説明

低温硬化性非晶質フルオロポリマー

ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、助剤と、を含む組成物が提供され、この非晶質フルオロポリマーは25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有し、また、このフルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である。このような組成物を硬化させることにより調製可能であるフルオロエラストマーもまた提供される。このような組成物を使用してこのようなプロセスから単数及び複数の現場硬化物品を製造する現場硬化プロセスも更に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非晶質フルオロポリマーの硬化性組成物及びこのような組成物から誘導される現場硬化物品の製造プロセスに関する。本開示はまた、低温にて高速硬化時間を呈する硬化性非晶質フルオロポリマー組成物にも関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
一態様では、本開示は、ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、助剤と、を含む組成物を提供し、この非晶質フルオロポリマーは25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有し、また、このフルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である。
【0003】
別の態様では、本開示は、(i)25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有する、ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと(ii)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドとを含む組成物を提供すること、及び、助剤を提供すること、並びに、この組成物を110℃にて30分未満にわたって硬化させることにより、調製可能であるフルオロエラストマーを提供し、このフルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である。
【0004】
更に別の態様では、本開示は、基材を提供する工程、(i)25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有する、ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと(ii)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、(iii)助剤と、を含む組成物を基材上に配置する工程、並びに(c)この組成物を110℃にて30分未満にわたって硬化させる工程を含む、現場硬化プロセスを提供し、このフルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である。
【0005】
更に別の態様では、本開示は、ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、助剤と、を含む組成物から誘導される現場硬化物品を提供し、このフルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である。
【0006】
以下が本開示の代表的な実施形態である:
1.
(a)ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、
(b)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、
(c)助剤と、
を含む組成物であって、前記非晶質フルオロポリマーは、25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有し、
前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、組成物。
【0007】
2.前記非晶質フルオロポリマーが25℃及び0.1rad/sにて100kPa以上の貯蔵弾性率を有する、請求項1に記載の組成物。
【0008】
3.前記フルオロポリマーが、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル及びトリフルオロエチレンからなる群から由来するインターポリマー化単位を含む、請求項1に記載の組成物。
【0009】
4.前記有機ペルオキシドが0.1phr〜5phrで存在する、請求項1に記載の組成物。
【0010】
5.助剤が、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリ(メチル)アリルシアヌレート、ポリ−トリアリルイソシアヌレート(ポリ−TAIC)、キシレン−ビス(ジアリルイソシアヌレート)(XBD)、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、フタル酸ジアリル、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、亜りん酸トリアリル、1,2−ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、及び、式CH=CH−Rf1−CH=CHを有する化合物から選択され、式中、Rf1が1〜8個の炭素原子のペルフルオロアルキレンであってよい、請求項1に記載の組成物。
【0011】
6.前記組成物が1重量%〜10重量%の助剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【0012】
7.前記有機ペルオキシドが、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチレンヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチレンヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の組成物。
【0013】
8.前記硬化部位が末端基である、請求項1に記載の組成物。
【0014】
9.ヨウ素、臭素又は塩素の重量パーセントが0.2〜2の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【0015】
10.前記ヨウ素がヨウ素化連鎖移動剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【0016】
11.前記臭素が臭素化連鎖移動剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【0017】
12.前記塩素が塩素化連鎖移動剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【0018】
13.前記連鎖移動剤がペルフルオロ化ヨード化合物である、請求項10に記載の組成物。
【0019】
14.前記連鎖移動剤がペルフルオロ化ブロモ化合物である、請求項11に記載の組成物。
【0020】
15.前記連鎖移動剤がペルフルオロ化クロロ化合物である、請求項12に記載の組成物。
【0021】
16.前記フルオロポリマーが、ASTM D1646−06 TYPE Aに従うと、100℃にて12以下のムーニー粘度(ML 1+10)を有する、請求項1に記載の組成物。
【0022】
17.
(a)
(i)25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有する、ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、
(ii)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、を含む組成物を提供すること、
(b)助剤を提供すること、並びに、
(c)前記組成物を硬化させること、により調製可能であるフルオロエラストマーであって、前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、フルオロエラストマー。
【0023】
18.
(a)基材を提供する工程と、
(b)前記基材上に請求項1に記載の組成物を配置する工程と、
