説明

低耐圧性酵母の作出方法並びに発酵食品の製造方法並びに発酵食品の非加熱殺菌による発酵停止方法並びに発酵食品

【課題】非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって殺菌が可能となる低耐圧性酵母の作出方法、並びにこの低耐圧性酵母を用いた発酵食品の製造方法、並びにこの低耐圧性酵母を用いて製造する発酵食品の殺菌方法、並びにこの低耐圧性酵母を用いて製造する発酵食品を提供すること。
【解決手段】サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株から静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母をスクリーニングし、この低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させた後、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって殺菌が可能となる低耐圧性酵母の作出方法、並びに低耐圧性酵母を用いた発酵食品の製造方法、並びに低耐圧性酵母を用いて製造する発酵食品の非加熱殺菌による発酵停止方法、並びに低耐圧性酵母を用いて製造する発酵食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌、醤油、酒などの発酵・醸造食品は、いずれも酵母の発酵作用を利用して製造されている。
【0003】
また、これらの発酵・醸造食品は、通常、一定の発酵・熟成期間を経過した後、過発酵などを防ぐために濾過や加熱処理により酵母の分離、殺菌が行われる。
【0004】
例えば、味噌は50〜70℃で60分、醤油は70〜85℃で10〜30分の加熱処理が行われる。また、清酒ではおり引き、濾過した生酒を60〜70℃で10分間加熱処理して殺菌と酵素の失活を行う。
【0005】
しかし、このような従来の分離・殺菌方法では、加熱処理を伴うことで食品の風味、色合いが変化してしまう恐れがあり、加熱処理後には速やかに冷却する必要があるなど、手間を要するものであった。
【0006】
さらに均一な加熱処理が必要であり、この加熱処理が不十分であると、残存する酵母による過発酵や、炭酸ガスの発生によりパック詰めされた製品の膨れが起こって商品価値が失われるなどの問題もある。
【0007】
そこで、このような問題を解決するために、従来、特開平7−213277号(特許文献1)のように発酵・熟成後、0〜15℃の低温域において発酵を抑える方法や、特開2004−73063号(特許文献2)のように低温感受性酵母と乳酸菌を併用した発酵食品の製造方法が提案されている。
【0008】
しかし、これらの方法では酵母が殺菌されるわけではないので、新たに発酵後の温度管理が必要となってしまうものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−213277号公報
【特許文献2】特開2004−73063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発酵(醸造)食品において、発酵・熟成後に食品の有用成分を変質させず、色合いを損なわずに酵母を殺菌できる方法が望まれている。
【0011】
出願人は、これまでに圧力処理(高圧処理とも称される。)をテーマに食品に対する様々な研究・実験を行っており、この圧力処理によって上記課題を解決できないかと考えていた。
【0012】
この圧力処理は、およそ100MPa以上の圧力を加えて食品の加工・殺菌を行う技術で、従来から、ジャム、米飯、めんつゆ、加工玄米等のほかに、味噌、醤油などの発酵食品の製造にも用いられているという実績がある。
【0013】
また、非加熱殺菌技術であるこの圧力処理は、食品の有用成分を変質させずに、酵母だけを選択的に殺菌することが可能であり、さらには、一般的に酵母の殺菌には300MPa、10分以上の圧力処理を行えばよいこともわかっている。
【0014】
従って、この圧力処理によれば、発酵・熟成後に食品の有用成分を変質させず、色合いを損なわずに酵母を殺菌できるのではないかと出願人は着目したのである。
【0015】
しかし、実験を繰り返したところ、300MPa、10分間の圧力処理を行っても、酵母によっては生残する可能性があり、確実とは言えない結果であった。
【0016】
300MPa以上の圧力を加えれば、さらに高い殺菌効果が得られることになるのであるが、処理設備が大型化・高額化して処理コスト高ともなるほか、食品にも加熱殺菌と同様に有用成分の低減、色合いの変化が生じてしまい、非加熱殺菌としての利点を生かすことができなくなってしまう。また、圧力値が高すぎると、ケフィアヨーグルトを代表とする酵母と乳酸菌の並行複合発酵食品においては、酵母だけでなく、発酵後でも有用な乳酸菌まで死滅させてしまう恐れもある。
【0017】
出願人は、このような現状に鑑み、何とか非加熱殺菌技術である圧力処理を利用して食品の変質・色合いの変化などを生じずに酵母を殺菌できる方法はないかと研究を進めた末に、発想の転換を図り、予め圧力に対して耐性の低い酵母を用いて発酵食品を製造すれば、その後の圧力処理によって確実に酵母を殺菌できるのではないかと着眼した。
【0018】
