説明

低温適応性ウマインフルエンザウィルス

【課題】ウマをウマインフルエンザウィルスから保護するための、安全で効果的な治療用組成を提供すること。
【解決手段】本発明は、実験的に作製された低温適応性ウマインフルエンザウィルス及び、そのようなウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスを提供し、前記ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節が、低温適応性、温度感受性、優性干渉性または弱毒性などの、低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型を付与することを特徴とする。これらのウィルスを、インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から動物を保護するための、そして特に、ウマインフルエンザウィルスに起因する疾患からウマを保護するための治療用組成に製剤する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、実験的に作製された低温適応性ウマインフルエンザウィルスに関し、特に、弱毒化、優性干渉、または温度感受性などの付加的表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスに関する。本発明は、そのようなウマインフルエンザウィルスからの、少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスも含み、このため、このリアソータントウィルスは、供与ウマインフルエンザウィルスの複数の表現型を含む。本発明は、リバース遺伝工学により作製された、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスの複数の識別表現型を持つ、遺伝子組換えされたウマインフルエンザウィルスをさらに含む。本発明は、インフルエンザウィルスに起因する疾患から動物を保護するため、これらのウィルスを治療用組成物中で使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ウマインフルエンザウィルスは、1956年頃から、ウマ類の呼吸性疾患の主な病原として知られている。ウマインフルエンザウィルスにより引き起こされる疾患の症状は重症となるおそれがあり、また、多くの場合、続発性の細菌感染症を伴う。ウマインフルエンザウィルスの亜型としては、A/ウマ/プラハ/1/56(H7N7)を原型とする亜型−1と、A/ウマ/マイアミ/1/63 (H3N8)を原型とする亜型−2との2種類が知られている。現在、優勢なウィルス亜型は亜型−2であり、この亜型は、近年ではユーラシア及び北アメリカ分離菌にさらに分化している。
現在認可されているウマインフルエンザワクチンは、不活化(死菌)ウィルスワクチンである。このワクチンがウマ類に対して発揮する保護効果は、あるとしても非常に低く、また、例えば注射部位の炎症性反応などの望ましくない副作用を伴う可能性がある。例えば、非特許文献1及び非特許文献2を参照されたい。さらに、現在の療法を若齢の子馬に適用することはできない。なぜなら、現在の療法は母子免疫を克服できない可能性があり、また、若齢の動物の場合は耐薬性を誘発するおそれがあるからである。疾患の重症度から考えて、ウマをウマインフルエンザウィルスから保護するための、安全で効果的な治療用組成物が必要とされている。
低温適応性ヒトインフルエンザウィルスを含む治療用組成物の製造方法は、例えば、非特許文献3及び非特許文献4に述べられている。さらに、これらの研究者らは、低温適応性ヒトインフルエンザウィルス、すなわち、通常の温度よりも低い温度で生育するように適応されたウィルスが、温度感受性表現型を持つ傾向がある、つまり、そのようなウィルスは、野生型ウィルスが生育及び複製可能であるような、ある一定のより高い非許容温度では、十分に生育しないということを指摘した。既存の低温適応性ヒトインフルエンザA型ウィルスとのリアソートメントにより作製した様々な低温適応性ヒトインフルエンザA型ウィルスは、ワクチン接種された個体に良好な免疫反応を惹起することが示されており、また、複数の弱毒性の低温適応性リアソータントヒトインフルエンザA型ウィルスが、ヒトを野生型ウィルスの攻撃から保護することが証明されている。例えば、非特許文献5を参照のこと。 1992年9月22日に発行された、Youngner, et alによる特許文献1で、本発明の発明者らは、複数のリアソータント低温適応性ヒトインフルエンザA型ウィルスが優性干渉表現型を有する、すなわち、これらのウィルスが、対応する親野生型系統及び異種インフルエンザA型ウィルスの生育を阻害することをさらに示した。1987年7月28日に発行された、Coggins et al.による特許文献2及び、1987年9月15日に発行された、Campbell による特許文献3は、野生型ウマインフルエンザウィルスと弱毒性の低温適応性ヒトインフルエンザA型ウィルスとのリアソートメントにより作製された、弱毒性の治療用組成物を開示している。これらの治療用組成物は、ウマに対しては一般に安全で効果的であるものの、ヒトとウマ双方の遺伝子を含むウィルスの環境への導入は、重大な危険を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許5,149,531号
【特許文献2】米国特許4,683,137号
【特許文献3】米国特許4,693,893号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mumford, 1987, Equine Infectious Disease IV, 207−217,
【非特許文献2】Mumford, et al., 1993, Vaccine 11, 1172−1174
【非特許文献3】Maassab, et al., 1960, Nature 7,612−614
【非特許文献4】Maassab, et al., 1969, J. Immunol. 102, 728−732
【非特許文献5】Clements, et al., 1986, J. Clin. Microbiol. 23, 73−76
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本発明は、実験的に作製した低温適応性ウマインフルエンザウィルスと、低温適応により作製したウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有し、そのウマインフルエンザウィルスのゲノム分節が、低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型をリアソータントウィルスに与えるようなウマインフルエンザウィルスと、リバース遺伝工学により作製され、低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型を有する、遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスとを提供する。識別表現型は、低温適応性、温度感受性、優性干渉性及び弱毒性を含む。本発明は、インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から動物を保護するための治療用組成物をさらに提供する。この治療用組成物は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザA型ウィルス、または遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスを含む。また、そのような治療用組成物の投与を含む、インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から動物を保護するための方法も提供される。また、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを作製する方法、及び、低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスを作製する方法も含む。後記の方法では、このウマインフルエンザのゲノム分節が、低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型を、リアソータントウィルスに与える。
【0006】
低温適応性インフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃までの範囲で複製を行うインフルエンザウィルスである。本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザA型ウィルス、又は遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスは、健康な動物を罹患させないように、弱毒化されていることが好ましい。
【0007】
一実施例においては、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザA型ウィルス、又は遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスは、このウィルスが、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃の範囲で複製を行い、組織培養細胞内で、許容温度約34℃でプラークを形成するが、組織培養細胞内で、非許容温度約39℃ではプラークを形成しないような温度感受性でもある。
【0008】
一実施例においては、このような温度感受性のウィルスは、2つの突然変異を有する。第1の突然変異は、温度約39℃でプラーク形成を阻害し、ウィルスの核タンパク質遺伝子をコードするゲノム分節と共分離する。第2の突然変異は、温度約39℃で全てのウィルスのタンパク質合成を阻害する。
【0009】
別の一実施例においては、本発明の低温適応性及び温度感受性のウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃の範囲で複製を行い、組織培養細胞内で、許容温度約34℃でプラークを形成するが、組織培養細胞内で、非許容温度37℃では、プラークを形成せず、また、後期ウィルスタンパク質を発現しない。
【0010】
典型的には、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、野生型ウマインフルエンザウィルスを1回またはそれ以上継代培養し、次に、低温で安定して生育及び複製を行うウィルスを選別することにより作製される。このようにして作製された低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、複数の実施例においては、優性干渉性表現型を含む。すなわち、このようなウィルスは、親ウマインフルエンザウィルスまたは異種野生型インフルエンザA型ウィルスと共感染した場合に、これらのウィルスの生育を阻害するであろう。
【0011】
本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスの例は、受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P821、受託番号ATCC VR___で識別されるEIV−P824、受託番号ATCC VR___で識別されるEIV−MSV+5、及びこれらのウィルスの後代を含む。
【0012】
本発明の治療用組成物は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザA型ウィルス、又は遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスを、約10TCID50単位から約10TCID50単位、好適には約2×10TCID50単位含む。
【0013】
本発明は、インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から動物を保護するための方法も含む。この方法は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザA型ウィルス、又は遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスを含む治療用組成物を動物に投与する工程を含む。保護する対象として好適な動物はウマ科の動物であり、特に好適な動物はウマ及び子馬である。
【0014】
本発明のさらに別の一実施例は、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを作製する方法である。この方法は、野生種ウマインフルエンザウィルスを継代培養する工程と、低温で生育するウィルスを選別する工程とを含む。一実施例においては、この方法は、温度を順次下げながら継代培養と選別とを繰り返すことを含む。ウマインフルエンザウィルスの継代培養は、ふ化鶏卵内で行うことが望ましい。
【0015】
別の一実施例は、本発明の供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節と、受容インフルエンザA型ウィルスのゲノム分節との遺伝子リアソートメントにより、リアソータントインフルエンザA型ウィルスを作製する方法である。本発明のリアソータントインフルエンザA型ウィルスは、(a)供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節と、受容インフルエンザA型ウィルスのゲノム分節とを混合することと、(b)この供与ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型を含むウィルスを選別することとを含む方法により作製される。識別表現型は、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、及び弱毒性を含む。これらのようなリアソータントウィルスは、供与ウィルスの少なくとも1つの弱毒性表現型を含むことが望ましい。典型的なリアソータントウィルスは、受容ウィルスの抗原性を有するであろう。すなわち、受容ウィルスのヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)表現型を有するであろう。
【0016】
本発明は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたはリアソータントインフルエンザA型ウィルスを増殖させる方法もまた提供する。これらの方法は、ふ化鶏卵内または組織培養細胞内での増殖を含む。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) 低温適応性ウマインフルエンザウィルス。
(項目2) 低温適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有し、前記ウマインフルエンザウィルスが、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、弱毒性から選択される1つの識別表現型を有するようなリアソータントインフルエンザA型ウィルスであって、前記ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節が、前記識別表現型の少なくとも1つを前記リアソータントウィルスに与える、リアソータントインフルエンザA型ウィルス。
(項目3) (a)低温適応性ウマインフルエンザウィルスと、(b)低温適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスと、から選択されるウィルスを有し、前記ウマインフルエンザウィルスが、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、弱毒性から選択される1つの識別表現型を有する、動物をインフルエンザA型ウィルスから保護するための治療用組成物であって、前記ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節が、前記識別表現型の少なくとも1つを前記リアソータントウィルスに与える、動物をインフルエンザA型ウィルスから保護するための治療用組成物。
(項目4) (a)低温適応性ウマインフルエンザウィルスと、(b)低温適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスと、から選択されるウィルスを有し、前記ウマインフルエンザウィルスが、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、弱毒性から選択される1つの識別表現型を有する治療用組成物を動物に投与することを含む、前記動物をインフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から保護するための方法であって、前記ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節が、前記識別表現型の少なくとの1つを前記リアソータントウィルスに与える、動物をインフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から保護するための方法。
(項目5) a.野生型ウマインフルエンザウィルスを継代培養することと、 b.低温で生育するウィルスを選別することと、 を含む、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを作製する方法。
(項目6) a.供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節と受容インフルエンザA型ウィルスのゲノム分節を混合することと、 b.前記供与ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの表現型を有するリアソータントウィルスを選別することと、を含む、低温適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有し、前記ウマインフルエンザウィルスが、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、弱毒性から選択される1つの識別表現型を有する、リアソータントインフルエンザA型ウィルスを作製するための方法であって、前記表現型が、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、弱毒性から選択される、リアソータントインフルエンザA型ウィルスを作製するための方法。
(項目7) 低温適応性ウマインフルエンザウィルスを卵内で増殖させることと、前記ウィルスを組織培養細胞内で増殖させることとから選択される方法を含む、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを増殖させるための方法。
(項目8) 単離されたウマインフルエンザ核酸分子であって、前記ウマインフルエンザ核酸分子が、SEQ ID NO:1, SEQ ID NO:3, SEQ ID NO:4, SEQ ID NO:6, SEQ ID NO:7, SEQ ID NO:9, SEQ ID NO:10, SEQ ID NO:12, SEQ ID NO:13, SEQ ID NO:15, SEQ ID NO:16, SEQ ID
NO:18, SEQ ID NO:19, SEQ ID NO:21, SEQ ID NO:22, SEQ ID NO:23, SEQ ID NO:25及び、前記核酸配列のいずれかと完全に相補的な核酸配列を有する核酸分子より選択される、単離されたウマインフルエンザ核酸分子。
(項目9) 単離されたウマインフルエンザ核酸分子であって、前記ウマインフルエンザ核酸分子が、SEQ ID NO:2, SEQ ID NO:5, SEQ ID NO:8, SEQ ID NO:11, SEQ ID NO:14, SEQ ID NO:17, SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:24より選択されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、単離されたウマインフルエンザ核酸分子。(項目10) 単離されたウマインフルエンザタンパク質であって、前記ウマインフルエンザタンパク質が、SEQ ID NO:2, SEQ ID NO:5, SEQ ID NO:8, SEQ ID NO:11, SEQ ID NO:14, SEQ ID NO:17, SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:24より選択されるアミノ酸配列を有する、単離されたウマインフルエンザタンパク質。
(項目11) 項目1、3、4、5、7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のリアソータントインフルエンザA型ウィルスが、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃で複製を行う、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目12) 項目1、3、4、5、7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のリアソータントインフルエンザA型ウィルスが弱毒性である、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目13) 項目1、3、4、5、7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のリアソータントインフルエンザA型ウィルスが温度感受性である、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目14) 項目1、3、4、5、7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のリアソータントインフルエンザA型ウィルスが、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃で複製を行うが、組織培養細胞内で、温度約39℃ではプラークを形成しない、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目15) 項目1、3、4、5、7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のリアソータントインフルエンザA型ウィルスが、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃で複製を行うが、組織培養細胞内で、温度約37℃ではプラークを形成しない、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目16) 非許容温度約39℃の表現型が、項目1、3、4、5、7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、または項目2、3、4または6に記載のリアソータントインフルエンザA型ウィルスに、前記ウィルスのゲノム中の少なくとも2つの突然変異により与えられ、これらの突然変異が第1の突然変異及び第2の突然変異を有する、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目17) 前記第1の突然変異が、温度約39℃でプラーク形成を阻害する表現型を与え、また、前記第1の突然変異が、核タンパク質遺伝子を有する前記ゲノムの分節と共分離する、項目16に記載の発明。
(項目18) 前記第2の突然変異が、温度約39℃でタンパク質合成を阻害する表現型を与える、項目16に記載の発明。
(項目19) 少なくとも1つのさらなる突然変異を有し、前記のさらなる突然変異が、非許容温度約37℃の表現型を与え、前記表現型が、温度約37℃でのプラーク形成の阻害及び温度約37℃での後期遺伝子発現の阻害から選択される、項目16に記載の発明。(項目20) 前記低温適応性ウマインフルエンザウィルスを、 a.野生型ウマインフルエンザウィルスを継代培養することと、 b.低温で生育するウィルスを選別することと、を含む方法により作製可能な、項目1、3、4または7に記載の発明。
(項目21) 前記低温適応性ウマインフルエンザウィルスを、前記継代培養及び選別工程を1回またはそれ以上繰り返すことをさらに含む方法により作製し、前記低温を順次低下させる、項目20に記載の発明。
(項目22) 前記継代培養工程をふ化鶏卵内で行う、項目20に記載の発明。
(項目23) 前記低温適応性ウマインフルエンザウィルスが、優性干渉性表現型を有する、項目20に記載の発明。
(項目24) 項目1、3、4、5または7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のゲノム分節が、A/ウマ/ケンタッキー/1/91(H3N8)株に由来する、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。(項目25) 項目1、3、4、5または7に記載の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載のゲノム分節が、受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P821;受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P824;受託番号ATCC VR____で識別されるMSV+5より選択される、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目26) 項目1、3、4、5または7に記載の前記低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは項目2、3、4または6に記載の前記ゲノム分節が、受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P821;受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P824;受託番号ATCC VR____で識別されるMSV+5;及び前記いずれかの受託番号の前記いずれかのウィルスの後代より選択される、項目1、2、3、4、5、6または7に記載の発明。
(項目27) 前記リアソータントウィルスが、 a.供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節と受容インフルエンザA型ウィルスのゲノム分節とを混合することと、 b.前記供与ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの表現型を有するリアソータントウィルスを選別することと、を含む方法により作製され、前記表現型が、低温適応性、温度感受性、優性干渉性、弱毒性から選択される、項目2、3または4に記載の発明。
(項目28) 前記受容インフルエンザA型ウィルスのヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ表現型が、前記供与ウマインフルエンザウィルスのヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ表現型とは異なり、また、前記リアソータントウィルスのヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ表現型が、前記受容ウィルスのヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ表現型である、項目27または6に記載の発明。
(項目29) 前記動物がウマ科動物である、項目3または項目4に記載の発明。
(項目30) 前記治療用組成物を、ウィルスが上気道の粘膜細胞に侵入可能であるような経路で前記動物に投与する、項目3または項目4に記載の発明。
(項目31) 前記治療用組成物が低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有し、前記疾患がウマインフルエンザウィルスに起因し、前記治療用組成物を予防的にウマ科動物に投与することにより、前記ウマ科動物体内のウマインフルエンザウィルスに対する免疫反応を惹起する、項目3または項目4に記載の発明。
(項目32) 前記治療用組成物が、前記ウィルスを約10TCID50単位から約10 TCID50単位含有する、項目3または項目4に記載の発明。
(項目33) 前記治療用組成物が、賦形剤をさらに含有する、項目3または項目4に記載の発明。
(項目34) 前記核酸分子が、SEQ ID NO:4, SEQ ID NO:6,
SEQ ID NO:10, SEQ ID NO:12, SEQ ID NO:16, SEQ ID NO:18, SEQ ID NO:23, SEQ ID NO:25から選択される核酸配列を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含む、項目8に記載の発明。