(c)前記組成物を硬化させる工程と、を含む現場硬化プロセスであって、前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、現場硬化プロセス。
【0024】
19.
(a)ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、
(b)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、
(c)助剤と、
を含む組成物から誘導される現場硬化物品であって、前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、現場硬化物品。
【0025】
20.請求項1に記載のフルオロポリマー組成物を含む溶液。
【0026】
21.請求項1に記載のフルオロポリマー組成物を含む水性分散体。
【0027】
22.請求項20に記載の溶液を含むコーティング組成物。
【0028】
23.請求項22に記載のコーティング組成物を含む、硬化コーティング組成物。
【0029】
24.請求項21に記載の分散体を含むコーティング組成物。
【0030】
25.請求項24に記載のコーティング組成物を含む、硬化コーティング組成物。
【0031】
上記の本開示の概要は、本発明のそれぞれの実施形態を説明することを目的としたものではない。本発明の1つ以上の実施形態の詳細を以下の説明文においても記載する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、その説明文から、また「特許請求の範囲」から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0032】
非晶質フルオロポリマー又はフルオロエラストマーについての硬化温度は、シリコーンエラストマーなどの非フルオロカーボンエラストマーについての硬化温度よりも一般に高い。非晶質フルオロポリマー又はフルオロエラストマーについての硬化温度は、一般に、約160℃〜約180℃の範囲である。非晶質フルオロポリマーを硬化させるのに高温が必要とされるため、非晶質フルオロポリマーを含有する化合物は、他のプラスチック又は他の種類のエラストマーと共に成形若しくは加工するのが困難である。
【0033】
ヨウ素硬化部位又はヨウ素末端基を有するペルオキシド硬化性フルオロエラストマーは、周知である。ヨウ素硬化部位又はヨウ素末端基を有するフルオロエラストマーの硬化速度は、臭素硬化部位又は臭素末端基を有するフルオロエラストマーの硬化速度よりも速い。当業者が評価するところでは、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン(DBPH)ペルオキシドは、1970年代以来、ヨウ素硬化部位を有するペルオキシド硬化性フルオロエラストマーにとって標準的なペルオキシドとして広く使用されている。ペルオキシド硬化性フルオロエラストマーを調製するために使用される更に他の既知のペルオキシドとしては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキサン(DBPH)、ジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン及びジクミルペルオキシドが挙げられる。しかしながら、現在知られているペルオキシド硬化系は、低温にて急速な硬化を提供しない。
【0034】
本開示は、これらの組成物から誘導される物理的特性を損なうことなく、低温にて急速に硬化させることができる非晶質フルオロポリマーの組成物を提供する。これらの非晶質フルオロポリマーはまた低粘度を呈し得、これは、圧延及び成形用途で並びに現場硬化用途に有用であり得る。本開示の組成物はまた、1種以上の従来の補助剤、例えば、充填剤、酸受容体、加工助剤、又は着色剤などを含んでもよい。
【0035】
本明細書にて開示するフルオロポリマーは少なくとも2種の主要モノマー由来の1つ以上のインターポリマー化単位を含んでよい。主要モノマーとして好適な候補の例としては、ペルフルオロオレフィン(例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP))、ペルフルオロビニルエーテル(例えば、ペルフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)及びペルフルオロアルコキシビニルエーテル(PAOVE))、並びにオレフィンなどの水素含有モノマー(例えば、エチレン、プロピレン及びこれらに類するもの)、並びにフッ化ビニリデン(VDF)が挙げられる。このようなフルオロポリマーとしては、例えば、フルオロエラストマーゴムが挙げられる。
【0036】
当業者は、エラストマーのポリマーを形成するために好適な量で特定のインターポリマー化単位を選択することができる。それゆえに、インターポリマー化単位の好適な濃度は、モル%に基づき、エラストマーの重合性組成物を得るために選択される。
【0037】
フルオロポリマーがペルハロゲン化され、好ましくはペルフルオロ化された場合、それは、TFE及び/又はCTFE(場合によりHFPを包含する)由来のそれぞれインターポリマー化単位を少なくとも50モルパーセント(mol%)含有する。フルオロポリマーのインターポリマー化単位の残部(10〜50モル%)は、1種以上のペルフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)及び/又はペルフルオロアルコキシビニルエーテル(PAOVE)並びに好適な硬化部位ポリマーから構成される。代表的なフルオロポリマーはTFE及び少なくとも1種のペルフルオロアルキルビニルエーテルの主要モノマー単位で構成される。このようなコポリマーでは、共重合ペルフルオロ化エーテル単位はポリマー中に存在する全モノマー単位の約10〜約50モル%、好ましくは約15〜約35モル%を構成する。
【0038】
フルオロポリマーがペルフルオロ化されていない場合、それは、TFE、CTFE、及び/又はHFP由来のそれぞれのインターポリマー化単位の約5モル%〜約90モル%、VDF、エチレン、及び/又はプロピレン由来のそれぞれのインターポリマー化単位の約5モル%〜約90モル%、ビニルエーテル由来のそのインターポリマー化単位の約40モル%以下、並びに、約0.1モル%〜約5モル%、好ましくは約0.3モル%〜約2モル%の好適な硬化部位モノマー、を含有する。
【0039】
好適なペルフルオロ化エーテルとしては、次式のものが挙げられる:
CF=CFO−(CF−(O(CF−OR(式1)(式中、Rは、ペルフルオロ化(C1〜C4)アルキル基であり、m=1〜4、n=0〜6及びp=1〜2である)、又は、
CF=CF(CF−O−R(式2)(式中、m=1〜4であり、Rは場合によりO原子を含有するペルフルオロ化脂肪族基である)。これらのペルフルオロ化エーテルは、それらをその他のコモノマーと共重合する前に、乳化剤で予め乳化させてよい。
【0040】
代表的なペルフルオロアルコキシビニルエーテルとしては、CF=CFOCFOCF、CF=CFOCFOCFCF、CF=CFOCFCFOCF、CF=CFOCFCFCFOCF、CF=CFOCFCFCFCFOCF、CF=CFOCFOCFCF、CF=CFOCFCFOCFCF、CF=CFOCFCFCFOCFCF、CF=CFOCFCFCFCFOCFCF、CF=CFOCFCFOCFOCF、CF=CFOCFCFOCFCFOCF、CF=CFOCFCFOCFCFCFOCF、CF=CFOCFCFOCFCFCFCFOCF、CF=CFOCFCFOCFCFCFCFCFOCF、CF=CFOCFCF(OCFOCF、CF=CFOCFCF(OCFOCF、CF=CFOCFCFOCFOCFOCF、CF=CFOCFCFOCFCFCF及びCF=CFOCFCFOCFCFOCFCFCFが挙げられる。ペルフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)及びペルフルオロアルコキシビニルエーテル(PAOVE)の混合物も採用され得る。本開示において有用なペルフルオロオレフィンとしては、式:CF=CF−R(式中、Rはフッ素、又は炭素原子1〜8個、好ましくは1〜3個のペルフルオロアルキルである)であるものが挙げられる。
【0041】
