説明

低温タンク及び低温タンクの建設方法

【課題】低温タンクにおいて、屋根骨に対して低温環境における破壊靱性値が高くない材料を用いた場合であっても、低温タンクの機密性を確保可能とする。
【解決手段】隣接する屋根板21同士及び屋根骨22を接合する溶接部23が、液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が屋根骨22でのき裂進展力よりも高い形成材料によって形成され、屋根骨22が、液化ガス貯留時における破壊靭性値が屋根板21の形成材料よりも低い形成材料によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温タンク及び低温タンクの建設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、LNG(Liquefied Natural Gas)等の低温の液化ガスを貯留する低温タンクとして、液化ガスを貯留する金属製の内槽と、当該内槽を囲うコンクリート製の外槽とを備える二重殻タンクが用いられている。
【0003】
このような二重殻タンクを建設する場合には、例えば、先に外槽の底部及び側壁を形成し、その内部で内槽の屋根を形成する。その後、内槽の屋根をエアレージングにより持ち上げ、外槽の屋根部とのなるコンクリートを内槽の屋根の上部に打設し、この打設したコンクリートを先に形成された外槽の側壁に固定する。そして、内槽の側壁及び底部を形成することによってタンクが建設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−331922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内槽の屋根は、液化ガスの貯留領域を覆う複数の屋根板と、外槽の屋根が形成されるまでの間において屋根板を上部から支持する屋根骨とを備えている。そして、隣合う屋根板同士及び屋根骨とは溶接部を介して接合されている。
これらの内槽の屋根は、低温タンクが液化ガスを貯留する際には低温環境に晒されることとなるため、低温環境においても十分に高い破壊靱性値を発揮できる材料から形成されている。
【0006】
ところが、屋根骨は、低温タンクの建設時においては、内槽側壁の支持、内槽の屋根上部に施工される鉄筋の支持、外槽の屋根となるコンクリートの支持等を行う。しかしながら、低温タンクの完成後は、固化した外槽の屋根が屋根骨の機能を担う。このため、低温タンクの完成後は、屋根骨に求められる機能は殆どなくなる。
この結果、低温タンクの完成後においては屋根骨にクラックが生じても何の問題も生じない。
【0007】
したがって、屋根骨の形成材料として、低温環境での破壊靱性値がそれほど高くはないものの入手が容易な材料を用いることが考えられる。
しかしながら、屋根骨と溶接部とは一体化されている。また、屋根骨で発生したき裂は、金属中における音速に相当する速度で進行し、大きな進展力を有している。このため、屋根骨で発生したき裂が溶接部に到達し、溶接部にもき裂が伝播することが懸念される。
【0008】
上述のように溶接部は屋根板同士を接合している。このため、溶接部にき裂が生じると、屋根板同士の間に隙間が形成されることとなり、内槽の機密性を確保することができなくなる。この結果、低温タンクにおいて雨漏り等が発生し、液化ガスを良好に貯留することができなくなってしまう。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、低温タンクにおいて、屋根骨に対して低温環境における破壊靱性値が高くない材料を用いた場合であっても、低温タンクの機密性を確保可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0011】
第1の発明は、液化ガスを貯留する金属製の内槽と、当該内槽を囲うコンクリート製の外槽とを備え、上記内槽の屋根が、液化ガス貯留領域を覆う複数の屋根板と、建設時に当該屋根板を上方から支持する屋根骨と、隣接する上記屋根板同士及び上記屋根骨を接合する溶接部とを備える低温タンクであって、上記溶接部が、上記液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が上記屋根骨でのき裂進展力よりも高い形成材料によって形成され、上記屋根骨が、上記液化ガス貯留時における破壊靭性値が上記屋根板の形成材料よりも低い形成材料によって形成されているという構成を採用する。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記溶接部と上記屋根骨との間に設けられるき裂伝播防止部を備えるという構成を採用する。
【0013】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記き裂伝播防止部が、ガラステープであるという構成を採用する。
