説明

低摩擦摺動機構

【課題】摺動部材の摩擦係数を大幅に低減できる低摩擦摺動機構を提供すること。
【解決手段】互いに摺動する摺動部材とこれらの間に介在させる潤滑材とで構成され、摺動部材が摺動面の少なくとも一部が親水性微粒子を含む樹脂材から成り、潤滑材が有機含酸素化合物や脂肪族アミン化合物から成る摩擦調整剤を含む低摩擦摺動機構である。親水性微粒子が平均粒径1nm以上100nm未満の1次粒子又はその凝集体であり、親水性微粒子の含有量が10%未満である。樹脂材が、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、エポキシ樹脂などを含有するコーティング膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦摺動機構に係り、更に詳細には、自動車などの内燃機関の摺動部位の摩擦抵抗を低減して、省燃費性能を向上させることのできる低摩擦摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、高回転化、高圧縮比、軽量化及び燃費向上が、従来にも増して強く要求されている。
摺動部位の低フリクション化や耐摩耗性・耐焼付き性向上を実現するための1つの方策として、従来より、ポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ等のバインダーに二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン等の固体潤滑剤を配合してなる潤滑塗料をコーティングする方法が採用されている。
【0003】
具体的には、ポリアミドイミド及びポリイミドのうち少なくとも一方をバインダーとして50〜73%、これに固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを3〜15%、二硫化モリブデンを20〜30%、及びグラファイトを2〜8%の範囲で、合計27〜50%の固体潤滑剤を添加して成る摺動用樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3017626号公報
【0004】
また、ポリアミド樹脂と、エポキシシラン及びエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の塗膜改質剤と、窒化珪素及びアルミナから選ばれる少なくとも1種の硬質粒子と、を有する乾性被膜潤滑剤よりなる被膜層が、母材の摺動面となる表面の少なくとも一部に形成されており、母材の摺動面となる表面の少なくとも一部が、表面粗さが十点平均粗さで8〜18μmRzとなるように条痕を有する摺動部材が提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献2】特開2004−149622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の摺動用樹脂組成物にあっては、摺動部位のフリクション低減を、主にポリテトラフルオロエチレンを添加することによって達成しているが、潤滑油存在下では、ポリテトラフルオロエチレンは樹脂組成物の親油性を阻害するため、濡れ性確保の観点から添加量が制限される。
このため、フリクション低減効果には限界があり、更なるフリクション低減効果を得るのは困難な状況にある。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の乾性被膜潤滑剤よりなる被膜層により、摺動部材の耐摩耗性は向上するが、摺動部材のフリクションは母材樹脂の摩擦係数に依存することから、フリクション低減のためには、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤を添加する必要があり、フリクションという観点においては、依然として不十分なものであった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摺動部材の摩擦係数を大幅に低減できる低摩擦摺動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、潤滑材介在下で、親水性微粒子を含む樹脂材を適用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の低摩擦摺動機構は、互いに摺動する摺動部材とこれらの間に介在させる潤滑材とで構成される低摩擦摺動機構であって、上記摺動部材は、摺動面の少なくとも一部が親水性微粒子を含む樹脂材から成り、上記潤滑材は、有機含酸素化合物及び/又は脂肪族アミン化合物から成る摩擦調整剤を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の低摩擦摺動機構の好適形態は、上記親水性微粒子が平均粒径1nm以上100nm未満の1次粒子又はその凝集体であることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の低摩擦摺動機構の他の好適形態は、上記親水性微粒子の含有量が10%未満であることを特徴とする。
【0012】
