説明

低消費動力ケーブル

【課題】モータのインバータ駆動に代表される連続パルスにより電力を制御するシステムに使用する動力用ケーブルおいて,連続パルスのスイッチングにあわせた動力用ケーブルの充放電に伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルを提供する。
【解決手段】導体1aの外周に絶縁被覆を施した絶縁心線1を複数本と中空構造などの絶縁体5を撚り合わせ,その上に低実効誘電率のシース9を施した動力用ケーブルで、各心線間に低実効誘電率の絶縁体を施し,更に中空絶縁体により導体間の離隔距離を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,インバータに代表される連続パルスによる電力制御装置および駆動装置のスイッチング動作に伴い発生する充電電流を低減する動力用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
省エネ対策として,例えばモータや蛍光灯,高圧ランプなどの照明器具の駆動,制御にインバータに代表される連続パルスによる駆動,電力制御装置の利用が増えてきている。連続パルスのスイッチングにあわせて動力用ケーブルは充放電され,特に高い繰返し周波数でスイッチング動作するインバータなどでは,充放電が頻繁に行なわれ,充電電流が増加し消費電力の増加になるため,この充放電に伴う充電電流が課題となっている。従来の動力用ケーブルでは,負荷で必要とする低周波数帯の電流を通電する際に導体で発生する消費電力を低減するために,導体サイズを太くし電気抵抗を小さくする方法が一般的に知られている。しかしながら,動力用ケーブルの充放電に伴う高周波数帯の充電電流により発生する消費電力を低減することは考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2008−041708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1のインバータによるモータ駆動のように連続パルスにより電力を制御するシステムにおいて使用される動力用ケーブルは,図2に示すようにパルスのスイッチングにあわせて充放電が繰返される。パルスがオフからオンへスイッチングする際に充電され,オンからオフへスイッチングする際に放電が行なわれる。この充電時に,動力用ケーブルの種類や長さに応じた充電電流が動力用ケーブルに流れ込む。例えば,従来の動力用ケーブルであるキャブタイヤケーブルでは本来の負荷で必要とする低周波数帯の電流に係わらず表3の消費電力が発生する。さらには,この充電電流は相間および対地間に漏れ電流として流れ,伝導ノイズおよび放射ノイズの一因となる。ここで,動力用ケーブルの充放電に伴う消費電力は,図3に示すように電力計をインバータ入力側に設置し,インバータへ動力用ケーブルを接続したときと未接続としたときの各電力を測定しその差分とする。なお,動力用ケーブルの非インバータ接続端は開放とする。

【表1】

【表2】

【表3】

【0005】
例えば,インバータによるモータ駆動システムにおいては,インバータにより動力用ケーブルに入力されたパルスが動力用ケーブルの相間および対地間を充電しながらモータ端へ伝搬しモータ端で反射する。このモータ端で反射したパルスがインバータ端に達するまでの間,充電電流が動力用ケーブルに流れ込む。この充電電流により発生する消費電力Pは,パルス電圧Ecと動力用ケーブルに流れ込む充電電流iおよびパルスの繰返し周波数fにより式1で与えられる。


P=∫Ec・i
dt × f ・・・(式1)

