説明

低粘度のタンパク質製剤およびその用途

タンパク質製剤およびタンパク質製剤の粘度を低下させる方法を提供する。タンパク質製剤の粘度を低下させる方法は、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムなどの粘度低下剤をタンパク質製剤に添加することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この分野は、タンパク質製剤、より詳細には、粘度の低下したタンパク質製剤に関する。
【0002】
本出願は、本明細書に全体を参考として援用した2005年12月21日出願の米国仮出願第60/752660号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
生物工学をベースにした371種を上回る新薬が産業界では計画されている。このような生物工学をベースにした医薬品には、酵素、可溶性受容体、リガンド、血液タンパク質およびモノクローナル抗体などの治療用タンパク質が含まれる。タンパク質をベースにした治療、特にモノクローナル抗体をベースにした治療は、癌、アレルギー性疾患、喘息および臓器移植などの疾患を治療するための重要な方法となってきた。2003年末には、14種の抗体をベースにした治療が、様々なヒト疾患を治療するために米国食品医薬品局によって承認された。
【0004】
抗体をベースにした治療は通常、定期的に投与され、注射には数mg/kgの用量を必要とする。皮下注射は、これらの治療の一般的な投与経路である。皮下注射に使用するのは少量なので(通常1.0mL〜1.2mL)、高用量抗体治療では、この投与経路には高濃度のタンパク質製剤(例えば、50mg/ml〜300mg/ml)が必要である。
【0005】
高いタンパク質濃度は、タンパク質の物理的および化学的安定性に関する難題であり、タンパク質製剤の製造、保存および送達を困難にする。1つの問題は、タンパク質が加工および/保存中に粒子を形成しやすいことで、さらに加工する間に操作を困難にする。この問題を回避するために、界面活性剤および/または糖類をタンパク質製剤に添加してきた。界面活性剤および糖類はタンパク質の粒子形成の程度を低下させるが、濃縮タンパク質製剤の操作および投与に関連した別の問題、すなわち、粘度の高さには対処できない。実際に、糖類は、タンパク質内またはタンパク質間の分子間相互作用を増強し、タンパク質製剤の粘度を高める可能性がある。
【0006】
タンパク質製剤の粘度が高いと、患者に薬剤を送達する間にプロセシングされ、不利益な結果をもたらす。したがって、製造、保存および投与に適した適度に粘度の低い比較的高濃度のタンパク質製剤を開発することが当業界では必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、適切な濃度の粘度低下剤を含まない対応するタンパク質製剤と比較して粘度が低下したタンパク質製剤およびこのような粘度の低下したタンパク質製剤(低粘度製剤)の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、タンパク質製剤に粘度低下剤を添加し、それによって粘度低下剤を含まないタンパク質製剤と比較してタンパク質製剤の粘度を低下させることにより、タンパク質製剤の粘度を低下させる方法に関する。一実施形態では、この方法は、粘度低下剤を添加する前にタンパク質製剤の粘度を測定することを含む。別の実施形態では、この方法は、粘度低下剤添加後にタンパク質製剤の粘度を測定することを含む。さらに別の実施形態では、この方法は、粘度低下剤の添加前後にタンパク質製剤の粘度を測定することを含む。ある実施形態では、粘度低下剤は、タンパク質製剤の粘度を、粘度低下剤を含まずに製剤化された製剤の粘度と比較して少なくとも5%低下させる。
【0009】
いくつかの実施形態では、粘度低下剤は塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムである。粘度低下剤は、タンパク質製剤に悪い影響を与えないように低濃度で添加する。粘度低下剤は一般的に、最終濃度が約1mMと約50mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。いくつかの実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約5mMと約25mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約1mMと約20mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約14mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。別の実施形態では、タンパク質は、抗体、Ig融合タンパク質、受容体、リガンド、転写因子、酵素、またはその生物活性断片である。いくつかの実施形態では、タンパク質は抗ミオスタチン抗体、抗IL−12抗体、または抗IL−13抗体である。
【0010】
別の態様では、本発明は、低粘度タンパク質製剤に関する。低粘度タンパク質製剤は、タンパク質、粘度低下剤および緩衝剤を含む。いくつかの実施形態では、粘度低下剤は塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムである。粘度低下剤は一般的に、最終濃度が約1mMと約50mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。いくつかの実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約5mMと約25mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約1mMと約15mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。その他のある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約14mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。粘度低下剤を約0.5mMから約50mMの間の濃度でタンパク質製剤に添加する場合、塩化ナトリウムおよび二硫酸ナトリウムは粘度低下剤として使用されない。タンパク質製剤のpHは一般的に、約5.5と約6.5の間である。ある実施形態では、タンパク質は、抗体、Ig融合タンパク質、受容体、リガンド、転写因子、酵素、またはその生物活性断片である。ある実施形態では、タンパク質製剤はキットとして提供される。このようなキットには、タンパク質製剤を使用するための指示書を含めることができる。
【0011】
ある実施形態では、低粘度タンパク質製剤は、低粘度抗ミオスタチン抗体製剤である。一実施形態では、抗ミオスタチン抗体はモノクローナル抗体である。別の実施形態では、抗ミオスタチン抗体は、ヒト化モノクローナル抗体(例えば、部分的にヒト化した、または完全にヒト化したモノクローナル抗体)である。ある実施形態では、抗ミオスタチン抗体はMYO−022、MYO−028またはMYO−029である。抗ミオスタチン抗体は一般的に、約25mg/mlから約400mg/mlの間の濃度で使用される。粘度低下剤は一般的に、最終濃度が約1mMと約50mMの間となるように低粘度抗ミオスタチン抗体製剤に添加する。いくつかの実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約5mMと約25mMの間となるように抗ミオスタチン抗体に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約1mMと約15mMの間となるように抗ミオスタチン抗体製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が0.5mMと14mMの間となるように抗ミオスタチン抗体製剤に添加する。粘度低下剤を約0.5mMから約50mMの間の濃度で抗ミオスタチン抗体製剤に添加する場合、塩化ナトリウムおよび二硫酸ナトリウムは粘度低下剤として使用されない。低粘度抗ミオスタチン抗体製剤のpHは一般的に、約5.5と約6.5の間である。一実施形態では、ヒスチジンは低粘度ミオスタチン抗体製剤を緩衝化するために使用される。低粘度ミオスタチン抗体製剤はまた、1種または複数の凍結保護物質、1種または複数の界面活性剤、1種または複数の抗酸化剤、あるいはそれらの組合せを含むことができる。いくつかの実施形態では、低粘度抗ミオスタチン製剤は、復元した製剤である。ミオスタチン抗体は、医薬組成物として本明細書で記載した通りに製剤化することができ、限定はしないが、筋ジストロフィー、筋肉減少症、悪液質およびII型糖尿病などの障害を治療するために使用される。ある実施形態では、低粘度抗ミオスタチン抗体製剤はキットとして提供される。このようなキットには、抗体製剤を使用するための指示書を含めることができる。
【0012】
ある実施形態では、低粘度タンパク質製剤は、低粘度抗IL−12抗体製剤である。一実施形態では、抗IL−12抗体はモノクローナル抗体である。別の実施形態では、抗IL−12抗体は、ヒト化モノクローナル抗体(例えば、部分的にヒト化した、または完全にヒト化したモノクローナル抗体)である。ある実施形態では、抗IL−12抗体はJ695である。抗IL−12抗体は一般的に、製剤中において約25mg/mlから約400mg/mlの間の濃度で使用される。粘度低下剤は一般的に、最終濃度が約1mMと約50mMの間となるように抗IL−12抗体製剤に添加する。いくつかの実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約5mMと約25mMの間となるように抗IL−12抗体製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約1mMと約15mMの間となるように抗IL−12抗体製剤に添加する。その他のある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約14mMの間となるように抗IL−12抗体製剤に添加する。粘度低下剤を約0.5mMから約50mMの間の濃度で抗IL−12抗体製剤に添加する場合、塩化ナトリウムおよび二硫酸ナトリウムは粘度低下剤として使用されない。低粘度抗IL−12抗体製剤のpHは一般的に、約5.5と約6.5の間である。ある実施形態では、ヒスチジンは低粘度IL−12抗体製剤において緩衝剤として使用される。低粘度抗IL−12抗体製剤はまた、1種または複数の凍結保護物質、1種または複数の界面活性剤、1種または複数の抗酸化剤、あるいはそれらの組合せを含むことができる。いくつかの実施形態では、低粘度抗IL−12抗体製剤は、復元された製剤である。抗IL−12抗体は、医薬組成物として使用するために本明細書で記載した通りに製剤化することができ、限定はしないが、関節リウマチ、クローン病、乾癬および乾癬性関節炎などの障害を治療するために使用される。ある実施形態では、低粘度抗IL−12抗体製剤はキットの一部として提供される。このようなキットには、抗IL−12抗体製剤を使用するための指示書を含めることができる。
【0013】