更にまた、本発明の低摩擦摺動機構の更に他の好適形態は、上記樹脂材が、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及びエポキシ樹脂から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含有するコーティング膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、潤滑材介在下で、親水性微粒子を含む樹脂材を適用することとしたため、摺動部材の摩擦係数を大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の低摩擦摺動機構について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0015】
本発明の低摩擦摺動機構は、互いに摺動する摺動部材とこれらの間に介在させる潤滑材とで構成される。
そして、上記摺動部材は、摺動面の少なくとも一部が親水性微粒子を含む樹脂材から成るようにし、上記潤滑材は、有機含酸素化合物、脂肪族アミン化合物のいずれか一方又は双方から成る摩擦調整剤を含むようにする。
なお、上記摺動部材は少なくとも一方が上記樹脂材で構成されていればよい。
【0016】
このように、摺動部材に親水性微粒子を分散させた樹脂材を用い、有機含酸素化合物や脂肪族アミン化合物から成る摩擦調整剤と組合わせることにより、親水性微粒子が摩擦調整剤を吸着し、特に境界潤滑領域で優れた潤滑特性を発揮することとなる。
これにより、例えば、排出する二酸化炭素量を大幅に削減でき、省燃費性に優れる自動車を提供できる。
【0017】
ここで、上記親水性微粒子は、平均粒径1nm以上100nm未満の1次粒子又はその凝集体であることが好ましい。より好ましくは平均粒径1〜10nmであることがよい。
これにより、相手材への攻撃が少なく、親水性微粒子の表面積が大きくなることから、摩擦調整剤が更に吸着し易くなり、優れた潤滑特性を得ることができる。
なお、平均粒径を1nm未満とすることは現在では技術的に困難であり、100nm以上となると所望の潤滑特性が得られにくい。
【0018】
また、上記親水性微粒子の含有量は10%未満であることが好ましい。
これにより、耐摩耗性が良好となり、広い荷重域でフリクション低減効果が得られる。
更に、より好ましくは含有量を1%以下、特に好ましくは含有量を0.1%以下とすることがよい。このときは、樹脂膜のじん性、密着性などの特性を損なうことなく、フリクションを改善する低減効果が得られる。また、添加量も減少されるためコストが安く済むので有効である。
【0019】
更に、摺動部材に含まれる上記樹脂材は、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂又はエポキシ樹脂、及びこれらを任意に組合わせたものを含有するコーティング膜であることが好ましい。
【0020】
これにより、親水性微粒子が耐熱性の良い樹脂コーティング膜に分散されるので、摺動発熱によるフリクション、磨耗性の低下、経時劣化を低減できる。また、樹脂バルク材への練りこみよりも必要とする親水性微粒子が少なくて済むため、非常にコストが安くなり易い。
【0021】
かかるコーティング膜は、膜厚が1〜50μmであることが好ましい。より好ましくは1〜20μmであることがよい。
膜厚が1μm未満では、摺動によるコーティングの摩滅により効果の持続性が乏しく、50μm超では摺動部の寸法精度、及びコーティングの密着性が得られにくい。
【0022】
なお、かかるコーティング膜は、例えば、エアスプレーやスクリュー印刷、ディッピングなどによって成膜することができる。
【0023】
一方、上記潤滑材に含める摩擦調整剤は、その添加量が0.01〜5.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜2.5%、特に好ましくは0.5〜2.5%であることがよい。
これにより、良好な低フリクション特性が得られ、且つエンジンオイルのような潤滑剤への溶解性と貯蔵安定性が良好となりやすい。
なお、摩擦調整剤の増量は、省燃費性向上に効果がある一方、5.0%を超える配合は、コスト上昇に対して添加効果が低減し、また摩擦調整剤が溶解しにくく析出することがあることから現実的ではない。また、0.01%未満では効果が期待できないため0.01%以上であることがよい。
【0024】
また、上記摩擦調整剤として、有機含酸素化合物を使用するときは、ヒドロキシル基、カルボキシル基のいずれか一方又は双方を少なくとも1つ有する化合物を含んでいることが好ましい。
これらの官能基を有することで、樹脂中の親水性微粒子が有機含酸素化合物をよく吸着し、良好なフリクション特性を得ることができる。
【0025】
更に、上記有機含酸素化合物は、エステル結合又はエーテル結合を有する化合物を含むことが好ましい。このときは、エンジンオイルなどの潤滑材への溶解性が良好となりやすい。
更にまた、上記有機含酸素化合物は、オレイル基を有する化合物を含むことが好ましい。このときも、エンジンオイルなどの潤滑材への溶解性が良好となりやすい。
【0026】
なお、上述した潤滑材には、基油、清浄剤及び摩擦調整剤の他に、一般の潤滑材と同様に、耐摩耗剤、無灰系分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、消泡剤等の各種添加剤を適宜添加することが有効である。
【0027】
ここで、本発明の低摩擦摺動機構を一実施形態により更に詳細に説明する。
