低次酸化チタン粒子含有組成物の製造方法
【課題】透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤を提供する。
【解決手段】アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することで、光触媒を微粒化するとともに、その表面に低次酸化チタン(酸素欠陥を有する層)を形成する。これにより、紫外線はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮できる可視光応答性を有する低次酸化チタン粒子を含有する組成物を得ることができる。
【解決手段】アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することで、光触媒を微粒化するとともに、その表面に低次酸化チタン(酸素欠陥を有する層)を形成する。これにより、紫外線はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮できる可視光応答性を有する低次酸化チタン粒子を含有する組成物を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低次酸化チタン粒子含有組成物の製造方法に関する。特に本発明は、コーティング用組成物として有用な低次酸化チタン粒子含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン光触媒は、防汚性能や光誘起超親水化現象を発揮することから、窓ガラスをはじめとする野外建造物用として利用されている。野外建造物用酸化チタン光触媒コーティング剤として、ゾルタイプの酸化チタン光触媒を原料に用いたものがある。しかし、従来の酸化チタン光触媒は、防汚性能等を発揮するためには紫外線が必要であり、直射日光が当たらない場所、例えば、室内では有機物の分解反応や光誘起超親水化現象による防汚性能は著しく低下する問題があった。
【0003】
それに対して、可視光応答性を示す酸化チタン光触媒も知られている。可視光応答性を示す酸化チタン光触媒は、例えば、特許文献1および2に代表されるように硫酸チタンを原料としてアンモニアを加えて得た光触媒前駆体としての加水分解物を400℃程度の比較的低い温度で焼成して製造されるか、あるいは石原製酸化チタンST-01をアンモニアを含むアルゴンガス中で400℃程度の比較的低い温度で焼成することにより製造されている。
【0004】
また、特許文献3及び4にあるように、過酸化チタニアゾルを原料として窒素源を加えてガラスに塗布後、400℃程度の温度で焼成して可視光応答型酸化チタン光触媒コーティング膜を得る方法もある。
【特許文献1】日本特許第3215698号
【特許文献2】日本特許第3587178号
【特許文献3】特開2004-136178号公報
【特許文献4】特開2004-209305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の方法で製造された酸化チタン光触媒は、二次粒子径が数ミクロン程度の顔料レベルのサイズを有する。酸化チタン光触媒は、物品の表面にコーティングして用いられるが、この光触媒を使って透明なコーティング膜を得ようとする場合、粉砕が必要になる。しかし、粉砕によって粒子径を小さくすると、可視光活性の発現に重要な一次粒子間の界面層が破壊され、粒子サイズの減少とともに可視光活性は著しく低下するという問題があった。
【0006】
また、特許文献3及び4に記載の方法では、400℃程度の焼成プロセスを必要とするので、外壁材や、既に取り付けられている窓ガラスへの施工は困難であった。
【0007】
このように、窓ガラス表面にコーティングできる透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤は未開発であり、出現が待たれていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤を提供することにある。
【0009】
より具体的には、本発明の目的は、紫外光はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮でき、しかも、乾燥時の色彩が灰色になることで反射率を下げ、高い透明性を発揮できる光触媒防汚コーティング組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[1]アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することを含む低次酸化チタン粒子含有組成物を製造する方法。
[2]酸化チタン粒子が、凝集体を含む[1]に記載の製造方法。
[3]解砕を、酸化チタン粒子が一次粒子のレベルになるように行う[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]解砕を、酸化チタン粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲になるように行う[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]無定形酸化チタンがペルオキソチタン酸である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]湿式分散を、水を溶媒として実施する[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]湿式分散を、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとをビーズ粒子とともに混合することで行う[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]湿式分散を、ロッキングミルを用いて行う[7]に記載の製造方法。
[9]ロッキングミルによる湿式分散を粒子径が100μm以下のビーズ粒子を用いて行う[8]に記載の製造方法。
[10]低次酸化チタン粒子含有組成物が、低次酸化チタン粒子を水に分散したものである[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]低次酸化チタン粒子含有組成物がコーティング用組成物である[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤を提供することができる。より具体的には、本発明によれば、紫外光はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮でき、しかも、乾燥時の色彩が灰色になることで反射率を下げ、高い透明性を発揮できる光触媒防汚コーティング組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することを含む低次酸化チタン粒子含有組成物を製造する方法に関する。
