説明

低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材

本発明は、船舶、建築、橋梁、海洋構造物、鋼管、ラインパイプなどの溶接構造物に使用されるフラックスコアードアーク溶接(Flux Cored Arc Welding;FCAW)を行った際の溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材に関し、TiO酸化物及び固溶Bを用いて粒内の針状フェライト変態を促進させて、高強度物性を有すると同時に低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材を提供することにその目的がある。
本発明は、重量%で、C:0.01−0.2%、Si:0.1−0.5%、Mn:1.0−3.0%、Ni:0.5−3.0%、Ti:0.01−0.1%、B:0.0010−0.01%、Al:0.005−0.05%、N:0.003−0.006%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、O:0.03−0.07%、0.7≦Ti/O≦1.3、6≦Ti/N≦12、7≦O/B≦12、1.2≦(Ti+4B)/O≦1.9を満たし、残部Fe及びその他不可避な不純物で組成され、その微細組織が85%以上の針状フェライト及び残部ベイナイト、粒界フェライト及び多角形フェライトのうち1種または2種以上を含むことを特徴とする低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材をその要旨とする。
本発明によると、高強度物性を有すると同時に優れた低温CTOD特性を有するフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、建築、橋梁、海洋構造物、鋼管、ラインパイプなどの溶接構造物に使用されるフラックスコアードアーク溶接(Flux Cored Arc Welding;FCAW)を行った際の溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材に関し、より詳細には、低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、油価などの持続的な上昇によって海洋構造物がなお寒冷地などに建設されて使用されており、用いられる鋼材は、高強度化及び低温CTOD特性が要求されている。
【0003】
このような海洋構造物の安定性確保のためには、海洋構造物の溶接部CTOD特性は最も重要な要素の一つである。
【0004】
一般的に、海洋構造物のフラックスコアード溶接の場合、入熱範囲が、おおよそ7−25kJ/cmの入熱量を使っている。
【0005】
一般的に溶接時に形成される溶接金属(Weld Metal)は、凝固しながら粗大な柱状晶組織が形成され、粗大な結晶粒内にオーステナイト結晶粒界によって粗大な粒界フェライト及びWidmanstatten フェライトなどが形成される。すなわち、溶接金属部は、溶接部でCTOD特性が最も劣化する部位である。
【0006】
従って、溶接構造物の安定性を確保するためには、溶接金属部の微細組織を制御して、溶接金属部のCTOD特性を確保する必要がある。これを解決するための手段としては、溶接材料の成分を規定した技術が提案されている。そのような技術の例は、日本特許公開公報平11−170085号に開示されている。しかしながら、この技術は溶接金属の微細組織、粒径の制御については不明であり、前記文献に記載の溶接材料では十分な溶接金属部の靭性が得難い。
【0007】
また、日本特許公開特許第2005−171300号では、重量%で、C:0.07%以下、Si:0.3%以下、Mn:1.0〜2.0%、P:0.02%以下、Sを0.1%以下、sol.Al:0.04〜0.1%、N:0.0020〜0.01%、Ti:0.005〜0.02%、及びB:0.005〜0.005%を含み、ARM=197−1457C−1140sol.Al+11850N−316(Pcm−C)で定義されるARMが40〜80であることを特徴とする組成物が開示されている。しかしながら、規定されているARMには、溶接部内の酸素含量の制限がないため、SAW大入熱溶接金属部の衝撃靭性を確保し難い。
【0008】
また、日本特許公開公報平成10−180488号では、重量%で、スラグ生成剤:0.5〜3.0%、C:0.04〜0.2%、Si≦0.1%、Mn:1.2〜3.5%、Mg:0.05〜0.3%、Ni:0.5〜4.0%、Mo:0.05〜1.0%、及びB:0.002〜0.015%を含むことにより良好な衝撃靭性を確保しているが、溶接金属内の酸素及び窒素含量に対する記載がない。このため、溶接金属部のCTOD特性を確保し難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、TiO酸化物及び固溶Bを用いて、粒内の針状フェライト変態を促進させて、高強度物性を有すると同時に低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明に対して説明する。