ある実施形態では、低粘度タンパク質製剤は、抗IL−13抗体製剤である。一実施形態では、抗IL−13抗体はモノクローナル抗体である。別の実施形態では、抗IL−13抗体は、ヒト化モノクローナル抗体(例えば、部分的にヒト化した、または完全にヒト化している)である。ある実施形態では、抗IL−13抗体はIMA−638である。抗IL−13抗体は一般的に、製剤中において約25mg/mlから約400mg/mlの間の濃度で使用される。粘度低下剤は一般的に、低粘度抗IL−13抗体製剤を製造するために、最終濃度が約1mMと約50mMの間となるように添加する。いくつかの実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約5mMと約25mMの間となるように抗IL−13抗体製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約1mMと約15mMの間となるように抗IL−13抗体製剤に添加する。その他のある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約14mMの間となるように抗IL−13抗体製剤に添加する。粘度低下剤を約0.5mMから約50mMの間の濃度で抗IL−13抗体製剤に添加する場合、塩化ナトリウムおよび二硫酸ナトリウムは粘度低下剤として使用されない。低粘度抗IL−13抗体製剤のpHは一般的に、約5.5と約6.5の間である。一実施形態では、ヒスチジンは低粘度IL−13抗体製剤において緩衝剤として使用される。低粘度抗IL−13抗体製剤はまた、1種または複数の凍結保護物質、1種または複数の界面活性剤、1種または複数の抗酸化剤、あるいはそれらの組合せを含むことができる。いくつかの実施形態では、低粘度抗IL−13製剤は、復元された製剤である。抗IL−13抗体は、医薬組成物としての低粘度製剤に製剤化することができ、例えば、限定はしないが、呼吸障害(例えば、喘息)、アトピー障害(例えば、アレルギー性鼻炎)、皮膚(例えば、アトピー性皮膚炎)、胃腸器官(例えば、炎症性腸疾患(IBD))の炎症および/または自己免疫症状、ならびに繊維性障害および癌障害を治療するために使用することができる。ある実施形態では、低粘度抗IL−13抗体製剤はキットとして提供される。このようなキットには、低粘度抗IL−13抗体製剤を使用するための指示書を含めることができる。
【0014】
特に定義しなければ、本明細書で使用した技術的および科学的用語は全て、本発明が属する業界の当業者によって通常理解されるものと同様の意味を有する。本明細書で記載したものと類似または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で記載した出版物、特許明細書、特許およびその他の参考文献は、全体を参考により援用する。さらに、材料、方法および実施例は、例示のためのみであって、限定するものではない。
【0015】
本発明のその他の特性および利点は、詳細な説明、図面および特許請求の範囲から明らかとなるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
タンパク質製剤の粘度は、安定性、加工、保存に対して、薬剤として使用する場合にはタンパク質製剤の患者への薬剤送達に対して影響を及ぼす。このような影響には、限定はしないが、濃度ならびに限外濾過およびダイアフィルトレーションによる緩衝液交換(膜流束は粘度が増加するにつれて減少し、それによって加工時間がより長くなり得る)、滅菌濾過(粘稠な溶液を滅菌濾過するには長時間を必要とし、場合によっては、非常に粘稠な溶液は微小な孔の膜、例えば、0.22μm膜を通過しない)、試料操作性(例えば、ピペッティングおよびシリンジへの吸い込みが困難である)、復元後の保存バイアルからの回収、安定性、皮下または筋肉内投与のための針通過が含まれる。
【0017】
本明細書では、同定されたタンパク質製剤の粘度を低下させる方法を提供する。この方法は、粘度が低下したタンパク質製剤(「低粘度製剤」または「低粘度タンパク質製剤」)を調製するのに適している。これらの低粘度タンパク質製剤には、関心があるタンパク質および粘度低下剤が含まれる。
【0018】
タンパク質製剤の粘度を低下させる方法
本明細書で使用した「粘度」という用語は、「運動力学的粘度」または「絶対粘度」であってよい。「運動力学的粘度」とは、重力の影響下での流体の流動抵抗の測定値である。同量の2種類の流体を同一のキャピラリー粘度計に入れ、重力によって流れさせる場合、粘稠な流体はキャピラリーを通過して流れるのに粘度の低い流体よりも長い時間がかかる。1種類の流体が完全に流れるのに100秒かかり、別の流体が200秒かかる場合、運動力学的粘度の尺度では2番目の流体の粘度は、1番目の流体の2倍である。時々「動的」または「単純粘度」と称される「絶対粘度」は、運動力学的粘度および流体密度の積である。運動力学的粘度のディメンションはL/Tで、Lは長さであり、Tは時間である。一般的に、運動力学的粘度はセンチストーク(cSt)で表される。動力学的粘度のSI単位は、mm/sであり、これは1cStである。絶対粘度は、センチポアズ(cP)の単位で表される。絶対粘度のSI単位は、ミリパスカル−秒(mPa−s)であり、1cP=1mPa−sである。
【0019】
タンパク質製剤の粘度は、製剤に粘度低下剤を添加することによって低下させることができる。粘度低下剤を比較的低濃度で添加する場合がある。粘度低下剤を含む製剤の粘度は、粘度低下剤を含まない製剤の粘度と比較して低下している。粘度低下剤の添加が、粘度低下剤を含まない対応する製剤と比較して、または粘度低下剤を選択された濃度では含まない製剤と比較して、製剤の粘度の低下をもたらす場合、粘度低下剤を(例えば、選択した濃度で)含有する製剤、このような製剤は低粘度製剤である。ある低粘度製剤では、粘度低下剤は一般的にタンパク質製剤の粘度を、粘度低下剤を含まない、または低量で含有するタンパク質製剤の粘度と比較して約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%および約90%減少させる。粘度低下剤が、タンパク質製剤の粘度を、粘度低下剤を含まない、または低量で含有するタンパク質製剤の粘度と比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%および少なくとも90%減少させる場合がある。ある実施形態では、タンパク質製剤の粘度は、粘度低下剤の添加前に測定する。その他の実施形態では、タンパク質製剤の粘度は、粘度低下剤の添加後に測定する。このような測定は、タンパク質製剤に粘度低下剤添加の数時間後(例えば、1〜23時間)、数日後(例えば、1〜10日間)、数週間後(例えば、1〜5週間)または数ヶ月後(例えば、1〜12ヶ月)、または数年後(例えば、1〜2年、1〜3年)に行うことができる。さらに他の実施形態では、タンパク質製剤の粘度は、粘度低下剤の添加の前後に測定する。粘度測定法は、当業界では周知であり、例えば、キャピラリー粘度計の使用またはコーンプレートレオメータが含まれる。
【0020】
一実施形態では、粘度低下剤は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウムまたは塩酸アルギニンなどの塩である。本明細書で記載した方法では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約100mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。一実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約5mMと約20mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。別の実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約14mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が約0.5mMと約20mM以下、または19mM以下、または18mM以下、または17mM以下、または16mM以下、または15mM以下、または14mM以下、または13mM以下、または12mM以下、または11mM以下、または10mMの間となるようにタンパク質製剤に添加される。一般的に、粘度低下剤が最終濃度約0.5mMから約25mMの間でタンパク質製剤に添加する場合、粘度低下剤は塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムであるが、塩化ナトリウムまたは二硫酸ナトリウムではない。ある実施形態では、粘度低下剤は、タンパク質製剤に悪い影響を与えないように低濃度で添加する。例えば、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムの濃度が20mM以上の場合、タンパク質は低い保存温度(例えば、2〜8℃)でゲルを形成し得る。したがって、粘度低下剤の濃度は一般的に、低粘度製剤の予定保存温度で粘度が低下するように選択される。
【0021】
製剤
低粘度タンパク質製剤の組成は、いくつかの要素を考慮することによって決定される。これらの要素には、限定はしないが、タンパク質の性質(例えば、受容体、抗体、Ig融合タンパク質、酵素)、タンパク質の濃度、所望するpH範囲、どのようにタンパク質製剤を保存するか(例えば、温度)、タンパク質製剤を保存する期間、どのように製剤を患者に投与するかが含まれる。適切な粘度低下剤の選択は、部分的には、製剤中のタンパク質のためのこのような必要性に基づいて行われる。
【0022】
タンパク質
製剤化する関心のあるタンパク質には、限定はしないが、タンパク質、例えば、ミオスタチン/GDF−8、インターロイキン(IL)、例えば、IL−1からIL−15、ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、ウリカーゼ、ビクニン、ビリルビンオキシダーゼ、サブチリシン、リポタンパク質、α−1−アンチトリプシン、インシュリンA鎖、インシュリンB鎖、プロインシュリン、卵胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、第VIIa因子、第VIII因子、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、フォンウィルブランド因子、プロテインCなどの血液凝固抑制因子、心房性ナトリウム利尿因子、肺サーファクタント、プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)、ボンバジン、トロンビン、プラスミン、ミニプラスミン、ミクロプラスミン、腫瘍壊死因子αおよびβ、エンケファリナーゼ、RANTES(T細胞発現および分泌の正常な活性化に対する調節)、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1−α)、ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン、ミュラー管抑制因子、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、プロレラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、DNアーゼ、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子(VEGF)、胎盤増殖因子(PIGF)、ホルモンまたは成長因子の受容体、インテグリン、プロテインAまたはプロテインD、リューマチ因子、骨由来神経栄養因子(BDNF)などの神経栄養因子、ニューロトロフィン−3、−4、−5もしくは−6(NT−3、NT−4、NT−5もしくはNT−6)またはNGF−βなどの神経成長因子、血小板由来成長因子(PDGF)、aFGFおよびbFGFなどの繊維芽細胞成長因子、上皮成長因子(EGF)、TGF−αおよびTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4もしくはTGF−β5を含むTGF−βなどのトランスフォーミング成長因子(TGF)、インシュリン様成長因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II)、des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インシュリン様成長因子結合タンパク質、CD2、CD3、CD4、CD8、CD9、CD19、CD20、CD22、CD28、CD34およびCD45などのCDタンパク質、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、骨誘導性因子、免疫毒素、骨形態形成タンパク質(BMP)、インターフェロン−α、−βおよび−γなどのインターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M−CSF、GM−CSFおよびG−CSF、スーパーオキシドジスムターゼ、T細胞受容体、EGF受容体、HER2、HER3もしくはHER4受容体などのHER受容体ファミリーの構成要素、LFA−1、VLA−4、ICAM−1およびVCAMなどの細胞接着分子、IgE、血液型抗原、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体、崩壊促進因子(DAF)、HIVgag、env、pol、tatまたはrevタンパク質などのウイルス抗原、ホーミング受容体、アドレシン、イムノアドヘシンおよび生物活性断片、あるいは前記に挙げたポリペプチドのいずれかの変種が含まれる。いくつかの製剤では、複数のタンパク質種または断片が製剤に含まれる。