しかし、従来、低耐圧性の酵母を作出する手法はなく、出願人は先ず、低耐圧性酵母の作出方法について研究を行った。そして、鋭意研究し試行錯誤した末に、低耐圧酵母にはいくつかの特性があることを見出し、この特性から低耐圧性酵母をスクリーニングする方法を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は、非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって簡単に殺菌可能となる低耐圧性酵母の作出方法を提供するものである。
【0020】
また、さらに本発明は、例えば、前記低耐圧性酵母の作出方法で取得した酵母を用いた発酵食品の製造方法、並びに低耐圧性酵母を用いて製造した発酵食品の非加熱殺菌による発酵停止方法、並びに低耐圧性酵母を用いて製造した発酵食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0022】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、20℃以下の低温域での増殖が可能な酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法に係るものである。
【0023】
また、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を、0℃から20℃までの低温域内で段階的に温度を変更して培養することにより、この低温域にて増殖が可能な酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする請求項1記載の低耐圧性酵母の作出方法に係るものである。
【0024】
また、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、栄養型細胞のサイズが、その菌株内の各酵母が持つ栄養型細胞の平均サイズよりも大きい酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法に係るものである。
【0025】
また、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を培養し集菌した後、生理食塩水に懸濁し、この懸濁液から自然沈下法あるいは遠心分離法あるいは密度勾配遠心法あるいはエルトリエータロータ分離により形態サイズが大きい酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする請求項3記載の低耐圧性酵母の作出方法に係るものである。
【0026】
また、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、湿度20%以下の低湿度条件下での増殖が困難な酵母、あるいは湿度80%以上の高湿度条件下での増殖が可能な酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法に係るものである。
【0027】
また、前記請求項1〜5のいずれか2項以上の低耐圧性酵母の作出方法を併用して酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法に係るものである。
【0028】
また、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の低耐圧性酵母の作出方法によって作出した低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させることを特徴とする発酵食品の製造方法に係るものである。
【0029】
また、前記低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させた後、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行うことを特徴とする請求項7記載の発酵食品の製造方法に係るものである。
【0030】
また、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の低耐圧性酵母の作出方法によって作出した低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させた発酵食品に、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行って低耐圧性酵母を殺菌し発酵を停止させることを特徴とする発酵食品の非加熱殺菌による発酵停止方法に係るものである。
【0031】
また、食材を、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の低耐圧性酵母の作出方法によって作出した低耐圧性酵母を用いて発酵させて成ることを特徴とする発酵食品に係るものである。
【0032】
また、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、静水圧1MPa以上300MPa以下の圧力処理を行うことでコロニーの形成が認められない酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得し、この低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させて成ることを特徴とする発酵食品に係るものである。
【0033】
