説明

低減した免疫原性を有する改良型シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A

本発明は、高い細胞毒性および低減した免疫原性を有する改良型シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A (PE)分子、改良型(PE)を含む組成物、および使用の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2009年9月11日付で出願された米国特許仮出願第61/241,620号の恩典を主張するものであり、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、高い細胞毒性および低減した免疫原性を有する改良型シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A (PE)分子、改良型(PE)を含む組成物、および使用の方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
過去数年間、悪性腫瘍を処置する代替治療法として免疫複合体が開発されてきた。免疫複合体は、当初、植物または細菌の毒素に化学的に結合された抗体、つまり免疫毒素として公知である形態から構成されていた。抗体が、標的細胞上に発現された抗原に結合すると、毒素が内部移行し、タンパク質合成の停止、およびアポトーシスの誘導によって細胞死を引き起こす(Brinkmann, U., Mol. Med. Today, 2:439-446 (1996)(非特許文献1))。最近になって、抗体および毒素をコードする遺伝子が融合され、融合タンパク質として免疫毒素が発現されている。
【0004】
シュードモナス外毒素A (「PE」)として公知の細菌毒素を毒素部分として用いる免疫毒素に関して、いくつかの研究が行われてきた。典型的には、PEを端部切断してまたは変異させて、免疫毒素の標的化部分によって標的化される細胞に対するその毒性を破壊することなく、その非特異的な毒性を低減させている。臨床試験が現在行われており、種々のがんに対する処置としてPEに基づく免疫毒素を用いることが調べられている。
【0005】
現在のPEに基づく免疫毒素は免疫原性が極めて高い。これは、免疫システムが反応を開始する能力が損なわれていることの多い血液悪性疾患の処置において問題であると証明されていない。免疫毒素は、典型的には、血液悪性疾患を有する患者に複数回投与されうる。しかしながら、固形腫瘍を有する患者は、通常、最初の投与後、数週間以内にPEに基づく免疫毒素に対する中和抗体を発生する。多くのプロトコールでは免疫毒素の投与の間に3週間が必要とされるので、この期間中の抗体の発生は、固形腫瘍の場合、患者の抗体がPEに基づく免疫毒素を無効にする前に、PEに基づく免疫毒素では通常一回の投与しかできないことを事実上意味している。患者の腫瘍量の低減において、より小さな転移がんの排除において、および症状の改善において、PEに基づく免疫毒素の単回投与でさえも極めて有用でありうる。とはいえ、患者の免疫原性反応を低減しうる、PEに基づく免疫毒素のさらに抗原性の低い形態を有することが望ましいと考えられる。
【0006】
本発明はこれらのおよび他の要求を満たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Brinkmann, U., Mol. Med. Today, 2:439-446 (1996)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、低減した免疫原性を有する改良型シュードモナス外毒素A (「PE」)を提供する。構造的には、本発明の改良型PEは、ドメインIが除去され、ドメインIIの大部分が除去され、かつドメインIII内のアミノ酸残基位置D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592がグリシン、アラニンまたはセリンで置換されている。機能的には、本発明の改良型PE分子はB細胞エピトープの除去によって高い細胞毒性活性を保持する。本発明の改良型PEの5回注射を受けたマウスは、毒素に対する免疫反応を起こさなかった。改良型PE分子は、本明細書でLR-8M (以前LR-8Xといわれた)といわれる本発明の特定の態様によって例示される。
【0009】
したがって、1つの局面において、本発明は、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、単離されたシュードモナス体外毒素A (「PE」)を提供する。
【0010】
関連する局面において、本発明は、(b)シュードモナス外毒素A (「PE」)に結合または融合された(a)標的化部分を含む、キメラ分子であって、該PEが、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、キメラ分子を提供する。
【0011】
さらなる局面において、本発明は、
(a) シュードモナス外毒素A (「PE」)に結合または融合された標的化部分を含む、キメラ分子であって、該PEが、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、キメラ分子、ならびに
(b) 薬学的に許容される担体
を含む、組成物を提供する。
【0012】
関連する局面において、本発明は、改変型シュードモナス外毒素A (「PE」)をコードする単離された核酸であって、該PEが、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、核酸は標的化部分をさらにコードする。
【0013】
別の局面において、本発明は、標的分子を持つ細胞の増殖を阻害する方法であって、
(a) 該標的分子に特異的に結合する、標的化部分、ならびに
(b) 残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、シュードモナス外毒素A (「PE」)
を含むキメラ分子と、該細胞を接触させる段階を含み、
該キメラ分子と該細胞を接触させる段階が該細胞の増殖を阻害する、
方法を提供する。
【0014】
これらの態様に関して、いくつかの態様において、PEは、D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597からなる群より選択されるSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基がアラニン、グリシンまたはセリンでさらに置換されていてもよい。
【0015】
いくつかの態様において、PEはSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、PEはSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する。
【0016】
いくつかの態様において、標的化部分は抗体である。いくつかの態様において、抗体は、scFv、dsFv、Fab、単一ドメイン抗体およびF(ab')2からなる群より選択される。
【0017】
いくつかの態様において、抗体は、CD19、CD21、CD22、CD25、CD30、CD33、CD79b、トランスフェリン受容体、EGF受容体、メソテリン、カドヘリンおよびルイスYからなる群より選択される細胞表面抗原に対する抗体である。
【0018】
いくつかの態様において、抗体は、B3、RFB4、SS1、HN1、HN2、MNおよびHB21からなる群より選択される。
【0019】
いくつかの態様において、抗体は、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1は配列QDIXXYを有し、XXが、SN、HG、GR、RGおよびARから選択され;
(ii) 該VLのCDR2は配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3は配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1は配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2は配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3は配列ARHSGYGXXXGVLFAYを有し、XXXが、SSY、THW、YNW、TTWおよびSTYから選択される。
【0020】
いくつかの態様において、抗体は、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1は配列QDISNYを有し;
(ii) 該VLのCDR2は配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3は配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1は配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2は配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3は配列ARHSGYGTHWGVLFAYを有する。
【0021】
いくつかの態様において、抗体は、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1は配列QDIHGYを有し;
(ii) 該VLのCDR2は配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3は配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1は配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2は配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3は配列ARHSGYGTHWGVLFAYを有する。
【0022】
いくつかの態様において、抗体はHA22のFv部分を含む。いくつかの態様において、抗体はヒト抗体またはヒト化抗体である。
【0023】
いくつかの態様において、標的化部分はサイトカイン、リンホカインまたは増殖因子である。
【0024】
さらなる態様が当業者には明らかであるものと考えられ、本明細書において記述される。
【0025】
定義
単位、識別コードおよび記号は、国際単位系(SI)で認められている形で表示する。数値範囲は、範囲を画定する数字も含める。特に記載がない限り、核酸は左から右に、5'から3'の方向で書き表されており; アミノ酸配列は、左から右に、アミノからカルボキシルの方向に書き表されている。本明細書に用いた見出しは、本発明のさまざまな局面または態様を制限するものではなく、それらは明細書全体を参照することで行われる。したがって、以下に定義する用語は、明細書全体を参照することによって、より完全に定義される。
【0026】
シュードモナス外毒素A (「PE」)は、緑膿菌(Pseduomonas aeruginosa)が分泌する、活性の高い単量体タンパク質(分子量66 kD)であり、真核生物細胞でのタンパク質合成を阻害する。天然PEの配列(SEQ ID NO:1)は、米国特許第5,602,095号に記述されており、参照により本明細書に組み入れられる。PEの作用の方法および構造、ならびにPEのいくつかの変種をもたらす改変は、この目的に向けられた項のなかで多少詳しく論じられている。
【0027】
PEの変異は、天然のPE (SEQ ID NO:1)の613アミノ酸配列の特定の位置に存在するアミノ酸残基を基準とし、その残基が、論じられている特定の変異に置き換えられたアミノ酸がその後に続く。したがって、例えば、「R490A」という用語は、参照分子の490位の「R」(アルギニン、標準的な1文字表記で)が「A」(アラニン、標準的な1文字表記で)によって置き換えられていることを示し、その一方で、「K590Q」は、590位に通常存在するリジンがグルタミンと置き換えられていることを示す。一般的アミノ酸の標準的な1文字表記は以下に記載されている。
【0028】
「CD22」は、Igスーパーファミリーに属する、系列限定B細胞抗原をいう。それは、B細胞リンパ腫および白血病の60〜70%に発現しており、B細胞の発生初期段階または幹細胞の細胞表面には存在しない。例えば、Vaickus et al., Crit. Rev. Oncol/Hematol. 11:267-297 (1991)を参照されたい。
【0029】
本明細書において用いられる場合、抗体に関して「抗CD22」という用語は、CD22に特異的に結合する抗体をいい、CD22に対して産生された抗体についての言及を含む。好ましい態様において、CD22はヒトCD22などの霊長類CD22である。一つの好ましい態様において、この抗体は、ヒトCD22をコードするcDNAを霊長類以外の哺乳類に導入した後にこの動物によって合成されたヒトCD22に対して産生される。
【0030】
「CD25」または「Tac」は、IL-2受容体(IL2R)のα鎖をいう。これは、活性化T細胞、活性化B細胞、一部の胸腺細胞、骨髄前駆細胞および乏突起膠細胞上に存在し、CD122と結び付いて、IL-2に対する高親和性受容体として作用しうるヘテロ二量体を形成するI型膜貫通タンパク質である。CD25は、大部分のB細胞新生物、一部の急性非リンパ性白血病および神経芽細胞腫において発現される。
【0031】
本明細書において用いられる場合、抗体に関して「抗CD25」という用語は、CD25に特異的に結合する抗体をいい、CD25に対して産生された抗体についての言及を含む。好ましい態様において、CD25はヒトCD25などの霊長類CD25である。一つの好ましい態様において、この抗体は、ヒトCD25をコードするcDNAを霊長類以外の哺乳類に導入した後にこの動物によって合成されたヒトCD25に対して産生される。
【0032】
「メソテリン」という用語は、一部のヒト細胞の表面上に存在し、かつ、例えば、K1抗体によって結合されるタンパク質およびその断片をいう。メソテリンの核酸配列およびアミノ酸配列は、例えば、PCT公開された出願WO 97/25,068ならびに米国特許第6,083,502号および同第6,153,430号に記載されている。Chang, K. and Pastan, I., Int. J. Cancer 57:90 (1994); Chang, K. and Pastan, I., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 93:136 (1996); Brinkmann U., et al., Int. J. Cancer 71:638 (1997); Chowdhury, P.S., et al., Mol. Immunol. 34:9 (1997)および米国特許第6,809,184号も参照されたい。メソテリンはおよそ69 kDaの前駆体タンパク質として発現され、これがさらにプロセッシングされて30 kDaのタンパク質を放出し、その上、背景に記述されている40 kDaのグリコシルホスファチジルイノシトール結合細胞表面糖タンパク質を細胞表面に付着したままである。この40 kDaの糖タンパク質が本明細書の「メソテリン」という用語によっていわれるものである。いくつかの種、例えば、ヒト(NM_005823.4→NP_005814.2; およびNM_013404.3→NP_037536.2)、マウス(NM_018857.1→NP_061345.1)、ラット(NM_031658.1→NP_113846.1)、ウシ(NM_001100374.1→NP_001093844)由来のメソテリンの核酸配列およびアミノ酸配列が登録されている。
【0033】
「RFB4」は、ヒトCD22に特異的に結合するマウスIgG1モノクローナル抗体をいう。RFB4は、Southern Biotechnology Associates, Inc. (Birmingham AL; Cat. No. 9360-01)、Autogen Bioclear UK Ltd. (Calne, Wilts, UK; Cat. No. AB147)、Axxora LLC. (San Diego, CA)などの複数の供給業者からRFB4の名前で市販されている。RFB4はB系列の細胞に極めて特異的であり、他の型の正常細胞とは検出可能な交叉反応性を有していない。Li et al., Cell. Immunol. 118:85-99 (1989)。RFB4の重鎖および軽鎖がクローニングされている。Mansfield et al., Blood 90:2020-2026 (1997)を参照されたく、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0034】
「BL22」(または「RFB-4(dsFv)-PE38」)は、「RFB-4」として当技術分野において公知の抗C22抗体のジスルフィド安定化Fv領域を標的化部分として用いる免疫毒素である。RFB-4抗体の配列は当技術分野において周知である。BL22はKreitman et al., New Eng J Med 345(4):241-7 (2001)に記述されている。BL22免疫毒素では免疫毒素の毒素部分としてPE38を用いる。
【0035】
「HA22」は、可変重鎖のCDR3の残基SSYをTHWに変異させたRFB-4の変異型を標的化部分として用いる免疫毒素である。RFB-4のこの変異およびそれを標的化部分として用いる免疫毒素に及ぼすその効果は、国際公報WO 03/027135およびSalvatore et al., Clin Cancer Res 8(4):995-1002 (2002)に記述されている。HA22免疫毒素では免疫毒素の毒素部分としてPE38を用いる。
【0036】
参照の便宜上、本明細書において用いられる場合、「抗体」という用語は、文脈が別様に求めていない限り、完全な(本明細書において「インタクトの」といわれることもある)抗体、抗原認識かつ結合能を保持する抗体断片、完全な抗体の改変によって産生されようが、または組換えDNA法を用いて新規に合成されようが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および抗体模倣体を含む。抗体は、IgM、IgG (例えばIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4)、IgD、IgAまたはIgEでありうる。
【0037】
IgGサブクラスの定常領域の配列は、ずっと前から当技術分野において周知である(例えば、Honjo et al., Cell, 18:559-68 (1979); Tucker et al., Science, 206:1303-6 (1979); Yamawaki et al., Nature 283:786-9 (1980); Ellison et al., Nucl Acids Res 10:4071-9 (1982); Ellison et al., DNA 1:11-8 (1981); Ellison and Hood, Proc Natl Acad Sci USA 79:1984-8 (1982))。可変領域のCDRは抗体特異性を決定するので、標的細胞表面抗原に対する抗体のCDRまたはFvを選択の抗体へ移植または遺伝子操作して、その抗体による標的細胞表面抗原に対する特異性を与えることができる。例えば、標的細胞表面抗原に対する抗体のCDRを三次元構造が既知のヒト抗体フレームワークに移植(例えば、WO98/45322; WO87/02671; 米国特許第5,859,205号; 同第5,585,089号; および同第4,816,567号; 欧州特許出願第0173494号; Jones, et al. Nature 321:522 (1986); Verhoeyen, et al., Science 239:1534 (1988), Riechmann, et al. Nature 332:323 (1988); およびWinter and Milstein, Nature 349:293 (1991)を参照のこと)して、ヒトへの投与時に免疫原性反応をほとんどまたは全く生じない抗体を形成させることができる。あるいは、抗体の定常領域は、マウスなどの非ヒト動物に見出される残基を、ヒトにおいて通常見出される残基で置き換えることによって遺伝子操作されてもよい。このように遺伝子操作された抗体は「ヒト化抗体」といわれ、それらは副作用を誘導するリスクが低く、循環血液中にいっそう長く残存しうるので、好ましい。抗体をヒト化する方法は、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第6,180,377号; 同第6,407,213号; 同第5,693,762号; 同第5,585,089号; および同第5,530,101号に記載されている。
【0038】
