説明

低水セメント成形体及び低水セメント成形方法

【課題】良好な耐圧縮強度を有するセメント成形体を少量の水で製造できるようにすること。
【解決手段】本発明では、セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することでセメント成形体を製造することにした。特に、前記微粉体として都市ごみ溶融スラグを水砕した後に篩選別したものを利用することにした。
このように、セメントと微粉体とを圧縮成型することで、良好にセメント成形体を製造することができ、必要十分な水分として対セメント比5〜20%の水を添加することで、従来のセメント成形よりも水の使用量が著しく少なくなって養生時間を大幅に短縮することができるとともに圧縮時のすべりの発生を防いで良好に成型することができ、さらに、骨材となる微粉体の粒径を1mm未満のものを篩選別して用いることで、耐圧縮強度を増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低水セメント成形体及び低水セメント成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、セメントを結合剤として用いたセメント成形体は、土木・建設資材として広く利用されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
この従来のセメント成形体は、所望の耐圧縮強度を得るために砕石や砂などの骨材を多量に含有し、これにセメントと多量の水とを加えた後に混練し、その後、所定形状にするために型枠内に流し込み、長時間放置して固化させてから脱型し、脱型後も長期間養生して製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のセメント成形体においては、骨材によって所望の耐圧縮強度が得られるようにしているために、骨材自体に硬度や強度等が要求されており、骨材の材質やサイズ等に制限があった。
【0006】
その一方で、土木や建設の分野においては、砕石や砂などの資源が枯渇状態となっており、また、砕石時のスラッジや生コンクリートの洗浄時のノロなどのように微粉体が多量に発生しているにもかかわらず、これらの微粉体は、表面積が大きくて固化に必要となるセメントの量が増大し、しかも、強度的に弱いなどの理由から、骨材としては利用されていなかった。
【0007】
そこで、本発明者は、従来利用されていなかった微粉体を骨材として用い、耐圧縮強度の良好なセメント成形体を製造する技術を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明では、低水セメント成形方法において、セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することでセメント成形体を製造することにした。
【0009】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、前記微粉体として都市ごみ溶融スラグを水砕した後に篩選別したものを利用することにした。
【0010】
また、請求項3に係る本発明では、前記請求項1又は請求項2に係る本発明において、脱型後にアルカリ水中又は通常水中で養生することにした。
【0011】
また、請求項4に係る本発明では、前記請求項3に係る本発明において、脱型後に、アルカリ水中又は通常水中での養生と、その後の乾燥とを繰返し行うことにした。
【0012】
また、請求項5に係る本発明では、前記請求項1〜4のいずれかに係る本発明において、繊維体を混練することにした。
【0013】
また、請求項6に係る本発明では、低水セメント成形体において、セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することで製造することにした。
【0014】
また、請求項7に係る本発明では、前記請求項6に係る本発明において、前記微粉体として都市ごみ溶融スラグを水砕した後に篩選別したものを利用することにした。
【0015】
また、請求項8に係る本発明では、前記請求項6又は請求項7に係る本発明において、繊維体を混練することにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することで、耐圧縮強度の良好な微粉体を用いたセメント成形体を製造することができる。
【0017】
特に、微粉体として都市ごみ溶融スラグを用いた場合には、廃棄物としての都市ごみ溶融スラグの有効利用を図ることもできる。
【0018】
また、繊維体を混入させた場合には、低水セメント成形体の曲げ強度を増大させることができる。
【0019】
さらに、脱型後に水中養生させた場合には、固化に必要な充分な反応水を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従来のセメント成形体は、通常30N/mm2の耐圧縮強度を得るために、たとえば、
セメント:344Kg
水 :165Kg
骨材 :733Kg
を混練し、型枠に流し込み、所定時間経過後に脱型し、脱型後も所定期間養生することで製造していた。
【0021】
これに対して本発明では、骨材資源の枯渇や大量発生する微粉体の処理を考慮して、骨材として微粉体を利用することに着目した。
【0022】
しかしながら、単に骨材として微粉体を用いた場合には、微粉体の表面積が大きいために、固化に必要となるセメント量が増大し、それに伴って、使用する水の量も増大してしまうことや、骨材を微粉体とすることで耐圧縮強度が低減してしまうことが懸念された。