【0014】
第4の発明は、上記第2の発明において、上記き裂伝播防止部が、上記溶接部と上記屋根骨との間に設けられる空隙であるという構成を採用する。
【0015】
第5の発明は、液化ガスを貯留する金属製の内槽と、当該内槽を囲うコンクリート製の外槽とを備え、上記内槽の屋根が、液化ガス貯留領域を覆う複数の屋根板と、建設時に当該屋根板を上方から支持する屋根骨と、隣接する上記屋根板同士及び上記屋根骨を接合する溶接部とを備える低温タンクの建設方法であって、上記液化ガス貯留時における破壊靭性値が上記屋根板の形成材料よりも低い形成材料によって形成された上記屋根骨を用い、上記液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が上記屋根骨でのき裂進展力よりも高い形成材料からなる溶接材料を用いて上記溶接部を形成する溶接工程を有するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屋根骨が、液化ガス貯留時における破壊靭性値が屋根板の形成材料よりも低い形成材料によって形成されている。このため、屋根骨を安価で入手が容易な形成材料によって形成することができる。
また、本発明によれば、溶接部の形成材料が、液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が屋根骨でのき裂進展力よりも高いものとされている。このため、屋根骨にてき裂が生じた場合であっても、当該き裂が溶接部に到達した後に当該溶接部にき裂が進行することを防止することができる。
したがって、本発明によれば、低温タンクにおいて、屋根骨に対して低温環境における破壊靱性値が高くない材料を用いた場合であっても、低温タンクの機密性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態における低温タンクの概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における低温タンクが備える内槽の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態における低温タンクが備える内槽の要部拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態における低温タンクの変形例の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る低温タンク及び低温タンクの建設方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、低温タンク1の概略構成を模式的に示す断面図である。
低温タンク1は、LNG(Liquefied Natural Gas)等の低温の液化ガスを貯留するためのものであり、金属製の内槽2とコンクリート製の外槽3とを備えている。
【0020】
内槽2は、液化ガスを直接貯留する容器である。この内槽2は、図1に示すように、底部2aと、側壁2bと、屋根2cとを備えている。
外槽3は、内槽2を囲って収容する容器である。この外槽3は、図1に示すように、底部3aと、側壁3bと、屋根3cとを備えている。
なお、内槽2と外槽3との間には、保冷材やライナ等が収容されている。
【0021】
図2及び図3は、内槽2の屋根2cを示す図である。なお、図2は、屋根2cの全体を示す平面図である。また、図3においては(a)が図2の一部(領域A)を拡大して示す平面図であり、(b)が(a)の断面図である。
【0022】
この図に示すように、本実施形態の低温タンク1が備える内槽2の屋根2cは、複数の屋根板21と、屋根骨22と、突合せ溶接部23(溶接部)と、隅肉溶接部24とを備えている。
【0023】
屋根板21は、内槽2における液化ガスの貯留領域を覆う板部材である。この屋根板21は、内槽2に液化ガスが貯留された際の低温の温度環境においても靭性低下が生じ難い形成材料によって形成されている。このような屋根板21の形成材料としては、例えば、オーステナイト系のステンレス鋼を用いることができ、より具体的にはSLA365鋼を用いることができる。
なお、屋根2cにおいては、突合せ溶接部23によって接合される複数の屋根板21によって液化ガスの貯留領域の全域を覆うように構成されている。
【0024】
屋根骨22は、屋根板21の上部に配置されており、図2に示すように、屋根2cの全域に放射状に配設されている。
図3(b)に示すように、屋根骨22は、H型鋼からなり、屋根板21同士の境界上に配設されている。