【0011】
本発明の一態様において、本発明は、優れた低温CTOD特性を有するフラックスコアードアーク溶接金属部であって、前記FCAW溶接金属部は、重量%で、C:0.01−0.2%、Si:0.1−0.5%、Mn:1.0−3.0%、Ni:0.5−3.0%、Ti:0.01−0.1%、B:0.0010−0.01%、Al:0.005−0.05%、N:0.003−0.006%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、及びO:0.03−0.07%を含み、前記FCAW溶接金属部は、0.7≦Ti/O≦1.3、6≦Ti/N≦12、7≦O/B≦12、1.2≦(Ti+4B)/O≦1.9の関係を満たし、かつ残部Fe及びその他不可避な不純物を含み、前記FCAW溶接金属部は、85%以上の針状フェライト(acicular ferrite)、及び残部ベイナイト、粒界フェライト及び多角形フェライトのうちの1種以上を含むことを特徴とする微細構造を含む、低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部を提供する。
【0012】
前記溶接金属部は、Nb:0.0001〜0.1%、V:0.005〜0.1%、Cu:0.01〜2.0%、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜0.5%、及びZr:0.005〜0.5%からなる群より選択される1種以上、及び/または、Ca:0.0005〜0.005%、REM:0.005〜0.05%からなる群より選択される1種以上の元素をさらに含むことができる。
【0013】
上記溶接金属部には、0.01〜0.1μm(マイクロメーター)の TiO酸化物が1.0×10個/mm以上分布されることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の溶接金属部を有する鋼部材に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、TiO酸化物及び固溶Bを用いることで、溶接金属部で針状フェライト変態を促進させて、高強度物性を有すると同時に優れた低温CTOD特性を有するフラックスコアードアーク溶接金属部及びこの溶接金属部を有する鋼部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
本発明者らは、溶接入熱量が7〜30kJ/cmであるFCAW溶接において、高強度物性を有すると同時に優れたCTODの確保が可能な溶接金属部を開発するために、溶接金属部のCTODに効果的であると知られていた針状フェライトに及ぼす酸化物の種類及びサイズなどに対して調査した。その結果、TiO及び固溶Bによって溶接金属部の粒界フェライト及び針状フェライトの量が変化し、これにより、溶接金属部のCTOD値が変化するという事実が分かった。
【0018】
この研究に基づき、本発明では、
[1]FCAW溶接金属にTiO酸化物を用い、
[2]0.01〜0.1μm(micrometer)の粒径、および1.0×10個/mm以上の酸化物を有する溶接金属部内で、針状フェライトを 85%以上変態させて靭性を向上させ、及び
[3]針状フェライト変態は、TiO及び固溶Bを確保しすることにより促進される。
【0019】
これらの[1]、[2]、[3]をより具体的に説明する。
【0020】
[1]TiO酸化物の管理
本発明者らは、溶接金属内のTi/O、O/Bの比を適切に維持すると、適切な数のTiO酸化物が適切に分布されて、溶接金属の凝固過程でオーステナイト結晶粒の粗大化を防止し、TiO酸化物で針状フェライト変態が促進されるという結果を見出した。
【0021】
本発明者らはまた、TiO酸化物がオーステナイト結晶粒内に適切に分布すると、オーステナイトで温度が減少するにつれて、オーステナイト結晶粒内のTiO酸化物は針状フェライト変態の不均一核生成サイトの役割をするようになり、結晶粒界に形成される粒界フェライトより優先的に結晶粒内にフェライトを形成させることができることを見出した。これにより、溶接金属部のCTOD特性を画期的に改善することができる。
【0022】
このためには、TiO酸化物を微細に、かつ均一に分布させることが重要である。また、本発明者らは、Ti/O、O/Bの比によるTiO酸化物のサイズと量、そして分布を調査した結果、Ti/Oが0.2〜0.5、O/Bの比が5〜10である時、0.01〜0.1μm(micrometer)サイズのTiO酸化物が1.0×10個/mm以上得られることを見出した。