代表的なペルフルオロアルコキシアリルエーテルとしては、CF=CFCFOCFCFOCF、CF=CFCFOCFCF CFOCF及びCF=CFCFOCFOCFが挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態では、部分フッ素化モノマー又はオレフィンなどの水素含有モノマー(例えば、エチレン、プロピレン、など)、及びフッ化ビニリデンを、フルオロポリマー内にて使用することができる。代表的な部分フッ素化ポリマーとしては、商品名「AFLAS」(旭硝子株式会社、日本、東京)で入手可能なポリマーなどの、TFE及びプロピレンの主要モノマー単位が挙げられる。別の代表的な部分フッ素化ターポリマーは、テトラフルオロエチレン、プロピレン及びビニリデンフルオリドの主要モノマー単位を有し、商品名「BRE 7231X」(Dyneon LLC,Minnesota,USA)で入手可能なポリマーなどである。
【0043】
本明細書にて開示する非晶質フルオロポリマーは、重合、凝固/乾燥、圧延、コンパウンド化、プレフォーミング、及び硬化/成形を含む一連の工程によって製造される。一実施形態では、水性乳化重合は定常状態下にて連続的に実施することができる。本実施形態では、例えば、既に開示された式(1)及び(2)のペルフルオロエーテルの水性乳濁液、並びにその他のモノマー、水、乳化剤、緩衝剤及び触媒を、最適な圧力及び温度条件下にて撹拌反応容器に連続的に供給し、一方では、生成したエマルション又は懸濁液を連続的に取り出す。いくつかの実施形態では、前述の成分を撹拌反応容器に供給し、規定された時間にわたり設定温度でそれらを反応させることによるか、又は成分を反応容器に充填し、所望量のポリマーが形成されるまでモノマーを反応容器に供給し一定の圧力を維持することによるバッチ若しくは半バッチ重合が実施される。重合後に、反応容器廃液ラテックスから、減圧での蒸発によって未反応モノマーを除去する。ポリマーを凝固によりラテックスから回収する。
【0044】
一般に、重合は過硫酸アンモニウムなどのフリーラジカル反応開始剤系の存在下で実施される。重合反応は連鎖移動剤及び錯化剤などの他の構成成分を更に含んでよい。一般に、重合は10℃〜100℃、好ましくは30℃〜80℃の温度にて実施される。重合圧は、通常は0.3MPa〜30MPaの範囲であり、いくつかの実施形態では2MPa〜20MPaの範囲である。
【0045】
エマルション重合を実施する場合、無乳化剤重合に加えて、ペルフルオロ化、部分フッ素化、APFO(アンモニウムペルフルオロオクタネート)を含まない乳化剤を使用してよい。一般に、これらのフッ素化乳化剤はポリマーに対して約0.02重量%〜約3重量%で含まれる。フッ素化乳化剤で製造したポリマー粒子は通常、動的光散乱法技術による同定で、約10nm〜約300nmの範囲、いくつかの実施形態では約50nm〜約200nmの範囲の平均直径を有する。
【0046】
このようなフッ素化及び部分フッ素化乳化剤としては、フッ素含有モノマーの乳化重合にて一般に使用されるようなものが挙げられる。このような乳化剤の例としては、フルオロアルキル、好ましくはペルフルオロアルキル、カルボン酸及び6〜20個の炭素原子、好ましくは6〜12個の炭素原子を有するこれらの塩、例えばアンモニウムペルフルオロオクタノエート(APFO)及びアンモニウムペルフルオロノナノエートが挙げられる(例えば米国特許第2,559,752号(Berry)を参照されたい)。
【0047】
このような乳化剤の更なる例としては、式[R−O−L−COOi+を有する、ペルフルオロ化及び部分フッ素化乳化剤も挙げられ、式中、Lは直鎖の、部分的に若しくは完全にフッ素化されたアルキレン基又は脂肪族炭化水素基を表し、R基は直鎖の、部分的に若しくは完全にフッ素化された脂肪族基又は1つ以上の酸素原子によって中断された直鎖の、部分的に若しくは完全にフッ素化された脂肪族基を表し、Xi+は価数iを有するカチオンを表し、iは1、2又は3である(例えば、米国特許第2007/0015864号(Hinzter et al.)を参照されたい)。
【0048】
このような乳化剤の更なる例としては、式(I)又は(II)を有するペルフルオロ化ポリエーテル乳化剤もまた挙げられ、CF−(OCF−O−CF−X(I)において、mは、1〜6の値を有し、Xはカルボン酸基又はその塩を表し、CF−O−(CF−(OCF(CF)−CF−O−L−Y(II)において、zは0、1、2又は3の値を有し、Lは−CF(CF)−、−CF−及び−CFCF−から選択される二価連結基を表し、Yはカルボン酸基又はその塩を表す(例えば、米国特許出願公開第2007/0015865号(Hintzer et al.)を参照されたい)。
【0049】
このような乳化剤の更なる例としては、式R−O(CFCFO)CFCOOAを有するペルフルオロ化ポリエーテル乳化剤が挙げられ、式中、Rはn=1〜4のC(2n+1)であり、Aは水素原子、アルカリ金属又はNHであり、mは1〜3の整数である(例えば、米国特許第2006/0199898号(Funaki;Hiroshi et al)を参照されたい)。このような乳化剤の更なる例としては、式F(CFO(CFCFO)CFCOOAを有するペルフルオロ化乳化剤もまた挙げられ、式中、Aは水素原子、アルカリ金属又はNHであり、nは3〜10の整数であり、mは0又は1〜3の整数である(例えば、米国特許出願公開第2007/0117915号(Funaki;Hiroshi et al)を参照されたい)。
【0050】
このような乳化剤の更なる例としては、米国特許第6,429,258号(Morgan et al.)に記載されているようなフッ素化ポリエーテル乳化剤、並びにペルフルオロ化された又は部分フッ素化されたアルコキシ酸及びこれらの塩(ここで、ペルフルオロアルコキシのペルフルオロアルキル成分は4〜12個の炭素原子、好ましくは7〜12個の炭素原子を有する)が挙げられる(例えば、米国特許第4,621,116号(Morgan)を参照されたい)。
【0051】
他の代表的乳化剤としては、式[R−(O)−CHF−(CF−COO−]i+を有する、部分フッ素化ポリエーテル乳化剤が挙げられ、式中、Rは部分的に又は完全にフッ素化された脂肪族基(所望により、1つ以上の酸素原子によって中断されている)を表し、tは0又は1であり、nは0又は1であり、Xi+は価数iを有するカチオンを表し、iは1、2、又は3である(例えば米国特許出願公開第2007/0142541号(Hintzer et al.)を参照)。
【0052】
より代表的な乳化剤としては、米国特許出願公開第2006/0223924号(Tsuda;Nobuhiko et al.)、同第2007/0060699号(Tsuda;Nobuhiko et al)、同第2007/0142513号(Tsuda;Nobuhiko et al)及び同第2006/0281946号(Morita;Shigeru et al.)に記載されているようなペルフルオロ化又は部分フッ素化エーテル含有乳化剤が挙げられる。
【0053】
ペルフルオロ化、部分フッ素化及び/又はAPFO(アンモニウムペルフルオロオクタネート)を含まない乳化剤は、米国特許第5,442,097号(Obermeier et al.)、同第6,613,941号(Felix et al.)、同第6,794,550号(Hintzer et al.)、同第6,706,193号(Burkard et al.)及び同第7,018,541号(Hintzer et al.)に記載のように、フルオロポリマーラテックスから取り除くか又は再利用することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、重合プロセスは、フッ素化乳化剤を全く用いずに実施してもよい。乳化剤なしで製造されたポリマー粒子は通常、動的光散乱法技術による同定で、約40nm〜約500nmの範囲、典型的には約100nm〜約400nmの範囲の平均直径を有するが、これに対して懸濁重合では通常、数ミリメートル以下の粒径を生じる。
【0055】
いくつかの実施形態では、既に開示したような式1及び/又は式2の液体ペルフルオロエーテルはガス状フッ素化モノマーと共重合する前に、フッ素化乳化剤を使用して水中で予め乳化させることができる。液体フッ素化モノマーの事前乳化により、好ましくは約1μm以上(米国特許第6,677,414号に記載されているように、期待される範囲は約1μm〜20μmである)の直径を有するモノマー液滴を有するエマルションがもたらされる。
【0056】
いくつかの実施形態では、水溶性反応開始剤を使用して、重合プロセスを開始することができる。過硫酸アンモニウムなどのペルオキシ硫酸の塩は通常、単独で又は場合により亜硫酸水素塩若しくはスルフィン酸塩(米国特許第5,285,002号及び同第5,378,782号(Grootaert)に開示されている)又はヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩(商品名「RONGALIT」(BASF Chemical Company,New Jersey,USA)にて販売されている)などの還元剤の存在下のいずれかで適用される。これらの反応開始剤及び乳化剤の大部分はそれらが最も効率的となる最適なpH範囲を有する。このため、いくつかの実施形態では緩衝剤が使用される場合がある。緩衝剤としては、ホスフェート、アセテート若しくはカーボネート緩衝剤又は任意のその他の酸若しくは塩基、例えばアンモニア若しくはアルカリ金属水酸化物が挙げられる。反応開始剤及び緩衝剤の濃度範囲は、水性重合媒体を基準として0.01重量%〜5重量%で変えることができる。