(項目35) 前記核酸分子が、Mタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含み、前記Mタンパク質のアミノ酸配列が、SEQ ID NO:5を有する、項目8に記載の発明。
(項目36) 前記核酸分子が、HAタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含み、前記HAタンパク質のアミノ酸配列が、SEQ ID NO:11を有する、項目8に記載の発明。
(項目37) 前記核酸分子が、PB2−Nタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含み、前記PB2−Nタンパク質のアミノ酸配列が、SEQ ID
NO:17を有する、項目8に記載の発明。
(項目38) 前記核酸分子が、PB2−Cタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含み、前記PB2−Cタンパク質のアミノ酸配列が、SEQ ID
NO:24を有する、項目8に記載の発明。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、いくつかの規定された表現型を有する、実験的に作製された低温適応性ウマインフルエンザウィルスを提供し、それらをここに開示する。ここで使用する「1つの」物体は、1つ又はそれ以上の物体を指す。例えば、「1つの低温適応性ウマインフルエンザウィルス」は、1つ又はそれ以上の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含みうる。従って、「1つの」、「1つまたはそれ以上の」及び「少なくとも1つの」という語は、ここでは互換的に使用可能である。また、「備える」、「含む」及び「有する」という語も互換的に使用可能であることに留意されたい。さらに、「から選択される」物体は、そのグループの1つまたはそれ以上の物体に関し、それらの組み合わせを含む。
【0018】
本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、実験室内で作製されたウィルスであり、従って、天然に発生するウィルスではない。本発明が、そのような低温適応性ウマインフルエンザウィルスの識別発現型を有するウィルスも含むので、天然に発生したウィルスの混合物から分離された、すなわち、天然の環境から隔離されたがクレームされた表現型を有するウマインフルエンザウィルスは、本発明に含まれる。本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、特定のレベルの純度を必要としない。例えば、ふ化鶏卵内で生育した低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、尿膜腔液(AF)と混合していてもよいし、また、組織培養細胞内で生育した低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、破砕細胞及び組織培地と混合していてもよい。
【0019】
ここで使用される「ウマインフルエンザウィルス」という用語は、例えばウマ及び子馬などのウマ科の動物に感染し、その体内で生育するインフルエンザウィルスを指す。ここで使用される、ウィルスの「生育」という用語は、ウィルスが、許容宿主細胞内で生殖または自身を「複製」する能力を意味する。従って、「ウィルスの生育」及び「ウィルスの複製」という用語は、ここでは互換可能に用いられる。特定の宿主細胞内でのウィルスの生育または複製を、ウィルス学の分野の熟練技術者に公知の標準的方法で観察及び測定してもよい。例えば、感染したウマの鼻咽頭分泌物に含まれるような、感染性のウィルスを含有するサンプルを、例えば組織培養細胞中のウィルスプラークなど、細胞変性作用(CPE)を起こさせる能力について検査する。サンプルをふ化鶏卵の尿膜腔内に接種し、次いで、接種された鶏卵のAFを、赤血球細胞を凝集させる能力、すなわち、AF内にインフルエンザウィルスヘマグルチニン(HA)タンパク質が存在することに起因する赤血球凝集反応を引き起こす能力について検査することにより、感染性のウィルスを検出してもよい。
【0020】
天然に発生する、すなわち、野生型のウマインフルエンザウィルスは、温度約34℃から約39℃で良好に複製を行う。例えば、野生型ウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、温度約34℃で複製を行い、また、組織培養細胞中では、温度約34℃から約39℃で複製を行う。ここで用いられる「低温適応性の」ウマインフルエンザウィルスという用語は、ウマインフルエンザウィルスの最適生育温度よりも低い温度で生育するように適応されたウマインフルエンザウィルスを指す。本発明の低温適応性のウマインフルエンザウィルスの一例に、ふ化鶏卵内で、温度約30℃で複製を行うウィルスがある。本発明の好適な低温適応性のウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、温度約28℃で複製を行う。本発明の別の好適な低温適応性のウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、温度約26℃で複製を行う。一般に、本発明の好適な低温適応性のウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、温度約26℃から約30℃の範囲内で、すなわち、野生型ウィルスが殆どまたは全く生育しない温度で、複製を行う。これらのウィルスがこの温度範囲内で複製を行う能力を有することは、これらのウィルスが、より高いまたはより低い温度でも複製を行う能力を排除するものではないことに留意されたい。例えば、一実施例は、ふ化鶏卵内で、温度約26℃で複製を行うが、組織培養細胞中で、温度約34℃でも複製を行う低温適応性ウマインフルエンザウィルスである。野生型インフルエンザウィルスと同様に、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスもまた、組織培養細胞中、例えばMadin Darbyイヌ腎臓細胞(MDCK)中で、温度約34℃で一般にプラークを形成する。本発明の適当な及び好適な低温適応性のウマインフルエンザウィルスの例を、ここに開示する。
【0021】
本発明の一実施例は、野生型ウマインフルエンザウィルスを継代培養することと、次いで、低温で生育するウィルスを選別することとを含む方法で作製された、低温適応性のウマインフルエンザウィルスである。本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを、例えば、野生型インフルエンザウィルスを、ふ化鶏卵内で、温度を順次低下させながら連続的に継代培養することにより、ウィルス混合体の中から、低温で安定して複製を行う複数のウィルスを選択して作製してもよい。継代培養の手順の一例を、例の項に詳しく開示する。継代培養工程の間に、1つまたはそれ以上の突然変異が、このインフルエンザウィルスのゲノムを有する一本鎖RNA分節の複数に起こり、これらのRNA分節の遺伝子型、すなわち、これらのRNA分節の初期ヌクレオチド配列を変化させる。ここで使用される「突然変異」という用語は、インフルエンザウィルスゲノムを構成している任意のRNA分節の初期ヌクレオチド配列の変化を指す。突然変異の例には、1つまたはそれ以上のヌクレオチドの置換、1つまたはそれ以上のヌクレオチドの欠失、1つまたはそれ以上のヌクレオチドの挿入、または、2つまたはそれ以上のヌクレオチド切片の逆位がある。ウィルス混合体の中から、低温で安定して複製を行う複数のウィルスを選択することにより、低温適応性表現型を有するウィルスを選別する。ここで使用される「表現型」という用語は、細胞やウィルスのような生物学的実体の観察可能なまたは測定可能な特徴を指し、この観察される特徴は、その生物学的実体の特定の遺伝子構成、すなわち、ある遺伝子型に帰するものである。従って、低温適応性表現型は、ウィルスゲノムの1つまたはそれ以上の突然変異の結果である。ここで使用される「突然変異」、「ゲノム」、「遺伝子型」または「表現型」という用語は、1つまたはそれ以上の、または少なくとも1つの突然変異、ゲノム、遺伝子型、または表現型をそれぞれ指す。
【0022】
低温適応性ウマインフルエンザウィルスのさらに別の、観察可能な表現型が発現してもよく、それらの表現型は、一般に、そのようなウィルスのゲノムにおける1つまたはそれ以上の別の突然変異の結果として発現するであろう。例えば、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、さらに、弱毒性であり、優性干渉性を発揮し、及び/又は温度感受性であってもよい。
【0023】
一実施例においては、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、弱毒性の特徴を持つ表現型を有する。低温適応性ウマインフルエンザウィルスが「弱毒性」であるというのは、このウィルスを、ウマインフルエンザウィルス感受性の動物に投与した結果、その動物に観察される臨床症状が、野生型ウマインフルエンザウィルスに感染した動物に観察される 臨床症状と比較して、軽症であるか、または全く観察されない場合を指す。例えば、野生型ウマインフルエンザウィルスに感染した動物は、発熱、くしゃみ、咳、抑うつ、及び鼻汁などの症状を呈するであろう。これに対し、本発明の弱毒化された低温適応性ウマインフルエンザウィルスを投与された動物は、臨床症状を呈示するとしても最小であるか、または全く呈示しない、すなわち、症状が検出不可能であろう。
【0024】
別の一実施例においては、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、温度感受性表現型を有する。ここで説明される温度感受性の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、低温では複製を行うが、野生型ウィルスが複製及びプラーク形成を行うようなより高い温度では、組織培養細胞中で複製またはプラーク形成を行わない。理論に拘束されるわけではないが、温度感受性表現型を有するウマインフルエンザウィルスが複製を行う場所は、主として上気道の低温の通路に限られ、ウィルスがより疾患の症状を引き起こしやすい下気道内では良好に複製を行わないと信じられている。温度感受性のウィルスが生育する温度は、ここでは、その温度感受性ウィルスにとっての「許容」温度として述べられる。そして、その温度感受性ウィルスが生育しないが、対応する野生型ウィルスが生育するような、より高い温度は、ここでは「非許容」温度として述べられている。例えば、本発明の複数の温度感受性の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、約30℃またはそれ以下の温度で複製を行い、好適には約28℃または約26℃で複製を行い、許容温度約34℃では組織培養細胞中でプラークを形成するが、非許容温度約39℃では組織培養細胞中でプラークを形成しない。本発明の他の温度感受性の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、ふ化鶏卵内で、約30℃またはそれ以下の温度で複製を行い、好適には約28℃または約26℃で複製を行い、許容温度約34℃では組織培養細胞中でプラークを形成するが、非許容温度約37℃では組織培養細胞中でプラークを形成しない。
【0025】
本発明の複数の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、優性干渉性表現型を有する。すなわち、細胞内に別のインフルエンザA型ウィルスと共感染した時に、優先的に感染することにより、この別のウィルスの生育を抑制する。例えば、優性干渉性表現型を有する本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスが、MDCK細胞に、野生型親ウマインフルエンザウィルス、A/ウマ/ケンタッキー/1/91(H3N8)と共感染した場合、この親ウィルスの生育が阻害される。従って、ビルレントインフルエンザウィルス、すなわち、疾患症状を引き起こすインフルエンザウィルスに最近曝された、またはまもなく曝されるかもしれない動物の上気道に、優性干渉性表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物を投与すれば、そのビルレントウィルスの生育が阻害されるので、そのウィルスに対する免疫反応がない場合でも、その動物の疾患は改善または軽減されるであろう。
【0026】
温度感受性を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスの優性干渉性を、標準的なウィルス学的手法により測定してもよい。例えば、MDCK細胞の分離単層を、(a)ビルレント野生型インフルエンザA型ウィルス、(b)温度感受性、低温適応性ウマインフルエンザウィルス、及び(c)これら両方のウィルスに感染させてもよい。これらの感染は全て、細胞当たり約2プラーク形成単位(pfu)の感染多重度(MOI)でなされる。感染後、様々な感染細胞からのウィルス産生量を、複製プラークアッセイにより、その低温適応性ウマインフルエンザウィルスの許容温度および非許容温度で測定する。温度感受性表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、非許容温度ではプラークを形成できないが、野生型ウィルスは、許容温度でも非許容温度でもプラークを形成できる。従って、野生型ウィルスのみに感染した細胞の非許容温度でのウィルス産生量を、両方のウィルスに感染した細胞の非許容温度でのウィルス産生量と比較することにより、低温適応性ウィルスが存在する条件下での野生型ウィルスの生育を測定することが可能である。
【0027】
本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、主な特徴として、以下の識別表現型:低温適応性、温度感受性、優性干渉性、及び/又は弱毒性のうちの1つまたはそれ以上を有する。ここで用いられる「ウマインフルエンザウィルスが低温適応性、温度感受性、優性干渉性、及び/又は弱毒性の識別表現型を有する」という表現は、そのような表現型の1つまたはそれ以上を有するウィルスに関する。そのようなウィルスの例には、受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P821、受託番号ATCC VR___で識別されるEIV−P824、受託番号ATCC VR___で識別されるEIV−MSV+5、及びEIV−MSV0、EIV、MSV+1、EIV−MSV+2、EIV−MSV+3、EIV−MSV+4があるが、これらに限定されることはない。これらのウィルスの作製については、例で説明する。例えば、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821は、(a)例えば、ふ化鶏卵内で、温度約26℃で複製を行う能力などの低温適応性と、(b)例えば、非許容温度約37℃では、組織培養細胞内でプラーク形成及び後期遺伝子産物の発現を行うことができず、また、非許容温度約39℃では、組織培養細胞中でプラーク形成及びいかなるウィルスタンパク質の合成も行うことができないなどの温度感受性、(c)ウマインフルエンザウィルス感受性の動物に投与した場合の弱毒性、及び、(d)例えば、細胞内に野生型インフルエンザA型ウィルスと共感染した場合に、その野生型ウィルスの生育を阻害するなどの優性干渉性により特徴づけられる、すなわち、これらの識別表現型を有する。同様に、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P824は、(a)例えば、ふ化鶏卵内で、温度約28℃で複製を行う能力などの低温適応性と、(b)例えば、非許容温度約39℃では、組織培養細胞中でプラーク形成を行うことができないなどの温度感受性、及び、(c)例えば、細胞内に野生型インフルエンザA型ウィルスと共感染した場合に、その野生型ウィルスの生育を阻害するなどの優性干渉性により特徴づけられる。別の一例では、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−MSV+5は、(a)例えば、温度約26℃で、ふ化鶏卵内で複製を行うことができるなどの低温適応性、(b)例えば、非許容温度約39℃では、組織培養細胞中でプラーク形成を行うことができないなどの温度感受性、及び、(c)ウマインフルエンザウィルス感受性の動物に投与した場合の弱毒性により特徴づけられる。
【0028】
複数の例では、ある表現型に関与する1つ又はそれ以上の突然変異が発生するRNA分節を、ここに述べる標準的な方法を用いたリアソートメント分析により決定してもよい。一実施例においては、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、このウィルスのゲノム中の少なくとも2つの突然変異と相関する、温度感受性表現型を有する。この実施例では、ここに述べるリアソートメント分析により位置決定された、前記2つの突然変異のうちの1つが、ウィルスが組織培養細胞中で非許容温度39℃でプラークを形成する能力を抑制、すなわち、阻害または防止する。この突然変異は、ウマインフルエンザウィルスゲノム中の、このウィルスの核タンパク質(NP)遺伝子をコードする分節と共分離する。すなわち、この突然変異は、このNP遺伝子と同じRNA分節に位置する。この実施例の第2の突然変異は、非許容温度約39℃で、全てのタンパク質の合成を阻害する。従って、この非許容温度では、このウィルスのゲノムは、いかなるウィルスタンパク質も発現できない。これらの特徴を持つ低温適応性ウマインフルエンザウィルスの例に、EIV−P821及びEIV MSV+5がある。EIV−P821を、例1Aで説明する方法を用いて、ふ化鶏卵内で野生型インフルエンザウィルスを連続的に継代培養することにより作製した。 EIV MSV+5を、例1Eで説明する方法を用いて、EIV−P821をさらに連続的に継代培養することにより得た。
【0029】
さらに、非許容温度約39℃でプラーク形成及びウィルスタンパク質の合成を阻害する2つの突然変異を有する、低温適応性かつ温度感受性のウマインフルエンザウィルスは、そのウィルスが組織培養細胞中で非許容温度約37℃で後期遺伝子を発現し及びプラークを形成する能力を阻害する、1つまたはそれ以上の突然変異を有してもよい。これらの特徴を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスの一例に、EIV−P821がある。このウィルス分離株は、温度約26℃では、ふ化鶏卵内で複製を行い、温度約39℃では、プラーク形成もいかなるウィルスタンパク質の合成も行わない。さらに、EIV−P821は、非許容温度約37℃では、MDCK細胞でプラークを形成せず、また、この温度では、後期遺伝子の発現が阻害される。この阻害は、後期遺伝子が生成されない、すなわち、通常レベルのNPタンパク質が合成され、低レベル又は検出不可能なレベルのM1又はHAタンパク質が合成され、高レベルのポリメラーゼタンパク質が合成されるような方法で行われる。この表現型は、特異なウィルスタンパク質合成により特徴づけられるため、非許容温度約39℃での全てのウィルスタンパク質合成の阻害により特徴づけられるタンパク合成表現型との相違は明白である。
【0030】
米国連邦規制基準37の1.802(a−c)により、ここでEIV−P821及びEIV−P824として表される低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、ブダペスト条約に基づき、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、20110−2209 バージニア州、マナッサス、ユニバーシティ・ブルヴァール10801)に、それぞれATCC受託番号 ATCC VR−___及びATCC VR−___として、1998年7月11日に寄託された。低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−MSV+5は、ATCCに、ATCC受託番号ATCC VR−___として、1998年8月3日に寄託された。米国連邦規制基準37の1.806により、寄託は少なくとも30年間維持され、かつ当該サンプルの最終の分譲請求を寄託期間が受領したのち少なくとも5年間維持される。連邦規則コード37の1.808(a)(2)により、寄託者が分譲に関して設けた全ての制限は、特許の取得と同時に無効となり、これを取り消すことはできない。
【0031】
本発明の好適な低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、EIV−P821、EIV−P824及び EIV−MSV+5の識別表現型を有する。特に好適な低温適応性ウマインフルエンザウィルスは、EIV−P821、EIV−P824及び EIV−MSV+5、及びこれらのウィルスの後代を包含する。ここで使用される「後代」とは、「子孫」であり、従って、親ウィルスと比較してわずかに異なる表現型であってもよいが、その親ウィルスの、例えば低温適応性、温度感受性、優性干渉性、または弱毒性などの識別表現型を保持する。例えば、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−MSV+5は、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821の「後代」である。「後代」は、供与親ウィルスの1つまたはそれ以上の識別表現型を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスもまた包含する。
【0032】
本発明のリアソータントインフルエンザA型ウィルスは、本発明の供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節と受容インフルエンザA型ウィルスのゲノム分節との遺伝子リアソートメントを行った後に、8つのRNAゲノム分節のうちの少なくとも1つが供与ウィルスに由来するリアソータントウィルスを選別るすことにより、このリアソータントウィルスが、供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型を獲得するような方法で作製される。識別表現型は、低温適応性、温度感受性、弱毒性及び優性干渉性を含む。好適には、本発明のリアソータントインフルエンザA型ウィルスの少なくとも弱毒性表現型は、供与ウィルスに由来する。リアソータントインフルエンザウィルスを分離する方法は、ウィルス学の分野の熟練技術者に公知であり、例えば、Fields, et al., 1996, Fields Virology,
3d ed., Lippincott−Raven、 Palese, et al., 1976, J. Virol., 17, 876−884. Fields, et al., 同上、及び Palese, et al., 同上、に開示されている。
【0033】
好適な供与ウマインフルエンザウィルスは、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスであり、例えば、受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P821、受託番号ATCC VR____で識別されるEIV−P824、又は、受託番号ATCC VR_____で識別されるEIV−MSV+5である。好適な受容インフルエンザA型ウィルスは、別のウマインフルエンザウィルス、例えば、A/ウマ/サフォーク/89(H3N8)などのユーラシア亜型2ウマインフルエンザウィルスまたはA/プラハ/1/56(H7N7)などの亜型1インフルエンザウィルスであってもよい。受容インフルエンザA型ウィルスもまた、供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスを用いてリアソータントウィルスを作製することの可能な任意のインフルエンザA型ウィルスであってもよい。そのようなインフルエンザA型ウィルスの例には、A/プエルトリコ/8/34(H1N1)、A/香港/156/97(H5N1)、A/シンガポール/1/57(H2N2)及びA/香港/1/68(H3N2)などのヒトインフルエンザウィルス、A/ブタ/アイオワ/15/30(H1N1)などのブタウィルス、及びA/マガモ/ニューヨーク/6750/78(H2N2)及びA/ニワトリ/香港/258/97(H5N1)などの鳥ウィルスがあるが、これらに限定されることはない。本発明のリアソータントウィルスは、その結果得られるリアソータントインフルエンザウィルスが供与ウィルスの少なくとも1つの識別表現型を有する限り、供与及び受容遺伝子分節の任意の組み合わせを含んでもよい。
【0034】
本発明のリアソータントウィルスの一例は、”6 + 2”リアソータントウィルスである。このウィルスの6つの「内部遺伝子分節」、すなわち、NP、PB2、PB1、PA、M及びNS遺伝子を持つ分節は、供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスに由来し、また、このウィルスの2つの「外部遺伝子分節」、すなわち、HA及びNA遺伝子を持つ分節は、受容インフルエンザA型ウィルスに由来する。このようにして作製されたウィルスは、供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスの弱毒性、低温適応性、温度感受性、及び/又は優性干渉性表現型を有するが、受容株の抗原性は有しない。
【0035】
さらに別の一実施例においては、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを、組換え手段により作製してもよい。この方法では、識別された低温適応性、弱毒性、温度感受性または優性干渉性表現型に関連する1つまたはそれ以上の特異的突然変異を同定し、リバース遺伝工学的方法を用いて野生型ウマインフルエンザウィルス株に再導入する。リバース遺伝工学的方法では、インフルエンザウィルスに感染した細胞から分離したRNAポリメラーゼ複合体を使用して、当該変異を有する人工インフルエンザウィルスゲノム分節を転写し、この合成されたRNA分節を、ヘルパーウィルスを用いてウィルス粒子内に組み込み、所望の変化を含むウィルスを選別する。インフルエンザウィルスへのリバース遺伝工学的方法の使用は、例えば、Enami, et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. 87, 3802−3805及び1996年11月26日に発行された、Palese, et al.による米国特許5,578,473に述べられている。この方法を用いて、当業者は、冗長な低温適応工程を経ることなく、また、所望のウィルス表現型を有する突然変異体を、インヴィトロおよびインヴィヴォの両方で選別する工程を経ることなく、本発明の別の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを作製できる。
【0036】
本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを、当業者に公知の標準的なウィルス学的方法を用いて増殖させてもよい。そのような方法の例をここに開示する。例えば、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを、ふ化鶏卵中で生育させてもよいし、真核性組織培養細胞中で生育させてもよい。本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスがその中で生育可能な、好適な無限継代真核細胞株は、インフルエンザウィルスの生育を補助する、例えばMDCK細胞などの細胞株を含む。本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスがその中で生育可能な、他の好適な細胞には、サル、子ウシ、ハムスターまたはニワトリの初代腎臓細胞があるが、これらに限定されることはない。
【0037】
