説明

低臭アルキルシリル化処理粉体、その製造方法、前記低臭アルキルシリル化処理粉体を分散させたシリコーンオイルスラリーおよび前記低臭アルキルシリル化処理粉体または前記シリコーンオイルスラリーを配合した化粧料

【課題】 化粧料に配合した場合に不快臭を生じさせないように低臭化し、かつシリコーンオイルスラリーが調製しやすいアルキルシリル化処理粉体を提供する。
【解決手段】 平均一次粒子径が1nm〜100μmの金属酸化物粒子と、少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基および少なくとも1つのアルコキシ基を有するアルキルアルコキシシランとを、低級アルコール中で混合し、アルキルアルコキシシランに対して5〜10倍質量の水を1〜100℃の温度下で加えて、アルキルアルコキシシランを加水分解させ、ついで低級アルコールと水を加熱留去して、上記金属酸化物粒子の表面に少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルシランを上記金属酸化物粒子に対して1〜30質量%被覆して低臭アルキルシリル化処理粉体を構成し、それをシリコーンオイルに分散させてシリコーンオイルスラリーを調製し、それらを配合して化粧料を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低臭アルキルシリル化処理粉体、その製造方法、前記低臭アルキルシリル化処理粉体を分散させたシリコーンオイルスラリーおよび前記低臭アルキルシリル化処理粉体または前記シリコーンオイルスラリーを配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄などの金属酸化物粒子は、優れた紫外線遮蔽能を有することから、日焼け止め化粧料をはじめ多くの化粧料に配合されているが、それらの配合に際しては、種々の無機物、有機物を同時に配合したり、表面処理をすることにより、分散性の向上が図られている。
【0003】
しかしながら、金属酸化物粒子は、比重が大きいので、安定に分散させることが難しく、そのため、その表面を有機物で被覆することにより、分散性を向上させることが提案されている。特に最近は、化粧料の主媒体がシリコーン化合物となり、それらの媒体への分散性を向上させる目的で、金属酸化物粒子の表面をシラン化合物で処理することが提案され、特にアルキルシラン化合物で表面処理した粉体、いわゆるアルキルシリル化処理粉体は、化粧料に配合した場合、耐水性に優れ、経時的に安定性が良く、顔料の再分散性に優れていると報告されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、アルキルシリル化処理粉体には、そのアルキルシラン化合物に由来すると考えられる独特の不快臭があり、特に特性を向上させる目的で多量のアルキルシラン化合物で処理した場合には、その不快臭のために化粧料の品質が低下するという問題があった。
【0005】
すなわち、金属酸化物粒子のアルキルシリル化処理は、一般にアルキルアルコキシシランを処理剤として使用し、アルキルアルコキシシランの加水分解を利用して金属酸化物の粒子表面にアルキルシランの被膜を形成することによって行われている。
【0006】
具体的には、アルキルアルコキシシランの水溶液、または、アルキルアルコキシシランと水と低級アルコールとの混合溶液を作製し、これに金属酸化物粒子を添加し混合してスラリー状態にした後、アルキルアルコキシシランを加水分解し、ついで液成分を分離して乾燥することによって行われている。この方法によるアルキルアルコキシシランの加水分解は水の存在下で進んでゆくが、アルキルアルコキシシランが加水分解することにより生ずるシラノール基と金属酸化物の粒子表面に存在する水酸基との間で脱水縮合反応が起こることによって、表面処理が行われ、それによって、金属酸化物の粒子表面がアルキルシランで被覆される。しかしながら、液中で発生したシラノール基は、反応性が高いため、金属酸化物の粒子表面の水酸基と反応する前に、水に不溶のシロキサンポリマーを形成し、形成されたシロキサンポリマーは金属酸化物粒子の表面処理に関与しないため、金属酸化物粒子の表面特性の向上に寄与せず、しかも、上記シロキサンポリマーが形成される際に、未分解(未加水分解)のアルキルアルコキシシランを含有する化合物を取り込み、表面処理後の金属酸化物に未分解のアルキルアルコキシシランなどが残留して、不快臭を発生することになる。
【0007】
上記不快臭の発生問題を解決するため、酢酸などの添加によりpHを弱酸性にする方法が採られることがある。これにより、アルキルアルコキシシランの加水分解性を高めたり、シラノール基の安定性を向上させることができるので、シロキサンポリマーの生成を遅延させることができる。しかしながら、この方法では、アルキルアルコキシシランの加水分解速度が速くなりすぎて、金属酸化物の粒子表面を均一に処理することが困難になるという問題があり、また、酢酸臭が残りやすいという問題もあった。
【0008】
