説明

低比重樹脂積層板およびその製造方法

【課題】本発明により、外観や、電気特性、機械的強度および熱伝導率などの他の特性を損なうことなく、更に低比重化を可能とした低比重樹脂積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、(i)(a)熱硬化性樹脂粉末と、(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材とを均一に混合して粉体組成物を形成する工程、(ii)該粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させる工程、(iii)該粉体組成物を加圧下で加熱して、該繊維製補強材に仮着してシート状材料とする工程、および(iv)該シート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化する工程を含み、
該熱硬化性樹脂粉末が粒径20〜40μmを有することを特徴とする低比重樹脂積層板の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁板、板状断熱材その他の軽量板状素材として用いられる低比重樹脂積層板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成樹脂積層板を製造するには、まず、ガラス繊維、カーボン繊維その他の合成繊維もしくは天然繊維からなる編織布また不織布を補強材とし、これに所要濃度の溶液またはエマルジョン化した熱硬化性樹脂を含浸する。そして、得られたウェブ片を複数枚積層して、上下対の熱盤を備えたホットプレスに収容し、所要の圧力下で加熱して硬化成形している。
【0003】
このように成形される合成樹脂積層板は、主に補強材との組み合わせで所要の比重に調整されており、例えばガラス繊維を補強材にしたときの比重は約1.8〜2.0であり、綿布を補強材としたときの比重は約1.35〜1.4である。また、このような合成樹脂積層板をさらに軽量化するため、主要バインダ成分である熱硬化性樹脂に、低比重の充填材を均一に分散させるかまたは補強材に対するバインダの含浸量や濃度を調節する手法も考えられる。
【0004】
しかし、上記した合成樹脂積層板をより軽量化するバインダーの充填材として、泡状の空気を包含した微粒子状のバルーンを使用すると、液相中で浮いてしまい合成樹脂中に均一に分散しないため、含浸によって補強材に効率よく保持されないという問題点があった。
【0005】
また、成形される積層板の比重を調整する他の手法として、ロール体から連続供給されるウェブ状の繊維製補強材に対するバインダの含浸量や濃度を制御する手法があるが、ウェブの進行速度、バインダの流動性や粘性等の多くの要因が関与しており、そのような制御は煩雑で他に適当な手法がないという問題点もあった。
【0006】
本発明者らは、バインダ中に低比重の充填材を均一に分散させ、しかもこのバインダの補強材への保持量すなわち積層板の比重調整を簡便な手法で行うことができるようにするため、上記低比重の充填材として、有機質バルーン、無機質バルーンのそれぞれ単独または両者の併用を用いて、熱硬化性樹脂粉末との混合物を、繊維製補強材表面に付着させ、次いで加熱および加圧下で前記混合物を前記補強材に仮着してシート状材料とし、得られたシート状材料を複数枚積層して加熱および加圧下で融着一体化する、低比重樹脂積層板の製造方法を提案した(特許文献1)。
【0007】
上記製造方法を用いることによって、低比重の充填材として上記バルーンを熱硬化性樹脂粉末に所要の割合で均一に分散して、補強材に保持させることができるので、顕著な軽量化を図ることができ、また、バインダの付着量の調整も容易であるから、比重調整を容易に行なうことができ、製造工程の効率が良く、バインダーの配合容易性によって製造コストの低減も図ることができた。
【0008】
しかしながら、環境問題を視野に入れて、自動車の低燃比化や電気エネルギー利用への移行、鉄道車両の更なる高速化などを図るため、燃料や電気エネルギーの消費を低減しようとする要求はますます高まり、自動車や鉄道車両などに使用される材料に関して、強度等の他の特性を損なうことなく、更なる軽量化が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5‐476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来の低比重樹脂積層板の有する問題点を解決し、外観や、電気特性、機械的強度および熱伝導率などの他の特性を損なうことなく、更に低比重化を可能とした低比重樹脂積層板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、低比重充填材と混合する熱硬化性樹脂粉末の粒径を非常に小さくすることによって両者を均一に分散させることができ、他の特性を損なうことなく、更に低比重化を可能とした低比重樹脂積層板およびその製造方法を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
