説明

低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法および導電材フリー低帯電性フッ素樹脂フィルム

【課題】低帯電性フッ素樹脂フィルムを製造する方法を提供すること。導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】厚み100μm未満のフッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤を含有する溶液、分散液または懸濁液を付着させ、該付着表面に紫外レーザー光を照射する低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法。厚み100μm未満の導電材フリーフッ素樹脂フィルムの第2表面に電圧を印加して帯電させたとき、下記式;[(V−V120)/V]×100(式中、Vは電圧印加終了直後の第2表面の帯電圧(V)である;V120は電圧印加終了から120秒後の第2表面の帯電圧(V)である)で表される帯電圧の減衰率が4%以上である導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法および導電材フリー低帯電性フッ素樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子複写機やレーザービームプリンタ等のような電子写真式画像形成装置には、定着ローラ、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラまたは加圧ローラ等の各種ローラが使用されている。そのようなローラの表面には、トナーとの離型性を向上させるために、フッ素樹脂フィルムが被覆される。しかしながら、フッ素樹脂フィルムは一般に導電性が著しく低いため、電荷が溜まって、リーク等が生じるという問題が生じていた。
【0003】
そこで、フッ素樹脂フィルムにカーボンブラック等の導電材を含有させることにより、フィルム表面に導電性を向上させ、電荷の滞留を回避する試みがなされている。しかしながら、配合によりフッ素樹脂本来の離型性が損なわれたり表面平滑性が悪くなる。導電材、特にカーボンブラックは分散し難いため、フィルム製造が煩雑であったりした。
【0004】
一方、従来から、フッ素樹脂成形体表面に、紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤を含有する溶液、分散液または懸濁液を付着させ、該付着表面に紫外レーザー光を照射することにより、当該処理面に対して優れた接着性等の特性を付与する技術が知られている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特許第2983438号
【特許文献2】特許第3433931号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低帯電性フッ素樹脂フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明はまた、導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1表面および該第1表面の裏側の第2表面を有する厚み100μm未満のフッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤を含有する溶液、分散液または懸濁液を付着させ、該付着表面に紫外レーザー光を照射することを特徴とする低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0008】
本発明また、第1表面および該第1表面の裏側の第2表面を有する厚み100μm未満の導電材フリーフッ素樹脂フィルムの第2表面に電圧を印加して帯電させたとき、下記式;
[(V−V120)/V]×100
(式中、Vは電圧印加終了直後の第2表面の帯電圧(V)である;V120は電圧印加終了から120秒後の第2表面の帯電圧(V)である)
で表される帯電圧の減衰率が4%以上であることを特徴とする導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルムに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法によれば、フッ素樹脂フィルムの第1表面に特定の表面処理を行うことにより、第2表面に低帯電性を付与することができる。第2表面を直接的に処理することはないため、第2表面の物理的および化学的性質ならびに外観状態等の表面性状を変化させることなく、第2表面に低帯電性を付与することができる。そのような本発明の効果は、フッ素樹脂フィルムにカーボンブラック等の導電材が含有されていない場合であっても、有効に発揮し得る。その結果、本発明によれば、第2表面を直接的に処理することなしに、第2表面の帯電圧減衰率が比較的大きい導電材フリー低帯電性フッ素樹脂フィルムを提供できる。
しかも、本発明に係る低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法において、第1表面に所定の表面処理を行うと、第1表面のフッ素原子が除去されて、第1表面の接着性、ぬれ性等の特性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法)
本発明に係る低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法においては、フッ素樹脂フィルムの一方の面に対して所定の表面処理を行うことによって、他方の面が低帯電性となる低帯電性フッ素樹脂フィルムを得ることができる。本明細書中、所定の表面処理がなされる面を第1表面、フッ素樹脂フィルムにおいて低帯電性となる面を第2表面と呼ぶものとする。第1表面と第2表面とは互いに表裏の関係を有するものである。