一実施例においては、本発明は、インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から動物を保護するための治療用組成物を提供する。この治療用組成物は、低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたは低温適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスのいずれかを含む。このウマインフルエンザウィルスのゲノム分節は、低温適応性ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの識別表現型を付与する。さらに、本発明の治療用組成物は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスのある識別表現型を付与することが識別されている1つまたはそれ以上の突然変異を有するように遺伝子操作されたウマインフルエンザウィルスを含んでもよい。ここで使用される「インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患」という語句は、ビルレントインフルエンザA型ウィルスに感染している動物に観察される臨床症状に関する。そのような臨床症状の例には、発熱、くしゃみ、咳、鼻汁、水疱音、食欲減退および抑うつがあるが、これらに限定されることはない。さらに、「インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患」は、ここでは、感染した動物によるビルレントウィルスの放散を包含するものとして定義される。ある動物に観察される臨床症状と、ビルレントウマインフルエンザウィルスによる感染との関連は、その動物中のウマインフルエンザウィルスに対する特定の抗体及び/又はT細胞応答の検出を含めた複数の方法で確認してもよい。好適には、ある動物に観察される臨床症状と、ビルレントウマインフルエンザウィルスによる感染との関連を、例えば、感染した動物の鼻咽頭腔から、ウィルスを含有する分泌物を綿棒で採取して、感染した動物からウィルスを分離することにより確認する。ウィルス分離は、分離された分泌物を接種した組織培養細胞中の細胞変性効果を検出するか、分離された分泌物をふ化鶏卵内に接種し、そこで、接種された卵から採取したAFの持つ、インフルエンザウィルスのヘマグルチニンタンパク質の存在を示唆する赤血球凝集能力から、ウィルス複製を検出するか、または、例えば、Directigen(登録商標) FLU Aテストなどの、一般に利用可能な診断テストを行うことにより、確認される。
【0038】
ここで使用される「保護する」という用語は、例えば、被験動物のインフルエンザA型ウィルス感染の防止または治療を含む。従って、本発明の治療用組成物を、例えば予防接種ワクチンとして、被験動物が当該ビルレントウィルスに曝される以前のある時点で、その動物に投与し、その動物をインフルエンザ疾患から保護するために使用してもよい。
【0039】
優性干渉性表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する本発明の治療用組成物を、ビルレントインフルエンザA型ウィルスに最近感染した、または今後数日以内にそのようなウィルスに曝される可能性のある動物を保護するために使用してもよい。この場合、この治療用組成物は、動物がそのビルレントウィルスに対する抗体を産生する以前に、そのビルレントウィルスの生育を迅速に阻害する。優性干渉性表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物を、今後予想される曝露の前に、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスが、治療される動物の上気道で複製を行うおおよその期間、例えば約7日間まで、に相当する期間、効果的に投与してもよい。優性干渉性表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物を、ビルレントウマインフルエンザウィルスに曝された後に、感染した動物が疾患症状を呈示するのに必要な期間、例えば約2日間まで、に相当する期間、効果的に投与してもよい。
【0040】
本発明の治療用組成物は、例えば、ヒト、ブタ、ウマ及びその他のウマ科動物、水生鳥類、家禽、闘鶏、アザラシ、ミンク、クジラなどの、インフルエンザウィルス疾患感受性の任意の動物に投与可能である。より好適には、本発明の治療用組成物は、ウマインフルエンザウィルス疾患から保護するために、ウマに投与される。
【0041】
ウマをウマインフルエンザウィルス疾患から保護するために利用できる現在のワクチンは、子馬の保護には有効ではないが、それはおそらく、これらのワクチンは、子馬の体内に存在する母親の抗体を克服することができないためであり、このため、多くの場合、例えば生後3ヶ月などの若齢でのワクチン投与は、免疫性よりもむしろ薬剤耐性に結びつくおそれがある。一実施例においては、既存のウマインフルエンザウィルスワクチンとは異なり、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物は、明らかに若齢の動物に免疫性を付与することが可能である。従って、本発明の治療用組成物を、生後約3ヶ月程度の子馬に、薬剤耐性を誘発することなくウマインフルエンザ疾患から保護するために、安全かつ効果的に投与することが可能である。
【0042】
一実施例においては、本発明の治療用組成物は、多価性であってもよい。例えば、本発明の1つまたはそれ以上の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、1つまたはそれ以上のリアソータントインフルエンザA型ウィルス、及び/又は、本発明の1つまたはそれ以上の遺伝子組換えされたウマインフルエンザウィルスの組み合わせを提供することにより、ある動物を1つまたはそれ以上のインフルエンザA型ウィルス株から保護してもよい。多価性治療用組成物は、例えば、A/ウマ/ケンタッキー/1/91(H1N8)のような北米亜型−2ウィルス分離株とA/ウマ/サフォーク/89(H3N8)のようなユーラシア亜型−2ウィルス分離株、または、1つまたはそれ以上の亜型−2ウィルス分離株とA/ウマ/プラハ/1/56(H7N7)のような1つの亜型−1ウィルス分離株に抗する、少なくとも2つの低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含んでもよい。同様に、本発明の多価性治療用組成物は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスとリアソータントインフルエンザA型ウィルス、または、本発明の2つのリアソータントインフルエンザA型ウィルスを含んでもよい。本発明の多価性治療用組成物は、インフルエンザA型ウィルスに加えて、1つまたはそれ以上の他の感染因子からも保護するための1つまたはそれ以上の製剤をさらに含んでもよい。そのような別の感染因子には、ウィルス類、細菌類、真菌類及び真菌類微生物類、及び寄生虫類があるが、これらに限定されることはない。好適な多価性治療用組成物には、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザA型ウィルス、または遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスと、ウマを罹患させる1つまたはそれ以上の感染因子から防御するための1つまたはそれ以上の組成物との組み合わせがあるが、これらに限定されることはない。対抗すべき好適な感染因子には、ウマ感染性貧血症ウィルス、ウマヘルペスウィルス、東部、西部、またはベネズエラウマ脳炎ウィルス、破傷風、ストレプトコッカス−エクイ、及びEhrlichia resticiiがあるが、これらに限定されることはない。
【0043】
本発明の治療用組成物を、治療されるべき動物が許容可能な賦形剤中で調剤してもよい。そのような賦形剤の例として、水、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖液、ハンクス液、及びその他の生理的平衡食塩水がある。賦形剤はまた、等張性及び、化学的または生物学的安定性を増強する物質のような微量の添加物も含有してもよい。バッファの例には、リン酸バッファ、重炭酸バッファおよびトリスバッファがあり、安定化剤の例には、アイオワ州デモイン、ダイアモンド・アニマル・ヘルス社より入手可能なA1/A2安定化剤がある。標準的な製剤は、動物へ投与するための懸濁液または溶液に適した液体中に溶解可能な、液体または固体のいずれでもよい。一実施例においては、非液体製剤は、投与の前に滅菌水または生理食塩水を加えることの可能な食塩、バッファ、安定化剤などの添加剤を含有してもよい。
【0044】
本発明の治療用組成物は、1つまたはそれ以上のアジュバントまたは担体を含有してもよい。典型的なアジュバントは、特定の抗原に対する動物の免疫反応を増強する物質であり、また、担体は、治療される動物の体内での治療用組成物の半減期を延ばす化合物を含む。本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたはリアソータントインフルエンザA型ウィルスを含有する治療用組成物の利点の一つは、有効なワクチンの調製にアジュバント及び担体を必要としないことである。さらに、当業者に公知の多くの場合において、アジュバントまたは担体の使用が、本発明の治療用組成物の利点を妨げることがあるかもしれない。しかし、本発明はアジュバントまたは担体の使用を予め排除するものではないことに留意すべきである。
【0045】
本発明の治療用組成物は、ビルレントウマインフルエンザウィルスの攻撃からある動物を保護するのに十分な量の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含む。一実施例においては、本発明の治療用組成物は、50%組織培養感染価(TCID50)約10単位から約10単位の低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含んでもよい。ここで使用される「TCID50単位」とは、感染した培養細胞の50%に細胞変性効果を及ぼすウィルス量である。TCID50を測定及び算出する方法は、当業者に周知であり、例えば、Reed and Muench, 1938, Am. J. of Hyg. 27, 493−497に記載されている。本発明の好適な治療用組成物は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたはリアソータントインフルエンザA型ウィルスを、約10TCID50単位から約10TCID50単位含有し、より好適には、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスまたはリアソータントインフルエンザA型ウィルスを、約2×10TCID50単位含有している。
【0046】
本発明は、本発明の治療用組成物の動物への投与を含めた、動物をインフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から保護するための方法も含む。好適な方法は、ウマ科動物をウマインフルエンザウィルスに起因する疾患から保護するための方法であり、これらの方法は、そのウマ科動物への低温適応性ウマインフルエンザウィルスの投与を含む。効果的な方法で治療用組成物を投与するための容認可能なプロトコルは、個別の投与量、投与回数、投与頻度及び投与方式を含む。これらのプロトコルの決定は当業者によってなされ、ここにその例を開示する。
【0047】
インフルエンザA型ウィルスにより引き起こされる疾患から動物を保護するための好適な方法は、本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルス、リアソータントインフルエンザウィルスまたは遺伝子組換えウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物を1回量投与することを含む。好適な1回量は、適切な間隔で1回またはそれ以上の回数投与した時に、動物を疾患から保護することの可能な投与量である。本発明の方法は、治療用組成物の後続的、またはブースター投与も含んでもよい。ブースター投与は、最初の投与後約2週間から約2年間行われてもよい。ブースター投与は、その動物の免疫反応が、その動物を疾患から保護するのに不十分となった時に行われることが望ましい。適切かつ好適な投与スケジュールを、例の項に記載する。
【0048】
本発明の治療用組成物を、治療される動物の上気道の粘膜細胞内にウィルスが入って複製を行うような様々な手段を用いて、その動物に投与してもよい。そのような手段には、経鼻投与、経口投与及び眼内投与があるが、これらに限定されることはない。インフルエンザウィルスは、元来、上気道の粘膜に感染するので、本発明の治療用組成物を、経鼻投与により投与することが望ましい。そのような投与は、カニューレを装着した注射器を用いて、または、ワクチン投与される動物の鼻と口とに装着した噴霧器を用いて行ってもよい。
【0049】
インフルエンザA型ウィルスに起因する疾患から動物を保護するための本発明の治療用組成物の有効性について、様々な方法で検査を行ってもよい。そのような方法には、例えば赤血球凝集抑制(HAI)検査による抗体の検査、治療される動物の細胞免疫の検査、または、治療される動物について、ビルレントインフルエンザウィルスを用いて誘発試験を行い、その治療される動物が罹患に対する抵抗性を持つかどうかを調べること、があるが、これらに限定されることはない。さらに、ビルレントな野生型ウマインフルエンザウィルスを過去に接種された、または接種感受性の動物の疾患症状を緩和または減退させる優性干渉性表現型を有する低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する本発明の治療用組成物の有効性を、治療される動物の疾患症状の減退または消失について判別することににより検査してもよい。
【0050】
本発明は、本発明の治療用組成物を調製する方法も含む。本発明の治療用組成物を調製する好適な方法を以下に開示する。本発明の治療用組成物の1類型、すなわち低温適応性ウマインフルエンザウィルスの調製に関する適切な工程は、(a)野生型ウマインフルエンザウィルスを、例えばふ化鶏卵内などのインヴィトロで継代培養することと、(b)低温で生育するウィルスを選別することと、(c)継代培養および選別工程を、1回またはそれ以上の回数、温度を順次低下させながら繰り返し、ウィルスが所望の低温で安定して生育するようなウィルス個体数を選択することと、(d)得られたウィルス製剤を適切な賦形剤と混合することと、を含む。
【0051】
本発明の治療用組成物の別の1類型、すなわち、適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザウィルスを調製する適切な工程は、次の工程を含む:(a)好適には弱毒性、温度感受性または優性干渉性の表現型も有する供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノム分節を、受容インフルエンザA型ウィルスのゲノム分節と混合することと、(b)供与ウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つの認識表現型を有するリアソータントウィルスを選別すること。選別を行うための認識表現型は、弱毒性、低温適応性、温度感受性及び優性干渉性を含む。これらの表現型を判別する方法は、当業者に周知であり、それらをここに開示する。少なくとも弱毒性の表現型を持つウィルスについて判別検査を行うことが望ましい。
【0052】
低温適応により作製されたウマインフルエンザウィルスの少なくとも1つのゲノム分節を有するリアソータントインフルエンザA型ウィルスを、この方法を用いて作製する時、選別されるリアソータントウィルスの1類型は、「6+2」リアソータントである。このウィルスの6つの「内部遺伝子分節」、すなわち、NP、PB2、PB1、PA、M及びNS遺伝子をコードする分節は、供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスのゲノムに由来し、また、2つの「外部遺伝子分節」、すなわち、HA及びNA遺伝子をコードする分節は、受容インフルエンザA型ウィルスに由来する。このようにして作製されたウィルスは、供与低温適応性ウマインフルエンザウィルスの低温適応性、弱毒性、温度感受性及び/又は干渉性表現型を有するが、受容株の抗原性は有しない。
【0053】
本発明は、ウマインフルエンザウィルス野生型系統A/ウマ/ケンタッキー/1/91(H3N8)及び低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821から分離された核酸分子を含む。
【0054】
本発明によれば、分離された核酸分子とは、自然環境から隔離された(すなわち、人間により操作されてきた)核酸分子であり、DNA、RNA、または、DNAまたはRNAのいずれかの誘導体であってもよい。従って、「分離された」という用語は、核酸分子が精製されている程度を反映するものではない。
【0055】
本発明は、野生型及び低温適応性ウマインフルエンザウィルスタンパク質をコードする核酸分子を含む。本発明の核酸分子を、当業者に周知の方法で作製してもよい。本発明のタンパク質を、当業者に周知の方法、すなわち、組換えDNA技術により作製してもよい。好適な核酸分子は、核酸配列SEQ ID NO:1, SEQ ID NO:3, SEQ ID NO:4, SEQ ID NO:6, SEQ ID NO:7, SEQ ID NO:9, SEQ ID NO:10, SEQ ID NO:12, SEQ ID NO:13, SEQ ID NO:15, SEQ ID NO:16, SEQ ID NO:18, SEQ ID NO:19, SEQ ID NO:21, SEQ ID NO:22, SEQ ID NO:23, SEQ ID NO:25及び/又はそれらの相補体を含むコドン鎖を有する。相補体は、核酸の2本の一本鎖であり、そのヌクレオチド配列が全長にわたって塩基対合することによりハイブリッドを形成するようなものとして定義される。ヌクレオチド配列が分かれば、当業者はその相補体を導き出すことが可能である。
【0056】
ウマインフルエンザMタンパク質をコードする好適な核酸分子は、neiwt1023, neiwt11023, neiwt21023, neiwt756, neiwt1756, neiwt2756, neica11023, neica21023, neica1756 及び/又はneica2756であり、それらのコドン鎖は、SEQ ID NO:1, SEQ ID NO:3, SEQ ID NO:4及び/又はSEQ ID NO:6で表される。
【0057】
ウマインフルエンザHAタンパク質をコードする好適な核酸分子は、neiwtHA1762, neiwtHA1695, neica1HA1762, neica2HA1762, neica1HA1695及び/又はneica2HA1695であり、それらのコドン鎖は、SEQ ID NO:7, SEQ ID NO:9, SEQ ID NO:10及び/又はSEQ ID NO:12で表される。
【0058】
ウマインフルエンザPB2−Nタンパク質をコードする好適な核酸分子は、neiwtPB2−N1241, neiwtPB2−N1214, neica1PB2−N1241 neica2PB2−N1241, neica1PB2−N1214 neica2及び/又はPB2−N1214であり、それらのコドン鎖は、SEQ ID NO:13, SEQ ID NO:15, SEQ ID NO:16及び/又はSEQ ID NO:18で表される。
【0059】
ウマインフルエンザPB2−Cタンパク質をコードする好適な核酸分子は、neiwt1PB2−C1233, neiwt2PB2−C1232, neiwtPB2−C1194, neica1PB2−C1232, neica2PB2−C1231及び/又はneica1PB2−C1194であり、それらのコドン鎖は、SEQ ID NO:19, SEQ ID NO:22, SEQ ID NO:21, SEQ ID NO:23及び/又はSEQ ID NO:25で表される。
【0060】
本発明は、SEQ ID NO:2, SEQ ID NO:5, SEQ ID NO:8, SEQ ID NO:11, SEQ ID NO:14, SEQ ID NO:17, SEQ ID NO:20及び/又はSEQ ID NO:24を有するタンパク質と、これらのタンパク質をコードする核酸分子とを含む。
【0061】
本発明の好適なウマインフルエンザMタンパク質は、neiwt1023, neiwt11023, neiwt21023, neiwt756, neiwt1756, neiwt2756, neica11023, neica21023, neica1756及び/又はneica2756を有する核酸分子によりコードされるタンパク質を含む。好適なウマインフルエンザMタンパク質は、Peiwt252, Peica1252及び/又はPeica2252である。一実施例においては、本発明の好適なウマインフルエンザMタンパク質は、SEQ ID NO:1, SEQ ID NO:3, SEQ ID NO:4及び/又はSEQ ID NO:6によりコードされ、従って、SEQ ID NO:2及び/又はSEQ ID NO:5を含むアミノ酸配列を有する。
【0062】
本発明の好適なウマインフルエンザHAタンパク質は、neiwtHA1762, neiwtHA1695, neica1HA1762, neica2HA1762, neica1HA1695及び/又はneica2HA1695を有する核酸分子によりコードされるタンパク質を含む。好適なウマインフルエンザHAタンパク質は、P PeiwtHA565, Peica1HA565及び/又はPeica2HA565である。一実施例においては、本発明の好適なウマインフルエンザHAタンパク質は、SEQ ID NO:7, SEQ ID NO:9, SEQ ID NO:10及び/又はSEQ ID NO:12によりコードされ、従って、SEQ ID NO:8及び/又はSEQ ID NO:11を含むアミノ酸配列を有する。
【0063】
本発明の好適なウマインフルエンザPB2−Nタンパク質は、neiwtPB2−N1241, neiwtPB2−N1214, neica1PB2−N1241 neica2PB2−N1241, neica1PB2−N1214 neica2及び/又はPB2−N1214を有する核酸分子によりコードされるタンパク質を含む。好適なウマインフルエンザPB2−Nタンパク質は、PwtPB2−N404, Pca1PB2−N404及び/又はPca2PB2−N404である。一実施例においては、本発明の好適なウマインフルエンザPB2−Nタンパク質は、SEQ ID NO:13, SEQ ID NO:15, SEQ ID NO:16及び/又はSEQ ID NO:18によりコードされ、従って、SEQ ID NO:14及び/又はSEQ ID NO:17を含むアミノ酸配列を有する。
【0064】
本発明の好適なウマインフルエンザPB2−Cタンパク質は、neiwt1PB2−C1233, neiwt2PB2−C1232, neiwtPB2−C1194, neica1PB2−C1232, neica2PB2−C1231及び/又はneica1PB2−C1194を有する核酸分子によりコードされるタンパク質を含む。好適なウマインフルエンザPB2−Nタンパク質は、 PwtPB2−C398, Pca1PB2−C398及び/又はPca2PB2−C398である。一実施例においては、本発明の好適なウマインフルエンザPB2−Cタンパク質は、SEQ ID NO:19, SEQ ID NO:22, SEQ ID NO:21, SEQ ID NO:23及び/又はSEQ ID NO:25によりコードされ、従って、SEQ ID NO:20及び/又はSEQ ID NO:24を含むアミノ酸配列を有する。
【0065】
核酸配列SEQ ID NO:1は、ここで neiwt11023及びneiwt21023として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出されたコンセンサス配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ ID NO:4 は、ここでneica11023及びneica21023として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ ID NO:7は、ここでneiwtHA1762として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ ID NO:10は、ここでneica1HA1762及びneica2HA1762として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ ID NO:13 は、ここでneiwtPB2−N1241として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸分子SEQ ID NO:16 は、ここでneica1PB2−N1241及びneica2PB2−N1241として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ ID NO:19は、ここでneiwt1PB2−C1233として表される。PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ ID NO:22は、ここでneiwt2PB2−C1232として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。核酸配列SEQ
ID NO:23は、ここでneica1PB2−C1232として表される、PCR増幅された核酸分子のコドン鎖から導き出された配列を表し、その製法については例の項で開示する。さらなる核酸分子、核酸配列、タンパク質及びアミノ酸配列については、例の項で説明する。
【0066】
本発明は、SEQ ID NO:5を持つアミノ酸配列を有するMタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する核酸分子を含む。本発明の別の一実施例は、SEQ ID NO:11を持つアミノ酸配列を有するHAタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する核酸分子を含む。本発明の別の一実施例は、SEQ ID NO:17を持つアミノ酸配列を有するPB2−Nタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する核酸分子を含む。本発明の別の一実施例は、SEQ ID NO:24を持つアミノ酸配列を有するPB2−Cタンパク質をコードする低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する核酸分子を含む。
【0067】
核酸の配列決定技術は誤りが全くないわけではないため、ここで表される核酸配列及びアミノ酸配列は、それぞれ、本発明の核酸分子の見かけの核酸配列と、本発明の見かけのM, HA, 及びPB2−N, 及びPB2−Cタンパク質をそれぞれ表すことに留意されたい。
【0068】
本発明の別の一実施例は、本発明の野生型ウィルスM, HA, PB2−N, PB2−C, PB2タンパク質と選択的に結合する抗体である。本発明の別の一実施例は、本発明の低温適応性ウィルスM, HA, PB2−N, PB2−C, PB2と選択的に結合する抗体である。好適な抗体は、SEQ ID NO:2, SEQ ID NO:5, SEQ ID NO:8, SEQ ID NO:11, SEQ ID NO:14, SEQ ID NO:17, SEQ ID NO:20 及び/又はSEQ ID NO:24と選択的に結合する。
【0069】
以下の例は説明の目的で提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとしては意図されていない。
【0070】
例1
本例は、本発明の複数の低温適応性ウマインフルエンザウィルスの製法及び表現型の特徴を説くものである。
【0071】
A.親ウマインフルエンザウィルスA/ウマ/ケンタッキー/1/91(H3N8)
(ケンタッキー州レキシントン、ケンタッキー大学、トム・チャンバーズより入手)を、外来宿主種、すなわち、ふ化鶏卵中で、次の方法で低温適応させた。例えば、メリーランド州チェスタータウン、トラスロー・ファームまたアイオワ州アデル、ハイバック社より入手可能な、ふ化後10日目または11日目の鶏卵の殻に穿孔した小さな孔を介して、尿膜腔内に、約10プラーク形成単位(pfu)の親ウマインフルエンザウィルスを含有する約0.1ミリリットル(ml)の非希釈AFを注射することにより、このウィルスを接種した。これらの孔を、マニキュア液で密封した後、これらの卵を、加湿したインキュベータ内で、適切な温度で3日間インキュベートした。インキュベート後、これらの卵を検卵し、無生育性の卵をすべて廃棄した。卵殻の一部を無菌的に除去し、滅菌ピンセットで漿尿膜(CAM) を剥がし、AFを滅菌ピペットで取り出して、生育可能な胚からAFを回収した。回収したAFを、次の継代培養まで冷凍した。次に、このAFを、未希釈の状態で、または表1に示したように、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1000倍に希釈して使用し、2回目以降の継代培養に用いる新たな卵をインキュベートした。合計69回の継代培養を行った。初期の継代培養は、約34℃(継代1−2回目)または約30℃で行い、それ以降の継代培養では、培養温度を約28℃または約26℃に低下させた。安定した弱毒性のウィルスの所望の表現型の選択の可能性を高めるため、表1に示すように、初回の連続継代を、連続継代培養ツリーの5つの異なる枝、AからEまでに展開した。
【0072】
【表1】

