説明

低屈折率反射防止膜

【目的】プラスチック及びガラス表面の反射を低減する為の低屈折率反射防止膜並びにこの膜を有する透明基材を提供する。
【構成】本発明の低屈折率反射防止膜は、5〜30nmの粒子径を有するシリカゾル(a)と、アルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物及び金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の成分(b)からなり、且つ(a)のSiO2 100重量部に対して、(b)を金属酸化物に換算して10〜50重量部の割合で有機溶媒に含有した塗布液を、基材に塗布した後、硬化する事により得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プラスチックおよびガラス表面の反射を低減するための低屈折率反射防止膜に関し、更にはディスプレイ表面やレンズ等に有用な低屈折率反射防止膜を有する透明基材を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、基材上に基材よりも低い屈折率の被膜を施すことにより反射率が低下することが知られており、低屈折率の被膜が反射防止膜として利用されている。一般に低屈折率被膜は、安定な低屈折率物質であるMgF2 等を、真空蒸着などの気相法により、基材上に形成する事によって得られる。
【0003】一方、低屈折率被膜と高屈折率被膜を基材上に、交互に積層し多層化する事によっても、高い反射防止効果が得られることが知られており、通常、SiO2 に代表される低屈折率物質と、TiO2 、ZrO2 等の高屈折率物質を、交互に蒸着等により成膜する気相法や、ゾルゲル法等により得られる塗布液を塗布、焼成する方法によって、形成される。
【0004】真空蒸着等の気相法による反射防止膜の形成は、一般に装置が大がかりであり、大面積の膜形成には不向きである。又、気相法による低屈折率被膜と高屈折率被膜を交互に積層し多層化する方法は、製造に長時間を要し、実用的では無い。多層被膜の形成方法として、近年ゾルゲル法による塗布法が用いられているが、大面積の基体に塗布、焼成を繰り返す為、経済的ではなく、さらに多数回の焼成を繰り返す為、均一な被膜の形成が困難であるばかりでなく、基体の変形や、被膜にクラックが入る等の問題があった。
【0005】これらの問題を解決するために、簡便に反射防止膜が得られる塗布法による、低屈折率被膜形成法がいくつか提案されている。特開平5−105422号公報には、MgF2 微粒子を含有する塗布液が提案されているが、得られる被膜の機械的強度、基材との密着力に劣る等の問題がある。特開平6−157076号公報には、異なる分子量を有するアルコキシシランの加水分解縮合物の混合物を塗布液とする事により、被膜表面に微細な凹凸を形成し、低屈折率の反射防止膜とする事が提案されているが、被膜形成時の相対湿度制御による被膜表面凹凸のコントロールや、異なる分子量を有する縮合物の製造が煩雑である等の問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題を解決し、機械的強度に優れ、基材との密着力が高い低屈折率反射防止膜、並びにこの低屈折率反射防止膜が施された透明基材を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、5〜30nmの粒子径を有するシリカゾル(a)と、アルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物及び金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の成分(b)からなり、且つ(a)のSiO2 100重量部に対して、(b)を金属酸化物に換算して10〜50重量部の割合で有機溶媒に含有した塗布液を、基材に塗布した後、硬化する事により得られる低屈折率反射防止膜である。
【0008】上記の低屈折率反射防止膜を作成する塗布液において、(a)成分のシリカゾルは、5〜30nm(ナノメートル)の粒子径を有するシリカ粒子が水又は有機溶剤に分散したゾルである。本発明に用いられるシリカゾルは、ケイ酸アルカリ塩中のアルカリ金属イオンをイオン交換等で脱アルカリする方法や、ケイ酸アルカリ塩を鉱酸で中和する方法等で得られた活性ケイ酸を縮合して得られる公知の水性シリカゾル、アルコキシシランを有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に加水分解と縮合する事により得られる公知のシリカゾル、更には上記の水性シリカゾル中の水を蒸留法等により有機溶剤に置換する事により得られる有機溶剤系シリカゾル(オルガノシリカゾル)が用いられる。