説明

低撹拌速度による金属構成体の表面処理方法

【課題】鉄製構成体の袋部又は隙間構造に対して、低い撹拌速度で処理することができる金属表面処理方法を提供する。
【解決手段】平均粒径1μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価のリン酸塩粒子を含む表面調整処理液で金属材を処理する表面工程と、亜鉛イオン濃度が1500〜5000ppm、リン酸イオン濃度が5000〜30000ppm、ニッケルイオン濃度が1000〜4000ppm、マンガンイオン濃度が1000〜5000ppm、促進剤濃度が5.0ポイント以上のリン酸塩化成処理液により流動速度が7cm/sec以下の撹拌速度で処理することを特徴とする、金属表面の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋構造部または隙間構造を有する鉄製構成体に対して、金属表面処理を施す場合、流動速度7cm/sec以下、特に流動速度0〜0.5cm/secの低い撹拌速度で処理することができる表面処理の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から鉄製構成体として家電製品や建材製品たとえばスチールロッカー、黒板、冷蔵庫・デスク、扇風機などや、その他の構造物たとえば、大型配電盤、自転車、バイク、自動車などに対しては、浸漬法による処理方法が広く一般に採用されているが、その表面処理を良好にするために、何らかの撹拌方法を伴っているのが現状である。例えば、次に示す文献公知発明が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、構造が複雑な金属製品表面に対して、リン酸イオン5〜30g/L、亜鉛イオン0.1〜5g/L、及び塩素酸イオン0.1〜6g/L、又は亜硝酸イオン0.01〜0.4g/Lあるいはその両方を含有するリン酸塩皮膜処理液を用意し、この処理液を常温〜80℃で5〜30秒間スプレー処理し、次いで前記組成のリン酸塩皮膜処理液に1〜30分間浸漬して皮膜処理することを特徴とする構造が複雑な金属製品のリン酸塩皮膜処理方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、化成処理液を貯留した処理槽を備え、被塗物を前記処理槽の入槽部から前記化成処理液に浸漬させた後、前記処理槽の出槽部から出槽させることにより前記被塗物の化成処理を行う浸漬式の化成処理装置において、前記処理層は、前記入槽部にスラッジを回収するためのホッパーが設置されており、かつ、前記ホッパーの設置部から前記出槽部方向に離れた部位の側面に少なくとも1つの低周波振動攪拌装置が設置されていることを特徴とする化成処理装置が記載されている。
【0005】
なお、特許文献2は化成スラッジを効率よく回収する装置に関するものであるが、その効果として袋構造部分への処理性向上についても謳われている。更に、袋構造部分への処理性向上に限ってみれば、その効果は特許文献3の装置、すなわち低周波振動攪拌装置によるところであることが記載されている。
【0006】
この処理方法や装置を使用することで、限定的ではあるが、鉄製構成体の一部、例えば、外板部に対する表面処理を向上させることができる。
【0007】
【特許文献1】特公昭56−12319号公報
【特許文献2】特公平9−279361号公報
【特許文献3】特開平10−183370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来技術では、鉄製構成体の袋構造部もしくは隙間構造に対して、金属表面処理を施す場合、その効果が限定的であり、不十分な技術である。
【0009】
例えば、特許文献1に記載のリン酸塩皮膜処理方法を用いた場合、スプレー処理と浸漬処理を順次行うことにより、良好な表面処理が得られるとされている。しかし、これは、あくまでもスプレー処理が有効に機能する、鉄製構成体の外板等の袋構造または隙間構造でない部分が対象となるものである。一方、袋構造または隙間構造に対しては、スプレー処理の効果がほとんどなく、浸漬処理工程で初めて処理液との接液をすることになるため、浸漬処理単独の場合とほぼ同様の結果となり、十分な表面処理を施すことができない。
【0010】
また、特許文献2に記載の処理方法は、所定の処理液が振動撹拌手段によって撹拌されていることによる金属成型物のリン酸亜鉛皮膜処理方法である。しかし、袋構造もしくは隙間構造に対しては、撹拌効果が十分ではなく、良好な表面処理を施すことができない。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の化成処理装置の場合、処理液の撹拌は主として低周波振動によるものである。この低周波振動は超音波のような高周波振動に比べて、直線性は弱い傾向にあるので、鉄製構成体の内部に回り込みをしやすい傾向にはある。しかし、袋構造もしくは隙間構造に対しては、その効果は限定的である。
