成物の提供。
【解決手段】全単量体を基準に、芳香族ビニル系単量体が95〜70重量%、メタクリル酸メチルが5〜30重量%の割合で、かつ両者の合計が80重量%以上となる原料を用いて共重合されてなる共重合体であって、重量平均分子量が10ないし106の範囲で、灰分0.3重量%以下、残存する揮発分の合計量をT重量%、残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニルを両方含むオリゴマーの合計量をP重量%としたときに、T≦0.5、0.05≦P≦1かつ0.1≦(T+P)≦1であり、残存するメタクリル酸メチル成分のみからなるオリゴマーをM重量%、芳香族ビニル成分のみからなるオリゴマーをS重量%としたときにM+S≦0.2重量%であり、ビカット軟化点が95〜110℃である透明性と成形性の良好な低吸湿性光学用芳香族ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途の中でも吸湿による寸法変化、反りが厳密に要求される部品、例えば大型画面プロジェクションテレビのスクリーン用に用いられるフレネルレンズやレンチキュラーレンズ、液晶表示装置のバックライト用導光板や直下型液晶表示装置における光拡散板などの透明部品等の材料として用いられる低吸湿性光学用芳香族ビニル系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学用部品、例えばコンパクトディスクやデジタルビデオディスク等の光学ディスク、液晶表示装置のバックライト用導光板や拡散板、プロジェクションテレビの透過型スクリーンのような光学スクリーンのフレネルレンズシートやレンチキュラーレンズシートのようなレンズシートおよび該レンズシートを保護するフロントパネル等の材料としては、透明性、特に光学特性の観点から、従来、メタクリル酸メチル樹脂が採用されている。
しかしながら、メタクリル酸メチル樹脂は吸湿性が大きく、吸湿による寸法変化、反りが起こりやすいという問題がある。
また、最近の光学用部品は非常に精密な加工が施されるようになってきたため、わずかな寸法変化や反りによって組み立てに支障が出たり、特にシート状の製品、例えば導光板や拡散板等が反ると両面の拡散フィルムや反射フィルムと密着するため画面が不安定になって表示ムラ等が生じるなどの現象が現れて、品質的にも無視できなくなってきている。
さらに最近の市場動向としてはプロジェクションテレビおよび液晶テレビ、液晶モニターの大型化に伴い、先の現象がより起こりやすいため、大きな問題となりうる可能性がある。
一方で、液晶テレビ、液晶モニターの最近の市場動向として、導光板の端部から光を取り入れて全面発光させる「エッジ型」から、全面から光を取り入れて全面発光させる「直下型」に変わりつつあり、従来ほど厳密な光学特性が必要なくなっている。
メタクリル酸メチル樹脂の吸湿性を改善するためにメタクリル酸メチルと共に吸湿性を低減する効果のある特定のコモノマーを共重合させる技術が知られている。例えば特開平2−254434号公報(特許文献1)や特許第2678030号公報(特許文献2)に記載の樹脂は、メタクリル酸―4−tert−ブチルシクロヘキシル単位の導入により吸湿性の低減がなされているが、高価なメタクリル酸―4−tert−ブチルシクロヘキシルを使用しなければならないという問題がある。
一方、メタクリル酸メチル系樹脂の吸湿性を改善するために特定量の芳香族ビニル系単量体、例えばスチレンを共重合することで吸湿性をある程度小さくする技術が知られている。例えば、特公平7−14967号公報(特許文献3)には透明性の優れたメタクリル酸メチル‐スチレン共重合体の製造方法が記載されており、特開2001−342263号公報(特許文献4)、特開平9−302176号公報(特許文献5)にはスチレンを共重合させたスチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂が、吸湿性を改良した光学材料用の樹脂として記載されている。
しかしながらスチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂においては、共重合樹脂中のメタクリル酸メチルが少なくなるほど、光学特性が劣ることが知られている。
従来のメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を主成分とする共重合体は、光学用途にはメタクリル酸メチルに対して芳香族ビニル系単量体が10〜50重量%からなる重合体が用いられている。すなわち芳香族ビニル系単量体が10重量%を下回る場合には吸湿性の改善効果が小さく、成形体の寸法変化や反りの改善がなされない。一方、吸湿性をさらに改善するために芳香族ビニル系単量体の量が50重量%を越える場合には、成形加工時にヤケや異物が発生し易く、製品の耐光性と透明性が低下して、無色透明な成形品を得ることが困難になる。
特開2002−114822号公報(特許文献6)にはヤケを防止して、異物の発生を防ぐために残存単量体の量を1000ppm以下とすることで記載されているが、成形品の透明性が悪くなってしまうという問題がある。
【0003】
メタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を主成分とする共重合体の吸湿性をさらに改善するためには芳香族ビニル系単量体をさらに増やして芳香族ビニル系単量体を主成分とする芳香族ビニル系樹脂組成物とする必要があるが、芳香族ビニル系単量体の比率を増やそうとするとヤケや異物が発生し着色や透明性の低下が顕著になり、さらにメタクリル酸メチル量が減ることにより光学特性も低下し、光学用部品向けの材料としては使用できないという問題がある。
このような問題は、実際には芳香族ビニル系単量体の量が50重量%以下のメタクリル酸メチルを主成分とするメタクリル酸メチル‐スチレン共重合体でも少なからず発生しており、基本的にメタクリル酸メチル‐スチレン共重合体で見られる着色や透明性の低下の問題を解決することで芳香族ビニル系単量体を主成分とする芳香族ビニル系樹脂組成物の着色や透明性の低下を防止して、光学用部品用途に使用できる可能性がある。
一般に単量体等の揮発性成分が共重合体中に残存すると、成型加工時に加熱されて着色や暗色の異物の原因となり、特に芳香族ビニル系単量体が多量に残存しているとこれらの現象が起こりやすいことが知られている。ただしメタクリル酸メチル樹脂や芳香族ビニル系樹脂中に残存するスチレンやメタクリル酸メチルの単量体、2量体と3量体の含有量を単純に少なくしようとしても透明性は良くならず、逆に着色したり透明性が悪くなってしまう問題がある。例えば特許文献6に記載されているように、残存単量体が少なければヤケが少なくなり、異物が発生しにくくなる効果があるが、成形性が悪くなって、実際の成形加工時には成形温度を高くする必要があり、成形温度を高くすることにより異物が発生したり、最終製品が着色して透明性が悪くなるために、光学用部品向けには使用できないという問題がある。さらに、単量体等の揮発性成分が共重合体中に残存すると、製品の耐熱性を低下させるという問題がある。
一方、樹脂中に含まれるオリゴマー量が多くなると可塑化効果により、樹脂の流動性が改良されるが、着色や異物の原因になりやすく、シルバーが発生して金型汚染や目ヤニの原因となる。さらに透明性も低下することが経験上知られている。これは芳香族ビニル系樹脂とメタクリル酸メチル樹脂とは非相容系であり、メタクリル酸メチル樹脂に低分子量の芳香族ビニル系樹脂を極少量でも混合させる、あるいはその逆に芳香族ビニル系樹脂に低分子量のメタクリル酸メチル樹脂を混合すると白濁することと関係があることが推測される。
【特許文献1】特開平2−254434号公報
【特許文献2】特許第2678030号公報
【特許文献3】特公平7−14967号公報
【特許文献4】特開2001−342263号公報
【特許文献5】特開平9−302176号公報
【特許文献6】特開2002−114822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、これら問題点を解決し、透明性が良好で成形性の高い、吸湿性が低減された光学用芳香族ビニル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、メタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体の共重合体で見られる着色や透明性の低下の問題を解決するため、特定の共重合比の樹脂中に含まれる揮発性成分とオリゴマー成分を分析して、各成分の量と樹脂の着色、透明性との関係を詳細に検討した結果、特定の成分とその含有量のバランスによって着色、透明性が改善されることを見出すに至った。すなわち残存する揮発分と残存するオリゴマーの種類と量の関係に関して特定の残量物組成を有する芳香族ビニル系樹脂組成物の透明性が高く、成形加工性が良好になり、機械物性の優れた光学部品の材料として用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、全単量体を基準に、芳香族ビニル系単量体が95〜70重量%、メタクリル酸メチルが5〜30重量%の割合で、かつ両者の合計が80重量%以上となる原料を用いて共重合されてなる共重合体であって、重量平均分子量が10ないし106の範囲で、灰分が0.3重量%以下で、かつ残存する揮発分の合計量をT重量%、残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量をP重量%としたときに、T≦0.5、0.05≦P≦1かつ0.1≦(T+P)≦1であり、残存するメタクリル酸メチル成分のみからなるオリゴマーをM重量%、芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーをS重量%としたときにM+S≦0.2重量%であり、さらにビカット軟化点が95〜110℃であることを特徴とする透明性と成形性の良好な低吸湿性光学用芳香族ビニル系樹脂組成物に係るものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、透明性が良好で成形性の高い、吸湿性が低減された光学用芳香族ビニル系樹脂組成物が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の光学用芳香族ビニル系樹脂は、該樹脂を構成する単量体として、芳香族ビニル系単量体を95〜70重量%、好ましくは90〜75重量%、より好ましくは85〜78重量%含むものであり、かつ、メタクリル酸メチルを5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%、より好ましくは15〜22重量%含むものである。
