説明

低蛋白澱粉食品の品質改良剤及び低蛋白澱粉食品の調理方法

【課題】
調理後の低蛋白澱粉食品の外観や味、口に含んだ時の食感をより通常食品に近づけることができる、低蛋白澱粉食品の品質改良剤及び低蛋白澱粉食品の調理方法を提供する。
【解決手段】
N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有する品質改良剤を、低蛋白澱粉米の加熱調理時に添加して用いる。N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を、低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.0005〜0.05質量部添加して、加熱調理する。有効成分としてN−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩を用いることが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低蛋白澱粉食品の品質改善剤及び低蛋白澱粉食品の調理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓病患者においては、蛋白質の摂取量を制限することにより、治療効果の向上、透析治療導入の遅延に繋がることが知られている。そのため、腎臓病患者向けに、蛋白質を低減ないし除去した、いわゆる低蛋白食品が市販されている。
【0003】
低蛋白食品としては、低蛋白澱粉米、低蛋白澱粉パン、低蛋白澱粉うどん等の低蛋白澱粉食品がすでに市販されている。そのひとつである低蛋白澱粉米は、日本人の主食である米の代替食品であり、蛋白質含量が所定量以下に調整された澱粉からなるいわゆる人工米である。低蛋白澱粉米は、形こそ米に酷似しているものの、炊飯時に吸水して澱粉が膨潤して糊化しやすいことから、炊飯開始前と炊飯途中でほぐし工程を行わなければならないため調理工程が煩雑であった。
【0004】
また、炊飯後の低蛋白澱粉米は、味、色、結着性(粘り気)の面において、米飯とは異なる点が多かった。すなわち、強い弾性があり、また冷めると固まってしまうので、米飯のように咀嚼できなかった。また、澱粉特有の臭みがあり、米飯のような甘みがなかった。また、炊飯後の米飯の色調は、若干の黄色未を帯びた濁りのある白色であるのに対し、低蛋白澱粉米は、透き通るような純白感があり、違和感があった。更には、炊飯後の低蛋白澱粉米は、表面に結着性(粘り気)が少ないので、箸で食することが困難であり、おにぎりなどを作っても保形性がなく、崩れやすかった。
【0005】
その他の低蛋白澱粉食品についても、風味や食感、外観、物性の面において通常食品と比べて劣るものであった。
【0006】
このため、低蛋白澱粉食品の風味や食感、外観、物性を通常食品に近づける試みが検討されている。例えば、下記特許文献1には、キトサン及び/又はキトサン分解物を含有させた低蛋白澱粉食品を加熱調理することが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、低蛋白澱粉食品の調理時に、グルコース、マンノース及びガラクトースのうちの少なくとも一つを構成糖とする天然多糖類またはその分解物を添加して加熱調理することが開示されている。
【特許文献1】特開2002−281921号公報
【特許文献2】特開平5−276882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1では、キトサン及び/又はキトサン分解物を低蛋白澱粉米に含有させているが、このキトサン分解物としては、重合度2〜8のものを用いると記載されており、グルコサミン(重合度1)を対象にしたものではない。
【0009】
また、これまでの方法では、その効果は十分ではなく、加熱調理後の低蛋白澱粉食品は、風味や食感、外観、物性については通常食品には程遠いものであった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、加熱調理後の低蛋白澱粉食品の風味や食感、外観、物性をより通常食品に近づけることができる、低蛋白澱粉食品の品質改良剤及び低蛋白澱粉食品の調理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々の検討の結果、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドを、低蛋白澱粉食品の加熱調理時に添加して加熱調理することで、加熱調理後の低蛋白澱粉食品の風味や食感、外観、物性を、通常食品に近づけることができることを見出し、上記目的を達成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の低蛋白澱粉食品の品質改良剤は、加熱調理時に低蛋白澱粉食品に添加して用いられるものであって、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の低蛋白澱粉食品の調理方法は、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を、低蛋白澱粉食品1質量部に対し、0.0005〜0.05質量部添加し、加熱調理することを特徴とする。
