説明

低級オレフィン製造用触媒

【課題】本発明は、低級オレフィンを効率よく製造することができると共に、高温水蒸気雰囲気下における耐久性の高いゼオライト系触媒、その製造方法及びこれを用いた低級オレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】アルカリ土類金属及びリンを担持した結晶性アルミノシリケートであり、アルカリ土類金属及びリンを、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩により担持してなることを特徴とする低級オレフィン製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級オレフィン製造用触媒、その製造方法及びこれを用いた低級オレフィンの製造方法に関する。更に詳しくは、低級オレフィンを効率よく製造することができると共に、高温水蒸気雰囲気下における耐久性の高いゼオライト系触媒、その製造方法及びこれを用いた低級オレフィンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン等の低級オレフィンは、各種化学品の基礎原料として重要な物質である。従来、これらの低級オレフィンの製造方法としては、エタン、プロパン、ブタン等のガス状炭化水素或いはナフサ等の液状炭化水素を原料とし、外熱式の管状炉内で水蒸気雰囲気下に加熱分解する方法が広く実施されている。しかしながら、この方法では、オレフィン収率を高めるためには800℃以上の高温が必要であり、そのような温度条件では、オレフィンだけではなく芳香族成分も多く生成することが知られている。この芳香族成分は、加熱分解する方法以外の製造方法により容易に製造できることから、低級オレフィン類を選択的に製造する技術が求めてられている。このため、触媒を用いたオレフィンの製造方法が種々検討されてきており、それらの中でも固体酸、特にゼオライト系触媒を用いた場合は、比較的低温(350〜700℃)で上記原料を分解できるため、この方法について数多くの例が報告されている。
【0003】
例えば特許文献1では、クラッキング活性の指標であるα値を特定の範囲に制御したZSM−5(結晶性アルミノシリケート)による低級オレフィンの製造方法が開示されており、又、特許文献2では酸量及びZSM−5の結晶サイズを特定の範囲に制御したZSM−5型触媒を用いたナフサの接触分解法が開示されている。しかしながら、これらの方法では芳香族成分(ベンゼン、トルエン、キシレン、以下「BTX」と記載する。)が20〜25質量%程度生成すると共に、エチレン及びプロピレン収率は35〜45%質量程度に留まり、オレフィンを効率的に得ることはできなかった。
【0004】
又、特許文献3では、カルシウム及びリンを担持したZSM−5による、メタノールを原料とした低級オレフィンの製造方法が開示されており、カルシウムとリンを導入することにより低級オレフィンの選択性及び触媒寿命が改善されることが示されている。しかしながら、分子内に酸素原子を含むために比較的温和な条件で接触分解を行うことのできるメタノールを含まない、他の炭化水素原料を用いた場合はより高い温度で接触分解が行われるため、芳香族及びコーク成分が多く生成し、低級オレフィンの選択性及び触媒寿命改善の効果は充分ではなかった。
【0005】
同様に、アルカリ土類金属とリンを担持した触媒を用いる低級オレフィンの製造方法として、特許文献4及び5等が知られている。特許文献4では、酸化マグネシウム、しゅう酸カルシウム等の非水溶性金属塩とリン酸化合物を含むZSM−5を触媒としたオレフィンの製造方法が開示されているが、原料転化率が80質量%以下、エチレン及びプロピレン収率が40質量%未満と低く、又、特許文献5では、マグネシウムとリンをZSM−5に担持した触媒を用いたオレフィンの製造方法が開示されているが原料転化率が70質量%未満と低く、又、触媒活性の劣化の抑制効果も不充分であった。
【0006】
更に特許文献6では、マグネシウムとリン又はカルシウムとリンを含有するゼオライトを含む低級オレフィン製造用触媒が開示されており、当該触媒が高温条件で水蒸気雰囲気下にさらされた場合においても優れた活性安定性を有することが示されている。しかしながら、その性能は未だ工業的に満足できるものではなかった。
【0007】
上記のように、アルカリ土類金属及びリンで担持されたZSM−5によるオレフィンの製造方法はいくつか開示されているが、その性能はいまだ工業的に満足できるものではなく、更なるオレフィン収率の向上、触媒活性の劣化抑制が望まれていた。
【特許文献1】特表平3−504737号公報
【特許文献2】特開平6−346062号公報
【特許文献3】特開昭61−15848号公報
【特許文献4】米国特許公開2007/0082809A1号公報
【特許文献5】中国特許公開1414068号公報
【特許文献6】特開平11−192431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低級オレフィンを効率よく製造することができると共に、高温水蒸気雰囲気下における耐久性の高いゼオライト系触媒、その製造方法及びこれを用いた低級オレフィンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アルカリ土類金属及びリンを担持した従来の触媒の調製法では、前記成分を担持する際に、不溶性の塩を含むスラリー状の混合液にゼオライトを含浸するなどしていたことに注目し、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩を用いて担持することにより、低級オレフィンを効率よく製造することができると共に、高温水蒸気雰囲気下における耐久性の高い触媒が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供するものである。
