説明

低圧線形イオントラップでのイオンの高分解能励起/単離

イオントラップイオン集団から、目的のイオンの値と近似するm/z値を有するイオンを除去するための方法、イオン検出の改良分解能を提供する質量分析法、およびそのための命令によってプログラムされたプログラム可能装置を含む、低圧と低振幅の組み合わせを採用するイオントラップからのイオンの改良分離のための方法。本発明の方法では、目的のイオンの断片化に先立って、目的のイオンのm/z値の約2質量/電荷(m/z)単位以内のイオンが、トラップ内で断片化され、それらの断片を捕捉されたイオン集団から効果的に除去可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2008年9月29日に出願された米国特許出願第12/240,060号および2007年11月9日に出願された米国仮出願第60/986,687号の利益を主張する。上記出願の全体の開示は、参考として本明細書に援用される。
【0002】
本主題は、質量分析およびイオン分離に関し、具体的には、質量分析計ならびに他のイオントラップ系イオン分離デバイスのイオン検出分解能を改良する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析(MS)では、概して、質量分析計が使用され、目的のイオン種を単離および断片化し、断片化から生じる娘イオンを検出する。いくつかのシステムでは、四重極線形イオントラップ(QqQ−LIT)質量分析計が採用され、三連四重極からトラップに到達するイオン集団を保持し、目的のイオンを断片化するために、選択された励起電圧をそのトラップ内の集団に印加する。次いで、それらの断片は、トラップから検出器へと走査される。目的のイオンに対して印加される励起電圧の振幅は、例えば、Schwartzらの特許文献1に記載されているように、イオンの質量電荷比(m/z)と線形に関連する。
【0004】
トラップ内のイオンの質量分析分解能に改良が成されてきた。例えば、非特許文献1参照。また、分解能のさらなる改良が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,124,591号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. A. Collingsらの「A combined linear ion trap time−of−flight system with improved performance and Msn capabilities」Rapid. Comm. Mass Spec.(2001年10月15日)15(19):1777−1795
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本主題は、イオントラップ含有イオン集団内に存在する目的のイオンまたは複数のイオンの向上した分解能をもたらす方法と、それを実装可能な装置と、を提供する。これらは、低真空圧線形イオントラップおよび低振幅イオン励起を採用する質量分析法と、そのための質量分析計と、を含む。いくつかの実施形態では、目的のイオンの断片化に先立って、目的のイオンのm/z値の約2質量/電荷(m/z)単位以内のイオンが、トラップ内で断片化され、それらの断片を捕捉されたイオン集団から効果的に除去可能である。本明細書の種々の実施形態は、さらに以下を提供する。
【0008】
質量分析のための方法であって、
0より大きく0.908未満である励起q値を提供するステップと、
質量分析計のイオントラップを1mTorr以下の真空圧下に維持するステップと、
を行なう間、
(a)イオン集団をトラップ内に、導入するステップであって、イオン集団は、目的のイオンを含む、ステップと、
(b)捕捉されたイオン集団から、約10m/z以下のウインドウ(window)内のイオン部分集団を分離するために十分な時間の間、分解直流をイオントラップに印加するステップであって、イオン部分集団は、目的のイオンを含む、ステップと、
かつ、
(c)目的のイオンのm/zが、励起qによって決定される低質量カットオフを上回る場合、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を目的のイオンに印加することによって、高分解能断片化励起を行なうステップであって、励起振幅(V)は、目的のイオン断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVであって、断片イオンは、目的のイオンの断片イオンを含む、ステップ、
または、
(d)目的のイオンのm/zが、励起qによって決定される低質量カットオフ以下の場合、
(1)部分集団から、目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する目的のイオン以外のあらゆるイオンを除去するために、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号をイオン部分集団に印加し、励起振幅(V)は、それらのイオンの断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVである一方、目的のイオンをイオントラップ中の残りのイオン部分集団内に、断片化されていないまま保持し、その後、
(2)励起qを、0より大きい低減した値まで減少させて、目的のイオンのm/zをその低減した値によって決定される低質量カットオフを上回らせるステップ、その後、
(3)目的のイオンから断片イオンを発生させるために十分な励起振幅(V)で、かつ十分な時間の間、励起信号を残りのイオン部分集団に印加し、励起振幅(V)、時間、またはそれらの両方は、ステップ(c)のものと同一あるいは異なる、ステップ、
によって、高分解能単離、その後、断片化を行なう、ステップ、
のうちの一方のステップと、
を伴う、方法。
【0009】
ステップ(b)の分解直流は、少なくとも約10マイクロ秒、または少なくとも約100マイクロ秒、あるいは約1ms間、印加され、ステップ(c)または(d)の励起信号は、少なくとも約10msまたは約50ms間、印加され、イオントラップは、約500kHzから約10MHzまたは約2MHzから約5MHzの駆動周波数で動作し、ステップ(c)または(d1)の励起振幅(V)は、少なくとも5mVかつ100mV未満または約10mV以下であって、ステップ(c)の励起振幅(V)は、閾値振幅を上回る約0.05から約5mVであって、イオントラップは、三連四重極質量分析計の線形イオントラップである、方法。
【0010】
ステップ(b)のイオン部分集団は、第1および第2の目的のイオンを含む、2つ以上の目的のイオンを含有し、ステップ(c)または(d)は、(i)断片イオンを第1の目的のイオンから発生させるために、第1の励起信号をイオン部分集団に印加するステップと、(ii)その後、断片イオンを第2の目的のイオンから発生させるために、第1の励起信号と異なる第2の励起信号をイオン部分集団に印加するステップと、を伴う、方法。
【0011】
ステップ(c)または(d)は、(i)の後かつ(ii)の前に、イオントラップから、第1の目的のイオンから発生された断片イオンを走査出力する(scan out)一方、イオントラップ内に、第2の目的のイオンを含むイオン部分集団を残留させるステップをさらに伴う、方法。
【0012】
ステップ(c)の励起qまたはステップ(d2)の低減した励起qは、約0.4から0.907であって、真空圧は、約5×10−5Torr以下であって、ステップ(b)のウインドウは、約5m/z以下であって、ステップ(c)またはステップ(d)を行なった後、イオントラップからイオンが走査出力され、目的のイオンの走査出力された断片イオンが検出される、方法。
【0013】
ステップ(d1)は、(i)目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する部分集団のイオンを断片化可能なノッチ波形を印加する一方、目的のイオンを断片化されていないまま残留させるステップであって、ノッチ波形は、それぞれ独立して、約10mV未満の振幅を有する波形成分から成り、目的のイオン以外のイオンの断片を発生させるために十分な時間の間、印加される、ステップと、(ii)その結果発生された断片を放出するために十分な時間の間、分解直流をイオントラップに印加する一方、イオントラップ内に、目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を残留させるステップと、を伴い、波形成分は、それぞれ独立して、約1mV以上の振幅を有し、ノッチ波形は、少なくとも約10ms間、印加される、方法。
【0014】
ステップ(d1)は、(i)一連のノッチ波形を印加するステップであって、それぞれ、目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する部分集団のイオンまたは複数のイオンを断片化可能である一方、目的のイオンを断片化されていないまま残留させ、ノッチ波形は、それぞれ独立して、約10mV未満の振幅を有する波形成分から成り、目的のイオン以外のイオンまたは複数のイオンの断片を発生させるために十分な時間の間、印加される、ステップと、(ii)その結果発生される断片を放出させるために十分な時間の間、分解直流をイオントラップに印加する一方、イオントラップ内に、目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を残留させるステップと、を伴い、波形成分は、それぞれ独立して、約1mV以上の振幅を有し、ノッチ波形はそれぞれ、少なくとも約10ms間、印加される、方法。
【0015】
ステップ(b)のイオン部分集団は、第1および第2の目的のイオンを含む、2つ以上の目的のイオンを含有し、励起信号を印加するステップ(d1)は、部分集団から、目的のイオンそれぞれの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有するイオンを除去するために、放射励起をイオントラップに印加する一方、イオントラップ内に、目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップを伴い、ステップ(d3)は、第1の目的のイオンから断片イオンを発生させるために、(i)第1の励起信号をイオン部分集団に印加するステップと、(ii)その後、第2の目的のイオンから断片イオンを発生させるために、第1の励起信号と異なる第2の励起信号をイオン部分集団に印加するステップと、を伴い、ステップ(d3)は、(i)の後かつ(ii)の前に、イオントラップから、第1の目的のイオンから発生された断片イオンを走査出力する一方、イオントラップ内に、第2の目的のイオンを含むイオン部分集団を残留させるステップをさらに伴う、方法。
【0016】
ステップ(d1)の励起信号は、目的のイオンの約1m/z以内のm/z比を有するイオンを除去し、その結果、約1m/zまたは1m/z未満の分解能を有する単離をもたらす、または目的のイオンの約0.1m/z以内のm/z比を有するイオンを除去し、その結果、約0.1m/zまたは0.1m/z未満の分解能を有する単離をもたらす、方法。
【0017】
ステップ(d1)は、(i)目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有するイオンを断片化可能な条件を適用するステップと、その後、(ii)その結果発生される断片を除去するために、分解直流をイオントラップに印加する一方、イオントラップ内に、目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップと、を伴う、方法。
