説明

低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、及びこれを用いた摺動機構

【課題】低摩擦摺動材料用の潤滑油として用いた際に極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物、及び前記潤滑油組成物とDLC皮膜を摺動面に有する摺動部材とを組み合わせることにより、低摩擦性かつ耐摩耗性に優れた摺動機構を提供すること。
【解決手段】分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを特徴とする有機モリブデン化合物を含む、低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、及びこれを用いた摺動機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低摩擦摺動材料用潤滑油組成物及びこれを用いた摺動機構に関し、さらに詳しくは、低摩擦摺動材料に対して優れた低摩擦性と耐摩耗性を示す潤滑油組成物、及びこれを用いた摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において環境問題への対応が重要になっており、省エネルギー化や二酸化炭素の排出量の低減化に関する技術開発が進められている。例えば、自動車に関しては燃費の向上が課題の一つであり、潤滑油や摺動材料の技術開発が重要になっている。
【0003】
潤滑油に関しては、これまでに各種性能向上を目的として、種々の基油や添加剤が開発されている。例えば、エンジン油に要求される性能としては、適切な粘度特性、酸化安定性、清浄分散性、摩耗防止性、あわ立ち防止性等があり、種々の基油及び添加剤の組み合わせによりこれらの性能向上が図られている。特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は耐摩耗添加剤として優れることから、エンジン油の添加剤としてよく使用されている。
【0004】
一方、摺動材料に関しては、摩擦摩耗環境が苛酷な部位(例えば、エンジンの摺動部位)用の材料として、耐摩耗性向上等に寄与するTiN皮膜やCrN皮膜等の硬質皮膜を有する材料が知られている。さらに、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を利用することで、空気中、潤滑油非存在下において摩擦係数を低下できることが知られ、DLC皮膜を有する材料(以下、DLC材料と称する。)が低摩擦摺動材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、DLC材料は、潤滑油の存在下においてはその摩擦低減効果が小さいことがあり、この場合省燃費効果は得られにくい。そのため、代表例としての硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)をはじめ、これまでに種々の低摩擦摺動材料用の潤滑油組成物の開発が行われている。
例えば、特許文献1にはエーテル系無灰摩擦低減剤を含む低摩擦摺動材料用潤滑油組成物が開示されている。特許文献2、3には、DLC部材と鉄基部材との摺動面やDLC部材とアルミニウム合金部材との摺動面に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物を用いる技術が開示されている。特許文献4には、DLCコーティング摺動部材を有する低摩擦摺動機構において、含酸素有機化合物や脂肪族アミン系化合物を含有する低摩擦剤組成物を用いる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの低摩擦摺動材料用潤滑油は、摩擦低減について効果が認められる場合であっても、耐摩耗性については、極めて不充分であることが判明した。
例えば、DLC材料に、MoDTCを配合した潤滑油組成物を用いた場合、DLC材料が著しく摩耗することがある。
このことは、低摩擦摺動材料用の潤滑油においては、優れた低摩擦性と耐摩耗性とを共に具備することが困難であることを示している。しかも、これらを具備することが不可欠であることは論ずるまでもない。
したがって、潤滑油に求められる各種性能を維持することができ、かつ低摩擦摺動材料用潤滑油として用いた際に優れた低摩擦性を示すとともに優れた耐摩耗性をも有する潤滑油組成物不可欠のものとして求められている。
【0007】
また、さらに前記低摩擦摺動材料を摺動面に有する優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現できる摺動機構の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−36850号公報
【特許文献2】特開2003−238982号公報
【特許文献3】特開2004−155891号公報
【特許文献4】特開2005−98495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低摩擦摺動材料用潤滑油として用いた際に優れた低摩擦性と耐摩耗性とを共に具備する低摩擦摺動材料用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、前記低摩擦摺動材料用潤滑油組成物を用いた優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現できる摺動機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の有機モリブデ化合物を含む潤滑油組成物、及びそれを特定の低摩擦摺動材料を有する摺動面間に介在させることによって、前記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち本発明は、
1.分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを特徴とする有機モリブデン化合物を含む、低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
2.有機モリブデン化合物の窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05以上1.0以下である上記1に記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
3.組成物全量基準で、有機モリブデン化合物に由来する硫黄含有量が、100質量ppm以下である上記1又は2に記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