【0023】
[2]溶接金属部の微細組織
本発明による、Ti/O、O/Bの比によるTiO酸化物のサイズ、量、及び分布を調査した結果より、Ti/Oが0.2〜0.5、かつO/Bが5〜10である時、0.01〜0.1μm(micrometer)サイズのTiO酸化物が1.0×10個/mm以上得られることを確認することができた。
【0024】
このようなTiO酸化物が溶接金属内に適切に分布すれば、溶接金属部の冷却過程で結晶粒界より先に結晶粒内に針状フェライト変態を促進させて、溶接金属部の針状フェライトの構成比を85%以上確保することができる。
【0025】
[3]溶接金属部内の固溶ホウ素の役割
本発明の研究で明らかになった事実である溶接金属部に均一分散されている酸化物とは別途に固溶されているホウ素は、結晶粒界に拡散されて結晶粒界のエネルギーを低くする。したがって、固溶ホウ素の分散は、結晶粒界で粒界フェライト変態を抑制するため、結晶粒内で針状フェライト変態を促進させる。このように、固溶ホウ素は、結晶粒界で粒界フェライト変態を抑制し、結晶粒内では針状フェライト変態を促進させて溶接金属部のCTOD特性の向上に寄与する。
【0026】
以下、本発明の溶接金属部の成分を詳しく説明する。
【0027】
[成分]
炭素(C)の含量は、0.01〜0.2%の範囲である。
炭素(C)は、溶接金属の強度及び溶接硬化性を確保するために必須な元素である。しかし、炭素含量が0.2%を超えると、溶接性が大きく低下し、溶接金属部に低温亀裂が発生し易く、大入熱衝撃靭性が顕著に低下する。
【0028】
ケイ素(Si)の含量は、0.1〜0.5%の範囲である。
ケイ素の含量が0.1%未満の場合は、溶接金属内の脱酸効果が不十分であり、溶接金属の流動性が低下する。ケイ素の含量が0.5%を超える場合は、溶接金属内の島状マルテンサイト(M−A constituent)の変態を促進させて低温衝撃靭性を低下させ、溶接亀裂感受性に影響を及ぼす。
【0029】
マンガン(Mn)の含量は、1.0〜3.0%の範囲である。
Mnは、鋼中で脱酸作用及び強度を向上させ、かつTiO酸化物の周りにMnS形態に析出して、Ti複合酸化物に溶接金属部の靭性改善に有利な針状フェライトの生成を促進させる役割をする。
【0030】
このようなMnは、マトリックス内に置換型固溶体を形成してマトリックスを固溶強化させて、強度及び靭性を確保する。このためには、Mn含量は1.0%以上が好ましい。しかし、Mn含量が3.0%を超える場合、好ましくない低温変態組織が形成する。
【0031】
チタン(Ti)の含量は、0.01〜0.1%の範囲である。
Tiは、Oと結合して、微細なTiO酸化物及び微細TiN析出物を形成する。このため、Tiは必須不可欠な元素である。このような微細なTiO酸化物及びTiN複合析出物の効果を得るためには、Tiの含量は0.01%以上が好ましい。しかしながら、Tiの含量が0.1%を超えると、好ましくない粗大なTiO酸化物及び粗大なTiN析出物が形成する。
【0032】
ニッケル(Ni)の含量は、0.5〜3.0%の範囲である。
Niは、固溶強化によってマトリックス(matrix)の強度と靭性を向上させる有効な元素である。このような効果を得るためには、Ni含量は0.5%以上が好ましい。しかしながら、Ni含量が3.0%を超える場合は、焼入性を大きく増加させ、高温亀裂を発生させる。
【0033】
ホウ素の含量は、0.0010−0.01%の範囲である。
Bは、焼入性を向上させる元素である。粒界に偏析されて粒界フェライト変態を抑制するために、Bの含量は0.0010%以上必要である。しかしながら、Bの含量が0.01%以上を超えると、溶接硬化性が大きく増加してマルテンサイト変態を促進させ、溶接低温亀裂の発生及び靭性を低下させる。よって、Bの含量は、0.0010〜0.01%の範囲である。
【0034】
窒素(N)の含量は、0.003−0.006%の範囲である。
Nは、TiN析出物などを形成させることに必須不可欠な元素であり、微細TiN析出物の量を増加させる。Nは、TiN析出物のサイズ及び析出物の間隔、析出物の分布、酸化物との複合析出の頻度数、析出物自体の高温安定性などに顕著な影響を及ぼす。このため、Nの含量は、0.003%以上が好ましい。
【0035】
しかし、窒素含量が0.006%を超えると、それ以上の効果は期待できず、溶接金属内に存在する固溶窒素量の増加によって靭性低下をもたらし得る。
【0036】
リン(P)の含量は、0.030%以下である。
Pは、溶接時に高温亀裂を助長する不純元素である。このため、Pの含量は低いほうが好ましい。靭性向上及び亀裂低減のためには、Pの含量は0.03%以下が良い。
【0037】
アルミニウム(Al)の含量は、0.005−0.05%の範囲である。
