説明

低臭気組成物および低臭気コーティング組成物

【課題】安定なコーティング組成物を含む安定な水性組成物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】1種以上の乳化重合付加ポリマー、1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素、および1種以上のカルボキシルエステラーゼ不活性化剤を含み、組成物中のエステル加水分解活性が0.010マイクロモル/分未満であり、150℃未満の標準沸点を有する有機カルボキシルエステルを10ppm未満、および76未満の分子式量を有するモノアルコールを50ppm超の揮発性有機化合物(VOC)含量を有する。カルボキシルエステラーゼ酵素が使用され、組成物における遊離のカルボキシルエステル含量を最小限にし、それにより、低臭気組成物を提供し、そしてカルボキシルエステラーゼは、残留カルボキシルエステラーゼ酵素活性を最小限にするために、その場で不活性化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定な水性ポリマー組成物、例えば、安定なコーティング組成物、例えば塗料、並びにその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、1種以上の乳化重合付加ポリマー、1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素、並びに1種以上のカルボキシルエステラーゼ不活性化剤を含む安定な水性ポリマー組成物であって;組成物におけるエステル加水分解活性が0.010マイクロモル/分未満であり;33℃でのヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)による測定で、150℃未満の標準沸点を有する有機カルボキシルエステルを10ppm未満、および76未満の分子式量を有するモノアルコールを50ppm超のヘッドスペース揮発性有機化合物(VOC)含量を水性コーティング組成物が有する;水性ポリマー組成物に関する。
塗料配合者は、水性塗料における臭気に関与する配合添加物を低減もしくは除去することを進めてきたが、カルボキシルエステル化合物の存在は問題のあるままであった。このような化合物は、塗料においてバインダーとして機能するエマルションポリマーラテックス中で少量で(例えば、ヘッドスペースにおいて約50〜400ppmで)存在する場合がある。これらカルボキシルエステル化合物は、通常、ラテックスポリマーを形成する重合反応から残る未反応のカルボキシルエステルモノマーに由来し、そしてそのバインダーと共に最終コーティング組成物もしくは塗料中に導入される。低臭気塗料およびコーティングをはじめとする本発明の低臭気ポリマー組成物は、コーティング組成物もしくは塗料の配合前、配合中、または配合後に、水性エマルションポリマーをカルボキシルエステラーゼと接触させることにより、カルボキシルエステル含量を低減させることによって得られ、そしてコーティング配合物成分、および結果的にコーティング配合物安定性に対する残留カルボキシルエステラーゼ活性の悪影響が、カルボキシルエステラーゼ酵素を効果的に機能停止させる1種以上のカルボキシルエステラーゼ不活性化剤の適時的添加によって回避される。
【背景技術】
【0002】
乳化重合付加ポリマーは、イオン性−またはフリーラジカル−開始および伝播反応を用いるエチレン性不飽和モノマーの重合により製造される。ほとんどの場合において、これらの反応はエチレン性不飽和モノマーからポリマーへの100%の変換点まで、妥当な時間内で進行することができない。例えば、残留モノマーからもたらされる臭気、不安定性、または毒性のせいで、残留モノマーの除去が望まれる場合がある。例えば、イオン源もしくはフリーラジカル源を添加するか添加せずに、延長した期間での加熱などの方法によるポリマーへの変換;または、例えば、真空ストリッピングおよび水蒸気スパージングなどの方法による、残留エチレン性不飽和モノマーの物理的除去;または、例えば、不揮発性付加物への変換など、より望ましい種類への変換;による、残留エチレン性不飽和モノマーの後での除去は全て過去に開示されてきた。しかし、一般的に有機化合物の、そして特にエチレン性不飽和モノマーの毒性または臭気についての懸念は、乳化重合付加ポリマー、およびそれを含むコーティングにおいて許容可能な残留エチレン性不飽和モノマーの濃度を、従来技術によって達成するのが多くの場合困難かつコスト高である濃度まで低下させてきている。エチレン性不飽和モノマーの1つのカテゴリーは、少なくとも1つのカルボキシルエステル基「−COOR」が存在するカルボキシルエステルモノマーである。さらに、エチレン性不飽和モノマーは不純物として、エマルションポリマーラテックス中に存在する、飽和有機カルボキシルエステル、すなわち、少なくとも1つのエステル基を有し、エチレン性不飽和ではない化合物を含むことができる。さらに、重合アジュバントは、追加の有機カルボキシルエステル、すなわち、少なくとも1つのエステル基を有するが、エチレン性不飽和モノマーでなくてもよい化合物を導入する場合がある。この化合物も、毒性または臭気についての懸念を生じさせる場合があり、低臭気コーティング組成物および低臭気塗料から除去されるべきである。
【0003】
ニックス(Nicks)らへの米国特許第5,422,269号は、アクリル酸アルキルおよびメタクリル酸アルキルのようなモノマー性エチレン性不飽和カルボン酸エステルの残留濃度を、ラテックスもしくはラテックスを配合した製品のような、これらのモノマーのポリマーの界面活性剤安定化分散物中で低減させる方法を開示する。残留モノマー含量は、加水分解酵素、特にリパーゼもしくはエステラーゼで処理することにより低減され、この処理はこのモノマーの存在から生じる臭気を低減させる。しかし、この開示は、配合されたコーティングもしくは塗料の特性を論じておらず、そしてその文献に記載された方法は、商業的に実行可能な低臭気塗料を生じさせることができていない、というのは、その文献に記載された酵素およびその文献に開示された使用濃度は結果的に塗料の酵素分解を生じさせるからである。すなわち、この酵素は、有用な塗料配合成分中に存在するエステルを攻撃するのに活性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,422,269号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、低臭気を有する安定な水性ポリマー組成物およびコーティング組成物を提供するのが本発明の目的である。33℃でのヘッドスペースGC−MSによる測定で、10ppm未満、好ましくは5ppm未満の有機カルボキシルエステルのヘッドスペースVOC濃度を有する安定な水性ポリマー組成物およびコーティング組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。10ppm未満、好ましくは5ppm未満の有機カルボキシルエステルのヘッドスペースVOC濃度を有し、かつ0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解酵素活性を有するこのような組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。また、低臭気を有し、10ppm未満、好ましくは5ppm未満の有機カルボキシルエステルのヘッドスペースVOC濃度を有し、かつ0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解酵素活性を有する、安定な水性ポリマー組成物およびコーティング組成物を製造する方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は;i)1種以上のカルボキシルエステルモノマーの重合単位を含む、1種以上の乳化重合付加ポリマーを含み;ii)組成物において0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解活性を有する1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素を場合によって含み;iii)1種以上のカルボキシルエステラーゼ不活性化剤を含み;iv)76未満の分子式量を有する1種以上のモノアルコールを50ppmを超えて含み;並びに、v)150℃未満の標準沸点を有する有機カルボキシルエステルを10ppm未満で含む安定な水性組成物を提供し;本組成物のモノアルコールおよび有機カルボキシルエステルの量とは、33℃でのヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)による測定での、ヘッドスペース揮発性有機化合物(VOC)含量をいう。好ましくは、組成物におけるエステル加水分解活性は実質的にゼロである。好ましくは、モノアルコールの最大濃度は0.5%未満、より好ましくは0.2%未満、最も好ましくは0.1%未満である。好ましいモノアルコールはn−ブタノール、t−ブタノールまたはエタノールである。
【0007】
好ましくは、この組成物は、4を超えるpHで、より好ましくは6を超えるpHで維持される。
ある実施形態においては、水性組成物は、5ppm未満の1種以上の有機カルボキシルエステルのヘッドスペースVOC含量を有する。
別の実施形態においては、水性組成物はコーティング組成物である。
【0008】
本発明は水性組成物を提供する方法も提供し、当該方法は、a)1種以上のカルボキシルエステルモノマーの重合単位を含み、残留有機カルボキシルエステルおよびモノアルコールを含有する、1種以上の乳化重合付加ポリマーを製造する工程;b)33℃でのヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)による測定で、水性組成物が、10ppm未満の有機カルボキシルエステルおよび50ppmを超えるモノアルコールのヘッドスペースVOC含量を有するように、有機カルボキシルエステル含量を低減させるのに有効な量の1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素と、前記1種以上の乳化重合付加ポリマーとを接触させる工程;並びに、c)カルボキシルエステラーゼ酵素が組成物において0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解活性を有するように、カルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化する工程;を含む。好ましくは、組成物におけるエステル加水分解活性は実質的にゼロである。
【0009】
ある実施形態においては、本方法は、工程a)の後のいずれかの時点で、1種以上の乳化重合付加ポリマーを含む水性組成物を製造する工程をさらに含む。このような実施形態の1つにおいては、この方法はコーティング組成物を提供する。
別の実施形態においては、1種以上のプロテアーゼ酵素の添加、または1種以上の酵素阻害剤の添加、またはこれらの組み合わせによるカルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化する工程が伴われる。
本発明は、1,000ppm未満のバルクVOCを有する組成物をはじめとする、これらの方法によって製造される組成物も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
他に示されない限りは、温度および圧力の条件は室温および標準圧力である。用語「周囲硬化」とは、周囲条件下(すなわち、加熱なし)での硬化を意味する。コーティングは周囲条件以外の条件下で乾燥させられても良い。
【0011】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、用語「標準沸点」とは、760mm/Hgでの液体の沸点をいう。
【0012】
他に示されない限りは、丸括弧書きを含む用語は、丸括弧が存在しなかった場合の全体の用語、および丸括弧に含まれるものを除いた用語、並びにそれぞれの選択肢の組み合わせをいう。よって、用語「(メタ)アクリラート」とは、アクリラート、メタクリラート、またはこれらの混合物を意味し、同様に、用語「(メタ)アクリル」とは、アクリル、メタクリル、およびこれらの混合物のいずれかをいう。
【0013】
本明細書において使用される場合、用語「ポリマー」は用語「コポリマー」を包含し、他に示されない限りは、用語「コポリマー」とは、2種以上の異なるモノマーから製造されたポリマー、例えば、ターポリマー、ペンタポリマーなど、並びに、生成物コポリマーに2種以上の異なる官能基が存在するように重合後に官能化されたホモポリマーをいう。
【0014】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、用語「エマルションポリマー」とは、乳化重合によって製造されたポリマーをいう。「アクリルエマルションポリマー」は、本明細書においては、エチレン性不飽和(メタ)アクリラートの重合単位を少なくとも50重量%含むエマルションポリマーを意味する。「スチレン−アクリルエマルションポリマー」は、エチレン性不飽和(メタ)アクリラートまたはスチレンに由来する重合単位を少なくとも50重量%含み、かつこれらの種類の重合単位のそれぞれを少なくとも5%含む、エマルションポリマーである。同様に、「酢酸ビニル−アクリルエマルションポリマー」は、エチレン性不飽和(メタ)アクリラートまたは酢酸ビニルに由来する重合単位を少なくとも50重量%含み、かつこれらの種類の重合単位のそれぞれを少なくとも5%含む、エマルションポリマーである。「酢酸ビニル−エチレンエマルションポリマー」は同様に定義される。
【0015】
本明細書において使用される場合、用語「天然由来可塑剤」とは、動物由来の油、魚由来の油、植物由来の油、これらのアルキルエステル、これらのグリセリドおよびこれらの混合物をいう。
【0016】
本明細書において使用される場合、語句「ガラス転移温度」または「Tg」とは、10℃/分の加熱速度を用いて、Tg値として熱フロー対温度遷移における中点を採用する示差走査熱量測定(DSC)によって決定される測定Tgをいう。
【0017】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、(コ)ポリマーに言及する場合の用語「分子量」は、ポリスチレン標準を用いて較正される、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される(コ)ポリマーの重量平均分子量を意味する。ゲル浸透クロマトグラフィーは、そのモル質量ではなく、溶液中のその流体力学的サイズに従ったポリマー鎖の分布のメンバーを分離する。このシステムは、次いで、既知の分子量および組成の標準物質で較正され、溶出時間と分子量とを相関させる。GPCの技術は、モダンサイズ排除クロマトグラフィー(Modern Size Exclusion Chromatography)W.W.ヨー(Yau)、J.J.キルクランド(Kirkland)、D.D.ブライ(Bly);ウイリー−インターサイエンス(Wiley−Interscience)、1979、および物質の特定および化学分析のガイド(A Guide to Materials Characterization and Chemical Analysis)J.P.シビリア(Sibilia);VCH、1988、p.81−84に詳細に論じられている。
【0018】
ポリマーとは異なって低分子化合物は一定の分子構造を有し、分子量を記載するのに平均化技術を必要としない。この後者はコーティング組成物および塗料組成物における臭気源である揮発性有機化合物を含み、本明細書においては、低分子化合物の分子量は分子式量(分子式の構成原子の原子質量の合計)によって記述される。これらは、当該技術分野において知られている好適な標準物質を用いる質量分析によって正確に決定されうる。
【0019】
揮発性有機化合物(VOC)はコーティング組成物における臭気の原因である。本明細書においては、VOCは、大気圧で270℃未満の沸点を有する炭素含有化合物として定義される。(アンモニアの使用は、これら低臭気組成物のために回避されるかまたは少なくとも最小限にされるべきであるが)水およびアンモニアのような化合物はVOCから除かれる。コーティング組成物におけるVOCを最小限にするような調節は組成物中のこのような化合物の全量を目的にしており、この化合物の全量は本明細書において「バルクVOC」と称される。バルクVOCの測定およびこのバルク中の具体的な存在物の検出は、通常、130〜150℃の熱にかけられた組成物のヘッドスペースをサンプリングすることを伴う。使用の周囲条件下で生じる臭気の源でありうるVOCのサンプリングにおいては、臭気を生じさせるVOCの検出は33℃の条件下で行われ、そしてサンプルは実施例1に記載されるような容器のヘッドスペース体積から取り出される。これらの条件下で検出されたVOCは本明細書において「ヘッドスペース」VOCと称される。
【0020】
本明細書においては、「有機カルボキシルエステル」とは、少なくとも1つのエステル基「−COOR」が存在する有機分子を意味し、ここでRは炭素および水素原子からなる基であり、例えば、アルキル、分岐アルキル、アルケニルおよびビニルなどである。極性へテロ原子を有するR基、例えば、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどは除かれる。有機カルボキシルエステルのヘッドスペースVOC含量の測定は実施例1に記載されている。
【0021】
本明細書において使用される場合、カルボキシルエステラーゼは、国際生化学連合の命名委員会によって分類されたグループEC3.1.1の酵素として定義される。本明細書および請求項においては、エステル加水分解活性をはじめとする酵素活性、および酵素活性の測定方法は実施例2に記載されている。本組成物のエステル加水分解活性は、組成物を形成した後1週間から3か月の間の期間に決定される。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「カルボキシルエステラーゼ不活性化剤」とは、カルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化するかまたは部分的に不活性化するあらゆる物質を意味し、プロテアーゼおよび低分子阻害剤が挙げられる。本明細書においては、用語「不活性化」、「不活性化する」および「不活性化された」とは、それぞれ、部分的な不活性化、部分的に不活性化する、および部分的に不活性化されたことを含む。
【0023】
実質的にゼロであるエステル加水分解活性とは、その酵素が不活性化されており、かつ追加のカルボキシルエステルがその組成物に添加されてさえ、エステルの意味のある加水分解が存在せず;エステル加水分解の速度が0.001マイクロモル/分未満であることを意味する。
【0024】