4.有機モリブデン化合物が、(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物、(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、及び(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミドもしくはカルボン酸アミドの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、の中から選ばれた1種又は2種以上の化合物である上記1〜3のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
5.さらに、有機ジチオリン酸亜鉛を含む上記1〜3のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
6.有機ジチオリン酸亜鉛を構成する炭化水素基が、2級アルキル基を含むものである上記5に記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
7. 組成物全量基準で、モリブデン含有量が0.02〜0.2質量%である上記1〜6のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、
8.低摩擦摺動材料が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)である上記1〜7のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
9. 相互に摺動する2つの摺動部材の摺動面に、上記1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜が形成されていることを特徴とする摺動機構、
10.DLC皮膜が、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜である上記9に記載の摺動機構、
11. DLC皮膜におけるグラファイト結晶の結晶径が、15〜100nmである上記10に記載の摺動機構、
12. 摺動部材とDLC皮膜との間に、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、及びシリコン(Si)の中から選ばれる一種又は二種以上の金属層、金属窒化層あるいは金属炭化層を有する上記9〜11のいずれかに記載の摺動機構、
13.DLC皮膜が、陰極PIGプラズマCVD法により、高密度プラズマ雰囲気下で形成されたものである上記9〜11のいずれかに記載の摺動機構、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低摩擦摺動材料用潤滑油として用いた際に優れた低摩擦性と耐摩耗性とを共に具備する低摩擦摺動材料用潤滑油組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記低摩擦摺動材料用潤滑油組成物を用いた優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現できる摺動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係るDLC皮膜の形成装置の一例である陰極PIGプラズマCVD装置の概要を示す図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係るDLC皮膜のX線回折スペクトルの測定例である。
【図5】図4のDLC皮膜の微分スペクトルである。
【図6】図4のDLC皮膜の結晶ピーク抽出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、低摩擦摺動材料用潤滑油組成物、該潤滑油組成物を用いた摺動機構である。
以下、これらについて詳細に説明する。
1、低摩擦摺動材料用潤滑油組成物
本発明の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物(以下、「潤滑油組成物」と略記することがある)は、潤滑油基油および特定の化合物を含有し、低摩擦摺動材料の摺動面に用いる潤滑油として用いられる。
【0015】
本発明で用いる潤滑油基油は特に制限はなく、従来使用されている公知の鉱物系基油及び合成系基油の中から適宜選択して用いることができる。
ここで、鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の1つ以上の処理を行って精製した鉱油、あるいはワックスやGTL WAXを異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。
また、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など],各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど),各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど),ポリグリコール,アルキルベンゼン,アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらの合成油のうち、特にポリα−オレフィンが好ましい。
【0016】
本発明においては、基油として、上記鉱油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油1種以上と合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、通常100℃の動粘度が2〜30mm2/s、好ましくは2.5〜15mm2/s、より好ましくは3.5〜10mm2/sである。100℃における動粘度が2mm2/s以上であれば蒸発損失が少なく、一方30mm2/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失があまり大きくなることがなく、燃費改善効果が得られる。
【0017】
また、基油としては、JIS K 2541に準拠して測定した硫黄分が50質量ppm以下であるものが好ましい。硫黄分が50質量ppm以下であれば、低摩擦摺動材料の耐摩耗性を高める効果がある。より好ましい硫黄分は、30質量ppm以下、さらには20質量ppm以下である。
また、基油としては、環分析による%CAが3.0以下のものが好ましく用いられる。ここで、環分析による%CAとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。%CAが、3.0以下であれば、良好な酸化安定性を示す。より好ましい%CAは1.0以下、さらには、0.5以下である。
さらに、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。この粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さく、安定した潤滑特性が得られる。
