説明

低坪量エアフィルタ用濾材

【課題】本発明の課題は、エアフィルタ用濾材の低坪量化に伴う引裂強さと撥水性の低下問題を改善し、なおかつ難燃性要望にも対応できるエアフィルタ用濾材を提供することである。
【解決手段】本発明に係る低坪量エアフィルタ用濾材は、濾材の原料繊維として、ガラス短繊維(A)と繊維径5μm以下の疎水性化合繊短繊維(B)とが質量比(A/B)で70/30〜95/5の範囲で配合されてなり、前記原料繊維100質量部に対して疎水性合成樹脂系バインダーが3〜10質量部付与されてなり、坪量が25g/m以上50g/m以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルタ用濾材、特に半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム、クリーンベンチ等の空気浄化施設用途のエアフィルタ、ビル空調用エアフィルタ又は空気清浄機用途のエアフィルタなどにおいて、気体中の微粒子を濾過するために使用される準高性能エアフィルタ用濾材又は高性能エアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中のサブミクロン乃至ミクロン単位の粒子を効率的に捕集するために、エアフィルタの捕集技術が用いられている。エアフィルタは、その対象とする粒子径や除塵効率の違いによって粗塵用フィルタ、中性能フィルタ、準高性能フィルタ、高性能フィルタ(HEPAフィルタ、ULPAフィルタ)などに大別される。
【0003】
このうち、準高性能フィルタ、高性能フィルタの規格としては、欧州規格のEN1822がある。EN1822においては最大透過粒径(MPPS)における捕集効率のレベルにより、U16からH10まで7段階に分類されている。その他、高性能フィルタの規格としては、米国のIEST‐RP‐CC001、日本のJIS Z 4812:1995「放射性エアロゾル用高性能エアフィルタ」などがある。そして、準高性能フィルタ、高性能フィルタに使用される濾材としては、これら規格をエアフィルタとして満足するものが使用されている。濾材の素材としては、不織布状のガラス繊維製エアフィルタ用濾材が多く使われており、主要構成物として平均繊維径がサブマイクロメートル〜約3マイクロメートルのガラス短繊維が用いられている。
【0004】
また、クリーンルームで使用されるエアフィルタ用濾材は、必要に応じて、撥水性が付与される。なお、本発明における撥水性とは、MIL−STD−282の測定法によって規定されるものである。濾材に撥水性を付与する目的としては、濾材を加工するときに使用するシール剤、ホットメルトなどの染み込みを防ぐことや、温度変化によって水分が結露した場合においても、そのまま濾材を使用できるようにすることなどが挙げられる。また、海塩粒子が多く存在するような環境下において塩分の潮解を防ぐためには、高い撥水性を有する濾材が必要とされている。
【0005】
エアフィルタ用濾材は、濾過面積を大きくするためプリーツ加工機でジグザグ状に折り加工され、アルミ製、木製、樹脂製などの枠内に収められてエアフィルタユニットとなる。エアフィルタユニットのサイズとしては、縦×横で610mm×610mmの大きさが標準的ではあるが、その目的によってさまざまである。また、エアフィルタユニットの奥行きもさまざまである。
【0006】
エアフィルタ用濾材に関する先行技術としては、例えば次のものがある。ガラス繊維製エアフィルタ用濾材の強度改善策として、特定の繊維径を有するガラス繊維、ポリプロピレン繊維、熱可塑性成分をその一部として含むポリオレフィン系複合繊維、並びに65重量%以上ビニルアルコール単位を含有する長鎖状合成高分子で、水中溶解温度が50〜100℃であるビニロンバインダー繊維で構成され、かつ、濾材中のガラス繊維の配合比率が0.5〜20重量%、ビニロンバインダー繊維の配合比率が0.5〜10重量%であることを特徴とする濾材及びその製造方法(例えば、特許文献1を参照。)が提案されている。また、直径4μm以下の極細ガラス繊維60〜97重量%、0.05〜0.5デニールの細デニルポリビニルアルコール系繊維、ポリビニルアルコール系繊維状バインダー0〜7重量%からなり、坪量が25〜150g/mであるエアフィルタ用濾材が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0007】
さらに、気体中の粉塵を濾過するときの通常の通過方向と逆方向に気体を吹いて逆流させることで、表面に付着した捕集粉塵を払い落として濾過機能を回復させるバグフィルタ用濾材において、湿式抄紙法によって5μm以下の微細合成繊維と1μm以下のガラス繊維とを繊維バインダーと共に混抄した濾過層と、この濾過層に接合され、かつ、これを支持して補強する強度維持層とを備えたことを特徴とするバグフィルタ用濾材が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0008】
