説明

低温熱硬化型導電性コーティング用組成物

【課題】被膜外観、透明性、導電性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材に対する密着性などに優れた導電性被覆基材を作成するための組成物、および、該組成物を用いた導電性被覆基材を提供すること。
【解決手段】導電性ポリマー、メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤、酸発生剤、および、溶媒または分散媒を含有する熱硬化型導電性コーティング用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での熱硬化性を有し、且つポットライフが長時間維持される導電性コーティング用組成物とそれを用いた導電性被覆基材に関する。このような被覆基材は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、ならびにソフトトレイ、ハードトレイ、キャリアテープ、カバーテープ、スペーサーテープ等の電子部品包装材料などの各種フィルムやシートに、帯電防止機能および/または透明電極機能を付与するために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材に導電性を付与するために、導電性ポリマーを含有する塗布液が用いられている。導電性ポリマーとして、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などが知られており、中でも、ポリエチレンジオキシチオフェンとドーパントからなる複合体の分散体は、化学的安定性や得られる導電性塗膜が導電性と透明性に優れている点から、広く実用化されている。このポリチオフェン系導電性ポリマーにバインダー樹脂や界面活性剤を配合することにより、成膜性、基材に対する密着性に優れた導電性塗膜を形成可能であるが、一般的に、このような導電性コーティング用組成物は低温での熱硬化性を有しておらず、特に、耐熱性が高くないポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリル系ポリマーなどの基材を用いる場合、十分な熱を掛けることができないため、熱硬化が不十分となり、高い耐擦傷性、耐水性、耐有機溶剤性を有する導電性塗膜を得ることができない。特に、コーティングに於いて、高い生産性を有するロールコーティングを適用する場合、プロセス上、長時間熱を掛けることができないため、比較的低い温度で、且つ短時間で熱硬化し、耐擦傷性および耐溶剤性を有する塗膜を形成可能な導電性コーティング用組成物が求められている。
【0003】
塗布液に低温での熱硬化性を付与する架橋剤として、メラミン樹脂が産業用塗料で用いられており、メラミンの架橋により樹脂塗膜の強度が向上し、耐擦傷性、耐水性、耐溶剤性が塗膜に付与されることが知られている。例えば、特許文献1では、「溶剤系塗料において、イミノ基含有量とオリゴマー量が少ないメラミン樹脂ほど架橋性に優れ、水酸基含有樹脂の硬化を低温で促進する」ことが示されており、硬化促進剤である酸触媒と併用することにより、低い硬化温度(70℃×30分)でも十分な耐溶剤性を有する塗膜の形成が可能になることが記載されている。特許文献2では、界面活性剤構造を有する溶剤可溶の導電性ポリマー微粒子をバインダー樹脂とともに溶剤中に溶解し、架橋剤としてメラミンを加えて硬化させることで、高い導電性を有する導電層を形成可能な、導電性組成物が提供されている。
【0004】
特許文献3には、水溶性のメラミン樹脂を含有する導電性ポリマー組成物による、帯電防止層の形成方法が示されている。バインダー樹脂およびメラミン樹脂を含むポリチオフェン系導電性ポリマーの水分散体を基材に塗布後、100℃×3分の乾燥、硬化により、密着性と耐水性に優れた塗膜を形成することができる。また、特許文献3では、配合物の貯蔵安定性が良くないため、メラミン樹脂含有塗液と導電性ポリマー水溶液を別々に塗布する工程が提案されている。特許文献4では、メラミン樹脂と少なくとも1種のカルボニル化合物の縮合物をポリチオフェン系導電性ポリマー分散体に添加することにより、ポリウレタン樹脂を含む導電性塗膜の耐水性および耐溶剤性が向上し、液の保存安定性も良いことが示されている。本文献では、分散溶媒を添加することにより、疎水性メラミン樹脂の水溶液への添加を可能にし、耐溶剤性に優れた帯電防止塗膜を130℃×5分の硬化条件にて作成できる。
【0005】
特許文献5では、レジスト用途における感光性樹脂の硬化促進剤として感放射線性酸発生剤の使用が示されており、架橋剤として尿素系樹脂およびメラミン系樹脂を少量添加することにより、感光性樹脂の硬化が促進されている。配合組成物をスピンコート法で基材に塗布後、放射線照射による酸発生後の硬化、現像工程を経てレジストパターンが形成される。
【0006】
このように、特許文献1において、メラミン樹脂と硬化促進剤としてスルホン酸触媒を組成物に添加することにより、低温硬化性と得られた塗膜の耐溶剤性が改善されることが示されており、導電性コーティング用途での使用が特許文献2〜4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−523424号公報
【特許文献2】特開2006−146249号公報
【特許文献3】特開2006−119349号公報
【特許文献4】特開2007−131849号公報
【特許文献5】特開2008−107677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、有機溶剤系の塗料組成物であるが、導電性ポリマーが配合されておらず、導電性コーティング材として使用することはできない。
【0009】
特許文献2では溶剤型の導電性コーティング用組成物の例が示されているが、低温での硬化性については言及されていない。酸触媒が添加されておらず、十分な低温硬化性を有しているとは言い難い。特許文献3では、水系のチオフェン系導電性ポリマーとバインダー樹脂、およびメラミン樹脂からなる組成物の貯蔵安定性がよくないことが言及されている。メラミン樹脂架橋剤は、溶液中であっても架橋が進行するため、酸性条件下ではポリマー化が進行しやすく、組成物によってはゲル化や沈殿の発生が起こる。導電性ポリマーには、そのドーパントとしてスルホン酸などのアニオン性の化合物が使用されることが多く、溶液は酸性である場合が多いため、メラミン樹脂を配合すると、溶液の安定性が維持されない問題がある。特許文献4では、ポリチオフェン系導電性ポリマーにアルカノールアミンを添加して中和することでゲル化を抑制し、溶液の安定性を維持したまま耐溶剤性に優れた塗膜を形成可能にしているが、この様な中性条件下では成膜時のメラミンの架橋反応が促進されにくく、130℃×5分の硬化条件が必要となっている。130℃では耐熱性の低い基材への利用が困難であるし、5分間の硬化時間も生産性の観点から望ましいものではない。このように、メラミン樹脂の添加によって耐擦傷性と耐溶剤性に優れた塗膜を形成可能ではあるが、酸触媒のような硬化促進剤を添加しない場合の低温での硬化性は十分ではなく、一方で、酸触媒を添加した場合には溶液の安定性が低下するため、低温での硬化性と溶液の安定性の両立は困難であることがわかる。
【0010】
特許文献5では、硬化促進剤として露光により酸を発生する酸発生剤を使用することにより、メラミン樹脂の架橋が100℃程度の低温で進行することが示されている。しかしながら、本配合物の用途はレジストであるため、導電性ポリマーが配合されておらず、導電性コーティング用途で利用することはできない。また、メラミン樹脂は感光性樹脂の架橋剤として使用されており、この種の感光性樹脂組成物から形成された塗膜は、十分な耐擦傷性や耐溶剤性を有していない。さらには、多くの感光性樹脂および酸発生剤、メラミン樹脂誘導体は疎水性であるため、本組成物を水系の導電性ポリマーと配合することはできない。
【0011】
以上のように、塗膜外観、導電性、透明性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性などに優れた塗膜を、より穏やかな硬化温度および時間条件にて形成可能で、且つ溶液の安定性(ポットライフ)が十分に維持されうる導電性コーティング用組成物は、未だ開発されていない。
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的とするところは、塗膜外観、導電性、透明性、耐擦傷性、耐溶剤性、ならびに基材への密着性に優れた導電性塗膜を低温にて形成可能な熱硬化性を有し、さらにはポットライフが十分に維持されうる導電性コーティング用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ポリマー(a)と、メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤(b)と、酸発生剤(c)とを、溶媒または分散媒(d)に混合することにより、低温での熱硬化において、外観、導電性、透明性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性に優れた塗膜を形成可能で、且つ塗布液のポットライフが実用可能な範囲内で維持される熱硬化型導電性コーティング用組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(a)導電性ポリマー、
(b)メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤、
(c)酸発生剤、および、
(d)溶媒または分散媒
を含有することを特徴とする熱硬化型導電性コーティング用組成物に関する。
【0014】
導電性ポリマー(a)が、以下の式(I):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントとの複合体であることが好ましい。
【0017】
メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤(b)が、フルエーテル型メラミン樹脂であることが好ましい。
【0018】
酸発生剤(c)が、スルホニル化合物またはその誘導体であることが好ましい。
【0019】
酸発生剤(c)が、熱架橋剤(b)100重量部に対して1〜60重量部含有されることが好ましい。
【0020】
導電性ポリマー(a)が水系導電性ポリマーであり、溶媒または分散媒(d)が、水と有機溶剤の混和物であり、上記有機溶剤が少なくとも1種の水と混和する有機溶剤を含むことが好ましい。
【0021】
熱硬化型導電性コーティング用組成物が、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。
【0022】
熱硬化型導電性コーティング用組成物が、さらにバインダー樹脂を含有することが好ましい。
【0023】
また、本発明は、上記熱硬化型導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、酸発生剤(c)から酸を発生させた後、組成物を熱硬化させることにより導電層を形成することを特徴とした導電性被覆基材の製造方法に関する。
【0024】
上記熱硬化型導電性コーティング用組成物に含まれる酸発生剤(c)が感熱性酸発生剤であり、加熱により上記酸発生剤から酸を発生させることが好ましい。
【0025】
上記熱硬化型導電性コーティング用組成物に含まれる酸発生剤(c)が感放射線性または感電磁波性酸発生剤であり、放射線照射または電磁波照射により酸を発生させることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明は、上記製造方法により形成された導電層を有する導電性被覆基材に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、塗膜外観、導電性、透明性、耐溶剤性、耐擦傷性、基材への密着性に優れた導電性塗膜を、低い硬化温度と短い時間にて基材上に形成でき、且つ組成物のポットライフが長時間維持されうる熱硬化型導電性コーティング用組成物が提供される。本発明の組成物を用いて得られた導電性塗膜を有する基材は、導電性を有し、光学フィルムや電子部品包装材料などの広い分野で好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、実施例30、31、比較例10、11において、導電性被覆基材に十分な性能が付与されうる硬化温度(y)と時間(x)の関係を示すグラフである。近似曲線は累乗近似法を用いて作成した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物に含まれる成分および該組成物を用いた導電性被覆基材の形成方法を順次説明する。
【0030】
本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物(以下、「導電性コーティング用組成物」または「組成物」という場合がある)は、導電性ポリマー、メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤、酸発生剤、ならびに、溶媒もしくは分散媒からなる。
【0031】
1.導電性ポリマー(a)
本発明の導電性コーティング用組成物に含有される導電性ポリマー(a)は、基材表面に導電性を付与するための材料であり、このような導電性ポリマーとしてはポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、これらの誘導体、および、ドーパントとの複合体などがあるが、中でも、ポリチオフェンとドーパントとの複合体からなるポリチオフェン系導電性ポリマーが好適に用いられる。ポリチオフェン系導電性ポリマーは、より詳しくはポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントからなる複合体である。
【0032】
ポリチオフェン系導電性ポリマーを構成する、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)は以下の式(I):
【0033】
【化2】