さらに、ミキサーやブレンダーの中に金属酸化物粒子を投入し、攪拌あるいは粉砕しながら、上記金属酸化物にアルキルアルコキシシランやその溶液をスプレーする方法も提案されている。しかしながら、この方法も上述した液系で行われる処理と同様の問題、すなわち、アルキルアルコキシシラン臭に由来する不快臭が発生するという問題と、表面処理が不均一になるという問題を有していた。
【0009】
【特許文献1】特開2000−264824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のようなアルキルシリル化処理粉体に関する問題点を解決し、化粧料に配合した場合に不快臭を生じさせない低臭化したアルキルシリル化処理粉体、その製造方法、上記低臭アルキルシリル化処理粉体を高濃度に分散させたシリコーンオイルスラリーおよび上記アルキルシリル化処理粉体または上記シリコーンオイルスラリーを配合して不快臭のない化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の要旨は、平均一次粒子径が1nm〜100μmの金属酸化物粒子の表面を少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルシランで被覆してなり、そのアルキルシランの被覆量が上記金属酸化物粒子に対して1〜30質量%(金属酸化物粒子100質量部に対してアルキルシラン1〜30質量部)であることを特徴とする低臭アルキルシリル化処理粉体に関するものである。
【0012】
上記低臭アルキルシリル化処理粉体における金属酸化物としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、上記金属酸化物粒子の平均一次粒子径は5nm〜100nmであることが好ましく、上記アルキルシランの被覆量は金属酸化物粒子に対して10〜20質量%であることが好ましく、上記アルキルシランのアルキル基の炭素数は6〜15であることが好ましく、また、上記金属酸化物粒子は、あらかじめ、その表面がSi、Al、Ti、Zrの水酸化物または酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種で処理されたものであってもよい。
【0013】
本発明の第2の要旨は、平均一次粒子径が1nm〜100μmの金属酸化物粒子と、少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基および少なくとも1つのアルコキシ基を有するアルキルアルコキシシランとを、低級アルコール中で混合し、アルキルアルコキシシランに対して5〜10倍質量の水を1〜100℃の温度下で加えて、アルキルアルコキシシランを加水分解させ、ついで低級アルコールと水を加熱留去して、上記金属酸化物粒子の表面に少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルシランを上記金属酸化物粒子に対して1〜30質量%被覆することを特徴とする低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法に関するものである。
【0014】
上記低臭アルキルシリル化処理粉体の製造に際して、上記反応系に対して添加する水の添加時間としては総計で30分〜180分であることが好ましく、また、前記と同様に、その低臭アルキルシリル化処理粉体の製造に際して使用する金属酸化物としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、上記金属酸化物粒子の平均一次粒子径は5nm〜100nmであることが好ましく、上記アルキルシラン化合物の被覆量はアルキルシランの金属酸化物粒子に対して10〜20質量%であることが好ましく、上記アルキルアルコキシシランや上記アルキルシランのアルキル基の炭素数は6〜15であることが好ましく、また、上記金属酸化物粒子は、あらかじめ、その表面がSi、Al、Ti、Zrの水酸化物または酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種で処理されたものであってもよい。
【0015】
本発明の第3の要旨は、前記低臭アルキルシリル化処理粉体をシリコーンオイル中に分散させたことを特徴とするシリコーンオイルスラリーに関するものであって、該シリコーンオイルスラリー中における低臭アルキルシリル化処理粉体の分散量としては30〜70質量%が好ましい。
【0016】
本発明の第4の要旨は、上記低臭アルキルシリル化処理粉体または上記シリコーンオイルスラリーを配合したことを特徴とする化粧料に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体は、金属酸化物粒子の表面へのアルキルシランによる被覆により優れた分散性を有し、かつ、従来のアルキルシリル化処理粉体に比べて、アルキルシラン化合物に由来する不快臭が少ない。
【0018】
