説明

低圧蒸気タービン

【課題】ドレンとともに駆動用の蒸気を排出してしまうことなく、しかも、外部からのエネルギーの導入を必要とせずに最終段近傍の静翼を加熱することによって、湿り損失の低減及びエロージョンの防止が可能である低圧蒸気タービンを提供する。
【解決手段】内車室2と、内車室2を覆うように内車室2の外側に設けられる外車室4とを備えた低圧蒸気タービン1であって、内車室2と外車室4の間に設けられ熱媒体が流通する熱媒体加熱流路16と、熱媒体加熱流路16に前記熱媒体を導入する熱媒体導入路54と、少なくとも1本の前記静翼の内部に設けられ、熱媒体加熱流路16を通過した熱媒体が導入される熱媒体室12とを備え、熱媒体加熱流路16を通過することによって加熱された前記熱媒体によって、前記熱媒体室12が設けられる静翼を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所や原子力発電所等で用いられる低圧蒸気タービンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所で用いられる低圧蒸気タービンは、最終段近傍では湿り蒸気条件下で駆動される。湿り蒸気条件下では、ドレンの発生やその成長に伴って熱力学的、流体力学的なエネルギー損失である湿り損失が発生してタービン効率が低下する。また、高速で回転するタービン動翼にドレンが衝突すると、翼表面がエロージョンを受け、タービンの信頼性低下につながるおそれがある。
【0003】
そこで、低圧蒸気タービンにおける湿り損失低減及びエロージョン防止の対策として、ドレンキャッチャーや中空静翼によってドレンを除去する技術が知られている。低圧蒸気タービンにおいてドレンキャッチャーを用いた技術として、例えば特許文献1には、静翼を支持する静翼外輪にドレンキャッチャーを設けた技術が開示されている。特許文献1に係る技術によれば、ドレンキャッチャーでタービン駆動蒸気に含まれるドレンを捕獲し、捕獲したドレンを通路を介して外部に排出することができる。また、低圧蒸気タービンにおいて中空静翼を用いた技術として、例えば特許文献2には、外側シュラウドから静翼内部を通って内側シュラウドに貫通する空洞を有し、静翼の腹側と背側の表面から前記空洞に連通するとともに互いに所定の間隔を保って上下方向に伸びる複数のスリットを有してなる蒸気タービンの静翼が開示されている。特許文献2に係る蒸気タービンの静翼によれば、前記スリットからドレンを静翼内部の空洞に導いて、空洞よりドレンを回収することができる。
【0004】
また、湿り損失低減及びエロージョン防止の別の対策として、静翼内に外部より蒸気を導入して静翼を加熱し、静翼表面での蒸気の凝縮を防ぐ技術が知られている。静翼を加熱する技術として、例えば特許文献3には、タービンの高圧段前の軸封パッキンから抽出した高温低圧のリーク蒸気を中空の静翼に導入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−55904号公報
【特許文献2】特開平11−336503号公報
【特許文献3】特許第3617212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたドレンキャッチャーを用いる技術や、特許文献2に開示された中空静翼を用いる技術は、ドレンを除去することで湿り損失低減及びエロージョン防止は可能であるものの、ドレンとともにタービン駆動用蒸気を同時に排出してしまう可能性がある。また、特許文献3に開示された静翼を加熱する技術では、静翼を加熱するエネルギーとして蒸気を外部から導入する必要があり、システム全体としては外部からエネルギーを導入する必要がある。また、外部より蒸気を導入することに替えて、ヒータを用いて静翼を加熱することもできるが、その場合はヒータ駆動に係るエネルギーが必要となり、やはりシステム全体としては外部からのエネルギーの導入を必要とする。
【0007】