【0013】
本発明においては、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することで、光触媒を微粒化するとともに、その表面に低次酸化チタン層(酸素欠陥を有する層)を形成する。酸化チタン粒子は、一般に凝集体を含むものであり、酸化チタン粒子の凝集体は、好ましくは、酸化チタン粒子が一次粒子のレベルになるように湿式分散し、解砕することで、低次酸化チタン粒子含有組成物を得ることができる。これにより、紫外光はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮できる可視光応答性を有する低次酸化チタン粒子を含有する組成物が得られる。本発明では、光触媒性能を持つ酸化チタン粒子と無定型酸化チタンとを湿式分散することで生じるメカノケミカル反応によって、低次酸化チタン層(酸素欠陥を有する層)を形成することができ、本発明の透明性酸素欠陥型可視光応答性防汚コーティング組成物が得られる。特に、上記解砕は、酸化チタン粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲になるように行うことが、得られる低次酸化チタン粒子含有組成物の光触媒性能の点で好ましい。
【0014】
本発明の製造方法の一方の原料である、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子は、紫外線に対する光触媒活性を有するものであれば特に限定されない。たとえば酸化チタン光触媒では、市販品の中から日本アエロゾル(社)のP-25、(株)テイカ製のAMT-100、TKP-101などが利用出来るが、(株)テイカ製のTKS-201、TKS-202、TKS-203などのゾルタイプのものも挙げることができ、中でもP-25が好ましい。アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子は、凝集体(二次粒子)の平均粒子径は、例えば、0.1〜2μmの範囲であることが適当である。
【0015】
本発明の製造方法の一方の原料である、無定形酸化チタンは無定型物質であり、その例としては、ペルオキソチタン酸、水酸化チタン(オルソチタン酸、αチタン酸)等を挙げることができる。ペルオキソチタン酸としては、(株)テイカ製のTKC301ペルオキソチタニアゾル等を挙げることができる。
【0016】
本発明の製造方法では、酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとを湿式分散する。酸化チタン粒子と無定形酸化チタンの混合比は、所望の低次酸化チタン層の量等を考慮して適宜決定される。例えば、酸化チタン粒子100質量部に対して無定形酸化チタンを任意の割合とすることができるが、好ましくは5〜20質量部の範囲とすることが適当である。
【0017】
また、湿式分散は水を溶媒として実施することが適当であり、水を溶媒として湿式分散することで、低次酸化チタン粒子を水に分散した低次酸化チタン粒子含有組成物が得られる。水の使用量は、湿式分散時の粒子に対するシェアがどの程度であるか、あるいは得られる低次酸化チタン粒子含有組成物の固形分量等を考慮して適宜決定できるが、例えば、水100質量部に対する酸化チタン粒子の量は任意の割合とすることができるが1〜5質量部の範囲が適当である。
【0018】
さらに、湿式分散は、酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとをビーズ粒子とともに混合することが、低次酸化チタン層の形成を促進するという観点から適当である。ビーズ粒子の粒子径は、低次酸化チタン層の形成に影響があり、例えば、平均粒子径が10〜100μm、好ましくは30〜70μmの範囲であるビーズ粒子を用いることが適当である。さらに、ビーズ粒子の素材は、酸化チタン粒子、無定形酸化チタン及び低次酸化チタン粒子に対して不活性であり、かつ所定の比重を有するものであることが適当である。そのようなビーズ粒子としては、例えば、ガラスビーズ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子等を挙げることができる。
【0019】
湿式分散は、上記のようにビーズ粒子を用い、例えば、ロッキングミルを用いて行うことが適当である。本発明の製造方法では、酸化チタン粒子と無定型酸化チタンとを湿式分散することで生じるメカノケミカル反応によって、粒子の結晶構造の破壊を極力避けながら,凝集体を解砕することが重要である。解砕によって生じた新生表面には低次酸化チタン層(酸素欠陥を有する層)が形成され、同時に低次酸化チタン層を無定型酸化チタンが覆うことで安定化した低次酸化チタン粒子含有組成物が得られるが、ビーズ粒子及びロッキングミルを用いた湿式分散は、酸化チタン一次粒子の破壊を最小限に抑えた解砕と上記低次酸化チタン層の形成を促進することから好ましい。湿式分散の時間は、低次酸化チタン層の形成の程度に応じて適宜設定することができるが、通常、例えば、0.5〜2時間程度とすることが適当である。また、本発明の低次酸化チタン粒子が有する低次酸化チタン層は、XPSによる表面分析によって確認することができる。通常の酸化チタン粒子は、460eV付近のTi4+に帰属するシグナルを示すが、低次酸化チタン層が形成されると、Ti4+に帰属するシグナルの他に458eV付近にTi3+に帰属する新たなシグナルが観測される。酸化チタン粒子の一次粒子への解砕は、電子顕微鏡観察によって確認出来るが、本発明のロッキングミルを使用した湿式粉砕では、粉砕前に形成されていた二次粒子の凝集がほぼ完全に一次粒子にまで解砕されており、さらに、その表面が無定型酸化チタンの非晶質層によって覆われている様子が観察される。
【0020】
但し、湿式分散はボールミル、ビーズミルなどの粉砕機をはじめ、各種のミキサーも利用して実施することもでき、基本的には水と光触媒と無定形物質との混合物を粉砕混合することで実施できる。
【0021】
また、あらかじめ酸化チタン粒子を湿式分散しておき、その後、直ちに無定型物質を加えて軽く攪拌することでも、本発明の低次酸化チタン粒子含有組成物を調製することができる。