【0034】
で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンであり、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す。上記C1−4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。RおよびRが一緒になって形成される、置換されていてもよいC1−4のアルキレン基の代表例は、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基などである。好適には、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基であり、1,2−エチレン基が特に好適である。上記のアルキレン基を持つポリチオフェンとして、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
【0035】
ポリチオフェン系導電性ポリマーを構成するドーパントは、上述のポリチオフェンとイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェンを水中に安定に分散させることができる陰イオン形態のポリマーである。このようなドーパントとしては、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸など)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)などが挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類およびスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレンなどとの共重合体であっても良い。中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0036】
上記のポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000より大きく、500000以下であることが好ましい。より好ましくは40000〜200000である。分子量がこの範囲外のポリスチレンスルホン酸を使用すると、ポリチオフェン系導電性ポリマーの水に対する分散安定性が低下する場合がある。尚、上記ポリマーの重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0037】
上記の導電性ポリマーの含有量は、組成物全体に対し、固形分として0.01〜1.2重量%であることが好ましい。より好ましくは0.03〜0.5重量%である。0.01重量%より少ないと導電性が発現しにくく、1.2重量%より多いと、他成分との混合により沈殿が発生する場合がある。
【0038】
2.熱架橋剤(b)
本発明の組成物に含有される熱架橋剤であるメラミン樹脂誘導体は、組成物に低温での熱硬化性を付与し、塗膜外観、透明性(例えば、全光線透過率Ttおよびヘイズ値Haze)、導電性(例えば、表面抵抗率SR)、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性に優れた導電性塗膜を形成することが可能なものである。
【0039】
上記のメラミン樹脂誘導体は、例えば以下の式(II):
【0040】
【化3】

【0041】
(式中、R〜RはHまたはCHORで表され、RはHかまたはC1−4のアルキル基を表す)で示される。置換基R〜Rがすべて水素原子であるメラミン樹脂がイミノ型メラミン樹脂であり、置換基R〜RがすべてCHOHであるメラミン樹脂がメチロール型メラミン樹脂であり、置換基R〜RがすべてCHORであり、RがC1−4のアルキル基で置換された構造のメラミン樹脂がフルエーテル型メラミン樹脂である。また、上記3つの置換基のうち2つが1分子中に混在した構造のメラミン樹脂は、イミノメチロール型、メチロールエーテル型およびイミノエーテル型に分類され、すべてが混在したメラミン樹脂がイミノメチロールエーテル型である。フルエーテル型メラミン樹脂のC1−4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などがあるが、低温硬化性を考慮すると、メチル基であることが好ましい。上記メラミン樹脂誘導体は、式(II)を基本骨格として自己縮合したオリゴマーであっても良い。
【0042】
本発明の組成物に含有されるメラミン樹脂誘導体は、組成物に低温での硬化性を付与し、耐擦傷性、耐溶剤性に優れた塗膜を形成できるものであり、上記構造を有するメラミン樹脂誘導体が好ましく、中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、フルエーテル型メラミン樹脂であることが好ましい。また、メラミン樹脂の重合度に特に制限はないが、ポットライフを考慮すると低い方が好ましく、1.0〜1.8であることが特に好ましい。上記のメラミン樹脂は単独で用いても、2種類以上を併用して用いてもよい。なお、本明細書において、組成物のポットライフとは、組成物(塗布液)の外観(沈殿の有無)、導電性塗膜の外観、透明性、導電性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性などの諸性能が、組成物(塗布液)を調製して時間を経た後も十分に維持されうることを示す。
【0043】
低温で硬化させた導電性塗膜が耐擦傷性、耐溶剤性を有するための、上記熱架橋剤(b)の含有量に特に制限はないが、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、30〜5400重量部であることが好ましい。より好ましくは、270〜1650重量部である。含有量が5400重量部を超えると、導電性塗膜が白化し、透明性および導電性が低下する場合がある。逆に、30重量部より少ない場合は、十分な耐擦傷性や耐溶剤性が導電性塗膜に付与されにくくなる。
【0044】
3.酸発生剤(c)
本発明の組成物に含有される硬化促進剤である酸発生剤(c)は、そのままの状態では酸として機能しないが、何らかの刺激により酸を発生し、熱架橋剤(b)であるメラミン樹脂誘導体の架橋を促進するものである。このような酸発生剤には、放射線または電磁波照射により酸を発生しうる感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤や、熱により酸を発生しうる感熱性酸発生剤が挙げられる。放射線照射、電磁波照射、または加熱を行わなければ溶液中で酸として機能しないため、組成物のポットライフが維持されうる。
【0045】
ここでいう放射線には粒子線(高速粒子線)と電磁放射線が包含され、粒子線としては、アルファ線(α線)、ベータ線(β線) 陽子線 、電子線(原子核崩壊によらず加速器で電子を加速するものを指す)、重陽子線等の荷電粒子線、非荷電粒子線である中性子線、宇宙線等が挙げられ、電磁放射線としては、ガンマ線(γ線)、エックス線(X線、軟X線)が挙げられる。電磁波としては、電波、赤外線、可視光線、紫外線(近紫外線、遠紫外線、極紫外線)、X線、ガンマ線などがあげられる。線種は特に限定されず、たとえば使用する酸発生剤の極大吸収波長付近の波長を有する電磁波を選べばよい。
【0046】
感放射線性または感電磁波性酸発生剤は、放射線または電磁波照射によって酸を発生させることができる化合物であれば特に限定されず、ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのイオン型、スルホニル化合物およびその誘導体、トリアジン誘導体などの非イオン型のものが用いられる。
【0047】
イオン型の感放射線性または感電磁波性酸発生剤のうち、ヨードニウム塩型の感放射線性または感電磁波性酸発生剤は以下の式(III)で表される。
【0048】
【化4】