また、前記食材を、前記低耐圧性酵母を用いて発酵させた後、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行って低耐圧性酵母を殺菌し発酵を停止させて成ることを特徴とする請求項10,11のいずれか1項に記載の発酵食品に係るものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明は上述のようにしたから、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理によって、即ち非加熱殺菌の利点を損なわない圧力値での圧力処理によって簡単に殺菌可能な酵母を作出可能となる極めて実用性に秀れた画期的な低耐圧性酵母の作出方法となる。
【0035】
また、請求項2,4記載の発明においては、一層簡易に且つ確実に低耐圧性酵母を作出できることとなる。
【0036】
また、請求項6記載の発明においては、一層精度良く効果的に低耐圧性酵母を作出できることとなる。
【0037】
また、請求項7,10,11記載の発明においては、低耐圧性酵母を用いて、清酒、ビール、ワイン、パン、醤油、味噌等各種の発酵食品をこれまで通りの方法にて容易に製造可能となる上、この低耐圧性酵母は、既存の圧力処理設備での圧力処理にて殺菌可能であるので、大型で高額な圧力処理設備を要せず且つ加熱処理を要せずして簡易に殺菌処理が行われると共に、殺菌処理によって有用成分が変質したり、色合いが損なわれたりすることもないなど、極めて実用性に秀れた画期的な発酵食品の製造方法並びに発酵食品となる。
【0038】
また、請求項8,12記載の発明においては、大型で高額な圧力処理設備を要せずして、圧力処理により確実に有用成分や色合いを損なわずに酵母を殺菌可能となり、この酵母の殺菌により過発酵を防止できる一層実用性に秀れた発酵食品の製造方法並びに発酵食品となる。
【0039】
また、請求項9記載の発明においては、発酵食品の酵母を大型で高額な圧力処理設備を要せずして、圧力処理により有用成分や色合いを損なわずに殺菌可能となり、この酵母の殺菌により過発酵を防止できる極めて実用性に秀れた画期的な発酵食品の非加熱殺菌による発酵停止方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフある。
【図2】実施例2によりスクリーニングした酵母(平均粒形の大きい酵母)と平均粒形の小さい酵母とを示す比較顕微鏡写真である。
【図3】実施例2でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【図4】実施例3でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【図5】実施例4でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【図6】実施例5でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0042】
・請求項1記載の発明
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株から、20℃以下の低温域での増殖が可能な酵母をスクリーニングする。
【0043】
具体的には、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を、0℃から20℃までの低温域内で段階的に温度を変更して培養することにより、この低温域にて増殖が可能な酵母をスクリーニングする。
【0044】
更に詳しくは、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株(突然変異処理を施していない菌株)または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株をYPD寒天培地等のプレート上に、形成されるコロニー数が200個程度となるように接種する。
【0045】
プレートを0℃にて7日間程度まで培養し、コロニーの形成(増殖性の良否)を確認する。0℃にて良好に形成されるコロニーがある場合は、それを白金耳等で釣菌し、低耐圧性酵母の候補として、再び培養を行う。
【0046】
0℃にてコロニーの形成が見られないか、各コロニーの生育能の有意差が見られない場合は培養温度を2℃程度上げて、再度7日間程度まで培養を行い、コロニーの形成を確認する。
【0047】
2℃での培養において、コロニーの形成が良好であるものが認められる場合は、そのコロニーを釣菌し、低耐圧性酵母の候補として培養を行う。
【0048】
以下、同様にして0℃から20℃程度までの適宜選択した低温域で3日から7日程度培養後にコロニーの形成の有無を確認し、コロニーの形成が良好であれば低耐圧性酵母の候補として培養し、コロニーの形成が見られないか、各コロニーの生育能の有意差が見られない場合は培養温度を段階的に上げて培養を行うという手順を繰り返して、低温にて増殖が良好であるコロニーを選抜する。
【0049】
このようにして選抜された酵母は、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を施すことによって殺菌されることが出願人の実験により確認されている。即ち、一般的な酵母の培養至適温度が30℃前後であるのに対し、低耐圧性の酵母は、0℃〜20℃程度の低温域にて良好に増殖するという特性を有することを見い出し、この特性を利用して低耐圧性菌株をスクリーニングすることに成功した。
【0050】
・請求項3記載の発明
