説明

低濃度の栄養組成物

【課題】間水投与の手間を省くことができる経腸栄養組成物を提供する。
【解決手段】蛋白質、炭水化物及び脂質を含有する経腸栄養組成物であって、組成物1 mL当たりのカロリーが1 kcal未満であり、かつ水分含有量が30質量%以上であり、25℃にて測定した場合の堅さが100〜10,000 N/m2の半固形状又は固形状である前記組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度の栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトが生きていくために必要な栄養素は、通常、口から食物を摂取することにより体内に導入される。食物の嚥下が困難な患者、慢性腸疾患の患者、高齢者などの口から食物を摂取することが困難な患者ために種々の市販の流動食が利用されている(非特許文献1)。これらの流動食は濃厚で、1 kcal/ml又はそれ以上に調製されている。そのため、流動食の摂取だけで一日に必要な水分量を補給することはできず、間水の投与が必要である。間水の投与は、介護者や看護者にとって手間がかかるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、間水投与の手間を省くことができる経腸栄養組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、栄養組成物中の栄養素の濃度を低くし、かつ水分含有量を高くすることにより上記の課題を解決した。本発明の要旨は以下の通りである。
(1)蛋白質、炭水化物及び脂質を含有する経腸栄養組成物であって、組成物1
mL当たりのカロリーが1 kcal未満であり、かつ水分含有量が30質量%以上である前記組成物。
(2)組成物1 mL当たりのカロリーが0.5〜0.9 kcalである(1)記載の組成物。
(3)水分含有量が30〜95質量%である(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)さらに、食物繊維を含有する(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)さらに、ビタミン類及び/又はミネラル類を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)流動食である(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)半固形状又は固形状である(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)液状である(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0005】
本発明の栄養組成物を利用すれば、食物の嚥下が困難な患者、慢性腸疾患の患者、高齢者などの口から食物を摂取することが困難な患者への間水投与の手間を少なくする、あるいは省くことができる。
【0006】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2009-9102及び特願2009-14512の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】操作性試験アンケート調査結果を示す。
【図2】各製品の1,200kcal投与時の水分量と補水量の比較(水分総投与量を1,500mLとした場合)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
【0009】
本発明は、蛋白質、炭水化物及び脂質を含有する経腸栄養組成物であって、組成物1 mL当たりのカロリーが1 kcal未満であり、かつ水分含有量が30質量%以上である前記組成物を提供する。
【0010】
蛋白質成分としては、大豆タンパク、ドロマイド、コラーゲン分解物、ゼラチン、グルタミン、アルギニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン、アラニン、リジン、アスパラギン酸、プロリン、システイン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリンなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。組成物100 kcal当たりの蛋白質含有量は、1.0〜20.0 gが適当であり、1.5〜10.0 gが好ましく、2.0〜4.0 gがより好ましい。組成物100 kcal当たりの蛋白質エネルギー量は、4.0〜80.0が好ましく、8.0〜16.0 kcalがより好ましい。
【0011】
炭水化物成分としては、デキストリン、グラニュー糖、ブドウ糖、マルトデキストリン、還元デンプン分解物、異性化液糖、オリゴ糖、ラクトースなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。組成物100 kcal当たり炭水化物含有量は、3.0〜30.0 gが適当であり、8.0〜20.0 gが好ましく、13.0〜17.0 gがより好ましい。組成物100 kcal当たりの炭水化物エネルギー量は、12.0〜120.0 kcalが適当であり、32.0〜80.0 kcalが好ましく、52.0〜68.0 kcalがより好ましい。
【0012】
脂質としては、植物油、キャノーラ油、シソ油、オリーブ油、大豆油、菜種油、魚油などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。組成物100 kcal当たり脂質含有量は、0.2 〜5.0 gが適当であり、1.0〜4.0 gが好ましく、1.5〜2.5 gがより好ましい。組成物100 kcal当たりの脂質エネルギー量は、1.8〜45.0 kcalが適当であり、9.0〜36.0 kcalが好ましく、13.5〜22.5 kcalがより好ましい。
【0013】
本発明の組成物は、さらに、食物繊維を含有してもよい。食物繊維としては、グアーガム分解物、難消化性デキストリン、ラクチャロース、ペクチンなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。組成物100 kcal当たり食物繊維含有量は、0.1〜5.0 gが適当であり、0.5〜3.5 gが好ましく、0.8〜1.5 gがより好ましい。
【0014】
本発明の組成物は、さらに、ビタミン類及び/又はミネラル類を含有してもよい。
【0015】
ビタミン類としては、ビタミンA、D、B、B、B、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビタミンB12、C、K、E、ビオチン、重酒石酸コリンなどを例示することができる。組成物100 kcal当たりビタミン類含有量は、0.5 μg〜10.0 gが適当であり、10 μg〜2.0 gが好ましく、100.0 μg〜1.0 gがより好ましい。
【0016】
ミネラル類としては、Na、Cl、K、S、Mg、Ca、P、Fe、I、Mn、Cu、Zn、Se、Cr、Moなどを例示することができる。組成物100 kcal当たりミネラル類含有量は、200〜5000 mgが適当であり、500〜3000 mgが好ましく、800〜1500 mgがより好ましい。
【0017】
本発明の組成物は、さらに、コレステロール、乳糖、COQ10、香料、αリポ酸、EPA、DHAなどを含有してもよい。
【0018】
本発明の組成物1 mL当たりのカロリーは1 kcal未満である。本発明の組成物1 mL当たりのカロリーは、0.5〜0.9 kcalが適当であり、0.5〜0.9 kcalが好ましく、0.6〜0.8 kcalがより好ましい。
【0019】
本発明の組成物の水分含有量は30質量%以上である。本発明の組成物の水分含有量は、30〜95質量%が適当であり、30〜95質量%が好ましく、40〜90質量%がより好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、液状、ゲル状やペースト状の半固形状、固形状のいずれの状態であってもよい。ゲル状である場合には、組成物の堅さは、25℃にて測定した場合、50〜10,000 N/m2が適当であり、100〜5,000 N/m2が好ましく、500〜2,000 N/m2がより好ましい。
【0021】
組成物をゲル状とするには、増粘多糖類、寒天、ゼラチン、デキストリンなどのゲル化剤を添加するとよい。本発明の組成物へのゲル化剤の添加量は、所望のゲル強度により、適宜決定するとよい。
【0022】
本発明の組成物は、当業者にとって周知の方法で調製することができる。例えば、上記各成分を混合し、流動食などの食品製品として調製することができる。ゲル状の流動食製品とする場合、水にゲル化剤を溶解し、これに組成物の各成分を配合した後、容器に充填して、冷却するとよい。必要により、ゲル化剤を水に溶解させるために加熱をしたり、容器を密封したり、組成物を加熱殺菌するとよい。
【0023】
本発明の組成物は、流動食として利用することができる。市販の流動食は、使用されている食品によって、自然食タイプ(通常食品を使用)、半消化タイプ(食品からある程度分解した製品を使用したもの)、消化タイプ(そのまま分解しないで吸収できる状態のもの)の3つに分類されているが、本発明の組成物は、これらの3種類のいずれのタイプの流動食として利用することができる。本発明の組成物は、特に、食物の嚥下が困難な患者、慢性腸疾患の患者、高齢者などの口から食物を摂取することが困難な患者のための流動食として有効であり、経腸栄養法に利用することができる。
【0024】
本発明の組成物は経腸投与することができ、その投与量は、通常の経腸栄養組成物の投与量と同様にすればよく、例えば、組成物1 mL当たりのカロリーが0.5〜0.9 kcalとなるように調製したものであれば、一日に2400〜1400 mL程度の量で投与するとよいが、投与量は、投与される患者の病態、栄養状態、年齢、体重などに応じて適宜決定すればよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
〔実施例1〕
下記の調製方法により、表1の原材料と配合量で、栄養組成物(カームソリッド300及び400)を調製した。
【0027】
調製方法
下記の工程で栄養組成物を調製した。
【0028】
pH調整剤溶解→ゲル化剤溶解→タンパク質溶解→酵母・ビタミン・ミネラル類溶解→油脂乳化→香料添加→ホモジナイズ→充填→殺菌
【0029】
【表1】

