説明

低膨張ガラス及びペースト状ガラス組成物

【課題】熱膨張係数の低い無機材料を基材として、装飾、絶縁、防錆等の機能を有するガラス質被膜を形成するために有効に使用できる低熱膨張ガラスを提供し、更に、これらの無機材料に対してガラス質被膜を形成するために適したガラス組成物を提供する。
【解決手段】酸化物基準で、SiO 30〜50重量%、ZnO 10〜35重量%、B 10〜20重量%、LiO 5〜10重量%及びAl 10〜20重量%の組成を有する低膨張ガラス、並びに該ガラスの粉末を含む固形分粉末を有機ビヒクルに分散させてなるペースト状ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張係数の低い無機材料へのガラス質被膜の形成に適した低膨張ガラス及び該ガラスを含むペースト状ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、セラミックスなど各種の基材に対して、装飾、絶縁、防錆等の各種の機能を付与するために、ガラス粉末を含む組成物を塗布し、焼成して、ガラス質被膜を形成することが行われている。
【0003】
しかしながら、SiNや石英ガラス等の熱膨張係数が低い材料に対してガラス質被膜を形成する場合には、通常のガラス粉末を含む組成物を用いると、形成されるガラス被と素材との熱膨張係数の差が大きいために、クラックや剥離が発生し易いという問題がある。
【0004】
このため、熱膨張係数の低い無機材料を基材とする場合にクラックや剥離が発生し難いガラス組成物が望まれている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、低膨張結晶化ガラスを含む装飾用組成物が記載されている。しかしながら、このガラスは、高価なBi2O3を含有するためにコスト的に不利であり、しかも、熱膨張係数についてもより低下させることが望まれる。
【0006】
更に、熱膨張係数の低いガラスとして、SiO2成分、B2O3成分及びZnO成分を特定の比率で含有するガラスが知られている(下記特許文献2参照)。しかしながら、このガラスについても、低熱膨張係数の無機材料に対して適用するためには、熱膨張係数が十分に低いとはいえない。
【0007】
また、下記特許文献3には、主成分としてSiO2を含む低膨張耐熱性結晶化ガラスが記載されている。しかしながら、このガラスは、結晶化のための加熱温度が1000〜1300℃と非常に高温であり、汎用されているガラス組成物の焼き付け工程を利用することができず、しかもエネルギー消費量も多くなるので、コスト的に不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−30834号公報
【特許文献2】特開2009−274902号公報
【特許文献3】特開平1−234344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、熱膨張係数の低い無機材料を基材として、装飾、絶縁、防錆等の機能を有するガラス質被膜を形成するために有効に使用できる低熱膨張ガラスを提供することであり、更に、熱膨張係数を有するガラス質被膜を形成するために適したペースト状のガラス組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、SiO、ZnO、B LiO、及びAl を特定の配合比率で含むガラスは、600〜700℃という比較的低い加熱温度で結晶化が進行して、熱膨張係数の低いガラスとなることを見出した。そして、このガラスを含むペースト状組成物を、基材に塗布し、600〜700℃程度という低温度で焼き付けることによって、低い熱膨張係数を有する結晶化ガラスからなる被膜を形成することができ、熱膨張係数の小さい無機材料に対して、剥離やクラックのない良好な機能性皮膜を形成することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の低膨張ガラス及びペースト状ガラス組成物を提供するものである。
項1. 酸化物基準で下記組成を有する低膨張ガラス:
SiO 30〜50重量%
ZnO 10〜35重量%
10〜20重量%
LiO 5〜10重量%
Al 10〜20重量%。
項2. 600〜700℃で結晶化して、0〜350℃での熱膨張係数が30×10−7/℃以下となる、上記項1に記載の低膨張ガラス。
項3. 上記項1又は2に記載の低膨張ガラスの粉末60〜100重量%と無機物粉末0〜40重量%からなる固形分粉末を有機ビヒクルに分散させてなる、ペースト状ガラス組成物。
項4. 上記項3に記載のペースト状ガラス組成物を基材に塗布し、600〜700℃で加熱することを特徴とする、低膨張係数を有するガラス質被膜を形成する方法。
