説明

低粘度水性組成物

【課題】脂肪アルコールエーテルサルフェートの含有量が高く、20℃で液体である水性組成物の提供。
【解決手段】20℃で3000mPas以下のブルックフィールド粘度(20℃、スピンドル2、20rpmで測定)を有し、下式(III)で示される化合物および下式(IV)で示される化合物を含み、化合物(III)および(IV)を、組成物全体に基づいて合計して35〜70重量%の量で含み、化合物(III)を組成物全体に基づいて少なくとも35重量%の量で含む水性組成物。




[式中、・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、・Xは、サルフェート基またはホスフェート基であって、サルフェート基またはホスフェート基Xは中和型であり、・(EO)は、エチレンオキシド基であり、・pは、2〜100の範囲内の数であり、および・qは、2〜100の範囲内の数である]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー分野に位置し、低粘度水性組成物ならびに乳化重合におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン性界面活性剤である脂肪アルコールエーテルサルフェートは、水溶液中において約30重量%の濃度で、ゲル相を形成する現象を示し、これは粘度の相当な増加を伴う。ここで、「ゲルブロック」が生じ、つまり、これらの系は固形ゲルの形状となる。これは多くの用途において望ましくなく、特に、このゲル相の共存により、これら水性の脂肪アルコールエーテルサルフェートはもはや液状ではなくなり、そのため容易に扱えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、脂肪アルコールエーテルサルフェートの含有量が高く、20℃で液体でもある、水性組成物を提供することである。本発明の課題において、液体とは、水性組成物が3000mPas以下、より具体的には1000mPas以下の粘度(20℃、スピンドル2、20rpmで測定した、組成物のブルックフィールド粘度)を有することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明の第1の主題は、20℃で3000mPas以下のブルックフィールド粘度(20℃、スピンドル2、20rpmで測定)を有し、一般式(III):
【化1】

で示される化合物、および一般式(IV):
【化2】

で示される化合物
[式中、
・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、
・Xは、サルフェート基またはホスフェート基であって、サルフェート基またはホスフェート基Xは中和型であり、
・(EO)は、エチレンオキシド基であり、
・pは、2〜100の範囲内の数であり、および
・qは、2〜100の範囲内の数である]
を含む水性組成物であって、ただし、水性組成物は、化合物(III)を組成物全体に基づいて少なくとも35重量%の量で含み、さらに、化合物(III)および(IV)を、組成物全体に基づいて、合計して35〜70重量%の量で含み、
これらの組成物は、以下の工程により製造される:
〔第1工程(i)〕において、
一般式(I):
【化3】

で示される化合物、および、一般式(II):
【化4】

で示される化合物
[式中、
・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、
・(EO)は、エチレンオキシド基であり、
・nは、0〜30の範囲内の数であり、および
・mは、0〜30の範囲内の数である]
の混合物を共にエトキシ化し、
ただし、化合物(I)および(II)の平均エトキシ化度が、それぞれの場合において、1分子あたりに少なくとも2個のEO単位となるように、化合物(I)を、(I)および(II)の混合物全体に基づいて、少なくとも60重量%の割合で化合物(I)および(II)の混合物中に存在させ、一般式(I*):
【化5】

で示される化合物、および一般式(II*):
【化6】

で示される化合物
[式中、
・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、
・(EO)は、エチレンオキシド基であり、
・rは、2〜100の範囲内の数であり、および
・sは、2〜100の範囲内の数である]
の混合物である中間体(Z)を得、
次いで、工程(i)で得た中間体(Z)を、
〔第2工程(ii)〕において、
サルフェート化またはホスフェート化およびそれに続く中和により、化合物(III)および(IV)を含む水性組成物へ変換する。
【0005】
工程(ii)で作られたサルフェート基またはホスフェート基の中和は、例えば、水性のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムによって行ってよい。水性アンモニアを、中和のために使用してもよい。
【0006】
化合物(I)および(II)を、当業者に既知のいずれの方法で製造してもよく、一般に、エトキシ化触媒の存在下で、対応するアルコールとエチレンオキシドとの反応により製造してよい。これは、一例として化合物(II)を用いて、次に示す図式で説明できる。
【化7】