Alは、脱酸剤としての役割を担い、かつ溶接金属内の酸素量を減少させるために必要な元素である。また、固溶窒素と結合して微細なAlN析出物を形成させるためには、Alの含量を0.005%以上にする。しかし、Alの含量が0.05%を超えると、粗大なAlを形成させて、靭性改善に必要なTiO酸化物の形成を妨害する。このため、Alの含量を0.05%以下にすること。
【0038】
硫黄(S)の含量は、0.030%以下に制限する。
Sは、MnS形成のために必要な元素である。MnSの複合析出物を析出させるためには、Sの含量を0.03%以下にする。Sの含量が0.03%以上の場合、FeSなどの低融点化合物を形成させて高温亀裂を誘発させ得る。
【0039】
酸素(O)の含量は、0.03−0.07%の範囲である。
Oは、溶接金属部の凝固過程でTiと反応してTi酸化物を形成させる元素である。Ti酸化物は、溶接金属内で針状フェライトの変態を促進させる。O含有量が0.03%未満であると、Ti酸化物を溶接金属部に適切に分布させることができない。Oの含量が0.07%を超えると、粗大なTiO酸化物及びその他にFeOなどの酸化物が生成されて溶接金属部に影響を及ぼす。
【0040】
Ti/Oの比は、0.7〜1.3の範囲である。
Ti/O比が0.7未満の場合は、溶接金属内にオーステナイト結晶粒の成長抑制及び針状フェライト変態に要求されるTiO酸化物が不十分である。さらに、TiO酸化物内に含有するTi比率が減少し、TiO酸化物は針状フェライト核生成サイトとしての機能を失い、溶接熱影響部の靭性改善に有効な針状フェライト相の分率が低下される。Ti/Oの比が1.3を超える場合は、溶接金属内のオーステナイト結晶粒の成長をこれ以上抑制することができない。むしろ、酸化物内に含有される合金成分の比率が小さくなって、酸化物は針状フェライトの核生成サイトとしての機能を失う。
【0041】
Ti/Nの比は、6〜12の範囲である。
本発明において、Ti/N比が6未満の場合、TiO酸化物に形成されるTiN析出物の量が減少して、靭性改善に効果的な針状フェライト変態に悪い影響を及ぼす。Ti/N比が12を超える場合、それ以上の効果は期待できず、固溶窒素量が増加し、衝撃靭性を低下させる。
【0042】
O/Bの比は、7〜12の範囲である。
本発明において、O/B比が7未満であれば、溶接後に冷却過程中にオーステナイト結晶粒界に拡散して、粒界フェライト変態を抑制する固溶Bの量が不十分となる。O/B比が12を超える場合は、それ以上の効果は期待できず、固溶窒素量が増加して、溶接熱影響部の靭性を低下させる。
【0043】
(Ti+4B)/Oの比は、1.2〜1.9の範囲である。
本発明において、(Ti+4B)/Oの比が1.2未満の場合は、固溶窒素量が増加するため、溶接金属部の靭性改善に効果的ではない。(Ti+4B)/Oの比が1.9を超える場合、TiN、BN析出物の個数が不十分となる。
【0044】
本発明においては、機械的性質をより向上させるために、上記のように組成を有する鋼にNb、V、Cu、Mo、Cr、W及びZrからなる群より選択される、1種以上の元素をさらに添加することができる。
【0045】
銅(Cu)の含量は、0.1〜2.0%の範囲である。
Cuは、マトリックスに固溶されて固溶強化の効果によって強度及び靭性を確保するために有効な元素である。このためには、Cu含量が0.1%以上を必要とする。しかしながら、Cu含量が2.0%を超える場合は、溶接金属部で硬化性を増加させて靭性を低下させ、溶接金属で高温亀裂を助長させる。
【0046】
また、CuとNiを複合添加する場合、これらの合計を3.5%未満にする。CuとNiの含量が3.5%を超えると焼入性が大きくなり、靭性及び溶接性に悪影響をもたらす。
【0047】
Nbの含量は、0.0001−0.1%の範囲である。
Nbは、焼入性を向上させるための必須元素である。特にAr温度を低くして、冷却速度が低い範囲でもベイナイト生成範囲を広げる効果があり、Nbはベイナイト組織を得るために必要である。
【0048】
強度向上の効果を期待するためには、0.0001%以上のNb含量が必要である。しかし、Nb含量が0.1%を超えると、溶接時に溶接金属部で島状マルテンサイトの形成を促進して、溶接金属部の靭性に悪い影響を及ぼす。
【0049】
Vの含量は、0.005−0.1%の範囲である。
Vは、VN析出物を形成させてフェライト変態を促進する元素である。Vの含量は0.005%以上が必要である。しかしながら、Vの含量が0.1%を超えると、溶接金属部に炭化物(Carbide)のような硬化相を形成させて溶接金属部の靭性に悪影響を及ぼす。
【0050】
クロム(Cr)は、0.05〜1.0%の範囲である。
Crは、焼入性および強度を向上させる。Crの含量が0.05%未満の場合は強度が得られない。Crの含量が1.0%を超える場合は溶接金属部の靭性劣化をもたらす。
【0051】