【0018】
質量分析装置であって、
約1mTorr以下の真空圧下のイオントラップであって、イオン集団から、目的のイオンを含み、約10m/z以下のウインドウ内のイオンの部分集団を単離するために十分な一定時間の間、イオン集団を含有するように動作可能な、イオントラップと、
イオントラップに動作可能に連結されるプログラム可能コントローラであって、コントローラのための命令を含むアルゴリズムによって、
(a)ウインドウ内のイオンの部分集団を単離するために十分な一定時間の間、分解直流をイオントラップに印加し、
かつ、
(b)目的のイオンのm/zが、記憶装置から検索された、ユーザによって入力された、またはユーザ入力から計算された励起q値によって決定される低質量カットオフを上回る場合、励起q値は、0より大きく0.908未満であって、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を目的のイオンに印加し、励起振幅(V)は、目的のイオン断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVであって、断片イオンは、目的のイオンの断片イオンを含む、
または、
(c)目的のイオンのm/zが、記憶装置から検索された、ユーザによって入力された、またはユーザ入力から計算された励起q値によって決定される低質量カットオフ以下の場合、励起q値は、0より大きく0.908未満であって、
(1)部分集団から、目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する目的のイオン以外のあらゆるイオンを除去するために、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号をイオン部分集団に印加し、励起振幅(V)は、それらのイオンの断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVである一方、目的のイオンをイオントラップ中の残りのイオン部分集団内に、断片化されていないまま保持し、その後、
(2)励起q値を記憶装置から検索された、ユーザによって入力された、またはユーザ入力から計算された0より大きい低減した値まで減少させ、目的のイオンのm/zをその低減した値によって決定される低質量カットオフを上回らせ、その後、
(3)目的のイオンから断片イオンを発生させるために十分な励起振幅(V)で、かつ十分な時間の間、励起信号を残りのイオン部分集団に印加し、励起振幅(V)、時間、またはそれらの両方は、ステップ(b)のものと同一あるいは異なる、
のうちの一方を行なうようにプログラムされる、プログラム可能コントローラと、
を含む、装置。
【0019】
アルゴリズムは、上述の方法のいずれかを行なうための命令を含み、アルゴリズムは、コントローラが、
(1)ステップ(a)の分解直流、
(2)ステップ(a)の分解直流の印加時間、
(3)ステップ(b)の励起振幅(V)またはステップ(C)の励起振幅(V)、
(4)ステップ(b)の励起信号またはステップ(c)の励起信号の印加時間、
(5)目的のイオンの質量、
かつ、
(6)ステップ(b)の励起q、またはステップ(c)の励起qおよび低減した励起qの両方、
あるいは、
(7)(i)駆動周波数、(ii)駆動無線周波数(RFまたはrf)振幅、および(iii)場半径の3つすべてであって、(7)は、アルゴリズムが、その値から、ステップ(b)またはステップ(c)の励起q値を計算する命令をさらに含む場合、取得される、
のうちの一方のために、ステップ(a)かつステップ(b)またはステップ(c)の一方で使用するための値を取得し、有効メモリ(active memory)にロードする命令をさらに含む、装置。
【0020】
値を取得する命令はそれぞれ、格納メモリから値を検索する、またはユーザからの入力としての前記値を要求および受信する、あるいはそれらの任意の組み合わせの命令を含み、アルゴリズムは、コントローラが、(A)0.908で除される励起q値および(B)目的のイオンの質量から、
(1)ステップ(b)の低質量カットオフ、または
(2)(i)ステップ(c)の低質量カットオフ、
(ii)計算の(B)のように0.908で除される低減した励起q値を使用して、ステップ(c2)の低質量カットオフ、
の一方あるいは両方を計算する命令をさらに含む、装置。
【0021】
さらなる適用領域は、本明細書に提供される説明から明白となるであろう。説明および特定の実施例は、例証の目的のためだけに意図され、本開示の範囲を限定することを意図しないことを理解されたい。
【0022】
本明細書に記載される図面は、例証目的のためだけのものであって、いかようにも本開示の範囲を限定するように意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】基準としてq=0.235におけるプロファイルを使用して、励起qの関数としてのカフェインの195m/z前駆体の1式の共鳴励起プロファイルを提示する。q=0.147、0.205、0.235、0.304、および0.393における励起が示される。
【図2】q=0.706を採用する、カフェイン(195m/z)の共鳴励起プロファイルを提示する。
【図3】q=0.706を採用する、レセルピン(609.23m/z)の共鳴励起プロファイルを提示する。
【図4】316.206および316.0921、すなわち、0.1139m/z離れたそれぞれのm/z値を有する、フェンジリンおよびクロルプロチキセンの混合物からの断片検出の検出器結果を提示する。競合イオンを排除するための断片化および放出ステップを伴わないもの(上段)と、伴うもの(中段および下段)との両方を行なった方法の結果が示される。
【図5】316.1543および316.0921、すなわち、0.0622m/z離れたそれぞれのm/z値を有する、オキシコドンおよびクロルプロチキセンの混合物からの断片検出の検出器結果を提示する。競合イオンを排除するための断片化および放出ステップを伴わないもの(上段)と、伴うもの(中段および下段)との両方を行なった方法の結果が示される。
【図6】6mV(黒塗りの丸)および10mV(白抜きの丸)の両方における励起振幅の関数としての励起を評価する、322.049のm/z値を有するイオンのモデル励起プロファイルを提示する。
【図7】816kHz(黒塗りの丸)および1.228MHz(白抜きの丸)のイオントラップ駆動周波数で評価された、322m/z値を有するイオンの励起の総エネルギー損失のモデル周波数応答プロファイルを提示する。
【図8】駆動周波数を1.228MHzに維持したまま、0.235(黒塗りの丸)および0.706(白抜きの丸)の異なるq値で評価された、322m/z値を有するイオンの励起の総エネルギー損失のモデル周波数応答プロファイルを提示する。
【図9】322(黒塗りの丸)、609(白抜きの丸)、および2722(△)のそれぞれのm/z値を有する3つのイオンの励起の総エネルギー損失のモデル周波数応答プロファイルを提示する。
【図10】1.228484MHz(上段)および816kHz(下段)の駆動周波数における種々のq値のイオンの質量の関数としての周波数密度(Hz/Da)のプロットを提示する。評価されたイオンq値は、0.15(黒塗りの丸)、0.235(白抜きの丸)、0.3(黒塗りの下向きの三角形)、0.5(白抜きの下向きの三角形)、0.706(黒塗りの四角)、および0.85(白抜きの四角)であった。
【図11】1.228484MHz(上段)および816kHz(下段)の駆動周波数における種々のq値のイオンの質量の関数としての共鳴幅のプロットを提示する。評価されたイオンq値は、0.15(黒塗りの丸)、0.235(白抜きの丸)、0.3(黒塗りの下向きの三角形)、0.5(白抜きの下向きの三角形)、0.706(黒塗りの四角)、および0.85(白抜きの四角)であった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、用途、または使用を限定することを意図しない。
【0025】
本主題は、低圧下に保持されるイオントラップと、そのような低圧条件下に保持されるトラップ常在イオンを励起および断片化するための低振幅におけるイオン励起信号の印加と、を採用する。低圧と低振幅の組み合わせは、トラップ常在イオンの混合集団からの目的のイオンの単離または断片化のための改良分解能を提供可能であることが分かっている。低圧低振幅励起は、イオンの断片化を生じさせる。
【0026】
本技術を採用して、その断片の回復または検出のために、目的のイオンを断片化する、あるいは目的のイオンと近似するm/z値を有する1つ以上の他のイオンを断片化し、目的のイオンの断片化に先立って、そのような隣接イオンを除去させることが可能である。また、目的のイオンとm/z値が近似するm/z値を有するイオンは、本明細書では、「隣接」イオンとも称され得る。また、本技術は、トラップ常在イオン集団からそのような標的イオンに隣接するイオンを除去し、残りのトラップ常在イオン部分集団内の標的目的のイオンを断片化するように両様に採用可能である。
【0027】
いくつかの実施形態では、これらの特長を採用して、イオントラップ常在イオン集団から直接、目的のイオンまたは複数のイオンをより選択的に断片化し、検出のために、イオン衝撃またはイオン注入(例えば、Adamsらの米国特許第6,670,624号に記載の技術のように、金属、シリコン、セラミック、ガラス、またはプラスチック基板上に)によるような回復あるいは使用のために、もしくは直列MS/MSシステムを使用して行なわれ得るように、さらなる断片化または断片単離によるようなさらなる分析のために、トラップから走査可能な断片を発生させることが可能である。
【0028】
本明細書の方法のある実施形態では、イオン集団は、イオントラップ内に装填される。イオントラップは、いくつかの実施形態では、四重極質量分析計の線形イオントラップ等の質量分析計のイオントラップであり得る。動作時、イオントラップは、1mTorr以下の真空圧下に維持される。低圧雰囲気は、周囲雰囲気であり得る、もしくは窒素または希ガス、例えば、ヘリウムあるいはアルゴン等の不活性ガスであり得、より典型的には、そうである。真空圧は、約800、500、300、200、100、80、50、30、20、または10μTorr未満であり得る。いくつかの実施形態では、真空圧は、約50μTorrであり得る。いくつかの実施形態では、真空圧は、少なくとも約1μTorrであり得る。
【0029】
イオントラップは、少なくとも約500または750kHz、もしくは少なくとも約1、1.5、2、あるいは2.5MHzである駆動周波数で動作可能である。駆動周波数は、約10、7.5、または5MHz未満であり得る。例えば、駆動周波数は、約500kHzから約10MHz、または約2MHzから約5MHzであり得る。
【0030】
イオントラップ内に装填後、捕捉されたイオン集団が処理され、そのイオンの部分集団を単離し、残りのイオンは、例えば、衝突を通して、ガス雰囲気によって変質することによって、または別様に排出されることによって、イオントラップから排出される。イオン部分集団の単離は、所望のm/zウインドウ外のイオンを除去可能な分解直流(DC)を印加する一方、トラップ内に、所望のm/zウインドウ内のイオンを保持することによって、行なうことが可能である。m/zウインドウは、少なくとも1つの目的のイオンを包含する、例えば、約10m/z単位ウインドウであり得るが、他のサイズウインドウも採用可能である。したがって、いくつかの実施形態では、約8m/z、6m/z、5m/z、4m/z、または他のm/zウインドウを使用可能である。
【0031】