また、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体では、金属酸化物粒子の表面へのアルキルシランによる被覆により、分散性が優れているので、例えば、該低臭アルキルシリル化処理粉体をシリコーンオイル中に高濃度に分散させたシリコーンオイルスラリーを調製することができ、それによって、化粧料などの調製にあたっての取り扱いをより容易にすることができる。
【0019】
さらに、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体は、前記のような金属酸化物粒子の表面へのアルキルシランによる被覆により、分散性が優れ、かつ、アルキルアルコキシシランに由来する不快臭が少ないので、不快臭のない化粧料を調製することができる。また、上記のシリコーンオイルスラリーを用いれば、不快臭のない化粧料をより容易に調製することができる。
【0020】
本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体が、アルキルアルコキシシランに由来する不快臭が少ないのは、金属酸化物粒子への表面処理にあたってのアルキルアルコキシシランの加水分解時に、特定量の水を特定時間で添加しているので、得られる粉体表面にはアルキルシランによる均一な被膜が形成され、かつ、不快臭の主原因と考えられる未反応物の残留、ならびに表面処理後の特性に寄与しないシロキサンポリマーの生成の双方を抑制することができたことによるものと考えられる。
【0021】
また、金属酸化物粒子に対する表面処理において、均一な処理、すなわち、均一な被膜形成が行われている場合には、そうでない場合に比べて、シリコーンオイルスラリーにした場合の粘度が低くなる。本発明のアルキルシリル化処理粉体は、従来のアルキルシリル化処理粉体に比べて、シリコーンオイルスラリーを調製したときの粘度が低いので、本発明のアルキルシリル化処理粉体を30質量%以上の高濃度で分散させたシリコーンオイルスラリーを調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のアルキルシリル化処理粉体において、基材となるものは、平均一次粒子径が1nm〜100μmの金属酸化物粒子であるが、その金属酸化物としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄などが好適に用いられる。これらの金属酸化物は、化粧料用途では、一般に、着色剤、紫外線遮蔽剤、赤外線遮蔽剤として用いられているものであり、本発明において、アルキルシリル化処理粉体の基材として用いる金属酸化物粒子に関して、平均一次粒子径が1nm〜100μmのものを用いるのは、平均一次粒子径が1nmより小さい場合は、粒子同士の凝集力が非常に強くなって、それぞれの粒子に均一な表面処理をすることが難しくなり、基材が大きくなっても格別の問題は生じないが、化粧料への配合剤などとしては、実用上、平均一次粒子径が100μm程度までのものが適しているからである。そして、基材の金属酸化物粒子の平均一次粒子径が5nm以上になると、表面処理がより行いやすくなり、また、平均一次粒子径が0.1μm(100nm)以下のものは、紫外線遮蔽効果が優れていることから、基材の金属酸化物粒子としては、平均一次粒子径が5nm〜100nmのものが好ましい。なお、本発明において、基材となる金属酸化物粒子の平均一次粒子径は、それら金属酸化物粒子を透過型電子顕微鏡で撮影し(撮影個数はそれぞれ1,000個以上)、撮影された個々の粒子の定方向径(粒子の面積を2分する水平線の長さ)をプロットし、それらを平均することによって求めたものである。
【0023】
上記基材となる金属酸化物の結晶形は、特に限定されることはなく、例えば、二酸化チタンの場合には、ルチル形、アナタース形、ブルカイト形、アモルファス形などのいずれであってもよい。また、その形状は、球状、棒状、紡錘状、針状、板状、不定形状などのいずれであってもよい。さらに、これらの金属酸化物粒子は、その表面へのアルキルシリル化処理前に、耐光性や耐薬品性などの付与のため、あらかじめ、Si、Al、Ti、Zrの水酸化物または酸化物の少なくとも1種で表面処理しておいてもよい。
【0024】
本発明において、金属酸化物粒子への表面処理にあたって用いるアルキルアルコキシシランは、少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基と少なくとも1つのアルコキシ基とを有するものであるが、そのアルキル基としては炭素数6〜15のものが好ましく、このアルキル基は1個の場合のみならず、2個以上でもよい。また、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられ、このアルコキシ基は、1個の場合のみならず、2個以上であってもよい。本発明において、上記アルキルアルコキシシランにおけるアルキル基としては特にオクチル基が好ましく、アルコキシ基としては特にエトキシ基が好ましく、従って、アルキルアルコキシシランとしてはオクチルエトキシシラン、特にオクチルトリエトキシシランが好ましい。
