説明

低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シート

【課題】塩化ビニル系樹脂に、難燃剤として三酸化アンチモン、顔料として黒色の顔料を配合した従来の化粧シートについて、三酸化アンチモンに代えて水酸化マグネシウムを用いても、十分な難燃性を有し、殊に低火炎伝播性が優れた化粧シートを提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム15〜40質量部及び黒色の赤外線反射顔料を配合した低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートである。この黒色の赤外線反射顔料は、三原色の赤外線反射顔料を配合して調製したものが好ましい。また、低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートの裏面に、下地層として白色層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼時における火炎伝播速度が遅い、すなわち低火炎伝播性の塩化ビニル系化粧シートに関する。更に詳しくは、船舶の内装に好適な低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は難燃性があるので、難燃性が要望される建造物の内装材に塩化ビニル系化粧シートが多用されてきた。従来、厳しい難燃性が要求される塩化ビニル系樹脂製品には、難燃剤として三酸化アンチモンを他の難燃剤と組み合わせて配合することが行われてきた(特許文献1、特許文献2)。化粧シート、特に船舶の内装用の化粧シートには黒色或いは濃紺など黒色乃至黒色に近い色が要求されることが多い。従来は、塩化ビニル系樹脂に、難燃剤として三酸化アンチモン、黒色の顔料としてカーボンブラックを配合して、難燃性の高い黒色の化粧シートを得ていた。
【0003】
ところが、近年、三酸化アンチモンが急性毒性物質に指定され、三酸化アンチモンを配合した化粧シートは、使用中或いは廃棄した後に人体や環境に影響を与えるという観点から、その使用が問題視され、規制される傾向にある。そこで、三酸化アンチモンを配合することなく難燃性を付与する研究が進められ、種々の技術が提案されている。例えば、三酸化アンチモンに代えて、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどの金属水酸化物と錫酸亜鉛を配合した塩化ビニル系樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。
【0004】
ところが、塩化ビニル系樹脂に、難燃剤として三酸化アンチモン、顔料としてカーボンブラックを配合して成形した従来の黒色の化粧シートについて、この三酸化アンチモンに代えて水酸化マグネシウムなど他の難燃剤を用いた場合は、十分な難燃性をもつ化粧シート、特に燃焼性や火炎伝播性について厳しい規制がある船舶用の難燃試験に合格する化粧シートが得られなかった。この三酸化アンチモンに代えて水酸化マグネシウムを用いた場合の難燃性や火炎伝播性が劣る傾向は、濃色、特に黒色の化粧シートほど甚だしい。
【特許文献1】特開平5−209099号公報
【特許文献2】特開平8−176434号公報
【特許文献3】特開2000−226483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、塩化ビニル系樹脂に、難燃剤として三酸化アンチモン、顔料として黒色の顔料を配合した従来の化粧シートについて、難燃剤として三酸化アンチモンに代えて水酸化マグネシウムを用いても、十分な難燃性を有し、殊に低火炎伝播性が優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、難燃剤として三酸化アンチモンに代えて水酸化マグネシウムを用いても、十分な難燃性、特に低火炎伝播性が優れた塩化ビニル系化粧シート得るべく種々検討した。その結果、燃焼時の炎から発生する赤外線を反射する物質を配合して火炎伝播性を抑えることを思い付き、着色のための顔料として赤外線反射顔料を用い、その配合によって低火炎伝播性が得られることを知見し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム15〜40質量部及び黒色の赤外線反射顔料を配合したことを特徴とする低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートである。この黒色の赤外線反射顔料は、三原色の赤外線反射顔料を配合して調製したものが好ましい。また、本発明は、低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートの裏面に、下地層として白色層を設けた低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塩化ビニル系化粧シートでは、着色顔料として配合した黒色の赤外線反射顔料が、燃焼時に生じる炎から発生する赤外線を反射するため、塩化ビニル系化粧シートの火炎伝播性を著しく低減する。