【0012】
以上のように、通常のポンプ撹拌を含む各種の撹拌方法では、特に鉄製構成体の袋部又は隙間構造に対して、十分な撹拌を施すことができないのが現状であり、特に低撹拌速度における十分な表面処理法を施すことができないのが、現状である。
【発明を解決するための手段】
本発明者は上記の課題を解決することを目的に鋭意検討し、その解決手段を見いだした。すなわち、本発明は次に示す(1)から(5)である。
【0013】
本発明(1)は、平均粒径1μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価のリン酸塩粒子を含む表面調整処理液で金属材を処理する表面工程と、亜鉛イオン濃度が1500〜5000ppm、リン酸イオン濃度が5000〜30000ppm、ニッケルイオン濃度が1000〜4000ppm、マンガンイオン濃度が1000〜5000ppm、促進剤濃度が5.0ポイント以上のリン酸塩化成処理液により流動速度が7cm/sec以下の撹拌速度で処理することを特徴とする金属表面の処理方法である。
【0014】
本発明(2)は、流動速度が0〜0.5cm/secの撹拌速度で処理することを特徴とする請求項1に記載の金属表面の処理方法である。
【0015】
本発明(3)は、リン酸塩粒子のリン酸塩がリン酸亜鉛であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属表面の処理方法である。
【0016】
本発明(4)は、金属材が袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体である請求項1から請求項3いずれかに記載の金属表面の処理方法である。
【0017】
本発明(5)は、芳香族ニトロ化合物を20〜300ppm含むリン酸化成処理液で処理することを特徴とする請求項1から請求項4いずれかに記載の金属表面の処理方法である。
【0018】
本発明の金属表面の処理方法は、既存の撹拌方法で充分な液撹拌の得られない部位、つまり、鉄製構成体の袋構造部または隙間構造に対するリン酸塩化成の向上を目的としている。そして、袋構造部もしくは隙間構造のない金属構成体について、本発明の金属処理を施しても、何ら悪影響を及ぼさないという特徴を有している。
【0019】
袋構造部又は隙間構造に関しては、ロッカーなどの鉄製構成体に各種の部材が使用されている関係で、一概にその構造を特定することは難しい側面もある。しかし、部材と部材との重ね合わせに係る部分という観点で見れば、いずれも、ある特定の部材同士の隙間があるといえる。本発明についての袋構造部又は隙間構造に関する金属表面処理については、部材と部材との隙間を定義することにする。つまり、袋構造部又は隙間構造について、隙間をたとえば、1mmの間隔で離した場合のリン酸塩化成性や、0.5mmの間隔で離した場合のリン酸塩化成性というように表現して、その表面処理性を表すことにする。これらの指標により、種々雑多な形状の袋構造部又は隙間構造部に対して汎用性のある化成性の試験を実施することが可能となる。試験的には、たとえば所定のテストピースを2枚合わせる際に、いわゆるスペーサーなるものを挟みこんで、所定の隙間を作り出すことが可能となる。
【0020】
この袋構造部又は隙間構造をもつ鉄製構成体は、かならずしも幾何学的な形状たとえば立方体や直方体を有する必要はなく、三次元的に閉鎖空間を構成する袋構造等と認めるものであれば、適用することができる。本発明の表面処理法は、袋構造部又は隙間構造をもつ鉄製構成体を水没させる浸漬法を適用することを前提に行うことができる。もちろん、浸漬方法でない場合には、より少ない効果とも考えられるが、一定の効果を得ることができる。
【0021】
鉄製構成体を構成する素材としては、少なくとも一部が、冷延鋼板および/または亜鉛系めっき鋼板であることが望ましい。アルミニウム合金板やマグネシウム合金板といった他の金属については、あえて本発明の処理方法を適合させる必要は低いものの、鉄製構成体の一部に取り込まれていることに関していえば、それを許容することができる。さらに金属構成体の一部に樹脂等の非金属が組み込まれていても、本発明の効果に対して影響はあたえないものと考えられる。
【0022】
金属の表面処理方法としては、リン酸塩系処理方法、ジルコニウム系化成処理方法等があるが、本発明に適用される表面処理については、リン酸亜鉛系化成処理が望ましい。
【0023】
