説明

低減されたパワー閾値による、HIFU(高密度焦点式超音波)誘起キャビテーション

本願発明は、強力に集束された超音波デバイスに関する。さらに本願発明は、液状試料に音響エネルギーを照射して、液状試料内にキャビテーションを形成するための装置に関する。この装置(100)はソースを有しており、カートリッジ(105)を受け入れるように構成されており、この装置は、ソースから放射されたHIFU波を液体空気インタフェース上にフォーカシングする。この液体空気インタフェースは、カートリッジ内にある。このフォーカシングは、カートリッジが装置の受け入れ部分内に挿入されているときに実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願に対するクロスリファレンス
本願発明は、2009年4月14日に出願された、欧州特許出願EP09157849号の優先権を主張しており、この文献の開示内容は、本願発明に参照として取り入れられている。
【0002】
技術分野
本願発明は、キャビテーションを誘起するための音響デバイスに関する。殊に、本願発明は、音響エネルギーを試料に照射するための装置に関する。これによって、液状試料内にキャビテーションが形成される。本願発明はさらに、液状試料内にキャビテーションを形成するために液状試料に音響エネルギーを照射する装置のためのカートリッジ、液状試料に音響エネルギーを照射するためのシステム、コンピュータプログラムエレメント、コンピュータ読み出し可能な媒体および液状試料内にキャビテーションを形成するために、音響エネルギーを液状試料に照射するための方法に関する。
【0003】
背景技術
高密度焦点式超音波(HIFU)は、試料を処理する既知の技術の問題を解決するモレキュラーデバイスアプリケーションにおいてますます使用されるようになってきている。試料にフォーカシングされる音響エネルギーによって、音物理または音化学的反応が、効果的に得られる。さらに近年、ミクロトータル分析システムまたはラボチップとして知られているsample-in result-outデバイスの多くの点において発展がみられる例えば、集積および小型化によって、システムが得られる。このシステムでは、試料の雑菌混入リスクは比較的比較、受容可能な程度であり、検査感度は高く、検査準備時間は短くかつ検査毎のコストは低い。さらに、試料インプットと結果生成との間に、極めて僅かな操作者介入しか必要とされない操作者介入は、比較的経験の浅い操作者および操作環境に対する緩い要求によって行なわれる。
【0004】
キャビテーションは、液圧がその蒸気圧よりも低下した場合に、液体内部領域に気泡が形成される現象として定義される。分子分析装置において、キャビテーションは、試料内の細胞溶解を実現するために使用される。この試料はHIFUによって処理されるべきものである。しかし、混合液化等の他の処理機能もHIFUによって実現される。既知の技術の枠内では、処理機能である混合と溶解は異なるパワーレベルを必要とする。従って、1つのチャンバ内でこれら両方を行うのは困難である。より高いパワーを備えたシステムを提供するために、大きい変換器が使用され、液状冷却が過度の加熱を回避するために使用される。
【0005】
発明の概要
本願発明の1つの課題は、低減されたパワーによるHIFU試料処理を提供することである。
【0006】
定義および省略形:
本願発明のコンテキストでは、以下の定義および省略形が使用される:
高密度焦点式超音波(HIFU):
用語「HIFU」は本願発明のコンテキストでは、0.2Mhz〜10Mhzの範囲のソース周波数を伴った集束音響領域として使用される。これは、フォーカシングゾーン内に高圧衝撃波および/またはキャビテーションを形成するのに十分に効果的であるように選択された振幅を有している。フォーカシングゾーンの大きさ(長さおよび直径)は、ソーストランスデューサタイプに依存する(例えば、フラットなソーストランスデューサによるナチュラルフォーカシング、または円錐形/球形のソーストランスデューサによる増強フォーカシング)。示される周波数レンジに対する長さスケールの例は、(サブ)ミリメートルである。
【0007】
Sample-in result-outシステム:
(例えば生体)試料を受け入れるシステムであり、あらゆる種類の事項を検出するための、全ての必要な準備ステップを行い、検出および検出結果の伝達を行う。例えば、血液または他の細胞等の試料を分子分析するための装置が提供される。この装置は、生の、処理されていない試料の提供から、分析結果まで、全ての必要な分析ステップを行う。
【0008】
インタフェース/インタフェース媒体:
本願発明のコンテキストにおいて、音響エネルギーの伝搬経路は、ソース、フルソリッドカプラーおよびカートリッジ等の幾つかのコンポーネントから成る。 伝搬経路のこれらの種々の部材が物理的に相互にコンタクトをとる移行部または領域をあらわすために、用語インタフェースおよびインタフェース媒体が使用される。例えば、カプラーが物理的にカートリッジと接触する場合、カプラーのインタフェース媒体は、カプラー内で使用されている材料をあらわし、カプラーのこの領域内でカートリッジと接触する。
【0009】
装置/デバイス:
表現「デバイス」は、本願発明のこのコンテキスト内では、他のデバイス並びに、分子診断デバイスを含んでいる。このデバイスの用途は例えばヘルスケア/ライフサイエンス、食品産業、獣医学実務および法医学上の用途である。
【0010】
試料:
用語「試料」が、本願発明に相応するデバイスによって処理される、分子分析のための試料を含んでいることに留意されたい。例えば血液、培養血液、尿、吸引液、粘性の水分を伴う試料、異種試料またはBAL等のキャリア上の試料、唾液、気管吸引液、CSF、病原体を伴う綿棒および/またはブラシである。しかしこれは、あらゆる他の種類の物体、固体、液体、気体またはこれらのあらゆる組み合わせが、試料になること、および本願発明によって、集束された音響エネルギーが照射されることから排除されることを意味するものではない。
【0011】
試料の処理:
用語「処理」または「処理を行う」は、本願発明のコンテキストでは、焦束された音響エネルギーと試料との相互作用をあらわす。HIFUによって、種々の音化学および/または音物理的な反応が試料内で形成され、機能性を提供する。これは例えば混合、散乱、撹拌、綿棒またはブラシからの溶出、液化、溶解または細胞解放である。
【0012】
本願発明の1つの実施例では、液状試料に音響エネルギーを照射することによって液状試料内にキャビテーションを形成する装置が提供される。この装置は、強力な超音波を放出するためのソースを含んでいる。さらに、この装置はカートリッジを受け入れるように構成されている。例えばこの装置は、カートリッジを受け入れるための受け入れ部分を含んでいる。このカートリッジは、液状試料および液体空気インタフェースを含んでいる。さらに、この装置は強力な超音波をフォーカシングし、これによって、カートリッジが装置によって(例えば受け入れ部分によって)受け入れられている場合に、カートリッジ内の液体空気インタフェースの上方に液体の噴流が形成される。