造膜助剤は水性エマルションポリマー、塗料またはコーティングに添加される化合物であり、造膜助剤は、そのエマルションポリマー、塗料またはコーティングの最低造膜温度(MFFT)を少なくとも1℃低減させる。MFFTはASTM試験方法D2354を用いて測定される。非VOC造膜助剤は、大気圧で270℃を超える沸点を有する造膜助剤である。
【0025】
「KU粘度」は、クレブス粘度計によって測定される中剪断(mid−shear)粘度の測定である。クレブス粘度計はASTM−D562に適合している回転パドル粘度計である。KU粘度は、ブルックフィールドエンジニアリングラボ(Brookfield Engineering Labs;米国、マサチューセッツ州、ミドルボロ)から入手可能なブルックフィールドクレブスユニット粘度計KU−1+で測定された。「KU」はクレブス単位を意味する。
【0026】
安定な低臭気水性コーティング組成物は、KU粘度の変化「デルタKU」(コーティング組成物を配合した1日後に決定された当初KU粘度からの、測定された変化)で測定される場合に、安定なレオロジープロファイルを有し;すなわち、組成物は、室温(23℃)で一週間にわたって10KU以下のデルタKU、および50℃で10日間にわたって15KU以下のデルタKUを示す。
【0027】
同じ成分または特性について示される全ての範囲の終点はその終点を含み、かつ独立して組み合わせ可能である。
【0028】
本発明は、安定な低臭気水性ポリマー組成物および低臭気コーティング組成物、例えば、低臭気塗料を提供する。水性塗料におけるこの臭気の源の1つは、コーティング組成物におけるバインダーとして機能するエマルションポリマーの形成で残る残留有機カルボキシルエステル化合物に由来する。
【0029】
本発明の乳化重合付加ポリマーは当該技術分野において周知の多くの技術の1つによって製造されうる。乳化重合付加ポリマーを製造するために少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーが使用される。例えば、アクリルエステルモノマー、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、並びに他の(メタ)アクリル酸C−C40アルキル;酸またはアニオン形態のどちらでもよい、酸モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸および他のエチレン性不飽和カルボン酸モノマー、並びに、強酸硫黄含有またはリン含有モノマー;アミノ官能性モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル;(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド;スチレンまたは置換スチレン;ブタジエン;エチレン;酢酸ビニルまたは他のビニルエステル;ビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル;などが使用されうる。少量の多エチレン性不飽和モノマー、例えば、メタクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、1,4−ブチレングリコールジメタクリラート、1,6−ヘキサンジオールジアクリラートなどが使用されうる。
【0030】
ある実施形態においては、乳化重合付加ポリマーは周囲硬化を達成するのに好適なエチレン性不飽和モノマーの重合単位を含む。よって、乳化重合付加ポリマーは、カルボニル含有モノエチレン性不飽和モノマーの重合単位を含むことができる。カルボニル官能基を有する好適な不飽和モノマーの例には、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチル、(メタ)アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、クロトンアルデヒド、4−ビニルベンズアルデヒド、4〜7つの炭素原子のビニルアルキルケトン、例えば、ビニルメチルケトン、並びに(メタ)アクリルオキシ−アルキルプロパノールが挙げられる。さらなる好適な例としては、(メタ)アクリルアミドピバルアルデヒド、3−(メタ)アクリルアミドメチルアニスアルデヒドおよびジアセトン(メタ)アクリラートが挙げられる。カルボニル含有モノマーは周囲硬化を達成するのに充分でありうるが、有利には、ある実施形態においては、組成物は、周囲硬化を達成するために、場合によっては、ポリアミンまたはポリヒドラジドをさらに含む。好適なポリアミンには、これに限定されないが、1分子あたり2〜10コの官能基を有するものが挙げられる。好適な例としては、エチレンジアミン、4−アミノ−1,8−オクタンジアミノプロピレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、尿素、メラミン、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミンおよびポリエチレンイミンが挙げられる。好適なポリヒドラジドには、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ビスジヒドラジド;また、炭酸ジヒドラジド、ビス−セミカルバジド、トリヒドラジド、ジヒドラジドアルコン、並びに芳香族炭化水素のジヒドラジド、例えば、1,4−ジヒドラジノベンジンおよび2,3−ジヒドラジノナフタレン、ジヒドラジンが挙げられうる。
【0031】
ある実施形態においては、1種以上の乳化重合付加ポリマーはアクリル、スチレン−アクリル、酢酸ビニル−アクリルもしくは酢酸ビニル−エチレンエマルションポリマーを、全コーティング組成物固形分に対して少なくとも5重量%のエマルションポリマー固形分の量で含む。別の実施形態においては、1種以上の乳化重合付加ポリマーは、アクリル、スチレン−アクリル、もしくは酢酸ビニル−アクリルエマルションポリマーを、全コーティング組成物固形分に対して少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%のエマルションポリマー固形分の量で含む。
【0032】
アニオン性、カチオン性もしくは非イオン性界面活性剤、またはこれらの好適な混合物が、乳化重合付加ポリマーを製造するのに使用されうる。重合は、例えば重合反応の開始時に反応ケトル内にモノマーの全てを用いて、重合反応の開始時にモノマーの一部分を反応ケトル内に乳化形態で存在させて、および重合反応の開始時に反応ケトル内に存在する小さな粒子サイズのエマルションポリマーシードを用いてなど、様々な手段によって行われることができる。重合反応は、当該技術分野において知られている様々な方法によって、例えば、重合を行うために、開始剤の熱分解を用いることにより、または酸化還元反応(「レドックス反応」)を用いることにより、フリーラジカルを発生させるなどして、開始させられうる。エマルションポリマーの分子量は1,000,000を超える場合がある。
【0033】
当該技術分野において知られているように、乳化重合付加ポリマーの分子量を抑制するために、メルカプタン、ポリメルカプタン、およびハロゲン化合物をはじめとする連鎖移動剤が重合混合物において使用されることができる。当該技術分野においては、より疎水性のメルカプタンが好まれる傾向にある、というのは、より疎水性のメルカプタンは、水性相ではなく、疎水性ポリマー粒子と会合する傾向があるからである。その結果、より疎水性のメルカプタンは、より親水性のメルカプタン、例えば、メルカプトプロピオン酸メチル(MMP)およびメルカプトプロピオン酸ブチル(BMP)よりも揮発性が低くかつ臭気が低くなる傾向がある。後者は多くの場合回避される、というのは、それは水性相に留まる傾向があり、そしてより揮発性で臭気があるからである。しかし、MMPおよびBMPからの臭気は本発明の組成物において有意に低減される、というのは、これらエステルは、未反応である場合には、カルボキシルエステラーゼによって加水分解され、その結果これらのメルカプタンも有用であり得るからである。エマルションポリマーの分子量は2,000から5,000,000の範囲であり得る。ある実施形態においては、エマルションポリマーの分子量は、100,000から1,000,000の範囲であり、別の実施形態においては、エマルションポリマーの分子量は100,000から500,000の範囲である。
【0034】
重合反応は、多段階プロセスにおいて行われることができ;このようなプロセスから得られる粒子は、例えば、コア−シェル構造粒子および当該技術分野において知られているような他の既知の形態のような、少なくとも2つの相互に非相溶性のポリマーを含むことができる。
【0035】
エマルションポリマー粒子の粒子サイズは、約40ナノメートル〜約5000ナノメートルの範囲であることができる。しかし、二モードの、および多モードの粒子サイズ分布が使用されうる。
【0036】
たいていの場合において、乳化重合される付加重合は合理的な時間内に、エチレン性不飽和モノマーからポリマーへの100%変換点まで進まないであろう。例えば、イオン源もしくはフリーラジカル源を添加するか添加せずに、延長した期間での加熱などの方法による残留エチレン性不飽和モノマーのポリマーへの後での変換;例えば、吸着、真空ストリッピング、水蒸気スパージングなどの方法による有機エステルの除去;または、不揮発性付加物への変換;が、全て開示されてきており、かつ、適合する場合には、これらは本発明の方法を行う前、行う際、または行った後に使用されうる。
【0037】
本発明のポリマーおよびコーティング組成物については、コーティング配合物または構成エマルションポリマーラテックスをカルボキシルエステラーゼと接触させることにより、低減された濃度のカルボキシルエステル化合物が達成されうる。低減させられうる有機カルボキシルエステル化合物には、エチレン性不飽和有機カルボキシルエステル化合物、例えば、アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸アルキル、イタコン酸ジメチル、酢酸ビニル、およびフタル酸ジアリルなどが挙げられ、並びに、エチレン性不飽和ではない有機カルボキシルエステル化合物、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソブチル酸メチルなども挙げられうる。低減されるべき好ましい有機カルボキシルエステルは(メタ)アクリル酸C1−C8アルキルおよび酢酸ビニルである。
【0038】
乳化重合付加ポリマーを含むコーティング組成物および塗料は、さらに、他の成分、例えば、他のポリマーもしくは乳化重合付加ポリマー、界面活性剤、乳化剤、顔料、充填剤、エキステンダー、分散剤、抗移動剤(anti−migration aid)、硬化剤、造膜助剤、湿潤剤、防腐剤、殺生物剤、殺カビ剤、可塑剤、消泡剤、脱泡剤、着色剤、染料、真珠光沢剤(pearlescent)、接着促進剤、ワックス、レベリング剤、蛍光増白剤、紫外線安定化剤、レオロジー改変剤、酸化防止剤または架橋剤などを含むことができる。このような成分を利用し、それらをその意図される用途に適合するように機能させるために、添加される酵素がこれらの成分を分解しないことが重要である。よって、酵素の種類、選択性および濃度は注意深く制御されなければならない。
【0039】
低臭気ポリマーおよびコーティング組成物は、組成物のカルボキシルエステル含量を低減させることにより得られる。後者は主として、バインダーを製造するための乳化重合反応に由来する。有機カルボキシルエステル含量の低減は、水性エマルションポリマーラテックスまたはコーティング組成物をヒドロラーゼで処理することにより達成される。具体的には、これらヒドロラーゼはカルボキシルエステルヒドロラーゼであり、本明細書においては、概して、カルボキシルエステラーゼと称され、EC3.1.1として分類される。これらの酵素は、化学反応に水を使用して、エステル結合を切断し、アルコールおよび酸を生じさせる。このポリマーまたはコーティング組成物を処理するのに好適であり得るカルボキシルエステラーゼには、これに限定されないが、エステラーゼ、カルボキシルエステラーゼまたはリパーゼと称される酵素が挙げられる。カルボキシルエステラーゼの起源は動物、植物、微生物または合成物であって良い。カルボキシルエステラーゼ酵素の既知の起源には、真核細胞、すなわち、核を有する細胞からなる生物、例えば、動物組織、植物、カビおよび酵母などが挙げられる。好適であり得るカルボキシルエステラーゼには、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)sp.、リゾクトニア(rhizoctonia)s.、トリコデルマ(tricoderma)h.、サイトファーガ(cytophagia)sp.、酵母、ウシ肝臓、ヒツジ肝臓、ニワトリ肝臓などが挙げられる。カルボキシルエステラーゼ酵素は天然に、例えば、本明細書において上記した種などに見いだされるが、近年開発された方法はバクテリアへのカルボキシルエステラーゼ遺伝子の移動が、カルボキシルエステラーゼ酵素の生産を容易にすることを可能にし、これはJ.サムブルック(Sambrook)ら、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」第二版、コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、プレインビュー、ニューヨーク、1989に開示されている。カルボキシルエステルヒドロラーゼの遺伝的にまたは化学的に改変された変異体が好適である場合がある。元の起源の生物以外の生物で発現されるカルボキシルエステラーゼも含まれる。
【0040】
カルボキシルエステラーゼ酵素は溶液中でまたは固定化されて使用されることができ、好ましくは、この酵素は水性組成物に可溶性である。好ましいエステラーゼは微生物起源であり、菌酵素クチンヒドロラーゼ(クチナーゼ)、並びにカンジダアンタルクチカ(Candida antarctica)およびサーモマイセスラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)から直接得られるまたはこれらに由来するものが挙げられる。潜在的に有用な市販の製品には、ノボザイム(Novozym商標)435、ライペックス(Lipex商標)100L、ノボザイムCALBLおよびノボザイム51032(ノボザイムス(Novozymes)、バグスバード、デンマーク)、ジェネリックCALB(キラルビジョン(Chiralvision)、ライデン、オランダ)、リパーゼGアマノ50(天野エンザイム株式会社、名古屋、日本)およびリパーゼR(ディアランド(Deerland)、ケネソー、ジョージア州)が挙げられる。好ましい市販の製品はジェネリックCALB、ノボザイムCALBLおよびノボザイム51032である。
【0041】
カルボキシルエステラーゼは、水性コーティング組成物の有機カルボキシルエステル含量を低減させるのに有効であるのに充分な量で存在しなければならない。しかし、上述のように、今まで、カルボキシルエステラーゼはこの用途のために市販されてこなかった、というのは、コーティング配合成分との望ましくない反応のせいで、これらの酵素の大部分について、使用の実際的な上限が存在するからである。特に、コーティング製造者は水性コーティング組成物に粘度安定性を要求する。好ましくは、この組成物は、室温で1週間にわたって、10以下、より好ましくは8以下、さらにより好ましくは5KU以下のデルタKU;および、50℃で10日間にわたって、15以下、より好ましくは10以下、さらにより好ましくは5KU以下のデルタKUを示す。カルボキシルエステラーゼ酵素の添加によりもたらされるコーティングの鍵となる特性の劣化は、不安定な水性コーティング組成物の指標でもある。安定な水性コーティング組成物については、好ましくは、コーティングは、少なくとも6の1日室温ブロック耐性、および少なくとも6の1日ホットブロック耐性を有する。安定な水性コーティング組成物については、好ましくは、コーティングのスクラブ耐性は、カルボキシルエステラーゼ酵素を含まない同様のコーティング配合物よりも10%を超えて低くならない。同様に、酵素含有組成物についての膜形成を達成するための増大した造膜助剤要求は、不安定な組成物の指標であり;すなわち、造膜助剤と酵素との反応は、膜形成の達成において造膜助剤を無効にする。
【0042】
さらに、カルボキシルエステラーゼの好ましい量は、その酵素の純度をはじめとするその酵素の種類および起源に応じて変化する。酵素の起源および純度は酵素の好ましい量に影響を及ぼしうるので、酵素を定量化する有用な方法は、本明細書において酵素活性と称される酵素のカルボキシルエステル加水分解活性によるものである。塗料配合成分の分解を妨げるために、カルボキシルエステラーゼのエステル加水分解活性は0.030マイクロモル/分未満、好ましくは0.020マイクロモル/分未満であるべきである。本発明においては、カルボキシルエステラーゼ不活性化剤はこの酵素活性を0.010マイクロモル/分未満まで低減させる。好ましくは、この酵素活性は実質的にゼロである。
【0043】
カルボキシルエステラーゼは、カルボキシルエステルの加水分解を触媒し、アルコールおよびカルボン酸アニオンを生じさせると考えられる。このアルコールおよびカルボン酸化合物は、そのカルボキシルエステル化合物アナログよりも、コーティング組成物において臭いがより少ない。よって、カルボキシルエステラーゼ処理によるコーティング組成物におけるカルボキシルエステル含量の低減は、対応するアルコール含量の増加を伴う。好ましくは、水性コーティング組成物は33℃でのヘッドスペースGC−MSによる測定で、150℃未満の沸点を有する有機カルボキシルエステルを15ppm未満、好ましくは10ppm未満、より好ましくは8ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満、さらにより好ましくは2ppm未満のヘッドスペースVOC含量;並びに、76未満の分子式量を有するモノアルコールを50ppm超のヘッドスペースVOC濃度を有する。
【0044】
乳化重合付加ポリマーは、簡単な方法で、例えば、エマルション反応ケトル内でカルボキシルエステラーゼを乳化重合付加ポリマーと混合することにより、または、単離されたエマルションポリマーラテックスへの、この酵素の後添加により、または固体担体上に固定化されたカルボキシルエステラーゼ、例えば、アクリルビーズ上に固定化されたカルボキシルエステラーゼを充填したカラムに乳化重合付加ポリマーを通すことによるなどして、カルボキシルエステラーゼと接触させられうる。あるいは、カルボキシルエステラーゼは、乳化重合付加ポリマーを含むコーティング組成物に後添加されうるか、またはコーティング組成物は固定化酵素を充填したカラムを通されうる。この接触工程は約4を超えるpHで起こりうる。約7を超えるpHが好ましく、8を超えるpHがより好ましい。この接触工程は約15℃から約95℃の温度で起こりうる。約25℃から約65℃の温度が好ましい。
【0045】
VOC低減の従来の方法は酵素処理と組み合わせられうる。例えば、水蒸気ストリッピングは実際に酵素処理との組み合わせでより効果的になる(実施例9を参照)。
【0046】