【0049】
式(III)中、R10及びR11は、それぞれ独立にアルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を表す。Xは、アルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を有するスルホン酸イオンあるいはハロゲン化物イオンを表す。
10及びR11のアルキル基、環状炭化水素基に特に制限はなく、炭素数1〜20の直鎖、分鎖、環状の炭化水素基がある。このような置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、カンファー基、シクロヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ノルボルナン、ノルボルネンなどがあげられる。R10及びR11のアリール基としては、特に制限はなく、炭素数6〜20のものがある。このようなアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などがある。これらのアルキル基、環状炭化水素基は、アルコキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルフィド、チオール、アミン、オキシム、シアノ基、ニトリル基、ハロゲンなどの官能基を含んでいても良い。アリール基も同様に、アルキル基やアルコキシアルキル基および上述の官能基を含んでいても良い。
のスルホン酸イオンのアルキル基、環状炭化水素基およびアリール基としては、特に制限はなく、R10及びR11と同様のアルキル基、環状炭化水素基およびアリール基が挙げられる。
【0050】
式(III)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムヘプタフルオロブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウム−p−トルエンスルホネート、ジフェニルヨードニウム−9,10−ジメトキシアントラセンスルホナート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−n−ノナフルオロブタンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−n−ヘプタフルオロブタンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−p−トルエンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−p−トリフルオロメチルベンゼンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−2,4−ジフルオロベンゼンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−10−カンファースルホネートなどがある。中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−p−トルエンスルホネートが特に好ましい。
【0051】
イオン型の感放射線性または感電磁波性酸発生剤のうち、スルホニウム塩型の感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤は以下の式(IV)で表される。
【0052】
【化5】

【0053】
式(IV)中、R12、R13及びR14は、それぞれ独立にアルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を表す。Xは、アルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を有するスルホン酸イオンあるいはハロゲン化物イオンを表す。R12、R13及びR14のアルキル基、環状炭化水素基、アリール基としては、R10及びR11と同様のものが挙げられる。
【0054】
式(IV)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウム−n−ノナフルオロブタンスルホネート、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム−2,4−ジフルオロベンゼンスルホネートトリフェニルスルホニウム−p−トルエンスルホネート、トリフェニルスルホニウムベンゼンスルホネート、トリス(p−トルエニル)スルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、トリス(p−トルエニル)−p−トルエンスルホネート、ジフェニル(p−トルエニル)トリフルオロメタンスルホネート、ジフェニル(2,4,6−トリメチルフェニル)ノナフルオロブタンスルホネート、ジフェニル(2,4,6−トリメチルフェニル)−p−トルエンスルホナート、ジフェニル(2,4,6−トリメチルフェニル)−10−カンファースルホート、ジフェニル(4−t−ブチルフェニル)−p−トルエンスルホネート、ジフェニル(4−アセトキシフェニル)−n−ノナフルオロブタンスルホネート、ジフェニル(4−アセトキシフェニル)−p−トルエンスルホネート、ジフェニル(4−アセトキシナフチル)−n−ノナフルオロブタンスルホナート、ジフェニル(4−アセトキシナフチル)−p−トルエンスルホナート、ジフェニル(4−メトキシフェニル)−n−ノナフルオロブタンスルホナート、ジフェニル(4−メトキシフェニル)−p−トルエンスルホナート、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)トリフルオロメタンスルホナート、ジフェニル(4−フェノキシフェニル)−p−トルエンスルホナート、ジフェニル(p−ブロモフェニル)−n−フルオロブタンスルホナートなどがある。中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、ジフェニル(2,4,6−トリメチルフェニル)−p−トルエンスルホナートが特に好ましい。
【0055】
非イオン型の感放射線性または感電磁波性酸発生剤のうち、スルホニル化合物およびその誘導体の感放射線性または感電磁波性酸発生剤には、モノスルホニル化合物(式(V));ジスルホニルジアゾ化合物(式(VI));スルホン酸エステル化合物(式(VII));スルホン酸イミド化合物(式(VIII));スルホン酸無水物(式(IX))などがあり、これらの化合物は放射線および電磁波を吸収することにより分解する構造を有しているものである。
【0056】
【化6】

【0057】
【化7】

【0058】
【化8】

【0059】
【化9】

【0060】
【化10】

【0061】
式(V)〜(IX)中、R15〜R20、R22〜R24は、それぞれ独立にアルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を表し、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィド、アミン、オキシムなどの置換基および官能基を含んでいても良い。R15〜R20、R22〜R24に含まれるアルキル基、環状炭化水素基およびアリール基としては、特に制限はなく、R10及びR11と同様のものが挙げられる。
式(VIII)中、R21は、環を構成するアルキレン基、環状炭化水素基またはアリール基を表し、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィド、アミン、オキシムなどの置換基および官能基を含んでいても良い。このようなアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、イソブチレン基などがある。環状炭化水素基としては、シクロヘキシル基、ノルボルナン、ノルボルネンなどがある。また、アリール基としては、炭素数20までのものがあり、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基などがある。
【0062】
式(V)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、2−トリブロモメチルスルホニルピリジン、トリブロモメチルスルホニルベンゼン、トリブロモメチルスルホニルトルエン、トリクロロメチルスルホニルトルエン、2−トリブロモメチルスルホニルアントラキノン、1−(4−トリブロモメタンスルホニルベンゼンスルホニル)ピロリジン、1−(4−トリブロモメタンスルホニルベンゼンスルホニル)ピペリジン、4−(4−トリブロモメタンスルホニルベンゼンスルホニル)モルホリン、4−トリブロモエタンスルホニルベンゼンスルホンアミド、N,N−ジエチル−4−トリブロモメタンスルホニルベンゼンスルホンアミド、1−(フェニルスルホニル)−4−[(トリブロモメチル)スルホニル]ベンゼン、1−クロロ−4−[(トリブロモメチル)スルホニル]ベンゼン、1−ブロモ−4−[(トリブロモメチル)スルホニル]ベンゼン、4−[(トリブロモメチル)スルホニル]ベンゾフェノン、(4−メチルスルフィドフェニル)−2−オキソ−1,1−ジメチル−スルホニルトルエンなどがある。
式(VI)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、ビス(t−ブチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキサンスルホニル)ジアゾメタンなどがある。
式(VII)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン、1−(p−トルエンスルホニルオキシ)−3,3−ジメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−オン、カンファースルホン酸ノナフルオロブタンなどがある。
式(VIII)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、N−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)−ナフタルイミド、N−(n−ノナフルオロブタンスルホニルオキシ)−ナフタルイミド、N−(n−ノナフルオロブタンスルホニルオキシ)−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタルイミドなどがある。
式(IX)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、p−トルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、ナフタレンスルホン酸無水物などがある。
これらの中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、トリブロモメチルスルホニルベンゼンが特に好ましい。
【0063】
非イオン型の感放射線性または感電磁波性酸発生剤のうち、トリアジン誘導体の感放射線性または感電磁波性酸発生剤は以下の式(X)で表される。
【0064】
【化11】

【0065】
式(X)中、R25は、それぞれ独立にアルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を表し、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィド、アミン、オキシムなどの置換基および官能基を含んでいても良い。R25に含まれるアルキル基、環状炭化水素基およびアリール基としては、特に制限はなく、R10及びR11と同様のものが挙げられる。
【0066】
式(X)で表される感放射線性または感電磁波性酸発生剤としては、2,4−ジトリヨードメチル−6−(p−メトキシベンゼン)トリアジン、2,4−ジトリヨードメチル−6−(m,p−ジメトキシスチリル)トリアジン、2,4−ジトリヨードメチル−6−(2−フランエテニル)トリアジン、2,4−ジトリヨードメチル−6−(4−メチル−2−フランエテニル)トリアジンなどがある。中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、2,4−ジトリヨードメチル−6−(m,p−ジメトキシスチリル)トリアジンが特に好ましい。
【0067】
感放放射線性または感電磁波性酸発生剤は、放射線または電磁波照射により酸を発生させうるが、構造による安定性の差異や組成物中の他成分の影響などにより、熱分解して酸を発生することもある。感放射線性または感電磁波性酸発生剤を加熱分解することで酸を発生させ、組成物を硬化させる場合、塗膜に十分な耐擦傷性、耐溶剤性を付与することができる条件は、ヨードニウム塩系化合物およびジスルホニルジアゾ化合物などでは100℃で3〜10分程度、120℃で1〜5分程度、170℃で1分程度である。しかしながら、感放射線性または感電磁波性酸発生剤の分解温度は高いことが多く、硬化工程における高温での加熱分解は、低温での熱硬化の点で不利である。
【0068】
感熱性酸発生剤は、加熱などによる熱反応で酸を発生させることができる化合物であれば特に限定されず、オニウム塩などのイオン型と、スルホニル化合物およびその誘導体などの非イオン型構造のものがある。感熱性酸発生剤から酸が発生するために必要な加熱温度は化合物によって異なるが、低温での熱硬化の目的において60℃〜200℃であることが好ましく、更に好ましくは60℃〜120℃である。
【0069】
オニウム塩型の感熱性酸発生剤は以下の式(XI)で表される。
【0070】
【化12】