【0013】
換言すれば、この装置はカートリッジと結合されている。これはフロースルーカートリッジではなく、最初に、液状試料を提供し、次に液状試料上方の空気体積を提供する。従って、液状試料と空気体積との間の境界層が、カートリッジ内に存在する。さらにこの装置は、受け入れ部分でカートリッジを受け入れるように構成されている。これによってソースからカートリッジ、従って液状試料への、強力な超音波のための伝搬経路が形成される。
【0014】
噴流を形成するフォーカシングは、種々の方法によって実現される。例えば、装置は直接的に液体空気インタフェースにフォーカシングすることもあるが、このインタフェースの下方に、液体試料内にフォーカシングする、または、このインタフェースの上方に、空気体積内にフォーカシングすることもある。この空気体積は、液体空気インタフェース上方に、カートリッジによって提供される。これら全ての実施形態は、用語「液体空気インタフェースにフォーカシングする」の下に包括される。全てのフォーカシングの可能性の重要な観点は、噴流が形成される、ということである。噴流から液状試料に戻る噴流滴は、液状試料内でキャビテーションプロセスを引き起こす。液体に戻ったこの滴は、小さい気泡および/または薄い気膜を引き起こす。これは、キャビテーションに対するスタートポイントになる。フォーカシングのより正確な実施例を、以下で詳細に説明する:
フォーカシングの第1の実施例のケースでは、ソースおよび/または可能なフォーカシング部材(例えばレンズ)の焦点距離は、ソースから液体空気インタフェースまでの距離よりも長いので、結像焦点は、液体空気インタフェース上方にあり、従って、カートリッジ内の空気体積内にある。このような条件の場合には、噴流形成が容易に実現される。このケースでは、ソースから液体空気インタフェースへの一定量のHIFU波伝播は、このインタフェース上で空気体積内に伝達されるのではなく、反射してこの試料内に戻される。これによって、反射して戻されたHIFU波は多かれ少なかれ、液体空気インタフェース上にフォーカシングされる。このようなフォーカシングの方法、すなわち液体空気インタフェース上方の空気体積内に結像焦点領域または結像焦点を設けることは、本願発明の記載に含まれる、ということに特に注意されたい。このようなフォーカシングは、上述したように、液体空気インタフェースでの戻り反射を介して行われる。本願発明の重要なアスペクトは、噴流が形成されるように、装置がHIFU波を液体空気インタフェース上にフォーカシングする、ということである。これは、キャビテーションに必要なパワー閾値を低減させる。
【0015】
当然ながら、液体空気インタフェース上のHIFU波の直接的かつ明確なフォーカシングは、この装置によるHIFU波のフォーカシングの第2の実施例として可能である。これによっても、パワー閾値を低減させる噴流を形成することができる。この装置は、放射されたHIFU波を液体空気インタフェース上に、十分に高いパワーでフォーカシングするので、焦束されたHIFU波のフォーカシング領域内に噴流が形成される。
【0016】
この装置によるHIFU波のフォーカシングの第3の実施例を以下に記載する:ソースおよび/または可能なフォーカシング部材(例えばレンズ)の焦点距離が、ソースから液体空気インタフェースまでの長さよりも短い場合には、焦点またはフォーカシングスポットが試料液体内にある場合がある。焦点またはフォーカシングゾーンから液体空気インタフェースまでの距離の例は1〜2cmである。ここでこのフォーカシングゾーンは、カートリッジ内の液体内の液体空気インタフェースの下方にある。従って、重要なアスペクトとは、液体空気インタフェースの僅かに下に焦点を有するこのフォーカシングによって噴流が形成され、これによって、試料内のキャビテーションに必要なパワー閾値が低減される。
【0017】
さらに、用語「焦点距離」が誤解されてはならない。なぜならこれは焦点点を提示しているからである。実際に焦点形状は、点から円筒状までの範囲にわたる(弱いフォーカシングに対する曲線ソースまたはナチュラルフォーカシングフラットソース)。弱いフォーカシングまたは弱いフォーカシングソースによって、噴流が液体高さの範囲よりもさらに高く形成される。より大きいソース源入力パワーの場合には、液体インタフェースである液体空気インタフェースまでの間隔が増大し、これによってカートリッジ内のより大きい体積が、HIFU波によって処理される。
【0018】
換言すれば、分子診断装置が、低減されたパワー閾値によってキャビテーションを提供するために設けられる。従って焦束されたHIFU波によって形成される噴流の戻り滴は、試料内の核形成フィーチャとして機能する。換言すれば、本願発明のこの実施例は、従来技術で行われているように均一なキャビテーションを使用しない。本願発明のこの実施例は、異質なキャビテーションを使用する。なぜなら、液状試料内のキャビテーションは、この装置によって、フォーカシングによって噴流を形成することによって生起されるからである。
【0019】
換言すれば、本願発明のこの実施例は、カートリッジのチャンバの壁を介してキャビテーションを誘起することを回避する。
【0020】
この装置がフォーカシングを行い、噴流が生起され、次にこの噴流が、核生成素子としての、液体に戻る滴を生起させることによって、液状試料内でキャビテーションを形成するために必要なパワーが低減される。換言すれば、例えば液状試料の処理、事前処理または溶解の間のHIFU波のフォーカシングによって、低減されたエネルギーおよびパワーを備えたHIFU波を使用することが可能になる。これによって、より小さい変換器またはソースを使用することが可能になる。また、液体冷却が回避される。なぜなら、低減されたパワーが使用可能であるので、HIFU波の吸収による加熱も低減されるからである。さらに、HIFU波に対して、固体材料である、結合媒体および伝達媒体を用いることが可能になる。すなわち、ソースから試料へと伝播するときに、HIFU波はドライインタフェースをわたって変換される。これは、使用されるHIFU波のパワーが低減されることによって可能になり、また、この媒体内の吸収は、溶解および/または劣化を引き起こさない値まで低減される。
【0021】
さらに、より高い程度の小型化が、より小さい変換器またはソースを用いることが可能になったことによって実現され、装置の複雑さがさらに低減される。これに加えて、ポリマーベースの材料を、カートリッジの材料として使用することが可能になる。なぜなら、カートリッジによるHIFU波の吸収は、低減されたパワーのHIFU波を使用することが可能になることで低減されるからである。
【0022】
すなわち、カートリッジは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリマーベースの材料、およびこれらのあらゆる組み合わせを含むグループから選択された材料から形成される。カートリッジが特徴:処分可能、消費可能、除去可能のうちの1つを有することができることに対して付加的に、1つのチャンバまたは複数のチャンバは、産業上適切に、1つの試料または複数の試料を含むことができる。
