説明

低温ヒートシール性をもつ非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体

【課題】F/Cが1.8以下の非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体の表面に優れた低温ヒートシール性を付与する。
【解決手段】表層の少なくとも一部に低温ヒートシール性の表層部分を有する非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体であって、該低温ヒートシール性表層部分の炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが0.2≦F/C≦0.9でありかつ炭素原子数に対する酸素原子数の比O/Cが0.09≦O/C≦0.40であり、表層の残余の部分の炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが低温ヒートシール性表層部分よりも大きくかつ0.8≦F/C≦1.8であることを特徴とする、特に太陽電池用カバーフィルムとして好適な非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着強度の大きい低温ヒートシール性をもつ非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体、特に太陽電池用カバーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂はその優れた非粘着性がゆえに、フッ素樹脂成形体同士または異種材料との接合は単に接着剤を塗布するだけでは得られない。
【0003】
またフッ素樹脂成形体同士の接合には、汎用樹脂の加工に一般的に用いられている高周波ウェルディングや超音波ウエルディングといった方法は接合部を再溶融できないため利用できない。したがって従来より、熱溶融性フッ素樹脂についてはその融点以上の温度に加熱し再溶融状態で加圧する、いわゆる溶融接着法が用いられている。しかし、この溶融接着法では、一旦フッ素樹脂成形体を溶融するため接合部分近傍の機械的強度が著しく低下してしまう。
【0004】
一方、フッ素樹脂成形体を異種の材料に接合する場合、フッ素樹脂成形体の表面をナトリウム−ナフタレンで化学的に改質したうえで接着剤を用いて接合する化学的処理方法があるが、成形体の着色などの問題があり、透明性が要求される用途には使用できない。
【0005】
以上のような問題を解決するために成形体表面を放電処理する種々の提案がなされている。
【0006】
たとえば(1)ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体など、炭素原子数に対するフッ素原子数の比(以下、「F/C」という)が1.8〜2.0のパーフルオロ系のフッ素樹脂成形体をグロー放電を利用した低温プラズマ処理法で処理し、成形体表面のF/Cを0.5〜1.75に低下させることにより、接着剤を使用せずに210℃程度の温度でヒートシールする方法(特許文献1)、(2)炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが1.9〜2.0のパーフルオロ系のフッ素樹脂成形体を酸素含有量が10モル%以下の非重合性ガス雰囲気下でのグロー放電を利用した低温プラズマ処理法で処理し、成形体表面のF/Cを0.8〜1.8に低下させると共に炭素原子数に対する酸素原子数の比(以下、「O/C」という)が{0.2−0.09×(F/C)}以下とすることにより、接着剤を使用せずに210℃程度の温度でヒートシールする方法(特許文献2)、(3)パーフルオロ系のフッ素樹脂成形体の表面を官能基を有する有機化合物(たとえばケトンやアクリル酸単量体など)の気流中で放電処理をし、表面にヒートシール性を付与する方法(特許文献3、特許文献4、特許文献5)、(4)ヘリウムガスまたはヘリウムガスを主成分とする混合ガスを導入したチャンバー内でシートを連続的にプラズマ表面処理する方法(特許文献6)、希ガスまたは希ガスとケトン類との混合ガスに水蒸気を混合した気流中、大気圧下でグロー放電を発生させてプラスチックや繊維に親水性を付与する方法(特許文献7)、(5)パーフルオロ系または非パーフルオロ系のフッ素樹脂成形体の表面を官能基を有する有機化合物(たとえばアセトン、グリシジルメタクリレート、メタノールなど)を含む不活性ガス雰囲気中でコロナ放電、グロー放電、プラズマ放電などの放電処理をして改質し、前記有機化合物の官能基と親和性の官能基を有する接着剤を用いて接合する方法(特許文献8)などが知られている。
【0007】
しかし、前記(1)〜(3)の方法では、パーフルオロ系のフッ素樹脂成形体のみを対象としており、また減圧下での処理が要求される。
【0008】
(4)の方法では、処理電極として平行平板型の電極を用いてこの間にフッ素樹脂フィルムを通過させるため、このままではフィルムの両面が処理されてしまうため、フッ素樹脂の特徴である非粘着性、撥水性、潤滑性、耐汚染性、耐薬品性などが大幅に低下してしまう。そこで、そうしたフッ素樹脂の特徴を活用する場合、表面処理を施さない側に保護フィルムを被せて処理しなければならない。さらに、特許文献7記載の方法では不活性ガスやフルオロカーボンなどを使用するため処理系を気密にし、排ガスの回収も考慮しなければならない。