【0025】
本発明において、上記アルキルアルコキシシランによる金属酸化物粒子への表面処理は、この後で詳細に説明するが、低級アルコール中で、金属酸化物粒子とアルキルアルコキシシランとを混合し、特定量の水を加えてアルキルアルコキシシランを加水分解させて、金属酸化物の粒子表面をアルキルシランで被覆することによって行われるが、そのアルキルシランの金属酸化物粒子に対する被覆量としては、金属酸化物粒子に対して1〜30質量%(前記のように、このアルキルシランの金属酸化物粒子に対する被覆量が金属酸化物粒子に対して1〜30質量%とは、金属酸化物粒子100質量部に対してアルキルシラン1〜30質量部であることを意味する)であることが必要であり、特に10質量%以上が好ましく、また、20質量%以下が好ましい。
【0026】
金属酸化物粒子に対するアルキルシランの被覆量が1質量%より少ない場合は、アルキルシランによる表面被覆効果が充分に発現せず、そのため、分散性が充分に向上しない。また、金属酸化物粒子に対するアルキルシランの被覆量が30質量%より多くなると、相対的に金属酸化物の量が減少することになり、金属酸化物本来の機能である紫外線遮蔽能などが充分に発揮できなくなる。
【0027】
本発明において、金属酸化物の粒子表面へのアルキルシランによる被覆処理は、低級アルコール中で、金属酸化物粒子とアルキルアルコキシシランとを混合することを経由して行われるが、本発明において、媒体として低級アルコールを用いるのは、上記低級アルコールが、アルキルアルコキシシランを溶解させ、かつ金属酸化物粒子を分散させる媒体として有用であるとともに、蒸留により系外に除去しやすいという特性を有することによるものであり、その低級アルコールとしては、炭素数4以下のアルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコールなどが好ましく、それらの中でもイソプロピルアルコール(IPA)が特に好ましい。
【0028】
そして、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体を得るために経由する工程、すなわち、金属酸化物粒子へのアルキルアルコキシシランによる表面処理の工程の概略を例示すると、例えば、以下のようになる。
(1)IPAなどの低級アルコール中に、少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基と少なくとも1つのアルコキシ基を有するアルキルアルコキシシランを、金属酸化物基準で1〜30質量%となる割合で投入し、そこに金属酸化物粒子を添加し、混合して、スラリー化する。
【0029】
この際、混合をより密にし、かつ、金属酸化物粒子の凝集を低減させて金属酸化物の粒子一個一個に対して均一な表面処理を行うことを目的として、サンドグラインダーミルなどを用いる分散工程を加えても良い。
【0030】
(2)上記スラリーを攪拌しながら、アルキルアルコキシシランに対して5〜10倍重量の水を1〜100℃の温度下で、好ましくは30分から180分かけて、徐々に添加して、アルキルアルコキシシランを加水分解させる。このアルキルアルコキシシランの加水分解によって生成したシラノール基は、金属酸化物の粒子表面に存在する水酸基との間で脱水縮合反応を起こして、金属酸化物の粒子表面にアルキルシランの被膜を形成し、それによって、金属酸化物粒子の表面はアルキルシランによって被覆される。
【0031】
本発明においては、上記低臭アルキルシリル化処理粉体の製造にあたり、添加する水の量を、アルキルアルコキシシランに対して5〜10倍量にしているが、これは、上記範囲より水の添加量が少ない場合は、未分解(未加水分解)のアルキルアルコキシシランが残留して不快臭の原因となりやすく、また、水の添加量が上記範囲より多い場合は、その後の蒸留行程において、蒸留エネルギーが過大に必要になり、不経済であって、好ましくないからであり、この水の添加量としては、アルキルアルコキシシランに対して6.5倍以上が好ましく、また、8.5倍以下が好ましい。
【0032】
反応時の温度としては、特に限定されることなく、1〜100℃という広い温度範囲を採用することができるが、特に20℃以上が好ましく、また、60℃以下が好ましい。
【0033】
反応系への水の添加時間は総計で30分〜180分とすることが好ましいが、これは次の理由によるものである。すなわち、水の添加時間が30分より短い場合、つまり、水の添加速度が速すぎる場合は、アルキルアルコキシシランの加水分解反応が急激に進み、水に不溶のシロキサンポリマーが系中に生成してしまうので、金属酸化物の粒子表面に均一なアルキルシラン被膜が形成されにくくなり、また、シロキサンポリマーが形成される際に、未分解(未加水分解)のアルキルアルコキシシランや、加水分解後の未反応成分などを取り込んで、結果的にアルキルアルコキシシランに由来する不快臭がアルキルシリル化処理粉体に残るおそれがあるからであり、また、水の添加時間が180分より長い場合、つまり、添加速度が遅すぎる場合には、均一な表面処理を行えるものの、生産性が大幅に低下して好ましくないからである。この水の添加時間の総計としては、60分以上がより好ましく、また、90分以下がより好ましい。