【0011】
本発明の適用対象となるフッ素樹脂フィルムは厚みが100μm未満、特に10μm以上100μm未満であり、低帯電性を付与する観点から好ましくは10μm以上90μm以下であり、より好ましくは10μm以上60μm以下、さらに好ましくは10μm以上40μm以下である。厚みが大きすぎると、第2表面に低帯電性を付与できない。そのようなフィルム厚みは、後述する表面処理を行っても変化するものではない。
本明細書中、フィルム厚みはマイクロメータ(ミツトヨ製)によって測定された任意の3点の測定値を平均して用いている。
【0012】
本発明の適用対象となるフッ素樹脂フィルムは、含フッ素有機高分子化合物から製造されるフィルムである。該フィルムの基材樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルコキシエチレン三元共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、トリフルオロクロロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメトキシエチレン共重合体(MFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、ダイエルサーモプラスティク(ダイキン工業製)、セントラルソフト(セントラルガラス製)、テフロンAF(デュポン製)、サイトップ(旭硝子製)、ダイニオンHTE(3M製)およびこれらの任意の2種以上の混合樹脂が例示される。フッ素樹脂フィルムには、さらに摩耗性の改善目的でシリカ、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが適宜含有されて良い。
【0013】
本発明は適用対象としてのフッ素樹脂フィルムに、低帯電性のさらなる向上を目的として、導電材が含有されることを妨げるものではないが、導電材が含有されない導電材フリーのフッ素樹脂フィルムが使用されることが好ましい。導電材が含有されなくても、第2表面に対して導電性を有効に付与できるためである。導電材としては樹脂フィルムの分野で導電性付与剤として従来から使用されている公知の材料が使用可能である。導電材の具体例として、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノ構造体等が例示される。
【0014】
本発明において処理されるフッ素樹脂フィルムの具体的形態は特に限定的ではなく、用途に応じて任意の形状を有して良い。例えば、平面形状、チューブ形状(筒形状)等が例示される。
【0015】
本発明に係る低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法においては、フッ素樹脂フィルムの第1表面に対して所定の表面処理を行う。詳しくはフッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤を含有する溶液、分散液または懸濁液等の処理液を付着させ、該付着表面に紫外レーザー光を照射する。これによって、第2表面が低帯電性となる。
【0016】
紫外線吸収性化合物としては、自体公知のものを適宜使用すればよく、特に限定的ではないが、芳香族系紫外線吸収性化合物、例えば、芳香族炭化水素類、芳香族カルボン酸類およびその塩、芳香族アルデヒド類、芳香族アルコール類、芳香族アミン類およびその塩、芳香族スルホン酸類およびその塩およびフェノール類等が好適である。この種の芳香族系紫外線吸収性化合物としては次のものが例示される。
【0017】
ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、ペリレン、フルオレノン、フルオランテン、9−アセチルアントラセン、9−メチルアントラセン、アントラキノンカルボン酸、アントラセン−9−メタノール、ビフェニル、安息香酸ナトリウム、フタル酸、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、ベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム、フェノール、クレゾール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシルオキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2,2',4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシー4−メトキシ−2'−カルボキシベンゾフェノン、2'−ヒドロキシ−4−クロロベンゾフェノン、2(2'−ヒドロキシ−5−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、サリチル酸フェニル、サリチル酸p−オクチルフェニル、サリチル酸p−t−ブチルフェニル、サリチル酸カルボキシフェニル、サリチル酸ストロンチウム、サリチル酸メチル、サリチル酸ドデシル、レゾルシノールモノベンゾエート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、Ni−ビスオクチルフェニルスルフィド、[2,2'−チオビス(4−t−オクチルフェノラト)]−n−ブチルアミン−Ni。
【0018】
フッ素系界面活性剤としては、疎水性基としてフルオロカーボン鎖を有する自体公知の界面活性剤を適宜使用すればよい。この種のフッ素系界面活性剤としては、次の活性剤が例示される。
【0019】
(1)アニオン性フッ素系界面活性剤
COOM;
SON(R)CHCOOM;
CONRYOSOM;
SONRYOSOM;
SOM;
CHO(CH)SO
【化1】