「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体の一部分、一般にはインタクトな抗体の抗原結合領域または可変領域を含む分子を意味する。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2およびFv断片; 単一ドメイン抗体(例えば、Wesolowski, Med Microbiol Immunol. (2009) 198(3):157-74; Saerens, et al., Curr Opin Pharmacol. (2008) 8(5):600-8; Harmsen and de Haard, Appl Microbiol Biotechnol. (2007) 77(1):13-22を参照のこと); ヘリックス安定化抗体(例えば、Arndt et al., J Mol Biol 312:221-228 (2001)を参照のこと); 二重特異性抗体(下記参照); 一本鎖抗体分子(「scFv」、例えば、米国特許第5,888,773号を参照のこと); ジスルフィド安定化抗体(「dsFv」、例えば、米国特許第5,747,654号および同第6,558,672号を参照のこと)、ならびにドメイン抗体(「dAb」、例えば、Holt et al., Trends Biotech 21(11):484-490 (2003)、Ghahroudi et al., FEBS Lett. 414:521-526 (1997)、Lauwereys et al., EMBO J 17:3512-3520 (1998)、Reiter et al., J. Mol. Biol. 290:685-698 (1999)、Davies and Riechmann, Biotechnology, 13:475-479 (2001)を参照のこと)が挙げられる。
【0039】
「二重特異性抗体」という用語は、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片をいい、この断片は、可変軽鎖ドメイン(「VL」または「VL」)に連結された可変重鎖ドメイン(「VH」または「VH」)を同じポリペプチド鎖内に含む(VH-VL)。同じ鎖上の二つのドメイン間の対合を可能にするには小さすぎるリンカーを用いることにより、それらのドメインを別の鎖の相補ドメインと対合させて、二つの抗原結合部位を作製する。二重特異性抗体およびその産生は、例えば、EP 404,097; WO 93/11161; およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)にさらに詳細に記述されている。
【0040】
「親抗体」という用語は、親抗体と同一のエピトープに結合するが、より高い親和性を有する抗体またはその断片を得るために変異させたまたは変えた、関心対象の任意の抗体を意味する。
【0041】
「標的化部分」とは、免疫複合体を関心対象の細胞に向けるための免疫複合体の一部分である。典型的には、標的化部分は抗体、またはscFv、dsFv、FabもしくはF(ab')2などの、抗原認識能力を保持している抗体の断片である。
【0042】
「毒素部分」とは、免疫毒素に関心対象の細胞に対する細胞毒性を付与する免疫毒素の一部分である。本発明の対象である免疫毒素に関して、毒素部分は、以下で少し詳しく記述される通り、非特異的な細胞毒性を低減するように変異させたシュードモナス外毒素Aである。
【0043】
典型的には、免疫グロブリンは重鎖と軽鎖を有する。各重鎖と軽鎖は、定常領域と可変領域を含む(これら領域は「ドメイン」としても知られる)。軽鎖および重鎖は、「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる3つの超可変領域により隔てられる、「フレームワーク」領域を含む。フレームワーク領域およびCDRの範囲は画定されている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内では比較的保存されている。構成する軽鎖と重鎖のフレームワーク領域が結合した抗体のフレームワーク領域は、CDRを三次元空間の中に配置および整列させるのに役立つ。
【0044】
CDRは、抗原のエピトープに対する結合を主として担っている。各鎖のCDRは、一般的には、N末端から始まって順番にCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、また一般的には、特定のCDRが存在している鎖によって区別される。したがって、VH CDR3は、それが存在する抗体の重鎖の可変ドメイン内に位置し、一方VL CDR1は、それが存在する抗体の軽鎖可変領域のCDR1である。
【0045】
「VH」または「VH」とは、Fv、scFv、dsFvまたはFabを含む、免疫グロブリン重鎖の可変領域をいう。「VL」または「VL」とは、Fv、scFv、dsFvまたはFabを含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域をいう。
【0046】
「単鎖Fv」または「scFv」という語句は、伝統的な二本鎖抗体の重鎖および軽鎖の可変領域が接合して一本鎖を形成している抗体をいう。典型的には、二本鎖の間にリンカーペプチドが挿入され、適切なフォールディングと活性結合部位の作製を可能にしている。
【0047】
「ジスルフィド結合」または「システイン-システインジスルフィド結合」という語句は、システインの硫黄原子が酸化してジスルフィド結合を形成する、2個のシステイン間の共有的相互作用をいう。ジスルフィド結合の平均結合エネルギーは、水素結合が1〜2 kcal/molであるのに対し約60 kcal/molである。
【0048】
「ジスルフィド安定化Fv」または「dsFv」という語句は、軽鎖と重鎖の間にジスルフィド結合がある免疫グロブリンの可変領域をいう。本発明の文脈において、ジスルフィド結合を形成するシステインは、抗体鎖のフレームワーク領域内に存在し、抗体の立体構造を安定化するのに役立つ。一般的には、抗体は、フレームワーク領域内の、置換基が抗原結合を妨害しない位置にシステインを遺伝子工学で作製される。
【0049】
「リンカーペプチド」という用語は、重鎖の可変ドメインを軽鎖の可変領域に間接的に結合するのに役立つ、抗体結合断片(例えばFv断片)内のペプチドについての言及を含む。
【0050】
特定抗原と免疫学的に反応性である抗体は、ファージベクターまたは類似ベクターの組換え抗体ライブラリを選択するような組換えの方法、例えば、Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989); Ward et al., Nature 341:544-546 (1989); およびVaughan et al., Nature Biotech. 14:309-314 (1996)を参照し、または抗原でもしくは抗原をコードするDNAで動物を免疫することによって産生することができる。
【0051】
「エフェクター部分」という用語は、標的化部分が標的とする細胞に作用を及ぼすことを目的とするか、または免疫複合体の存在を同定することを目的とする、免疫複合体の一部分を意味する。本発明の文脈において、エフェクター部分は変異型シュードモナス外毒素Aである。
【0052】
「免疫複合体」という用語は、エフェクター分子と抗体との共有結合についての言及を含む。
【0053】
「有効量」または「〜に有効な量」または「治療的に有効な量」という用語は、細胞のタンパク質合成を少なくとも50%阻害すること、または細胞を死滅させることなどの所望の結果をもたらすのに十分な治療剤の投与量についての言及を含む。
【0054】
「毒素」という用語は、典型的には、アブリン、リシン、シュードモナス外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、ボツリヌス毒素、またはその改変毒素についての言及を含む。例えば、PEおよびDTは、肝臓毒性を通じて一般的に死に至らしめることもある強力な有毒化合物である。しかしながら、PEおよびDTは、毒素に元からある標的化成分(例えばPEのドメインIaまたはDTのB鎖)を取り除き、かつ抗体などの別の標的化部分と交換することによって、免疫毒素として使用するための形態に改変することができる。本発明の文脈において、毒素は変異型シュードモナス外毒素Aである。
【0055】
「接触させる段階」という用語は、直接の物理的会合に置くことについての言及を含む。
【0056】
「発現プラスミド」とは、プロモーターに機能的に連結されている、関心対象の分子をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0057】
本明細書において用いられる場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は互換的に用いられ、アミノ酸残基の重合体についての言及を含む。この用語は、天然アミノ酸重合体のみならず、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工化学的類似体であるアミノ酸重合体にも適用される。この用語はまた、タンパク質が機能を維持する保存的アミノ酸置換残基を含有する重合体にも適用される。
【0058】
「残基」または「アミノ酸残基」または「アミノ酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド(ひとまとめにして「ペプチド」)内に組み入れられるアミノ酸についての言及を含む。アミノ酸は、天然のアミノ酸でよく、また特に限定されない限り、天然アミノ酸と同様の様式で機能できる天然アミノ酸の公知の類似体を包含してよい。
【0059】
本明細書に引用されるアミノ酸および類似体は、下表Aの略称によって記述される。
【0060】
(表A)アミノ酸表記法

【0061】
「保存的置換」とは、タンパク質について記述する場合は、タンパク質の活性を実質的に変えない、タンパク質のアミノ酸組成の変化をいう。したがって、特定のアミノ酸配列の「保存的に改変された変種」とは、タンパク質の活性にとって重要でないアミノ酸のアミノ酸置換、または同様の性質(例えば酸性、塩基性、正もしくは負に電荷している、極性もしくは非極性など)を有する他のアミノ酸によるアミノ酸の置換であり、重要アミノ酸の置換であっても活性を実質的に変化させないような置換をいう。機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換の表は、当技術分野において周知である。表Bの以下の六つの群それぞれには、互いが保存的置換となるアミノ酸が含まれる。
【0062】
(表B)

Creighton, Proteins : Structures and Molecular Properties, W.H. Freeman and Company, New York (2nd Ed., 1992)も参照されたい。
【0063】
ペプチドの文脈において「実質的に類似する」という用語は、ペプチドが、参照配列に対して、10〜20アミノ酸の比較ウィンドウ全体について少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の配列同一性を持つ配列を含むことを示している。配列同一性の割合は、最適にアライメントさせた二つの配列を、比較ウィンドウ全体について比較することによって決定され、比較ウィンドウ内にあるポリヌクレオチド配列部分は、参照配列(付加もしくは欠失を含まない)と比較して、二つの配列のアライメントを最適にした場合に、付加もしくは欠損(すなわちギャップ)を含んでもよい。割合は、両配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が占めている位置の数を決定して一致位置数を求めて、一致位置数を比較ウィンドウ内にある位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性の割合を得ることによって算出される。
【0064】
「結合する(conjugating)」、「接合する(joining)」、「結合する(bonding)」または「連結する(linking)」という用語は、二つのポリペプチドを一つの連続するポリペプチド分子にすることをいう。本発明の文脈において、この用語は、抗体成分をエフェクター分子(EM)に接合することについての言及を含む。連結は、化学的方法または組換えによる方法のいずれでもできる。化学的方法は、抗体成分とエフェクター分子とが共有結合して一つの分子を形成するような、二分子間の反応をいう。
【0065】
本明細書において用いられる場合、「組換え体」には、その天然の状態において、タンパク質を発現できる外来性のDNAコピーを有していない細胞を用いて作製されるタンパク質についての言及を含む。細胞は、適切に単離された核酸配列が導入されることによって遺伝的に変更されているために、組換えタンパク質を産生する。この用語はまた、異種核酸が導入されたことによって、もしくは天然の核酸を変更してその細胞にとって本来のものではない形にすることによって改変された細胞、または核酸、またはベクター、あるいはそのように改変された細胞に由来する細胞についての言及を含む。したがって、例えば、組換え細胞は、元来(非組換え体)の形の細胞内に存在しない遺伝子を発現するか、天然の形に見られる遺伝子の変異体を発現するか、または他の場合には異常な発現をしているか、過小に発現しているか、または全く発現しない、天然の遺伝子を発現する。
【0066】
本明細書において用いられる場合、「核酸」または「核酸配列」とは、単鎖型または二本鎖型のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド重合体についての言及を含み、特に限定されない限りは、天然のヌクレオチドと同様の様式で核酸にハイブリダイズする天然ヌクレオチドの公知の類似体を含む。特に記載がない限り、個別の核酸配列は、その相補的配列および保存的変種、すなわちコドンのゆらぎ位置にある核酸、およびタンパク質に翻訳された場合にアミノ酸の保存的置換を生ずる変種を含む。
【0067】
本明細書において用いられる場合、特定の核酸に関して、「コードする」とは、特定タンパク質への翻訳に関する情報を含む核酸についての言及を含む。情報は、コドンを用いて指定されている。一般的には、アミノ酸配列は、「普遍的」遺伝子コードを用いて、核酸によってコード化されている。しかしながら、いくつかの植物、動物および真菌のミトコンドリア、細菌マイコプラズマ・カプリコルム(Mycoplasma capricolum) (Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82:2306-2309 (1985))または繊毛虫の大核に存在するような普遍的コードの変種を、これら生物の翻訳機構を用いて核酸を発現する場合には用いてもよい。
【0068】
「インフレームで融合する」という語句は、接合した核酸配列が元来のポリペプチド鎖を含む単一鎖のタンパク質に翻訳されるように、ポリペプチドをコードしている2つまたはそれ以上の核酸配列を接合することをいう。
【0069】
本明細書において用いられる「発現」とは、核酸からタンパク質への翻訳についての言及を含む。タンパク質は、発現され、そのまま細胞内に留まっても、細胞表面膜の成分になっても、あるいは細胞外マトリックスまたは培地に分泌されてもよい。
【0070】
「宿主細胞」とは、発現ベクターの複製または発現を支えることができる細胞を意味する。宿主細胞は、大腸菌(E. coli)などの原核生物細胞でも、または酵母、昆虫、両生類もしくは哺乳類細胞などの真核生物細胞でもよい。
【0071】
「同一」またはパーセント「同一性」とは、2つまたはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、同一であるか、または一致が最も多くなるように比較してアライメントさせた場合に、以下の配列比較アルゴリズムの一つを用いてもしくは目視検査により測定された、同一であるアミノ酸残基またはヌクレオチドが特定された割合である、2つまたはそれ以上の配列または部分配列をいう。
【0072】
「実質的に同一である」という語句は、二つの核酸またはポリペプチドの文脈において、一致が最も多くなるように比較し、かつアライメントさせた場合に、以下の配列比較アルゴリズムの一つを用いてまたは目視検査により測定された、少なくとも60%、より好ましくは65%、さらにより好ましくは70%、いっそうより好ましくは75%、さらにより好ましくは80%、最も好ましくは90〜95%のヌクレオチドまたはアミノ酸残基同一性を有する、2つまたはそれ以上の配列または部分配列をいう。好ましくは、実質的同一性は、少なくとも約50残基長である配列の領域にわたって、より好ましくは少なくとも約100残基の領域にわたって存在し、かつ最も好ましくは、配列は少なくとも約150残基にわたり実質的に同一である。最も好ましい態様において、配列はコード領域の全長にわたって実質的に同一である。
【0073】
配列の比較では、一般的に一つの配列が参照配列となり、これと試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列と参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次に配列比較アルゴリズムは、試験配列について、指定されたプログラムパラメータに基づいて参照配列に対するパーセント配列同一性を算出する。
【0074】
比較のために最適な配列アライメントは、例えば、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムにより、Pearson and Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性の検索法により、コンピュータによるこれらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software PackageにおけるGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)の実施により、または目視検査により(一般的にはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel et al., eds., Current Protocols, a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley and Sons, Inc., (1995 Supplement) (Ausubel)を参照のこと)行うことができる。
【0075】
パーセント配列同一性および配列類似性を判定するのに適したアルゴリズムの例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、それぞれ、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410およびAltschuel et al. (1977) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記述されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公的に利用可能である。このアルゴリズムは、最初に問合せ配列における長さWの短いワード(これは、データベース配列における同じ長さのワードと整列される場合、ある正の値の閾値スコアTに適合するか、それらを満たすかのいずれかである)を同定することによって、高スコア配列(HSP)ペアを同定する工程を包含する。Tは、隣接ワードスコア閾値という(Altschul et al., 前記)。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見出すための検索を開始するための元として作用する。次いでワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加されうる限り、各配列に沿って両方向に伸長する。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM (適合残基の対に対する報酬(reward)スコア; 常に>0)およびパラメータN (ミスマッチ残基に対するペナルティースコア; 常に<0)を用いて算出される。アミノ酸配列の場合、スコア付けマトリックスを用いて累積スコアを算出する。各方向でのワードヒットの伸長は、以下の場合に停止される: 累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xで減少する場合; 一つもしくは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積に起因して、累積スコアが0もしくはそれ以下になる場合; または配列のいずれかの末端に達した場合。BLASTアルゴリズムのパラメータW、T、およびXは、アライメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)では、デフォルトとして、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムでは、デフォルトとして3のワード長(W)、および10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)を参照のこと)を使用する。
【0076】
パーセント配列同一性を算出することに加えて、BLASTアルゴリズムはまた、二つの配列間の類似性の統計的解析も行う(例えば、Karlin and Altschul, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90:5873-5787 (1993)を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の一つの基準は、最小の合計確率であり(P(N))、これは二つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の適合が偶然に起こる確率の指標を提供する。例えば、核酸は、試験核酸の参照核酸との比較における最小の合計確率が約0.1より小さい、より好ましくは約0.01より小さい、および最も好ましくは約0.001より小さい場合、参照配列に類似であると考えられる。
【0077】
二つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であることのさらなる指標は、第一の核酸によってコードされるポリペプチドが、下記の通り、第二の核酸によってコードされるポリペプチドと免疫学的に交差反応性であるということである。したがって、ポリペプチドは、典型的には、第二ポリペプチドと、この二つのペプチドが保存的置換だけしか違わない場合、実質的に同一である。二つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、二つの分子が、下記の通り、ストリンジェントな条件の下で互いにハイブリダイズすることである。
【0078】
「インビボ」という用語は、細胞を得た生物の体内についての言及を含む。「エクソビボ」および「インビトロ」は、細胞が得られた生物の体外を意味する。
【0079】
「悪性細胞」または「悪性腫瘍」という語句は、侵襲性であるおよび/または転移を起こしうる、腫瘍または腫瘍細胞、すなわち、がん細胞をいう。
【0080】
本明細書において用いられる場合、「哺乳類細胞」は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、チンパンジーまたはマカクを含む哺乳類に由来する細胞についての言及を含む。細胞はインビボでまたはインビトロで培養することができる。
【0081】
「選択的に反応性である」という用語は、抗原に関して、抗体が、その抗原を保持する細胞または組織と、全部または一部で、選択的に結合するが、その抗原を欠く細胞または組織とは結合しないことをいう。もちろん、分子と非標的細胞もしくは組織との間に、ある程度の非特異的な相互作用が起こりうることが認識されている。それにもかかわらず、選択的反応は、抗原の特異的認識を通し媒介されるものとして識別されてもよい。選択的に反応性である抗体は、抗原に結合するが、それらは低親和性で結合してもよい。一方、特異的結合は、抗体と抗原を保持する細胞との間には、抗体と抗原を欠く細胞との間の結合に比べより強い結合を生ずる。特異的結合は、典型的には、標的抗原を欠く細胞または組織に比べ、標的抗原を保持する細胞または組織に結合する抗体の量(単位時間あたり)の2倍超、好ましくは5倍超、より好ましくは10倍超および最も好ましくは100倍超の増加をもたらす。このような条件下でのタンパク質への特異的結合は、特定のタンパク質に対するその特異性で選択される抗体を必要とする。特定のタンパク質と特異的に免疫反応性である抗体の選択に適した種々の免疫アッセイ形式がある。例えば、固相ELISA免疫アッセイ法は、あるタンパク質と特異的に免疫反応性であるモノクローナル抗体を選択するために日常的に用いられている。特異的な免疫反応性を決定するのに用いることができる免疫アッセイ法の形式および条件に関する説明については、Harlow and Lane, ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Publications, New York (1988)を参照されたい。
【0082】
「免疫学的に反応性である条件」という用語は、特定エピトープに対し作製された抗体が、そのエピトープに対して、実質的に全てのその他エピトープへの結合に比べて検出可能な程度に強く結合できる、および/または実質的に占有的に結合できる状態についての言及を含む。免疫学的に反応性である条件は、抗体結合反応の様式に依存し、一般的には、免疫アッセイプロトコールに用いられるものであるか、またはインビボで遭遇する条件である。免疫アッセイ法の形式および条件については、Harlow and Lane、上記を参照されたい。好ましくは、本発明の方法に用いられる免疫学的に反応性である条件は、生きている哺乳類または哺乳類細胞の内側で一般的である条件(例えば温度、浸透圧モル濃度、pH)への言及を含む「生理学的条件」である。いくつかの器官は、極端な条件に供されることが分かっているが、生物内および細胞内の環境は、通常pH 7 (すなわち、pH 6.0〜pH 8.0、より典型的にはpH 6.5〜7.5)の付近にあり、主要な溶媒として水を含み、0℃より高く、50℃より低い温度で存在する。浸透圧モル濃度は、細胞の生存と増殖を支えることができる範囲内にある。
【0083】
「患者」、「対象」、「個体」という用語は、哺乳類、例えば、ヒトまたは非ヒト霊長類、家畜哺乳類(例えば、イヌもしくはネコ)、農業用哺乳類(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ)、実験哺乳類(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ)を互換的にいう。
【0084】
「同時投与する」という用語は、個体の血中での二つの活性物質の同時存在をいう。同時投与される活性物質は、同時的にまたは連続的に送達されうる。
【0085】
本明細書において用いられる場合、「処置する」および「処置」という用語は、この用語が当てはまる疾患もしくは状態、またはそのような疾患もしくは状態の1つもしくは複数の症状のいずれかの、発症を遅延させること、進行を遅らせもしくは反転させること、または緩和もしくは予防することをいう。
【0086】
腫瘍またはがんの増殖または進行に関して「阻害する」、「低減する」、「減少させる」という用語は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定可能な量だけ対象における腫瘍またはがんの増殖、広がり、転移を阻害することをいう。例えば、キメラ分子の一部としての、本発明のPEの同時投与前の腫瘍量と比べて腫瘍量が少なくとも約10%、20%、30%、50%、80%または100%低減される場合には、腫瘍またはがんの増殖、進行または広がりは阻害されるか、低減されるか、または減少させられる。いくつかの態様において、腫瘍またはがんの増殖、進行または広がりはPEの投与前の腫瘍量と比べて少なくとも約1倍、2倍、3倍、4倍またはそれ以上だけ阻害されるか、低減されるか、または減少させられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】HA22-LR-8MがCLL患者由来の慢性リンパ性白血病(CLL)細胞に対する優れた細胞死滅活性を有することを例証する。
【図2】HA22-LR-8MがSCIDマウスにおいてCA46腫瘍に対する優れた抗腫瘍活性を有することを例証する。CA46腫瘍を有するマウスをHA22またはHA22-LR-8Mの3回注射で静脈内(i.v.)処置し、腫瘍のサイズを23日間測定した。
【図3】免疫毒素の静脈内投与を受けたマウスにおいてLMB-9と比べてHA22-LR-8Mの免疫原性の減少を例証する。
【図4】免疫毒素の静脈内(i.v.)投与を受けたマウスにおいてHA22と比べてHA22-LR-8Mの免疫原性の減少を例証する。
【図5】CA46に対するHA22 (黒丸)およびHA22-LR-8M (黒四角)の特異的な細胞毒性活性(図5A); HA22およびHA22-LR-8Mの抗腫瘍活性(図5B)を示す。
【図6】HA22、HA22-8XおよびHA22-LR-8Mに対する免疫学的反応の比較を示す。図6Aにおいて、マウスにおける免疫毒素に対するIgG抗体の産生を例証する。図6Bにおいて、マウスにおける免疫毒素により誘導されるIgM反応を示す。図6Cにおいて、免疫後の血清の力価測定を示す。図6Dにおいて、HA22免疫マウス血清中の各変異体分子に対する抗体の量を示す。図6Eにおいて、HA22またはHA22-LR-8M免疫毒素に対する二次免疫反応を示す。図6Fにおいて、HA22またはHA22-LR-8M免疫毒素に対する既存のAb産生B細胞の免疫反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
詳細な説明
1. 導入
15年以上にわたり、シュードモナス外毒素A (「PE」)は、免疫毒素などのキメラ分子の毒性部分として用いるために調べられてきた。その研究は、細胞毒性活性が保持されながら、分子の非特異的毒性が低減または排除された、いくつかの変異型のPEの開発のなかで具現化されている。これらの変異体の大部分は、その腫瘍浸潤を改善するように端部が切断されている。そのなかには、端部の切断に加えて、カルボキシル末端残基の改変、またはプロテアーゼのフリンによる残基279位と280位の間の切断のための要件の排除などの改変を受けて、その細胞毒性を高めているものもある。変異型のPEを用いた免疫毒素では、ヒト臨床試験において治療での有望性が示されている。
【0089】
しかしながら、特に固形腫瘍の処置のためのPEに基づく免疫毒素の使用は、初回投与後の免疫毒素に対する中和抗体の発生のために限られてきた。大部分のプロトコールが免疫毒素の2回目の投与を必要とする前に、これらの抗体は、発生して、それゆえ、以前に曝露された患者において固形腫瘍に対する免疫毒素のさらなる使用を無効にしてしまう。
【0090】
本発明の基礎をなす研究から、PEに基づく免疫毒素に対する患者の主たる免疫反応が、免疫毒素のPE部分に対するものであることが明らかになる。この理解から、免疫毒素に使われるPE分子の抗原性を低減させることで、免疫毒素の全体的な抗原性が低減され、その有用性が高められることが示唆される。本発明の基礎をなす研究からさらに、PEが7つの主要なエピトープを有し、これらは計13個の部分エピトープにさらに分類できることが明らかになる。
【0091】
驚くべきことに、PEの13個の部分エピトープのうちの10個については、PEの単一のアミノ酸残基を変異させることにより、エピトープまたは部分エピトープの抗原性を低減または除去できることが発見された。もちろん、PEは非常に多数の抗原エピトープを含むので、単一の変異では、PE分子全体の抗原性が除去されることはない。しかしながら、本発明の各個々の変異は、個々のエピトープまたは部分エピトープの抗原性を低減する。個々の変異は、それゆえ、PE分子全体および変異型PEで産生された任意の免疫毒素の抗原性を低減する。
【0092】
本発明の基礎をなす研究から、種々の変異を組み合わせて、PE分子の細胞毒性を保持しながら分子の全体的な抗原性を低減できることがさらに実証された。残基D406位およびQ592位を含む、異なるエピトープまたは部分エピトープの8個のアミノ酸残基を変異させてPE分子を作製した。これらの変異を有するPEを免疫毒素にし、その細胞毒性をアッセイした。比較を容易にするため、PEを、それぞれが同じ標的化部分(高親和性、抗CD22抗体)を用いた免疫毒素にした。さらに、比較を容易にするため、置換が行われたPEとしてPE38型のPEを用いた。多くのPEに基づく免疫毒素に関する過去15年間にわたる本発明者らの経験、全ての細胞毒性型のPEが標的細胞に対する同じ細胞毒性機構(伸長因子2のADPリボシル化)を共有するという事実、および使用中の他のPE変種が単に、特定の端部切断(または、PE4Eの場合には、端部切断ではなく、ドメインIa中の4つの変異)を有する同じアミノ酸配列であるという事実を考慮すれば、PE38で得られる結果は他のPE型(それぞれPE25、PE40、PE38、PE37、PE35、PE4E、PE38QQRおよびPE38KDELとして公知の、例となる型などの)にそのまま適用できるものと予想される。
【0093】
免疫毒素として、既に作製された変異型PE、および本発明の教示にしたがって改変されるその他のものは、免疫毒素にされた場合に、インビボでそれほどの免疫反応を誘発しないこと、およびこの弱まった免疫反応は中和抗体の低い力価によって反映されることが予想される。中和抗体の発生は、免疫毒素の前臨床試験において、および免疫毒素の臨床試験プロトコールにおいて日常的にアッセイされ、これらの標準的なアッセイ法により、本発明のPEを用いて作製された免疫毒素によって誘導される抗体力価を測定することができる。
【0094】
本発明のPEは、免疫毒素にされ、臨床試験において試験されている既知の変異型PEと同じくらい有用であることを当業者は理解すると考えられる。しかしながら、言及した通り、本発明のPEで作製された免疫毒素は、現在利用可能なPE分子で作製された免疫毒素よりも低い抗原性を示すものと予想され、それによって現在利用可能なPEに基づく免疫毒素よりも患者においてそれほどの免疫反応を誘発しないものと予想される。
【0095】
本発明の変異を既に改変されているPE (それぞれPE25、PE40、PE38、PE37、PE35、PE4E、PE38QQRおよびPE38KDELとして公知の、例となる型などの)へ容易に遺伝子操作して、その抗原性を低減し、それによってそれらを含んだ免疫毒素に対する患者の免疫原性反応を低減することができる。したがって、本発明は、現在臨床試験中の各種PEに基づく免疫毒素などの、PEに基づく免疫複合体の治療的有用性を高める重要な、新しい手段を提供する。
【0096】
言及した通り、本発明の改良型PEはPE分子の特定の位置に分子の変異を含む。慣例により、PEおよびその変種中の位置は、天然PE分子の613アミノ酸配列(SEQ ID NO:1)中の対応する位置を参照することにより当技術分野において表される。本明細書においてはこの慣例にしたがって、PE変種間の素早い比較を可能にし、本発明のPEにおいてどの残基が変異させられているかの理解を促進する。例えば、以下でさらに詳細に論じられる通り、ほとんどの臨床的に有用なPE型では、該分子のドメインIa (アミノ酸1位〜252位)が、非特異的結合を低減するように欠失されている。ドメインIaが欠失されているPEには361残基しかない。それでもなお、本明細書においてD406についての言及は、それが存在する特定のPEのアミノ末端からカウントされた場合のその残基の位置にかかわらず、天然のPE配列の406位に見出されるアスパラギン酸をいうが、R590は天然PEの590位に見出されるリジンをいう、などである。天然PEのアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)は当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,602,095号に記載されている。
【0097】
以下で示される通り、好ましい態様において、本発明の組成物および方法では、本明細書において特定された位置の、PEの天然配列に存在するアミノ酸残基が、アラニン、グリシンまたはセリンの群から選択されるアミノ酸に置き換えられる。アラニン、グリシンおよびセリンは置換残基として特に好ましく、アラニンおよびセリンが特に好ましい。
【0098】
有用であるためには、PEは残基の置換後に細胞毒性活性を保持していなければならない。抗原性を低減するように変更されたPEによる細胞毒性の保持について試験するために、いくつかの例となる免疫毒素が作製された。最初の一連の研究では、19種の免疫毒素を作製した。比較を可能にするため、これらの免疫毒素のそれぞれで同じ標的化部分を用い、それぞれを、PE38として公知の同じ端部切断型のPEから始めた。19種の免疫毒素のそれぞれで、異なるPE38残基を、特定のPEエピトープまたは部分エピトープの抗原性を低減させると特定された変異に置き換えた。これらの19種の変異型PE38の細胞毒性活性を次に、同じ標的化部分で作製された免疫毒素、および未変更型PE38で作製された免疫毒素(便宜上「野生型」免疫毒素と呼ばれる)と比較した。抗原性が低減されたPEの変種は、例えば、PCT出願番号PCT/US06/28986 (WO 2007/016150として公開されている)に記述されている。
【0099】
本発明の基礎をなす研究から、置き換えにより、同じエピトープに割り当てられた二種超のモノクローナル抗体(「MAb」)に対する結合を少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、および最も好ましくは少なくとも20倍減少させるアミノ酸が明らかになった。エピトープとのMAbの結合の低減は、エピトープの、したがって変異を含んだPE分子の、抗原性の喪失と相関するものと予想される。
【0100】
WO 2007/016150においては、同じエピトープとのMAbの結合を少なくとも5倍だけ低減させることが分かった変異は、E282、E285、P290、R313、N314、P319、D324、E327、E331、Q332、D403、R412、R427、E431、R432、R458、D461、R467、R490、R505、R513、E522、R538、E548、R551、R576、K590およびL597であった。変異により同じエピトープとのMAbの結合を少なくとも10倍だけ低減させることが分かったPEの位置は、E282、E285、P290、R313、N314、D324、E327、E331、Q332、D403、R412、E431、R427、R432、R458、D461、R467、R490、R505、R513、E522、R538、E548、R576およびR590であった。変異により同じエピトープとのMAbの結合を少なくとも20倍だけ低減させることが分かったPEの位置は、N314、D324、E327、E331、Q332、D403、R432、R467、R490、R505、R513、R538、R551、K590およびL597であった。
【0101】
PCT出願PCT/US2004/039617 (国際公報WO 2005/052006)のなかで報告された、本発明者らの研究室による過去の研究において、PEの残基R490をアラニンに変異させることにより、得られるPE分子の細胞毒性は、免疫毒素の毒素部分として用いられた場合に倍増されることが発見された。驚くべきことに、本発明の基礎をなす研究から、PEの490位のアルギニンの変異もPEエピトープ5との抗体の結合をなくすことが示される。それゆえ、PEの490位のアルギニンを上記の残基の1つと置き換えることは、PE分子の抗原性を減少させるものと予想される。PEの490位での置き換えと、エピトープ5以外のPEのエピトープまたは部分エピトープの1つとの結合を低減する1つまたは複数の残基の置き換えとを組み合わせることで、分子の抗原性、および得られたPEで作製された免疫毒素のPE部分に対する抗体の発生がさらに低減されるものとさらに予想される。部分エピトープ2aとの結合を低減させる変異は見出されなかったことに留意されたい。
【0102】
WO 2005/052006にはさらに、PEの490位のアルギニンがグリシン、アラニン、バリン、ロイシンまたはイソロイシンに変異されうることが示唆されている。細胞毒性活性の増加および免疫原性の減少は別々の現象である。それゆえ、細胞毒性活性の増加をもたらすものと予想される全ての変異もまた、免疫原性の減少をもたらすものと予想されるわけではない。このどちらも行う変異、例えばグリシンまたは、より好ましくは、アラニンへのR490の変異などが特に望ましい。
【0103】
驚くべきことに、今回、ある種の他の残基、つまりD406およびQ592を変異させても、同じように、高い細胞毒性および低減した抗原性を有する免疫毒素にすることができるPEをもたらせることが発見された。
【0104】
各種の分子が、本発明の変異を含んだPEを、実施者が死滅させることまたは阻害することを望む細胞に標的化する基盤となりうることを当業者は承知している。上記の論述から明らかである通り、抗体は一つの特に好ましいタイプの標的化物質である。
【0105】
別の好ましい態様において、キメラ分子の標的化一部分もしくは部分は、これを用いてサイトカインの受容体を過剰発現している細胞に毒素を標的化できるサイトカインである。例えば、IL-13受容体は、神経膠腫などのある種のがん細胞の外部に強く過剰発現されていること、および腎臓細胞癌、カポジ肉腫およびホジキン病などのがんに対しオートクリン増殖因子として機能することが公知である。例えば、WO 01/34645、WO 03/039600および米国特許第6,518,061号を参照されたい。IL-13またはIL-13の各種変異体および順序入替え型は、本発明の1つまたは複数の変異を含むPE分子などの細胞毒素を、IL-13受容体を発現している細胞に標的化するために用いることができる。さらに、国際公報WO 01/34645に論じられている通りに、順序入替え型を含むさまざまなIL-13型を用いて、変異を有するPE分子を、IL-13受容体を発現している肺の中の細胞に標的化して、喘息およびアレルギー性鼻炎などの状態の症状を軽減または完治すること、および体内のその他の場所にある細胞に標的化して、アトピー性皮膚炎および住血吸虫症での肝繊維症の症状を軽減または完治することができる。
【0106】
サイトカインに加えて、当技術分野では非常に多くのその他リガンドが公知であり、本発明のPE分子を標的細胞に標的化するのに用いることができる。例えば、トランスフェリンは、トランスフェリン受容体を発現する細胞に毒素を標的化させる手段として使用されている。同様に、疾患または状態に関連した細胞において特異的または選択的に発現される細胞表面上の抗原、例えば、HIV感染細胞のgp120、移植片対宿主病に関係するT細胞上のCD25、またはCEA、CD30もしくはCD33などのがん細胞上に発現される各種表面分子が存在する場合には、疾患または状態に関係する細胞は標的化されうる。
【0107】
2. 低減した抗原性を有する改良型PE分子
天然のシュードモナス外毒素A (PE)は、緑膿菌によって分泌される、活性の高い単量体タンパク質(分子量66 kD)であり、真核生物細胞におけるタンパク質合成を阻害する。天然PEの配列は、米国特許第5,602,095号のSEQ ID NO:1に記載されており、参照により本明細書に組み入れられる。作用の方法は、伸長因子2 (EF-2)のADPリボシル化の不活性化である。外毒素は、協力して働き細胞毒性を生ずる3つの構造ドメインを含有する。ドメインIa (アミノ酸1位〜252位)は、細胞結合を仲介する。ドメインII (アミノ酸253位〜364位)は、細胞質内への移動を担い、かつドメインIII (アミノ酸400位〜613位)は伸長因子2のADPリボシル化を媒介する。ドメインIb (アミノ酸365位〜399位)の機能は、まだ未確定であるが、その大きな部分、アミノ酸365位〜380位を欠失させても細胞毒性は失われない。Siegall et al., J. Biol Chem 264:14256-61 (1989)を参照されたい。