モリブデン(Mo)は、0.05〜1.0%の範囲である。
Moも焼入性を増加させると同時に強度を向上させる元素である。Moの含量は、強度確保のために0.05%以上にする。溶接金属部の硬化及び溶接低温亀裂の発生を抑制するためには、Crと同様にMo含量を1.0%以下にする。
【0052】
Wの含量は、0.05−0.5%の範囲である。
Wは、高温強度を向上させるだけでなく析出強化にも効果的な元素である。しかし、Wの含量が0.05%未満だと強度上昇の効果が微弱である。Wの含量が0.5%以上だと溶接金属部の靭性に悪影響を及ぼす。
【0053】
Zrの含量は、0.005−0.5%の範囲である。
Zrは、強度上昇に効果があるため、0.005%以上添加することが好ましい。Zrの含量が0.5%を超える場合、溶接金属部の靭性に悪影響を及ぼす。
【0054】
また、本発明では、一次オーステナイトの結晶粒成長の抑制のために、Ca及びREMのうち1種または両方をさらに添加することができる。
【0055】
Ca及びREMは、溶接時にアークを安定させ、溶接金属部で酸化物を形成させるのに好ましい元素である。また、Ca及びREMは、冷却過程でオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、粒内のフェライト変態を促進させて溶接金属部の靭性を向上させる。このために、カルシウム(Ca)は0.0005%以上、REMは0.005%以上添加することが良い。しかしながら、Caが0.005%、REMが0.05%を超える場合、大型酸化物を形成して靭性に悪影響を及ぼし得る。REMとしては、1種以上のCe、La、Y及びHfを用いてもよく、いずれも上記の効果を得ることができる。
【0056】
[溶接金属部の微細組織]
本発明において、FCAW溶接後に形成される溶接金属部の微細組織は、針状フェライトであり、85%以上の相分率を有する。針状フェライト組織は、高強度と低温CTODを同時に得ることができる。
【0057】
残部は、ベイナイト、粒界フェライト及び多角形フェライトのうち1種以上を含む。
【0058】
フェライトとベイナイト組織が混合されている場合、CTODには有利であるが、溶接金属部の強度が低くなる。また微細組織がマルテンサイトとベイナイト混合組織である場合は、溶接金属部の強度は高いが、溶接金属部のCTODなどの機械的性質が低下し、低温亀裂感受性が増加する。
【0059】
[酸化物]
溶接金属部に存在する酸化物は、溶接後の溶接金属部の微細組織の変態に大きな影響を及ぼす。即ち、微細組織の変態は、分布する酸化物の種類、サイズ及びその個数に大きく影響される。
【0060】
特に、FCAW溶接金属部の場合、凝固過程で結晶粒が粗大化され、結晶粒界から粗大な粒界フェライト、Widmanstattenフェライト、ベイナイトなどの組織が形成されて、溶接金属部の物性を低下させる。
【0061】
これを防止するためには、溶接金属内にTiO酸化物を0.5μm(micrometer)以下の間隔で、均一に分散させることが重要である。
【0062】
また、TiO酸化物の粒径は0.01〜0.1μm(micrometer)の範囲であり、かつ臨界個数は1.0×10個/mm以上である。粒径が0.01μm(micrometer)未満では、TiO酸化物はFCAW溶接金属部で針状フェライトの変態を促進させることができない。また、粒径が0.1μm(micrometer)を超える場合は、オーステナイト結晶粒に対するピンニング(pinning、結晶粒成長抑制)の効果が少なくなり、TiO酸化物は粗大な非金属介在物のような挙動をして、溶接金属部のCTOD特性に悪影響を及ぼす。
【0063】
また、本発明は、上記の溶接金属部を有する鋼部材を提供する。
【0064】
本発明において、FCAW以外の他の溶接方法によっても製造することができる。この時、溶接金属部の冷却速度が速ければ、酸化物は微細分散されて、微細組織が得られる。このため、冷却速度の速い大入熱溶接方法が好ましい。
【0065】
また、同一の理由で、溶接部の冷却速度を向上させるために、鋼材冷却及びCu−バッキング(backing)方法も有利である。
【0066】
しかし、このように公知の技術を本発明に適用しても、これは本発明の単純な変更であり、実質的に本発明の技術思想の範囲内であると解釈することは当然である。
【0067】
以下、本発明を実施例を通じて具体的に説明する。
【0068】
[実施例]
下記の表1及び表2のような成分組成を有する溶接金属部を、7〜30kJ/cm以上の溶接入熱量を適用して、FCAWによって製造した。
【0069】
上記のように溶接された溶接金属部の中央部から試片を採取して、引張試験及びCTOD試験を行い、その結果を下記表3に示した。
【0070】
上記引張試験の試験片は、KS規格(KS B 0801)4号試験片を用いて、引張試験は、クロスヘッドスピード(cross head speed)10mm/分で実施した。