(i)(a)熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と
を均一に混合して粉体組成物を形成する工程、
(ii)該粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させる工程、
(iii)該粉体組成物を加圧下で加熱して、該繊維製補強材に仮着してシート状材料を形成する工程、および
(iv)該シート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化する工程
を含み、
該熱硬化性樹脂粉末が粒径1〜100μmを有することを特徴とする低比重樹脂積層板の製造方法に関する。
【0013】
更に、本発明を好適に実施するために、
前記工程(iv)において、前記シート状材料を複数枚積層すると共に、その最上層、最下層およびこれらの中間層から選ばれる1以上の層に繊維製補強材に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグシートを積層し、加熱プレスして、融着一体化し;
前記熱硬化性樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂の混合物であり;
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂が軟化点60〜120℃およびエポキシ当量450〜2000を有し、前記ノボラック型エポキシ樹脂が軟化点60〜120℃を有し、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ノボラック型エポキシ樹脂の配合比が8/1〜1/1である;
ことが望ましい。
【0014】
本発明の他の態様として、
(a)熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と、
(c)繊維製補強材と
を含有し、比重0.6〜1.1、曲げ強さ100MPa以上および圧縮強さ150MPa以上を有することを特徴とする低比重樹脂積層板がある。
【0015】
本発明の更に他の態様として、
(i)(a)粒径1〜100μmを有する熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と
を均一に混合して粉体組成物を形成し、
(ii)該粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させ、
(iii)該粉体組成物を加圧下で加熱して、該繊維製補強材に仮着してシート状材料を形成し、
(iv)該シート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化する
ことによって製造され、
比重0.6〜1.1、曲げ強さ100MPa以上および圧縮強さ150MPa以上を有することを特徴とする低比重樹脂積層板がある。
【0016】
また、本発明を好適に実施するために、前記熱硬化性樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂の混合物であり、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ノボラック型エポキシ樹脂の配合比が8/1〜1/1であることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の低比重樹脂積層板の製造方法は、有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される低比重充填材を熱硬化性樹脂粉末に所要の割合で均一に分散した粉末組成物として、繊維製補強材に保持させることができるので、顕著な軽量化を図ることができ、また、バインダの付着量の調整も容易であるから、比重調整を容易に行なうことができる。従って、製造工程の効率が良く、バインダーの配合容易性によって製造コストの低減も図れることとなり、この発明の産業上の利用価値はきわめて高いものであるということができる。加えて、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法においては、上記熱硬化性樹脂粉末の粒径を非常に小さくすることによって、外観や、電気特性、機械的強度および熱伝導率などの他の特性を損なうことなく、更に低比重の樹脂積層板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の低比重樹脂積層板の製造方法の1つの態様を説明する製造工程の概略説明図である。