【化2】

【化3】

上記の式において、RおよびR'はフルオロアルキル基を示し、Rは水素原子または低級アルキル基を示し、Yは低級アルキレン基を示し、Mは水素原子、−NH、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を示す。
【0020】
(2)カチオン性フッ素系界面活性剤
CONHYN(R)(R')・HX;
SONHYN(R)(R')・HX
【化4】

【化5】

上記の式において、R、RおよびYは前記と同義であり、R'は水素原子または低級アルキル基を示し、HXは酸を示し、Xはハロゲン原子または酸根を示す。
【0021】
(3)両性フッ素系界面活性剤
【化6】

【化7】

上記の式において、R、RおよびYは前記と同義である。
【0022】
(4)ノニオン性フッ素系界面活性剤
OH;
【化8】

【化9】

上記の式において、RおよびRは前記と同義であり、nは1〜30の数を示す。なお、上述のフッ素系界面活性剤は所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0023】
好適な市販のフッ素系界面活性剤としては、セイミケミカル株式会社製の「サーフロンS−111」(パーフルオロアルキルカルボン酸塩)、「サーフロンS−112」(パーフルオロアルキルリン酸エステル)、「サーフロンS−113」(パーフルオロアルキルカルボン酸塩)、「サーフロンS−121」(パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩)、「サーフロンS−131」(パーフルオロアルキルベタイン)、「サーフロンS−132」(パーフルオロアルキルベタイン)「サーフロンS−141」(パーフルオロアルキルアミンオキサイド)、「サーフロンS−145」(パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物)、「サーフロンS−381」(パーフルオロアルキル含有オリゴマー)、「サーフロンS−383」(パーフルオロアルキル含有オリゴマー)、「サーフロンS−393」(パーフルオロアルキル含有オリゴマー)、「サーフロンSC−101」(パーフルオロアルキル含有オリゴマー)、「サーフロンSC−105」(パーフルオロアルキル含有オリゴマー)、「サーフロンKH−40」(パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物)および「サーフロンSA−100」(パーフルオロアルキル含有特殊配合品)等が例示される。
【0024】
他の好適な市販のフッ素系界面活性剤としては、住友スリーエム株式会社製の「フロラードFC−430」(フッ素化アルキルエステル)および「フロラードFC−431」(フッ素化アルキルエステル)等、並びに三菱マテリアル株式会社製の「エフトップEF−102」(パーフルオロスルホン酸塩)、「エフトップEF−103」(パーフルオロスルホン酸塩)、「エフトップEF−104」(パーフルオロスルホン酸塩)、「エフトップEF−122」(パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物)、「エフトップEF−351」(フッ素化アルキルエステル)、「エフトップEF−352」(フッ素化アルキルエステル)、「エフトップEF−801」(フッ素化アルキルエステル)、「エフトップEF−802」(フッ素化アルキルエステル)および「エフトップEF−601」(フッ素化アルキルエステル)、株式会社ネオス製の「フタージェント251」(フッ素化アルキルエステル)、FTX−218」(フッ素化アルキルエステル)、大日本インキ化学工業株式会社製「メガファックF−470」(フッ素化アルキルエステル)、「メガファックF−482」(フッ素化アルキルエステル)、「メガファックF−484」(フッ素化アルキルエステル)、「メガファックF−487」(フッ素化アルキルエステル)等が例示できる。
【0025】
有機ケイ素化合物としては、自体公知のものを適宜使用すればよいが、特に好適なものとしては、(トリフェニルシリル)アセチレン、フェニルシラン、テトラフェノキシシラン、トリフェニルシラン、トリベンジルシラン、アリルトリフェニルシラン、トリフェニルビニルシランおよびフェニルトリエトキシシラン等が例示される。このような有機ケイ素化合物は所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0026】
紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤、ならびに所望により使用される有機ケイ素化合物(以下、単に紫外線吸収性化合物等という)は、フッ素樹脂フィルム第1表面の改質効率および作業性等の観点からは、水または水溶性有機溶剤を溶媒とする溶液、分散液または懸濁液(以下、単に溶液等という)として該第1表面に付着させる。該溶液等の溶媒としては、水と水溶性の有機溶剤、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびブタノール等)等との混合物を使用してもよい。水溶液として使用する場合には、紫外線吸収性化合物等の溶解性を高めるために、水溶性有機溶剤、例えば、イソプロパノール等の低級アルコール等を適宜配合してもよい。