【0071】
上記CTOD試験片は、BS7448−1規格に準じて製造し、疲労亀裂はSAW溶接金属部中央に位置させた。
【0072】
溶接金属部のCTODに重要な影響を及ぼす酸化物のサイズと個数、そして間隔は、画像分析機(image analyzer)と電子顕微鏡を用いたポイントカウンティング(point counting)法で測定し、その結果を、下記表3に示した。
【0073】
この時、被検面は、100mmを基準として評価した。
【0074】
FCAW溶接金属部のCTOD評価は、FCAW溶接後にCTOD試験片で加工して、−10℃でCTOD試験機を通じて評価した。
【0075】
【表1】


【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
上記表3に示したように、本発明によって製造された溶接金属部は、3×10個/mm以上のTiO酸化物であるのに対し、比較鋼の場合は、4.3×10個/mm以下であった。比較鋼と対比した場合、発明鋼が非常に均一でかつ微細な複合析出物のサイズを有し、またその個数も顕著に増加されたことが分かる。
【0079】
一方、本発明鋼の微細組織の場合、も85%以上の高い針状フェライト相分率をふくんでいた。
【0080】
従って、FCAW溶接時に、本発明鋼は、粒内に針状フェライト及び多角形フェライトを含んでいた。その中でも、針状フェライトは、85%以上の相分率を有しており、比較鋼と比較した場合、発明鋼は優れた溶接金属部CTOD特性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク(FCAW)溶接金属部であって、
前記FCAW溶接金属部は、重量%で、C:0.01−0.2%、Si:0.1−0.5%、Mn:1.0−3.0%、Ni:0.5−3.0%、Ti:0.01−0.1%、B:0.0010−0.01%、Al:0.005−0.05%、N:0.003−0.006%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、及びO:0.03−0.07%を含み、
前記FCAW溶接金属部は、0.7≦Ti/O≦1.3、6≦Ti/N≦12、7≦O/B≦12、1.2≦(Ti+4B)/O≦1.9の関係を満たし、かつ残部Fe及びその他不可避な不純物を含み、
前記FCAW溶接金属部は、85%以上の針状フェライト(acicular ferrite)、及び残部ベイナイト、粒界フェライト及び多角形フェライトのうち1種以上を含む微細組織を含む
ことを特徴とする、FCAW溶接金属部。
【請求項2】
Nb:0.0001〜0.1%、V:0.005〜0.1%、Cu:0.01〜2.0%、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Ca:0.0005〜0.005%及びREM:0.005〜0.05%からなる群より選択される少なくとも1種がさらに含まれることを特徴とする、請求項1に記載のFCAW溶接金属部。
【請求項3】
前記溶接金属部には、0.01〜0.1μm(micrometer)のTiO酸化物が1.0×10個/mm以上分布されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のFCAW溶接金属部。
【請求項4】
請求項1に記載された低温CTOD特性に優れたフラックスコアードアーク溶接金属部を有する、鋼部材。
【請求項5】
Nb:0.0001〜0.1%、V:0.005〜0.1%、Cu:0.01〜2.0%、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、W:0.05〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Ca:0.0005〜0.005%及びREM:0.005〜0.05%からなる群より選択される少なくとも1種がさらに含まれることを特徴とする、請求項4に記載の鋼部材。
【請求項6】
前記溶接金属部には、0.01〜0.1μm(micrometer)のTiO酸化物が1.0×10個/mm以上分布されていることを特徴とする、請求項4または5に記載の鋼部材。

【公表番号】特表2011−507707(P2011−507707A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540572(P2010−540572)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007627
【国際公開番号】WO2009/082162
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】