【0073】
B.セクションAに記載の低温適応法で得られたウィルス分離株の温度感受性、すなわち、当該低温適応ウィルスが比較的低温または許容温度(例えば約34℃)では生育するが、比較的高温または非許容温度(例えば約37℃)ではプラークを形成しないような表現型について、下記のように検査を行った。低温適応継代培養の各回に、AFをプラークアッセイで約34℃で力価測定した。アッセイを行った個々のプラークのプラーク領域を周期的に切り出し、切り出した寒天培地を、MDCK細胞の単層を含有する96ウェルのトレイに置いて、当該プラークをクローン分離した。この96ウェル・トレイを一晩インキュベートし、その産物の温度感受性を、約34℃及び約39℃でインキュベートした複製96ウェル・トレイで、CPEアッセイによりアッセイした。このアッセイにより温度感受性変異体であるとして判別されたクローンのパーセント、すなわち、34℃では生育するが39℃では生育しないウィルス性のプラークの数を、プラークの総数で割ったものを算出し、図2に示す。次に、温度感受性分離株の非許容温度でのタンパク合成について、放射線標識されたウィルス合成タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)で視覚化することにより、測定した。
【0074】
【表2】

【0075】
温度感受性について検査を行ったクローン分離株から、2つを選択してさらなる検査に使用した。表1に示すように、クローンEIV−P821を枝Bの継代49回目から選択し、また、クローンEIV−P824を枝Cの継代48回目から選択した。これらのウィルス分離株は、両方とも温度感受性であり、どちらの分離株のプラーク形成も、温度約39℃で阻害された。この温度では、タンパク質合成はEIV−P821では完全に阻害されたが、EIV−P824は通常のレベルのタンパク質合成を示した。加えて、EIV−P821のプラーク形成は、温度約37℃で阻害され、また、この温度では、後期遺伝子発現が阻害された。すなわち、NPタンパク質合成は通常レベルであり、M1またはHAタンパク質の合成は少ないか全く行われず、ポリメラーゼタンパク質の合成レベルは高かった。ウィルス特異的なタンパク質合成を特徴とする、37℃で観察された表現型は、すべてのウィルスタンパク質合成の阻害を特徴とする、39℃で観察された表現型とは異なる。ウィルスEIV−P821は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に、受託番号ATCC VR−_____で寄託され、また、ウィルスEIV−P824は、ATCCに受託番号ATCC VR−_____で寄託されている。
【0076】
C.分離株EIV−P821の突然変異のさらなる特徴を、リアソートメント分析により、次のように明らかにした。インフルエンザウィルスのリアソートメント分析により、当業者は、いくつかの条件下で、任意のウィルスの表現型と、あるインフルエンザA型ウィルスゲノムを有する8つのRNA分節の複数に発生していると推定される突然変異とを関連づけることができる。この技術は、例えばPalese, et al., 同上、に説明されている。EIV−P821と、鳥類インフルエンザウィルス、A/マガモ/ニューヨーク/6750/78との混合感染を、次のように行った。MDCK細胞とEIV−P821との共感染を、感染多重度(MOI)2pfu/細胞で、また、MDCK細胞とA/マガモ/ニューヨーク/6750/78との共感染を、MOI2、5、または10pfu/細胞で行った。感染した細胞を、温度約34℃でインキュベートした。これら様々な共感染の産物を力価測定し、個々のプラークを約34℃で分離した。そして、その結果得られたクローン分離株について、約39℃及び約37℃で生育できるか否か、また、約39℃、約37℃及び約34℃で遺伝子発現、すなわち、ウィルスタンパク質の合成ができるか否かを調べた。タンパク質の合成を、放射線標識された感染細胞の溶解産物のSDS−PAGE分析により評価した。これら2つの親ウィルスのHA、NP及びNS−1タンパク質は、それぞれ分離ゲノム分節でコードされ、SDS−PAGE分析で区別可能である。なぜなら、これらの各ウィルスタンパク質は、ウマまたは鳥類インフルエンザウィルスのいずれかに由来し、異なる見掛け分子量で移動するからである。このような方法で、少なくともHA、NP及びNS−1遺伝子については、親ウィルスの温度感受性表現型やタンパク質合成表現型などのいくつかの表現型が、これらの遺伝子を有するゲノム分節と共分離するか否かを調べることができる。EIV−P821の HA、NP及びNS−1タンパク質のそれぞれについて、a)非許容温度約39℃でのプラーク形成を阻害する、すなわち、CPEを誘発する突然変異、またはb)非許容温度約39℃でのタンパク質合成を阻害する突然変異の共分離を、リアソートメント分析により調べ、その結果を表3及び表4にそれぞれ示す。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
検査の結果、ウマNP遺伝子と、非許容温度約39℃でEIV−P821のプラーク形成を阻害する突然変異との関連性が示された。しかし、HA、NPまたはNS−1遺伝子のいずれについても、非許容温度約39℃でEIV−P821のウィルスタンパク質発現を阻害する突然変異との関連性は示されなかった。従って、これらのデータは、ウィルスEIV−P821のプラーク形成表現型とタンパク質合成表現型とが、異なる突然変異の結果であることも示した。
【0080】
D.本発明の低温適応性ウマインフルエンザウィルスが優性干渉性表現型を持つか否か、すなわち、野生型親ウィルスA/ケンタッキー/1/91(H3N8)との混合感染の場合にこれらのウィルスを抑制するか否か.についても研究を行った。ウィルスEIV−P821及びEIV−P824の優性干渉性表現型を、次の方法で測定した。MDCK細胞の分離単層を、親ウィルスA/ケンタッキー/1/91(H3N8)にMOI2で単感染させるか、低温適応性ウィルスEIV−P821またはEIV−P824のいずれかにMOI2で単感染させるか、又は、これら親ウィルスと、低温適応性ウィルスの1つとにMOI2+2で同時に二重感染させた。このときの温度はいずれの場合も約34℃であった。感染後24時間で、培養株から培地を採取し、これらの様々な感染細胞からのウィルス産生を測定した。測定は、温度約34℃及び約39℃の複製プラークアッセイで行った。このアッセイでは、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821またはEIV−P824が温度感受性であり、従って、非許容温度約39℃ではプラークを形成できないが、親ウィルスはいずれの温度でもプラークを形成できるため、これら低温適応性ウィルスの存在下でも親ウィルスの生育を測定できるという事実を利用した。具体的には、これらの低温適応性ウィルスがこの親ウィルスの生育に及ぼす優性干渉作用を、約39℃で親ウィルスに単感染させた細胞のウィルス産出量と、二重感染させた細胞の親ウィルス産出量とを比較することにより、定量した。EIV−P821は、混合感染で、親ウィルスの産出量をおよそ200分の1まで減少させることができ、また、EIV−P824は、混合感染で、親ウィルスの産出量をおよそ3200分の1まで減少させることができた。従って、このアッセイは、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821及びEIV−P824が、両方とも優性干渉性表現型を発揮することを示した。
【0081】
E.ウィルス分離株EIV−MSV+5を、次の方法でEIV−P821から誘導した。EIV−P821を、上述の方法で卵内で1回継代培養し、ここでEIV−MSV0として表されるマスター・シード・ウィルス分離株を作製した。次に、EIV−MSV0を、卵内でさらに3回継代培養し、各回の終了毎に得られたウィルス分離株を、それぞれEIV−MSV+1、EIV−MSV+2、EIV−MSV+3とした。EIV−MSV+3を、次の方法で、MDCK細胞内でさらに2回継代培養した。MDCK細胞を、150cmの組織培養フラスコ中で、子ウシ血清を10%含むハンクス液のMEM組織培養培地で生育させた。次に、細胞を滅菌PBSで洗浄し、生育培地を、フラスコ当たり約8mlの感染培地(ハンクス液、1μg/mlのTPCKトリプシン溶液、0.125%のウシ血清アルブミン(BSA)及び10mMのHEPESバッファからなるMEM組織培養培地)と取り替えた。MDCK細胞に、ウィルスEIV−MSV+3(MDCK細胞の継代培養1回目)またはEIV−MSV+3(MDCK細胞の継代培養2回目)から採取したウィルスストックを含有するAFを接種し、これらのウィルスを約34℃で1時間吸収させた。接種物を細胞単層から取り除いた後、細胞を再度PBSで洗浄し、フラスコ当たり約100mlの感染培地を加えた。感染した細胞を、約34℃で24時間インキュベートした。フラスコを強く揺すって細胞単層を破砕することにより、ウィルス感染したMDCK細胞を採集し、ウィルス分離株EIV−MSV+4(MDCK細胞の継代培養1回目)及びEIV−MSV+5(MDCK)細胞の継代培養2回目)を得た。
【0082】
ウィルスEIV−MSV0及びEIV−MSV+5の表現型を、上記セクションBで述べた方法で分析し、これらのウィルスが温度約34℃、約37℃及び約39℃でプラーク形成及びタンパク質合成を行う能力を測定した。EIV−MSV0及びEIV−MSV+5は、いずれも温度約34℃では組織培養細胞内でプラークを形成したが、温度約39℃では、いずれのウィルス分離株も、プラーク形成または検出可能なウィルスタンパク質合成を行わなかった。ウィルスEIV−MSV0は、温度約37℃でEIV−P821と類似した温度感受性表現型を示した。すなわち、プラーク形成の阻害及び後期遺伝子発現の阻害が見られた。しかし、EIV−MSV+5の場合は、その親ウィルスEIV−P821とは異なり、温度約37℃で、組織培地内でプラークを形成し、また、この温度で、全てのタンパク質を通常量合成した。ウィルスEIV−MSV+5は、受託番号ATCC VR−_____でATCCに寄託されている。
【0083】
例2
本発明の治療用組成物を、次の方法で作製した。
【0084】
A.EIV−P821の大量のストックを、次の方法で卵内で増殖させた。約60個のSPFふ化鶏卵を検卵し、無生育卵を廃棄した。ストックウィルスを、滅菌PBSで、約1.0×10pfu/mlに希釈した。ウィルスを、例1Aで説明した方法で、卵の尿膜腔に接種した。加湿したインキュベータで、温度約34℃で3日間インキュベートした後に、例1Aで説明した方法で、AFを卵から採取した。採取したAFを、例えばアイオワ州デモイン、ダイアモンド・アニマル・ヘルス社より入手可能なA1/A2安定化剤などの安定化剤液と、25%V/V(安定化剤/AF)で混合した。採取したAFを遠心分離管内でバッチにして、旋回バケットロータを取り付けたIEC Centra−7R冷却卓上遠心機中で、10分間、1000rpmで遠心分離して清澄化させた。清澄化した液体を、1−ml冷凍バイアルに入れ、約−70℃で冷凍した。ウィルスストックを、MDCK細胞中で、約34℃で、CPE及びプラークアッセイにより力価測定した。
【0085】
B.EIV−P821の大量のストックを、次の方法でMDCK細胞内で増殖させた。MDCK細胞を、150cmの組織培養フラスコ中で、子ウシ血清を10%含むハンクス液のMEM組織培養培地で生育させた。次に、細胞を滅菌PBSで洗浄し、生育培地を、フラスコ当たり約8mlの感染培地と取り替えた。MDCK細胞を、ウィルスストックに、細胞当たり約0.5pfuから細胞当たり約0.005pfuの範囲のMOIで接種し、ウィルスを約34℃で1時間吸収させた。接種物を細胞単層から取り除いた後、細胞を再度PBSで洗浄し、フラスコ当たり約100mlの感染培地を加えた。感染した細胞を、約34℃で24時間インキュベートした。フラスコを強く揺すって細胞単層を破砕することにより、ウィルス感染したMDCK細胞を採集し、安定化剤をフラスコに25%V/V(安定化剤/ウィルス溶液)で加えた。上清を無菌的に冷凍バイアルに入れて、−70℃で冷凍した。
【0086】
C.本発明のいくつかの低温適応性温度感受性ウマインフルエンザウィルスを含む治療用組成物を、以下の方法で製剤した。ワクチン接種工程の直前に、以下の例3−7に記載されているように、EIV−P821又はEIV−MSV+5の保存バイアルを解凍し、水またはPBSを含む賦形剤、または、0.125%のウシ血清アルブミンを含有するハンクス液を加えたMEM組織培養培地(BSA−MEM溶液)に希釈し、動物への接種のための所望の濃度とした。このワクチン組成物を、投与前に氷冷した。全ての治療用組成物を、ワクチン接種の直前に、MDCK細胞で、標準的な方法で力価測定し、また、動物に投与された組成物と同一に処理された一定量の組成物を、可能な方法で、ワクチン接種後力価測定し、ウィルスが工程の間生育可能であり続けるようにした。
【0087】
例3
低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の安全性と複製能力とを、ウマインフルエンザウィルスに対する検出可能な免疫をすでに持っている3頭のウマで次のように検査した。例1で説明した方法で作製したEIV−P821を、例2Aで説明した方法により卵内で生育させ、これを用いて例2Cに述べた10pfu EIV−P821/2ml BSA−MEM溶液を含有する治療用組成物を調剤した。
【0088】
ウマインフルエンザウィルスに対する検出可能なヘマグルチニン阻害(HAI)価をすでに持っている3頭の子馬に、EIV−P821を含有する治療用組成物を、次の方法で接種した。各子馬に2−ml量のEIV−P821を、偽鼻孔に十分に届く長さのブラント・カニューレを嵌めた注射器を用いて、各鼻孔に1mlずつ経鼻投与した。
【0089】
これらの子馬の、くしゃみ、唾液分泌過多、呼吸困難または呼吸異常、ふるえ、過敏症、または発熱などの即時型アレルギー反応を、ワクチン投与直後約30分間及び約4時間後に観察した。これらの動物の、惰眠や食欲低下などの遅延型アレルギー反応を、ワクチン接種後1日目から11日目にわたってさらに観察した。この研究では、3頭の子馬のいずれも、ワクチン接種によるアレルギー反応を示さなかった。
【0090】
これらの子馬の、ウマインフルエンザに一致する臨床症状を、ワクチン接種の2日前からワクチン接種後11日目まで、毎日ほぼ同じ時刻に観察した。これらの子馬の鼻汁、眼球分泌物、食欲低下、気質、心拍数、毛細血管レフィル時間、呼吸数、呼吸困難、肺音、上歯肉上の中毒線の出現及び体温を観察した。加えて、顎下及び腹壁のリンパ節を触診し、異常を記述した。この研究に使用した3頭の子馬のいずれも、観察期間中、いかなる異常反応または顕性の臨床症状も示さなかった。
【0091】
これらの動物のウィルス放散を検査するために、Chambers, et al.,
1995, Equine Practice, 17, 19−23. Chambers, et al., 同上 に記載されている方法で、ワクチン接種後0日目から11日目にわたって、子馬の鼻咽頭スワブを採取した。簡単に言うと、これらの子馬のそれぞれの鼻孔に、2本の滅菌ダクロンポリエステルチップアプリケータ(例えばメイン州ギルフォード、ハードウッド・プロダクツ社より入手可能)を同時に挿入した。スワブ(合計4本、各鼻孔毎に2本)を、5%のグリセロール、ペニシリン、ストレプトマイシン、ネオマイシン及びゲンタマイシンを含有する生理的pHのPBSからなる冷却輸送培地2.5mlを入れた15−mlコニカル遠心分離管内に折り入れた。サンプルを湿らせた氷上に保持しながら、スワブを無菌的に培地中に絞り出し、鼻咽頭サンプルを2つのアリコートに分けた。アリコートの1つを使用して、例1に記載の方法で、ふ化鶏卵接種によるEIVの分離を行った。次に、接種された鶏卵のAFの赤血球凝集能力を、標準的な方法で検査したところ、当該AF中にウマインフルエンザウィルスの存在が確認された。ワクチン接種後2日目及び3日目に、もう1つのアリコートを使用して、ベクトン−ディッキンソン社(メリーランド州コッキーズヴィル)より入手可能なDirectigen(登録商標)Flu Aテストによるウィルス検査を行った。
【0092】
これら3頭の動物の鼻咽頭分泌物から、卵接種によりEIVを分離しようとした試みは、失敗に終わった。しかし、2日目及び3日目に、検査した全ての動物がDirectigen Flu Aテストによるウィルス放散検査で陽性を示した。このことは、EIV−P821が血清陽性の子馬の体内で複製を行うという仮説を裏付けるものである。
【0093】
本例に述べた被接種動物および例4−7に述べた動物のEIVに対する抗体価を検査するために、ワクチン接種前及び、ワクチン接種後の指定日に当該動物から血液を採取した。血清を分離し、トリプシン/過ヨウ素酸塩またはカオリンのいずれかで処理し、通常の血清に見られる赤血球凝集反応の非特異インヒビターを阻害した。新鮮なEIV分離株に抗する血清サンプルの赤血球凝集反応阻害(HAI)価を、例えば連邦規則コード9の113.2に基づき、U.S.D.A.国立獣医学実用試験所(National Veterinary Services Laboratory)提供の「ウマインフルエンザウィルス抗体の赤血球凝集反応阻害アッセイを行うための補助的アッセイ」(SAM 124)に記載の標準的な方法で検査した。
【0094】
当該3頭の子馬のHAI価を、表5に示す。図示されるように、EIV−P821接種後の3頭の動物すべてにおいて、血清HAI価は、初期価に関係なく、少なくとも4倍に増加した。
【0095】
これらのデータは、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821が、安全かつ非反応発生性であることを示し、また、これらの動物が、すでに証明可能な価を持っている場合でも、ウマインフルエンザウィルス抗体価を増加させたことを示している。
【0096】
【表5】