【0022】
本発明の製造方法によれば、安定な低次酸化チタン粒子含有組成物が得られる。この低次酸化チタン粒子含有組成物は、このコーティング用組成物として好適である。尚、組成物中の低次酸化チタン粒子含有量は、適当に調整することができる。例えば、前記コーティング組成物の質量に対する光触媒(低次酸化チタン粒子)の質量の比率は、例えば、0.1〜30質量%の範囲であることができる。
【実施例】
【0023】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0024】
実施例1
酸化チタン光触媒(P-25、日本アエロジル製)0.5g、ペルオキソチタン酸水溶液(TKC301、テイカ製)5mL(酸化チタンとしてP-25に対して10質量%)、ガラスビーズ(φ50μm)80g、脱イオン水45mLを充填した反応容器(ポリプロピレン製、100mL)をロッキングミル(RM-05、セイワ技研製)に装着し、60Hz、60分間、室温で混合粉砕した。振動終了後にふるいを用いてガラスビーズと酸化チタン分散液を分離し、コーティング組成物を得た。コーティング組成物は、一部はそのまま乾燥することで光触媒粉末を得、カラーアナライザーによる反射率測定およびXPSによる表面分析を行った。カラーアナライザーによる測定結果を図1〜5(図1〜5に示す実施例1の結果は同一である)に、XPSによる測定結果を図8に示す。
【0025】
比較例1
実施例1で無定形物質のTKC301を加えず、酸化チタン光触媒P-25のみを60分および120分間湿式分散したものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定およびXPSによる表面分析を行った。カラーアナライザーによる測定結果を図1に、60分間湿式分散したもののXPSによる測定結果を図9に示す。
【0026】
比較例2
実施例1でP-25と無定形物質のTKC301をロッキングミルでの分散を行わず、単に混合しただけの試料について同様に回収、乾燥し、カラーアナライザーによる反射率測定結果を図2に示す。
【0027】
比較例3
実施例1で無定形物質のTKC301のみを酸化チタンとして0.5g相当量を60分間湿式混合分散したものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定結果を図3に、XPSによる測定結果を図10に示す。
【0028】
図1、図2および図3に示される反射率測定結果より、P-25は白色を呈しているので、可視光領域全般にわたってほぼ100%の反射率を示しており、原料のP-25および無定形物質TKC301を単独で湿式混合分散した場合は、P-25のみでは分散時間が60分間および120分間としても反射率は80%以上を保ち、TKC301のみにおいても分散の前後では550nm以上の領域でおよそ5%とわずかに低下する程度である。一方、P-25および無定形物質TKC301が共存する状態で湿式混合分散の場合、原料を単独で混合分散したときには起こらないレベルまで反射率が低下しており、両者の間で反応が起こり、低次酸化チタン特有の灰色を呈していることがわかる。また、P-25にTKC301を混合しただけの、一切分散をしない場合(比較例2、図2)は、ペルオキソチタン酸独特の黄色がわずかに残ることで薄黄色を示していることがわかる。
【0029】
実施例1の試料についてXPSによる表面分析を行った結果より、図8に示したように、試料中には460eV付近のTi4+に帰属するシグナルの他に458eV付近にTi3+に帰属する新たなシグナルが観測される。この観測結果は、P-25とTKC301が共存下で湿式混合分散すると酸化チタンの表面層付近に安定な酸素欠陥層が形成されることを示しており、これが、低次酸化チタン特有の灰色を呈する理由であると解釈される。なお、図9および図10に示したように、P-25およびTKC301を単独で60分間湿式分散した場合、P-25では460eV付近のTi4+に帰属するシグナルにはほとんど変化は見られず、TKC301でもわずかに460eV付近のTi4+に帰属するシグナルがわずかにブロードになるものの、明確なTi3+に基づくシグナルとはならない。この場合、波形分離の任意性によるが、459eV付近に波形分離できるピークをTi3+に基づくシグナルと判断したとしても、実施例1ではTKC301の配合量はP-25に対して10wt%であるので、この波形成分が実施例1で観測されているTi3+の強いシグナルの主原因とは考えにくい。したがって、実施例1におけるTi3+の生成にはP-25とTKC301の両方の共存と分散のエネルギーのインプットが必要である。これらの項目がそろってさえいれば、P-25を単独で湿式分散した後でTKC301を加えた場合、軽く混合するだけで同様の効果が発現する。これについては実施例2で説明する。
【0030】
実施例2
実施例1で無定形物質のTKC301を加えず、酸化チタン光触媒P-25のみを60分間湿式混合分散し、直ちにTKC301-10%を添加し1分間かき混ぜたものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定結果を図4に示す。図4に示される反射率測定結果より、光触媒P-25のみを60分間湿式混合分散し、直ちにTKC301-10%を添加し、1分間かき混ぜるだけでも色彩は実施例1と同等となっていることから、P-25単独での湿式メカノケミカル反応は、分散後にTKC301を加えても、かき混ぜる程度の接触で大気雰囲気においても安定な灰色の低次酸化物を形成できる。
【0031】
比較例4
実施例1で無定形物質のTKC301の代わりにリチウムシリケート75(日産化学)を同量添加し、60分間湿式混合分散したものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定結果を図5に示す。図5に示される反射率測定結果より、リチウムシリケート75では、P-25単独で分散した比較例1と同程度の反射率しか示さず、安定な酸素欠陥層が形成されにくいことがわかる。したがって、用いる無定形物質はTKC301のような無定形酸化チタンが好ましいといえる。
【0032】
実施例3
実施例1で得られたコーティング組成物の一部を水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による光誘起親水性発現の評価を行い、暗所に置いたときの値と比較した。結果を図6に示す。評価方法は、コーティング組成物塗布面にマイクロシリンジで脱イオン水5μLを8箇所に滴下し、8箇所での水滴の直径の平均値で示した。可視光光源には蛍光灯(昼光色、10W)にL42フィルター(東芝製)を組みあわせて用いて波長406nm以下の光をカットし、光源からの距離は3cmとした。