【0057】
本開示のフルオロポリマーのうちの少なくとも1つは、ASTM D1646−06 TYPE Aに従うと、100℃にて12以下のムーニー粘度(ML 1+10)を有するように、有効量の硬化部位を有する。末端基は、フルオロポリマーのうちの少なくとも1つの鎖端に化学結合したヨウ素、臭素、塩素末端基であり得る。ヨウ素、臭素又は塩素の重量パーセントは約0.2重量%〜約2重量%、好ましくは約0.3重量%〜約1重量%の範囲であってよい。
【0058】
本開示では、ヨウ素連鎖移動剤、臭素連鎖移動剤又は塩素連鎖移動剤のうちのいずれかを重合プロセスに使用することができる。例えば、重合において好適なヨウ素連鎖移動剤には、式RIが挙げられ、式中、(i)Rは3〜12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル又はクロロペルフルオロアルキル基であり、(ii)x=1又は2である。ヨウ素連鎖移動剤はペルフルオロ化ヨード化合物であってよい。代表的なヨード−ペルフルオロ化合物としては、1,3−ジヨードペルフルオロプロパン、1,4−ジヨードペルフルオロブタン、1,6−ジヨードペルフルオロヘキサン、1,8−ジヨードフルオロオクタン、1,10−ジヨードペルフルオロデカン、1,12−ジヨードペルフルオロドデカン、2−ヨード−1,2−ジクロロ−1,1,2−トリフルオロエタン、4−ヨード−1,2,4−トリクロロペルフルオロブタン及びこれらの混合物が挙げられる。いくつかの実施形態では、臭素は、式RBrの臭素化連鎖移動剤に由来し、式中、(i)Rは3〜12個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル又はクロロペルフルオロアルキル基であり、(ii)x=1又は2である。連鎖移動剤はペルフルオロ化ブロモ化合物であってよい。
【0059】
硬化部位モノマーは、式a)CX=CX(Z)からなる1種以上の化合物に由来し、式中、(i)Xはそれぞれ独立してH又はFであり、(ii)ZはI、Br、R−Uであり、ここで、U=I又はBrであり、Rはペルフルオロ化又は部分的ペルフルオロ化アルキレン基であって、場合によりO原子を含有する。加えて、非フッ素化ブロモ又はヨードオレフィン、例えば、ヨウ化ビニル及びヨウ化アリルを使用することができる。いくつかの実施形態では、硬化部位モノマーは、以下のものからなる群から選択される1つ以上の化合物から誘導される:CH=CHI、CF=CHI、CF=CFI、CH=CHCHI、CF=CFCFI、CH=CHCFCFI、CF=CFCHCHI、CF=CFCFCFI、CH=CH(CFCHCHI、CF=CFOCFCFI、CF=CFOCFCFCFI、CF=CFOCFCFCHI、CF=CFCFOCHCHI、CF=CFO(CF−OCFCFI、CH=CHBr、CF=CHBr、CF=CFBr、CH=CHCHBr、CF=CFCFBr、CH=CHCFCFBr、CF=CFOCFCFBr、CF=CFCl、CF=CFCFCl及びこれらの混合物。
【0060】
連鎖移動剤及び/又は硬化部位モノマーはバッチ充填又は連続供給によって反応容器内へ供給することができる。連鎖移動剤及び/又は硬化部位モノマーの供給量はモノマー供給量と比較して相対的に少ないため、連鎖移動剤及び/又は硬化部位モノマーの少量を反応容器内へ連続供給することは、調整するのが難しい。1種以上のモノマー中のヨウ素連鎖移動剤のブレンドによって、連続供給を得ることができる。このようなブレンドのための代表的モノマーとしては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
得られたフルオロポリマーラテックスを凝固させるために、フルオロポリマーラテックスの凝固に通常使用されるいずれかの凝固剤を使用してもよく、これは例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム又は硝酸アルミニウムなどの水溶性塩、硝酸、塩酸又は硫酸などの酸、あるいは、アルコール又はアセトンなどの水溶性有機液体であってもよい。添加される凝固剤の量は、フッ素化エラストマーラテックス100質量部当たり0.001〜20質量部の範囲、特に好ましくは0.01〜10質量部の範囲である。更に、フッ素化エラストマーラテックスは、凝固のために冷凍され得る。
【0062】
凝固したフッ素化エラストマーは好ましくは、濾過により回収し、洗浄水で洗浄する。洗浄水は、例えば、イオン交換水、純水又は超純水であってよい。洗浄水の量はフッ素化エラストマーの1〜5倍の質量であってよく、フッ素化エラストマーに結合した乳化剤の量は1回の洗浄によって十分に減少させることができる。
【0063】
ペルオキシド硬化フルオロエラストマーは、助剤、過酸化物及びカーボンブラックなどの充填剤を添加するためのコンパウンドプロセスを必要とする。典型的なコンパウンドプロセスは2ロールミルを使用することである。未加工の又はコンパウンド化したゴムの粘度が低すぎる場合、未加工の又はコンパウンド化したゴムはミルに張り付き、加工が困難となる。驚くべきことに、本発明のフルオロエラストマーはコンパウンド中にロールミルにほとんど張り付かない。
【0064】
いくつかの実施形態では、架橋性フルオロポリマー組成物は、内部ミキサー(例えば、バンベリーミキサー(Banbury mixers))、ロールミルなどの通常のゴム混合装置のうち任意のものを使用して、硬化性構成成分とコンパウンド化し、又は1つの若しくはいくつかの工程で混合することができる。最良の結果を得るには、混合物の温度が約50℃を超えて上昇してはならない。混合中、効果的な硬化のために、構成成分及び添加剤を全体に均一に分布させる必要がある。
【0065】
フルオロエラストマー組成物を使用して、物品を形成することができる。本明細書で使用するとき、用語「物品」とは、O−リングなどの最終物品を意味するか、及び/又はそこから最終の形状が作製されるプレフォーム、例えばそこからリングが切断される押し出されたチューブを意味する。物品を形成するために、フルオロエラストマー組成物は、スクリュータイプ押出成形機又はピストン押出成形機を使用して押出加工することができる。未硬化押出又は予成形されたエラストマーは、周囲気圧で炉にて硬化させることができる。典型的な炉温度は70℃〜150℃であり、時間は部品の厚みに応じて10分〜24時間である。あるいは、フルオロエラストマー組成物は射出成形、トランスファー成形又は圧縮成形を使用して物品へ成形することができる。驚くべきことに、本開示のフルオロエラストマー組成物はまた、現場硬化させることができる。
【0066】
このフルオロエラストマー組成物はまた、現場硬化ガスケット(CIPG)又は現場成形ガスケット(FIPG)を調製すべくロボット分与するために使用することもできる。フルオロエラストマー組成物のビーズ又は糸は、ノズルから基材表面上に付着させることができる。所望のガスケットパターンに成形した後、エラストマー糸は、熱を用いて現場硬化され得る。未硬化のエラストマーもまた、周囲気圧で炉にて硬化させることができる。
【0067】
フルオロエラストマー組成物は、硬化及び/又は未硬化コーティング材を作製するために使用可能な、溶液を調製するために使用することもできる。これらコーティング材でコーティングすることができる基材としては、金属、ガラス、布地、ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。固体量は最大で80%であり得、フルオロエラストマーは、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン、又は、酢酸メチル及び酢酸エチルなどのエステルといった溶媒に溶解させることができる。メタノールもまた、溶媒として使用することができる。
【0068】