【0097】
例4
この例では、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の安全性と有効性を評価するための動物研究を開示する。
【0098】
低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物を、弱毒性及び、ビルレントウマインフルエンザウィルスの攻撃からウマを保護する能力について、以下のように検査した。例1に記載の方法で作製されたEIV−P821を、例2Aに記載の方法で卵内で生育させ、例2Cに記載の方法で、ウィルス10pfu/水2mlを含有する治療用組成物を調製した。8頭のEIV−血清陰性の子馬を本研究に使用した。これら8頭の子馬のうち3頭に、例3で記載した方法と同様の方法で、EIV−P821治療用組成物を10pfu含有するワクチンを2−ml経鼻接種した。1頭の子馬にEIV−P821治療用組成物を10pfu経口投与した。投与は、6mlのウィルスを、以下の方法で細かい霧を発生するようにした10−ml注射器を用いて、咽頭に注入することによりなされた。針を取り付けるための突出した「台(seat)」を、モデリング・クレイを用いて密封し、キャップを正しく閉めた。25ゲージの針を用いて、注射器の底部、すなわち、「台(seat)」の周囲に約10個の孔を開けた。注射器を歯間隙内に入れ、ウィルスを口の裏側に強制的に注入した。残り4頭の子馬を、非ワクチン接種対照動物とした。
【0099】
ワクチン接種された子馬の即時型アレルギー反応を、ワクチン接種直後約30分間及び約4時間後に観察し、さらに、これらの子馬の遅延型アレルギー反応をワクチン接種後1日目から11日目にわたって観察した。ともに例3に記載の方法で行った。この研究に用いたこれら4頭のワクチン接種された子馬のいずれも、ワクチン接種による異常な反応を示さなかった。
【0100】
例3に記載の方法で、ウィルスワクチン接種の2日前から接種後11日目まで毎日ほぼ同じ時刻に、これらの子馬の臨床症状を観察した。この研究でワクチン接種された4頭の子馬のいずれも、観察期間中にいかなる臨床症状も示さなかった。この結果、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821が弱毒性表現型を発揮することが立証された。
【0101】
これらのワクチン接種動物のウィルス放散を検査するために、ワクチン接種後0日目から11日目にわたって、例3に記載の方法で、鼻咽頭スワブをこれらの子馬から採取した。例3に記載の方法で、この鼻咽頭サンプルのウィルスを、ふ化鶏卵中で検査した。
【0102】
表6に示すように、この鶏卵法では、ウィルスは1頭のワクチン接種動物のみから分離された。しかし、例3で述べたように、この方法でウィルスが分離されなかったことにより、ウィルスの複製の事実が否定されるわけではない。なぜなら、より感度の高い、例えばDirectigen Flu Aテストのような方法では、複製が検出されるかもしれないからである。
【0103】
【表6】