【0023】
この上述した利点によって、装置のコストが下がり、装置および/またはカートリッジが小さくなる。さらに、冷却槽からの液体による試料の汚染リスクが回避される。なぜなら、冷却槽が必要でなくなるからである。
【0024】
さらに、液状試料内に存在する細胞を溶解するためにキャビテーションが必要であることに注意されたい。上述したように、キャビテーションを作成するために必要な最低パワーが低減されたことによって、この装置は、比較的小さいソースを伴う1つの装置セットアップを使用することを可能にする。このソースは、混合および溶解を行う、低減されたパワーを使用する。
【0025】
液状試料内にキャビテーションを作成するのに必要な最低パワーがこの装置によって低減されるので、混合および溶解を、ポリマー材料、例えばポリエチレン、エポキシおよびシリコーンから成るカートリッジ内で行うことができる。カートリッジの溶融および/または劣化は、本願発明のこの実施例によって回避される。なぜなら、使用されているパワーが低減されるからである。従って、カートリッジであるポリマーベースのプロセスチャンバは、消費可能なカートリッジを使用している完全なsample-in result-out systemの一部である。これによって、試料で行われる測定のコストが低減される。
【0026】
換言すれば、本願発明のこの実施例は、既知の技術の欠点を克服する。この欠点は、カートリッジまたはプロセスチャンバの壁が2つの機能を混合している、ということである。この2つの機能のうちの第1の機能は液状試料の封じ込めであり、第2の機能は、キャビテーションの誘起である。これらの既知の技術とは異なり、本願発明のこの実施例では、液状試料の封じ込めと液状試料内のキャビテーションの誘起は、別個に行われる。封じ込めはチャンバによって行われ、キャビテーションの誘起は液体空気インタフェースでのフォーカシングによって行われる。このインタフェースによって、キャビテーション誘起に対するパワー閾値を低減する噴流が形成される。
【0027】
本願発明のあらゆる実施形態において、キャビテーションの始まりが、HIFUソースのパワーに依存しないことに注意されたい。
【0028】
さらに、装置が起動されたときに、噴流が形成されるように装置が自動的に幾つかの種々のパラメータを調整するように、この装置は構成される。パラメータは、例えば、ソースのパワー、フォーカシングスポット位置および/またはフォーカシングスポットの形状である。
【0029】
本願発明の別の実施例では、液状試料内にキャビテーションを形成するために必要な最低パワーを低減させるための核形成部材が装置含まれており、噴流から液状試料上に戻る噴流の滴は核形成部材である。
【0030】
全ての可能なフォーカシング手段の重要なアスペクトは、噴流が形成される、ということである。噴流から液状試料に戻った噴流滴は、液状試料内でキャビテーションプロセスを引き起こす。液体に戻ったこの滴は、小さい気泡および/または薄い気膜を引き起こす。これは次に、今度はキャビテーション用の開始点となる。
【0031】
本願発明の別の実施例では、強力な超音波のフォーカシングポジションをコントロールするためのコントロールユニットがこの装置に含まれている。
【0032】
このコントロールユニットは例えば、カートリッジに対して相対的に装置をポジショニングし、三次元のポジショニングシステムをコントロールする。このシステムも、装置に含まれ得る。このポジショニングシステムは、カートリッジの位置もポジショニングし得る。従って、フォーカシングポジションの重要な観点は、液状試料内のキャビテーションが、例えばセルを使用するために必要である場合には、上述したように、フォーカシングポジションが液体空気インタフェースに位置付けされる、ということである。
【0033】
従って、噴流の形成が、使用されている強力な超音波のフォーカシングスポットの形状に依存しない、ということに注意されたい。これは、HIFUパワーにも依存しない。
【0034】
これによって、次のように、HIFU波によって噴流が形成される。すなわち、液状試料の一部が押し上げられる、または液状試料から、液状試料上方の空気体積内に搬送される。換言すれば、カートリッジが液体空気インタフェース上方でカートリッジ内の空気体積の最低高さを提供するようにカートリッジが構成されており、ここでこの空気体積の最低高さによって、パワー閾値を低減する噴流が発達する。
【0035】
本願発明の別の実施例では、キャビテーションによって液状試料内の細胞が溶解されるように装置が構成されている。
【0036】
換言すれば、液状試料に強力な超音波を照射することによって、前処理も試料または試料成分の溶解も同一装置および同一カートリッジによって行うことができる。これによって、強力な超音波による液体の前処理は、以下のグループから選択された方法によって行われる。このグループには、試薬との混合、循環、細胞、病原体および綿棒のマトリックスの解放、作用、試薬を混ぜた試料の室温またはより高い温度での培養、シェイキング、混合、ステアリング、抽出および核酸抽出、流れ形成、液体均一化、遠心分離およびこれらのあらゆる組み合わせを含む。換言すれば、混合と溶解の2つのステップの間でのソースのパワーの上昇が、本願発明のこの実施例によって回避される。
【0037】
本願発明の別の実施例では、装置によるカートリッジの受容は、カートリッジが受け入れ部分内に挿入されているときに、装置とカートリッジとの間の強力な超音波の完全にドライな結合を提供する。例えば、受け入れ部分は、このようなドライな結合を提供するために装置内に含まれる。
【0038】
換言すれば、液状材料を部分的に含んでおり、かつ固体材料を部分的に含んでいる、HIFU波用伝播経路を提供することが可能である。例えば、液体結合媒体とカートリッジとの間にインタフェース媒体を形成するために、柔軟な薄片が使用される。これはポリマーによって形成される。本願発明のこの実施例は、低い減衰音響プロパティを有している液体カプラーの利点と、ポリマーベースのカートリッジの形状に合わせられる薄片の柔軟性とを組み合わせ、カートリッジおよび試料へのHIFU波の効率的な結合を実現する。さらに、装置の外面は完全に乾燥しており、この薄片は完全に液体を包囲している。従って、雑菌混入リスクが低減される。さらに、カートリッジに漏れがある場合には、この漏れは非常に迅速に検出される。なぜなら、包囲されているので、結合媒体からの液体が存在することが排除されているからである。
【0039】
本願発明の別の実施形態では、この装置はさらに、フルソリッドカプラーを含んでいる。これは、カートリッジが装置に受容されている際に、ソースからカートリッジへ強力な超音波を少なくとも部分的に伝達させる。例えば、この装置の受け入れ部分はカートリッジを受容する。
【0040】