【0071】
式(XI)中、R26〜R28は、それぞれ独立にアルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を表し、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィド、アミン、オキシムなどの置換基および官能基を含んでいても良い。R26〜R28に含まれるアルキル基、環状炭化水素基およびアリール基としては、特に制限はなく、R10及びR11と同様のものが挙げられる。
【0072】
式(XI)で表される感熱性酸発生剤としては、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフォネート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリアリールスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリアリールスルホニウム−p−トルエンスルホネートなどがある。中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートが特に好ましい。
【0073】
スルホニル化合物およびその誘導体は以下の式(XII)で表される。
【0074】
【化13】

【0075】
式(XII)中、R29及びR30は、それぞれ独立にアルキル基、環状炭化水素基またはアリール基を表し、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィド、アミン、オキシムなどの置換基および官能基を含んでいても良い。R29及びR30に含まれるアルキル基、環状炭化水素基およびアリール基としては、特に制限はなく、R10及びR11と同様のものが挙げられる。
【0076】
式(XII)で表される感熱性酸発生剤としては、p−トルエンスルホニルシクロヘキサン、p−トルエンスルホニルピロール、p−トルエンスルホニルイミダゾール、p−トルエンスルホニルメントール、ノナフルオロブタンスルホニルシクロヘキサン、ノナフルオロブタンスルホニルピロール、3−メチル−(3−p−トルエンスルホニルメチル)アセト酢酸イソプロピルなどがある。中でも、溶液の安定性と低温での硬化性の点で、p−トルエンスルホニルシクロヘキサンが好ましい。
【0077】
本発明に含有される酸発生剤から発生する酸は、メラミン樹脂の硬化を促進できるものであれば制限はないが、溶液の安定性と低温での硬化性を考慮すると、無機酸や有機スルホン酸であることが好ましい。このような酸としては、ヘキサフルオロアンチモン酸、ヘキサフルオロリン酸などのハロゲン化メタルアニオン;トリフルオロメタンスルホン酸、ヘキサフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸などのフッ化アルキルスルホン酸;カンファースルホン酸などの脂肪族環状スルホン酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸があるが、中でも、分子量120〜327の有機スルホン酸が特に好ましい。上記の酸を発生させるため、感放射線性酸発生剤、感電磁波性酸発生剤、感熱性酸発生剤のいずれについても、スルホニル化合物およびスルホニウム塩化合物を用いることが好ましい。
【0078】
本発明に含有される酸発生剤は、感放射線性酸発生剤、感電磁波性酸発生剤と感熱性酸発生剤をそれぞれ単独で用いても、2種類以上を併用して用いても良い。感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤と感熱性酸発生剤とを併用した場合、放射線または電磁波照射による感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤からの酸発生により感熱性酸発生剤の熱分解が促進されて硬化速度が上昇し、低温でのメラミン樹脂の硬化性も向上する。その場合の感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤の含有量は、酸発生剤全体に対して10重量%以下でよく、好ましくは1〜5重量%である。
【0079】
低温で硬化させた導電性塗膜が耐擦傷性、耐溶剤性を有するための、上記酸発生剤の含有量に制限はないが、メラミン樹脂誘導体の硬化性を考慮すると、熱架橋剤(b)の固形分100重量部に対して、1〜60重量部であることが好ましい。より好ましくは、3〜25重量部である。含有量が多いほど低温での熱硬化性は向上するが、60重量部を超えても、硬化性の向上は見られなくなる。また、1重量部より少ないと塗膜が硬化しないおそれがある。また、酸発生剤の構造によっては分解により発生する副生成物の影響により、耐擦傷性、耐溶剤性が低下する場合があるため、副生成物の分子量が小さい方が望ましい。上記の理由から、トリハロメタンスルホニル系酸発生剤が好ましい。
【0080】
4.溶媒または分散媒(d)
本発明に含有される溶媒または分散媒は、組成物に含有される各成分を溶解または分散させるものであれば特に制限はなく、水、有機溶剤、または、それらの混和物が用いられる。なお、組成物に含まれる各成分を溶解するものを溶媒と言い、組成物の1成分が均一に分散している場合、分散媒と呼ぶ。水系の導電性ポリマー組成物の場合、メラミン樹脂誘導体と酸発生剤が水に溶解しないことがあるため、水と有機溶剤の混和物を使用することができる。その場合の上記有機溶剤は、少なくとも1種の水と混和する有機溶剤を含んでいることが好ましく、さらには水と混和しない(疎水性の)有機溶剤も含んでいることが好ましい。溶剤系の導電性ポリマーを用いる場合、有機溶剤のみを使用してもよく、水と有機溶剤の混和物を使用してもよい。
【0081】
4−1.有機溶剤
溶媒または分散媒として用いられる有機溶剤は、水に溶解し難いメラミン樹脂や酸発生剤などの成分を均一に溶解または分散させうる。例えば、水と混和する有機溶剤として、次のようなものがある:メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリルおよびそれらの混和物など。疎水性の有機溶剤としては以下の溶剤が挙げられる:酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチルなどのエステル類;ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテルなどのエーテル類;メチルエチルケトン、メチルジイソブチルケトンなどのケトン類;ヘキサン、オクタン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類およびこれらの混和物。これらの溶剤は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
水系の導電性ポリマーを使用する場合の上記溶剤の含有量は、後述の水100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましい。より好ましくは100〜500重量部である。20重量部未満では、成膜性が悪化し、性能が発現しない場合がある。500重量部を超えると、導電性ポリマーの安定性が低下し、ゲル化することがある。なお、溶剤系の導電性ポリマーを使用する場合には、上記溶剤の含有量に制限はない。
【0083】
水系の導電性ポリマーを使用する場合の上記有機溶剤が、水と混和する有機溶剤と水と混和しない有機溶剤の混和物である場合、水と混和しない有機溶剤の含有量は、酸発生剤100重量部に対して500重量部以上で且つ、水と混和する有機溶剤100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。好ましくは酸発生剤100重量部に対して1000重量部以上であり、水と混和する有機溶剤100重量部に対して50重量部以下である。酸発生剤100重量部に対して500重量部よりも少ないと、酸発生剤が均一に溶解しない場合がある。また、水と混和する有機溶剤に対して100重量部を超えると、溶液が白濁するかまたは分離することがある。
【0084】
4−2.水
本発明の導電性コーティング用組成物に用いられる導電性ポリマーが水系(水溶性および水分散体)である場合に含有される水としては、蒸留水、イオン交換水及びイオン交換蒸留水等が挙げられ、導電性ポリマーの水分散体および他薬剤に含有される水分も含まれる。上記水の含有量は、組成物全体に対して、1重量%以上であることが好ましい。
【0085】
本発明の組成物が水系の導電性コーティング用組成物である場合、水溶液のpHが1〜14の範囲であることが好ましく、低温での硬化性を考慮すると、より好ましくは1〜7であり、1.5〜3であることが特に好ましい。pHは必要に応じて、塩基などのpH調整剤により調整されうるが、塩基は酸発生剤から発生する酸と塩を形成し、酸の硬化促進効果を低下させることがあるため、加え過ぎない方がよい。pHが高くなるほど、低温での硬化性は低下するが、メラミン樹脂の溶液中での自己架橋は抑制されるため、溶液の安定性やポットライフは良くなる場合がある。このようなpH調製剤としてはアンモニアやエタノールアミン、イソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類がある。
【0086】
5.界面活性剤