【0033】
実施例4
実施例1で得られたコーティング組成物の一部を水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による有機物の分解能力の評価を行った。可視光による有機物の分解能力の評価方法は、コーティング組成物による塗布面にヘキサンに溶解させた1、2-エポキシドデカン(1%)をスピンコート法によって塗布し、その表面における水滴の直径の変化を可視光を照射しながら測定することによって行った。結果を図7に示す。
【0034】
比較例5
TOTO製のガラスコーティング剤をガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面に刷毛で塗布した表面に対して、実施例4と同様の方法でヘキサンに溶解させた1、2-エポキシドデカン(1%)を塗布し、その表面における水滴の直径の変化を可視光を照射しながら測定することによって行った。結果を図7に示す。
【0035】
比較例6
比較例3で調製した無定形物質のTKC301のみを酸化チタンとして0.5g相当量を60分間湿式混合分散したものを実施例4と同様に水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による有機物の分解能力の評価を行った。結果を図7に示す。
【0036】
比較例7
実施例1で無定形物質のTKC301の代わりにリチウムシリケート75(日産化学)を同量添加し60分間湿式混合分散したものを、実施例4と同様に水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による有機物の分解能力の評価を行った。結果を図7に示す。
【0037】
図7に示される水滴の直径の測定結果より、比較例5のTOTO製ガラスコーティング膜や比較例6のTKC301単独で湿式混合分散して得た膜およびTKC301の代わりにリチウムシリケートを用いてP-25と混合分散して得た膜は可視光活性がなく、可視光を照射してもエポキシドデカンを分解できず、水滴の直径は4.6〜4.8mmの範囲を維持したままである。一方、実施例4で得られたコーティング組成物塗布面は可視光照射5時間程度で水滴の直径が4.7〜4.8mmから5.5〜5.6mmに大きくなっており、これはエポキシドデカンの分解が進行したためと思われる。
【0038】
実施例5
実施例1で用いた酸化チタン光触媒P-25の代わりにJRC-TIO-2(日本触媒学会参照触媒)を用い、実施例1と同様の操作を行うことでコーティング組成物を得た。得られたコーティング液の一部(10mL)に対し、さらに固着を目的としてペルオキソチタン酸水溶液(TKC301、テイカ製)2.5mLを加え、実施例3と同様にガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布した。塗布物を暗所に放置後、可視光による光誘起親水性発現の評価を行った。結果を図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、可視光応答性防汚コーティングの分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1および比較例1で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図2】実施例1および比較例2で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図3】実施例1および比較例3で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図4】実施例1および2で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図5】実施例1および比較例1および4で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図6】実施例3で得た可視光による光誘起親水性発現の評価結果。
【図7】実施例4および比較例5〜7で得た可視光による有機物の分解能力の評価結果。
【図8】実施例1で得た光触媒のXPSによる測定結果。
【図9】比較例1で得た光触媒のXPSによる測定結果。
【図10】比較例3で得た光触媒のXPSによる測定結果。
【図11】実施例5で得た可視光による光誘起親水性発現の評価結果。
【技術分野】
【0001】
本発明は、低次酸化チタン粒子含有組成物の製造方法に関する。特に本発明は、コーティング用組成物として有用な低次酸化チタン粒子含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン光触媒は、防汚性能や光誘起超親水化現象を発揮することから、窓ガラスをはじめとする野外建造物用として利用されている。野外建造物用酸化チタン光触媒コーティング剤として、ゾルタイプの酸化チタン光触媒を原料に用いたものがある。しかし、従来の酸化チタン光触媒は、防汚性能等を発揮するためには紫外線が必要であり、直射日光が当たらない場所、例えば、室内では有機物の分解反応や光誘起超親水化現象による防汚性能は著しく低下する問題があった。
【0003】
それに対して、可視光応答性を示す酸化チタン光触媒も知られている。可視光応答性を示す酸化チタン光触媒は、例えば、特許文献1および2に代表されるように硫酸チタンを原料としてアンモニアを加えて得た光触媒前駆体としての加水分解物を400℃程度の比較的低い温度で焼成して製造されるか、あるいは石原製酸化チタンST-01をアンモニアを含むアルゴンガス中で400℃程度の比較的低い温度で焼成することにより製造されている。
【0004】
また、特許文献3及び4にあるように、過酸化チタニアゾルを原料として窒素源を加えてガラスに塗布後、400℃程度の温度で焼成して可視光応答型酸化チタン光触媒コーティング膜を得る方法もある。
【特許文献1】日本特許第3215698号
【特許文献2】日本特許第3587178号
【特許文献3】特開2004-136178号公報