本発明に用いられるシリカゾルは、水性シリカゾル及び有機溶剤系シリカゾルのどちらでも使用する事が出来る為に、有機溶剤系シリカゾルの製造に際し、完全に水を有機溶媒に置換する必要はない。本願発明に用いられるシリカゾルはSiO2 として5〜50重量%濃度の固形分を含有する。本願発明では基材の表面に微小な凹凸を形成する為にシリカ粒子が用いられるが、上記シリカゾル中のシリカ粒子の構造は如何なる形状であっても用いる事が出来る。例えば、球状、針状、板状、数珠状につながった形状等が挙げられる。上記有機溶剤系シリカゾルに用いられる有機溶剤は、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルセロソルブ、ジエチルカルビトール等のグリコールエーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いる事が出来るが、特に、アルコール類、グリコールエーテル類等の親水性溶剤が好ましい。
【0009】上記の低屈折率反射防止膜を作成する塗布液において、(b)成分は金属酸化物を形成する前駆体であり被膜形成機能を有する成分である。(b)成分に用いられるアルコキシシランの加水分解物は、アルコキシシランを酸性触媒又は塩基性触媒の存在下に有機溶媒中で加水分解することによって得られる。この酸性触媒としては、例えば硝酸、塩酸等の鉱酸やシュウ酸、酢酸等の有機酸が挙げられ、また塩基性触媒としては、例えばアンモニア等が挙げられる。上記アルコキシシランとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ステアリルトリメトキシシラン、ステアリルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、又は、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いる事ができる。上記アルコキシシランの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシランを好ましく用いる事が出来る。
【0010】上記の低屈折率反射防止膜を作成する塗布液において、(b)成分に用いられる金属アルコキシドの加水分解物は、金属アルコキシドを酸性触媒又は塩基性触媒の存在下に有機溶媒中で加水分解することによって得られる。この触媒は上記アルコキシシランの加水分解に用いられる触媒と同様の触媒を用いる事が出来る。上記金属アルコキシドとしては、例えばチタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド等のチタニウムテトラアルコキシド化合物、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等のジルコニウムテトラアルコキシド化合物、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド等のアルミニウムトリアルコキシド化合物、バリウムジエトキシド等のバリウムジアルコキシド化合物、タンタリウムペンタプロポキシド、タンタリウムペンタブトキシド等のタンタリウムペンタアルコキシド化合物、セリウムテトラメトキシド、セリウムテトラプロポキシド等のセリウムテトラアルコキシド化合物、イットリウムトリプロポキシド等のイットリウムトリアルコキシド化合物、ニオビウムペンタメトキシド、ニオビウムペンタエトキシド、ニオビウムペンタブトキシド等のニオビウムペンタアルコキシド化合物、カドミウムジメトキシド、カドミウムジエトキシド等のカドミウムジアルコキド化合物等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いる事が出来る。上記の金属アルコキシドの中でも、チタニウムテトラアルコキシド化合物、ジルコニウムテトラアルコキシド化合物、アルミニウムトリアルコキシド化合物、タンタリウムペンタアルコキシド化合物を好ましく用いる事が出来る。
【0011】上記の低屈折率反射防止膜を作成する塗布液において、(b)成分に用いられる金属塩は、被膜形成能を有すれば如何なる金属塩も使用する事ができる。例えばアルミニウム、ビスマス、イットリウム、ジルコニウム、セリウム、インジウム等の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、酢酸塩及びそれらの塩基性塩等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用する事が出来る。上記の金属塩の中でも、硝酸塩、塩酸塩、蓚酸塩が好ましく、電子材料に使用する場合は不純物の問題から硝酸塩、蓚酸塩が好ましい。