【0108】
本明細書において用いられる「シュードモナス外毒素」および「PE」という用語は、天然のタンパク質から改変されて、非特異的毒性が低減されているか、または排除されているPEを一般的にいう。多数のこのような改変は当技術分野において公知であり、ドメインIaの排除、ドメインIb、IIおよびIII内のさまざまなアミノ酸の欠失、単独アミノ酸置換、ならびにKDELおよびREDLなどの1つまたは複数の配列のカルボキシル末端への付加を含むが、これらに限定されることはない。Siegall et al., J. Biol. Chem. 264:14256-14261 (1989)を参照されたい。PEの細胞毒性断片は、その後の標的細胞内でのタンパク質分解またはその他のプロセシングを伴う(例えば、タンパク質またはプレタンパク質として)または伴わない、細胞毒性である断片を包含する。PEの細胞毒性断片は、以下に論じられる通り、PE40、PE38およびその変種PE38QQRおよびPE38KDEL (PE38が、C末端に付加された配列KDELを有する)、ならびにPE35を含む。好ましい態様において、PEの細胞毒性断片は、天然PEの細胞毒性の少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは約50%、さらにより好ましくは75%、より好ましくは少なくとも約90%、およびさらにより好ましくは95%を保持する。特に好ましい態様において、細胞毒性断片は、少なくとも天然PEの細胞毒性を有し、好ましくは、天然PEよりも高い細胞毒性を有する。
【0109】
好ましい態様において、PEは、多くは、米国特許第4,892,827号に教示されている通りドメインIaを欠失することによって非特異的細胞結合を減らすか、または排除するように改変されてきたが、これは、例えばドメインIaの特定残基を変異することによってもなし遂げることができる。例えば、米国特許第5,512,658号は、ドメインIaは存在するが、57位、246位、247位および249位にあるドメインIaの塩基性残基が酸性残基(グルタミン酸または「E」)によって置換された変異型PEが、大きく減少した非特異的細胞毒性を示すことを開示している。この変異型のPEは、「PE4E」と呼ばれることもある。
【0110】
PE40は、当技術分野において既述されている端部切断型のPE誘導体である。Pai et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 88:3358-62 (1991); およびKondo et al., J. Biol. Chem. 263:9470-9475 (1988)を参照されたい。PE35は、アミノ酸残基1位〜279位が欠失している、35 kDのPEのカルボキシル末端断片であり、この分子は、天然のPEの280位のmetから始まって、その後にアミノ酸281位〜364位および381位〜613位が続いている。PE35およびPE40は、例えば、米国特許第5,602,095号および同第4,892,827号に開示されている。別の誘導体は、ドメインII由来の11残基の断片およびドメインIIIの全てを含んだ、PE25である。いくつかの態様において、PEの誘導体はドメインIIIしか含まない。
【0111】
いくつかの好ましい態様において、細胞毒性断片PE38が用いられる。PE38は、PEの移動ドメインおよびADPリボシル化ドメインを含むが、細胞結合部分を含んでいない(Hwang, J. et al., Cell, 48:129-136 (1987))。PE38は、アミノ酸253位〜364位および381位〜613位から構成された、端部が切断されたPEのプロタンパク質であり、細胞内でのプロセッシングによりその細胞毒性型に活性化される(例えば、米国特許第5,608,039号およびPastan et al., Biochim. Biophys. Acta 1333:C1-C6 (1997)を参照のこと)。PE38の配列は、それゆえ、当技術分野において公知であるが、記載した残基をPEの既知配列から取り去ることによって実施者が容易に決定することもできる。遺伝暗号の縮重性により、PE38のアミノ酸配列、PE38KDELなどの、その変種のアミノ酸配列、および本明細書において論じられる他のPE誘導体のアミノ酸配列が、多様な核酸配列によってコードされることができ、そのいずれが発現されても所望のポリペプチドを生じうることを当業者は承知していると考えられる。
【0112】
上記の通り、ドメイン1bのいくつか、または全てを欠失してもよく、かつ残余部分をリンカーまたはペプチド結合によって直接接合することもできる。ドメインIIのアミノ部分のいくつかは欠失してもよい。かつC末端は、天然配列の残基609位〜613位(REDLK)を含むことができ、またはKDELもしくはREDLなどの構築体の細胞質内への移動能力を維持することが知られている変種を含んでもよく、またこれらの配列を繰り返すこともできる。例えば、米国特許第5,854,044号;同5,821,238号;および同5,602,095号およびWO99/51643を参照されたい。好ましい態様において、PEはPE4E、PE40またはPE38であるが、非特異的細胞毒性が、排除されているかまたは非標的細胞に対し重大な毒性が生じないレベルまで低減されている、任意の形のPEは、それが標的細胞内の移動能力およびEF-2のリボシル化能力を保持している限り、本発明の免疫毒素において用いることができる。
【0113】
好ましい態様において、PE分子は、改変されて、ドメインIII内のD406位およびQ592位に通常存在するアミノ酸残基の代わりにアラニン、グリシン、セリンまたはグルタミンで置換されている。D406位およびQ592位の置換をドメインIII内のR432位、R467位、R490位、R513位、E548位およびK590位のアラニン、グリシン、セリンまたはグルタミンの置換と組み合わせることができる。いくつかの態様において、さらに、D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597から選択される位置のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基をアラニン、グリシン、セリンまたはグルタミンと置換する。ドメインIIIのドメインIIIアミノ酸残基位置D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592内の置換位置における残基に対する置換は、ドメインIaの全部(例えば、残基1位〜252位)の除去ならびにドメインIIの大部分(例えば、残基251位〜273位および285位〜394位)の除去と組み合わされることが好ましい。いくつかの態様において、PEはSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、PEはSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する。
【0114】
A. PEの保存的に改変された変種
天然PEおよび上記の変種の配列は、保存的置換を持ち、かつ細胞毒性能を保持し、望ましくは、PEの天然配列と比べて低減した抗原性を持ちうることが理解される。好ましい態様において、PEの改変変種またはその細胞毒性断片は、PE38などの、関心対象のPEと、アミノ酸レベルで少なくとも80%の配列類似性、好ましくは少なくとも85%の配列類似性、より好ましくは少なくとも90%の配列類似性、および最も好ましくは少なくとも95%の配列類似性を有する。
【0115】
「保存的に改変された変種」という用語は、アミノ酸および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変種は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードしている核酸配列をいうか、または核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合には、本質的に同一の核酸配列をいう。遺伝暗号の縮重性ゆえに、機能的に同一である、多数の核酸が所与のポリペプチドをコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全てアミノ酸アラニンをコードする。ゆえに、コドンによりアラニンが指定される全ての場所について、コードされたポリペプチドを変えることなしに、コドンを対応する記載のコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸変種は「サイレント変種」であり、保存的に改変された変種の一種である。本明細書の、ポリペプチドをコードする全ての核酸は、核酸について可能である、全てのサイレント変種も記載する。当業者は、核酸中の各コドン(メチオニンに対する、通常唯一のコドンであるAUGを除く)は、機能的に同一の分子を生ずるように改変できることを認識すると考えられる。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変種は、記載された各配列に暗示されている。
【0116】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コード配列中の単一のアミノ酸または少ない割合のアミノ酸を変更、付加または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個別の置換、欠失または付加は、その変更がアミノ酸の化学的に類似するアミノ酸による置換を生ずる場合には「保存的に改変された変種」であることを認識すると考えられる。
【0117】
B. PEの細胞毒性または抗原性についてのアッセイ法
本発明に用いられるシュードモナス外毒素は、当業者に周知のアッセイ法によって、細胞毒性が所望のレベルであるかアッセイできる。したがって、PEの細胞毒性断片、およびそのような断片の保存的に改変された変種も、細胞毒性について容易にアッセイできる。当技術分野において周知の方法によって、細胞毒性について多数の候補PE分子を同時にアッセイできる。例えば、候補分子のサブグループを、細胞毒性についてアッセイできる。正の反応を示した候補分子のサブグループをさらに小分けしていき、所望の細胞毒性断片が同定されるまでアッセイ法を続ける。このような方法によって、多数のPEの細胞毒性断片または保存的変種を迅速にスクリーニングできる。抗原性は、WO 2007/016150に教示されているアッセイ法を含め、当技術分野において公知の任意の方法によりアッセイすることができる。
【0118】
好ましいPE変種は、例えば、非置換型PE、例えばPE38との比較で、等しいまたはさらに高い細胞毒性を示す。さらに高い細胞毒性はさらに低いものよりも通常好ましいが、実際には、これらの変異型PEの低減された細胞毒性は、PEおよびそれらで作製された免疫毒素の低減された抗原性によって少なくともある程度までは相殺されるものと予想される。したがって、低減された細胞毒性を有するこれらのPEでさえも用途を見出す。さらに、免疫毒素にされた場合に細胞毒性の増大を示すPE変異と相まって、PEの細胞毒性は野生型PEのものに近いことがある。それに、PEは非常に強力な細胞毒素であるので、天然の毒素の毒性とは毒性がかなり低減された変異型PEでさえも毒素部分としてかなりの威力を保持している。
【0119】
3. キメラ分子
本発明の免疫複合体は、PE分子と抗体または他の標的化物質との共有結合が存在している分子を含むが、これに限定されることはない。特定の標的化物質の選択は、標的化される特定の細胞に依る。本明細書において提供されるPE分子を用いて、当業者は、配列が異なるが、しかし同じPEおよび抗体配列をコードする核酸などの、機能的に等価な核酸を含んだ種々のクローンを容易に構築することができる。したがって、本発明は、抗体およびPE複合体ならびにその融合タンパク質をコードする核酸を提供する。
【0120】
a. 免疫複合体の産生
i. 非組換え方法
本発明の非組換えの態様において、抗体などの標的化分子は、当業者に公知のさまざまな手段を用いて、本発明のPE分子に連結される。本発明のPE分子には、共有結合および非共有結合の両方の手段を用いることができる。
【0121】
抗体または他の標的化分子(「TM」)にPE分子を結合させるための手順は、TMの化学的構造によって変わると考えられる。ポリペプチドは、典型的には、種々の官能基; 例えば、カルボン酸(COOH)、遊離アミン(-NH2)またはスルフヒドリル(-SH)基を含むが、これらは抗体の適した官能基との反応に利用可能であり、例えば、PE分子の結合を生ずる。
【0122】
あるいは、抗体または他のTMを誘導体化して、さらなる反応性の官能基を露出または結合させる。誘導体化はPierce Chemical Company, Rockford Illinoisから入手可能なものなどの、いくつかのリンカー分子のいずれかの結合を伴いうる。
【0123】
本明細書において用いられる「リンカー」とは、PE分子にTMを接合させるのに用いられる分子である。リンカーは、抗体ともエフェクター分子とも共有結合を形成することができる。適したリンカーは、当業者に周知であり、以下に限定されるものではないが、直鎖または分岐鎖の炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、またはペプチドリンカーを含む。抗体およびエフェクター分子がポリペプチドの場合は、リンカーは構成的アミノ酸に、それらの側基(例えばシステインへのジスルフィド結合を通して)を介して接合できる。しかしながら、好ましい態様において、リンカーは末端アミノ酸のα炭素のアミノ基およびカルボキシル基に接合されると考えられる。
【0124】
いくつかの状況では、免疫複合体がその標的部位に達した時点で、PE分子をTMから遊離させることが望ましい。それゆえに、これらの状況では、免疫複合体は、標的部位近くで開裂可能な結合を含む。PE分子をTMから放出するリンカーの開裂は、標的細胞内でまたは標的部位近くで免疫複合体が供される酵素活性または状態によって促進されてもよい。標的部位が腫瘍の場合は、腫瘍部位の状態(例えば腫瘍関連酵素または酸性pHへの暴露)で開裂可能なリンカーを用いることができる。
【0125】
ii. 組換え法
本発明の核酸配列は、例えば適切な配列をクローニングすることを含む任意の適した方法によって、またはNarangらのホスホトリエステル法、Meth. Enzymol. 68:90-99 (1979);Brownらのホスホジエステル法、Meth. Enzymol. 68:109-151 (1979);Beaucageらのジエチルホスホルアミダイト法、Tetra. Lett. 22:1859-1862 (1981);例えばNeedham-VanDevanterら、Nucl. Acids Res. 12:6159-6168 (1984)に記載の、例えば自動合成装置を用いての、Beaucage and Caruthersにより記載された固相ホスホルアミダイトトリエステル法、Tetra. Letts. 22(20):1859-1862 (1981);および米国特許第4,458,066号の固相支持体法などの方法を用いて直接化学合成することによって調製できる。化学合成は、単鎖のオリゴヌクレオチドを産生する。これを、相補的配列とハイブリダイゼーションすることにより、または単鎖を鋳型に用いたDNAポリメラーゼによる重合化によって、二本鎖DNAに転換できる。当業者は、DNAの化学合成が、約100塩基の配列に制限されているが、短い配列の連結によってより長い配列が入手できることを認識すると考えられる。
【0126】
好ましい態様において、本発明の核酸配列は、クローニング技術によって調製される。適切なクローニングおよびシーケンシング技術の例、ならびに数多くのクローニングの実行を通して、十分な技能指導を行う説明の例は、以下に見いだせる:Sambrook et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (2ND ED.), Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory (1989))、Berger and Kimmel (eds), GUIDE TO MOLECULAR CLONING TECHNIQUES, Academic Press, Inc., San Diego CA (1987))、またはAusubel, et al. (eds.), CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Greene Publishing and Wiley-Interscience, NY (1987)。生物分野の試薬および実験装置の製造業者からの製品情報もまた有益な情報を提供する。このような製造業者としては、SIGMA chemical company (Saint Louis, MO), R&D systems (Minneapolis, MN), Pharmacia LKB Biotechnology (Piscataway, NJ), CLONTECH Laboratories, Inc. (Palo Alto, CA), Chem Genes Corp., Aldrich Chemical Company (Milwaukee, WI), Glen Research, Inc., GIBCO BRL Life Technologies, Inc. (Gaithersberg, MD), Fluka Chemica-Biochemika Analytika (Fluka Chemie AG, Buchs, Switzerland), Invitrogen, San Diego, CA and Applied Biosystems (Foster City, CA)、ならびに当業者に公知のその他多くの市販供給業者が挙げられる。
【0127】
天然PEをコードしている核酸を改変して本発明の免疫複合体を形成させることもできる。部位特異的変異誘導による改変は、当技術分野で周知である。PEをコードしている核酸は、インビトロの方法で増幅することができる。増幅方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写ベース増幅システム(TAS)、セルフサステインシーケンス複製システム(3SR)が挙げられる。さまざまなクローニング法、宿主細胞およびインビトロ増幅方法論が、当業者に周知である。
【0128】
好ましい態様において、免疫複合体は、抗体またはその他選択のTMをコードするcDNAを、本発明の所望のPEをコードするcDNAを含むベクターの中に挿入することによって調製される。挿入は、標的化物質(論述の簡便性のため、本明細書における論述では、標的化物質がFvであると仮定するが、他の標的化物質を同等の効果で置き換えることができる)およびPEがインフレームで読み取られるように、すなわち機能的Fv領域と機能的PE領域とを含む一つの連続するポリペプチドに読み取られるように作製される。特に好ましい態様において、本発明のPEをコードするcDNAは、毒素がscFvのカルボキシル末端に位置するようにscFvに連結される。他の好ましい態様において、本発明のPEをコードするcDNAは、毒素がscFvのアミノ末端に位置するようにscFvに連結される。
【0129】
ひとたび本発明のPE、抗体、または免疫複合体をコードする核酸が単離され、クローニングされると、細菌、植物、酵母、昆虫および哺乳類細胞などの組換えにより遺伝子工学で作製された細胞において、所望のタンパク質を発現させることができる。当業者は、大腸菌、その他細菌宿主、酵母、ならびにCOS細胞株、CHO細胞株、HeLa細胞株および黒色腫細胞株などのさまざまな高等真核生物細胞を含む、タンパク質発現に利用できる多くの発現システムを承知していることが予想される。原核細胞または真核細胞でのタンパク質発現のための各種方法を詳しく記載することはしない。簡単に述べると、本発明の単離されたタンパク質をコードする天然核酸または合成核酸の発現は、一般的には、DNAまたはcDNAをプロモーター(構成的または誘導的のいずれか)に機能的に連結させた後、発現カセットに組み入れることによってなし遂げられる。カセットは、原核生物または真核生物での複製および組み込みにとって好適である。一般的な発現カセットは、転写および翻訳のターミネーター、開始配列およびタンパク質をコードしているDNAの発現の制御に有用なプロモーターを含んでいる。クローニングされた遺伝子を高レベルに発現させるためには、少なくとも転写を指示する強力なプロモーター、翻訳開始のためのリボソーム結合部位、および転写/翻訳ターミネーターを含む発現カセットを構築することが望ましい。大腸菌の場合、それは、T7、trp、lacまたはラムダプロモーターなどのプロモーター、リボソーム結合部位、および、好ましくは、転写終止シグナルを含む。真核生物細胞の場合、制御配列としては、免疫グロブリン遺伝子、SV40、サイトメガロウイルスに由来するプロモーター、および、好ましくはエンハンサー、ならびにポリアデニル化配列を含むことができ、スプライスドナー配列およびアクセプター配列を含んでもよい。本発明のカセットは、大腸菌の場合では、塩化カルシウム形質転換法またはエレクトロポレーション法、また哺乳類細胞の場合はリン酸カルシウム処理、エレクトロポレーションまたはリポフェクション法などの周知の方法によって、選択した宿主細胞内に移すことができる。カセットにより形質転換された細胞は、カセット内に含まれる遺伝子、amp、gpt、neoおよびhygなどの遺伝子が付与する抗生物質耐性を利用して選択できる。
【0130】