このように芳香族ビニル系単量体を70重量%以上とすることにより吸湿性が大幅に小さくなり、メタクリル酸メチルを30重量%以下としても成形加工性の良好な透明樹脂を得ることができる。またメタクリル酸メチルが5重量%以下では成形加工時にヤケや異物が発生し易く、製品の耐光性と透明性が低下して、無色透明な成形品を得ることが困難になるので好ましくない。
上記芳香族ビニル系単量体は芳香族環にビニル基またはα−アルキルエテニル基が結合した化合物であるが、中でもベンゼン環にビニル基またはα−アルキルエテニル基が結合したスチレン類が好ましく、該スチレン類としては、スチレンの他、スチレンのα位および/またはベンゼン核にアルキル基やハロゲン原子のような置換基を有する置換スチレンが挙げられる。中でも、スチレンあるいはα−メチルスチレンが好ましい。
【0009】
本発明の芳香族ビニル系系樹脂は、必要に応じて、該樹脂を構成する単量体として、メタクリル酸メチルや芳香族ビニル系単量体以外に、これらと共重合可能な不飽和単量体を20重量%以下含むものであってもよい。該不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルのようなアクリル酸アルキル類;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ラウリルのようなメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルのような不飽和ニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸のような不飽和カルボン酸類、N−フェニルマレイミド等のイミド類等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0010】
本発明の芳香族ビニル系樹脂は、重量平均分子量が10〜106であり、かつ、灰分が0.3重量%以下、好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下である。
【0011】
本発明では樹脂中に残存する揮発分の量と残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの量、さらに残存するメタクリル酸メチル系単量体成分のみからなるオリゴマーと芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーの量を特定の範囲とすることにより透明性と成形加工性のバランスを高めることができる。すなわち残存する揮発分の合計量をT重量%、残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量をP重量%としたときに、T≦0.5、0.05≦P≦1かつ0.1≦(T+P)≦1とすることで透明性と成形加工性のバランスが飛躍的に向上する。残存する揮発分が0.5重量%よりも多いと、成形加工時にヤケや異物が増えるので好ましくない。また残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量が0.1重量%よりも少ないと成形加工性が極端に悪くなり、それに伴って透明性も悪くなるので好ましくない。一方残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量が1重量%よりも多くても成形加工時に目やにや異物が増えるだけでなく、耐熱性が低下し、透明性が悪くなるので好ましくない。残存するメタクリル酸メチルあるいは芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーの合計量すなわち残存するメタクリル酸メチル系単量体成分のみからなるオリゴマーをM重量%、芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーをS重量%としたときにM+Sが0.2重量%以上であると透明性が極端に悪くなるので好ましくない。
【0012】
なお本発明のオリゴマーとは、低分子量の重合体であり、2ないし4量体を言う。すなわちメタクリル酸メチル単量体単位をmとして、2量体をmmと3量体をmmmと4量体をmmmmとして、それらの合計の割合がメタクリル酸メチル成分のみからなるオリゴマーのM重量%であり、同様に芳香族ビニル系単量体単位をsとして、2量体をssと3量体をsssと4量体をssssとして、それらの合計の割合が芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーのS重量%であり、ms、mms、mssからなる2量体と3量体の合計の割合がメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量のP重量%である。