【0007】
ここで、上記に関して、添え字mは(統計的)平均であることに注意すべきであり、したがって、CH=CH−CH−O−(AO)−Hについて、「m=1」の表示は、アリルアルコール1モルをエチレンオキシド1モルと反応させたことを意味し、「m=2」は、アリルアルコール1モルをエチレンオキシド2モルと反応させたことを意味し、「m=6」は、アリルアルコール1モルをエチレンオキシド6モルと反応させたことを意味する等である。したがって、添え字mは、使用するアリルアルコールとエチレンオキシドのモル反応比を表し、アリルアルコールエトキシレートは、使用する触媒に応じて、同族体分布が異なり得る。
【0008】
ここで、化合物(II)に関して記載する注釈は、全く同様に、化合物(I)にもあてはまる。
【0009】
本発明のさらなる対象は、前記組成物の、オレフィン系不飽和モノマーの乳化重合における乳化剤としての使用である。ここで、産業上重要で実質的に水不溶性の全てのモノマーを、原則として使用することができるが、(メタ)アクリル系化合物、スチレン系化合物およびビニル化合物が好ましい。
【0010】
これらのモノマーの代表例は、ビニル芳香族化合物、例えばスチレン、ジビニルベンゼンまたはビニルトルエン、重合性オレフィンおよびジオレフィン、例えばプロペン、ブタジエンまたはイソプレン、アクリルまたはメタクリル酸と1〜18個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルコールとのエステル、より具体的には1〜8個の炭素原子を有するアルコールのエステル、および、特に好ましくは、それらのメチルエステル、エチルエステル、およびブチルエステル、2〜12個の炭素原子を有する酸のビニルエステル、より具体的にはビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニル−2−エチルヘキサノエート、およびビニルラウレート、1〜8個の炭素原子を有するアルキル基を有するビニルアルキルエーテル、ビニルクロリド、ビニリデンクロリドなどである。
【0011】
アクリル酸またはメタクリル酸が付加した、または、付加していない、アルキルアクリレート、スチレンアクリレート、ベオバ(VeoVa)化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーが、本発明に関して、特に好ましい。
【0012】
本発明の組成物の存在下において、モノマーを、単独重合、または、上記の列挙から選ばれる上記の他の化合物と共重合させてよい。
【0013】
さらに、乳化重合の工程において、本発明の化合物(III)および(IV)を既知の非イオン性および/またはアニオン性の共乳化剤と組み合わせて使用することもできる。これは、例えばせん断力、温度効果、および電解質に関して、向上した安定性を有する分散体をもたらし得る。このような場合において、共乳化剤を、使用するモノマーの全体に基づいて、0.5重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜3重量%の量で添加する。この場合において、共乳化剤を乳化剤と共に、重合の初めに導入するか、または、重合工程の途中で計り入れることができる。さらに、予備乳化物を製造し、共乳化剤を単独または併せて用い、そして、重合工程中にこの予備乳化物を計り入れる方法が想定される。本発明のアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを用いて得られた分散体を後に安定化するために、この分散体に共乳化剤を添加することもできる。
【0014】
本発明の組成物の使用によって、乳化重合により得られるラテックスを、例えばコーティング産業において使用することもできる。
【実施例】
【0015】
〔使用化合物〕
Disponil LS 10:エチレンオキシド10モルとC12/12アルコール1モルの付加物(Cognis)
Breox AA E 450:エチレンキシド10モルとアリルアルコール1モルの付加物(Cognis)
【0016】
〔実施例1:乳化剤の製造〕
・工程(i)=エトキシ化
Disponil LS 10、649g(1.0236mol)およびBreox AA E 450、661g(1.46888mol)を、エチレンオキシド(EO)2190g(49.77mol)と予備混合した。この混合物を、オートクレーブ中120〜125℃の温度で、3時間、KOH(固体)(触媒)1.75gの存在下で保持した。得られたエトキシ化生成物(中間体Z)を、以下に記載する工程(ii)で使用した。
【0017】
・工程(ii)=サルフェート化
連続サルフェート化処理において、工程(i)で得たエトキシ化生成物(中間体Z)608.4g/h(0.4880mol/h) を、発煙硫酸163.6g/h(1.3293mol/h)を用いて、実験室スケールでエステル化した。上記のモル流量は、発煙硫酸1.15モルに対してアルコールエトキシレート1モルの反応比に相当する。十分なSOを流れさせるために、720リットル/hの窒素(N)気流を確立した。サルフェート化の間の反応器の温度は70℃であった;原料を60℃まで予備加熱した。得られた酸性エステルを、攪拌してアルカリ溶液に入れた。使用したアルカリ溶液は、NaOH(50%濃度)55gおよび水301.2gの混合物であった。該して、合計972.6gの量の酸性エステルをアルカリ溶液中に攪拌して入れた。計算によると、中和エステル(石鹸)の質量分率は75.3重量%であった(質量分率は、アルカリ溶液により中和されてR-SONaを与えた酸性エステルR-SOHの量を表す)。これは、全乾燥残分を意味し、計算値であり、分析的に求めた「乾燥残分4h/105℃」の値(表参照)とよく一致する。その計算は、以下であった:
NaOH:55g/酸性エステル:972.6g/HO:301.2g/合計(総質量)=1328.8g
石鹸の質量=972.6+(55×0.5)g=1000.1g
重量%での石鹸の質量分率=石鹸の質量/総質量=1000.1g×100/1328.8g)。
【0018】
続いて、ろ過を行った。得られたアニオン性界面活性剤についての主要なデータを以下の表に示す。
【表1】