【0018】
本発明においては、分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下である有機モリブデン化合物を用いる。
このような化合物を含む潤滑油組成物は、低摩擦摺動材料に対して優れた低摩擦性と耐摩耗性とを共に付与する効果がある。
【0019】
すなわち、本発明において用いる有機モリブデン化合物は、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを要する。
有機モリブデン化合物の硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%を越える有機モリブデン化合物を用いると、低摩擦摺動材料に対する耐摩耗性が悪化する。従って、好ましい有機モリブデン化合物の硫黄含有量は、0.3質量%以下である。
また、本発明の有機モリブデン化合物は、窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05以上1.0以下であることが好ましい。これによって、さらに優れた低摩擦性を得ることができる。窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05未満であると化合物の安定性が劣ることがあり、1.0を越えると摩擦低減効果が低下することがある。従って、窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)0.1以上0.8以下であることがより好ましい。
【0020】
このような化合物は、特に制限はないが、例えば、(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物、(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる反応生成物、及び(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミド、もしくはカルボン酸アミドとの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる反応生成物、が挙げられる。
【0021】
前記(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物は、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させることにより、例えば特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得ることができる。
6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0022】
これらのアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、反応生成物におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合でその効果を高めることができる。 これらのアミン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記6価のモリブデン化合物とアミン化合物との反応比は、アミン化合物1モルに対し、モリブデン化合物のMo原子のモル比が、0.7〜5であることが好ましく、0.8〜4であることがより好ましく、1〜2.5であることがさらに好ましい。反応方法については特に制限はなく、従来公知の方法、例えば特開2003−252887号公報に記載されている方法を採用することができる。
【0023】
前記(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物は、様々な形態で製造可能であるが、特許2757174に記述されている反応生成物は、米国特許第5,412,130号で開示されているジオール、ジアミノ、又はアミノ−アルコール化合物とモリブデン源とを相間移動触媒の存在において反応させることによって得られる。米国特許第4,889,647号には脂肪油と、ジエタノールアミンとモリブデン源との反応生成物、米国特許第5,137,647号には2−(2−アミノエチル)アミノエタノールの脂肪酸誘導体とモリブデン源との反応生成物が開示されている。
【0024】
特許3291339に開示されている2−(2−アミノエチル)アミノエタノールの脂肪誘導体とモリブデン源との反応で得られる反応生成物は,1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリンの脂肪誘導体の加水分解によってできるアミン−アミド中間体とモリブデン源との反応で得られる。
特許4109428に開示されている反応生成物は、脂肪油、モノアルキル化アルキレンジアミン及びモリブデン源の反応生成物を含んでおり、第1のステップとして、脂肪油とモノ置換アルキレンジアミンを高温で反応させてアミノアミド/グリセリド混合物を製造し、第2のステップとして、モリブデン源と反応させる方法で製造することが好ましい。脂肪油としては脂肪酸のグリセリルエステル、トリアシルグリセロールまたはトリグリセリドが挙げられる。ジアミンとしては、脂肪油と反応することが可能で、中間体のアミノアミド/グリセリド混合物がモリブデン源と反応することが可能であるモノアルキル化ジアミンが用いられる。モリブデン源は、アンモニウムモリブデート、ナトリウムモリブデート、酸化モリブデン及びこれらの混合物が挙げられ、特に好ましいモリブデン源は三酸化モリブデンである。
【0025】
特許4109429に開示されている反応生成物は、長鎖モノカルボン酸とモノアルキル化アルキレンジアミンとグリセリドとモリブデン源の反応生成物を含んで成る。長鎖モノカルボン酸は、炭素原子を好適には少なくとも8、より好適には少なくとも12含む。モリブデン源にはモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化モリブデンおよびそれらの混合物が挙げられる。
さらに、これらの反応生成物は、特開2004−2866号公報に記載された製造方法により、硫化させてもよい。
【0026】
また、前記(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミドもしくはカルボン酸アミドとの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる反応生成物は、特開2004−2866号公報に記載された製造方法で得ることができる。
【0027】