【0104】
これらのワクチン接種された動物中のウマインフルエンザウィルスに対する抗体価を測定するために、ワクチン接種前及びワクチン接種後7日目、14日目、21日目及び28日目に、これらの動物から血液を採取した。例3に記載の方法に基づき、血清サンプルを分離し、新鮮なEIV分離株に対する赤血球凝集阻害(HAI)価を測定した。
【0105】
これら4頭のワクチン接種された子馬のHAI価を表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
例3に述べた研究で用いられた3頭の動物では、HAI価の増加が観察されたが、それとは異なり、この例の研究で用いられた動物では、EIV−P821ワクチン接種後、HAI価の著しい増加、すなわち、4倍を超える増加は観察されなかった。
【0108】
ワクチンウィルスの投与後およそ4ヶ月半目に、8頭全ての子馬、すなわち、ワクチン接種された4頭と非ワクチン接種対照動物である4頭とに、以下の処置を施した。1頭毎に、ビルレントウマインフルエンザウィルス株A/ウマ/ケンタッキー/1/91 (H3N8)10pfuを水5mlに懸濁した。マスクをネブライザに接続し、このマスクを、これらの動物の鼻孔を含めた鼻鏡部に被せた。5mlを1頭毎に噴霧した。このとき、5ml全部を噴霧するのに5−10分かかるように調節した。処置の3日前及び処置後11日間の毎日、例3に記載した方法で臨床観察を行った。
【0109】
ワクチン接種されたこれらの動物のウマインフルエンザウィルスに対するHAI価に著しい増加が見られなかったという事実にもかかわらず、ワクチン接種された4頭の動物はすべて、ウマインフルエンザウィルスの攻撃から保護された。ワクチン接種された動物はいずれも顕性の臨床症状を示さなかった。ただし、そのうち1頭に微弱な喘鳴が2日間見られた。一方、ワクチン接種されたかった4頭はいずれもウィルスを放散し、ウマインフルエンザウィルス感染に特有の臨床症状及び発熱を示した。従って、この例は、本発明の治療用組成物が、ウマをウマインフルエンザ疾患から保護可能であることを実証している。
【0110】
例5
この例では、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の弱毒性と、ワクチン接種されたウマを、その後のビルレントウマインフルエンザウィルスの攻撃から保護する能力とを評価するためのさらなる動物研究を開示する。さらに、この研究では、運動ストレスがこの治療用組成物の安全性と有効性に及ぼす効果についても評価した。
【0111】
低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の安全性と有効性とを、ウマを用いて次のように検査した。例1に記載の方法で作製したEIV−P821を、例2Aに記載の方法で卵内で生育させ、例2Cに記載した方法で、ウィルス10pfu/水5mlを含有する治療用組成物を調製した。この研究では、15頭の子馬を使用した。これらの子馬を、表8に示すように、それぞれ5頭からなる3つのグループに無作為に分けた。そのうち2つのグループにはワクチンを接種し、1つのグループは非接種対照グループとした。グループ2の子馬には、ワクチン接種前に運動ストレスを与えたが、接種グループ1の子馬は厩舎に留置した。
【0112】
【表8】

【0113】
グループ2の子馬について、次の方法でトレッドミル運動ストレス試験を行った。これらの子馬に、トレッドミルを歩行のみで6時間使用させ、慣れさせた。実際の運動負荷ストレス試験では、ワクチン接種の4日前からワクチン接種当日(ワクチン接種直前)まで、毎日運動させた。トレッドミル運動の内容を表9に示す。
【0114】
【表9】

【0115】
グループ1及びグループ2に、例4に述べた処置で用いた噴霧方法により、EIV−P821を10pfu含有する治療用組成物を投与した。この研究でワクチン接種した子馬のいずれも、このワクチン接種による即時型または遅延型アレルギー反応を示さなかった。
【0116】
これらの子馬の、例3で述べた臨床症状を、ワクチン接種の2日前からワクチン接種後11日目までの毎日、ほぼ同じ時刻に観察した。この研究でワクチン接種した子馬のいずれも、観察期間中に顕性の臨床症状を示さなかった。
【0117】
ワクチン接種した動物のウィルス放散を検査するために、ワクチン接種前及びワクチン接種後1日目から11日目にかけて、例3に記載した方法で、これらの子馬から鼻咽頭スワブを採取した。これらの鼻咽頭サンプルのウィルスを、ふ化鶏卵内で、例3に記載の方法に従って検査した。表10に示すように、ウィルスを、ワクチン接種した動物、すなわち、グループ1及び2から分離した。
【0118】
【表10】

【0119】
ワクチン接種されたこれらの動物のウマインフルエンザウィルスに対する抗体価を検査するために、ワクチン接種前及びワクチン接種後7日目、14日目、21日目及び28日目に血液を採取した。例3に記載の方法に従って、血清サンプルを分離し、最近のEIV分離株に対するHAI価を検査した。これらの価を表11に示す。
【0120】
【表11】

【0121】
接種後90日目に、15頭すべての子馬を、ネブライザを用いて、例4に記載の方法により10pfuのウマインフルエンザウィルス株A/ウマ/ケンタッキー/1/91 (H3N8)で攻撃した。例3に記載した臨床症状の観察を、すべての動物について、攻撃の3日前及び、攻撃後11日間の毎日行った。ワクチン接種した動物のいずれも、顕性の臨床症状を示さなかった。ワクチンを接種しなかった5頭のうち4頭は、ウマインフルエンザウィルス感染に特有の発熱及び臨床症状を示した。
【0122】
従って、この例は、本発明の治療用組成物は、ウマにワクチン投与前にストレスを与えた場合でも、これらのウマをウマインフルエンザウィルスから保護することを実証するものである。
【0123】
例6
この例では、本発明の治療用組成物の感染力を、卵内で生育させた場合と組織培養細胞中で生育させた場合とで比較した。製剤的見地からすると、本発明の治療用組成物を、ふ化鶏卵内で生育させるよりも、組織培養細胞中で生育させる方が有利である。ウマインフルエンザウィルスは、しかし、細胞内では、卵内ほど高力価にまで生育しない。加えて、このウィルスが感染力を得るためには、ウィルスのヘマグルチニンに、トリプシンのようなタンパク分解酵素による細胞外タンパク分解開裂が必要である。血清にはトリプシン抑制物質が含まれるので、細胞培養で生育したウィルスに感染力を付与するためには、トリプシンを含む無血清培地中で増殖させなければならない。このような条件が、組織培養細胞の生存力の点では決して最適ではないことは、当業者に周知である。さらに、これらの生育条件のために、ウマ細胞との結合性が変化したウィルスが選別されるかもしれないが、そのためにウィルスの感染力が影響を受けるかもしれない。なぜなら、ウィルスは、複製及び免疫刺激を行うためには、動物の鼻粘膜に効率的に結合する必要があるからである。従って、この例で開示した研究は、本発明の治療用組成物の感染力が、インヴィトロ組織培養における多数の継代にわたる生育により、逆に影響を受けるかどうかを評価することを目的とする。
【0124】
例1に記載の方法で作製したEIV−P821を、例2Aに記載の方法で卵内で生育させるか、または、例2Bに記載の方法でMDCK細胞内で生育させる。どちらの場合も、ウィルスを5回継代培養した。各継代毎に、EIV−P821の低温適応性表現型及び温度感受性表現型を検査した。これらの卵及び細胞継代ウィルス調製物を、例2Cで述べたように、ウィルス10pfu/BSA−MEM溶液2mlを含む治療用組成物に製剤し、卵培養EIV−P821治療用組成物と、MDCK細胞培養EIV−P821治療用組成物とをそれぞれ得た。
【0125】
8頭の子馬をこの研究に使用した。それぞれの動物から採取した血清の、ウマインフルエンザウィルスに対するHAI価を、この研究に先立って検査した。これらの動物を、それぞれ4頭からなる2つのグループに無作為に分けた。グループAには、卵培養EIV−P821治療用組成物を投与し、グループBには、例2Bの方法で調製したMDCK培養EIV−P821治療用組成物を投与した。これらの治療用組成物を、例3Cに記載の方法で経鼻投与した。
【0126】
これらの子馬の、例3に記載したアレルギー反応または臨床症状を、ワクチン接種の2日前からワクチン接種後11日目まで、毎日ほぼ同じ時刻に観察した。これらの動物のいずれも、アレルギー反応または顕性の臨床症状を示さなかった。
【0127】
ワクチン接種前及びワクチン接種後11日間の毎日、鼻咽頭スワブを採取した。鼻スワブ中のウィルス物質の存在を、例1に記載したように、MDCK細胞のCPEを検出することにより、または、例3に記載したように、卵へ接種し、感染したAFが赤血球凝集を起こす能力を調べることにより、測定した。検査したのは、ウィルスの存在についてのみであり、サンプル中のウィルスの力価については検査しなかった。ウィルス分離の結果を表12に示す。血液を採取し、ワクチン接種後0日目、7日目、14日目、21日目及び28日目の血清サンプルの、新鮮分離株に対する赤血球凝集阻害抗体価を検査した。HAI価も表12に示す。
【0128】
【表12】

【0129】
表12の結果は、卵培養EIV−P821治療用組成物とMDCK培養EIV−P821治療用組成物との間で、感染性も免疫抗原性も著しい差がなかったことを示している。
【0130】
例7
この例では、ウマをウマインフルエンザウィルス感染から保護するために必要な、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物の最小量を評価した。
【0131】
例3から例6で開示した動物研究により、本発明の治療用組成物が有効かつ安全であることが示された。これらの研究で用いられた投与量は10pfuであり、これは約10TCID50単位に相当する。しかし、費用及び安全面から考えると、ウマインフルエンザウィルスに起因する疾患からウマを保護するであろう最小ウィルス力価を用いると有利である。この研究では、低温ウマインフルエンザウィルスを含有する治療用組成物の4種類の異なる量を子馬にワクチン接種し、ビルレントウマインフルエンザウィルスの攻撃からウマを保護する最小量を決定した。
【0132】
例1Aに記載の方法で作製したEIV−P821を、例2Bに記載の方法でMDCK細胞内で継代培養して生育させ、例2Cに記載したように、2×10、2×10、2×10または2×10TCID50単位/BSA−MEM溶液1ml の治療用組成物を製剤した。様々に異なる年齢及び血統の19頭のウマを使用した。これらのウマを、3頭のグループ1つと4頭のグループ3つからなる4つのワクチングループと、4頭からなる対照グループ1つとに分けた(表13参照)。ワクチングループの各子馬に、例3に記載したのと同様の方法で、指示された治療用組成物を1−ml量投与した。
【0133】
【表13】

【0134】
これらの子馬の即時型反応を、ワクチン接種直後約30分間及びワクチン接種後約4時間後に観察し、また、これらの動物の遅延型反応を、ワクチン接種後1日目から11日目にかけて観察した。ともに例3に記載の方法を用いた。この研究では、これらのワクチン接種した動物のいずれも、ワクチン接種による異常な反応や顕性の臨床症状を示さなかった。
【0135】
ワクチン接種の3日前、ワクチン接種後7日目、14日目、21日目、28日目、及びワクチン接種後35日目及び42日目の攻撃後に、血清分析用の血液を採集した。例3に記載の方法に従い、新鮮なEIV分離株に抗するHAI価について、血清サンプルを検査した。これらの価を表14に示す。29日目の攻撃の前に、グループ1の3頭のうち2頭、グループ2の4頭のうち4頭、グループ3の4頭のうち3頭及びグループ4の4頭のうち4頭のHAI価が、ワクチン接種後少なくとも4倍に増加した。加えて、4頭の対照ウマのうち2頭も、HAI価が増加した。この結果に対する説明の一つとして、対照ウマが、ワクチン接種されたウマのワクチンウィルスに感染したのかもしれない。なぜなら、この研究で用いたウマはすべて同じ厩舎で飼育されていたからである。
【0136】
【表14】

【0137】
ワクチン接種後29日目に、19頭の子馬すべてを、例4に記載のネブライザ法を用いて、ウマインフルエンザウィルス株A/ウマ/ケンタッキー/1/91(H3N8)で攻撃した。攻撃の投与量を見込み計算し、1頭当たり、容量5mlに約10TCID50単位の攻撃ウィルスが含まれるようにした。攻撃の2日前、攻撃当日及び攻撃後11日間、例3に記載された臨床観察を行った。表14に示されるように、グループ1及び2のいずれの動物も、ウマインフルエンザ疾患の臨床症状を示さず、また、グループ3の4頭のうち1頭だけが罹患した。グループ4の4頭のうち2頭が罹患し、また、4頭の対照動物のうち2頭だけが罹患した。表14の結果は、血清変換と疾患からの保護との関連性を示唆している。なぜなら、例えば、ワクチン接種期間中にHAI価が増加した2頭の対照動物は、攻撃後はウマインフルエンザ疾患の臨床症状を示さなかったからである。しかし、別の解釈として、攻撃ウィルスの実際の力価が、計算した量10TCID50単位よりも少なかったのかもしれない。なぜなら、前出の結果に基づけば、このレベルの攻撃は、全ての対照動物を罹患させたはずだからである。
【0138】
それでもなお、低温適応性ウマインフルエンザウィルスを少なくとも2×10 TCID50 単位含む治療用組成物を投与されたグループにおける血清変換のレベル及び臨床症状の欠如は、この量が、ウマインフルエンザ疾患からウマを保護するのに十分な量であったことを示唆している。さらに、2×10 TCID50 単位の投与で血清変換が誘発され、4頭のうち3頭が攻撃から臨床的に保護されたことから、この量でも、ウマをウマインフルエンザウィルスから効果的に保護するのには十分であるのかもしれない。
【0139】
例8
この例では、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の免疫性の持続時間を評価するための動物研究について開示する。
【0140】
例1に記載の方法で作製した低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物を、例2Aに記載した方法と同様に卵内で生育させ、例2Bに記載した方法と同様にMDCK細胞内で継代培養により展開し、例2Cに記載した方法と同様に治療用組成物に製剤した。生後およそ11ヶ月から12ヶ月の30頭のウマをこの研究に使用した。これらのうち19頭のそれぞれに、EIV−P821治療用組成物TCID50単位を6log含む投与量1.0mlをのワクチンを、端部に送出装置の先端を取り付けた注射器を使用して、片方の鼻孔に経鼻接種した。ワクチン接種を0日目に行った。
【0141】
これらのウマを、0日目(ワクチン接種前及びワクチン接種後4時間以内)及び、ワクチン接種後の研究日1日目、2日目、3日目、7日目、15日目及び169日目に観察した。これらの日に、少なくとも15分間の遠隔検査を行った。この遠隔検査には、様子、行動、咳、くしゃみ及び鼻汁の観察が含まれた。169日目の検査でも、これらのウマは、ワクチン接種場所から約360マイル離れた攻撃場所までの輸送に適する健康状態であったことが確認された。
【0142】
これらの動物は攻撃場所に慣らされ、ほぼ毎日、獣医師または動物専門技術者により疾患の徴候を観察された。ワクチン接種後171日目に、次の項目について、一般的な身体検査を行った:様子、行動、咳、くしゃみ及び鼻汁。172日目から177日目までは、これらのウマそれぞれの異常な臨床症状を観察する担当獣医の判断に基づき、同様の検査に加えて、直腸温を記録した。
【0143】
ワクチン接種したウマのいずれも、ワクチン接種後に有害反応を示さなかった。そのうち1頭は、ワクチン接種の約2ヶ月後に死亡した。このウマは、ワクチン接種後少なくとも1ヶ月間の観察時には、有害反応の徴候を全く示さなかった。死因を確定することはできないとしても、死亡は突発的なものではなく、疝痛、骨折または重症の寄生虫性の負担などの要因と関連があるのではないかと考えられた。他のワクチン接種したウマには、ワクチン接種後に有害反応は見られなかったので、この場合、ワクチンが何らかの有害反応の原因となったとは考えにくい。
【0144】
ワクチン接種後181日目に攻撃を行った。ウマの疾患を引き起こすことが予め確認されている、次のウマインフルエンザウィルスの野生型分離株:A/ウマ/2/ケンタッキー/91を、攻撃ウィルスとして使用した。各攻撃グループの感染の前に、攻撃材料を約37度で急速解凍した。ウィルスをリン酸緩衝生理食塩水で希釈し、総量約21mlとした。この希釈した材料を、接種の直前まで氷冷保存した。各攻撃グループの接種前及び噴霧終了時に、希釈した攻撃ウィルスのサンプルを採集して、接種前及び接種後のウィルス力価を確認した。ワクチン接種ウマと対照ウマとを、それぞれ6頭からなる4つの攻撃グループと、5頭からなる1つの攻撃グループとに無作為に分け、各攻撃グループが、4頭のワクチン接種ウマと2頭の対照ウマ、または3頭のワクチン接種ウマと2頭の対照ウマの組み合わせから構成されるようにした。
【0145】
エアロゾル状態の攻撃ウィルスを、超音波ネブライザ(例えばデビルビス・モデル099HD, ペンシルベニア州サマセット、デビルビス・ヘルスケア社)を用いて、プラスチックのシーリングの中央に開けた小さな孔から挿入した管を介して、約10分間投与した。噴霧終了後さらに約30分間、これらのウマをチャンバ内に留置した(曝露時間合計約40分間)。この時点でプラスチックを取り除いてチャンバを換気し、これらのウマを解放してそれぞれの厩舎に戻した。この攻撃工程を各グループについて繰り返した。
【0146】
この研究における統計手法には、すべてSAS(ノースカロライナ州ケアリー、SASインスティテュート社)を使用し、P<0.05を統計上有意であるとした。ワクチン接種後178日目(攻撃3日前)から191日目(攻撃後10日目)まで、これらのウマを遠隔検査及び個体検査の双方により、毎日観察した。この時、直腸温を測定した。0日目(攻撃当日)から攻撃後10日目までのデータを分析に使用し、表15に示す。
【0147】
【表15】