【特許文献4】特開2004-209305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の方法で製造された酸化チタン光触媒は、二次粒子径が数ミクロン程度の顔料レベルのサイズを有する。酸化チタン光触媒は、物品の表面にコーティングして用いられるが、この光触媒を使って透明なコーティング膜を得ようとする場合、粉砕が必要になる。しかし、粉砕によって粒子径を小さくすると、可視光活性の発現に重要な一次粒子間の界面層が破壊され、粒子サイズの減少とともに可視光活性は著しく低下するという問題があった。
【0006】
また、特許文献3及び4に記載の方法では、400℃程度の焼成プロセスを必要とするので、外壁材や、既に取り付けられている窓ガラスへの施工は困難であった。
【0007】
このように、窓ガラス表面にコーティングできる透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤は未開発であり、出現が待たれていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤を提供することにある。
【0009】
より具体的には、本発明の目的は、紫外光はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮でき、しかも、乾燥時の色彩が灰色になることで反射率を下げ、高い透明性を発揮できる光触媒防汚コーティング組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[1]アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することを含む低次酸化チタン粒子含有組成物を製造する方法。
[2]酸化チタン粒子が、凝集体を含む[1]に記載の製造方法。
[3]解砕を、酸化チタン粒子が一次粒子のレベルになるように行う[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]解砕を、酸化チタン粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲になるように行う[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]無定形酸化チタンがペルオキソチタン酸である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]湿式分散を、水を溶媒として実施する[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]湿式分散を、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとをビーズ粒子とともに混合することで行う[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]湿式分散を、ロッキングミルを用いて行う[7]に記載の製造方法。
[9]ロッキングミルによる湿式分散を粒子径が100μm以下のビーズ粒子を用いて行う[8]に記載の製造方法。
[10]低次酸化チタン粒子含有組成物が、低次酸化チタン粒子を水に分散したものである[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]低次酸化チタン粒子含有組成物がコーティング用組成物である[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性が高い可視光応答性防汚コーティング剤を提供することができる。より具体的には、本発明によれば、紫外光はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮でき、しかも、乾燥時の色彩が灰色になることで反射率を下げ、高い透明性を発揮できる光触媒防汚コーティング組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することを含む低次酸化チタン粒子含有組成物を製造する方法に関する。
【0013】
本発明においては、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することで、光触媒を微粒化するとともに、その表面に低次酸化チタン層(酸素欠陥を有する層)を形成する。酸化チタン粒子は、一般に凝集体を含むものであり、酸化チタン粒子の凝集体は、好ましくは、酸化チタン粒子が一次粒子のレベルになるように湿式分散し、解砕することで、低次酸化チタン粒子含有組成物を得ることができる。これにより、紫外光はもちろんのこと、可視光の照射によっても有機物の分解や光誘起親水化による防汚効果を発揮できる可視光応答性を有する低次酸化チタン粒子を含有する組成物が得られる。本発明では、光触媒性能を持つ酸化チタン粒子と無定型酸化チタンとを湿式分散することで生じるメカノケミカル反応によって、低次酸化チタン層(酸素欠陥を有する層)を形成することができ、本発明の透明性酸素欠陥型可視光応答性防汚コーティング組成物が得られる。特に、上記解砕は、酸化チタン粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲になるように行うことが、得られる低次酸化チタン粒子含有組成物の光触媒性能の点で好ましい。
【0014】
本発明の製造方法の一方の原料である、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子は、紫外線に対する光触媒活性を有するものであれば特に限定されない。たとえば酸化チタン光触媒では、市販品の中から日本アエロゾル(社)のP-25、(株)テイカ製のAMT-100、TKP-101などが利用出来るが、(株)テイカ製のTKS-201、TKS-202、TKS-203などのゾルタイプのものも挙げることができ、中でもP-25が好ましい。アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子は、凝集体(二次粒子)の平均粒子径は、例えば、0.1〜2μmの範囲であることが適当である。
【0015】
本発明の製造方法の一方の原料である、無定形酸化チタンは無定型物質であり、その例としては、ペルオキソチタン酸、水酸化チタン(オルソチタン酸、αチタン酸)等を挙げることができる。ペルオキソチタン酸としては、(株)テイカ製のTKC301ペルオキソチタニアゾル等を挙げることができる。
【0016】
本発明の製造方法では、酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとを湿式分散する。酸化チタン粒子と無定形酸化チタンの混合比は、所望の低次酸化チタン層の量等を考慮して適宜決定される。例えば、酸化チタン粒子100質量部に対して無定形酸化チタンを任意の割合とすることができるが、好ましくは5〜20質量部の範囲とすることが適当である。