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株から、栄養型細胞のサイズが、その菌株内の各酵母が持つ栄養型細胞の平均サイズよりも大きい酵母をスクリーニングする。
【0051】
具体的には、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を培養し集菌した後、生理食塩水に懸濁し、この懸濁液から自然沈下法あるいは遠心分離法あるいは密度勾配遠心法あるいはエルトリエータロータにより形態サイズが大きい酵母(栄養型細胞のサイズが大きい酵母は形態サイズが大きい。)をスクリーニングする。
【0052】
更に詳しくは、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を培養し、集菌、洗浄後に、適当な菌濃度になるように生理食塩水に懸濁する。
【0053】
懸濁液の菌濃度は好ましくは10〜10/ml程度であり、菌体の凝集塊を解離させるために、懸濁液を超音波装置に低出力条件にて15〜30秒程度かけるとよい。
【0054】
このようにして調整した懸濁液から、例えば、自然沈降法、遠心分離法、密度勾配遠心法、エルトリエータロータなどの方法により形態上のサイズが大きい酵母を選抜する。
【0055】
例えば、自然沈降法としては、適当な濃度に調整したショ糖溶液等に菌液を懸濁し、一定時間静置し、細胞密度の大きいものを沈降させる。酵母等の微生物においては、概して栄養型細胞のサイズの大きいものの方が細胞密度が大きく、細胞密度の小さいものはサイズが小さい。
【0056】
よって一定時間静置後の沈殿物を採取することにより、栄養型細胞のサイズの大きい酵母を分離することが可能である。
【0057】
また、密度勾配遠心法としては、例えば60%ショ糖溶液などの密度の高い液体を遠沈管の底におき、15%ショ糖などの密度の低い液体を上部において、その間を密度が順次変わるように調整する。
【0058】
また、もう一つの密度勾配を作る方法として、塩化セシウム溶液のように強い遠心を施すとその遠心力により自然に密度勾配が生じるものもある。
【0059】
このような方法により形成した密度勾配液の上層部に適当に希釈した菌液を静かに重層し、一定時間放置した後、遠心分離機にかけると、各溶液層の密度に応じて酵母を密度ごとに分離することができる。
【0060】
また、エルトリエータロータは、遠心力と懸濁液を流す流速に応じて、種々の大きさに応じて、各フラクションとして分離することができる。
【0061】
酵母のサイズとして、出芽酵母であるサッカロミセス・セレビシエの一倍体細胞では長径5μm程度の卵形をしており、二倍体細胞はそれより若干大きく、両端が多少とがったようなレモン形をしている。
【0062】
上記のような方法により、酵母を栄養型細胞のサイズごとに分離する場合、予め光学顕微鏡、ミクロメーター等で混在する酵母のサイズ、形態等を観察しておく必要があり、好ましくはフローサイトメトリー法などにより懸濁液中の酵母の粒度分布を計測しておくことが望ましい。
【0063】
酵母の分離、分画は、好ましくは1μm程度ごとの範囲が望ましいが、手法や使用する装置にもよるため、確認した懸濁液中の酵母サイズ、形態をもとに、適切な手法、装置を選択することとする。
【0064】
選抜する酵母のサイズの基準として、特に明確なものはないが、概ね全体の細胞サイズの粒径分布のうち、サイズの大きい方から10%以下の範囲を対象に選抜を行うものとする。
【0065】
このようにして選抜された酵母は、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理によって殺菌されることが出願人の実験により確認されている。即ち、低耐圧性の酵母は、栄養型細胞のサイズが、菌株内の各酵母が持つ栄養型細胞の平均サイズよりも大きいという特性を有することを見い出し、この特性を利用して低耐圧性菌株をスクリーニングすることに成功した。
【0066】
・請求項5記載の発明
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、湿度20%以下の低湿度条件下での生育が困難な酵母、あるいは湿度80%以上の高湿度条件下での生育が可能な酵母をスクリーニングする。
【0067】
具体的には、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を、湿度20%以下の低湿度条件下で培養してこの低湿度条件下で増殖が困難な酵母をスクリーニングするか、若しくはサッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を、湿度80%以上の高湿度条件下で培養してこの高湿度条件下で増殖が可能な酵母をスクリーニングする。
【0068】
更に詳しくは、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株をYPD培地等のプレート上に形成されるコロニー数が200程度となるように接種する。
【0069】
プレートを30℃などの適当な温度と、湿度10%以下の低湿度条件下にて3日から7日間程度の培養を行い、生育が悪く増殖性の悪い菌株、つまり形成されるコロニーの小さいものを選抜する。
【0070】
あるいは30℃、湿度90%以上の高湿度条件下にて良好に生育し増殖する菌株、つまり形成されるコロニーの大きいものを選抜する。
【0071】
本方法により、低湿度条件下にて増殖が困難である酵母、高湿度条件下にて増殖が良好である酵母、つまり乾燥に対して耐性の弱い酵母を選抜することが可能である。
【0072】
このようにして選抜された酵母は、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理によって殺菌されることが出願人の実験により確認されている。即ち、低耐圧性の酵母は、湿度20%以下の低湿度条件下にて増殖が特に困難であり、湿度80%以上の高湿度条件下にて増殖が良好であること、即ち乾燥に対して耐性が弱いという特性を有することを見い出し、この特性を利用して低耐圧性菌株をスクリーニングすることに成功した。
【0073】
・請求項6記載の発明
上記した請求項1、請求項3、請求項5の3つの低耐圧性酵母の作出方法のうちのいずれか2つ以上を併用して酵母をスクリーニングすると、より精度良く効果的に低耐圧性酵母を作出できる。
【0074】
尚、これら作出方法の併用数や、順序は特に限定されるものではない。また、選択した2つ以上の各作出方法を順序だてて行う必要性はなく、例えば2つの方法を同時的に行うことも可能である。
【0075】
・請求項7,10記載の発明
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株から低耐圧性酵母をスクリーニングし、この低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させて発酵食品とする。
【0076】
具体的には、例えば、上記した請求項1、請求項3、請求項5、請求項6の4つの作出方法にて作出した低耐圧性酵母を用いる。そして、この低耐圧性酵母を用いて、定法に従い食材を発酵させて清酒、ビール、ワイン、パン、醤油、味噌等各種の発酵食品を製造する。
【0077】
この低耐圧性酵母を用いて製造した本発明の発酵食品は、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で低耐圧性酵母を殺菌可能である。
【0078】
尚、本発明でいう「発酵食品」とは、酵母による発酵作用を利用して製造される醸造食品も含む意味合いで用いている。
【0079】
・請求項9記載の発明
低耐圧性酵母(例えば、上記した請求項1、請求項3、請求項5、請求項6の4つの作出方法にて作出した低耐圧性酵母)を用いて食材を発酵させて製造された発酵食品(例えば、請求項7記載の発明で製造した発酵食品や請求項10記載の発明の発酵食品)は、例えば、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行うことで十分に酵母を殺菌可能となる。
【0080】
このような圧力値での圧力処理は、既存の圧力処理設備で問題なく行うことができるので、追加の設備投資を必要とせず、また、食品の変質・色合いの変化なども生じない。
【0081】
即ち、本発明によれば、新たに大型で高額な設備を要せずとも、有用成分や色合いを損なわずに発酵食品の酵母を殺菌でき、この酵母の殺菌により発酵を停止させて過発酵を防止できる。
【0082】
・請求項11記載の発明
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、1MPa以上300MPa以下の圧力処理を行うことでコロニーの形成が認められない酵母をスクリーニングする。
【0083】
具体的には、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を容体内に封入して静水圧にて1MPa以上300MPa以下の圧力処理を行い、この圧力処理後、3日〜7日程度培養してコロニーの形成が認められない酵母をスクリーニングする。
【0084】
更に詳しくは、例えば、サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を適当に希釈し、プレート上に形成されるコロニーが200個程度となるように接種し、これをマスタープレートとする。
【0085】
レプリカ平板法により、マスタープレートよりレプリカを作製する。
【0086】
菌液を接種したプレートを軟質製のプラスチックパウチに入れ、なるべく空気が混入しないようにヒートシールした後、例えば静水圧200MPaで圧力処理を行う。
【0087】
圧力処理後にパウチを開封し、無菌的に滅菌シャーレ等に移し、30℃にて3日から7日間程度培養する。
【0088】
また、作製したレプリカ平板のうちのもう一方は、圧力処理を施さない無処理区として30℃、3日から7日間程度培養を行う。
【0089】
これより、無処理区ではコロニーを形成し、圧力処理区ではコロニーが形成されないものを低耐圧性酵母として選抜する。
【0090】
このほかにマスタープレートより、白金耳等で各コロニーを採取し、プラスチック樹脂性チューブに入れた液体培地あるいは生理食塩水に懸濁する。
【0091】
各コロニーに対して、2本ずつチューブを用意し、なるべくチューブ内に空気が残存しないように液体培地あるいは生理食塩水等を満たす。
【0092】
ここで使用するチューブは例えばマイクロチューブなどのように圧力処理に耐えうるものであればよい。
【0093】
菌液を懸濁したチューブごと例えば静水圧200MPaにて圧力処理を行い、処理後の菌液をプレートに接種する。
【0094】
30℃にて3日から7日間程度培養し、コロニーの形成されないものを低耐圧性酵母として選抜する。
【0095】