【0027】
水および/または水溶性有機溶剤を溶媒とする溶液等における紫外線吸収性化合物の濃度は、該化合物の種類や水等に対する溶解度、被処理フッ素樹脂の種類、および共存するフッ素系界面活性剤/有機ケイ素化合物の種類や濃度等によって左右され、特に限定的ではないが、一般的には0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0028】
溶液等におけるフッ素系界面活性剤の濃度は、紫外線吸収性化合物または紫外線吸収性化合物と有機ケイ素化合物をフッ素樹脂フィルム第1表面に十分な濃度で均一に存在させる濃度であればよく、特に限定的ではないが、一般的には0.05〜2重量%、好ましくは、0.1〜1重量%である。
【0029】
溶液等における有機ケイ素化合物の濃度は、該化合物の種類や水等に対する溶解度、被処理フッ素樹脂の種類、および共存する紫外線吸収性化合物とフッ素系界面活性剤の種類や濃度等によって左右され、特に限定的ではないが、一般的には0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0030】
フッ素樹脂フィルム第1表面に、紫外線吸収性化合物等の溶液等を存在させる方法は、塗布法、噴霧法または浸漬法等のいずれであってもよい。また、該溶液等をフッ素樹脂フィルム第1表面に存在させた後、紫外線レーザー光照射前に乾燥処理をおこなってもよい。乾燥処理は自然乾燥で十分であるが、所望により、例えば、60〜150℃で強制的におこなってもよい。フッ素系界面活性剤の作用により、紫外線吸収性化合物または紫外線吸収性化合物と有機ケイ素化合物はフッ素樹脂フィルム第1表面に十分な濃度で均一に存在する。
【0031】
本発明においては、紫外線吸収性化合物等をフッ素樹脂フィルムの第1表面に存在させた条件下において、該第1表面に紫外レーザー光を照射する。紫外レーザー光としては、波長が400nm以下のものが望ましく、アルゴンレーザー光、クリプトンイオンレーザー光、Nd:YAGレーザー光、Nレーザー光、色素レーザー光、およびエキシマレーザー光等が例示される。中でも、193〜308nmのエキシマレーザー光が好適である。特に、高出力が長時間にわたって安定して得られるKrFエキシマレーザー光(波長:248nm)、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)およびXeClエキシマレーザー光(308nm)が好ましい。エキシマレーザー光照射は、通常、室温、大気中でおこなうが、酸素雰囲気中でおこなってもよい。
【0032】
紫外レーザー光の総照射量は適度な範囲内に設定される。総照射量が少なすぎても、または多すぎても、第2表面に低帯電性が付与されない。そのような適度な総照射量範囲は、レーザー光の種類に依存して決定される。
例えば、KrFエキシマレーザー光が使用される場合、総照射量は0.10〜0.55J/cmであり、第2表面に低帯電性を付与する観点から好ましくは0.10〜0.45J/cmである。
また例えば、ArFエキシマレーザー光が使用される場合、総照射量は0.05〜0.30J/cmであり、第2表面に低帯電性を付与する観点から好ましくは0.05〜0.20J/cmである。
また例えば、XeClエキシマレーザー光が使用される場合、総照射量は総照射量は0.20〜1.00J/cmであり、第2表面に低帯電性を付与する観点から好ましくは0.20〜0.80J/cmである。
【0033】
紫外レーザー光は通常、複数回にわけて照射される。1ショットあたりの照射量およびショット数は、総照射量が上記範囲内であれば特に制限されるものではない。
例えば、KrFエキシマレーザー光が使用される場合、1ショットあたりの照射量は通常、20〜200mJ/cm/1ショット、好ましくは30〜100mJ/cm/1ショットであり、ショット数は通常、2〜20回、好ましくは2〜10回である。
【0034】
(低帯電性フッ素樹脂フィルム)
フッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、以上の表面処理を行って製造された本発明の低帯電性フッ素樹脂フィルムは、前記したように、第2表面に優れた低帯電性を有する。特に、表面処理されるフッ素樹脂フィルムが導電材を含有しない導電材フリーのフッ素樹脂フィルムである場合、本発明の導電材フリー低帯電性フッ素樹脂フィルムは、第2表面に電圧を印加して帯電させたとき、下記式;
[(V−V120)/V]×100
(式中、Vは電圧印加終了直後の第2表面の帯電圧(V)である;V120は電圧印加終了から120秒後の第2表面の帯電圧(V)である)
で表される帯電圧の減衰率が4%以上、特に4〜20%であり、好ましくは6〜20%、より好ましくは10〜20%である。導電材フリーのフッ素樹脂フィルムは一般に、帯電圧の減衰率が約2%以下であり、本発明によって約2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上の減衰率を付与できることがわかる。なお、本発明において低帯電性とは、上記帯電圧の減衰率を達成するものをいう。
【0035】