分解DCは、選択されたm/zウインドウ外のイオンを除去するために十分な時間の間、印加される。したがって、分解DCは、例えば、少なくとも約10マイクロ秒間、印加され得る。本技術のいくつかの変形例では、分解DCは、少なくとも約100マイクロ秒または約1ms間、印加され得る。より長い時間を使用可能であるが、そうである必要はない。
【0032】
分解DCの有用な技術として、例えば、P.H. Dawson, Qυadrupole Mass Spectrometry and Its Applications, 1995, (American Institute of Physics(AIP)Press)に記載のものを含む。そのための電圧、周波数、および他のパラメータは、四重極質量フィルタの安定性領域を画定するMathieuパラメータaおよびqに従って決定可能である。これらは、方程式(1)および(2)を使用して計算可能である。
【0033】
【数1】

式中、mは、イオンの質量であって、eは、クーロン電荷であって、rは、四重極の場半径であって、Ωは、四重極の駆動角周波数である。印加されるDCボルトの規模は、Uによって表され、RFの振幅(極対接地)は、Vによって表される。単離ウインドウは、典型的には、約a=0.23およびq=0.706であり得る。特定のウインドウ幅を網羅するaおよびqの値域があるであろう。
【0034】
捕捉されたイオン集団が、目的のイオンを含むイオンの地域を画定する所望のウインドウに狭められると、そのような目的のイオンは、断片化され、そられらの断片は、例えば、検出器、後続処理チャンバまたは装置、あるいは任意の他の所望の目的地へと通じるレンズまたはフィルタを通して、トラップから走査出力可能となる。2つ以上の目的のイオンが、トラップ内に残っている部分集団中に存在する場合、これらはそれぞれ、1つずつ順番に、トラップ内で断片化され、そこから走査出力される、またはこれらすべて、断片化され、次いで、目的のイオン断片のプールをトラップから走査出力可能である。
【0035】
励起信号は、所与の励起q値で印加され、励起q値は、マシューq値であって、Mathieu方程式から決定可能である。励起信号は、イオンに印加される励起周波数と振幅の組み合わせである。本明細書の目的のイオンを断片化するために印加される励起信号は、約0.4から0.907、または0.4以上かつ0.907以下の励起q値で印加され得る。周知のように、励起信号の励起周波数は、マシューq値およびイオントラップが動作する駆動周波数の関数として決定可能である。
【0036】
当業者には周知のように、任意の1式の条件下のイオントラップの動作の際、励起q(マシューq)の値は、そのm/z値がカットオフm/z値を下回る「低質量」イオンと、そのm/z値がカットオフm/z値を上回る「高質量」イオンとに、トラップ内のイオンを区別するために使用可能な「カットオフ」値と称される所与のm/z値と関連付けられる。種々の文脈において、そのような「カットオフ」m/z値は、「低質量カットオフ」値と称され得る。したがって、本明細書の任意の1式の条件下のイオントラップの動作の際、励起qの値は、捕捉されたイオン集団の「低質量カットオフ」値を決定すると言える。当該分野において周知のように、低質量カットオフ値は、0.908によって除される励起q値と、目的のイオンの質量から計算可能である。
【0037】
放射励起クリーンアップ(Clean−Up)
いくつかの実施形態では、目的のイオンの断片化に先立って、トラップ常在イオン(部分)集団が処理され、例えば、目的のイオンに近似するm/z値を有するイオンを除去する一方、トラップ内に目的のイオンを保持することが可能である。そのような処理ステップでは、放射励起クリーンアップステップは、そのような隣接イオンを除去するために行なうことが可能である。
【0038】
したがって、本明細書の方法の種々の実施形態では、放射励起クリーンアップステップは、トラップから、目的のイオンのm/z値の10または5m/z単位内にあるm/z比を有するイオンを除去するために行なうことが可能であって、目的のイオンを断片化するために、トラップ常在イオンの残りの部分集団に印加される後続断片化励起は、それぞれ、約10または5m/z単位の対応する分解能によって、トラップから走査出力可能な目的のイオンの断片を発生させ得る。しかしながら、本明細書の方法の種々の実施形態は、驚くことに、約4、3、2、1、0.5、または0.1m/z未満、あるいは約0.05m/z以上のさらに狭い値域からイオンを除去し、より優れた分解能を提供するように行なうことが可能である。これらの値は、m/z空間内の共鳴の幅を表す。これは、例えば、最後の例の場合、2つのイオンは、互いに0.05m/zと近似し得るが、励起が一方のイオンに印加される場合、他方のイオンは、影響を受けない、すなわち、断片化の際、一方のイオンが断片化され、他方は断片化されないことを意味する。
【0039】
放射励起は、種々の方法のいずれかで行なうことが可能である。いくつかの実施形態では、ノッチ波形を使用して、目的のイオンまたは複数の目的のイオンに隣接するm/z値を有する複数のイオンを励起および断片化可能である。いくつかの実施形態では、一連のノッチ波形を使用可能であって、ノッチ波形はそれぞれ、例えば、そのような隣接イオンの1つまたはいくつかを同時に励起および断片化するように印加される。
【0040】
ノッチ波形が使用される場合、本波形は、隣接イオンの所望の値域内の隣接イオンのみ断片化するように設計され、したがって、その所望の値域内の目的のイオンのための励起信号または複数の信号を排除する。本明細書のノッチ波形を成す波形成分は、それぞれ独立して、約10mV未満の振幅を有し、約1mVを上回り得る。例えば、10mVの振幅を有し、100周波数成分を含有するノッチ波形は、約0.1mVの個々の成分の平均振幅を有するであろう。ノッチ波形は、断片化するために意図された隣接イオンまたは複数のイオンを断片化するために十分な時間の間、印加される。典型的には、ノッチ波形は、約10msを上回る間、印加され得る。
【0041】
目的のイオンから、近似しない、例えば、10m/zを上回るイオンを排除するために、ノッチ波形振幅は、最大数100ミリボルト、例えば、最大300、400、または500mVであって、より高い質量のイオンの数Daを網羅可能である。例えば、断片化は、100ms時、低q、例えば、0.4≦q<<0.6の最大500mVの励起振幅と、100ms時、q=0.6の200mV振幅に対して生じ得る。ノッチ波形を使用する高分解能単離の場合、各個々の周波数成分の振幅は、近似しない、例えば、目的のイオンの質量から10m/z上回る質量に対して、例えば、q=0.6において約200mVであり得る。目的の質量に近似するイオンに影響を及ぼすそれらの周波数成分の場合、使用される周波数成分は、典型的には、減少振幅を有する。対照的に、目的のイオンに最近似する周波数成分は、典型的には、約10mVである。また、これは、低振幅における応答プロファイルの狭量のため、質量単位当たりの周波数成分の数が、より多いことを意味する。したがって、ノッチ波形は、そられの振幅に従って離間する周波数成分を含有し、100mV振幅から約1mV振幅の範囲をとり得る。種々の実施形態では、振幅は、100mV未満であり得、これは、少なくとも約1、5、または10mVを上回り、かつ最大約75、50、25、あるいは20mV未満であり得る。それらは、10msから1000ms間、印加され得、これは、少なくとも約10、20、30、または50ms、かつ最大約1000、800、500、300、200、あるいは100msであり得る。種々の実施形態では、ノッチ波形は、5×10−5Torrを下回る圧力で、約50から約100ms間、印加され得る。
【0042】
いくつかの代替実施形態では、駆動無線周波数(rf)の振幅が、上昇および/または下降される一方、断片化のために、印加される励起信号と共鳴するように、選択された隣接イオンの永年周波数を動かすために、1つの周波数を維持可能な、励起/断片化技術が使用され得る。本技術では、振幅は、qの方程式(2)から決定可能な振幅値域内で増加および/または減少される。これは、質量、q、駆動周波数、およびrに依存するであろう。方程式は、再編成され、方程式(3):V=QmC(3)を求めることが可能であって、式中、Cは、e、r、およびΩを含有する定数である。2つの異なる質量(q=qであるという事実を利用して)の場合、方程式(4):
【0043】
【数2】

が得られる。
【0044】
本関係は、電圧差が質量差に比例することを示す。q=0.8、Ω=1.228MHz、r=4.17mm、およびm=1000の実施例では、V=2145.9Vが得られる。したがって、本実施例では、10m/zウインドウは、21.4Vの電圧値域を有するであろう。目的の質量が、100m/zの場合、質量値域は、依然として、10m/zであって、電圧値域は、依然として、21.4Vとなるであろう。これは、qに対応するであろう。qが、半分(q=0.4)の場合、電圧値域は、半分(10.7V)となり、同一10m/z質量値域を網羅するであろう。rf振幅が、低質量値から高質量値へと走査されるのに伴って、全イオンの永年周波数(ω)は、方程式(5):ω=β*Ω/2(5)(式中、βは、qの関数)に従って、周知の方式で増加する。イオンの永年周波数が、励起周波数と等しいωをもたらすq値に接近するのに伴って、イオンは、励起され、断片化またはロッドに放出されるであろう。本方式では、励起周波数は、一定に保持され、rf振幅は、イオンの永年周波数を共鳴させるように変動可能である。ボルトの値域は、単離ウインドウの質量値域によって決定され、数10ボルト、例えば、約20、25、30、35、または40V等の10から50Vであり得る。
【0045】
2つ以上のそのような隣接イオンが存在することが疑われる場合、一連のそのような上昇/下降を使用して、選択された隣接イオン集合を1つずつ励起および断片化することが可能である。例えば、異なる励起振幅、時間、および質量値域を使用して、単離された質量ウインドウ内の異なる不要な質量にわって、上昇/下降可能である。そのような実施形態では、より低い励起振幅は、目的のイオンの近傍、例えば、10m/z以内で採用され、高分解能を得ることが可能であって、より高い励起振幅は、比較的低い分解能によって、目的のイオンからより離れて採用され得る。上昇/下降技術を使用する種々の実施形態では、典型的には、単回上昇/下降が、排除が所望される質量を通して行なわれる。
【0046】
同様に、当該分野において周知の他の代替技術も、断片そのような隣接イオンを同時または連続的に励起および断片化するように採用可能である。例えば、別の有用な技術は、四重極励起であるが、これは、双極励起技術に優るさらなる利点を何ら提供するとは考えられない。他の有用な技術として、励起が、上述の双極および四重極励起技術のいずれかにおいて、倍音を使用して行なわれるものを含む。
【0047】
可能性のある代替技術の別の実施例は、安定境界の縁を利用するものであって、本技術は、分解DCをイオン部分集団に印加し、次いで、rf振幅を上昇/下降させ、イオンを安定境界の縁に近似させる。これは、最初に、目的のイオン未満の質量を有する不要なイオンに対して行なわれ得る。次いで、rf振幅は、目的のイオンを超える質量を有する不要なイオンを排除するために、他の安定境界に接近するように、反対方向に上昇/下降され得る。それらのステップの反対の順番が、いくつかの実施形態では、採用され得る。
【0048】