【0023】
「生物活性断片」という用語は、由来するタンパク質の機能の少なくとも1種を保持しているタンパク質の断片を意味する。抗体の生物活性断片には、抗体の抗原結合断片が含まれ、受容体の生物学的断片には、そのリガンドに依然として結合できる受容体の断片が含まれ、リガンドの生物活性断片には、その受容体に依然として結合できるリガンドの一部が含まれ、酵素の生物活性断片には、完全長酵素によって触媒される反応を依然として触媒できる酵素の一部が含まれる。一実施形態では、生物活性断片は、由来するタンパク質の機能の少なくとも約5%を保持している。タンパク質の機能は、当業界で公知の方法(例えば、抗体−抗原相互作用の試験、リガンド−受容体相互作用の試験、酵素活性の試験、転写活性の試験、またはDNA−タンパク質相互作用の試験)によって測定することができる。この断片は、例えば、由来するタンパク質のある種の特性(例えば、特異的リガンドへの結合)を保持していることができるが、由来するタンパク質によって惹起される細胞応答を引き起こさない治療上有用な断片である場合もある。
【0024】
ある実施形態では、製剤化すべきタンパク質は抗体である。抗体は、前述のタンパク質の1つに結合できる抗体であってよい。本明細書で使用した「抗体」という用語には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ポリエピトープ特異性を備えた抗体組成物、二重特異性抗体、ダイアボディーまたは抗体のその他の精製調製物および組換え抗体が含まれる。抗体は、例えば、任意のアイソタイプ(IgG、IgA、IgE、IgMなど)の完全な抗体または関心のある抗原に結合するそれらの断片であることができる。本発明で使用される抗体の具体的な例では、製剤化する抗体は、IgGアイソタイプを有する抗体である。抗体は、従来の、またはその他の技術を使用して断片化することができ、断片は関心のある抗原に対する結合についてスクリーニングされる。一般的に、抗体断片には、完全な抗体の抗原結合領域および/または様々な領域が含まれる。したがって、抗体断片という用語には、選択されたタンパク質に選択的に結合できる、タンパク質分解酵素によって切断された、または組換え技術によって調製された抗体分子部分の一部が含まれる。このようなタンパク質分解および/または組換え断片の非限定的例には、Fab、F(ab’)、Fab’、Fvおよびペプチドリンカーによって結合したV[L]および/またはV[H]ドメインを含有する一本鎖抗体(scFv)が含まれる。scFvは、二種類以上の結合部位を有する抗体を形成するために共有的または非共有的に結合することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、抗体はヒト化モノクローナル抗体である。本明細書で使用した「ヒト化モノクローナル抗体」という用語は、同等のヒトモノクローナル抗体(ドナー)で見い出される少なくとも1種または複数のアミノ酸残基を含有するように改変された非ヒト由来のモノクローナル抗体(レシピエント)である。「完全なヒト化モノクローナル抗体」とは、同等のヒトモノクローナル抗体の抗原結合部位で見い出されるアミノ酸残基全てを含有するように改変された非ヒト由来のモノクローナル抗体である。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体またはドナー抗体のいずれにも見い出されない残基を含んでいてよい。抗体機能をさらに改良し、最適化するために、これらの変更を行うことができる。ヒト化抗体はまた、所望によりヒトイムノグロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を含んでよい。
【0026】
ある実施形態では、低粘度製剤で使用される抗体は、抗ミオスタチン抗体(例えば、MYO−022、MYO−028(図6)、MYO−029(図7))である。MYO−022、MYO−028およびMYO−029抗体は、本明細書に参考として援用した米国特許出願番号第10/688925号(公開番号2004/0142382)に記載されている。その他の実施形態では、抗体はIL−12抗体(例えば、J695(図8))である。J695抗体は、本明細書に参考として援用した米国特許第6914128号に記載されている。さらに別の実施形態では、抗体はIL−13抗体(例えば、IMA−638(図9)、CAT−354)である。抗IL−13抗体は、本明細書に参考として援用した米国特許出願番号第11/149309号に記載されている。
【0027】
いくつかの実施形態では、製剤化するタンパク質は融合タンパク質である。一実施形態では、融合タンパク質はイムノグロブリン(Ig)融合タンパク質である。特定の実施形態では、融合タンパク質はIgG重鎖定常領域を含む。別の実施形態では、融合タンパク質はヒトイムノグロブリンCγ1のヒンジ、CH2およびCH3領域に対応するアミノ酸配列を含む。Ig融合タンパク質の例には、CTLA4IgおよびVCAM2D−IgGが含まれる。融合タンパク質の製造方法は、当業界で公知である(例えば、米国特許第6887471号および第6482409号)。
【0028】
ある実施形態では、製剤化するタンパク質は、第VII因子ポリペプチドまたは抗IgE抗体を含まないタンパク質である。
【0029】
低粘度製剤は、特定の障害を治療するために必要なので、複数のタンパク質を含有し得る。他のタンパク質は、通常、製剤中のその他のタンパク質に対して補足的な活性を有し、製剤中のその他のタンパク質に悪影響を及ぼさない。例えば、ミオスタチンに結合する2種以上の抗体、IL−12に結合する2種以上の抗体またはIL−13に結合する2種以上の抗体を含有する単一の製剤を提供することが望ましいことがあり得る。さらに、タンパク質製剤はまた、低粘度タンパク質製剤を最大限に利用するために使用される非タンパク質物質を含有することができる。例えば、スクロースは、溶液中におけるタンパク質の安定性および溶解性を高めるために添加することができ、ヒスチジンは適切な緩衝能力をもたらすために添加することができる。このような追加物質は、粘度低下剤を添加する前のタンパク質製剤の一部とするか、または低粘度製剤の製造プロセスにおいて添加することができる。
【0030】
ある実施形態では、製剤において使用する前に、製剤化するタンパク質は本質的に純粋であり、かつ/または本質的に均一である(すなわち、混入タンパク質などを実質的に含まない)。「本質的に純粋な」タンパク質という用語は、選択されたタンパク質画分を少なくとも約90重量%、例えば、選択されたタンパク質画分を少なくとも約95重量%を含む組成物を意味する。「本質的に均一な」タンパク質という用語は、様々な安定化剤および水溶液の水の重量を除いて、選択されたタンパク質画分を少なくとも約99重量%を含む組成物を意味する。
【0031】
低粘度製剤におけるタンパク質の濃度
低粘度製剤におけるタンパク質の濃度は、製剤の最終的用途に左右される。本明細書で記載した製剤中におけるタンパク質濃度は一般的に、約10mg/mlと約300mg/mlの間、例えば、約10mg/mlと約100mg/mlの間、約25mg/mlと約100mg/ml、約50mg/mlと約100mg/ml、約75mg/mlと約100mg/ml、約100mg/mlと約200mg/ml、約125mg/mlと約200mg/ml、約150mg/mlと約200mg/ml、約200mg/mlと約300mg/mlおよび約250mg/mlと約300mg/mlである。例えば、本明細書で記載した製剤中におけるタンパク質濃度は、10mg/mlと300mg/mlの間、例えば、10mg/mlと100mg/mlの間、25mg/mlと100mg/mlの間、50mg/mlと100mg/mlの間、75mg/mlと100mg/mlの間、100mg/mlと200mg/mlの間、125mg/mlと200mg/mlの間、150mg/mlと200mg/mlの間、200mg/mlと300mg/mlの間、および250mg/mlと300mg/mlの間である。「間」という用語は、最小および最大濃度を含むものとする。
【0032】
低粘度タンパク質製剤は、治療目的で使用することができる。したがって、治療適用のために使用される製剤中のタンパク質の濃度は、患者に許容され、患者にとって治療価値がある投与量および容量のタンパク質を提供することに基づいて決定される。低粘度製剤が注射によって投与される場合、タンパク質濃度は、注射容量(通常、1.0mL〜1.2mL)に左右される。タンパク質をベースにした治療は、1週間当たり、1ヶ月当たり、または数ヶ月当たり数mg/kgの用量を必要とし得る。したがって、タンパク質を2〜3mg/kg患者の体重で提供し、患者の平均体重が75kgである場合、タンパク質150mg〜225mgを注射容量1.0mL〜1.2mLに入れて送達することが必要である。あるいは、製剤は、治療毎に複数の注射部位で送達するために適した濃度で提供する。
【0033】
製剤中のタンパク質濃度が増加するにつれて、タンパク質製剤の粘度はまた、上昇するようである。製剤の粘度が上昇すると、製剤の投与がより困難になる。したがって、粘度の上昇がその利用能力に影響を及ぼす場合、タンパク質製剤の粘度を低下させることが必要である。
【0034】
粘度低下剤
比較的低濃度のある種の粘度低下剤をタンパク質製剤に添加するとタンパク質製剤の粘度が低下することが発見された。本明細書で使用した「粘度低下剤」という用語には、粘度低下剤を含有しないか、または少量含有するタンパク質製剤と比較して、タンパク質製剤の粘度を低下させる任意の薬剤が含まれる。例えば、粘度低下剤は一般的に、タンパク質製剤の粘度を、粘度低下剤を含まない、または少量で含有するタンパク質製剤の粘度と比較して、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約90%または約95%低下させる。例えば、粘度低下剤は一般的に、タンパク質製剤の粘度を、粘度低下剤を含まない、または少量で含有するタンパク質製剤の粘度と比較して、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、90%または95%低下させる。粘度低下剤の非限定的例には、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩酸アルギニン、塩化ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸ナトリウムおよび塩化アンモニウムが含まれる。
【0035】
一実施形態では、粘度低下剤は塩化カルシウムである。別の実施形態では、粘度低下剤は塩化マグネシウムである。他の実施形態では、複数の粘度低下剤をタンパク質製剤に添加する。
