説明

低摩擦抵抗肥大船

【課題】マイクロバブル噴出口から噴出したマイクロバブルの全てを船体平行部の船底に沿って流し、マイクロバブルの摩擦抵抗低減効果を最大限に利用した低摩擦抵抗肥大船を提供する。
【解決手段】方形係数が0.6乃至1.0の肥大船であって、船首部両舷側の喫水線直下の所定位置に配設されたマイクロバブル噴出口を備え、前記所定位置は、通常航行速度において当該位置を通る船体表面の流線が、船首部船体表面を通って船体平行部の船底に至る流線中、上部に位置する流線となる位置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦抵抗肥大船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカー等の大量の荷物を低速で運ぶ肥大船では、造波抵抗が小さいため、摩擦抵抗が全抵抗の約80%を占める。船体平行部が幅広の平坦な船底を有する肥大船において、微細気泡であるマイクロバブルを船体平行部の広大な船底に沿って流すことにより、大幅に摩擦抵抗を低減させることができる。
特許文献1は、船首部両舷側の浅水深の所定位置に配設されたマイクロバブル噴出口を備え、前記噴出口から噴出したマイクロバブルの多くが船側に沿って船底に流れる摩擦抵抗低減船を提案している。
【特許文献1】特開2001−206276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述の如く肥大船の船体中央部は幅広の平坦な船底を有しているので、当該船底に沿ってマイクロバブルを流せば、広大な船体中央部船底の摩擦抵抗を大幅に低減でき、マイクロバブルの摩擦抵抗低減効果を最大限に利用できると考えられる。然るに、特許文献1の技術は、マイクロバブル噴出口から噴出したマイクロバブルの全てを船体平行部の船底に沿って流す手段を確立しておらず、肥大船に適用した場合、マイクロバブルの摩擦抵抗低減効果を最大限に利用できないという問題を生ずる。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、マイクロバブルの摩擦抵抗低減効果を最大限に利用した低摩擦抵抗肥大船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明においては、方形係数が0.6乃至1.0の肥大船であって、船首部両舷側の喫水線直下の所定位置に配設されたマイクロバブル噴出口を備え、前記所定位置は、通常航行速度において当該位置を通る船体表面の流線が、船首部船体表面を通って船体平行部の船底に至る流線中、上部に位置する流線となる位置であることを特徴とする低摩擦抵抗肥大船を提供する。
航行中の肥大船の船体表面には、図1に破線で例示するような流線が形成される(船型設計のための抵抗・推進理論シンポジウム 第2章 境界層理論と船体まわりの粘性流場;姫野洋司、奥野武俊;昭和54年7月16,17日)。図1から分かるように、船首部の所定水深以下の船体表面を通る流線は、船体平行部の船底に至り、当該部の船側には至らない。従って、船首部の所定位置であって、当該位置を通る流線が船体平行部の船底に至る位置に、マイクロバブルを噴出させれば、噴出したマイクロバブルの全てを、船体平行部の船底に至らしめることができる。
本発明に係る低摩擦抵抗肥大船においては、航路の大部分を当該速度で航行する通常航行速度での航行時に、マイクロバブル噴出口を通る流線が船体平行部の船底に至るので、航路の大部分において、前記噴出口から噴出したマイクロバブルの全てを船体平行部の船底に沿って流すことができる。この結果、摩擦抵抗が大幅に低減し、燃費が大幅に低減する。マイクロバブル噴出口は、噴出したマイクロバブルの全てを船体平行部の船底に至らしめることができる配設位置中の、上部位置に配設されるので、マイクロバブル噴出口の水深は浅い。従って、空気をマイクロバブル噴出口に圧送するポンプの消費エネルギーは小さく、ポンプの作動による燃費の上昇は抑制される。
通常航行速度で航行している時の船体表面の流線は、数値流体力学による流場解析により、或いは模型船の曳航試験により求めれば良い。
【0005】