【0014】
本発明においては、有効成分として、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩を用いることがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱調理後の低蛋白澱粉食品の風味や食感、外観、物性をより通常食品に近づけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の低蛋白澱粉食品の品質改良剤は、加熱調理時に低蛋白澱粉食品に添加して用いられるものであって、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有する。
【0017】
グルコサミンの塩としては、塩酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。なかでも、食品素材として広く用いられているグルコサミン塩酸塩が好ましい。
【0018】
N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドとしては、市販されているものを用いてもよい。例えば、N−アセチルグルコサミンとしては、商品名「マリンスウィート(登録商標)」(焼津水産化学工業株式会社)等を好ましく用いることができる。また、グルコサミン塩酸塩(グルコサミンの塩)としては、商品名「ナチュラルグルコサミン」(焼津水産化学工業株式会社)等を好ましく用いることができる。
【0019】
コラーゲンペプチドは、その起源、抽出方法、分子量等において特に制限されるものではない。例えば、豚、牛、鶏等の骨や、皮、または魚の骨、皮、ウロコに含まれるコラーゲンを熱水抽出、加圧抽出等の抽出方法によって得られたコラーゲンを使用することができる。また、コラーゲンペプチドの平均分子量は、10,000以下が好ましく、1,000〜4,000がより好ましい。コラーゲンペプチドの平均分子量が10,000以上である場合、低蛋白澱粉米の炊飯時に添加した場合、炊飯時に吸水が妨げられて食感が悪化したり、その他の低蛋白澱粉食品に添加した場合でも出来上がりの物性、食感に悪影響を与える為、好ましくない。
【0020】
また、本発明において、コラーゲンペプチドは、固形分中の遊離アミノ酸含量が1.0質量%以下、ヒ素含量が2ppm以下であることが好ましい。このようなコラーゲンペプチドは、既に外用剤やサプリメントとして使用実績が豊富であるため、安全性等の問題がなく、安心して使用することが可能である。そして、原料の特有の味や臭いがなく、更には、ヒ素含量2ppm以下と非常に低いので安全性が高く、幅広い分野に使用することができる。
【0021】
更に、コラーゲンペプチドとしては、魚由来のコラーゲンペプチドが好ましく使用される。魚由来のコラーゲンペプチドは、例えば、特開2003−238597号公報に記載されている方法に従って得ることができる。
【0022】
すなわち、カツオ、マグロ、カジキ、タラ、アジ、サバ、サケ、マス、サンマ、ウナギ、ティラピア、カワハギ、ハタ、オヒョウ、カレイ、ヒラメ、ニシン、イワシ、ティラピア、サメ、エイ、フグ、ブリ、カサゴ、メバル等から得られる魚皮及び/又は魚骨に、水を加えて加熱抽出又は加圧加熱抽出することにより、魚類由来のコラーゲンを得ることができる。上記魚類の中でも、大量かつ安定的に入手できることから、カツオ、マグロ、タラ、ティラピア、オヒョウ、サケ等を用いることが好ましい。
【0023】
そして、上記コラーゲンを含む抽出物を、タンパク加水分解酵素で処理してコラーゲンをペプチド化し、逆浸透膜処理して濃縮液を回収することで、コラーゲンペプチドを得ることができる。この場合、濃縮の際に、適宜加水しながら、元液量の1〜10倍量、好ましくは3〜5倍量の水を加えて液を透過させることが好ましい。加水操作を繰り返すことにより、不純物をより効率よく除去することができ、更には、魚特有の風味を軽減できるので、より安全性の高いコラーゲンペプチドを得ることができる。このようなコラーゲンペプチドとしては、商品名「マリンマトリックス(登録商標)」(焼津水産化学工業株式会社)等が挙げられる。
【0024】
コラーゲンのペプチド化に用いる上記タンパク加水分解酵素としては、特に制限されず、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、あるいはそれらを含有する酵素製剤等を用いることができる。また、酵素製剤は各社から市販されており、例えば、商品名「プロテアーゼN」(天野エンザイム製、中性プロテアーゼ)、商品名「プロテアーゼP−3」(天野エンザイム製、アルカリ性プロテアーゼ)、商品名「スミチームAP」(新日本化学工業製、酸性プロテアーゼ)等を用いることができる。また、上記逆浸透膜としては、食塩阻止率が10〜50%のものが好ましく用いられる。このような逆浸透膜としては、例えば、商品名「NTR−7410」、商品名「NTR−7430」、商品名「NTR−7450」(いずれも日東電工製)等が挙げられる。