本発明の潤滑油組成物における、上記有機モリブデン化合物に由来する硫黄含有量については、組成物全量基準で100質量ppm以下であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物における、上記有機モリブデン化合物の配合量については、組成物全量基準とし、モリブデン換算で、0.02〜0.2質量%であることが好ましい。0.02質量%以上であれば、低摩擦性と良好な耐摩耗性を得ることができる。より好ましい配合量は、モリブデン換算で、0.025質量%以上、さらには0.03質量%以上である。
【0028】
本発明の潤滑油組成物においては、上記有機モリブデン化合物とともに、さらに、有機ジチオリン酸亜鉛を含むことが好ましい。
上記有機モリブデン化合物と有機ジチオリン酸亜鉛が共存することより、低摩擦摺動材料に対する低摩擦性と耐摩耗性とをさらに向上させることができる。
前記有機ジチオリン酸亜鉛としては、一般式(1)
【0029】
【化1】

【0030】
で表わされる有機ジチオリン酸亜鉛を用いることができる。
一般式(1)中のR1、R2、R3及びR4は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、及び炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
本発明においては、炭化水素基であるR1、R2、R3及びR4が、第2級のアルキル基を含むものが好ましい。
例えば、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物における、上記有機ジチオリン酸亜鉛の配合量については、リン量換算で、0.005質量%以上であることが好ましい。0.005質量%以上であれば、低摩擦性と耐摩耗性を向上することができる。より好ましい配合量は、リン換算で、0.01質量%以上、さらには0.02質量%以上である。
【0032】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて他の添加剤、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤又は極圧剤、摩擦低減剤、分散剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0033】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。
粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
流動点降下剤としては、例えば、重量平均分子量が5000〜50,000程度のポリメタクリレートなどが挙げられる。
流動点降下剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜2質量%程度であり、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0034】
清浄分散剤としては、無灰分散剤、金属系清浄剤を用いることができる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、一般式(II)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は一般式(III)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。
【0035】
【化2】

【0036】
一般式(II)、(III)において、R11、R13及びR14は、それぞれ、数平均分子量500〜4,000のアルケニル基若しくはアルキル基で、R13及びR14は同一でも異なっていてもよい。R11、R13及びR14の数平均分子量は、好ましくは1,000〜4,000である。
また、R12、R15及びR16は、それぞれ、炭素数2〜5のアルキレン基で、R15及びR16は同一でも異なっていてもよく、rは1〜10の整数を示し、sは0又は1〜10の整数を示す。
上記R11、R13及びR14の数平均分子量が500未満であると、基油への溶解性が低下し、4,000を超えると、清浄性が低下し、目的の性能が得られないおそれがある。
また、上記rは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。rが1未満であると、清浄性が悪化し、rが11以上であると、基油に対する溶解性が悪くなる。
【0037】
一般式(III)において、sは好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3である。上記範囲内であれば、清浄性及び基油に対する溶解性の点で好ましい。
アルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものである。好適なアルケニル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられる。ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして得られる。また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものである。
【0038】
上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物は、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
上記のモノタイプのコハク酸イミド化合物及びビスタイプのコハク酸イミド化合物は、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの1種又は2種以上を混合して用いることができるが、イソブテンとブテン−1の混合物を好適に用いることができる。
【0039】
ポリアミンとしては、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体を挙げることができる。
【0040】
また、上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。
例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。
このホウ素誘導体中のホウ素含有量には、特に制限はないが、ホウ素として、通常、0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0041】