【0012】
以下、本発明の低膨張ガラス及びペースト状ガラス組成物について具体的に説明する。
【0013】
低膨張ガラス
本発明の低膨張ガラスは、酸化物基準で下記組成を有するものである。
SiO 30〜50重量%
ZnO 10〜35重量%
10〜20重量%
LiO 5〜10重量%
Al 10〜20重量%。
【0014】
この様な特定組成を有するガラスは、600〜700℃に加熱することによって、Li2O-Al2O3-SiO2系の結晶が析出して結晶化が進行し、0〜350℃において30×10−7/℃以下という低い熱膨張係数を有するものとなる。また、本発明の低膨張ガラスの軟化温度は、上記した結晶化温度より低い温度であり、通常、550〜600℃程度である。尚、本願明細書において、0〜350℃での熱膨張係数とは、0℃の試料と350℃の試料の長さを比較して求めた線膨張係数である。
【0015】
この様に、本発明の低膨張ガラスは、600〜700℃の加熱温度で結晶化して低い熱膨張係数を示し、これにより低い温度で軟化挙動を示すことから、被膜形成及び結晶化のために高い加熱温度が必要なく、従来使用されているガラス組成物の塗布、焼き付け装置を用いて膨張係数の低いガラス質被膜を形成することができる。
【0016】
また、上記方法で形成される結晶化後のガラス被膜は、0〜350℃での熱膨張係数が30×10−7/℃以下であり、SiNや石英ガラス等の熱膨張係数が低い無機材料との熱膨張係数の違いが小さく、ガラス質被膜を形成する際に、形成されたガラス質被膜にクラックや剥離が発生することが大きく抑制される。
【0017】
本発明の低膨張ガラスの製造方法については特に限定はなく、従来のガラスと同様の方法で作製することができる。以下、該低膨張ガラスをペースト状組成物への配合に適した粉末として製造する方法の一例を示す。
【0018】
原料としては、従来、一般にガラスの作製に使用されている原料と同様のもの、例えばSi、Zn、B、Li、及びAlの各元素を含む酸化物、炭酸塩、硼酸塩、フッ化物、水酸化物等を用い、溶融時に目的の組成となる量の原料を混合して原料組成物を得る。次いで、この原料組成物を約1000℃以上、通常1100〜1500℃で溶融し、溶融物を水中にて急冷してポップコーン状ガラスとするか或いは水冷ロールに挟んでフレーク状ガラスとする。
【0019】
次いで、上記した方法で得られたガラスを、例えばボールミル中でアルミナボール等を用いて、乾式或いは水系溶媒又は有機溶剤系溶媒にてガラスを湿式粉砕する。湿式粉砕にて得られたスラリーは乾燥機で乾燥してケーキ状とし、その後、篩又は粉砕機等を用いて解砕して粉末状とする。また上記スラリーをスプレードライヤー等を用いて直接粉末化してもよい。
【0020】
かくして得られる低熱膨張ガラス粉末の粒径は、通常0.1〜30μm程度、好ましくは0.5〜20μm程度の範囲にあるのが最適である。従って、粒径が30μmを超える粗大粒子が生成している場合は、例えば気流分級装置や篩等を用いて除いておくのが好ましく、更に10μm以下に制御することがより好ましい。この場合、粒径は、レーザー散乱検出型粒度分布測定装置によって測定した値である。
【0021】
ペースト状ガラス組成物
本発明のペースト状ガラス組成物は、上記した低膨張ガラス粉末を含有するペースト状の組成物であり、これを金属、セラミックス、ガラスなどの各種基材に塗布し、焼き付けることによってガラス質の被膜を形成できる。
【0022】
本発明のペースト状ガラス組成物は、固形分として上記した低膨張ガラス粉末を含有する他に、必要に応じて、ガラス組成物の使用目的に応じた、無機物粉末を含有することができる。
【0023】
無機物粉末の具体例としては、例えば、無機顔料、無機フィラーなどを挙げることができる。これらの無機物粉末は、形成されるガラス質被膜の用途に応じて、適宜選択して用いればよい。
【0024】
これらの内で、無機顔料としては、従来から、ガラス組成物中に顔料成分として使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、CuO・Cr23(ブラック)、MnO・Fe23(ブラック)、TiO2(ホワイト)、CoO・Al23(ブルー)、NiO・Cr23(グリーン)等、及びこれ等の組合せ等を用いることができる。また、無機フィラーとしても、従来からこの種のガラス組成物に利用される各種のものを用いることができる。特に、上記した加熱温度においてメルトしないものを用いればよい。無機フィラーの具体例としては、アルミナ、シリカ、ジルコン、珪酸ジルコン、亜鉛華等の金属酸化物や、ガラス組成物の線膨張係数を調整するための、特に低膨張率の粉末、例えばβ−ユークリプトタイト、β−スポジューメン、コージェライト、溶融シリカ等を挙げることができる。