従って、本発明は、上述の従来技術の問題に鑑み、ドレンとともに駆動用の蒸気を排出してしまうことなく、しかも、外部からのエネルギーの導入を必要とせずに最終段近傍の静翼を加熱することによって、湿り損失の低減及びエロージョンの防止が可能である低圧蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明においては、複数本の動翼が固定されたロータを収納するとともに内部に複数本の静翼が固定される内車室と、前記内車室を覆うように前記内車室の外側に設けられる外車室とを備えた低圧蒸気タービンであって、前記内車室と外車室の間に設けられ熱媒体が流通する熱媒体加熱流路と、前記熱媒体加熱流路に前記熱媒体を導入する熱媒体導入路と、少なくとも1本の前記静翼の内部に設けられ前記熱媒体加熱流路を通過した熱媒体が導入される熱媒体室とを備え、前記熱媒体加熱流路を通過することによって加熱された前記熱媒体によって前記熱媒体室が設けられる静翼を加熱することを特徴とする。
【0009】
内車室と外車室の間は、低圧蒸気タービンで仕事をした後の蒸気を別途設けられる復水器に導くための排気室が形成されている。即ち内車室と外車室の間は、低圧蒸気タービンで仕事をした後の蒸気が存在している。一方、内車室内の高温蒸気(特に蒸気入口近く)が有する熱の一部が内車室を介して放熱され、排気に移る。排気に移った熱は、従来は排気とともに排出され使用されないものであった。本発明においては、熱媒体加熱流路を内車室と外車室の間に設けることで、熱媒体加熱流路内を流れる熱媒体は前記放熱分の熱エネルギーを得た低圧蒸気タービンで仕事をした後の蒸気と熱交換をして加熱される。
【0010】
前記放熱分の熱エネルギーは、従来は活用されず排気とともに排出されていたものである。本発明によれば、従来活用されることのなかった前記放熱分の熱エネルギーを用いることによって、外部からエネルギーを導入することなく、熱媒体を加熱することができる。そして加熱した熱媒体を静翼に設けた熱媒体室に導入して静翼を加熱することで、静翼表面での蒸気の凝縮を防いで湿り損失の削減やエロージョンの防止をすることが可能となる。つまり、前記放熱分の熱エネルギーを使用することで、外部よりエネルギーを導入することなく静翼を加熱することができる。加えて、本発明は、静翼を加熱することで静翼表面での蒸気の凝縮を防止しドレンの発生を防止するものであるため、駆動用の蒸気を排出してしまうこともない。
【0011】
また、前記内車室は、前記静翼が翼環を介して内部に支持される壁部材で構成されているとよい。
低圧蒸気タービンの内車室としては、静翼が翼環を介して内部に支持される壁部材で構成されている一重内車室構造や、内車室を第1内車室と第2内車室の二重構造として第1内車室と第2内車室の間に抽気室が形成される二重内車室構造が知られている。
一重内車室構造は、内車室内を流通する駆動用の蒸気が持つ熱の内車室の壁面を介して内車室と外車室の間への放熱量が、二重内車室構造と比較すると多いためエネルギーのロスが多い。一方で一重内車室構造は二重内車室構造と比較すると構造が簡単で製作コスト、メンテナンスコストが安い。
内車室を一重内車室構造とすることによって、内車室の製作コスト、メンテナンスコストを抑えることができる。さらに内車室の壁面を介して放熱する従来廃棄していた熱を前記熱媒体加熱流路での熱媒体の加熱に使用することができるため、低圧蒸気タービン全体としての熱エネルギーのロスを抑えることができる。
【0012】
また、前記熱媒体室が設けられる静翼は、前記熱媒体室内の前記熱媒体を静翼外に噴射するスリットを有し、前記熱媒体は、水であり、前記熱媒体加熱流路を流通することで蒸気となって前記熱媒体室に導入されるとよい。
前記スリットを設けて熱媒体室から静翼外に熱媒体を噴射することで、熱媒体室に導入した熱媒体を熱媒体室から排出する流路を設ける必要がなく構成が簡単になる。さらに、熱媒体室に導入される熱媒体を蒸気とすることで、熱媒体を前記スリットから静翼外に噴射しても熱媒体が内車室内で異物となることもない。さらにまた、スリットから熱媒体である蒸気を噴射させることで、該蒸気によって動翼で仕事をさせることが可能である。
【0013】
また、前記熱媒体導入路は、前記低圧蒸気タービンで仕事をした後の蒸気を凝縮させた復水を前記熱媒体加熱流路に導く復水導入路であって、前記復水を前記熱媒体として使用するとよい。