当業者は、本発明のポリペプチド(すなわち、PEまたは本発明のPEから形成された免疫複合体)をコードしている核酸に、その生物学的活性を損なうことなく改変がなされることを認識すると考えられる。いくつかの改変は、クローニング、発現または標的化分子の融合タンパク質への組み入れを容易にするために行われる。このような改変は、当業者にとって周知であり、またそのようなものとして、例えば終止コドン、開始を提供するためにアミノ末端に付加されたメチオニン、部位、便宜のため配置する制限部位を作るためにいずれかの末端に配置された追加のアミノ酸、または精製段階を補助するための追加のアミノ酸(例えば、ポリHis)が挙げられる。
【0131】
組換え方法に加えて、本発明の免疫複合体およびPEは、その全体または一部を、標準的なペプチド合成を用いても構築することができる。長さが約50アミノ酸未満である本発明のポリペプチドの固相合成は、配列のC末端アミノ酸を不溶性の支持体に結合した後、配列中の残りのアミノ酸を順番に連続的に付加していくことでなし遂げられると考えられる。固相合成の技術は、Barany and Merrifield, THE PEPTIDES: ANALYSIS, SYNTHESIS, BIOLOGY. VOL. 2: SPECIAL METHODS IN PEPTIDE SYNTHESIS, PART A. pp. 3-284; Merrifield, et al., J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2156 (1963)、およびStewart, et al., SOLID PHASE PEPTIDE SYNTHESIS, 2ND ED., Pierce Chem. Co., Rockford, Ill. (1984)に記載されている。より長いタンパク質は、短い断片のアミノ末端とカルボキシル末端を縮合することによって合成してもよい。カルボキシル末端を活性化してペプチド結合を形成する方法(例えばカップリング試薬N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いる)は、当業者に公知である。
【0132】
iii. 精製
ひとたび発現されると、本発明の組換え免疫複合体およびPEは、硫安沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィーなどを含む当技術分野の標準的な手順にしたがって精製できる(一般的に、R. Scopes, PROTEIN PURIFICATION, Springer-Verlag, N.Y. (1982)を参照のこと)。薬学的使用にとっては、少なくとも相同性約90〜95%の実質的に純粋な組成物が好ましく、相同性が98〜99%またはそれ以上のものが最も好ましい。ひとたび部分的または希望に応じた相同性まで精製された後は、治療目的に使用される場合でも、ポリペプチドは実質的に内毒素を含まないものとする。
【0133】
大腸菌などの細菌からの単鎖抗体の発現、および/または単鎖抗体を含め、適切な活性型へのリフォールディングのための方法は、記載され、周知であり、かつ本発明の抗体に応用可能である。参照により本明細書に全てが組み入れられる、Buchner et al., Anal. Biochem. 205:263-270 (1992); Pluckthun, Biotechnology 9:545 (1991); Huse et al., Science 246:1275 (1989)およびWard et al., Nature 341:544 (1989)を参照されたい。
【0134】
大腸菌またはその他細菌からの機能的異種タンパク質は封入体から単離されるために、強力な変性剤を用いて可溶化し、続いてリフォールディングさせる必要がある場合が多い。可溶化の工程では、当技術分野において周知の通り、還元剤を存在させてジスルフィド結合を切り離さなければならない。還元剤を含有する例示的な緩衝液は: 0.1 MトリスpH 8、6 Mグアニジン、2 mM EDTA、0.3 M DTE (ジチオエリスリトール)である。ジスルフィド結合の再酸化は、参照により本明細書に組み入れられるSaxena et al., Biochemistry 9: 5015-5021 (1970)に記述されている通り、還元型および酸化型の低分子量のチオール試薬の存在下で起こることができ、特にBuchnerら、上記に記述されている。
【0135】
再生は、一般的には変性および還元されたタンパク質をリフォールディング緩衝液で希釈する(例えば100倍)ことによってなし遂げられる。例示的な緩衝液は、0.1 Mトリス、pH 8.0、0.5 M L-アルギニン、8 mM酸化型グルタチオンおよび2 mM EDTAである。
【0136】
二本鎖抗体の精製プロトコールの改変では、重鎖および軽鎖領域は別々に可溶化され、かつ還元されてから、次にリフォールディング溶液中で一つに合わせられる。これら2つのタンパク質を、一方のタンパク質が他方のタンパク質に対し5倍を超えてモル過剰にならないモル比で混合すると、好ましい収率が得られる。酸化還元シャッフリング終了後、リフォールディング溶液に過剰の酸化グルタチオンまたはその他酸化低分子量化合物を加えることが望ましい。
【0137】
b. 標的化部分
i. 標的細胞表面マーカー
キメラ分子の標的化成分は細胞表面マーカーに対するものであってよい。細胞表面マーカーはタンパク質または糖質であってよい。細胞表面抗原は腫瘍関連抗原であってよい。好ましくは、細胞表面マーカーは排他的に発現されるか、選択的に発現されるか、またはがん細胞もしくは他の異常に増殖している細胞上に臨床的に意義のあるいっそう高いレベルで発現される。キメラ分子の標的である細胞表面抗原は、当技術分野において周知であり、例えば、Mufson, Front Biosci (2006) 11:337-43; Frankel, Clin Cancer Res (2000) 6:326-334およびKreitman, AAPS Journal (2006) 8(3):E532-E551に要約されている。
【0138】
例示的な細胞表面マーカー標的としては、細胞表面受容体が挙げられる。本発明の毒素を用いて標的化できる細胞表面受容体には、トランスフェリン受容体、EGF受容体、CD19、CD22、CD25、CD21、CD79、メソテリンおよびカドヘリンが含まれるが、これらに限定されることはない。標的化免疫毒素療法に供されるさらなる細胞表面抗原には、非限定的にMUC1、MAGE、PRAME、CEA、PSA、PSMA、GM-CSFR、CD56、HER2/neu、erbB-2、CD5、CD7が含まれる。他の細胞表面腫瘍関連抗原は公知であり、標的としての用途を見出す。
【0139】
抗原標的は、非限定的に神経芽細胞腫、腸癌、直腸癌、結腸癌、家族性腺腫性ポリポーシス癌腫、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、食道癌、陰唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、未分化甲状腺癌、腎臓癌、腎実質癌、卵巣癌、頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛膜癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、尿癌、黒色腫、脳腫瘍、膠芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽腫、末梢性神経外胚葉性腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病リンパ腫、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性骨髄腫、基底細胞腫、奇形腫、網膜芽細胞腫、脈絡膜黒色腫、精上皮腫、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、ユーイング肉腫および形質細胞腫を含む、多数の異なるタイプのがん細胞上に見出すことができる。
【0140】
いくつかの態様において、細胞表面マーカーはメソテリンである。メソテリンを標的化することによって増殖、広がりおよび/または進行を低減または阻害できる例示的ながんとしては、卵巣がん、中皮腫、非小細胞肺がん、肺腺癌、卵管がん、頭頸部がん、子宮頸がんおよび膵臓がんが挙げられる。
【0141】
いくつかの態様において、細胞表面マーカーはCD22である。CD22を標的化することによって増殖、広がりおよび/または進行を低減または阻害できる例示的ながんとしては、有毛細胞白血病、慢性リンパ性白血病(CLL)、前リンパ性白血病(PLL)、非ホジキンリンパ腫、小リンパ性リンパ腫(SLL)および急性リンパ性白血病(ALL)が挙げられる。
【0142】
いくつかの態様において、細胞表面マーカーはCD25である。CD25を標的化することによって増殖、広がりおよび/または進行を低減または阻害できる例示的ながんとしては、有毛細胞白血病およびホジキンリンパ腫を含めて、白血病およびリンパ腫が挙げられる。
【0143】
いくつかの態様において、細胞表面マーカーは糖質、例えば、ルイスY抗原である。ルイスY抗原を標的化することによって増殖、広がりおよび/または進行を低減または阻害できる例示的ながんとしては、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、結腸直腸がん、食道がん、胃がん、肺がんおよび膵臓がんが挙げられる。
【0144】
いくつかの態様において、細胞表面マーカーはCD33である。CD33を標的化することによって増殖、広がりおよび/または進行を低減または阻害できる例示的ながんとしては、急性骨髄性白血病芽(AML)、慢性骨髄単球性白血病(CML)および骨髄増殖性疾患が挙げられる。
【0145】
ii. 抗体標的化部分
好ましい態様において、標的化部分は抗体、好ましくは細胞上の表面マーカーに特異的に結合する抗体である。したがって、いくつかの態様において、キメラ分子は免疫毒素である。
【0146】
別の好ましい態様において、標的化部分は抗体断片、好ましくは細胞上の表面マーカーに特異的に結合する抗体断片である。好ましい抗体断片は単鎖Fvである。本明細書において、scFvに融合されている細胞毒素に基づく免疫毒素の構築および特徴付けが記述される。毒素または細胞毒素断片が融合されうる他の好ましい抗体断片には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ヘリックス安定化抗体、二重特異性抗体、ジスルフィド安定化抗体および単一ドメイン抗体(例えば、ラクダ科動物抗体)が含まれる。
【0147】
細胞毒素と抗体または抗体断片との融合は、抗体または抗体断片のN末端またはC末端のいずれかとであってよい。そのような融合は、典型的には、組換えDNA技術を利用して達成される。
【0148】
免疫毒素で用いる多数の抗体は、当技術分野において公知であり、本発明の組成物および方法において用途を見出す。腫瘍抗原に対する例示的な抗体としては、非限定的にトランスフェリン受容体に対する抗体(例えば、HB21およびその変種)、CD22に対する抗体(例えば、RFB4およびその変種)、CD25に対する抗体(例えば、抗Tacおよびその変種)、メソテリンに対する抗体(例えば、SS1、SSP1、HN1、HN2、MNおよびその変種)ならびにルイスY抗原に対する抗体(例えば、B3およびその変種)が挙げられる。
【0149】
免疫毒素に含めるための、かつ本発明において用途を見出す抗体は、例えば、米国特許第5,242,824号(抗トランスフェリン受容体); 同第5,846,535号(抗CD25); 同第5,889,157号(抗ルイスY); 同第5,981,726号(抗ルイスY); 同第5,990,296号(抗ルイスY); 同第7,081,518号(抗メソテリン); 同第7,355,012号(抗CD22および抗CD25); 同第7,368,110号(抗メソテリン); 同第7,470,775号(抗CD30); 同第7,521,054号(抗CD25); 同第7,541,034号(抗CD22)に記述されており; 米国特許出願公開第2007/0189962号(抗CD22)に記述されており、例えば、Frankel, Clin Cancer Res (2000) 6:326-334およびKreitman, AAPS Journal (2006) 8(3):E532-E551に概説されている。
【0150】
抗がんおよび急性移植片対宿主病において用いられることに成功している多数の免疫毒素も当技術分野において公知であり、本発明の組成物および方法において、すなわち、細胞毒素を本発明の改良型PEと置き換えることによって用途を見出す。例示的な免疫毒素は、例えば、ワールドワイドウェブ上、clinicaltrials.govで見出すことができ、非限定的にLMB-2 (抗Tac(Fv)-PE38)、BL22およびHA22 (RFB4(dsFv)-PE38)、SS1P (SS1(dsFv)-PE38)、HB21-PE40を含む。有用なさらなる免疫毒素は、上記の特許においておよび本明細書において記述されており、例えば、Frankel, Clin Cancer Res (2000) 6:326-334およびKreitman, AAPS Journal (2006) 8(3):E532-E551に概説されている。
【0151】
いくつかの態様において、抗体はHA22のFv部分である。HA22は最近開発された、BL22の改良型である。HA22では、抗体可変領域重鎖(「VH」)のCDR3中の残基SSYをTHWに変異させた。HA22は、その親抗体RFB4と比べて、さまざまなCD22陽性細胞株に対する細胞毒性活性の5〜10倍の増加を有し、CLLおよびHCLを有する患者由来の細胞に対する細胞毒性が最大で50倍高い(Salvatore, G., et al., Clin Cancer Res, 8(4):995-1002 (2002); 共有された出願PCT/US02/30316、国際公報WO 03/027135も参照のこと)。
【0152】
SS1Pは、メソテリンを発現する細胞株を特異的に死滅させること、およびマウスにおいてメソテリンを発現する腫瘍の退行を引き起こすことが示されている(Hassan, R. et al., Clin Cancer Res 8:3520-6 (2002); Onda, M. et al., Cancer Res 61:5070-7 (2001))。これらの研究および適切な安全性データに基づき、SS1Pを用いた2つの第1相試験が、メソテリンを発現するがんを有する患者において国立がん研究所で行われている(Chowdhury, P. S. et al., Proc Natl Acad Sci USA 95:669-74 (1998); Hassan, R. et al., Proc Am Soc Clin Oncol 21:29a (2002))。さらに、メソテリンを標的化する他の治療が前臨床開発中である(Thomas, A.M. et al., J Exp Med 200:297-306 (2004))。HN1およびHN2は、例えば、Feng, et al., Mol Cancer Ther (2009) 8(5):1113-8に記述されている、ヒト抗メソテリン抗体である。
【0153】
HA22-LRおよびSS1P-LRは、リソソームプロテアーゼに対する切断クラスタが除去された、HA22およびSS1P免疫毒素のリソソーム耐性変種である。これらの変種は、例えば、Weldon, et al., Blood, (2009) 113(16):3792-800に、およびWO 2009/032954に記述されている。
【0154】
iii. 非抗体標的化部分
別の好ましい態様において、標的化部分は細胞表面上の受容体に特異的に結合するリガンドである。リガンドは、細胞表面マーカーに結合する任意のリガンドであってよい。好ましいリガンドはVEGF、Fas、TRAIL、サイトカイン(例えば、IL-2、IL-15、IL-4、IL-13)、リンホカイン、ホルモン、増殖因子(例えば、TGFα、神経細胞増殖因子、上皮増殖因子)である。
【0155】
4. 薬学的組成物および投与
1つの局面において、本発明は、本発明の少なくとも1つのキメラタンパク質、好ましくは標的化毒素、および任意で薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物または薬剤を提供する。薬学的組成物または薬剤は、悪性疾患またはがんを含むが、これらに限定されない、状態の処置のために患者に投与することができる。
【0156】
a. 製剤
本発明において用いるための薬学的組成物または薬剤は、1つまたは複数の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて標準的技術により製剤化することができる。適した薬学的担体は、本明細書におよびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., University of the Sciences in Philadelphia, Lippencott Williams and Wilkins (2005)に記述されている。本発明のキメラタンパク質は、吸入によって、局所的に、経鼻的に、経口的に、非経口的に、または直腸的になど、任意の適した経路による投与のために製剤化することができる。したがって、薬学的組成物の投与は、皮内、真皮下、静脈内、筋肉内、鼻腔内、吸入、脳内、気管内、動脈内、腹腔内、膀胱内、胸膜内、冠動脈内、皮下または腫瘍内の注射により、注射器または他の器具を用いて行われてもよい。吸入またはエアロゾル投与と同様に、経皮投与も企図される。錠剤およびカプセルを経口的に、直腸的に、または経膣的に投与することができる。
【0157】
投与のための組成物は、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体に溶解された、キメラタンパク質、好ましくは標的化毒素の溶液を一般的に含む。種々の水性担体、例えば、緩衝食塩水などを用いることができる。これらの溶液は無菌であり、望ましくない物質を一般に含まない。これらの組成物は従来の、周知の滅菌法によって滅菌することができる。組成物は、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどのような、生理学的状態に近づけるのに必要とされる薬学的に許容される補助物質を含んでもよい。これらの製剤中の融合タンパク質の濃度は大きく異なることができ、選択される投与の特定の方法および患者の要求にしたがって流体の容量、粘度、体重などに主に基づき、選択される。
【0158】
本発明の標的化毒素組成物は静脈内注射または体腔への投与を含めて、非経口投与に適している。
【0159】
本発明のキメラタンパク質、好ましくは標的化毒素は、注射による、例えば、ボーラス注射または持続注入による非経口投与のために製剤化することができる。注射のための製剤は、単位投与量形態で、例えば、保存料を添加したアンプルでまたは多用量容器で与えられることができる。注射用組成物は、好ましくは、等張水溶液または懸濁液であり、坐剤は、好ましくは、脂肪乳濁液または懸濁液から調製される。組成物は滅菌されてもよく、かつ/あるいは保存剤、安定化剤、湿潤剤もしくは乳化剤などの補助剤、溶液促進剤、浸透圧を調節するための塩類および/または緩衝液を含んでもよい。あるいは、活性成分は使用前に、適したビヒクル、例えば、滅菌発熱性物質除去蒸留水で構成するために粉末の形態であってよい。さらに、組成物は、他の治療的に価値のある物質も含んでよい。組成物は、それぞれ、従来の混合法、顆粒化法またはコーティング法にしたがって調製され、約0.1〜75%、好ましくは約1〜50%の活性成分を含む。
【0160】
本発明の標的化毒素組成物の制御放出非経口製剤は、インプラント、油性注射液として、または粒子状システムとして作製することができる。タンパク質送達システムの概要は、参照により本明細書に組み入れられる、Banga, A.J., THERAPEUTIC PEPTIDES AND PROTEINS: FORMULATION, PROCESSING, AND DELIVERY SYSTEMS, Technomic Publishing Company, Inc., Lancaster, PA, (1995)を参照されたい。粒子状システムには、マイクロスフェア、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェアおよびナノ粒子が含まれる。マイクロカプセルは、中心核として治療用タンパク質を含有する。マイクロスフェアの場合は、治療用物質は粒子全体に分散している。約1 μmより小さい粒子、マイクロスフェアおよびマイクロカプセルは一般的に、それぞれナノ粒子、ナノスフェアおよびナノカプセルといわれる。毛細管の直径は約5 μmであることから、ナノ粒子のみが静脈内に投与される。マイクロ粒子は、典型的には直径が100 μm前後であり、皮下または筋肉内に投与される。例えば、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、Kreuter J., COLLOIDAL DRUG DELIVERY SYSTEMS, J. Kreuter, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, NY, pp.219-342 (1994); およびTice and Tabibi, TREATISE ON CONTROLLED DRUG DELIVERY, A. Kydonieus, ed., Marcel Dekker, Inc. New York, NY, pp.315-339 (1992)を参照されたい。