本発明の導電性コーティング用組成物には界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤は、レベリング性を向上し、均一な塗布膜を得ることができるものなら特に限定されない。このような界面活性剤として、次の化合物が挙げられる:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化アルキルシロキサンなどのシロキサン化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素含有有機化合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体などのポリエーテル系化合物;ヤシ油脂肪酸アミン塩、ガムロジンなどのカルボン酸;ヒマシ油硫酸エステル類、リン酸エステル、アルキルエーテル硫酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、コハク酸エステルなどのエステル系化合物;アルキルアリールスルホン酸アミン塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムなどのスルホン酸塩化合物;ラウリルリン酸ナトリウムなどのリン酸塩化合物;ヤシ油脂肪酸エタノールアマイドなどのアミド化合物;さらにはアクリル系の共重合物などがある。これらの中でも、レベリング性の点からはシロキサン系化合物およびフッ素含有化合物が好ましく、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0087】
上述の界面活性剤はまた、塗膜に耐擦傷性や防汚性および耐ブロッキング性などの諸機能を付与するために添加することもできる。ケイ素および/またはフッ素を含有する界面活性剤は、塗膜表面に撥水性を付与し、油脂汚れなどの有機化合物の付着を防止する。さらには、付着した有機物の除去性も向上する。また、表面にすべり性が付与されることで、結果として耐擦傷性が向上することがある。また、これらの界面活性剤の中には耐ブロッキング性を向上させ得るものもあり、ロール巻き取り時に未硬化の塗膜成分が接触面へ付着しなくなる。このような機能性付与の観点からは、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリフッ化アルキルシロキサンなどが好ましい。
【0088】
上述の界面活性剤の中で、アクリル基を含有するものは、酸発生剤を配合した場合に、アクリル基のラジカルおよび/またはカチオン重合によりシロキサン骨格を主成分とした塗膜を形成できるため、硬化において有利な場合がある。
【0089】
上述の界面活性剤の中で、ヒドロキシル基を含有するものは、メラミンやバインダー樹脂と化学的に結合することで塗膜表面に固定されるため、形成された塗膜の耐擦傷性や耐溶剤性などにおいて有利な場合がある。
【0090】
本発明の組成物に含有される界面活性剤の量は特に限定されないが、組成物全体に対して10重量%以下で含有されることが好ましく、特に好ましくは0.01〜1重量%である。界面活性剤の量が10重量%を超えると、塗膜の耐擦傷性や耐溶剤性が低下する場合があり、逆に0.01重量%よりも少ないと、レベリング性が向上しないことがある。
【0091】
6.バインダー樹脂
本発明の導電性コーティング用組成物にはバインダー樹脂が含まれていてもよい。
メラミン樹脂誘導体による熱硬化は、塗膜の耐擦傷性と耐溶剤性、さらに、低温硬化性を考慮すると、メラミン樹脂の自己架橋反応であることが好ましい。
一般的にメラミン樹脂は、バインダー樹脂に含まれるカルボニル基およびヒドロキシル基などの官能基と反応するため、それらの架橋剤として用いられることが多いが、このような塗膜の耐擦傷性や耐溶剤性は、メラミン樹脂の自己架橋塗膜と比較して高くなく、加えて高温長時間の硬化条件が必要となる場合が多い。メラミンの自己架橋塗膜の方が耐擦傷性と耐溶剤性に優れる要因として、その架橋密度が高いことが挙げられる。
【0092】
一方で、成膜直後のメラミン樹脂は架橋しておらず、塗膜はオイル状となっているため、ロールの巻き取りなどで、ブロッキングの問題が発生する場合がある。このような場合、バインダー樹脂を添加することによって、ブロッキングを緩和することができる。
【0093】
本発明の導電性コーティング用組成物は、バインダー樹脂を含まない場合(メラミン樹脂の自己架橋塗膜が形成される場合)であっても十分な成膜性を有してはいるが、バインダー樹脂を添加することによって、成膜性が向上する場合もある。
【0094】
本発明の導電性コーティング用組成物に含まるバインダー樹脂は、成膜性および塗膜の耐ブロッキング性を向上させうるものであれば特に限定されない。このようなバインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオールなどの単独重合体;スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、およびアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される共重合成分を有する共重合体;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物などが挙げられる。これらの樹脂には、ヒドロキシル基やスルホニル基、カルボキシル基、エポキシ基およびフッ素などの置換基が含まれていても良い。成膜性や耐ブロッキング性の観点からは、ポリエステル、ポリイミド、ポリビニルアルコールが好ましく、中でもポリエステルが特に好ましい。バインダー樹脂の量は特に限定されないが、通常、メラミン樹脂固形分100重量部に対し、固形分として100重量部以下の割合で含有されることが好ましく、特に好ましくは5〜20重量部である。100重量部を超えると、塗膜に耐擦傷性と耐溶剤性が付与されない場合があり、逆にバインダー樹脂を含有しないと、耐ブロッキング性が付与されない場合がある。塗膜の耐擦傷性と耐溶剤性を考慮すると、固形分として5〜20重量部であることが特に好ましい。
【0095】
7.その他の成分
7−1.導電性向上剤
本発明の組成物の導電性を向上する目的で、導電性向上剤を添加することができる。このような導電性向上剤としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドンなどのアミド化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのヒドロキシル基含有化合物;イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、オルト酢酸メチル、オルトギ酸エチルなどのカルボニル基含有化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホン系化合物などが挙げられる。これらの中でも、溶液の安定性や低温での硬化性および塗膜の耐擦傷性、耐溶剤性などの諸性能を考慮すると、N−メチルピロリドンが特に好ましい。その使用量に特に制限はないが、通常、組成物中に60重量%以下の量で含有されることが好ましい。
【0096】
7−2.増粘剤
本発明の組成物には、粘度を向上させる目的で増粘剤を添加してもよい。このような増粘剤としては、アルギナン酸誘導体、キサンタンガム誘導体、カラギーナンやセルロースなどの糖類化合物などの水溶性高分子などが挙げられる。その量は特に限定されないが、通常、組成物中に60重量%以下の割合で含有されることが好ましい。
【0097】
8.製造方法
次に、導電性コーティング用組成物を用いた導電性被覆基材の製造方法について説明する。
本発明の導電性被覆基材の製造方法は、導電性コーティング用組成物に含まれる酸発生剤から酸を発生させた後に加熱硬化する工程によりなる。上記の酸発生剤が感熱性酸発生剤の場合と感放射線性または感電磁波性酸発生剤の場合とで異なる製造工程が用いられる。
【0098】
8−1.感熱性酸発生剤を含有する組成物を用いる場合
上述の導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、乾燥により溶媒を蒸発させると同時または蒸発後に熱硬化させる(硬化工程A)。本工程において、感熱性酸発生剤は、乾燥および熱硬化工程にて分解し、酸を発生することで硬化促進剤として機能するものである。酸を発生させるための条件として、導電性コーティング用組成物を塗布した基材を、感熱性酸発生剤が酸発生する温度以上で加熱することが望ましく、具体的には60℃〜200℃の温度にて10秒〜1分の時間であることが好ましい。
【0099】
8−2.感放射線性または感電磁波性酸発生剤を含有する組成物を用いる場合
上述の導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、乾燥により溶媒または分散媒を完全に揮発させた後、放射線または電磁波照射により感放射線性または感電磁波性酸発生剤から酸を発生させてから熱硬化させる(硬化工程B)か、組成物を基材に塗布後、溶媒または分散媒が完全に揮発する前に放射線または電磁波を照射することにより、感放射線性または感電磁波性酸発生剤から酸を発生させ、その後、乾燥により溶媒または分散媒を蒸発させると同時に熱硬化させる(硬化工程C)。
【0100】
本発明の組成物は、上述のように、導電性ポリマー、熱架橋剤、酸発生剤、ならびに、溶媒もしくは分散媒、さらに必要に応じて界面活性剤、導電性向上剤、バインダー樹脂、増粘剤などを含有する。これらの組成物は通常、メラミン樹脂誘導体の熱架橋剤の溶液中での自己架橋を防ぐため、メラミン樹脂誘導体と酸性成分とを分離した状態で供給される。酸性を示す成分としては、導電性ポリマーや界面活性剤などが挙げられる。上記の各液を使用前に所定の割合で混合し、すべての成分が混合された状態で利用する。なお、塩基等で酸性成分を中和した場合には、すべての成分を混合した状態で供給しても、保存安定性は維持されうる。
【0101】
導電性コーティング用組成物の調製方法に特に制限はないが、各液をメカニカルスターラーやマグネティックスターラーなどの撹拌機で撹拌しながら混合して約1〜60分間撹拌を続け、必要に応じてアルコールなどの希釈剤で希釈し、均一になるまで約1〜10分撹拌するのが好ましい。なお、組成物のポットライフを考慮した場合、液温を30℃より低く保って調製することが好ましく、特に感放射線性酸発生剤または感電磁波性酸発生剤を含有する場合は、放射線や電磁波を遮った状態で調製した方がよい。
【0102】
導電性コーティング用組成物は、感放射線性または感電磁波性酸発生剤を用いる場合において、放射線や電磁波を遮った状態で塗布した方がよい。また、組成物は25℃前後の常温において安定であるが、酸成分を含有する場合、メラミン樹脂誘導体の液中での自己架橋が進行するため、−20℃〜20℃の温度を維持したまま塗布することにより、ポットライフを向上させることができる。特に好ましくは−5℃〜10℃の温度を維持したまま基材に塗布するのがよい。温度を低く保つほどポットライフは改善されるが、組成物が水系である場合、−20℃より低い温度では組成物が氷結する可能性がある。組成物は調製時から−20℃〜20℃、好ましくは−5℃〜10℃の温度を維持されることが好ましい。