本発明の好ましい態様においては、低摩擦抵抗肥大船は、満載喫水線の直下に配設されたマイクロバブル噴出口と、バラスト喫水線の直下に配設されたマイクロバブル噴出口とを備える。
タンカー等の肥大船は、満載喫水とバラスト喫水の何れか1方で専ら航行し、中間的な喫水では殆ど航行しない。従って、満載航行時には満載喫水線直下のマイクロバブル噴出口からマイクロバブルを噴出させ、バラスト航行時にはバラスト喫水線直下のマイクロバブル噴出口からマイクロバブルを噴出させることにより、実用上十分な摩擦低減効果を、ひいては燃費低減効果を得ることができる。
【0006】
本発明の好ましい態様においては、マイクロバブル噴出口は、摩擦抵抗係数が最大になる船長方向位置よりも船首寄りの位置に配設されている。
図2に例示するように、肥大船の摩擦抵抗係数Cの船長方向分布は、一般に9.5ステーション近傍位置(後部垂線APと前部垂線FPとの間の垂線間長を10等分した時の、APから9番目の等分点と10番目の等分点、すなわちFPとの中間点近傍位置であり、船幅が急激に増加する位置である)で最大になり、当該位置から8ステーション近傍位置へ向けて急激に減少し、船体平行部では略一定値になる(船型設計のための抵抗・推進理論シンポジウム 第2章 境界層理論と船体まわりの粘性流場;姫野洋司、奥野武俊;昭和54年7月16,17日)。
マイクロバブル噴出口を、摩擦抵抗係数が最大になる船長方向位置よりも船首寄りの位置に配設すれば、船首近傍の摩擦抵抗係数の大きな部位の船側下部表面に沿ってマイクロバブルを流すことが可能になり、摩擦抵抗の低減効果が更に向上し、燃費が更に低減する。
【0007】
本発明の好ましい態様においては、マイクロバブル噴出口は、当該噴出口を通り船体平行部の船底に至った流線が船尾部においてプロペラ翼掃過円に干渉しない位置に配設されている。
マイクロバブル噴出口を、当該噴出口を通り船体平行部の船底に至った流線が船尾部においてプロペラ翼掃過円に干渉しない位置に配設すれば、マイクロバブルのプロペラへの流入に伴うプロペラ推進効率の低下を防止でき、プロペラ推進効率の低下に伴う燃費の上昇を防止できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、マイクロバブルの摩擦抵抗低減効果を最大限に利用した低摩擦抵抗肥大船が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例に係る低摩擦抵抗肥大船を説明する。
図3、4に示すように、方形係数が約0.8の低摩擦抵抗肥大船1は、3ステーション位置3から8ステーション位置8に至る部位が、船体平行部となっており、当該部は幅広の平坦な船底を有している。
図3、4に破線で示すように、低摩擦抵抗肥大船1が満載喫水dで且つ通常航行速度で航行する際、船首部の船体表面を通る流線中、最上部の流線αと、流線αより僅かに下方の流線βとは船体平行部において船側に至るが、流線βより僅かに下方の流線γと、流線γより下方の流線δ、ε、ζ、η、θは船体平行部において船底に至る。また流線γ、δ、ε、ζは、船尾部においてプロペラ翼掃過円Cに干渉しない。
低摩擦抵抗肥大船1の船首部両舷側の満載喫水線FWL直下位置に、より詳しくは、前部垂線FPと93/4ステーション位置との間であって流線δが通る位置に、マイクロバブル噴出口2が配設されている。マイクロバブル噴出口2は図示しない空気通路を介して図示しないポンプに接続されている。マイクロバブル噴出口2の配設位置は、低摩擦抵抗肥大船1が満載喫水dで且つ通常航行速度で航行する際に、当該位置を通る船体表面の流線が、船首部船体表面を通って船体平行部の船底に至る流線中、上部に位置する流線となる位置である。
低摩擦抵抗肥大船1の船首部両舷側のバラスト喫水線BWL直下位置に、より詳しくは、FPと93/4ステーション位置との間であって、低摩擦抵抗肥大船1がバラスト喫水dで且つ通常航行速度で航行する際に、当該位置を通る船体表面の流線(図3、4の流線εに近似した流線である)が、船首部船体表面を通って船体平行部の船底に至る流線中、上部に位置する流線となり、且つプロペラ翼掃過円Cに干渉しない流線となる位置に、マイクロバブル噴出口3が配設されている。マイクロバブル噴出口3は図示しない空気通路を介して図示しないポンプに接続されている。
