説明

低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯

【課題】非線形セラミックコンデンサを含む始動器を透光性外管に内蔵する低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯において、発光管リークにより外管内にガスが漏出した時に始動器からの高圧パルスの発生を止め外管内にアーク放電が生じて外管破損を引き起こす現象を防止する低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯を提供する。
【解決手段】発光管内に封入された希ガスの圧力は外管内に漏出した時に外管内にグロー放電を発生させ、且つアーク放電を生じない範囲の圧力に規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧金属蒸気放電灯に関し、特に、非線形セラミックコンデンサを含む始動器を外管に内蔵する低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯に関するものである。以下の文中で単に「ランプ」と記載した場合には上記仕様の低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯を意味する。
【背景技術】
【0002】
低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯はJISC7621内に規定されている「始動器内蔵形ランプ」およびJISC7623内に規定されている「低始動電圧形メタルハライドランプ」を包括するものである。これらのランプの一種として、内部始動器として非線形セラミックコンデンサおよび半導体スイッチを含む始動器を採用し、前記半導体スイッチをランプの口金部に内蔵した高圧金属蒸気放電灯がある。一例として、この種の始動器を備えたセラミックメタルハライドランプの外観図を図4に示す。
【0003】
ランプのほぼ中央には発光管101があり、発光物質102および封入ガス103が封入されている。この発光管101は適当な支持部材により金属製のフレーム109に固定されている。フレーム109はマウント支持板114およびステム115の導入線と接続することにより外管106内に位置固定されている。フレーム109は位置固定用の部材であると同時に給電用の部材を兼ねており、図示しない外部給電システムからの電力を口金112およびステム115の導入線を介して発光管101の一方の外部リード107aまで伝えている。ステム115の他方の導入線は発光管101の他方の外部リード107bに接続されている。また、非線形セラミックコンデンサ及び複数の回路抵抗素子からなる始動器110が発光管101と電気的に並列に接続されている。
【0004】
また発光管101の温度を比較的高く保つ必要のあるランプ仕様の場合には、外管106の内部を真空排気後、ゲッター113を活性化させて外管106内の残留ガスを吸収させ、発光管を真空断熱により保温することができる。
【0005】
このような外管を真空に保っているランプにおいて、何らかの事故で発光管がリークした場合、発光管内の封入ガスが漏出して外管内が低圧力のガスに満たされることになる。この封入ガスは放電しやすい性質を有しているため、外管内に放電が生じる。
【0006】
発光管リークが起こった時に外管内放電を抑制する技術として、特許文献1の構成が参考となる。これは、外管内放電の起点となりやすいバリウムゲッターのホルダーリングを給電線とは電気的に絶縁して取り付けることによって外管内が0.0025〜2Torr(約0.3〜266Pa)の圧力になった場合にも外管内放電が生じないという効果を得られるものである。
【0007】
特許文献1の構成では発光管リークが起こった場合にも高電圧パルスは発生している。また発光管内にも封入ガス及び発光物質の一部が残っているので発光管が点灯してしまうことがある。このような場合に対応するために、特許文献2に開示されている技術を利用して、点灯回路の一部にヒューズを設け、過電流が流れたときには点灯回路が切断されるようにすることができる。
【0008】
しかし、外管内放電がステムの導入線間で生じた場合、特許文献2のヒューズは役に立たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−137950号公報
【特許文献2】特開昭59−180947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
外管内に放電が生じるといっても、2種類の場合がある。まず外管内圧が比較的低い場合には、外管内部全体が淡く光る「グロー放電」の状態となる。グロー放電が生じても放電温度が比較的低いため、外管及びランプ部材に即時致命的な影響を与えることはない。しかし、外管内圧がある程度高くなると、局所に輝度の高い「アーク放電」が生じる。アーク放電が生じた箇所は局所的に高温となるため、金属部材は溶融し、ガラス部材は溶融または歪によりクラックが生じることもある。
【0011】
ランプの始動器として非線形セラミックコンデンサを採用したランプの場合、始動パルスが特許文献1および特許文献2で採用している機械式スターター(フィラメントとバイメタルを組み合わせた始動器)よりも発生パルス電圧は低いため、特許文献1の実施例に記載されているような外管内圧力においてはバリウムゲッターリングからのアーク放電は生じない。
【0012】
しかし、外管内圧力がさらに高い場合には外管内アーク放電が生じ、特にステム導入線間にアーク放電が生じた場合には数分の間に外管が破損して外管の破片が周囲に飛散することも考えられる。ただし、グロー放電は非線形セラミックコンデンサを加熱してパルス発生を停止させる効果があるため、非線形セラミックコンデンサを始動器に用いたランプにおいては、発光管リークの際に、むしろグロー放電が発生したほうが好ましい。
