説明

低温焼成多層基板用導電性ペースト

【課題】焼成後の基板の反りが少なく、細線の形成が可能で、焼成後の導体膜表面が平滑で、基板との接着強度が高く、ワイヤボンディング性が良好な低温焼成多層基板用導電性ペーストを提供する。
【解決手段】累積50%粒径が0.5μm以上3.0μm未満で、累積90%粒径が15.0μm以下である粒径分布を有する、アトマイズ法により製造されたAg粉末が導電成分の50重量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成多層基板用導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の基板として従来用いられていたアルミナ多層回路基板は、アルミナの焼結を行うために1500℃以上の高温を必要とし、またその温度に耐えるための導体材料としてMo−MnやW系の高温焼結材料が使用されていたが、製造コストの低減を図るために、アルミナより低温で焼成することのできる低温焼成基板が用いられるようになった。
【0003】
この低温焼成基板は、800ないし1000℃の焼成温度で焼結が可能であり、そのため導体材料もMo−MnやWよりも低抵抗のAgやCuが使用できるようになり、高密度実装基板としてのCSP(チイプサイズパッケージ)あるいはMCM(マルチチップモジュール)に適用されている。
【0004】
低温焼成基板は、一般にガラスフリット成分とセラミック成分とを混合したものであって、ガラスフリットの低融点を利用して低温度で焼結させて基板とするものである。この低温焼成基板に回路を形成するには、基板となるセラミックグリーンシート上に導電性ペーストを印刷し、またセラミック層間の電気的接続をとるためにセラミックグリーンシートのビアホール部に導電性ペーストを充填し、それらのグリーンシートを複数枚積層した後、一括して焼成する方式が採用されている。ところが、焼成時の収縮時期の異なる材料であるセラミックグリーンシートと導電性ペーストとを同時に焼成すると、導電性ペーストの収縮がセラミックグリーンシートの収縮より早く起こるために、焼成後の基板に反りが発生するという問題がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、累積50%粒径が3ないし10μmで、累積10%粒径が4μm以下で、累積90%粒径が6ないし30μmである粒径分布を有するAg粉末を導電成分とする導電性ペーストが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、化学還元法によって製造されたAg粉末を加熱することによって得られる、粒径が5ないし25μmのAg粉末を導電成分とする導電性ペーストが開示されている。
【特許文献1】特許第3416044号明細書
【特許文献2】特開平3−284896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1と特許文献2に開示された導電性ペーストは、粒径15μmを超える比較的粒径の大きいAg粉末を含有しており、焼結が進みにくいため、最終製品である電子部品のダウンサイジングに伴う配線の細線化(ライン幅≦40μm)に対応できない。また、粒径の大きいAg粉末を用いる結果、焼成後の導体膜表面の平滑性を得ることが困難で、焼成後の導体膜の緻密性が低く、ポーラスとなってメッキ液が導体膜内に浸透しやすいので、メッキ後の基板と導体膜との密着性が低くなる。さらに、粒径の大きいAg粉末を用いる結果、焼成後の導体膜表面の凹凸が大きいため、ワイヤボンディング性が低下する。
【0008】
また、特許文献2に開示されたように、化学還元法で製造されたAg粉末を用いると、その表面はアトマイズ法によって製造されるAg粉末に比べて非常に活性であり、グリーンシートの収縮開始温度よりかなり低い温度から導電性ペーストが収縮を開始するため、焼成後の基板が大きく変形したり、積層部分の層間剥離が発生するために使用できないという問題が発生する。
【0009】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、焼成後の基板の反りが少なく、細線の形成が可能で、焼成後の導体膜表面が平滑で、基板との接着強度が高く、ワイヤボンディング性が良好な低温焼成多層基板用導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の低温焼成多層基板用導電性ペーストは、累積50%粒径が0.5μm以上3.0μm未満で、累積90%粒径が15.0μm以下である粒径分布を有する、アトマイズ法により製造されたAg粉末が導電成分の50重量%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の低温焼成多層基板用導電性ペーストによれば、アトマイズ法により製造された比較的小粒径のAg粉末を導電成分としているので、導電成分の収縮をセラミックグリーンシートの収縮時期に適合させることが可能で、焼成後の基板の反りが少ない。また、細線の形成が可能で、焼成後の導体膜表面が平滑である。また、焼成後の導体膜が緻密であるため均一なメッキ層が形成されやすいので、メッキ液が導体膜内へ浸透することもなく、メッキ後の基板と導体膜との接着強度が高い。さらに、焼成後の導体膜表面が平滑であるため、ワイヤボンディング性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でいうアトマイズ法とは、一般的には、材料組成や組織を改善し、耐熱金属材料の信頼性を向上させるために均質で微細な粉末冶金用材料を得るための手段で、金属の溶湯を噴霧し、急冷微細化して粉末化するための手段であり、金属溶湯をノズルから高速で噴霧する際の媒体として射出圧力14.7MPa程度の高圧水を用いる水アトマイズ、その高圧水の代わりにガスを用いるガスアトマイズ、H2を充分に吸蔵させた金属溶湯を真空中に差圧によって噴出させる真空アトマイズなど公知のアトマイズ法を用いることができる。