【0012】上記のアルコキシシラン及び金属アルコキシドの加水分解、並びに金属塩の溶解の際に使用する有機溶剤は、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルセロソルブ、ジエチルカルビトール等のグリコールエーテル類、N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド等が挙げられ、それらを単独で又は2種以上混合して使用する事が出来る。また、塗布液の長期保存性を高める為や、塗布液を基材に塗布した際の乾燥むらを防止する目的で、加水分解終了後、副生する低沸点のアルコール類を留去して、塗布液中の溶剤を高沸点化、高粘度化する事が出来る。
【0013】上記の(b)成分は、アルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物及び金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の成分を含有するが、特に、アルコキシシランの加水分解物を単独で使用する場合、アルコキシシランの加水分解物と金属塩を併用する場合、金属アルコキシドの加水分解物と金属塩を併用する場合、アルコキシシランの加水分解物と金属アルコキシドの加水分解物と金属塩の3種を同時に使用する場合が好ましい。(b)成分から2種以上の成分を含有する場合は、アルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物、及び金属塩の組成比は、重量部として、(アルコキシシランの加水分解物):(金属アルコキシドの加水分解物):(金属塩)=1:0.05〜5:0.05〜5が好ましい。この組成比は、(b)成分から2種の成分を選択する場合や、3種の成分を選択する場合のどちらの場合にも適用できる。但し、アルコキシシランの加水分解物はSiO2 として計算し、金属アルコキシドの加水分解物はMOn/2 (nは金属原子Mの原子価)として計算し、金属塩はM’On/2 (nは金属原子M’の原子価)として計算される。
【0014】上記の(b)成分がアルコキシシランや金属アルコキシドと金属塩を併用する場合は、アルコキシシランや金属アルコキシドを金属塩の存在下で加水分解する方法や、上記のアルコキシドを加水分解した後に金属塩を添加する方法がある。アルコキシシランや金属アルコキシドを金属塩の存在下で加水分解する方法の場合は、使用する金属塩が酸性を呈する塩であれば、加水分解時に触媒を添加する必要がない。
【0015】上記のアルコキシドの加水分解は、アルコキシシランと金属アルコキシドを、それぞれ別に加水分解する方法や、同時に両者を加水分解する方法があるが、アルコキシシランの加水分解液と金属アルコキシドを混合し、その後更に加水分解を進める方法が好ましい。この時、加水分解はアルコキシ基のモル数に対して0.5〜5倍モル、好ましくは0.5〜2.5倍モルの水の添加によって行われ、水の添加は通常室温で行われるが、必要に応じて50〜150℃の加熱下に行う事も出来る。加水分解の終了後、熟成の目的で50〜150℃の温度で0.5〜5時間加熱する事ができる。水性シリカゾルを使用する場合、有機溶剤系シリカゾルが水を含有する場合、或いは加水分解に用いる触媒を水に溶解して水溶液の形態で使用する場合でも、この加水分解反応に添加される水の総量は、上記のシリカゾル中の水や触媒水溶液中の水も含めてアルコキシ基のモル数に対して5倍モル以下である。
【0016】上記(b)成分で、金属アルコキシドを使用する場合は、加水分解速度が早い為に加水分解速度を調節する目的で、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等のβ−ジケトン類、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類等の安定化剤を添加して、加水分解速度を制御する事が出来る。上記(b)成分で、金属塩を使用する場合は、上記の塗布液を基材に塗布してから乾燥する間に、金属塩が結晶化して塗布された膜の表面に析出する為に起こる被膜成分の不均一化を防止する目的で、析出防止剤を添加する事ができる。この析出防止剤は、例えばエチレングリコール、N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド及びそれらの誘導体が挙げられ、これらを単独で又は2種以上の混合物として用いることが出来る。その使用量は、金属塩をM’On/2 〔nは金属原子M’の原子価〕に換算して、重量比でM’On/2の1重量部に対して、析出防止剤を少なくとも1重量部以上である。