コーティング配合成分およびその結果のコーティング配合物安定性に対する残留カルボキシルエステラーゼ活性の潜在的な悪影響は、カルボキシルエステラーゼ酵素を効果的に機能停止させる1種以上のカルボキシルエステラーゼ不活性化剤の適時的添加によって回避される。カルボキシルエステラーゼ不活性化剤は、1種以上のプロテアーゼ酵素、1種以上の酵素阻害剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0047】
タンパク質はポリペプチドから構成され、用語「ペプチダーゼ」および「プロテアーゼ」は本明細書および当該技術分野において交換可能に使用される。ペプチダーゼ(別の種類のヒドロラーゼ酵素)は、エステラーゼ酵素を構成するポリペプチドの三次元構造を分解することにより、組成物中のカルボキシルエステラーゼを不可逆的に不活性化するために使用されうる。ペプチダーゼはEC3.4として分類され、ペプチド結合を切断する化学反応において水を使用する。カルボキシルエステルヒドロラーゼを不活性化するのに使用されうるペプチダーゼには、これに限定されないが、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、プロテイナーゼまたはタンパク質分解切断酵素と称されるあらゆる酵素が挙げられる。ペプチダーゼの起源は動物、植物、微生物または合成物であることができる。遺伝的にまたは化学的に改変されたペプチダーゼの変異体も含まれる。元の起源の生物以外の生物で発現されたペプチダーゼも含まれる。この酵素は溶液中でまたは固定化されて使用されうる。エキソペプチダーゼとして分類されるペプチダーゼが使用されうる。この酵素はポリペプチド鎖の末端からアミノ酸を切り出し、その切断の指向性に応じて、多くの場合アミノペプチダーゼまたはカルボキシペプチダーゼと称される。内部ペプチド結合を加水分解するエンドペプチダーゼが好ましい。特に好ましいのは、セリンエンドペプチダーゼとして知られるペプチダーゼの種類のメンバーである。これらの酵素については、内部ペプチド結合切断の触媒のために、重要な活性部位のセリン残基が必要とされる。好ましいセリンエンドペプチダーゼの具体的な例はスブチリシンである。スブチリシンはバシラス(Bacillus)微生物の様々な株に由来するセリンエンドペプチダーゼのグループである。バシラス由来のペプチダーゼの潜在的に有用な市販の製品には、サビナーゼ(Savinase商標)16LEX(ノボザイムス)、SEBalase−BPLおよびSEBrite−BP16.0L(スペシャリティエンザイムスアンドバイオケミカルズカンパニー(Specialty Enzymes and Biochemicals Co.))が挙げられる。カルボキシルエステラーゼの不活性化を示すが配合物に劣化を生じさせない具体的な配合物における試験に基づいて、ペプチダーゼの使用は選択され用量決定されるはずである。ペプチダーゼはカルボキシルエステラーゼを不活性にして;その結果、好適な濃度で添加される場合には、組成物におけるエステル加水分解活性はゼロになりうる。本発明のある実施形態においては、水性組成物のエステル加水分解活性はゼロである。
【0048】
あるいは、ポリマーラテックスまたはコーティング組成物のようなポリマー組成物内でのカルボキシルエステラーゼ活性の具体的な阻害のために、低分子が使用されうる。使用されうるエステラーゼ活性の低分子阻害剤には、組成物におけるエステラーゼ活性を可逆的にまたは不可逆的に低減させる分子が挙げられる。
【0049】
エステラーゼ活性の可逆的阻害は、エステラーゼの競合、非競合、または不競合低分子阻害剤を用いて達成されうる。エステラーゼ競合阻害剤は、エステラーゼ活性部位に結合する残留エステルと競合する。競合阻害剤はエステラーゼ活性部位において触媒作用を受けない。非競合阻害剤は活性部位以外の部位でエステラーゼに結合して、エステラーゼ活性を低減させるのに充分な酵素活性部位の立体配座の変化をもたらす。不競合阻害剤は、触媒部位とは異なる部位でエステラーゼ−基質複合体に結合し、生成物の形成を妨げる。可逆的にエステラーゼ活性を低減させる低分子阻害剤の有効性は、存在する酵素および阻害剤の相対的な量に応じて変動するであろうし、その使用比率は経験的に決定されるはずである。
【0050】
低分子阻害剤によるエステラーゼ活性の不可逆的阻害は、エステラーゼの三次元構造が低分子阻害剤によって破壊されないという点で、プロテアーゼによるエステラーゼ活性の不可逆的不活性化と異なる。エステラーゼ活性の不可逆的低分子阻害剤には、活性部位残基へのその阻害剤の固有の反応性の結果として、または酵素触媒の結果として(自殺基質)、その酵素の活性部位内に共有結合付加物を形成する分子が挙げられる。酵素活性部位内に非共有結合的に結合するが極度に高い親和性を有する強い結合性の分子、例えば、遷移状態アナログなども含まれる。
【0051】
エステラーゼ活性の具体的な低分子阻害剤の有効性は、使用される具体的なエステラーゼに従って変化するであろうことが予想される。使用される好適な酵素−阻害剤の組み合わせは経験的に決定されるはずである。
【0052】
エステラーゼ活性の不可逆的化学阻害剤には、特定の反応性官能基を含む分子、例えば、窒素マスタード、アルデヒド、ハロアルカン、アルケン、マイケル受容体、フェニルスルホナート、もしくはフルオロホスホナート、ボロン酸もしくはボロン酸エステル、有機ホスファート、および/または1つの良好な脱離基(例えば、フッ化物またはp−ニトロフェニル)を含むカルバマートが挙げられる。これら求電子基はアミノ酸側鎖と反応して、共有結合付加物を形成する。修飾された残基は求核基、例えば、ヒドロキシルまたはスルフヒドリル基を含む側鎖を有するものであり;これらには、アミノ酸セリン、システイン、スレオニンまたはチロシンが挙げられる。不可逆的阻害剤のいくつかの例には、フェニル、メチル、チエニル、アルキルおよび/またはポリマー基のような疎水性基に結合されたボロン酸/エステル;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびナトリウム1−デカンスルホナート;並びに、ジイソプロピルフルオロホスファート(DFP)が挙げられ;毒性問題のせいで好ましさはより低いが、有効でもあるものは、有機ホスファートのような化学物質、例えば、パラオキソン−メチル、パラオキソン−エチル、ジクロルボス、パラチオン、マラチオン、クロルピリホスおよびエトプロホス、並びにカルバマート、例えば、アルジカルブ、カルボフランおよびフラチオカルブのような化合物である。エステラーゼ酵素を阻害するのに加えて、上述のもの(特に、ドデシル硫酸ナトリウム、ナトリウム1−デカンスルホナートおよびDFP)に類似する化学物質もセリンプロテアーゼを阻害しうる。よって、不活性化剤の組み合わせの使用を考慮する実施者は、このような相互作用に留意するべきである。他の阻害剤はAg、Hg2+、Pb2+のような重金属イオンを含むこともでき、これは−SH基に対して強い親和性を有する。
【0053】
不可逆的阻害は不可逆的酵素不活性化とは異なる。不可逆的阻害剤は一般的には、酵素の1つの種類に特異的であって、全てのタンパク質を不活性にせず;不可逆的阻害剤はタンパク質構造を破壊することによって機能するのではなく、そのターゲットの活性部位を特異的に変化させることにより機能する。例えば、極端なpHまたは温度は通常、全てのタンパク質構造の変性を引き起こすが、これは非特異的効果である。同様に、いくつかの非特異的な化学処理はタンパク質構造を破壊し;例えば、濃塩酸中での加熱は一緒になってタンパク質を保持しているペプチド結合を加水分解して、遊離のアミノ酸を放出させるであろう。この方法は、それがエステラーゼ骨格に沿ってアミノ酸間のアミド結合を加水分解する点で、セリンプロテアーゼ酵素を使用するエステラーゼ処理に類似する。しかし、極端なpHもしくは温度、または濃塩酸の使用は、ポリマー組成物もしくはコーティング配合物という背景において酵素不活性化に対する実際的なアプローチではない、というのは、コーティング配合物はこれらの条件下で安定ではないからである。ある実施形態においては、不活性化剤が酵素阻害剤である場合には、酵素阻害剤は、競合酵素阻害剤、非競合酵素阻害剤、不競合酵素阻害剤、および不可逆的酵素阻害剤、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0054】
不活性化剤の添加は、カルボキシルエステラーゼの添加と同時になされうるか、または不活性化剤は前もしくは後に添加されうる。カルボキシルエステラーゼと不活性化剤との一方または双方は、配合の前にエマルションポリマーラテックスに添加されうるか、あるいは一方または双方は1以上の配合工程の後に添加されうる。好ましくは、カルボキシルエステラーゼと不活性化剤との双方は、配合の前に、エマルションポリマーラテックスに添加されるが、必ずしも同時である必要はない。最も好ましくは、カルボキシルエステルの濃度がカルボキシルエステラーゼ酵素によって所望の濃度まで低減された後で不活性化剤が添加されるという段階的な様式で、それらはエマルションポリマーラテックスに添加される。
【0055】
水性コーティング組成物は場合によっては無機粒子を含む。水性コーティング組成物に含まれる無機粒子の量の好適な範囲は、水性組成物および無機粒子の合計乾燥体積を基準にして0〜95体積%である。典型的には、本発明の水性コーティング組成物は、乾燥コーティングを製造するために使用される場合には、水性コーティング組成物の体積を基準にして20〜50体積%の範囲の固形分量を有する。水性コーティング組成物のpHは典型的には、3〜11の範囲、好ましくは7〜10の範囲である。水性コーティング組成物の好適な粘度範囲は50〜130クレブス単位(KU)、好ましくは70〜110KU、より好ましくは90〜100KUである。
【0056】
無機粒子には、無機顔料;金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、二酸化チタン;硫化亜鉛、リトポン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、クレイ、焼成クレイ、長石、霞石閃長岩、珪灰石、珪藻土、アルミナシリケート、およびタルクが挙げられる。ある実施形態においては、無機粒子は100nm未満の粒子サイズを有することができる。100nm未満の粒子サイズを有する望まれる無機粒子の例としては、酸化ケイ素、二酸化チタンおよび酸化鉄が挙げられる。
【0057】
水性コーティング組成物は、場合によっては、有機顔料粒子を含むことができる。好適な有機顔料には、プラスチック顔料、例えば、固体ビーズ顔料、および空隙またはベシクルを含むマイクロ球体顔料も挙げられる。固体ビーズ顔料の例には、ポリスチレンおよびポリ塩化ビニルビーズが挙げられる。マイクロ球体顔料の例としては、1以上の空隙を含むポリマー粒子、例えば、ローパック(Ropaque商標)不透明ポリマー(ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州)および当該技術分野において知られているようなベシクル化ポリマー粒子が挙げられる。他の既知の顔料および充填剤も使用されうる。
【0058】
従来、水性コーティング組成物は1種以上の揮発性有機化合物(VOC)を含む。VOCは本明細書においては、大気圧で270℃未満の沸点を有する炭素含有化合物と定義される。多くの場合、VOCは、コーティングの膜特性を向上させるためにまたはコーティングを製造するために使用される組成物の適用性を助けるために、故意に塗料またはコーティングに添加される。例としては、グリコールエーテル、有機エステル、芳香族化合物、エチレンおよびプロピレングリコール、並びに脂肪族炭化水素がある。
【0059】
本発明の水性コーティング組成物は、場合によっては、有機溶媒、造膜助剤、または可塑剤を含み、これらはVOCであっても良いしVOCでなくてもよい。これらは、所望の特性を達成するための水性コーティング組成物の膜形成性を助けるエステル化合物であることができる。これらの特性には、これに限定されないが、ポリマーのガラス転移温度未満の温度での膜形成性ポリマーの粒子の合体;凍結および解凍の繰り返しサイクル中の組成物のゲル化に対する耐性;並びに、この組成物を用いて適用されるコーティングおよび塗料によって示される、接着性、レベリング、ツーラビリティ(toolability)、ウェットエッジ(wet−edge)および光沢の発現、並びに、スクラビングおよび有機溶媒に対する耐性が挙げられる。従来の造膜助剤は典型的には揮発性液体有機化合物、例えば、これに限定されないが、二価アルコール、グリコール、オリゴマーグリコール、アルコールおよびグリコールのエステル、並びにエーテルが挙げられる。
【0060】
しかし、臭気および健康および環境の懸念のせいで、多くの国家及び地方政府は、コーティング、インク、シーラント、接着剤および関連する応用物としての使用が意図されている組成物に存在し得る揮発性有機化合物(VOC)の量(すなわち、バルクVOC)に関する規制を公布してきた。これら規制は、これらの化合物によって与えられる有益な性質に悪影響を与えることなく、水性ポリマー組成物中のバルクVOCを除去するかまたは少なくともその濃度を低減させるための方法を求めるこれら組成物の製造者および配合者による努力を開始させてきた。よって、溶媒、造膜助剤、または可塑剤は、コーティングのバルクVOC含量に寄与しないのが好ましい。
【0061】
ある実施形態においては、水性コーティング組成物は、水性コーティング組成物の全重量を基準にして20重量%以下のバルクVOCを;水性コーティング組成物の全重量を基準にして、好ましくは5重量%未満のVOC、より好ましくは3重量%未満のVOC、さらにより好ましくは1.7重量%未満のVOCを含む。
【0062】
典型的な塗料またはコーティング製造方法は、殺生物剤、脱泡剤、石けん、分散剤および増粘剤などを介して、水性組成物の製造から、付随的なVOCを導入する。これらは、典型的には、水性コーティング組成物の全重量を基準にして0.1重量%バルクVOCを占める。水蒸気ストリッピングおよび低VOC含有添加剤、例えば、殺生物剤、脱泡剤、石けん、分散剤および増粘剤などの選択のようなさらなる方法は、水性コーティング組成物の全重量を基準にして0.01重量%VOC未満まで水性コーティング組成物でさらに低減させるのに好適である。ある実施形態においては、水性コーティング組成物は、水性コーティング組成物の全重量を基準にして0.1重量%(1,000ppm)未満のバルクVOCを有し;より好ましくは、水性コーティング組成物は0.07%(700ppm)未満、さらにより好ましくは0.01%(100ppm)未満のバルクVOCを有する。
【0063】
別の実施形態においては、低VOC水性コーティング組成物は、VOCではない1種以上の造膜助剤、例えば、可塑剤、低分子量ポリマー、界面活性剤、および自己酸化可能な可塑剤、例えば、モノ−、ジ−もしくはトリ−不飽和脂肪酸をはじめとする不飽和脂肪酸のアルキルエステルなどを含むことができる。天然由来の可塑剤、例えば、アマニ油、キリ油、脱水ヒマシ油、大豆油、トール油、ヒマワリ油およびコーン油のような油から調製されるアルキルエステルなどが好ましい。好適な不飽和脂肪酸エステルには、パルミトレイン酸、オレイン酸もしくはカプロレイン酸から形成されるモノ不飽和脂肪酸エステル;リノール酸から形成されるジ不飽和脂肪酸エステル;リノレン酸もしくはエレオステアリン酸から形成されるトリ不飽和脂肪酸エステル、またはこれらの混合物が挙げられる。不飽和脂肪酸の好適なエステルには、アルキルエステル、例えば、メチルおよびエチルエステル;置換アルキルエステル、例えば、エチレングリコールおよびプロピレングリコールから形成されるエステル;並びに、不飽和脂肪酸、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールおよびジエチレングリコールモノブチルエーテルのアルキルエーテルエステルが挙げられる。ある実施形態においては、上記自己酸化可能な可塑剤は、重合単位として0.25%〜12.5%の(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチルを含むエマルションポリマーと共に使用される。コバルト、ジルコニウム、カルシウム、マンガン、銅、亜鉛および鉄のような金属イオン触媒の使用によって、自己酸化はさらに増大されうる。ハロゲン化物、硝酸塩および硫酸塩のような単純な塩が使用されうるが、多くの場合においては、アセタート、ナフテナートまたはアセトアセトナートのような有機アニオンが使用される。
【0064】
特に好ましい実施形態においては、乳化重合付加ポリマーが形成され、その後、残留モノマーの濃度を低減させるためにレドックス対が添加された後でかつこの物質が依然として高温である間に、カルボキシルエステラーゼ(5ppmのノボザイム51032;酵素および阻害剤の濃度は全水性組成物中の固形分酵素/阻害剤の部分に基づく)と接触させられる。あるいは、この酵素は、活性の損失なしに、レドックス対の添加中にまたはその添加前に添加されうる。好ましくは、pHは3.5より大きい。エステル濃度を低下させ続けつつ、この物質は冷却される。この物質は、残留エステル濃度の安定化の前に、または安定化の後で配合されて、低臭気、低VOC塗料を生じさせる。不活性化剤(例えば、1000ppmのフェニルボロン酸、PBA)はカルボキシルエステラーゼと同時に添加されうるが、好ましくは、残留濃度がカルボキシルエステラーゼによって所望の濃度まで低下させられた後であるが、配合の前に、段階的な様式でエマルションポリマーラテックスに添加される。60ppmのノボザイムCALBLおよび32ppmのノボザイムサビナーゼ(Savinase)(不活性化剤)の段階的な使用を用いる同様の実施形態も同様に効果的である。
【0065】
これら水性組成物を提供する方法も提供され、当該方法は、a)1種以上のカルボキシルエステルモノマーの重合単位を含み、残留有機カルボキシルエステルおよびモノアルコールを含有する、1種以上の乳化重合付加ポリマーを製造する工程;b)水性組成物が、33℃でのヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)で測定して、10ppm未満の、好ましくは5ppm未満の有機カルボキシルエステルおよび50ppmを超えるモノアルコールのヘッドスペースVOC含量を有するように、有機カルボキシルエステル含量を低減させるのに有効な量の1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素と、前記1種以上の乳化重合付加ポリマーとを接触させる工程;並びに、c)カルボキシルエステラーゼ酵素が組成物において0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解活性を有するように、好ましくは、このエステル加水分解活性が実質的にゼロであるように、カルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化する工程;を含む。
【0066】