【0009】
また(5)の方法は、処理雰囲気に使用した有機化合物と特定の関係にある官能基を有する接着剤を塗布する点に特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平5−68496号公報
【特許文献2】特公平2−54848号公報
【特許文献3】特公昭37−17485号公報
【特許文献4】特公昭49−12900号公報
【特許文献5】米国特許第3296011号明細書
【特許文献6】特開平3−143930号公報
【特許文献7】特開平6−182195号公報
【特許文献8】特許第2690032号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、従来はF/Cが1.8を超えるパーフルオロ系のフッ素樹脂成形体のヒートシール性の改良が主であった。しかし、F/Cが1.8以下の非パーフルオロ系のフッ素樹脂はパーフルオロ系のフッ素樹脂と同様の処理ではパーフルオロ系のフッ素樹脂ほどヒートシール性が上がらず、多くの場合接着剤が必要になる。
【0012】
本発明は、F/Cが1.8以下の非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体の表面に優れた低温ヒートシール性を付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、表層の少なくとも一部に低温ヒートシール性の表層部分を有する非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体であって、該低温ヒートシール性表層部分のF/Cが0.2≦F/C≦0.9、好ましくは0.3≦F/C≦0.8、特に好ましくは0.4≦F/C≦0.8であり、かつO/Cが0.09≦O/C≦0.40、好ましくは0.14≦O/C≦0.30、特に好ましくは0.14≦O/C≦0.25であり、表層の残余の部分のF/Cが低温ヒートシール性表層部分よりも大きくかつ0.8≦F/C≦1.8であることを特徴とする非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体、特にフィルム状の成形体に関する。
【0014】
かかるフィルム状の成形体は、該フィルムの一方の表面にヒートシール強度の大きい低温ヒートシール性の表層部分が形成されてなる太陽電池用カバーフィルムとして好適であり、エチレン−酢酸ビニル系フィルムまたはシートに非パーフルオロ系フッ素樹脂の融点未満の温度で直接ヒートシールして太陽電池用カバーラミネート体としても利用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温ヒートシールが難しい非パーフルオロ系フッ素樹脂に優れた低温ヒートシール性を付与することができ、しかも高度な耐候性や耐久性が要求される太陽電池用のカバーフィルムとして使用できるフッ素樹脂フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例2で測定した放電処理されたETFEフィルムのF/CとO/Cとヒートシール強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で使用するF/Cが0.7〜1.8の非パーフルオロ系フッ素樹脂としては、たとえばエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(THV)などがあげられ、特に太陽電池のカバーラミネートフィルム用としては透明性や機械的強度、耐ストレスクラック性が高い点からETFEが好ましい。
【0018】
これらの非パーフルオロ系フッ素樹脂の成形体としてはフィルム状またはシート状が好ましいが、板状、パイプ状、繊維状、布状(織布、編布)およびこれらの積層体など各種の形状の成形体であってもよい。
【0019】
これらF/Cが0.7〜1.8の非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体の表面F/Cを0.2〜0.9まで低下させ、さらにO/Cを0.09〜0.40にする手段としては、不活性ガスに反応性有機化合物を混合した雰囲気下で成形体表面を放電処理することによって達成できる。
【0020】
不活性ガスとしては、たとえば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどがあげられる。
【0021】