【0017】本発明の低屈折率反射防止膜を作成する塗布液において、(a)成分のシリカゾルのSiO2 として100重量部に対して、(b)成分を金属酸化物に換算して10〜50重量部、好ましくは15〜40重量部の割合で用いる事がよい。上記の(b)成分を金属酸化物に換算する際に、金属酸化物はその金属の代表的な酸化物の組成式として表される。即ち、その金属の最も安定な酸化物の形として、その金属酸化物を構成する金属原子と酸素原子についてそれぞれの原子数の最も簡単な整数比で表したものであり、例えば、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、Al2 3 、BaO、Ta2 5 、CeO2 、Y2 3 、Nb2 5 、CdO、Bi2 3 、In2 3 の形態として計算する。(a)成分と(b)成分よりなる塗布液は、固形分として0.1〜15重量%含有し、粘度が1〜150〔mPa・s〕、好ましくは1〜80〔mPa・s〕である。上記の塗布液は、所望によりセルロース系化合物を代表とする増粘剤を含有する事が出来る。
【0018】上記の塗布液は、ディッピング、スピンコート、転写印刷、刷毛塗り、ロールコート、スプレー等の通常使用される塗布法により基材に塗布する事が出来る。得られた塗布膜は、50〜80℃の温度で乾燥した後、100℃以上、好ましくは100〜500℃の温度で0.5〜1時間で硬化させる事ができる。この加熱硬化は、オーブン炉、ホットプレート等の装置を用いて行うことが出来る。得られた膜は、屈折率が1.28〜1.38、表面硬度が鉛筆硬度で4H〜9Hである。更に、塗布液中の(b)成分に金属アルコキシド又は金属塩を含有する場合は、成膜して乾燥後に、低圧又は高圧水銀ランプにより180〜400nmの波長の紫外線(UV)を100mJ/cm2 (ミリジュール/平方センチメートル)以上照射する事により塗膜中で硬化反応が促進して、120〜150℃の比較的低温で硬化させても機械的な強度に優れた高い硬度を持った塗膜とする事が出来る。本発明では、1回の塗布と焼成により所望とする物性の膜を形成する事が出来る。
【0019】本発明では、塗布する基材を透明な基材とする事により、上記の低屈折率反射防止膜を有する透明基材を得る事が出来る。この透明基材としては、プラスチックスやガラスが挙げられ、特に、LCD(液晶表示)やCRT(ブラウン管型表示)等のディスプレイ表面やレンズ等に好ましく用いる事が出来る。
【0020】
【作用】本発明の低屈折率反射防止膜を作成する塗布液において(a)成分として用いるシリカゾルは、粒子径が5〜30nmの範囲のシリカ粒子を特定割合で用いる事により、被膜表面に微小な凹凸が形成され屈折率を低下させるために良好な反射防止効果が得られるものである。これは、微小な凹凸が形成された部分(膜表面)は、上記シリカ粒子(屈折率は約1.45)と空気(屈折率は1.00)よりなる為に、擬似的に1.28〜1.38程度の屈折率を有する事となるので、基材(例えば、ガラスの屈折率は約1.54程度、プラスチックスの屈折率は約1.60程度)の屈折率よりも低くなり反射防止効果が出現すると考えられる。
【0021】しかし、5nm未満の粒子径のシリカゾルは安定に製造する事が困難であると共に、被膜表面に凹凸が形成され難い為に好ましくなく、また30nmを超える粒子径のシリカゾルを用いる場合は、得られた被膜が光の散乱により白濁し透明性が低下するので好ましくない。上記塗布液において、(b)成分のアルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物、又は析出防止剤と組合せた金属塩は、それぞれが被膜形成能力を有している。更に、金属アルコキシドの加水分解物や金属塩は、耐薬品性の向上、紫外線(UV)硬化性、高い温度を加えずに硬化する性能等の機能を有している。(a)成分のシリカゾルのSiO2 100重量部に対して、(b)成分が金属酸化物に換算して10重量部未満では、加熱硬化して得られる膜の機械的強度や基材との密着性が低下して好ましくなく、また50重量部を超える場合は、シリカ粒子の割合が少なくなるので、表面の微小な凹凸の形成が不十分となり、屈折率の低下が充分に起こらず反射防止効果が不充分となる。
【0022】本発明に用いられる塗布液の固形分濃度は、0.1重量%より小さいと、一回の塗布により得られる被膜の厚みが薄く、所定の厚みを得るためには多数回の塗布が必要となり効率的でない。一方、15重量%より大きいと、一回の塗布により得られる被膜の厚みが厚くなり、均一な被膜を得ることが困難となり、また塗布液の貯蔵安定性が乏しくなり、塗布液の粘度の増加やゲル化等を引き起こすので好ましくない。
【0023】
【実施例】
(a)成分の調製シリカゾル(a1):粒子径15nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しIPA(イソプロパノール)を分散媒とするシリカゾル。