【0025】
また、所望の平均分子量のコラーゲンペプチドを製造する場合には、例えば、蒸気圧浸透法、光散乱法、電気泳動法、GPC‐HPLC法等の方法により平均分子量を測定することで、所望の平均分子量のコラーゲンペプチドを得ることができる。
【0026】
具体的な測定方法としては、例えば、GPC‐HPLC法でコラーゲンペプチドの平均分子量を測定する場合は、GPC‐HPLC装置(カラム:「TSK‐gel guardcolumnPWXL」(東ソー株式会社製)、「TSK‐gel G3000PWXL」(東ソー株式会社製)、「TSK‐gel G2500PWXL」(東ソー株式会社製)、移動相:0.5% 塩化ナトリウム水溶液、流速:0.8mL/min、カラム温度:30℃、検出:RI、HPLCポンプ:「HITACHIL−7100型」(日立製作所製)を使用し、標準物質として、ラミナリテトラオース(分子量660)、ラミナリヘキサオース(分子量990)、プルラン5量体(分子量5,900)、プルラン10量体(分子量11,800)、プルラン20量体(分子量22,800)を用いて、これら標準物質との相対分子量から求めることができる。
【0027】
本発明の品質改良剤は、加熱調理後の低蛋白澱粉食品の品質改良剤効果の面から、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することが特に好ましい。また、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩を併用することも出来る。
【0028】
次に、本発明の低蛋白澱粉食品の調理方法について説明する。
【0029】
本発明の低蛋白澱粉食品の調理方法は、低蛋白澱粉食品の加熱調理時に、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を、低蛋白澱粉食品に添加して加熱調理する。
【0030】
本発明において、対象となる低蛋白澱粉食品としては、特に限定はなく、低蛋白澱粉米、低蛋白澱粉パン、低蛋白澱粉ホットケーキ、低蛋白澱粉菓子、低蛋白澱粉うどん、低蛋白澱粉ラーメン、低蛋白澱粉そば、低蛋白澱粉きしめん、低蛋白澱粉パスタ等が挙げられる。
【0031】
低蛋白澱粉米としては、例えば、蛋白質を低減ないし削除した低蛋白穀物澱粉を、米粒状に成形したもの等を用いることができる。
【0032】
また、低蛋白澱粉米以外の低蛋白澱粉食品としては、低蛋白穀物澱粉を用いて加工された低蛋白澱粉パン、低蛋白澱粉ホットケーキ、低蛋白澱粉菓子、低蛋白澱粉うどん、低蛋白澱粉ラーメン、低蛋白澱粉そば、低蛋白澱粉きしめん、低蛋白澱粉パスタ等が挙げられる。
【0033】
低蛋白穀物澱粉の澱粉質原料としては、特に限定はないが、ワキシーコーンスターチ等のコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、サゴヤシ低蛋白澱粉米澱粉、及び前記各種澱粉を化工処理(例えば、α化、架橋化、低分子化、エステル化、エーテル化)した化工澱粉、さらには小麦粉(強力粉、中力粉等)、そば粉、米粉、アマランス、大麦、ライ麦、あわ、ひえ、きび、山芋粉、ハト麦粉、モロコシ粉等が挙げられる。低蛋白穀物澱粉としては、市販されているものでもよく、例えば、商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)が一例として挙げられる。
【0034】
低蛋白穀物澱粉以外の素材としては、例えば、キトサン、キトサン分解物、食物繊維、食用油脂、酵素、デキストリン等が一例として挙げられる。これらは、必要に応じて適宜選択して使用できる。
【0035】
上記キトサンは、例えば、カニ、エビ等の甲殻類の殻等から常法によって調製されるキチンを熱濃アルカリ処理して脱アセチル化することにより得ることができ、脱アセチル化率が60〜100%のキトサンが好ましく用いられ、脱アセチル化率は80〜100%がより好ましい。また、キトサン分解物は、キトサンを酸又は酵素によって加水分解して得られる低分子キトサン、キトサンオリゴ糖及びそれらの混合物(それらの塩も含む。)であり、重合度2〜8程度のもの、すなわちキトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース、キトヘプタオース、キトオクタオースが好ましい一例として挙げられる。キトサンオリゴ糖又はその混合物は、各社から市販されており、例えば「COS−Y」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)等を用いることができる。キトサンやキトサン分解物を含有させることで、これらの有する様々な生理活性機能を付与させることができると共に、低蛋白澱粉食品の風味や食感を良好にできる。キトサン、キトサン分解物を含有させる場合は、乾物換算で、低蛋白澱粉食品中に、0.01〜20質量%含有させることが好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0036】