【0011】
〔1〕 アルカリ土類金属及びリンを担持した結晶性アルミノシリケートであり、アルカリ土類金属及びリンを、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩により担持してなることを特徴とする低級オレフィン製造用触媒。
【0012】
〔2〕 前記水溶性の塩の水に対する溶解度が、20℃で1g/100ml以上である〔1〕に記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0013】
〔3〕 前記水溶性の塩が、アルカリ土類金属のリン酸二水素塩又は次亜リン酸塩である〔1〕又は〔2〕に記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0014】
〔4〕 前記水溶性の塩が、ポリオールリン酸エステルのアルカリ土類金属塩である〔1〕又は〔2〕に記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0015】
〔5〕 含浸工程、乾燥工程及び焼成工程を含む工程により、アルカリ土類金属及びリンを結晶性アルミノシリケートに担持してなる〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0016】
〔6〕 結晶性アルミノシリケートがZSM−5である〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0017】
〔7〕 アルカリ土類金属の含有量が0.1〜20質量%である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0018】
〔8〕 リンの含有量が0.1〜20質量%である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0019】
〔9〕 更に、希土類元素を含む〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【0020】
〔10〕 結晶性アルミノシリケートに、アルカリ土類金属及びリンを担持して低級オレフィン製造用触媒を製造する際、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩を使用することを特徴とする低級オレフィン製造用触媒製造方法。
【0021】
〔11〕 前記水溶性の塩の水に対する溶解度が、20℃で1g/100ml以上である〔10〕に記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【0022】
〔12〕 前記水溶性の塩が、アルカリ土類金属のリン酸二水素塩又は次亜リン酸塩である〔10〕又は〔11〕に記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【0023】
〔13〕 前記水溶性の塩が、ポリオールリン酸エステルのアルカリ土類金属塩である〔10〕又は〔11〕に記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【0024】
〔14〕 含浸工程、乾燥工程及び焼成工程を含む工程により、アルカリ土類金属及びリンを結晶性アルミノシリケートに担持する〔10〕〜〔13〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【0025】
〔15〕 〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒を用いた低級オレフィンの製造方法。
【0026】
〔16〕 水蒸気の存在下に行う〔15〕に記載の低級オレフィンの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の低級オレフィン製造用触媒は、芳香族成分の生成を抑制し、低級オレフィンを効率よく製造することができ、更に、高温水蒸気雰囲気下における触媒劣化を抑制することができるので、接触分解反応における低級オレフィン製造用触媒として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の触媒は、結晶性アルミノシリケートを主成分とし、これにアルカリ土類金属及びリンを担持してなる。主成分の結晶性アルミノシリケートとしてはMFI構造を持つもの、中でもZSM−5が特に好ましい。この結晶性アルミノシリケートのSiO/Alモル比は、好ましくは20〜600、更に好ましくは22〜300、特に好ましくは25〜100である。
【0029】
結晶性アルミノシリケートに担持させるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を何れも好適に使用することができ、これらの中でも特にマグネシウム、カルシウムが好ましい。アルカリ土類金属はそれぞれを単独で使用しても、又、2種以上を混合してもよい。アルカリ土類金属の含有量は、本発明の触媒に対し元素換算で、好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは0.2〜15質量%、特に好ましくは0.5〜10質量%である。