【図2】図1のホットプレス機の要部概略説明図である。
【図3】図2のシート状材料の積層状態を示す概略説明図である。
【図4】本発明の低比重樹脂積層板の製造方法におけるシート状材料の他の積層状態を示す概略説明図である。
【図5】本発明の低比重樹脂積層板の製造方法におけるシート状材料の更に他の積層状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述のように、本発明は、
(i)(a)熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と
を均一に混合して粉体組成物を形成する工程、
(ii)該粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させる工程、
(iii)該粉体組成物を加圧下で加熱して、該繊維製補強材に仮着してシート状材料を形成する工程、および
(iv)該シート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化する工程
を含み、
該熱硬化性樹脂粉末が粒径1〜100μmを有することを特徴とする低比重樹脂積層板の製造方法に関する。
【0020】
以下、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法を、工程(i)〜(iv)の順に、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
工程(i)
まず、工程(i)においては、(a)熱硬化性樹脂粉末と、(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材とを均一に混合して粉体組成物を形成する。上記混合を行う方法としては、混合時に上記バルーンが割れずに熱硬化性樹脂粉末と均一に混合できるものであれば特に限定されず、回転混合機など当業者に公知の混合機を用いることができる。
【0022】
(a)熱硬化性樹脂粉末
本発明の上記製造方法に用いる上記熱硬化性樹脂は、特にその種類を限定するものでなく、たとえば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型のポリイミド樹脂その他の熱硬化性樹脂のそれぞれ単独または複数種混合した樹脂粉末が挙げられる。上記熱硬化性樹脂の中でも、積層板としての成形性や作業性、繊維製補強材との接着性、得られる積層板の電気絶縁性などがバランスよく優れるエポキシ樹脂が好ましい。
【0023】
上記エポキシ樹脂として、常温で固体状であり粉末化可能なエポキシ樹脂であれば特に限定されないが、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などの2官能性のビスフェノール型エポキシ樹脂、およびフェノールノボラック、o‐クレゾールノボラック、m‐クレゾールノボラック、p‐クレゾールノボラックなどの多官能性のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのエポキシ樹脂は、1種または2種以上を混合して用いることができる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく、上記ノボラック型エポキシ樹脂としては、o‐クレゾールノボラックエポキシ樹脂が好ましい。
【0024】
本発明に用いる熱硬化性樹脂粉末は、粒径1〜100μmを有することを要件とするが、好ましくは10〜60μm、より好ましくは20〜40μmである。上記熱硬化性樹脂粉末の粒径が、1μm未満では低比重充填材との粒子径の差が大きく、均一な混合が難しく、また1μm未満への粉砕は、粉砕時に発生する熱による樹脂の溶融防止等のために、特別な設備が必要となり、粉砕工程に時間とコストがかかってしまう。また、100μmを超えると樹脂のかさ比重が高いために、低比重充填材との均一な混合に必要な樹脂量を減らすことができず、その結果、低比重充填材の配合割合を増加することができないため低比重樹脂積層板を製造できなくなる。本明細書中で用いられる熱硬化性樹脂粉末の粒径とは、株式会社堀場製作所製、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置「Partica LA−950V2」を使用し、乾式法によって測定した平均粒径を意味する。
【0025】
上記のように、本発明に用いられる熱硬化性樹脂粉末は特定の粒径を有することを要件とするが、通常、フレークやビーズ形状で供給される熱硬化性樹脂を粉砕することによって、上記特定粒径に調節する。従って、粉砕のし易さから、上記熱硬化性樹脂の軟化点は、60〜120℃、好ましくは70〜110℃、より好ましくは80〜105℃であることが望ましい。上記熱硬化性樹脂の軟化点が、60℃より低いと粉砕時に発生する熱で樹脂が溶融して粉砕が困難となり、120℃より高いと繊維製補強材への仮着が不十分になる可能性がある。