換言すれば、本願発明のこの実施形態は、HIFU波をソースから試料へと伝送するために固体材料を完全に使用することを可能する。従って、液体カプラーおよび試料の雑菌混入リスクが回避される。なぜなら、あらゆる液体結合が回避されるからである。カートリッジに漏れがある場合には、これは明白に検出される。なぜなら、結合される液体が存在しないからである。これは、装置によって行われる測定を容易にし得る。さらにこれは、装置によって行われる測定のコストを低減し得る。
【0041】
本願発明の別の実施形態では、この装置はさらに、以下のもののうちの少なくとも1つを含む:すなわち抽出ユニット、核酸増幅ユニット、試薬貯蔵ユニット、液状試料の物理的パラメータを測定するための検出ユニット。ここで、この装置は検出された物理的なパラメータに基づいて液状試料を分析するように構成されている。この実施形態では装置は例えば以下のものを含む:すなわち、抽出ユニット;抽出ユニットと核酸増幅ユニット;抽出ユニットと、核酸増幅ユニットと、検出ユニット。これらのオプションのそれぞれにおいて、試薬貯蔵ユニットが、前述した各オプションのエレメントに対して付加的に存在する場合がある。抽出ユニットによって、核酸が、装置によって処理される試料から得られる。核酸増幅ユニットによって、試料から得られた核酸が増幅される(例えばPCR法を使用して)。試薬貯蔵ユニットは、例えば抽出および/または増幅に必要な試薬を含んでいる。
【0042】
換言すれば、本願発明のこの実施例は、完全なsample-in answer-outシステムであり、ここでは第1に試料が前処理され、第2に装置によって試料へ溶解ステップが加えられ、第3に例えば光学測定が検出ユニットによって行われる。これに加えて、処理ユニットが、検出ユニットによって搬送されたデータを処理し、出力される測定結果をユーザーに提供する。
【0043】
さらに、分析ステップ等のために液状試料を励起する励起ユニットが装置に含まれ得る。これは例えばレーザ、機械的撹拌器または、液状試料内に電流を生じさせる電気部品である。
【0044】
付加的にこの装置は、HIFU波をフォーカシングするためにレンズを含むことがある。このレンズは、カートリッジの一部であってもよい。
【0045】
本願発明の別の実施例では、液状試料に音響エネルギーを照射して液状試料内にキャビテーションを形成するためのシステムが提示される。ここでこのシステムは、上述した実施形態のうちの1つに従った装置と、液状試料を収容するためのカートリッジとを含んでいる。
【0046】
本願発明別の実施例では、試料に音響エネルギーを照射することによって液状試料内にキャビテーションを形成する方法が提示される。ここでこの方法は、強力な超音波を放射するソースを提供するステップと、液状試料とカートリッジ内の液体空気インタフェースとを収容しているカートリッジを提供するステップと、放射された強力な超音波をこのカートリッジ内の液体空気インタフェース上にフォーカシングするステップとを有している。
【0047】
本願発明の別の実施形態ではこの方法はさらに、カートリッジ内に液体の噴流を形成するステップと、この噴流の滴によって、液状試料内にキャビテーションプロセスを誘起するステップとを含んでいる。
【0048】
既知の技術において使用されている均質なキャビテーションと比べて、この方法は、低減されたパワー閾値による、異質のHIFU誘起キャビテーションを提供する。
【0049】
本願発明の別の実施例では、コンピュータプログラムエレメントが提示される。ここでこのエレメントは、コンピュータ上での使用時に、コンピュータに次のステップを実行させるように構成されている。これらのステップは、ソースから強力な超音波を放射させるステップと、この放射された強力な超音波を、液状試料内にキャビテーションを誘起するために液状試料を含んでいるカートリッジ内の液体空気インタフェース上にフォーカシングするステップである。
【0050】
本願発明の別の実施例では、コンピュータによって読み出し可能な媒体が提示される。ここでこのコンピュータによって読み出し可能な媒体は、上述した実施形態に従ってこの媒体に格納されるコンピュータプログラムエレメントを有している。
【0051】
本願発明のさらなる実施形態では、コンピュータプログラムエレメントをダウンロード可能にする媒体が提示される。このコンピュータプログラムエレメントは、本願発明の上述した1つの実施形態に従って方法を実施するように構成されている。
【0052】
本願発明の別の実施例では、液状試料に音響エネルギーを照射して、液状試料内にキャビテーションを形成する装置のためのカートリッジが提示される。このカートリッジは、液体を収容するためのチャンバとこのチャンバに固定された核形成部材とを含んでいる。
【0053】
この実施例が、液体空気インタフェース上へのフォーカシングおよび、噴流の形成に依存されずに実現され得ることに留意されたい。従って、例えばセラミックロッド、または例えばアルミナである、この突出している核形成部材は、噴流形成とは異な、本願発明のこの実施例の場合にはエアギャップを必要としない。核形成部材の粗い表面自体が、小さい気泡のソースであり得る。これは核形成サイトとして作用する。
【0054】
換言すればカートリッジは、キャビテーション増大手段を、チャンバ内に収容されている液状試料内に挿入する。このようなキャビテーション増大手段を、フォーカシングゾーン内またはフォーカシングゾーン近傍に挿入することによって、キャビテーションを誘起するのに必要なパワー閾値が、一等級低減される。従って、フォーカシングゾーンはチャンバ壁部に接触しない。装置の上述した利点が、本願発明のこの実施例にも同様に当てはまることに特に留意されたい。
【0055】
従って、核形成部材に対する材料は、特別な粗い表面の特徴を伴って使用される。さらに、フォーカシングエリア内またはフォーカシングエリア近傍ではHIFU波パワーに十分に長時間耐える材料が使用される。これによって、このカートリッジを備えた装置によって実行される検査に対処することができる。例えば、セラミックロッドまたはアルミナからの部材が効果的にキャビテーションを誘起させることがある。
【0056】
本願発明の別の実施例では、カートリッジは、カートリッジに核形成部材を固定するための、突出している部材を含む。
【0057】
この実施例が、液体空気インタフェース上へのフォーカシングおよび、噴流の形成に依存されずに実現され得ることに特に注意されたい。
【0058】
従って、この突出部材は、カートリッジ内に核形成部材を次のように固定するまたは配置するあらゆるデバイスであってよい。すなわち例えばセラミックロッド等の固定された核形成部材が、液状試料内のフォーカシングポジションに位置付けされるように、固定または配置するデバイスである。これは、図8および9において詳細に見て取れる。
【0059】
本願発明別の実施例では、試料に音響エネルギーを照射することによって液状試料内にキャビテーションを形成するシステムが提示される。このシステムは装置を含んでおり、ここでこの装置は強力な超音波を放射するソースを含んでいる。さらに、この装置はカートリッジを受け入れるように構成されている。例えば、この装置が受け入れ部分を含んでいてもよい。このシステムはさらに、上述した2つのカートリッジ実施形態のうちの1つに即したカートリッジを含んでいる。従ってこのカートリッジは液状試料を収容しており、この装置は、カートリッジが装置によって受容されていると、強力な超音波を核形成部材上にフォーカシングする。