この低摩擦摺動機構は、親水性微粒子を分散させた樹脂摺動部材(A)と、親水性微粒子を備えない摺動部材(B)とを摺動させるものであり、摺動させる際には、これら摺動部材がなす摺動面に潤滑材を介在させて成る。また、潤滑材は、有機含酸素化合物(C)及び脂肪族アミン化合物(D)を含有するものを用いる。
【0028】
上記摺動部材(A)に用いられる親水性微粒子は、ダイヤモンド粒子、シリカ粒子、親水性カーボンブラックなどを用いることができる。ダイヤモンド粒子は、天然、人工のどちらでも構わないが、粒径の安定した微細粒子を得ること、低コストとすることからは、人工ダイヤモンドを用いることが望ましい。シリカ粒子は、粉砕シリカ微粒子でも良いが、粉砕シリカ微粒子をさらに高温火炎中で球状化処理した球状シリカ微粒子であると、相手材攻撃性が少なく、更に好適である。親水性カーボンブラックは、カーボンブラックの表面にカルボキシル基、ヒドロキシル基などの親水基を付加させたもので、カーボンブラックをオゾン酸化した後、ハロゲン酸塩と酸または過酸化塩を用いて湿式酸化する方法(特許第3691947号)などが知られている。
【0029】
人工ダイヤモンドの合成法としては、密閉された高圧容器内で13〜16GPaの高い静圧、及び3000〜4000℃の高温でグラファイトをダイヤモンド構造に相転移させる高温高圧法、大気圧近傍でメタンガス等を原料にしてダイヤモンド結晶を基板上で成長させる化学気相成長法(CVD法)、不活性媒体中で酸素欠如型爆薬を爆発させ、動的な衝撃を加え、グラファイトをダイヤモンド構造に相転移させる爆発法などが利用できる。
爆発法ダイヤモンドは、ナノオーダーの粒子が凝集した構造体であることからクラスターダイヤモンドとも呼ばれ、安定した微細粒子が得られ、製造コストが安いことから、特に好適に利用できる。
【0030】
また、上記摺動部材(A)の母材樹脂に用いる樹脂材料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を問わずに使用することができる。
自動車用エンジン部品など厳しい摺動環境下で使用される場合は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、及びエポキシ樹脂を用いることが好適である。
【0031】
特に、ポリアミドイミド樹脂は、ガラス転移温度が250℃以上と耐熱性が高く、分子鎖中に架橋構造を有するためコーティング膜が強固であり、更に基材との密着性に優れているという観点から、母材樹脂に含有することが望ましい。
このポリアミドイミド樹脂は、乾燥乃至焼成してコーティング膜と成る前における数平均分子量が1000〜10000であることが好ましい。より好ましくは2000〜8000、特に好ましくは4000〜8000であることがよい。
数平均分子量が1000未満では、分子鎖の絡み合いが少ないため、樹脂組成物の耐摩耗性が低下する場合がある。また、数平均分子量が10000を超える場合は、ポリアミドイミド樹脂の母材樹脂としての摩擦係数が高くなり、その結果樹脂組成物の摩擦係数が高くなることがある。また、樹脂組成物の基材との密着性が低下し、剥離が発生し易くなることがある。
【0032】
上記樹脂材料は2軸押出しにより溶融した樹脂材料へ混練したものを用いても、コーティング材に分散させ、膜として金属や樹脂材料に被覆してもよい。このとき、親水性微粒子だけでなく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、MoS2(二硫化モリブデン)、黒鉛などを適宜配合するとフリクション、耐摩耗性に対して更に効果的であり、使用される面圧、速度、潤滑状態によりこれらの配合比率は適宜選択することがよい。
【0033】
上記摺動部材(A)の基材(コーティング膜被覆前)には、例えば、浸炭鋼、焼入鋼等の鉄系材料、銅系材料、亜鉛系材料、アルミニウム等の非鉄金属などが使用できる。
但し、マグネシウム系材料、チタン系材料等の金属材料はコーティング膜の密着性が得られにくいため、コーティング基材には適さない。
【0034】
一方、上記摺動部材(B)の構成材料としては、特に制限はないが(摺動部材(A)の構成材料と同じでも良い)、具体的には、例えば鉄系材料、銅系材料、亜鉛系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料、チタン系材料等の金属材料等を使用できる。特に、鉄系材料、アルミニウム系材料及びマグネシウム系材料は、既存の機械・装置等の摺動部に適用しやすく、また、様々な分野で幅広く省エネルギー対策に貢献できる点で有効である。
また、樹脂、セラミック及びカーボン等の非金属材料も、摺動部材(B)の構成材料として使用できる。
【0035】
上記鉄系材料としては、特に制限はなく、高純度の鉄だけでなく、各種の鉄系合金(ニッケル、銅、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉛、ケイ素又はチタン、及びこれらを任意に組み合わせたもの等)を使用することができる。具体的には、例えば浸炭鋼SCM420やSCr420(JIS)などを挙げることができる。
【0036】
また、鉄系材料を用いる場合は、その表面硬さは、ロックウェル硬さで、Cスケールで、HRC45〜60であることが望ましい。この場合は、高面圧下の摺動条件においても、膜の耐久性を維持できるので有効である。