ここで本発明に係るリン酸塩化成処理液について、以下、詳述する。本発明に係る表面調整処理液は、2価もしくは3価のリン酸塩粒子を必須成分として含む、水を主成分とする液体媒体である。本発明に係る2価もしくは3価のリン酸塩としては、Zn(PO、ZnFe(PO、ZnNi(PO、Ni(PO、ZnMn(PO4)、Mn(PO、MnFe(PO,Ca(PO、ZnCa(PO4)、FePO、ALPO、CoPO、Co(PO等が挙げられる。本発明に係るリン酸塩粒子としては、液体媒体に不溶である限り特に限定されないが、平均粒径が1ミクロン以下であることを要する。上記のリン酸塩粒子のうち、より好適には、リン酸亜鉛である。ここで、「リン酸亜鉛」とは、リン酸(PO4)と亜鉛を少なくとも含有する塩であればよく、他の金属等を含有していてもよい。好適には、アニオンがリン酸のみであり、カチオンが亜鉛のみであるZn(PO)2・4H0(例えば、ホパイト)である。また、平均粒径は、例えば、サブミクロン粒径アナライザー(コールカウンターN4型:コールター社製)で測定された値で示してもよい。
【0024】
本発明に係る表面調整処理液の平均粒径は1μm以下でなければならない。平均粒径1μm以下であると、リン酸塩処理液の化成性を著しく向上させ、袋構造部又は隙間構造の隙間部にいわゆる皮膜のスケ等を生じることなく、良好なリン酸塩皮膜を得ることが可能である。一方、その平均粒径が1μmを超えると、反対にリン酸塩処理液の化成性が著しく低下して、袋構造部又は隙間構造の隙間部に皮膜のスケ等の化成不良が生じることになる。これは、たとえば、隙間部でない場合の金属材を考えた場合に、被処理材である金属材に対して十分なリン酸塩処理液がリン酸塩処理のために供給され、その処理性には問題が生じないことが多い。しかし、袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体においてリン酸塩処理を考えた場合には、リン酸塩処理液のリン酸塩処理のための供給が相対的に不足するために、その処理性は低下する傾向にある。これがたとえば隙間が1mm以下になってくると、その傾向がより顕著となり、益々、リン酸塩処理性が低下してくる。この場合において、表面調整処理液の粒径が大きな影響を与えることが判明した。つまり、表面調整処理液の平均粒径が1μm以下になると、生成されるリン酸塩皮膜の核を小さくする効果が発揮され、袋構造又は隙間構造に係る鉄製構成体においても、十分なリン酸塩処理性が得られ、良好な皮膜が得られる傾向にあることが分かった。表面調整処理液の平均粒径は1.0μm以下が必要であるが、より好ましくは、0.5μm以下である。さらに好ましくは、0.3〜0.1μmである。
【0025】
本発明に係るリン酸塩処理液は、亜鉛イオン濃度が1500〜4000ppm、リン酸イオン濃度が5000〜30000ppm、ニッケルイオン濃度が1000〜4000ppm、マンガンイオン濃度が1000〜5000ppm、促進剤濃度が5.0ポイント以上のリン酸塩化成処理液でなければならない。
【0026】
亜鉛イオン濃度は、1500〜5000ppmの範囲でなければならない。これは、リン酸塩皮膜を構成する主成分となるものであり、袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体を処理する上で重要な働きをするものであるからである。1500ppm未満の場合には、十分なリン酸塩処理性を確保することができない。5000ppmを超えると、その効果は飽和する、または、リン酸塩化成処理液の安定性が低下する傾向にあり好ましくない。亜鉛イオン濃度は、より好ましくは、2000〜3500ppmである。
【0027】
リン酸イオン濃度は、5000〜30000ppmでなければならない。この成分も、亜鉛と同様に、リン酸塩皮膜を構成する主成分となるものであり、袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体を処理する上で、一定の濃度が必要となるからである。リン酸濃度は、より好ましくは、10000〜20000ppmである。
【0028】
ニッケルイオン濃度やマンガンイオン濃度は、それぞれ1000〜4000ppm、1000〜5000ppmでなければならない。これは、生成したリン酸塩皮膜の皮膜性能を確保する上で必要な成分である。より好ましくは、ニッケルイオンが2000〜3000ppm、マンガンイオンが1000〜4000ppmである。
【0029】
促進剤濃度は、5ポイント以上でなければならない。促進剤はいわゆる化成反応を進ませる成分であるが、特に袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体を処理する上で、化成処理液の供給が相対的に不足する中において、この促進剤の働きが一層重要となるからである。促進剤濃度の上限については特に制限がないが、より好ましくは、6.0〜8.0である。