コーティング用途のために、ペルオキシド及び助剤と混合したフルオロポリマーの水性分散体が所望され、したがって、フルオロポリマーは、分散体から分離する又は凝固させる必要はない。例えば、布地の含浸における、又は例えば調理器具を製造するための金属基材のコーティングにおける、などのコーティング用途で使用するのに好適なフルオロポリマー分散体を得るためには、一般には、更なる安定化界面活性剤を添加すること、及び/又はフルオロポリマー固体を更に増加させることが望ましい。例えば、非イオン性安定化界面活性剤をフルオロポリマー分散体に添加してもよい。典型的には、これらは、フルオロポリマー固体に対して1〜12重量%の量でそれらに添加される。代表的な非イオン性界面活性剤としては、下記の式に従うものが挙げられる:
R1−O−[CHCHO]n−[R2O]m−R3
式中、R1は少なくとも8個の炭素原子を有する芳香族又は脂肪族炭化水素基を表し、R2は3個の炭素原子を有するアルキレンを表し、R3は水素又はC1〜C3アルキル基を表し、nは0〜40の値を有し、mは0〜40の値を有し、かつn+mの合計は少なくとも2である。上記式において、n及びmにより示される単位は、ブロックのように見えてよく、それらは交互の構成若しくはランダムな構成で存在してよいということが理解されるであろう。上記式に従う非イオン性界面活性剤の例としては、例えば、エトキシ単位の数が約10である商品名「TRITON X 100」又はエトキシ単位の数が約7〜8の商品名「TRITON X 114」として入手可能なものなどの、商品名「TRITON」として市販されているエトキシル化p−イソオクチルフェノールのような、アルキルフェノールエトキシレートが挙げられる。尚、更なる例としては、上式のR1が炭素原子4〜20のアルキル基を表し、mが0であり、R3が水素であるものが挙げられる。それらの例としては、約8個のエトキシ基でエトキシ化されたイソトリデカノールが挙げられ、これは「GENAPOL X080」の商標名にてClariant GmbHから市販されている。親水性部分がエトキシ基及びプロポキシ基のブロックコポリマーを含む、上記式による非イオン性界面活性剤も同様に使用してよい。このような非イオン性界面活性剤は、商品名「GENAPOL PF 40」、及び「GENAPOL PF 80」で、Clariant GmbHから市販されている。
【0069】
分散体中のフルオロポリマー固体の量は、必要に応じ又は場合により、30〜70重量%の量まで高濃縮されてよい。限外濾過及び熱的高濃縮を包含する、いかなる既知の高濃縮技術を用いてもよい。
【0070】
未硬化エラストマーは多数の技術のうちの任意の1つを使用して成形することができる。いくつかの実施形態では、未硬化エラストマーは、多量の低温未硬化エラストマー混合物を加熱したキャビティ内へ配置すること、かつ引き続いて、適切な圧力を使用して金型を型締めして物品を形成することによって圧縮成形される。エラストマーを十分な温度で十分な時間保持して加硫させた後、型から取り出すことができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、未硬化エラストマーは、最初にエラストマー混合物を押出機スクリュー内で加熱及び素練りし、次にエラストマー混合物を加熱したチャンバ(そこからハイドロリックピストンによって、中空キャビティ内へとエラストマー混合物が注入される)内に収集することによって射出成形される。加硫後、更に物品を型から取り出すことができる。
【0072】
射出成形プロセスの利点としては、短い成形サイクル、予備成形準備がほとんど又は全く無いこと、除去するフラッシュがほとんど又は全く無いこと、及びスクラップ発生率が低いことが挙げられる。コンパウンド粘度が低い場合、シリンダー、バレル及びスクリュー温度を低くすることができ、かつモールドへ流し込む間の焦げ付きのリスクがより少ない。また、コンパウンド粘度を下げることで、充填又は注入時間を向上させることもできる。典型的なモールド温度は120℃〜220℃であり、加熱又は成形時間は部品の厚みに応じて20秒〜3分である。
【0073】
いくつかの実施形態では、エラストマー混合物はトランスファー成形される。トランスファー成形は、エラストマー混合物が予熱されず、かつ押出機スクリューによって素練りされるが、加熱した注入チャンバ内に冷たい塊として導入されるという点が異なる以外は、射出成形に類似している。フルオロエラストマー混合物の典型的な硬化条件は、高温、例えば約120℃〜約220℃、7バール超の圧力及びこれらの条件を30秒にわたって維持することであり、高速射出成形プロセスではより大きな圧縮成形物品に対しては5分以上である。
【0074】
コンパウンド混合物の加圧(すなわち、プレス硬化)は典型的には約70〜190℃、好ましくは約110〜150℃の温度で、約0.5分〜約15時間にわたって、通常は約1〜15分にわたって実施される。通常、約700〜20,000kPa、好ましくは約3400〜約6800kPaの圧力が組成物成形に使用される。成形された加硫ゴムは、更なる硬化(後硬化)は行わずに物品として使用することができる。最初に、モールドを離型剤でコーティングし、プレベークしてよい。
【0075】
典型的な成形加硫ゴムは、使用するポリマーのタイプ及びサンプルの断面厚に応じて、約120〜300℃の温度で、好ましくは約150〜250℃の温度で、約30分〜24時間以上にわたって、炉にて後硬化させることができる。
【0076】
非晶質フルオロポリマーコンパウンドはまた、フルオロポリマーの加硫を可能とする硬化剤も含む。本開示の硬化剤は、例えば、ペルオキシド及び1種以上の助剤などの硬化性物質を含む。本開示のペルオキシド硬化剤としては、有機ペルオキシドが挙げられる。代表的な有機ペルオキシドとしては、半減期が10時間である温度が90℃未満である低温活性ペルオキシドが挙げられる。いくつかの実施形態では、低温活性ペルオキシドは、半減期が10時間である温度が40℃を超える。有機ペルオキシドの更なる非限定例としては、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドが挙げられる。
【0077】
表1の半減期が10時間である温度は、有機ペルオキシドの半分の量が10時間以内に分解される温度である。半減期温度が低過ぎる場合、コンパウンドスコーチの危険性が高くなる。例えば、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどの有機ペルオキシドを有するフルオロエラストマー化合物の硬化速度(90%硬化時間、t’90)は、DBPHペルオキシドを有するフルオロエラストマー化合物の硬化速度よりも著しく速い。驚くべきことに、本発明の超低粘性フルオロエラストマーは、スコーチなしで、例えば、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド及びベンゾイルペルオキシドなどの有機ペルオキシドと混合することができ、得られる化合物は110℃においても10分で硬化することができる。
【0078】
【表1】

【0079】
CAS登録番号:Chemical abstracts service登録番号
通常使用されるペルオキシド硬化剤の量は、フルオロポリマー100重量部あたり0.1〜5重量部の範囲、好ましくは1〜3重量部の範囲である。
【0080】
ペルオキシド硬化系では、多くの場合、助剤を含むことが望ましい。当業者は、所望の物理的性質に基づいて従来の助剤を選択することができる。このような剤の非限定例としては、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリ(メチル)アリルシアヌレート、ポリ−トリアリルイソシアヌレート(ポリ−TAIC)、キシリレン−ビス(ジアリルイソシアヌレート)(XBD)、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、亜リン酸トリアリル、1,2−ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、などが挙げられる。別の有用な助剤は、式CH2=CH−Rf1−CH=CH2で表してよく、式中、Rf1は1〜8個の炭素原子からなるペルフルオロアルキレンであってよい。このような助剤は最終硬化エラストマーの機械的強度を向上させる。それらは一般に、フルオロカーボンポリマー100部当たり、1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の量で使用される。
【0081】