本願発明者らは、過去、従来の濾材に比較して濾材の強度と撥水性を向上させ、低圧損化・高捕集効率化させるため、濾材を構成するガラス繊維に有機系バインダーとポリイソシアネート化合物及び撥水剤を付着させてなるエアフィルタ用濾材とその製造方法を提供した(例えば、特許文献4を参照。)。
【0009】
また、従来ガラス繊維を主体繊維とするエアフィルタ濾材への撥水性付与の方法として、シリコーン系樹脂で構成される撥水剤の使用(例えば、特許文献5を参照。)、又はフッ素系樹脂で構成される撥水剤の使用(例えば、特許文献6を参照。)が行われてきた。本願発明者らも過去、ガラス繊維表面にアルキルケテンダイマーを付着形成させたことを特徴とするエアフィルタ用濾材(例えば、特許文献7を参照。)や、低分子環状シロキサンを主とした有機アウトガスを発生させない撥水剤として、少なくとも分子内に三つ以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランを加水分解したのち縮合した、縮合物を前記ガラス繊維表面に付着形成させたことを特徴とするアウトガスの少ないエアフィルタ用濾材(例えば、特許文献8を参照。)を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−206421号公報
【特許文献2】特公平6−13082号公報
【特許文献3】特開平8−243321号公報
【特許文献4】特開平9−225226号公報
【特許文献5】特開平2−41499号公報
【特許文献6】特開昭62−090395号公報
【特許文献7】再公表WO02/016005号公報
【特許文献8】特開2007−29916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、エアフィルタユニットの軽量化、コンパクト化の目的で、奥行きの薄いタイプが望まれているが、ユニットに同じ濾過面積のプリーツした濾材を収めようとすると、濾材の厚みのためにプリーツした濾材面が互いに接触して構造抵抗を引き起こすことでエアフィルタユニットの圧力損失が著しく増大してしまう問題があった。
【0012】
この問題を解決するため、エアフィルタ用濾材の厚さを薄くする、すなわち坪量を低減しようとする試みがある。しかし、ガラス繊維製濾材は、他の有機素材の濾材に比べて脆弱である。このため、通常、濾材坪量を60〜80g/m程度のものとするが、これを50g/m以下にしようとするとこれに伴って濾材強度が低下し、プリーツ加工時やエアフィルタとしての実使用時に濾材が破れやすくなる問題があった。また、濾材撥水性も同様に、濾材の低坪量化によって低下する問題があった。
【0013】
本発明者らの検討では、前述した濾材の破れはJIS P 8116:2000「紙‐引裂強さ試験方法‐エルメンドルフ形引裂試験機法」に規定するところの紙の引裂強さが深く影響していることが分かり、引裂強さが坪量に比例して低下するため破れが発生しやすくなることが分かっている。また、撥水性についても、坪量の低減とともに濾材の厚さが薄くなり、水が浸透しやすくなるため低下することが分かっている。
【0014】
過去、ガラス繊維製エアフィルタ用濾材の強度改善策として特許文献1又は2の技術があるが、当該の特許文献実施例において、引張強さの向上効果が認められるものの、濾材の引裂強さは向上せず、プリーツ加工時や実使用時の濾材の破れにはあまり効果が無く、撥水性の向上効果もないという問題がある。
【0015】
また、特許文献3の強度維持層に関する技術については、濾過層に強度維持層を接合するには特殊な設備が必要であり、また濾過層と強度層との接合面が剥離しやすく、撥水性の向上が見られない問題がある。
【0016】
また、本発明者らが提供した特許文献4の技術をもってしても、低坪量化による濾材の強度低下、撥水性低下を補うことは難しく、特に引裂強さの向上はあまり期待できないものであった。
【0017】
さらに、撥水性について、特許文献5〜8の技術があるが、これらは撥水性を有する薬品を使ってガラス繊維表面を処理したものであり、低坪量化に伴う撥水性低下を補うには大幅に薬品使用量を増やす必要があり、コストがかかるばかりか、付着量による向上効果も頭打ちになってしまう問題がある。また、薬品付着量を増やしても引裂強さの向上が見られない問題がある。
【0018】