【0037】
上記アルミニウム系材料としては、特に制限はなく、高純度のアルミニウムだけでなく、各種のアルミニウム系合金を使用することができる。具体的には、例えばシリコン(Si)を4〜20%、銅(Cu)を1.0〜5.0%含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金等を用いることが望ましい。アルミニウム合金の好適例としては、例えばAC2A、AC8A、ADC12、ADC14(JIS)等を挙げることができる。
【0038】
また、アルミニウム系材料を用いる場合は、その表面硬さが、ブリネル硬さHB80〜130であることが望ましい。アルミニウム系材料の表面硬さが上記範囲から外れるとHB80未満ではアルミニウム系材料が摩耗し易くなることがある。
【0039】
上記摺動部材(B)の構成材料である金属材料や非金属材料には、各種の薄膜コーティングを施すこともできる。
具体的には、例えば、上記鉄系材料、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料又はチタン系材料等の表面に、窒化チタン(TiN)や窒化クロム(CrN)等の薄膜コーティングを施したものを挙げることができる。
【0040】
また、この場合は、コーティング面の表面硬さはマイクロビッカース硬さ(10g荷重)でHv1000〜3500、膜厚は0.3〜2.0μmであることが望ましい。表面硬さ及び厚さが上記範囲から外れるとHv1000未満、厚さ0.3μm未満では摩滅し易くなる。逆に、Hv3500、厚さ2.0μmを超えると剥離し易くなることがある。
【0041】
上記親水性微粒子を分散させた樹脂摺動部材(A)及び摺動相手部材(B)から成る摺動面としては、潤滑材を介在させた2つの摺動表面が接触する摺動面であれば何ら限定なく使用できる。
例えば、4サイクルや2サイクルエンジン等の内燃機関の摺動部(例えば動弁系ピストンリング、ピストンスカート、コンロッド、クランクシャフト、軸受けメタル、ギヤー、チェーン、チェーンガイド、ベルト、オイルポンプ、ウォーターポンプ等)を始めとする低摩擦特性が要求される様々な摺動面が対象となる。
なお、本発明の低摩擦摺動機構は、これらの摺動面以外にも、例えば、一般機械用の軸受けやギヤ、ピストンリング、テンション調整用ワッシャ−、人工関節などの用途に利用できるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、上記有機含酸素化合物(C)としては、具体的には、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基等を有する化合物、エステル結合、エーテル結合を有する化合物等(これらは2種以上の基又は結合を有していてもよい。)が挙げられる。
ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合、及びこれらを任意に組合わせた2つ以上のものを有する有機含酸素化合物(C)が好ましく、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル結合、及びこれらを任意に組合わせた2つ以上のものを有する有機含酸素化合物(C)が特に好ましい。
【0043】
これらの有機含酸素化合物(C)の中でも摩擦低減効果をより良好にする観点からは、ヒドロキシル基を有するものであることが好ましい。ヒドロキシル基の中でも、カルボキシル基等のカルボニル基に直接結合した水酸基より、アルコール性水酸基の方がより摩擦低減効果に優れていることから好ましい。
また、化合物中のこのようなヒドロキシル基の数については、特に制限はないが、摩擦低減効果をより良好にする観点からは、できるだけ多くの水酸基を有することが好ましい。但し、後述する潤滑油基油等の媒体などと共に使用する場合には、溶解性の観点から水酸基の数が制限されることがある。
【0044】
更に、上記脂肪族アミン化合物(D)としては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状の脂肪族炭化水素基を有するものを挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外であるときは、摩擦低減効果が十分に得られないことがある。
なお、当該範囲の直鎖状又は分枝状の脂肪族炭化水素基を有していれば、その他の炭化水素基を有していてもよいことは言うまでもない。
【0045】
上記有機含酸素化合物(C)及び上記脂肪族アミン化合物(D)は、親水性微粒子を分散させた樹脂摺動部材(A)と摺動部材(B)から成る摺動面に、本発明における潤滑材として単独(100%)で使用されることで、極めて優れた低摩擦特性を発揮し得る。なお、上記潤滑材としては、有機含酸素化合物(C)、上記脂肪族アミン化合物(D)のいずれか一方又は双方を使用すると共にその他の成分を配合したものを、当該摺動面に供給し潤滑させてもよい。その他の成分としては、潤滑油基油などの媒体、各種添加剤等が挙げられる。
【0046】
上記媒体としては、具体的には、例えば、鉱油、合成油、天然油脂、希釈油、グリース、ワックス、炭素数3〜40の炭化水素、炭化水素系溶剤、炭化水素系以外の有機溶剤、水等、及びこれらの混合物、特にその摺動条件や常温において液状、グリース状又はワックス状であるものなどが挙げられる。
