説明

低温硬化型ウレタン樹脂塗料およびその塗装方法

【課題】150℃を下回る温度で硬化でき、厳しい環境下でも適用できる熱硬化型のウレタン樹脂塗料を得る。
【解決手段】金属材料1に対し、化学的処理や機械的処理を施し、塗装に適した表面状態にしてから、熱硬化型エポキシ樹脂下塗り塗料で下塗り塗膜2を形成し、アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成されるウレタン樹脂塗料を上塗りし、温度110〜150℃の低温で加熱硬化させて上塗り塗膜3を形成する。これらの塗膜2、3は、光沢度も低下せず、優れた塗膜性能を発揮し、厳しい環境下にも耐え得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高防食、高耐候性塗装系に適用が可能な1液性の低温硬化型ウレタン樹脂塗料およびその塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1液性の熱硬化型ウレタン樹脂塗料は、塗装物に前処理を実施し、エポキシ系樹脂などから構成される高防錆力のある下塗り塗料で塗膜を形成した後、高防食、高耐候性を保つための上塗り塗料として用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
熱硬化型ウレタン樹脂塗料の硬化条件は、温度150℃を超え、170〜180℃(物体温度)で時間20〜30分である。これよりも低い温度で硬化させると、必要な塗膜品質を得ることができず、特に屋外での耐久性能の確保が困難となっていた。このため、温度150℃を超える高温を採用していたが、加熱に多大な熱エネルギーを要し、常温までの冷却にロス時間が発生していた。また、1回塗りで50μm以上の厚膜塗装を行うと、塗膜欠陥であるわきやピンホールを発生するため、膜厚20〜30μmを数回重ね塗りし、必要な膜厚を得ていた。このため、都度硬化、冷却を繰り返し、塗装時間が長くなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−111686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、1液性の熱硬化型であって、温度150℃を下回る低温の加熱硬化型で熱エネルギーを抑制でき、また、必要により1回の塗装で50μm以上の厚膜を形成することができ、厳しい環境下に適用可能な低温硬化型ウレタン樹脂塗料およびその塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態の低温硬化型ウレタン樹脂塗料は、アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、上塗り塗膜を形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例に係る低温硬化型ウレタン樹脂塗料を用いた塗装系の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
先ず、本発明の実施例1に係る低温硬化型ウレタン樹脂塗料を用いた塗装系を図1を参照して説明する。
【0010】
図1に示すように、酸洗鋼板、SPCC材などの金属材料1に対し、リン酸亜鉛被膜といった化学的処理やサンドブラスト処理といった機械的処理を実施し、塗装を行うのに適した表面状態にする。そして、高防錆力を有した熱硬化型エポキシ樹脂系下塗り塗料を用いて下塗り塗膜2を設ける。下塗り塗膜2は、従来と同様、膜厚が15〜180μm(標準25〜60μm)であり、例えば、関西ペイント社製エポマリンプライマータイプGを用いる。その後、低温硬化型ウレタン樹脂塗料を用いて上塗り塗膜3を設ける。
【0011】
上塗り塗膜3は、例えば、スプレー塗装後、時間10分以上(標準10〜60分)常温放置し、温度110〜150℃×時間10〜60分の加熱硬化を行う(標準120〜130℃×20〜30分)。膜厚は、15〜50μmである。1液性のウレタン樹脂塗料の成分を表1、表2に示す。表1は、JIS K 5600に準ずる60度鏡面光沢度70以上のつや有り、表2は、JIS K 5600に準ずる60度鏡面光沢度40±10の半つやである。( )内は、適用範囲である。
【表1】

【表2】

【0012】
このような塗膜2、3に対し、表3に示すような各種の試験を行った。結果を表4に示すが、初期物性試験、耐久性試験の塩水噴霧、耐湿、亜硫酸ガス、塩素ガス、耐候のいずれの試験においても良好な結果であった。
【表3】

