説明

低摩擦摺動機構

【課題】様々な用途下で存在する摺動面に極めて優れた超低摩擦特性を発揮させ得る低摩擦摺動機構を提供すること。
【解決手段】硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、グリセリンを含む潤滑剤を介在させた低摩擦摺動機構である。硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、水酸基を含む潤滑剤を介在させ、すべり接触条件が、エンジン油を介在させた鋼同士の摺動面の摩擦係数が0.1〜0.14を示す境界潤滑下において、0.02未満の摩擦係数を示す低摩擦摺動機構である。硬質炭素薄膜がa−Cやta−Cから構成される。硬質炭素薄膜の硬さが10g荷重におけるマイクロビッカース硬さで1500〜5000Hvである。硬質炭素薄膜の膜厚が0.3〜2.0μmである。水酸基を含む潤滑剤がアルコール類である。グリセリンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦摺動機構に係り、更に詳細には、例えば、内燃機関や駆動系伝達機関などにおける種々の摺動面の摩擦特性を向上させ得る低摩擦摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
地球全体の温暖化、オゾン層の破壊など地球規模での環境問題が大きくクローズアップされ、とりわけ地球全体の温暖化に大きな影響があると言われているCO削減については各国でその規制値の決め方をめぐって大きな関心を呼んでいる。
CO削減については機械・装置等の摩擦損失によるエネルギー損失の低減、特に自動車の燃費の削減を図ることが大きな課題の一つであり、摺動材料と潤滑剤との果たす役割は大きい。
【0003】
摺動材料における役割としては、エンジン、電動モータ、燃料ポンプなどの摺動部位のうちで摩擦摩耗環境が苛酷な部位に対し、優れた耐摩耗性と低い摩擦係数を発現することであり、最近では種々の硬質薄膜材料の適用が進んできている。
一般に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)材料は、空気中や潤滑油不存在下における摩擦係数が、窒化チタン(TiN)や窒化クロム(CrN)といった耐摩耗性の硬質被膜材料と比べて低いことから低摩擦摺動材料として期待されている。
【0004】
一方、潤滑油の役割、即ち省燃費対策としては、
(1)低粘度化による、流体潤滑領域における粘性抵抗及びエンジン内の攪拌抵抗の低減、(2)最適な摩擦調整剤と各種添加剤の配合による、混合及び境界潤滑領域下での摩擦損失の低減、が提言されている。
例えば、摩擦調整剤としては、モリブデンジチオカルバメイト(MoDTC)やモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)といった有機モリブデン化合物を中心として多くの研究がなされており、従来の鋼材料から成る摺動面においては、使用開始初期に優れた低摩擦係数を示す有機モリブデン化合物を配合した潤滑油組成物が適用され、効果を上げていた。
【0005】
このようなDLC材料の摩擦特性や、有機モリブデン化合物の摩擦調整剤としての性能については、例えば非特許文献1,2が報告されている。
【非特許文献1】日本トライボロジー学会予稿集・東京1999年5月,p11−12,加納 他
【非特許文献2】World Tribology Congress 2001.9,Vienna,Proceeding p342, Kano et.al.