また、上記媒体としては、特に潤滑油基油を使用することが好ましい。また、かかる潤滑油基油は、特に限定されるものではなく、通常、潤滑油組成物の基油として用いられるものであれば、鉱油系基油、合成系基油を問わずに使用できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
<樹脂組成物前駆体の準備>
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、爆発法によって得られた粉末状のダイヤモンド粒子(1次粒径平均4〜5nm)を加え、ビーズミルで30分間攪拌した後、イソシアネート法で合成したポリアミドイミド樹脂材料(数平均分子量:6000)を加え、ポリアミドイミド樹脂に対しダイヤモンド粒子が1%となるように調製し、これを樹脂組成物前駆体1とした。
【0049】
<摺動部材の作製>
基材となるT6処理したA6061材のディスク(φ24×7.9mm、表面粗さRa0.1μm)をアルコール脱脂した後、上記樹脂組成物前駆体を膜厚が20±5μmになるようにスプレー塗布した後、180℃で60分加熱し、樹脂組成物の被膜を形成して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
なお、実施例2、実施例5、比較例2についても同様の摺動部材を用いた。
【0050】
(実施例3)
上記樹脂組成物前駆体1において、ダイヤモンド粒子の含有率をポリアミドイミド樹脂材の0.1%に調製した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0051】
(実施例4)
上記樹脂組成物前駆体1において、ダイヤモンド粒子の含有率をポリアミドイミド樹脂材の0.05%に調製した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0052】
(実施例6)
上記樹脂組成物前駆体1において、ダイヤモンド粒子の代わりに平均粒径34nmの球状シリカ粒子(電気化学工業/UFP−80)とし、含有率をポリアミドイミド樹脂材の1%に調製した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0053】
(実施例7)
上記樹脂組成物前駆体1において、ダイヤモンド粒子の代わりに親水性カーボンブラック(東海カーボン/トーカブラック#A700F)とし、含有率をポリアミドイミド樹脂材の1%に調製した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0054】
(実施例8)
ポリアミド6,6樹脂(旭化成ケミカルズ/レオナ1402S)に爆発法によって得られた粉末状のダイヤモンド粒子(1次粒径平均4〜5nm)をポリアミド樹脂に対し1%加え、2軸混練押出機で溶融混練して、ペレットを製造した。その後、製造したペレットを単軸押出機とT型ダイスを用いて溶融押出加工し、1mm厚のシート状サンプルを得た。
なお、比較例3についても同様の摺動部材を用いた。
【0055】
(比較例1)
イソシアネート法で合成したポリアミドイミド樹脂材料(数平均分子量:6000)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で所定の濃度に希釈し、樹脂組成物前駆体2を得た。それ以外は実施例1と同様の操作により、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0056】
(参考例1)
上記樹脂組成物前駆体1において、ダイヤモンド粒子の含有率をポリアミドイミド樹脂材の10%に調製した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0057】
(参考例2)
上記樹脂組成物前駆体1において、高温高圧法によって得られたダイヤモンド粒子(1次粒径平均0.1μm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の低摩擦摺動機構に用いる摺動部材を得た。
【0058】
(評価試験)
本発明の低摩擦摺動機構の摩擦特性を把握するため、実施例1〜8、比較例1〜3並びに参考例1及び2で得た摺動部材を用いた摺動機構の摩擦試験として、シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験により、表1に示す試験油を滴下した状態で実施した。なお、試験油の詳細は表2に示す。
【0059】
図1に示すように、相手材(摺動部材1の摺動側試験片)であるシリンダー状試験片1は、JISG4805に高炭素クロム軸受鋼鋼材として規定されるSUJ2鋼を素材として、下記寸法に機械加工した後、表面粗さRaを0.04μmに仕上げた。
【0060】
<摩擦試験条件>
試験装置 :シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験機
摺動側試験片 :φ15×22mm シリンダー状試験片
相手側試験片 :φ24×7.9mm ディスク状試験片
荷重 :50N(摺動側試験片の押付け荷重)
振幅 :3.0mm
周波数 :5Hz
試験温度 :80℃
測定時間 :30分
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