一般式(II)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は一般式(III)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。配合量が0.5質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、又15質量%を超えてもその配合量に見合った効果は得られない。また、コハク酸イミド化合物は、上記の規定量を含有する限り、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート及びこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物等が挙げられる。
【0043】
アルカリ土類金属スルフォネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。
アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0044】
前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、より好ましくは6〜18の直鎖又は分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
また、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートとしては、前記のアルキル芳香族スルフォン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩又はホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0045】
本発明において金属系清浄剤としては、上記の中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物等を用いることができ、特に過塩基性サリチレート、過塩基性フェネート、過塩基性スルフォネートの1種以上と中性スルフォネートとの混合が清浄性、耐摩耗性において好ましい。
本発明において、金属系清浄剤の全塩基価は、通常、10〜500mgKOH/g、好ましくは15〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)による全塩基価を意味する。
【0046】
また、本発明の金属系清浄剤としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを1種又は2種以上混合して使用できるが、好ましくは、金属比が3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下の金属系清浄剤を必須成分とすることが、酸化安定性や塩基価維持性及び高温清浄性等により優れるため特に好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とは、スルホン酸基、フェノール基及びサリチル酸基等を意味する。
【0047】
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
金属系清浄剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。配合量が0.01質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、また20質量%を超えてもその添加に見合った効果は得られない。また、金属系清浄剤は、上記の規定量を含有する限り、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0049】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、及びナフチルアミン系のもの、具体的には、α−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;更にはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ジアルキルジフェニルアミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
【0050】
硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイド、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
酸化防止剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0051】
摩擦低減剤としては、潤滑油用の摩擦低減剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族エーテル等の無灰摩擦低減剤が挙げられる。摩擦低減剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜2質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
金属不活性剤としてベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。金属不活性剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0052】
防錆剤としては、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜1質量%程度であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
界面活性剤又は抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤又は抗乳化剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられ、消泡効果及び経済性のバランスなどの点から、潤滑油組成物全量基準で、0.005〜0.5質量、好ましくは 0.01〜0.2質量%である。
【0053】
本発明の潤滑油組成物は、低摩擦摺動材料を有する摺動面に適用され、優れた低摩擦性と耐摩耗性を付与することができ、特に内燃機関に適用した場合には、省燃費効果を付与することができる。
前記の低摩擦摺動材料を有する摺動面としては、少なくとも一方の側に低摩擦摺動材料としてDLC材料を有するものが好ましい。この場合、他方の摺動面の材料については、例えば、DLC材料、鉄基材料あるいはアルミニウム合金材料などがあげられる。
つまり、2つの摺動面がともにDLC材料、一方の摺動面がDLC材料で他方の摺動面が鉄基材料、一方の摺動面がDLC材料で他方の摺動面がアルミニウム合金材料である場合が例示できる。
【0054】
ここで、上記DLC材料は、表面にDLC膜を有するものである。該膜を構成するDLC材は、炭素元素を主として構成された非晶質であり、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。