【0013】
本発明では外管を破壊するおそれのあるアーク放電を生じさせず、非線形セラミックコンデンサを速やかに加熱して始動パルスを低下させ、停止させる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するためには、非線形セラミックコンデンサを含む始動器を外管に内蔵する低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯において、発光管から封入ガスが漏出した場合に、
外管内にグロー放電を生じさせる程度に外管内圧力が高く、かつ、外管内にアーク放電が生じない程度に外管内圧力を抑えるようにすればよい。
【0015】
通常の非線形セラミックコンデンサを始動器に用いたセラミックメタルハライドランプにおいては外管内圧力が10〜700Paになるように発光管封入圧力および外管内管の容積を設定すれば、上記の条件を満足できる。
【発明の効果】
【0016】
上記の仕様で製造された低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯は、発光管リーク事故が生じても外管が破壊されず、高電圧パルスが速やかに停止される安全なランプとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用した低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯の一例を示す概略図。
【図2】水銀灯400W対応セラミックメタルハライドランプによる実験結果。
【図3】外管内ガス圧力と外管内アーク放電発生率との関係を示すグラフ。
【図4】従来の低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯の構造例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するためには、従来のランプと同じで構成のランプであって良い。ただし発光管容積、発光管封入ガス圧、外管容積を決定する際には、発光管から封入ガスが漏出した場合に外管内圧力が10〜700Paになるように各数値の関係を設定する必要がある。
【0019】
発光管内容積および封入ガス圧はランプの発光特性を要求仕様に合わせることでほぼ決まってしまうため、前項の関係を満足させるためには、主に外管の内容積で調整することが好ましい。
【0020】
まず従来仕様のランプで外管内放電現象について説明する。比較例とするのは図4に示す通常の150Wセラミックメタルハライドランプである。
【0021】
ランプのほぼ中央には発光管101があり、発光物質102および封入ガス103が封入されている。この発光管101は適当な支持部材により金属製のフレーム109に固定されている。フレーム109はマウント支持板114およびステム115の導入線と接続することにより外管106内に位置固定されている。フレーム109は位置固定用の部材であると同時に給電用の部材を兼ねており、図示しない外部給電システムからの電力を口金112およびステム115の導入線を介して発光管101の一方の外部リード107aまで伝えている。ステム115の他方の導入線は、非発光管101の他方の外部リード107bに接続されている。また、非線形セラミックコンデンサ及び複数の回路抵抗素子からなる始動器110が発光管101と電気的に並列に接続されている。
【0022】
また発光管101の温度を比較的高く保つため、外管106の内部を真空排気後、ゲッター113を活性化させて外管106内の残留ガスを吸収させ、発光管を真空断熱により保温している。外管外径は30mm、外管のガラス部長さは先端の半球部分を含めて約70mmである。
【0023】
図4のランプにおいて、発光管容積は2.7ccであり、外管内容積は内包するランプ部材を除いて約36ccである。発光管内には水銀および金属ハロゲン化物と共に200Torrのアルゴンガスを封入した。
【0024】
このランプの発光管に傷をつけ、点滅を繰り返してランプ状態を観察した。数十回の点滅の後、発光管がクラックして内部の封入ガスが外管へ漏出した。
実験ランプ5本中3本はステム導入線間にアーク放電を生じ、外管の口金に近い部分が割れて外管が落下した。この仕様での外管内圧力は計算上2000Paである。
【0025】
発光管封入ガス圧を100Torrに下げて同じ実験を行なったところ、5本中1本、外管内グロー放電が生じた後すぐにアーク放電に移行した。この時の外管内圧力は計算上1000Paである。外管が割れなかったランプについて外管内圧を実測したところ誤差±10%内に収まっていた。
【実施例1】
【0026】
図4と同じランプについて、発光管封入ガスの圧力を100Torrとし、外管内径を変えずに長さを30mm伸ばした。この変更により外管内容積は57ccとなった。従って発光管内封入ガスが全て外管内に漏出した時の外管内圧力は632Paとなる。
【0027】
この仕様のランプ5本について発光管を比較例と同じ手順でリークさせる実験を行なったところ、発光管リークとほぼ同時に外管内でグロー放電を生じたが、1時間たってもアーク放電に移行するランプは無かった。なお、グロー放電によって始動パルスは瞬時に500Vまで低下し、数分後には非線形セラミックコンデンサの温度がキュリー点を越えたためパルス停止した。
【実施例2】
【0028】
次に本発明の圧力規定範囲を決めた基本実験について説明する。この実験は図1に示す400Wクラスのセラミックメタルハライドランプまたは石英ガラス発光管のメタルハライドランプを使用して行なった。
【0029】