【0026】
また、上記熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、プリプレグの作製時の加圧下での加熱工程や加熱プレス工程における成形性の優れたビスフェノール型エポキシ樹脂と、同等の軟化点を有していても、粉砕時のベトツキなどが少なく粉砕の容易さや耐熱性などの優れたノボラック型エポキシ樹脂を混合して用いることが好ましい。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂(c)とノボラック型エポキシ樹脂(d)の配合比(c/d)は、8/1〜1/1、好ましくは6/1〜2/1、より好ましくは5/1〜3/1であることが望ましい。全エポキシ樹脂の質量をベースとして、上記ノボラック型エポキシ樹脂(d)が11.1質量%未満では得られる低比重樹脂積層板の耐熱性が低くなり、50質量%を超えると樹脂の溶融粘度が高くなりすぎて繊維製補強材への樹脂の含浸が不十分となる。
【0027】
本発明の低比重樹脂積層板の製造方法に用いる熱硬化性樹脂粉末(a)には、上記のようなエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤および硬化促進剤を含有する。上記硬化剤としては、ジシアンジアミド、m−フェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタンなどのアミン類、無水フタル酸や無水トリメリット酸等の酸無水物類などが挙げられ、これらの中でも常温で固体状(粉末状)のものが好ましい。上記硬化剤の配合量は、当業者に公知のように、使用するエポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の活性水素量により算出する。これらは単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0028】
尚、上記のように熱硬化性樹脂として2種のエポキシ樹脂の混合物を用いる場合、両者を溶融混合または混練して均一な混合物とし、冷却したものを粉砕して、熱硬化性樹脂粉末を得る。そのような方法としては特に限定されず、混合機、混練ロール、押出機などの当業者に公知の方法を用いることができる。
【0029】
(b)低比重充填材
また、本発明に用いる充填材としての有機質バルーンまたは無機質バルーンは、比重が0.05〜0.70の範囲であれば、その材質を特に限定するものでなく、合成樹脂、セルロースその他の有機質、シラス、ガラス、アルミナその他の無機質を材料として造粒時に極微泡を含有させたバルーン、たとえばプラスチックバルーン、ガラスバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーンなどであって、積層板の用途に応じて、耐熱性、耐酸性、剛性、耐久性を備えたものを選択使用する。このうちガラスバルーンの粒径は、例えば、10〜120μmのものが好ましく、市販のものとしては住友スリーエム株式会社製の「グラスバブルズ」が挙げられる。また、ビニリデンクロライドとアクリロニトリルのコポリマーからなる有機質バルーンの粒径は、10〜100μm(中心値40〜60μm)を例示できる。このような有機質バルーンまたは無機質バルーンの粒径は、いずれのものでも粒度分布の範囲が狭いほど分散が均一で好ましいのは言うまでもない。
【0030】
前記した熱硬化性樹脂粉末(a)とガラスバルーン(b)の配合割合(a/b)は、質量比で、2/1〜0.8/1、好ましくは1.8/1〜1/1、より好ましくは1.5/1〜1/1であることが望ましい。上記配合割合(a/b)が、2/1より大きいと(ガラスバルーンが33.3質量%より少ないと)ガラスバルーンが少なくなりすぎて得られる低比重樹脂積層板の軽量化が十分に行えず、0.8/1より小さいと(ガラスバルーンが55.6質量%より多いと)ガラスバルーンと繊維製補強材とを十分に繋ぎとめるだけの樹脂が不足して機械的強度が低下する等、十分な物性が得られなくなる。
【0031】
工程(ii)
工程(ii)において、上記工程(i)において得られた上記粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させる。そのような方法としては、例えば、上記繊維製補強材の表面に上記粉体組成物を載せて、スキージ板などを用いて粉体組成物層が一定の厚さとなるように余分な粉体組成物を掻き取ったり、均一な高さに調整したギャップを通過させたりすることによって行うことができる。上記粉体組成物層の厚さは、次の工程(iii)で得られるシート状材料の所望の厚さによって適宜調整する。
【0032】