【0060】
本願発明の別の実施例では、液状試料に音響エネルギーを照射することによって液状試料内にキャビテーションを形成する装置が提示される。この装置は、強力な超音波を放射するためのソースを含んでいる。この装置は、カートリッジを受け入れるように構成されており、このカートリッジは液状試料を収容しており、このカートリッジが装置によって受容されている状態で、この装置は、強力な超音波をカートリッジ内の核形成部材上にフォーカシングするように構成されている。
【0061】
本願発明のこの実施形態に対しても、液状試料内にキャビテーションを形成するために必要な最低パワーが、核形成部材を挿入することによって低減されるので、固体材料のみを用いた部分的なドライ結合または完全なドライ結合も、このようなシステムによって可能である。このようなドライ結合の詳細および利点および固定材料のみを完全に使用したドライ結合は上述されている。
【0062】
上述した実施形態は、装置、システム、方法、コンピュータプログラムエレメント、コンピュータ読み出し可能な媒体およびカートリッジに同様に当てはまる。共同効果が、詳細には記載されていなくても、実施形態の種々の組み合わせから生じる。
【0063】
さらに、方法に関する本願発明の全ての実施形態が、上述したステップの順番によって行われることに注意されたい。しかし、これが唯一の方法のステップである必要はなく、全ての異なる順番およびステップの組み合わせが本願に記載されている。本願発明の上述されたアスペクトおよびさらなるアスペクト、特徴および利点を、以降に記載される実施例から導出することができ、これらを実施形態を参照して説明する。本願発明を以降で、実施例を参照により詳細に説明するが、本願発明はこれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本願発明の実施例に相応してキャビテーションを形成するために、液状試料に音響エネルギーを照射するためのシステムを概略的に示した図
【図2】本願発明の別の実施例に相応して液状試料内にキャビテーションを形成するために、液状試料に音響エネルギーを照射するシステムを概略的に示した図
【図3】本願発明の別の実施例に相応するカートリッジを概略的に示した図
【図4】受動的なキャビテーション検出器によって得られる周波数スペクトルを概略的に示した図
【図5】カンジダアルビカンス細胞へのHIFU効果をあらわすダイヤグラムを概略的に示した図
【図6】本願発明の別の実施例に相応して液状試料内にキャビテーションを形成するために、液状試料に音響エネルギーを照射するシステムを概略的に示した図
【図7】本願発明の別の実施例に相応する、核生成部材を備えたカートリッジを概略的に示した図
【図8】本願発明の別の実施例に相応する、核生成部材を備えたカートリッジを概略的に示した図
【図9】本願発明の別の実施例に即した方法を示しているフローチャート
【実施例】
【0065】
実施例の詳細な説明
幾つかの図面において同様の、または関連している部材には、同じ参照番号が付与されている。図は概略的であり、完全に縮尺通りではない。
【0066】
図1は、液状試料101に音響エネルギーを照射して、液状試料内にキャビテーションを形成する装置100を示している。図示された装置は、強力な超音波103を放射するソース102を含んでいる。さらに、カートリッジ105を受け入れるための受け入れ部分104が示されている。本願発明のこの実施例では受け入れ部分104は固定部材127として実現されており、ここにカートリッジ105が固定され、次に所望の位置に位置付けされる。この位置は、次のように配置される。すなわち、カートリッジが受け入れ部分内に挿入されているときに、装置が強力な超音波103を液体空気インタフェース106上にフォーカシングするように配置される。
【0067】
図1には明確に、焦点位置111が液体空気インタフェース106に位置付けされていることが示されている。液体空気インタフェース上に、または液体空気インタフェースの十分近くに音響エネルギーをフォーカシングすることによって、かつトランスデューサ102に対して十分に高いパワーを用いることによって、液体の噴流108がHIFU波によって形成される。図1に示されているように、この噴流は、カートリッジ内および液体空気インタフェース上で発達する。噴流から液状試料上に戻って落ちる、噴流の滴109は核生成部材107であり、これによって、液体内にキャビテーションを形成するために必要な最小パワーが低減する。試料に戻る噴流滴109は、キャビテーションを誘起することができる。滴109は、小さい気泡および/または薄い気膜を引き起こす。これは次に、キャビテーションに対する開始点になる。
【0068】
換言すれば、本願発明のこの実施例によって、カートリッジ壁129の近傍でのフォーカシングが回避される。これによって、カートリッジ材料が溶融するおよび/または劣化することが避けられる。しかし、低減されたパワーによっても、カートリッジ材料の溶融および/または劣化が回避される。結果として、sample-in result-out消費可能システムの一部である、ポリマーベースカートリッジが可能になる。さらに、キャビテーションを形成するために必要な最小パワーが低減されるので、ソース102の使用パワーを実質的に変更する必要無く、混合および溶解が続いて1つのカートリッジ内で行われる。なぜなら均質なキャビテーションを用いた既知の技術と比べて、不均一なキャビテーションが、噴流を介して、HIFUによって生起されるからである。HIFU波は例えばMHzの領域にある。
【0069】
キャビテーションを形成するために必要な最小パワーが本願発明のこの実施例によって低減されるので、より小型のトランスデューサを使用することができ、これによって、装置を小さくすることができる。従って、この装置は、ドライインタフェース130を渡ってHIFU波103を伝送することを可能にする。このドライインタフェースは例えば、弾性のある薄片から形成される音響窓である。さらに、装置100とカートリッジ105とを含んでいるシステム113内でポリマーベースのカートリッジ材料を使用することが可能になる。これは、システム113によって行われる測定のコストを下げることになり、エコロジーコンパチビリティの増大に相当する。なぜなら、この装置による平均測定に対して必要となるエネルギーが少なくなるからである。
【0070】