具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられる。
これらの中でも、a−C:H(水素アモルファスカーボン)、中でも、水素を5〜50%含有するa−C:HやDLC Wが好ましい。
さらに、DLC材料は、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLCが好ましい。
このようなグラファイト結晶ピークを有するDLCは、陰極PIG(Penninng Ionization Gauge)プラズマCVD法により高密度プラズマ雰囲気下で形成することができる。
【0055】
一方、鉄基材料としては、例えば浸炭鋼SCM420やSCr420(JIS)などを挙げることができる。アルミニウム合金材料としては、ケイ素を4〜20質量%及び銅を1.0〜5.0質量%を含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金を用いることが好ましい。具体的にはAC2A、AC8A、ADC12、ADC14(JIS)などを挙げることができる。
また、前記DLC材料及び鉄基材料、あるいはDLC材料及びアルミニウム合金材料のそれぞれの表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μm以下であると局部的なスカッフィングが形成しにくく、摩擦係数の増大を抑制することができる。更に、上記DLC材料は、表面硬さが、マイクロビッカーズ硬さ(98mN荷重)でHv1000〜3500、厚さが0.3〜2.0μmであることが好ましい。
【0056】
一方、前記鉄基材料は、表面硬さがロックウェル硬さ(Cスケール)でHRC45〜60であることが好ましい。この場合は、カムフォロワー部材のように700MPa程度の高面圧下の摺動条件においても、膜の耐久性を維持できるので有効である。
また、前記アルミニウム合金材料は、表面硬さがブリネル硬さHB80〜130であることが好ましい。
DLC材料の表面硬さ及び厚さが上記範囲にあると摩滅や剥離が抑制される。また、鉄基材料の表面硬さがHRC45以上であると、高面圧下で座屈し剥離するのを抑制することができる。一方、アルミニウム合金材料の表面硬さが上記範囲にあれば、アルミニウム合金の摩耗が抑制される。
【0057】
本発明の潤滑油組成物が適用される摺動部については、二つの金属表面が接触し、かつ少なくとも一方が低摩擦摺動材料を有する表面であればよく、特に制限はないが、例えば、内燃機関の摺動部を好ましく挙げることができる。この場合は、従来に比べて極めて優れた低摩擦特性と耐摩耗性が得られ、省燃費効果が発揮されるので有効である。例えば、DLC部材としては、鉄鋼材料の基板にDLCをコーティングした円板状のシムやリフター冠面などが挙げられ、鉄基部材としては、低合金チルド鋳鉄、浸炭鋼又は調質炭素鋼、及びこれらの任意の組合せに係る材料を用いたカムロブなどが挙げられる。
【0058】
2.摺動機構
本発明の摺動機構は、2つの摺動面間に、上記の潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、少なくとも一方の摺動面に、DLC皮膜が形成されている摺動機構である。
前記DLC皮膜は、水素を5〜50%含有するDLC皮膜が好ましく、中でも、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜であることがより好ましい。
【0059】
前記DLC皮膜を、DLC皮膜がX線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜である場合について、図を用いて以下に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明の他の実施の形態に係る摺動機構のDLC皮膜を有す摺動部材の構造を模式的に示す断面図である。
図1、図2において、1は基材、3はDLC皮膜であり、4はグラファイト結晶である。摺動材料の基材1とDLC皮膜3との間には密着層としての中間層2が設けられている。
基材1と中間層2との間には、図2に示すように、第2の中間層として下地層21を設けても良い。下地層21を設けることにより、基材1と中間層2との密着性をさらに向上させることができる。
【0060】
このようなグラファイト結晶のピークを有するDLC皮膜は、陰極PIG(Penninng Ionization Gauge)プラズマCVD法により高密度プラズマ雰囲気下で形成することができる。
具体的には、例えば、陰極PIGにて発生させたプラズマがコイルで形成された磁場に閉じ込められることにより高密度化され、原料ガスを高い効率で活性な原子、分子、イオンに分解する。さらに、高活性な原料ガス成分を堆積させながら、直流パルスを基材に印加することによって高エネルギーイオンを照射することができる。これによって、摺動特性に優れたDLC皮膜を効率的に形成することが出来る。形成方法の詳細は、特願2008−335718に記載されている方法が好ましい。
【0061】
図3は、前記陰極PIGプラズマCVD装置の一例の概略を示す図である。
図3において、40はチャンバー、41は基材、42はホルダー、43はプラズマ源、44は電極、45はコイル、46はカソード、47はガス導入口、48はガス排出口、49はバイアス電源である。そして、50はチャンバー40内に形成されたプラズマである。
上記装置を用いて、以下のようにしてDLC皮膜を形成することができる。
最初に、基材41をホルダー42に支持させてチャンバー40内に配置する。次いで、ガス導入口47よりArガスを注入すると共に、プラズマ源43、電極44、コイル45を用いて、プラズマ50を発生、安定させる。プラズマ中にて分解されたArガスをバイアス電源49にて基材41へ引きつけ、表面エッチングを行う。その後、金属よりなるカソード46、Arガスを用いて下地層である金属層を形成する。さらに、高密度プラズマ雰囲気下でガス導入口47より注入された原料ガスを分解、反応させることにより、DLC皮膜中にグラファイト結晶を生成させる。所定の厚さのDLC皮膜となるまでそのまま維持する。このとき、グラファイト結晶の結晶径は、15〜100nmとなるように制御する。
【0062】
上記陰極PIGプラズマCVD装置においては、プラズマ特性やガス種等を変更することにより、得られるDLC皮膜の特性を変更することが可能であり、前記したグラファイト結晶の結晶径の他に、グラファイト結晶の量、DLC皮膜の硬度や表面粗さ等を適正化することにより、摺動性および耐久性を向上させることができる。
【0063】
形成されたDLC皮膜内におけるグラファイト結晶の存在の確認および結晶径の確認は、以下に示すX線回折測定を用いて行うことが好ましい。