このように、特許文献1〜8の技術はいずれも濾材の低坪量化に対する対策としては抜本的な対策ではなかった。そこで、本発明の課題は、エアフィルタ用濾材の低坪量化に伴う引裂強さと撥水性の低下問題を改善し、かつ、難燃性要望にも対応できるエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意検討したところ、濾材の原料繊維としてガラス短繊維と繊維径5μm以下の疎水性化合繊短繊維を使用し、かつ、疎水性合成樹脂系バインダーで繊維を固定することで前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る低坪量エアフィルタ用濾材は、濾材の原料繊維として、ガラス短繊維(A)と繊維径5μm以下の疎水性化合繊短繊維(B)とが質量比(A/B)で70/30〜95/5の範囲で配合されてなり、前記原料繊維100質量部に対して疎水性合成樹脂系バインダーが3〜10質量部付与されてなり、坪量が25g/m以上50g/m以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る低坪量エアフィルタ用濾材では、前記質量比(A/B)が78/22〜95/5の範囲であり、かつ、エアフィルタ用濾材が、空気清浄装置用ろ材燃焼性試験方法指針JACA No.11A−2003に準拠した燃焼性試験の燃焼性区分クラス3を満足することが好ましい。質量比(A/B)を78/22〜95/5の範囲とすることで、難燃性が付与される。
【0021】
本発明に係る低坪量エアフィルタ用濾材では、エアフィルタ用濾材に撥水剤が付与されていることが好ましい。撥水剤の併用が可能であり、これによって、撥水性が付与される。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエアフィルタ用濾材は、低坪量化に伴う引裂強さと撥水性の低下問題が改善されている。引裂強さについては、従来の坪量の濾材と同等の引裂強さ物性を保持している。さらに、可燃性の化合繊短繊維を配合しても、JACA No.11A−2003に準拠した難燃性を濾材に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0024】
本実施形態に係る低坪量エアフィルタ用濾材は、濾材の原料繊維として、ガラス短繊維(A)と繊維径5μm以下の疎水性化合繊短繊維(B)とが質量比(A/B)で70/30〜95/5の範囲で配合されてなり、原料繊維100質量部に対して疎水性合成樹脂系バインダーが3〜10質量部付与されてなり、坪量が25g/m以上50g/m以下である。
【0025】
本実施形態の坪量は、25〜50g/mである。25g/m未満であると、引裂強さ及び撥水性が現行坪量の濾材品質レベルより低下してしまう。また、50g/mを超えると濾材の厚さ低減効果が薄れてしまう。なお、本発明において、現行坪量とは60〜80g/mとしている。
【0026】
本実施形態で主体繊維として使用するのはガラス短繊維と称されるものであり、ガラス短繊維は必要とされる濾過性能やその他物性に応じて、種々の繊維径を有するガラス短繊維の中から自由に選ぶことができる。特に、ガラス短繊維は、火焔延伸法やロータリー法で製造されるウール状のガラス繊維であり、濾材の圧力損失を所定の値に保ち、適正な捕集効率とするための必須成分である。繊維径が細くなるほど捕集効率は高くなるため、高性能の濾材を得るためには平均繊維径の細かい極細ガラス繊維を配合する必要がある。ただし、繊維径が細くなると圧力損失が上昇しすぎる場合があるので、この範囲内で適正な繊維径のものを選択すべきである。なお、数種の繊維径のものをブレンドして配合しても構わない。繊維径としては、概ねで5μm以下のものが使われる。ガラス組成としては、エアフィルタ用途の大半はボロシリケートガラスであり、この中には耐酸性を有するCガラスや電気絶縁性を有するEガラス(無アルカリガラス)も含まれる。また、半導体工程などにおけるボロン汚染を防止する目的で、ローボロンガラス短繊維やシリカガラス短繊維を使用することもできる。なお、本実施形態における主体繊維とは、全原料繊維配合の70質量%以上多くを占める繊維のことを示す。そして、本実施形態の場合は、ガラス短繊維のことである。
【0027】
本発明者らは、このガラス短繊維を主体とするエアフィルタ用濾材に関して、低坪量化に伴う引裂強さ低下及び撥水性低下についての対策を鋭意検討した結果、細径の疎水性化合繊短繊維を原料繊維の一部として適宜配合し、かつ、疎水性合成樹脂バインダーを濾材に付与することにより、引裂強さと撥水性が著しく改善されることが分かった。
【0028】
疎水性化合繊短繊維は、湿式紡糸法、乾式紡糸法、エマルジョン紡糸法、溶融紡糸法などの紡糸法により、紡糸液を紡糸口金から紡糸した糸状繊維を適宜の長さにカットしたもので、不織布の原料や布団綿などさまざまな用途に使用されるものである。このうち、本実施形態で使用される疎水性化合繊短繊維は、繊維径5μm以下の細径でなければならない。繊維径が5μmより太いと、引裂強さの改善効果はあまりない。疎水性化合繊短繊維の繊維長は、好ましくは1mm以上20mm以下、更に好ましくは3mm以上10mm以下である。20mmより長いと、シート作製時の繊維分散工程で繊維が未分散を起こしやすくなり、出来上がった濾材シートが不均一となって、捕集性能の低下を引き起こす場合がある。また、1mmより短いと、引裂強さの改善効果が低くなる場合がある。