隣接イオンの選択された値域の断片化に続いて、分解DCが印加され、その結果生成された断片を除去することが可能である。このように、目的のイオンまたは複数のイオンの周囲のm/z空間は、いくつかの事例では、所望の種類の回復または検出に干渉し得る、イオン種をクリーンアップ可能である。種々の実施形態では、分解DCを印加する本ステップは、トラップ内のイオン部分集団を単離するために使用されたものと同一分解DCを利用可能である。放射励起クリーンアップにおいて採用される分解DCは、上述のように、m/zウインドウ外のイオンを除去するために採用される分解DCと等しいパラメータを有することが可能であって、類似時間の間、印加され得る。
【0049】
放射励起「クリーンアップ」ステップを採用するものと、採用しないものの両方の実施形態において、単離、検出等のために、イオントラップから、1つ以上の目的のイオンを断片化し、走査可能である。いくつかの実施形態では、これは、2つ以上の目的のイオンに対して、連続的に行なうことが可能である。したがって、第1の励起が、第1の目的のイオンに印加され、それを断片化し、次いで、トラップから走査された後、第2の目的のイオンが、第2の励起の印加によって励起され、それを断片化し、続いて、その断片が、トラップから走査され得、以降同様に続く。いくつかの実施形態では、2つ以上の目的のイオンを連続的または同時に断片化可能であって、両方の断片は、次いで、例えば、同時あるいは連続的に、トラップから走査可能である。
【0050】
2つ以上の目的のイオンが捕捉されたイオン集団内に存在するいくつかの実施形態では、上述の放射励起/断片化技術のいずれかを採用して、第1の目的のイオンに隣接するイオンを除去し、その後、さらに励起/断片化が行なわれ、第2の目的のイオンに隣接するイオンを除去され得、第3および後続目的のイオンに対して、以降同様に続く。いくつかの実施形態では、目的のイオンのそれぞれの周囲の所望のm/z空間内のイオンを断片化するために行なわれる放射励起ステップは、例えば、分解直流を印加することによって、結果として得られた断片の事後断片化除去を含み得る。いくつかの実施形態では、それぞれ、少なくとも1つの目的のイオンに隣接する、隣接イオンの複数の値域は、断片化され、結果として得られた断片は、同時に除去可能である。これは、捕捉されたイオン集団中の2つ以上の目的のイオンの周囲のm/z空間のクリーンアップをもたらし得る。次いで、それらの目的のイオンは、断片化され、それらの断片は、トラップから同時に走査可能であって、またはより典型的には、各目的のイオンは、断片化され、それの断片は、他の目的のイオンのそれぞれの断片化および走査とは別に、順番に、トラップから走査可能である。
【0051】
いくつかの実施形態では、所与の目的のイオンに対する断片が除去されると、その結果、その周囲のm/z空間をクリーンアップし、その目的のイオンは、断片化され、その断片は、第2の目的のイオンから隣接イオンを除去し、次いで、それを断片化する両ステップに先立って、イオントラップから走査され得る。
【0052】
目的のイオンの断片化
イオントラップ内に存在する目的のイオンが、断片化される。そのような断片化は、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、ある周波数(ω)の励起信号をトラップ内のイオン部分集団に印加することによって、行なうことが可能であって、励起振幅(V)は、目的のイオンの断片化の開始が生じる最小閾値振幅をわずかに上回る、例えば、少なくとも約0.05mVかつ最大約5mV以上であって、あるいはいくつかの実施形態では、最小閾値を上回る約0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、または3mVであって、最小値レベルを上回る最大約5mVである。本最小値は、励起期間、圧力、励起q値、および生成される断片に分割されるために必要な結合の性質に依存するであろう。圧力が低いほど、断片化のための励起振幅閾値が小さくなる。圧力が低下すると、内部エネルギー入力率もまた、低下し、断片化事象が生じるまでに比較的長くかかる。内部エネルギー上昇率は、熱化率よりも大きいことが重要である。本明細書で使用される低圧(例えば、3.5×10−5Torr)では、衝突率が低く、例えば、約10−4/秒である。これは、1MHz駆動周波数で動作する四重極の場合、減衰および内部エネルギー上昇が、約100rfサイクル毎に生じる離散的事象として生じることを意味する。強制減衰調和振動子の減衰の古典的方程式は、もはや本状況には適用されない。
【0053】
したがって、チャンバの圧力は、断片化を生じさせる最小励起振幅を画定するであろう。また、イオンの完全放出が、断片化の時間ができる前に、イオンが放出されると生じるという意味では、最大励起振幅は、圧力によっても設定されるであろう。本明細書で採用される励起振幅は、目的のイオンが、そのような断片化されていない状態で放出されるような値を下回る。予想外にも、本比較的低値の値域内の励起振幅は、目的のイオンを断片化するために十分であるだけではなく、向上した励起分解能をもたらし得るように貢献可能であることが分かっている。種々の実施形態では、使用される励起振幅は、約0.01から約10mV、あるいは少なくとも約0.01、0.05、または0.1mV、かつ最大約5、3、2、または1、もしくは0.5mVであり得る。いくつかの実施形態では、本値域の下限内の振幅、例えば、約1mV未満を採用して、超高分解能を得ることが可能である。最大数Daを網羅する応答プロファイルを有するより高い振幅、例えば、約200−500mVは、励起/断片化のより広い値域が望ましいいくつかの実施形態では、または本明細書の高分解能技術を使用して既に単離されている目的のイオンに対して、より低い分解能励起/断片化が行なわれる実施形態では、有用であり得る。
【0054】
q値は、各目的のイオンのm/zと関連付けられる。本技術のいくつかの変形例では、有用なq値は、0.4から0.907未満であり得る。所与のq値で印加される励起振幅は、少なくとも約1mVであり得、振幅は、約500mV未満であり得る。いくつかの実施形態では、励起振幅は、約400、300、250、200、150、または100mV未満であり得る。本明細書のいくつかの変形例では、励起振幅は、100mV未満、あるいは約80、75、60、50、40、30、20、または10mV未満であり得る。いくつかの実施形態では、振幅は、少なくとも約2、3、4、5、8、または10mVであり得る。したがって、いくつかの変形例では、励起振幅は、約5から約100mVであり得る。いくつかの変形例では、励起振幅は、約10mV未満であり得る。
【0055】
種々の実施形態では、励起は、双極または四重極励起であり得るが、(低)振幅、すなわち、本振幅値域内でイオンを励起する当該分野において周知の他の技術も、採用可能である。
【0056】
励起信号は、目的のイオンから、そのイオンを回収可能にする適切な質量値域内の断片イオンを発生させるために十分な時間の間、印加される。励起信号は、少なくとも約10ms間、印加され得るが、少なくとも約100msまたは1000msの値を使用可能であるが、そうである必要はない。いくつかの実施形態では、約50msの時間が、目的のイオンを励起し、それを断片化するために、使用され得る。
【0057】
目的のイオンの断片化に続いて、その結果生成される断片が、イオントラップから走査出力可能である。本技術のいくつかの変形例では、走査は、軸または放射放出を使用して、行なうことが可能である。これらの技術の有用なパラメータおよびその変形例は、当該分野において周知であって、例えば、J. W. Hager, A new linear ion trap mass spectrometer, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2002, 16, 512−526(軸放射について記述)およびJ. C. Schwartz, M. W. Senko and J. E. P. Syka, A two−dimensional quadrupole ion trap mass spectrometer, J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2002, 13, 659−669において見られる。
【0058】
上述のように、イオントラップから走査されるイオン断片は、検出器、後続分析器、または他の所望の目的地への送達のために提供可能である。本技術のいくつかの変形例では、トラップは、三連四重極質量分析計等の質量分析計の線形イオントラップ(LIT)であり得る。イオントラップは、そのような三連四重極質量分析装置のQ1またはQ3位置に配置可能であって、Q1位置に配置される場合、そこから走査されるイオン断片は、同一質量分析装置内で、さらに処理または分析される。しかし、本技術の他の変形例では、イオントラップは、独立型トラップ、トラップ−TOFシステム内のトラップであり得、または低圧でイオンをトラップする能力を有する任意の他の場所で使用可能である。
【0059】
質量分析の場合、本明細書のイオントラップから走査されるイオン断片は、検出器によって検出可能である。しかし、種々の実施形態では、イオントラップ、例えば、LIT内に残留するイオンもまた、例えば、ペニングトラップで行なわれるものと同様に、イメージ電流を測定するための収集電極を使用して、検出可能である。
【0060】
本明細書の種々の実施形態では、高分解能を提供可能な低圧低振幅技術を使用して、目的のイオンを含むイオンの部分集団の抗分解能単離、目的のイオンの高分解能断片化励起、またはそれらの両方を行なうことが可能である。そのような高分解能単離または断片化励起の文脈において、用語「分解能」とは、目的のイオンに対する選択性を指し、検出器または検出システムの分解能を指すものではない。幅広く異なる分解能の種々の検出器および検出システムは、本明細書の種々の実施形態において、有効に採用可能である。代わりに、目的のイオンは、約2m/z未満の所与の比較的狭いウインドウ内で単離される、またはそのウインドウ内での断片化のために励起される。
【0061】
検出器または検出システムは、本明細書の実施形態に従って行なわれる単離または励起の(より高い)分解能よりも低い分解能で動作可能である。例えば、目的のイオンは、0.1m/zウインドウをもたらす分解能によって、本明細書では単離可能である。次いで、そのイオンは、適切なq値における励起信号を印加することによって断片化され、断片をトラップさせる。その後、断片は、イオントラップから走査出力され、例えば、0.7m/zまたは他の分解能に対応する分解能を有する検出器を使用して、検出可能である。
【0062】
したがって、種々の実施形態では、本明細書の方法および装置は、約2m/z未満、あるいは約1、0.5、0.1、0.05、または0.01m/z未満の断片化励起分解能または単離分解能を提供可能である。いくつかの実施形態では、そのような単離およびそのような励起の両方が提供可能である。しかしながら、そのような分解能が、目的のイオンの単離のために提供される場合、目的のイオンの断片化励起のために使用される条件は、質量分析の分野においていずれも有用であると周知であり得る。
【0063】
装置
また、質量分析装置、および他のイオントラップ含有装置も、本明細書で提供される。そのような装置は、上述のように、目的のイオンを含む所望のm/zウインドウ内のその中のイオンの部分集団を単離するために十分な時間の間、イオン集団を含有するように動作可能な、同様に上述の低圧イオントラップを含む。有用な装置は、イオントラップに動作可能に連結されるプログラム可能コントローラを含み得、プログラム可能コントローラは、コントローラが上述の方法を実装するための命令を有するアルゴリズムによってプログラムされる。本明細書の装置のいくつかの変形例では、コントローラは、放射励起クリーンアップステップを行なわずに、本明細書の方法を行なうように、命令によってプログラム可能であって、他の変形例では、命令は、そのような放射励起クリーンアップステップを採用する方法を行なうことが可能である。