【0023】
そのため、骨材として微粉体を用いつつ、セメント成形体としての耐圧縮強度を低減させない技術の開発が必要となった。
【0024】
そこで、まず、耐圧縮強度を良好に保持するために、ただ単に型枠内で養生してセメント成形体を製造するのではなく、セメントと微粉体を型枠の内部で圧縮して成型することにした。
【0025】
セメントと微粉体とを型枠の内部で圧縮して成型してみると、加圧力の増大に伴って密度の高いセメント成形体が製造できるものの、密度には自ずと限界があり、その限界付近(約200Kgf/cm2〜1000Kgf/cm2程度)では、セメントや微粉体の微粒子相互の摩擦抵抗に起因してすべりが生じ、加圧力と密度とが比例せずに段階的に密度が増大することがわかった。
【0026】
このセメントと微粉体との圧縮成型をすべりを発生させずに円滑に行うために、微粉体の摩擦抵抗を低減させるようにある程度の水を添加することを考えた。
【0027】
従来のセメント成形体においては、セメントと水との水和反応を利用してセメントを固化させているために、骨材自体の吸水も考慮して多用の水を加えていたが、本発明では、セメントと微粉体とを基本的には圧縮成型することで固化させているために、必要最小限の水の添加で十分である。そこで、水分量を調整してセメント成形体を製造したところ、対セメント比で5%未満の水分量ではセメントと微粉体とを円滑に圧縮成型できずに耐圧縮強度が得られず、一方、対セメント比で20%以上の水分量では余剰の水分によって耐圧縮強度が得られず、しかも、成形後に長時間の養生が必要となることがわかった。
【0028】
以上の検討結果を踏まえて、本発明では、骨材として微粉体を用いることとし、それにセメントと対セメント比5%以上20%未満の水を加え、これらを混練した後に型枠の内部に流し込み、型枠の内部で所定の加圧力(約320Kgf/cm2〜600Kgf/cm2程度)をかけて圧縮成型することにした。
【0029】
さらに、微粉体の粒径に注目し、微粉体の粒径がセメント成形体の耐圧縮強度に与える影響について検討してみた。
【0030】
すなわち、
セメント:100Kg
微粉体 :330Kg
水 : 15Kg
とし、微粉体を篩選別して微粉体の粒径が異なるセメント成形体を製造し、その耐圧縮強度を測定した。
【0031】
すると、微粉体の粒径が1.0mm以上(3.0mm未満)の場合には、17.46N/mm2と通常のコンクリートよりも耐圧縮強度が低減してしまうことがわかった。
【0032】
その一方で、微粉体の粒径が1.0mm未満の場合には、31.43N/mm2と通常のコンクリートよりも耐圧縮強度が増大していることがわかった。
【0033】
さらに、微粉体の粒径が0.5mm未満の場合には、32.97N/mm2となり、微粉体の粒径が0.25mm未満の場合には、36.20N/mm2となり、通常のコンクリートよりも耐圧縮強度が増大していることがわかった。
【0034】
そのため、以上の検討結果を踏まえて、本発明では、骨材として1.0mm未満、好ましくは0.5mm未満、特に耐圧縮強度を必要とする場合には0.25mm未満の微粉体を篩選別して用い、それにセメントと対セメント比5%以上20%未満の水を加え、これらを混練した後に型枠の内部に流し込み、型枠の内部で所定の加圧力(約320Kgf/cm2〜600Kgf/cm2程度)をかけて圧縮成型することにした。
【0035】
ここで、微粉体としては、都市ごみ溶融スラグに限らずに、砕石時のスラッジ、生コンクリートの洗浄時のノロ、鋳物砂や金属粉や金属酸化粉や砥石粉やガラス粉やフライアッシュやアスベスト及びアスベスト分解物など、各種の粉末状の物質を利用することができ、いずれの場合でも、上記粒径に篩選別して利用することで良好な耐圧縮強度の低水セメント成形体を得ることができる。
【0036】
特に、微粉体として都市ごみ溶融スラグを水砕した後に篩選別したものを利用した場合には、廃棄物としての都市ごみ溶融スラグの有効利用を図ることもできる。
【0037】
この都市ごみ溶融スラグは、通常、水砕によって一般的に0.075mm〜5mmのサイズにばらついた砂粒体として排出される。また、都市ごみ溶融スラグは、マイクロクラックが多く生じており、圧縮強度が通常の石材に比べて非常に低く割れやすいといった欠点を有している。
【0038】
そのため、都市ごみ溶融スラグを土木用途以外に利用する場合には、排出された状態のままで使用するには適していない。
【0039】
一方、都市ごみ溶融スラグは、硬度がモース硬度5程度と高く、比重が通常の石材と同程度であって、吸水率が0.3%程度と低く、異物の混入が少ないといった特徴を有している。
【0040】
そこで、本発明では、排出された都市ごみ溶融スラグをロールクラッシャーで破砕し、その後、破砕した都市ごみ溶融スラグを1mm角メッシュのスクリーンを用いて篩選別した。
【0041】
これにより、破砕した都市ごみ溶融スラグを、篩選別にてスクリーン上に残留した粒径1mm以上の都市ごみ溶融スラグと、篩選別にてスクリーンを通過した粒径1mm未満の都市ごみ溶融スラグとに分離した。
【0042】
ここで、都市ごみ溶融スラグのサイズとしては、微粒化するほど耐圧縮強度が向上することから、求められる耐圧縮強度との関係で選択されるが、実用的には1mm以下がよく、0.5mm以下が好ましいく、望ましくは0.25mm以下がよい。
【0043】
そして、粒径1mm以上の都市ごみ溶融スラグを回収し、それらをショットブラストのブラスト材として供給し、ブラスト材として5〜6回繰り返して利用した。
【0044】