【0025】
これらの無機物粉末は、本発明のペースト状ガラス組成物の使用目的に応じて、必要に応じて、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0026】
これらの無機物粉末の粒径については特に限定的ではないが、通常は、本発明の低膨張ガラス粉末と同様の粒径、例えば、0.1〜30μm程度の範囲のものを用いればよい。
【0027】
本発明のペースト状ガラス組成物に配合する低融点ガラス粉末と無機物粉末の比率は、特に限定的ではないが、両者の合計量を基準として、低膨張ガラス粉末を60〜100重量%程度と、無機物粉末を0〜40重量%程度とすればよい。
【0028】
本発明のペースト状ガラス組成物は、上記した低膨張ガラス粉末と無機物粉末からなる固形分粉末を有機ビヒクルに分散させてペースト状とすることによって得ることができる。
【0029】
有機ビヒクルとしては、通常のこの種セラミックカラー組成物で使用されるものを用いることができ、具体的には、易燃焼性の樹脂を溶剤に溶解したものを使用できる。ここで、易燃焼性樹脂としては、例えばセルロース樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニールピロリドン樹脂等の熱分解性のよい樹脂が好ましい。また、溶剤としては、例えばパインオイル、α−ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングライコール等の比較的高沸点の溶剤が使用できる。
【0030】
本発明のペースト状ガラス組成物において、固形分に対する有機ビヒクルの配合割合、及びビヒクル中の樹脂と溶剤との使用比率は、様々な施工方法、例えば、ドクターブレード法、ロールコート法、スクリーン印刷法、テーブルコーター、リバースコーター、スプレー法等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常、易燃焼性樹脂と溶剤の混合比率は、両者の合計量を基準として樹脂1〜50重量%程度と溶剤50〜99重量%程度とすればよい。有機ビヒクルの使用量については、例えばスクリーン印刷等に適したペースト状形態に調製する場合、一般には、固形分100重量部に対して有機ビヒクル10〜40重量部程度の範囲が適当である。
【0031】
ペースト状ガラス組成物の用途
かくして得られるペースト状ガラス組成物は、金属、セラミックス、ガラスなどの各種の基材上に、常法に従って施工することができる。塗布方法については、通常慣用される方法と異なるものではなく、例えばスクリーン印刷法、スプレー塗装法、ロールコーター法等に従うことができる。上記スクリーン印刷法は最も簡便であり、部分塗布に適している。
【0032】
基材の種類については特に限定はないが、本発明のペースト状ガラス組成物に配合する低膨張ガラスは600〜700℃に加熱することによって結晶化して進行し、0〜350℃における熱膨張率が、30×10−7/℃以下という低い値を有するものとなる。このため、熱膨張係数の低いSiN、石英ガラス等の無機材料を基材とする場合に、クラックや剥離のないガラス質被膜を形成できる点で有利である。
【0033】
ペースト状ガラス組成物の塗布量については、特に限定的ではなく、目的に応じて適宜決めればよい。例えば、焼き付け後に形成される被膜の厚さとして、10〜35μm程度となるように塗布すればよい。
【0034】
塗布したガラス組成物を焼き付けるための加熱条件については、特に限定的ではないが、600〜700℃程度の温度に加熱して焼き付けることによって、ガラス粉末が軟化が進行して均一なガラス質被膜が形成され、更に、ガラスの結晶化が進行して、熱膨張係数の低いガラス質被膜となる。
【0035】
加熱時間については、塗布厚や処理面積等によって異なるが、通常、600〜700℃の温度範囲における保持時間として、5〜20分間程度とすればよい。焼き付け時の雰囲気については、通常、大気中でよい。
【0036】
上記した方法によれば、0〜350℃において30×10−7/℃以下という低い膨張係数を有するガラス質被膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のペースト状ガラス組成物によって形成される塗膜は、600〜700℃という比較的低い温度で焼き付けることによって均一な被膜となり、同時に、ガラスの結晶化が進行して、熱膨張係数の低いガラス質被膜となる。このため、本発明のペースト状ガラス組成物を用いることによって、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布などの簡単な塗布方法を使用し、汎用されているアルミナ素材に対する焼成工程と同様の焼成工程によって、熱膨張係数の低いガラス質被膜を形成することができる。