フルオロポリマー、特にVDF含有フルオロエラストマーはポリヒドロキシ硬化系を使用して硬化してよい。このような場合、フルオロポリマーが硬化部位構成成分を含む必要はない。ポリヒドロキシ硬化系は一般に、1種以上のポリヒドロキシ化合物及び1種以上の有機オニウム促進剤を含む。有用な有機オニウム化合物は通常、有機部分又は無機部分に結合した少なくとも1個のへテロ原子、即ち、非炭素原子、例えばN、P、S、Oを含む。四級有機オニウム化合物の1つの有用な部類は相対的に正の及び相対的に負のイオンを広く含み、ここで、リン、ヒ素、アンチモン又は窒素が一般に、正イオンの中心原子を構成する。負のイオンは、有機又は無機アニオン(例えば、ハロゲン化物、サルフェート、アセテート、ホスフェート、ホスホネート、水酸化物、アルコキシド、フェノキシド、ビスフェノキシド、など)であってよい。
【0082】
多くの有機オニウム化合物が開示されている。例えば、米国特許第4,233,421号(Worm)、同第4,912,171号(Grootaert et al.)、同第5,086,123号(Guenthner et al.)、同第5,262,490号(Kolb et al.)及び同第5,929,169号(Jing et al.)を参照されたい。有用な有機オニウム化合物の部類としては、1つ以上のペンダントフッ素化アルキル基を有するようなものが挙げられる。通常最も有用な部類のフッ素化オニウム化合物は、米国特許第5,591,804号(Coggio et al.)に開示されている。
【0083】
ポリヒドロキシ化合物は、その遊離又は非塩形態で、又は選択した有機オニウム促進剤のアニオン部分として使用してよい。架橋剤はフルオロエラストマーのための架橋剤又は共硬化剤として機能する任意のポリヒドロキシ化合物であることができ、例えば米国特許第3,876,654号(Pattison)及び同第4,233,421号(Worm)にて開示されるポリヒドロキシ化合物のようなものである。最も有用なポリヒドロキシ化合物の1つとしては、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデニルビスフェノール(より一般的にはビスフェノールAFとして知られている)などの芳香族ポリフェノールが挙げられる。化合物4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールSとしても知られている)及び4,4’−イソプロピリデニルビスフェノール(ビスフェノールAとしても知られている)もまた、幅広く実用化されている。
【0084】
フルオロポリマー、特にVDF含有フルオロエラストマーはまた、ポリアミン硬化系を使用して硬化してもよい。有用なポリアミンの例としては、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、トリメチレンジアミン、シンナミリデントリメチレンジアミン、シンナミリデンエチレンジアミン、及びシンナミリデンヘキサメチレンジアミンが挙げられる。有用なカルバメートの例は、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンカルバメート、1,3−ジアミノプロパンモノカルバメート、エチレンジアミンカルバメート及びトリメチレンジアミンカルバメートである。通常は、約0.1〜5phrのジアミンが使用される。
【0085】
カーボンブラック、安定剤、可塑剤、潤滑剤、充填剤などの添加剤、及び一般にフルオロポリマーコンパウンド化にて利用される加工助剤は、組成物中へ組み込むことができるが、意図した使用条件で適切な安定性を有することが条件である。特に、ペルフルオロポリエーテルを組み込むことによって、低温性能を向上させることができる。例えば、米国特許第5,268,405号(Ojakaar et al.)を参照されたい。カーボンブラック充填剤はまた、通常、組成物の引張応力、引張り強度、伸長、硬度、磨耗耐性、伝導度、及び加工性などを調整するための手段として、フルオロポリマー中で用いられる。好適例としてはMTブラックス(メディアム・サーマル・ブラック)(名称:N−991、N−990、N−908、及びN−907)、FEF N−550、並びに大粒径ファーネスブラックが挙げられる。使用する場合、フルオロポリマー100部当たり(phr)1〜100部の大粒径ブラックの充填剤で一般に十分である。
【0086】
フルオロポリマー充填剤もまた、組成物中に存在してよい。一般に、1〜100phrのフルオロポリマー充填剤が使用される。フルオロポリマー充填剤は、微粉化することができ、かつ本発明の組成物の製造及び硬化で使用される最高高温で、固体として容易に分散させることができる。固体である場合、充填剤材料(部分的に結晶化している場合)が硬化性組成物(類)の加工温度(単一又は複数)より高い結晶融解温度を有することを意味する。フルオロポリマー充填剤を組み込むための好ましい方法は、ラテックスをブレンドすることである。この手順は、様々な種類のフルオロポリマー充填剤を含み、米国特許第6,720,360号(Grootaert et al.)に記載されている。
【0087】
従来の補助剤を本発明の化合物中に組み込んで、化合物の性質を向上させてもよい。例えば、化合物の硬化及び熱安定性を促進するために酸受容体を用いてよい。好適な酸受容体としては、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、二塩基性亜リン酸鉛、酸化亜鉛、炭酸バリウム、水酸化ストロンチウム、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、アルカリステアレート、シュウ酸マグネシウム、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。酸受容体は、好ましくはポリマー100重量部当たり約1〜約20部の範囲の量で使用される。
【0088】
限定はしないが、以下の特定の実施例は、本発明を説明するために供されるであろう。これらの実施例では、全ての量は重量部又はゴム100重量部当たりの重量部(phr)で表される。
【実施例】
【0089】
実施例1
実施例1では、80リットル反応容器に、52,000グラムの水、40グラムの過硫酸アンモニウム(APS、(NH)及び160グラムの二塩基性リン酸カリウム(KHPO)の50%水溶液を充填した。反応容器を排気し、真空を破り、25psi(0.17MPa)になるまで窒素を圧入した。この真空及び加圧を3回繰り返した。酸素を除去した後、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)1,4−ジヨードオクタフルオロブタンとデカフルオロ−3−メトキシ−4−トリフルオロメチル−ペンタンのブレンドが入った反応容器を80℃まで加熱し、74psi(0.51MPa)まで加圧した。ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、1,4−ジヨードオクタフルオロブタンとHFE 7300のブレンドを調製するために、1リットルのステンレス鋼シリンダーを排気し、Nで3回パージした。1,4−ジヨードオクタフルオロブタン及びHFE 7300をシリンダーに添加した後、添加した1,4−ジヨードオクタフルオロブタンの量を基準としてHFPを添加した。次にブレンドを反応容器に取り付け、Nブランケットを使用して供給した。ブレンドは、89.9重量%のHFP、2.5重量%の1,4−ジヨードオクタフルオロブタン及び7.6重量%のHFE 7300を含有していた。次に、反応容器にフッ化ビニリデン(VDF)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)と1,4−ジヨードオクタフルオロブタンとHFE 7300の上記ブレンドを充填し、反応容器圧力を220psi(1.52MPa)にした。VDF及びHFP、1,4−ジヨードオクタフルオロブタンとHFE 7300のブレンドの全プレチャージは、それぞれ800グラム、及び1536グラムであった。反応容器を450rpmで撹拌した。重合反応でモノマーが消費されて反応容器圧力が低下するのに伴い、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)と1,4−ジヨードオクタフルオロブタンとHFE 7300のブレンド、及びVDFを反応容器へ連続的に供給し、圧力を220psi(1.52MPa)に維持した。ブレンドとVDFの比は、重量比で0.651であり、重合のために乳化剤は使用しなかった。6.2時間後に、モノマー及びブレンドの供給を停止させ、反応容器を冷却した。得られた分散体は固形物含有率29.7重量%及びpH 3.6を有した。分散体粒径は、323nmであり、分散体の総量は76,500グラムであった。
【0090】
