説明

低蛋白米の製造方法

【課題】蛋白質の除去効率を高める乳酸発酵処理による低蛋白米を製出する。
【解決手段】原料米を除菌洗浄した後、除菌清浄米を乳酸菌と蛋白質分解酵素含有の仕込液に浸漬し、仕込液中に十分な溶存酸素が存在する好気条件下での発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、水洗後水切りしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵処理によって低蛋白化を実現する低蛋白米の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸発酵処理によって低蛋白米を得る手段としては、特許文献1(特開平6−217719号公報)に、米粒表面の雑菌を除去した水洗精米を、嫌気的条件下で、乳酸菌含有の浸漬液によって、発酵適温を維持して1日〜7日発酵させ、低蛋白米(低カリウム、低リン米)を得ることが開示されている。
【0003】
また特許文献2(特開平6−303925号公報)には、水洗いした原料米を、糖類、プロテアーゼ、乳酸菌を分散した浸漬水と共に混合し、乳酸発酵を行うことによってpHを所定の範囲に調整して低蛋白・低カリウム・低リン米を得る手段が開示されている。
【0004】
また特許文献3(特開2006−166767号公報)には、精米ではなく玄米の低蛋白処理が開示されている。即ち玄米を精白率0.1〜2%の搗精を行って玄米表皮に傷を付けた後、除菌洗浄を行い、清浄玄米を、乳酸菌又は乳酸菌と蛋白分解酵素含有の仕込み液により、所定期間嫌気状態で発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、更に低温水で水洗冷却して低蛋白玄米を製出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−217719号公報。
【特許文献2】特開平6−303925号公報。
【特許文献3】特開2006−166767号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳酸菌発酵処理を採用した低蛋白米は、蛋白分解酵素のみを使用して処理した低蛋白米(特開平9−65840号公報参照)より、その製出手段が煩雑であるが、食味が良好であり、腎臓病患者には好まれている。
【0007】
この乳酸発酵処理において、一般的には他の雑菌の繁殖を防止するために嫌気発酵としている。
【0008】
ところで前記の乳酸発酵を利用する除蛋白手法において、乳酸菌の活性によって米中の蛋白質の除去効率が左右される。この原因として米中に存在するリン酸塩が、乳酸菌が生成したプロテアーゼや、添加したプロテアーゼの作用を阻害しているものと認められる。
【0009】
そこで本発明は、蛋白質の除去効率を高めた乳酸発酵処理による低蛋白米の製造方法を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る低蛋白米の製造方法は、原料米を除菌洗浄した後、除菌清浄米を乳酸菌と蛋白質分解酵素含有の仕込液に浸漬し、仕込液中に十分な溶存酸素が存在する好気条件下での発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、水洗後水切りしてなることを特徴とするものである。
【0011】
乳酸菌は、通性嫌気性菌に属しチトクロム系の呼吸鎖やカタラーゼなどのヘムタンパク質合成能を有さないことから、分子状酵素をエネルギー代謝に直接利用できない。むしろ乳酸菌は酵素に接触すると過酸化水素(H2O2)、さらにはスーパーオキシド・ラジカル(О2)、ヒドロキシルラジカル(HO・)などの活性酸素を合成して菌体に障害作用を示すので、乳酸菌にとって酸素の存在は好ましくないものと考えられている。しかし、近年では、菌種や菌株により異なるものの、多くの乳酸菌が活性酸素に起因する酸素毒性の防御機構を有していることや、好気条件下では発酵基質のエネルギー代謝に関連する諸酵素の活性を変動させて適応することから、酵素の存在が乳酸菌の増殖性やエネルギー獲得の点で必ずしも障害とならないことかが明らかとなっている。また、好気条件下では代謝系が変動することにより、発酵による生成物の量や種類が変化することが知られている。