【0161】
本発明の標的化毒素組成物のイオン制御放出には、重合体を用いることができる。制御された薬物送達で用いるためのさまざまな分解性および非分解性の重合体マトリックスが当技術分野において公知である(Langer R., Accounts Chem. Res., 26:537-542 (1993))。例えば、ブロック共重合体のpolaxamer 407は、低温では粘性であるものの流動性の液体として存在するが、体温では半固体ゲルとなる。それは組換えインターロイキン2およびウレアーゼの製剤化および持続的送達に有効なビヒクルであることが示されている(Johnston et al., Pharm. Res., 9:425-434 (1992); and Pec et al., J. Parent. Sci. Tech., 44(2):58-65 (1990))。あるいは、ヒドロキシアパタイトは、タンパク質の制御放出のためのマイクロ担体として用いられている(Ijntema et al., Int. J. Pharm., 112:215-224 (1994))。さらに別の局面において、脂質封入薬物の制御放出および薬物標的化のためにリポソームが用いられている(Betageri et al., LIPOSOME DRUG DELIVERY SYSTEMS, Technomic Publishing Co., Inc., Lancaster, PA (1993))。治療用タンパク質の制御送達のための多数のさらなるシステムが公知である。例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,055,303号、同第5,188,837号、同第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、同第4,957,735号および同第5,019,369号、同第5,055,303号; 同第5,514,670号; 同第5,413,797号; 同第5,268,164号; 同第5,004,697号; 同第4,902,505号; 同第5,506,206号、同第5,271,961号; 同第5,254,342号および同第5,534,496号を参照されたい。
【0162】
経皮適用に適した製剤には、担体とともに本発明の組成物の有効量が含まれる。好ましい担体は、宿主の皮膚の通過を補助する吸収性の薬理学的に許容される溶媒を含む。例えば、経皮器具は、裏打ち材、任意で担体を伴う組成物を含有する貯留層、任意で長期間にわたり制御されかつ予め決められた速度で組成物を宿主の皮膚に送達する律速障壁、および器具を皮膚に固定するための手段を含む包帯の形である。マトリックス経皮製剤を用いることもできる。
【0163】
例えば、皮膚および眼への局所適用に適した製剤は、好ましくは、当技術分野において周知の水溶液、軟膏、クリームまたはジェルである。そのようなものは、可溶化剤、安定化剤、張性増強剤、緩衝液および保存料を含んでもよい。
【0164】
経口投与のために、薬学的組成物または薬剤は、例えば、薬学的に許容される賦形剤を用いて従来の手段で調製される錠剤またはカプセルの形態を取ることができる。好ましいのは、活性成分、すなわち、本発明の組成物を、以下とともに含む錠剤およびゼラチンカプセルである: (a) 希釈剤もしくは増量剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース(例えば、エチルセルロース、微結晶性セルロース)、グリシン、ペクチン、ポリアクリレート、および/もしくはリン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、(b) 滑沢剤、例えば、シリカ、タルカム、ステアリン酸、そのマグネシウムもしくはカルシウム塩、ステアリン酸金属塩、コロイド二酸化ケイ素、水素化植物油、コーンスターチ、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、および/もしくはポリエチレングリコール; 錠剤については同様に(c) 結合剤、例えば、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、スターチペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、および/もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース; 必要な場合には、(d) 崩壊剤、例えば、スターチ(例えば、ジャガイモスターチもしくはスターチナトリウム)、グリコレート、寒天、アルギン酸、もしくはそのナトリウム塩、もしくは発泡性混合物; (e) 湿潤剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ならびに/または(f) 吸収剤、着色剤、香料、および人工甘味料。
【0165】
錠剤は、当技術分野において公知の方法によってフィルムコーティングされているかまたは溶腸性コーティングされているかのいずれかであってもよい。経口投与用の液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、もしくは懸濁液の形態を取ることができるか、またはそれらは、使用前に水もしくはその他の適したビヒクルとともに構成するための乾燥製品として与えられることができる。そのような液体調製物を、薬学的に許容される添加物、例えば、懸濁剤、例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化された食用脂肪; 乳化剤、例えば、レシチンまたはアカシア; 非水性ビヒクル、例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分画された植物油; および保存料、例えば、メチル-p-ヒドロキシ安息香酸もしくはプロピル-p-ヒドロキシ安息香酸、またはソルビン酸を用いて、従来の手段で調製することができる。調製物はまた、適切な場合には緩衝剤塩、香味剤、着色剤、および/または甘味剤を含むことができる。必要な場合には、経口投与用の調製物を好適に製剤化し、活性組成物の制御された放出をもたらすことができる。
【0166】
吸入による投与のために、キメラタンパク質、好ましくは抗体および/または標的化毒素を、加圧パックまたは噴霧器からのエアロゾルスプレイ提示で、適した高圧ガス、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、二酸化炭素、またはその他の適したガスの使用とともに、好都合に送達してもよい。加圧エアロゾルの場合には、バルブを提供することによって投与量単位を決定し、計量された量を送達することができる。キメラタンパク質、好ましくは抗体および/または標的化毒素と適した粉末基材、例えば、ラクトースまたはスターチの粉末混合物とを含む、例えば、吸入器または散布器で使用するためのゼラチンなどのカプセルおよびカートリッジを製剤化することができる。
【0167】
組成物は、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含む、坐剤または停留浣腸などの直腸用組成物として製剤化することもできる。
【0168】
さらに、組成物はデポー調製物として製剤化することができる。そのような長時間作用性の製剤を植込みによって(例えば、皮下にもしくは筋肉内に)、または筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、適した重合体性もしくは疎水性の材料(例えば、許容される油中の乳剤として)もしくはイオン交換樹脂とともに、または難溶性の誘導体として、例えば、難溶性の塩として、組成物を製剤化することができる。
【0169】
組成物は、必要な場合には、活性成分を含む1つまたは複数の単位投与量形態を含むことができる包装またはディスペンサ器具において与えられることができる。包装は、例えば、金属またはプラスチック箔、例えば、ブリスタパックを含むことができる。包装またはディスペンサ器具には、投与についての使用説明書が付随されてもよい。
【0170】
b. 投与量
本発明の1つの態様において、薬学的組成物または薬剤は治療的に有効な用量で患者に投与されて、疾患または悪性状態、例えばがんなどを予防、処置または制御する。薬学的組成物または薬剤は、患者での有効な治療的応答または診断的応答を誘発するのに十分な量で患者に投与される。有効な治療的応答または診断的応答は、疾患または悪性状態の症状または合併症を少なくとも部分的に停止または遅延させる応答である。これを達成するのに十分な量は「治療的に有効な用量」と定義される。
【0171】
投与されるキメラタンパク質、好ましくは標的化毒素、または組成物の投与量は、温血動物(哺乳類)の種、体重、年齢、個体の状態、処置すべき部分の表面積および投与の形態に依存する。用量のサイズはまた、特定の対象における特定の化合物の投与に伴う任意の有害作用の存在、性質および程度によって決定されると考えられる。約50〜70 kgの哺乳類への投与用の単位投与量は、約5〜500 mgの活性成分を含んでもよい。典型的には、本発明の化合物の投与量は、所望の効果を達成するのに十分な投与量である。
【0172】
最適な投薬スケジュールを、対象の体内でのキメラタンパク質、好ましくは標的化毒素の蓄積の測定から算出することができる。一般に、投与量は、1 ng〜1,000 mg/kg体重であり、1日に、1週間に、1ヶ月にまたは1年間に1回または複数回与えられてもよい。当業者は、最適な投与量、投薬方法論および反復速度を容易に決定することができる。当業者は、当技術分野において公知の確立したプロトコールおよび本明細書における開示にしたがってヒトへの、キメラタンパク質、好ましくは標的化毒素の投与に最適な投薬を決定することができると考えられる。
【0173】
組成物の最適な投与量、毒性および治療的効力は、個々の組成物の相対的効力に依って異なる可能性があり、細胞培養物または実験動物での標準的な薬学的手順によって、例えば、LD50 (集団の50%に対する致死用量)およびED50 (集団の50%で治療的に有効な用量)を決定することによって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す組成物が好ましい。有毒な副作用を示す組成物が使用されてもよいが、正常細胞に対する潜在的損傷を最小限にし、それによって、副作用を小さくするために、そのような組成物を罹患組織の部位に標的化する送達システムを設計するように注意を払うべきである。
【0174】
例えば、動物実験(例えばげっ歯類およびサル)から得られるデータを使って、ヒトで用いる投与量の範囲を定めることができる。本発明の化合物の投与量は、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環血中濃度の範囲内にあることが好ましい。この投与量は、利用される投与量形態および投与経路に応じて、この範囲内で変化しうる。本発明の方法において用いられるいずれかの組成物の場合、治療的に有効な用量は、最初に細胞培養アッセイ法から推定することができる。ある用量を動物モデルにおいて調製して、細胞培養物で決定されたIC50 (症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度の範囲を達成することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に判定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定することができる。概して、キメラタンパク質、好ましくは標的化毒素の等量の用量は、典型的な対象に対して約1 ng/kg〜100 mg/kgである。
【0175】
静脈内投与のための本発明の典型的な標的化毒素組成物は、約0.1〜10 mg/患者/日である。0.1 mg〜最大約100 mg/患者/日の投与量を用いることができる。投与可能な組成物を調製するための実際の方法は、当業者には知られており、または明らかであり、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., University of the Sciences in Philadelphia, Lippencott Williams and Wilkins (2005)のような刊行物のなかでさらに詳細に記述されている。
【0176】
本明細書において記述される組成物の例示的な用量は、ミリグラムまたはマイクログラム量の組成物/キログラムの対象または試料重量(例えば、約1マイクログラム/キログラム〜約500ミリグラム/キログラム、約100マイクログラム/キログラム〜約5ミリグラム/キログラム、または約1マイクログラム/キログラム〜約50マイクログラム/キログラム)を含む。組成物の適切な用量は、達成されるべき所望の効果に関する組成物の効能に依ることがさらに理解される。これらの組成物の1つまたは複数を哺乳類に投与しようとする場合、医師、獣医師または研究者は、例えば、最初に比較的低い用量を処方し、その後、適切な応答が得られるまで用量を増加させてもよい。さらに、任意の特定の哺乳類対象についての特異的な用量レベルは、利用される具体的な組成物の活性、対象の年齢、体重、全般的な健康、性別および食事、投与時間、投与経路、排出の速度、任意の薬物組み合わせ、ならびに調節されるべき発現または活性の程度を含む、種々の因子に依ることが理解される。
【0177】
本発明の1つの態様において、本発明の、キメラタンパク質、好ましくは標的化毒素を含む薬学的組成物または薬剤は、例えば、対象の体重1 kgあたり約1 mgの化合物(1 mg/kg)〜約1 g/kgの範囲の日用量で投与される。別の態様において、用量は、約5 mg/kg〜約500 mg/kgの範囲の用量である。さらに別の態様において、用量は、約10 mg/kg〜約250 mg/kgである。別の態様において、用量は、約25 mg/kg〜約150 mg/kgである。好ましい用量は、約10 mg/kgである。日用量は、1日に1回投与されても、または部分用量に分割して複数用量で、例えば、1日に2回、3回もしくは4回投与されてもよい。しかしながら、当業者によって理解される通り、本明細書において記述される組成物は、異なる量でかつ異なる時点で投与されてもよい。当業者なら、対象の疾患もしくは悪性状態の重症度、以前の処置、全般的な健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含むが、これらに限定されない、ある因子が、対象を有効に処置するのに必要とされる投与量およびタイミングに影響を与えうるということも理解すると考えられる。さらに、治療的に有効な量の組成物による対象の処置は、単一の処置を含むことができ、または、好ましくは、一連の処置を含むことができる。
【0178】
ABT-263の例示的な用量は必要に応じて100〜500 mgの日用量である。ABT-263は約25 mg/mL〜約50 mg/mLの濃度で投与することができる。ABT-737の例示的な用量は約50〜200 mg/kg、例えば、約100 mg/kgの日用量である。
【0179】
成功している処置の後、対象に維持療法を受けさせて、処置される疾患または悪性状態の再発を予防することが望ましい場合がある。
【0180】
c. 投与
本発明の組成物は、治療的処置のために投与することができる。治療的適用では、組成物は、がんなどの疾患または悪性状態に罹患している患者に、疾患およびその合併症を治癒するまたは少なくとも部分的に抑制するのに十分な量で投与される。これを成し遂げるのに十分な量は、「治療的に有効な用量」と定義される。この使用に有効な量は、疾患の重症度および患者の健康の全身状態に依ると考えられる。化合物の有効量は、医師またはその他資格を持つ観察者によって記される場合の症状の主観的軽減または客観的に識別できる改善をもたらす量である。
【0181】
有効量の決定は、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らせば、十分に当業者の能力の範囲内である。概して、免疫複合体の効果的または有効な量は、低用量または少量の免疫複合体を最初に投与し、その後、毒性副作用が最小限でまたはなしで処置される対象において所望の効果が観察されるまで、投与される用量または投与量を徐々に増加し、必要に応じて第二または第三の医薬を添加することによって決定される。
【0182】
単回投与または複数回投与の組成物は、患者によって必要とされ、かつ許容される投与量および頻度に応じて投与される。いずれの場合も、組成物は、患者を効果的に処置するのに十分な量の本発明のタンパク質を提供しなければならない。好ましくは、投与量は一回で投与されるが、治療結果が達成されるまでまたは副作用により治療の中止が必要となるまで、定期的に適用することもできる。一般的には、用量は、患者にとって許容できない毒性を生じることなしに、疾患の症状または徴候を処置または軽減するのに十分である。
【0183】
所望の治療効果を達成するために、組成物は複数日の間、治療的に有効な日用量で投与することができる。したがって、対象において本明細書に記述の疾患または悪性状態を処置するための組成物の治療的に有効な投与では、3日〜2週間またはそれより長くに及ぶ期間にわたって継続する定期的な(例えば、毎日の)投与を必要としうる。典型的には、組成物は、少なくとも3連続日の間、多くの場合には少なくとも5連続日の間、より多くの場合には少なくとも10連続日の間、および時には20、30、40連続日またはそれ以上の連続日の間、投与される。連続的日用量は、治療的に有効な用量を達成するための好ましい手段であるが、化合物または組成物が毎日投与されない場合でさえも、対象における組成物の治療的に有効な濃度を維持するのに十分高い頻度で投与が繰り返される限り、治療的に有益な効果を達成することができる。例えば、1日おきに、3日ごとに、または、より高い用量範囲が利用されかつ対象が耐えられる場合には、1週間に1回、組成物を投与することができる。
【0184】
本発明の標的化毒素のさまざまな用途のなかには、融合タンパク質の毒性作用によって除去されうる特異的ヒト細胞により引き起こされる種々の疾患状態が含まれる。例えば、標的化細胞はメソテリン、CD22またはCD25などの細胞表面マーカーを発現しうる。
【0185】
5. 腫瘍増殖を阻害する方法
本発明の組成物はさまざまな形で用途を見出す。本発明のPE分子は、例えばキメラ分子の一部として、(i) 1つまたは複数の表面マーカーを持つ細胞においてアポトーシスを誘導する、(ii) 1つまたは複数の細胞表面マーカーを持つ細胞の不要な増殖、過剰増殖または生存を阻害する、(iii) がんなどの状態を処置する、および(iv) 1つまたは複数の細胞表面マーカーを持つ細胞の存在によって引き起こされる疾患を発症した哺乳類の治療を提供する、用途を見出す。
【0186】
例えば、本明細書において記述される通り、1つまたは複数の細胞表面マーカー、好ましくは、細胞表面受容体を発現する任意の細胞または腫瘍細胞を用いて、本発明の方法を実践することができる。表面マーカーを発現する好ましい細胞または腫瘍細胞は、神経芽細胞腫、腸癌、直腸癌、結腸癌、家族性腺腫性ポリポーシス癌腫、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、食道癌、陰唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、濾胞性甲状腺癌、未分化甲状腺癌、腎臓癌、腎実質癌、卵巣癌、頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛膜癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、尿癌、黒色腫、脳腫瘍、膠芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽腫、末梢性神経外胚葉性腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病リンパ腫、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性骨髄腫、基底細胞腫、奇形腫、網膜芽細胞腫、脈絡膜黒色腫、精上皮腫、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、ユーイング肉腫および形質細胞腫からなる群より選択される。
【0187】
本発明の方法はインビトロでまたはインビボで実践することができる。細胞をいう場合、この用語には細胞の集団、すなわち、複数の細胞も含まれることが理解される。
【0188】
1種または複数種の細胞表面マーカーを持つ細胞においてアポトーシスを誘導するための組成物の使用
アポトーシスは、多細胞生物の発生および恒常性の両方で中心的な役割を果たす。「アポトーシス」は、プログラム細胞死をいい、膜泡状化、クロマチン凝縮および断片化、アポトーシス小体の形成、ならびに[陽性「TUNEL」(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介UTPニック末端標識)染色パターンなどの、ある種の細胞の特徴によって特徴付けられる。アポトーシス過程の後半工程は、原形質膜の分解であり、アポトーシス細胞をさまざまな色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)に対して漏出性にする。
【0189】
アポトーシスは、腫瘍壊死因子(TNF)受容体/リガンドスーパーファミリーに属するいくつかのデス受容体とそのリガンド間の複数の相互作用からなる最終エフェクター機構に収束する複数の独立したシグナル伝達経路によって誘導されうる。最もよく特徴付けられているデス受容体は、CD95 (「Fas」)、TNFR1 (p55)、デス受容体3 (DR3またはApo3/TRAMO)、DR4およびDR5 (apo2-TRAIL-R2)である。アポトーシスの最終エフェクター機構は、カスパーゼと命名された一連のプロテイナーゼの活性化である。これらのカスパーゼの活性化は、一連の生命維持に必要な細胞タンパク質の切断および細胞死を引き起こす。