ある実施形態においては、本方法は、工程a)の後のいずれかの時点で、VOCの除去を助けるための水蒸気ストリッピングの工程をさらに含み、ヘッドスペースVOC含量は10ppm未満、好ましくは5ppm未満の有機カルボキシルエステルおよび50ppm以下のモノアルコールを有する。
【0067】
本方法の別の実施形態においては、1種以上の乳化重合付加ポリマーはアクリル、スチレン−アクリル、酢酸ビニル−アクリルまたは酢酸ビニル−エチレンエマルションポリマーを、全組成物固形分に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%のエマルションポリマー固形分の量で含む。
【0068】
本方法の異なる実施形態においては、1種以上の乳化重合付加ポリマーは、カルボニル含有モノエチレン性不飽和モノマーの重合単位を含み、場合によっては、この組成物はさらにポリアミンまたはポリヒドラジドを含む。
【0069】
好ましくは、これらの方法によって製造される組成物は、1,000ppm未満、より好ましくは700ppm未満、さらにより好ましくは100ppm未満のバルクVOCを有する。
【0070】
従来のコーティング適用方法、例えば、ブラッシング、ローリングおよび噴霧方法、例えば、エアアトマイズドスプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、高体積低圧スプレー、およびエアアシストエアレススプレーなどが、本発明の水性ポリマー組成物を適用するのに使用されうる。さらに、いくつかのシステムについては、水性ポリマー組成物を適用するために他の適用技術、例えば、コークガン、ロールコーターおよびカーテンコーターが使用されうる。水性ポリマー組成物は、例えば、プラスチック、木材、金属、前処理された(primed)表面、すでに塗装されている表面、風化した塗装表面、ガラス、複合体およびセメント質基体のような基体に有利に適用されうる。乾燥は、典型的には、例えば、0℃〜35℃のような周囲条件下で進行するのが可能であるが、熱または低湿度で加速されうる。
【実施例】
【0071】
材料および略語
酵素−カルボキシルエステラーゼ:
CALBLは、6%溶液として供給されるノボザイム(Novozym商標)CALB L[ノボザイムス、バグスバード、デンマーク]である。
N51032は、5%溶液として供給されるノボザイム(Novozym商標)51032[ノボザイムス、バグスバード、デンマーク]である。
ライペックスは、7%溶液として供給されるライペックス(Lipex商標)100L[ノボザイムス、バグスバード、デンマーク]である。
PLEは、1.6%溶液として供給されるブタ肝臓エステラーゼ[シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州]である。
カンジダは5%溶液として使用されるカンジダシリンドラッシー(Candida Cylindracea)[シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州]である。
【0072】
酵素−プロテアーゼ:
SAVはサビナーゼ(Savinase商標)16.0LタイプEX[ノボザイムス、バグスバード、デンマーク]8%溶液である。
SEBrite商標BP16.0L[スペシャリティーエンザイムスアンドバイオケミカルズカンパニー、カリフォルニア州]、8%溶液として供給される。
SEBrite商標LPは8%溶液として供給される[スペシャリティーエンザイムスアンドバイオケミカルズカンパニー、カリフォルニア州]。
【0073】
配合成分:
ロープレックス(Rhoplex商標)AC−261[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
ロープレックスVSR−2015[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
ローパック(Ropaque商標)ウルトラE[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
ローパック(Ropaque商標)ウルトラ[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
アクリゾル(Acrysol商標)RM−3000[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
アクリゾル(Acrysol商標)RM−895[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
アクリゾル(Acrysol商標)RM−5[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
タモール(Tamol商標)731A[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
テルジトール(Tergitol商標)15−S−20(80%水性)[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
トライトン(Triton商標)DF−16[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
BYK商標−024[バイクキミー(Byk−chemie)GmbH、ベセル、ドイツ]
フォームスター(Foamstar商標)[コグニス(Cognis)、シンシナティー、オハイオ州]
テキサノール(Texanol商標)[イーストマンケミカル(Eastman Chemical)、キングスポート、テネシー州]
コアゾール(Coasol商標)[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
チオキシド(Tioxide商標)RTC−90[ハンツマン(Huntsman)、バイリンハム、英国]
Ti−ピュア(Ti−Pure商標)R706[デュポン、ウィルミントン、デラウエア州]
クロノス(Kronos商標)4311[クロノスワールドワイドインコーポテーティド(Kronos Worldwide Inc.)、ダラス、ニュージャージー州]
マイネックス(Minex商標)10[ユニミン(Unimin)、ニューカナン、コネチカット州]
サチントン(Satintone商標)5HB[BASF、ルドウィシャーフェン、ドイツ]
ダーカル(Durcal商標)2[オムヤ(Omya)、アルファレッタ、ジョージア州]
オムヤカルブ(Omyacarb商標)5[オムヤ、オハイオ州]
ジアフィル(Diafil商標)525[セライトコーポレーション、カリフォルニア州]
アタゲル(Attagel商標)50[BASF、ルドウィシャーフェン、ドイツ]
ナトロゾル(Natrosol商標)プラス330[ヘラクレス(Hercules)、ウィルミントン、デラウエア州]
ナトロゾル(Natrosol商標)250MHR[ヘラクレス(Hercules)、ウィルミントン、デラウエア州]
HECはヒドロキシエチルセルロースである。
HEURは疎水性に改変されたウレタンレオロジー改変剤である。
ケーソン(Kathon商標)LX−1.5[ザダウケミカルカンパニー、ミッドランド、ミシガン州]
EAはアクリル酸エチルである。
BAはアクリル酸ブチルである。
EHAはアクリル酸エチルヘキシルである。
MMAはメタクリル酸メチルである。
Styはスチレンである。
VAcは酢酸ビニルである。
GCはガスクロマトグラフィーである。
FIDはフレームイオン化検出である。
MSは質量分析である。
【0074】
試験手順
実施例において報告されるデータを生じさせるために、以下の試験手順が使用された。
スクラブ耐性試験
この試験(ASTM D2486−06に基づく)は以下のように行われた:
A.装置の準備:
1.摩耗試験装置
それぞれの側上の一組のケーブルによって、乾燥適用塗料膜上を前後に動かされるブラケットに固定されたブラシからなる摩耗試験装置が使用される。摩耗試験装置は使用前に水平にされ、そして37±1サイクル/分で操作されなければならない。
2.ブラシ
ブラシの毛は、新しい場合には、塗料表面上を均一にすり減らすのを可能にするように、使用前に平にされなければならない。平にすることは、100または120メッシュの目の細かい酸化アルミニウム紙ヤスリ上でそのブラシを動かすことにより達成される。
【0075】
B.試験:
1.7/10ダウフィルムキャスターの7mil開口を使用し、パネルの固定端から始めて、黒色ビニルチャート(タイプP−121−10N、ザレネタカンパニー(The Leneta Company))上に塗料をドローダウンさせる。膜のピンホール形成を妨げるために、適用時間は端から端まで3〜4秒とかなり遅くするべきである。73.5±3.5°Fおよび相対湿度50±5%に維持された開放室内で7日間の水平配置で空気乾燥する。
2.各サンプルの3つのドローダウンを作成する。2つを試験し、これらが25%以内の再現性である場合には、これらを平均する。これらが25%以内の再現性でない場合には、3番目のものを試験し、この3つを平均する。
3.ガスケットの付いた枠および真鍮のおもりまたはクランプを用いて摩耗試験装置にこのドローダウンを固定する。
4.ブラシをホルダーに取り付ける。固定されたドローダウン上に10グラムの研磨媒体(摩耗研磨媒体タイプSC−2、ザレネタカンパニー)を分配する。試験を開始する前に、径路の中央にブラシを配置する。
5.試験を開始する。破損する前で、各400サイクル後に、追加の10gの攪拌された研磨媒体がチャート上に分配される。
6.1つの連続した線で完全に塗料の膜を除去するサイクル数を記録する。
【0076】
ピールブロック耐性試験
この試験はASTM試験方法D4946−89に基づく。膜は以下のようにドローダウンされた:8〜10mlの塗料が、ドローダウンバー(3Milバードフィルムアプリケーター)の手前に、試験チャート(レネタチャート)上に移された。直ちに、両手でドローダウンバーを掴んで、滑らかな膜が約6cm/秒(5秒/試験チャート)の速度で試験塗料で塗り伸ばされた。この膜は恒温室(CTR)内で、試験要件に応じた特定の期間(1日または7日間)硬化させられた。各種の塗料膜の(試験を2回行うために)4つの4cm×4cm区域が準備された。切り出されたこの区域は塗料面が互いに向き合うように配置され、次いで平らな金属プレート上に配置された。それぞれ個々の標本は、狭い方を下にして8番のゴムストッパーで覆われ、1000gのおもりが各ストッパー上に配置された。2組の条件下でそれぞれの塗料のブロック耐性を評価するのが望ましい。これらは、面と面との接触について、(i)室温で24時間、および(ii)50℃で30分である。全ての場合において、おもりおよびストッパーは試験条件下で平衡化された。試験期間後、ストッパーおよびおもりを取り外し、その区域をゆっくりとした一定の力で、約180°の角度で分離させた。このサンプルは、次いで、以下に記載されるような0〜10のスケールでブロック耐性について評定された:
10=粘着なし、完璧
9=かすかな粘着、秀
8=わずかな粘着、非常に優
7=わずかな粘着、優
6=中程度の粘着、優
5=中程度の粘着、良
4=重度の粘着、密着なし、良
3=5〜25%密着、不可
2=25〜50%密着、不可
1=50〜75%密着、不可
0=完全な密着、非常に悪化した粘着
【0077】
本発明は、低臭気コーティング組成物および塗料を提供する。この例はどの程度安定な低臭気水性塗料が得られうるかを示すが、この例は本発明を限定することを意図していない。
【0078】
実施例1:ASTM D3960−05に基づくヘッドスペースVOC含量の決定
水性組成物中のヘッドスペースVOC含量はASTM3960:塗料および関連するコーティングの揮発性有機化合物(VOC)含量を決定するための標準的な実施:に基づく方法によって決定された。この方法は、水性エマルションポリマーまたは水性塗料上方の、化合物のヘッドスペース濃度を決定するために、静的ヘッドスペースサンプリング/33℃でのGC−MSを使用する。
【0079】
標準物質の準備:
最低で3つの濃度で較正される、各化合物を含む好適な溶媒(例えば、THF、テトラヒドロフラン)中の較正標準物質を準備する。標準物質濃度は連続希釈によって調製され、重量/重量基準の100万あたりの部(ppm)で計算されるべきである。より低いおよびより高い濃度の標準物質におけるそれぞれの化合物の濃度は、サンプルの分析において決定される化合物の応答を包括する検出器応答を生じさせるべきである。アルミニウムキャップを備えた22mlヘッドスペースバイアルに各標準物質20mgを秤量し、そのキャップをきつく圧着させる。最低でもサンプルのシークエンスの開始および終わりにおいて行われるように、水ブランクについてこの手順を繰り返す。標準物質を含むヘッドスペースバイアルを当該技術分野において知られているヘッドスペースGC−MSにかける。較正を必要とする化合物のそれぞれについて、その化合物についての3つの標準物質濃度を用いて較正プロットを作成する。Y軸に化合物のMS応答の積分面積対X軸にその濃度をプロットする。この較正プロットに適合する線形最小二乗式を作成する。
【0080】
サンプリング手順:
アルミニウムキャップを備えた22mlヘッドスペースバイアルに各サンプル5gを秤量し、そのキャップをきつく圧着させる。最低でもサンプルのシークエンスの開始および終わりにおいて行われるように、水ブランクについてこの手順を繰り返す。サンプルをヘッドスペースGC−MSで分析する。得られるクロマトグラムにおける、二乗平均平方根ベースラインノイズの5倍より大きいシグナルを有する全てのピークを積分する。揮発性物質の満足行く分離が達成されたら、既知の化合物に対する質量分析および/または保持時間適合が使用されて、検出される化合物を同定する。その化合物の較正プロットからの線形最小二乗式を用いて、サンプルヘッドスペース中の各較正された化合物の濃度を決定する。ヘッドスペース中のその成分の濃度はGC−MS技術によって0.1ppmまで信頼できる。
【0081】
実施例2:酵素加水分解活性の決定
エマルションポリマーラテックスまたはラテックス塗料についての酵素活性を測定するための手順は類似する。エマルションポリマーラテックスの場合には、エマルションポリマーラテックスバインダーの100gサンプルは、様々な酵素で、2.5〜1,000ppm(湿潤ラテックスの重量に対する酵素の固形分重量)の様々な濃度で処理された。1日平衡化した後、サンプルは約600ppmのアクリル酸エチル(EA)でさらに処理され、pH8.5、室温で48時間、密封ジャー内でインキュベートされた。15、75、135、1440および2880分の時点で5gのサンプルが取り出され、5gのDI水で希釈され、約1.6のpHまで100ppmの48%リン酸で阻害させられ、次いで充分に混合された。次いで、GC−MSまたはGC/FIDによって(実施例1の手順によって)、約10%のEAが消費された時点での、阻害されたラテックスサンプルについてのヘッドスペースEAの変化を計算することにより遊離の酵素の触媒活性が決定された。酵素活性は、加水分解されたEAのマイクロモル数/分(1単位(U)=1μモルEA/分)で表された。酵素処理された塗料における酵素活性は、1.6のpHを達成する量で添加されるリン酸阻害(48%リン酸溶液)を用いて同様に測定される。
【0082】
実施例3:エマルションポリマーラテックス、ポリマーAの合成
1397gのアクリル酸エチル、386gのメタクリル酸メチル(並びに、全モノマーの2重量%未満のメタクリル酸、炭酸ナトリウムおよびn−ドデシルメルカプタン)、499gのDI水および51.8gのアニオン性界面活性剤(30%活性)からモノマーエマルションが形成され、これは攪拌しながら乳化された。9gのアニオン性界面活性剤(30%活性)および547gのDI水が、機械式攪拌装置を備えた4Lマルチネックフラスコに入れられた。このフラスコ内容物は窒素下で75℃に加熱された。攪拌されたケトル内容物に67gのモノマーエマルション、次いで、0.02gの硫酸第一鉄七水和物および23.5gのDI水中の0.02gのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩および炭酸ナトリウム(全モノマーを基準にして0.5%未満)を添加した。重合は、36gDI水中の1.2gの過硫酸ナトリウム、次いで、5gのDI水中の0.6gのナトリウムハイドロサルファイトの添加により開始された。その後、モノマーエマルションの漸次添加が開始された。160gのDI水中の3.8gのAPSおよび160gのDI水中の1gのD−イソアスコルビン酸の別々の溶液がモノマーエマルションと共に供給された。モノマーの半分が供給された後で、ウレイドメタクリラートの50%溶液55グラムがモノマーエマルションの残りに添加された。3つの供給物の全添加時間は90−100分であった。反応器温度は重合中ずっと75℃に維持された。32gのDI水が使用されて、反応器へのエマルション供給ラインをすすいだ。モノマーエマルション添加の完了後、反応器は75℃から60℃に冷却され、残留モノマーは追加のレドックス対添加によって低減させられた。ポリマーエマルションは水酸化ナトリウム溶液でpH8に中和された。次いで、2重量%未満のアニオン性界面活性剤および防腐剤が添加された。最終粒子サイズは150nmであり、固形分は50%であった。このポリマーはポリマーAと定められる。
【0083】
実施例4:エマルションポリマーラテックスの酵素処理
上述のように、バインダーを製造するための乳化重合反応に由来するカルボキシルエステル化合物は主たる臭気源である。有機カルボキシルエステル含量を低減させることは、水性エマルションポリマーまたはコーティング組成物をカルボキシルエステラーゼ酵素と接触させることによって達成されうる。エマルションポリマーの酵素処理は「インプロセス」で、すなわち、以下に記載されるようなエマルションポリマーラテックスの形成中に行われうるか;または、この酵素がエマルションポリマーラテックスに後添加されうるか;または、配合されたコーティングまたは塗料組成物に直接この酵素が後添加されうる。
【0084】
5リットルの丸底フラスコ中で、上述のように、4リットルのアクリルラテックスが乳化重合によって製造された。レドックス対が添加されて、残留モノマーを低減させた後で、0.01%(湿潤重量基準の湿潤重量、すなわち、4,000gのラテックスに対して0.4gの湿潤酵素溶液)のCALBL(液体グレード、6%活性)が45℃の物質に添加された。これはエマルションポリマーラテックス中の6ppmの酵素固形分に等しい。処理されたラテックスは室温まで冷却させられ、KOHの5%溶液でpH8.5に中和された。次いで、この生成物は100メッシュスクリーンを通してろ過されて、室温で4リットル容器内に貯蔵された。サンプルは取り出され、エステルの除去について、GC/FID(ガスクロマトグラフィー/フレームイオン化検出器)で分析された。インプロセス添加がより便利であるが、エマルションポリマーラテックスへの酵素の後添加は、酵素での処理前および処理後の双方での、残留エステル含量のためのラテックスのサンプリングを可能にする。処理濃度は添加される酵素溶液の量によって変動した。結果は表1に示される。
【0085】
【表1】

