説明

低級脂肪族カルボン酸製造用触媒の製造方法

【課題】活性および選択性が向上した、低級オレフィンと酸素とから酢酸などの低級脂肪族カルボン酸を製造するための触媒を提供する。
【解決手段】従来法とは逆にシリカ、アルミナ、シリカアルミナなどの金属酸化物担体にアルカリ性物質を先に接触させた後、これに周期表の第8、9および10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(a)群化合物という)、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルルおよびポロニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(b)群化合物という)および周期表の第11族元素および亜鉛から選ばれる元素の塩化物(以下、(c)群化合物という)の少なくとも1種を担体に担持して担持型触媒を得る。必要に応じてヘテロポリ酸を担持してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級オレフィンおよび酸素を原料として低級脂肪族カルボン酸を合成する際に使用する低級脂肪族カルボン酸製造用触媒の製造方法およびその触媒を用いた低級脂肪族カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的製造面および経済的に有利な点が多いことから、エチレンから酢酸を一段反応で製造する方法について、様々な提案がされている。例えば、パラジウム−コバルト、パラジウム−鉄などの金属イオン対の酸化還元触媒を用いた液相一段酸化法(フランス特許第1448361号明細書)、パラジウム−リン酸または硫黄含有変性剤からなる触媒を用いる方法(特開昭47−013221号公報、特開昭51−029425号公報)、3群系酸素化合物からなる触媒(特公昭46−006763号公報)を用いた気相一段酸化法などが開示されている。また、パラジウム化合物とヘテロポリ酸を含む触媒を用いる酢酸の製造方法として、リンバナドモリブデン酸パラジウム塩からなる触媒を併せ用いる気相一段酸化法などが提案されている(特開昭54−57488号公報)。
【0003】
最近では、エチレンと酸素から酢酸を得るための触媒として、金属パラジウムと周期表第14、15または16族元素が担体に担持された触媒が提案されている(特許文献1:特開平11−347412号公報)。これらの担持型触媒は、次の工程順で調製される。
第1工程:担体にパラジウムを含む化合物を担持させる工程
第2工程:アルカリ処理を行う工程
第3工程:パラジウムを含む化合物を還元処理して金属パラジウムとする工程
第4工程:周期表第14、15または16族元素を担持させる工程
【0004】
上記担持型触媒においては、エッグシェル型パラジウム触媒が有利とされている。エッグシェル型とは、担体中のパラジウムの担持位置が担体の表面近傍にある型を指す。反応基質は触媒担体の内部領域に拡散しにくいため、担体内部に担持された金属成分は反応基質と接触する確率が低く、反応への寄与度が小さい。エッグシェル型では触媒作用を有する金属成分が担体表面に多く存在しているため、同じ量の金属成分量であっても反応に対しては通常型より効率がよい。エッグシェル型パラジウム触媒を得るために、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ処理工程を含む製造方法が知られている(特許文献2:特開平7−89896号公報)。また、特開2000−308830号公報(特許文献3)には、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属塩で処理を行う工程を含むエッグシェル型パラジウム担持型触媒の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献1等に開示されている酢酸製造用触媒の製造プロセスは、パラジウム等の金属成分を担体表面へ偏在させる(エッグシェル化する)ためのアルカリ処理工程の後、さらに第3成分の担持工程を有している。同プロセスで得られた触媒には、触媒活性は高いが、触媒調製プロセスが長くかつ反応中に触媒劣化を伴うという問題がある。よって、本発明者は、高活性を保持しつつも劣化を抑制することのできる触媒の簡便な調製方法の開発を進めることとした。
【0006】
また、エチレンと酸素とを反応させて酢酸を得る製造方法では、副生物として二酸化炭素が発生する。例えば、特許文献2の記載によれば二酸化炭素選択率は5%程度である。二酸化炭素が発生するということは、結局、酢酸の収率が低下することを意味する。さらに、近年、地球温暖化防止、環境負荷の低減の観点から、二酸化炭素の生成抑制が大きな課題となっている。工業的な側面では、副生する二酸化炭素を処理するために、多額の設備投資やその設備の運転、維持費用が必要となる。従って、本発明者は、酢酸製造においては、副生する二酸化炭素のより一層の低減の検討を行うこととした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−89896号公報
【特許文献2】特開平9−67298号公報
【特許文献3】特開2000−308830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の如き背景技術の問題点を解決することを主たる課題とする。すなわち、本発明は、低級脂肪族カルボン酸の収率が向上し、かつ副生物である炭酸ガス(CO)の生成を従来法よりも抑制することのできる、エチレンなどの低級オレフィンと酸素とから酢酸などの低級脂肪族カルボン酸を製造するための担持型触媒およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、従来法とは逆に、シリカ、アルミナ、シリカアルミナなどの金属酸化物担体にアルカリ性物質を先に接触させた後、これに周期表の第8、9および10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(a)群化合物という)、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルルおよびポロニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(b)群化合物という)および周期表の第11族元素および亜鉛から選ばれる元素の塩化物(以下、(c)群化合物という)の少なくとも1種を担体に担持させることを特徴とする担持型触媒の製造方法(以下、触媒の調製方法ということがある)を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[12]の事項に関する。
なお、本発明において、「周期表」とはIUPAC無機化学命名法改訂版(1989)の周期表をいう。