そして、本実施形態において屋根骨22は、内槽2に液化ガスが貯留された際の温度環境における破壊靭性値が屋根板21の形成材料よりも低い形成材料によって形成されている。つまり、屋根骨22の形成材料は、低温環境における破壊靱性値が屋根板21の形成材料よりも低いものとなっている。このような屋根骨22の形成材料としては、例えば、フェライト系のステンレス鋼を用いることができ、より具体的にはSM400B鋼を用いることができる。
【0025】
突合せ溶接部23は、隣接する屋根板21同士と屋根骨22とを接合するものである。本実施形態における突合せ溶接部23は、本発明の溶接部に相当し、液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が屋根骨22でのき裂進展力よりも高い形成材料によって形成されている。つまり、突合せ溶接部23の形成材料は、低温環境におけるき裂伝播停止破壊靭性値(Kca)が屋根骨22でのき裂進展力よりも高いものとなっている。このような突合せ溶接部23の形成材用としては、例えば、オーステナイト系のステンレス鋼を用いることができ、より具体的にはSUS309L鋼を用いることができる。
なお、上記き裂進展力Kとは、応力拡大係数を意味し、下式によって求められる。
【0026】
【数1】

【0027】
なお、上式において、σは、FEM(有限要素法)による構造解析や材料力学の公式から定める。また、Fは、FEMによる構造解析、もしくは、き裂進展力を計算するためのハンドブック(例えば、日本材料学会, Stress intensity factors handbook of Japan Society of Materials Science Vol. 1 - 5.)を利用して定める。ハンドブックを利用する場合には、様々な形状の部材に対する応力拡大係数の解がハンドブックに一般的に記載されているため、この解を用いる。また、き裂深さaは、例えば、屋根骨22のフランジが割れることを想定した場合は、当該フランジの板厚とする。
【0028】
隅肉溶接部24は、屋根骨22と屋根板21の上面とを接合するためのものであり、図3(a)に示すように、屋根骨22の長さ方向に離散的に設けられている。
この隅肉溶接部24は、例えば、屋根骨22と同様に、低温環境における破壊靱性値が屋根板21の形成材料よりも低い材料(フェライト系のステンレス鋼で、より具体的にはSM400B鋼)を用いて形成されている。
【0029】
このような構成を採用する本実施形態の低温タンク1によれば、屋根骨22が、低温環境における破壊靭性値が屋根板21の形成材料よりも低い形成材料によって形成されている。このため、屋根骨22を安価で入手が容易な形成材料によって形成することができる。
また、本実施形態の低温タンク1によれば、突合せ溶接部23の形成材料が、低温環境におけるき裂伝播停止破壊靭性値(Kac)が屋根骨22でのき裂進展力よりも高いものとされている。このため、屋根骨22にてき裂が生じた場合であっても、当該き裂が突合せ溶接部23に到達した後に当該突合せ溶接部23にき裂が進行することを防止することができる。
したがって、本実施形態の低温タンク1によれば、低温タンク1において、屋根骨22に対して低温環境における破壊靱性値が高くない材料を用いた場合であっても、低温タンク1の機密性を確保することが可能となる。したがって、本実施形態の低温タンク1は、低コストで機能性が確保されたものとなる。
【0030】
なお、2つの屋根板21と1つの屋根骨22とを突合せ溶接部23で接合した形態を模擬した試験片を低温環境に晒して荷重を加えて破断する実験を複数回行った。
この結果、試験片が破断した際の荷重が最も低い場合においては、き裂発生破壊靱性値(kc)が74MPa√mであり、き裂伝播停止破壊靱性値(Kca)が104MPa√mであった。また、試験片が破断した際の荷重が最も高い場合においては、き裂発生破壊靱性値(Kc)が105MPa√mであり、き裂伝播停止破壊靱性値(Kca)が149MPa√mであった。
【0031】
この実験の結果から、本実施形態の低温タンク1における突合せ溶接部23の形成材料としては、き裂伝播停止破壊靱性値(Kca)が104MPa√m以上の材料が好ましいと考えられる。
具体的には、上述のオーステナイト系ステンレス鋼の他、インコネル600、インコネル718が有効であると考えられる。また、内槽2に液化ガスを貯留した場合における突合せ溶接部23の温度が−100℃であるとすれば、フェライト系ステンレス鋼であっても、低炭素ALキルド鋼板(JISで規定する鋼板)のうち、SLA325A(SLA33A)、SLA325B(SLA33B)及びSLA360(SLA37)を用いることができる。
【0032】
上述のような低温タンク1を建設する際には、内槽2の屋根2cを形成するにあたり、突合せ溶接部23の形成材料(すなわち、液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が屋根骨22でのき裂進展力よりも高い形成材料)からなる溶接棒を用いる。より詳細には、当該溶接棒を用いて屋根板21同士及び屋根骨22を例えば被覆アーク溶接により接合する。