【0029】
疎水性化合繊短繊維の組成としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など挙げられるが、疎水性であれば特に限定されるものではない。組成としては、これらのほかに前記の紡糸法に更に改良を加えて細径化した海島型繊維、分割型繊維、更に化合繊に機械的処理を加えてパルプ状にしたタイプのものも使用できる。また、これらの繊維を適宜併用してもよい。これに対し、親水性であるビニロン繊維、半合成繊維のレーヨン繊維、セルロース系繊維などは、濾材の引裂強さの向上効果が無いうえ、撥水性の向上を阻害するため好ましくない。
【0030】
また、ガラス繊維主体のエアフィルタ用濾材は、通常、大部分が無機質材料で構成されているため、空気清浄装置用ろ材燃焼性試験方法指針JACA No.11A−2003に準拠した難燃性を有している。しかし、濾材構成に可燃性である疎水性化合繊短繊維を配合することは、同試験方法の難燃性を満たさなくなることが懸念される。難燃性については濾材使用目的で要求度が異なるので、必ずしも必要な特性とはいえないが、難燃性が要求される場合に対応できなくなる可能性がある。方法の一つとしては化合繊短繊維自体を難燃化させる方法が挙げられるが、難燃化には環境上好ましくないハロゲン及び/又は半導体製造工程で歩留まりを低下させるリンなどを付加する必要があり、あまり好ましくない。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、細径の疎水性化合繊短繊維の配合率を制御することで、必ずしも化合繊自体が難燃性である必要がないことがわかった。
【0031】
ガラス短繊維(A)と疎水性化合繊短繊維(B)との配合比は、質量比(A/B)で70/30〜95/5とする。また、濾材に難燃性を付加させるために好ましくは質量比(A/B)で78/22〜95/5とする。ガラス短繊維(A)と疎水性化合繊短繊維(B)における疎水性化合繊短繊維(B)の配合率が5質量%未満であると、濾材の引裂強さと撥水性の向上効果が薄れてしまう。また、30質量%を超えると、疎水性化合繊短繊維が濾材シートを構成するガラス短繊維のネットワークを乱してしまい、濾材の捕集性能が低下してしまう。また、ガラス短繊維(A)と疎水性化合繊短繊維(B)における疎水性化合繊短繊維(B)の配合率が22質量%を超えると濾材が難燃性を失い、JACA No.11A−2003試験方法の区分クラス3を満たさなくなる。
【0032】
また、本実施形態の目的に支障が無い限り、副資材として、ガラス短繊維より太い5μm以上の繊維径を有するチョップドガラス繊維、無機繊維、太径の天然繊維、太径の化合繊短繊維などを、主体繊維の配合の中で、15質量%以下の配合をしても差し支えない。
【0033】
本実施形態の効果を発揮させるためには、濾材に更に疎水性合成樹脂系バインダーを付与することが必要である。これらバインダーは、水溶液又は水系エマルジョンの形のもの、すなわち、バインダー液として濾材に付与される。疎水性合成樹脂系バインダーとしては、アクリル酸エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂などが挙げられる。一方、親水性バインダーである澱粉、ポリビニルアルコール系樹脂などは、濾材の引裂強さの向上効果が無いうえ、撥水性の向上を阻害するため好ましくない。ただし、本実施形態の目的に支障が無い限り、疎水性合成樹脂系バインダーに加えて副資材として必要最低限量の親水性バインダーを付与することは差し支えない。同時に、これらバインダーは、繊維自体に自己接着能のないガラス短繊維同士を接着させる効果もある。疎水性合成樹脂系バインダーの付与量としては、原料繊維100質量部に対して好ましくは3〜10質量部であり、更に好ましくは4〜7質量部である。3質量部未満であると本実施形態の効果は発揮されず、10質量部を超えるとバインダーの樹脂膜が濾材の繊維ネットワークの孔を塞ぐため、濾材の圧力損失を増大させるなどの問題が生じる。
【0034】
さらに、濾材に実用上必要とされる撥水性を付与するために、ほとんどの場合、撥水剤が付与される。これら撥水剤も、一般的に、バインダーと同様に、バインダー液と混合するか、単独で濾材に付与される。撥水剤としては、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ワックス、アルキルケテンダイマーなどが用いられる。
【0035】