【0036】
粘度低下剤は一般的に、最終濃度が1mMから約150mMの間、例えば、約1mMと約50mMの間、約2mMと約40mMの間、約3mMと約30mMの間、約4mMと約25mMの間、約5mMと約20mMの間、約5mMと約25mMの間、約5mMと約30mMの間、約5mMと約40mMの間、および約5mMと約50mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。ある実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が14mM未満、13mM未満、12mM未満、11mM未満、10mM未満、9mM未満、8mM未満、7mM未満、6mM未満、5mM未満、4mM未満、3mM未満、または2mM未満であるようにタンパク質製剤に添加する。その他の実施形態では、粘度低下剤は、最終濃度が0.5mMと約14mMの間、0.5mMと13mMの間、0.5mMと12mMの間、0.5mMと11mMの間、0.5mMと10mMの間、0.5mMと9mMの間、0.5mMと8mMの間、0.5mMと7mMの間、0.5mMと6mMの間または約0.5mMと約5mMの間となるようにタンパク質製剤に添加する。一実施形態では、粘度低下剤は、製剤中の最終濃度が約5mMと約20mMの間である塩化カルシウムである。別の実施形態では、粘度低下剤は、製剤中の最終濃度が約5mMと約14mMの間である塩化カルシウムである。その他の実施形態では、粘度低下剤は、製剤中の最終濃度が約5mMと約20mMの間である塩化マグネシウムである。別の実施形態では、粘度低下剤は、製剤中の最終濃度が約5mMと約14mMの間である塩化マグネシウムである。
【0037】
タンパク質製剤の粘度は、例えば、キャピラリー粘度計またはコーンプレートレオメータの使用を含む当業界で公知の任意の適切な方法によって測定することができる。
【0038】
緩衝剤
本明細書で使用した「緩衝剤」という用語には、溶液、例えば、製剤の所望する範囲のpHを維持する薬剤が含まれる。本明細書で記載した製剤のpHは一般的に、約pH5.0から約9.0の間、例えば、約pH5.5から約6.5の間、約pH5.5から約pH6.0の間、約pH6.0から約pH6.5の間、pH5.5、pH6.0またはpH6.5である。一般的に、溶液をpH5.0から6.5の間に維持することができる緩衝剤を使用する。本明細書で記載した製剤で使用できる緩衝剤の非限定的例には、ヒスチジン、コハク酸、グルコン酸、トリス(トロメタモール)、リン酸、クエン酸、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびカコジル酸が含まれる。
【0039】
ヒスチジンは、皮下、筋肉内または腹腔内注射によって投与される低粘度製剤に一般的に存在する緩衝剤である。この緩衝剤の濃度は約5mMと30mMの間である。一実施形態では、製剤の緩衝剤は、濃度が約5mMから約20mMの間のヒスチジンである。
【0040】
賦形剤
タンパク質、粘度低下剤および緩衝剤に加えて、本明細書で記載した粘度の低下した製剤はまた、その他の物質を含有してよい。このような物質には、限定はしないが、凍結保護物質、凍結乾燥保護物質、界面活性剤、充填剤、抗酸化剤および安定化剤が含まれる。一実施形態では、本明細書で記載した低粘度タンパク質製剤には、凍結保護物質、凍結乾燥保護物質、界面活性剤、充填剤、抗酸化剤および安定化剤およびそれらの組合せからなる群から選択された賦形剤が含まれる。
【0041】
本明細書で使用した「凍結保護物質」という用語には、例えば、タンパク質表面から優先的に除去されることによって、製剤中のタンパク質に凍結によって誘発される負荷に対する安定性をもたらす薬剤が含まれる。凍結保護物質はまた、1次および2次乾燥中および長期の製品保存中の保護をもたらすことができる。凍結保護物質の非限定的な例には、糖、例えば、スクロース、グルコース、トレハロース、マンニトール、マンノースおよびラクトース、高分子、例えば、デキストラン、ヒドロキシエチル澱粉およびポリエチレングリコール、界面活性剤、例えば、ポリソルベート(例えば、PS−20またはPS−80)およびアミノ酸、例えば、グリシン、アルギニン、ロイシンおよびセリンが含まれる。生体系で毒性が低い凍結保護物質が一般的に使用される。製剤に含める場合、凍結保護物質は一般的に、最終濃度が約0.1%と約10%(重量/容量)の間、例えば、約0.5%と約10%の間、約0.5%と約5%の間、約0.5%と約2%の間、約1%と約5%の間または約5%と約10%の間となるように添加する。一実施形態では、凍結保護物質は、濃度が約0.5%と約10%(重量/容量)の間であるスクロースである。
【0042】
一実施形態では、凍結乾燥保護物質を本明細書で記載した製剤に添加する。本明細書で使用した「凍結乾燥保護物質」という用語には、例えば、アモルファスガラス状基質を提供することによって、水素結合によってタンパク質と結合することによって、凍結乾燥または脱水プロセス(1回目および2回目の凍結乾燥)中のタンパク質に安定性をもたらし、乾燥プロセス中に除去される水分子を置換する薬剤が含まれる。これは、タンパク質構造を維持し、凍結乾燥過程中のタンパク質分解を最低限に抑え、長期間の製品安定性を改善するのに役立つ。凍結乾燥保護物質の非限定的例には、糖類、例えば、スクロースまたはトレハロース、アミノ酸、例えば、グルタミン酸一ナトリウム、非結晶性グリシンまたはヒスチジン、メチルアミン、例えば、ベタイン、リオトロピック塩、例えば、硫酸マグネシウム、ポリオール、例えば、3価以上の糖アルコール、例えば、グリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プルロニックおよびそれらの組合せが含まれる。製剤に添加する凍結乾燥保護物質の量は一般的に、タンパク質製剤が凍結乾燥される場合、タンパク質の許容できない量の分解/凝集が生じない量である。凍結乾燥保護物質が糖(例えば、スクロースまたはトレハロース)であり、タンパク質が抗体である場合、低粘度タンパク質製剤中の凍結乾燥保護物質濃度の非限定的例は、約10mMから約400mM、約30mMから約300mMおよび約50mMから約100mMである。
【0043】
ある実施形態では、界面活性剤は本明細書で記載した製剤に含まれる。本明細書で使用した「界面活性剤」という用語には、空気−液体界面での吸着によって液体の表面張力を低下させる薬剤が含まれる。界面活性剤の例には、限定はしないが、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80またはポリソルベート20)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)、トリトン(商標)(例えば、トリトン(商標)X−100)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、オクチルグリコシドナトリウム、ラウリル−スルホベタイン、ミリスチル−スルホベタイン、リノレイル−スルホベタイン、ステアリル−スルホベタイン、ラウリル−サルコシン、ミリスチル−サルコシン、リノレイル−サルコシン、ステアリル−サルコシン、リノレイル−ベタイン、ミリスチル−ベタイン、セチル−ベタイン、ラウロアミドプロピル−ベタイン、コカミドプロピル−ベタイン、リノレアミドプロピル−ベタイン、ミリスタミドプロピル−ベタイン、パルミドプロピル−ベタイン、イソステアラミドプロピル−ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル)、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−もしくはイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン、メチルココイルタウリン酸ナトリウムもしくはメチルオレイルタウリン酸二ナトリウムおよびMonaquat(商標)系(Mona Industries、Inc.、Paterson、N.J.)、ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコールならびにエチレンおよびプロピレングリコールの共重合体(例えば、プルロニック、PF68)が含まれる。添加する界面活性剤の量は、高分子量(HMW)種または低分子量(LMW)種の割合を測定するために、例えば、SEC−HPLCを使用して測定した場合に許容できるレベルで復元タンパク質の凝集を維持して、本明細書で記載したタンパク質製剤の凍結乾燥物の復元後の粒子形成を最小限に抑えるようにする。例えば、界面活性剤は(液体または凍結乾燥前の)製剤中に、約0.001〜0.5%、例えば、約0.05〜0.3%の量で存在することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、充填剤が低粘度製剤に含まれる。本明細書で使用した「充填剤」という用語には、医薬製品と直接相互作用することなく凍結乾燥した製品の構造を形成する薬剤が含まれる。薬剤として整った塊を形成することに加えて、充填剤はまた、崩壊温度の変更について有益な品質を付与し、凍結解凍保護をもたらし、長期間保存におけるタンパク質の安定性を高める。充填剤の非限定的例には、マンニトール、グリシン、ラクトースおよびスクロースが含まれる。充填剤は、結晶(例えば、グリシン、マンニトールもしくは塩化ナトリウム)またはアモルファス(例えば、デキストランまたはヒドロキシエチル澱粉)であってよく、一般的に製剤中において0.5%から10%の量で使用される。
【0045】
その他の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤、例えば、Remington「The Science and Practice of Pharmacy」20版、Gennaro著、Lippincott Williams&Wilkins(2000)に記載されたものも、製剤の所望する特性に悪影響を及ぼさないならば、本明細書で記載したタンパク質製剤に含めてよい。許容される担体、賦形剤または安定化剤は、使用した投与量および濃度でレシピエント(例えば、患者)に対して非毒性であり、追加的緩衝剤、保存剤、供溶媒、アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、金属複合体(例えば、Zn−タンパク質複合体)、ポリエステルなどの生分解性重合体、ナトリウムなどの塩形成対イオン、多価糖アルコール、アミノ酸、例えば、アラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リシン、オルニチン、ロイシン、2−フェニルアラニン、グルタミン酸およびトレオニン、有機糖または糖アルコール、例えば、ラクチトール、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイニシトース(myoinisitose)、ミオイニシトール、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、サイクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール、硫黄を含有する低下剤、例えば、尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α−モノチオグリセロールおよびチオ硫酸ナトリウム、低分子量タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたはその他のイムノグロブリン、および親水性重合体、例えば、ポリビニルピロリドンを含む。
【0046】
タンパク質製剤例
MYO−029