【0030】
リンの含有量は、本発明の触媒に対し元素換算で、好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは1.0〜15質量%、特に好ましくは1.5〜10質量%である。
【0031】
本発明の触媒は、アルカリ土類金属とリンを結晶性アルミノシリケートに担持する際、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩を使用することにより得られる。この水溶性の塩としては、水に対する溶解度が20℃で1g/100ml以上であるものが好ましく、具体的な水溶性の塩としては、アルカリ土類金属のリン酸二水素塩、次亜リン酸塩等の無機塩や、グリセロリン酸塩等のポリオールリン酸エステルの塩等を挙げることができる。これらの水溶性の塩を用いてアルカリ土類金属及びリンを担持する方法としては、当該水溶性の塩を溶解させた水溶液にプロトン型の結晶性アルミノシリケートを含浸し、乾燥、焼成する方法を挙げることができる。
【0032】
例えばリン酸二水素塩、次亜リン酸塩等を用いた場合、リンとアルカリ土類金属の比は2:1(モル比)となるが、リンとアルカリ土類金属の比率を変更したい場合は、水溶性の塩を用いて担持を行う前又は後に、別工程でアルカリ土類金属及び/又はリンを担持してもよい。
【0033】
アルカリ土類金属を担持する方法としては、アルカリ土類金属の種々の塩、例えば酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩或いはアルコキシド、アセチルアセトナート等を溶解させた水、エタノール等の溶液に、上記結晶性アルミノシリケートを含浸し、乾燥、焼成する方法を挙げることができる。
【0034】
リンを担持する方法としては、例えばリン酸やリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン化合物を溶解させた水、エタノール等の溶液に、上記結晶性アルミノシリケートを含浸し、乾燥、焼成する方法を挙げることができる。
【0035】
触媒調製の際の含浸方法については、蒸発乾固法、インシピエントウェットネス法、pore filling法など通常の含浸法を用いることができる。含浸時間は通常0.5〜2時間程度であり、乾燥温度は通常80〜200℃であり、焼成温度は通常400〜800℃であり、焼成時間は通常1〜12時間程度である。
【0036】
又、本発明の触媒は、結晶性アルミノシリケート及びアルカリ土類金属、リンの他に、希土類元素、アルカリ金属、遷移金属、貴金属、ハロゲン等を担持していても良い。更に、本発明の触媒はシリカ、アルミナ、石英砂等で希釈して使用することも可能である。
【0037】
例えば希土類元素を担持する方法としては、希土類元素の種々の塩、例えば酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩或いはアルコキシド、アセチルアセトナート等を溶解させた水、エタノール等の溶液に、上記結晶性アルミノシリケートを含浸し、乾燥、焼成する方法を挙げることができる。
【0038】
このようにして得られた本発明の触媒は、接触分解反応による低級オレフィンの製造において、低級オレフィンを効率よく製造することができると共に、高温水蒸気雰囲気下における触媒劣化を抑制することが可能であり、種々の炭化水素を原料とする低級オレフィン製造用触媒として好適に用いることができる。アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩を使用することで、このような効果が得られる理由は定かではないが、1つには水溶性の塩を用いることで、各成分が触媒中に均一に担持されるためだと推測される。逆に従来用いられている方法では、水に不溶なアルカリ土類金属とリンを含む塩が形成されてスラリー状となり、触媒中に均一に担持されないのではないかと推測される。
【0039】
本発明の触媒を用いた接触分解反応による低級オレフィンの製造において、炭化水素原料としては、常温、常圧でガス状又は液状の炭化水素や、メタノールやエタノール、ジメチルエーテルといった含酸素化合物が使用できる。一般的には、炭素数2〜30、好ましくは炭素数4〜10のパラフィン類又はこれを主成分とする炭化水素原料が用いられ、このような炭化水素原料としては、例えば、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のパラフィン類、或いは、ナフサ、軽油等の軽質炭化水素留分を挙げることができる。又、炭化水素原料は飽和炭化水素に限定されるものではなく、不飽和結合を有する成分を含有するものでも使用でき、更に、芳香族成分が含まれていてもよい。
【0040】
上記接触分解反応は、固定床、流動床等の形式の反応器を使用し、上記本発明の触媒を充填した触媒層へ炭化水素原料を供給することにより行われる。このとき炭化水素原料は窒素、水素、ヘリウム、或いは水蒸気等で希釈されていてもよい。これらの希釈剤の中でも特に水蒸気は、コーク成分の生成を抑制し、触媒の活性を保つ効果があり好ましい。水蒸気の供給量は原料炭化水素に対して質量比で0.1〜1、好ましくは0.3〜0.7である。反応温度は通常350〜780℃、好ましくは500〜750℃、更に好ましくは600〜700℃の範囲である。780℃を越える温度でも実施はできるが、メタン及びコーク成分の生成が急増し、又、350℃未満では充分な活性が得られないため、1回通過あたりのオレフィン収量が少なくなる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明について実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