そのため、本発明の塩化ビニル系化粧シートは、難燃剤として水酸化マグネシウムを配合し、且つ黒色であるにもかかわらず、厳しい難燃性能が要求される船舶の内装用に適合した低火炎伝播性を有する。本発明の化粧シートは、着火時間が長く、また激しく燃えることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の塩化ビニル系化粧シートの硬さには制限が無いが、半硬質のものが好ましい。具体的には、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤15〜30質量部配合したポリ塩化ビニル組成物を原料にしたものが好ましい。可塑剤としては、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジー2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソデシルなどのフタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリー2-エチルヘキシルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤、エポキシ大豆油などのエポキシ系可塑剤、アジピン酸ジイソノニルなどの脂肪酸ニ塩基エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などが用いられる。
【0010】
本発明では難燃剤として水酸化マグネシウムを用いる。水酸化マグネシウムの配合量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対し15〜40質量部、好ましくは15〜30質量部である。15質量部未満では防火性能が充分でない。水酸化マグネシウムの配合量が40質量部を超えると、防火性能は上がるが、ブレードアウト(成形加工の際、配合した水酸化マグネシウムの一部がカレンダーロールやエンボスロールの金属面に分離付着する現象)が生じる。本発明では難燃剤として水酸化マグネシウムに、更に他の難燃剤を配合してもよい。他の難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、硼酸亜鉛などが挙げられる。
【0011】
本発明では化粧シートの着色顔料として赤外線反射顔料を用いる。赤外線は物質内に吸収されると熱に変換される性質がある。赤外線反射顔料は赤外線を反射するので、赤外線反射顔料を配合することによって、燃焼時に発生する赤外線を反射させ、赤外線による化粧シートの温度上昇を抑え、もって火炎伝播性を低下させることができると考えられる。この作用、効果は、濃色の化粧シートの場合に大きい。すなわち、濃色の化粧シートは、赤外線を吸収しやすい傾向があり火炎伝播性が大きいが、その着色顔料を赤外線反射顔料にすることによって火炎伝播性を低減できる。特に黒色の化粧シートの場合、従来は着色顔料にカーボンブラックを用いていたが、カーボンブラックに代えて黒色の赤外線反射顔料を用いることによって、火炎伝播性を大きく低減できる。
【0012】
本発明で用いる黒色の赤外線反射顔料は、単独で黒色を示す赤外線反射顔料でもよいし、三原色の赤外線反射顔料、すなわち黄色の赤外線反射顔料と青色の赤外線反射顔料と赤色の赤外線反射顔料とを調合した黒色の赤外線反射顔料であってもよい。三原色の赤外線反射顔料を調合した黒色の赤外線反射顔料は、色味が優れている。黒色の赤外線反射顔料としては、例えば、川村化学株式会社製のAB820ブラック、AE810ブラック、AG235ブラックがある。また、例えば、CROMOPHTAL YELLOW 3RLP(黄色)、IRGALITE BLUE GRP(青色)、及びCROMOPHTAL RED 2028(赤色)の三原色の赤外線反射顔料を調合して得た黒色である。黒色の赤外線反射顔料の配合量は、所望とする色調、濃淡によって適宜に決定する。
【0013】
本発明の塩化ビニル系化粧シートは、例えば、ポリ塩化ビニルと可塑剤と水酸化マグネシウムと赤外線反射顔料とを配合し、必要に応じて安定剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤などの添加剤を配合し、カレンダー成形法でシートに成形して、本発明の化粧シートを得る。そして、必要に応じ、その裏面に粘着層、剥離層を設ける。この粘着層を設けた化粧シートは、剥離層を剥離し、壁面など所定の箇所に貼着する。
【0014】
また、上記の低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートの裏面に、下地層として白色層を設けても良い。この白色層は隠蔽作用をする。白色層は、ポリ塩化ビニルと可塑剤と白色顔料を配合し、必要に応じて安定剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤などの添加剤を配合し、カレンダー成形法でシートに成形した層である。前述の低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートの裏面に白色層を積層一体化させて、白色層を設ける。上記の白色顔料としては、炭酸カルシウム、酸化チタンなどが用いられる。そして、必要に応じて、白色層の裏面に粘着層、剥離層を設ける。この粘着層を設けた化粧シートは、剥離層を剥離し、壁面など所定の箇所に貼着する。
