説明

低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法

【課題】低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法に関して、短時間で目的の粘度が得られ、エーテル化反応工程後の解重合を爆発の危険を回避して安全に行うことができる製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させるステップと、上記反応後に解重合を行うステップとを少なくとも含んでなる、ヒドロキシプロポキシ基置換度が9.5〜16.0質量%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分野、医薬品分野等で利用されるセルロースエーテルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水溶性セルロースエーテルを低粘度化する解重合方法としては、過酸化水素やハロゲン化水素等の揮発性の酸やオゾンを用いる方法等が挙げられる。しかし、これらの方法は、試薬が高価であったり、試薬が製品中に残存したり、特殊な装置を必要とする等の理由から、工業的に実用化することは難しいと考えられる。
【0003】
そこで、特許文献1において、アルカリセルロース製造工程における反応器内の酸素量を調整することが提案されている。アルカリの存在下、酸素とセルロースの反応(解重合反応)によりセルロースの重合度が低下するので、酸素量が多い程、粘度の低いセルロースエーテルが得られる。酸素は空気中に存在するものを利用できるので、特殊な装置を必要とせず、しかも製品中に残留しないため有効な方法である。ここで、パルプは酸素と接触するだけでは解重合されず、アルカリと接触するに従って反応器内の酸素と反応し、解重合される。
また、一般的にエーテル化反応工程後の解重合は、アルカリセルロース製造工程時の解重合と比較して爆発の危険性があるため、エーテル化反応工程後の解重合は可能な限り回避されてきた。これらのことから、水溶性セルロースエーテルの解重合は、アルカリが多く存在し、エーテル化剤による爆発の危険性のないアルカリセルロース製造工程中に行われているのが通例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−264001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水不溶性でアルカリ水溶液に可溶な低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、アルカリセルロース製造工程で添加する水酸化アルカリが触媒として働くため、エーテル化反応工程後においても反応系中にアルカリが多く存在する。このことから、本発明者らは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの解重合は、アルカリセルロース製造中及びエーテル化反応工程後から選択することが可能と考えた。
また、本発明者らは、エーテル化反応工程後の解重合は、アルカリセルロース製造中の解重合に比べて解重合速度が速いため、短時間で目的の粘度が得られると考えた。ここで、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造工程では、反応、解重合といった反応器を必要とする一連の工程時間が、製造工程全体の時間の中でも大きな割合を占めている。そのため解重合時間を短縮することは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース全体の製造時間短縮に寄与し、生産効率の向上に繋がる。
しかし、エーテル化反応が十分進行しなかった場合、反応器内にエーテル化剤である酸化プロピレンが残存してしまい、反応器内の酸素濃度及び酸化プロピレンの濃度次第では、反応器内が酸化プロピレンの爆発範囲に入る可能性がある。
本発明は、短時間で目的の粘度が得られるエーテル化反応工程後の解重合を安全に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、エーテル化反応工程後に解重合を行うことによって、短時間で目的の粘度が得られ、特に好ましくは反応器内の酸素濃度を調整することにより、酸化プロピレンによる爆発の危険性を回避して安全に解重合することが可能であることを見出し、本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法に到達した。
本発明は、アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させるステップと、上記反応後に解重合を行うステップとを少なくとも含んでなる、ヒドロキシプロポキシ基置換度が9.5〜16.0質量%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、短い解重合時間で目的とする粘度の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを爆発の危険性を回避して安全に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に関して更に詳しく説明する。
アルカリセルロースは、好ましくは原料パルプとアルカリ金属酸化物溶液とを接触させて得られる。具体的には、原料パルプにアルカリ金属酸化物溶液を直接滴下又は噴霧する方法の他、原料パルプをアルカリ金属酸化物溶液に浸漬後、圧搾して余剰のアルカリ金属酸化物溶液を除く方法等が挙げられるが、前者の方法が本発明により適している。
【0009】
原料パルプには、木材パルプ、リンターパルプ等が挙げられ、シート状、粉砕した粉末状等、形状に限定されることなく使用できる。また、パルプの重合度は目標とするセルロースエーテルの粘度に応じて適宜選択可能である。