さらにコンピュータ115が示されている。これはコンピュータに格納されているコンピュータプログラムエレメント114を備えている。コンピュータは、コントロールユニット110を介して、液体空気インタフェース106上に焦点を合わせるように設計されている。コントロールユニットはリード線117を介して、ポジショニングシステム128をコントロールする。これによって、噴流を作成するために、フォーカシング位置111を液体空気インタフェース10に合わせることができる。さらに、液状試料の物理的なパラメータを測定する検出ユニット112が、カートリッジ105内に示されている。この検出ユニットは例えば、受動的なキャビテーション検出器(PCD)として実現されている。これはピエゾトランスデューサであり得る。リード線126を介して、検出された物理的なパラメータに基づいて、処理ユニット125は液状試料を分析する。
【0071】
さらに図1は、ソース102用のハウジング121を示している。これは例えば、ソースを液状結合流体119から保護する。従って、本願発明のこの実施例は、少なくとも部分的に、ソース102からカートリッジ105へのHIFU波のウェット結合を示している。このハウジングは、ねじ122によって結合媒体119のためのチャンバ120に固定されている。しかし、上述したようにHIFU波の伝播経路内で液体を全く用いずに、完全なドライ結合を用いて装置によって噴流を形成することも可能である。131はプランジャーを示している。方向132に沿ってこのプランジャーを動かすことによって、液体空気インタフェース上方の高さを制限することができる。試料と直接的に接触している状態からプランジャーを垂直に上(図1における上方方向)へと動かすことによって、試料内でキャビテーションが開始されるパワー閾値が、インタフェースからのプランジャーの距離が増大するとともに低減する。換言すれば、キャビテーションは、液状試料上の気積の関数であり得る。
【0072】
可能な技術的な装備は、以下のデバイスである。本願発明はこれに制限されるべきではない:PM5193:0.1mHz〜50MHzの領域で作動するプログラマブルシンセサイザ/機能ジェネレータ。増幅器:ENI240Lパワー増幅器50dB 20kHz−10MHzまたはAR worldwide KAA204 RFパワー増幅器50dB 0.5−100MHz 200W;Tektronix TDS3014:4チャネルカラーデジタル蛍光体オシロスコープ;Agilent 4395A:10Hz−500MHz/10Hz−500MHz/10kHz−500MHzネットワーク/スペクトル/インピーダンスアナライザ;Hifuピエゾトランスデューサ:Dongfang Jinrong社製のJR20/60;受動的なキャビテーション検出器(PCD)(ピエゾトランスデユーサ):Dongfang Jinrong社製のJR20/60,JR15/30,JR12/30
【0073】
さらに、改造された10mlPPシリンジが、キャビテーション手段に基づく噴流のために使用されることがある。シリンジ先端部が除去され、100umPP薄片が、頂上側にレーザシーリングされる。プランジャーは、液状試料上の気積を調整するために使用される。PCDは超音波ジェル(Parker Laboratries社製のAquaflex)によって、シリンジ壁部の外側にクランプされ、可能な突出部材を構成する。このPCDは、シリンジ内のキャビテーションを調査するために使用される。類似したセットアップが、乾燥したインタフェースに渡ったキャビテーションに基づく噴流を実演するために使用される。同様のセットアップが、粗い表面によって生起されるキャビテーションを定めるために使用される。
【0074】
図2は、システム113の別の実施例を示している。このシステムは液状試料101に音響エネルギーを照射して、液状試料内にキャビテーションを形成する。ここでこの装置100および液状試料を収容するためのカートリッジ105がこのシステム内に含まれている。さらに、検出ユニット112が示されている。この検出ユニットは、液状試料内に配置されている。さらに、落下して戻る滴109を形成する噴流108が示されている。ソース102は、フォーカシングポジション111が液体空気インタフェースに位置するように、カートリッジ105の位置、および場合によってはレンズ(図示されていない)の位置と組み合わせて配置されている。
【0075】
本願発明のこの実施例は、フルソリッドカプラー200を介したHIFU波103の完全なドライ結合を示している。キャビテーションを形成するために必要な最低パワーが噴流によって低減されているので、フルソリッド状態の材料、例えばポリマーベース材料が結合媒体として使用される。なぜなら、HIFUエネルギーを伝達する材料における実質的な熱形成または変形が回避されるからである。
【0076】
図3は、試料に音響エネルギーを照射して、液状試料内にキャビテーションを形成するための装置301のためのカートリッジ300を示している。このカートリッジは、液状試料を収容するためのチャンバ302と、このチャンバに固定されている核形成部材303とを含んでいる。この核形成部材は例えば、セラミックロッド等のセラミック部材またはアルミニウムから成る部材である。従って、核形成部材303の表面粗さは、このような核形成部材が無いセットアップと比べて低減されているパワーレベルでキャビテーションが生起されるように調整される。さらに、核形成部材のために使用される材料は次のように選択される。すなわち、フォーカシングスポット111内またはフォーカシングスポット111近傍で、HIFU波パワーに十分に長時間耐え、このシステム701によって行われる検査が完結されるように選択される。このシステム701は、装置301を含んでいる。この装置自体はソース702を含んでいる。さらに、この装置に含まれている受け入れ部分705が示されている。従って、受け入れ部分は固定部材304として組み込まれ、この固定部材にカートリッジ300が固定される。これによって、カートリッジが受け入れ部分内に挿入されている場合に、装置がHIFU波を核形成部材上または核形成部材近傍にフォーカシングするように、カートリッジが位置決めされる。
【0077】
図4は、受動的なキャビテーション検出器(PCD)によって得られる周波数スペクトルを示している。PCDはカートリッジ内に挿入され、上述したようにこのカートリッジ内でキャビテーションが、噴流または核形成部材によって生起される。挿入部分404は、キャビテーションの無いスペクトルを示している。X座標401は単位Hzで周波数を示しており、y座標402は単位デジベルで、指定された基準レベルに対する、PCDによって測定されたパワーの振幅を示している。従って、挿入部分404は、スペクトル401の左側部分のみを反映している。401および404両方でのシャープなピークはそれぞれ、1.7MHzでの基準周波数およびその倍数の帯域403でのものである。401内に存在するブロードバンド信号は、キャビテーションの存在を証明している。
【0078】