本発明の栄養組成物を用いれば、食物の嚥下が困難な患者、慢性腸疾患の患者、高齢者などの口から食物を摂取することが困難な患者への間水投与の手間を少なくする、あるいは省くことができる。
【0030】
胃瘻造設(PEG)患者では、胃食道逆流や下痢が起こるため水分補給もゼリー化したり、トロミ剤を混ぜて粘度を調整することが一般的である。また、水分補給用市販ゼリーを使用することもある。両方の水分補給について経済的な概算をすると
〔ゼリー化剤、とろみ剤を使用する場合〕
・とろみ剤1g約5円、1日平均15g使用する場合は、75円の経済負担になる。
・また、とろみ剤を混ぜて、使用するときの人件費、混ぜているときの衛生管理など考慮すればさらにコストは嵩む。
〔市販の水分補給ゼリーで500mLの水分補給〕
・アイソトニックゼリー100mL(ニュートリー社)×5本(1本約110円)= 約550円の経済的負担が生じる。
【0031】
本発明の栄養組成物を用いれば、これらの水分補給にかかる費用を削減することができる。
【0032】
胃瘻造設(PEG)時の水分補給方法を大別すると、1.水道水をシリンジでそのまま水分補給、2.水道水にテクスチャー改良剤などで粘度を上げ、シリンジで水分補給、3.市販の水分補給ゼリー(アイソトニックゼリーなど)を利用して補給、4.輸液を用いて補給の4種類の方法がある。これらの4種類の方法と本発明の栄養組成物(カームソリッド)を用いる方法を比較した結果を表2にまとめる。
【0033】
【表2】