(1)触媒調製
粉末状のプロトン型ZSM−5アルミノシリケート(SiO/Alモル比=40)10gを、次亜リン酸カルシウム水溶液{1.36gの次亜リン酸カルシウム(特級)をイオン交換水100gに溶解したもの}に含浸し、40℃で1時間攪拌した。生成したスラリーを減圧下40〜60℃で攪拌しながら約1時間かけて水分を蒸発させ、白色の粉末を得た。得られた粉末を空気中、120℃、12時間乾燥した後、マッフル炉で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた白色固体を10〜14mesh(1.2〜1.7mm)に成形したものを触媒とした。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で2.6質量%、3.9質量%であった。
【0043】
(2)反応評価
得られた触媒2.2gを内径10mmのステンレス反応管(SUS316製)に触媒層の長さが40mmとなるように充填した。触媒層の上下には石英砂を充填した。このリアクターに窒素を流しながら触媒層の温度を650℃まで昇温し、原料としてn−ヘキサン(特級)を8g/hr、窒素を10ml/min、水蒸気を4g/hrの流量で供給し、n−ヘキサンの接触分解反応を行った。反応生成物の分析をガスクロマトグラフィーによって行い、生成物収率及び原料転化率を次式により算出した。
【0044】
生成物収率(C−mol%)=(各成分炭素基準mol数/供給原料炭素基準mol数)×100
原料転化率(質量%)=(1−未反応原料重量/供給原料重量)×100
【0045】
原料供給開始後6時間後の生成物収率及び原料転化率を表1(スチーミング処理前の欄)に示す。
【0046】
(3)耐水熱安定性評価
次に、触媒の耐水熱安定性を評価した。即ち、得られた触媒5gを石英管に充填し、水蒸気供給量10g/hr、窒素流量10ml/min、700℃で40時間スチーミング処理を行い、処理後の触媒について上記(2)と同じ条件で反応評価を行った。反応開始6時間後の結果を表1(スチーミング処理後の欄)に示す。
【0047】
比較例1
90℃の温浴上にて、酢酸カルシウム溶液{6.34gの酢酸カルシウム一水和物(特級)をイオン交換水300gに溶解したもの}とリン酸二水素アンモニウム溶液{4.14gのリン酸二水素アンモニウム(一級)をイオン交換水300gに溶解したもの}を混合し、スラリー状の混合溶液を得た。この混合溶液に、粉末状のプロトン型ZSM−5アルミノシリケート(SiO/Alモル比=40)10gを加え、40℃で1時間攪拌した。生成したスラリーを減圧濾過し、イオン交換水で洗浄後、空気中、120℃で12時間乾燥した後、マッフル炉で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた白色固体を10〜14mesh(1.2〜1.7mm)に成形したものを触媒とした。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で8.9質量%、4.6質量%であった。
【0048】
得られた触媒を用いて、実施例1と同様の方法で上記(2)反応評価及び(3)耐水熱安定性評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、スチーミング処理前の触媒活性を比べると、カルシウムとリンを含む水溶液の塩の水溶液を用いて担持した実施例1の触媒は、カルシウムとリンをスラリー状の混合溶液を用いて担持した比較例1の触媒と比べて、より高い低級オレフィン収率(C2+C3収率)とより低い芳香族成分収率(BTX収率)を示しており、低級オレフィンの選択性において優位であることがわかる。又、スチーミング処理後の触媒活性を比べると、実施例1の触媒は、比較例1に比べて、低級オレフィン収率(C2+C3収率)及び転化率が著しく高く維持されており、耐水熱安定性に優れることが判る。
【0051】
実施例2及び比較例2
実施例1及び比較例1において調製した触媒をそれぞれ用い、n−ヘキサンの供給量を2.6g/hr、水蒸気の供給量を1.3g/hrに変えた他は、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。触媒1gあたりのヘキサン処理量に対する原料転化率の変化を図1に、低級オレフィン収率(C2+C3収率)の変化を図2に示す。図1から明らかなように、比較例2では実施例に比べ初期転化率がやや高いものの、ヘキサン処理量が増加するに伴い転化率が低下しているのに対し、実施例2では転化率がほぼ一定に保たれており、転化率の低下が抑制されていることがわかる。又、図2から明らかなように、実施例2の触媒は、比較例2と比べて低級オレフィン収率(C2+C3収率)が高く維持されており、低級オレフィンを効率よく製造することができる。
【0052】
実施例3