前記熱媒体として、前記復水を使用することで、熱媒体を低圧蒸気タービンの駆動に際して必要な媒体とは別個に用意する必要がなくなる。
【0014】
また、前記空洞が設けられる静翼の表面温度を検出する静翼表面温度検出手段と、前記熱媒体室が設けられる静翼の上流側の蒸気の圧力を検出する蒸気圧力検出手段と、前記静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて、前記熱媒体加熱流路による加熱量を調整する熱交換量調整手段とを設けるとよい。
静翼を加熱して静翼表面での蒸気の凝縮を防ぐためには、静翼の表面温度を静翼周囲の蒸気圧に相当する飽和蒸気温度よりも高い温度に維持することが必要である。そこで、熱交換量調整手段を設け、静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて熱交換手段による熱交換量を調整し、静翼の表面温度を静翼周囲の蒸気圧に相当する飽和蒸気温度よりも高い温度に維持することで、静翼表面での蒸気の凝縮を防ぐことができる。
【0015】
また、前記熱交換量調整手段は、前記熱媒体導入路に設けた熱媒体流量調整弁と、前記静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて前記熱媒体流量調整弁の開度を調整する調整弁制御手段とを備えるとよい。
これにより、熱媒体流量調整弁の開度を調整して熱媒体加熱流路への熱媒体の導入量を調整することによって、熱媒体加熱流路での熱媒体の加熱量を調整することができる。
【0016】
また、前記熱媒体加熱流路を複数備え、前記熱媒体導入路は、途中で複数の分岐導入路に分岐するとともに、各分岐導入路が前記複数の熱媒体加熱流路にそれぞれ接続され、前記熱交換量調整手段は、前記複数の分岐導入路それぞれに設けた分岐導入路熱媒体流量調整弁と、前記静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて前記分岐導入路熱媒体流量調整弁の開度を調整する分岐導入路調整弁制御手段とを備えるとよい。
これにより、各分岐導入路熱媒体流量調整弁の開度を調整して各分岐導入路への熱媒体導入量を調整することによって、各分岐導入路での熱媒体の流量を調整することができる。さらに、一部の分岐導入路熱媒体流量調整弁の開度をゼロとすることで、熱媒体の加熱に使用する熱媒体加熱流路の個数を変更することができ、熱媒体の伝熱面積を変更して、熱媒体加熱流路での熱媒体の加熱量を調整することができる。
【0017】
また、前記熱媒体加熱流路は、前記内車室の上半部の周囲に設けられているとよい。
内車室上半部は、内車室下半部と比較すると内車室を介した放熱量が多い。そのため、熱媒体加熱流路を内車室上半部に設けることでより効率的に熱媒体を加熱することができる。さらに、一般的に内車室下半部には抽気管等の付属部品が多く取り付けられている。そのため、付属部品が取り付けられている量が少ない内車室上半部に熱媒体加熱流路を取り付けることで、熱媒体加熱流路の取り付けが容易となる。
【0018】
また、前記熱媒体加熱流路は、前記内車室の蒸気入口部の周囲に設けられているとよい。
蒸気入口部内部は、低圧蒸気タービンで仕事をする前の状態の蒸気、即ち内車室内を流れる蒸気のうち最も温度の高い状態の蒸気が流れている。そのため、蒸気入口部では内車室外への放熱量が大きいので、熱媒体加熱流路を蒸気入口部周囲に設けることで効率的に熱媒体を加熱することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ドレンとともに駆動用の蒸気を排出してしまうことなく、しかも、外部からエネルギーを導入せずに最終段近傍の静翼を加熱することによって、湿り損失の低減及びエロージョンの防止が可能である低圧蒸気タービンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係る低圧蒸気タービンの構成を示す概略構成図である。
【図2】実施形態1における熱交換パネル周辺の概略構成図である。
【図3】実施形態1における最終段静翼周辺の概略構成図である。