図5は、ダイヤグラム500を示している。ここでx座標501はキャビテーション値を示しており、このキャビテーション値はこれにより、PCRサイクルの数として規定される。さらにy座標502は、相対蛍光単位(RFU)値を示している。曲線503、504、505および506は、カンジダアルビカンス細胞へのHIFUの効果を示している。503は、処理されていない細胞に対するPCR曲線(二重)を示しており、506はガラスビーズによって処理されている細胞を示しており、504および505は、熱に曝された細胞からの結果を示している。これに対して507は、本願発明に相応して、HIFUに曝された細胞の結果を示している。従って図5は、現在の至適基準と比較して、加熱が6単位高キャビテーション値(以下で述べる)を有しており、本願発明による溶解が6単位低いキャビテーション値を有していることを開示している。ここで、より低いキャビテーション値は幾つかの利点を有しているということに注意されたい。
【0079】
以下で用語キャビテーション値および、低いキャビテーション値の利点を記載する。キャビテーション値は、検出された信号が事前に設定されているRFU値を通過するPCRサイクル数である。キャビテーション値が低いということは、閾値を通過するために必要な増倍ステップの数が少ない、ということである。換言すれば、低いキャビテーション値は高い初期DNA濃度に相応し、結果としてHIFUを用いた本願発明のケースでは、非常に効率的に溶解が行われる。換言すれば、本願発明は、2^6=64のファクタで至適基準を超える。
【0080】
図6は、本願発明の別の実施例を示している。ここでシステム701は、液状試料内にキャビテーションを形成するために、液状試料に音響エネルギーを照射するためのものである。このシステムは装置301と、HIFU波704を放射するためのソース702とを含んでいる。このシステムはさらにカートリッジ300を含んでいる。ここでこのカートリッジは液状試料101を収容している。装置300はさらに、カートリッジを受容するための受け入れ部分705を含んでいる。従ってこの受け入れ部分は、カートリッジが装置内に挿入されると、カートリッジとの物理的な接触が形成される装置のあらゆる部材または部分である。
【0081】
従って装置301は、カートリッジがこの受け入れ部分内に挿入されていると、HIFU波を核形成部材303にフォーカシングする。さらにこのカートリッジは、液状試料を保持するためのチャンバ302と、このチャンバに固定されている核形成部材303とを含んでいる。核形成部材を適切に固定するために、突出部材700がカートリッジ内に含まれており、これによってカートリッジに核形成部材が固定される。この突出部材は、本願発明のこの実施形態およびあらゆる他の実施形態において、核形成部材を次のように保持および固定することができるあらゆるデバイスによって実現される。すなわち、核形成部材が液状試料内に延在し、フォーカシングポジション707が核形成部材303に、または核形成部材303の近傍に位置付けされるように保持および固定することができるあらゆるデバイスである。
【0082】
本願発明のこの実施例は、完全にドライなカップリングを伴うセットアップ内で使用される。ここではフルソリッドカプラー706がシステム701に含まれている。例えば、ポリマーベースの材料が、ソースからHIFU波をカートリッジに結合するために使用される。これに対して付加的に、本願発明のこの実施例とともに、音響窓として実現されている乾燥したインタフェース708が使用される。なぜなら、キャビテーションのための最低パワーが低減され、カートリッジ材料の加熱または漏れが回避されるからである。
【0083】
図7は概略的に、カートリッジ105の1つの実施形態を示している。ここでは、天井800から突出している少なくとも1つの核形成部材303が設けられている。この突出は、突出部材709によって実現される。この突出部材は、核形成部材303を締めつけているクランプ710として実現されている。この天井は、カートリッジの一部であり得る。しかし、物理的に別個の部材であってもよい。核形成部材の直径およびソース102のフォーカシングスポットまたはフォーカシングゾーン111の直径に依存せず、核形成部材はフォーカシングゾーンの垂直軸に沿って位置し得る。しかしこれが偏心して配置されていることもある。カートリッジの突出部材709は、核形成部材の垂直固定を実現する。しかし、突出部材による水平固定、傾斜固定、中央固定または非中央固定も可能である。このタイプのキャビテーション誘起が、液体空気インタフェース上のフォーカシングおよび噴流形成と無関係に使用されることに注意されたい。
【0084】
図8は概略的に、カートリッジ105の別の実施形態を示している。これは少なくとも1つの核形成部材303を備えている。天井800は、2つの側壁900と901とを有している。換言すればこのカートリッジは、核形成部材303のための固定部材として、突出部材700を含んでいる。従って、核形成部材は水平に、側壁901から突出している。HIFU波を放射するソース102が記号によって示されている。ここでも、このタイプのキャビテーション誘起を、液体空気インタフェース上のフォーカシングおよび噴流形成と無関係に使用することができることに、注意されたい。
【0085】
図9は、本願発明の実施形態に即した方法のフローチャートを示している。ここでこの方法は、強力な超音波を放射するソースを提供するステップS1と、液状試料とカートリッジ内の液体空気インタフェースとを収容しているカートリッジを提供するステップS2とを含んでいる。第3のステップS3では、カートリッジ内の液体空気インタフェース上に、この放射された強力な超音波をフォーカシングする。HIFU波を、液体からの液体空気インタフェース上にフォーカシングすることによって、液状試料が形成される。これは試料内に戻って落下する滴を生じさせ、液状試料内でキャビテーションが始まるパワー閾値を低減させる。図8および図9とも、核形成部材を備えたカートリッジを示している。これは例えばセラミックロッドまたはアルミニウム核形成部材であり、これによって、チャンバ302内の試料内のキャビテーションのためのパワー閾値が低減される。これらの核形成部材の粗い表面は、HIFU波がこの上にフォーカシングされるときに、小さい気泡のソースになり得る。この泡は次に、核形成サイトとして作用する。
【0086】
開示された実施形態に対する他のバリエーションが、当該分野の当業者によって理解され、実行され得る。この当業者は、図面、開示内容および添付の特許請求の範囲を検討することによって、特許請求の範囲に記載されている発明を実行する。特許請求の範囲では、含まれている用語は、他の部材またはステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数形を除外するものではない。1個のプロセッサまたは他のユニットが、特許請求の範囲に挙げられた幾つかのアイテムまたはステップの機能を実行することがある。測定値を特定する単なる効果が複数の異なる従属請求項内に挙げられているが、これは、利点のためにこれらの測定が組み合わせられることを示すものではない。コンピュータプログラムが、光学的な記憶媒体または他のハードウェアとともにまたはその一部として提供される固体媒体等の適切な媒体上に格納され/分散される。しかしコンピュータプログラムが、インターネットまたは他のワイヤまたはワイヤレスコミュニケーションシステム等の他の形態で分散されていることもある。