上記食物繊維としては、グアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、結晶セルロース、水溶性食物繊維等が好ましく挙げられる。食物繊維を含有させることで、低蛋白澱粉食品に、サクサクとした食感を付与できる。食物繊維を含有させる場合は、乾物換算で、低蛋白澱粉食品中に、0.1〜30質量%含有させることが好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0037】
上記食用油脂としては、植物性及び動物性の油脂を用いることができる。例えば、植物性油脂としてはパーム油、大豆油、なたね油、ゴマ油、椿油、中鎖脂肪酸等が挙げられ、動物性油脂としてはラード、ショートニング、魚油、ω−3系脂肪酸等が挙げられる。食用油脂を含有させることにより、低蛋白澱粉食品の食感を良好にできると共に、旨味を付与することができ、さらに加熱調理時に溶解して煮崩れすることを防止できる。食用油脂を含有させる場合は、乾物換算で、低蛋白澱粉食品中に、0.01〜20質量%含有させることが好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0038】
上記酵素としては、アミラーゼ、プロテアーゼが好まし一例として挙げられる。アミラーゼとして具体的には、例えば「モチラーゼ」(商品名、大塚薬品工業株式会社製)等が挙げられる。プロテアーゼとしては、例えば「OM−8」(商品名、大塚薬品工業株式会社製)等が挙げられる。また、アミラーゼ及びプロテアーゼを含む酵素製剤を用いてもよく、例えば商品名「ミオラ」(大塚薬品工業株式会社製)、「スーパーミオラ」(商品名、大塚薬品工業株式会社製)等が挙げられる。酵素を含有させることで風味を良好にできる。酵素を含有させる場合は、乾物換算で、低蛋白澱粉食品中に、0.001〜1質量%含有させることが好ましく、0.01〜0.1質量%がより好ましい。
【0039】
上記デキストリンとしては、例えば「パインデックスHL−PDX」(商品名、松谷化学工業株式会社製)、「アミコール」(商品名、日澱化学株式会社製)等が挙げられる。デキストリンを含有させる場合は、乾物換算で、低蛋白澱粉食品中に、1〜30質量%含有させることが好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
【0040】
例えば、低蛋白澱粉米は、低蛋白穀物澱粉を含む原料を糊化し、米形状に成形することで製造できる。成形方法としては、特に限定はなく、上記原料に水を加えて、エクストルーダーで混練、加圧、加熱して澱粉を糊化し、吐出口から押出して米形状に成形する方法や、糊化させた原料を型抜きロールに押し込んで米形状に成形し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0041】
また、低蛋白澱粉米は、市販されているものでもよく、例えば、商品名「でんぷん米0.1」(有限会社オトコーポレーション)が一例として挙げられる。
【0042】
特に、腎臓病患者用の低蛋白澱粉米として用いる場合は、低蛋白澱粉米の蛋白質含量は、5質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。この態様によれば、蛋白質の摂取量を制限する必要がある腎臓疾患患者等に非常に適したものにできる。
【0043】
その他の低蛋白澱粉食品も、低蛋白穀物澱粉を含む原料を、常法により、各種食品形態に加工ないし成形などすることで製造できる。
【0044】
また、本発明では、低蛋白穀物澱粉を通常の穀物粉の代わりに用い、該低蛋白穀物澱粉と、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種と、を少なくとも含む原料を加熱調理して、低蛋白澱粉パン、低蛋白澱粉ホットケーキ、低蛋白澱粉菓子、低蛋白澱粉うどん、低蛋白澱粉ラーメン、低蛋白澱粉そば、低蛋白澱粉きしめん、低蛋白澱粉パスタ等の低蛋白澱粉食品を調理してもよい。
【0045】
本発明において、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドの添加量は、低蛋白澱粉食品1質量部に対して0.0005〜0.05質量部添加する。前記添加量は、低蛋白澱粉食品1質量部に対して0.001〜0.01質量部がより好ましく、0.004〜0.006質量部が特に好ましい。前記添加量が0.0005質量部未満であると、加熱調理後の低蛋白澱粉食品の品質をほとんど改善できない。また、0.05質量部を超えると、N−アセチルグルコサミンやグルコサミン、コラーゲンペプチドなどの風味が強くなりすぎ、低蛋白澱粉食品の風味に悪影響を及ぼすことがある。
【0046】
調理方法については、例えば低蛋白澱粉米の場合、従来の米飯を炊飯するのと同等の条件でよく、例えば低蛋白澱粉米50gを炊飯する場合、加熱炊飯15分、蒸らし3〜5分で行う。なお、加熱調理後は、特にほぐしを行わなくてもよい。