1.ロープレックスAC−261商標(ダウアドバンストマテリアルズ、フィラデルフィア、ペンシルベニア州)は、商業的に入手可能な水性アクリルBA/MMAバインダーであり(他成分は2%未満)、50%固形分で供給される。
2.酵素処理の一週間後に決定された残留エステルおよびアルコール含量。
n.d.=検出されず;2ppmの低さの濃度まで信頼できる検出が可能である。以下、1ppm未満のGC−FIDによって検出された成分の濃度はゼロと示される。
【0086】
酵素ノボザイム商標N−51032について様々な酵素濃度で、同じ手順によって類似のデータが集められ、それぞれの酵素での処理後1週間および3週間の双方で、ラテックスヘッドスペースに存在する残留エステル濃度を比較して、CALBLについてのと共にまとめた形で(以下の表2に)示された。
【0087】
【表2】

1.ロープレックスAC−261商標(ダウアドバンストマテリアルズ、フィラデルフィア、ペンシルベニア州)は、商業的に入手可能な水性アクリルBA/MMAバインダーであり(他成分は2%未満)、50%固形分で供給される。
【0088】
非常に低い濃度の添加酵素、例えば、6ppmのCALBLおよび5ppmのN−51032などについてさえ、3週間後にカルボキシルエステル除去は完了すると認められうる。
【0089】
表3において、多くのポリマーの種類について臭気低減が達成されうることを示す、様々なエマルションポリマーについて類似のデータが得られた。
【0090】
【表3】