凝固のために、1重量部のNHOHと25重量部の脱イオン水の混合物の19.54gを942gの上記のように調製したラテックスに添加した。混合物のpHは、6.7であった。この混合物を5重量%のMgCl水溶液2320mLへ添加した。凝固物をチーズクロスを通して濾過し、かつゆっくりと絞って余分な水を除去することによってクラムを回収した。クラムを凝固用容器へ戻し、脱イオン水にて全3回すすいだ。最後のすすぎ及び濾過の後で、クラムを130℃の炉内で16時間にわたって乾燥させた。得られたフルオロエラストマー未加工ゴムは、100℃にて4.9のムーニー粘度を有した。
【0091】
中性子放射化分析(NAA)によると、フルオロエラストマーは、0.63重量%のヨウ素を含有していた。FT−IR分析によると、フルオロエラストマーは、80.2モル%のVDFの共重合化単位及び19.8モル%のHFPを含有していた。
【0092】
粘弾性は、動的機械分析器RPA 2000装置(Alpha Technologies,Ohio,USAから入手可能)を使用し、ASTM D 6204−07に従って測定した。貯蔵弾性率(G’)は、10%のひずみ及び0.1〜209rad/秒の周波数(ω)にて測定した。これらの測定値での温度は25℃であった。0.1rad/秒及び6.3rad/秒(1Hz)での未加工ゴムの貯蔵弾性率(G’)データは、それぞれ194及び654kPaであった。
【0093】
ムーニー粘度又はコンパウンドムーニー粘度は、ASTM D1646−06 TYPE Aに従って、MV 2000装置(Alpha Technologies,Ohio,USAから入手可能)にて、大型ローター(ML 1+10)を用いて100℃にて測定した。結果はムーニー単位で報告されている。
【0094】
実施例2における硬化レオロジー測定と同一条件下にて、Moving Disk Rheometer(MDR、封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機)モードでAlpha Technologies Rubber Process Analyzerを使用して、フルオロエラストマー(未加工ゴム)の最小トルク(ML)を150℃にて測定した。このMLは、スコーチが全くない元々のフルオロエラストマー粘度についての対照として、使用した。試験結果を表2に要約する。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例2
3インチ(7.6cm)の2ロールミルを使用して、実施例1で調製したフルオロエラストマーを10部の二酸化ケイ素(U.S.Silica Company(Berkeley Springs,WV)から商品名「Min−U−Sil」5μmで入手可能)、3部のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)助剤(98%、日本化成株式会社(日本)から商品名「TAIC」で入手)及び2部のベンゾイルペルオキシド(BP)(CAS登録番号94−36−0)(Aldrich(Milwaukee,WI)から商品名「Luperox」A98で入手可能)とコンパウンドすることにより、フルオロエラストマー化合物を調製した。この化合物(化合物I)は、表3に示される。
【0097】
ASTM D5289−07に対応する条件下にて、Moving Disk Rheometer(MDR、封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機)モードでAlpha Technologies Rubber Process Analyzerを使用して、硬化特性を測定した。周波数は100cpmであり、ひずみは0.5度であった。以下のパラメーターが記録された。
【0098】
ML:インチ−lb(ニュートン−センチメートル)単位での最小トルクレベル
MH:インチ−lb(N−cm)単位での最大トルクレベル
Δトルク:最大トルク(MH)と最小トルク(ML)との間の差
ts2:2インチ−lb(22.6N−cm)が生じるのにかかる分
t’50:Δトルクの50%が生じるのにかかる分(50%硬化時間)
t’90:Δトルクの90%が生じるのにかかる分(90%硬化時間)
これらの硬化特性を表6に要約した。
【0099】
150℃における化合物の最小トルク(ML)を使用して、成分とのコンパウンド後の化合物のコンパウンドスコーチ状態を測定した。未加工ゴムのML(MLraw)と化合物のML(MLcomp.)との間の差が0.5インチ−lb(6.8N−cm)を超えると、化合物はコンパウンド中にスコーチを生じ得る。結果を表5に要約した。
【0100】
表3の化合物Iの成分をフルオロエラストマーAに添加する前に、2ロールミル上のフルオロエラストマーバンドの温度を測定して、混合によるせん断熱を検査した。水流によって冷却された2ロールミルの表面温度は、圧延開始前は25℃であった。2分にわたっての混合後のフルオロエラストマーの表面温度は、40.4℃であった。ポリマー表面温度及び硬化レオロジーを表5に要約した。
【0101】
化合物は、130℃にて5分にわたって15×7.5cm、2mm厚モールドを使用して、プレス硬化した。次に、プレス硬化シートを230℃にて4時間にわたって後硬化した。ASTMダイDにて、物理的性質のためのダンベルを硬化シートから切断した。プレス硬化し、かつ後硬化させたサンプルの物理的性質をASTM D 412−06aに従って試験した。試験結果を表4に要約する。
【0102】
化合物は、110℃にて15分にわたって214O−リング(AMS AS568)モールドを使用して、プレス硬化した。次に、プレス硬化O−リングを230℃にて4時間にわたって後硬化した。ASTM D 395−03 Method B及びASTM D 1414−94に従って、プレス硬化及び後硬化させたO−リングの圧縮永久歪みを22時間、200℃にて試験した。結果は、百分率で報告されている。試験結果を表6に要約する。
【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
表4のデータが示すところでは、本発明の過酸化ベンゾイル(実施例2)でのフルオロエラストマー化合物の硬化速度(90%硬化時間、t’90)は、TBIC又はDBPH(比較実施例1及び2)でのフルオロエラストマー化合物の硬化速度よりも著しく速い。
【0106】
【表5】

【0107】
表5のデータの示すところでは、フルオロエラストマーの貯蔵弾性率は、フルオロエラストマーが2ロールミルにより圧延されるときのポリマー表面温度と相関する。貯蔵弾性率が増大するにつれて、ポリマー表面温度は上昇する。実施例2及び3における過酸化ベンゾイルとのコンパウンド後、未加工ゴムの最小トルク(MLraw)と化合物(MLcomp.)の最小トルクとの間の差の有意な変化はなかった。しかしながら、比較例3のスコーチ状態係数(MLcomp.−MLraw)は、実施例2及び3の化合物よりも高かった。これが示すところでは、比較例3の化合物は、混合中のせん断熱に起因してスコーチを生じた。
【0108】
【表6−1】

【0109】
【表6−2】

比較例1
比較例1では、2部の過酸化ベンゾイルの代わりに1.9部の75%活性t−ブチルペルオキシ−イソプロピル−カーボネート(TBIC)のイソデカン溶液(Acros Organics USA(Morris Plains,NJ)から商品名「Trigonox」BPICで入手可能)を使用したことを除き、実施例2と同様に、化合物サンプルを調製した。化合物配合は表3の配合IIである。TBICの量は、2部の過酸化ベンゾイルと同じモル当量である。物理的特性及びO−リング圧縮永久歪みを試験するために、この化合物を150℃にて5分にわたってプレス加工し、その後、230℃にて4時間にわたって後硬化させた。試験結果を表4及び6に要約する。
【0110】
化合物は、130℃にて5分にわたって15×7.5cm、2mm厚モールドを使用して、プレス硬化した。次に、プレス硬化シートを230℃にて4時間、後硬化した。
【0111】
比較例2
比較例2では、2部の過酸化ベンゾイルの代わりに2.7部の90%活性2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(DBPH)(Aldrich(Milwaukee,WI)から商品名「Luperox」101で入手可能)を使用したことを除き、実施例2と同様に、化合物サンプルを調製し、試験した。化合物配合は表3の配合IIIである。DBPHの量は、2部の過酸化ベンゾイルと同じモル当量である。物理的特性及びO−リング圧縮永久歪みを試験するために、この化合物を177℃にて5分にわたってプレス硬化し、その後、230℃にて4時間にわたって後硬化させた。プレス硬化後、プレス硬化したシート上に多量の発泡が観察された。試験結果を表4及び6に要約する。
【0112】
(実施例3)