シリカゾル(a2):粒子径8nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しメタノールを分散媒とするシリカゾル。
【0024】シリカゾル(a3):粒子径12nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しメタノールを分散媒とするシリカゾル。
シリカゾル(a4):粒子径25nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しメタノールを分散媒とするシリカゾル。
シリカゾル(a5):エタノール中でテトラエトキシシランをアンモニア水で加水分解を行い、粒子径が15nmのシリカゾルを製造し、これをメタノールで溶媒置換を行い、SiO2 として10重量%のシリカ粒子を含有したメタノールを分散媒とするシリカゾル。
【0025】シリカゾル(a6):粒子径40nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しメタノールを分散媒とするシリカゾル。
シリカゾル(a7):粒子径80nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しメタノールを分散媒とするシリカゾル。
(b)成分(被膜形成成分)の調製被膜形成成分(b1):還流管を備えつけた反応フラスコにアルコキシシランとして、テトラエトキシシラン20.8gと、溶媒としてエタノールを70.1gを入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌、混合した。そこへ、触媒として蓚酸0.1gを水9gに溶解したものを添加し混合した。混合後、液温は約10℃発熱した。そのまま30分間攪拌を続け、次いで76℃で60分間加温し、その後、室温まで冷却して、固形分濃度がSiO2 として6重量%含まれる被膜形成成分(b1)を作成した。
【0026】被膜形成成分(b2):還流管を備えつけた反応フラスコにアルコキシシランとして、テトラエトキシシラン14.6gと、溶媒としてブチルセロソルブ38.8gを入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌、混合した。そこへ、金属塩として硝酸ジルコニル2水和物2.3gを水3.8gと60%濃度の硝酸0.4gの混合溶液に溶解し、さらに析出防止剤としてエチレングリコール7.6gを混合したものを上記反応フラスコに添加し混合した。混合後、液温は20℃から28℃へ発熱した。そのまま30分攪拌を続けアルコキシシランの加水分解物と金属塩の混合物とした。別の還流管を備えつけた反応フラスコに金属アルコキシドとしてテトラプロポキシチタン2.5gと溶媒としてブチルセロソルブ30.0gを入れ30分間攪拌した後、引続き攪拌しながら先のアルコキシシラン加水分解物と金属塩の混合物を添加混合し、固形分濃度が金属酸化物換算〔SiO2 +ZrO2 +TiO2 〕で6重量%含まれる被膜形成成分(b2)を作成した。
【0027】被膜形成成分(b3):還流管を備えつけた反応フラスコにアルコキシシランとして、メチルトリエトキシシラン15.1gと、溶媒としてブチルセロソルブ45.6gを入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌、混合した。そこへ、金属塩として硝酸アルミニウム9水和物3.8gを水1.6gと析出防止剤としてエチレングリコール2.5gに溶解混合したものを添加し混合した。混合後、液温は20℃から28℃へ発熱した。そのまま30分攪拌を続けアルコキシシランの加水分解物と金属塩の混合物とした。別の還流管を備えつけた反応フラスコに金属アルコキシドとしてテトラプロポキシチタン1.4gと溶媒としてブチルセロソルブ30.0gを入れ30分間攪拌した後、引続き攪拌しながら先のアルコキシシラン加水分解物と金属塩の混合物を添加混合し、固形分濃度が金属酸化物換算〔SiO2 +Al2 3 +TiO2 〕で6重量%含まれる被膜形成成分(b3)を作成した。
【0028】被膜形成成分(b4):還流管を備えつけた反応フラスコに、金属塩として硝酸アルミニウム9水和物44.3gを析出防止剤としてエチレングリコール30.7gにマグネチックスターラーを用いて溶解させ、更にブチルセロソルブ25.0gを添加し、固形分濃度が金属酸化物〔Al2 3 〕で6重量%の被膜形成成分(b4)を作成した。