【0047】
低蛋白澱粉米の加熱調理時における、水の量は、従来の米飯を炊飯する際に要する水の量でよく、例えば、低蛋白澱粉米1質量部に対し、1.0〜2.5質量部が好ましく、1.6〜2.0質量部がより好ましい。加水量が2.0質量部を超えると、加熱調理後の低蛋白澱粉米の食感がノリ状になることがある。また、加水量が1.0質量部未満であると、加熱調理後の低蛋白澱粉米の食感がパサ付いたものになることがある。
【0048】
本発明によれば、低蛋白澱粉米の加熱調理時に、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を、低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.0005〜0.05質量部添加して、加熱調理することで、炊飯開始前や炊飯途中でほぐしを行わなくても、加熱調理時に低蛋白澱粉米同士が付着しにくくなるので、米飯を加熱調理するのと同様の工程で調理でき、調理工程を簡略化できる。
【0049】
また、加熱調理後の低蛋白澱粉米は、米飯のような甘みがあり、若干の黄色味を帯びた濁りのある白色を有していて、米飯に近い外観及び味を有している。更には、表面には粘り気があって、米飯のように咀嚼でき、米飯のような食感を有している。そして、箸で食べることができ、また、通常のおにぎりを握る感覚でおにぎりを作成することもできる。
【0050】
また、低蛋白澱粉食品が、低蛋白澱粉うどん等の麺類や低蛋白澱粉パスタ等の場合の調理方法としては、これらの食品を茹でる時にN−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドを添加すればよい。調理条件は通常の食品の場合と同条件で行うことが出来る。
【0051】
また、低蛋白穀物澱粉を通常の穀物粉の代わりに用いて調理を行う場合、その調理対象にもよるが、例えば通常用いられる穀物粉100質量部のうち50〜100質量部を低蛋白穀物澱粉に置き換えることが好ましい。その他の調理条件については、通常の食品の場合と同条件で行うことが出来る。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
低蛋白澱粉米(蛋白質含有量0.1質量%、商品名「でんぷん米0.1」(有限会社オトコーポレーション)1質量部に対し、N−アセチルグルコサミン(商品名「マリンスウィート(登録商標)」(焼津水産化学工業株式会社))を0.005質量部添加し、常法に従って炊飯した。N−アセチルグルコサミンは、低蛋白澱粉米への加水後に添加し、ほぐしを行うと共に攪拌し溶解させた。
【0053】
(実施例2)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、グルコサミン(商品名「ナチュラルグルコサミン」(焼津水産化学工業株式会社))を市販の低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0054】
(実施例3)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、コラーゲンペプチド(商品名「マリンマトリックス(登録商標)」(焼津水産化学工業株式会社))を低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0056】
(比較例2)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、もち粉を低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.05質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0057】
(比較例3)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、トレハロースを低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0058】
(比較例4)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、ぶどう糖を低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0059】
(比較例5)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、デキストリン(商品名「パインデックス#2」(松谷化学工業株式会社))を低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0060】
(比較例6)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、グアーガムを低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0061】
(比較例7)