【0148】
表15は、攻撃後2日目から8日目まで、ワクチン接種ウマの温度が、ワクチン非接種対照ウマの温度よりも低い(P<0.05)ことを示している。
【0149】
遠隔検査の時間は20分間であり、その中で次の観察を行った:咳、鼻汁、呼吸及び抑うつ。採点基準を表16に示す。
【0150】
【表16】

【0151】
それぞれのウマを、これらの各カテゴリについて採点した。加えて、顎下リンパ節を触診し、細菌感染の有無を調べた。同じ日に行われた観察で、遠隔検査の主観臨床症状スコアと個別検査の主観臨床症状スコアとが異なる場合は、結果の整理分析の際に、大きい方のスコアを用いた。最終処理の前にこれらのウマの健康状態を評価する目的で、攻撃後14日目、18日目及び21日目に遠隔検査を行った。この分析には、攻撃後1日目から10日目までのデータも使用した。これらのスコアを1頭毎に日別に合計し、ウィルコクソン順位合計検定により、ワクチン接種ウマと対照ウマとを比較した。さらに、1頭毎に全ての日のスコアを合計し、同じ方法で比較した。平均順位及び平均臨床スコアを、表17及び表18にそれぞれ示す。接種後5日目では、ワクチン接種ウマのスコアの平均順位は、ワクチン非接種対照ウマのスコアの平均順位よりも低かった(P<0.05)。そして、この結果は、6日目、7日目、8日目、9日目及び10日目でも同様であった(P<0.05)。検査期間全体の累積順位についても、ワクチン接種ウマの方がワクチン非接種対照ウマよりも低かった(P<0.05)。
【0152】
【表17】

【0153】
【表18】

【0154】
鼻咽頭スワブを、例3で述べたように、攻撃前日及び攻撃後1日目から8日目にかけて採取し、放散されたウィルスを細胞培養アッセイにより検査した。攻撃ウィルスを放散していたウマの各グループのパーセンテージを、表19に示す。攻撃ウィルスを放散していたウマのワクチン接種グループでのパーセントは、攻撃後5日目及び6日目では、非ワクチン接種対照グループでのパーセントよりも低かった(P<0.05)。攻撃ウィルスが放散された平均日数も、ワクチン接種グループは、非ワクチン接種対照グループよりも低かった(P<0.05)。
【0155】
【表19】

【0156】
ワクチン接種グループのインフルエンザに関係する臨床徴候スコア及び客観的温度測定のスコアは共に、対照グループと比較して低く、その差は統計的に有意であった;このことは、このワクチンが疾患からの著しい保護効果を有することを説明するものである。
【0157】
攻撃後にウマがインフルエンザウィルスを放散する能力についても、攻撃後の複数の日の放散陽性のウマの出現率と、1頭当たりの放散日数とが、共に、ワクチン接種グループの方が対照グループよりも著しく少なかった。ワクチン接種グループによる放散が少ないというこの事実は、重要な意味を持つ。なぜなら、このことが、インフルエンザ流行時に、感受性の動物が野生型ウィルスに曝露される潜在的な可能性を減少させるのに役立つと予想されるからである。
【0158】
この研究の結果は、このワクチンが、ウマインフルエンザに起因する臨床疾患を6ヶ月間安全に防止し、天然に発生するビルレントウマインフルエンザウィルスの放散の可能性を減少させたということを説明するものである。疾患からの保護の程度は完全ではないが(ワクチン接種された19頭のうち13頭が保護されたのに対し、10頭の対照ウマのうち10頭が罹患した)、臨床疾患の重度及び期間は明らかに軽減され、また、ウマインフルエンザのビルレント株への曝露後にウィルスが放散する潜在的な可能性に大きな影響を与えた。ワクチン接種ウマと対照ウマとが、免疫接種後6ヶ月目の攻撃の直前に、双方とも血清陰性であったという結果は、血清抗体以外の何かにより伝達される免疫力が、このワクチンの測定可能なかつ恒久性の保護能力を最も大きく左右するのかもしれないということを示唆している。
【0159】
例9
この例では、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の、ウマインフルエンザウィルスの異種株への曝露後の疾患を予防する能力を評価するための動物研究を開示する。
【0160】
検査に使用した異種株は、遺伝学的にはユーラシア系統株(サスカチェワン大学、ヒューゴ・タウンセンドより入手)として述べられるA/ウマ/2/サスカトゥーン/90であった。20頭の約15月齢(ワクチン接種時)のペルシュロン種の雌ウマを、有効性研究に使用した。これらのウマを、10頭からなるワクチン接種グループと、10頭からなるワクチン非接種対照グループとの2グループに分けた。0日目に、例8に述べた方法でワクチン接種グループにワクチンを接種した。
【0161】
攻撃材料、すなわちウマインフルエンザ株A/ウマ/2/サスカトゥーン/90[H3N8]を、例8で述べた製法と同様の方法で調製した。ワクチン接種ウマと対照ウマとを、それぞれ5頭からなる4つの攻撃グループに無作為に分け、各攻撃グループが2頭のワクチン接種ウマと3頭の対照ウマ、または3頭のワクチン接種ウマと2頭の対照ウマから構成されるようにした。攻撃の工程は、例8で述べた工程と同様であった。ワクチン接種後28日目に攻撃を行った。
【0162】
ワクチン接種ウマと対照ウマとの臨床観察を、ワクチン接種4日前と、研究日0日目(ワクチン接種前からワクチン接種後4時間まで)、1日目から7日目、12日目、15日目から17日目まで、19日目から23日目、25日目から38日目、及び42日目に行った。ワクチン接種4日前からワクチン接種後42日目までの間の臨床観察日に、1頭毎に、異常な臨床症状を観察する担当獣医の判断に基づき、直腸温を含めた臨床観察を記録した。例8(表15)で使用したのと同じ基準を用いて、ウマのスコアをつけた。これらの日に、例8で述べた遠隔検査を行った。20日目及び25日目から38日目にかけては、これらのウマを遠隔検査と個別検査の両方により(例8で述べたのと同じ方法で)観察した。
【0163】
直腸温を、攻撃の3日前から攻撃後10日目まで毎日測定した。攻撃0日目は攻撃の当日である。攻撃後0日目から10日目までのデータを分析に使用した。例8で使用したのと同じ統計的手法と基準とを用いた。攻撃後2日目、5日目及び7日目には、ワクチン接種されたウマは、非ワクチン接種対照ウマよりも統計上有意的に低い体温を示した(表20)。
【0164】
【表20】

【0165】
攻撃後1日目から10日目までのデータを、分析に使用した。これらのスコアを1頭毎に日別に合計し、ウィルコクソン順位合計検定により、ワクチン接種ウマと対照ウマとを比較した。統計的手法はすべて例9で述べたのと同じ手法を用いた。さらに、1頭毎に全ての日のスコアを合計し、同じ方法で比較した。平均順位を表21に示す。
【0166】
【表21】

【0167】
接種後4日目では、ワクチン接種ウマのスコアの平均順位は、ワクチン非接種対照ウマのスコアの平均順位よりも低かった(P<0.05)。そして、この結果は、この研究の期間全体を通して同じであった(P<0.05)。検査期間全体の累積順位についても、ワクチン接種ウマの方がワクチン非接種対照ウマよりも低かった(P<0.05)。
【0168】
鼻咽頭スワブを、例3で述べた方法で、攻撃後1日目から8日目にかけて採集した。鼻サンプルを、ウィルスの存在について分析した。分析は、細胞に接種して、細胞変性効果(CPE)によりウィルスを検出するか、または、卵に接種して、赤血球凝集(HA)によりウィルスを検出して行った。細胞培養アッセイを、Youngner et al., 1994, J. Clin. Microbiol. 32, 750−754に概説されている方法で行った。連続的に希釈した鼻サンプルを、マディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)単層を含むウェルに加えた。インキュベート後、細胞変性効果の存在及び程度について、ウェルを検査した。ウィルスのTCID50単位量を、リード−ミュエンチ法により算出した。例1に述べた方法で、卵感染性アッセイを行った。各グループで攻撃ウィルスを放散していたウマのパーセンテージを、アッセイ別に表22及び表23に示す。ワクチン接種グループでは、攻撃後2日目から7日目までの間に攻撃ウィルスを放散していたウマのパーセントは、どちらの方法でも比較的低かった(P<0.05)。攻撃後1日目または8日目は、差異が見られなかった。また、攻撃ウィルス放散日数も、ワクチン接種グループの方が、非ワクチン接種対照グループよりも低かった(P<0.05);表22及び表23を参照のこと。
【0169】
【表22】

【0170】
【表23】

【0171】
ワクチン接種グループのインフルエンザ臨床徴候の程度(重度及び期間)は、対照グループと比較して概ね軽かった。インフルエンザに関係する臨床徴候のスコア及び客観的温度測定結果は、共に、ワクチン接種グループの方が対照グループよりも統計的有意に低かった。このことは、このワクチンに、異種株による疾患からの著しい保護効果があることを示す。
【0172】
攻撃後にウマがインフルエンザウィルスを放散する能力についても、攻撃後の複数の日の放散陽性のウマの出現率と、1頭当たりの放散日数とが、共に、ワクチン接種グループの方が対照グループよりも著しく低かった。ワクチン接種グループによる放散が少ないというこの事実は重要な意味をもつ。なぜなら、このことが、インフルエンザ流行時に、感受性の動物が野生型ウィルスに曝露される可能性を減少させるのに役立つであろうからである。
【0173】
総合すると、この研究の結果は、このワクチンが、ユーラシア系ウマインフルエンザウィルス株の一種による異種攻撃に対する保護効果を発揮したことを示した。
【0174】
例10
この例では、低温適応性ウマインフルエンザウィルスEIV−P821を含有する治療用組成物の、ウマインフルエンザウィルスの異種株への曝露後の疾患を予防する能力を評価するための動物研究について開示する。
【0175】
検査した異種株は、A/ウマ/ケンタッキー/1/91(H3N8) (ケンタッキー大学、トム・チャンバーズより入手)であった。生後5ヶ月から7ヶ月の8頭の子馬を、この有効性研究に使用した。これらのウマを、ワクチン接種する4頭と、非ワクチン接種対照の4頭の2グループに分けた。例8に述べた方法で、0日目に子馬にワクチンを接種した。
【0176】
研究日0日目(ワクチン接種前及びワクチン接種の4時間後)及び接種後1日目から8日目まで、23日目、30日目から50日目まで、及び57日目に、ワクチン接種グループの臨床観察を行った。対照グループの臨床観察を、接種後29日目から50日目まで、及び57日目に行った。例8に述べた方法で、観察及び採点を行った。
【0177】
攻撃材料、すなわち、ケンタッキー/98からのウマインフルエンザ株を、この分離ウィルスを卵内で2回継代培養して作製した。このウィルス0.5mlを解凍し、次に滅菌リン酸緩衝生理食塩水4.5mlに希釈して、それぞれのウマへの接種材料を調製した。この接種材料を、ワクチン接種後36日目に、マスクを使用した噴霧により、それぞれのウマに投与した。
【0178】
臨床観察スコアを、日別に1頭毎に合計し、攻撃後1日目から9日目の累積合計スコアに基づき、ウマを順位付けした。これらの結果を表24に示す。
【0179】
【表24】

【0180】
表24の結果は、ワクチン接種グループのスコアが0から2の間であり、対照グループのスコア21から26までと比較して著しく低かったことを示している。
【0181】
攻撃の6日前から攻撃後9日目まで、直腸温を毎日測定した。0日目は攻撃の当日である。攻撃後0日目から9日目までのデータを分析に使用した。これらの結果を表25に示す。
【0182】
【表25】

【0183】
全ての日で、対照ウマの温度は、ワクチン接種ウマの温度よりも高かった。対照ウマの温度は、2日目に顕著に高かった。
【0184】
例3に述べた方法で、攻撃後1日目及び8日目に鼻咽頭スワブを採集した。例1に述べた卵感染性アッセイにより、これらのサンプルの放散ウィルスを検査した。このアッセイの結果を表26に示す。
【0185】
【表26】