この発明に用いる繊維製補強材は、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール、金属繊維等の無機繊維もしくはウィスカまたは綿、麻その他の天然繊維もしくは合成繊維からなる有機質繊維をその材料としてシート状の編織布または不織布としたものであって、成形後に所要の機械的強度を有するものが好ましい。更に、上記繊維製補強材としては、得られる積層板の強度、電気特性、熱的特性などから、ガラス繊維の織布、即ち、ガラスクロスが好ましい。
【0033】
工程(iii)
工程(iii)において、上記粉体組成物を加圧下で加熱して、上記繊維製補強材に仮着してシート状材料を形成する。上記工程(ii)において得られた粉体組成物を表面に均一に接触させた繊維製補強材を、例えば加熱加圧ロール間を通過させることによって、上記粉体組成物を上記繊維製補強材に仮着する。上記加熱加圧ロールの温度範囲は60〜160℃、好ましくは80〜150℃、より好ましくは100〜150℃であり、線圧は2〜40N/cm、好ましくは5〜30N/cm、より好ましくは10〜25N/cmである。上記加熱加圧ロールの温度が、60℃未満では、熱硬化性樹脂粉末が溶融しないため、繊維製補強材に仮着できず、160℃を超えると加熱加圧ロール通過中に硬化反応が進行し過ぎてしまう。例えば熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を選択した場合は約140℃が適温といえる。上記加熱加圧ロールの線圧が、2N/cm未満では、粉体組成物に十分に熱が伝わらないために繊維製補強材に仮着できず、40N/cmを超えると繊維製補強材表面に接触させた粉体組成物が崩れてしまい、均一な厚さでなくなる。
【0034】
工程(iv)
工程(iv)において、上記工程(iii)において得られたシート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化することによって、本発明の低比重樹脂積層板を作製する。上記のように加熱プレスする装置としては、例えば図1に示すようなホットプレス機を用いる。上記ホットプレス機12は、複数の加熱加圧盤13を積み重ねた構造であり、それぞれの間に、図2および図3に示すようにシート状材料Pを複数枚積層配置して、2〜8MPa、好ましくは3〜7MPa、より好ましくは4〜6MPaの圧力下で、130〜180℃、好ましくは150〜180℃、より好ましくは160〜175℃に加熱し、これらを融着一体化する。
【0035】
上記圧力が、2MPa未満ではシート状材料が互いに十分に接着しないために所望の物性が得られず、8MPaを超えると低比重充填材が破壊する可能性が高くなる。上記加熱温度が、130℃より低いとシート状材料に十分な熱が伝わらず、硬化不足になる可能性があり、また成形時間が長くなるため生産性が悪くなり、180℃より高いと樹脂の溶融粘度が低くなり過ぎて成形条件のコントロールが難しくなる。例えばエポキシ樹脂を選択使用すれば、175℃が適温である。
【0036】
図3に示す上記シート状材料Pを複数枚積層して得られる積層板の成形に際しては、シート状材料Pを所望の成形品に重量換算し、その換算量に相当する枚数のシート状材料Pを重ねて加熱加圧盤13間に収容する。このとき、成形品の平面精度をより高める必要のある場合には、図2に示す加熱加圧盤13とシート状材料Pとの間に鏡面板14を介して挾持してもよい。このようにしてホットプレス機12による加熱成形を経たシート状材料Pの積層体は、次に、図1に示す切断機15によって所定の大きさに切断し、最終製品である低比重樹脂積層板Aを得ることができる。
【0037】
また、上記工程(iv)において、上記シート状材料を複数枚積層すると共に、その最上層、最下層およびこれらの中間層から選ばれる1以上の層に、繊維製補強材に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグシートを積層し、加熱プレスして、融着一体化することが好ましい。上記繊維製補強材に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグシートとは、本発明の上記シート状材料とは異なって低比重充填材を含まず、かつ上記繊維製補強材を粉体組成物ではなく熱硬化性樹脂溶液に含浸して得られたプリプレグであり、上記シート状材料より高い機械的強度を得られる積層板に付与するものである。
【0038】
例えば、図4に示すように、シート状材料Pを複数枚積層配置した際、最上層および最下層に繊維製補強材に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグシートPを積層し、得られる積層板Aの機械的強度を高めてもよい。また、図5に示すように、複数枚積層したシート状材料Pの中間層に更にプリプレグシートPを積層し、得られる積層板Aの機械的強度を更に高めてもよい。
【0039】