【0029】被膜形成成分(b5):還流管を備えつけた反応フラスコに、金属塩として硝酸アルミニウム9水和物9.4gを水1.1gと、析出防止剤としてエチレングリコール21.8gにマグネチックスターラーを用いて溶解させ、更に溶媒としてブチルセロソルブを14.5gを添加し混合した。別の還流管を備えつけた反応フラスコに金属アルコキシドとしてテトラプロポキシチタン16.8gと安定化剤としてヘキシレングリコール36.4gを入れ30分間撹拌した後、上記の硝酸アルミニウム溶解液を撹拌しながら添加して混合し、その後30分間撹拌を続けた。そして固形分濃度が金属酸化物〔Al2 3 +TiO2 〕で6重量%の被膜形成成分(b5)を作成した。
【0030】被膜形成成分(b6):還流管を備えつけた反応フラスコに、金属アルコキシドとしてテトラプロポキシチタン21.3gと安定化剤としてヘキシレングリコール30.0gを入れ、マグネチックスターラーを用いて30分間撹拌した後、触媒として60重量%濃度の硝酸0.8gと水1.4gと溶媒としてプチルセロソルブ46.5gの混合溶液を撹拌しながら添加して混合し、その後30分間撹拌を続けた。そして固形分濃度が金属酸化物〔TiO2 〕6重量%の被膜形成成分(b6)を作成した。
【0031】被膜形成成分(b7):還流管を備えつけた反応フラスコに、アルコキシシランとしてテトラエトキシシラン17.2gと溶媒としてブチルセロソルブ35.3gを入れ、マグネチックスターラーを用いて撹拌した後、金属塩として硝酸アルミニウム9水和物7.7gを水4.5gと析出防止剤としてエチレングリコール35.3gに溶解したものを添加して混合した。混合後、液温は20℃から25℃へ発熱した。そのまま30分間撹拌し、固形分濃度が金属酸化物に換算して〔SiO2 +Al2 3 〕で6重量%の被膜形成成分(b7)を作成した。
【0032】溶媒(s1):エタノール。
溶媒(s2):ブチルセロソルブ。
実施例1上記の被膜形成成分(b1)10gと、粒子径15nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しIPA(イソプロパノール)を分散媒とするシリカゾル(a1)13.3gと、溶媒としてエタノール(s1)34.2g及びブチルセロソルブ(s2)57.5gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分重量比(被膜形成成分b1/シリカ粒子a1)は、6/40である。この塗布液の組成は表1に記載した。このようにして得られた塗布液を、波長550nmの透過率が91%の厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板上にスピンコーターを用いて成膜し、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、300℃のクリンオーブンで60分間加熱して、膜厚約1000Å(オングストローム)の硬化被膜とした。そして、波長550nmで分光光度計(島津製作所製、W−160型)により透過率の測定を行った。その結果を表2に記載した。同様の方法によりシリコン基板上に膜厚約1000Å(オングストローム)の硬化被膜を作成し、屈折率の測定を行った。屈折率はエリプソメーター((株)溝尻光学工業所製)により測定した。更に、成膜性は、基板上に成膜された上記の被膜を目視で判断し、無色透明であれば(○)とし、その他は(白濁)と評価した。その結果を表2に記載した。
【0033】実施例2〜6被膜形成成分(b1)と、シリカゾル(a1〜a4)と、溶媒を表1に記載の割合で混合して塗布液とした。実施例1と同様の方法により、得られた塗布液を用いてガラス板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し波長550nmの透過率と、シリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し屈折率の測定を行った。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0034】実施例7被膜形成成分(b1)10gと、粒子径15nmでSiO2 として30重量%シリカ粒子を含有しIPA(イソプロパノール)を分散媒とするシリカゾル(a1)13.3gと、溶媒としてエタノール(s1)70gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分重量比(被膜形成成分b1/シリカ粒子a1)は、6/40である。この塗布液の組成は表1に記載した。