次亜リン酸カルシウムの量を1.36gから0.68gに変えた他は実施例1と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で1.3質量%、2.0質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後4時間での原料転化率及び生成物選択率を表2に示す。
【0053】
実施例4
次亜リン酸カルシウムの量を1.36gから1.02gに変えた他は実施例1と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で2.0質量%、3.0質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後4時間での原料転化率及び生成物選択率を表2に示す。
【0054】
実施例5
含浸溶液をリン酸二水素カルシウム水溶液{1.01gのリン酸二水素カルシウム・一水和物(特級)をイオン交換水100gに溶解したもの}に変えた他は実施例1と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で1.2質量%、2.1質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後5時間後の結果を表2に示す。
【0055】
実施例6
含浸溶液を次亜リン酸マグネシウム水溶液{1.04gの次亜リン酸マグネシウム(特級)をイオン交換水100gに溶解したもの}に変えた他は実施例1と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のMg、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で0.9質量%、3.5質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後5時間後の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2から、アルカリ土類及びリンの担持量、前駆体の種類、アルカリ土類金属の種類を変えても、オレフィン収率及び転化率の高い触媒が得られることがわかる。
【0058】
実施例7
粉末状のプロトン型ZSM−5アルミノシリケート(SiO/Alモル比=40)10gを、酢酸カルシウム水溶液{0.71gの酢酸カルシウム一水和物(特級)をイオン交換水100gに溶解したもの}に含浸し、40℃で1時間攪拌した。生成したスラリーを減圧下40〜60℃で攪拌しながら約1時間かけて水分を蒸発させ、白色の粉末を得た。得られた粉末を空気中、120℃、12時間乾燥した後、マッフル炉で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた焼成物を次亜リン酸カルシウム水溶液{1.36gの次亜リン酸カルシウム(特級)をイオン交換水100gに溶解したもの}に含浸し、40℃で1時間攪拌した。生成したスラリーを減圧下40〜60℃で攪拌しながら約1時間かけて水分を蒸発させ、白色の粉末を得た。得られた粉末を空気中、120℃、12時間乾燥した後、マッフル炉で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた白色固体を10〜14mesh(1.2〜1.7mm)に成形したものを触媒とした。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で4.2質量%、4.3質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後5時間後の結果を表3に示す。
【0059】
実施例8
次亜リン酸カルシウム水溶液をリン酸二水素カルシウム水溶液{1.02gのリン酸二水素カルシウム・一水和物(特級)をイオン交換水100gに溶解したもの}に変えた他は実施例7と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で4.2質量%、4.3質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後6時間後の結果を表3に示す。
【0060】
実施例9
酢酸カルシウムと次亜リン酸カルシウムによる担持の順番を逆にした他は実施例7と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で4.2質量%、4.3質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後6時間後の結果を表3に示す。
【0061】
実施例10
酢酸カルシウムとリン酸二水素カルシウムによる担持の順番を逆にした他は実施例8と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で4.2質量%、4.3質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後5時間後の結果を表3に示す。
【0062】
実施例11
酢酸カルシウムの代わりに酢酸ランタン1.5水和物(純度99.9%)0.95gを用いた他は実施例9と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P、La濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で2.7質量%、4.2質量%、1.3質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後5時間後の結果を表3に示す。