【0034】
(3)水を添加した後、加熱真空蒸留器へスラリーを移し、低級アルコールおよび水を加熱留去する。すなわち、加熱して蒸発させて取り除く。
【0035】
(4)低級アルコールおよび水の蒸発による除去後、そのまま蒸留器の温度を上げるか、あるいは、処理生成物を一旦蒸留器から取り出し、乾燥機に入れ、キュアリング(焼き付け)を行う。キュアリング温度としては、残留アルコールの効率的な除去を図るなどの観点から、120℃以上が好ましく、また、アルキルシランの変質を防ぐという観点から、180℃以下が好ましい。
【0036】
(5)処理生成物の粉砕処理を行って、低臭アルキルシリル化処理粉体、すなわち、金属酸化物粒子を基材とし、その基材となる金属酸化物粒子の表面を特定のアルキルシランで被覆した不快臭の少ない粉体を得る。上記粉砕処理にあたっては、エックアトマイザー、流体エネルギーミルなど、公知の一般的な粉砕機を用いることができる。このようにして得られる低臭アルキルシリル化処理粉体では、金属酸化物粒子の表面は特定のアルキルシランで被覆され、上記アルキルシランは、その表面処理にあたって使用したアルキルアルコキシシランから変化しているが、上記製造工程におけるアルキルアルコキシシランからアルキルシランへの変化に伴う質量変化は非常に少ないので、表面処理にあたって使用するアルキルアルコキシシランの使用量は、低臭アルキルシリル化処理粉体におけるアルキルシランの被覆量と同程度使用すればよい。
【0037】
上記のようにして得られる本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体は、アルキルシランによる被覆が均一に行われていることから、分散性の優れたものであって、化粧料の調製にあたって配合したときに、化粧料中に容易に分散し、化粧料への配合が容易であるが、油性系の化粧料を調製する場合には、あらかじめ、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体をシリコーンオイル中に分散させてシリコーンオイルスラリーとしておく方が、化粧料への配合がより容易になる。
【0038】
本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体は、上記のように、分散性が優れていることから、このシリコーンオイルスラリーの調製にあたっても分散性が優れており、分散剤を用いなくてもシリコーンオイルスラリーの調製が可能であるが、少量の分散剤の使用でより容易にシリコーンオイルスラリーの調製が可能になり、例えば、分散剤としてPEG−10ジメチコン(信越化学工業社製、KF−6017P)をシリコーンオイルスラリー全体中の5質量%程度使用することで、低臭アルキルシリル化処理粉体の分散量が30質量%以上の高濃度のシリコーンオイルスラリーを調製することができ、それによって、油性系化粧料に多量の低臭アルキルシリル化処理粉体の配合を可能にすることができる。このシリコーンオイルスラリー中の低臭アルキルシリル化処理粉体の分散量は、70質量%程度にまですることが可能であり、60質量%程度までであれば、そのシリコーンオイルスラリーの調製を容易に行うことができる。
【0039】
また、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体のシリコーンオイルスラリーは、従来のアルキルシリル化処理粉体をシリコーンオイルに分散させたシリコーンオイルスラリーより粘度が低く、例えば、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体が40質量%、シリコーンオイルとしてのデカメチルシクロペンタシロキサンが55質量%、分散剤としてのPEG−10ジメチコン(前出)が5質量%という組成のシリコーンオイルスラリーの粘度は、B型粘度計を用い、25℃、60rpmの条件下で測定した粘度で5000mPa・s以下である。ちなみに、上記本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体に代えて、従来のアルキルシリル化処理粉体を用いた以外は、上記と同組成のシリコーンオイルスラリーの粘度は、B型粘度計を用い、上記と同条件で測定した粘度で10,000mPa・s以上である。
【0040】
本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体は、各種の化粧料に配合することができるが、例えば、日焼け止め剤(サンスクリーン剤)、化粧下地料、ファンデーションなどの化粧料に配合すると、従来のアルキルシリル化処理粉体を配合した場合に比べて、その紫外線遮蔽効果をより向上させることができる。これは、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体が、分散性が良好であることなどに基づくものである。