前述のように、ガラス繊維を補強材にした合成樹脂積層板の比重が約1.8〜2.0であるのに対して、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法によって得られた上記積層板は、比重0.6〜1.1、好ましくは0.7〜1.05を有する。
【0040】
また、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法によって得られた上記積層板は、曲げ強さ100MPa以上、好ましくは110MPa以上、より好ましくは120MPa以上を有する。上記曲げ強さが100MPa未満では、前述のような自動車や鉄道車両などに使用される材料として適さない。上記曲げ強さの上限値は大きいほど上記用途には好ましいが、上記積層板の材料の配合量や割合などから250MPa以下である。上記曲げ強さの測定方法は、JIS K 6911に準拠して行った。
【0041】
更に、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法によって得られた上記積層板は、圧縮強さ150MPa以上、好ましくは160MPa以上、より好ましくは180MPa以上を有する。上記圧縮強さが150MPa未満では、前述のような自動車や鉄道車両などに使用される材料として適さない。また、上記圧縮強さは大きいほど上記用途には好ましいが、上記積層板の材料の配合量や割合などから300MPa以下である。上記圧縮強さの測定方法は、JIS K 6911に準拠して行った。
【0042】
本発明の低比重樹脂積層板の製造方法では、(a)熱硬化性樹脂粉末と、(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される低比重充填材とからなるバインダが粉体組成物であるため、低比重充填材が樹脂溶液中で浮いてしまい不均一になるということがなく、混合割合に拘らず、これらが相溶性よく均一分散し、繊維製シート状補強材に保持され易い。また、このような保持を行なうとき、補強材表面に前記バインダを付着させた後、加熱および加圧下に仮着しており、バインダの厚みを前記付着時に変更するだけで、その後に成形される樹脂積層板の比重を調整することができる。更に、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法では、上記粉体組成物に用いられる上記熱硬化性樹脂粉末の粒径を従来のものより非常に小さい特定範囲内に規定することにより、外観や、電気特性、機械的強度および熱伝導率などのその他の特性を損なうことなく、更に低比重の樹脂積層板を提供することができる。
【実施例】
【0043】
(i)熱硬化性樹脂粉末(a)の作製
以下の表1〜2に示すエポキシ樹脂AおよびB並びに硬化剤を二軸押出機(シンシナティーエクストルージョン株式会社製の「TITAN−45」)を用いて混練し、冷却して、ペレット状の熱硬化性樹脂組成物を形成し、粉砕機(東京アトマイザー製造株式会社製「ミルスターダム」)を用いて粉砕して熱硬化性樹脂粉末を得た。得られた熱硬化性樹脂粉末の粒径を同表に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】



(注1)新日鐵化学株式会社から商品名「YD−012」で市販されているビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量750g/eq、軟化点80℃)
(注2)新日鐵化学株式会社から商品名「YDCN−700−10」で市販されているo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量206g/eq、軟化点80℃)
(注3)エアープロダクツジャパン株式会社から商品名「アミキュアCG−325」で市販されているジシアンジアミド硬化剤
(注4)住友スリーエム株式会社から商品名「グラスバブルズ」で市販されているガラスバルーン(粒径40μm、比重0.38)
(注6)樹脂含有率(R.C.):積層板の全重量(熱硬化性樹脂粉末+充填材+繊維製補強材)に対する上記熱硬化性樹脂粉末(a)の配合割合
【0046】
(ii)低比重樹脂積層板の製造
図1に示す製造装置を用いて、まず、ウェブ状のガラス繊維織布からなる繊維製補強材P(日東紡績株式会社から商品名「WEA26」で市販されているガラスクロスを3〜4m/分の一定速度でロール体1から繰り出し、上下面開口の枠型容器2の下面に沿わせてテンションがかる状態で進行させる。このとき補強材Pの下面にはロール体3から引き出されたポリエステル製剥離シートSを同じくテンションがかかる状態で密接させ、上記補強材Pと同じ速度で移送した。枠型容器2の上方には、ホッパー4、さらに上方には回転式混合機5が設置されており、上記回転式混合機5中に、上記(i)で作製した熱硬化性樹脂粉末(a)と低比重充填材(b)を入れて均一に混合して粉体組成物Mを作製した。得られた粉体組成物Mを、ホッパー4を通って、枠型容器2内に連続的に供給した。