【0010】
アルカリ金属酸化物溶液は、アルカリセルロースが得られれば特に制限されないが、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液、特に好ましくは経済的観点から水酸化ナトリウム水溶液である。また、アルカリ金属酸化物溶液の濃度は、好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは30〜40質量%である。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が20質量%より低い場合には、エーテル化反応が十分に進行しない場合がある一方、50質量%を超えると、調製されたアルカリセルロースの組成が不均一となってしまい、均一な解重合が行われない場合がある。
【0011】
接触により得られるアルカリセルロース生成物は、アルカリセルロース、アルカリ金属酸化物溶液、水から少なくとも構成され、アルカリ金属酸化物溶液量と水量は、エーテル化反応効率への影響及び反応時に生成される不純物量に影響を与える。
【0012】
エーテル化剤との反応に供する最適なアルカリセルロース生成物の組成は、原料パルプにアルカリ金属酸化物溶液を直接滴下又は噴霧する方法では、アルカリセルロース中のセルロースに対するアルカリ金属酸化物溶液の質量比は、好ましくは0.1〜0.6、更に好ましくは0.2〜0.45であり、アルカリセルロース中のセルロースに対する水の質量比は、好ましくは0.3〜1.5、更に好ましくは0.45〜1.0である。原料パルプをアルカリ金属酸化物溶液に浸漬後、圧搾して余剰のアルカリ金属酸化物溶液を除く方法では、アルカリセルロース中のセルロースに対するアルカリ金属酸化物溶液の質量比は、好ましくは0.1〜1.0、更に好ましくは0.2〜0.8であり、アルカリセルロース中のセルロースに対する水の質量比は、好ましくは0.1〜2.0、更に好ましくは0.3〜1.0である。アルカリセルロース中のセルロースに対するアルカリ金属酸化物水溶液量又は水量が上記の範囲より小さいと、エーテル化反応が十分に進行せず、工業的に非効率となる場合がある。一方、アルカリセルロース中のセルロースに対するアルカリ金属酸化物水溶液量又は水量が上記の範囲より大きいと、反応時に生成される不純物量が多くなり、所望のヒドロキシプロピル基置換度のものが得られない場合がある。
【0013】
アルカリセルロースの調製後は、反応機内の不活性ガス(好ましくは窒素又はヘリウム)置換を行う。これによって次に行われるエーテル化反応時に反応器内の酸素濃度を低下させ、安全にエーテル化反応が可能である。また、不活性ガス置換を行い反応器内の酸素量を一定基準以下に保つことで、粘度にばらつきのない低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造が可能である。
【0014】
次のエーテル化反応では、アルカリセルロースと酸化プロピレンとを反応器内で十分に混合して行われる。酸化プロピレンの添加量は、アルカリセルロース中のセルロースに対するモル比で0.15〜0.2、特に0.18〜0.2の範囲で反応を行うことが好ましい。酸化プロピレンの添加量が0.15未満又は0.2を超えると、ヒドロキシプロポキシル基が所定量置換されない場合がある。
【0015】
反応温度は、30℃〜80℃、特に50℃〜70℃が好ましい。反応温度が30℃より低いと、エーテル化反応に長時間を有するため、経済的に不利になる場合がある。また80℃より高いと、所望以上のヒドロキシプロポキシル基が置換される場合がある。反応時間は1〜5時間程度が好ましい。酸化プロピレンの添加方法は、所定量を一度に反応器内に添加する方法、数回に分けて反応器内に添加する方法、期間を定めて連続的に添加する方法等のいずれの方法でも実施可能である。
【0016】
エーテル化反応工程の初期は、酸化プロピレン添加により反応器内圧は上昇する。その後、エーテル化反応の進行とともに酸化プロピレンが消費されるため、反応機内圧は徐々に減少して、やがて酸化プロピレン添加前と等しくなる。このため、エーテル化反応工程は、全ての酸化プロピレンが消費され、反応器内圧が酸化プロピレン添加前と等しくなったときまでとする。
【0017】
本発明における解重合は、短時間で目的の粘度が得られることから、エーテル化剤添加後に行うことが特徴である。ここで、本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの目的粘度とは、酸素の供給を行わない方法で得られる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粘度より低い粘度を言い、具体的には20℃における2質量%水溶液の粘度を該解重合前よりも好ましくは20〜50%、特に好ましくは35〜40%低下させることをいう。
【0018】
解重合反応は、反応器内部を十分に撹拌しながら行うのが好ましい。これによってアルカリ金属酸化物溶液、酸素又は酸素を含むガス、熱をセルロースエーテルに均一に分布させることが可能である。
【0019】
本発明で用いるエーテル化剤である酸化プロピレンは、可燃性ガスである。可燃性ガスの燃焼には、可燃性ガス、酸素、着火源の3要素が共存することが必須条件であるが、その中でも着火源や可燃性ガスを完全に除去や調整することは困難である。そのため、火災、爆発を防ぐためには不活性ガス(窒素等のガス)を添加して酸素濃度を調整する必要がある。ここで、可燃性ガスが燃焼を継続するのに必要な最小酸素濃度は、可燃性ガス、空気(酸素)、不活性ガスからなる三角図から読み取ることが可能である。
【0020】