バインダー液には、その他必要に応じて界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、湿潤剤、保水剤、増粘剤、架橋剤、離型剤、防腐剤、柔軟剤、帯電防止剤、耐水化剤、可塑剤、蛍光増白剤、着色顔料、着色染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料、脱臭剤等の添加剤を適宜選定して添加することができる。
【0036】
本実施形態の構成のうち、疎水性化合繊短繊維と疎水性合成樹脂系バインダーのいずれが欠けても本発明の効果は発揮できない。この理由としては、疎水性化合繊短繊維と疎水性合成樹脂系バインダーがいずれも疎水性のため繊維と樹脂系バインダーの相溶性が良いのでよく接着し、またガラス短繊維と樹脂系バインダー(疎水性合成樹脂系バインダー)も接着しているため、引裂強さに対し大きな効果を発揮していると推定される。加えて、疎水性化合繊短繊維が、繊維径5μm以下と細径であり、また、比表面積が大きいことから、ガラス短繊維−細径疎水性化合繊短繊維−疎水性合成樹脂系バインダー間の強固な接着を促進していると考えられる。撥水性の向上効果については、化合繊短繊維が細径かつ疎水性であるため、水の浸透性を強く阻害していると推定される。これは、通常の化合繊には見られない現象である。疎水性合成樹脂系バインダーを増やせば同様の効果が出るが、前述のとおりバインダーの樹脂膜が濾材の繊維ネットワークの孔を塞ぐため、問題が生じる。細径疎水性化合繊短繊維は、繊維状であるため、このような問題を生じない。
【0037】
濾材の製造工程では、繊維を水中に分散したのち、抄紙ワイヤ上に繊維を積層し、ワイヤ下方から脱水してシートを形成する、いわゆる湿式抄紙法が用いられる。このとき用いる抄紙機の種類は、本実施形態では限定されず、例えば枚葉式抄紙装置、又は連続抄紙機であれば長網式抄紙機、円網式抄紙機、傾斜ワイヤ式抄紙機、ギャップフォーマー、デルタフォーマーなどを用いることができ、それら一種以上を組み合わせた多層抄き抄紙機を用いてもよい。このとき、より高性能なフィルタ用濾材を得るためには、できるだけ均一に、地合良く、嵩高くシート化することが望ましい。
【0038】
次に、シート化された繊維ウェブにバインダー成分を付与する工程となる。バインダーの付与方法としては、各種のバインダー成分を水などの溶媒に稀釈したバインダー液を、含浸、ロールアプリケート、スプレー、カーテン塗工などの各種の方法でシートに付与したのち、余分なバインダー液を負圧又は正圧の空気で除去する方法が一般的である。バインダー液を付与する前のシートは、湿潤状態であっても乾燥状態であっても構わないが、より高性能なフィルタ濾材を得るためには、シートは湿潤又は半湿潤状態であることが望ましい。
【0039】
バインダー液を付与した後のシートは、乾燥ゾーンで乾燥される。このときの乾燥方法は、特に限定されないが、熱風乾燥、ドラム乾燥、赤外線乾燥などが好適に用いられる。乾燥温度としては110〜150℃が望ましい。
【0040】
完成したシートは、オンライン又はオフラインによって巻き取られ、又はカッターによって裁断されて製品となる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0042】
(実施例1)
平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維(ジョンズマンビル社製、Micro−Strand(登録商標)Fiber Glass Micro−Fibers Type 475)90質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.0μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維(帝人ファイバー社製、TM04PN)10質量%に硫酸酸性pH3.5の酸性水を加えて濃度0.5%とし、これら原料を食品用ミキサー(松下電器産業社製;品番MX‐V200)内で1分間離解した。次いで、離解後の原料を同じ酸性水で濃度0.1%まで希釈し、手抄装置を用いて抄紙することによって湿紙を得た。次にアクリル系ラテックス(商品名:ボンコートAN−155−E、製造元:DIC(株))、フッ素系撥水剤(商品名:NKガードNDN−9E、製造元:日華化学(株))を、アクリル系ラテックス/フッ素系撥水剤の固形分質量比率が100/8となるように混合した撥水剤含有バインダー液を、湿紙に対して含浸付与し、その後130℃のロールドライヤーで乾燥し、坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。ここで、平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維とは、目的の圧力損失(実施例では275Pa)とするため平均繊維径2.5μm以下の各種繊維径のボロシリケートガラス短繊維を適宜組み合わせたものであり、以下の実施例も同様である。