帯電圧VおよびV120は、JIS L1094(1997)で規定される「5.1 半減期測定法」に従って、温度23℃、湿度50%RHの周囲環境下で測定できる。
【0036】
詳しくは、まず、試験片を作製する。試験片は、低帯電性フッ素樹脂フィルムを第1表面でシリコーンゴム層によりアルミニウム板に貼り合わせたものである。具体的には、低帯電性フッ素樹脂フィルム(縦150mm×横150mm)の第1表面を、アルミニウム板(縦120mm×横120mm×厚1mm)に対して、二液付加型シリコーンゴム(硬度JIS A 10度、体積抵抗率1015Ω・cm絶縁体)を用いて貼り合わせ、この積層体を無荷重条件下において120℃で30分間加熱することによってサンプルを製造する。サンプルを45mm×45mmに切断し、試験片として用いる。
【0037】
次いで、除電装置を用いて試験片を除電した後、測定機に取り付ける。測定機は、上記JIS規格に規定されたものであり、詳しくは図1に示す。図1の測定機は、印加部(針電極)1、受電部2、ターンテーブル3、および試験片取付枠4を備え、印加部1は高圧直流電源に接続され、受電部はシンクロスコープ又は記録計に接続されている。5は目盛板、6は指針、7はアームを示す。そのような測定機において試験片は、第2表面が上になるように試験片取付枠4に取り付けられる。
【0038】
その後、ターンテーブル3を回転させながら、(+)10kVの印加を30秒間行った後、印加を止め、ターンテーブル3をそのまま回転させる。電圧印加終了直後の初期帯電圧Vと電圧印加を終了してから120秒後の帯電圧V120とを測定する。
そのような測定を3個の試験片について繰り返し行い、それらの平均値を用いる。
【0039】
本発明の低帯電性フッ素樹脂フィルムにおいて、エキシマレーザーを照射することが共通であれば、第1表面の表面抵抗率は厚みによりあまり左右されない。しかし、第2表面側の減衰率は、エキシマレーザーの照射が共通であっても、厚みの違いによりに値は大きく変動する。厚みが100μm以上であれば、エキシマレーザーの照射を実施しても、第2表面の低帯電性は十分に得られない。
【0040】
(用途)
フッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、以上の表面処理を行って製造された本発明の低帯電性フッ素樹脂フィルムは、前記したように、第2表面に低帯電性を付与すると同時に、第1表面の接着性、ぬれ性等の特性も向上する。そのため、本発明のフッ素樹脂フィルムは、電子写真式画像形成装置の定着ローラ、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラまたは加圧ローラの表面層として使用されることが好ましい。詳しくは、本発明の低帯電性フッ素樹脂フィルムは、第1表面が内側に、第2表面が外側に向くように、ローラに被覆されて使用される。
【0041】
低帯電性フッ素樹脂フィルムは、上記ローラに使用する場合、チューブ形状を有することが特に好ましい。この場合、チューブ内面側にはシリコンゴム等が接着されるため第1表面が位置し、チューブ外面(表面)側は第2表面が位置するような形状とされる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
フェナントレン1.0重量%およびトリベンジルシラン1.0重量%のエタノール溶液に、「フロラードFC−430」(住友スリーエム株式会社製市販品;フッ素化アルキルエステル)を1.0重量%の濃度で添加した処理液を調製した。アプリケーター(ヨシミツ精機株式会社製「YA型アプリケーター」)を使用して、前記処理液をPFA製フィルム(フィルム厚み:20μm、導電材フリー)の一方の表面(第1表面)の上に塗布厚25μmになるように塗布し、約30分間自然乾燥させ、塗膜を形成した。塗膜を形成した表面に、KrFエキシマレーザー光を、総照射量が0.3J/cmになるように照射した。
【0043】
(実施例2〜10/比較例1〜17)
表に記載の塗布条件、フィルム条件および照射条件を採用したこと以外、実施例1と同様の方法により、PFA製フィルムの第1表面に対して表面処理を行った。
【0044】
(第2表面の帯電圧)
実施例/比較例で得られたフィルム(縦150mm×横150mm)を用いて、前記した方法に従って、試験片の作製および電圧印加終了直後の初期帯電圧Vと電圧印加を終了してから120秒後の帯電圧V120との測定を行った。
【0045】
(第1表面の表面抵抗率)
実施例/比較例で得られたフィルム(縦150mm×横150mm)の第1表面において、三菱化学社製ハイレスタ−IP MCP−HT260を用いて任意の3箇所で表面抵抗率を測定し、それらの平均を測定値とした。抵抗に合わせて測定電圧、プローブを変えた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(表面性状)