【0041】
本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体を化粧料に配合する場合、その配合量は化粧料全体中の0.5〜30質量%にすることが好ましい。本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体の配合量が0.5質量%より少ない場合は、紫外線遮蔽効果が充分に発現しなくなるおそれがあり、また、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体の配合量を30質量%より多くしても、それに伴う効果の増加がなく、経済的な損失が多くなるからである。また、シリコーンオイルスラリーにして化粧料に配合する場合も、本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体が上記と同様に化粧料全体中で0.5〜30質量%となるようにすることが好ましい。
【0042】
本発明の低臭アルキルシリル化処理粉体は、金属酸化物粒子を基材として、その表面を特定のアルキルシランで被覆したものを対象としているが、上記基材にアルキルシランを被覆していく方法は、金属酸化物粒子以外を基材とするものに対しても応用することができる。例えば、色素、レーキ色素、高分子粉体、無機顔料、体質顔料、パール顔料、金属塩粉体などを基材とし、それらの粒子表面にアルキルアルコキシシランを処理剤としてアルキルシランの被膜を形成して、粒子表面をアルキルシランで被覆する場合にも応用することができる。
【実施例】
【0043】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
IPA2500gに、オクチルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製、A−137)440gを添加し、充分に混合した。これに平均一次粒子径10nmの含水ケイ酸・水酸化アルミニウム処理微粒子酸化チタン(テイカ社製、MT−05)2500gを添加し、混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、横型連続式サンドグラインダーミル(ウィリー・エ・バッコ−フェン社製、ダイノーミル)を用いて分散処理した。スラリーのミル内の滞留時間は5分間として、上記微粒子酸化チタンを充分に分散させた。
【0045】
分散処理後のスラリーを真空蒸留機能が付加されたニーダーに投入し、攪拌した。そこに水3000gを60分かけて添加して、オクチルトリエトキシシランを加水分解させ、生成するシラノール基が微粒子酸化チタンの粒子表面に存在する水酸基との間で脱水縮合反応が生じるようにさせた。上記水の添加速度は50ml/分であった。その後、減圧加熱を行って溶媒(IPAおよび水)を蒸発させて除去し、さらに120℃〜150℃で4時間キュアリングを行った。ニーダーから処理生成物を取り出し、エックアトマイザーにて粉砕し、微粒子酸化チタンを基材とするオクチルシリル化処理粉体、すなわち、含水ケイ酸・水酸化アルミニウム処理微粒子酸化チタンの粒子表面をオクチルシランで被覆した低臭アルキルシリル化処理粉体を得た。この低臭アルキルシリル化処理粉体におけるオクチルシランの被覆量は基材の含水ケイ酸・水酸化アルミニウム処理微粒子酸化チタンに対して17.6質量%であった。
【0046】
実施例2
実施例1と同様に、IPA6000gにオクチルトリエトキシシラン410gを添加し、充分に混合した。これに平均一次粒子径25nmの微粒子酸化亜鉛(テイカ社製、MZ−500)3000gを添加し、混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、横型連続式サンドグラインダーミルを用いて分散処理した。スラリーのミル内の滞留時間は5分間として、微粒子酸化亜鉛を充分に分散させた。
【0047】
分散処理後のスラリーを真空蒸留機能が付加されたニーダーに投入し、攪拌した。そこに水3000gを100分間かけて添加して、オクチルトリエトキシシランを加水分解させ、生成するシラノール基が微粒子酸化亜鉛の粒子表面の水酸基との間で脱水縮合反応が生じるようにさせた。上記水の添加速度は30ml/分であった。その後、減圧加熱を行って溶媒(IPAおよび水)を蒸発させて除去し、さらに120℃〜150℃で4時間キュアリングを行った。ニーダーから処理生成物を取り出し、エックアトマイザーにて粉砕し、微粒子酸化亜鉛を基材とするオクチルシリル化処理粉体、すなわち、微粒子酸化亜鉛の粒子表面をオクチルシランで被覆した低臭アルキルシリル化処理粉体を得た。この低臭アルキルシリル化処理粉体におけるオクチルシランの被覆量は微粒子酸化亜鉛に対して13.7質量%であった。
【0048】
比較例1
実施例1における水の添加時間を15分間に変更した以外は、実施例1と同じ処理を行った。この比較例1における水の添加速度は200ml/分であった。