【0011】
[1] 以下の第1、第2および第3工程をその順で含むことを特徴とする、低級オレフィンと酸素による低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒の製造方法。
第1工程
担体にアルカリ性物質を接触させて、含浸担体(A)を得る工程
第2工程
含浸担体(A)に、周期表の第8、9および10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(a)群化合物という)の少なくとも1種と、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルルおよびポロニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(b)群化合物という)と、周期表の第11族元素および亜鉛から選ばれる元素の塩化物(以下、(c)群化合物という)の少なくとも1種とを接触させて、含浸担体(B)を得る工程
第3工程
含浸担体(B)を還元性物質と接触させて、担持型触媒(C)を得る工程
【0012】
[2] ヘテロポリ酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、(d)群化合物という)を担体に担持させる第4工程をさらに含む、[1]に記載の担持型触媒の製造方法。
【0013】
[3] (c)群化合物が、少なくとも、金の塩化物および亜鉛の塩化物の2物質を含むものである、[1]または[2]に記載の担持型触媒の製造方法。
【0014】
[4] (a)群化合物がパラジウム、ニッケルおよび白金から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である、「1」〜「3」のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【0015】
[5] (b)群化合物がガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ビスマス、セレンおよびテルルから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である、「1」〜「4」のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【0016】
[6] (d)群化合物のヘテロポリ酸および/またはその塩のポリ原子がタングステンおよび/またはモリブデンである、「2」〜「5」のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【0017】
[7] (d)群化合物のヘテロポリ酸および/またはその塩のヘテロ原子がリン、ケイ素およびホウ素から選ばれる少なくとも1種の元素である、「2」〜「6」のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【0018】
[8] (d)群化合物のヘテロポリ酸および/またはその塩がケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である、「2」〜「7」のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【0019】
[9] 「1」〜「8」のいずれかに記載の方法で製造された低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒を使用することを特徴とする、低級オレフィンと酸素との反応による低級脂肪族カルボン酸の製造方法。
【0020】
[10] 低級オレフィンがエチレンである、「9」に記載の低級脂肪族カルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の担持型触媒の製造方法によって得られる担持型触媒を用いることにより、低級オレフィンと酸素との反応による低級脂肪族カルボン酸の製造において、低級脂肪族カルボン酸の生産性の向上および炭酸ガスの副生を抑制することが可能となった。これにより酢酸などの低級脂肪族カルボン酸の製造コストを削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の精神とその実施の範囲内において様々な変形が可能であることを理解されたい。
【0023】
本発明の製造方法で得られる担持型触媒は、低級オレフィン、すなわち炭素数が1〜6のオレフィン化合物(好ましくはエチレン)と酸素とを反応(好ましくは気相において)させて、対応する低級脂肪族カルボン酸(低級オレフィンがエチレンの場合は酢酸)の製造用触媒として好適に用いることができる。
【0024】
以下、本発明の好ましい担持型触媒の製造方法を具体的に説明する。
まず、下記の第1〜第3工程をその順で行う。触媒の性能向上のためにはさらに下記の第4工程を行うことが好ましい。
第1工程
担体にアルカリ性物質の溶液(以下、「アルカリ溶液」という)を接触させて、含浸担体(A)を得る工程
第2工程
含浸担体(A)に、(a)群化合物(例えば、Pdを含む化合物)、(b)群化合物(例えば、Teを含む化合物)、(c)群化合物(例えば、Auの塩化物とZnの塩化物)の溶液を含浸させて、含浸担体(B)を得る工程
第3工程
含浸担体(B)を還元性物質(例えば、ヒドラジン)と接触させて、(a)群および(c)群化合物を還元処理し、担持型触媒(C)を得る工程
第4工程
担持型触媒(C)に(d)群化合物(例えば、ケイタングステン酸および/またはその塩)を担持して、担持型触媒(D)を得る工程
【0025】
本発明では、第1工程の後に、乾燥などの処理をすることなく、続けて第2工程を行うことが重要である。そうして、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物を溶かした溶液Aを含浸担体(A)に接触含浸させる。アルカリ溶液と溶液Aの総量は、担体の吸水量の1.1質量倍以上10.0質量倍以下とすることが望ましい。
【0026】
第2工程では、(a)群化合物の溶液、(b)群化合物の溶液、(c)群化合物の各溶液を別々に担体に接触させ、含浸させてもよいが、それらを1つの溶液として同時に接触させ、含浸させる方が工程簡略化の観点から好ましい。なお、各溶液を別々に接触させる場合には、(a)群化合物の溶液を最先にする方が好ましい。また、本発明の触媒の性能を向上させる目的で他の付加的工程が含まれていてもよい。
【0027】
第3工程の還元処理は、(a)群化合物、(c)群化合物中の金属元素を金属とするためのものであるので、第2工程よりも後でなくてはならない。
【0028】
本発明の方法により得られる低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒には、さらに(d)群化合物(ヘテロポリ酸および/またはその塩)が担持されていることがより好ましい。したがって、本発明の効果を損なわない範囲において、前記各第1工程〜第3工程内または各工程の前後に前記(d)群化合物を担持する工程が含まれてもよいが、前述のように第3工程の後に(d)群化合物を担持する工程(第4工程)を設けることが好ましい。以下、各工程を詳細に説明する。
【0029】
第1工程 担体にアルカリ溶液を含浸させる工程
この工程では、担体の吸水量(定義は後述)の0.9質量倍を超え、1.3質量倍以下の量のアルカリ溶液を担体に含浸させる。操作は常温で行うことができる。アルカリ溶液が担体に均一に含浸されるようにする。含浸操作が完了したら、乾燥などの操作をせずに、次の工程に進む。
【0030】
<担体>
本発明の担持型触媒の製造に用いる担体に特に制限はないが、一般に触媒用担体として用いられている多孔質物質を用いるのが好ましい。具体的には、シリカ、シリカ−アルミナ、珪藻土、モンモリロナイトまたはチタニア等が挙げられる。より好ましくはシリカである。
また、担体の形状には特に制限はない。具体的には、粉末状、球状、ペレット状等が挙げられる。用いられる反応形式、反応器などに対応させ、最適な形状を選択すればよい。
【0031】
担体の粒子の大きさにも特に制限はない。低級脂肪族カルボン酸の製造を気相反応用固定床の管状型反応器で行う際は、担体が球状である場合、その粒子直径は1〜10mmであるのが好ましく、より好ましくは2〜8mmである。管状型反応器に担持型触媒を充填して反応を行う場合、粒子直径が1mmより小さいとガスを流通させるときに大きな圧力損失が生じ、有効にガス循環ができなくなるおそれがある。また、粒子直径が10mmより大きいと、触媒内部まで反応ガスが拡散できなくなり、有効に触媒反応が進まなくなるおそれがある。担体の細孔構造は、その細孔直径が1〜1000nmにあることが好ましく、3〜200nmの間がより好ましい。担体の、BET法で測定した比表面積は30〜700m/gのものが好ましく、50〜300m/gがより好ましい。また、担体の嵩密度は50〜1000g/lが好ましく、300〜500g/lがより好ましい。
【0032】
ここで、担体の吸水量および吸水率は、以下の測定方法で測定した数値をいう。
1.担体約5gを天秤で計量(Wg)し、100ccのビーカーに入れる。
2.担体を完全に覆うように純水(イオン交換水)約15mlをビーカーに加える。
3.30分間放置する。
4.金網上に担体と純水を空けて、純水をきる。
5.担体の表面に付着した水を、表面の光沢がなくなるまで紙タオル等で軽く押して、除去する。
6.担体+純水の重さを測定する(Wg)。
7.以下の式から担体の吸水率を算出する。
【0033】
吸水率(g/g−担体)=(W−W)/W
担体の吸水量(g)は、担体の吸水率(g/g−担体)×使用した担体の重量(g)により計算される。
【0034】
<アルカリ溶液>
本発明に用いるアルカリ溶液は、いかなるアルカリ性の溶液であってもよい。例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属の重炭酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のケイ酸塩といったアルカリ性化合物の溶液が挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウムおよびカリウムが用いられる。アルカリ土類金属としては、バリウムやストロンチウムが用いられる。好適には、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウムが用いられる。
【0035】
アルカリ性化合物は、後述の(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物の合計に対して過剰に使用する。その量は、各化合物の合計モル濃度に対して1〜10倍,より好ましくは1.2〜5倍である。
アルカリ溶液の溶媒としては、水、メタノール、エタノールなどが挙げられる。好ましくは水である。
【0036】
担体をアルカリ溶液へ含浸させる方法としては、特に制限はないが、例えば、(I)大量のアルカリ溶液に担体をしばらく浸漬した後、吸水量分のアルカリ溶液を含浸させた担体を取り出す方法や、(II)アルカリ性化合物を溶媒に溶解し、担体の吸水量相当になるようにメスアップしたものに担体を浸漬する方法などが挙げられる。廃液処理量削減の観点からは(II)の方法が望ましい。
【0037】
アルカリ溶液は、担体の吸水量の0.9質量倍を超え、1.3質量倍以下に相当する量で、担体に含有されているのが好ましい。アルカリ溶液の量が担体の吸水量の0.9質量倍以下であると含有状態に不均一性が生じる場合がある。1.3質量倍を超えると、担体がアルカリ溶液をすべて吸収することができなくなる。なお、担体の吸水量は、純水で測定した値であり、厳密にはアルカリ溶液(アルカリ水溶液)に対する値とは異なるが、便宜上そのまま使用する。
【0038】
第2工程 含浸担体(A)を溶液Aに含浸させ、含浸担体(B)を得る工程
この工程では、アルカリ溶液へ含浸させて得られた含浸担体(A)に、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物を溶解した溶液Aを接触含浸させる。
【0039】
<(a)群化合物>
(a)群化合物は、周期表の第8、9および10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である。周期表の第8、9および10族元素とは、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウムおよび白金であるが、パラジウム、白金およびニッケルが好ましく、パラジウムが特に好ましい。
(a)群化合物は、いかなる状態のものでもよい。第8、9、10族元素を含む化合物、例えば、該元素を含有する塩化物、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酸化物や元素そのままの状態(金属状態)であっても構わない。すなわち、前記元素が化合物中でイオン性であってもよく、0価のいわゆる金属状態であってもよい。
【0040】
(a)群化合物としては、金属パラジウムや金属白金、金属ニッケル、塩化パラジウムや塩化白金酸、塩化ニッケル等のハロゲン化物、酢酸パラジウム、酢酸白金等の有機酸塩、硝酸パラジウム、硝酸白金、硝酸ニッケル等の硝酸塩、酸化パラジウム、酸化ニッケル、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム等が挙げられ、さらにアセチルアセトナート、ニトリル、アンモニウム等の有機化合物を配位子に持つ錯体であってもよい。特に好ましくは、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金酸、テトラクロロパラジウム酸カリウム、硝酸パラジウム等である。また、これらの(a)群化合物はそれぞれ単独で用いられてもよく、複数種を併用することもできる。
【0041】
(a)群化合物の担体への担持は、(a)群化合物の少なくとも1種を含む均質溶液を作製し、その溶液を適切な量の担体に含浸させることにより行うことができる。より具体的には、水またはアセトンなどの適当な溶剤や塩酸、硝酸、酢酸などの無機酸または有機酸に、(a)群化合物を溶解させて均質溶液とする。
【0042】
<(b)群化合物>
(b)群化合物は、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルルおよびポロニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である。この「少なくとも1種の元素を含む化合物」としては、該元素そのもの(金属)、あるいは該元素を含有する塩化物、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酸化物等が挙げられ、さらにアセチルアセトナート、ニトリル等の有機物を配位子に持つ錯体等も挙げられる。
【0043】
(b)群化合物に含まれる元素としては、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ビスマス、セレンおよびテルルが好ましく、特にテルルまたはセレンが好ましい。
(b)群化合物の具体例としては、テルル酸(HTeO)、亜テルル酸(HTeO)、セレン酸(HSeO)、亜セレン酸(HSeO)が挙げられる。
【0044】
<(c)群化合物>
(c)群化合物は、周期表の第11族元素(すなわち金、銀、銅)および亜鉛から選ばれる元素の塩化物である。第11族元素としてとしては、好ましくは金である。(c)群化合物としては、第11族元素および亜鉛から選ばれる元素の塩化物(塩である物を含む)であれば特に制限はない。具体的にはZnCl、CuCl、AgCl、AuCl、HAuClおよび塩化金酸塩である。
【0045】
塩化金酸塩としては、LiAuCl、NaAuCl、KAuCl、RbAuCl、CsAuCl、Mg(AuCl、Ca(AuCl、Sr(AuCl、Ba(AuClが例示される。これらの中ではLiAuCl、NaAuCl、KAuClが好ましく、とりわけNaAuClが好ましい。
(c)群化合物として、金の塩化物(塩化金酸塩を含む)と亜鉛の塩化物の両方を併用することが触媒性能の面で好ましい。
【0046】
アルカリ溶液と溶液Aの総量は、(a)担体の吸水量の1.1質量倍以上10.0質量倍以下である。より好ましくは1.5〜8.0質量倍、最も好ましくは2.0〜6.0質量倍である。この総量が1.1質量倍未満では、触媒成分が担体に不均一に担持されることがあるため好ましくない。10.0質量倍を超えると、触媒性能には影響しないが、排水量が増加するなど触媒製造上の問題が発生することがあるため好ましくない。
【0047】
第2工程では、各化合物を個別に含浸担体(A)と接触させてもよい.すなわち、(a)群化合物の溶液A、(b)群化合物の溶液A、(c)群化合物の溶液Aを作製しておき、各溶液を個別に含浸担体(A)に接触させてもよい。この場合、アルカリ溶液と溶液Aの総量は、アルカリ溶液、溶液A、溶液Aおよび溶液Aの総量になる。また、溶液A、溶液A、溶液Aを1つの溶液(溶液A1+2+3とする)として含浸操作を行ってもよい。この場合は、溶液A1+2+3、アルカリ溶液の和がアルカリ溶液および溶液Aの総量に相当する。その他の溶液の組み合わせについても同様にしてアルカリ溶液および溶液Aとしての総量を計算する。
【0048】
溶液Aの量は、含浸担体(A)の吸水量の1.0〜10.0質量倍が好ましく、さらに好ましくは2.0〜8.0質量倍、もっとも好ましくは、2.0〜6.0質量倍である。
【0049】
第2工程では、含浸担体(A)と溶液Aを接触させることで、原料金属塩を水不溶性物質に変換し、PdやAuなどの金属成分が担体にエッグシェル型に担持された触媒前駆体を形成することができる。その条件には制限はないが、接触時間は0.5〜100時間、好適には3〜50時間が望ましい。0.5時間未満では、触媒成分が所望の量担持されにくく、触媒性能が十分ではないことがある。また、100時間より長時間接触させることで、含浸担体(A)が浸食を受ける可能性があり、好ましくない。
【0050】
接触温度は、特に制限はないが、10〜80℃、好適には20〜60℃が望ましい。10℃より低いと変換反応が不十分になる可能性がある。80℃を超えるとパラジウムや金など触媒成分の凝集が進むおそれがある。
【0051】
第3工程 含浸担体(B)に還元性物質を接触させて(a)群化合物、(c)群化合物に還元処理を施す工程。
この工程では、例えば、(a)群化合物である塩化パラジウム酸ナトリウムは金属パラジウムへ還元される。(c)群化合物も各元素の金属状態へ還元される。なお、並存する(b)群化合物も還元処理を受けることになる。これらの化合物は3価以下の低価数状態に還元される。
還元処理は、(a)群化合物および(b)群化合物が担体に担持されている状態のものに対して行うことが好ましい。この操作により、(a)群化合物がイオン状態である時点で、(b)群化合物との相互作用を図ることが可能となる。
また、還元処理は、含浸担体(B)に対し、先に(d)群化合物であるヘテロポリ酸および/またはその塩を担持した後に行っても構わない。すなわち、第4工程と第3工程を入れ替えてもよい。以下に一例を示す。
【0052】
まず、第1工程:担体をアルカリ性物質と接触させて含浸担体(A)を得る工程を行い、次いで第2工程:含浸担体(A)に(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物含む溶液を含浸させ、含浸担体(B)を得る工程を行い、第4工程:含浸担体(B)に(d)群化合物を含む溶液を含浸させ、担持型触媒(D)を得る工程、および第3工程:担持型触媒(D)に、還元処理を行う工程を順次に行う。
【0053】
還元性物質としては、ヒドラジンや、水素、エチレン、一酸化炭素などが挙げられる。これらの物質を液相または気相で含浸担体(B)または担持型触媒(C)と接触させることにより、(a)群化合物等を還元することができる。
【0054】
液相還元は、アルコールや炭化水素類を用いた非水系、水系のいずれで行なわれてもよい。還元剤としては、カルボン酸およびその塩、アルデヒド、過酸化水素、糖類、多価フェノール、ジボラン、アミン、ヒドラジンなどが用いられる。カルボン酸およびその塩としてはシュウ酸、シュウ酸カリウム、ギ酸、ギ酸カリウム、クエン酸アンモニウムが例示され、糖類としてはグルコースが挙げられる。好ましい還元剤としてはヒドラジン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ハイドロキノン、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸カリウムなどが挙げられ、最も好ましい還元剤はヒドラジンである。
液相法で還元処理を行う場合は、その温度に特に制限はないが、含浸担体(B)あるいは担持型触媒(C)の温度を0〜200℃前後とすることが好ましく、さらに好ましくは10〜100℃である。
【0055】
気相還元に用いる還元剤は、水素、一酸化炭素、アルコール、アルデヒド、エチレン、プロペン、イソブテンなどのオレフィンから選択される。好ましくは水素である。気相還元では希釈剤として、不活性ガスを加えてもよい。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素がある。
【0056】
気相法で還元処理を行う場合は、その温度に特に制限はないが、含浸担体(B)あるいは担持型触媒(C)を30〜350℃前後に加熱することが好ましく、さらに好ましくは100〜300℃である。ヘテロポリ酸が先に担持されている場合には、350℃以上で反応を行うとヘテロポリ酸が分解してしまうおそれがあるので好ましくない。
気相法還元処理の処理圧力は、設備の点から0.0〜3.0MPaG(ゲージ圧)であることが実用上有利であるが、特にこれに制限されるものではない。より好ましくは0.1〜1.5MPaG(ゲージ圧)の範囲である。
【0057】
ガス状還元性物質を流通させる場合、いかなる還元性物質濃度で行ってもよく、必要に応じて窒素、二酸化炭素または希ガスなどを希釈剤として使用することができる。また、気化させた水の存在下に、エチレン、水素等を存在させて、還元を行ってもよい。
還元処理前の触媒を反応系リアクターに充填し、エチレンで還元した後、さらに酸素を導入し、エチレンと酸素から酢酸を製造してもよい。
ガス状還元性物質を含む混合ガスは、標準状態において、空間速度(以下、SVと記す)10〜15000h−1、特に100〜9000h−1で触媒と接触させるのが好ましい。
処理形式としては、特に制限はないが、好ましくは耐蝕性を有する反応管に前述の触媒を充填した固定床を採用することが実用上有利である。
【0058】
還元処理された担体には必要に応じて純水等で洗浄を行う。洗浄は連続であるいはバッチで行なわれてもよい。洗浄温度は、好ましくは5〜200℃の範囲、より好ましくは15〜80℃の範囲である。洗浄時間には特に制限はない。残存する好ましくない不純物の除去という目的に対して十分な条件を選択すればよい。好ましくない不純物としてはナトリウムや塩素が挙げられる。洗浄後は溶媒を乾燥、除去する。
【0059】
第4工程 (d)群化合物を担体へ担持する工程
<(d)群化合物:ヘテロポリ酸および/またはそれらの塩>
(d)群化合物はヘテロポリ酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である。本発明で用いられるヘテロポリ酸は、ポリ原子としてタングステンまたはモリブデンを含むヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロ原子としては、リン、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、ゲルマニウム、チタニウム、ジルコニウム、セリウム、コバルト、クロム等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。好ましくは、リン、ケイ素およびホウ素である。
【0060】
ヘテロポリ酸の具体例としては、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸およびホウタングステン酸が挙げられる。好ましくは、下記式で示されるケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸である。ポリ酸の構造は、特に限定されるものではないが、ケギン型構造を持つヘテロポリ酸が好ましい。
【0061】
ケイタングステン酸:HSiW1240・nH
リンタングステン酸:HPW1240・nH
ケイモリブデン酸:HSiMo1240・nH
リンモリブデン酸:HPMo1240・nH
(式中、nは0または1〜40の整数を表す)
【0062】
本発明に用いられるヘテロポリ酸の塩は、2種以上の無機酸素酸が縮合して生成した酸の水素原子の一部または全部が置換された金属塩あるいはオニウム塩である。ヘテロポリ酸の水素原子を置換した金属は、周期表における第1、2、11および13族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であるのが好ましく、またヘテロポリ酸のオニウム塩としてはアンモニウム塩などが例示される。これらのヘテロポリ酸の塩のうちでも、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、銅、金、銀およびガリウムの金属塩が特に好ましい。
【0063】
触媒性能上好ましいヘテロポリ酸の塩としては、リンタングステン酸のリチウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩、リンタングステン酸の銅塩、ケイタングステン酸のリチウム塩、ケイタングステン酸のナトリウム塩およびケイタングステン酸の銅塩を挙げることができる。
【0064】
(d)群化合物は1種であっても、複数種を組み合わせて使用してもよい。ヘテロポリ酸および/またはその塩を担体に担持する方法としては、含浸法、スプレー法等の手段が挙げられる。含浸の際に用いる溶媒としては、(c)ヘテロポリ酸およびそれらの塩を溶解させるものが好ましく、水、有機溶剤もしくはそれらの混合物を用いることができる。より好ましくは、水、アルコールまたはエーテルが用いられる。
【0065】
第3工程または第4工程が完了した後の担体は、乾燥などの操作により溶媒を除き、本発明の低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒となる。
【0066】
(d)群化合物の担体への担持工程(第4工程)は第3工程(還元処理)の後が好ましいが、先に述べたように第3工程の前であってもよい。あるいは、第2工程に含めることも可能である。すなわち、第2工程において、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物と(d)群化合物を同時に担持してもよい。さらには、第2工程の前または直後に、これらの化合物とは別に担持してもよい。
【0067】
第2工程で、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物と(d)群化合物を同時に担持する方法としては、全ての化合物を均質溶液として、同時に担体に担持する方法が挙げられる。より具体的には、水またはアセトンなどの適当な溶剤や塩酸、硝酸、酢酸などの無機酸または有機酸に、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物と(d)群化合物を溶解させて均質溶液としたのち、これを担体に含浸させ、次いで乾燥する方法が挙げられる。また、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物と(d)群化合物から調製されたヘテロポリ酸金属塩を得た後に、適当な溶媒に溶解させて担持させてもよい。ヘテロポリ酸金属塩に用いる好ましいヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸およびケイモリブデン酸が挙げられ、好ましい金属としてはパラジウムが挙げられる。
【0068】
第2工程の直前または直後に(d)群化合物を(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物とは別に担持する方法としては、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物の水溶液および(d)群化合物の水溶液をそれぞれ調製し、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物の水溶液あるいは(d)群化合物の水溶液を含浸担体(A)に含浸させて、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物あるいは(d)群化合物を担持した後,さらにそれを(d)群化合物の水溶液あるいは(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物の水溶液を含浸させて(d)群化合物あるいは(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物を担持する方法が挙げられる。(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物あるいは(d)群化合物を担持する順序は、どちらが先でもよい。より具体的には、水またはアセトンなどの適当な溶剤や塩酸、硝酸、酢酸などの無機酸または有機酸に、(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物あるいは(d)群化合物を溶解させて、それぞれの均一溶液としたのち、担体に(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物の均質溶液あるいは(d)群化合物の均質溶液を含浸させ、次いで乾燥後、(d)群化合物の均質溶液あるいは(a)群化合物、(b)群化合物、(c)群化合物の均質溶液を含浸させ、乾燥する方法が挙げられる。
【0069】
<低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒>
本発明の担持型触媒の製造方法により得られる低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒において、(a)群化合物、(b)群化合物、(d)群化合物、(c)群化合物が担体に保持されている触媒中の(a)、(b)、(c)、(d)の組成は、特に制限はない。好ましくは、担持型触媒全体中における質量%として、(a):(b):(c):(d)=0.5〜10質量%:0.03〜3.0質量%:0.5〜10質量%:5〜60質量%であり、特に好ましくは(a):(b):(c):(d)=0.5〜3質量%:0.05〜1.0質量%:0.5〜5質量%:10〜50質量%である。なお、ここで、各群化合物が複数の化合物からなる場合はそれらの合計量を各成分の組成比とする。また、(a)、(b)、(c)、(d)以外には、担体その他の成分がある。
【0070】
(a)、(b)、(c)、(d)の少なくとも1種の化合物を溶液として担持した後の触媒の乾燥は、いかなる方法で行ってもよい。例えば、低温で真空処理を行う方法や、熱風乾燥機中で熱処理により、溶媒を取り除く方法等が挙げられる。
【0071】
本発明で製造される低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒に含まれる金属元素およびヘテロポリ酸の担持量、組成比は、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(以下、ICPと記す)、蛍光X線分析(以下、XRFと記す)、原子吸光分析法等の化学分析によりかなり正確に知ることができる。
【0072】
測定法の例としては、一定量の触媒を、乳鉢等で粉砕して均一な粉末とした後、その触媒粉末をフッ酸、王水等の酸に加えて加熱攪拌し、溶解させて均一な溶液とする。次に、その溶液を純水によって適当な濃度まで希釈し、分析用の溶液とする。その溶液をICPによって、定量分析する方法が挙げられる。
【0073】
次に、本発明で得られる触媒を用いた低級脂肪族カルボン酸の製造工程について説明するが、ここでは、簡単のため、本発明の担持型触媒を用い、固定床流通反応装置においてエチレンと酸素の気相反応により酢酸を得る場合を例として説明する。
【0074】
本発明の酢酸の製造方法においては、エチレンと酸素とを反応させて、酢酸を製造する際の反応温度に特に制限はない。好ましくは100〜300℃であり、さらに好ましくは120〜250℃である。また、反応圧力は、設備の点から0.0〜3.0MPaG(ゲージ圧)であることが実用上有利であるが、特に制限はない。より好ましくは0.1〜1.5MPaG(ゲージ圧)の範囲である。
【0075】
反応系に供給するガスは、エチレンと酸素を含み、さらに必要に応じて窒素、二酸化炭素または希ガスなどを希釈剤として使用することができる。
かかる供給ガス全量に対して、例えば、エチレンは5〜80容量%、好ましくは8〜50容量%の割合となる量で、また酸素は1〜15容量%、好ましくは3〜12容量%の割合となる量で反応系に供給される。
【0076】
また、この反応系においては、水を反応系内に存在させると、酢酸生成活性と選択率の向上および触媒の活性維持に著しく効果がある。水蒸気は反応ガス中に1〜50容量%の範囲で含まれるのが好適であるが、より好ましくは5〜40容量%である。
【0077】
この反応系において、原料エチレンとして高純度のものを用いることが好ましいが、メタン、エタン、プロパン等の低級飽和炭化水素が多少混入していても差し支えない。また、酸素は窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈されたもの、例えば、空気の形でも供給できるが、反応ガスを循環させる場合には、一般には高濃度、好適には99%以上の酸素を用いるのが有利である。
反応混合ガスは、標準状態において、SV=10〜15000h−1、特に300〜9000h−1で触媒に通されるのが好ましい。
【0078】
反応形式としては、特に制限はなく、公知の方法、例えば、固定床、流動床などの形式を採り得る。好ましくは、耐蝕性を有する反応管に前述の触媒を充填した固定床を採用することが、実用上有利である。
【実施例】
【0079】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
<担体の前処理>
実施例で用いた全ての担体は、前処理として、110℃、空気下で、4時間乾燥を行ったものである。
【0080】
<水>
実施例で用いた水は、純水(イオン交換水)である。
<担体>
実施例で用いた担体は、全てシリカ担体[BET比表面積:148m/g、嵩密度:405g/l、サイズ:5mmφ、吸水率:0.82g/g−担体、海源社製]である。
【0081】
<原料化合物>
塩化パラジウム酸ナトリウム[NaPdCl]の塩酸水溶液(エヌイーケムキャット株式会社製)
ケイタングステン酸26水和物[HSiW1240・26HO](日本無機化学工業株式会社製)
リンモリブデン酸30水和物[H3PMo1240・30HO](日本無機化学工業株式会社製)
塩化亜鉛[ZnCl](和光純薬製)
塩化金酸ナトリウム[NaAuCl・4HO]の塩酸水溶液(エヌイーケムキャット株式会社製)
メタケイ酸ナトリウム9水和物[NaSiO・9HO](和光純薬製)
テルル酸[HTeO](Strem Chem.Inc.製)
ヒドラジン1水和物[N・HO](和光純薬製)
【0082】
実施例1
メタケイ酸ナトリウム9水和物:3.34gを溶解して得た水溶液19.2mlをシリカ担体(50cc)に全量吸収させて、含浸担体(A−1)を得た。次に、Pd濃度を20.1質量%に調整した塩化パラジウム酸ナトリウム水溶液:1.99g、Zn濃度を4.8質量%に調整した塩化亜鉛水溶液:0.89g、Au濃度を純水で22.1質量%に調整した塩化金酸ナトリウム水溶液:1.81g、テルル酸:0.054gを混合し、純水でメスアップし、水溶液40mlを調製した(溶液A−1)。この溶液A−1を含浸担体(A−1)と接触させ、室温で20時間静置した。その後、さらにヒドラジン1水和物:6.5gを添加し、緩やかに攪拌した後、室温で4時間静置した。担体を濾取後、ストップコック付きのガラスカラムに移し、40時間純水を流通させて洗浄した。次いで、空気気流下、110℃で4時間乾燥し、含浸担体(B−1)を得た。
【0083】
さらに、ケイタングステン酸26水和物:10.5gおよびリンモリブデン酸30水和物:65mgを均一水溶液とし、20mlにメスアップした(B−1溶液)。このB−1溶液を、先に調製した含浸担体(B−1)に含浸させ、全量吸収させた。次いで、空気気流下に、110℃で4時間乾燥することで、酢酸製造用触媒1を得た。
【0084】
比較例1
Pd濃度を20.1質量%に調整した塩化パラジウム酸ナトリウム水溶液:1.99g、Zn濃度を4.8質量%に調整した塩化亜鉛水溶液:0.89g、Au濃度を純水で22.1質量%に調整した塩化金酸ナトリウム水溶液:1.81g、テルル酸:0.054gを混合し、純水でメスアップして19.2mlの水溶液とし、シリカ担体(50cc)に全量吸収させて、含浸担体(a−1)を得た.その後、メタケイ酸ナトリウム9水和物:3.34gを純水40ccに溶解して水溶液を調製し、その溶液を含浸担体(a−1)に含浸させ、室温で20時間静置した。さらにヒドラジン1水和物:6.5gを添加し、緩やかに攪拌した後、室温で4時間静置した。担体を濾取後、ストップコック付きのガラスカラムに移し、40時間純水を流通させて洗浄した。次いで、空気気流下、110℃で4時間乾燥し、含浸担体(b−1)を得た。
【0085】
さらに、ケイタングステン酸26水和物:10.5gおよびリンモリブデン酸30水和物:65mgを均一水溶液とし、20mlにメスアップした(d−1溶液)。このd−1溶液を、先に調製した含浸担体(b−1)に含浸させ、全量吸収させた。次いで、空気気流下に、110℃で4時間乾燥することで、酢酸製造用触媒2を得た。
【0086】
実施例2
メタケイ酸ナトリウム9水和物:3.58gを溶解して得た水溶液19.2mlをシリカ担体(50cc)に全量吸収させて、含浸担体(A−2)を得た。次に、Pd濃度を19.7質量%に調整した塩化パラジウム酸ナトリウム水溶液:2.03g、Zn濃度を4.2質量%に調整した塩化亜鉛水溶液:1.49g、Au濃度を純水で22.1質量%に調整した塩化金酸ナトリウム水溶液:1.81g、テルル酸:0.054gを混合し、純水でメスアップし、水溶液40mlを調製した(溶液A−2)。この溶液A−2を含浸担体(A−2)と接触させ、室温で20時間静置した。その後、さらにヒドラジン1水和物:6.5gを添加し、緩やかに攪拌した後、室温で4時間静置した。担体を濾取後、ストップコック付きのガラスカラムに移し、40時間純水を流通させて洗浄した。次いで、空気気流下、110℃で4時間乾燥し、含浸担体(B−2)を得た。
【0087】
さらに、ケイタングステン酸26水和物:10.5gおよびリンモリブデン酸30水和物:65mgを均一水溶液とし、20mlにメスアップした(B−2溶液)。このB−2溶液を、先に調製した含浸担体(B−2)に含浸させ、全量吸収させた。次いで、空気気流下に、110℃で4時間乾燥することで、酢酸製造用触媒3を得た。
【0088】
比較例2
Pd濃度を19.7質量%に調整した塩化パラジウム酸ナトリウム水溶液:2.03g、Zn濃度を4.2質量%に調整した塩化亜鉛水溶液:1.49g、Au濃度を純水で22.1質量%に調整した塩化金酸ナトリウム水溶液:1.81g、テルル酸:0.054gを混合し、純水でメスアップして19.2mlの水溶液とし、シリカ担体(50cc)に全量吸収させて、含浸担体(a−2)を得た.その後、メタケイ酸ナトリウム9水和物:3.34gを純水40ccに溶解して水溶液を調製し、その溶液を含浸担体(a−2)に含浸させ、室温で20時間静置した。さらにヒドラジン1水和物:6.5gを添加し、緩やかに攪拌した後、室温で4時間静置した。担体を濾取後、ストップコック付きのガラスカラムに移し、40時間純水を流通させて洗浄した。次いで、空気気流下、110℃で4時間乾燥し、含浸担体(b−2)を得た。
【0089】
さらに、ケイタングステン酸26水和物:10.5gおよびリンモリブデン酸30水和物:65mgを均一水溶液とし、20mlにメスアップした(d−2溶液)。このd−2溶液を、先に調製した含浸担体(b−2)に含浸させ、全量吸収させた。次いで、空気気流下に、110℃で4時間乾燥することで、酢酸製造用触媒4を得た。
【0090】
実施例3および比較例3