【0006】
また、DLCと鉄系材料、アルミニウム合金、マグネシウム合金材料やDLC材料をエステル系添加剤等を含む油剤で潤滑することにより、大幅なフリクション低減を得ることが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開2002−45576号公報
【特許文献2】特開2002−322322号公報
【特許文献3】特開2003−208193号公報
【特許文献4】特開2003−207056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1には、空気中においては低摩擦性に優れる一般のDLC材料が、潤滑油存在下においてはその摩擦低減効果が必ずしも大きくないことが報告されている。
また、非特許文献2には、このような摺動材料に有機モリブデン化合物を含有する潤滑油組成物を適用したとしても摩擦低減効果が十分発揮されないことがあることも分かってきた。
更に、上記特許文献においては、境界潤滑条件下において摩擦係数が1/1000台(0.01未満)を示す超フリクション特性を発現することはなかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、様々な用途下で存在する摺動面に極めて優れた超低摩擦特性を発揮させ得る低摩擦摺動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水酸基を含む潤滑剤と、硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士を組合わせ、部材表面に非常に薄く且つ低せん断の化合物を形成させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の低摩擦摺動機構は、硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、グリセリンを含む潤滑剤を介在させたことを特徴とする低摩擦摺動機構であり、又は硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、すべり接触条件が、エンジン油を介在させた鋼同士の摺動面の摩擦係数が0.1〜0.14を示す境界潤滑下において、0.02未満の摩擦係数を示すことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の低摩擦摺動機構の好適形態は、上記硬質炭素薄膜が、アモルファスカーボン(a−C)及び/又は四面体型カーボン(ta−C)から構成されるダイヤモンドライクカーボン薄膜であることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の低摩擦摺動機構の他の好適形態は、上記硬質炭素薄膜の硬さが10g荷重におけるマイクロビッカース硬さで1500〜5000Hvであること、上記硬質炭素薄膜の膜厚が0.3〜2.0μmであることを特徴とする。
【0013】
更にまた、本発明の低摩擦摺動機構の更に他の好適形態は、上記水酸基を含む潤滑剤がアルコール類であり、特にグリセリンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低摩擦摺動機構は、水酸基を含む潤滑剤と、硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士を組合わせ、部材表面に非常に薄く且つ低せん断の化合物を形成させることとしたため、様々な用途下で存在する摺動面に極めて優れた超低摩擦特性を発揮させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の低摩擦摺動機構について、更に詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0016】
上述の如く、本発明の低摩擦摺動機構は、硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、グリセリンを含む潤滑剤又は水酸基を含む潤滑剤を介在させて成る。
また、摺動面のすべり接触条件は、エンジン油を介在させた鋼同士の摺動面の摩擦係数が0.1〜0.14を示す境界潤滑下において、0.02未満の摩擦係数を示すようにする。
【0017】
このような構成により、部材表面に非常に低せん断の水酸基を有する有機化合物層が形成されるので、超低フリクション特性を発揮する。
この有機化合物層が形成されるメカニズムは現時点では明らかではないが、摺動面において、水素基同士が対向してトライボフィルムの摺動すべり界面を形成していると推察できる。例えば、図2に示すように、潤滑剤にグリセリンを使用するときは、その一部にある水素基が相互に対向しそれらが水素結合したすべり界面を形成すると考えられる。
【0018】
ここで、上記摺動部材は、基材に硬質炭素薄膜を被覆して成る。
この硬質炭素薄膜としては、炭素を含有する結晶質又は非晶質の薄膜、特にダイヤモンド薄膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜等を挙げることができる。
なお、この硬質炭素薄膜は、摺動部材の摺動部全体に被覆されることが望ましいが、一部にのみ被覆されていてもよい。
【0019】
上記DLC薄膜は、いわゆるDLC材料から構成されるものである。このDLC材料は、炭素原子を主体として構成された非晶質のものであり、炭素原子同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP結合)とグラファイト構造(SP結合)の両方から成る。
具体的には、図1に示すように、実質的に炭素原子のみから成るa−C系(アモルファスカーボン)材料が挙げられるが、本発明においては、SP結合を主体とするta−C系(Tetrahedral Typeのアモルファスカーボン)材料も好適に使用できる。
【0020】