この粒径1mm以上の都市ごみ溶融スラグは、硬度が高く吸水率が低いなどの特徴から、ブラスト材として使用しても、ブラスト面の粗度やブラスト材としての沈降速度や硬度や耐久性や吸湿による流動性において全く問題がなく、優れたブラスト材として利用することができ、しかも、従来のグリット材と比較すると数分の1程度のコストとなるために、非常に経済的な効果が得られることが確認された。
【0045】
また、上記ブラスト材として供給された都市ごみ溶融スラグは、ブラスト材として5〜6回繰り返して利用した後に回収した。この回収したブラスト材(都市ごみ溶融スラグ)は、ブラスト材として繰り返して利用されることによって、粉砕や摩耗が行われ、供給時よりもサイズが小さくなっている。なお、回収する際には、ショットブラストにおいて発生する粉末状の金属や錆や塗装剤なども混合された状態で回収した。
【0046】
この回収したブラスト材(都市ごみ溶融スラグ)を骨材として利用することにした。その際に、回収したブラスト材を篩選別して粒径1mm未満のブラスト材だけを骨材として利用してもよいが、上記篩選別において分離された1mm未満の都市ごみ溶融スラグと混合して骨材として利用することにした。
【0047】
このように、篩選別により所定サイズ(ここでは、粒径1mm)未満の都市ごみ溶融スラグとブラスト材として繰り返して利用された都市ごみ溶融スラグは、初期の排出された都市ごみ溶融スラグと比べて微粒化されている。これは、初期の都市ごみ溶融スラグは、圧縮強度が低いために、骨材としては不向きであるが、微粒化により圧縮強度が増大し、固化剤の骨材として大量に混合することが可能となるからである。
【0048】
以上に説明したように、本発明では、セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することで低水セメント成形体を製造することにしている。
【0049】
このように、セメントと微粉体とを圧縮成型することで、良好にセメント成形体を製造することができ、必要十分な水分として対セメント比5〜20%の水を添加することで、従来のセメント成形よりも水の使用量が著しく少なくなって養生時間を大幅に短縮することができるとともに圧縮時のすべりの発生を防いで良好に成型することができ、さらに、骨材となる微粉体の粒径を1mm未満のものを篩選別して用いることで、耐圧縮強度を増大させることができる。
【0050】
また、水分の含有率が低い低水セメントであるために、圧縮成型直後に脱型することができ、型枠内での養生期間を省略することができ、短期間での製造が可能である。
【0051】
また、脱型後に、アルカリ水(アルカリ性の水)又は通常水(中和状態の水)の中にたとえば10時間程度浸漬させ、固化に必要となる充分な反応水を得るようにしてもよい。このアルカリ水中又は通常水中での養生とその後の乾燥(たとえば、3日間自然放置)とを複数回繰り返し行ってもよい。なお、水中に限られず水分が過飽和状態の空気中で養生するようにしてもよい。
【0052】
また、セメントと微粉体と水とを混練する際に、対セメント重量比が5〜20%の水を添加した場合に限られず、水分を排出可能な構造の脱水型枠を用いて対セメント重量比が20%以上の水を添加し、型枠から脱水された後の残留する水分量が対セメント重量比で5〜20%となるようにしてもよい。
【0053】
さらに、補強のためにたとえばセルロース等の繊維体を混入させてもよい。繊維体を混入させた場合には、内部に粗粒物を含んでおらず流動性が良好であるために、圧縮成型時に圧縮方向と直交する向きに繊維体が整列されて固化することになり、低水セメント成形体の曲げ強度を増大させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することでセメント成形体を製造することを特徴とする低水セメント成形方法。
【請求項2】
前記微粉体として都市ごみ溶融スラグを水砕した後に篩選別したものを利用することを特徴とする請求項1に記載の低水セメント成形方法。
【請求項3】
脱型後にアルカリ水中又は通常水中で養生することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の低水セメント成形方法。
【請求項4】
脱型後に、アルカリ水中又は通常水中での養生と、その後の乾燥とを繰返し行うことを特徴とする請求項3に記載の低水セメント成形方法。
【請求項5】
繊維体を混練することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の低水セメント成形方法。
【請求項6】
セメントと粒径1mm未満の微粉体と対セメント比5〜20%の水とを混練した後に圧縮成型することで製造したことを特徴とする低水セメント成形体。
【請求項7】
前記微粉体として都市ごみ溶融スラグを水砕した後に篩選別したものを利用することを特徴とする請求項6に記載の低水セメント成形体。
【請求項8】
繊維体を混練したことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の低水セメント成形体。

【公開番号】特開2012−25620(P2012−25620A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165713(P2010−165713)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(504038284)
【出願人】(510144904)
【出願人】(507183000)
【Fターム(参考)】