【0049】
比較例2
IPA2500gにオクチルトリエトキシシラン440gを添加し、充分に混合した。これに平均一次粒子径10nmの含水ケイ酸・水酸化アルミニウム処理微粒子酸化チタン(テイカ社製、MT−05)2500gと水3000gとを添加し、混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、横型連続式サンドグラインダーミルを用いて分散処理した。スラリーのミル内の滞留時間は5分間とした。
【0050】
分散処理後のスラリーを真空蒸留機能が付加されたニーダーに投入し、攪拌した。その後、蒸発させて減圧加熱を行って溶媒(IPAおよび水)を蒸発させて除去し、さらに120℃〜150℃で4時間キュアリングを行った。ニーダーから処理生成物を取り出し、エックアトマイザーにて粉砕し、微粒子酸化チタンを基材とするオクチルシリル化処理粉体を得た。
【0051】
比較例3
IPA500gにオクチルトリエトキシシラン410gを添加し、混合溶液を調製した。ヘンシェルミキサーに微粒子酸化亜鉛(テイカ社製、MZ−500)3000gを投入し、そこに先に調製しておいたオクチルトリエトキシシラン・IPA混合溶液をスプレーで噴霧した。このときのヘンシェルミキサーの回転数は500rpmであった。10分間混合後、混合粉体を取り出し、乾燥機に移して、120℃〜150℃で4時間キュアリングを行った。乾燥機から処理生成物を取り出し、エックアトマイザーにて粉砕し、微粒子酸化亜鉛を基材とするオクチルシリル化処理粉体を得た。
【0052】
試験例:
表面処理の均一性と臭い確認試験:
実施例1〜2で得られた低臭アルキルシリル化処理粉体および比較例1〜3で得られたアルキルシリル化処理粉体の高濃度シリコーンオイルスラリーを調製し、各スラリーにおける初期および経時後の粘度と臭いに関する官能試験を実施した。このように、表面処理の均一性と臭いの確認試験にあたって、高濃度シリコーンオイルスラリーを調製し、それによって、試験するようにしたのは、アルキルシリル化処理粉体の放出する特有の臭いを検出する場合、高濃度シリコーンオイルスラリーにする方が、臭いの強度をより明確に判断できることと、粉体に対する表面処理がより均一な処理であれば、スラリー粘度が相対的に低くなり、また、スラリーが高濃度であればその差がより明確になるからである。
【0053】
具体的には、実施例1〜2の低臭アルキルシリル化処理粉体および比較例1〜3のアルキルシリル化処理粉体をそれぞれ3000gと、デカメチルシクロペンタシロキサン(信越化学工業社製、KF−995)4125gと、PEG−10ジメチコン(信越化学工業社製、KF−6017P)375gとをそれぞれ混合し、それらをダイノーミルで1パス通すことによりスラリーを得た。
【0054】
得られた各高濃度シリコーンオイルスラリーについて、調製直後および室温(25℃)にて30日間保管した後における、粘度の測定と臭いに対する官能試験を行った。それらの測定ないし評価方法は次の通りである。
粘度:
B型粘度計〔BROOKFIELD社製、DIGITAL VISCOMETER MODEL DV−1+〕を用い、25℃、60rpmの条件下で各スラリーの粘度を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
臭い(官能評価):
10人のパネラーに各スラリーの臭いをかがせ、その臭いの程度を評価させた。すなわち、臭いが「ほとんど無い」、「わずかに臭う」、「やや強く臭う」、「強く臭う」で評価させた。その結果を表1に示すが、その際には、最も人数が多い評価結果を表示した。
【0056】
また、臭いに関する評価項目の一つとして、各アルキルシリル化処理粉体から一定条件下で発生するガス濃度を次に示すようにして測定した。その結果も表1に示す。
【0057】
ガス濃度測定:
空気で膨らませた容量3リットルのにおい袋に、測定対象物を0.5g入れ、25℃で24時間暗所で静止した後、マルチガスモニターおよびガス検知管でガス濃度を測定した。測定に使用したマルチガスモニターはINNOVA社製1312型音響ガスモニターであり、測定時の温度/湿度の条件は室温25〜28℃/湿度23〜25%である。このガス濃度の測定結果を前記の高濃度シリコーンオイルスラリーの粘度の測定結果および臭いの官能評価結果と共に表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜2の低臭アルキルシリル化処理粉体は、臭いの官能試験において、臭いがほとんど無い、つまり、不快臭がほとんど無いという評価であり、比較例1〜3のアルキルシリル化処理粉体に比べて、放出されるガス量が少なかった。また、実施例1〜2の低臭アルキルシリル化処理粉体は、比較例1〜3のアルキルシリル化処理粉体に比べて、スラリーの粘度が低く、アルキルシランによる表面処理が均一に行われていることを示していた。さらに、実施例1〜2の低臭アルキルシリル化処理粉体は、30日経過後のガス濃度の増加やスラリー粘度の増加も少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が1nm〜100μmの金属酸化物粒子の表面を少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルシランで被覆してなり、上記アルキルシランの被覆量が上記金属酸化物粒子に対して1〜30質量%であることを特徴とする低臭アルキルシリル化処理粉体。