【表4】

【0013】
アクリル樹脂ワニスと、イソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート樹脂ワニスを有するアクリル樹脂−ウレタン樹脂塗料は、熱影響に対する変色が殆どなく、また、安定した光沢度を保持することに優れている。これは、市販されている2液性常温硬化型ウレタン樹脂塗料である関西ペイント社製レタンPG80と同等以上の特性を有している。
【0014】
アクリル樹脂ワニスとブロックイソシアネート樹脂ワニスは、温度90℃以上の加熱から反応を始め、110〜120℃で塗膜の形成が完了するようになっている。これは、ブロックイソシアネート樹脂ワニスの採用とその配合比に大きく依存し、実験により達成したものである。
【0015】
ここで、加熱硬化型であることは変わりないが、温度110〜150℃の硬化温度を持つものを、低温硬化型と定義する。
【0016】
なお、一般環境向けに多用されている熱硬化型メラミン樹脂塗料では、温度120〜130℃×時間20〜30分の硬化条件が採用され、自動塗装ラインとして整備されている。この自動塗装ラインに同様の硬化条件を持つ低温硬化型ウレタン樹脂塗料を用いることができるので、ラインの共用化ができ塗装作業性を向上させることができる。
【0017】
上記実施例1の低温硬化型ウレタン樹脂塗料によれば、温度110〜150℃の低温で上塗り塗膜3を加熱硬化させることができ、熱エネルギーの抑制、塗装時間の短縮、塗装工程の削減、生産効率の向上などを図ることができる。また、上塗り塗膜3は、光沢度も低下せず、優れた塗膜性能を発揮し、厳しい環境下にも耐え得ることができる。
【実施例2】
【0018】
次に、本発明の実施例2に係る低温硬化型ウレタン樹脂塗料を再び図1を参照して説明する。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、上塗り塗膜を50μm以上の厚膜としたことである。
【0019】
上塗り塗膜3を、例えば、1回のスプレー塗装で50〜150μmの厚膜としている。硬化条件は、実施例1と同様である。ウレタン樹脂塗料の成分を表5、表6に示す。表5は、つや有り、表6は、半つやである。( )内は、適用範囲である。
【表5】

【表6】

【0020】
このような塗膜2、3に対し、実施例1と同様に表3に示すような各種の試験を行った。結果を表4に示すが、初期物性試験、耐久性試験の塩水噴霧、耐湿、亜硫酸ガス、塩素ガス、耐候のいずれの試験においても良好な結果であった。
【0021】
50μm以上の厚膜にする場合、わきやピンホールが形成され易いが、アクリル表面調整剤は、表面張力をコントロールすることで、消泡剤、わき防止剤として働くものである。また、リコート性が良好であるため、上塗り塗料に添加する調整剤として適している。塗料系に相溶せず安定した分散状態を保ち、かつ塗料系より表面張力が低く、界面張力が高いことが必要になる。極性は低くし(S.P.=7.7程度)、分子量を高くして油滴径を大きくすることにより、所定の機能が得られるようになる。これらは、表面調整剤の選択と配合比がポイントであり、実験により達成したものである。なお、膜厚50μm以下においても用いることができる。
【0022】
上記実施例2の低温硬化型ウレタン樹脂塗料によれば、実施例1による効果のほかに、50μm以上の厚膜にも適するものとなる。
【0023】
以上述べたような実施形態によれば、1液性で温度150℃以下の低温で加熱硬化させることのできるウレタン樹脂塗料を提供することができる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
1 金属材料
2 下塗り塗膜
3 上塗り塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
つや有りの上塗り塗膜を形成することを特徴とする低温硬化型ウレタン樹脂塗料。
【請求項2】
アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、つや消し剤、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
半つやの上塗り塗膜を形成することを特徴とする低温硬化型ウレタン樹脂塗料。
【請求項3】
アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、アクリル表面調整剤0.1〜0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
つや有りの上塗り塗膜を形成することを特徴とする低温硬化型ウレタン樹脂塗料。
【請求項4】
アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、アクリル表面調整剤0.1〜0.5重量%、つや消し剤、着色顔料、添加剤、溶剤から構成され、
半つやの上塗り塗膜を形成することを特徴とする低温硬化型ウレタン樹脂塗料。
【請求項5】
金属材料を塗装に適した表面状態とし、
熱硬化型エポキシ樹脂系下塗り塗料を塗布し、
硬化後、アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成される低温硬化型ウレタン樹脂塗料を塗布し、
温度110〜150℃で加熱硬化させることを特徴とする低温硬化型ウレタン樹脂塗料の塗装方法。
【請求項6】
前記ウレタン樹脂塗料につや消し剤を添加することを特徴とする請求項5に記載の低温硬化型ウレタン樹脂塗料の塗装方法。
【請求項7】
金属材料を塗装に適した表面状態とし、
熱硬化型エポキシ樹脂系下塗り塗料を塗布し、
硬化後、アクリル樹脂ワニス35〜55重量%、ブロックイソシアネート樹脂ワニス10〜30重量%、アクリル表面調整剤0.1〜0.5重量%、着色顔料、添加剤、溶剤から構成される低温硬化型ウレタン樹脂塗料を塗布して膜厚を50μm以上とし、
温度110〜150℃で加熱硬化させることを特徴とする低温硬化型ウレタン樹脂塗料の塗装方法。
【請求項8】
前記ウレタン樹脂塗料につや消し剤を添加することを特徴とする請求項7に記載の低温硬化型ウレタン樹脂塗料の塗装方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60531(P2013−60531A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200029(P2011−200029)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】