これにより、消費電力Pを抑えるためには、充電電流を低減することにより消費電力の低減が可能であることがわかる。動力用ケーブルに流れ込む充電電流の充電量Icは,図4に示すように,充電電流値Imと充電時間tcの積で近似できる。充電電流値は,パルス電圧と動力用ケーブルの相間および対地間の特性インピーダンスにより決まり,充電時間は,充電電流が動力用ケーブルに入力されてから動力用ケーブルを伝搬してモータ端で反射し,その反射した充電電流がインバータ端に達するまでの時間であり,動力用ケーブル長に比例する。この知見を基にして、本発明は,このような動力用ケーブルの充放電に伴う消費電力の低減およびノイズ対策として,従来の動力用ケーブルよりも充電電流の充電量を低減した動力用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために,本発明の動力用ケーブルは,従来の動力用ケーブルより充電電流値と充電時間の積としての充電量を低減し,さらには漏れ電流を低減するものであって,従来の動力用ケーブルに比べ10Ω以上高い特性インピーダンスとなるように,さらには,単位長当たりの充電時間が10ns以下となるように,低実効誘電率の絶縁構造を相間および対地間に備えることを特徴とする。ここで,本発明においては,低実効誘電率とは2以下の実効誘電率を言う。なお,従来の動力用ケーブルであるキャブタイヤケーブルの絶縁心線やシースは,測定をすると実効誘電率がおおよそ2.3から3.4の範囲にある。
【0007】
また,本発明の動力用ケーブルは,従来の動力用ケーブルより充電電流値を低減し,さらには漏れ電流を低減するものであって,従来の動力用ケーブルに比べ10Ω以上高い特性インピーダンスとなるように,磁性材を各絶縁心線の絶縁被覆またはシースに,又は各絶縁心線の絶縁被覆の外周または絶縁心線を一括するように配置することを特徴とする。なお,代表的な従来の動力用ケーブルの特性インピーダンス例を表4に,その測定方法を図5に示す。
【表4】


【発明の効果】
【0008】
図7の第1の実施の形態に示す本発明の絶縁被覆に発泡ポリエチレンを使用した導体サイズ2mm2で4心の動力用ケーブル50mと従来の動力用ケーブルVCT4-2mm2 50mとの充電量および消費電力の比較結果を表6に,充電電流波形を図6に示す。
【表6】