図1において、ランプのほぼ中央には発光管1があり、発光物質2および封入ガス3が封入されている。この発光管1は適当な支持部材により金属製のフレーム9に固定されている。フレーム9はマウント支持板14およびステム15の導入線と接続することにより外管6内に位置固定されている。フレーム9は位置固定用の部材であると同時に給電用の部材を兼ねており、図示しない外部給電システムからの電力を口金12およびステム15の導入線を介して発光管1の一方の外部リード7aまで伝えている。ステム15の他方の導入線は、発光管1の他方の外部リード7bに接続されている。また、非線形セラミックコンデンサ及び複数の回路抵抗素子からなる始動器10が発光管1と電気的に並列に接続されている。
【0030】
また発光管1の温度を比較的高く保つため、外管6の内部を真空排気後、ゲッター13を活性化させて外管6内の残留ガスを吸収させ、発光管を真空断熱により保温している。外管の最大外径は116mm、外管のガラス部長さは先端の半球部分を含めて約260mmである。
【0031】
図1のランプにおいて、発光管容積は7.2ccであり、外管内容積は内包するランプ部材を除いて約1250ccである。発光管内には水銀および金属ハロゲン化物と共に173Torrのアルゴンガスを封入した。この仕様での発光管リーク時における外管内圧力は計算上133Paである。
【0032】
この仕様のランプ4本について発光管を比較例と同じ手順でリークさせる実験を行なったところ、全てのランプで発光管リークとほぼ同時に外管内でグロー放電を生じたが、アーク放電に移行するランプは無かった。なお、グロー放電によって始動パルスは瞬時に500Vまで低下し、数分後には非線形セラミックコンデンサの温度がキュリー点を越えたためパルス停止した。
【0033】
同様に、発光管封入圧を変えて実験を繰り返した。同一条件のランプを4本ずつ作成して実験した。外管内圧力が500Pa以上となるような条件では、容積の大きい発光管を入れたランプを使用した。
【0034】
実験結果をまとめた表を図2に示す。またこの結果をグラフ化したものを図3に示す。この結果から、外管内でアーク放電を生じる圧力の臨界点は667Paと1333Paの間にあることがわかる。また、前記特許文献1のデータによれば、外管内圧力が1Pa以下の場合にはグロー放電も生じないと記載されており、本実験においても確認された。
【0035】
さらに細かい圧力条件で実験を繰り返した結果、ランプ電力が110W、150W、180W、220W、270W、360W、400Wのランプにおいて、安定器の二次開放電圧が200Vから220Vの高圧水銀灯用安定器を使用した場合、発光管リーク時に外管内圧力が10Pa以上となる条件では確実に外管内にグロー放電を生じ、外管内圧力が700Pa以下となる条件ではアーク放電は生じないことを確認した。
【0036】
本実施例では、水銀アルゴン混合ガスを主に実験対象としているが、キセノンガスを使用した実験例でも実際の臨界圧力としての数値はアルゴンを封入した場合とはやや異なるが、発光管リーク時に外管内圧力が10Pa以上となる条件にすれば確実に外管内にグロー放電を生じ、外管内圧力が700Pa以下となる条件ではアーク放電は生じないことを確認した。
【0037】
また本実施例では、セラミックメタルハライドランプを中心としてメタルハライドランプを主に実験対象としているが、低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯である高圧ナトリウムランプを使用した実験例でも上記圧力範囲であれば、メタルハライドランプと同じ結果となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、発光管が破壊されたりリークした場合にも外管破損を引き起こさず、高電圧パルスを速やかに低下し停止できる安全な低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯を提供するものである。
【符号の説明】
【0039】
1、101 発光管
3、103 封入ガス
6、106 外管
10、110 始動器
12、112 口金
13、113 ゲッター
15、115 ステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管を内包した気密外管を有し、非線形セラミックコンデンサを含む始動器を前記外管に内蔵する低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯において、
前記発光管封入ガス圧力を、前記発光管内のガスが前記外管内に放出された場合に、前記外管内にグロー放電を生じ且つ前記外管内にアーク放電を生じない圧力に設定した
ことを特徴とする低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯。
【請求項2】
請求項1に記載された低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯において、
前記発光管封入ガス圧力を、前記発光管内のガスが前記外管内に放出された場合に、前記外管内の圧力が10Pa以上且つ700Pa以下に設定した
ことを特徴とする低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯。
【請求項3】
請求項1から請求項2のいずれかに記載された低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯において、
前記発光管の封入ガスはアルゴン及び水銀の混合気体を主成分とする
ことを特徴とする低始動電圧形高圧金属蒸気放電灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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