【0015】
実施例1〜6、比較例1〜6
表1に示す成分を混合し、加熱混練し、その後カレンダーで厚さ80μmのシートに成形して、黒色の化粧シートを得た。ここで、O-130Pはアデカ社製のエポキシ化大豆油で、耐熱安定剤兼可塑剤である。メタプレン W300Aは、三菱レイヨン社製のアクリルゴムで、改質剤である。メタプレン P530Aは、三菱レイヨン社製のアクリル樹脂で、加工助剤である。No.8085は、昭島化学社製のフェノール系酸化防止剤である。KP-3Cは、共同薬品社製のβジケトンで、粘着防止剤である。MAF613は、昭島化学社製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。また、黒色赤外線反射顔料は、川村化学社製のAB820ブラックを用いた。三原色調合黒色赤外線反射顔料は、CROMOPHTAL YELLOW 3RLP(黄色)0.25質量部、IRGALITE BLUE GRP(青色)0.73質量部、及びCROMOPHTAL RED 2028(赤色)0.38質量部の調合品を用いた。
【0016】
上記で得られたそれぞれの化粧シートについて、着火時間、燃え方、色味、加工性(ブレートアウト)を下記の評価方法で調べ判定した。その結果も併せて表1に示した。
1.着火時間:試験片に炎を当ててから、試験片が燃え始めるまでの時間(秒)を測定した。測定は、コーンカロリーメーターを用い、ISO5660にしたがった。
2.燃え方:目視で調べた。○は激しく燃えない、△はやや激しく燃える、×は激しく燃える、を表す。
3.色味:目視で調べた。○は鮮明な黒、△はややくすんだ黒、×はくすんだ黒、を表す。
4.加工性:ブレートアウトを調べた。○は殆んど見られない、△はやや見られる、×は頻繁に見られる、を表す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から分かるように、本発明の実施例1〜6は、着火時間が16〜18秒と長く、また、燃え方も激しく燃えることはなかった。これに対し、着色剤に赤外線反射顔料を用い、水酸化マグネシウムの配合量が10質量部と少ない比較例1、2は着火温度が12秒と短く、また燃え方もやや激しかった。また、着色剤にカーボンブラックを用いた比較例3〜6は、着火時間が7〜8秒と短く、また燃え方もやや激しかった。
【0019】
実施例9
実施例1で得た黒色の化粧シートの裏面に、アクリル系粘着剤からなる厚さ50μの粘着層を設け、更にその上に剥離シート層を設けた。粘着層を有する低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートを得た。
【0020】
実施例10
ポリ塩化ビニル(重合度1100)100質量部、フタル酸ジイソノニル17質量部、O-130Pの4質量部、酸化チタン26質量部、炭酸カルシウム20質量部、メタプレン S2001(三菱レイヨン社製、アクリルシリコーンゴム、改質剤)7質量部、メタプレン P530Aの1質量部、Ba−Zn系安定剤3質量部、No.8085の0.6質量部、KP-3Cの0.1質量部、及びLA-32(アデカ社製、ベンゾトリアゾール、紫外線吸収剤)0.3質量部を混合し、加熱混練し、その後カレンダーで厚さ80μの白色のシートに成形した。
この白色のシートを、実施例1で得た化粧シートの裏面に積層して、隠蔽層を有する本発明の低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートを得た。また、この隠蔽層の上にアクリル系粘着剤からなる厚さ50μの粘着層を設け、更にその上に剥離シート層を設けて、隠蔽層と粘着層を有する低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、水酸化マグネシウム15〜40質量部及び黒色の赤外線反射顔料を配合したことを特徴とする低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シート。
【請求項2】
黒色の赤外線反射顔料が、三原色の赤外線反射顔料を配合して調製したものである請求項1記載の低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シート。
【請求項3】
請求項1又は2記載の低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シートの裏面に、下地層として白色層を設けた低火炎伝播性塩化ビニル系化粧シート。

【公開番号】特開2009−120655(P2009−120655A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293839(P2007−293839)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】