上記のいずれの方法においても、静水圧による圧力処理を200MPaにて行い、生育が認められない場合、圧力条件を100MPa等に下げ、分離された低耐圧性酵母がどの程度の圧力処理にて死滅するのかを必要に応じて限定するものとする。
【0096】
このようにして選抜された酵母は、静水圧200MPa以下の圧力処理を施すことでコロニーが形成されない。即ちこの酵母は、静水圧200MPa以下の圧力処理によって殺菌される。
【0097】
尚、この選抜(スクリーニング)方法は直接的に低耐圧性酵母を得られる有効な手法であるが、多数の菌株を扱う必要があり、上記した他の手法と比べると効率が良いとはいえない。よって、例えば、請求項6の2つ以上の作出方法を併用する場合において、他のスクリーニング方法を一次スクリーニングとし、本方法を2次スクリーニングとして用いるような用法とすることが望ましい。
【0098】
このようにしてスクリーニングした低耐圧性酵母を用いて、食材を発酵させて発酵食品とする。
【0099】
この低耐圧性酵母を用いて製造した本発明の発酵食品は、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で低耐圧性酵母を殺菌可能である。
【実施例1】
【0100】
本発明の具体的な実施例1について図1に基づいて説明する。
【0101】
本実施例における対象菌株としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエに属する酵母菌株で、突然変異処理を施していない野生菌株、または突然変異処理した株を対象とすることができる。突然変異処理は、X線、UV照射、エチルメタンスルホン酸(EMS)、ニトロソグアニジン(NTG)処理など何らかの方法で行うものとする。通常、変異処理後の生存率が10%以下となるように処理を行う。これ以上生存率を低くすると、余分な変異が生じ、好ましくない。変異処理は、2倍体の酵母でもよいが、1倍体の胞子株を用いる方がより効率的である。
【0102】
また、本実施例に使用する培地としては、炭素源、窒素源、無機イオン、さらに必要に応じて有機微量栄養素を含有する通常の培地が使用できる。例えば、YPD寒天培地(酵母エキス、グルコース、ポリペプトン、寒天、蒸留水)、YM寒天培地(酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、グルコース、寒天、蒸留水、pH5〜6)等が用いられる(液体培地では寒天を除く)。培養方法として、例えば30℃、3日間培養し、遠心分離(3000rpm、10分)にて集菌後、生理食塩水で2回遠心洗浄し、適当な菌濃度になるように生理食塩水に懸濁する。
【0103】
培養は一般的な条件でよく、培養温度は一般に20〜30℃、好ましくは30℃前後、培養日数は1〜7日間、好ましくは3日間程度である。
【0104】
変異処理を行う場合、この懸濁液をUV、NTG、EMSなどの変異剤を用いて、生存率がおよそ10%以下になるように処理し、遠心集菌後、生菌数が約4×10程度になるように液体培地に懸濁し、30℃、12時間振とう培養する。
【0105】
尚、以上の点は、後述の実施例2〜5においても同様である。
【0106】
Saccharomyces cerevisiae NBRC1136(生物基盤技術評価研究所 分譲株)の野生株をYM培地にて30℃、3日間初期培養を行った。
【0107】
菌体を3000rpm、3分間の遠心分離により回収した後、滅菌水を5ml添加して洗浄した。
【0108】
この洗浄操作を2回繰返した後、適当な濃度となるように生理食塩水に懸濁した。
【0109】
懸濁液を希釈した後、プレート上に形成されるコロニー数が200程度となるように接種した。
【0110】
0℃で3日から7日間程度培養を行い、コロニーの形成の有無を日々確認した。
【0111】
コロニーの形成が認められない場合、20℃までの低温域内で温度を2℃ずつ段階的に上げながら培養を行い、低温域にて増殖可能なコロニーを形成させた。
【0112】
その結果、10℃、5日から7日間にて目視で確認できる程度のコロニーが形成され、その中より、特に生育の良好なものを複数個(10〜20個程度)白金耳にて採取し、YM培地にて再び30℃、3日間培養を行い、これを低耐圧性株として取得した。
【0113】
その後、取得した低耐圧性株に200MPaの圧力処理を行って耐圧性を評価した。
【0114】
図1は、本実施例でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【0115】
この結果から、無処理の酵母は、殺菌に300MPa程度の圧力処理を要するが、本実施例でスクリーニングした酵母は、200MPa程度の圧力処理で殺菌が可能であることが確認された。
【0116】
尚、ここでいう圧力処理は、水などの液体を媒体とした静水圧処理をいい、以下に記載する実施例2〜5の圧力処理もすべてこれを意味している。
【実施例2】
【0117】
本発明の具体的な実施例2について図2,図3に基づいて説明する。
【0118】
実施例1と同様にして調整した懸濁液を、CR22GII形高速冷却遠心機(日立工機(株)製)、R5E形エルトリエータロータ(日立工機(株)製)からなるエルトリエータ分離システムにより、栄養細胞のサイズによる各フラクションごとに分画を行い、栄養型細胞のサイズが、菌株内に存在する菌の栄養型細胞の平均サイズよりも大きい酵母(低耐圧性株)を取得した(図2参照。)。処理条件として、温度4℃、回転速度3000rpm、流速9ml/min〜23ml/minである(表1参照。)。