【図4】実施形態1における最終段静翼の加熱に係る復水導入制御の手順を示すフローチャートである。
【図5】実施形態2における熱交換パネル周辺の概略構成図である。
【図6】実施形態2における最終段静翼の加熱に係る復水導入制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0022】
(実施形態1)
まず、図1を用いて低圧蒸気タービンの構成の概略について説明する。
図1は実施形態1に係る低圧蒸気タービンの構成を示す概略構成図である。低圧蒸気タービン1は、内車室2と、内車室2を覆うように内車室2の外側に設けられる外車室4とを備えている。そして内車室2と外車室4との間には空間14が形成される。
【0023】
内車室2は、ロータ6が収納される内車室本体22と、内車室本体22に外部より蒸気を導入するための蒸気入口部24と、内車室22本体で仕事をした後の蒸気の流れをガイドするフローガイド26とを含んで構成されている。また、内車室2は、一重内車室構造である。
【0024】
ロータ6は、外車室4外で軸受部12によって回転自在に支持されている。また、ロータ6には、複数本の動翼8が植え込まれて固定されており、ロータ6の動翼が植え込まれた部分及び動翼8は内車室本体22内に収納されている。
【0025】
内車室本体22内には、翼環11(図1においては不図示)を介してロータ6側の動翼8と対向するように、複数本の静翼10が取り付けられている。
【0026】
さらに、本発明に特徴的な構成として、内車室2の上半部を取り囲んで熱交換パネル16が設けられている。熱交換パネル16は、内部を熱媒体(実施形態1においては後述する復水)が流通する流路であって、流路外部と熱交換できる材料で形成されたものである。つまり、熱交換パネル16は、熱交換パネル16内を流れる熱媒体を、熱交換パネル16外部と熱交換させるために設けられたものである。
【0027】
次に、熱交換パネル16周辺の構成及び動作について図1〜図3を用いて説明する。図2は実施形態1における熱交換パネル周辺の概略構成図であり、図3は実施形態1における最終段静翼周辺の概略構成図である。
【0028】
図2において、38は復水ポンプである。復水ポンプ38は、復水器(不図示)にて低圧蒸気タービン1で仕事をした後の水蒸気を等圧冷却して凝縮させた復水を次工程に送液するためのポンプであって、低圧蒸気タービン1の外部に設けられるものである。
【0029】
復水ポンプ38で送液される復水は、復水流路39を通り、復水流路39上に2台直列に配された低圧給水加熱器40、42で加熱された後、次工程に送液されるようになっている。
【0030】
また、復水ポンプ38の下流且つ低圧給水加熱器40の上流で復水流路39から分岐した上流側復水導入路50が形成されるとともに、低圧給水加熱器42の下流で復水流路39から分岐した下流側復水導入路52が形成される。上流側復水導入路50と下流側復水導入路52は合流して復水導入路54を形成し、復水導入路54は熱交換パネル16に接続されている。
【0031】
また、上流側復水導入路50、下流側復水導入路52、復水導入路54にはそれぞれ、内部の流体の流量を調整するコントロールバルブ44、46、48が設けられている。コントロールバルブ44、46、48は何れも後述する制御装置30によって開度を調整される。
【0032】
また、図2及び図3には、低圧蒸気タービン1に設けられる複数本の静翼のうち最終段の静翼、即ち内車室本体22内の蒸気流れ最下流に位置する最終段静翼10aを示している。最終段静翼10aには、その表面温度を検出する静翼表面温度計34が取り付けられている。さらに、最終段静翼10aの蒸気流れ上流側には、蒸気の圧力を検出する蒸気圧力計32が設けられている。静翼表面温度計34及び蒸気圧力計32の検出値は、制御装置30に取り込まれるようになっている。
【0033】
さらに、最終段静翼10aは図3に示すように中空形状であり、内部に熱媒体室12が形成されている。熱媒体室12は、内車室本体22の壁面及び翼環11内を通る静翼導入路17によって熱交換パネル16と連通されている。これにより、熱交換パネル16を通って加熱されて蒸気化された復水を最終段静翼10a内の熱媒体室12に導入することができる。