【0013】
このように、残存する揮発分の量と残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの量を特定の範囲とすることにより、樹脂の流動性を高めることができ、成形加工の際、あまり高温にする必要がないため、樹脂の着色や発泡を防止することが可能となる。さらに特定のオリゴマーの量を特定の範囲とすることにより透明性が高まり、光学用途に使用可能な高透明性の成形加工製品を得ることができる。
【0014】
本発明の芳香族ビニル系樹脂は、前記特定組成の単量体を原料として、これらを塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法等の方法で共重合させることにより、製造することができる。これらの方法で製造される重合組成物の残存揮発分の量と残存するオリゴマーの量を調整する方法は、特に制限はなく、製造時の条件を変える方法で調整することができる。
【0015】
例えば樹脂中の残存揮発分の量を調整する方法としては揮発性物質を除去する条件をコントロールする方法が容易であり、例えば樹脂に揮発性物質の蒸発に要する熱量と樹脂が溶融流動性を保持できる熱量を予熱器から与え、真空脱気槽や押出機のベント口から揮発性物質を除去する工程で、与えられる熱量と真空度のバランスを調整することで所望の残存揮発分量の樹脂組成物が得られる。
【0016】
またオリゴマー量は重合条件と脱揮発工程の条件に主として依存しており、重合温度、重合時間、モノマー濃度、触媒の種類や有無等の重合条件を調整することで所望のオリゴマー量の重合体を製造することができる。
また芳香族ビニル系樹脂は高温下で熱分解が起こり易く、その結果オリゴマーが増加する。また上記の揮発性物質を除去する時に単純に加熱温度を上げていくと残存モノマ−が予熱器中で重合反応が進行して、オリゴマーの量が増加する。従って脱揮発工程の温度と加熱時間をコントロールすることでオリゴマーの量を調整することも可能である。
【0017】
得られた芳香族ビニル系樹脂には、必要に応じて、光拡散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、可塑剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、耐衝撃賦与成分等の添加剤を1種または2種以上配合してもよい。これらの添加剤を芳香族ビニル系樹脂に配合する方法としては、例えば、スーパーミキサー等の混合機で混合した後、押出機で溶融混練する方法等が挙げられる。
【0018】
本発明の芳香族ビニル系樹脂は、必要な剛性を有し、吸湿性が大幅に低減されていることから、寸法変化、反りが厳密に要求される光学用部品、例えば大型画面プロジェクションテレビのスクリーン用に用いられるフレネルレンズやレンチキュラーレンズ、直下型液晶表示装置の光拡散板などの透明部品等の材料として好適に用いられる。
【0019】
「実施例」以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
なお、樹脂の組成分析は(FT−IR)、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により測定した。試料を下記溶媒に溶解せしめて下記記載のGPC測定条件にて測定した。
装置名:SYSTEM−21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel
MIXED−Bを3本直列温度 :40[℃]
検出 :示差屈折率溶媒 :テトラヒドロフラン濃度 :2質量%検量線:標準PS(PL社製)に準拠(分子量はPS換算値)
【0021】
未反応単量体の測定は下記記載のガスクロマトグラフィーを用い、内部標準法で測定した。
装置名:GC−12A(島津製作所社製)
カラム:キャピラリーカラム φ0.25[mm]×30[m]
定量法:内部標準法(n‐ヘキシルベンゼン)
【0022】
オリゴマーの測定は、前処理した試料に含まれるオリゴマー分を前記未反応単量体の測定に用いたと同じガスクロマトグラフィー法で絶対検量線法で測定し、すべての2量体と3量体と一部の4量体を定量した。メタクリル酸メチル単量体単位をmとして、2量体をmmと3量体をmmmと4量体をmmmmの合計の割合がメタクリル酸メチル成分のみからなるオリゴマーM重量%であり、同様に芳香族ビニル系単量体単位をsとして、2量体をssと3量体をsssと4量体をssssの合計の割合が芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーS重量%として、ms、mms、mssの合計の割合がメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量P重量%とした。
前処理は樹脂1gを予めMEK10mlに溶解し、メタノール10mlを加えて不溶物を濾過して除去した。
【0023】
吸水率は、得られたペレットを、80℃のオーブン中に24時間放置し絶乾状態にした後、60℃×95%RH恒温恒湿槽にて100時間吸湿させた時の重量変化を測定した(単位:%)。
【0024】