反応性有機化合物としては酸素原子を含有する重合性または非重合性有機化合物であり、たとえば酢酸ビニル、ギ酸ビニルなどのビニルエステル類;グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸エステル類;ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、グリシジルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸、ギ酸などのカルボン酸類;メチルアルコール、エチルアルコール、フェノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、ギ酸エチルなどのカルボン酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル酸類などがあげられる。これらのうち改質された表面が失活しにくい(寿命が長い)点、安全性の面で取扱いが容易な点から、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、ケトン類が好ましく、特に酢酸ビニル、グリシジルメタクリレートが好ましい。
【0022】
反応性有機化合物の濃度は有機化合物の種類、フッ素樹脂の種類などによって異なるが、通常0.1〜3.0容量%、好ましくは0.1〜1.0容量%である。
【0023】
放電処理は前記雰囲気ガス中でコロナ放電、グロー放電などの各種の放電方法により実施することができるが、装置内を減圧しなくてもよい点、フィルムの場合などに片面だけの処理が容易である点、電極近傍の雰囲気ガスの影響が小さく安定した放電が得やすい点からコロナ放電処理が好ましい。
【0024】
放電条件は目的とするF/CおよびO/Cの値、非パーフルオロ系フッ素樹脂の種類、反応性有機化合物の種類や濃度などによって適宜選定すればよい。通常、荷電密度が0.3〜9.0W・sec/cm2、好ましくは3.0W・sec/cm2未満の範囲で放電処理する。処理温度は0℃以上100℃以下の範囲の任意の温度で行なうことができる。
【0025】
本発明においては、放電処理は成形体に部分的に施される。特に成形体がフィルムまたはシート状の場合、片面だけに放電処理を施し、他方の面にフッ素樹脂の特性を残しておくことが好ましい。
【0026】
片面のみを放電処理する方法としては、たとえば接地電極をロール状としフッ素樹脂フィルムをそのロール状接地電極に添わせてコロナ放電処理する方法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
かくして得られる放電処理表面はF/Cが0.2≦F/C≦0.9に低下し、かつO/Cが0.09≦O/C≦0.40となった低温ヒートシール性の表層部分を有する。放電処理表面のF/Cが0.2よりも小さくなると充分なヒートシール強度が得られず、また被処理物がフィルムの場合、放電時に発生する熱によりシワが発生して品質を著しく損ねてしまうこととなり、0.9よりも大きくなると充分なヒートシール強度が得られない。一方、O/Cが0.09よりも小さいと充分なヒートシール強度が得られないこととなり、0.40よりも大きくなると充分なヒートシール強度が得られず、また被処理物がフィルムの場合、放電時に発生する熱によりシワが発生して品質を著しく損ねてしまうことになる。この低温ヒートシール性の表層部分は、フィルム同士を低温ヒートシールした場合良好な接着強度が得られる点から0.3≦F/C≦0.8でかつ0.14≦O/C≦0.3とするのが好ましい。また、得られる積層体を自然環境に曝露した場合の耐久性に優れる点から0.4≦F/C≦0.8でかつ0.14≦O/C≦0.25とするのが好ましい。低温ヒートシール性表層部分のF/Cはもちろん残余(当初)の表層部分のF/C(0.7〜1.8)よりも小さい。
【0028】
本発明でいう「表層部分」とは、X線光電子分光装置((株)島津製作所製のESCA−750)により、励起X線Al,Kα1,2線(1486.6eV)、X線出力8KV、30mA、温度20℃、真空度5.0×10-7Torr以下の条件で測定するときの測定深度(約10nm)までの部分をいう。またF/CおよびO/Cは、この方法で測定したC1s、F1sおよびO1sの測定値から算出している。
【0029】
本発明の非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体はその低温ヒートシール性の表層部分で同じく放電処理された非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体と、または異種の材料と充分な強度でヒートシールすることができる。ここでいう充分なヒートシール強度とは、ヒートシールされた成形体同士を引き剥がす際、成形体の方が破壊を生ずる強度であり、測定上は、各フッ素樹脂成形体の引っ張り試験(ASTM D 3368に準ずる)における引張降伏強さ(gf/cm)で評価できる。
【0030】
フィルムの引張降伏強さはフィルムの厚さによって変わるが、たとえばETFEの無延伸フィルムの場合、産業上最も薄いフィルム厚さである6μmでの引張降伏強さは約120gf/cmであり、少なくともこれ以上のヒートシール強度があれば実用上有効である。さらに産業上一般に使用されているフィルム厚さである12μmでは引張降伏強さが約240gf/cm以上であることが好ましい。
【0031】