【0087】
特許請求の範囲内のあらゆる参照符号は、特許請求の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状試料(101)に音響エネルギーを照射して、当該液状試料内にキャビテーションを形成するための装置(100)であって、当該装置は:
強力な超音波(103)を放射するソース(102)を有しており;
液状試料と液体空気インタフェース(106)とを含むカートリッジ(105)を受け入れるように構成されており;
前記カートリッジが当該装置によって受容されている状態で、前記カートリッジ内の液体空気インタフェース上方に液体の噴流(108)が形成されるように前記強力な超音波をフォーカシングする、ことを特徴とする装置。
【請求項2】
液状試料内にキャビテーションを形成するために必要な最低パワーを低減させる核形成部材(107)を含んでおり;
前記噴流から液状試料に落下して戻る前記噴流の滴(109)は前記核形成部材である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記強力な超音波のフォーカシングポジション(111)をコントロールするためのコントロールユニット(110)を含んでいる、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記キャビテーションによって液状試料内の細胞を溶解するように構成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記カートリッジが前記装置によって受容されている場合には、前記装置の受容によって、前記装置と前記カートリッジとの間で前記強力な超音波の完全にドライな結合が提供される、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
フルソリッドカプラー(200)を含んでおり、当該カプラーは、前記カートリッジが当該装置に受容されている場合に、前記ソースから前記カートリッジへ、前記強力な超音波を少なくとも部分的に伝送する、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
抽出ユニット、核酸増幅ユニット、試薬貯蔵ユニット、液状試料の物理的パラメータを測定するための検出ユニット(112)のうちの少なくとも1つを含んでおり;前記装置は当該検出された物理的パラメータに基づいて前記液状試料を分析するように構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
液状試料内にキャビテーションを形成するために、液状試料に音響エネルギーを照射するためのシステム(113)であって、
当該システムは、請求項1から8までのいずれか1項記載の装置(100)と、前記液状試料を保持しているカートリッジ(105)とを含んでいる、ことを特徴とするシステム。
【請求項9】
液状試料内にキャビテーションを形成するために液状試料に音響エネルギーを照射するための方法であって、
強力な超音波を放射するソースを提供するステップ(S1)と;
前記液状試料とカートリッジ内の液体空気インタフェースとを含んでいるカートリッジを提供するステップ(S2)と;
前記放射された強力な超音波を前記カートリッジ内の液体空気インタフェース上にフォーカシングするステップ(S3)とを有している、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記カートリッジ内に液体の噴流を形成するステップ(S4)と;
前記噴流の滴によって液状試料内にキャビテーションプロセスを誘起するステップ(S5)とを有している、請求項9記載の方法。
【請求項11】
コンピュータプログラムエレメント(114)であって、
コンピュータ(115)上での使用時に、コンピュータに以下のステップ、すなわち、
ソースから強力な超音波を放射するステップと、
当該放射された強力な超音波を、液状試料内にキャビテーションを誘起するために液状試料を含んでいるカートリッジ内の液体空気インタフェース上にフォーカシングするステップとを実行させるように構成されている、ことを特徴とするコンピュータプログラムエレメント。
【請求項12】
請求項11に記載されているコンピュータプログラムエレメントが格納されている、ことを特徴とするコンピュータ読み出し可能な媒体。
【請求項13】
液状試料内にキャビテーションを形成するために、液状試料に音響エネルギーを照射する装置(301)のためのカートリッジ(300)であって、
前記液状試料を含んでいるチャンバ(302)と;
当該チャンバに固定されている核形成部材(303)とを含んでいる、ことを特徴とするカートリッジ。
【請求項14】
カートリッジに前記核形成部材を固定するための突出部材(700)を含んでいる、請求項13記載のカートリッジ。
【請求項15】
液状試料内にキャビテーションを形成するために液状試料に音響エネルギーを照射するためのシステム(701)であって、当該システムは:
請求項13または14記載のカートリッジ(300)を含んでおり;
当該カートリッジは液状試料(101)を含んでおり;
当該システムは装置(301)を含んでおり、当該装置は:
強力な超音波(704)を放射するためのソース(702)を含んでおり;
前記装置は、前記カートリッジを受容するように構成されており、
前記装置は、前記カートリッジが前記装置によって受容されている場合に、強力な超音波を、前記核形成部材(303)上にフォーカシングする、ことを特徴とするシステム。
【請求項16】
液状試料内にキャビテーションを形成するために液状試料に音響エネルギーを照射するための装置であって、当該装置は:
強力な超音波(103)を放射するためのソース(102)を有しており;
当該装置はカートリッジ(105)を受容するように構成されており、当該カートリッジは液状試料を保持しており;
前記装置は、前記カートリッジが当該装置によって受容されている状態で、前記カートリッジ内の核形成部材上に前記強力な超音波をフォーカシングするように構成されている、ことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−523317(P2012−523317A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505015(P2012−505015)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/CH2010/000092
【国際公開番号】WO2010/118539
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(510089557)ビオカルティ ソシエテ アノニム (10)
【氏名又は名称原語表記】Biocartis SA
【住所又は居所原語表記】Quartier Innovation EPFL−G, CH−1015 Lausanne, Switzerland
【Fターム(参考)】