上記の理由から本発明では、エーテル化反応工程後の解重合を安全に行うため、エーテル化反応後の反応器内酸素濃度の調整を行うことが好ましい。反応器内の酸素濃度は、反応器内のガスの種類、反応器内の空間容積、気圧、ガス温度等が分かれば、気体の法則に基づいて計算することが可能である。酸素濃度の調整方法は、例えば反応器内のガスを排気した後、窒素ガス、ヘリウムガス等の酸素を含まないガスを再充填する方法、酸素を含まないガスを通気して置換を行う方法等によって反応機内の真空度を調整する。この操作によって酸素を含むガスを反応器内に再充満させる際に、反応器内に入る酸素量を調整可能である。酸素供給後は、外部から酸素が入り込まないように反応器を密閉系にする。
【0021】
酸素の供給は、酸素ガス又は空気等の酸素を含むガスを用いることができ、空気を用いる場合、安価で安全性も高いため好ましい。酸素の供給方法は、反応器に酸素ガス又は酸素を含むガスを圧入する方法、反応器内のガスを一旦排気した後に酸素を含むガスを充満させる方法等がある。
【0022】
本発明においてエーテル化反応後の解重合時の酸素濃度は、好ましくは7.8体積%未満、更に好ましくは3〜7.5体積%、特に好ましくは5〜7体積%である。酸素濃度が7.8体積%以上だと、爆発範囲に近づいてしまい、危険性が高くなるため好ましくない場合がある。
【0023】
解重合時の反応機内酸素濃度は、用いるパルプの重合度、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの目的粘度、酸素と低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの解重合温度、解重合反応時間により適宜定めることができる。
【0024】
解重合反応を行った後の反応生成物は、通常の方法による精製工程を経て低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとなる。得られる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのヒドロキシプロポキシ基置換度は、9.5〜16.0質量%、好ましくは10.0〜13.0質量%、より好ましくは10.3〜11.2質量%である。ヒドロキシプロポキシ基置換度が9.5質量%より低いと短時間で目的の粘度が得られない。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
容積144リットルの内部撹拌構造を有する反応器に、粉末状パルプを8kg仕込んだ。次に撹拌条件下、35質量%水酸化ナトリウム水溶液6.32kgを6分間添加し、引き続き14分間撹拌し、アルカリセルロースを製造した。
その後、反応器内の窒素置換を行った。窒素置換後、反応器を60℃に保ちながら、プロピレンオキサイド1.48kgを加え75分間エーテル化反応させた。
エーテル化反応後、撹拌条件下において反応器内ゲージ圧をマイナス0.080MPaまで減圧した後、窒素で反応器内をマイナス0.0145MPaまで復圧した。その後、空気供給弁を開いて0MPaまで復圧し、速やかに反応器の真空弁及び空気供給弁を閉じた。この操作により、反応器内の酸素濃度を3.0体積%に調整し、エーテル化反応品の解重合を行った。解重合は酸素濃度調整開始から36分間行った。引き続き反応器内の窒素置換を行った後、反応品を取り出した。
双軸ニーダーに45℃の温水17.5kgと29質量%酢酸水溶液0.5kg及び反応生成物7.04kgを入れ、反応生成物の一部を溶解させた。その後29質量%酢酸水溶液4.7kgを入れ反応生成物を析出させた。析出物を90℃の熱水で洗浄後、遠心洗浄機で脱水し、得られたケーキを乾燥させ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
20℃における10質量%水酸化ナトリウム水溶液中の2質量%低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粘度を、B型回転粘度計を用いて回転数30rpmで測定したところ、103.5mPa・sであった。また、ヒドロキシプロポキシ基置換度は11.0%であった。
【0026】
<実施例2>
容積144リットルの内部撹拌構造を有する反応器に、粉末状パルプを8kg仕込んだ。次に撹拌条件下、35質量%水酸化ナトリウム水溶液6.32kgを6分間添加し、引き続き14分間撹拌し、アルカリセルロースを製造した。
その後、反応器内の窒素置換を行った。窒素置換後、反応器を60℃に保ちながら、プロピレンオキサイド1.48kgを加え75分間エーテル化反応させた。
エーテル化反応後、撹拌条件下において反応器内ゲージ圧をマイナス0.080MPaまで減圧した後、窒素で反応器内をマイナス0.024MPaまで復圧した。その後、空気供給弁を開いて0MPaまで復圧し、速やかに反応器の真空弁及び空気供給弁を閉じた。この操作により、反応器内の酸素濃度を5.0体積%に調整し、エーテル化反応品の解重合を行った。解重合は酸素濃度調整開始から30分間行った。引き続き反応器内の窒素置換を行った後、反応品を取り出し、その後は実施例1と同様方法で行った。
得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの20℃における10質量%水酸化ナトリウム水溶液中の2質量%低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粘度を、B型粘度計を用いて回転数30rpmで測定したところ、100.7mPa・sであった。また、ヒドロキシプロポキシ基置換度は10.4%であった。
【0027】
<実施例3>
容積144リットルの内部撹拌構造を有する反応器に、粉末状パルプを8kg仕込んだ。次に撹拌条件下、35質量%水酸化ナトリウム水溶液6.32kgを6分間添加し、引き続き14分間撹拌し、アルカリセルロースを製造した。