一実施形態では、MYO−029低粘度製剤は、MYO−029抗体を1mg/mlから300mg/ml使用して製剤化することができる。MYO−029製剤は一般的に、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを約1mMと約50mMの間含む。この製剤は、ヒスチジンを約5mMから約25mM含むことができる。この製剤は、スクロースまたはトレハロースを約1%から約5%(w/v)含むことができる。場合によっては、この製剤は、メチオニンを約10mMから約25mM含むことができる。ある種のMYO−029製剤では、ポリソルベート−20またはポリソルベート−80を0.05〜0.2%(w/v)を添加する。製剤のpHは一般的に、5.5と6.5の間である。具体的な例では、MYO−029製剤には、MYO−029抗体150mg/ml、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム10mM、ヒスチジン20mM、スクロース4%が含まれ、pHは6.0である。別の具体的な例では、MYO−029製剤には、MYO−029抗体75mg/ml、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム5mM、ヒスチジン10mM、メチオニン10mM、スクロース2%が含まれ、pHは6.0である。別の具体的な例では、MYO−029製剤には、MYO−029抗体150mg/ml、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム10mM、ヒスチジン20mM、メチオニン20mM、スクロース4%、ポリソルベート−80、0.2%が含まれ、pHは6.0である。
【0047】
MYO−028
MYO−028低粘度製剤は、MYO−028抗体を1mg/mlから300mg/ml使用して製剤化することができる。MYO−028製剤は一般的に、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを約1mMと約50mMの間含む。この製剤は、ヒスチジンを約5mMと約25mMの間含むことができる。この製剤は、スクロースまたはトレハロースを約1%と約5%(w/v)の間含むことができる。MYO−028製剤のpHは一般的に、約5.5と約6.5の間である。具体的な一例では、MYO−028抗体製剤には、抗体50hs mg/ml、ヒスチジン10mM、スクロース5%が含まれ、pHは6.5である。別の具体的な例では、MYO−028抗体製剤には、抗体50mg/ml、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム10mM、ヒスチジン10mM、スクロース5%が含まれ、pHは6.5である。
【0048】
J695
J695低粘度製剤は、J695抗体を1mg/mlから300mg/ml使用して製剤化することができる。J695製剤は一般的に、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを約1mMと約50mMの間含む。この製剤は、ヒスチジンを約5mMから約25mM含むことができる。この製剤は、スクロースまたはトレハロースを約1%から約5%(w/v)含むことができる。場合によっては、この製剤は、メチオニンを約10mMから約25mM含むことができる。あるJ695製剤では、マンニトールを約1%と約5%(w/v)の間添加する。製剤のpHは一般的に、5.5と6.5の間である。具体的な例では、J695抗体製剤には、J695抗体100mg/ml、ヒスチジン10mM、メチオニン10mM、マンニトール4%、スクロース1%が含まれ、pHは6.0である。別の具体的な例では、J695抗体製剤には、J695抗体100mg/ml、ヒスチジン10mM、メチオニン10mM、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム5mM、マンニトール4%、スクロース1%が含まれ、pHは6.0である。別の具体的な例では、J695抗体製剤には、J695抗体100mg/ml、ヒスチジン10mM、メチオニン10mM、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム10mM、マンニトール4%、スクロース1%が含まれ、pHは6.0である。
【0049】
IMA−638
IMA−638タンパク質製剤は、IMA−638抗体を1mg/mlから300mg/ml使用して製剤化することができる。IMA−638を含有する低粘度製剤は一般的に、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを約1mMと約50mMの間含む。この製剤は、ヒスチジンを約5mMから約25mM含むことができる。この製剤はまた、スクロースまたはトレハロースを約1%から約10%(w/v)含むことができる。製剤のpHは一般的に、5.5と6.5の間である。具体的な例では、IMA−638抗体製剤には、IMA−638抗体50mg/ml、ヒスチジン10mM、スクロース5%が含まれ、pHは6.0である。別の具体的な例では、IMA−638抗体製剤には、IMA−638抗体100mg/ml、ヒスチジン20mM、スクロース10%が含まれ、pHは6.0である。別の具体的な例では、IMA−638抗体製剤には、IMA−638抗体50mg/ml、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム5mM、ヒスチジン10mM、スクロース10%が含まれ、pHは6.0である。さらに別の具体的な例では、IMA−638抗体製剤には、IMA−638抗体100mg/ml、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム10mM、ヒスチジン20mM、スクロース10%が含まれ、pHは6.0である。
【0050】
保存法
本明細書で記載した低粘度タンパク質製剤は、当業者に公知の任意の適切な方法によって保存することができる。保存用の低粘度製剤の調製法の非限定的な例には、タンパク質製剤の凍結、凍結乾燥および噴霧乾燥が含まれる。
【0051】
低粘度製剤は保存のために凍結することもある。したがって、製剤は、凍結解凍過程を行う場合を含めて、このような条件下で比較的安定であることが望ましい。製剤の凍結保存への適切さを決定する1方法は、試料製剤に少なくとも2回、例えば、3回から10回(例えば、−20℃または−80℃において)凍結(例えば、室温で急速解凍するか、または氷上でゆっくり解凍することによって)解凍を繰り返し、凍結解凍過程後蓄積するLMW種および/またはHMW種の量を測定し、凍結解凍過程前の試料中に存在するLMW種またはHMW種の量と比較することである。LMW種またはHMW種の増加は、製剤の一部として保存されたタンパク質の安定性の低下を示している。サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)を使用して、LMWおよびHMW種の存在を測定することができる。適切な製剤は、所望しないHMW種またはLMW種を蓄積してもよいが、HMW種またはLMW種の存在が製剤を企図する用途に適さなくする範囲であってはならない。
【0052】
製剤を液体として保存する場合もある。したがって、液体製剤は、様々な温度を含めて、このような条件下で比較的安定であることが望ましい。液体保存への製剤の適合性を決定する一方法は、数種の温度(例えば、2〜8℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃および50℃)で試料製剤を保存し、経時的に蓄積するHMW種および/またはLMW種の量(例えば、割合の変化)をモニターすることである。さらに、タンパク質の電荷プロファイルは、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX−HPLC)によってモニターすることができる。
【0053】
一般的に、高分子量種または低分子量種の割合は、測定法および測定されるパラメータに適しているので、製剤中の総タンパク質含量の割合として、または経時的な(すなわち、保存中の)割合増加の変化として測定される。一般的に、また非限定的な例では、高分子量種または低分子量種のタンパク質の低粘度製剤中の割合の変化は、測定したパラメータ(例えば、時間、温度、製剤化、凍結乾燥または振盪中の他の化合物)に関して10%以下、例えば、約8%以下、約5%以下、または約3%以下である。
【0054】
あるいは、製剤は凍結乾燥後に保存することができる。本明細書で使用した「凍結乾燥」という用語は、乾燥する物質をまず凍結し、その後真空環境で昇華することによって氷または凍結した溶媒を除去するプロセスを意味する。賦形剤(例えば、凍結乾燥保護物質)を、凍結乾燥製品の保存時の安定性を高めるために、凍結乾燥する製剤に含めることができる。本明細書で使用した「復元製剤」という用語は、タンパク質が希釈剤中に分散されるように凍結乾燥タンパク質製剤を希釈剤に溶解することによって調製した製剤を意味する。本明細書では「希釈剤」という用語は、薬学的に許容され(ヒトに投与しても安全で、非毒性である)、液体製剤、例えば、凍結乾燥後に復元された製剤を調製するために有用な物質である。希釈剤の非限定的な例には、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩水溶液、リンゲル液、デキストロース溶液、塩および/または緩衝剤の水溶液が含まれる。
【0055】
凍結乾燥後の製剤のタンパク質成分の安定性について低粘度製剤を試験することは、製剤の安定性を測定するのに有用である。この方法は、試料製剤を凍結する代わりに凍結乾燥し、希釈剤を使用して復元し、復元製剤のLMW種および/またはHMW種の存在について試験すること以外は凍結について前述した方法と同様である。凍結乾燥しなかった対応する試料製剤と比較して、凍結乾燥した試料中のLMW種またはHMW種の増加は、凍結乾燥試料における安定性の低下を示唆している。
【0056】
製剤を噴霧乾燥し、その後保存する場合もある。噴霧乾燥のために、液体製剤を乾燥ガス流の存在下でエアロゾル化する。水分を製剤液滴からガス流に除去すると、薬物製剤の乾燥粒子が生じる。(1)噴霧乾燥脱水中においてタンパク質を保護し、(2)噴霧乾燥後の保存中においてタンパク質を保護し、かつ/または(3)エアロゾル化に適した溶液特性をもたらすために、賦形剤を製剤中に含めてよい。この方法は、試料製剤を凍結する代わりに噴霧乾燥し、希釈剤中に復元し、復元製剤のLMW種および/またはHMW種の存在について試験すること以外は凍結について前述したものと同様である。噴霧乾燥しなかった対応する試料製剤と比較して、噴霧乾燥した試料中のLMW種またはHMW種の増加は、噴霧乾燥試料における安定性の低下を示唆している。
【0057】
治療方法
本明細書で記載した低粘度製剤は、それらを必要とする患者の疾患または障害の治療および/または予防における医薬組成物として有用である。「治療」という用語は、治療的処置および予防的または防御的処置の両方を意味する。治療には、障害、障害の症状または障害になりやすい素因を治療、治癒、軽減、除去、改変、回復、緩和、改善するか、または影響を及ぼす目的で、障害、障害の症状を有するか、障害の危険性があるか、または障害になりやすい素因がある患者の体、単離組織、または細胞への低粘度製剤の適用または投与が含まれる。「治療を必要とする」ものには、既に障害を有するもの、ならびに予防すべき障害のあるものが含まれる。「障害」という用語は、本明細書で記載したタンパク質製剤による治療が有益な任意の状態のことである。これには、対象(患者)を問題の障害に罹りやすくする病理学的状態を含む慢性および急性の障害または疾患が含まれる。本明細書で記載した製剤を使用して治療する障害の非限定的例には、自己免疫疾患、炎症性障害、筋肉消耗性障害、アレルギー、癌、筋ジストロフィー、筋肉減少症、悪液質、II型糖尿病、関節リウマチ、クローン病、乾癬、乾癬性関節炎、喘息、皮膚炎、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、好酸球増加症、線維症および粘液産生過剰が含まれる。