【0063】
実施例12
酢酸ランタン1.5水和物(純度99.9%)の量を2.63gに変えた他は実施例11と同様に触媒を調製した。調製した触媒中のCa、P、La濃度をICP−MSにより測定したところ、それぞれ元素換算で2.7質量%、4.2質量%、3.6質量%であった。この触媒を用いて、実施例1と同様の方法で反応評価を行った。反応開始後6時間後の結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3に示されるように、水溶性の塩を用いてアルカリ土類金属とリンを担持する前又は後に、アルカリ土類金属化合物を別途担持することにより、アルカリ土類金属とリンの担持比率を調整することができる。このようにして得られた実施例7〜10の触媒も、表3に示されるように高い転化率及び低級オレフィン収率を有しており、接触分解用触媒として好適に用いることができる。
【0066】
又、実施例11及び12に示されるように、本発明の触媒には希土類元素を担持させることができる。希土類元素を担持した実施例11及び12の触媒も、表3に示されるように高い転化率及び低級オレフィン収率を有しており、接触分解用触媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例2及び比較例2における転化率の変化を示した図である。
【図2】実施例2及び比較例2におけるC2+C3オレフィン収率の変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属及びリンを担持した結晶性アルミノシリケートであり、アルカリ土類金属及びリンを、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩により担持してなることを特徴とする低級オレフィン製造用触媒。
【請求項2】
前記水溶性の塩の水に対する溶解度が、20℃で1g/100ml以上である請求項1に記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項3】
前記水溶性の塩が、アルカリ土類金属のリン酸二水素塩又は次亜リン酸塩である請求項1又は2に記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項4】
前記水溶性の塩が、ポリオールリン酸エステルのアルカリ土類金属塩である請求項1又は2に記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項5】
含浸工程、乾燥工程及び焼成工程を含む工程により、アルカリ土類金属及びリンを結晶性アルミノシリケートに担持してなる請求項1〜4のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項6】
結晶性アルミノシリケートがZSM−5である請求項1〜5のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項7】
アルカリ土類金属の含有量が0.1〜20質量%である請求項1〜6のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項8】
リンの含有量が0.1〜20質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項9】
更に、希土類元素を含む請求項1〜8のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒。
【請求項10】
結晶性アルミノシリケートに、アルカリ土類金属及びリンを担持して低級オレフィン製造用触媒を製造する際、アルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩を使用することを特徴とする低級オレフィン製造用触媒製造方法。
【請求項11】
前記水溶性の塩の水に対する溶解度が、20℃で1g/100ml以上である請求項10に記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記水溶性の塩が、アルカリ土類金属のリン酸二水素塩又は次亜リン酸塩である請求項10又は11に記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項13】
前記水溶性の塩が、ポリオールリン酸エステルのアルカリ土類金属塩である請求項10又は11に記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項14】
含浸工程、乾燥工程及び焼成工程を含む工程により、アルカリ土類金属及びリンを結晶性アルミノシリケートに担持する請求項10〜13のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の低級オレフィン製造用触媒を用いた低級オレフィンの製造方法。
【請求項16】
水蒸気の存在下に行う請求項15に記載の低級オレフィンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−104909(P2010−104909A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279314(P2008−279314)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】