その後、反応器内の窒素置換を行った。窒素置換後、反応器を60℃に保ちながら、プロピレンオキサイド1.48kgを加え75分間エーテル化反応させた。
エーテル化反応後、撹拌条件下において反応器内ゲージ圧をマイナス0.080MPaまで減圧した後、窒素で反応器内をマイナス0.0336MPa まで復圧した。その後、空気供給弁を開いて0MPaまで復圧し、速やかに反応器の真空弁及び空気供給弁を閉じた。この操作により、反応器内の酸素濃度を6.8体積%に調整し、エーテル化反応品の解重合を行った。解重合は酸素濃度調整開始から27分間行った。引き続き反応器内の窒素置換を行った後、反応品を取り出し、その後は実施例1と同様方法で行った。
得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの20℃における10質量%水酸化ナトリウム水溶液中の2質量%低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粘度を、B型粘度計を用いて回転数30rpmで測定したところ、102.2mPa・sであった。また、ヒドロキシプロポキシ基置換度は10.9%であった。
【0028】
<実施例4>
容積144リットルの内部撹拌構造を有する反応器に、粉末状パルプを8kg仕込んだ。次に撹拌条件下、35質量%水酸化ナトリウム水溶液6.32kgを6分間添加し、引き続き14分間撹拌し、アルカリセルロースを製造した。
その後、反応器内の窒素置換を行った。窒素置換後、反応器を60℃に保ちながら、プロピレンオキサイド1.52kgを加え75分間エーテル化反応させた。
エーテル化反応後、撹拌条件下において反応器内ゲージ圧をマイナス0.080MPaまで減圧した後、窒素で反応器内をマイナス0.0336MPa まで復圧した。その後、空気供給弁を開いて0MPaまで復圧し、速やかに反応器の真空弁及び空気供給弁を閉じた。この操作により、反応器内の酸素濃度を6.8体積%に調整し、エーテル化反応品の解重合を行った。解重合は酸素濃度調整開始から27分間行った。引き続き反応器内の窒素置換を行った後、反応品を取り出し、その後は実施例1と同様方法で行った。
得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの20℃における10質量%水酸化ナトリウム水溶液中の2質量%低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粘度を、B型粘度計を用いて回転数30rpmで測定したところ、104.0mPa・sであった。また、ヒドロキシプロポキシ基置換度は12.0%であった。
【0029】
<比較例1>
容積144リットルの内部撹拌構造を有する反応器に、粉末状パルプを8kg仕込んだ。次に反応器内ゲージ圧をマイナス0.069MPaまで減圧した後、窒素で反応器内を大気圧まで復圧を行い、速やかに反応器の真空弁及び空気供給弁を閉じた。この操作によって、解重合時の反応器内酸素濃度を7.0体積%に調整した。続いて撹拌条件下、35質量%水酸化ナトリウム水溶液6.41kgを10分間添加し、アルカリセルロースを製造した。この結果、アルカリセルロースの製造は酸素濃度調整開始から15分間かかった。
アルカリセルロース製造後、反応器を60℃に保ちながら撹拌を行い、セルロースの解重合を行った。解重合は水酸化ナトリウムを投入開始から45分間まで行った。
解重合後、反応器内の窒素置換を行った後、反応器を60℃に保ちながら、プロピレンオキサイド1.48kgを加え75分間反応させた。
エーテル化反応後、引き続き反応器内の窒素置換を行った後、反応品を取り出した。
双軸ニーダーに45℃の温水17.5kgと29質量%酢酸水溶液0.5kg及び反応生成物7.04kgを入れ、反応生成物の一部を溶解させた。その後29質量%酢酸水溶液4.7kgを入れ反応生成物を析出させた。析出物を90℃の熱水で洗浄後、遠心洗浄機で脱水し、得られたケーキを乾燥させ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
20℃における10質量%水酸化ナトリウム水溶液中の2質量%低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粘度を、B型粘度計を用いて回転数30rpmで測定したところ、103.1mPa・sであった。また、ヒドロキシプロポキシ基置換度は10.8%であった。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させるステップと、
上記反応後に解重合を行うステップとを少なくとも含んでなる、
ヒドロキシプロポキシ基置換度が9.5〜16.0質量%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【請求項2】
上記アルカリセルロースが、パルプとアルカリ金属酸化物溶液を接触させて得られる請求項1に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【請求項3】
上記解重合が、反応器内の酸素濃度を調整することにより行われる請求項1又は請求項2に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。
【請求項4】
上記解重合が、反応器内の酸素濃度を7.8体積%未満として行われる請求項1〜3のいずれかに記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。

【公開番号】特開2012−82397(P2012−82397A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196133(P2011−196133)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】