なお、熱交換パネル16は、蒸気入口部24から中間段静翼部分まで延設することが、熱交換効率上好ましい。
【0034】
また、最終段静翼10aには、熱媒体室12と静翼10a外部を連通するスリット13が設けられている。スリット13は、最終段静翼10aの内車室本体22内部を流れる蒸気流れ下流側に設けられている。
【0035】
次に、以上の構成の低圧蒸気タービン1の動作について説明する。
低圧蒸気タービン1において、外部より導入される蒸気は、蒸気入口部24を通って内車室本体22内に導入される。内車室本体22に導入された蒸気は、静翼10を通過しながら膨張して増速され、動翼8に対して仕事をしてロータ6を回転させる。
【0036】
内車室本体22内で仕事をした後の蒸気は、内車室本体22から空間14に排出される。空間14に排出された蒸気の一部は、図1にAで示した流れのようにフローガイド26に沿って内車室本体22の上方に流れた後、内車室本体22の周囲に沿って下方に流れる。そして、前記蒸気の一部は、外車室4下部の排出部(不図示)から外車室4外に排出された後、前記復水器(不図示)に送られる。一方、空間14に排出された蒸気の残りの一部は、図1にBで示した流れのようにフローガイド26に沿って空間14内で下方に流れ、外車室4下部の排出部(不図示)から外車室4外に排出され、前記復水器(不図示)に送られる。
【0037】
一方、制御装置30によって、最終段静翼10a内の熱媒体室12への復水導入制御が行われる。該制御について図4を用いて説明する。図4は、実施形態1における最終段静翼の加熱に係る復水導入制御の手順を示すフローチャートである。
【0038】
低圧蒸気タービン1が駆動されると、ステップS1に進む。
ステップS1では、制御装置30に、最終段静翼10aに取り付けられた静翼表面温度計34の検出値(以下、最終段静翼表面温度と称する)が取り込まれるとともに、最終段静翼10aの蒸気流れ上流側に取り付けられた蒸気圧力計32の検出値(以下、最終段上流蒸気圧力と称する)が取り込まれる。
【0039】
次いでステップS2に進む。
ステップS2では、制御装置30によって、最終段上流蒸気圧力を元に当該圧力における飽和蒸気温度が演算され、該飽和蒸気温度と最終段静翼表面温度との温度差Δtが算出される。なお、ここではΔtは最終段静翼表面温度−飽和蒸気温度を意味するものとする。
【0040】
次いで、ステップS3に進む。
ステップS3では、Δtが予め定めた閾値t1より小さいか否か判断する。なお、t1は正の値である。
ステップS3においてYes即ちΔt<t1であれば、最終段表面温度が充分に加熱されておらず、最終段静翼10aの表面で蒸気が凝縮する可能性があるため、ステップS4に進む。
一方、ステップS3においてNo即ちΔt≧t1であれば、最終段静翼表面温度が充分に加熱されており、最終段静翼10aの表面で蒸気が凝縮する可能性は低く、ステップS5に進む。
【0041】
ステップS4では、前記温度差Δtに基づき、制御装置30によりコントロールバルブ48が全開とされるとともに、コントロールバルブ44又は46の開度を大きくする。これにより復水流路39を流れる復水の復水導入路54を介した熱交換パネル16内への導入量が増える。
なお、温度差Δtが例えば負の値となるなど、最終段静翼表面温度が飽和蒸気温度と比較してより低い場合には、より高温である低圧給水加熱器40、42で加熱された復水がより多く熱交換パネル16に導入されるようコントロールバルブ46の開度がコントロールバルブ44の開度よりも大きくなるようにコントロールバルブ44、46の開度を調整する。逆に、Δtがt1に近い値である場合にはコントロールバルブ44の開度がコントロール46の開度よりも大きくなるようにコントロールバルブ44、46の開度を調整する。
【0042】
復水導入路54より熱交換パネル16内に導入された復水は、熱交換パネル16内を流通しながら、熱交換パネル16の外部即ち空間14内の蒸気と熱交換して加熱され蒸気となる。熱交換パネル16で蒸気となった復水は、静翼導入路17を介して最終段静翼10aに設けられる熱媒体室12に導入される。蒸気となった復水が熱媒体室12に導入されることにより、最終段静翼10aが加熱される。