【0064】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書の装置は、(a)所望のm/zウインドウ内のイオン部分集団を分離するために十分な一定時間の間、分解直流をイオン集中イオントラップに印加し、(b)部分集団から、目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有するイオンを除去するために、放射励起をイオントラップに印加する一方、イオントラップ内に、目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持し、(c)約1mVから500mVの励起振幅(V)で、目的のイオンから、イオントラップからの走査出力に応じて、2m/z未満の共鳴幅をもたらす励起分解能によって検出可能な断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を残りのイオン部分集団に印加する、命令を有するアルゴリズムによってプログラムされるコントローラを有する。上述のように、採用される実際の励起振幅(V)は、目的のイオン断片化の開始の閾値振幅である最小値と、断片化されていない目的のイオンの放出が生じる最小閾値振幅である最大値とによって画定される値域内となるであろう。
【0065】
したがって、いくつかの実施形態では、例えば、ウインドウが、幅10Daである場合、わずか+/−2m/z放射励起ウインドウの使用は、6Daのイオン部分集団を見逃すことになる。実際は、目的のイオンの励起は、通常、幅0.5Da未満であるため、これは、本明細書の実施形態において、完全に容認可能である。同一原理は、本明細書の他のウインドウ幅および他の分解能を使用する実施形態にも当てはまるが、種々の実施形態では、放射励起値域は、代替として、目的のイオンを除き、全イオンを除去するために十分な幅であり得る。
【0066】
本技術のいくつかの変形例では、アルゴリズムは、ステップ(a)、(b)、および/または(c)を実装するために使用されるデータを取得する命令を含み得る。いくつかの実施形態では、そのようなデータを取得する命令は、格納されたメモリからデータを検索する、またはユーザからの入力としてデータを要求および検索する、あるいはそれらの任意の組み合わせであって、そのデータを有効メモリ内に配置する命令を含み得る。
【0067】
ステップ(a)、すなわち、特定のm/zウインドウ内のイオン部分集団の単離の場合、命令は、(1)そのためのm/zウインドウの端点、(2)その中で使用される分解直流、および(3)その分解直流を印加するために使用される時間の値を取得する命令を含み得る。
【0068】
目的のイオンを単離するために、高分解能単離ステップを採用する実施形態の場合、命令は、(1)目的のイオンの高分解能単離を行ない、単離された目的のイオンの断片化励起を行なうために、励起信号が印加される励起q、(2)それらの励起において使用される励起振幅(V)、(3)単離および断片化励起信号の印加時間、ならびに(4)目的のイオンの質量の値を取得する命令を含み得る。そのような実施形態では、高分解能単離のために励起を行なう際に使用する値を取得するための命令は、例えば、ノッチ波形またはその技術が採用される波形の波形成分値あるいは全体的波形値を取得することを含み得る。
【0069】
目的のイオンを断片化するために、高分解能励起ステップを採用する実施形態の場合、命令は、(1)励起信号が目的のイオンを断片化するために印加される励起q、(2)その断片化のために使用される励起振幅(V)、(3)断片化励起信号の印加時間、および(4)目的のイオンの質量の値を取得する命令を含み得る。高分解能単離を採用する実施形態と、高分解能断片化励起を採用する実施形態の両方において、命令は、駆動周波数、駆動RF振幅、および場半径の値を取得する命令をさらに含み得る。同様に、所与の励起q値で印加される励起信号において使用される周波数を取得するために、命令は、有効メモリにロードされるそのような値から励起信号周波数(ω)を計算する命令を含み得る。駆動振幅は、同様に、そのような検索されたまたは入力された値から計算可能であって、また、そのための命令も提供可能である。
【0070】
本明細書の種々の実施形態では、イオントラップは、従来の四重極、または当該分野において周知の他の構成を採用可能である。いくつかの実施形態では、本明細書で使用するためのイオントラップは、双曲型ロッドの四重極を採用可能であって、本明細書に記載されるような超低圧におけるその使用は、2または1mV未満等の超低励起振幅のさらにより精密な使用を可能にする。これは、超低励起振幅の印加を可能にし、イオンの軌道は、ロッドと衝突するまで、継続して上昇するであろう。これは、従来の円形ロッドの使用によって提示される状況とは異なり、高次場は、イオンの軌道を減衰させ、ロッドとの衝突を防止する役割を果たす。着目以外のイオンは、このように、双曲型ロッドに放出され得る。次いで、目的のイオンは、トラップ内の圧力を上昇させ、適切な振幅および持続時間で断片化励起信号を印加することによって、断片化され得る。種々の実施形態では、そのような超高分解能イオン単離は、選択されたイオントラップが双曲型ロッドの四重極を含む場合、行なわれ得る。イオントラップ幾何学形状として、四重極が選択される他の実施形態では、そのロッドは、例えば、涙形または卵形断面であり得、各そのようなロッドの先細面は、四重極集合の中心、すなわち、イオンビームの軸に面し得る。
【実施例】
【0071】
実験
実験は、いずれかの極性の荷電粒子を産生するESI(エレクトロスプレーイオン化)源と、QO、Q1、Q2、およびQ3四重極を伴う真空チャンバと、検出器と、を有する、三連四重極質量分析計研究機器上で行なわれる。Q1およびQ3四重極は、質量分析(RF/DC)四重極である一方、QOおよびQ2四重極は、rfのみの四重極である。また、Q3四重極は、線形イオントラップ(LIT)を兼ねる。イオンは、ST3レンズ、Q3四重極環管、および出射レンズ上の電位を上昇させることによって、LIT内にトラップされる。機器は、前部にQJetを含む(API 5000製品に類似)。質量分析計は、1.228484MHzの駆動周波数で動作する。励起はすべて、双極子励起を使用して行なわれる。試料液は、調整混合物の1/100の希釈液、レセルピン10pg/μl、カフェイン100pg/μl、クロルプロチキセン(2ng/μl)とフェンジリン(1ng/μl)の混合物、およびクロルプロチキセン(2ng/μl)とオキシコドン(0.5ng/μl)の混合物である。試料は、7.0μl/分で注入される。データは、1000Da/秒の走査速度を使用して収集される。また、実験は、ペプチド混合物用のフローインジェクション法を使用して、300μl/分で行なう(データ図示せず)。
【0072】
実施例1 新規技術の識別および初期特性解析
図1は、励起qの関数として、カフェインの195m/z前駆体の励起プロファイルを示す。データは、MSトラップ走査モードおよび駆動周波数1.228MHzを使用して収集される。195m/z(第1の前駆体)の強度は、強度約1e6cps/走査をもたらすように調節される。これは、空間電荷から生じる複雑性を回避するために行なわれる。m/z軸は、第2の前駆体質量の値を示す。第2の前駆体質量が、195m/zを励起信号と共鳴させると、195m/zが励起される。励起振幅は、かなり低く維持され、イオンが電極に衝打するのに伴って、LITから放出されるのとは対照的に、標的イオンの大部分が断片化を受けることが可能となる。LIT領域内の圧力は、3.6x10−5Torrに維持され、イオンは、100ms間、励起される。励起周波数は、q=0.147における64.5kHzからq=0.393における176.7kHzの値域を網羅する。
【0073】
図1の重要な特長の1つは、励起q値が高いほど、共鳴はより狭くなるという事実である。q=0.393では、共鳴幅は、0%枯渇レベルで0.2m/z未満である一方、q=0.205では、幅は、0%枯渇レベルで約0.6m/zである。
【0074】
次いで、実験は、q=0.706の時、励起プロファイルがどれくらい狭くなるかを検証するために行なわれる(rf/DC単離がMS単離ステップの際に生じる同一q値)。これは、カフェインイオン(195m/z)およびレセルピンイオン(609.23m/z)に対して行なわれ、結果は、図2および3に示される。これらの結果は、195m/zかつわずか0.05m/zの幅によって、イオンを励起可能である一方、609.23m/zでは、0%減少幅は、0.09m/zであることを示す。
【0075】
そのような結果に基づいて、本明細書の新技術は、ここで、イオンの高分解能単離を可能にするように実装され得る(高分解能は、幅1.0m/z未満のイオン集団を単離するものとして定義される)。これは、MS走査を使用して行なうことが可能である。以下のステップが伴うであろう。
1.LITを目的のイオンで充填する。
2.短時間、分解DCを印加し、例えば、6m/z幅のウインドウ内の目的のイオンを単離する。
3.放射励起を使用して、目的のイオンの0.1m/z以内のイオンを排除する。
4.短時間、分解DCを再印加し、生じ得る任意の断片を除去する。
5.励起qを適切な質量値域をもたらす所望の励起qに変更し、断片イオンを収集する。
6.目的のイオンを励起し、質量スペクトルを記録する。
本方法は、クロルプロチキセン(316.0921m/z)とフェンジリン(316.206m/z)の混合物を使用して、図4で実証される。
【0076】
図4の上段では、0.1139m/z離れた2つのイオンを分離するための試みは行なわれない。励起は、100ms間印加される22.5mV励起振幅を使用して、q=0.4において316.15の公称質量で印加される。パルス弁を使用して、励起ステップの際、圧力を上昇させ、より短時間におけるMS3効率の向上をもたらす。パルス弁は、q=0.4における励起の際のみ動作する。212m/zにおける主要断片は、フェンジリンに属する一方、231、271、および273m/zにおける断片は、クロルプロチキセンに属する。
【0077】
中段は、100ms間印加される6mVの励起振幅を使用する上述の方法のステップ3において、フェンジリンが放出されることを除き、同一励起条件を示す。フェンジリンの主要断片は、ここでは不在である一方、クロルプロチキセンの断片は、依然として存在する。クロルプロチキセン断片の強度は、依然として、上段の強度の100%の強度であって、クロルプロチキセンは、フェンジリンの排除によって影響を受けていないことを示すことに留意されたい。
【0078】
下段は、100ms間印加される6mVの励起振幅を同様に使用する、クロルプロチキセンがLITから排除された後のフェンジリンの励起を示す。中段の場合のように、放出を受けないイオンは、212m/zにおいて、断片を産生するフェンジリンのみを残し、排除プロセスによって影響を受けない。
【0079】
次いで、同一実験は、0.0622m/z離れたオキシコドン(316.1543m/z)およびクロルプロチキセン(316.0921m/z)に対して行なわれる。結果は、図5に示される。
【0080】
オキシコドンの主要断片は、298m/zで生じるが、256m/zにおける別の断片は、高エネルギー断片化、例えば、500mV以上等のエネルギーの20、30以上のeVがイオンに提供される励起振幅を使用する断片化が行なわれる場合に見られる。下段の縦軸は、中段および上段よりも10倍低いことに留意されたい。クロルプロチキセンの排除は、ある程度のオキシコドンを損失させ、上段のクロルプロチキセンを排除しない場合と比較して、その強度の約45%まで298m/z断片の低減をもたらす。0.0622m/zの質量分離の本結果は、提案される技術の下限が、約0.05m/zであることを示唆する。混合物からのオキシコドンの排除は、中段で実証されるように、クロルプロチキセン断片の強度に任意の低減を生じさせるとは考えられない。