【0035】このようにして得られた塗布液を用いて、厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板上にディップコートにより基板の両面に成膜し、80℃のクリンオーブンで10分間乾燥させた後、300℃のクリンオーブンで30分間加熱して、膜厚約1000Åの硬化被膜とした。また、同様にシリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成した。そして、実施例1と同様の方法により、ガラス基板上の硬化被膜を波長550nmの光で透過率を測定し、更に、シリコン基板上の硬化被膜の屈折率を測定した。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0036】実施例8被膜形成成分(b2)10gと、粒子径15nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しIPA(イソプロパノール)を分散媒とするシリカゾル(a1)13.3gと、溶媒としてエタノール(s1)34.2g及びブチルセロソルブ(s2)57.5gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分重量比(被膜形成成分b2/シリカ粒子a1)は、6/40である。この塗布液の組成は表1に記載した。この様にして得られた塗布液により、厚さ1.1mmのソーダライムガラス基板上にスピンコーターを用いて成膜し、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、高圧水銀ランプ(1000W 照度200mJ/cm2 、波長360nm)で5分間UV(紫外線)照射を行い、更に300℃のクリンオーブンで30分間加熱して、膜厚約1000Åの硬化被膜とした。同様の方法によりシリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成した。そして、実施例1の方法と同様の方法により、ガラス基板上の硬化被膜を波長550nmの光で透過率を測定し、更に、シリコン基板上の硬化被膜の屈折率を測定した。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0037】実施例9被膜形成成分(b3)10gと、粒子径15nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しIPA(イソプロパノール)を分散媒とするシリカゾル(a1)13.3gと、溶媒としてエタノール(s1)34.2g及びブチルセロソルブ(s2)57.5gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分重量比(被膜形成成分b3/シリカ粒子a1)は、6/40である。この塗布液の組成は表1に記載した。このようにして得られた塗布液を、波長550nmの透過率が86%のポリエチレンテレフタレートフィルム上にスピンコーターを用いて成膜し、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、高圧水銀ランプ(1000W 照度200mJ/cm2 、波長360nm)で5分間UV(紫外線)照射を行い、120℃のクリンオーブンで60分間加熱して、膜厚約1000Åの硬化被膜とした。同様にシリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成した。そして、実施例1と同様の方法により、ガラス基板上の硬化被膜を波長550nmの光で透過率を測定し、更に、シリコン基板上の硬化被膜の屈折率を測定した。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0038】実施例10被膜形成成分(b1)10gと、メタノール分散シリカゾル(a5)40gと、溶媒としてエタノール(s1)7.5g及びブチルセロソルブ(s2)57.5gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分重量比(被膜形成成分b1/シリカ粒子a5)は、6/40である。この塗布液の組成は表1に記載した。実施例1と同様の方法により、得られた塗布液を用いてガラス板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し波長550nmの透過率と、シリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し屈折率の測定を行った。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0039】実施例11〜14被膜形成成分(b4〜b7)と、シリカゾル(a1)と、溶媒を表1に記載の割合で混合して塗布液とした。得られた塗布液を用いて実施例8と同様の硬化方法によりガラス板上及びシリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成した。そして、実施例1と同様の方法により、ガラス基板上の硬化被膜を波長550nmの光で透過率を測定し、更に、シリコン基板上の硬化被膜の屈折率を測定した。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0040】比較例1被膜形成成分(b1)10gと、粒子径40nmでSiO2 として30重量%のシリカ粒子を含有しメタノールを分散媒とするシリカゾル(a6)13.3gと、溶媒としてエタノール(s1)34.2g及びブチルセロソルブ(s2)57.5gをマグネチックスターラーを用いて混合し、塗布液とした。この塗布液の固形分重量比(被膜形成成分b1/シリカ粒子a6)は、6/40である。この塗布液の組成は表1に記載した。