【0190】
本発明は、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する細胞においてアポトーシスを誘導するための方法を提供する。1つの局面において、細胞においてアポトーシスを誘導するための方法は本明細書において記述される通り、例えばキメラ分子の部分としての、本発明のPEに、細胞表面受容体などの1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する細胞を曝露または接触させる段階を含む。典型的には、細胞は有効量の免疫複合体に曝露されるか、またはそれと接触され、接触によってアポトーシスの誘導をもたらす。
【0191】
本発明の別の局面において、本発明のPEを、例えばキメラ分子の部分として、対象に投与する段階を含む、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する腫瘍細胞がアポトーシスを起こすように誘導する方法が提供される。
【0192】
1種または複数種の細胞表面マーカーを持つ細胞の増殖、過剰増殖または生存を阻害するための組成物の使用
本発明の組成物を用いたがんの処置のための改良された治療戦略を提供することが本発明の目的である。本発明の1つの局面において、細胞の望ましくない増殖、過剰増殖または生存のうちの少なくとも1つを阻害するための方法が提供される。この方法は、本明細書において記述される通り、例えばキメラ分子の部分としての、本発明のPEの有効量と、表面マーカーを発現する細胞を接触させる段階を含み、接触させる段階が細胞の望ましくない増殖、過剰増殖または生存のうちの少なくとも1つの阻害をもたらす。1つの態様において、この方法は、細胞が1種または複数種の細胞表面マーカー、例えば、細胞表面受容体を発現するかどうかを判定する段階を含む。典型的には、細胞は有効量の免疫複合体に曝露されるか、またはそれと接触され、接触によって細胞の望ましくない増殖、過剰増殖または生存のうちの少なくとも1つの阻害をもたらす。
【0193】
したがって、本発明の1つの局面において、1種または複数種の細胞表面マーカーを持つ細胞の集団の増殖を阻害する方法が提供される。好ましい態様において、この方法は、(a) 細胞の集団を、(i) 細胞表面マーカーの少なくとも1つに特異的に結合する標的化部分および(ii) 例えば、D406位およびQ592位においてGly、AlaまたはSerで置換されている、本発明のPEを含むキメラ分子と接触させる段階を含む。それによって細胞の集団の増殖を阻害する。
【0194】
多くの腫瘍が転移がんを形成する。したがって、本発明の別の局面において、本発明の組成物を用いて転移がんの形成を予防する。この方法は、本発明の組成物を腫瘍細胞に投与する段階を含み、投与によって転移がんの予防をもたらす。好ましい態様において、組成物は、細胞表面抗原に対する抗体および本発明のPEを含む標的化毒素を含む。典型的には、細胞は有効量の免疫複合体に曝露されるか、またはそれと接触され、接触によって転移がんの予防をもたらす。
【0195】
がんを処置するための組成物の使用
本発明の方法はインビトロでおよびインビボで実践することができる。したがって、本発明の別の局面において、がんの状態に罹患している対象を処置するための方法が提供される。この方法は、本明細書において記述される通り、治療的に有効な量の改良型PE分子を、がんと診断されている対象に投与する段階を含み、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する細胞の望ましくない成長または増殖によってがんの状態が特徴付けられ、かつ投与する段階が対象の処置をもたらす。
【0196】
好ましい態様において、組成物は、本発明の改良型PE、またはその変種を有する免疫毒素を含む。典型的には、細胞は有効量の免疫毒素に曝露されるか、またはそれと接触され、接触によって対象の処置をもたらす。
【0197】
本発明の組成物を用いて、本明細書において記述される任意のがん、例えば、免疫毒素による処置に供されるものを処置することができる。本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する肺がんに罹患している対象を処置する。肺がんは、気管支癌[扁平細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、腺癌]、肺胞[細気管支]癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨性過誤腫、中皮腫、SCLCおよびNSCLCを含むが、これらに限定されることはない。
【0198】
本発明の別の態様において、本発明の組成物を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する肉腫に罹患している対象を処置する。肉腫は、血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫および奇形腫などのがんを含むが、これらに限定されることはない。
【0199】
本発明のさらに別の態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する消化管がんに罹患している対象を処置する。消化管がんは、食道のがん[扁平上皮癌、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫]、胃のがん[癌腫、リンパ腫、平滑筋肉腫]、膵臓のがん[導管腺癌、インスリノーマ、グルカゴン産生腫瘍、ガストリン産生腫瘍、カルチノイド腫瘍、VIP産生腫瘍]、小腸のがん[腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫]、および大腸のがん[腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫]を含むが、これらに限定されることはない。
【0200】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する泌尿生殖器系のがんに罹患している対象を処置する。泌尿生殖器系のがんは、腎臓のがん[腺癌、ウィルムス腫瘍(腎芽腫)、リンパ腫、白血病、腎細胞癌]、膀胱および尿道のがん[扁平上皮癌、移行上皮がん、腺癌]、前立腺のがん[腺癌、肉腫]、ならびに精巣のがん[精上皮腫、奇形腫、胚性癌腫、奇形癌腫、絨毛癌、肉腫、ライディッヒ細胞腫、線維腫、線維腺腫、類腺腫瘍、脂肪腫]を含むが、これらに限定されることはない。
【0201】
本発明の別の態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する肝臓がんに罹患している対象を処置する。肝臓がんは、肝細胞癌、肝管癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫、および血管腫を含むが、これらに限定されることはない。
【0202】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する皮膚がんに罹患している対象を処置する。皮膚がんは、悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、母斑、異形成母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、および乾癬を含むが、これらに限定されることはない。
【0203】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する婦人科がんに罹患している対象を処置する。婦人科がんは、子宮のがん[子宮内膜癌]、子宮頚部のがん[子宮頚癌、前浸潤子宮頚部異形成]、卵巣のがん[卵巣癌(漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、類内膜癌、明細胞腺癌、未分類癌腫)、顆粒膜莢膜細胞腫、セルトリライディッヒ細胞腫、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫および他の胚細胞腫瘍]、外陰部のがん[扁平上皮癌、上皮内癌、腺癌、線維肉腫、黒色腫]、膣のがん[明細胞癌、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫(胎児性横紋筋肉腫)、ならびにファロピウス管のがん[癌腫]を含むが、これらに限定されることはない。
【0204】
本発明のさらに別の態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する骨がんに罹患している対象を処置する。骨がんは、骨原性肉腫[骨肉腫]、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫[細網肉腫]、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫、脊索腫、骨軟骨腫[骨軟骨外骨腫]、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨腫、および巨細胞腫を含むが、これらに限定されることはない。
【0205】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する神経系のがんに罹患している対象を処置する。神経系のがんは、頭蓋骨のがん[骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、骨パジェット病]、髄膜のがん[髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫症]、脳のがん[星細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫(松果体腫)、多形神経膠芽腫、乏突起膠腫、シュワン腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍]、および脊髄のがん[神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫]を含むが、これらに限定されることはない。
【0206】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する血液がんに罹患している対象を処置する。血液がんは、血液のがん[骨髄性白血病(急性および慢性)、有毛細胞白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群]、ホジキン病、および非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)を含むが、これらに限定されることはない。
【0207】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、メソテリンとCA125との間の結合相互作用によって媒介されるがんに罹患している対象を処置する。増殖、広がりおよび/または進行がCA125/メソテリンの結合によって少なくとも部分的に媒介される例示的ながんとしては、卵巣がん、中皮腫、非小細胞肺がん、肺腺がんおよび膵臓がんが挙げられる。
【0208】
本発明の1つの態様において、本発明のPEを含む免疫毒素を用いて、1種または複数種の細胞表面マーカーを発現する副腎のがんに罹患している対象を処置する。副腎のがんは、神経芽細胞腫を含むが、これに限定されることはない。
【0209】
がんを処置するための方法は、以下の段階の1つまたは複数を任意で含んでもよい: 個体から組織もしくは体液の生体試料を得る段階; 例えば生体試料を表面マーカー、好ましくは細胞表面受容体に対する抗体と接触させることにより、1種もしくは複数種の細胞表面マーカー、好ましくは細胞表面受容体の発現について生体試料をスクリーニングする段階; または例えば表面マーカーmRNA、好ましくは細胞表面受容体mRNAを検出することにより、表面マーカーポリヌクレオチド、好ましくは細胞表面受容体ポリヌクレオチドの発現について生体試料をスクリーニングする段階。これは、当技術分野において公知の標準的な技術、例えば、ウエスタンブロッティング、ノザンブロッティングまたはPCRを用いて行うことができる。
【0210】
1種または複数種の細胞表面マーカーを持つ細胞の存在によって引き起こされる疾患を発症した対象を処置するための組成物の使用
また提供されるのは、1種または複数種の細胞表面マーカーを選択的に持つまたは過剰発現する細胞の存在または異常な増殖によって引き起こされる疾患を発症した哺乳類の治療を提供する方法である。好ましい態様において、この方法は、(i) 細胞上の少なくとも1つの表面マーカーに特異的に結合する標的化部分と、(ii) 例えば、D406位およびQ592A位においてGly、AlaまたはSerで置換されている、本発明のPEとを含むキメラ分子を哺乳類に投与する段階を含む。
【0211】
好ましい態様において、キメラタンパク質は、本発明のPEまたはその変種を有する免疫毒素を含む。典型的には、細胞は有効量の免疫毒素に曝露されるか、またはそれと接触され、接触によって対象の処置をもたらす。
【0212】
別の態様において、本発明は、本発明のPE分子を用いてインビトロでまたはエクスビボで標的細胞を排除することを提供する。例えば、本発明のPE分子を含むキメラ分子を用いて、培養液中の細胞の集団から標的細胞を除去することができる。したがって、例えば、標的細胞表面マーカー(例えば、CD22、CD25、メソテリン、ルイスY)を発現するがんを有する患者から培養された細胞は、本明細書において記述される通り、関心対象の細胞表面マーカーに対するキメラ分子と培養物を接触させることによってがん細胞を除去することができる。
【0213】
場合によっては、標的細胞は生体試料内に含まれることもある。本明細書において用いられる「生体試料」は、標的細胞および非標的細胞を含む生体組織または体液の試料である。このような試料は、生検の組織、血液および血液細胞(例えば、白血球)を含むが、これらに限定されることはない。生体試料は、典型的には、多細胞真核生物、好ましくはラット、マウス、ウシ、イヌ、モルモット、またはウサギなどの哺乳類、より好ましくは、マカク、チンパンジーまたはヒトなどの霊長類から得られる。最も好ましくは、試料はヒト由来である。
【0214】
6. 疾患をモニタリングする方法
本発明は、標的毒素で処置できるがん、例えば、細胞表面マーカーを有するがんに罹患しているかまたはかかりやすい患者における腫瘍増殖の阻害を検出する方法を提供する。この方法は、本明細書において記述される通り、例えば、キメラ分子の部分としての、本発明のPE分子を用いて、患者に施行されている処置の経過をモニタリングするのに特に有用である。この方法を用いて、症状のある患者に対する治療的処置も、無症状の患者に対する予防的処置もモニタリングすることができる。
【0215】
モニタリング法は、例えばキメラ分子の部分としての、本発明のPE分子の投与量を投与する前に患者での腫瘍量のベースライン値を決定する段階、およびこれを処置後の腫瘍量の値と、または処置を受けていない患者での腫瘍量と比較する段階を伴う。
【0216】
腫瘍量の値の有意な減少(すなわち、同じ試料の反復測定において、典型的な実験誤差限界を上回り、そのような測定の平均から1標準偏差として表される)は、陽性の処置結果(すなわち、例えばキメラ分子の部分としての、本発明のPE分子の投与が腫瘍増殖および/または転移の進行を遮断したこと)を示す。
【0217】
他の方法では、腫瘍量の対照値(すなわち、平均および標準偏差)を対照集団または正常集団について決定する(例えば、腫瘍量=ゼロ)。典型的には、対照集団の個体は前処置を受けていない。本発明のPE分子を、例えばキメラ分子の部分として、投与した後に患者において測定された腫瘍量の値を次いで、対照値と比較する。対照値に対して腫瘍量の有意な減少(例えば、平均から1標準偏差上回る)は、陽性の処置結果を示す。有意な減少のないことまたは増加は、陰性の処置結果を示す。
【0218】
他の方法では、腫瘍量の対照値(例えば、平均および標準偏差)は、本明細書において記述される通り、例えばキメラ分子の部分としての、本発明のPE分子の投与計画を受けて処置が行われた対照の個体集団から決定される。患者の腫瘍量の測定値を対照値と比較する。患者で測定されたレベルは対照値と有意差(例えば、1標準偏差を上回る)がない場合には、処置を中断することができる。患者での腫瘍量のレベルが対照値を有意に上回る場合には、剤の継続投与が正当化される。
【0219】
他の方法では、現在は処置を受けていないが、しかし以前に一連の処置を受けている患者を、処置の再開が必要かどうかを決定するために腫瘍量についてモニタリングする。患者で測定された腫瘍量の値を、以前の一連の処置後に患者で以前達成された腫瘍量の値と比較することができる。以前の測定に比べて腫瘍量の有意な増加(すなわち、同じ試料の反復測定で、典型的な実験誤差限界を超える)は、処置を再開できることの示唆である。あるいは、患者で測定された値を、一連の処置を受けた後の患者の集団で決定された対照値(平均に標準偏差を加えた)と比較することができる。あるいは、患者で測定された値を、疾患の症状がないままの予防的に処置された患者の集団、または疾患の特徴の改善を示す治療的に処置された患者の集団での対照値と比較することができる。これらの事例の全てで、対照レベルに対して腫瘍量の増加(すなわち、標準偏差よりも大きい)は、患者での処置を再開すべきであることの指標となる。
【0220】
分析用の組織試料は、典型的には、患者に由来する血液、血漿、血清、粘液、組織生検、腫瘍、腹水または脳脊髄液である。新生物の兆候がないか試料を分析することができる。新生物または腫瘍量は、当技術分野において公知の任意の方法、例えば、資格を持つ病理学者による生検の目視観測、または他の可視化技術、例えば、ラジオグラフィー、超音波、磁気共鳴映像法(MRI)を用いて検出することができる。
【0221】
7. キット、容器、器具およびシステム
上記の診断的、研究的および治療的な適用において用いるために、本発明によってキットおよびシステムも提供される。本発明のキットは、例えば、キメラ分子の部分として、本発明のPEを含むキメラ分子を含む。本発明のPEおよびキメラ分子の態様は、本明細書において記述される通りである。
【0222】
さらに、キットおよびシステムは、本発明の方法の実践のための指示書(すなわち、プロトコール)を含んだ指示資料を含んでよい。指示書は種々の形で対象キットに存在してよく、その1つまたは複数がキットに存在してよい。指示資料は典型的には、書かれたまたは印刷された資料を含むが、そうしたものに限定されることはない。そのような指示書を蓄え、それを最終使用者に伝えることができるあらゆる媒体が本発明では企図される。そのような媒体は、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などを含むが、これらに限定されることはない。そのような媒体は、そのような指示資料を提供するインターネットサイトへのアドレスを含んでよい。
【0223】
キットおよびシステムの対象とされる使用者、ならびに使用者の特定の要求に依り、多種多様のキット、システムおよび組成物を本発明にしたがって調製することができる。
【0224】
例えば経口用量、膣用量、直腸用量、経皮用量、または注射可能な(例えば、筋肉内注射、静脈内注射もしくは皮下注射のための)用量で、活性組成物の単位用量を有するキットが提供される。そのようなキットには、単位用量を含む容器に加えて、疾患または悪性状態を処置するうえでの組成物の使用および付随する利点について記述している情報を提供する添付文書がある。適した活性組成物および単位用量は、本明細書において上述されているものである。
【0225】
前述の発明は、明瞭性および理解のために例証および実施例によっていくぶん詳細に説明されているが、等価物のある種の変形、変化、改変および置換が、本発明の趣旨および範囲から必ずしも逸脱することなく、それらに対してなされうるということが、本発明の教示に照らして当業者には容易に明らかであると考えられる。結果として、本明細書において記述された態様は、本明細書に添付の特許請求の範囲への参照によってのみ決定されている本発明の範囲で、さまざまな改変、変化などを受ける。当業者は、本質的に同様の結果を生み出すように変化させるか、変更するか、または改変することができる種々の重大でないパラメータを容易に認識すると考えられる。本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様について記述するためだけであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定するものであると意図されないことも理解されるべきである。
【0226】
本発明の要素の各々は、複数の態様を含むものとして本明細書に記述されているが、そうでないよう示されない限り、本発明の所与の要素の態様の各々は、本発明の他の要素の態様の各々とともに用いることができ、かつ各々のそのような使用は、本発明の別個の態様を形成することが意図されているということが理解されるべきである。
【0227】