本発明により,動力用ケーブルの充電量低減により,本来の負荷で必要とする電力に係わらず使用する動力用ケーブルで発生する消費電力を抑制する効果を得られ,省エネを実現できるものである。また,本発明においては,インバータなどの制御装置を変更することなく,安価に省エネができ,工業的価値の大きい動力用ケーブルを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インバータによるモータ駆動システム例
【図2】パルス電圧と動力用ケーブルに流れ込む電流図
【図3】動力用ケーブル充放電に伴う消費電力の測定
【図4】動力用ケーブル充電時電流波形拡大
【図5】4芯キャブタイヤケーブル特性インピーダンス測定
【図6】充電電流波形
【図7】第1の実施例
【図8】第2の実施例
【図9】第3の実施例 (a)ケーブル構造 (b)コルデル絶縁体構造
【図10】第4の実施例
【図11】第5の実施例
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
第1の実施の形態例を図7に示す。これは請求項1又は請求項3記載の発明に対応する実施例であり、各絶縁心線の絶縁被覆およびシースに発泡度30%の発泡ポリエチレンを用いる。
導体1aの外周に高発泡絶縁体による低実効誘電率の絶縁被覆1bを施した絶縁心線1を複数本撚り合わせ、その上に低実効誘電率のシース9を施した動力用ケーブル。導体の外周に高発泡絶縁などの低実効誘電率の絶縁被覆を施すことで導体1a,2a,3aおよび4a間を1.95の低実効誘電率とし,充電量の低減を実現する。
【実施例2】
【0011】
第2の実施の形態例を図8に示す。これは請求項4記載の発明に対応する実施例であり、各絶縁心線間および各絶縁心線とアース間に空隙として中空構造を設けたものである。
導体1aの外周に絶縁被覆を施した絶縁心線1を複数本と中空構造などの絶縁体5を撚り合わせ、その上にシース9を施した動力用ケーブル。各心線間に低実効誘電率の絶縁体を施し,更に中空絶縁体により導体間の離隔距離を確保することで導体1a,2a,3aおよび4a間を1.85の低実効誘電率とし,充電量の低減を実現する。
【実施例3】
【0012】
第3の実施の形態例を図9に示す。これは請求項2記載の発明に対応する実施例であり,各絶縁心線に2以下の低実効誘電率となる絶縁体を用いたものである。
導体1aの外周に絶縁被覆1bを施した絶縁心線にコルデル1cを巻きつけた心線1を複数本撚り合わせ、その上に低実効誘電率のシース9を施した動力用ケーブル。コルデル型絶縁体とすることで各心線間を低実効誘電率とし,導体間の離隔距離を確保することで導体1a,2a,3aおよび4a間を1.24の低実効誘電率とし,充電量の低減を実現する。
【実施例4】
【0013】
第4の実施の形態例を図10に示す。これは請求項6又は請求項7記載の発明に対応する実施例であり,絶縁心線を一括する絶縁材を施した,さらにはリターン線を低インダクタンスとするように対称形構造を用いる。
導体1aの外周に絶縁被覆1bを施した絶縁心線1を3本,ケーブル断面方向から見て,それぞれの絶縁心線を,ほぼ正三角形の3つの頂点上に独立させて配置し,さらに,3本のからなるリターン線6をそれぞれ,ほぼ正三角形の3つの頂点に独立させて配置し,かつ,絶縁心線の頂点とリターン線の頂点がほぼ45度のズレ角度となるように撚り合わせ,その外周にフェライトテープ8を施し、その上にシース9を施した動力用ケーブル。対称形構造とすることで伝導ノイズを低減し,さらに外周のフェライトテープにより放射ノイズを低減する。また,リターン線と絶縁心線を介在7で離隔することで,導体1a,2a,3aとリターン線6間を1.94の低実効誘電率とし,充電量の低減を実現する。
【実施例5】
【0014】
第5の実施の形態例を図11に示す。これは請求項1又は請求項4記載の発明に対応する実施例であり,各絶縁心線間および各絶縁心線とアース間に空隙として中空構造を設けたものである。
導体1a,2a,3aおよび4aに絶縁被覆10を施し,ケーブル断面方向から見て,それぞれの導体を,ほぼ正方形の4つの頂点上に配置し,その上に低実効誘電率のシース9を施した動力用ケーブル。隣接する導体を同一円周上に,ほぼ90度回転した位置に配置することで離隔距離を確保し,さらに中空絶縁体5により強度の確保,および導体1a,2a,3aおよび4a間を1.74の低実効誘電率とし,充電量の低減を実現する。
【符号の説明】
【0015】
1a 導体
1b 絶縁体
1c
コルデル
2a 導体
3a 導体
4a 導体
1 絶縁芯線
5 絶縁体
6 リターン線
7 介在
8 フェライトテープ
9 シース
10 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続パルスに伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルであって,充電電流値と充電時間の積としての充電量を低減するように,相間および対地間の特性インピーダンスを大きくするように,各導体間の絶縁体の実効誘電率を2以下の低実効誘電率となるように構成したことを特徴とする動力用ケーブル。
【請求項2】
前記2以下の低実効誘電率となるような構成として、各絶縁心線の絶縁被覆又はシースに2以下の低実効誘電率の絶縁体を用いることを特徴とする請求項1に記載した動力用ケーブル。
【請求項3】
連続パルスに伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルであって,各絶縁心線の絶縁被覆およびシースに発泡ポリエチレンを用いた請求項2に記載した動力用ケーブル。
【請求項4】
連続パルスに伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルであって,充電電流値と充電時間の積としての充電量を低減するように,相間および対地間の特性インピーダンスを大きくするように,各絶縁心線間および各絶縁心線とアース間に空隙を設けたことを特徴とする動力用ケーブル。
【請求項5】
連続パルスに伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルであって,充電電流値を低減するように,相間および対地間の特性インピーダンスを大きくするように各絶縁心線の絶縁被覆またはシースに磁性材を使用することを特徴とする動力用ケーブル。
【請求項6】
連続パルスに伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルであって,充電電流値を低減するように,相間および対地間の特性インピーダンスを大きくするように各絶縁心線の絶縁被覆の外周または絶縁心線を一括する磁性材を配置することを特徴とする動力用ケーブル。
【請求項7】
連続パルスに伴い発生する充放電電流を抑制する動力用ケーブルであって,充電電流による放射ノイズまたは伝導ノイズを低減するように,リターン線が低インダクタンスとなるように対称形構造としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の内の一つの請求項に記載した動力用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−22831(P2012−22831A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158527(P2010−158527)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(390002598)沖電線株式会社 (45)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】