【0058】
一実施形態では、医薬組成物としての使用に適した低粘度製剤には、抗ミオスタチン抗体および粘度低下剤が含まれる。一実施形態では、抗ミオスタチン抗体はMYO−029である。その他の実施形態では、抗ミオスタチン抗体はMYO−022またはMYO−028である。抗ミオスタチン抗体は一般的に、製剤中における濃度は約0.5mg/mlと約300mg/mlの間である。別の実施形態では、粘度低下剤の医薬組成物中における最終濃度は、約0.5mMと20mMの間である。別の実施形態では、粘度低下剤の医薬組成物中における最終濃度は、約0.5mMと14mMの間である。別の実施形態では、医薬組成物は抗ミオスタチン抗体、粘度低下剤および緩衝剤を含み、製剤のpHは約5.5と約6.5の間である。本明細書で記載した医薬品組成物はまた、その他のタンパク質、薬物および/または賦形剤を含有してよい。特に、問題となる障害の治療に有用なその他のタンパク質または物質を製剤に添加することができる。抗ミオスタチン抗体を含有する医薬組成物は、限定はしないが、筋肉消耗性障害、筋ジストロフィー、筋肉減少症、悪液質およびII型糖尿病などの障害の治療または予防に有用である。
【0059】
別の実施形態では、医薬組成物は、抗IL−12抗体および粘度低下製剤を含む。一実施形態では、抗IL−12抗体はJ695である。抗IL−12抗体は一般的に、製剤中における濃度は約0.5mg/mlと約300mg/mlの間である。別の実施形態では、粘度低下剤の医薬組成物中における最終濃度は、約0.5mMと20mMの間である。別の実施形態では、粘度低下剤の医薬組成物中における最終濃度は、約0.5mMと14mMの間である。別の実施形態では、医薬組成物は抗IL−12抗体、粘度低下剤および緩衝剤を含み、製剤のpHは約5.5と約6.5の間である。本明細書で記載した医薬品組成物はまた、その他のタンパク質、薬物および/または賦形剤を含有してよい。特に、問題となる障害の治療に有用なその他のタンパク質または物質を製剤に添加することができる。抗IL−12抗体を含有する医薬組成物は、限定はしないが、自己免疫疾患、炎症性障害、関節リウマチ、クローン病、乾癬および乾癬性関節炎などの障害の治療または予防に有用である。
【0060】
別の実施形態では、医薬組成物は、抗IL−13抗体および粘度低下製剤を含む。一実施形態では、抗IL−13抗体はIMA−638である。抗IL−13抗体は一般的に、製剤中における濃度は約0.5mg/mlと約300mg/mlの間である。別の実施形態では、粘度低下剤の医薬組成物中における最終濃度は、約0.5mMと20mMの間である。別の実施形態では、粘度低下剤の医薬組成物中における最終濃度は、約0.5mMと14mMの間である。別の実施形態では、医薬組成物は抗IL−13抗体、粘度低下剤および緩衝剤を含み、製剤のpHは約5.5と約6.5の間である。本明細書で記載した医薬品組成物はまた、その他のタンパク質、薬物および/または賦形剤を含有してよい。特に、問題となる障害の治療に有用なその他のタンパク質または物質を製剤に添加することができる。抗IL−13抗体を含有する医薬組成物は、限定はしないが、喘息性障害、アトピー性疾患、慢性閉塞性肺疾患、気管炎症が関与する症状、好酸球増加症、線維症および粘液産生過剰症、炎症状態、自己免疫状態、腫瘍または癌およびウイルス感染などの障害の治療または予防に有用である。
【0061】
投与
本明細書で記載した低粘度製剤は、当業界で公知の方法を使用して、例えば、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、病巣内もしくは関節内経路による注射もしくは注入などの適切な方法での単回もしくは複数回の大量瞬時投与または長期間にわたる注入、局所投与、吸入あるいは持続放出手段または徐放手段によって、治療を必要とする対象に投与することができる。製剤を凍結乾燥する場合、投与前に、凍結乾燥した材料をまず適切な液体で復元する。凍結乾燥した材料を、例えば、BWFI、リン酸緩衝生理食塩水、または凍結乾燥前のタンパク質が入った同様の製剤で復元することができる。
【0062】
非経口用組成物は、投与が容易で、投薬が均一となる投与単位形態に調製することができる。本明細書で使用した「投与単位形態」とは、治療する対象のための単位投与に適した物理的に分離された単位のことで、各単位は、選択された医薬担体と関連して所望する治療効果を生じるように計算された予め決定された量の活性化合物を含有する。
【0063】
定量噴霧式吸入器などの吸入方法の場合、器具は、適切な量の製剤を送達するように設計される。吸入によって投与するために、化合物は、適切な噴射剤、例えば、二酸化炭素などのガスを含有する加圧容器もしくはディスペンサーまたは噴霧器からエアロゾルスプレーの形態で送達される。あるいは、吸入投与形態は、乾燥粉末吸入器を使用して乾燥粉末として提供することができる。
【0064】
低粘度製剤はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、もしくは界面重合化によって調製されたマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセルのそれぞれ、コロイド状薬剤送達系(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンに捕捉することができる。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、20版(前述)に開示されている。
【0065】
本明細書で記載したタンパク質製剤の持続放出調製物も調製できる。持続放出調製物の適切な例には、タンパク質製剤を含有する固形疎水性重合体の半透過性基質が含まれる。持続放出基質の例には、ポリエステル、ハイドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタメートの共重合体、非分解性エチレン−ビニルアセテート、分解性乳酸−グリコール酸共重合体およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。本明細書で記載したタンパク質の持続放出製剤は、例えば、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)を使用して、その生体適合性および広範囲の生分解性特性によって開発された。PLGA、乳酸およびグリコール酸の分解産物は、ヒト体内で迅速に除去され得る。さらに、この重合体の分解性は、その分子量および組成に応じて数月から数年に調節することができる。リポソーム組成物はまた、本明細書で開示したタンパク質または抗体を製剤化するために使用することができる。
【0066】
投与
製剤の毒性および治療効果は、当業界で公知の薬学的方法によって、例えば、細胞培養物または実験動物を使用して、例えば、LD50(集団の50%が致死する用量)およびED50(集団の50%に治療効果のある用量)を測定して、測定することができる。毒性と治療効果の間の用量比は、治療係数であり、LD50/ED50として表すことができる。
【0067】
細胞培養測定法および動物実験から得られたデータは、ヒトで用いる様々な投薬量の製剤化に使用することができる。このような製剤の投薬量は一般的に、ほとんど、または全く毒性の無いED50を含む循環濃度の範囲内である。投薬量は、使用した剤形および利用する投与経路に応じて、この範囲内で変化させることができる。本発明の方法で使用した任意の製剤化のために、治療有効量を細胞培養測定法から最初に概算することができる。用量は、細胞培養物で測定したようなIC50(すなわち、症状の最大阻害の半分を実現する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を実現するために、動物モデルで処方することができる。このような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0068】
製剤のタンパク質の適切な投薬量は、治療する障害の種類、障害の重症度および経過、薬剤の投与が予防目的であるか、または治療目的であるか、先行治療、患者の既往症および薬剤に対する応答ならびに主治医の自由裁量に左右される。製剤は一般的に、投薬量が約0.1mgタンパク質/kg体重から100mgタンパク質/kg体重の間となるように送達される。製剤は、一度に、または一連の治療によって患者に投与される。一実施形態では、ミオスタチン抗体(例えば、MYO−22、MYO−28、MYO−029)製剤は、それらを必要とする患者に、1mg/kgから10mg/kg体重の投薬量で送達される。別の実施形態では、IL−12抗体製剤は、それらを必要とする患者に、1mg/kgから5mg/kg体重の投薬量で送達される。他の実施形態では、IL−13抗体製剤は、それらを必要とする患者に、約0.5mg/kgから約5mg/kg患者体重の投薬量で送達される。
【0069】
in vitro投与で使用される製剤は、滅菌されていなければならない。製剤は、液体の製剤化または凍結乾燥および復元の前後に、例えば、滅菌濾過膜による濾過によって滅菌することができる。本明細書で開示した治療組成物は一般的に、滅菌処理口を有する容器、例えば、静脈内溶液バッグ、または皮下注射針によって貫通可能な栓を有するバイアルに入れる。
【0070】
製造に関する物品
別の実施形態では、本明細書で記載した製剤を含有し、その使用指示書を一般的に提供する製造に関する物品が提供される。製造に関する物品には、製剤を含有するために適した容器が含まれる。適切な容器には、限定はしないが、瓶、バイアル(例えば、2室式バイアル)、シリンジ(例えば、1室または2室式シリンジ)、試験管、噴霧器、吸入器(例えば、定量噴霧式吸入器または乾燥粉末吸入器)または貯蔵物が含まれる。容器は、様々な材料、例えば、ガラス、金属またはプラスティック(例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン)から形成することができる。容器は、製剤を保持し、ラベルが貼ってあるか、付随しており、この容器には復元および/または使用のための指示を表示することができる。このラベルはさらに、製剤が皮下投与のために有用であるか、また企図されていることを表示することができる。製剤を保持している容器は、製剤の投与を繰り返すことが可能な(例えば、2〜6回)多重使用バイアルであってよい。製造に関する物品はさらに、適切な希釈剤(例えば、WFI、NaCl0.9%、BWFIまたはリン酸緩衝生理食塩水)を含む第2の容器を含むことができる。製造に関する物品がタンパク質製剤の凍結乾燥物を含む場合、希釈剤と凍結乾燥製剤を混合することによって、復元製剤中において一般的に少なくとも20mg/mlの最終タンパク質濃度がもたらされる。製剤に関する物品はさらに、その他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジおよび使用指示書を備えたパッケージ挿入物を含む、商用および使用者の立場から所望されるその他の材料を含むことができる。
【0071】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示される。これらの実施例は、例示の目的のためのみに提供される。これらは、いかなる方法によっても本発明の範囲および内容を制限するものではない。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
抗体製剤の粘度
抗β−アミロイドペプチド(抗AB)、抗IL−13、抗IL−12(J695)および抗ミオスタチン(MYO−029)抗体は、表1に記載したように製剤化した。これらの抗体製剤の粘度は、Anton Paar Physica MCR301コーンプレートレオメータを使用して測定した。具体的には、CP25−1(直径24.971mm、角度1.002゜)コーンを測定全てに使用し、剪断速度は100秒間常に898 1/sであった。測定は10秒間隔で行った。粘度測定は、内蔵式ペルティエ温度制御単位を使用して、4℃および25℃の両方で実施した。プレートに載置する液体試料は90μlであった。各試料は、3連で分析した。