【0103】
本発明の方法により基材表面に導電性塗膜を形成するには、まず、所望の形状を有する基材を準備する。基材として、例えば樹脂又はガラスからなる基材を使用することができる。
【0104】
樹脂基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体、シクロオレフィン系樹脂などのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、変性ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィドなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン9、半芳香族ポリアミド6T6、半芳香族ポリアミド6T66、半芳香族ポリアミド9Tなどのポリアミド樹脂;アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、トリアセチルセルロースなどのその他の樹脂を挙げることができる。中でも、加工性および機能性の観点から、ポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースが好適に用いられる。
ガラス基材としては、無アルカリガラス、ソーダガラス、石英ガラス、ホウ珪酸ガラスなどを挙げることができる。中でも、機能性の観点から、無アルカリガラスが好ましい。
【0105】
基材の形状も特に限定されず、フィルム状の基材、板状の基材、その他所望の形状を有するフィルム、シート、板、成形物などが用いられ得る。また、塗布性を向上させるための予備処理として、基材表面にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理などの物理処理を施しても良い。
【0106】
この基材表面に、上記の導電性コーティング用組成物(塗布液)を塗布し、塗膜を形成する。基材表面への塗布液の塗布方法は特に限定されず、当該分野で汎用の方法の中から適宜選択することができる。例えば、スピンコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティングなどが挙げられる。さらに、スクリーン印刷、スプレー印刷、インクジェット印刷、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷などの印刷法も採用することが可能である。
【0107】
基材上に形成される塗膜の厚みは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常、加熱乾燥後の厚みが0.01〜300μmであることが好ましく、0.03〜100μmがより好ましい。0.01μm未満であると導電性を発現し難くなり、300μmを超えてもそれに比例した導電性、耐擦傷性、耐溶剤性が得られない。
【0108】
上記塗膜の溶媒を蒸発させるための乾燥および熱硬化には、通常の通風乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などの乾燥機などが用いられる。乾燥および加熱を同時に行うためには、加熱手段を有する乾燥機(熱風乾燥機、赤外線乾燥機など)を用いる必要がある。また、加熱手段としては、上記乾燥機の他、加熱機能を具備する加熱・加圧ロール、プレス機などが用いられ得る。溶媒の蒸発に必要な乾燥条件としては、60℃〜100℃の温度にて10〜30秒程度である。
【0109】
導電性コーティング用組成物に感放射線性または感電磁波性酸発生剤が含有される場合、酸を発生させるために放射線または電磁波照射装置が用いられる。照射する放射線または電磁波の波長は特に限定されず、使用する酸発生剤の極大吸収波長付近の放射線または電磁波を照射できるものを選べばよい。また、放射線または電磁波を照射できる装置としては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、DeepUVランプ、低圧UVランプなどの水銀ランプ、ハライドランプ、クセノンフラッシュランプ、メタルハライドランプ、ArFエキシマランプ、KrFエキシマランプなどのエキシマランプ、極端紫外光ランプ、電子ビーム、X線ランプを光源とする露光装置がある。
【0110】
上記樹脂基材表面を被覆する塗膜は、導電性コーティング用組成物が感熱性酸発生剤を含有する場合、乾燥により溶媒を蒸発すると同時または蒸発後の加熱工程において、感熱性酸発生剤から酸を発生させ、熱硬化させることにより、耐擦傷性、耐溶剤性、透明性、基材への密着性に優れた導電性塗膜を形成しうる。導電性塗膜に十分な耐擦傷性と耐溶剤性が付与される硬化条件として、25℃〜200℃で30秒〜24時間程度が必要であり、具体的には以下の条件が挙げられる。200℃×2分、170℃×3分程度、150℃×5分程度、120℃×15分程度、100℃×20分程度、80℃×2時間程度、60℃×24時間、100℃×1分後に25℃×24時間程度である。より高い温度では、更に短時間で硬化させることが可能である。なお、生産性の高いロールコーターを用いる場合、そのライン速度と乾燥機の長さにも依るが、通常、乾燥および硬化の条件は、60〜130℃で数秒〜数分であり、この条件で硬化が不十分な場合は、ロールコーティング後のロールフィルムの状態で、25℃〜70℃の乾燥機または保管庫で、1時間〜数週間ポストキュアする事ができる。
【0111】
導電性コーティング用組成物が感放射線性または感電磁波性酸発生剤を含有する場合、乾燥により溶媒または分散媒を完全に揮発させた後、放射線または電磁波照射により感放射線性または感電磁波性酸発生剤から酸を発生させてから熱硬化させるか、または、組成物を基材に塗布し、溶媒または分散媒が完全に揮発する前に放射線または電磁波を照射し、感放射線性または感電磁波性酸発生剤から酸を発生させ、その後、乾燥により溶媒または分散媒を揮発させると同時に熱硬化させることにより、塗膜外観、透明性、導電性、基材への密着性、耐擦傷性、耐溶剤性に優れた導電性塗膜を形成しうる。導電性塗膜に十分な耐擦傷性と耐溶剤性が付与される硬化条件として、例えば、3℃〜170℃で5秒〜24時間程度が必要であり、具体的には以下の条件が挙げられる。120℃×10秒程度、100℃×20秒程度、80℃×30秒程度、60℃×1分程度、40℃×10分程度、25℃×30分、5℃×13時間程度である。ロールコーターでの処理条件で硬化が不十分な場合は、ロールコーティング後のロールフィルムの状態で、25℃〜70℃の乾燥機で、1時間〜数週間ポストキュアする事ができる。
【0112】
また、上記の導電性コーティング用組成物は、基材に塗布する前に放射線若しくは電磁波照射かまたは加熱により酸を発生させた後に、基材に塗布して乾燥、熱硬化することによって、耐擦傷性、耐溶剤性、透明性、基材への密着性に優れた導電性塗膜を形成しうるが、塗布液のポットライフを考慮すると、塗布後に酸を発生させることが好ましい。
【0113】
上記の導電性コーティング用組成物を用いて得られた導電性被覆基材は、基材表面に導電性ポリマーを含有する導電層が形成されている。この導電層は好ましくは10〜1011Ω/□の表面抵抗率を有し、また、基材の透過率を維持されていることから、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、ならびにソフトトレイ、ハードトレイ、キャリアテープ、カバーテープ、スペーサーテープ等の電子部品包装材料などの各種フィルムやシートの帯電防止層および/または電極として利用できる。
【実施例】
【0114】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0115】
I.使用原料
I.1 導電性ポリマー
導電性材料を含む水分散液として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体からなる導電性ポリマーの水分散液である、H.C.スタルク社製のClevios P(商品名)(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量=150000)の複合体分散水溶液;固形分1.3重量%、水98.7重量%)、及び、ポリアニリンの水分散体である三菱レイヨン社製のaquaPass(R)-01X(商品名)(ポリアニリンスルホン酸(重量平均分子量=10000);固形分1.0重量%)を用いた。導電性材料を含む有機溶剤分散液として、日本曹達社製のSSPY(3−メチル−4−ピロールカルボン酸エチル/3−メチル−4−ピロールカルボン酸ブチルの共重合体;固形分10.0重量%、重量平均分子量=200000)とTCNA(2,3,6,7−テトラシアノ−1,4,5,8−テトラアザナフタレン;固形分10.0重量%)からなる導電性ポリマーの複合体を用いた。なお、重量平均分子量の測定にはウォーターズ社製ultrahydrogel500カラムを使用した。
【0116】
I.2 メラミン樹脂誘導体
メラミン樹脂誘導体として、日本カーバイド工業社製のニカラックMW−390(フルエーテル型、R:メチル基、重合度:1.0)、ニカラックMX−500(フルエーテル型、R:n−ブチル基、重合度:2.4)、ニカラックMX−730(イミノ型、80重量%、重合度:2.4)、および日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル300(フルエーテル型、R:メチル基、重合度:1.4)、サイメル303(フルエーテル型、R:メチル基、重合度:1.7)、サイメル370(メチロール型、88重量%、R:メチル基、重合度:2.3)を使用した(上記の名称は全て商品名である)。
【0117】
I.3 酸触媒