◎:非常に適している
○:適している
△:どちらともいえない
×:適していない
〔試験例1〕
1.試験目的
看護師に半固形流動「 カームソリッド」を、簡易PEG装置を用いて注入し、その操作性を評価することを目的とした。
【0034】
2.試験方法
同意を得た看護師(兵庫県内の病院(病院1)に勤務する看護師34人、奈良県内の病院(病院2)に勤務する看護師20人の合計54人、勤務の経験年数を表3に示す)を対象として、簡易PEG装置を作成し、半固形流動「カームソリッド300kcal」(実施例1で調製)を注入し、フラッシングまで操作させ、その後に、表4に示す項目についてアンケートを行った。
【0035】
操作に使用した簡易PEG装置とは、ポリ容器に穴を開け、バルン型胃瘻カテーテルを挿入した装置である。
【0036】
また、その際に操作に要した時間、投与前後のカームソリッドの重量を測定した。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

3.操作性試験アンケート調査結果
アンケート結果を図1に示す。
【0039】
調査の結果、1〜7のいずれの項目についても、カームソリッドは高い評価が得られた。
【0040】
操作に要した時間を表5に示す。
【0041】
【表5】

カームソリッド1本の投与で、3〜5分程度の短時間で一日に必要な水分及び栄養分の約1/3の量を補給することができる。
【0042】
また、他社製品の1,200kcal投与時の水分量と補水量の比較(水分総投与量を1,500mLとした場合)を図2に示す。
【0043】
他社の製品に比べ、カームソリッドは製品に含まれる水分量が多く、補水する水分量が少ない。その結果、アンケート結果にもあるように操作する方の手間がかからない。
【0044】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の組成物は、食物の嚥下が困難な患者、慢性腸疾患の患者、高齢者などの口から食物を摂取することが困難な患者への流動食として利用できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0046】
【非特許文献1】静脈経腸栄養年鑑2006 製剤・器具一覧 第5巻 第37頁〜第68頁 株式会社ジェフコーポレーション発行

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質、炭水化物及び脂質を含有する経腸栄養組成物であって、組成物1 mL当たりのカロリーが1 kcal未満であり、かつ水分含有量が30質量%以上であり、25℃にて測定した場合の堅さが100〜10,000 N/m2の半固形状又は固形状である前記組成物。
【請求項2】
組成物1 mL当たりのカロリーが0.5〜0.9 kcalである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
水分含有量が30〜95質量%である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、食物繊維を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらに、ビタミン類及び/又はミネラル類を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
流動食である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201922(P2011−201922A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151394(P2011−151394)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2010−531360(P2010−531360)の分割
【原出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(500580677)ニュートリー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】