【0017】
また、湿式分散は水を溶媒として実施することが適当であり、水を溶媒として湿式分散することで、低次酸化チタン粒子を水に分散した低次酸化チタン粒子含有組成物が得られる。水の使用量は、湿式分散時の粒子に対するシェアがどの程度であるか、あるいは得られる低次酸化チタン粒子含有組成物の固形分量等を考慮して適宜決定できるが、例えば、水100質量部に対する酸化チタン粒子の量は任意の割合とすることができるが1〜5質量部の範囲が適当である。
【0018】
さらに、湿式分散は、酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとをビーズ粒子とともに混合することが、低次酸化チタン層の形成を促進するという観点から適当である。ビーズ粒子の粒子径は、低次酸化チタン層の形成に影響があり、例えば、平均粒子径が10〜100μm、好ましくは30〜70μmの範囲であるビーズ粒子を用いることが適当である。さらに、ビーズ粒子の素材は、酸化チタン粒子、無定形酸化チタン及び低次酸化チタン粒子に対して不活性であり、かつ所定の比重を有するものであることが適当である。そのようなビーズ粒子としては、例えば、ガラスビーズ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子等を挙げることができる。
【0019】
湿式分散は、上記のようにビーズ粒子を用い、例えば、ロッキングミルを用いて行うことが適当である。本発明の製造方法では、酸化チタン粒子と無定型酸化チタンとを湿式分散することで生じるメカノケミカル反応によって、粒子の結晶構造の破壊を極力避けながら,凝集体を解砕することが重要である。解砕によって生じた新生表面には低次酸化チタン層(酸素欠陥を有する層)が形成され、同時に低次酸化チタン層を無定型酸化チタンが覆うことで安定化した低次酸化チタン粒子含有組成物が得られるが、ビーズ粒子及びロッキングミルを用いた湿式分散は、酸化チタン一次粒子の破壊を最小限に抑えた解砕と上記低次酸化チタン層の形成を促進することから好ましい。湿式分散の時間は、低次酸化チタン層の形成の程度に応じて適宜設定することができるが、通常、例えば、0.5〜2時間程度とすることが適当である。また、本発明の低次酸化チタン粒子が有する低次酸化チタン層は、XPSによる表面分析によって確認することができる。通常の酸化チタン粒子は、460eV付近のTi4+に帰属するシグナルを示すが、低次酸化チタン層が形成されると、Ti4+に帰属するシグナルの他に458eV付近にTi3+に帰属する新たなシグナルが観測される。酸化チタン粒子の一次粒子への解砕は、電子顕微鏡観察によって確認出来るが、本発明のロッキングミルを使用した湿式粉砕では、粉砕前に形成されていた二次粒子の凝集がほぼ完全に一次粒子にまで解砕されており、さらに、その表面が無定型酸化チタンの非晶質層によって覆われている様子が観察される。
【0020】
但し、湿式分散はボールミル、ビーズミルなどの粉砕機をはじめ、各種のミキサーも利用して実施することもでき、基本的には水と光触媒と無定形物質との混合物を粉砕混合することで実施できる。
【0021】
また、あらかじめ酸化チタン粒子を湿式分散しておき、その後、直ちに無定型物質を加えて軽く攪拌することでも、本発明の低次酸化チタン粒子含有組成物を調製することができる。
【0022】
本発明の製造方法によれば、安定な低次酸化チタン粒子含有組成物が得られる。この低次酸化チタン粒子含有組成物は、このコーティング用組成物として好適である。尚、組成物中の低次酸化チタン粒子含有量は、適当に調整することができる。例えば、前記コーティング組成物の質量に対する光触媒(低次酸化チタン粒子)の質量の比率は、例えば、0.1〜30質量%の範囲であることができる。
【実施例】
【0023】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0024】
実施例1
酸化チタン光触媒(P-25、日本アエロジル製)0.5g、ペルオキソチタン酸水溶液(TKC301、テイカ製)5mL(酸化チタンとしてP-25に対して10質量%)、ガラスビーズ(φ50μm)80g、脱イオン水45mLを充填した反応容器(ポリプロピレン製、100mL)をロッキングミル(RM-05、セイワ技研製)に装着し、60Hz、60分間、室温で混合粉砕した。振動終了後にふるいを用いてガラスビーズと酸化チタン分散液を分離し、コーティング組成物を得た。コーティング組成物は、一部はそのまま乾燥することで光触媒粉末を得、カラーアナライザーによる反射率測定およびXPSによる表面分析を行った。カラーアナライザーによる測定結果を図1〜5(図1〜5に示す実施例1の結果は同一である)に、XPSによる測定結果を図8に示す。
【0025】
比較例1
実施例1で無定形物質のTKC301を加えず、酸化チタン光触媒P-25のみを60分および120分間湿式分散したものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定およびXPSによる表面分析を行った。カラーアナライザーによる測定結果を図1に、60分間湿式分散したもののXPSによる測定結果を図9に示す。
【0026】
比較例2
実施例1でP-25と無定形物質のTKC301をロッキングミルでの分散を行わず、単に混合しただけの試料について同様に回収、乾燥し、カラーアナライザーによる反射率測定結果を図2に示す。
【0027】
比較例3
実施例1で無定形物質のTKC301のみを酸化チタンとして0.5g相当量を60分間湿式混合分散したものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定結果を図3に、XPSによる測定結果を図10に示す。
【0028】
図1、図2および図3に示される反射率測定結果より、P-25は白色を呈しているので、可視光領域全般にわたってほぼ100%の反射率を示しており、原料のP-25および無定形物質TKC301を単独で湿式混合分散した場合は、P-25のみでは分散時間が60分間および120分間としても反射率は80%以上を保ち、TKC301のみにおいても分散の前後では550nm以上の領域でおよそ5%とわずかに低下する程度である。一方、P-25および無定形物質TKC301が共存する状態で湿式混合分散の場合、原料を単独で混合分散したときには起こらないレベルまで反射率が低下しており、両者の間で反応が起こり、低次酸化チタン特有の灰色を呈していることがわかる。また、P-25にTKC301を混合しただけの、一切分散をしない場合(比較例2、図2)は、ペルオキソチタン酸独特の黄色がわずかに残ることで薄黄色を示していることがわかる。