ステップS4が終了するとステップS1に戻る。
【0043】
なお、熱媒体室12に導入された蒸気は、スリット13より外部即ち内部車室本体22内に噴射される。これにより、蒸気化した復水の排出系統が不要となるとともに、噴射された蒸気化した復水により動翼で仕事をさせることができる。
【0044】
一方、ステップS5においては、Δtが予め定めた閾値t2より小さいか否か判断する。なおt2はt1よりも大きな値に設定する。
ステップS5においてYes即ちt2<Δtであれば、最終段静翼表面温度が加熱されすぎており、ステップS6に進む。ステップS5でNo即ちt2≧ΔtであればそのままステップS1に戻る。
【0045】
ステップS6では、コントロールバルブ44又は46の開度を小さくして熱交換パネル16への復水導入量を削減する。
ステップS6が終了するとステップS1に戻る。
【0046】
低圧蒸気タービン1の運転中は、以上のステップS1〜ステップS6を繰り返すことにより、熱媒体室12へ導入される熱媒体(蒸気化された復水)量を調整して、t1≦Δt≦t2の状態、即ち最終段静翼表面温度がt1〜t2だけ飽和蒸気温度より高い状態を保つことができる。
これにより、最終段静翼10a表面での蒸気の凝縮を防いで湿り損失の削減やエロージョンの防止をすることが可能となる。
【0047】
なお、熱媒体室12を設けるとともに、熱媒体室12に熱交換パネル16で加熱されて蒸気化した復水が導入される静翼は、実施形態1のように最終段静翼に限られるものではない。つまり、最終段静翼を含めて複数の静翼に熱媒体室を設け、該複数の熱媒体室に蒸気化した復水を導入することもできる。
【0048】
(実施形態2)
図5は、実施形態2における熱交換パネル周辺の概略構成図である。図5において、図1〜図3と同一の符号は同一物を表すものとし、その説明を省略する。
【0049】
図5において、内車室2を構成する蒸気入口部24を取り囲んで第1の熱交換パネル16aが設けられているとともに、内車室本体22の上半部を取り囲んで第2の熱交換パネル16bが設けられている。熱交換パネル16a、16bは何れも内部を熱媒体(実施形態2においては後述する復水)が流通する流路であって、流路外部と熱交換できる材料で形成されたものである。
【0050】
また、復水ポンプ38の下流側で復水流路39から分岐した復水導入路55が形成されている。復水導入路55は途中で2つの分岐導入路55a、55bに分岐している。2つの分岐導入路55a、55bはそれぞれ、熱交換パネル16a、16bに接続されている。
【0051】
分岐導入路55a、55bにはそれぞれ、内部の流体の流量を調整するコントロールバルブ45a、45bが設けられている。コントロールバルブ45a、45bは何れも後述する制御装置31によって開度を調整される。また、静翼表面温度計34及び蒸気圧力計32の検出値は、制御装置31に取り込まれるようになっている。
【0052】
次に、以上の構成の低圧蒸気タービン1’の動作について図6を用いて説明する。
ステップS11では、制御装置31に、静翼表面温度計34の検出値である最終段静翼表面温度が取り込まれるとともに、蒸気圧力計32の検出値である最終段上流蒸気圧力が取り込まれる。
【0053】
次いでステップS12に進む。
ステップS12では、制御装置31によって、最終段上流蒸気圧力を元に当該圧力における飽和蒸気温度が演算され、該飽和蒸気温度と最終段静翼表面温度との温度差Δtが算出される。
【0054】
次いで、ステップS13に進む。
ステップS13では、Δtが予め定めた閾値t1より小さいか否か判断する。なお、t1は正の値である。
ステップS13においてYes即ちΔt<t1であれば、最終段表面温度が充分に加熱されておらず、最終段静翼10aの表面で蒸気が凝縮する可能性があるため、ステップS4に進む。
一方、ステップS13においてNo即ちΔt≧t1であれば、最終段静翼表面温度が充分に加熱されており、最終段静翼10aの表面で蒸気が凝縮する可能性は低く、ステップS5に進む。