【0047】
枠型容器2の下流側の端部には上記補強材Pの幅方向にわたって均一な高さ(1.4mm)に調整した厚み制御ギャップ6が形成されており、上記補強材Pの表面に厚さ約1.13mmの粉体組成物層を均一に形成した。厚み制御ギャップ6は、容器2の下流側の側面を上下方向にスライド可能としてその高さを変えることにより、所望の厚みに粉体組成物層を適宜調整できるようになっている。また、別途剥離シートSをロール体7から引き出して、粉体組成物層上面に添着した。
【0048】
このようにして得られた均一な粉体組成物層を有するウェブ状の上記補強材Pは、剥離シートSおよびSで上下面を挟まれた状態で、140℃に加熱された一対の加熱ロール8および9の周面に通過させ、加圧ロール10による線圧20N/cmの加圧下で加熱した。このとき、粉体組成物中のエポキシ樹脂は部分的に溶融してガラスバルーンと一体化した状態でウェブ状の上記補強材Pに一部含浸しながら固着され、半硬化状態のプリプレグPが形成された。
【0049】
プリプレグPは2枚の刃が対抗して接離する切断装置11によって、所定の大きさ(1000mm×1000mm)の方形状に切断してシート状材料Pとし、剥離シートS、Sを剥してから、上記シート状材料P複数枚を積層してホットプレス機12に収容して融着成形した。
【0050】
図1に示すようにホットプレス機12は、複数の加熱加圧盤13を積み重ねた構造であり、それぞれの間にシート状材料Pを7枚積層配置して5MPaの圧力下で175℃に加熱し、これらを融着一体化した。
【0051】
このようにしてホットプレス12による加熱成形を経たシート状材料Pの積層体は、つぎに切断機15によって所定の大きさに切断され、最終製品である樹脂積層板Aを得た。
【0052】
また、図1に示すように、剥離シートSおよびSは、無端環状として、それぞれ加圧ロール10または加熱ロール9の周面を経由するよう周回させると、これらをプリプレグPの上下面から自動的に剥すことができ、しかも剥離シートS、Sの再使用によって生産コストが低減する。なお、上記した剥離シートS、Sはポリエステル製のものを示したが、その他の合成樹脂製または紙であってよいのはもちろんである。
【0053】
得られた上記樹脂積層板の比重、絶縁抵抗(常態および煮沸後)、曲げ強さ、圧縮強さ、吸水率および熱伝導率を測定して、それらの結果を以下の表3〜4に示す。熱伝導率の測定はASTM D4351に準拠し、芝山式(アセトン‐ベンゼン法)により行い、その他の測定方法は、JIS K 6911に準拠して行った。
【0054】
(試験結果)
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
実施例1の本発明の樹脂積層板は、熱硬化性樹脂粉末の粒径が大きい以外は同様にして作製した比較例1の従来の樹脂積層板と比べて、比重は同等でも、曲げ強さ、圧縮強さ、絶縁抵抗(常態および煮沸後)、吸水率などの他の物性が非常に優れたものとなった。
【0057】
また、実施例2〜4の本発明の樹脂積層板は、比較例の従来の樹脂積層板と比べて、絶縁抵抗(常態および煮沸後)、曲げ強さ、圧縮強さおよび吸水率などの他の特性を損なうことなく、熱伝導率は小さくなり、比重が非常に低くなっていることがわかる。
【0058】
更に、粉体組成物の塗布量を増加した以外は実施例4と同様にして作製した実施例5の本発明の樹脂積層板は、煮沸後の絶縁抵抗、曲げ強さおよび吸水率が若干低下しているものの、熱伝導率が更に低く断熱性に優れ、比重が0.83と更に非常に低い値を示し、大きな軽量化が可能となった。また、熱硬化性樹脂粉末の粒径を変更した以外は実施例5と同様にして作製した実施例6〜7の本発明の樹脂積層板も、煮沸後の絶縁抵抗、曲げ強さおよび吸水率が若干低下しているものの、熱伝導率が低く断熱性に優れ、比重が0.83と更に非常に低い値を示し、大きな軽量化が可能となった。
【0059】
比較例1は、熱硬化性樹脂粉末の粒径が大きいため、熱硬化性樹脂粉末の粒径が小さい以外は同様にして作製した実施例1の樹脂積層板と比較すると、比重値は同等であるが、上記他の物性が非常に劣るものとなっており、
比較例2は、熱硬化性樹脂粉末の粒径が小さい以外は同様にして作製した実施例5の樹脂積層板と比較すると、熱硬化性樹脂粉末の粒径が大きいため、粉体組成物を繊維製補強材に仮着するバインダー量が不足し、シート状材料を作製できず、成形できなかった(従って、特性評価ができなかった)。
【0060】
比較例3は、熱硬化性樹脂粉末の粒径が110μmと大きく、熱硬化性樹脂粉末の粒径が小さい以外は同様にして作製した実施例5〜7の樹脂積層板と比較すると、比重値および熱伝導率値は同等であるが、その他の特性が非常に劣るものとなっており、また粉体組成物の繊維製補強材への仮着が不十分であるため、ハンドリング性が悪く、生産性に劣るものとなった。