【0029】
実施例1の試料についてXPSによる表面分析を行った結果より、図8に示したように、試料中には460eV付近のTi4+に帰属するシグナルの他に458eV付近にTi3+に帰属する新たなシグナルが観測される。この観測結果は、P-25とTKC301が共存下で湿式混合分散すると酸化チタンの表面層付近に安定な酸素欠陥層が形成されることを示しており、これが、低次酸化チタン特有の灰色を呈する理由であると解釈される。なお、図9および図10に示したように、P-25およびTKC301を単独で60分間湿式分散した場合、P-25では460eV付近のTi4+に帰属するシグナルにはほとんど変化は見られず、TKC301でもわずかに460eV付近のTi4+に帰属するシグナルがわずかにブロードになるものの、明確なTi3+に基づくシグナルとはならない。この場合、波形分離の任意性によるが、459eV付近に波形分離できるピークをTi3+に基づくシグナルと判断したとしても、実施例1ではTKC301の配合量はP-25に対して10wt%であるので、この波形成分が実施例1で観測されているTi3+の強いシグナルの主原因とは考えにくい。したがって、実施例1におけるTi3+の生成にはP-25とTKC301の両方の共存と分散のエネルギーのインプットが必要である。これらの項目がそろってさえいれば、P-25を単独で湿式分散した後でTKC301を加えた場合、軽く混合するだけで同様の効果が発現する。これについては実施例2で説明する。
【0030】
実施例2
実施例1で無定形物質のTKC301を加えず、酸化チタン光触媒P-25のみを60分間湿式混合分散し、直ちにTKC301-10%を添加し1分間かき混ぜたものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定結果を図4に示す。図4に示される反射率測定結果より、光触媒P-25のみを60分間湿式混合分散し、直ちにTKC301-10%を添加し、1分間かき混ぜるだけでも色彩は実施例1と同等となっていることから、P-25単独での湿式メカノケミカル反応は、分散後にTKC301を加えても、かき混ぜる程度の接触で大気雰囲気においても安定な灰色の低次酸化物を形成できる。
【0031】
比較例4
実施例1で無定形物質のTKC301の代わりにリチウムシリケート75(日産化学)を同量添加し、60分間湿式混合分散したものの乾燥した状態でのカラーアナライザーによる反射率測定結果を図5に示す。図5に示される反射率測定結果より、リチウムシリケート75では、P-25単独で分散した比較例1と同程度の反射率しか示さず、安定な酸素欠陥層が形成されにくいことがわかる。したがって、用いる無定形物質はTKC301のような無定形酸化チタンが好ましいといえる。
【0032】
実施例3
実施例1で得られたコーティング組成物の一部を水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による光誘起親水性発現の評価を行い、暗所に置いたときの値と比較した。結果を図6に示す。評価方法は、コーティング組成物塗布面にマイクロシリンジで脱イオン水5μLを8箇所に滴下し、8箇所での水滴の直径の平均値で示した。可視光光源には蛍光灯(昼光色、10W)にL42フィルター(東芝製)を組みあわせて用いて波長406nm以下の光をカットし、光源からの距離は3cmとした。
【0033】
実施例4
実施例1で得られたコーティング組成物の一部を水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による有機物の分解能力の評価を行った。可視光による有機物の分解能力の評価方法は、コーティング組成物による塗布面にヘキサンに溶解させた1、2-エポキシドデカン(1%)をスピンコート法によって塗布し、その表面における水滴の直径の変化を可視光を照射しながら測定することによって行った。結果を図7に示す。
【0034】
比較例5
TOTO製のガラスコーティング剤をガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面に刷毛で塗布した表面に対して、実施例4と同様の方法でヘキサンに溶解させた1、2-エポキシドデカン(1%)を塗布し、その表面における水滴の直径の変化を可視光を照射しながら測定することによって行った。結果を図7に示す。
【0035】
比較例6
比較例3で調製した無定形物質のTKC301のみを酸化チタンとして0.5g相当量を60分間湿式混合分散したものを実施例4と同様に水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による有機物の分解能力の評価を行った。結果を図7に示す。
【0036】
比較例7
実施例1で無定形物質のTKC301の代わりにリチウムシリケート75(日産化学)を同量添加し60分間湿式混合分散したものを、実施例4と同様に水で10倍に希釈し、ガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布し、可視光による有機物の分解能力の評価を行った。結果を図7に示す。
【0037】
図7に示される水滴の直径の測定結果より、比較例5のTOTO製ガラスコーティング膜や比較例6のTKC301単独で湿式混合分散して得た膜およびTKC301の代わりにリチウムシリケートを用いてP-25と混合分散して得た膜は可視光活性がなく、可視光を照射してもエポキシドデカンを分解できず、水滴の直径は4.6〜4.8mmの範囲を維持したままである。一方、実施例4で得られたコーティング組成物塗布面は可視光照射5時間程度で水滴の直径が4.7〜4.8mmから5.5〜5.6mmに大きくなっており、これはエポキシドデカンの分解が進行したためと思われる。
【0038】
実施例5