【0010】
低摩擦抵抗肥大船1においては、満載喫水dで且つ通常航行速度で航行している時に、マイクロバブル噴出口2からマイクロバブルを噴出させ、バラスト喫水dで且つ通常航行速度で航行している時に、マイクロバブル噴出口3からマイクロバブルを噴出させる。マイクロバブル噴出口2、3から噴出したマイクロバブルは、全てが船体平行部の船底に至り、当該船底に沿って流れて広大な該部の摩擦抵抗を大幅に低減させると共に、9.5ステーション近傍位置から8ステーション近傍位置へ掛けて延在する摩擦抵抗係数の大きな部位の船側下部に沿って流れて該部の摩擦抵抗を大幅に低減させる。低摩擦抵抗肥大船1は、満載喫水とバラスト喫水の何れか1方で専ら航行し、中間的な喫水では殆ど航行しない。従って、満載航行時とバラスト航行時とに摩擦抵抗が大幅に低減することにより、実用上十分な摩擦低減効果が、ひいては燃費低減効果が得られる。
マイクロバブル噴出口2、3は、噴出したマイクロバブルの全てを船体平行部の船底に至らしめることができる配設位置中の、上部位置に配設されているので、空気をマイクロバブル噴出口2、3に圧送するポンプの消費エネルギーは少ない。この結果、ポンプを使用してマイクロバブル噴出口2、3に空気を圧送することによる低摩擦抵抗肥大船1の燃費上昇が抑制される。
マイクロバブル噴出口2、3を通る流線は、船尾部においてプロペラ翼掃過円Cに干渉しないので、マイクロバブルのプロペラへの流入に伴うプロペラ推進効率の低下が防止される。この結果、低摩擦抵抗肥大船1の燃費上昇が防止される。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明は、肥大船に広く使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】肥大船の船体表面に形成される流線を例示する図である。
【図2】肥大船の摩擦抵抗係数の船長方向分布を例示する図である。
【図3】本発明の実施例に係る低摩擦抵抗肥大船の側面図である。
【図4】本発明の実施例に係る低摩擦抵抗肥大船の船体表面に形成される流線を示す図である。
【符号の説明】
【0013】
1 低摩擦抵抗肥大船
2、3 マイクロバブル噴出口
C プロペラ翼掃過円
α、β、γ、δ、ε、ζ、η、θ 流線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方形係数が0.6乃至1.0の肥大船であって、船首部両舷側の喫水線直下の所定位置に配設されたマイクロバブル噴出口を備え、前記所定位置は、通常航行速度において当該位置を通る船体表面の流線が、船首部船体表面を通って船体平行部の船底に至る流線中、上部に位置する流線となる位置であることを特徴とする低摩擦抵抗肥大船。
【請求項2】
満載喫水線の直下に配設されたマイクロバブル噴出口と、バラスト喫水線の直下に配設されたマイクロバブル噴出口とを備えることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦抵抗肥大船。
【請求項3】
マイクロバブル噴出口は、摩擦抵抗係数が最大になる船長方向位置よりも船首寄りの位置に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の低摩擦抵抗肥大船。
【請求項4】
マイクロバブル噴出口は、当該噴出口を通り船体平行部の船底に至った流線が船尾部においてプロペラ翼掃過円に干渉しない位置に配設されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の低摩擦抵抗肥大船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−246041(P2007−246041A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75794(P2006−75794)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(501237084)株式会社大内海洋コンサルタント (11)
【出願人】(502298192)流体テクノ有限会社 (11)