【0119】
【表1】

【0120】
図3は、本実施例でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【0121】
この結果から、無処理の酵母は、殺菌に300MPa程度の圧力処理を要するが、本実施例でスクリーニングした酵母は、200MPa程度の圧力処理で殺菌が可能であることが確認された。
【実施例3】
【0122】
本発明の具体的な実施例3について図4に基づいて説明する。
【0123】
実施例1と同様に調整した菌液を形成されるコロニー数が200程度となるようにプレートに接種する。30℃、湿度90%にて培養を開始し、経時的にコロニー形成の様子を確認した。
【0124】
3日から7日間程度の培養にて目視でコロニーの形成が確認でき、その中で特に生育性の良好であるものを10〜20個程度を白金耳にて採取し、YM培地にて再び30℃、3日間培養を行い、これを低耐圧性株として取得した。
【0125】
その後、取得した低耐圧性株を含む菌液を200MPaまでの圧力処理を行って耐圧性を評価した。
【0126】
図4は、本実施例でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【0127】
この結果から、無処理の酵母は、殺菌に300MPa程度の圧力処理を要するが、本実施例でスクリーニングした酵母は、200MPa程度の圧力処理で殺菌が可能であることが確認された。
【実施例4】
【0128】
本発明の具体的な実施例4について図5に基づいて説明する。
【0129】
実施例1と同様にして調整した懸濁液について、凝集塊を破壊したり、また成熟した出芽娘細胞をその母細胞より分離したりするために、菌の希釈液を軽く超音波処理(低出力で10〜15秒)し、その後無菌ペトリ皿に移し紫外線照射を行った。
【0130】
紫外線照射は、滅菌シャーレに5ml採取し、5cmの距離から出力15Wの殺菌灯にて行った。殺菌灯は松下電工製のGL-15殺菌灯を用いた。
【0131】
処理後の菌液をYM寒天培地に段階希釈した後に接種し、30℃、3日間培養した。
【0132】
コロニーの形成されたプレートをマスタープレートとして、レプリカを作製した。
【0133】
レプリカした平板培地を無菌的にパウチに封入し、なるべく空気を排出しつつ、ヒートシールして密封した。
【0134】
密封した平板培地ごと200MPaの圧力処理を行なった後、無菌的に開封し、再び滅菌シャーレに移して、30℃、3日程度培養させてコロニーを形成させた。
【0135】
無処理区と比較して、コロニーの形成されないものを低耐圧性酵母として取得した。
【0136】
本実施例での紫外線照射後の生菌数は2.3×10(処理前は6.3×10)であり、紫外線照射による殺菌率は99.9%である。
【0137】
また、紫外線照射後に形成されたコロニー100個をレプリカし、そのうち200MPaの圧力処理で死滅するコロニーを2個取得した。
【0138】
また、取得した2個のコロニーを増殖させ、100MPaの圧力処理で死滅するものは0個であった。
【0139】
図5は、本実施例でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【0140】
この結果から、無処理の酵母は、殺菌に300MPa程度の圧力処理を要するが、本実施例でスクリーニングした酵母は、200MPa程度の圧力処理で殺菌が可能であることが確認された。
【実施例5】
【0141】
本発明の具体的な実施例5について図6に基づいて説明する。
【0142】
本実施例は、前記実施例1と前記実施例4を組み合わせた場合である。
【0143】
実施例1と同様に調整した菌液を形成されるコロニー数が200程度となるようにプレートに接種する。
【0144】
10℃にて7日間程度培養を行い、形成されるコロニーのうち、特に生育の良好なもの約300個を採取して、プレートに移し、マスタープレートとした。
【0145】
マスタープレートより、レプリカを作製し、実施例4と同様に圧力処理を施し、低耐圧性酵母を取得した。
【0146】
本実施例では低耐圧性酵母の一次スクリーニングとして実施例1の方法により、約300個のコロニーを分離した。
【0147】
その後、二次スクリーニングとして実施例4の方法により、4個の低耐圧性酵母を取得した。
【0148】
実施例1あるいは実施例4単独でのスクリーニング方法に比べて、高確率で低耐圧性酵母をスクリーニングすることができた。
【0149】
図6は、本実施例でスクリーニングした酵母と無処理の酵母との各圧力条件における耐圧性を検証したグラフである。
【0150】
この結果から、無処理の酵母は、殺菌に300MPa程度の圧力処理を要するが、本実施例でスクリーニングした酵母は、200MPa程度の圧力処理で殺菌が可能であることが確認された。
【実施例6】
【0151】
本発明の具体的な実施例6について説明する。
【0152】
本実施例は、低耐圧性酵母を用いた発酵食品の製造方法である。
【0153】
具体的には、例えば、上記した5つの作出方法にて作出した低耐圧性酵母を使用する。
【0154】
この低耐圧性酵母を用いて、定法に従い食材を発酵させて清酒、ビール、ワイン、パン、醤油、味噌等各種の発酵食品を製造可能である。
【0155】
続いて、この発酵食品に200MPa以下の圧力処理を行うことで酵母を殺菌する。
【0156】
このような圧力値での圧力処理は、既存の圧力処理設備で問題なく行うことができるので、追加の設備投資を必要とせず、また、食品の変質・色合いの変化なども生じない。