【0013】
本発明の粒径分布限定理由について説明する。粒径分布については、当業者によって一般的に用いられているレーザ方式の粒度分布測定方式であるマイクロトラック法により測定することができる。マイクロトラック方式では、粒子の存在確率がその粒子径に対して算出される。例えば、粒子径が0.5ないし0.6μmの範囲にある粒子が全体の何%に相当するかが示される。従って、測定された小さい方の粒子から50%のところにある粒子は何μmであるかが分かる。これを累積50%粒径と称する。同様にして、累積90%粒径を求めることができる。もちろん、20%であれ、30%であれ、どのような累積粒径を求めることも可能であるが、本発明は、小さい平均粒径の代表として50%粒径を、大きい平均粒径の代表として90%粒径を特定範囲に限定するのである。従って、本発明にてその範囲を特定した累積粒径から容易に推測できる累積粒径のものは、当然本発明の技術的範囲に範囲に含まれる。
【0014】
次に、本発明において、アトマイズ法により製造されたAg粉末の粒径範囲を限定した理由について説明する。
【0015】
累積50%粒径は、Agの焼結性と関係があり、焼結膜の緻密性及び平滑性に影響する。累積50%粒径が0.5μm未満では焼結が早すぎるためグリーンシートの焼結と合わない。一方、3.0μmを超えると焼結膜がポーラスとなり、メッキ液の浸透により密着性が低下し、さらには表面平滑性が低下してワイヤボンドが打ちにくくなる。この点で、累積50%粒径は、0.5μm以上3.0μm未満であることが好ましく、1.0μm以上2.9μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上2.8μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
累積90%粒径は、表面平滑性及びファインライン印刷性に影響する。累積90%粒径が15μmを超えると表面平滑性が低下し、細線印刷が難しくなる。この点で、累積90%粒径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0017】
アトマイズ法により製造されたAg粉末は導電成分の50重量%以上であることが好ましい。50重量%より少ないと、特に、グリーンシートとのマッチングに対して効果的でないからである。
【0018】
Ag以外の導電性粉末を添加することも可能である。例えば、Pt、Pd、Au、NiまたはCuを併用することができる。さらに、これら1種以上の金属の粉末とAg粉末を併用することも可能である。
【0019】
また、導電性粉末以外の各種添加物、例えば、無機化合物、有機金属化合物、ガラスフリットなどを導電性ペーストの特性を低下させない範囲で添加することができる。例えば、導電性ペーストと基板との密着性を向上させるために、導電性ペースト中に10重量%以下のガラスフリットを添加することができる。
【0020】
導電成分と有機ビヒクルとの配合量は、導電成分が75ないし94重量部で、有機ビヒクルが25ないし6重量部であるのが好ましい。導電成分が75重量部未満(有機ビヒクルが25重量部超)であると、良好な電気特性を得ることができなくなる。一方、導電成分が94重量部超(有機ビヒクルが6重量部未満)であると、ペースト化が困難になる。
【0021】
さらに、低温焼成基板用グリーンシート材料としては各種のものが考えられるが、例えば、ガラスフリット(B23−SiO2系、PbO−B23−SiO2系、B23−SiO2−CaO系、B23−SiO2−Al23系等)とセラミック(アルミナ、石英、コ−ディエライト等)粉末を混合したもの又は結晶化ガラス等の材料に対して、本発明の導電性ペーストは適用可能である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更と修正が可能である。
【0023】
導電性ペーストは以下の表1のように配合したものを用いた。
【0024】
【表1】

【0025】
表1のように配合した材料を3本ロールミルにて混練してペースト化した。そのペーストを、TiO・CaO・SiO2系ガラスセラミックで厚み200μmのグリーンシート(日本電気硝子社製の商品名「MLS−61」)に、図2または図4に示す印刷パターンで印刷して5枚積層し、熱プレスした後、図1に示すプロフィルにて焼成した。そして、焼成後の基板に対して、表面最大粗さ(Ra)と、ワイヤボンディング性と、メッキ後の密着性(接着強度)とを測定した。これらの測定結果を以下の表2に示す。
【0026】
反り量については、上記グリーンシート1枚の上に表1に示す配合の導電性ペーストを、図4に示すベタ印刷パターンで印刷して、下記の条件で焼成したものについて測定した。その測定結果を以下の表2に示す。
【0027】
ライン幅については、上記グリーンシート1枚の上に表1に示す配合の導電性ペーストを、図3に示す印刷パターンで印刷して乾燥したものについて測定した。その測定結果を以下の表2に示す。
【0028】
各特性の具体的な測定方法は下記のとおりである。
《反り量》