なお、上記硬質炭素薄膜は、対象とする摺動機構の種類や要求性能、摺動部材を構成する材料種、摺動部の表面粗さなどに影響を受けるが、例えば、その表面硬さは、10g荷重におけるマイクロビッカース硬さで1500〜5000Hvであることが好適である。より好ましくは2000〜4000Hv、特に好ましくは2500〜3500Hvであることがよい。
また、上記硬質炭素薄膜の膜厚は、0.3〜2.0μmであることが好適である。より好ましくは0.5〜1.5μm、特に好ましくは0.7〜1.2μmであることがよい。
表面硬さ及び膜厚が上記範囲から外れると、Hv1500Hv未満、厚さ0.3μm未満では摩滅し易くなり、逆にHv3500、厚さ2.0μmを超えると剥離し易くなる。
【0021】
更に、上記硬質炭素薄膜の表面粗さは、Raで0.1μm以下であることが好適である。より好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下であることがよい。
Raが0.1μmを超えると局部的にスカッフィングを形成し、摩擦係数の大幅向上となることがある。
【0022】
一方、上記摺動部材における基材としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料、チタン系材料等の金属材料等が挙げられる。また、各種ゴム、プラスティックなどの樹脂材料や、カーボン等の非金属材料なども挙げられる。
特に、鉄系材料、アルミニウム系材料及びマグネシウム系材料は、既存の機械・装置等の摺動部に適用しやすく、また、様々な分野で幅広く省エネルギー対策に貢献できる点で好ましい。
【0023】
上記鉄系材料としては、特に制限はなく、高純度の鉄だけでなく、各種の鉄系合金(ニッケル、銅、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉛、ケイ素又はチタン、及びこれらを任意に組み合わせたもの等)を使用することができる。具体的には、例えば浸炭鋼SCM420やSCr420(JIS)などを挙げることができる。
また、上記アルミニウム系材料としては、特に制限はなく、高純度のアルミニウムだけでなく、各種のアルミニウム系合金を使用することができる。具体的には、例えばシリコン(Si)を4〜20%、銅(Cu)を1.0〜5.0%含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金等を用いることが望ましい。アルミニウム合金の好適例としては、例えばAC2A、AC8A、ADC12及びADC14(JIS)等を挙げることができる。
【0024】
更に、これら金属材料や非金属材料に各種の薄膜コーティングを施した材料も基材として利用できる。具体的には、各種金属材料、例えば、上記鉄系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料又はチタン系材料等に、TiN、CrN等の薄膜コーティングを施したものを挙げることができる。
【0025】
なお、上記摺動部材がなす摺動面としては、水酸基を含む潤滑剤を介在させた2つの摺動部材表面が接触する摺動面であれば何ら限定なく使用できる。
例えば、4サイクルや2サイクルエンジン等の内燃機関の摺動部(例えば動弁系、ピストン、ピストンリング、ピストンスカート、シリンダライナ、コンロッド、クランクシャフト、ベアリング、軸受け、メタル、ギヤー、チェーン、ベルト、オイルポンプ等)を始め、駆動系伝達機構(例えばギヤー等)やハードディスクドライブの摺動部、その他摩擦条件が厳しく、低摩擦性が要求される様々な摺動面が対象となる。
【0026】
他方、上記水酸基を含む潤滑剤は、分子中に水酸基(ヒドロキシル基)を含有する有機化合物であれば特に制限はない。
例えば、炭素、水素及び酸素から成る有機化合物でも良いし、分子中にこれら以外の元素、例えば、窒素、硫黄、ハロゲン(フッ素、塩素等)、リン、ホウ素、金属等を含有して成る有機化合物であっても良い。
特に、摺動面の摩擦をより低減できる点からは、アルコール類であることが好適である。また、水酸基は2つ以上有することがより好ましく、例えば、グリセリン等が好適に使用できる。同様の理由から、硫黄含有量の少ない又は硫黄を含有しない有機化合物であることがよい。
【0027】
ここで、上記アルコール類は、次の一般式(1)
【0028】
R−(OH)n …(1)
【0029】
で表される有機化合物であり、ヒドロキシル基を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0030】
アルコール類としては、具体的には、例えば以下の(A)〜(D)が挙げられる。
・1価アルコール類(A)
・2価のアルコール類(B)
・3価以上のアルコール類(C)
・上記3種のアルコール類から選ばれる1種又は2種以上の混合物(D)
【0031】
上記1価アルコール類(A)は、ヒドロキシル基を分子中に1つ有するものであり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(1−プロパノール、2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール)、ペンタノール(1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール)、ヘキサノール(1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,2−ジメチルブタノール)、ヘプタノール(1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−メチル−1−ヘキサノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−メチル−3−ヘキサノール、5−メチル−2−ヘキサノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、4,4−ジメチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ヘキサノール、4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