通常、結晶材料のX線回折スペクトルには、個々の格子面に対応した鋭い回折ピークが複数本存在し、これらを照合して結晶構造が確定されるのが一般的である。これに対し、本発明の好ましいDLC皮膜の場合、非晶質に特有のハローパターンと呼ばれるブロードな散乱ピークに混じって、グラファイト結晶の回折ピークが存在する。
【0064】
図4は、上記の方法で形成したグラファイト結晶を含有するDLC皮膜のX線回折スペクトルの一例である。この下記の条件でX線回折スペクトルは、下記の測定条件で測定したものである。
測定条件
X線源:放射光源、
X線エネルギー:15keV、
入射スリット幅:0.1mm、
検出器:シンチレーションカウンタ(前段にソーラースリットを配置)、
散乱角2θの測定範囲:5〜100°
測定ステップ:0.1°
積算時間:30秒/ステップ
なお、DLC皮膜試料は、基板から剥離し、ガラス細管(キャピラリ)に充填して測定した。
【0065】
図4に示すように、本発明において好ましいDLC皮膜は主成分が非晶質であるため、ラファイト結晶の回折ピーク強度は相対的に弱い場合がある。
この場合でも、分析化学で広く用いられている微分スペクトルを用いることで、主な結晶ピークの存在を確認することができる。図4において用いたのと同じDLC皮膜試料についての微分スペクトルを図5に示す。
【0066】
本実施の形態では、微分スペクトルにおいて認められるピークとして大きいものから順に10本を選び、その中でグラファイト結晶のピーク位置と一致するものが最低3本あれば、そのDLC皮膜はグラファイト結晶を含有していると規定した。この方法は、一般的な結晶材料のX線回折で用いられるHanawalt法、即ち、最も強度の大きい3本のピークを用いて回折図形を特徴付ける方法に準拠している。
【0067】
さらに、上記のような回折ピークの広がりから、グラファイト結晶の結晶径を推定することができる。具体的には、X線散乱スペクトルから非晶質によるハローパターンをバックグランドとして差し引き、グラファイト結晶ピークを抽出した後、式1で示すScherrerの式を適用することにより求めることができる。図4において用いたのと同じDLC皮膜試料についてグラファイト結晶ピークを抽出した結果を図6に示す。
D=(0.9×λ)/(β×cosθ) ・・・式1
但し、D:結晶径(nm)
λ:X線の波長(nm)
β:結晶ピークの半価幅(ラジアン)
θ:結晶ピークの位置
【0068】
得られたDLC皮膜は、前記した通り、炭素を主成分とする非晶質構造であり、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3構造)とグラファイト構造(SP2構造)の両方からなり、10〜35atom%の水素を膜中に含有する。
【0069】
このDLC皮膜は、一般に、鉄基材料やアルミニウム合金等に密着力よく形成することが困難であるため、前記したように密着層としての中間層を設ける。中間層としては、具体的には、例えば、Ti、Cr、W、Siより選択されたいずれかの金属の金属層、金属窒化層、金属炭化層のいずれか1層または2層以上からなる中間層が望ましい。中間層の総厚さは0.1〜2.0μmであることが望ましい。即ち、0.1μm未満である場合には、中間層としての機能が不十分となる。一方、2.0μmを超える場合には、中間層そのものが低硬度であるため、耐衝撃性や密着性が低下する恐れがある。また、下地層としては、具体的には、例えば、Ti、Cr、W、Siより選択された金属膜が挙げられる。
【0070】
本発明に係る摺動機構は、上記した潤滑油と摺動部材により構成されている。上記したように、潤滑油と摺動部材のいずれも優れた低摩擦特性を有しているため、充分に低い摩擦係数を得ることができる。
【0071】
摺動部材では、互いに摺動する摺動面の少なくとも一方の面に上記のDLC皮膜を形成する。相手部材の摺動面については特に限定されず、同様にDLC皮膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。DLC皮膜を形成しない場合、相手材としては、上記した鉄基材料やアルミニウム合金材料等を挙げることができる。
【実施例】
【0072】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
実施例1〜6及び比較例1〜4
第1表に示す組成を有する潤滑油組成物を調製し、以下に示す摩擦特性試験を行い、摩擦係数、及び摩耗深さを求めた。その結果を第1表に示す。
なお、DLCコーティングしたディスクは、水素20%含有DLCを用いた。
<摩擦特性試験>
往復動摩擦試験機(オプティマール社製SRV往復動摩擦試験機)を用いて、以下の方法により摩擦係数を測定した。
テストピースとして、DLCコーティングしたディスク(φ24mm×7.9mm)を用い、その上に試料油(潤滑油組成物)を数滴滴下する。SCM420製のシリンダー(φ15mm×22mm)を上記ディスク上部にセットした状態で、荷重400N,振幅1.5mm、周波数50Hz、温度100℃の条件で摩擦係数を求めた。
【0074】
<摩耗深さ試験>
ディスク(DLC)の摩耗深さは、小坂研究所社製 触針式粗さ計(Digital surfcorder DSF1000)を用いて、摩擦特性試験で得られたDLCコーティングの摺動痕跡部のプロファイルより最大の摩耗深さを計測した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
潤滑油組成物の調製に用いた各成分は以下のとおりである。
(1)基油A:水素化精製基油、40℃動粘度21mm2/s、100℃動粘度4.5mm2/s、粘度指数127、%CA0.0、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量%
(2)有機モリブデン化合物A:商品名「SAKURA−LUBE S-710」(ADEKA Corporation製)、モリブデン含有量;10質量%、窒素含有量;1.3質量%、硫黄含有量0.02質量%
(3)有機モリブデン化合物B:商品名「HiTEC4716」(Afton Chemical Corporation製)、モリブデン含有量;8.0質量%、窒素含有量;2.4質量%、硫黄含有量0.02質量%未満
(4)有機モリブデン化合物C:商品名「MOLYVAN855」(R.T.Vanderbilt Company Inc.製)、モリブデン含有量;7.8質量%、窒素含有量;2.5質量%、硫黄含有量0.02質量%未満
(5)ジアルキルジチオリン酸亜鉛、Zn含有量;9.0質量%、リン含有量;8.2質量%、硫黄含有量;17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
(6)硫化オキシモリブデンジチオカーバメート:商品名「SAKURA−LUBE 515」(ADEKA Corporation製)、モリブデン含有量10.0質量%、窒素含有量;1.6質量%、硫黄含有量11.5質量%