1.3週間の酵素処理後に決定された残留エステル含量(湿潤ラテックスに対して6ppmの固形分CALBL)。
2.BA/MMAラテックスは上記表1および2におけるロープレックス商標AC−261(50%固形分)であった。
3.BA/Styラテックスは、実施例3の方法によって得られうる、52BA/46Sty/1MAA/1接着促進剤(他の成分2%未満;50%固形分で供給):の組成を有していた。
4.BA/VAcラテックスは、商業的に入手可能な水性アクリルBA/VAcバインダー(ダウアドバンストマテリアルズ、フィラデルフィア、ペンシルベニア州)で、55%固形分で供給される、ローベース(Rovace商標)9900であった。
【0091】
実施例5:スクラブおよびブロック耐性に対する塗料の酵素処理の効果
塗料の特性に対する酵素処理の効果はこの実施例において、酵素処理されたエマルションポリマーを標準塗料配合物に配合することにより検討された。(あるいは、酵素処理は、塗料配合物への酵素の後添加によって直接行われうる。)スクラブ耐性およびブロック耐性を含む鍵となる塗料特性のいくつかが試験された。
【0092】
以下の表4は、表5および6にそれぞれ示されるスクラブ耐性およびブロック耐性データのための塗料を配合するために使用される塗料配合物を示す。
【0093】
【表4】

1.ポリマーAは水性アクリルバインダーである(実施例3参照)。
2.ロープレックスVSR−2015(ダウアドバンストマテリアルズ、フィラデルフィア、ペンシルベニア州)は商業的に入手可能な水性アクリルBA/MMAバインダー(他の成分は2%未満)である。
【0094】
一晩平衡化した後で、塗料は、90<KU<100、1.2<ICI<1.7、8.3<pH<8.5の範囲の特性を有することが決定された。塗料配合物は様々な濃度のライペックス100L(7%水溶液として添加された)で後処理され、10分間攪拌され、次いで、塗料膜をドローダウンする前に一晩放置して平衡化した。これらの塗料についてのスクラブ耐性試験およびブロック耐性試験の結果は、それぞれ、表5および表6に示される。
【0095】
【表5】

1.7日間RT(75F、相対湿度50%)で硬化された膜。
【0096】
塗料のスクラブ耐性の10%以上の低減は、塗料製造者には明らかに望ましくなく、このデータは、塗料中の135ppmまたは270ppmの高さのライペックス100Lの濃度は許容できないことを示す。塗料のスクラブ耐性の6%の低減は問題の兆候であるが、決定的ではない。
【0097】
【表6】

1.1日間RT(75F;相対湿度50%)で硬化した膜、50℃で30分間おもりを適用させつつ面と面とを接触させた後で測定されたブロック耐性。
2.1日間RT(75F;相対湿度50%)で硬化した膜、RTで20時間おもりを適用させつつ面と面とを接触させた後で測定されたブロック耐性。
3.7日間RT(75F;相対湿度50%)で硬化した膜、50℃で30分間おもりを適用させつつ面と面とを接触させた後で測定されたブロック耐性。
4.7日間RT(75F;相対湿度50%)で硬化した膜、RTで20時間おもりを適用させつつ面と面とを接触させた後で測定されたブロック耐性。
【0098】
260ppmのライペックス100Lが塗料中に存在する場合に、1日ホットブロック耐性は破壊される。
【0099】
実施例6:配合物安定性をもたらす酵素濃度の決定
塗料配合物へのカルボキシルエステラーゼの添加は、エマルションポリマーラテックスへの添加を介した間接的、または塗料への後添加による直接的のどちらであっても、カルボキシルエステラーゼのある濃度については塗料不安定性を生じさせることが見いだされ、これは塗料特性に対する1以上の悪影響という形で表されうる。最も一般的には、この酵素は粘度不安定性を生じさせうるが、ブロック耐性の損失またはスクラブ耐性の損失も起こる場合がある。さらに、この酵素は造膜助剤を攻撃する場合があり、造膜助剤を無効化しおよび/または切断された造膜助剤分子によって、より高いVOCを生じさせうる。
所定の酵素については、塗料配合物安定性は残留酵素活性が無視できる酵素濃度を確立することによって達成されうる。
【0100】
アクリルラテックスバインダーの部分は、0.01〜1%(重量基準、湿潤対湿潤)で変動する濃度のCALBLまたはN51032で処理された。このサンプルは分けられ、ラテックスの一部分は対照として保持され、別の部分は塗料B(上述)に配合された。様々な酵素の種類および濃度で製造される各塗料については、酵素活性は、約630ppmのアクリル酸エチルを後添加し、そして酵素による加水分解に起因するその消失を監視することによって決定された。塗料中のEA含量の変化は上で概説された手順(実施例1および2)によって決定された。結果は、0.01%、0.1%および1.0%(ラテックスへの湿潤対湿潤添加%)の酵素濃度での2種類の酵素(ノボザイム商標CALBLおよびノボザイム商標51032)について、以下の表7に示される。
【0101】
【表7】