本明細書において参照された、GenBankデータベース配列に対するアクセッション番号を含む、参照された特許、特許出願および科学文献は、各々の個々の刊行物、特許または特許出願が参照により組み入れられるために具体的にかつ個別的に示されているかのように、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された任意の参照と本明細書の具体的な教示との間の任意の矛盾は、後者に有利になるように解決されるものとする。同様に、単語または語句の当技術分野で理解されている定義と本明細書において具体的に教示された場合の単語または語句の定義との間の任意の矛盾は、後者に有利になるように解決されるものとする。
【0228】
上記の開示から理解されうる通り、本発明は、多種多様な適用を有する。
【0229】
本発明を、例証的であるに過ぎずかつ決して本発明の定義および範囲を限定することが意図されない、以下の実施例でさらに例証する。
【実施例】
【0230】
以下の実施例は、主張する発明を例証するために供与されるものであるが限定するために供与されるものではない。
【0231】
実施例1: 本発明のPE分子:PE-LR-8Mにおいて除去されたエピトープ
(表1)

エピトープは、例えば、Onda, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2008 105(32):11311-6およびWO 2007/016150に記載されている。
【0232】
実施例2: 細胞に対するHA22-LR-8Mの細胞毒性活性
HA22-LR-8Mは、HA22およびHA22-LR-6Xに匹敵するRaji細胞およびCA46細胞に対する細胞毒性を有する。細胞を各種の免疫毒素(例えば、HA22、HA22-LR、HA22-LR-6X、HA22-LR-8M)とともに2日間または3日間インキュベートし、WSTアッセイ法によって細胞生存性を評価した(すなわち、テトラゾリウム塩WST-1 (試薬およびキットはRoche Applied Sciencesから入手可能)を用いて細胞増殖を測定した)。この結果を表2に要約する。
【0233】
(表2)

HA22 - 非変異型のPE38
HA22 LR - (Δ251-273/Δ285-394)
HA22 LR 6X - (Δ251-273/Δ285-394/R432G、R467A、R490A、R513A、E548S、K590S)
HA22 LR 8X - (Δ251-273/Δ285-394/D406A、R432G、R467A、R490A、R513A、E548S、K590S、Q592A)
【0234】
HA22-LR-8Mの細胞死滅活性をCLL患者由来の慢性リンパ性白血病(CLL)細胞に対して試験した。CLLを有する患者由来の細胞をHA22 (これは非変異型のPE38を有する)、HA22-LRまたはHA22-LR-8Mとともにインキュベートし、細胞生存性を50%低減させる濃度(IC50)を決定した。HA22-LR-8MのIC50はHA22-LRに匹敵し、HA22に比べて大いに改善している。この結果を図1に示す。
【0235】
実施例3: HA22-LR-8Mの抗腫瘍活性および減少した免疫原性
HA22-LR-8Mの抗腫瘍活性をSCIDマウスでCA46腫瘍に対して試験した。CA46腫瘍を有するマウスの静脈内(i.v.)にHA22またはHA22-LR-8Mを3回注射して処置し、腫瘍のサイズを23日間測定した。この結果を図2に示す。
【0236】
LMB-9との比較でHA22-LR-8Mの免疫原性をマウスで、標準的な技術にしたがい免疫毒素の静脈内投与を与えて試験した。マウスの静脈内に7日間隔で4回、非変異型のPE38を有するLMB9またはHA22-LR-8Mの免疫毒素を注射した。各注射から六(6)日後に、動物から血液を採取し、LMB9またはHA22-LR-8Mとのその反応性をELISAによって測定した。血液試料を回収し、アッセイ法まで-80度で貯蔵した。28日間にわたって測定されたHA22-LR-8Mの4回の静脈内投与後でさえも免疫原性反応は誘発されなかった(図3)。
【0237】
HA22との比較でHA22-LR-8Mの免疫原性を、標準的な技術にしたがい免疫毒素の静脈内(i.v.)投与を受けたマウスで試験した。マウスに免疫毒素5 μgを2週間ごとにi.v.注射し、マウスから10日後に採血した。注射された免疫毒素と反応する抗体についてELISAにより血清を分析した。66日間にわたって測定されたHA22-LR-8Mの5回の静脈内投与後でさえも免疫原性反応は誘発されなかった(図4)。
【0238】
実施例4: HA22-LR-8Mの生物学的活性のさらなる研究
CA46細胞に対するHA22およびHA22-LR-8Mの特異的な細胞毒性活性を上記の通りに試験した。この結果を図5A、HA22 (黒丸)およびHA22-LR-8M (黒四角)に提示する。
【0239】
SCIDマウスに対するHA22およびHA22-LR-8Mの抗腫瘍活性(図5B)。CA46腫瘍を持つSCIDマウス8匹の群を、矢印によって示される通り、PBS/0.2% MSA (黒四角)で、または0.4 mg/kg (三角)、2.5 mg/kg (丸)もしくは5.0 mg/kg (灰色四角)のHA22-LR-8Mの3回用量で一日おきに3回処置した。腫瘍サイズを、一日おきに測定し、式(0.4×ab2)を用いて算出した。データは平均 + SDとして表してある。24日目および27日目に抗腫瘍活性の有意差が認められた(p<0.05)。
【0240】
HA22、HA22-8XおよびHA22-LR-8Mに対する免疫学的反応を比較した。マウスでの免疫毒素に対するIgG抗体の産生を図6Aに示す。14日(矢印)ごとにBalb/cマウスの群(n=9)にHA22 (250 ug/kg、丸)、HA22-8X (250 ug/kg、四角)またはHA22-LR-8M (500 ug/kg、三角)をi.v.投与し、各注射から10日後にそれらから採血した。ICC-ELISAを標準的な技術にしたがって用い、各免疫毒素について抗体レベルを測定した。
【0241】
マウスにおいて免疫毒素により誘導されたIgM反応についても試験した(図6B)。Balb/cマウス(10匹/群)にPBS/0.2% MSA中のHA22 (250 ug/kg、丸)、HA22-LR-8M (500 ug/kg、四角)または対照としてPBS/0.2% MSAだけ(三角)を14日ごとに静脈内注射した。各注射から10日後にマウスから採血し、50倍希釈された血清をICC-ELISAにより各免疫毒素に対するIgMについてアッセイした。免疫後の血清の力価測定を図6Cに示す。HA22を免疫したマウス由来の38日目の血清(丸)をまた、連続的に希釈し、HA22に対するIgMについてPBS/0.2% MSA (三角)だけを免疫した対照血清と比較した。各免疫毒素でのICC-ELISAを用いてIgMレベルを測定した。
【0242】
HA22免疫マウス血清中の各変異体分子に対する抗体の量を試験した(図6D)。10匹のBalb/cマウスに14日ごとにHA22 (250 ug/kg)をi.v.投与し(計4回の注射)、4回目の注射から10日後に採血を行った。HA22でのICC-ELISAを用いてHA22に対する抗体レベルを測定した。各免疫毒素でのICC-ELISAを用いて、変異体免疫毒素に対するHA処置血清の交差反応性も測定した。
【0243】
HA22またはHA22-LR-8M免疫毒素に対する二次免疫反応について研究した(図6E)。HA22による初回免疫(5 ug、2週間の間隔で2回の免疫)から4週間後に、マウスにHA22 (四角)またはHA22-LR-8M (丸)を再免疫した。各免疫毒素に対する特異的なIgGレベルを示す。
【0244】
HA22またはHA22-LR-8M免疫毒素に対する既存のAb産生B細胞の免疫反応(図6F)。HA22 (5 ug/マウス)による3回または4回のi.v.免疫から15週間後に、抗HA22特異的IgGの低力価(約103)を有するマウス8匹をさらなる再免疫の研究のために選抜した。マウスにHA22 (四角)またはHA22-LR-8M (丸)を再免疫した。各免疫毒素特異的なIgGの力価を示す。Abの量をPE38に対するmAb (IP30)と比べて表した。データは平均 + SDとして表してある。HA, HA22; LR, HA22-LR; LR8M, HA22-LR-8M; ns, 有意ではない; , p<0.05。
【0245】
本明細書において記述される実施例および態様は例示のみを目的とすること、かつそれに照らしてさまざまな改変または変化が当業者には示唆されるものであり、本出願の趣旨および範囲ならびに添付の請求の範囲のなかに含まれることが理解される。本明細書において引用される全てのアクセッション番号、刊行物、特許および特許出願は、全ての目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、単離されたシュードモナス(Pseudomonas)外毒素A (「PE」)。
【請求項2】
D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597からなる群より選択されるSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基がアラニン、グリシンまたはセリンでさらに置換されている、請求項1記載のPE。
【請求項3】
SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、請求項1記載のPE。
【請求項4】
SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する、請求項1または請求項3記載のPE。
【請求項5】
(b)シュードモナス外毒素A (「PE」)に結合または融合された(a)標的化部分を含む、キメラ分子であって、該PEが、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、キメラ分子。
【請求項6】
前記PEが、D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597からなる群より選択されるSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基がアラニン、グリシンまたはセリンでさらに置換されている、請求項5記載のキメラ分子。
【請求項7】
前記PEがSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、請求項5記載のキメラ分子。
【請求項8】
前記PEがSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する、請求項5記載のキメラ分子。
【請求項9】
前記標的化部分が抗体である、請求項5記載のキメラ分子。
【請求項10】
前記抗体が、scFv、dsFv、Fab、単一ドメイン抗体およびF(ab')2からなる群より選択される、請求項9記載のキメラ分子。
【請求項11】
前記抗体が、CD19、CD21、CD22、CD25、CD30、CD33、CD79b、トランスフェリン受容体、EGF受容体、メソテリン、カドヘリンおよびルイスYからなる群より選択される細胞表面抗原に対する抗体である、請求項9記載のキメラ分子。
【請求項12】
前記抗体が、B3、RFB4、SS1、MN、HN1、HN2およびHB21からなる群より選択される、請求項9記載のキメラ分子。
【請求項13】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIXXYを有し、XXが、SN、HG、GR、RGおよびARから選択され;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGXXXGVLFAYを有し、XXXが、SSY、THW、YNW、TTWおよびSTYから選択される、
請求項9記載のキメラ分子。
【請求項14】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIHGYを有し;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGTHWGVLFAYを有する、
請求項9記載のキメラ分子。
【請求項15】
前記標的化部分がサイトカイン、リンホカインまたは増殖因子である、請求項5記載のキメラ分子。
【請求項16】
(a) シュードモナス外毒素A (「PE」)に結合または融合された標的化部分を含む、キメラ分子であって、該PEが、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、キメラ分子、ならびに
(b) 薬学的に許容される担体
を含む、組成物。
【請求項17】
前記PEが、D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597からなる群より選択されるSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基がアラニン、グリシンまたはセリンでさらに置換されている、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
前記PEがSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、請求項16記載の組成物。
【請求項19】
前記PEがSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する、請求項16記載の組成物。
【請求項20】
前記標的化部分が抗体である、請求項16記載の組成物。
【請求項21】
前記抗体が、scFv、dsFv、Fab、単一ドメイン抗体およびF(ab')2からなる群より選択される、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記抗体が、CD19、CD21、CD22、CD25、CD30、CD33、CD79b、トランスフェリン受容体、EGF受容体、メソテリン、カドヘリンおよびルイスYからなる群より選択される細胞表面抗原に対する抗体である、請求項20記載の組成物。
【請求項23】
前記抗体が、B3、RFB4、SS1、HN1、HN2、MNおよびHB21からなる群より選択される、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIXXYを有し、XXが、SN、HG、GR、RGおよびARから選択され;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGXXXGVLFAYを有し、XXXが、SSY、THW、YNW、TTWおよびSTYから選択される、
請求項20記載の組成物。
【請求項25】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIHGYを有し;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGTHWGVLFAYを有する、
請求項20記載の組成物。
【請求項26】
前記標的化部分がサイトカイン、リンホカインまたは増殖因子である、請求項16記載の組成物。
【請求項27】
改変型シュードモナス外毒素A (「PE」)をコードする単離された核酸であって、該PEが、残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、単離された核酸。
【請求項28】
前記PEが、D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597からなる群より選択されるSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基がアラニン、グリシンまたはセリンでさらに置換されている、請求項27記載の単離された核酸。
【請求項29】
前記PEがSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、請求項27記載の単離された核酸。
【請求項30】
前記PEがSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する、請求項27記載の単離された核酸。
【請求項31】
標的化部分をさらにコードする、請求項27記載の単離された核酸。
【請求項32】
前記標的化部分が抗体である、請求項32記載の単離された核酸。
【請求項33】
前記抗体が、scFv、dsFv、Fab、単一ドメイン抗体およびF(ab')2からなる群より選択される、請求項32記載の単離された核酸。
【請求項34】
前記抗体が、CD19、CD21、CD22、CD25、CD30、CD33、CD79b、トランスフェリン受容体、EGF受容体、メソテリン、カドヘリンおよびルイスYからなる群より選択される細胞表面抗原に対する抗体である、請求項32記載の単離された核酸。
【請求項35】
前記抗体が、B3、RFB4、SS1、HN1、HN2、MNおよびHB21からなる群より選択される、請求項32記載の単離された核酸。
【請求項36】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIXXYを有し、XXが、SN、HG、GR、RGおよびARから選択され;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGXXXGVLFAYを有し、XXXが、SSY、THW、YNW、TTWおよびSTYから選択される、
請求項32記載の単離された核酸。
【請求項37】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIHGYを有し;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGTHWGVLFAYを有する、
請求項32記載の単離された核酸。
【請求項38】
前記標的化部分がサイトカイン、リンホカインまたは増殖因子である、請求項31記載の単離された核酸。
【請求項39】
標的分子を持つ細胞の増殖を阻害する方法であって、
(a) 該標的分子に特異的に結合する、標的化部分、ならびに
(b) 残基1位〜273位および285位〜394位が除去され、かつSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基D406、R432、R467、R490、R513、E548、K590およびQ592の代わりにアラニン、グリシンまたはセリンで置換されている、シュードモナス外毒素A (「PE」)
を含むキメラ分子と、該細胞を接触させる段階を含み、
該キメラ分子と該細胞を接触させる段階が該細胞の増殖を阻害する、
方法。
【請求項40】
前記PEが、D403、R412、R427、E431、R458、D461、R505、E522、R538、R551、R576およびL597からなる群より選択されるSEQ ID NO:1のアミノ酸残基に対応する少なくとも1つのアミノ酸残基がアラニン、グリシンまたはセリンでさらに置換されている、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記PEがSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する、請求項39記載の方法。
【請求項42】
前記PEがSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する、請求項39記載の方法。
【請求項43】
前記標的化部分が抗体である、請求項39記載の方法。
【請求項44】
前記抗体が、scFv、dsFv、Fab、単一ドメイン抗体およびF(ab')2からなる群より選択される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記抗体が、CD19、CD21、CD22、CD25、CD30、CD33、CD79b、トランスフェリン受容体、EGF受容体、メソテリン、カドヘリンおよびルイスYからなる群より選択される細胞表面抗原に対する抗体である、請求項43記載の方法。
【請求項46】
前記抗体が、B3、RFB4、SS1、HN1、HN2、MNおよびHB21からなる群より選択される、請求項43記載の方法。
【請求項47】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIXXYを有し、XXが、SN、HG、GR、RGおよびARから選択され;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGXXXGVLFAYを有し、XXXが、SSY、THW、YNW、TTWおよびSTYから選択される、
請求項43記載の方法。
【請求項48】
前記抗体が、3つの相補性決定領域(CDR)を含む可変軽(VL)鎖、および3つのCDRを含む可変重(VH)鎖を有し、ここで
(i) 該VLのCDR1が配列QDIHGYを有し;
(ii) 該VLのCDR2が配列YTSを有し;
(iii) 該VLのCDR3が配列QQGNTLPWTを有し;
(iv) 該VHのCDR1が配列GFAFSIYDを有し;
(v) 該VHのCDR2が配列ISSGGGTTを有し;
(vi) 該VHのCDR3が配列ARHSGYGTHWGVLFAYを有する、
請求項43記載の方法。
【請求項49】
前記標的化部分がサイトカイン、リンホカインまたは増殖因子である、請求項39記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−504328(P2013−504328A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528940(P2012−528940)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/048504
【国際公開番号】WO2011/032022
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(505088710)アメリカ合衆国 (8)
【Fターム(参考)】