【0073】
以下の表1には、様々な濃度および様々な製剤中における様々な抗体の粘度を挙げる。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示したデータは、抗ミオスタチン(MYO−029)の粘度が表に挙げたその他の抗体と比較して著しく高いことを示している。抗体全ての粘度は、4℃で増加した。この増加は、MYO−029では相対的にかなり高い。
【0076】
(実施例2)
MYO−029抗体製剤の粘度に対する様々な塩の影響
MYO−029抗体を、濃度73mg/mlで、ヒスチジン10mM、スクロース2%、pH6.0において製剤化した。塩(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウム)の濃縮溶液を、ピペットを使用してMYO−029抗体製剤中に希釈した。MYO−029抗体製剤の粘度に対するこれらの塩の影響を実施例1で説明したように測定した。これらのデータを図1に示す。
【0077】
約5mMから約20mMまでの濃度範囲のMgClおよびCaClはいずれも、MYO−029抗体製剤の粘度を著しく低下させた。一方、NaClおよびNaHSOは、この範囲ではほとんど影響を及ぼさなかった。
【0078】
したがって、約5mMから約20mMまでの濃度の塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムは、塩化ナトリウムおよび硫酸二水素ナトリウムとは異なり、MYO−029抗体製剤の効果的な粘度低下剤である。
【0079】
(実施例3)
J695抗体製剤の粘度に対する塩化カルシウムの影響
J695抗体製剤の粘度は、J695抗体の2種類の異なる濃度、すなわち、100mg/mlおよび300mg/mlで測定する。
【0080】
高濃度のJ695抗体製剤の粘度は、低濃度のJ695抗体製剤の粘度よりも高くなるだろう。
【0081】
塩化カルシウムは、最終濃度が約5mMから20mMになるまで、300mg/mlのJ695抗体製剤に添加する。この場合、抗体製剤の粘度は、塩化カルシウムを含まないJ695製剤と比較して低下していることが予測される。
【0082】
したがって、約5mMから約20mMまでの濃度の塩化カルシウムは、J695抗体製剤のための粘度低下剤として効果的である。
【0083】
(実施例4)
MYO−028抗体製剤の粘度に対する塩化カルシウムの影響
別の抗ミオスタチン抗体、MYO−028は、Centricon Ultrafee(登録商標)−4を使用して濃度95mg/mLまで濃縮した。塩化カルシウムを以下の表2に従ってMYO−028に添加した。
【0084】
【表2】

【0085】
MYO−028をヒスチジン10mM、スクロース5%、pH6.5において95mg/mLで製剤化した。CaCl溶液は、ヒスチジン10mM、スクロース2%、CaCl 2Mから構成される。緩衝溶液は、ヒスチジン10mM、スクロース5%、pH6.5から構成される。
【0086】
これらのMYO−028抗体製剤の粘度は、実施例1で記載したのと同様のレオメータ法を使用し、留去を防止するために溶媒捕捉装置をさらに使用して、プレート上にMYO−028の液体試料100μlを載置して測定し、試験は室温で実施した。
【0087】
これらの実験のデータを図2に示す。
【0088】
CaClを添加すると、CaCl25mMおよび50mMでのMYO−028抗体製剤の粘度は、CaClを含まないMYO−028製剤と比較して低下した。これらのデータは、タンパク質製剤の粘度を低下させる、例えば、低粘度抗体製剤を製剤化するための薬剤として使用するためのCaClの適合性を示している。
【0089】
(実施例5)
IMA−638抗体製剤の粘度に対する塩化カルシウムの影響
IMA−638抗体製剤の粘度に対する塩化カルシウムの影響を試験するために、様々な量の塩化カルシウムをピペットでIL−13抗体、IMA−638の一定量に添加した。IMA−638抗体の一定量のタンパク質濃度は約150mg/mLであった。図3は、IMA−638抗体製剤の粘度に対する塩化カルシウムの影響を図示している。
【0090】
IMA−638の粘度は、MYO−029で認められたのと同様の粘度の低下は示さなかった。これらのデータは、タンパク質製剤と使用するために適切な粘度低下剤の同定方法を示している。
【0091】
(実施例6)
MYO−029抗体の安定性に対する塩化カルシウムの影響
化合物(すなわち、粘度低下剤、例えば、CaCl)のタンパク質製剤への添加は、凍結解凍によって引き起こされる負荷に対する分子の安定性に影響を及ぼす可能性がある。この影響は、凍結解凍中のタンパク質の安定性に有害であるか、有益であるか、または影響を与えない可能性がある。
【0092】
凍結解凍によって引き起こされるMYO−029抗体の分解に対する薬剤(すなわち、CaCl)の影響を評価するために、CaCl5mMの存在下または非存在下で、この分子を−80℃および37℃で10回凍結融解を繰り返し行った。MYO−029薬剤物質は、限外濾過およびダイアフィルトレーションによって、塩化カルシウムの存在下または非存在下で、ヒスチジン10mM、スクロース2%中に製剤化した。最終タンパク質濃度は、約75mg/mLであった。一定量20μlを−80℃で凍結し、室温で解凍した。5回および10回の凍結解凍のために、これを繰り返した。試料を製剤用緩衝液で25倍に希釈し、タンパク質濃度は280nmの吸光度を測定することによって、高分子量生成物の割合(%HMW)はSEC−HPLCによって分析した。
【0093】
凍結解凍によって引き起こされる分解の影響は、(i)タンパク質回収率(280nmでの吸光度)、および(ii)サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)によって測定される高分子量(%HMW)形成の割合によって評価した。HMW形成は、この分子の最も一般的な分解経路である。これらの研究の結果を図4Aおよび図4Bに示す。
【0094】
CaClを含まない対応する対照試料と比較して、製剤にCaCl5mMを添加しても、タンパク質回収または%HMW形成には何ら影響はなかった。したがって、塩化カルシウムの添加は、MYO−029抗体製剤の安定性には影響を及ぼさないようである。これは、タンパク質製剤、例えば、低粘度抗体製剤において粘度低下剤として使用するためのCaClの適合性を示している。
【0095】
(実施例7)
MYO−029抗体製剤の安定性に対する塩化カルシウムの影響
CaClのタンパク質製剤への添加は、長期にわたる分子の液体安定性に影響を及ぼす可能性がある。この影響は、保存中のタンパク質の安定性に有害であるか、有益であるか、または影響を与えない可能性がある。
【0096】
熱誘導分解に対するMYO−029の液体安定性に対するこの薬剤の影響を評価するために、MYO−029を含有する製剤を50℃で7日間まで保存した。一定量を様々な時点で採取し、280nmの吸光度によってタンパク質濃度を分析し、%HMWはSEC−HPLCによって分析した。これらのデータを図5Aおよび図5Bに示す。
【0097】
対照試料と比較して、CaClの製剤への添加は、50℃で保存した液体タンパク質の安定性に悪い影響は及ぼさなかった。薬剤物質におけるHMWの割合はまた、CaClを含有する材料ではわずかに少ないようであった。これらのデータはさらに、粘度低下剤としてのCaClの使用の適合性を示している。これらはまた、例えば、薬剤が製剤中におけるタンパク質の安定性に影響を及ぼすかどうかに関して、タンパク質製剤の粘度を低下させる薬剤の適合性を決定する方法を示している。
【0098】
(実施例8)
凍結乾燥したMYO−029の安定性に対する塩化カルシウムの影響
CaClなどの薬剤のタンパク質製剤への添加は、長期にわたってタンパク質の凍結乾燥剤形に影響を及ぼす可能性がある。この影響は、保存中のタンパク質の安定性に有害であるか、有益であるか、または影響を与えない可能性がある。
【0099】
凍結乾燥したMYO−029の安定性に対するこの賦形剤の影響を評価するために、この分子を含有する製剤をCaCl5mMと共に、または共にせずに(対照)凍結乾燥し、50℃および4℃で4週間保存を行った。バイアルを週に1度取り出して、280℃の吸光度によってタンパク質濃度を、SEC−HPLCによってHMWの割合を、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX−HPLC)によって電荷分布を分析した。バイアルから取り出した量および粘度(1時点のみ)も測定した。
【0100】
A.復元した薬剤製品の粘度
MYO−029薬剤製品の約150mg/mLでの粘度(実施例1と実質的に同様の方法で測定)は、塩化カルシウム5mMが製剤中に存在すると低下する。
【0101】
B.バイアルから取り出す量
1mLシリンジおよび21G針でバイアルから取り出すことができる薬剤製品の量は、CaClが製剤中に存在すると改善される。
【0102】
C.タンパク質濃度
対照と比較して、製剤にCaClを添加してもタンパク質回収率に影響はない。
【0103】
D.高分子量
CaCl5mMは、4℃で4週間保存した後に形成されるHMW種の割合にあまり大きな影響を及ぼさないだろう。しかし、50℃では、HMW形成率は、対照と比較して著しく低下することが予測される。
【0104】
E.電荷分布
安定時点は、CEX−HPLC、タンパク質中の電荷の違いを研究するために使用されるクロマトグラフィー装置によって分析される。CEX−HPLCでは、負に荷電した分子は正に荷電し分子よりも早く溶出する。この方法を使用して、アスパラギン残基のアスパラギン酸またはイソアスパラギン酸への脱アミド化を検出する。脱アミド化によって、タンパク質の正味の負の電荷の増加が生じ、HPLCカラムから早く溶出するだろう。この実験では、塩化カルシウムの影響がタンパク質分解に及び、対照で観察されたものとは異なる電荷の変化が生じる。塩化カルシウムを含まない対照と比較して、同様の電荷変化が長期にわたって生じることが予測される。したがって、CaClは、両方の保存温度でMYO−029の電荷分布に影響を及ぼさないことが予測される。
【0105】
要約すると、対照試料と比較して、CaClの製剤への添加は、4℃および50℃で保存した場合、凍結乾燥状態の塩化カルシウムを含まない実験対照に対して、製剤中のタンパク質の安定性にあまり悪い影響は及ぼさないだろう。場合によって、CaClはタンパク質の安定性に有益であることが見い出された。
【0106】
その他の実施形態
本発明はその詳細な説明に関連して説明されるが、前記の説明は例示のためであって本発明の範囲を限定するものではなく、添付の請求項の範囲によって定義されることを理解されたい。その他の態様、利点および変更は、以下の特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】様々な塩の濃度を増加させて抗ミオスタチン(MYO−029)抗体製剤の粘度に対する影響を測定するために実施した実験の結果を示したグラフである。
【図2】塩化カルシウムの濃度を増加させて抗ミオスタチン(MYO−028)抗体製剤の粘度に対する影響を測定するために実施した実験の結果を示した棒グラフである。
【図3】塩化カルシウムの濃度を増加させて抗IL−13(IMA−638)抗体製剤の粘度に対する影響を測定するために実施した実験の結果を示すグラフである。
【図4A】塩化カルシウムの存在下または非存在下で、抗ミオスタチン(MYO−029)抗体の凍結解凍誘導性分解の影響を試験するために実施した実験の結果を示した棒グラフである。分解は、280nmでの吸光度を計測することによって測定されたタンパク質回収率によって評価された。