【0030】
本発明に係るリン酸塩化成処理液を所定の金属体に処理する場合において、流動速度で表される撹拌速度との関係があるので、以下詳述する。本発明は、金属材が袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成材であり、その構造を部材間の距離としての隙間で規定することを述べた。つまり、隙間というのは、部材と部材との間を距離を表し、袋構造又は隙間構造を指標するのに、1mmなり0.5mmなりの数値で表すことが可能である。このような隙間をもつ鉄製構成材は、たとえばロッカーでいえば、その形状が複雑なところ、例えば、ドアの内部構造に代表される部材で使用されている。このような部材は、ロッカーの外板とは異なり、リン酸塩処理による処理工程において、充分なリン酸塩処理液の撹拌がない状況下に処理されることになりがちである。したがって、本発明に係る金属の処理方法においては、所定の袋構造等を有する金属体を所定の表面工程と所定の処理液を、ある撹拌速度で撹拌された処理条件下で処理することとなる。
【0031】
ここで、撹拌速度を流動速度で定義することにする。流動速度とは、金属体に接液しているリン酸塩処理液の速度を測定したものである。つまり、処理液の流動状態の測定場所において、一般的な方法により実際の処理液の速度を測定するものである。発明者らの研究により、袋構造部又は隙間構造を有する鉄製構成材に対するリン酸塩処理を施す場合、リン酸塩化成処理液の撹拌速度は、流動速度7cm/sec以下の条件下において行われていることが判明した。従って、流動速度7cm/sec以下で、十分なリン酸塩皮膜が得られるようなリン酸塩化成処理液が必須となる。また、一番厳しい状況下においては、流動速度が0〜0.5cm/secという場合も想定される。そのような厳しい前処理の条件下においても、良好なリン酸塩化成性が得られるようにすることが必要となる。本発明に係るリン酸塩処理液は、このような流動速度が小さな7cm/sec以下でも問題のない良好な性能を示している。この流動速度が0〜0.5cm/secは、鉄製構成体の内面の部材、たとえばロッカーであれば、ロッカーの内側にある部材の隙間構造又は袋構造において生じる可能性がある。一方、鉄製構成体の外面の部材においては、その流動速度が0〜0.5cm/sec程までは小さくならない傾向があり、これよりも大きな流動速度となる場合もある。
【0032】
さらに、本発明に係る金属表面の処理方法について、リン酸塩化成処理液に添加成分として、芳香族ニトロ化合物を添加することにより一層の化成性の向上が見られることがわかった。この芳香族ニトロ化合物としては、例えば、ニトロアニシジン、ニトロアニリン、ニトロアニリンスルホン酸、ニトロアミノベンゼン、ニトロクレゾール、ニトロトルエンスルホン酸やその塩、ニトロヒドロキシキノン、ニトロフェノール、ニトロベンジルアミン、ニトロベンゼンスルホン酸やその塩等がある。リン酸塩皮膜の結晶の微細化に対する芳香族ニトロ化合物の反応機構については充分には解明されていないが、芳香族ニトロ化合物を添加することにより、本発明に係るリン酸塩化成処理液の化成性を著しく向上させることが判明した。芳香族ニトロ化合物で好適なものは、ニトロベンゼンスルホン酸やその塩である。
【0033】
芳香族ニトロ化合物を添加する場合には、特段の濃度はないが、所定の流動速度で良好な性能を得るためには、芳香族ニトロ化合物の濃度を20〜300ppmとするのが望ましい。より好適には、20〜100ppmである。
【0034】
本発明の表面処理で得られた皮膜は、従来にない極微細で緻密なリン酸塩結晶である為、リン酸塩結晶による金属体の表面の被覆率が非常に高く、極微細である為、従来よりも優れた皮膜外観を有する。
【0035】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例】
[供試板]
CRS(冷延鋼板:JIS−G−3041)を2枚一組として、合わせる際に、隙間を1mm又は0.5mmにして保持したものを作成した。
[リン酸亜鉛処理工程]
実施例および比較例は、アルカリ脱脂→水洗→表面調整→皮膜化成→水洗→純水洗の処理工程で処理を行った。
【0036】
[アルカリ脱脂]
いずれも汎用のファインクリーナーL4460A(登録商標:日本パーカライジング(株)製、略号:FC−L4460A)を2%、ファインクリーナーL4460B(登録商標:日本パーカライジング(株)製、略号:FC−L4460B)を1.4%に水道水で希釈し、42℃に加温して金属体にスプレーした。
【0037】
[水洗]
アルカリ脱脂後および皮膜化成処理後の水洗、及び純水洗は、いずれも、該水洗水を室温で30秒間、被処理金属材料にスプレーした。