、2−エチルペンタノール)、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−メチル−3−ヘプタノール、6−メチル−2−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキサノール、2−メチル−1−ヘプタノール、2,2−ジメチル−1−ヘキサノール)、ノナノール(1−ノナノール、2−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、5−メチルオクタノール等)、デカノール(1−デカノール、2−デカノール、4−デカノール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、2,4,6−トリメチルヘプタノール等)、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール等)、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、トリコサノール、テトラコサノール等の炭素数1〜40の1価アルキルアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良い);エテノール、プロペノール、ブテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、オクタデセノール(オレイルアルコール等)等炭素数2〜40の1価アルケニルアルコール類(これらアルケニル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、二重結合の位置も任意である);シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール、プロピルシクロヘキサノール、ブチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、シクロペンチルメタノール、シクロヘキシルメタノール(1−シクロヘキシルエタノール、2−シクロヘキシルエタノール等)、シクロヘキシルエタノール、シクロヘキシルプロパノール(3−シクロヘキシルプロパノール等)、シクロヘキシルブタノール(4−シクロヘキシルブタノール等)、ブチルシクロヘキサノール、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサノール等の炭素数3〜40の1価(アルキル)シクロアルキルアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置も任意である);フェニルアルコール、メチルフェニルアルコール(o―クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール)、クレオソール、エチルフェニルアルコール、プロピルフェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、ブチルメチルフェニルアルコール(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルアルコール等)、ジメチルフェニルアルコール、ジエチルフェニルアルコール、ジブチルフェニルアルコール(2,6−ジ−tert−ブチルフェニルアルコール、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルアルコール等)、ジブチルメチルフェニルアルコール(2,6−ジ−tert−ブチル−4メチルフェニルアルコール等)、ジブチルエチルフェニルアルコール(2,6−ジ−tert−ブチル−4エチルフェニルアルコール等)、トリブチルフェニルアルコール(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニルアルコール等)、ナフトール(α―ナフトール、β−ナフトール等)、ジブチルナフトール(2,4−ジ−tert−ブチル−α−ナフトール等)等の(アルキル)アリールアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置も任意である)等;6−(4−オキシ−3,5−ジ−tert−ブチル−アニリノ)−2,4−ビス−(n−オクチル−チオ)−1,3,5−トリアジン等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0032】
これら1価アルコール類においては、摺動面の摩擦をより低減できる点、及び揮発性が低く高温条件(例えば内燃機関等の摺動条件)においても摩擦低減効果を発揮できる点から、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数12〜18の直鎖又は分枝のアルキルアルコール類やアルケニルアルコール類を使用するのがより好ましい。
【0033】
また、上記2価アルコール(B)としては、具体的には、ヒドロキシル基を分子中に2つ有するものであり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ヘプタデカンジオール、1.16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−イコサデカンジオール等の炭素数2〜40のアルキル又はアルケニルジオール類(これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルケニル基の二重結合の位置は任意であり、ヒドロキシル基の置換位置も任意である);シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール等の(アルキル)シクロアルカンジオール類(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置は任意である)、ベンゼンジオール(カテコール等)、メチルベンゼンジオール、エチルベンゼンジオール、ブチルベンゼンジオール(p−tert−ブチルカテコール等