なお、表1に示す試験結果においては、条件は下記のようにした。
<摩擦係数>
試験期間に20〜30分の間の平均摩擦係数とした。
<摩耗状態>
試験終了後に摺動部材及び相手材の表面を肉眼で観察した。判定基準を表1に示す。
【0064】
表1に示すように、本発明の好適実施形態である実施例1〜8で得た摺動部材及び潤滑材を用いた摺動機構について、実施例1〜7は比較例1、2より、実施例8は比較例3より、顕著なフリクション低減効果がみられていることが分かる。
また、耐摩耗性の観点からは、実施例1、3、4と参考例1を比較すると、親水性微粒子の添加量は10%未満である方が良好であり、実施例1と参考例2を比較すると、親水性微粒子の平均粒径は100nm未満である方が良好であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験機を示す概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1 シリンダー状試験片
2 ディスク(親水性微粒子含有摺動部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動する摺動部材とこれらの間に介在させる潤滑材とで構成される低摩擦摺動機構であって、
上記摺動部材は、摺動面の少なくとも一部が親水性微粒子を含む樹脂材から成り、
上記潤滑材は、有機含酸素化合物及び/又は脂肪族アミン化合物から成る摩擦調整剤を含むことを特徴とする低摩擦摺動機構。
【請求項2】
上記親水性微粒子が、ダイヤモンド粒子であることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項3】
上記親水性微粒子が、シリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項4】
上記親水性微粒子が、親水処理を施したカーボンブラックであることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項5】
上記親水性微粒子が平均粒径1nm以上100nm未満の1次粒子又はその凝集体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項6】
上記親水性微粒子が平均粒径1〜10nmの1次粒子又はその凝集体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項7】
上記親水性微粒子の含有量が0を超え10%未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項8】
上記親水性微粒子の含有量が0を超え1%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項9】
上記親水性微粒子の含有量が0を超え0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項10】
上記樹脂材が、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及びエポキシ樹脂から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを含有するコーティング膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項11】
上記コーティング膜の膜厚が1〜50μmであることを特徴とする請求項10に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項12】
上記コーティング膜の膜厚が1〜20μmであることを特徴とする請求項10又は11に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項13】
上記摩擦調整剤の添加量が0.01〜5.0%であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項14】
上記有機含酸素化合物がヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を少なくとも1つの官能基を有する化合物を含んでいることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項15】
上記有機含酸素化合物がエステル結合又はエーテル結合を有する化合物を含んでいることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項16】
上記有機含酸素化合物がオレイル基を有する化合物を含んでいることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。

【図1】
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【公開番号】特開2008−101189(P2008−101189A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177100(P2007−177100)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】