酸触媒として、和光純薬工業(株)社製の、メタンスルホン酸(分子量111.3;以下、MS)、p−トルエンスルホン酸(分子量187.2;以下、p−TsOH)、ドデシルベンゼンスルホン酸(分子量326.8;以下、DBS)、1級硫酸、楠本化成社製のNACURE−1051(商品名)(ジノニルナフタレンスルホン酸;固形分50.0重量%、分子量458.0;以下、DNNS)を使用した。
I.4 酸発生剤
感放射線性または感電磁波性酸発生剤として、和光純薬工業(株)社製の、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン(分子量350.5;以下、PAG−2)、東京化成工業(株)社製の2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン(分子量366.3;以下、PAG−1)、住友精化(株)社製の、BMPS(商品名)(トリブロモメチルフェニルスルホン;分子量392.9;以下、PAG−3)、BSP(商品名)(2−トリブロモメチルスルホニルピリジン;分子量393.9;以下、PAG−4)、感熱性酸発生剤として、和光純薬工業(株)社製のp−トシルイミダゾール(分子量222.3;以下、TAG−2)、三新化学(株)社製の、サンエイドSI80L(商品名)(トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート;以下、TAG−1)を用いた。
【0118】
I.5 有機溶剤
和光純薬工業(株)社製の、1級エタノール、1級トルエン、メチルエチルケトン(以下、MEK)を使用した。
【0119】
I.6 水
水の大半は、導電性ポリマーの水分散体、Clevios PおよびaquaPass(R)-01Xに含まれる水であるが、新たに加える水はイオン交換処理をして用いた。実施例の表1記載の水は、新たに添加した水である。
【0120】
I.7 界面活性剤
界面活性剤として、互応化学工業社製のプラスコートRY−2(商品名)(α−パーフルオロノネニルオキシ‐ω‐メチルポリエチレンオキシド;固形分10.0重量%)、大日本インキ社製のメガファックR−08(商品名)(パーフルオロアルキルオリゴマー;固形分5.0重量%)、BYK−Chemie社製のBYK−348(商品名)(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン;固形分100重量%)、BYK−375(商品名)(ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン;固形分100重量%)、BYK−UV3500(商品名)(ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン;固形分100重量%)を用いた。
【0121】
I.8 導電性向上剤
導電性向上剤として、和光純薬工業(株)社製のN−メチルピロリドン(以下、NMP)を用いた。
【0122】
I.9 バインダー成分
バインダーとして、クラレ社製のポバールKL−506(商品名)(ポリビニルアルコール、以下、KL−506;固形分100重量%)、互応化学社製のプラスコートZ−687(商品名)(ポリエチレンナフタレート;固形分25.0重量%、以下、Z−687)、プラスコートRZ−105(商品名)(ポリエステル;固形分25.0重量%、以下、RZ−105)、および東洋紡績社製のバイロナールMD−1245(商品名)(ポリエステル;固形分30.0重量%、以下、MD−1245)を用いた。
【0123】
I.10 基材
基材として、東レ社製ルミラーT−60(商品名)(ポリエチレンテレフタレートフィルム、以下、PET)、コーニング#1737(商品名)(ガラス板、以下、ガラス)を使用した。
【0124】
II.露光装置
電磁波照射用の装置として、光源がメタルハライドランプであるウシオ電機社製のユニキュアを使用した。
【0125】
III.評価方法
得られた組成物の液外観、組成物を用いて得た導電性被覆基材の塗膜外観、密着性、耐擦傷性、耐溶剤性を3段階評価し、耐ブロッキング性を2段階で評価した。また、SR、Tt、Hazeは測定値を評価した。ポットライフは、液調製時から「8h」、「12h」、「24h」経過時の塗布液および塗布膜を評価した。塗布液の外観、塗布膜の外観、密着性、耐擦傷性、耐溶剤性に関しては、初期値と同様に評価した。一方で、塗布膜のSR、Tt、Hazeは、測定値の初期値からの変動を3段階で評価した。なお、初期評価「×」の項目に関して、ポットライフは評価していない(「−」を記入)。
【0126】
III.1 導電性コーティング用組成物外観
組成物調製後の液外観を目視にて3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:沈殿物の発生なし
○:少量の沈殿物が発生
×:ゲル化
【0127】
III.2 塗膜外観
塗布後の導電性塗膜の外観(均一性)を目視にて次の3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:塗膜が均一に塗布されている
○:塗膜が部分的に不均一
×:塗膜が形成されない
【0128】
III.3 表面抵抗率(SR:Ω/□)
表面抵抗率は、JIS K7194に従い、三菱化学社製ハイレスタUP(MCP−HT450型、商品名)を用いて測定した。ポットライフは初期値に対する上昇倍率を以下の3段階で評価した。
◎:10倍以下
○:10倍を超えて100倍未満
×:100倍以上
【0129】
III.4 全光線透過率(Tt:%)
全光線透過率は、JIS K7150に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定した。ポットライフは初期値に対する変化量を以下の3段階で評価した。
◎:―0.5より大きく、+0.5未満
○:−1.0〜−0.5および+0.5〜+1.0
×:−1.0未満および+1.0より大
【0130】
III.5 Haze(%)
Hazeは、JIS K7150に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定した。ポットライフは初期値に対する変化量を以下の3段階で評価した。
◎:―0.5より大きく、+0.5未満
○:−1.0〜−0.5および+0.5〜+1.0
×:−1.0未満および+1.0より大
【0131】
III.6 密着性
塗膜の基材への密着性は、JIS K5400の碁盤目剥離試験に従って評価した。評価は次の3段階で行った。ポットライフについても、同様に評価した。
◎:10点
○:8点
×:6点以下
【0132】
III.7 耐擦傷性、耐溶剤性試験
基材上に形成された導電性塗膜について、乾拭き試験、エタノール拭き試験、トルエン拭き試験、アセトン拭き試験を行った。乾拭き試験においては、乾燥した綿棒を準備し、これを用いて塗膜表面を、筆圧の高い字を書く程度の力を加えて3cm長さを5往復擦った。エタノール拭き、トルエン拭き、アセトン拭き試験はアセトンを染み込ませた綿棒を用いて、乾拭き試験と同様の操作を行った。
【0133】
基材表面の目視観察を行い、次の3段階の評価を行った。ポットライフについても、同様に評価した。
◎:剥がれた部分がまったくない
○:剥がれ部分が10%未満
×:剥がれ部分が10%以上
【0134】
III.8 耐ブロッキング性
基材上に形成された導電性塗膜の耐ブロッキング試験を、神藤金属工業所製の圧縮成形機AYS−5(商品名)を用いて行った。導電性コーティング用組成物を塗布した基材(PET)を100℃×1分間乾燥し、電磁波照射した後、塗布面を上にして2枚重ね合わせ、0.5MPaの圧力で1時間プレスした際のブロッキング性を以下の2段階で評価した。ポットライフについても同様に評価した。
◎:重ねたPETの裏面に全く付着していない
×:重ねたPETの裏面に付着
【0135】
以下の実施例および比較例で調製した塗布液の各成分および塗布液の外観を併せて表1に、そして各実施例および比較例で得られた塗布液および導電性被覆基材の評価結果を併せてそれぞれ表2、3−1、3−2、4、5、6、図1に示す。
表2に記載の評価結果は、塗布液調製直後に塗布することにより作成した導電性被覆基材のものである。表3−1、3−2、4において、「8h」とは、液調製後8時間後の塗液の外観と液調製後8時間後に塗布した塗膜を上記の条件で乾燥硬化させた際の評価結果であり、「12h」、「24h」はそれぞれ、液調製後12時間、24時間後の塗液の外観と各経過時間で塗布した塗膜の評価結果である。表5は、耐ブロッキング試験の結果である。表6は、組成物を配合直後に塗布して得られた導電性塗膜が十分な耐擦傷性を有するために必要な温度と時間条件をまとめたものである。
【0136】
(実施例1〜4、6〜29)
表1に示す各成分を混合して、分散液の状態の導電性コーティング用組成物(塗布液)を調製した。この塗布液を調製後すぐに、基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、(B)熱風乾燥機にて100℃×1分間乾燥し、ユニキュアで電磁波を照射(95mJ/cm)後に熱硬化、(C)ユニキュアで電磁波を照射(95mJ/cm)後に熱風乾燥機にて乾燥、熱硬化する各工程にて、導電性被覆基材を得た。熱硬化は100℃×1分または100℃×1分後25℃×24時間の条件で行った。また、ポットライフの評価として、塗布液調製から8時間、12時間、24時間経過時にも、同様に被覆基材を作成した。得られた導電性被覆基材の初期性能の評価結果を表2に、ポットライフの評価結果を表3−1、3−2、4に示す。なお、表5の耐ブロッキング試験は、工程(B)の手順で成膜後、熱硬化する前に実施した。
【0137】
(比較例1〜9、実施例5)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例1〜4、6〜29と同様に基材に塗布した後、熱風乾燥機にて、乾燥、硬化させて導電性被覆基材を得た。硬化は100℃×1分または100℃×1分後25℃×24時間の条件で行った。ポットライフの評価も同様に行った。得られた導電性被覆基材の初期性能の評価結果を表2に、ポットライフの評価結果を表3−1、3−2、4に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
【表3−1】