実施例1において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、キトサンオリゴ糖(商品名「COS‐YS」(焼津水産化学工業株式会社))を低蛋白澱粉米1質量部に対し、0.005質量部添加した以外は、実施例1と同様にして炊飯した。
【0062】
実施例1〜3,比較例2〜7の方法で得られた炊飯後の低蛋白澱粉米について、比較例1の方法で得られた炊飯後の低蛋白澱粉米と比較した官能評価を行い食感、色、味、結着性(粘り気)について評価を行った。結果を表1にまとめて示す。大きな改善が認められた場合は◎とし、改善が認められた場合は○とし、若干の改善が見られた場合は△とし、ほとんど変化しない又は悪化した場合は×とした。
【0063】
【表1】

【0064】
炊飯時にN−アセチルグルコサミンを添加した実施例1は、炊飯時の低蛋白澱粉米同士の付着は抑制されており、炊き上がり状態は良好であった。また、炊飯後の低蛋白澱粉米には、味に若干の甘みが付与されていて米飯らしさが増しており、更には、口の中で歯と歯の間でツルッと滑ってしまう感じが無く、米飯を噛んでいる感覚が得られた。そして、結着性(粘り気)があり、ご飯を食べる時の基本的なスタイルであるお茶碗とお箸での食事ができた。また、おにぎりを握っても崩れることがなかった。
また、炊飯時にグルコサミン塩酸塩を添加した実施例2は、おこげができて炊き上がりの米飯らしさが増し、粒の色も若干黄色未がかかりより米飯らしさが出ていた。味についても、グルコサミン塩酸塩本来の複雑な味がでんぷん米に自然な味を付加することになり、より米飯らしさがあった。そして、結着性(粘り気)があり、ご飯を食べる時の基本的なスタイルであるお茶碗とお箸での食事ができた。また、おにぎりを握っても崩れることがなかった。
また、炊飯時に、コラーゲンペプチドを添加した実施例3は、色はほとんど改善できなかったものの、でんぷん米特有の味のマスキング効果による風味の改善及び結着性(粘り気)や食感の改善ができた。結着性(粘り気)の改善については、実施例の中で最も優れていた。
【0065】
一方、炊飯時にもち粉を添加した比較例2は、結着性(粘り気)については改善が認められたが、味や色についてはほとんど改善が認められなかった。
また、炊飯時に、トレハロース(比較例3)、ぶどう糖(比較例4)、デキストリン(比較例5)、キトサンオリゴ糖(比較例7)を添加した場合、低蛋白澱粉米同士が付着し付着し合っていて、いずれも粒のまとまり感がなく、箸で食べることができなかった。また、おにぎりをにぎっても、すぐに崩れてしまった。また、色、味、食感についてもほとんど改善が認められなかった。
また、炊飯時に、グアーガムを添加した比較例6は、低蛋白澱粉米への吸水が妨げられてしまい、炊飯時の低蛋白澱粉米同士の付着は抑制されるものの、炊き上がりそのものが不十分であった。また、グアーガムの味が付与されていて、米飯の味とは異なるものであった。また、食感もほとんど改善できなかった。
【0066】
(実施例4)
表2に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉食パンを作った。なお、N−アセチルグルコサミン及び低蛋白澱粉穀物粉は、それぞれ、商品名「マリンスウィート(登録商標)」(焼津水産化学工業株式会社)、及び商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0067】
【表2】

【0068】
(実施例5)
実施例4において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、グルコサミン(商品名「ナチュラルグルコサミン」(焼津水産化学工業株式会社))を使用した以外は、実施例4と同様にして低蛋白澱粉食パンを作った。
【0069】
(実施例6)
実施例4において、N−アセチルグルコサミンの半量の代わりに、グルコサミン(商品名「ナチュラルグルコサミン」(焼津水産化学工業株式会社))を使用した以外は、実施例4と同様にして低蛋白澱粉食パンを作った。
【0070】
(比較例8)
実施例4において、N−アセチルグルコサミンを使用しなかった以外は、実施例4と同様にして低蛋白澱粉食パンを作った。
【0071】
(比較例9)
実施例4において、N−アセチルグルコサミンの代わりに、キトサンオリゴ糖(商品名「COS‐YS」(焼津水産化学工業株式会社))を使用した以外は、実施例4と同様にして食パンを作った。
【0072】
(比較例10)
実施例4において、低蛋白澱粉穀物粉の代わりに強力粉を使用した以外は、実施例4と同様にして食パンを作った。
【0073】
実施例4〜6,比較例8〜9の方法で得られた低蛋白澱粉食パン、及び比較例10の方法で得られた食パンについて官能評価を行い焼き上がりの、ふくらみ高さ、色(ふち、内部)、キメ、食感、味について評価を行った。また、それぞれの食パンについて、トーストを行い、食感、色、及び味について官能評価を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0074】
【表3】

【0075】