(7)粘度指数向上剤:ポリメタクリレート、質量平均分子量230,000
(8)流動点降下剤:ポリアルキルメタクリレート、質量平均分子量6,000
(9)アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量3.4質量%
(10)フェノール系酸化防止剤:オクタデシル 3-(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(11)金属系清浄剤A:過塩基性カルシウムサリシレート、塩基価(過塩素酸法)350mgKOH/g、カルシウム含有量12.1質量%、硫黄量0.3質量%
(12)金属系清浄剤B:中性カルシウムスルホネート、塩基価(過塩素酸法)17mgKOH/g、カルシウム含有量2.4質量%、硫黄含有量2.8質量%
(13)ポリブテニルコハク酸ビスイミド:ポリブテニル基の数平均分子量2000、塩基価(過塩素酸法)11.9mgKOH/g、窒素含有量0.99質量%、硫黄量0.18質量%
(14)ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物:ポリブテニル基の数平均分子量1000、塩基価(過塩素酸法)25mgKOH/g、窒素含有量1.23質量%、ホウ素含有量1.3質量%
(15)その他の添加剤:防錆剤、界面活性剤および消泡剤
【0078】
第1表より、DLCコーティングしたディスク(摺動面)に本発明の潤滑油組成物を用いると、摩擦係数が低く低摩擦性に優れ、摩耗深さが小さく耐摩耗性に優れている(実施例1〜6)。これに対し、本発明で用いる有機モリブデン化合物を用いない潤滑油組成物を用いると、摩擦係数が高く低摩擦性が発現しないか(比較例1及び2)、摩耗深さが大きく耐摩耗性が悪化する(比較例3及び4)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の潤滑油組成物は、DLC材料のような低摩擦摺動材料を有する摺動面に適用され、優れた低摩擦特性かつ耐摩耗性を付与することができ、特に内燃機関に適用した場合に、省燃費効果を付与することができる。また、このような潤滑油を介在させた本発明の摺動機構は、低摩擦性かつ耐摩耗性に優れている。
【符号の説明】
【0080】
1、41 基材
2 中間層
3 DLC皮膜
4 グラファイト結晶
21 下地層
40 チャンバー
42 ホルダー
43 プラズマ源
44 電極
45 コイル
46 カソード
47 ガス導入口
48 ガス排出口
49 バイアス電源
50 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを特徴とする有機モリブデン化合物を含む、低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項2】
有機モリブデン化合物の窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05以上1.0以下である請求項1に記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項3】
組成物全量基準で、有機モリブデン化合物に由来する硫黄含有量が、100質量ppm以下である請求項1又は2に記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項4】
有機モリブデン化合物が、(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物、(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、及び(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミドもしくはカルボン酸アミドの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、の中から選ばれた1種又は2種以上の化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項5】
さらに、有機ジチオリン酸亜鉛を含む請求項1〜3のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項6】
有機ジチオリン酸亜鉛を構成する炭化水素基が、2級アルキル基を含むものである請求項5に記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項7】
組成物全量基準で、モリブデン含有量が0.02〜0.2質量%である請求項1〜6のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項8】
低摩擦摺動材料が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)である請求項1〜7のいずれかに記載の低摩擦摺動材料用潤滑油組成物。
【請求項9】
相互に摺動する2つの摺動部材の摺動面に、請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物を介在させた摺動機構であって、2つの摺動部材のうち少なくとも一方の摺動面に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜が形成されていることを特徴とする摺動機構。
【請求項10】
DLC皮膜が、X線散乱スペクトルにおいてグラファイト結晶ピークを有するDLC皮膜である請求項9に記載の摺動機構。
【請求項11】
DLC皮膜におけるグラファイト結晶の結晶径が、15〜100nmである請求項10に記載の摺動機構。
【請求項12】
摺動部材とDLC皮膜との間に、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、及びシリコン(Si)の中から選ばれる一種又は二種以上の金属層、金属窒化層あるいは金属炭化層を有する請求項9〜11のいずれかに記載の摺動機構。
【請求項13】
DLC皮膜が、陰極PIGプラズマCVD法により、高密度プラズマ雰囲気下で形成されたものである請求項9〜11のいずれかに記載の摺動機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−252073(P2011−252073A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126365(P2010−126365)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(591029699)日本アイ・ティ・エフ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】