また異種の材料、たとえば後述する太陽電池用のカバーラミネートフィルムに用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムとの接着の場合、経験的に放電処理済表面が360gf/cm以上のヒートシール強度をもつ必要がある。ヒートシール強度については、同種材料の接着ではフィルム自体の材料破壊強度以上のヒートシール強度が必要となり、また、太陽電池用カバーラミネートフィルムの場合のように自然環境に曝露され紫外線の照射や水蒸気の透過、冷熱衝撃によって接着面が劣化する場合は、ヒートシール強度はフィルム自体の強度には依存せず、より大きなヒートシール強度が必要となる。
【0032】
本発明の非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体とヒートシール可能な異種の材料としては、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの合成樹脂などの材料があげられる。
【0033】
ヒートシールは、従来公知のヒートシール法により非パーフルオロ系フッ素樹脂の融点未満の温度、たとえば140℃〜融点までの温度範囲で行なう。ヒートシール法としては、たとえばインパルスシーラー、熱プレスなどの方法が採用できるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の低温ヒートシール性フッ素樹脂成形体は、後述する太陽電池用カバーフィルムのほかに、化粧鋼板、壁紙などの建築内外装材料、ラッピング電線被覆材料などとして有用である。
【0035】
本発明はまた、前記放電処理された非パーフルオロ系フッ素樹脂フィルムからなる太陽電池用カバーフィルムに関する。このカバーフィルムは片面だけに低温ヒートシール性が付与されており、他方の面は未処理のまま残し、フッ素樹脂の特性である非粘着性、撥水性、潤滑性、耐汚染性、耐薬品性、電気絶縁性などを利用するものである。本発明の太陽電池用カバーフィルムには、耐候性、耐久性の点から前記のヒートシール強度として360gf/cm以上が要求される。
【0036】
本発明の太陽電池用カバーフィルムは通常、その処理済面と異種の材料、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のフィルムまたはシートをヒートシールしたラミネート体の形態とされ、このラミネート体で太陽電池本体を保護している。
【0037】
太陽電池用カバーフィルムの厚さとしては通常50μm〜0.1mm程度、EVAフィルムまたはシートの厚さは通常0.1〜1.0mm程度である。
【実施例】
【0038】
つぎに本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
実施例1
コロナ放電装置の放電電極とロール状接地電極(60℃)の近傍に酢酸ビニルまたはグリシジルメタクリレートを0.3容量%含む窒素ガスを流しながら、厚さ100μmのETFEフィルム(F/C=1.1。ダイキン工業(株)のネオフロンETFEフィルムEF−0100)をロール状接地電極に添わせながら連続的に通過させ、表1に示す荷電密度でETFEフィルムの片面をコロナ放電処理した。
【0040】
コロナ放電処理済(低温ヒートシール性)表層部分を前記のESCAにより調べ、F/CおよびO/Cを算出した。結果を表1に示す。
【0041】
ついで2枚の処理済みETFEフィルムを低温ヒートシール性表層部分同士を170℃にて5分間熱プレスしてヒートシール強度測定用のサンプルを作製した。このサンプルをJIS K 6854にしたがって万能引張り試験機((株)島津製作所製のASG−50D)を用い、180度剥離試験(引張り速度100mm/分)を行なった。測定値をヒートシール強度として表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2
実施例1において、酢酸ビニルの濃度およびコロナ放電の荷電密度を適宜変更し、種々のF/CおよびO/Cの値の低温ヒートシール性表層部分をもつETFEフィルムを作製し、ヒートシール強度を実施例1と同様にして測定した。
【0044】
それらの結果を図1に示す。図1において、○はヒートシール強度が360gf/cm以上のもの、□はヒートシール強度が240gf/cm以上360gf/cm未満のもの、△はヒートシール強度が120gf/cm以上240gf/cm未満のもの、黒三角はヒートシール強度が120gf/cm未満のもの、×はフィルムが変形したものを表している。
【0045】
図1に示すように、F/Cが0.9を超えるとヒートシール強度が120gf/cm未満となり、剥離しやすくなり、0.2よりも小さくなるとフィルムが変形してしまう。また、O/Cが0.4を超えるとフィルムの変形が生じてしまい、0.09を下回るとヒートシール強度が120gf/cm未満となってしまう。一方、特にF/CおよびO/Cがそれぞれ0.3≦F/C≦0.8および0.14≦O/C≦0.3の場合優れたヒートシール強度が得られ、さらに0.4≦F/C≦0.8および0.14≦O/C≦0.25の場合、太陽電池用のカバーフィルムに要求される高度なヒートシール強度が達成される。