【0141】
【表3−2】

【0142】
【表4】

【0143】
【表5】

【0144】
比較例1〜9より、低温での熱硬化において、塗膜に耐擦傷性、耐溶剤性を付与するためには、メラミン樹脂誘導体と酸触媒を加えることにより、100℃×1分の硬化条件でも耐擦傷性と耐溶剤性に優れた塗膜を形成できることがわかる。低温での硬化性は触媒の構造に依存しており、p−TsOHとDBSの硬化性が良い傾向にあり、硫酸やMS、DNNSでは十分な耐擦傷性、耐溶剤性が得られない。メラミン樹脂単独では性能は発現しない。一方で、ポットライフは疎水性が高いほど良く、親水性の高い硫酸、p−TsOHやMSでは、導電性ポリマーが沈殿する。中でも、DBSがすべての性能において良好であるが、メラミン樹脂の構造と重合度を考慮しても、ポットライフは8時間である。以上の結果から、酸触媒とメラミン樹脂および導電性ポリマーの組成物では、低温での硬化性と8時間以上のポットライフを両立できないことがわかる。実施例1〜6を参照すると、硬化促進剤として酸発生剤を添加することにより、耐擦傷性、耐溶剤性に優れた導電性塗膜を、比較例と同様の条件(100℃×1分または、その後に25℃×24時間放置)にて形成でき、且つポットライフは12時間以上維持されている。実施例7〜25から、導電性ポリマー種、メラミン樹脂誘導体種、界面活性剤の種類によらず、ほぼ同等の性能が発現していることが見てとれる。バインダー樹脂を添加しても良い。酸発生剤の添加量がメラミン樹脂100重量部に対して60重量部を超えると、塗膜の外観が悪化する傾向にあるため、加えすぎないほうが良い。工程に関して、組成物を基材に塗布後、100℃×1分の乾燥によって溶媒または分散媒を揮発させる前に露光した方が、完全に揮発した後に露光した場合に比べて、低温での硬化性がより良く、塗膜外観やHazeでも良い結果が得られる傾向がある。特に、MW−390のような結晶性の化合物を使用した場合、100℃×1分の乾燥を行った後に電磁波照射して硬化させると、塗膜が微妙に白化し、Hazeが高くなることがある。実施例5の感熱性酸発生剤では、100℃×1分の硬化性が感電磁波性酸発生剤に比べて低いが、その後の25℃で24時間放置することにより硬化が促進し、十分な塗膜耐性が得られており、ポットライフも良好なことから、実用可能な性能を有していると言える。また実施例16では、100℃×1分の硬化性がその他の実施例に比べて低いが、その後に25℃で24時間放置することにより硬化が促進し、十分な塗膜耐性が得られており、ポットライフも良好なことから、実用可能な性能を有していると言える。実施例6のように、感電磁波性酸発生剤と感熱性酸発生剤を併用することでも、性能は発現している。実施例26〜29を比較すると、バインダー樹脂を添加することで、耐ブロッキング性が改善されることがわかる。バインダー樹脂の添加は、低温での硬化に対して不利な場合が多いが、本発明の組成物においては十分な低温硬化性が維持され、且つ耐ブロッキング性が改善されることがわかる。
【0145】
(実施例30)
実施例3で使用した各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例1〜4、6〜29と同様の工程(C)において基材に塗布して導電性被覆基材を得た。硬化を5℃、25℃、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、150℃、170℃、200℃の温度で行い、各温度において、十分な耐擦傷性「◎」を有する導電性被覆基材が得られた時間を表6にまとめ、図1にプロットした。
【0146】
(実施例31)
実施例5で使用した各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例5と同様に基材に塗布して導電性被覆基材を得た。硬化を60℃、80℃、100℃、120℃、150℃、170℃、200℃の温度で行い、各温度において、十分な耐擦傷性「◎」を有する導電性被覆基材が得られた時間を表6にまとめ、図1にプロットした。
【0147】
(比較例10、11)
比較例10として、比較例2で使用した各成分、比較例11として、比較例5で使用した各成分をそれぞれ混合して塗布液を調製し、これを用いて比較例1〜9と同様に基材に塗布して導電性被覆基材を得た。100℃×1分で乾燥させた後、25℃、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、150℃、170℃、200℃の各温度で硬化を行い、十分な耐擦傷性「◎」を有する導電性被覆基材が得られた時間を表6にまとめ、図1にプロットした。
【0148】
【表6】

【0149】
図1を見ると、ドデシルベンゼンスルホン酸を含有する比較例11は、酸触媒を含有しない比較例10と比べて、より穏やかな硬化条件で十分な耐擦傷性と耐溶剤性が付与されているが、酸発生剤を用いた実施例30では、さらに短時間で、目的の導電性被覆基材が得られることがわかる。実施例31は、硬化性の点において比較例11より低く、長時間が必要となっているが、ポットライフの点では有利である。塗膜の硬化性は、ポストキュア等の工程によって改善できるため、十分な実用性を有していると言える。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明によれば、塗膜外観、透明性、導電性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材に対する密着性などに優れた導電性被覆基材を作成するための組成物、および、該組成物を用いた導電性被覆基材の製造方法と導電性被覆基材が提供される。従来、その表面に導電性塗膜を形成することが困難であった、耐熱性が高くない樹脂基材に対しても導電性塗膜を形成することが可能となり、短時間または乾燥後の室温保管でも硬化が促進し、且つポットライフが長時間維持されるため、ロールコーティングなどでの生産性が低下することもない。このような導電性塗膜を有する基材は広い分野で利用可能であり、各種フィルムやシートに、帯電防止機能および/または透明電極機能を付与するために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導電性ポリマー、
(b)メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤、
(c)酸発生剤、および、
(d)溶媒または分散媒
を含有することを特徴とする熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項2】
導電性ポリマー(a)が、以下の式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントとの複合体であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項3】
メラミン樹脂誘導体からなる熱架橋剤(b)が、フルエーテル型メラミン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項4】
酸発生剤(c)が、スルホニル化合物またはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項5】
酸発生剤(c)が、熱架橋剤(b)100重量部に対して1〜60重量部含有されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項6】
導電性ポリマー(a)が水系導電性ポリマーであり、溶媒または分散媒(d)が、水と有機溶剤の混和物であり、且つ前記有機溶剤が少なくとも1種の水と混和する有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項7】
さらに、界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項8】
さらに、バインダー樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、酸発生剤(c)から酸を発生させた後、組成物を熱硬化させることにより導電層を形成することを特徴とした導電性被覆基材の製造方法。
【請求項10】
熱硬化型導電性コーティング用組成物に含まれる酸発生剤(c)が感熱性酸発生剤であり、加熱によって酸を発生させることを特徴とした、請求項9に記載の導電性被覆基材の製造方法。
【請求項11】
熱硬化型導電性コーティング用組成物に含まれる酸発生剤(c)が感放射線性または感電磁波性酸発生剤であり、放射線照射または電磁波照射により酸を発生させることを特徴とした、請求項9に記載の導電性被覆基材の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法により製造された導電性被覆基材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−106245(P2010−106245A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203932(P2009−203932)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】