【0081】
実施例2 目的のイオンに隣接するイオンのクリーンアップのための探索方法
図4および5のデータは、単純に、1つの特定の質量を排除し、潜在的に干渉するイオンの除去を実証することによって、収集される。目的のイオンの周囲のm/z空間をクリーンアップするそのようなステップは、種々の技術のいずれかの使用によって実装可能であって、その実施例として、以下を含む。
1.0.1m/zの質量ステップをもたらすように離間された周波数から成る、ノッチ広帯域波形の使用。成分振幅は、一般的振幅が使用可能であるかどうか検証するためにさらに試験が必要とされる被試験化合物に対して、約6mVと低く維持される必要があるであろう。波形成分の数は、単純に、rf/dcの印加によって網羅されない質量値域を網羅するために必要となるものであろう。
2.rf振幅または励起周波数のいずれかを変化させることによる、より時間を費やすアプローチである、不要なイオンの連続的排除。実際は、本技術が選択される場合、典型的には、励起波形周波数の離散的性質のため、現在の電子機器を考慮して、rf振幅を変化させることによって実装されるであろう)。
【0082】
単離ステップの目標は、目的のイオンの何らの損失もなく、任意の潜在的干渉を除去することである。これは、分解DCの印加が、強度が実質的に低下しないように、数m/zの単離ウインドウ幅に指向されるべきことを含意する。これは、ノッチ広帯域波形が使用される場合、必要とされる成分の数が、例えば、4m/zの値域を網羅するであろうことを意味する。これは、約40成分であって、それぞれ、約10mV以下の振幅を伴うであろう。
【0083】
また、いくつかの実施形態では、単純に、目的の質量に印加される励起信号によって励起されるであろう、目的の質量の近傍のイオンを排除することが可能である。部分集団内のイオンが、励起信号によって影響を受けず、断片質量の着目領域に存在しない場合、除去される必要はない。これは、多くまたは大部分のイオンに該当するであろう。例えば、rf/dcが、4m/z幅の部分集団を単離する場合、産生される断片は、その特定の質量値域内に出現する可能性はない。多価イオンの場合はあり得るが、通常は、該当しない。
【0084】
実施例3 励起振幅の効果
励起振幅の効果は、図6に見られ得る。322m/zの共鳴励起プロファイルは、6、10、および20mVの励起振幅を使用して測定される。励起の持続時間は、それぞれ、100msである。本グラフの重要な特長は、プロファイル幅が、励起振幅に伴って増加するという事実である。これは、高励起または単離が、最も効率的に作用するために、励起振幅が、好ましくは、合理的に可能な限り、低く維持されることを意味する。
励起振幅の本低値は、以下の例示的実施形態を参照して説明される。前者の場合、可能な最高分解能が望ましいと想定する場合、長励起期間(100ms以上)を選択し、イオンの枯渇が観察されなくなるまで、励起振幅を低下させることによって進められるであろう。これは、断片化の閾値であるだろう。100msの励起期間を使用して、わずか2mV振幅(50%レベルまで)によって、イオンを断片化可能である(データ図示せず)。励起期間をさらに長時間に増加させることは、断片化の量を増大させるであろう。したがって、デューティサイクルが問題となる。分離されるイオンが、0.2m/z離間する場合、より高い振幅を使用可能であって、励起期間を短縮可能である。
【0085】
また、そのような低振幅による励起能力は、3−Dトラップまたは市販の線形イオントラップ(Thermo Fisherから市販のLTQ線形イオントラップ)では達成され得ないものであることに留意されたい。これらのデバイスは両方とも、Heの少なくとも1mTorrの圧力で動作する。本圧力値域内では、ガスからの減衰は、高過ぎて、断片化のための十分な内部エネルギーに達することができないであろう。イオンの周波数応答プロファイルの幅は、運動エネルギーをイオンの内部エネルギーに変換するために使用される背景ガスの圧力ではなく、使用される励起振幅に依存することは、既に認められている(Collingsら、RCM 15:1777−1795(2001)、図3参照)。背景ガスの圧力は、単純に、励起が生じるために必要とされる最小値振幅を限定する。
【0086】
対照的に、約4または5×10−5Torr以下で動作する、MDS Sciex(MDS Analytical Technologies)混合三連四重極/線形イオントラップ(Q Trap)質量分析計等のデバイス、あるいは他の低圧質量分析デバイスを使用して、本明細書に記載される方法の種々の実施形態を実装可能である。Phv=1.4×10−5Torrである図6に示されるように、分解能は、依然として、前駆体イオンの所望の断片化または枯渇を生じさせるまま、励起振幅が低減され得る程度によって設定される。Q Trapシステムの利点の1つは、LITが、通常、背景ガスからの減衰が最小限である圧力約4から5×10−5Torrで動作することである。これは、低励起振幅の使用を可能にする。
【0087】
実施例4 単離分解能に及ぼす駆動周波数、q、および質量の潜在的効果の特性解析
質量分解能が、駆動周波数、q値、および質量によって影響を受ける程度を特性解析するために、イオン起動シミュレータSxを使用して、これらのパラメータの効果を処理した。Sxシミュレータについては、F. A. Londry and J. W. Hager, Mass selective axial ion ejection from a linear quadrupole ion trap, J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2003, 14, 1130−1147に記載されている。
【0088】
図7は、322m/zのイオンが、Phv=5.0e−5Torrで、10ms間、20mVの励起振幅を使用して励起されるシミュレーションの結果を示す。励起期間の間の各衝突のエネルギー損失を記録および合計し、総エネルギー損失を求める。総エネルギー損失は、質量中心の運動エネルギーの約2倍である。質量中心の運動エネルギーは、イオンの内部エネルギーへの変換のために利用可能なエネルギーの量である。175Aの衝突断片は、ロイシン(131m/z、105A)およびレセルピン(609m/z、280A)の測定された衝突断片に基づく、推定値である(Javahery and Thomson, JASMS, 8, 697−702(1997)参照)。図6のデータは、816kHzの駆動周波数(4000 Qトラップ)を使用して、1.228MHzで動作する混合三連四重極線形イオントラップ質量分析計に対して、収集される。イオン永年周波数は、816kHz駆動周波数に対して232,940Hzであって、駆動周波数が1.228MHzの時、350,665Hzである。周波数応答プロファイルの幅は、いずれの場合にも、同一であって、FWHMで約200Hzである。本幅は、より低い励起振幅およびより長い励起期間を使用して収集される図2および3の実験データにおいて見られるものよりも大きい。シミュレーションは、合理的信号対雑音をもたらすために、より広い励起振幅およびより高い背景圧力(図6の実験で使用される圧力と比較して)を使用して実行される。使用される励起期間は、わずか10msであって、シミュレーションは、より短い時間で行なわれる
【0089】
図8は、駆動周波数を1.228MHzに維持したまま、2つの異なるq値0.235および0.706でイオンを励起する場合の周波数応答プロファイルを示す。再び、共鳴の幅は、約200Hzであって、恐らく、より低いq値において、ある程度のわずかな拡大を伴う。結果は、周波数応答プロファイルの幅が、駆動周波数および励起qから比較的独立することを示す。
【0090】
さらなる1式のシミュレーションを実行して、イオンの質量および衝突断片が、周波数応答プロファイルの幅に及ぼし得る効果を決定する。結果は、図9に示される。プロファイル幅は、322m/zプロファイルと比較して、609および2722m/zプロファイルに対して、わずかに狭くなる。609と2722m/zプロファイルとの間に有意差はない。シミュレーションは、それぞれ、322、609、および2722m/zに対して、175、280、および500Aの衝突断片を使用して、実行される。再び、あらゆる他の条件は、一定に維持される。
【0091】
同一励起振幅が質量値域全体に使用され得る一次推定値に基づいて、概して、多くの目的のイオンに対して、異なる駆動周波数、q値、および質量において、共鳴ピーク幅がどうなるかを予測可能である。励起期間のわずかな修正は、特に、断片化が困難なイオンに対して重要となり得る。したがって、それらの差異は、励起振幅が一定に保持される場合、励起期間に生じるであろう。断片化が困難なイオンは、十分な運動エネルギーを衝突から内部エネルギーに変換し、断片化を生じさせるためにより多くの時間を必要とするであろう。換言すると、励起時間は、一定励起振幅を使用する場合、断片化を生じさせるために必要な内部エネルギーに応じて、異なり得る。図10は、qおよびm/zの関数として、駆動周波数816kHzおよび1.228484MHzに対する周波数密度(Hz/Da)のプロットを示す。周波数密度は、駆動周波数およびqの増加に伴って増大し、かつm/zの減少に伴って増大する。
【0092】
図10のデータを使用して、m/z単位の予測共鳴幅を計算可能である。これは、100Hzのプロファイル幅に対して適用され(図2は、122Hzのプロファイル幅を示す一方、図3は、69Hzの幅を有する)、結果は、図11に示される。これらのプロットは、約100Hzの周波数応答プロファイル幅をもたらす励起振幅を使用して、どのような種類の質量分離が、特定の駆動周波数およびq値における特定のイオンに対して予測され得るかを推定可能にする。
【0093】
実施例5 直接断片化
本明細書の高分解能選択技術の別の用途では、予備実験は、少なくとも0.4または0.5のq値において、イオンが、実際に断片化され、低励起振幅の使用のため、ロッドに放出されないことを示す。したがって、単純に、高q値の使用を可能にする断片質量を有するイオンを断片化可能であって、したがって、予測される共鳴幅は、図11に提示されるプロットから決定可能となる。これによって、ユーザは、質量分離が、混合物内の1つの成分の励起のために十分であるかどうかを決定可能となる。例えば、レセルピンが、q=0.5で、1.228MHz機器上で励起される場合、低質量カットオフは、335.8m/zとなり、共鳴幅は、0.24m/zとなるであろう。これは、397および448m/z断片を監視可能にする一方、単離技術を使用せずに、成分0.24m/zを別々に励起させるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析のための方法であって、
0より大きく0.908未満である励起q値を提供するステップと、
質量分析計のイオントラップを1mTorr以下の真空圧下に維持するステップと、
を行なう間、
(a)イオン集団を前記トラップ内に、導入するステップであって、前記イオン集団は、目的のイオンを含む、ステップと、
(b)前記捕捉されたイオン集団から、約10m/z以下のウインドウ内のイオン部分集団を分離するために十分な時間の間、分解直流を前記イオントラップに印加するステップであって、前記イオン部分集団は、前記目的のイオンを含む、ステップと、
かつ、