1枚のグリーンシート(25mm×25mm)に図4に示すベタ印刷パターン4(20mm×20mm)を印刷し、連続式ベルトコンベヤ炉にてピーク温度までの昇温時間20分間、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間10分間、60℃までの降温時間30分間の条件で焼成した後、図5に示すように、基板5の中央位置における水平面6からの高さCをダイヤルゲージで測定し、その高さCを反り量とした。この反り量が25μm以下のものが熱変形が少なくて良好であると評価される。
《ライン幅》
1枚のグリーンシートに、図3(a)に示すように、印刷パターン3(図3(b)に示すように、ライン幅Lが30μmで且つライン間隔Sが30μmである細線を、図3(a)において、幅Wが3mmである範囲に50本引くとともに、ライン長Aが11mmで、ライン長Bが16mmである設計値のもの)を印刷し、乾燥した後、デジタルマイクロスコープでライン幅Lを測定した。以下の表2には、ライン幅Lの算術平均値を示す。ペーストのダレ量が大きく、隣のライン同士が接触したものを短絡と表記した。このライン幅が40μm以下のものが細線化に対応できる導電性ペーストであるとして評価されている。
《表面最大粗さ:Ra》
各グリーンシートに図4に示すベタ印刷パターン4(20mm×20mm)を印刷して5枚積層し、熱プレスした後、図1に示すプロフィルにて焼成した基板のベタ印刷パターン部分4の表面最大粗さRaを走査式表面粗さ計で測定した。
《ワイヤボンディング性》
各グリーンシートに図2に示す印刷パターン2(2mm□のパッド2aからなるもの)を印刷して5枚積層し、熱プレスした後、図1に示すプロフィルにて焼成した基板の2mm□のパッド2aに、以下の条件で超音波ボールボンダーにてワイヤボンドした後、三菱マテリアル社製の直径150μmのワイヤを引っ張ったときの接着度合について、ワイヤが切れた場合はワイヤボンディング性良好で「○」と表記し、ボンディング部分(パッド2aと基板との接触面)またはパッド部分2aから剥がれた場合はワイヤボンディング性不良で「×」と表記した。なお、1箇所のパッド部分でもワイヤボンディング性不良が認められたものは、すべて「×」と表記した。
【0029】
ボンディング条件は、加熱温度が200℃、周波数が80Hz、ボンディング時間は0.1秒である。
《メッキ後の密着性(接着強度)》
各グリーンシートに図2に示す印刷パターン2を印刷して5枚積層し、熱プレスした後、図1に示すプロフィルにて焼成した基板にAu無電解メッキを施し、さらに、2mm□のパッド部分2aにSnメッキしたCuワイヤを半田付けし、このCuワイヤをメッキ面に対して垂直な方向に引っ張ったとき、半田が基板から引き剥がされたときの荷重(N)を測定した。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に明らかなように、本発明の実施例1ないし5に係る導電性ペーストは、 アトマイズ法により製造された適正な累積50%粒径と累積90%粒径を有するAg粉末を導電成分としているので、このような導電性ペーストを使用してグリーンシート上に印刷パターンを形成することにより、焼成後の基板の反り量が少なく、細いライン幅が形成可能で、焼成後の導体膜表面の最大粗さが小さく(平滑で)、ワイヤボンディング性が良好で、基板との接着強度が大きい。
【0032】
しかし、比較例1と2に係る導電性ペーストは、累積50%粒径と累積90%粒径が本発明の範囲を外れる大粒径のAg粉末を導電成分としているので、細いライン幅の印刷が不可能で、焼成後の導体膜表面の最大粗さが大きく、ワイヤボンディング性が不良で、基板との接着強度が小さい。また、比較例3に係る導電性ペーストは、化学還元法により得られたAg粉末を用いているので、基板の反り量が極めて大きい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、近年ますます進む電子部品の多機能化、複合化、ダウンサイジングに伴う配線の細線化、多チップ化の要求に対して、精細で緻密な印刷性や良好なワイヤボンディング性やメッキ密着性の条件を満たす導電性材料を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】焼成プロフィルの一例を示す図である。
【図2】印刷パターンの一例を示す図である。
【図3】図3(a)は印刷パターンの別の例を示す図、図3(b)は図3(a)において破線により円形で囲んだ部分の拡大図である。
【図4】印刷パターンのさらに別の例を示す図である。
【図5】基板の反り量の測定方法を説明するための側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 焼成プロフィル
2 印刷パターン
2a パッド
3 印刷パターン
4 ベタ印刷パターン
5 基板
6 水平面
C 反り量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
累積50%粒径が0.5μm以上3.0μm未満で、累積90%粒径が15.0μm以下である粒径分布を有する、アトマイズ法により製造されたAg粉末が導電成分の50重量%以上であることを特徴とする低温焼成多層基板用導電性ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−224201(P2009−224201A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67871(P2008−67871)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(397059571)京都エレックス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】