)、ジブチルベンゼンジオール(4,6−ジ−tert−ブチル−レゾルシン等)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−tert−ブチル−フェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチル−フェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチル−フェノール)、2,2’−チオビス−(4,6−ジ−tert−ブチル−レゾルシン)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチル−フェノール)、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール)、2,2’−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ビドロキシ)プロパン、4,4’−シクロヘキシリデンビス−(2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール)、等の炭素数2〜40の2価(アルキル)アリールアルコール類(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置は任意である)等;p−tert−ブチルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、p−tert−ブチルフェノールとアセトアルデヒドとの縮合物等;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0034】
これら2価アルコール類においては、摺動面の摩擦をより低減できる点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等を使用するのが好ましい。また、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル)フェニルアルコール等の分子量300以上、好ましくは400の高分子量のヒンダードアルコール類は、高温条件(例えば内燃機関等の摺動条件)においても揮発しにくく耐熱性に優れ、摩擦低減効果を発揮できるとともに、優れた酸化安定性をも付与できる点で好ましい。
【0035】
更に、3価以上のアルコール類(C)としては、具体的には、ヒドロキシル基を3つ以上有するものであり、通常3〜10価、好ましくは3〜6価の多価アルコールが用いられる。具体例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等のトリメチロールアルカン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等、及びこれらの重合体又は縮合物(例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のグリセリンの2〜8量体等、ジトリメチロールプロパン等のトリメチロールプロパンの2〜8量体等、ジペンタエリスリトール等のペンタエリスリトールの2〜4量体等、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等の縮合化合物(分子内縮合化合物、分子間縮合化合物又は自己縮合化合物)等が挙げられる。
【0036】
また、キシロース、アラビトール、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類も使用可能である。
【0037】
これら3価以上のアルコール類においては、グリセリン、トリメチロールアルカン(例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の3〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等がより好ましく、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン及びこれらの混合物が更に好ましく、水酸基含有量が20%以上、好ましくは30%以上、特に好ましくは40%である多価アルコール類であることが特に好ましい。なお、6価を超える多価アルコールの場合、粘度が高くなりすぎる。
【0038】
上記水酸基を含む潤滑剤には、更に、無灰分散剤、摩耗防止剤又は極圧剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の各種添加剤を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0039】
上述した構成を有する本発明の低摩擦摺動機構は、すべり接触条件が、エンジン油を介在させた鋼同士の摺動面の摩擦係数が0.1〜0.14を示す境界潤滑下において、0.02未満、好ましくは0.01未満の摩擦係数を示すようになる。
ここで、エンジン油としては、代表的には、MoDTC等の摩擦調整剤を含まない5W−30SFエンジン油などが挙げられる。
また、上記鋼としては、例えば、SNC415,SNC815,SNCM220,SNCM415,SNCM420,SNCM616,SNCM815,SCr415,SCr420,SCM415,SCM418,SCM420,SCM421,SCM822,SMn420,SMnC420等があるが、特にこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1〜9、比較例1〜3)
図3に示すように、各例の摺動機構としては、往復運動するピンを潤滑油を濡らした固定円板プレートに押し付ける往復摺動摩擦試験機を用いた。このときの荷重は400N、ピンは22mm×18mmφ、プレートは8mm×24mmとした。
また、各例の摩擦摺動試験片は、以下の表1に示す材料仕様にて作製した。
【0042】
プレートはSCM415浸炭鋼と一部の実施例には超鋼合金を用いた。
また、得られたプレートに表1に示す潤滑剤を試験前に5mL敵下し、表面に均一になるように濡らした。