【0043】
(実施例2)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維80質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.0μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維20質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量25g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0044】
(実施例3)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維75質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.0μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維25質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量25g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0045】
(実施例4)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維85質量%、繊維径0.2dtex(推定繊維径4.3μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維(帝人ファイバー社製、TK08PN)15質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0046】
(実施例5)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維90質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.3μm)、繊維長3mmのアクリル短繊維(三菱レーヨン社製、D122)10質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0047】
(実施例6)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維93質量%、繊維径0.06dtex(推定繊維径2.6μm)、繊維長3mmのアクリル短繊維(三菱レーヨン社製、開発品)7質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0048】
(実施例7)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維95質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.3μm)、繊維長3mmのアクリル短繊維5質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量50g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0049】
(実施例8)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維70質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.0μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維30質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0050】
(実施例9)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維78質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.0μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維22質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量25g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0051】
(実施例10)
実施例4において、バインダー付与率を対濾材3.0質量%とした以外は、実施例4と同様にして坪量40g/mであるHEPA濾材を得た。
【0052】
(実施例11)
実施例4において、バインダー付与率を対濾材10.0質量%とした以外は、実施例4と同様にして坪量40g/mであるHEPA濾材を得た。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維100質量%以外は、実施例1と同様にして坪量80g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維100質量%以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維90質量%、繊維径1.7dtex(推定繊維径12.5μm)、繊維長3mmのポリエステル短繊維(帝人ファイバー社製、TT04N)10質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0056】
(比較例4)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維90質量%、繊維径0.6dtex(推定繊維径7.4μm)、繊維長5mmのポリエステル短繊維(帝人ファイバー社製、TA04N)10質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0057】
(比較例5)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維97質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.3μm)、繊維長3mmのアクリル短繊維3質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量50g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0058】
(比較例6)
実施例1において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維65質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.3μm)、繊維長3mmのアクリル短繊維35質量%とした以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材5.0質量%であるHEPA濾材を得た。
【0059】
(比較例7)
平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維90質量%、繊維径0.1dtex(推定繊維径3.3μm)、繊維長3mmのアクリル短繊維10質量%、PVAバインダー繊維(フィブリボンド 三晶社製、No.243)対濾材4質量%に硫酸酸性pH3.5の酸性水を加えて濃度0.5%とし、これら原料を食品用ミキサー(松下電器産業社製;品番MX‐V200)内で1分間離解した。次いで、離解後の原料を同じ酸性水で濃度0.1%まで希釈し、手抄装置を用いて抄紙することによって湿紙を得た。次に、フッ素系撥水剤(商品名:NKガードNDN−9E、製造元:日華化学(株))だけの含浸液を湿紙に対して対濾材付与率0.4質量%となるように含浸付与し、その後130℃のロールドライヤーで乾燥し、坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材4.4質量%であるHEPA濾材を得た。
【0060】
(比較例8)
比較例7において、繊維配合を平均繊維径2.5μm以下のボロシリケートガラス短繊維90質量%、繊維径0.6dtex(推定繊維径7.7μm)、繊維長3mmのビニロン短繊維(クラレ社製、VPB053)10質量%とした以外は、比較例7と同様にして坪量40g/m、バインダー付与率が対濾材4.4質量%であるHEPA濾材を得た。
【0061】
(比較例9)
実施例4において、バインダー付与率を対濾材2.0質量%とした以外は、実施例4と同様にして坪量40g/mであるHEPA濾材を得た。
【0062】
(比較例10)
実施例4において、バインダー付与率を対濾材11.0質量%とした以外は、実施例4と同様にして坪量40g/mであるHEPA濾材を得た。
【0063】
実施例及び比較例の濾材について次の試験を行った。
(1)圧力損失
自製の装置を用いて、有効面積100cmの濾材に面風速5.3cm/secで通風したときの圧力損失を微差圧計で測定した。
(2)0.3−0.4μmDOP透過率
ラスキンノズルで発生させた多分散DOP粒子を含む空気を、有効面積100cmの濾材に面風速5.3cm/secで通風したときの上流及び下流の個数比からDOPの透過率を、リオン社製レーザーパーティクルカウンターを使用して測定した。なお、対象粒径は、0.3−0.4μmとした。
(3)PF値
濾材のフィルタ性能の指標となるPF値は、(1)、(2)のデータを使って次式数1から求めた。PF値が高いほど、同一圧力損失で低透過率又は同一透過率で低圧力損失を示す。