このような溶接工程を行うことによって、屋根板21同士及び屋根骨22が突合せ溶接部23で接合された屋根2cを形成することができる。
【0033】
なお、突合せ溶接部23と屋根骨22とが直接接触する領域を減少させるほど、屋根骨22で発生したき裂が突合せ溶接部23へ与える影響を低減させることができる。
このため、例えば、図4(a)に示すように、突合せ溶接部23と屋根骨22との間に、き裂の進行を防止するガラステープ25(き裂伝播防止部)を備えても良い。このガラステープ25は、ガラス繊維がテープ形状に織り込まれたものである。
また、図4(b)に示すように、屋根骨22に溝を形成して、突合せ溶接部23と屋根骨22との間に空隙26(き裂伝播防止部)を備えても良い。
このように、突合せ溶接部23と屋根骨22との間にガラステープ25や空隙26を設けることによって、屋根骨22で発生したき裂が突合せ溶接部23に進行することをより確実に防止することができる。
【0034】
また、突合せ溶接部23と屋根骨22とが直接接触する領域を減少するためには、屋根板21同士を接合する際に、屋根板21同士を極力近づけて溶接することが好ましい。これによって、溶融した溶接棒が屋根骨22側に流れることを抑制し、突合せ溶接部23が屋根骨22と接触する領域を減少させることができる。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、図3(b)に示すように、H型鋼とされた屋根骨22の中心が突合せ溶接部23上に配置される構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、屋根骨22の中心を突合せ溶接部23上からずらして配置しても良い。
例えば、屋根骨22においては、角部等の応力集中部にてき裂が発生しやすい。このため、当該応力集中部を突合せ溶接部23から極力離間させるように配置することによって、突合せ溶接部23にき裂が進行することをより確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0037】
1……低温タンク、2……内槽、2a……底部、2b……側壁、2c……屋根、3……外槽、3a……底部、3b……側壁、3c……屋根、21……屋根板、22……屋根骨、23……突合せ溶接部(溶接部)、24……隅肉溶接部、25……ガラステープ(き裂伝播防止部)、26……空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留する金属製の内槽と、当該内槽を囲うコンクリート製の外槽とを備え、前記内槽の屋根が、液化ガス貯留領域を覆う複数の屋根板と、建設時に当該屋根板を上方から支持する屋根骨と、隣接する前記屋根板同士及び前記屋根骨を接合する溶接部とを備える低温タンクであって、
前記溶接部は、前記液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が前記屋根骨でのき裂進展力よりも高い形成材料によって形成され、
前記屋根骨は、前記液化ガス貯留時における破壊靭性値が前記屋根板の形成材料よりも低い形成材料によって形成されている
ことを特徴とする低温タンク。
【請求項2】
前記溶接部と前記屋根骨との間に設けられるき裂伝播防止部を備えることを特徴とする請求項1記載の低温タンク。
【請求項3】
前記き裂伝播防止部は、ガラステープであることを特徴とする請求項2記載の低温タンク。
【請求項4】
前記き裂伝播防止部は、前記溶接部と前記屋根骨との間に設けられる空隙であることを特徴とする請求項2記載の低温タンク。
【請求項5】
液化ガスを貯留する金属製の内槽と、当該内槽を囲うコンクリート製の外槽とを備え、前記内槽の屋根が、液化ガス貯留領域を覆う複数の屋根板と、建設時に当該屋根板を上方から支持する屋根骨と、隣接する前記屋根板同士及び前記屋根骨を接合する溶接部とを備える低温タンクの建設方法であって、
前記液化ガス貯留時における破壊靭性値が前記屋根板の形成材料よりも低い形成材料によって形成された前記屋根骨を用い、
前記液化ガス貯留時におけるき裂伝播停止破壊靭性値が前記屋根骨でのき裂進展力よりも高い形成材料からなる溶接材料を用いて前記溶接部を形成する溶接工程を有する
ことを特徴とする低温タンクの建設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43679(P2013−43679A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183427(P2011−183427)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】