未処理の前記PFAフィルムおよび所定の実施例/比較例で得られたフィルムにおける第1表面および第2表面について、元素分析を行い、さらに走査型電子顕微鏡で観察した。元素分析の結果を表3に示す。走査型電子顕微鏡写真を図2〜図6に示す。図2は、実施例8で得られたフィルムにおける第2表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。図3は、実施例9で得られたフィルムにおける第2表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。図4は、比較例12で得られたフィルムにおける第2表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。図5は、未処理PFAフィルムにおける表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。図6は、実施例9で得られたフィルムにおける第1表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より、所定の表面処理を第1表面に対して行うと、第1表面においてフッ素原子は有効に低減され、酸素原子は増大するが、第2表面において組成比は変化しない。このことより、第2表面の物理的および化学的性質は変化していないと考えられる。
図2〜図5より、所定の表面処理を第1表面に対して行っても、第2表面の外観状態に変化はないことがわかった。
図5および図6より、所定の表面処理によって、第1表面は荒れることがわかった。
これらの結果より、本発明は、第2表面において物理的および化学的性質ならびに外観状態等の表面性状を変化させることなく、第2表面が低帯電性となることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法は、電子写真式画像形成装置等の分野で有用である。
特に本発明の導電材フリー低帯電性フッ素樹脂フィルムは、電子写真式画像形成装置の構成部材、例えば、定着ローラ、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラまたは加圧ローラの表面層として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】帯電圧の測定装置の概略構成図を示す。
【図2】実施例8で得られたフィルムにおける第2表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図3】実施例9で得られたフィルムにおける第2表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図4】比較例12で得られたフィルムにおける第2表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図5】未処理PFAフィルムにおける表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図6】実施例9で得られたフィルムにおける第1表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み100μm未満のフッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤を含有する溶液、分散液または懸濁液を付着させ、該付着表面に紫外レーザー光を照射することを特徴とする低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
紫外レーザー光がKrFエキシマレーザー光であり、総照射量が0.10〜0.55J/cmである請求項1に記載の低帯電性フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
第1表面および該第1表面の裏側の第2表面を有する厚み100μm未満の導電材フリーフッ素樹脂フィルムの第2表面に電圧を印加して帯電させたとき、下記式;
[(V−V120)/V]×100
(式中、Vは電圧印加終了直後の第2表面の帯電圧(V)である;V120は電圧印加終了から120秒後の第2表面の帯電圧(V)である)
で表される帯電圧の減衰率が4%以上であることを特徴とする導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
導電材フリーフッ素樹脂フィルムの第1表面に対して、紫外線吸収性化合物およびフッ素系界面活性剤を含有する溶液、分散液または懸濁液を付着させ、該付着表面に紫外レーザー光を照射することによって製造されたことを特徴とする請求項3に記載の導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
紫外レーザー光がKrFエキシマレーザー光であり、総照射量が0.10〜0.55J/cmである請求項4に記載の導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
チューブ形状を有することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項7】
電子写真式画像形成装置の定着ローラ、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラまたは加圧ローラの表面層として使用されることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の導電材フリーの低帯電性フッ素樹脂フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate