説明

低結合性固相表面の作製方法

【課題】タンパク質含む生体試料を用いる実験に使用する器具類を構成する素材表面に対する、有機物の非特異的吸着防止方法を提供すること。
【解決手段】この方法は、固相表面を酸化処理して、含酸素官能基を導入する工程と、処理表面を化学的に活性化し、表面を反応性にした後、該表面と反応し得るポリアルキレングリコール誘導体、またはポリペプチドにより処理する工程を含む方法により、表面を低結合性にするという表面処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性固相表面への有機物質(例えばペプチド、タンパク質、核酸、及び細胞)の結合を低減した低結合性固相表面の方法に関する。本発明はまた、前記処理表面を有する製品(例えば実験器具)に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料の保存、希釈、運搬、分析、構造解析、機能解析、相互作用解析などあらゆる用途において、プラスチックをはじめとする疎水性固相が汎用されている。
【0003】
生体試料を取り扱う場合、これらの素材に対して、共存する有機物、特にタンパク質が強い吸着作用を有するため、試薬、検査液の保存、運搬、希釈、分析等の操作中に、検体中のタンパク質が固相表面に吸着して、容器への付着に起因する測定誤差、感度の低下、臨床検査における擬陽性、保存用容器へのタンパク質の付着による内容物の減少および微量サンプルの消失、および流路系における流路壁面への付着による加圧ならびに詰まり等の、様々な問題が生じている。
【0004】
このような背景から、タンパク質及びその他の有機化合物の疎水性表面への結合を低減するための方法を提供することが求められている。
【0005】
従来技術では、固相表面に、物質の吸着を低減させる物質(ブロッキング剤)の薄層皮膜を表面に形成させ、タンパク質の吸着を低減させてきた。例えば、特異的相互作用、酵素反応等に関与しないタンパク質(ウシ血清アルブミン等)を予め表面に物理吸着、または化学結合させることにより、非特異的なタンパク質の吸着を低減させてきた。しかしながら、タンパク性ブロッキング剤による表面処理では、抗体の交差反応、抗体のマスキング、および共存タンパク質のブロッキング剤に対する非特異的吸着が無視できないため、好ましい形態とは言えない。そこで、生理機能を有しない化学合成品で固相表面を処理する方法が求められてきた。
【0006】
上記非タンパク性の表面処理剤について、いくつかの方法が提案されている。プラスチックで形成された疎水表面を例に取れば、通常、最もよく用いられる方法として、疎水的相互作用に基づく、固相への物理吸着を利用した、例えば、疎水性の高い非イオン性界面活性剤を吸着させる方法(特許文献1)、あるいは、合成の疎水性ポリマーを使用する方法(特許文献2)が挙げられる。
【0007】
しかしながら、従来法によるブロッキング操作を施しても、洗浄中、あるいは実験操作中に脱離するなどの理由により、完全に固相表面への非特異的な有機物の吸着を防ぐことは難しく、その効果は必ずしも十分とは言えなかった。
【0008】
また、ポリスチレン等のプラスチックは、表面が化学反応に対して不活性であり、有機物質の吸着を低減すべき処理を行うためには、表面を何らかの方法で活性化し、結合を強固にして、洗浄等への抵抗性を付与する必要がある。
【0009】
また、生体分子の非特異的結合および細胞の付着に対する抵抗性がつくようにポリマー表面を処理するための方法を提供するために、固相表面に電荷を付与し、物質の吸着を低減する物質で処理し、表面を低吸着性にする試みが行われている(特許文献3)。
【0010】
しかしながら、合計4ステップの工程を用いて複数の物質で表面皮膜を形成しているため、あまり効率的な方法とは言えない。
【0011】
特許文献4は、被分析物を検出するための物質または被分析物が固定された基材表面であって、基材表面に該物質または被分析物と同時にか、または該表面に該物質または被分析物が固定された後に、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液で処理して形成された基材表面を開示している。測定された試料中に共存する夾雑タンパク質等の非特異吸着が有意に抑制されると記載されている。しかし、この方法でできた固相は、ブロッキング作用に乏しい。
【0012】
特許文献5は、(a)固定された形態で、被検体特異的固相反応物と、ポリ(C2-C3)-アルキレンオキシドに結合された被検体非特異的生体分子とを含む固相を製造し、(b)サンプルを前記固相及び試験試薬とインキュベートし、(c) サンプル中の被検体の存在及び/又は量を検出する段階を含む、サンプル中の被検体を検出する方法を記載する。しかし、この方法でできた固相は、ブロッキング作用に乏しい。
【0013】
特許文献6は、側鎖にポリエチレングリコール鎖を有する水溶性共重合体からなる免疫反応に使用する固相の表面保護剤を開示する。ここでは、分子内にポリエチレングリコール鎖を持つビニルモノマーと該モノマーと共重合可能な水不溶性モノマーとの共重合体であって、分子量が1,000〜1,000,000の範囲にある水溶性共重合体からなる。この技術は、固相化した抗原あるいは抗体の蛋白質を変性あるいは脱離してしまうため、使用量が限定され完全に固相表面を保護するまでの量を使用できない。したがって、固相表面に良く吸着し、免疫反応を妨害することなく固相表面を保護する材料を開発するために見出された。しかし、固相表面を保護する材料ではあるが免疫反応の妨害は完全に抑えられていない。
【0014】
特許文献7は、ポリエチレングリコール(PEG)セグメントを有するブロック共重合体をブロッキング剤として用いることを特徴とする、従来品より感度の優れたイムノアッセイ方法およびブロッキング剤を開示する。しかし、固相表面を保護する材料ではあるが免疫反応の妨害は完全に抑えられていない。
【0015】
特許文献8は、低い非特異的結合を示す機能性薄膜または機能性表面コーティングを製造する上での組成物と、この薄膜または表面コーティングの製造法を記載する。この薄膜は、特殊化された官能基と非特異的結合をはねつける成分を含有している。この薄膜は、種々の固体支持体に共有結合しているか、または共有結合していない状態で吸着されている。特殊化された官能基が、薄膜により変性された固体表面に対して特殊な作用をもたらし、また非特異的結合反発成分が、薄膜により変性された固体表面への非特異的結合を大幅に減少させる。非特異的結合反発成分は、薄膜中において、特殊化された官能基の作用に影響を及ぼさない。これらの方法においては、特殊化された官能基が、スペーサーを介して固体支持体に繋ぎとめられる。非特異的タンパク質結合特性と、特異的結合作用のための官能基とを併せ持った表面コーティングも説明されており、これによって標的タンパク質を特異的に認識するが、非特異的なタンパク質結合を制限するような表面コーティングが得られることが記載されている。しかし、固相表面を保護する材料ではあるが免疫反応の妨害は完全に抑えられていない。
【0016】
特許文献9は、表面吸着ポリマーを用いて表面を処理する方法、処理したデバイスまたは容器の表面上への有機物質の吸着を低減する方法、表面の処理を含む流体操作を実施する方法、および処理した表面を含む装置およびシステムを開示する。この文献では、マイクロ流体チャンネルの表面を処理する方法が記載される。記載されている方法では、マイクロ流体チャンネル表面を不活性化するためにコーティングし、このコーティングは容易に再生することができる。この文献は、プラスチックデバイスの表面を処理する方法もまた提供している。本発明の表面吸着ポリマーは、特に温度サイクルまたはポリヌクレオチドもしくはポリペプチドの重合を伴う用途において、生化学反応に必要とされる温度および条件で特に安定であるという記載がある。しかし、固相表面を保護する材料ではあるが免疫反応の妨害は完全に抑えられていない。
【特許文献1】特表2001−502959号公報
【特許文献2】特開平07−005177号公報
【特許文献3】特開2007−46056号公報
【特許文献4】国際公開第2005/010529号パンフレット
【特許文献5】特開平11−211727号公報
【特許文献6】特開平11−287802号公報
【特許文献7】特開2006−226982号公報
【特許文献8】特表2004−531390号公報
【特許文献9】特表2004−526939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、有機物質、特にタンパク質や細胞の付着を低減した低吸着性表面を提供する。タンパク質含む生体試料を用いる実験に使用する器具類を構成する素材表面に対する、有機物の非特異的吸着防止方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この方法は、プラスチック表面を物理的な処理(例えば、酸素プラズマ処理)により含酸素官能基を導入するステップと、処理表面を活性化し、物質の吸着を低減させる物質を共有結合させるステップからなり、非特異的タンパク質結合および細胞付着に対する抵抗性を有するものであって、従来技術に比べ、大幅に省力化し、しかも、処理効果の高い表面を提供するものである。
【0019】
本発明の方法は、固相表面を酸化処理して、含酸素官能基を導入する工程と、処理表面を化学的に活性化し、表面を反応性にした後、該表面と反応し得るポリアルキレングリコール誘導体、またはポリペプチドにより処理する工程を含む方法により、表面を低結合性にするという表面処理方法を提供する。
【0020】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1) 疎水性固体表面を有する基板であって、上記基板は、基板本体を備え、上記基板本体の表面の少なくとも一部は、疎水性固体表面を有し、上記疎水性固体表面は、含酸素官能基と、上記含酸素官能基と結合された有機物質の固着を低減する物質を有する、
基板。
(2)上記結合は、共有結合である、項目1に記載の基板。
(3) 上記基板本体がプラスチック製である項目1〜2のいずれかに記載の基板。
(4) 上記プラスチックが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、及びそれらの共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である項目3記載の基板。
(5) 上記プラスチックが、ポリスチレンおよびその共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である項目3記載の基板。
(6) 上記含酸素官能基が、上記表面に対する、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理および紫外線照射処理よりなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の処理を含む酸化処理により配置される項目1〜5のいずれかに記載の基板。
(7) 上記含酸素官能基が、含酸素気体雰囲気下でのプラズマ処理により配置されたものである、項目1〜6のいずれかに記載の基板。
(8) 上記含酸素官能基が、空気下、酸素雰囲気下または二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理により配置されたものである、項目1〜7のいずれかに記載の基板。
(9) 上記プラズマ処理において、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満であることを特徴とする項目8記載の基板。
(10) 上記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、項目8〜9のいずれかに記載の基板。
(11) 上記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目10記載の基板。
(12) 上記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目10記載の基板。
(13) 上記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目10記載の基板。
(14) 上記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、項目9記載の基板。
(15) 上記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目14記載の基板。
(16) 上記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目14記載の基板。
(17) 上記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目14記載の基板。
(18) 上記含酸素官能基が、カルボニル基を含むものである項目1〜17のいずれかに記載の基板。
(19) カルボニル基がカルボキシル基である項目18に記載の基板。
(20) 上記有機物質の固着を低減する物質は、
【0021】
[化101]
R1−L1−(RO)−L2−X−R2
(式中、R1、R2は、水素原子、官能基、保護された官能基、またはリガンドを表し、Rは、炭素数1以上の直鎖状または分岐アルキル基、L1、L2は、相互に独立した連結基または原子価結合を表し、Xは、疎水性固相表面と結合し得るドメインを表す。)
である、項目1〜19のいずれかに記載の基板。
(21) 上記有機物質の固着を低減する物質は、アミノ基を少なくとも1残基以上含む物質である、項目1〜19のいずれかに記載の基板。
(22) 上記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含む物質である、項目1〜19のいずれかに記載の基板。
(23) 上記有機物質の固着を低減する物質が、ポリアルキレンエーテルを分子内に有する高分子およびポリペプチドを有する高分子より選択される少なくとも1種類以上を含む物質物である項目1〜19のいずれかに記載の基板。
(24) 上記有機物質の固着を低減する物質が、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を含む物質である、項目1〜19のいずれかに記載の基板。
(25) 上記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含むポリエチレングリコール誘導体である、項目1〜19のいずれかに記載の基板。
(26) 上記有機物質が、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパク、または生物細胞であることを特徴とする項目1〜25のいずれかに記載の基板。
(27) 基板を生産する方法であって、上記方法は:
A)基板本体の少なくとも一方の表面のうちの少なくとも一部を酸化処理して、含酸素官能基を導入する工程;
B)上記含酸素官能基に対し、有機物質の固着を低減する物質を上記基板本体に固定する工程、
を包含する、方法。
(28)上記固定は、共有結合を形成することによって達成される、項目27に記載の方法。
(29) 上記基板本体がプラスチック製である項目27〜28のいずれかに記載の方法。
(30) 上記プラスチックが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、及びそれらの共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である項目29に記載の方法。
(31) 上記プラスチックが、ポリスチレンおよびその共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である項目29に記載の方法。
(32)上記酸化処理が、上記表面に対する、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理、及び紫外線照射処理よりなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の処理を含むものである項目27〜31のいずれかに記載の方法。
(33)上記酸化処理が、含酸素気体雰囲気下でのプラズマ処理を含むものである項目27〜32のいずれかに記載の方法。
(34)上記酸化処理が、空気下、酸素雰囲気下、または二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理を含むものである項目27〜33のいずれかに記載の方法。
(35)上記プラズマ処理において、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満であることを特徴とする項目32〜34のいずれかに記載の方法。
(36) 上記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、項目32〜35のいずれかに記載の方法。
(37) 上記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目36に記載の方法。
(38) 上記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目36に記載の方法。
(39) 上記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目36に記載の方法。
(40) 上記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、項目34〜35に記載の方法。
(41) 上記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目40に記載の方法。
(42) 上記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目40に記載の方法。
(43) 上記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目40に記載の方法。
(44) 上記含酸素官能基が、カルボニル基を含むものである項目27〜43のいずれかに記載の方法。
(45) カルボニル基がカルボキシル基である項目44に記載の方法。
(46) 上記工程B)は、上記カルボキシル基を活性化試薬により活性化し、上記カルボキシル基を介して有機物質の固着を低減する物質を化学結合させることを包含する、項目45に記載の方法。
(47) 上記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目46に記載の方法。
(48) 上記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類またはその組み合わせである、項目46に記載の方法。
(49) 上記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、項目46に記載の方法。
(50) 上記工程B)は、上記活性化した表面に対して、上記有機物質の固着を低減する物質としてアミノ基を少なくとも1残基以上含む物質を1種類以上、共有結合によりカップリングさせることを包含する、項目27〜49のいずれかに記載の方法。
(51) 上記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含む物質である、項目27〜50のいずれかに記載の方法。
(52) 上記有機物質の固着を低減する物質が、ポリアルキレンエーテルを分子内に有する高分子およびポリペプチドを有する高分子より選択される少なくとも1種類以上を含む物質である、項目27〜50のいずれかに記載の方法。
(53) 上記有機物質の固着を低減する物質が、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を含む、項目27〜50のいずれかに記載の方法。
(54) 上記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含むポリエチレングリコール誘導体である、項目27〜50のいずれかに記載の方法。
(55) 上記有機物質の固着を低減する物質は、
【0022】
[化102]
R1−L1−(RO)−L2−X−R2
(式中、R1、R2は、水素原子、官能基、保護された官能基、またはリガンドを表し、Rは、炭素数1以上の直鎖状または分岐アルキル基、L1、L2は、相互に独立した連結基または原子価結合を表し、Xは、疎水性固相表面と結合し得るドメインを表す。)
である、項目27〜50のいずれかに記載の方法。
(56) 上記有機物質が、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパクまたは生物細胞である、項目27〜55のいずれかに記載の方法。
(57) 項目27〜56のいずれか1項に記載の方法によって生産された、基板。
(58) 項目1〜26および57のいずれか1項に記載の基板を備える、製品。
(59) 上記製品は、生化学デバイス、マイクロ化学デバイス、および容器からなる群より選択される、項目58に記載の製品。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、タンパク質を含む生体試料を扱う研究開発、臨床検査等に使用する機器類を構成する基材表面に検体中の有機物質が吸着する現象を、極めて効率良く抑制する。未処理ポリスチレン(反発)<酸素プラズマ(静電相互作用)<炭酸ガスプラズマ+NHS処理(共有結合)ということが明らかになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念(例えば、〜類)をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0025】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0026】
本明細書において「疎水性固体表面」または「疎水性固相表面」は、交換可能に用いられ、とは、固体または固相の表面であって、その表面が疎水性の物質で少なくとも一部構成されているものをいう。疎水性であるかどうかは、当該分野において周知の方法によって決定することができる。疎水性固相表面は、本発明の目的に沿うものであれば、特に制限はなく、当該技術分野で通常用いられる、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのプラスチック製マイクロプレート、プラスチック容器、プラスチックチップ、プラスチック製流路に対して用いるのが好ましい例として挙げられる。
【0027】
本明細書では、疎水性であるかどうかの基準としては、JISR3257に準拠し、固体または個相の表面に水滴(1〜4μl)を滴下し、その水滴の接触角を測定するいう方法を用いて、その方法によって得られた測定値である水滴接触角が約60度以上のものをいう。たとえば、各種ポリマーの水滴接触角の例として、ポリスチレン約90度、アクリル樹脂約65度、ポリカーボネート約80度であり、これらは本発明の疎水性の材料として用いることができる。
であるときに疎水性であると判断されるものを使う。
【0028】
本明細書において「基板」とは、その上に薄膜等を形成する材料をいい、任意の材料によって構成することができる。基板の材料としては、たとえば、プラスチック類(たとえば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、及びそれらの共重合体)を挙げることができる。好ましいプラスチック材料としては、ポリスチレンまたはその共重合体を挙げることができる。
【0029】
本明細書において「基板本体」とは、基板のうち、表面等に結合された薄膜、保護基などを除いた実体部分をいう。
【0030】
本明細書において「含酸素官能基」とは、酸素を含む任意の官能基をいう。このような官能基は、本発明の目的を考慮して、任意に決定することができることが理解される。具体的には、含酸素官能基としては、たとえば、−OH(水酸基)、>C=O(カルボニル基)、−COOH(カルボキシル基)、−SOH(スルホ基)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
本明細書において「有機物質の固着を低減する物質」とは、有機物質が固相に固着することを低減する任意の物質をさす。このような物質は、本発明の目的を考慮して、任意に決定することができることが理解される。具体的には、免疫反応、あるいは特異的相互作用に関与する構造を有しない、タンパク質、ペプチド類、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の水溶性高分子、リン脂質、リン脂質類似ポリマー、非イオン性界面活性剤他、抗原抗体反応等の特異的相互作用を含む、様々な分子間相互作用を阻害する物質が用いられる。
【0032】
本明細書において「プラスチック」とは、熱、圧力あるいはその両者によって塑性変形させて成形することができる高分子化合物の総称である。たとえば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、及びそれらの共重合体などを挙げることができる。
【0033】
本明細書において「ポリスチレンおよびその共重合体」とは、スチレンの重合体または共重合体であり、−(−CH−CH(C)−)という式で表すことができる。ポリスチレンは、スチロール樹脂ともいう。ブタジエンと共重合させ、またはゴムを配合すると耐衝撃性がよくなるといわれている。また、発泡ポリスチレンとしても広い用途をもつ。イオン重合,とくにチーグラー‐ナッタ触媒などを用いてスチレンを重合すると,結晶性のアイソタクチックポリマーが得られる。
【0034】
本明細書において「酸化処理」とは、対象物が酸化される任意の処理をいう。たとえば、当該分野において周知のように、酸化とは、広く電子を奪われる変化またはそれに伴う化学反応をいう。酸化処理は、化学的に行うこともできるが、物理的な処理(たとえば、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理および紫外線照射処理などをもって行うこともできる。
【0035】
本明細書において「プラズマ処理」とは、プラズマ放電による分子解離の結果発生する励起分子,ラジカル,イオンなどを利用してエッチングや膜形成を行なう処理をいう。生成した励起種と材料との反応によって生成される揮発性化合物の蒸発により進行する。膜は基板表面上およびその近傍での反応生成物が表面に堆積して形成される。熱ではなく放電による解離を利用するため低温で膜形成できる特徴がある。プラズマ処理の具体例としては、実施例に記載されるもののほか、有機膜を除去することによる固体表面の洗など下を挙げることができるがこれに限定されない。
【0036】
本明細書において「含酸素気体雰囲気下」とは、酸化処理により含酸素官能基が結合するに十分な酸素原子を含む気体を雰囲気とすることをいう。
【0037】
本明細書において「酸素雰囲気下」とは、酸素を雰囲気とすることをいう。
【0038】
本明細書において「二酸化炭素雰囲気下」とは、二酸化炭素を雰囲気とすることをいう。
【0039】
本明細書において「プラズマ処理」の「エネルギー量」とは、本発明において使用されるプラズマ処理のエネルギーをいい、これは、ヤマトマテリアル(株)製のプラズマ装置(PDC−210)による高周波出力をプラズマ処理のエネルギー量として測定し、そして算出することができる。
【0040】
本明細書において「活性化試薬」とは、本発明の固相において、含酸素官能基と有機物質の固着を低減する物質との結合を活性化することができる任意の試薬をいう。本発明においては、「活性化」されたかどうかは、標準方法によって判定することができる。標準方法としては、23℃の雰囲気下で個相表面にヘモグロビンを滴下し、約60分後に水洗する方法が挙げられ、この方法において、ヘモグロビンが個相表面から除去されなければ活性化されていると考えられる。
【0041】
本明細書において「酸塩化物」とは、塩化アシル(acyl chloride)ともいい、カルボン酸のカルボキシ基中にあるヒドロキシ基を塩素で置換した有機化合物RCOClの総称である。カルボン酸またはそのナトリウム塩に三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、または塩化チオニルを作用させてつくる。低級の鎖式化合物は、刺激臭をもち、空気中で発煙する無色の液体である。これには塩化アセチル、塩化オキサリル、塩化ベンゾイル、塩化フタロイルなどがある。またクロロギ酸(そのエステルが知られている)は炭酸の酸塩化物にあたる。酸塩化物は水と反応して酸を生ずる。
【0042】
本明細書において「酸無水物」とは、カルボン酸の無水酸をいい、酸化アシルに相当する。たとえば無水酢酸、無水フタル酸、無水安息香酸などを挙げることができる。1塩基酸では2分子から酸無水物1分子を生じ、また2塩基酸では分子内で酸無水物となるものが多い。低級のものは刺激臭のある液体、高級のものは無臭の固体である。水と作用すると酸となり、アンモニアの作用では酸アミドを生じ、アルコールとはエステルをつくる。アシル化剤として用いられる。フルギドも酸無水物に属する。
【0043】
本明細書において「カルボジイミド類」とは、カルボジイミドであるHN=C=NHおよびその誘導体RN=C=NR(Rは炭化水素基)を包含する。シアナミドの互変異性体で、炭酸のジイミドにあたる。カルボジイミドの誘導体は一般式RN=C=NR(Rは炭化水素基)で表わされ、通常ジシクロヘキシルカルボジイミドおよびジ‐p‐トルオイルカルボジイミドがエステルおよびペプチドなどの合成に脱水縮合剤として利用される。すなわち、カルボジイミド誘導体は容易にカルボン酸と付加体を生成し、これはさらにアルコール、アミン、酸などと尿素誘導体を放って縮合し、それぞれ相当するエステル、アミド、酸無水物を生成する。
【0044】
本明細書において「スクシンイミド類」とは、CNOで表されるスクシンイミドおよびその誘導体をいう。スクシンイミドはコハク酸イミドともいう。融点125〜126℃、沸点287〜288℃(一部分解)。水溶液から結晶化すると一水和物が得られる。無水コハク酸とアンモニアとの作用、またはスクシンアミド(エステルとアンモニアの作用で得る)を200℃に熱してつくられる。イミド基=NHの水素は金属で置換され、スクシンイミド銀にハロゲン化アルキルを作用させればアルキル誘導体(N‐エチルスクシンイミドなど)が生成する。スクシンイミドは亜鉛末とともに蒸留すればピロールとなり、アルコールに溶かしてナトリウムと加熱すればピロリジンになる。
【0045】
本明細書において「カルボニル基」とは、2価の基C=Oで表される。このうちケトンRCOR’(R,R’は炭化水素基)またはその誘導体に含まれるものはケト官能基(keto group、置換基名はオキソ)とよばれる.アルデヒドRCHOに含まれる場合は‐CH(=O)を1つの基とみてアルデヒド官能基(aldehyde group,置換基名はホルミル)といい、ふつう‐CHOと表わす。本明細書では、いずれも使用され得ることが理解される。
【0046】
本明細書において「官能基」とは、当該分野において周知の用語であり、通常の意味で用いられ、有機化合物の分子構造の中で,1つの同族列の各同族体に共通に含まれ,その同族列に共通な反応性の原因となる原子団または結合様式をいう。本明細書で用いられる場合は、官能基は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、エステル、アミド、イミド、アルデヒド、チオール、チオエステル等をさす。
【0047】
本明細書において「保護された官能基」とは、官能基の反応性を妨害するように修飾がされた基をいう。本明細書で用いられる場合は、保護された官能基は、メトキシ、エトキシ、t-ブトキシ等のアルキルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、アセタール基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、シリルエーテル、マレイミド基、パラトルエンスルホニル基等が挙げられる。末端水酸基の反応性がブロックされたものであれば、特に限定されるものではない。
【0048】
本明細書において「リガンド」とは、蛋白質に特異的に結合する低分子物質をいう。例えば,酵素分子と特定の結合をする基質,補酵素,調節因子のほか,細胞膜上に存在する種々の受容体蛋白質分子と特異的に結合するレクチン,抗原,抗体,ホルモン,神経伝達物質などをさす。本明細書で用いられる場合は、リガンドは、疾患マーカー特異的抗体、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG等特定の物質に特異的親和性のある物質の総称であり、疾患マーカーの検出、環境測定、物質の分離精製、薬物スクリーニング等において、タンパク質相互作用に関与する物質であれば特に限定されるものではない。
【0049】
本明細書において「連結基」とは、2つの化学基を連結する任意の基をいう。本明細書で用いられる場合は、連結基は、アルキル、エーテル、アミド(ペプチド)、エステル、ジスルフィド、カルボキシ、スルホキシ、イミノ、ニトリロ、ウレタン等、高分子化合物の形成に関与するあらゆる結合様式をさす。
【0050】
本明細書において「原子価結合」とは、2個以上の原子のそれぞれの原子価電子間に形成される結合をいう。本明細書で用いられる場合は、原子価結合は、通常の共有結合、配位結合をさす。
【0051】
本明細書において「ドメイン」とは、1つの分子の中で機能や構造の上で1つのまとまりをもつ領域のことをいう。タンパク質の立体構造と機能の研究から,タンパク質はいくつかの独立した部分から構成されていると考えられるようになった.これらの独立した構造単位をいう.ドメインは構造的,機能的にタンパク質の基本構成単位で,それぞれ独立の役割をはたしている.例えば,デヒドロゲナーゼでは,基質が結合するドメインと補酵素が結合するドメインが明らかに区別され,酵素反応は両ドメインの接触部分で行なわれる。本明細書で用いられる場合は、ドメインは、例えば、疎水性表面と疎水性相互作用しうる疎水性ドメイン、電荷を有する表面に対してその反対荷電を有し、静電的相互作用しうるイオン性ドメイン、反応性官能基を有する表面に対して、共有結合を形成しうる反応性ドメイン等である。
【0052】
本明細書において「疎水性固相表面と結合し得るドメイン」とは、1つの分子の中で機能や構造の上で1つのまとまりをもつ領域疎水性固相表面と結合し得る任意の固体中の領域をいう。疎水性固相表面は、本発明の目的に沿うものであれば、特に制限はなく、当該技術分野で通常用いられる、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのプラスチック製マイクロプレート、プラスチック容器、プラスチックチップ、プラスチック製流路に対して用いるのが好ましい例として挙げられる。本明細書で用いられる場合は、疎水性固相表面と結合し得るドメインは、プラズマ照射処理によって生ずる官能基と結合しうるドメインであり、具体的には、カルボニル基、カルボキシル基、および活性化されたカルボキシル基と共有結合、または静電的相互作用によって疎水性表面に固定化しうるドメインを言う。
【0053】
本明細書において「オリゴアミン」とは、複数のアミンを有する任意の化合物を指す。たとえば、本明細書で用いられる場合は、疎水性固相表面と結合し得るドメインとしては、活性化カルボキシル基と共有結合しうる末端の1級アミノ基、または、イオン化したカルボキシル基と静電的相互作用しうる1級または2級アミノ基を含むドメインを使用することができる。
【0054】
本明細書において「製品」とは、本発明の疎水性固体表面を有する基板を有する、工場から出荷可能な任意の生成物をいい、特に、生化学的試験に使用される物品などをさす。たとえば、本明細書で用いられる場合は、製品は、6穴タイタープレート、数百μm〜数十mの凹部(ウェル)を数個〜数万個集積したマイクロアレイプレート、数百μm〜数十μmの微細な流路を一本〜数十本形成したプレートを使用することができるがこれらに限定されない。
【0055】
本明細書において「生化学デバイス」とは、本発明の疎水性固体表面を有する基板を有する、生化学的目的で使用される任意のデバイスをさす。たとえば、本明細書で用いられる場合は、生化学デバイスは、蛋白質結晶化プレート、プロテインチップ、DNAチップ、糖鎖チップ、細胞チップを使用することができるがこれらに限定されない。
【0056】
本明細書において「マイクロ化学デバイス」とは、本発明の疎水性固体表面を有する基板を有する、マイクロ化学目的で使用される任意のデバイスをさす。たとえば、本明細書で用いられる場合は、マイクロ化学デバイスは、抗原・抗体反応を利用して解析・測定するプレート、BSE、インフルエンザなどに代表されるようなウィルス検出プレート、環境汚染・土壌改質検出プレート、病原体、疾患マーカーを検出する診断用チップを使用することができるがこれらに限定されない。
【0057】
本明細書において「容器」とは、対象物の加工,処理,貯蔵が行なわれる入れものあるいは包みをいう。たとえば、本明細書で用いられる場合は、容器は、蛋白質溶液保存容器、細胞保存容器、検体採取および保存容器等として汎用されるプラスチック容器を使用することができるがこれらに限定されない。
【0058】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0059】
(基板)
1つの局面において、本発明は、疎水性固体表面を有する基板を提供する。この基板は、基板本体を備える。この基板本体の表面の少なくとも一部は、疎水性固体表面を有する。この疎水性固体表面は、含酸素官能基と、該含酸素官能基と結合された有機物質の固着を低減する物質を有する。このような基板は、生化学デバイス、マイクロ化学デバイス、および容器などとして有用である。この基板を用いることによって、検体中のタンパク質が固相表面に吸着して、容器への付着に起因する測定誤差、感度の低下、臨床検査における擬陽性、保存用容器へのタンパク質の付着による内容物の減少および微量サンプルの消失、および流路系における流路壁面への付着による加圧ならびに詰まり等の、様々な問題が解決された。そして、タンパク性ブロッキング剤による表面処理では、抗体の交差反応、抗体のマスキング、および共存タンパク質のブロッキング剤に対する非特異的吸着がない基板が提供された。従来法によるブロッキング操作を施しても、洗浄中、あるいは実験操作中に脱離するなどの理由により、完全に固相表面への非特異的な有機物の吸着を防ぐことがより改善された。そして、好ましい形態では、H2Oによる洗浄においても共有結合なので脱離しないことが確認され、アッセイにおける効率が格段に上昇した。未処理ポリスチレンプレートには全くブロッキング作用がないことから、ブロッキング作用が付与されること自体、驚くべき効果であるとも言える。
【0060】
従来磁性粒子、金表面などの金属表面のブロッキングに関する技術は存在した。しかし、プラスチックに関して応用する技術はこれまで知られていなかった。
【0061】
好ましい実施形態では、酸素プラズマならびに炭酸ガスプラズマ処理などにおいて、含酸素官能基が露出するので、固相に結合する場合は、オリゴアミンが非常に都合が良いということができる。
【0062】
また、理論に束縛されることを望まないが、オリゴアミン‐PEG単独では疎水性が弱く、未処理のポリスチレンプレート に対するブロッキング効果は全くない。さらに好ましい実施形態を調査するために、そのための手段として、プラズマ処理ならびにNHS処理を検討したところ、よりブロッキング効果が促進されたことが判明した。したがって、ひとつの好ましい実施形態では、プラズマ処理とNHS処理とを組み合わせることが有利であるがこれに限定されない。未処理プレートに対して、全く効果がないということも本発明では示されており。本発明の処理の顕著性が理解される。
【0063】
特開2006−226982に記載されるポリラクチドに比べて、本発明は、格別の効果を奏する。理論に束縛されることを望まないが、なぜなら、ポリラクチドは、疎水性が高く水への溶解性が低いため、表面工程において、有機溶媒を使用する必要があり、本発明で使用するプラスチック素材をいためる可能性がある。また、ポリラクチドには反応性の高い官能基がなく、ポリスチレン表面に対しては、疎水性相互作用により吸着するため、洗浄操作や、流路系に使用する場合は機械的強度が十分でないからである。
【0064】
1つの実施形態では、含酸素官能基と、有機物質の固着を低減する物質とは共有結合にて結合される。理論に束縛されることを望まないが、共有結合により結合することにより、有機物質の固着を低減する物質のブロッキング効果が強化される。
【0065】
1つの実施形態では、本発明において使用される基板本体がプラスチック製である。理論に束縛されることを望まないが、プラスチック製のほうが形状の自由度が高く、射出成形法を用いれば、一旦金型を作ることにより数μm〜数百nmの形状再現性で基板を製作することができるからである。
【0066】
具体的な実施形態では、本発明の基板本体において用いられるプラスチックは、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、またはそれらの共重合体から構成されえる。一種または二種以上の材料から構成されていてもよい。理論に束縛されることを望まないが、これらの材料は、空気、酸素、二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理によって含酸素官能基が基板に導入されれば、どのような材質のプラスチックを用いてもよいが、使用時の耐熱性、耐薬品性、滅菌性、透明性などから考慮して、アルコール殺菌が可能であるという理由からポリスチレンまたはそれに類似する材料が好ましい。
【0067】
好ましくは、本発明の基板本体において用いられるプラスチックは、ポリスチレンまたはその共重合体のうち一種または二種以上の材料から構成されることができる。理論に束縛されることを望まないが、ポリスチレンまたはその共重合体は、プラズマ処理で比較的容易に含酸素官能基を導入することができ、かつ使用時にアルコール殺菌が可能なことから、好ましくは、ポリスチレン、あるいはポリスチレン共重合体を用いることができる。
【0068】
具体的な実施形態では、本発明において用いられる含酸素官能基は、プラスチック表面に対する、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理および紫外線照射処理よりなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の処理を含む酸化処理により配置されるが、これらに限定されず、これらのほかの酸化処理であっても、含酸素官能基が結合される限り、どのような処理を用いてもよいことが理解される。理論に束縛されることを望まないが、これらは、通常のプラスチック処理によく用いられている方法であり、装置等も確立され、安価に購入できる利点があるからである。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明において用いられる含酸素官能基は、含酸素気体雰囲気下でのプラズマ処理により配置される。含酸素気体雰囲気下でプラズマ処理を行うことにより、含酸素官能基を容易に基板に結合させることができるからである。そして、理論に束縛されることを望まないが、さらに有利な点としては、たとえば、他の処理方法に比べてプラズマ処理ではより均一に含酸素官能基を基板に導入でき、かつ基板へのダメージが少ないことがその理由として挙げられる。
【0070】
別の具体的な実施形態では、本発明において用いられる含酸素官能基は、空気下、酸素雰囲気下または二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理により配置される。理論に束縛されることを望まないが、空気下、酸素雰囲気下または二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理が好ましいのは、特殊な環境を用意しなくてもよい点、含酸素官能基を基板に導入できる点などを挙げることができる。
【0071】
別の具体的な実施形態では、本発明において使用されるプラズマ処理において、その処理は、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満で行われる。少なくとも100Wのエネルギー量が好ましいのは、含酸素官能基の導入割合が高く、基板表面にその含酸素官能基を均一に処理できるという理由などを挙げることができる。処理時間が5秒以上120秒未満が好ましいのは、基板材料に依存するが、5秒未満では基板表面に含酸素官能基を均一に導入できず、120秒以上になると基板材料の劣化がより促進されるという理由からである。
【0072】
別の具体的な実施形態によれば、使用されるエネルギー量としては、少なくとも100Wには限定されず、たとえば、少なくとも150W、少なくとも200W、少なくとも250W、少なくとも300W、少なくとも350W、少なくとも400W、少なくとも400W、少なくとも500Wなどであってもよく、上限としては、たとえば、1000W、900W、800W、700W、600W、500Wなどを挙げることができる。上限を決定するのは、固相の抵抗性などの要因があり、したがって、これらのパラメータによって変動することが理解される。また、下限としては、100W未満であってもよく、少なくとも10W、少なくとも20W、少なくとも30W、少なくとも40W、少なくとも50W、少なくとも60W、少なくとも70W、少なくとも80W、少なくとも90Wなどであってもよい。下限にも特定はなく、ただ、処理時間が延びるという点で実用的でなくなるという点を考慮するに過ぎない。したがって、これらの時間、エネルギー量は任意であるといえ、当業者は、本明細書に基づいて、また、所望の結果に応じて適切な時間およびエネルギー量を決定することができることが理解される。
【0073】
好ましい実施形態では、プラズマ処理は、より高いエネルギー量で行うほうが好ましい。たとえば、二酸化炭素プラズマでは、300Wで行ったときと500Wで行ったときと比べて、カルボキシル基の導入率が、エネルギー量に比例する以上に改善された。したがって、エネルギー量はより多いほうが好ましいといえる。
【0074】
1つの有利な実施形態では、カルボキシル基を多く基板に導入するには、酸素プラズマより二酸化炭素プラズマの方が好ましい。
【0075】
1つの好ましい実施形態では、本発明において用いられるプラズマ処理では、活性化試薬による処理が追加で行われる。理論に束縛されることを望まないが、この処理の追加によって、疎水性固体表面における、含酸素官能基と、有機物質の固着を低減する物質との結合がより強固になることが理解される。本明細書において任意の活性化試薬が使用される。そのような活性化試薬は、含酸素官能基と、有機物質の固着を低減する物質との結合を促進するものであれば、どのようなものであっても利用することができる。
【0076】
1つの好ましい実施形態では、本発明において用いられる活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせなどであってもよい。理論に束縛されることを望まないが、これらの活性化試薬を用いることが好ましい理由としては、反応性が高いこと、プラズマ処理における反応促進性が強いことなどが挙げられる。また、含酸素官能基として、最も生じる頻度の高い水酸基を利用する固定化法では、上記の反応試薬を用いるのが有利であるからである。
【0077】
1つの好ましい実施形態では、本発明において用いられる活性化試薬は、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせなどであり得る。理論に束縛されることを望まないが、これらの活性化試薬を用いることが好ましい理由としては、反応性が高いこと、プラズマ処理によって生じる官能基(主にカルボキシル基)における反応促進性が強いことなどが挙げられる。また、これらのカルボジイミド類、スクシンイミド類は、ペプチド合成、タンパク質の化学修飾等で汎用される試薬であり、本発明におけるカルボキシル基とアミノ基の反応に至適化されたものである。
【0078】
具体的な実施形態では、本発明において使用される活性化試薬は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせであり得る。理論に束縛されることを望まないが、これらの活性化試薬を用いることが好ましい理由としては、反応性が高いこと、プラズマ処理によって生じる官能基(主にカルボキシル基)における反応促進性が強いことなどが挙げられるにおける反応促進性が強いことなどが挙げられる。また、これらのカルボジイミド類、スクシンイミド類は、ペプチド合成、タンパク質の化学修飾等で汎用される試薬であり、本発明におけるカルボキシル基とアミノ基の反応に至適化されたものであるからである。
【0079】
1つの具体的な実施形態では、本発明におけるプラズマ処理は、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満であり、かつ、その上さらに、活性化試薬による処理が行われる。本明細書において任意の活性化試薬が使用されるが、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理が行われると、基板材料に依存するが、5秒未満では基板表面に含酸素官能基を均一に導入できず、120秒以上になると、活性化試薬を用いた場合にも、基板材料の劣化がより促進されるという点で有利である。そのような活性化試薬は、含酸素官能基と、有機物質の固着を低減する物質との結合を促進するものであれば、どのようなものであっても利用することができ、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理が行われることで、上記利点が達成される。
【0080】
1つの好ましい実施形態では、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理が行われる実施態様において、本発明において用いられる活性化試薬は、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせであり得る。理論に束縛されることを望まないが、これらの活性化試薬を用いることが好ましい理由としては、反応性が高さが少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理で最適化されること、プラズマ処理における反応促進性がこの少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理で最適化されることなどが挙げられる。基板材料に依存するが、5秒未満では基板表面に含酸素官能基を均一に導入できず、120秒以上になると、これらの活性化試薬を用いる場合にも基板材料の劣化がより促進されるからである。
【0081】
1つの好ましい実施形態では、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理が行われる実施態様において、本発明において用いられる活性化試薬は、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせでありえる。理論に束縛されることを望まないが、これらの活性化試薬を用いることが好ましい理由としては、反応性が高さが少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理で最適化されること、プラズマ処理における反応促進性がこの少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理で最適化されることなどが挙げられる。基板材料に依存するが、5秒未満では基板表面に含酸素官能基を均一に導入できず、120秒以上になると、これらの活性化試薬を用いる場合にも基板材料の劣化がより促進されるからである。
【0082】
1つの好ましい実施形態では、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理が行われる実施態様において、本発明において用いられる活性化試薬は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせであり得る。理論に束縛されることを望まないが、これらの活性化試薬を用いることが好ましい理由としては、反応性が高さが少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でプラズマ処理で最適化されること、プラズマ処理における反応促進性がこの少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でのプラズマ処理で最適かされることなどが挙げられる。基板材料に依存するが、5秒未満では基板表面に含酸素官能基を均一に導入できず、120秒以上になると、これらの活性化試薬を用いる場合にも基板材料の劣化がより促進されるからである。また、これらの具体的な活性化試薬は、ここに列挙されるものであれば、どのようなものであっても少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満でのプラズマ処理において用いることができることが理解される。理論に束縛されることを望まないが、基板材料に依存するが、5秒未満では基板表面に含酸素官能基を均一に導入できず、120秒以上になると基板材料の劣化がより促進されることがその理由として挙げられる。
【0083】
1つの実施形態では、本発明において用いられる含酸素官能基は、カルボニル基を含むものである。理論に束縛されることを望まないが、カルボニル基は、たいていの有機物質の固着を低減する物質と反応性であり、結合がスムーズにいくことが予測されるからである。すなわち、以下の反応:R−NH+R’−COOH→R−NHCO−R’が進行することが予測される(ここで、RおよびR’は、任意の置換されたまたは置換されていない炭化水素基である)からである。
【0084】
1つの実施形態では、本発明において用いられる含酸素官能基は、カルボキシル基である。理論に束縛されることを望まないが、カルボキシル基は、たいていの有機物質の固着を低減する物質と反応性であり、特に、アミノ基と反応してペプチド結合を形成するなど、結合(水酸基とのエステル結合を形成する)がスムーズにいくことが予測されるからである。
【0085】
具体的な実施形態では、本発明において用いられる有機物質の固着を低減する物質は、
【0086】
[化11]
R1−L1−(RO)−L2−X−R2
(式中、R1、R2は、水素原子、官能基、保護された官能基、またはリガンドを表し、Rは、炭素数1以上の直鎖状または分岐アルキル基、L1、L2は、相互に独立した連結基または原子価結合を表し、Xは、疎水性固相表面と結合し得るドメインを表す。)
である。
【0087】
ある実施形態では、使用される官能基としては、アミノ基を有するものが望ましい。
【0088】
ある実施形態では、使用される保護された官能基としては、メトキシ、エトキシ、t-ブトキシ等のアルキルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、アセタール基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、シリルエーテル、マレイミド基、パラトルエンスルホニル基等が挙げられる。末端水酸基の反応性がブロックされたものであれば、特に限定されるものではない。
【0089】
ある実施形態では、使用されるリガンドとしては、疾患マーカー特異的抗体、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG等特定の物質に特異的親和性のある物質の総称であり、疾患マーカーの検出、環境測定、物質の分離精製、薬物スクリーニング等において、タンパク質相互作用に関与する物質であれば特に限定されるものではない。
【0090】
ある実施形態では、使用される炭素数1以上の直鎖状または分岐アルキル基としては、C1〜C2アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C6アルキル、C1〜C7アルキル、C1〜C8アルキル、C1〜C9アルキル、C1〜C10アルキル、C1〜C11アルキルまたはC1〜C12アルキル、C1〜C2置換されたアルキル、C1〜C3置換されたアルキル、C1〜C4置換されたアルキル、C1〜C5置換されたアルキル、C1〜C6置換されたアルキル、C1〜C7置換されたアルキル、C1〜C8置換されたアルキル、C1〜C9置換されたアルキル、C1〜C10置換されたアルキル、C1〜C11置換されたアルキルまたはC1〜C12置換されたアルキルであり得る。アルカンについては、これらの具体例は、C1〜C2アルカン、C1〜C3アルカン、C1〜C4アルカン、C1〜C5アルカン、C1〜C6アルカン、C1〜C7アルカン、C1〜C8アルカン、C1〜C9アルカン、C1〜C10アルカン、C1〜C11アルカンまたはC1〜C12アルカン、C1〜C2置換されたアルカン、C1〜C3置換されたアルカン、C1〜C4置換されたアルカン、C1〜C5置換されたアルカン、C1〜C6置換されたアルカン、C1〜C7置換されたアルカン、C1〜C8置換されたアルカン、C1〜C9置換されたアルカン、C1〜C10置換されたアルカン、C1〜C11置換されたアルカンまたはC1〜C12置換されたアルカンであり得る。ここで、例えばC1〜C10アルキルとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH−)、エチル(C−)、n−プロピル(CHCHCH−)、イソプロピル((CHCH−)、n−ブチル(CHCHCHCH−)、n−ペンチル(CHCHCHCHCH−)、n−ヘキシル(CHCHCHCHCHCH−)、n−ヘプチル(CHCHCHCHCHCHCH−)、n−オクチル(CHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−ノニル(CHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、n−デシル(CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH−)、−C(CHCHCHCH(CH、−CHCH(CHなど(ここで置換基Rによって置換されている場合、そのような置換基Rは、単数または複数存在し、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシ、炭素環基、ヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、チオ−ル、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシ、アシル、チオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルおよび置換されたスルフィニルからなる群より選択される)。実用的に用いられるのは、ポリヘキサメチレングリコール程度の長さまでであり、その構造、水溶性に鑑み、ポリエチレングリコールが好適に用いられる。
【0091】
ある実施形態では、使用される連結基としては、ポリエチレングリコール末端と官能基、疎水性固相表面と結合し得るドメイン、リガンド等との結合に関与しうるものであれば、特に限定されるものではないが、結合する官能基の種類に適した、直鎖アルキル基、アルキレンエーテル基、アミド(ペプチド)、イミド、チオエーテル等が好適に用いられる。
【0092】
ある実施形態では、使用される原子価結合としては、通常の共有結合、または配位結合が挙げられる。
【0093】
ここで、使用される疎水性固相表面と結合し得るドメインとしては、プラズマ照射処理によって生ずる官能基と結合しうるドメインであり、具体的には、カルボニル基、カルボキシル基、および活性化されたカルボキシル基と共有結合、または静電的相互作用によって疎水性表面に固定化しうるドメインをいう。
【0094】
1つの好ましい実施形態では、本発明において使用される有機物質の固着を低減する物質は、ポリアルキレンエーテルを分子内に有する高分子である。ポリアルキレンエーテルを分子内に有する高分子を用いることによって、ブロッキング効果の高い化学基を疎水性固体表面に密に配置することができるからである。特に、ポリエチレングリコールは、非イオン性で親水性が高く好適に用いられる。
【0095】
より好ましい実施形態では、有機物質の固着を低減する物質は、アミノ基を少なくとも1残基以上含む物質である。理論に束縛されることを望まないが、アミノ基を少なくとも1残基以上含む物質を用いることによって、含酸素官能基とスムーズな結合が実現され、ブロッキング効果を奏する結合を疎水性固体表面に配置することができるからである。そのような物質としては、たとえば、有機物質の固着を低減する物質は、疎水性固体表面に結合する官能基またはドメインを有するポリエチレングリコール誘導体であれば特に限定されるものではない。
【0096】
さらに好ましくは、有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含む物質である。理論に束縛されることを望まないが、オリゴアミンを用いることによって、含酸素官能基とスムーズな結合に加え、ポリアルキレンイミンとカルボキシル基に由来する静電的相互作用が強固に実現され、ブロッキング効果を奏する結合を疎水性固体表面に密に配置することができるからである。そのような物質としては、たとえば、有機物質の固着を低減する物質は、ペンタエチレンヘキサミン‐ポリエチレングリコール、あるいはポリペプチドを有するポリエチレングリコール共重合体であり得る。
【0097】
より好ましい実施形態では、本発明において用いる組成物は、ポリアルキレンエーテル、特にポリエチレングリコール(PEG)セグメントを有するものが望ましく、さらにそのPEGセグメントの分子量は、20,000以下の低分子量のものがよく、さらに好ましくは、分子量200〜5,000である。理論の束縛されることを望まないが、ポリエチレングリコールは、単結合周りの回転運動が容易であり、分子の熱運動により溶液中できわめて高い運動性を有するため、分子量の高いものでは、分子が屈曲しタンパク質吸着抑制効果が減少する。分子量が10,000を超えない範囲では、分子鎖が屈曲することなく、ブラシ状に配置されるため、親水化、非イオン化の効果が高く、タンパク質の吸着が好適に抑制される。低分子量のPEG誘導体を用いることにより、タンパク性ブロッキング剤により生ずる間隙を埋めることが出来、より効率よく非特異吸着を抑制することが出来るため、両者を混合して使用することもできる。
【0098】
別の好ましい実施形態では、本発明において使用される有機物質の固着を低減する物質は、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を含む物質である。理論に束縛されることを望まないが、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を用いることによって、ブロッキング効果の高い化学基を疎水性固体表面に密に配置することができ、アミノ基を少なくとも1残基以上含む物質を用いることによって、含酸素官能基とスムーズな結合が実現され、ブロッキング効果を奏する結合を疎水性固体表面に配置することができるからである。そのような物質としては、たとえば、有機物質の固着を低減する物質は、構造的に限定されるものではないが、好ましくは、固体表面に共有結合で固定化できる1級アミノ基を有する分子量2000〜5000のポリエチレングリコール誘導体であり得る。
【0099】
好ましい実施形態では、含酸素官能基を出現させた固相表面に対して活性化した表面に対しては、アミノ基または、水酸基を用いたアミド化、またはエステル化が好ましく、特に、末端がアミノ化されたPEG誘導体が好ましい。そのような物質としては、たとえば、末端に反応性アミノ基を有するPEG誘導体であれば、特に限定されない。
【0100】
別の好ましい実施形態では、本発明において使用される有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含むポリエチレングリコール誘導体である。理論に束縛されることを望まないが、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を用いることによって、ブロッキング効果のたかい化学基を疎水性固体表面に密に配置することができ、オリゴアミンを用いることによって、含酸素官能基とスムーズな結合が強固に実現され、ブロッキング効果を奏する結合を疎水性固体表面に密に配置することができるからである。そのような物質としては、たとえば、ペンタエチレンヘキサミン‐ポリエチレングリコール、あるいは塩基性ポリペプチドを有するポリエチレングリコール共重合体であり得る。
【0101】
1つの実施形態では、本発明が対象とする有機物質は、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパク、または生物細胞である。したがって、上記有機物質の固着を低減する物質は、上記具体例に束縛されず、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパク、または生物細胞の固着を低減するものであれば、どのようなものであってもよいことが理解される。そして、当業者は、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパク、または生物細胞の固着を低減するものを容易に想定することができ、たとえば、免疫反応、あるいは特異的相互作用に関与する構造を有しない、タンパク質、ペプチド類、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の水溶性高分子、リン脂質、リン脂質類似ポリマー、非イオン性界面活性剤他、抗原抗体反応等の特異的相互作用を含む、様々な分子間相互作用を阻害する物質が用いられる。
【0102】
(基板生産方法)
別の局面において、本発明は、基板を生産する方法を提供する。本発明の方法は:A)基板本体の少なくとも一方の表面のうちの少なくとも一部を酸化処理して、含酸素官能基を導入する工程;B)該含酸素官能基に対し、有機物質の固着を低減する物質を該基板本体に固定する工程、を包含する。この方法によって製造された基板は、生化学デバイス、マイクロ化学デバイス、および容器などとして有用である。この基板を用いることによって、検体中のタンパク質が固相表面に吸着して、容器への付着に起因する測定誤差、感度の低下、臨床検査における擬陽性、保存用容器へのタンパク質の付着による内容物の減少および微量サンプルの消失、および流路系における流路壁面への付着による加圧ならびに詰まり等の、様々な問題が解決された。そして、タンパク性ブロッキング剤による表面処理では、抗体の交差反応、抗体のマスキング、および共存タンパク質のブロッキング剤に対する非特異的吸着がない基板が提供された。従来法によるブロッキング操作を施しても、洗浄中、あるいは実験操作中に脱離するなどの理由により、完全に固相表面への非特異的な有機物の吸着を防ぐことがより改善された。そして、好ましい形態では、H2Oによる洗浄においても共有結合なので脱離しないことが確認され、アッセイにおける効率が格段に上昇した。未処理ポリスチレンプレートには全くブロッキング作用がないことから、ブロッキング作用が付与されること自体、驚くべき効果であるとも言える。そして、本発明の基板生産方法では、従来あまり着目されていなかったプラズマ処理などの酸化処理を活用することによって、効率よく、ブロッキング処理を行うことができるようになった点で注目すべきである。
【0103】
1つの実施形態において、A)基板本体の少なくとも一方の表面のうちの少なくとも一部を酸化処理して、含酸素官能基を導入する工程は、酸化処理を基板の本体に施す任意の手段を採用して実施することができる。そのような手段としては、たとえば、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理および紫外線照射処理よりなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の処理を含む酸化処理などを挙げることができ、このほか、本明細書のこのほかの場所(たとえば、(基板)の項目)において列挙される手法および当該分野において公知の酸化処理を用いることができることが理解される。
【0104】
この方法は、代表的には、固相表面をプラズマ処理し、含酸素官能基を露出させる工程と、露出した官能基を活性化し、共有結合によって付着を低減する物質の皮膜を形成する工程とを含み、非特異的タンパク質結合および細胞付着に対する抵抗性を有する表面処理方法として表現することもできる。
【0105】
あるいは、本発明の方法を用いて、固相表面を処理するには、例えば、予め、プラズマ処理、ならびに活性エステル化処理を施した後、直ちにブロッキング剤を溶媒に溶解した溶液に、容器を浸漬し、乾燥させる方法、または、容器の内表面に前記溶液を塗布し、乾燥させる方法等によって、容易に、容器の表面に皮膜を形成することができる。
【0106】
前記処理は、共有結合的にブロッキング剤を表面固定化するために、分析が終了であっても、適当な洗浄操作を行うことにより、そのまま繰り返し使用することができる。
【0107】
そして、本発明は、本発明の基板生産方法によって生産された基板を包含することは当然に理解される。
【0108】
1つの実施形態において、B)該含酸素官能基に対し、有機物質の固着を低減する物質を該基板本体に固定する工程は、任意の固定化工程を用いて行うことができる。たとえば、活性化試薬を用いて、含酸素官能基と有機物質の固着を低減する物質とを結合することができることが理解される。
【0109】
本発明の基板生産方法において採用される実施形態は、本明細書において(基板)において記載される任意の好ましい実施形態の手法を採用することができることが理解される。
【0110】
例示的な実施形態では、本発明の製造方法の工程B)は、カルボキシル基を活性化試薬(たとえば、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS))により活性化し、カルボキシル基を介して有機物質の固着を低減する物質を化学結合させることを包含する。
【0111】
具体的な実施形態では、本発明の工程B)は、活性化した表面に対して、有機物質の固着を低減する物質としてアミノ基を少なくとも1残基以上含む物質を1種類以上、共有結合によりカップリングさせることを包含する。このような手法により、カルボキシル基などの含酸素官能基と有機物質の固着を低減する物質としてアミノ基を少なくとも1残基以上含む物質とをスムーズに結合させることができる。このようなカップリングの条件は、当業者が、おのおののカルボキシル基などの含酸素官能基と有機物質の固着を低減する物質としてアミノ基を少なくとも1残基以上含む物質との組み合わせに応じて適宜選択して決定することができる。そして、そのような選択、決定においては、たとえば、泉屋信夫、加藤哲夫、青柳東彦、脇道典、「ペプチド合成の基礎と実験」、丸善、1985.日本生化学会編、新生化学実験講座1「タンパク質IV」、東京化学同人、1992などの参考文献を参照することができる。
【0112】
(製品)
本発明は、本発明の基板を備える製品を提供する。そのような製品としては、たとえば、生化学デバイス、マイクロ化学デバイス、および容器などを挙げることができる。
【0113】
本明細書では、本発明において分析の対象となる、被分析物(analyte)を検出するための物質または被分析物には、バイオ特異的結合対、例えば、抗原もしくはハプテンと抗体、オリゴ核酸とそれにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、酵素とその基質糖とレクチン、ホルモンとその受容体タンパク質、アビジン(ストレプトアビジンを包含する)とビオチン(テスチオビオチン、イミノビオチン、アミノビオチンを包含する)が挙げられる。したがって、特異的結合対の一員は、上記の結合対を形成するいずれか一方などの反応を行うものであり得る。
【0114】
かような物質(これ自体が被分析物であってもよい)が固定化された基材表面は、固相の形態にあり、これらの物質を検出するためのバイオアッセイチップ、バイオセンサー等の表面であり、それらの表面の素材は、本発明の目的に沿うものであれば、いかなるものであってもよい。しかし、基材表面は、当該技術分野で通常用いられている電気化学センサー表面、表面プラズモン(SPR)センサー表面、水晶発振センサー表面、固相化酵素免疫アッセイ(ELISA)用マイクロプレート表面(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン製)、タンパク質ブロットもしくは核酸ブロット用プラスチック表面(例えば、ニトロセルロース等のセルロース誘導体、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン製)、核酸のハイブリダイゼーション用マイクロアレイ表面(例えば、ガラス、プラスチック製)表面などが好ましい。また、基材および基材表面が一体となるような例としては、プラスチック製の多孔質粒子表面、およびこれらの粒子のいずれか一種を含むラテックス粒子表面等が好ましい例として挙げられる。そして、上述のようなバイオセンサー表面の処理だけでなく、キャピラリー電気泳動用カラム表面、その他のマイクロ流路表面を処理するための材料としても有用である。このような表面は試料溶液の流れに対して安定であり、また、例えば生体試料中のタンパク質等の吸着を抑制して、目づまり等を防止できる。
【0115】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0116】
以下、実施例により、本発明の構成をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において使用した試薬類は、特に言及した場合を除いて、市販されているものを使用した。
【実施例】
【0117】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。
【0118】
〔実施例1〕
(ポリスチレン表面の改質1:酸素プラズマ処理)
表面加工が施されていないポリスチレン製イムノアッセイ用96穴マイクロタイタープレート(以下、PSプレートと略記)を、ヤマトマテリアル(株)製真空プラズマ装置PDC−210のチャンバー内に入れ、真空度が10 Paに到達した後、酸素ガス100ccをチャンバー内に注入した。その後チャンバー内の酸素ガス雰囲気、ならびに試料表面の酸素ガス環境を均一に保つため、プラズマを照射させるまでに、30〜120秒の待機時間を設けた。その後、高周波出力300Wで、プラズマを5〜120秒間照射した。
【0119】
〔実施例2〕
(ポリスチレン表面の改質2:二酸化炭素プラズマ処理)
表面加工が施されていないPSプレートを、真空プラズマ装置のチャンバー内に入れ、真空度10 Paに達した後、二酸化炭素ガス100ccをチャンバー内に注入し、プラズマを照射させるまでの待機時間を30秒とした。その後、高周波出力300W、または500Wで、プラズマを5〜60秒間照射した。
【0120】
〔実施例3〕
(プラズマ処理プレートの表面分析)
X線光電子分光法(以下、XPS)によりプラズマ処理表面の分析を行った。表面官能基を精密に分析できる手法として、気相化学修飾法を用いた。この手法によるXPS測定で、ポリスチレンに酸素プラズマを照射したプレート、及び二酸化炭素プラズマを照射したプレート表面のカルボキシル基の割合を分析した。カルボキシル基の定量は、トリフルオロエタノールを用いた気相化学修飾法により行い、下式に従い、カルボキシル基の存在割合を算出した。
【0121】
[数1]
COOH={ [F1s]/(3[C1s] − 2[F1s])r}×100
ここに、
COOH:XPS測定材質中のカルボキシル基存在割合(%)
[F1s]:XPS測定結果中のフッ素存在割合(原子比)
[C1s]:炭素存在割合
r:カルボキシル基含有材料のXPS実測値と理論値の比率
である。
結果の一例を表1に示す。表に示す通り、酸素、または二酸化炭素プラズマ照射により、ポリスチレン表面にカルボキシル基が導入された。
【0122】
(表1 各処理プレートのカルボキシル基導入率[%])
【0123】
【表1】

プラズマ処理は、より高いエネルギー量で行うほうが好ましい。たとえば、二酸化炭素プラズマでは、300Wで行ったときと500Wで行ったときと比べて、カルボキシル基の導入率が、エネルギー量に比例する以上に改善された。したがって、エネルギー量はより多いほうが好ましいといえる。酸素プラズマが二酸化炭素プラズマよりも用いられる。理論に束縛されることを望まないが、酸素プラズマ30秒間でほぼ二酸化炭素プラズマに迫るカルボキシル基導入率を達成したからである。
【0124】
〔実施例4〕
(ポリスチレン表面の改質3:プラズマ処理プレート表面の無吸着化)
プラズマ処理によって表面に露出したカルボキシル基を利用して、表面に本発明の表面処理剤により、表面を無吸着化した。0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸ナトリウム(MES)緩衝液(pH6.0)+0.5M NaCl溶液を調製し、この中に2mMのN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)と5mMの1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)を添加して作製した水溶液中に、PSプレートを15分間浸漬し、表面を活性エステル化した。その後、所定濃度のオリゴアミンを有するポリエチレングリコール誘導体を含む0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)を350μlずつ各ウェル内に添加し、室温で15分間振とうしてブロッキングし、表面を無吸着化した。
【0125】
〔実施例5〕
(酸素プラズマ処理プレートを無吸着化した表面に対するイムノグロブリンの吸着評価)
本発明の酸素プラズマ法により作製した無吸着性96穴タイタープレート(待機時間30秒、プラズマ照射時間30秒)に対するイムノグロブリンG(IgG)の吸着量を、未処理ポリスチレン表面、ならびにタンパク性ブロッキング剤(スキムミルク)と比較した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識IgGを4000倍希釈したものを100μlずつ加え、3,3’,5,5 ’−テトラメチルベンジジン(TMB)を発色基質として用い、450nmの吸光度により、吸着量を評価した。その結果を図1に示す。酸素プラズマ照射を含む本発明の工程を使用することにより、タンパク質吸着量が顕著に減少した。
【0126】
〔実施例6〕
(同じくアビジンの吸着評価)
本発明の方法により作製した無吸着性96穴タイタープレート(待機時間30秒、プラズマ照射時間30秒)に対するアビジンの吸着量を、未処理ポリスチレン表面と比較した。アルカリホスファターゼ(AP)標識アビジンを10000倍希釈したものを100μlずつ加え、蛍光基質4−メチルウンベリフェリルリン酸(4−MUP)を用いて、355nm励起、460nmの蛍光強度により、その吸着量を評価した。未処理表面を100とした比率を指標として、その結果を図2に示す。本発明の方法を用いることにより、アビジンの非特異吸着量が未処理表面に比べて約1/20になると同時に、従来法のスキムミルクを用いる方法に比べても、顕著に吸着量が減少した。
【0127】
〔実施例7〕
(二酸化炭素プラズマ処理プレートを無吸着化した表面に対するイムノグロブリンの吸着評価)
二種類の二酸化炭素プラズマ処理プレート(出力500W、プラズマ照射時間60秒、および出力300W、プラズマ照射時間60秒)に対して実施例4と同様の方法で作製した、無吸着性96穴タイタープレートに対するイムノグロブリンG(IgG)の非特異吸着量を実施例5の方法に従って評価した。また、洗浄に対する耐性も同時に評価した。ブロッキング溶液を除去して、超純水または重炭酸ナトリウム緩衝液で洗浄した後、プレートをペーパータオル上で数回叩いて水分を除去した。HRP標識IgGを5000倍希釈したものを各ウェルに50μLずつ加え、室温にて、1時間振とうした。350μLのTBSTで3回洗浄した後、TMBを50μL加え、室温30分振とう後、1規定硫酸を50μL加えて反応を停止し、450nm−650nmの吸光度を測定した。
【0128】
その結果を図3(出力500W)、図4(出力300W)にそれぞれ示す。二酸化炭素プラズマ処理を行うことにより、酸素プラズマ処理に比べ、カルボキシル基密度が増大するため、本発明の工程を用いる場合、より効果的である。また、PEGが表面に対して共有結合する割合が増えるため、洗浄してもほとんど溶出することがなく、吸着抑制効果が維持される。
【0129】
(比較例)
本発明の効果を確認するために、未処理のポリスチレンプレートの吸着を確認した。実験としては、上記実施例において、使用したプレートを変更した以外は同じ条件を用いた。
【0130】
結果を図5に示す。
【0131】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、種々の試験装置・器具を構成する材料として用いることができる疎水性固相表面への有機物質(例えばペプチド、タンパク質、核酸、及び細胞)の結合を低減した低結合性固相表面を提供する。したがって、処理表面を有する製品(例えば実験器具)を利用するすべての産業において利用可能性を見出す。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明における酸素プラズマ処理―活性エステル(NHS)処理―ブロッキング処理の工程を用いた表面に対するHRP標識免疫グロブリンG(IgG) の非特異的結合を、処理を施していないポリスチレン表面と比較したグラフである(n=4)。プレートA:NHS処理プレートに対して、分子量5000のPEG−オリゴアミンでブロッキングしたもの、プレートB:同じく分子量2000のPEG−オリゴアミンでブロッキングしたもの。
【図2】本発明における酸素プラズマ処理―活性エステル(NHS)処理―ブロッキング処理の工程を用いた表面に対するアルカリホスファターゼ(AP)標識アビジンの非特異的結合を、処理を施していないポリスチレン表面、およびスキムミルクと比較したグラフである(n=4)。
【図3】本発明における二酸化炭素プラズマ処理(出力500W、照射時間60秒)―活性エステル(NHS)処理―ブロッキング処理の工程を用いた表面に対するHRP標識IgGの非特異的結合を示すグラフである(n=16)。
【図4】本発明における二酸化炭素プラズマ処理(出力300W、照射時間60秒)―活性エステル(NHS)処理―ブロッキング処理の工程を用いた表面に対するHRP標識IgGの非特異的結合を示すグラフである(n=16)。
【図5】本発明の対照として用いた未処理のプレートにおける吸着実験の結果を示す。プラズマ照射処理および活性エステル(NHS)処理を施さないプレートでは、本発明のブロッキング剤の効果はほとんど認められない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性固体表面を有する基板であって、該基板は、基板本体を備え、該基板本体の表面の少なくとも一部は、疎水性固体表面を有し、該疎水性固体表面は、含酸素官能基と、該含酸素官能基と結合された有機物質の固着を低減する物質を有する、
基板。
【請求項2】
前記結合は、共有結合である、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記基板本体がプラスチック製である請求項1記載の基板。
【請求項4】
前記プラスチックが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、及びそれらの共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である請求項3記載の基板。
【請求項5】
前記プラスチックが、ポリスチレンおよびその共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である請求項3記載の基板。
【請求項6】
前記含酸素官能基が、前記表面に対する、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理および紫外線照射処理よりなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の処理を含む酸化処理により配置される請求項1記載の基板。
【請求項7】
前記含酸素官能基が、含酸素気体雰囲気下でのプラズマ処理により配置されたものである、請求項1記載の基板。
【請求項8】
前記含酸素官能基が、空気下、酸素雰囲気下または二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理により配置されたものである、請求項1記載の基板。
【請求項9】
前記プラズマ処理において、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満であることを特徴とする請求項8記載の基板。
【請求項10】
前記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、請求項8記載の基板。
【請求項11】
前記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項10記載の基板。
【請求項12】
前記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項10記載の基板。
【請求項13】
前記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項10記載の基板。
【請求項14】
前記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、請求項9記載の基板。
【請求項15】
前記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14記載の基板。
【請求項16】
前記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14記載の基板。
【請求項17】
前記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14記載の基板。
【請求項18】
前記含酸素官能基が、カルボニル基を含むものである請求項1記載の基板。
【請求項19】
カルボニル基がカルボキシル基である請求項18に記載の基板。
【請求項20】
前記有機物質の固着を低減する物質は、
[化1]
R1−L1−(RO)−L2−X−R2
(式中、R1、R2は、水素原子、官能基、保護された官能基、またはリガンドを表し、Rは、炭素数1以上の直鎖状または分岐アルキル基、L1、L2は、相互に独立した連結基または原子価結合を表し、Xは、疎水性固相表面と結合し得るドメインを表す。)
である、請求項1に記載の基板。
【請求項21】
前記有機物質の固着を低減する物質は、アミノ基を少なくとも1残基以上含む物質である、請求項1に記載の基板。
【請求項22】
前記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含む物質である、請求項1に記載の基板。
【請求項23】
前記有機物質の固着を低減する物質が、ポリアルキレンエーテルを分子内に有する高分子およびポリペプチドを有する高分子より選択される少なくとも1種類以上を含む物質物である請求項1に記載の基板。
【請求項24】
前記有機物質の固着を低減する物質が、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を含む物質である、請求項1に記載の基板。
【請求項25】
前記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含むポリエチレングリコール誘導体である、請求項1に記載の基板。
【請求項26】
前記有機物質が、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパク、または生物細胞であることを特徴とする請求項1記載の基板。
【請求項27】
基板を生産する方法であって、該方法は:
A)基板本体の少なくとも一方の表面のうちの少なくとも一部を酸化処理して、含酸素官能基を導入する工程;
B)該含酸素官能基に対し、有機物質の固着を低減する物質を該基板本体に固定する工程、
を包含する、方法。
【請求項28】
前記固定は、共有結合を形成することによって達成される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記基板本体がプラスチック製である請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記プラスチックが、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、飽和環状ポリオレフィン、ポリアクリレート、及びそれらの共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記プラスチックが、ポリスチレンおよびその共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種以上である請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記酸化処理が、該表面に対する、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理、及び紫外線照射処理よりなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の処理を含むものである請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記酸化処理が、含酸素気体雰囲気下でのプラズマ処理を含むものである請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記酸化処理が、空気下、酸素雰囲気下、または二酸化炭素雰囲気下でのプラズマ処理を含むものである請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記プラズマ処理において、少なくとも100Wのエネルギー量で処理時間が5秒以上120秒未満であることを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記プラズマ処理において、さらに、活性化試薬による処理が行われる、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記含酸素官能基が、カルボニル基を含むものである請求項27に記載の方法。
【請求項45】
カルボニル基がカルボキシル基である請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記工程B)は、前記カルボキシル基を活性化試薬により活性化し、前記カルボキシル基を介して有機物質の固着を低減する物質を化学結合させることを包含する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記活性化試薬が、酸塩化物、酸無水物およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記活性化試薬が、カルボジイミド類、スクシンイミド類またはその組み合わせである、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記活性化試薬が、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(S−NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記工程B)は、前記活性化した表面に対して、前記有機物質の固着を低減する物質としてアミノ基を少なくとも1残基以上含む物質を1種類以上、共有結合によりカップリングさせることを包含する、請求項27に記載の方法。
【請求項51】
前記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含む物質である、請求項27に記載の方法。
【請求項52】
前記有機物質の固着を低減する物質が、ポリアルキレンエーテルを分子内に有する高分子およびポリペプチドを有する高分子より選択される少なくとも1種類以上を含む物質である、請求項27に記載の方法。
【請求項53】
前記有機物質の固着を低減する物質が、1級アミノ基を分子内に少なくとも1個以上有するポリエチレングリコール誘導体を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項54】
前記有機物質の固着を低減する物質は、オリゴアミンを含むポリエチレングリコール誘導体である、請求項27に記載の方法。
【請求項55】
前記有機物質の固着を低減する物質は、
[化2]
R1−L1−(RO)−L2−X−R2
(式中、R1、R2は、水素原子、官能基、保護された官能基、またはリガンドを表し、Rは、炭素数1以上の直鎖状または分岐アルキル基、L1、L2は、相互に独立した連結基または原子価結合を表し、Xは、疎水性固相表面と結合し得るドメインを表す。)
である、請求項27に記載の方法。
【請求項56】
前記有機物質が、タンパク質、核酸、脂質、糖類、糖タンパクまたは生物細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項57】
請求項27〜56のいずれか1項に記載の方法によって生産された、基板。
【請求項58】
請求項1〜26および57のいずれか1項に記載の基板を備える、製品。
【請求項59】
前記製品は、生化学デバイス、マイクロ化学デバイス、および容器からなる群より選択される、請求項58に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−33341(P2011−33341A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241618(P2007−241618)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(507312390)株式会社ナノビオテック (1)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】