実施例1で得た酢酸製造用触媒1、比較例1で得た酢酸製造用触媒2のそれぞれ5mlを、11mlのシリカ担体で均一に希釈した後、SUS316L製反応管(内径25mm)に充填し、触媒層の反応ピーク温度200℃、反応圧力0.8MPaG(ゲージ圧)で、エチレン:酸素:水:窒素の容量比=10:6:25:59の割合で混合したガスを、空間速度9000h−1にて導入して、エチレンと酸素から酢酸を得る反応を行った。反応開始から4時間後に反応管出口ガスをサンプリングし、成分分析を実施した。
【0091】
分析方法として、触媒充填層を通過した出口ガスの全量を冷却し、凝縮した反応捕集液の全量を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析する方法を用いた。凝縮せずに残った未凝縮ガスについては、サンプリング時間内に流出した未凝縮ガスの全量を測定し、その一部を取り出し、ガスクロマトグラフィーで組成を分析した。生成したガスを冷却し、冷却後の凝縮液およびガス成分をそれぞれガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14B、FID検出器:キャピラリーカラムTC−WAX(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm))にて分析した。
【0092】
触媒の活性度を、触媒体積(リットル)当たりで製造された時間当たりの酢酸の質量(空間時間収率:STY、単位:g/hLcat)として計算した。二酸化炭素選択率は、以下の算出式によって求めた。
二酸化炭素選択率(炭素基準)=二酸化炭素生成量/生成物生成量×100 (%)
【0093】
実施例4および比較例4
実施例2で得た酢酸製造用触媒3、比較例2で得た酢酸製造用触媒4のそれぞれを用い、実施例3および比較例3と同様にして、エチレンと酸素から酢酸を得る反応を行った。ただし、空間速度を12000h−1に変更した。また、反応管出口ガスのサンプリングを反応開始から4時間後と432時間後に行い、反応開始の4時間後から432時間経過時点での酢酸STYの低下量を以下の式で求めた。
酢酸STY低下量(kgh−1−3)=STY432時間経過時−STY反応開始4時間後
【0094】
反応初期における酢酸STYと二酸化炭素選択率を表1に示す。表1から実施例1、2で得られた触媒1、3は、それぞれ、比較例1、2で得られた触媒2、4よりも酢酸STYの向上並びに二酸化炭素選択率の抑制に優れた触媒であるといえる。
【0095】
反応開始後432時間経過時点での酢酸STY低下量を表2に示す。表2から実施例2で得られた触媒3は、比較例2で得られた触媒4に比べて、長時間の反応後にも酢酸STY低下量が少なく、劣化が抑制された触媒であるといえる。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、得られる担持型触媒を用いることにより、低級オレフィンと酸素との反応による低級脂肪族カルボン酸の製造において、低級脂肪族カルボン酸の生成量の向上および炭酸ガスの副生を抑制することが可能となるので、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の第1、第2および第3工程をその順で含むことを特徴とする、低級オレフィンと酸素による低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒の製造方法。
第1工程
担体にアルカリ性物質を接触させて、含浸担体(A)を得る工程
第2工程
含浸担体(A)に、周期表の第8、9および10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(a)群化合物という)の少なくとも1種と、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルルおよびポロニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物(以下、(b)群化合物という)と、周期表の第11族元素および亜鉛から選ばれる元素の塩化物(以下、(c)群化合物という)の少なくとも1種とを接触させて、含浸担体(B)を得る工程
第3工程
含浸担体(B)を還元性物質と接触させて、担持型触媒(C)を得る工程
【請求項2】
ヘテロポリ酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、(d)群化合物という)を担体に担持させる第4工程をさらに含む、請求項1に記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項3】
(c)群化合物が、少なくとも、金の塩化物および亜鉛の塩化物の2物質を含むものである、請求項1または2に記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項4】
(a)群化合物がパラジウム、ニッケルおよび白金から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項5】
(b)群化合物がガリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ビスマス、セレンおよびテルルから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項6】
(d)群化合物のヘテロポリ酸および/またはその塩のポリ原子がタングステンおよび/またはモリブデンである、請求項2〜5のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項7】
(d)群化合物のヘテロポリ酸および/またはその塩のヘテロ原子がリン、ケイ素およびホウ素から選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項2〜6のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項8】
(d)群化合物のヘテロポリ酸および/またはその塩がケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項2〜7のいずれかに記載の担持型触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で製造された低級脂肪族カルボン酸製造用担持型触媒を使用することを特徴とする、低級オレフィンと酸素との反応による低級脂肪族カルボン酸の製造方法。
【請求項10】
低級オレフィンがエチレンである、請求項9に記載の低級脂肪族カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−220099(P2009−220099A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−779(P2009−779)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】