【数1】

(4)引裂強さ
濾材から長さ63mm、幅76mmの試験片を採取し、これを5枚重ね合わせてエルメンドルフ形引裂試験機自動デジタル式(熊谷理機工業)を用いて測定を行った。また、比引裂強さは、引裂強さを坪量で除することによって求めた。
(5)引張強さ
濾材から1インチ幅×130mm長にカットした試験片を採取し、スパン長100mm、引張速度15mm/分で定速引張試験機(東洋精機製作所;ストログラフM1)を用いて測定した。
(6)撥水性
撥水性は、MIL‐STD‐282に準拠して測定した。
(7)難燃性
難燃性は、空気清浄装置用ろ材燃焼性試験方法指針JACA No.11A−2003に準拠した燃焼性試験器(スガ試験機械;UL‐94HBF)で測定した。評価は、燃焼性区分クラス3を満足するものを○、これ以外を×とした。
【0064】
これらの試験の測定結果を表1及び表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
比較例1は従来例に相当し、比較例2は単純にその坪量を半減させた例であるが、比較例1と2においては、坪量が80g/mから40g/mに半減した結果、引裂強さ、引張強さ、撥水性が大きく低下した。これに対して、実施例1と5においては、それぞれ0.1dtexのポリエステル短繊維、又はアクリル短繊維を10質量%配合した結果、坪量40g/mにおいても比較例1の坪量80g/mと同レベル以上の引裂強さと撥水性を達成できた。ただし、引張強さの改善効果は小さいが、このレベルでも濾材加工性には問題がない。実施例4、6では、繊維径と配合率を変えて実施して同様に効果が見られた。一方、繊維径5μmより太い化合繊短繊維を配合した比較例3、4では、引裂強さと撥水性の向上は少なかった。実施例2、3においては、0.1dtexポリエステル短繊維の配合を増量した結果、坪量25g/mまで低減しても引裂強さと撥水性は問題ないレベルであった。ただし、実施例3、8のように化合繊短繊維の配合率が22質量%を超えると、難燃性が悪化した。難燃性が要求される用途では、実施例9からわかるように化合繊短繊維の配合率を22質量%以下とする必要性がわかった。また、実施例8からわかるように配合率が化合繊短繊維の30質量%のときにDOP透過率及びPF値は許容レベルであったが、比較例6のように配合率が化合繊短繊維の30質量%を超えるとDOP透過率の増大及びPF値の低下が見られた。逆に、化合繊短繊維の配合率を減らし5質量%とした実施例7では、効果は十分にあったが、配合率を更に減らして3質量%とした比較例5では、引裂強さと撥水性が低下した。バインダーを親水性のポリビニルアルコール(PVA)バインダー繊維に変更した比較例7では引裂強さと撥水性が著しく低下し、比較例8ではバインダーに加えて化合繊短繊維を親水性の0.6dtexビニロン繊維に変更して更に引裂強さと撥水性が低下した。親水性の化合繊短繊維とバインダーは引裂強さの向上にほとんど効果が無く、逆に撥水性を低下させてしまうと考えられる。実施例10のアクリル樹脂バインダーが対濾材3質量%であるときと比較して、アクリル樹脂バインダーが対濾材2質量%の比較例9は、引裂強さ、引張強さ、撥水性に劣った。実施例11のアクリル樹脂バインダーが対濾材10質量%であるときと比較して、アクリル樹脂バインダーが対濾材11質量%の比較例10は、DOP透過率の増大及びPF値の低下が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材の原料繊維として、ガラス短繊維(A)と繊維径5μm以下の疎水性化合繊短繊維(B)とが質量比(A/B)で70/30〜95/5の範囲で配合されてなり、前記原料繊維100質量部に対して疎水性合成樹脂系バインダーが3〜10質量部付与されてなり、坪量が25g/m以上50g/m以下であることを特徴とする低坪量エアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記質量比(A/B)が78/22〜95/5の範囲であり、かつ、エアフィルタ用濾材が、空気清浄装置用ろ材燃焼性試験方法指針JACA No.11A−2003に準拠した燃焼性試験の燃焼性区分クラス3を満足することを特徴とする請求項1に記載の低坪量エアフィルタ用濾材。
【請求項3】
エアフィルタ用濾材に撥水剤が付与されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の低坪量エアフィルタ用濾材。

【公開番号】特開2010−253391(P2010−253391A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106738(P2009−106738)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】