【図4B】塩化カルシウムの存在下または非存在下で、抗ミオスタチン(MYO−029)抗体の凍結解凍誘導性分解の影響を試験するために実施した実験の結果を示した棒グラフである。分解は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)によって測定された高分子重量種(%HMW)形成の割合によって評価された。
【図5A】塩化カルシウムの存在または非存在(対照)の、40℃で7日間まで保存した抗ミオスタチン(MYO−029)抗体の液体安定性に対する影響を試験するために実施した実験の結果を示した棒グラフである。MYO−029抗体の液体安定性は、280nmでの吸光度を計測することによって決定された。
【図5B】塩化カルシウムの存在または非存在(対照)の、40℃で7日間まで保存した抗ミオスタチン(MYO−029)抗体の液体安定性に対する影響を試験するために実施した実験の結果を示した棒グラフである。MYO−029抗体の液体安定性は、SEC−HPLCによって測定されたようにHMW形成を測定することによって決定された。
【図6】MYO−028抗体重鎖(配列番号1)および軽鎖(配列番号2)のアミノ酸配列を表した図である。
【図7】MYO−029抗体重鎖(配列番号3)および軽鎖(配列番号4)のアミノ酸配列を表した図である。
【図8】J695抗体重鎖(配列番号5)および軽鎖(配列番号6)のアミノ酸配列を表した図である。
【図9】IMA−638抗体重鎖(配列番号7)および軽鎖(配列番号8)のアミノ酸配列を表した図である。重鎖DNA配列によってコードされた最後のアミノ酸残基、Lys448は、IMA−638の成熟した分泌型に少量で認められるのみで、おそらくCHO細胞性プロテアーゼによって細胞内でプロセシングされる間に大半のモノクローナル抗体から除去されるのだろう。したがって、IMA−638重鎖のカルボキシ末端はGly447である。カルボキシ末端リシンのプロセシングは、組換え体および血漿由来抗体で認められ、それらの機能に影響を及ぼさないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質製剤の粘度を低下させる方法であって、
(a)タンパク質製剤を提供し、
(b)塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムをタンパク質製剤に約0.5mMと約20mMの間の濃度となるまで添加することを含み、ここで塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを含むタンパク質製剤の粘度が粘度低下剤を含まないタンパク質製剤の粘度と比較して低下している、方法。
【請求項2】
タンパク質が抗体、Ig融合タンパク質、受容体、転写因子、酵素、リガンドおよびその生物活性断片からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質が抗体またはその生物活性断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質がIg融合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質が抗体であり、抗体が抗ミオスタチン抗体、抗IL−12抗体、または抗IL−13抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗ミオスタチン抗体がMYO−029であり、抗IL−12抗体がJ695であり、抗IL−13抗体がIMA−638である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質製剤の粘度が、粘度低下剤を含まない製剤の粘度と比較して少なくとも約5%低下している、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(i)タンパク質、
(ii)製剤中の濃度が約5mMと約20mMの間であり、塩化ナトリウムまたは硫酸二水素ナトリウムではない粘度低下剤、および
(iii)緩衝剤
を含み、製剤のpHが約5.5〜6.5である低粘度製剤。
【請求項9】
タンパク質が抗体、Ig融合タンパク質、受容体、転写因子、酵素、リガンドおよびその生物活性断片からなる群から選択される、請求項8に記載の低粘度製剤。
【請求項10】
タンパク質が抗体またはその生物活性断片である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
タンパク質がIg融合タンパク質である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
粘度低下剤が塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムである、請求項8に記載のタンパク質製剤。
【請求項13】
(i)抗ミオスタチン抗体またはそれらのミオスタチン結合断片、
(ii)粘度低下剤、および
(iii)緩衝剤
を含み、製剤のpHが約5.5〜6.5である、抗ミオスタチン抗体製剤。
【請求項14】
抗ミオスタチン抗体がモノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗ミオスタチン抗体がヒト化モノクローナル抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
抗ミオスタチン抗体がミオスタチンに、Biacore(商標)による測定で約6×10−11MのKで結合する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
抗ミオスタチン抗体がMYO−022、MYO−028およびMYO−029からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
製剤中の抗ミオスタチンの濃度が約25mg/mlから約400mg/mlである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
粘度低下剤が塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
粘度低下剤が濃度約5mMから約20mMの塩化カルシウムである、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
緩衝剤が製剤中の濃度約4mMから約60mMのヒスチジン緩衝剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
製剤が凍結保護物質をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
凍結保護物質が製剤中の濃度約0.5%から約5%(重量/容量)のスクロースまたはトレハロースである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
製剤が製剤中の濃度約0%から約0.2%(重量/容量)の界面活性剤をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
界面活性剤がポリソルベート−20またはポリソルベート−80である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
製剤が抗酸化剤をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
抗酸化剤がメチオニンであり、製剤中のメチオニンの濃度が約2mMと約20mMの間である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
(i)抗ミオスタチン抗体が濃度約20mg/mlから約400mg/mlの完全にヒト化された抗ミオスタチン抗体であり、
(ii)粘度低下剤が濃度約5mMから20mMの塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムであり、
(iii)緩衝剤が濃度約5mMから約20mMのヒスチジン緩衝剤であり、
製剤のpHが約6.0である、請求項13に記載の抗ミオスタチン抗体製剤。
【請求項29】
凍結乾燥されている、請求項13に記載の製剤。
【請求項30】
製剤の粘度が、粘度低下剤を含まない製剤と比較して少なくとも約5%低下している、請求項13に記載の製剤。
【請求項31】
筋ジストロフィー、筋肉減少症、悪液質およびII型糖尿病からなる群から選択された障害の治療のための医薬組成物であって、請求項9の抗ミオスタチン抗体製剤を含む医薬組成物。
【請求項32】
筋ジストロフィー、筋肉減少症、悪液質およびII型糖尿病からなる群から選択された障害の治療方法であって、
(i)抗ミオスタチン抗体またはそれらのミオスタチン結合断片、
(ii)粘度低下剤、および
(iii)緩衝剤
を含み、製剤のpHが約5.5〜6.5である、薬剤として有効な量の抗体製剤を投与することを含む方法。
【請求項33】
抗体製剤が、注射、静脈注入、または噴霧器による、もしくは乾燥粉末としての肺投与によって投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項1に記載の製剤を含有する容器を含むキット。
【請求項35】
前記製剤を投与するための指示書をさらに含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
タンパク質製剤の粘度を低下させる方法であって、
(i)タンパク質製剤を提供し、
(ii)粘度低下剤をタンパク質製剤に添加することを含み、ここで粘度低下剤が塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムであり、製剤中の粘度低下剤の濃度が約1mMと約25mMの間であるところの、方法。
【請求項37】
低粘度タンパク質製剤を同定する方法であって、
(i)タンパク質製剤を提供し、
(ii)粘度低下剤をタンパク質製剤に添加し、ここで粘度低下剤が塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムであり、製剤中の粘度低下剤の濃度が約1mMと約25mMの間であり、それによって可能性のある低粘度製剤を形成し、
(iii)可能性のある低粘度タンパク質製剤の粘度を測定することを含み、
ここで、可能性のある低粘度タンパク質製剤の粘度が粘度低下剤を含まないタンパク質製剤の粘度と比較して低下している場合、該製剤は低粘度製剤であるところの、方法。
【請求項38】
タンパク質製剤の安定性を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
タンパク質製剤の安定性を測定することをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
タンパク質製剤の安定性が、タンパク質製剤を凍結解凍した後、タンパク質製剤を50℃で1〜7日間保存した後、または凍結乾燥した後に測定される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
安定性が、高分子量種の割合、低分子量種の割合、または対照と比較したタンパク質製剤の電荷分布を測定することによって決定される、請求項39に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−521482(P2009−521482A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547638(P2008−547638)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/049129
【国際公開番号】WO2007/076062
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】