【0157】
従って、本発明によれば、新たに大型で高額な設備を要せずとも、有用成分を変質させず、色合いを損なわずに発酵食品の酵母を選択的に殺菌できる。
【0158】
尚、本発明は、実施例1〜6に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、20℃以下の低温域での増殖が可能な酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法。
【請求項2】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を、0℃から20℃までの低温域内で段階的に温度を変更して培養することにより、この低温域にて増殖が可能な酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする請求項1記載の低耐圧性酵母の作出方法。
【請求項3】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、栄養型細胞のサイズが、その菌株内の各酵母が持つ栄養型細胞の平均サイズよりも大きい酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法。
【請求項4】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株を培養し集菌した後、生理食塩水に懸濁し、この懸濁液から自然沈下法あるいは遠心分離法あるいは密度勾配遠心法あるいはエルトリエータロータ分離により形態サイズが大きい酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする請求項3記載の低耐圧性酵母の作出方法。
【請求項5】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、湿度20%以下の低湿度条件下での増殖が困難な酵母、あるいは湿度80%以上の高湿度条件下での増殖が可能な酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか2項以上の低耐圧性酵母の作出方法を併用して酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得することを特徴とする低耐圧性酵母の作出方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の低耐圧性酵母の作出方法によって作出した低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させることを特徴とする発酵食品の製造方法。
【請求項8】
前記低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させた後、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行うことを特徴とする請求項7記載の発酵食品の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の低耐圧性酵母の作出方法によって作出した低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させた発酵食品に、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行って低耐圧性酵母を殺菌し発酵を停止させることを特徴とする発酵食品の非加熱殺菌による発酵停止方法。
【請求項10】
食材を、前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の低耐圧性酵母の作出方法によって作出した低耐圧性酵母を用いて発酵させて成ることを特徴とする発酵食品。
【請求項11】
サッカロミセス属の野生酵母菌株または突然変異処理を施したサッカロミセス属の酵母菌株について、静水圧1MPa以上300MPa以下の圧力処理を行うことでコロニーの形成が認められない酵母をスクリーニングすることで、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理で殺菌可能な低耐圧性酵母を取得し、この低耐圧性酵母を用いて食材を発酵させて成ることを特徴とする発酵食品。
【請求項12】
前記食材を、前記低耐圧性酵母を用いて発酵させた後、静水圧1MPa以上300MPa以下の非加熱での圧力処理を行って低耐圧性酵母を殺菌し発酵を停止させて成ることを特徴とする請求項10,11のいずれか1項に記載の発酵食品。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−175979(P2012−175979A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−111299(P2012−111299)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【分割の表示】特願2007−340439(P2007−340439)の分割
【原出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(593201958)越後製菓株式会社 (22)
【Fターム(参考)】