【0041】実施例1と同様に、得られた塗布液を用いてガラス板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し波長550nmの透過率と、シリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し屈折率の測定を行った。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
比較例2〜3被膜形成成分(b1)と、シリカゾル(a7、a1)と、溶媒を表1に記載の割合で混合して塗布液とした。実施例1と同様に、得られた塗布液を用いてガラス板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し波長550nmの透過率と、シリコン基板上に膜厚約1000Åの硬化被膜を作成し屈折率の測定を行った。更に成膜性を評価した。その測定結果を表2に示した。
【0042】
【表1】


【0043】
【表2】


【0044】
【表3】


【0045】表の実施例1〜14より判る様に、本発明では5〜30nmの粒子径を有するシリカゾル(a)と、アルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物及び金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の成分(b)からなり、且つ(a)のSiO2 100重量部に対して、(b)を金属酸化物に換算して10〜50重量部の割合で有機溶媒に含有した塗布液を、基材に塗布した後、硬化する事により低屈折率で反射防止機能を有する硬化被膜が得られる。
【0046】なお、実施例9の透過率の測定は、透過率91%のソーダライムガラスに代えて、透過率86%のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いたために、得られた硬化被膜の透過率は91.5%であったが、本願発明の膜によって基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の屈折率が低下した為に相対的に基材の透過率も向上し良好な反射防止効果が得られた。また、実施例7の透過率は98.1%と高いが、これはディップコートにより基材の両面に成膜しているため、より透過性が向上し極めて良好な反射防止効果が得られた。
【0047】しかし、比較例1或いは2では用いるシリカゾルの粒子径が30nmを超えると硬化被膜の表面で光の乱反射が起こり硬化被膜は白濁する。また、比較例3では得られた硬化被膜中に存在するシリカ粒子の量が少ないとやはり屈折率は高くなり良好な反射防止効果が得られない。
【0048】
【発明の効果】本発明では、蒸着法等で用いられる大規模な装置を使わずに、スピンコート法やディップコート法等の簡単な方法により、しかも1回の塗布と焼成により機械的強度に優れ、基材との密着力が高い低屈折率反射防止膜が得られる。また、本発明では、得られる硬化被膜は屈折率が1.28〜1.38と低い為に、プラスチックスやガラス製品の表面に反射防止機能を有する被膜を付与する事が出来る。特に、ディスプレイやレンズ等の透明な基材の表面に反射防止機能を有する被膜を付与する事に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 5〜30nmの粒子径を有するシリカゾル(a)と、アルコキシシランの加水分解物、金属アルコキシドの加水分解物及び金属塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の成分(b)からなり、且つ(a)のSiO2 100重量部に対して、(b)を金属酸化物に換算して10〜50重量部の割合で有機溶媒に含有した塗布液を、基材に塗布した後、硬化する事により得られる低屈折率反射防止膜。
【請求項2】 屈折率が、1.28〜1.38である請求項1に記載の低屈折率反射防止膜。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の低屈折率反射防止膜を有する透明基材。