成形加工性は、ISO 1133に準じてメルトボリュームレイトを測定した。
220℃×10kg荷重(単位:cm3/10min)。
【0025】
耐熱性は、ASTM D−1525に準じて、ビカット軟化点を測定した。荷重5kgf(単位:℃)。
【0026】
熱安定性は、ハヤブサ鉄工所(株)製射出成形機(HP−100)を用いて、100mm×150mm×3mm寸法の試験片を成形する際に、金型温度60℃および射出速度30%一定で、シリンダー温度を変更し、シルバーが発生する時の温度を求めた。(単位:℃)
【0027】
ヤケ、着色については、東芝機械(株)社製射出成形機(IS−90B)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で40mm×120mm×2.5mm寸法の試験片を成形し色相用試験片とした。この試験片を用い、(株)村上色彩技術研究所製色差計CMS−35を用いて、JIS K7105に準拠して透過法により黄色度YI値を測定した。
【0028】
異物は、色相用試験片用い、試験片表裏面について異物の有無を観察し、異物の大きさとその個数を測定する。異物の大きさの区分は、拡大鏡を使用して、「塵埃計測図表」と比較して目視判定する。異物の大きさの分類は、
a:0.03mm2 〜 0.05mm2
b:0.05mm2 〜 0.10mm2
c:0.10mm2 以上
の3段階とした。さらにその個数をもとに、a:20個以内、b:10個以内、c:0個を○(良好)と判定し、それ以上個数が存在する場合は×(異物多い)と判定することとした。
【0029】
光学特性は、日本製鋼所(株)社製射出成形機(J150EP)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度60℃の条件で100mm×300mm×4mm寸法の試験片を成形し光学特性測定用試験片とした。日立製作所製自記分光光度計U−4000を用いて、400nmおよび500nmにおける全光線透過率を測定した(単位:%)。
【0030】
そりは、光学特性測定用試験片を用いて、50℃×95%RH条件下において30日間放置した前後の反り変計量を測定した(単位:mm)。
【0031】
灰分は、試料約10gを質量の分かった白金るつぼに正確に量り取り、ドラフトチャンバー内に設置した電気こんろ上で灰化した後、800℃に温度設定した電気炉内に白金るつぼを移し4時間放置する。その後白金るつぼを取り出しデシケーター中で放冷後その重量を量り、その重量差から灰分量(%)を算出した。
【0032】
〔実施例1〕
容積が30リットルの完全混合槽(攪拌装置およびジャケット付のオートクレーブ「新ポリマー製造プロセス」工業調査会、佐伯康治/尾見信三著、231頁、図8.17記載の三井東圧化学タイプと同種の反応槽)を第一反応器として、容積約40Lの攪拌機付塔式プラグフロー型反応器(同「新ポリマー製造プロセス」工業調査会、佐伯康治/尾見信三著、185頁、図7.5記載の三井東圧化学式と同種の塔式反応槽)を第二反応器として直列に接続し、さらに予熱器を付した脱揮槽(同「新ポリマー製造プロセス」工業調査会、佐伯康治/尾見信三著、231頁、図8.18記載の三井東圧化学タイプと同種の発泡型真空脱揮槽)を2基直列に接続して構成した重合装置を用いた。スチレン80重量%、メタクリル酸メチル(以下MMA)20重量%で構成する単量体溶液96質量部に対し、エチルベンゼン4重量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部、t−ドデシルメルカプタンを0.1質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時10kgで130℃に制御した第一反応器に供給した。第一反応器出口での転化率は40重量%であった。さらに単量体溶液を流れの方向に向かって125℃から160℃の勾配がつくように調整した第二反応器に導入した。第二反応器出口での転化率は75質量%であった。次に予熱器で200℃に加温した後13kPaに減圧した第一脱揮槽に導入し、さらに予熱器で240℃に加温した後5kPaに減圧した第二脱揮槽に導入し単量体を除去した。これを250℃でストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合樹脂組成物を得た。表1に物性評価結果を示した。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1と同じ構成の重合装置を使用して、スチレン92重量%、メタクリル酸メチル8重量%で構成する単量体溶液95質量部に対し、エチルベンゼン5質量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部、t−ドデシルメルカプタンを0.05質量部を混合し原料溶液とした。それ以外は実施例1と同様に実施した。表1に物性評価結果を示した。
【0034】
〔実施例3〕
第二脱揮槽を3kPaとして、270℃でストランド状に押出した以外は実施例1と同様に行った。表1に物性評価結果を示した。
【0035】
〔実施例4〕