実施例1で用いた酸化チタン光触媒P-25の代わりにJRC-TIO-2(日本触媒学会参照触媒)を用い、実施例1と同様の操作を行うことでコーティング組成物を得た。得られたコーティング液の一部(10mL)に対し、さらに固着を目的としてペルオキソチタン酸水溶液(TKC301、テイカ製)2.5mLを加え、実施例3と同様にガラス板(5cm×5cm、厚さ1mm)表面にディップコート法(引き上げ速度:5mm/min)で塗布した。塗布物を暗所に放置後、可視光による光誘起親水性発現の評価を行った。結果を図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、可視光応答性防汚コーティングの分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1および比較例1で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図2】実施例1および比較例2で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図3】実施例1および比較例3で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図4】実施例1および2で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図5】実施例1および比較例1および4で得た光触媒のカラーアナライザーによる測定結果。
【図6】実施例3で得た可視光による光誘起親水性発現の評価結果。
【図7】実施例4および比較例5〜7で得た可視光による有機物の分解能力の評価結果。
【図8】実施例1で得た光触媒のXPSによる測定結果。
【図9】比較例1で得た光触媒のXPSによる測定結果。
【図10】比較例3で得た光触媒のXPSによる測定結果。
【図11】実施例5で得た可視光による光誘起親水性発現の評価結果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することを含む低次酸化チタン粒子含有組成物を製造する方法。
【請求項2】
酸化チタン粒子が、凝集体を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
解砕を、酸化チタン粒子が一次粒子のレベルになるように行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
解砕を、酸化チタン粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲になるように行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
無定形酸化チタンがペルオキソチタン酸である請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
湿式分散を、水を溶媒として実施する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
湿式分散を、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとをビーズ粒子とともに混合することで行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
湿式分散を、ロッキングミルを用いて行う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ロッキングミルによる湿式分散を粒子径が100μm以下のビーズ粒子を用いて行う請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
低次酸化チタン粒子含有組成物が、低次酸化チタン粒子を水に分散したものである請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
低次酸化チタン粒子含有組成物がコーティング用組成物である請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項1】
アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンを湿式分散し、解砕することを含む低次酸化チタン粒子含有組成物を製造する方法。
【請求項2】
酸化チタン粒子が、凝集体を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
解砕を、酸化チタン粒子が一次粒子のレベルになるように行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
解砕を、酸化チタン粒子の一次粒子の平均粒子径が5〜50nmの範囲になるように行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
無定形酸化チタンがペルオキソチタン酸である請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
湿式分散を、水を溶媒として実施する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
湿式分散を、アナターゼ型またはルチル型酸化チタン粒子と無定形酸化チタンとをビーズ粒子とともに混合することで行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
湿式分散を、ロッキングミルを用いて行う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ロッキングミルによる湿式分散を粒子径が100μm以下のビーズ粒子を用いて行う請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
低次酸化チタン粒子含有組成物が、低次酸化チタン粒子を水に分散したものである請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
低次酸化チタン粒子含有組成物がコーティング用組成物である請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−145696(P2007−145696A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287178(P2006−287178)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(302062377)日本メンテナスエンジニヤリング株式会社 (4)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(302062377)日本メンテナスエンジニヤリング株式会社 (4)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]