【請求項2】
金属酸化物が、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の低臭アルキルシリル化処理粉体。
【請求項3】
金属酸化物粒子の平均一次粒子径が、5nm〜100nmである請求項1または2記載の低臭アルキルシリル化処理粉体。
【請求項4】
金属酸化物粒子が、あらかじめ、その表面をSi、Al、Ti、Zrの水酸化物または酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種で処理したものである請求項1〜3のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体。
【請求項5】
アルキルシランの被覆量が、金属酸化物に対して10〜20質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体。
【請求項6】
アルキル基の炭素数が、6〜15である請求項1〜5のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体。
【請求項7】
平均一次粒子径が1nm〜100μmの金属酸化物粒子と、少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基および少なくとも1つのアルコキシ基を有するアルキルアルコキシシランとを、低級アルコール中で混合し、アルキルアルコキシシランに対して5〜10倍質量の水を1〜100℃の温度下で加えて、上記アルキルアルコキシシランを加水分解させ、ついで低級アルコールと水を加熱留去して、上記金属酸化物粒子の表面に少なくとも1つの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルシランを上記金属酸化物粒子に対して1〜30質量%被覆することを特徴とする低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法。
【請求項8】
金属酸化物が、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化鉄よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項7記載の低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法。
【請求項9】
金属酸化物粒子の平均一次粒子径が、5nm〜100nmである請求項7または8記載の低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法。
【請求項10】
金属酸化物粒子が、あらかじめ、その表面をSi、Al、Ti、Zrの水酸化物または酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種で処理したものである請求項7〜9のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法。
【請求項11】
アルキル基の炭素数が、6〜15である請求項7〜10のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法。
【請求項12】
水の添加時間の総計が、30〜180分である請求項7〜11のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体をシリコーンオイルに分散させたことを特徴とするシリコーンオイルスラリー。
【請求項14】
シリコーンオイルスラリー中の低臭アルキルシリル化処理粉体の分散量が、30〜70質量%である請求項13記載のシリコーンオイルスラリー。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれかに記載の低臭アルキルシリル化処理粉体を配合したことを特徴とする化粧料。
【請求項16】
請求項13または14記載のシリコーンオイルスラリーを配合したことを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2007−51188(P2007−51188A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236186(P2005−236186)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】