【0038】
[表面調整]
Ti系の表面調整剤としては、市販の表面調整処理剤であるプレパレンZN(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を0.1%に水道水で希釈し、室温で30秒間、表面調整処理を行った。Zn系の表面調整剤としては、以下に示す方法で調整した表面調整処理液を用いて表面調整処理を行った。今回のZn系は、リン酸亜鉛のリン酸塩粒子である。Zn(PO4)・4HO試薬1kgに、市販の1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4ナトリウム塩を予め水で20wt%に希釈溶解したもの1kgを添加した。この後、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いたボールミルで約1時間粉砕した。粉砕後、水道水で懸濁液中のZn(PO・4HOの濃度が0.5g/Lとなるように調整し、表面調整処理液とした。なお、これらの表面調整液はその調整後の表面調整処理液中の微粒子の平均粒径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920:(株)堀場製作所製)で測定した。平均粒径の単位はμmとした。また、平均粒径を実施例に対応させて試験に供した。
【0039】
[皮膜化成]
表1に示すような、リン酸塩化成処理液を作成して試験に供した。そして、脱脂、水洗、及び表面調整処理を行った金属体を、40℃に加温した前記リン酸塩化成処理液に90〜120秒間浸漬して表面処理を行った。芳香族ニトロ化合物は、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用した。促進剤は亜硝酸ソーダを用いた。
【0040】
[リン酸亜鉛皮膜の評価]
(1)外観
目視観察によりリン酸亜鉛皮膜のスケ及びムラの有無を評価した。その結果を表1に示す。評価点は0.5点の段階で評価した。
評価点 リン酸塩処理後の外観
7 ほぼ完全に均一良好な外観
6 均一良好な外観
5 ごく一部ムラ有り
4 一部ムラ有り
3 ムラ、スケ有り
2 スケ多い
1 化成皮膜なし
【0041】
比較例にあるものは、リン酸亜鉛処理後の皮膜外観が悪いのに対し、本発明の実施例になるものは、リン酸亜鉛皮膜の外観が良好であることが判る。
【0042】
以上の試験結果を表1にします。表1から明らかなように、本発明の金属表面の表面処理方法を用いた実施例1〜14は優れた皮膜外観を示しており、良好である。一方で、表面調整液がZn系の粒径が1.5μmの水準や、表面調整液を使用しない水準は皮膜外観が劣る。また、Ti系の表面調整液を使用したときも皮膜外観が劣る。さらには、リン酸亜鉛処理液の成分が必要な濃度に達していない場合も同様にその皮膜外観が劣ることが判る。
【表1】

【発明の効果】
【0043】
袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体は、隙間が小さく、かつ、リン酸塩化成処理液の撹拌速度が小さいのにもかかわらず、良好な皮膜性能を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価のリン酸塩粒子を含む表面調整処理液で金属材を処理する表面工程と、亜鉛イオン濃度が1500〜5000ppm、リン酸イオン濃度が5000〜30000ppm、ニッケルイオン濃度が1000〜4000ppm、マンガンイオン濃度が1000〜5000ppm、促進剤濃度が5.0ポイント以上のリン酸塩化成処理液により流動速度が7cm/sec以下の撹拌速度で処理することを特徴とする金属表面の処理方法。
【請求項2】
流動速度が0〜0.5cm/secの撹拌速度で処理することを特徴とする請求項1に記載の金属表面の処理方法
【請求項3】
リン酸塩粒子のリン酸塩がリン酸亜鉛であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属表面の処理方法。
【請求項4】
金属材が袋構造又は隙間構造を有する鉄製構成体である請求項1から請求項3いずれかに記載の金属表面の処理方法。
【請求項5】
芳香族ニトロ化合物を20〜300ppm含むリン酸化成処理液で処理することを特徴とする請求項1から請求項4いずれかに記載の金属表面の処理方法。

【公開番号】特開2011−1626(P2011−1626A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162205(P2009−162205)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】