【0046】
実施例3
厚さ50μmのETFEフィルム(F/C=1.1。ダイキン工業(株)のネオフロンETFEフィルムEF−0050)を用いたほかは実施例1と同様にして表2に示すF/CおよびO/Cの低温ヒートシール性表層部分を有するETFEフィルムを作製した。これらのETFEフィルム同士を実施例1と同様にしてヒートシールしたときのヒートシール強度は表2に示すものであった。
【0047】
これらのETFEフィルムの低温ヒートシール性表面にEVAフィルム(住友化学工業(株)製のボンドファーストG。厚さ0.05mm)を重ね、さらにアセトン脱脂処理されたアルミニウム板(厚さ0.2mm)を重ねて60gf/cm2に加圧後、電気炉中で150℃、2時間加熱して太陽電池パネルを模したラミネート体を作製した。得られたラミネート体を85±2℃、相対湿度90〜93±5%の環境下に1000時間保持したのち取り出し、ETFEフィルムとEVAフィルムの剥離の有無を目視で観察した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、太陽電池のカバーフィルム用として要求される高度な耐候性、耐久性を満たすためには、360gf/cm以上のヒートシール強度が必要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層の少なくとも一部に低温ヒートシール性の表層部分を有する非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体であって、不活性ガスに反応性有機化合物を混合した雰囲気下で、炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが0.8≦F/C≦1.8である非パーフルオロ系フッ素樹脂の表層を放電処理して得られ、該低温ヒートシール性表層部分の炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが0.2≦F/C≦0.9でありかつ炭素原子数に対する酸素原子数の比O/Cが0.09≦O/C≦0.40であり、表層の残余の部分の炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが低温ヒートシール性表層部分よりも大きくかつ0.8≦F/C≦1.8であることを特徴とする非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体。
【請求項2】
前記低温ヒートシール性表層部分の炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが0.3≦F/C≦0.8でありかつ炭素原子数に対する酸素原子数の比O/Cが0.14≦O/C≦0.30である請求項1記載のフッ素樹脂成形体。
【請求項3】
前記低温ヒートシール性表層部分の炭素原子数に対するフッ素原子数の比F/Cが0.4≦F/C≦0.8でありかつ炭素原子数に対する酸素原子数の比O/Cが0.14≦O/C≦0.25である請求項1記載のフッ素樹脂成形体。
【請求項4】
低温ヒートシール性が非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体の融点以下の温度で発現する請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂成形体。
【請求項5】
前記非パーフルオロ系フッ素樹脂がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体またはポリビニリデンフルオライドである請求項4記載のフッ素樹脂成形体。
【請求項6】
非パーフルオロ系フッ素樹脂成形体がフィルムである請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素樹脂成形体。
【請求項7】
請求項6記載のフィルムからなり、該フィルムの一方の表面に低温ヒートシール性の表層部分が形成されてなる太陽電池用カバーフィルム。
【請求項8】
該カバーフィルムの低温ヒートシール性の表層部分のヒートシール強度が360gf/cm以上である請求項7記載の太陽電池用カバーフィルム。
【請求項9】
エチレン−酢酸ビニル系フィルムまたはシートに請求項7または8記載のカバーフィルムを非パーフルオロ系フッ素樹脂の融点未満の温度で直接ヒートシールして得られる太陽電池用カバーラミネート体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1732(P2012−1732A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177169(P2011−177169)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2000−574596(P2000−574596)の分割
【原出願日】平成11年10月1日(1999.10.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】