【0019】
実施例1で製造したアニオン性界面活性剤を、以下に記載する使用例(実施例2および3)において用いた。
【0020】
〔使用例〕
以下の実施例は、実施例1の乳化剤の、乳化重合における使用を説明する。以下の異なるモノマー系を使用した:
・スチレン−アクリレート(S-Ac)
・酢酸ビニル−アクリル酸ブチル(Vac-BA)
・Veova9/10アクリレート(VeoVa-Ac)。
【0021】
〔実施例2〕
ペルオキソ二硫酸カリウム2.5gを水97.5gに溶解させた。この溶液を反応器溶液として使用した。スチレン235g、アクリル酸ブチル235g、および、メタクリル酸7.5gのモノマーを混合した後、実施例1により製造した乳化剤22.3g(アニオン性界面活性剤含量56%)、水277.7g、アクリルアミド7.5g、および、メチロールアクリルアミド15.0gの溶液中に撹拌して入れた。この溶液を予備乳化物と称した。さらに、亜硫酸水素ナトリウム2.5gと水97.5gの溶液を計り入れ、これを開始剤溶液と称した。
【0022】
方法:
撹拌機がガラス壁をこすらないように、反応器を組み立てた。反応器溶液をガラスビーカー中で調製し、反応器に移した。次いで、予備乳化物150mlを添加し、装置全体に窒素を15分間流した。実験の間中、窒素気流を維持した。恒温装置は、63℃の温度をもたらした。反応を開始するために、60℃で、開始剤溶液5mlを反応器中に滴下した。温度が63℃まで上昇した際に、連続的な計量添加を開始した。計量時間は150分であった。計量が終了した後、3℃上昇した温度で、さらに60分間、重合を続けた。反応が終了した後、内容物を30℃未満に冷却し、アンモニア(w=0.125)3.7gを用いて、pHを8.0〜9.0の範囲に調整した。ねじぶたを備えた1000mlガラス容器中に、風袋測定をしたフィルターバッグを通して、分散体をろ過した。蒸留水でフィルターを十分に洗浄し、50℃で24時間乾燥させた後に、遊離した凝塊の質量を測定した。得られたポリマー分散体は、固体含量49.5%であった。凝塊の割合は、0.31%であった。粒子径は194nmであり、粘度は690mPasであった。
【0023】
〔実施例3〕
ペルオキソ二硫酸カリウム1.17gを水150gに溶解させた。この溶液を反応器溶液として使用した。モノマーである酢酸ビニル370.9g、アクリル酸ブチル157.4g、および、アクリル酸5.3gを混合した後、実施例1により製造した乳化剤19g(アニオン性界面活性剤含量56%)、水296.1g、ホウ砂0.5gの溶液中に撹拌して入れた。この溶液を予備乳化物と称した。
【0024】
方法:
撹拌機がガラス壁をこすらないように、反応器を組み立てた。最初の反応器充填物を、ガラスビーカー中で調製し、反応器に移した。予備乳化物90mlを反応器中に導入した。その後、装置全体に窒素を15分間流した。実験の間中、窒素気流を維持した。恒温装置は、73℃の温度をもたらした。70℃で、連続的な計量供給を開始した。計量時間は200分であり、温度を70〜75℃の範囲に維持した。反応が終了した後、内容物を40℃未満に冷却し、アンモニア(w=0.125)12gを用いてpHを7.0〜8.0の範囲に調整した。得られたポリマー分散体は、固体含量53.8%であった。凝塊の割合は、1.65%であった。粒子径は241nmであり、粘度は250mPasであった。
【0025】
〔実施例4〕
ペルオキソ二硫酸カリウム0.47g、実施例1により製造した乳化剤8.43g(アニオン性界面活性剤含量56%)を、水253.69gに溶解させた。この溶液を反応器溶液として使用した。VeoVa10、142g、VeoVa9、71g、アクリル酸メチル151.5g、アクリル酸ブチル94.7g、および、アクリル酸14.2gのモノマーを混合した後、実施例1により製造した乳化剤8.43g(アニオン性界面活性剤含量56%)、水253.7g、ペルオキソ二硫酸カリウム1.8gの溶液中に撹拌して入れた。この溶液を予備乳化物と称した。
【0026】
方法:
最初の反応器充填物を、250mlガラスビーカー中で調製し、反応器に移した。予備乳化物20mlを反応器中に導入した。その後、装置全体に窒素を15分間流した。実験の間中、窒素気流を維持した。循環なしに、恒温装置を85℃の温度まで加熱した。最初の反応器充填物を導入し、予備乳化物を調製し(初めに水、次いでモノマー)、続いてポンプにより循環させて、5分後に、タップにより20mlを取出した。反応器を80℃に加熱し、タッピングにより取り出した20mlを、80℃の反応器温度で供した。5分後に、反応温度は、最大約84度まで上昇した。その後、連続的な計量供給を開始し、180分以上に及んだ。その後、続く重合を60分間行った。反応が終了した後、内容物を40℃未満に冷却し、アンモニア(w=0.125)10gで、pHを7.0〜9.0の範囲に調整した。得られたポリマー分散体は、固体含量48%であった。凝塊の割合は、0.5%であった。粒子径は168nmであり、粘度は1950mPasであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で3000mPas以下のブルックフィールド粘度(20℃、スピンドル2、20rpmで測定)を有し、一般式(III):
【化1】