【0055】
ステップS14では、前記温度差Δtに基づき、制御装置31により流路が開放された分岐導入路の本数を増やす。例えばコントロールバルブ45a、45bの両方が閉じている状態であれば、コントロールバルブ45a、45bの何れかを開く。これにより復水流路39を流れる復水の一部が流れる分岐導入路の本数が増え、熱交換パネルを流れる復水が熱交換する伝熱面積が増加する。
【0056】
復水導入路55より導入された復水は、熱交換パネル16a、16b内を流通しながら、熱交換パネル16a、16bの外部即ち空間14内の蒸気と熱交換して加熱され蒸気となる。熱交換パネル16a、16bで蒸気となった復水は、静翼導入路(図5においては不図示)を介して最終段静翼10aに設けられる熱媒体室12に導入される。蒸気となった復水が熱媒体室12に導入されることにより、最終段静翼10aが加熱される。
ステップS14が終了するとステップS11に戻る。
【0057】
一方、ステップS15においては、Δtが予め定めた閾値t2より小さいか否か判断する。なおt2はt1よりも大きな値に設定する。
ステップS15においてYes即ちt2<Δtであれば、最終段静翼表面温度が加熱されすぎており、ステップS16に進む。ステップS15でNo即ちt2≧ΔtであればそのままステップS11に戻る。
【0058】
ステップS16では、制御装置31により流路が開放された分岐導入路の本数を減らす。例えば弁45a、45bの両方が開いている状態であれば、弁45a、45bの何れかを閉じる。これにより、熱交換パネルを流れる復水が熱交換する伝熱面積を削減する。
ステップS16が終了するとステップS11に戻る。
【0059】
低圧蒸気タービン1’の運転中は、以上のステップS11〜ステップS16を繰り返すことにより、熱媒体室12へ導入される熱媒体(復水)の熱交換パネルでの伝熱面積を調整することによって、t1≦Δt≦t2の状態を保つことができる。
これにより、最終段静翼10a表面での蒸気の凝縮を防いで湿り損失の削減やエロージョンの防止をすることが可能となる。
【0060】
なお、実施形態1と同様、熱媒体室12を設けるとともに、熱媒体室12に熱交換パネル16a、16bで加熱されて蒸気化した復水が導入される静翼は、本実施例のように最終段静翼に限られるものではない。つまり、最終段静翼を含めて複数の静翼に熱媒体室を設け、該複数の熱媒体室に蒸気化した復水を導入することもできる。
【0061】
また、実施形態2においては、熱交換パネルを2つ設けるとともに、復水導入路55を2つに分岐しているが、熱交換パネルを3つ以上設けるとともに、復水導入路55を熱交換パネルと同数の3つ以上に分岐させることもできる。熱交換パネルの個数及び復水道入路55の分岐数が多いほど、より細やかな伝熱面積調整が可能となるが、必要なコントロールバルブ数が多くなりコスト高となる。従って、熱交換パネルの個数及び復水道入路55の分岐数は、コストと伝熱面積調整の精度の兼ね合いで決定するとよい。
【0062】
また、実施形態1、実施形態2の何れも、既設の内車室と外車室を有する低圧蒸気タービンに、熱交換パネルを設けるとともに、静翼を熱媒体室を有する静翼とし、熱交換パネルへの熱媒体導入系統を設けることで、本発明の実施が可能である。つまり、低圧蒸気タービンを新規に制作する場合に既設設備への対応が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
ドレンとともに駆動用の蒸気を排出してしまうことなく、しかも、外部からエネルギーを導入せずに最終段近傍の静翼を加熱することによって、湿り損失の低減及びエロージョンの防止が可能である低圧蒸気タービンとして利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 低圧蒸気タービン
2 内車室
4 外車室
6 ロータ
8 動翼
10 静翼
11 翼環
16 熱交換パネル(熱媒体加熱流路)
22 内車室本体
24 蒸気入口部
30 制御装置(調整弁制御手段)
31 制御装置(分岐導入路調整弁制御手段)
32 蒸気圧力計(蒸気圧力検出手段)