実施例1〜9、比較例1,2では、潤滑剤としてグリセリン100%を使用した。
比較例3では、潤滑剤基油としてのPAO(ポリα−オレフィン)に、潤滑剤としてGMO(グリセロールモノオレエート)を1.0%添加して使用した。
比較例4,5では、5W−30エンジン油を使用した。
【0043】
一方、ピンはSUJ2の熱処理剤で作製し、仕上げた表面上に、PVD処理によって各種材料のコーティングを行った。
なお、表1中において、「a−C」はアモルファスカーボンを示し、Hv2000未満の硬さが低いDLCは、UBM(Unbalanced Magnetron Sputtering)法によりコーティングを実施し、Hv2000以上の硬いDLCは、アークイオンプレーティング法によりコーティングした。
【0044】
また、表1中の表面硬さや表面粗さは、最終仕上げ後、即ちコーティングを施さないものについては仕上げ加工後、コーティングを施したものについては、コーティング後の値である。
【0045】
[往復摺動摩擦試験]
潤滑油供給方法 :外部からの供給無し
プレート温度 :80℃
最大ヘルツ圧力 :270MPa
往復動の振幅 :3mm
往復動の振動数 :50Hz
試験時間 :15min
【0046】
【表1】

【0047】
表1より、実施例1〜9で得られたコーティング膜と潤滑剤の組み合わせで摺動させた場合は、いずれも摩擦係数が0.01を下回る、いわゆる「Super−low friction」と呼ばれる優れた超低フリクションを示す。
一方、基材のいずれか一方にDLCがコーティングされていない鋼材料との組合せ(比較例1,2)や、水酸基を含まない潤滑剤との組合せ(比較例3,4)で摺動させた場合は、摩擦係数は0.01を下回ることはなかった。
なお、比較例5より、汎用的に使用されている鋼/鋼の摺動材料とエンジン油の組合わせで摺動させた場合に比べると、本願の好適範囲である実施例1〜9の摺動機構は摩擦係数が2桁低減することになる。
【0048】
また、実施例1〜9においては、試験後のプレート及びピンの表面形状に何ら問題はなく、耐摩耗性においても非常に優れていることが分かった。
なお、UBM法でコーティングした比較的柔らかいDLC材料を用いた実施例1〜4に比べ、イオンプレーティング法で作製した硬いDLC(ta−C系)を用いた実施例5〜9の方が更に摩擦低減効果が得られることが分かる。
従って、DLC薄膜としては、大きな摩擦低減効果が得られるta−C系のDLC材料から成る薄膜がより有効であると言える。
このように、顕著な摩擦低減効果は、機械摺動部品の全てに対して効果が期待できる。例えば、自動車エンジンの燃費向上に直結する大きな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】a−C系、ta−C系の範囲を示す説明図である。
【図2】低せん断の有機化合物の模式図である。
【図3】往復摺動型摩擦試験方法の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
1 ピン
2 プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、グリセリンを含む潤滑剤を介在させたことを特徴とする低摩擦摺動機構。
【請求項2】
硬質炭素薄膜を有する摺動部材同士がなす摺動面に、水酸基を含む潤滑剤を介在させた低摩擦摺動機構であって、
すべり接触条件が、エンジン油を介在させた鋼同士の摺動面の摩擦係数が0.1〜0.14を示す境界潤滑下において、0.02未満の摩擦係数を示すことを特徴とする低摩擦摺動機構。
【請求項3】
上記硬質炭素薄膜が、アモルファスカーボン(a−C)及び/又は四面体型カーボン(ta−C)から構成されるダイヤモンドライクカーボン薄膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項4】
上記硬質炭素薄膜の硬さが、10g荷重におけるマイクロビッカース硬さで1500〜5000Hvであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項5】
上記硬質炭素薄膜の硬さが、10g荷重におけるマイクロビッカース硬さで2000〜3500Hvであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項6】
上記硬質炭素薄膜の膜厚が、0.3〜2.0μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項7】
上記硬質炭素薄膜の膜厚が、0.5〜1.5μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項8】
上記水酸基を含む潤滑剤がアルコール類であることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項9】
上記水酸基を含む潤滑剤がグリセリンであることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項10】
摺動面において、水素基同士が対向してトライボフィルムの摺動すべり界面を形成していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項11】
上記水素基が上記潤滑剤の一部であることを特徴とする請求項10に記載の低摩擦摺動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−297592(P2007−297592A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52227(P2007−52227)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(503302849)
【氏名又は名称原語表記】Jean Michel Martin
【住所又は居所原語表記】21 rue clos chapuis 69380 Chazay d’azergues France
【Fターム(参考)】