で示される化合物、および一般式(IV):
【化2】

で示される化合物
[式中、
・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、
・Xは、サルフェート基またはホスフェート基であって、サルフェート基またはホスフェート基Xは中和型であり、
・(EO)は、エチレンオキシド基であり、
・pは、2〜100の範囲内の数であり、および
・qは、2〜100の範囲内の数である]
を含む水性組成物であって、ただし、該水性組成物は、該化合物(III)を組成物全体に基づいて少なくとも35重量%の量で含み、さらに、該水性組成物は、該化合物(III)および(IV)を、組成物全体に基づいて、合計して35〜70重量%の量で含み、
該組成物は、以下の工程により製造される水性組成物:
第1工程(i)において、
一般式(I):
【化3】

で示される化合物、および、一般式(II):
【化4】

で示される化合物
[式中、
・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、
・(EO)は、エチレンオキシド基であり、
・nは、0〜30の範囲内の数であり、および
・mは、0〜30の範囲内の数である]
の混合物を共にエトキシ化し、
ただし、化合物(I)および(II)の平均エトキシ化度が、それぞれの場合において、1分子あたりに少なくとも2個のEO単位となるように、化合物(I)を、(I)および(II)の混合物全体に基づいて、少なくとも60重量%の割合で化合物(I)および(II)の混合物中に存在させ、一般式(I*):
【化5】

で示される化合物、および一般式(II*):
【化6】

で示される化合物
[式中、
・Rは、飽和または不飽和、直鎖状または分枝状であってよい、8〜18個のC原子を有するアルキル基であり、
・(EO)は、エチレンオキシド基であり、
・rは、2〜100の範囲内の数であり、および
・sは、2〜100の範囲内の数である]
の混合物を表す中間体(Z)を得、
次いで、工程(i)で得た中間体(Z)を、
第2工程(ii)において、
サルフェート化またはホスフェート化およびそれに続く中和により、化合物(III)および(IV)を含む水性組成物へ変換する。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物の、オレフィン系不飽和モノマーの乳化重合における乳化剤としての使用。

【公開番号】特開2012−107239(P2012−107239A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−251388(P2011−251388)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】