容積が30リットルの完全混合槽(攪拌装置およびジャケット付のオートクレーブ「新ポリマー製造プロセス」工業調査会、佐伯康治/尾見信三著、231頁、図8.17記載の三井東圧化学タイプと同種の反応槽)を反応機として予熱器を付した脱揮槽(同「新ポリマー製造プロセス」工業調査会、佐伯康治/尾見信三著、231頁、図8.18記載の三井東圧化学タイプと同種の発泡型真空脱揮槽)を直列に接続して構成した。スチレン85重量%、メタクリル酸メチル15重量%で構成する単量体溶液95重量部に対し、エチルベンゼン5質量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01質量部、t−ドデシルメルカプタンを0.05質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時15kgで135℃に制御した反応機に供給した。反応機出口から出た重合液を予熱器で260℃に加温した後6kPaに減圧した脱揮槽に導入し単量体を除去した。これを250℃でストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合樹脂組成物を得た。表1に物性評価結果を示した。
【0036】
〔比較例1〕
実施例1と同じ構成の重合装置を使用して、スチレン50質量%、メタクリル酸メチル50質量%で構成する単量体溶液85質量部に対し、エチルベンゼン15質量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.04質量部、t−ドデシルメルカプタンを0.12質量部を混合し原料溶液とした。それ以外は実施例1と同様に実施した。表1に物性評価結果を示した。
【0037】
〔比較例2〕
第一脱揮槽を50kPaおよび第二脱揮槽を13kPaとした以外は実施例1と同様に行った。表1に物性評価結果を示した。
【0038】
〔比較例3〕
第一脱揮槽前の予熱器を280℃および第二脱揮槽前の予熱器を280℃とした以外は実施例1と同様に行った。表1に物性評価結果を示した。
【0039】
〔比較例4〕
第一脱揮槽前の予熱器を280℃、第一脱揮槽を45kPaおよび第二脱揮槽前の予熱器を280℃、第二脱揮槽を13kPaとした以外は実施例1と同様に行った。表1に物性評価結果を示した。
【0040】
〔比較例5〕
実施例4と同じ構成の重合装置を使用して、スチレン38重量%、メタクリル酸メチル62重量%で構成する単量体溶液90重量部に対し、エチルベンゼン10質量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01質量部、t−ドデシルメルカプタンを0.05質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時15kgで150℃に制御した反応機に供給した。反応機出口から出た重合液を予熱器で260℃に加温した後6kPaに減圧した脱揮槽に導入し単量体を除去した。これを250℃でストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合樹脂組成物を得た。表1に物性評価結果を示した。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明における低吸湿性光学用芳香族ビニル系樹脂組成物は、光学用途の中でも吸湿による寸法変化、反りが厳密に要求される部品、例えば大型画面プロジェクションテレビのスクリーン用に用いられるフレネルレンズやレンチキュラーレンズ、液晶表示装置のバックライト用導光板や直下型液晶表示装置における光拡散板などの透明部品等の材料として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全単量体を基準に、芳香族ビニル系単量体が95〜70重量%、メタクリル酸メチルが5〜30重量%の割合で、かつ両者の合計が80重量%以上となる原料を用いて共重合されてなる共重合体であって、重量平均分子量が10ないし106の範囲で、灰分0.3重量%以下で、かつ残存する揮発分の合計量をT重量%、残存するメタクリル酸メチルと芳香族ビニル系単量体を両方含むオリゴマーの合計量をP重量%としたときに、T≦0.5、0.05≦P≦1かつ0.1≦(T+P)≦1であり、残存するメタクリル酸メチル成分のみからなるオリゴマーをM重量%、芳香族ビニル系単量体成分のみからなるオリゴマーをS重量%としたときにM+S≦0.2重量%であり、さらにビカット軟化点が95〜110℃であることを特徴とする透明性と成形性の良好な低吸湿性光学用芳香族ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物からなる光学レンズ。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂組成物からなる光拡散板。
【請求項4】
請求項1記載の樹脂組成物からなる導光板。

【公開番号】特開2006−52349(P2006−52349A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236123(P2004−236123)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】