実施例3では、表2のペルオキシド硬化性フルオロエラストマーBをフルオロエラストマーとして使用したことを除き、実施例2と同様に、化合物サンプルを調製し、試験した。ブレンドが90.6重量%のHFPと2.3重量%の1,4−ジヨードオクタフルオロブタンと7.1重量%のHFE 7300とを含有したことを除き、実施例1と同様に、フルオロエラストマーBを重合した。FT−IR分析によると、このフルオロエラストマーは、80.1モル%のVDFの共重合化単位及び19.9モル%のHFPを含有していた。未加工ゴムのムーニー粘度(100℃にてML1+10)は12.2であった。混合成分について、水流により冷却された2ロールミルの表面温度は、圧延開始前には25℃であった。2分にわたっての混合後のフルオロエラストマーの表面温度は、43℃であった。試験結果を表5及び7に要約する。
【0113】
比較例3
比較例3では、フルオロエラストマーC(Dyneon LLC(Oakdale,MN)からのFC 2260)を表3のフルオロエラストマー(配合I)として使用した。未加工ゴムのムーニー粘度(100℃にてML1+10)は95.9であった。NAAによる臭素含有量は、0.24重量%であった。混合成分について、水流により冷却された2ロールミルの表面温度は、圧延開始前には25℃であった。2分にわたっての混合後のフルオロエラストマーの表面温度は、47℃であった。試験結果を表5及び7に要約する。
【0114】
比較例4
比較例4では、2部の過酸化ベンゾイルの代わりに1.9部の75%活性t−ブチルペルオキシ−イソプロピル−カーボネート(TBIC)のイソドデカン溶液を使用したことを除き、比較例3と同様に、化合物サンプルを調製し、試験した(表3の配合II)。試験結果を表5及び7に要約する。
【0115】
【表7】

【0116】
本明細書中に引用される特許、特許文献、及び刊行物の完全な開示は、それぞれが個々に組み込まれたかのように、その全体が参考として組み込まれる。本発明の範囲及び趣旨から逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する「特許請求の範囲」によってのみ限定されると意図する本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、
(b)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、
(c)助剤と、
を含む組成物であって、前記非晶質フルオロポリマーは、25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有し、
前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、組成物。
【請求項2】
前記非晶質フルオロポリマーが25℃及び0.1rad/sにて100kPa以上の貯蔵弾性率を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フルオロポリマーが、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル及びトリフルオロエチレンからなる群から由来するインターポリマー化単位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機ペルオキシドが0.1phr〜5phrで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記助剤が、トリ(メチル)アリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリ(メチル)アリルシアヌレート、ポリ−トリアリルイソシアヌレート(ポリ−TAIC)、キシレン−ビス(ジアリルイソシアヌレート)(XBD)、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、フタル酸ジアリル、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、亜りん酸トリアリル、1,2−ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、及び、式CH=CH−Rf1−CH=CHを有する化合物から選択され、式中、Rf1が1〜8個の炭素原子のペルフルオロアルキレンであってよい、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が1重量%〜10重量%の前記助剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記有機ペルオキシドが、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチレンヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチレンヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記硬化部位が末端基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ヨウ素、臭素又は塩素の重量パーセントが0.2〜2の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヨウ素がヨウ素化連鎖移動剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記臭素が臭素化連鎖移動剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記塩素が塩素化連鎖移動剤に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記連鎖移動剤がペルフルオロ化ヨード化合物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
前記連鎖移動剤がペルフルオロ化ブロモ化合物である、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記連鎖移動剤がペルフルオロ化クロロ化合物である、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記フルオロポリマーが、ASTM D1646−06 TYPE Aに従うと、100℃にて12以下のムーニー粘度(ML1+10)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
(a)
(i)25℃及び0.1rad/sにて300kPa以下の貯蔵弾性率を有する、ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、
(ii)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、を含む組成物を提供すること、
(b)助剤を提供すること、並びに、
(c)前記組成物を硬化させること、により調製可能であるフルオロエラストマーであって、前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、フルオロエラストマー。
【請求項18】
(a)基材を提供する工程と、
(b)前記基材上に請求項1に記載の組成物を配置する工程と、
(c)前記組成物を硬化させる工程と、を含む現場硬化プロセスであって、前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、現場硬化プロセス。
【請求項19】
(a)ヨウ素、臭素又は塩素を含有する硬化部位を含む非晶質ペルオキシド硬化性フルオロポリマーと、
(b)半減期が10時間である温度が90℃以下である有機ペルオキシドと、
(c)助剤と、
を含む組成物から誘導される現場硬化物品であって、前記フルオロポリマーの90%硬化時間は、ASTM D5289−07で封止式ねじりせん断ロータレス加硫試験機により測定すると、110℃において30分未満である、現場硬化物品。

【公表番号】特表2012−530804(P2012−530804A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516131(P2012−516131)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/037887
【国際公開番号】WO2010/147815
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】