34 静翼表面温度計(静翼表面温度検出手段)
44、46、48 コントロールバルブ(熱媒体流量調整弁)
45a、45b コントロールバルブ(分岐導入路熱媒体流量調整弁)
50 上流側復水導入路
52 下流側復水導入路
54、55 復水導入路
55a、55b 分岐導入路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の動翼が固定されたロータを収納するとともに内部に複数本の静翼が固定される内車室と、前記内車室を覆うように前記内車室の外側に設けられる外車室とを備えた低圧蒸気タービンであって、
前記内車室と外車室の間に設けられ、熱媒体が流通する熱媒体加熱流路と、
前記熱媒体加熱流路に前記熱媒体を導入する熱媒体導入路と、
少なくとも1本の前記静翼の内部に設けられ、前記熱媒体加熱流路を通過した熱媒体が導入される熱媒体室とを備え、
前記熱媒体加熱流路を通過することによって加熱された前記熱媒体によって、前記熱媒体室が設けられる静翼を加熱することを特徴とする低圧蒸気タービン。
【請求項2】
前記内車室は、前記静翼が翼環を介して内部に支持される壁部材で構成される一重内車室構造であることを特徴とする請求項1記載の低圧蒸気タービン。
【請求項3】
前記熱媒体室が設けられる静翼は、前記熱媒体室内の前記熱媒体を静翼外に噴射するスリットを有し、
前記熱媒体は、水であり、前記熱媒体加熱流路を流通することで蒸気となって前記熱媒体室に導入されることを特徴とする請求項1又は2記載の低圧蒸気タービン。
【請求項4】
前記熱媒体導入路は、前記低圧蒸気タービンで仕事をした後の蒸気を凝縮させた復水を前記熱媒体加熱流路に導く復水導入路であって、
前記復水を前記熱媒体として使用することを特徴とする請求項1〜3何れか1に記載の低圧蒸気タービン。
【請求項5】
前記熱媒体室が設けられる静翼の表面温度を検出する静翼表面温度検出手段と、
前記熱媒体室が設けられる静翼の上流側の蒸気の圧力を検出する蒸気圧力検出手段と
前記静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて、前記熱交換手段による熱交換量を調整する熱交換量調整手段とを設けたことを特徴とする請求項1〜4何れか1に記載の低圧蒸気タービン。
【請求項6】
前記熱交換量調整手段は、
前記熱媒体導入路に設けた熱媒体流量調整弁と、
前記静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて前記熱媒体流量調整弁の開度を調整する調整弁制御手段とを備えたことを特徴とする請求項5記載の低圧蒸気タービン。
【請求項7】
前記熱媒体加熱流路を複数備え、
前記熱媒体導入路は、途中で複数の分岐導入路に分岐するとともに、各分岐導入路が前記複数の熱媒体加熱流路にそれぞれ接続され、
前記熱交換量調整手段は、
前記複数の分岐導入路それぞれに設けた分岐導入路熱媒体流量調整弁と、
前記静翼表面温度検出手段の検出温度と、前記蒸気圧力検出手段の検出圧力における飽和蒸気温度との差に基づいて前記分岐導入路熱媒体流量調整弁の開度を調整する分岐路調整弁制御手段とを備えたことを特徴とする請求項5記載の低圧蒸気タービン。
【請求項8】
前記熱媒体加熱流路は、前記内車室の上半部の周囲に設けられていることを特徴とする請求項1〜7何れか1に記載の低圧蒸気タービン。
【請求項9】
前記熱媒体加熱流路は、前記内車室の蒸気入口部の周囲に設けられていることを特徴とする請求項1〜8何れか1に記載の低圧蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−215104(P2012−215104A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80415(P2011−80415)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第5055451号(P5055451)
【特許公報発行日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】