【0186】
表26の結果は、1日当たりの陽性ウマの数が、対照グループの方がワクチン接種グループよりも高かったことを示している。さらに、対照ウマはワクチン接種ウマよりも陽性を示した日数が多かった。
【0187】
インフルエンザに関連する臨床徴候のスコア及び客観的温度測定結果は、共に、ワクチン接種グループと対照グループとの間に著しい相違を示した;このことは、このワクチンが、異種株ケンタッキー/98に起因する疾患からの高い保護効果を有することを示している。
【0188】
ウマが攻撃後にインフルエンザウィルスを放散する能力についても、ワクチン接種グループの1頭当たりの平均放散日数は、対照グループと比較して著しく低かった。ワクチン接種グループによる放散が少ないというこの事実は重要な意味をもつ。なぜなら、このことが、インフルエンザ流行時に、感受性の動物が野生型ウィルスに曝露される可能性を減少させるのに役立つと予想されるからである。
【0189】
総合すると、この研究の結果は、このワクチンが、新鮮な及び臨床的に近似した分離株による異種攻撃に対する安全な保護効果を有することを示している。この研究結果を、ユーラシア系統株による異種攻撃に対して発揮した保護効果(例9)に照らして見ると、この調製生ワクチンが、同種ウマインフルエンザ感染だけではなく異種ウマインフルエンザ感染に対しても保護効果を有することは明らかである。
【0190】
例11
この例では、野生型及び低温適応性ウマインフルエンザウィルスの、ウマインフルエンザM(基質)タンパク質核酸分子のクローニング及び配列決定について説明する。
【0191】
A.野生型または低温適応性ウマインフルエンザウィルスMタンパク質をコードする核酸分子を、次の方法で作製した。ウマインフルエンザウィルスDNA及び、それぞれSEQ ID NO:26及びSEQ ID NO:27のプライマw584及びw585から、PCR増幅により、ウマインフルエンザM遺伝子を含有するPCR産物を作製した。neiwt1023として表され、核酸配列SEQ ID NO:1のコドン鎖を有する、ヌクレオチド1023個からなる核酸分子を、さらなるPCR増幅により、上述のPCR産物を鋳型として作製し、カリフォルニア州カールズバッド、インヴィトロゲン社より入手可能なpCR 2.1(登録商標)TAクローニングベクターに、製造者が保証する標準的な方法でクローニングした。使用したプライマは、SEQ ID NO:29のT7プライマ及びSEQ ID NO:28のREVプライマであった。プラスミドDNAを、カリフォルニア州バレンシア、キアゲン社より入手可能なミニプレップ法で精製した。シークエンシング用のPCR産物を、それぞれカリフォルニア州フォスターシティ、ピーイー・アプライド・バイオシステムズ社より入手可能な、PRISMTM ダイ・ターミネータ・サイクル・シークエンシング・レディ・リアクション・キット、PRISMTM dRhoダミン・ターミネータ・サイクル・シークエンシング・レディ・リアクション・キット、またはPRISMTM BigDyeTM ターミネータ・サイクル・シークエンシング・レディ・リアクション・キットを用いて、製造者のプロトコルに従って作製した。キットで使用したPCR条件は、95℃で10秒間加熱、50℃で5秒間加熱、60℃で4分間加熱、このサイクルを25回繰り返した。異なる反応では、異なるプライマの組み合わせを用いた:第1の反応ではT7とREV、第2の反応ではw584とw585、第3の反応ではSEQ ID NO:31のefM−a1及びSEQ ID NO:30のefM−s1を使用した。PCR産物を、エタノール/塩化マグネシウム沈降法により精製した。ピーイー・アプライド・バイオシステムズ社より入手可能なABI PrismTM モデル377、XLアップグレードDNAシークエンサを使用して、DNAサンプルの自動配列決定を行った。
【0192】
SEQ ID NO:1を翻訳すると、核酸分子neiwt1023が、ここではPeiwt252と言及されるアミノ酸約252個からなる全長ウマインフルエンザMタンパク質をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:2で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:1のヌクレオチド25からヌクレオチド28にあり、終了コドンがSEQ ID NO:1のヌクレオチド781からヌクレオチド783にあることを想定している。Peiwt252をコードする領域は、neiwt756で表されるが、この領域は、SEQ
ID NO:1のヌクレオチド25から780までにあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:3で表される。
【0193】
SEQ ID NO:1及びSEQ ID NO:3は、2つの野生型核酸分子から得たコンセンサス配列を表し、これらの野生型核酸分子とはヌクレオチドが1つ異なる。 neiwt11023のヌクレオチド663、すなわち、neiwt1756のヌクレオチド649は、アデニンであるが、neiwt21023のヌクレオチド663、すなわち、neiwt2756のヌクレオチド649は、グアニンであった。これらの配列を翻訳しても、対応するアミノ酸は変化せず、双方とも Peiwt252の残基221のバリンに翻訳する。
【0194】
B.低温適応性ウマインフルエンザウィルスMをコードする1023個のヌクレオチドからなる核酸分子は、neica11023で表され、SEQ ID NO:4で表されるコドン鎖を有するが、この核酸分子をさらなるPCR増幅により作製し、インヴィトロゲン社より入手可能なpCR(登録商標)−Bluntクローニングベクターに、製造者が保証する標準的な方法でクローニングした。このとき使用したプライマはT7及びREVであった。例11Aに記載した方法で、プラスミドDNA精製及びサイクルシークエンスを行った。SEQ ID NO:4を翻訳すると、核酸分子neica11023が、ここではPeica1252と言及されるアミノ酸約252個からなる全長ウマインフルエンザMタンパク質をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:5で表されるが、ただしこのとき、開放読み取り枠の開始コドンがSEQ ID NO:4のヌクレオチド25からヌクレオチド28にあり、終了コドンがSEQ ID NO:4のヌクレオチド781からヌクレオチド783にあることを想定している。Peica1252をコードする領域は、neica1756を指定するが、この領域は、SEQ ID NO:4のヌクレオチド25から780までにあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:6で表される。低温適応性ウマインフルエンザMタンパク質をコードする第2の核酸分子を同じ方法でPCR増幅し、neica11023と同一の分子 neica21023、及びneica1756と同一の分子neica2756を作製した。
【0195】
C.neiwt1023(SEQ ID NO:1)とneica11023 (SEQ ID NO:4)のコドン鎖の核酸配列をDNAアライメントで比較すると、次の相違が判明する:塩基67のGがTに変化、塩基527のCがTに変化、塩基886のGがCに変化。タンパク質Peiwt252(SEQ ID NO:2)とPeica1252 (SEQ ID NO:5)とのアミノ酸配列を比較すると、次の相違が判明する:DNA配列の塩基67のGからTへの変化に対応する、アミノ酸23のVからLへの変化、及びDNA配列の塩基527のCからTへの変化に対応する、アミノ酸187のTからIへの変化。
【0196】
例12
この例では、野生型または低温適応性ウマインフルエンザウィルスのウマインフルエンザHA(ヘマグルチニン)タンパク質核酸分子のクローニング及び配列決定について説明する。
【0197】
A.野生型または低温適応性ウマインフルエンザウィルスHAタンパク質をコードする核酸分子を、次の方法で作製した。ウマインフルエンザウィルスDNA及び、それぞれSEQ ID NO:32及びSEQ ID NO:33のプライマw578及びw579から、PCR増幅により、ウマHA遺伝子を含有するPCR産物を作製した。neiwtHA1762として表され、核酸配列SEQ ID NO:7を含むコドン鎖を有する、野生型HAタンパク質をコードするヌクレオチド1762個からなる核酸分子を、さらなるPCR増幅により、上述のPCR産物を鋳型として作製し、例11Aに記載した方法でpCR 2.1(登録商標)TAクローニングベクターにクローニングした。プラスミドDNAを、例11Aに記載した方法で精製及び配列決定した。ただし、シークエンシングキットで使用したプライマは、例11AではT7及びREVであったが、この例では、SEQ ID NO:34で表されるHA−1及びSEQ ID NO:35で表されるHA−2を使用した。
【0198】
SEQ ID NO:7を翻訳すると、核酸分子neiwtHA1762が、ここではPeiwtHA565と言及されるアミノ酸約565個からなる全長ウマインフルエンザHAタンパク質をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:8で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:7のヌクレオチド30からヌクレオチド33にあり、終了コドンがSEQ ID NO:7のヌクレオチド1725からヌクレオチド1727にあることを想定している。PeiwtHA565をコードする領域は、neiwtHA1695で表されるが、この領域は、SEQ ID NO:7のヌクレオチド30から1724までにあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:9で表される。
【0199】
B.低温適応性ウマインフルエンザウィルスHAタンパク質をコードする1762個のヌクレオチドからなる核酸分子は、neica1HA1762で表され、SEQ ID NO:10で表されるコドン鎖を有するが、この核酸分子を、例11Bに記載した方法で作製した。プラスミドDNA精製及びサイクルシークエンスを、例12Aに記載した方法で行った。
【0200】
SEQ ID NO:10を翻訳すると、核酸分子がneica1HA1762が、ここではPeica1HA565と言及されるアミノ酸約565個からなる全長ウマインフルエンザHAタンパク質をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:11で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:10のヌクレオチド30からヌクレオチド33にあり、終了コドンがSEQ ID NO:10のヌクレオチド1725からヌクレオチド1727にあることを想定している。Peica1HA565をコードする領域は、neica1HA1695で表されるが、この領域は、SEQ ID NO:10のヌクレオチド30から1724までにあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:12で表される。
【0201】
低温適応性ウマインフルエンザHAタンパク質をコードする第2の核酸分子を同じ方法でPCR増幅し、neica1HA1762と同一の分子 neica2HA1762、及びneica1HA1695と同一の分子neica2HA1695を作製した。
【0202】
C.neiwtHA1762 (SEQ ID NO:7)とneica1HA1762 (SEQ ID NO:10)とのコドン鎖の核酸配列をDNAアライメントで比較すると、次の相違が判明する:塩基55のCがTに変化、塩基499のGがAに変化、塩基671のGがAに変化、塩基738のCがTに変化、塩基805のTがCに変化、塩基1289のGがAに変化、塩基1368のAがGに変化。。タンパク質PeiwtHA565 (SEQ ID NO:8)とPeica1HA565 (SEQ ID NO:11)とのアミノ酸配列を比較すると、次の相違が判明する:DNA配列の塩基55のCからTへの変化に対応する、アミノ酸18のPからLへの変化、DNA配列の塩基499のGからAへの変化に対応する、アミノ酸166のGからEへの変化、DNA配列の塩基738のCからTへ温変化に対応する、アミノ酸246のRからWへの変化、DNA配列の塩基805のTからCへの変化に対応する、アミノ酸268のMからTへの変化、DNA配列の塩基1368のAからGへの変化に対応する、アミノ酸456のKからEへの変化。DNA配列の塩基671のGからAへの変化に対応する、残基223のセリン(S)は変化せず、また、DNA配列の塩基1289のGからAへの変化に対応する、残基429のアルギニン(R)も変化しなかった。
【0203】
例13
この例では、野生型又は低温適応性ウマインフルエンザウィルスの、ウマインフルエンザPB2タンパク質(RNA依存RNAポリメラーゼ)のN−末端部分に対応する核酸分子のクローニング及び配列決定について説明する。
【0204】
A. 野生型または低温適応性ウマインフルエンザウィルスPB2−Nタンパク質をコードする核酸分子を、次の方法で作製した。ウマインフルエンザウィルスDNA及び、それぞれSEQ ID NO:36及びSEQ ID NO:37で表されるプライマw570及びw571から、PCR増幅により、ウマPB2遺伝子のN−末端部分を含有するPCR産物を作製した。neiwtPB2−N1241として表され、核酸配列SEQ ID NO:13で表されるアミノ酸配列を有するコドン鎖を有する、野生型PB2−Nタンパク質をコードするヌクレオチド1241個からなる核酸分子を、さらなるPCR増幅により、上述のPCR産物を鋳型として作製し、例11Bに記載した方法でクローニングした。プラスミドDNAを、例11Bに記載した方法で精製及び配列決定した。ただし、シークエンシングキットで使用したプライマは、T7及びREVのみであった。
【0205】
SEQ ID NO:13を翻訳すると、核酸分子neiwtPB2−N1241が、ここではPwtPB2−N404と言及されるアミノ酸約404個からなるウマインフルエンザPB2タンパク質をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:14で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:13のヌクレオチド28からヌクレオチド30にあり、終了コドンがヌクレオチド1237からヌクレオチド1239にあることを想定している。PwtPB2−N404をコードする領域は、neiwtPB2−N1214で表されるが、この領域は、SEQ ID NO:13のヌクレオチド28から1239までにあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:15で表される。
【0206】
B.インフルエンザPB2低温適応性ウマインフルエンザウィルスPB2−Nタンパク質のN−末端をコードする1239個のヌクレオチドからなる核酸分子は、neica1PB2−N1241で表され、SEQ ID NO:16で表されるコドン鎖を有するが、この核酸分子を、例12Aに記載した方法で作製した。
【0207】
SEQ ID NO:16を翻訳すると、核酸分子neica1PB2−N1241が、ここではPeica1PB2−N404と言及されるアミノ酸約404個からなるウマインフルエンザPB−2タンパク質のN−末端をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:17で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:16のヌクレオチド28からヌクレオチド30にあり、終了コドンがヌクレオチド1237からヌクレオチド1239にあることを想定している。Peica1PB2−N404をコードする領域は、neica1PB2−N1214で表されるが、この領域は、SEQ ID NO:16のヌクレオチド28から1239にあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:18で表される。
【0208】
低温適応性ウマインフルエンザPB2−Nタンパク質をコードする第2の核酸分子を同じ方法でPCR増幅し、neica1PB2−N1241と同一の分子 neica2PB2−N1241、及びneica1PB2−N1214 と同一の分子neica2PB2−N1214を作製した。
【0209】
C.neiwtPB2−N1241 (SEQ ID NO:13)とneica1PB2−N1214(SEQ ID NO:16)とのコドン鎖の核酸配列をDNAアライメントで比較すると、次の相違が判明する:塩基370のTがC。タンパク質PwtPB2−N404(SEQ ID NO:14)とPca1PB2−N404 (SEQ ID NO:17)とのアミノ酸配列を比較すると、次の相違が判明する:DNA配列の塩基370のTからCへの変化に対応する、アミノ酸124のYからHへの変化。
【0210】
例14
この例では、野生型又は低温適応性ウマインフルエンザウィルスの、ウマインフルエンザPB2タンパク質(RNA依存RNAポリメラーゼ)のC−末端部分に対応する核酸分子のクローニング及び配列決定について説明する。
【0211】
A. 野生型または低温適応性ウマインフルエンザウィルスPB2−Cタンパク質をコードする核酸分子を、次の方法で作製した。ウマインフルエンザウィルスDNA及び、それぞれSEQ ID NO:38及びSEQ ID NO:39で表されるプライマw572及びw573から、PCR増幅により、ウマPB2遺伝子のC−末端部分を含有するPCR産物を作製した。neiwtPB2−C1233として表され、核酸配列SEQ ID NO:19を含むコドン鎖を有する、野生型PB2−Cタンパク質をコードするヌクレオチド1233個からなる核酸分子を、さらなるPCR増幅により、上述のPCR産物を鋳型として作製し、例11Bに記載した方法でクローニングした。プラスミドDNAを、例11Aに記載した方法で精製及び配列決定した。ただし、シークエンシングキットでは異なるプライマを使用した。例11AではT7及びREVを使用したが、この例では、SEQ ID NO.40で表されるefPB2−a1とSEQ ID NO.41で表されるefPB2−s1、及びSEQ ID NO.42で表されるefPB2−a2とSEQ ID NO.43で表されるefPB2−s2を使用した。
【0212】
SEQ ID NO:19を翻訳すると、核酸分子neiwt1PB2−C1233が、ここではPwtPB2−C398と言及されるアミノ酸約398個からなるウマインフルエンザPB2タンパク質のC−末端をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:20で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:19のヌクレオチド3からヌクレオチド5にあり、終了コドンがヌクレオチド1197からヌクレオチド1199にあることを想定している。SEQ ID NO:19は単なる部分的な遺伝子配列であるので、開始コドンを含まない。PwtPB2−C398をコードする領域は、neiwtPB2−C1194で表されるが、この領域は、SEQ ID NO:19のヌクレオチド3から1196までにあるコドン鎖を有し、SEQ ID NO:21で表される。
【0213】
野生型インフルエンザPB2−Nタンパク質をコードする第2の核酸分子を同様の方法でPCR増幅し、neiwt2PB2−N1232として表され、核酸配列SEQ ID
NO:22を含むコドン鎖を有する、ヌクレオチド1232個からなる核酸分子を作製した。neiwt2PB2−N1232は、5’−末端のヌクレオチド1個の欠失を除いては、neiwt1PB2−C1233と同一である。SEQ ID NO:22を翻訳すると、核酸分子neiwt1PB2−C1233が、PwtPB2−C398(SEQ ID NO.20)もコードすることが判明するが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:22のヌクレオチド2からヌクレオチド4にあり、終了コドンがヌクレオチド1196からヌクレオチド1198にあることを想定している。SEQ ID NO:22は単なる部分的な遺伝子配列であるので、開始コドンを含まないSEQ ID NO:22のヌクレオチド2から1195までにあるヌクレオチドを含むコドン鎖を有する核酸分子は、neiwt2PB2−C1194で表され、SEQ ID NO:21と同一である。
【0214】
B.インフルエンザPB2低温適応性ウマインフルエンザウィルスPB−2タンパク質のC−末端部分をコードする1232個のヌクレオチドからなる核酸分子は、neica1PB2−C1232で表され、SEQ ID NO:23で表されるコドン鎖を有するが、この核酸分子を、pCR(登録商標)−Bluntクローニングベクターを使用した点以外では例14Aに記載した方法と同じ方法で作製した。
【0215】
SEQ ID NO:23を翻訳すると、核酸分子neica1PB2−C1232が、ここではPca1PB2−C398と言及されるアミノ酸約398個からなるウマインフルエンザPB−2タンパク質のC−末端をコードすることが判明し、このタンパク質のアミノ酸配列はSEQ ID NO:24で表されるが、ただしこのとき、開いた読み枠の開始コドンがSEQ ID NO:23のヌクレオチド2からヌクレオチド4にあり、終了コドンがヌクレオチド1196からヌクレオチド1198にあることを想定している。SEQ ID NO:23は単なる部分的な遺伝子配列であるので、開始コドンを含まない。Pca1PB2−C398をコードする領域は、neica1PB2−C1194で表されるが、この領域は、SEQ ID NO:23のヌクレオチド2から1195までにあるヌクレオチドを含むコドン鎖を有し、SEQ ID NO:25で表される。
【0216】
低温適応性ウマインフルエンザPB2−Cタンパク質をコードする第2の核酸分子を同じ方法でPCR増幅し、neica1PB2−N1241と比較して3’末端のヌクレオチド1個が欠失しているneica2PB2−C1231、及びneica1PB2−N1214 と同一の分子neica2PB2−N1214を作製した。
【0217】
C.neiwt1PB2−C1233 (SEQ ID NO:19)とneica1PB2−C1232(SEQ ID NO:23)のコドン鎖の核酸配列をDNAアライメントで比較すると、次の相違が判明する:SEQ ID NO:19の塩基153のAがCに変化、及びSEQ ID NO:19の塩基929のGがAに変化。タンパク質PwtPB2−C398(SEQ ID NO:20)とPca1PB2−398 (SEQ ID NO:24)とのアミノ酸配列を比較すると、次の相違が判明する:DNA配列の塩基153のAからCへの変化に対応する、アミノ酸51のKからQへの変化。塩基929のGからAへの変化によるアミノ酸の変化はない。
【0218】
本発明の様々な実施例を詳細に説明したが、これらの実施例に修正及び変更が加えられるであろうことは当業者に明白である。しかしながら、そのような修正及び変更は、以下の請求の範囲で述べるような、本発明の範囲内で行われるものであることを、理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【公開番号】特開2012−85657(P2012−85657A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14538(P2012−14538)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【分割の表示】特願2009−223534(P2009−223534)の分割
【原出願日】平成11年8月12日(1999.8.12)
【出願人】(501058456)ザ ユニバーシティー オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エドゥケーション (2)
【Fターム(参考)】