(c)前記目的のイオンのm/zが、前記励起qによって決定される低質量カットオフを上回る場合、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、前記目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を前記目的のイオンに印加するステップであって、前記励起振幅(V)は、目的のイオン断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVであって、前記断片イオンは、前記目的のイオンの断片イオンを含む、ステップ、
または、
(d)前記目的のイオンのm/zが、前記励起qによって決定される低質量カットオフ以下の場合、
(1)前記部分集団から、前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記目的のイオン以外のあらゆるイオンを除去するために、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、前記目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を前記イオン部分集団に印加する間、前記目的のイオンを前記イオントラップ中の残りのイオン部分集団内に、断片化されていないまま保持するステップであって、前記励起振幅(V)は、前記イオンの断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVである、ステップ、その後、
(2)前記励起qを、0より大きい低減した値まで減少させて、前記目的のイオンのm/zをその低減した値によって決定される低質量カットオフを上回らせるステップ、その後、
(3)前記目的のイオンから断片イオンを発生させるために十分な励起振幅(V)で、かつ十分な時間の間、励起信号を前記残りのイオン部分集団に印加するステップであって、前記励起振幅(V)、前記時間、またはそれらの両方は、ステップ(c)のものと同一あるいは異なる、ステップ、
のうちの一方のステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(b)の分解直流は、少なくとも10マイクロ秒間または約10マイクロ秒間、印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分解直流は、少なくとも100マイクロ秒間または約100マイクロ秒間、印加される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分解直流は、約1ms間、印加される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)または(d)の励起信号は、少なくとも10msまたは約10msの間、印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記励起信号は、約50ms間、印加される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イオントラップは、約500kHzから約10MHzの駆動周波数で動作する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記駆動周波数は、約2MHzから約5MHzである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法のステップ(c)または(d1)の励起振幅(V)は、少なくとも5mVかつ100mV未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記励起振幅(V)は、約10mV以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)の励起振幅(V)は、前記閾値振幅を上回る約0.05から約5mVである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)のイオン部分集団は、第1および第2の目的のイオンを含む、2つ以上の目的のイオンを含み、ステップ(c)または(d)は、(i)断片イオンを前記第1の目的のイオンから発生させるために、第1の励起信号を前記イオン部分集団に印加するステップと、(ii)その後、断片イオンを前記第2の目的のイオンから発生させるために、前記第1の励起信号と異なる第2の励起信号を前記イオン部分集団に印加するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(c)または(d)は、(i)の後かつ(ii)の前に、前記イオントラップから、前記第1の目的のイオンから発生された断片イオンを走査出力する一方、前記イオントラップ内に、前記第2の目的のイオンを含むイオン部分集団を残留させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(c)の励起qまたはステップ(d2)の低減した励起qは、約0.4から0.907である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記真空圧は、約5×10−5Torr以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)のウインドウは、約5m/z以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(c)またはステップ(d)を行なった後、前記イオントラップからイオンを走査出力するステップと、前記目的のイオンの断片イオンを検出するステップと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(d1)は、(i)前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記部分集団のイオンを断片化可能なノッチ波形を印加する一方、前記目的のイオンを断片化されていないまま残留させるステップであって、前記ノッチ波形は、それぞれ独立して、約10mVもしくは10mV未満の振幅を有する波形成分から成り、前記目的のイオン以外のイオンの断片を発生させるために十分な時間の間、印加される、ステップと、(ii)その結果発生された断片を放出するために十分な時間の間、分解直流を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を残留させるステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記波形成分は、それぞれ独立して、約1mV以上の振幅を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ノッチ波形は、少なくとも10msまたは約10msの間、印加される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(d1)は、(i)一連のノッチ波形を印加する一方、前記目的のイオンを断片化されていないまま残留させるステップであって、それぞれの前記ノッチ波形は、前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記部分集団のイオンまたは複数のイオンを断片化可能であり、それぞれの前記ノッチ波形は、それぞれ独立して、約10mVまたは10mV未満の振幅を有する波形成分から成り、前記目的のイオン以外のイオンまたは複数のイオンの断片を発生させるために十分な時間の間、印加される、ステップと、(ii)その結果発生される断片を放出させるために十分な時間の間、分解直流を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を残留させるステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記波形成分は、それぞれ独立して、約1mV以上の振幅を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ノッチ波形はそれぞれ、少なくとも10msまたは約10msの間、印加される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(b)のイオン部分集団は、第1および第2の目的のイオンを含む、2つ以上の目的のイオンを含み、励起信号を印加するステップ(d1)は、前記部分集団から、前記目的のイオンそれぞれの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有するイオンを除去するために、放射励起を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップを含み、ステップ(d3)は、(i)前記第1の目的のイオンから断片イオンを発生させるために、第1の励起信号を前記イオン部分集団に印加するステップと、(ii)その後、前記第2の目的のイオンから断片イオンを発生させるために、前記第1の励起信号と異なる第2の励起信号を前記イオン部分集団に印加するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(d3)は、(i)の後かつ(ii)の前に、前記イオントラップから、前記第1の目的のイオンから発生された断片イオンを走査出力する一方、前記イオントラップ内に、前記第2の目的のイオンを含むイオン部分集団を残留させるステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(d1)の励起信号は、前記目的のイオンの約1m/z以内のm/z比を有するイオンを除去し、その結果、約1m/zまたは1m/z未満の分解能を有する単離をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(d1)の励起信号は、前記目的のイオンの約0.1m/z以内のm/z比を有するイオンを除去し、その結果、約0.1m/zまたは0.1m/z未満の分解能を有する単離をもたらす、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(d1)は、(i)前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記イオンを断片化可能な条件を適用するステップと、その後、(ii)その結果発生される断片を除去するために、分解直流を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記イオントラップは、三連四重極質量分析計の線形イオントラップである、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
質量分析装置であって、
約1mTorr以下の真空圧下のイオントラップであって、前記イオントラップは、イオン集団から、目的のイオンを含み、約10m/z以下のウインドウ内のイオンの部分集団を単離するために十分な一定時間の間、前記イオン集団を含有するように動作可能である、イオントラップと、
前記イオントラップに動作可能に連結されるプログラム可能コントローラと
を備え、前記コントローラは:
(a)前記ウインドウ内のイオンの前記部分集団を単離するために十分な一定時間の間、分解直流を前記イオントラップに印加すること、
かつ、