【0038】
このため、本発明のペースト状ガラス組成物を用いることによって、SiN、石英ガラス等の熱膨張係数が低い無機材料に対して、従来の熱膨張係数が高い基材に対して適用されている施工方法と同様の処理方法によって、剥離やクラックを生じることなく、各種の機能を有するガラス質被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例を記載して本発明を更に詳細に説明する。
【0040】
実施例1〜13及び比較例1〜4
原料として、SiO2、ZnO、H3BO、Li2CO3、及びAl2O3を用い、これらの原料を下記表1から13に示す酸化物組成比になるように混合し、1250℃にて溶融させ、溶融物を水中にて急冷することでポップコーン状ガラスとした。
【0041】
次いで、ジルコニアボールミルを用いて、ポップコーン状のガラスを湿式粉砕し、得たスラリーを乾燥機で乾燥後、篩いにて粉末状として、平均粒子3.0μmのガラス粉末を作製した。
【0042】
得られたガラス粉末について、熱分析装置(DTA)を用いて加熱した際の第3変曲点と第4変曲点の平均温度を軟化温度とし、発熱ピーク温度を結晶析出温度とした。また、このガラス粉末を用いて680℃で焼結体を形成し、示差熱分析装置(TMA)にて、0〜350℃における熱膨張係数を測定した。更に、得られたガラスカレットの透明性を目視で確認してガラス化の状態を評価した。透明性が良好な場合には均一なガラスが形成されており、失透した場合には、ガラス化されていない部分が存在すると判断できる。
【0043】
次いで、無機顔料として、微粒子状複合酸化物顔料(大日精化工業(株)製ダイピロキサイドブラック#9510)を用い、上記した方法で得たガラス粉末と顔料とを表1及び表2に示す比率で混合した。この混合物100重量部に対して、易燃焼性のエチルセルロース樹脂(ダウケミカル社製、商標名:STD-20)7重量%とα−ターピネオール93重量%からなる有機ビヒクル30重量部を加えて、三本ロールにて分散してペースト状形態に調製した。その際の粘度は10〜25Pa・sであった。
【0044】
上記した方法で得たペーストを石英ガラス基板(大阪ガラス工業(株)製)上に、焼成後の被膜が15〜30μm程度となるようスクリーン印刷し、150℃で10分程度乾燥後、680℃、10分間焼き付けて、ガラス質被膜を形成した。形成されたガラス質被膜について、焼き付き性を評価するためにテープ剥離試験(JIS K5600)を行い、剥離しなければ○、剥離すれば×と判定した。
以上の結果について、下記表1〜3に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
以上の結果から明らかなように、請求項1に記載した組成を有する実施例1〜13のガラス粉末は、均一にガラス化されており、600〜700℃で結晶化し、これより低い温度で軟化することが確認できた。
【0049】
また、該ガラス粉末を配合した実施例1〜13のペースト状組成物によれば、石英ガラス基板上に680℃で焼き付けることによって、密着性のよいガラス質被膜を形成できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準で下記組成を有する低膨張ガラス:
SiO 30〜50重量%
ZnO 10〜35重量%
10〜20重量%
LiO 5〜10重量%
Al 10〜20重量%。
【請求項2】
600〜700℃で結晶化して、0〜350℃での熱膨張係数が30×10−7/℃以下となる、請求項1に記載の低膨張ガラス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低膨張ガラスの粉末60〜100重量%と無機物粉末0〜40重量%からなる固形分粉末を有機ビヒクルに分散させてなる、ペースト状ガラス組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のペースト状ガラス組成物を基材に塗布し、600〜700℃で加熱することを特徴とする、低膨張係数を有するガラス質被膜を形成する方法。

【公開番号】特開2013−103871(P2013−103871A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250736(P2011−250736)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】