変化および変化%は、酵素処理された塗料へのEAの添加後9日間のものである。
【0102】
このデータはこれらの酵素の双方について、酵素が0.01%(湿潤対湿潤)濃度(湿潤ラテックスにおける5〜6ppmの酵素固形分または湿潤塗料中の約2ppmの酵素固形分に等しい)で添加される場合には、有意な残留酵素活性が存在しないことを示す。しかし、両方の酵素について、0.1%(湿潤対湿潤)濃度(湿潤ラテックスにおける50〜60ppmの酵素固形分または湿潤塗料中の約20ppmの酵素固形分に等しい)の酵素添加では有意な残留活性が存在する。
【0103】
両方の酵素について、およびブタ肝臓エステラーゼについて、0.05%(湿潤対湿潤)濃度(湿潤ラテックスにおける25〜30ppmの酵素固形分または湿潤塗料中の約10ppmの酵素固形分に等しい)で、さらなるデータが得られ(異なる塗料配合物「塗料C」において、以下の表8)、以下に示される(表9)。
【0104】
【表8】

1.実施例3の方法によって製造されるポリマーB、ただし、38EHA/15BA/44MMA(メタクリル酸ホスホエチルおよびウレイドメタクリラート2%未満)の組成を有する。
【0105】
【表9】

【0106】
3種の全ての酵素について、0.05%(湿潤対湿潤)濃度(湿潤塗料中の約10ppmの酵素固形分に等しい)の酵素添加では有意な残留活性が存在する。このデータは、0.05%の濃度(塗料中の〜10ppm)で添加される場合には、この塗料配合物中で酵素は依然として活性であることを示し、そして、この濃度で塗料特性の劣化の可能性があることが予想される。実際、HEUR増粘剤(アクリゾル商標RM−5)の代わりに、HEC増粘剤(ナトロゾル商標250MHRまたはナトロゾル商標プラス330)を含む類似の塗料配合物へのPLEまたはN51032のこの添加濃度は、1日未満で、塗料を粘稠なペーストまで変化させる。同様に、これら濃度において、HEC増粘剤を含むCALBL処理された塗料は許容できない粘度ドリフトを被る。
【0107】
実施例7:塗料配合物安定性に対する酵素濃度の影響
水性ラテックスエマルション塗料における臭気を制御するためのカルボキシルエステラーゼ酵素の使用は、塗料中に存在する有機カルボキシルエステル化合物の濃度を標的にする。塗料の重要な特性が悪化する場合には、このアプローチは塗料製造者にとって価値がない。安定なレオロジープロファイルはこの重要な特性の1つである。以下の表10は、様々な濃度で添加される多くの様々な酵素についての、アルコールおよびエステルVOC濃度(および、それによる塗料の臭気)、並びにKU粘度に対する効果を示す。
【0108】
【表10】

1.塗料D(表8参照)。
2.ブロック耐性は上述のように決定され、塗料8(1日間ホットブロックについて1の評定を有しており、劣ったブロック耐性、50〜75%密着を示した)以外の全てのサンプルについて許容可能(全てのカテゴリーにおいて6以上の評定)であることが認められた。
3.C=比較例;I=本発明の実施例
4.GC−MS(実施例1および2において記載される)によって決定された。
【0109】
10ppmの低さの残留ヘッドスペースエステル濃度は、水性塗料中に検出可能な臭気をもたらすので、許容可能な低臭気塗料は10ppm未満、好ましくは8ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満のエステルVOC濃度を有しなければならない。このデータは、カンジダの添加は、これら酵素の添加濃度について(塗料中の酵素88ppmまたは350ppmいずれにおいても)、許容可能な臭気レベルを達成できないことを示す。さらに、高濃度のライペックス100L(例えば、塗料中に350ppm以上)は、ブロック耐性の完全な損失をもたらす。
【0110】
さらに、塗料製造者は、室温で10KU以下、好ましくは8KU以下、より好ましくは5KU以下、または熱老化条件下(50℃で10日間としてシミュレートされる)で15KU以下のKU粘度変化(デルタKU)の安定な塗料を必要とする。このデータセットは、CALBLまたはN51032酵素を、約0.01%以下の濃度(湿潤ラテックス基準の湿潤酵素溶液;ラテックスにおける約2〜6ppmの酵素固形分または塗料中の約1〜2ppmの酵素固形分に等しい)で使用して、安定な低臭気塗料が得られうることを示す。これらの濃度において、カルボキシルエステラーゼ酵素のエステル加水分解活性は0.030マイクロモル/分未満である。
【0111】
実施例8:ヒドラジドを含む周囲硬化ポリマーラテックスの酵素処理
上述のように、エマルションポリマーがカルボニル含有モノマーの重合単位を含み、かつ場合によって、この組成物がポリアミンもしくはポリヒドラジドをさらに含みうるポリマーバインダーを含む塗料膜の周囲硬化が達成されうる。この種のエマルションポリマーおよびこのポリマーを製造する方法は、すでに報告されてきた(例えば、米国特許第4,250,070号を参照)。この方法により得られうるアクリルエマルションポリマー組成物は、BA/MMAの組成で、Tg〜10℃のアクリルポリマー(45%固形分)、および2%未満のジアセトンアクリルアミドを含んでおり、この組成物はさらに2%未満のアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を含んでいた。
【0112】
ノボザイム商標CALBL(6%溶液0.35g)をアクリルエマルションポリマーラテックス(3528g)に添加した。この混合物を振とうし、室温で24時間静置した。残留エステル含量はゼロに低減された(ラテックス中の主たるエステル成分であるアクリル酸ブチルおよびプロピオン酸ブチルの濃度は、GCによって測定して、それぞれ16ppmから0ppmに、および69ppmから0ppmに低減された)。
【0113】
この改変されたエマルションが21%PVC光沢塗料に配合され、光沢、ブロック、ステイン耐性、アルキド接着性およびダートピックアップについて試験された。性能の有意な劣化は観察されなかった。残留ヒドラジンも測定され、検出限界未満であることが見いだされ、このことは、この酵素がポリヒドラジドにおけるアミド結合を加水分解しないことを示す。
【0114】
実施例9:VOC除去のために組み合わせられたカルボキシルエステラーゼ酵素処理と水蒸気ストリッピング
乳化重合付加ポリマーを含む水性コーティング組成物の酵素処理は従来の連続プロセス水蒸気ストリッピングよりもカルボキシルエステルVOC除去の点でより効果的である。例えば、88%のカルボキシルエステルバルクVOCがわずか6ppm(湿潤ラテックス基準の酵素固形分)のCALBLを用いて除去され、これに対して、水蒸気ストリッピングの1回、2回および3回通過後には、それぞれ、50%、70%および80%の低減であったことが見いだされた。しかし、水性組成物を酵素(6ppmCALBL、室温で16日間の接触)で、次いで水蒸気ストリッピングで前処理する組み合わせは、特に効果的であり、水蒸気ストリッピングの1回、2回および3回通過後には、それぞれ、バルクVOCを95%、96%および97%低減させた。
【0115】
水蒸気ストリッピングは、酵素処理との組み合わせにおいて実際により効果的になる。従来の水蒸気ストリッピングについては、より疎水性であって通常ポリマー相に保持されるVOCは、より親水性であって水性相に含まれるVOCよりもストリップするのがより困難である。カルボキシルエステラーゼは疎水性VOCを構成成分である親水性アルコールおよび酸に変換する。水蒸気ストリッピングによる、より容易な除去は、より低い沸点成分のための全体的なVOCカウントを低下させ、およびより容易にストリップするVOCの組み合わせを作り出す。さらに、疎水性VOCを親水性VOCに変換することにおいて、カルボキシルエステラーゼは、より臭気の強いVOCを低臭気の化合物に変換する。その結果、その物質はより低臭気で始まるので、同じ量の水蒸気を用いて、組成物をストリップしてより低臭気にするのがより容易になる。
【0116】
実施例10:プロテアーゼ酵素の添加によるカルボキシルエステラーゼの不活性化
本発明のある実施形態においては、配合物におけるカルボキシルエステラーゼの残留活性はその酵素の不活性化によって制御されうる。
【0117】
以下の表11は、カルボキシルエステラーゼ(CALBL)のポリマーラテックスへの添加の時点でのプロテアーゼ酵素(サビナーゼ)の同時添加によるカルボキシルエステラーゼの不活性化を示す。アクリルラテックス(ポリマーA、実施例3)の10gのサンプルが、表11に示される濃度のCALBLおよびサビナーゼと共にインキュベートされた。サンプルは、約65ppmのアクリル酸エチル(EA)で直ちに処理され、密封ジャー内で室温で30日までの間インキュベートされた。GC/FIDによるヘッドスペースの評価のために、この時間中に20mgのサンプルが取り出された。この酵素の組み合わせの存在下でのEAのエステル加水分解は、表に示された時点でのラテックスサンプルにおけるヘッドスペースEAの減少を通じて監視された。
【0118】
【表11】

1.アクリルラテックス、ポリマーA。
再添加せず。
【0119】
表11においては、全てのサンプルがラテックス中約65ppmのEAで開始(t=0)する。サンプル1は、いずれの酵素も含まない場合にはEA濃度は時間が経過しても全く一定のままであることを示す。サンプル2(およびサンプル6)はカルボキシルエステラーゼ単独の添加がEA含量をゼロまで低減させるのに効果的であることを示すが、ラテックスへのEAのさらなる添加はこの酵素が依然として活性であることを示す。上述のように、このことは配合成分を攻撃することにより、配合系内に問題を生じさせる場合がある。サンプル3−5および7は、どの程度のプロテアーゼ酵素の添加が、もはやEAを除去できないようにカルボキシルエステラーゼを不活性化することができるかを示す。サンプル7は酵素濃度の好適な選択が、残留モノマーの非常に低濃度までの低減およびもはや活性でないようにするカルボキシルエステラーゼの不活性化の双方を達成することができることを示す。
【0120】
あるいは、カルボキシルエステラーゼの不活性化は、表12に示されるような、カルボキシルエステラーゼの添加の後でプロテアーゼの添加が起こる、段階的な方式で達成されうる。
【0121】
【表12】

1.カルボキシルエステラーゼはt=0の時点で添加され;プロテアーゼはt=24時間の時点で添加された。
2.アクリルラテックス、ポリマーA。
【0122】
対照サンプルであるサンプル1および2は表11における対照サンプル1および2と同様に機能する。サンプル3および4は、EA濃度が低減した後でカルボキシルエステラーゼの不活性化が起こるようにプロテアーゼが後で添加されうることを示す。サンプル2〜4についてEA除去(GC−FIDによって決定されるEA濃度)の異なる速度によって示されるような遅延効果が存在する。しかし、カルボキシルエステラーゼがEA濃度を所望の濃度まで低減するのに有効であった後で、単純にプロテアーゼを添加することができた。
【0123】
カルボキシルエステラーゼ不活性化はプロテアーゼ酵素によって行われうるが、好適な濃度および条件は、それぞれの場合において経験的に決定される必要がある。例えば、プロテアーゼ酵素であるSEBriteBP16.0LおよびSEBalaseBPL(表11および12において示される濃度で)の添加は、カルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化するのに効果的であるので、それらは段階的添加技術により従い;同時添加は、残留モノマーが充分に除去されないほど素早くカルボキシルエステラーゼ酵素を機能停止させる。
【0124】
実施例11:低分子阻害剤の添加によるカルボキシルエステラーゼの不活性化
別の実施形態においては、表13および14においてCALBLおよびN51032について示されるように、カルボキシルエステラーゼ酵素の不活性化は低分子阻害剤の添加によって達成されうる。この実験は、プロテアーゼの代わりに低分子阻害剤分子が、湿潤ラテックス重量を基準にして1.0重量%の固形分濃度で添加され、かつラテックス中のEAの開始濃度が約115ppmであったことを除いて、実施例10において記載されるのと類似の様式で行われた。以下の表13は、カルボキシルエステラーゼ酵素CALBLを含むポリマーラテックス(AC−261)のEA含量に対する低分子阻害剤の効果を示す。低分子阻害剤およびCALBLはt=0の時点で同時に添加された。以下の表においては、可能な低分子阻害剤は以下の通りである:
PBA:フェニルボロン酸
S−1−DS:1−デカン−スルホン酸ナトリウム
NPB:ネオペンチルボロン酸
2MPB:(2−メチルプロピル)ボロン酸
CBA:シクロヘキシルボロン酸
【0125】
【表13】