(b)前記目的のイオンのm/zが、記憶装置から検索された、ユーザによって入力された、またはユーザ入力から計算された励起q値によって決定される低質量カットオフを上回り、前記励起q値は、0より大きく0.908未満である場合、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、前記目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を前記目的のイオンに印加することであって、前記励起振幅(V)は、目的のイオン断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVであり、前記断片イオンは、前記目的のイオンの断片イオンを含む、こと、
または、
(c)前記目的のイオンのm/zが、記憶装置から検索された、ユーザによって入力された、またはユーザ入力から計算された励起q値によって決定される低質量カットオフ以下であって、前記励起q値は、0より大きく0.908未満である場合、
(1)前記部分集団から、前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記目的のイオン以外のあらゆるイオンを除去するために、約1mVから100mVの励起振幅(V)で、2m/z以下の幅を有し、前記目的のイオンに中心をおく質量ウインドウから生じる断片イオンを発生させるために十分な時間の間、励起信号を前記イオン部分集団に印加する一方、前記目的のイオンを前記イオントラップ中の残りのイオン部分集団内に、断片化されていないまま保持することであって、前記励起振幅(V)は、前記イオンの断片化の開始の閾値振幅である最小値を上回る約0.05から約10mVである、こと、その後、
(2)前記励起q値を記憶装置から検索された、ユーザによって入力された、またはユーザ入力から計算された0より大きい低減した値まで減少させて、前記目的のイオンのm/zをその低減した値によって決定される低質量カットオフを上回らせること、その後、
(3)前記目的のイオンから断片イオンを発生させるために十分な励起振幅(V)で、かつ十分な時間の間、励起信号を前記残りのイオン部分集団に印加することであって、前記励起振幅(V)、前記時間、またはそれらの両方は、ステップ(b)のものと同一あるいは異なる、こと
のうちの一方を行なうための、前記コントローラに対する命令を含むアルゴリズムによって、プログラムされる、装置。
【請求項31】
ステップ(a)の一定時間は、少なくとも10マイクロ秒または約10マイクロ秒である、請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記一定時間は、少なくとも100マイクロ秒または約100マイクロ秒である、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記一定時間は、約1msである、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
ステップ(b)または(c)の励起信号は、少なくとも10msまたは約10msの間、印加される、請求項30に記載の装置。
【請求項35】
前記時間は、約50msである、請求項34に記載の装置。
【請求項36】
前記イオントラップは、約500kHzから約10MHzの駆動周波数で動作する、請求項30に記載の装置。
【請求項37】
前記駆動周波数は、約2MHzから約5MHzである、請求項36に記載の装置。
【請求項38】
ステップ(b)または(c1)の励起振幅(V)は、少なくとも5mVかつ100mV未満である、請求項30に記載の装置。
【請求項39】
前記励起振幅(V)は、約10mV以下である、請求項38に記載の装置。
【請求項40】
ステップ(b)の励起振幅(V)は、前記閾値振幅を上回る約0.05から約5mVである、請求項30に記載の装置。
【請求項41】
ステップ(a)のイオン部分集団は、第1および第2の目的のイオンを含む、2つ以上の目的のイオンを含み、ステップ(b)または(c)の命令は、(i)断片イオンを前記第1の目的のイオンから発生させるために、第1の励起信号を前記イオン部分集団に印加する命令と、(ii)その後、断片イオンを前記第2の目的のイオンから発生させるために、前記第1の励起信号と異なる第2の励起信号を前記イオン部分集団に印加する命令と、を含む、請求項30に記載の装置。
【請求項42】
ステップ(b)または(c)の命令は、(i)の後かつ(ii)の前に、前記イオントラップから、前記第1の目的のイオンから発生された断片イオンを走査出力する一方、前記イオントラップ内に、前記第2の目的のイオンを含むイオン部分集団を保持する命令をさらに含む、請求項41に記載の装置。
【請求項43】
ステップ(c1)は、(i)前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記部分集団のイオンを断片化可能なノッチ波形を印加する一方、前記目的のイオンを断片化されていないまま残留させるステップであって、前記ノッチ波形は、それぞれ独立して、約10mVまたは10mV未満の振幅を有する波形成分から成り、前記目的のイオン以外のイオンの断片を発生させるために十分な時間の間、印加される、ステップと、(ii)その結果発生された断片を放出するために十分な時間の間、分解直流を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップと、を含む、請求項30に記載の装置。
【請求項44】
前記波形成分はそれぞれ、約1mV以上の振幅を有する、請求項43に記載の装置。
【請求項45】
前記ノッチ波形は、少なくとも10msまたは約10msの間、印加される、請求項43に記載の装置。
【請求項46】
ステップ(c1)は、(i)一連のノッチ波形を印加する一方、前記目的のイオンを断片化されていないまま残留させるステップであって、それぞれの前記ノッチ波形は、前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記部分集団のイオンまたは複数のイオンを断片化可能であり、それぞれの前記ノッチ波形は、それぞれ独立して、約10mVまたは10mV未満の振幅を有する波形成分から成り、前記目的のイオン以外のイオンまたは複数のイオンの断片を発生させるために十分な時間の間、印加される、ステップと、(ii)その結果発生される断片を放出させるために十分な時間の間、分解直流を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップと、を含む、請求項30に記載の装置。
【請求項47】
前記波形成分はそれぞれ、約1mV以上の振幅を有する、請求項46に記載の装置。
【請求項48】
前記ノッチ波形はそれぞれ、少なくとも10msまたは約10msの間、印加される、請求項46に記載の装置。
【請求項49】
ステップ(a)のイオン部分集団は、第1および第2の目的のイオンを含む、2つ以上の目的のイオンを含み、励起信号を印加するステップ(c1)は、前記部分集団から、前記目的のイオンそれぞれの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有するイオンを除去するために、放射励起を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップを含み、ステップ(c3)の命令は、(i)前記第1の目的のイオンから断片イオンを発生させるために、第1の励起信号を前記イオン部分集団に印加する命令と、(ii)その後、前記第2の目的のイオンから断片イオンを発生させるために、前記第1の励起信号と異なる第2の励起信号を前記イオン部分集団に印加する命令と、を含む、請求項30に記載の装置。
【請求項50】
ステップ(c3)の命令は、(i)の後かつ(ii)の前に、前記イオントラップから、前記第1の目的のイオンから発生された断片イオンを走査出力する一方、前記イオントラップ内に、前記第2の目的のイオンを含むイオン部分集団を保持する命令をさらに含む、請求項49に記載の装置。
【請求項51】
ステップ(c1)の励起信号は、前記目的のイオンの約1m/z以内のm/z比を有するイオンを除去し、その結果、約1m/zまたは1m/z未満の分解能を有する単離をもたらす、請求項30に記載の装置。
【請求項52】
ステップ(c1)の励起信号は、前記目的のイオンの約0.1m/z以内のm/z比を有するイオンを除去し、その結果、約0.1m/zまたは0.1m/z未満の分解能を有する単離をもたらす、請求項51に記載の装置。
【請求項53】
ステップ(c)は、(i)前記目的のイオンの2m/z以内の質量/電荷比(m/z)を有する前記イオンを断片化可能な条件を適用するステップと、その後、(ii)その結果発生される断片を除去するために、分解直流を前記イオントラップに印加する一方、前記イオントラップ内に、前記目的のイオンを含む残りのイオン部分集団を保持するステップと、を含む、請求項30に記載の装置。
【請求項54】
ステップ(b)の励起qまたはステップ(c2)の低減した励起qは、約0.4から0.907である、請求項30に記載の装置。
【請求項55】
前記真空圧は、約5×10−5Torr以下である、請求項30に記載の装置。
【請求項56】
ステップ(a)のウインドウは、約5m/z以下である、請求項30に記載の装置。
【請求項57】
前記命令は、ステップ(b)またはステップ(c)を行なった後、前記イオントラップからイオンを走査出力し、前記目的のイオンの断片イオンを検出する命令をさらに含む、請求項30に記載の装置。
【請求項58】
前記イオントラップは、三連四重極質量分析計の線形イオントラップである、請求項30に記載の装置。
【請求項59】
前記アルゴリズムは、
(1)ステップ(a)の分解直流、
(2)ステップ(a)の分解直流の印加時間、
(3)ステップ(b)の励起振幅(V)またはステップ(C)の励起振幅(V)、
(4)ステップ(b)の励起信号またはステップ(c)の励起信号の印加時間、
(5)目的のイオンの質量、
かつ、
(6)ステップ(b)の励起q、またはステップ(c)の励起qおよび低減した励起qの両方、
あるいは、
(7)(i)駆動周波数、(ii)駆動RF振幅、および(iii)場半径の3つすべてであって、(7)は、前記アルゴリズムが、その値から、ステップ(b)またはステップ(c)の励起q値を計算する命令をさらに含む場合、取得される、
のうちの一方についての、ステップ(a)およびステップ(b)またはステップ(c)の一方で使用するための値を取得し、有効メモリにロードするための、前記コントローラに対する命令をさらに含む、請求項30に記載の装置。
【請求項60】
前記値を取得する前記命令はそれぞれ、格納メモリから前記値を検索する、またはユーザからの入力としての前記値を要求および受信する、あるいはそれらの任意の組み合わせの命令を含む、請求項59に記載の装置。
【請求項61】
前記アルゴリズムは、(A)0.908で除される励起q値および(B)前記目的のイオンの質量から、
(1)ステップ(b)の低質量カットオフ、または
(2)(i)ステップ(c)の低質量カットオフ、
(ii)前記計算の(B)のように0.908で除される前記低減した励起q値を使用して、ステップ(c2)の低質量カットオフ、
の一方あるいは両方を計算するための、前記コントローラに対する命令をさらに含む、請求項30に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−503798(P2011−503798A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533061(P2010−533061)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/011309
【国際公開番号】WO2009/064338
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】