【0061】
また、熱硬化性樹脂粉末の粒径を0.5μmで粉砕しようとした結果、粉砕時に発生する熱により、樹脂が溶融したため粉砕できなかった。
【0062】
即ち、本発明の低比重樹脂積層板の製造方法を用いることによって、従来の積層板の製造方法では製造できなかった上記実施例5〜7の比重0.83の積層板が製造可能となったのである。
【符号の説明】
【0063】
P … 繊維製補強材
… プリプレグ
… シート状材料
… 低比重充填材を含まない繊維製補強材を熱硬化性樹脂溶液に含浸して得られたプリプレグ
M … 粉体組成物
A、A、A … 低比重樹脂積層板
、S … 剥離シート
1 … 繊維製補強材ロール体
2 … 枠型容器
3、7 … 剥離シートロール体
4 … ホッパー
5 … 回転式混合機
6 … 厚さ制御ギャップ
8、9 … 加熱ロール
10 … 加圧ロール
11 … 切断装置
12 … ホットプレス機
13 … 加熱加圧盤
14 … 鏡面板
15 … 切断機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)(a)熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と
を均一に混合して粉体組成物を形成する工程、
(ii)該粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させる工程、
(iii)該粉体組成物を加圧下で加熱して、該繊維製補強材に仮着してシート状材料を形成する工程、および
(iv)該シート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化する工程
を含み、
該熱硬化性樹脂粉末が粒径1〜100μmを有することを特徴とする低比重樹脂積層板の製造方法。
【請求項2】
前記工程(iv)において、前記シート状材料を複数枚積層すると共に、その最上層、最下層およびこれらの中間層から選ばれる1以上の層に繊維製補強材に熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグシートを積層し、加熱プレスして、融着一体化する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂の混合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂が軟化点60〜120℃およびエポキシ当量450〜2000)を有し、前記ノボラック型エポキシ樹脂が軟化点60〜120℃を有し、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ノボラック型エポキシ樹脂の配合比が8/1〜1/1である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法により製造される低比重樹脂積層板。
【請求項6】
(a)熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と、
(c)繊維製補強材と
を含有し、比重0.6〜1.1、曲げ強さ100MPa以上および圧縮強さ150MPa以上を有することを特徴とする低比重樹脂積層板。
【請求項7】
(i)(a)粒径1〜100μmを有する熱硬化性樹脂粉末と、
(b)有機質バルーン、無機質バルーンおよびそれらの混合物から成る群から選択される充填材と
を均一に混合して粉体組成物を形成し、
(ii)該粉体組成物を繊維製補強材の表面に均一に接触させ、
(iii)該粉体組成物を加圧下で加熱して、該繊維製補強材に仮着してシート状材料を形成し、
(iv)該シート状材料を複数枚積層し、加熱プレスして、融着一体化する
ことによって製造され、
比重0.6〜1.1、曲げ強さ100MPa以上および圧縮強さ150MPa以上を有することを特徴とする低比重樹脂積層板。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂の混合物であり、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ノボラック型エポキシ樹脂の配合比が8/1〜1/1である請求項7記載の低比重樹脂積層板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−56473(P2013−56473A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196173(P2011−196173)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000226448)日光化成株式会社 (2)
【Fターム(参考)】