1.可能な低分子阻害剤は湿潤ラテックスの重量を基準にして1.0重量%の固形分濃度で添加された。
2.アクリルラテックス、AC−261。
【0126】
対照と比較して、PBAおよび2MPBの双方はカルボキシルエステラーゼ酵素を阻害するのに有効であるのは明らかである。しかし、使用濃度において、カルボキシルエステラーゼは有意な量の残留モノマー(EA)を除去できないので、これら2種の分子は実際に同時適用には効果がありすぎる。(PBAおよび2MBPの使用濃度の最適化は、それぞれ、以下の表15および16で行われ;あるいは、上述のような段階的添加が行われうる)。CBAおよびS−1−DSの双方は、CALBL酵素を阻害する幾分かの能力を示すが、NPBはCALBLの阻害剤として全く効果がなかった。
【0127】
同様に、以下の表14は、カルボキシルエステラーゼ酵素N51032を含む同じポリマーラテックスのEA含量に対する低分子阻害剤の効果を示す。低分子阻害剤は(エステラーゼと同時に)湿潤ラテックスの重量を基準にして1重量%の固形分で添加される。
【0128】
【表14】

【0129】
PBAおよびより低い程度で2MPB、CBAおよびS−1−DSは、カルボキシルエステラーゼ酵素の阻害に有効である。また、ラテックス中でのPBAおよび2MPBの使用濃度の最適化は、それぞれ、同じ手順によって、表15および16において検討される。
【0130】
【表15】

【0131】
このデータは、CALBLおよびN51032の双方について、0.01%(湿潤ラテックスの重量を基準にした阻害剤固形分の重量%)またはさらには0.001%の低さのPBA濃度が酵素活性を機能停止させるのに充分であることを示す。
【0132】
【表16】

【0133】
同様に、表16に示されるデータは、CALBLおよびN51032の双方について、0.01%(湿潤ラテックスの重量を基準にした阻害剤固形分の重量%)またはさらには0.001%の低さの2MPB濃度が酵素活性を機能停止させるのに充分であることを示す。
【0134】
本発明のある実施形態においては、不活性化剤が酵素阻害剤である場合には、酵素阻害剤はボロン酸、その誘導体、ドデシル硫酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0135】
実施例12:不活性化剤を含むか含まないカルボキシルエステラーゼ含有塗料についての、塗料配合物安定性の比較
カルボキシルエステラーゼ酵素が使用されて、カルボキシルエステルモノマーの臭気閾値濃度未満、さらに好ましくはゼロまでの、カルボキシルエステル残留モノマー濃度の低減を達成することができる。カルボキシルエステラーゼを不活性化する最終的な目標はカルボキシルエステラーゼ酵素が必須の配合成分を攻撃しないように残留カルボキシルエステラーゼ酵素活性を除去することである。エステルベースの多くの造膜助剤はエステラーゼによって加水分解をかなり受けうることが見いだされてきた。一般的に使用されるこのような増膜助剤の1つはコアゾール(Coasol)である。次のデータセットにおいては、18種の塗料が表17において示される配合に従って配合され、低分子およびプロテアーゼ不活性化方法がカルボキシルエステラーゼ酵素による分解からコアゾールを保護できるかどうかかを決定した。表18はこの結果をまとめる。
【0136】
【表17】

1.いくつかの配合物においては、ロープレックスAC−261ポリマーラテックスはカルボキシルエステラーゼ酵素で処理された。
【0137】
以下の表18においては、18種の塗料はAC−261ラテックスを含み;塗料3〜18については、ポリマーラテックスは、カルボキシルエステラーゼ酵素N51032またはCALBLで表に示された濃度で処理された。このデータは塗料配合物安定性に対するカルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化する効果を示し、不活性化剤は、段階的な様式で、カルボキシルエステラーゼ酵素の24時間後にラテックス中に添加された。塗料はさらに24時間後に配合された。
【0138】
【表18】

1.塗料配合物は表17に示される。
2.デルタKUは、塗料の当初KU粘度とその1週間平衡化したKU粘度との間の絶対的な差である。40を超える値は測定範囲外であり、これらのサンプルはバターの稠度を有していた。
3.酵素濃度は、湿潤ラテックスに対する乾燥酵素のppmで表される。
4.1%の不活性化剤PBAまたはサビナーゼは、湿潤ラテックスの重量に対する(供給されるままの)薬剤の重量%である。
【0139】
表18におけるデータは、カルボキシルエステラーゼ酵素N51032およびCALBLの双方とも、非常に低い濃度(5または6ppm)でさえ、造膜助剤コアゾールを含む塗料の塗料配合物安定性に対して重大な劣化効果を有することを示す。しかし、CALBLおよびN51032の両方ともに対して、低分子阻害剤の添加によるまたはプロテアーゼ酵素の添加によるカルボキシルエステラーゼ酵素の不活性化は、塗料の許容可能な配合物安定性を可能にする。それぞれの場合において、カルボキシルエステラーゼ酵素がカルボキシルエステル濃度を低減させた後に、段階的な様式でPBAおよびプロテアーゼは添加されたが、両方の場合において、不活性化は実施例10において記載されるように同時に適用されることができた。この実験において使用されたのと同じ濃度のカルボキシルエステラーゼは、この同じラテックス(AC−261)において残留カルボキシルエステル濃度を本質的にゼロまで低減させることが先に(表2)に示された。
【0140】
以下の表19は、ポリマーラテックス(AC−261)においてカルボキシルエステラーゼ酵素活性に対する(段階的な)酵素不活性化の効果を示す。ヘッドスペースEA濃度(GC−FID)における変化によって測定される場合の、ラテックス中のこの酵素活性は、2種類のカルボキシルエステラーゼ酵素N51032およびCALBLについて、それぞれの場合において、カルボキシルエステラーゼの不活性化ありまたはなしで決定された。この実験手順は実施例2におけるのに従う。
【0141】
【表19】

1.3サンプルの平均:t=0の場合の測定における標準偏差は約5ppmであり;t=120分またはt=360分の場合の測定についての標準偏差は約7ppmである。
2.EA濃度は、阻害されていないサンプルについてはt=120分の時点で測定され、阻害されたサンプルについてはt=360分の時点で測定された。
3.酵素濃度は、湿潤ラテックスに対する乾燥酵素のppmで表される。
4.1%の不活性化剤PBAまたはサビナーゼは、湿潤ラテックスの重量に対する(供給されるままの)薬剤の重量%である。
【0142】
N51032カルボキシルエステラーゼ酵素はPBA低分子阻害剤によって効果的に不活性化され、CALBLカルボキシルエステラーゼ酵素は添加プロテアーゼによって効果的に不活性化された。両方の場合とも、酵素活性は本質的にゼロである。それぞれの場合において、PBAおよびプロテアーゼは段階的な様式で添加されたが、両方の場合共に、この不活性化は実施例10に記載されるように同時に適用され得た。
【0143】
以下の表20は、塗料配合物(表17の塗料配合物E)について行われたのと類似の実験を示す。
【0144】
【表20】

1.3サンプルの平均:t=0の場合の測定における標準偏差、t=120分またはt=360分の時点での測定についての標準偏差は約5ppmである。
2.EA濃度は、阻害されていないサンプルについてはt=120分の時点で測定され、阻害されたサンプルについてはt=360分の時点で測定された。
3.酵素濃度は、湿潤ラテックスに対する乾燥酵素のppmで表される。
4.1%の不活性化剤PBAまたはサビナーゼは、湿潤ラテックスの重量に対する(供給されるままの)薬剤の重量%である。
【0145】
表20におけるデータについての酵素不活性化の実験手順およびモードは、酵素が完全に配合された塗料中に存在することを除いて、表19におけるのと同じである。ここにおいても、低分子阻害剤(PBA)およびプロテアーゼ(サビナーゼ)は塗料配合物中でカルボキシルエステラーゼを不活性化するのに効果的である。
【0146】
全体を通じて、このデータはラテックスまたは配合された組成物へのカルボキシルエステラーゼの添加が臭気閾値濃度未満までカルボキシルエステルの濃度を低減できることを示し、さらには配合物安定性または配合物の最終特性に対する悪影響を及ぼすであろう他の配合成分に対する酵素活性の悪影響が、カルボキシルエステラーゼ酵素の不活性化によって回避されうることを示す。不活性化後のカルボキシルエステラーゼ加水分解活性は事実上ゼロである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)1種以上のカルボキシルエステルモノマーの重合単位を含む、1種以上の乳化重合付加ポリマーを含み;
ii)組成物において0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解活性を有する1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素を場合によって含み;
iii)1種以上のカルボキシルエステラーゼ不活性化剤を含み;
iv)76未満の分子式量を有する1種以上のモノアルコールを50ppmを超えて含み;並びに、
v)150℃未満の標準沸点を有する有機カルボキシルエステルを10ppm未満で含む;
水性組成物。
【請求項2】
水性組成物がコーティング組成物である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
エステル加水分解活性がゼロまたは実質的にゼロであり、モノアルコールがn−ブタノール、t−ブタノール、またはエタノールである、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項4】
不活性化剤が、1種以上のプロテアーゼ酵素、1種以上の酵素阻害剤、およびこれらの組み合わせ;からなる群から選択される、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項5】
1種以上の乳化重合付加ポリマーが、アクリル、スチレン−アクリル、酢酸ビニル−アクリルまたは酢酸ビニル−エチレンエマルションポリマーを、全コーティング組成物固形分に基づいて少なくとも5重量%のエマルションポリマー固形分の量で含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項6】
1種以上の乳化重合付加ポリマーがカルボニル含有モノエチレン性不飽和モノマーの重合単位、またはポリアミン、またはポリヒドラジド、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項7】
a)1種以上のカルボキシルエステルモノマーの重合単位を含み、残留有機カルボキシルエステルおよびモノアルコールを含有する、1種以上の乳化重合付加ポリマーを製造する工程;
b)水性組成物が、33℃でのヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)で測定して、10ppm未満の有機カルボキシルエステルおよび50ppmを超えるモノアルコールのヘッドスペースVOC含量を有するように、有機カルボキシルエステル含量を低減させるのに有効な量の1種以上のカルボキシルエステラーゼ酵素と、前記1種以上の乳化重合付加ポリマーとを接触させる工程;並びに、
c)カルボキシルエステラーゼ酵素が組成物において0.010マイクロモル/分未満のエステル加水分解活性を有するように、カルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化する工程;
を含む、水性組成物を提供する方法。
【請求項8】
工程a)の後のいずれかの時点で、1種以上の乳化重合付加ポリマーを含む水性コーティング組成物を製造する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程a)の後のいずれかの時点で水蒸気ストリッピングし、10ppm未満の有機カルボキシルエステルおよび50ppm以下のモノアルコールのヘッドスペースVOC含量をもたらす工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
1種以上の乳化重合付加ポリマーがカルボニル含有モノエチレン性不飽和モノマーの重合単位、またはポリアミン、またはポリヒドラジド、またはこれらの組み合わせを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
カルボキシルエステラーゼ酵素を不活性化する工程が、1種以上のプロテアーゼ酵素の添加、または1種以上の酵素阻害剤の添加、またはこれらの組み合わせによって達成される、請求項7に記載の方法。

【公開番号】特開2011−127110(P2011−127110A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−270328(P2010−270328)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】