N−アセチルグルコサミンを添加した実施例4では、比較例8と比較して色の変化は見られず白色のままであるが、キメと食感については大きな改善が得られた。これは、通常の食パンである比較例10と比較しても劣らない程度の非常に大きな改善であった。また、パンのふくらみ高さについても、改善が見られた。
グルコサミンを添加した実施例5では、パン全体への着色(褐色)変化は見られるものの、パンのキメおよび食感における改善がみられることがわかった。
N−アセチルグルコサミンとグルコサミンを同量添加した実施例6では、色の変化は比較例10と同等であり、また、キメと食感については実施例4と同等の大きな改善が見られた。
キトサンオリゴ糖を添加した比較例9では、ふくらみ高さ、色(ふち、内部)、キメ、食感、味いずれも改善が見られなかった。
更にトーストをするとそれぞれのパンの違いはより明らかとなった。
N−アセチルグルコサミンを添加した実施例4では、サクサクとした食感が比較例8と比較しても変わらないほどであった。
グルコサミンを添加した実施例5では、色の改善は認められなかったものの、モチモチとしたパン特有の食感は非常に改善がなされた。
N−アセチルグルコサミンとグルコサミンを同量添加した実施例6では、色や味なども含めトータルで考えると非常に食パンに近いものとなることが明らかであった。
キトサンオリゴ糖を添加した比較例9では、色、食感、味いずれも改善が見られなかった。
【0076】
(実施例7)
表4に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉クッキーを作った。なお、低蛋白澱粉穀物粉は、商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0077】
【表4】

【0078】
(実施例8)
表5に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉ピザを作った。なお、低蛋白澱粉穀物粉は、商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0079】
【表5】

【0080】
(実施例9)
表6に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉蒸しパンを作った。なお、低蛋白澱粉ホットケーキミックスは、商品名「でんぷんホットケーキミックス」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0081】
【表6】

【0082】
(実施例10)
表7に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉サブレを作った。なお、低蛋白澱粉穀物粉は、商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0083】
【表7】

【0084】
(実施例11)
表8に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉ハッシュドポテトを作った。なお、低蛋白澱粉穀物粉は、商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0085】
【表8】

【0086】
(実施例12)
表9に記載された配合で常法に従って、低蛋白澱粉すいとん汁を作った。なお、低蛋白澱粉穀物粉は、商品名「でんぷん薄力粉」(有限会社オトコーポレーション)を用いた。
【0087】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理時に低蛋白澱粉食品に添加して用いられるものであって、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする低蛋白澱粉食品の品質改良剤。
【請求項2】
N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩を有効成分として含有する、請求項1記載の低蛋白澱粉食品の品質改善剤。
【請求項3】
N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩、コラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を、低蛋白澱粉食品1質量部に対し、0.0005〜0.05質量部添加することを特徴とする低蛋白澱粉食品の調理方法。
【請求項4】
N−アセチルグルコサミン、グルコサミン及びその塩を添加する、請求項3に記載の低蛋白澱粉食品の調理方法。

【公開番号】特開2009−268434(P2009−268434A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123782(P2008−123782)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【出願人】(599170788)有限会社オトコーポレーション (5)
【Fターム(参考)】