【0012】
そこで食品分野においては、乳酸菌による発酵は一般的に嫌気条件にて行われており、前記した従前の乳酸発酵により米中のタンパク質を除去する手法においても通常は嫌気発酵にて行われるが、好気条件下にて発酵を行うことによって乳酸菌の代謝活性を向上させ、乳酸菌の代謝活性が高くなることにより蛋白分解酵素(プロテアーゼ)の生成量も増えてタンパク質の分解効率を向上させることが可能となる。更に米中にはプロテアーゼの作用を阻害するリン酸塩が含まれているが、代謝活性が上がった乳酸菌がこの米中のリン酸塩を、ATPやポリリン酸の形で取り込み、乳酸菌体中に蓄積する。この結果米中や発酵液中のリン酸塩が減少してプロテアーゼの活性を高く保つことが可能となるもので、結果的に好気性の乳酸菌発酵によって、米の低蛋白処理を効率的に行うことができたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記のとおり好気性の乳酸菌発酵による米の低蛋白化を実現したもので、乳酸機に蛋白質分解酵素の生成量を増加させ、更に蛋白質分解酵素の活性阻害となるリン酸塩も分解し、米の低蛋白化を高め、蛋白質量の少なく、且つ食味に優れた低蛋白米を提供できたものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明方法の実施形態における仕込液の配合表。
【図2】同発酵液のpH表。
【図3】同発酵処理後の米の蛋白含有量対比表。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態について説明する。実施形態に示した製造工程は、原料精米に対して除菌洗浄処理、発酵処理、除去洗浄処理の順でなされるものである。
【0016】
除菌洗浄処理は、精白処理玄米を60〜100℃に加熱したクエン酸水溶液に入れて3分間攪拌し、その後水切り(1分間)を行い、更にオーバーフロー状態で水洗してゴミ等を洗い流し、再度水切り(1分間)を行う。
【0017】
前記の除菌洗浄精米を、一次発酵、液切り、二次発酵、液切りの順で発酵処理を行うもので、本発明を検証するために、好気発酵に代えて静置発酵(嫌気発酵)を行ったものを対照区とした。
【0018】
一次発酵(一次仕込)は、図1の表のとおりの配合で、45℃でパブリングによる好気発酵(通気量は仕込液と米の混合液1kgに対して1L/min)で一晩(18時間)の発酵を行った。
【0019】
使用酵素は、「プロテアーゼM(アマノ)G」で、乳酸菌の使用菌株は、「ラクトバチルス プランタルム FMCB株」である。
【0020】
尚発酵温度は、25〜45℃の間で特に30〜45℃が好ましく、発酵時間も12〜240時間で特に48〜72時間が好ましい。更に好気条件も仕込液と米の混合液1kgに対して1L/min程度以上が好ましいし、前記のパブリングに替えて振盪速度を200回/分以上の振盪発酵による好気発酵処理でも良い。
【0021】
また発酵処理に使用する乳酸菌も、ホモ型でもヘテロ型の何れでも使用することができ、例えば「ストレプトコッカス ラクティス」「ストレプトコッカス クレモリス」「ストレプトコッカス フェカリス」等のストレプトコッカス属の菌、「レコノストック メセンテロイデス」等のレコノストック属の菌、「ラクトバチルス ブルガリア」「ラクトバチルス アシドフィルス」「ラクトバチルス デルブルエッキィ」「ラクトバチルス プランタルム」等のラクトバチルス属の菌、「スホロラクトバチルス イヌリナス」等のスホロラクトバチルス属の菌等が使用対象となる。
【0022】
更に蛋白質分解酵素としては、各種プロテアーゼ(蛋白分解酵素)を使用するもので、これらのプロテアーゼとしては、植物に起源を有する植物性蛋白分解酵素、温血動物の膵臓から分泌される酵素、パンクレアチンより得るもの、その他動物を起源とする動物性蛋白分解酵素、放射菌プロテアーゼや麹菌プロテアーゼのような微生物生産蛋白分解酵素などが使用できる。特に酸性プロテアーゼが望ましい。
【0023】
前記の一次発酵を終了すると、発酵液の液切りを行い、図1の表に示した配合の二次仕込液に浸漬し、一次発酵と同様の発酵温(45℃)で、一晩(18時間)の通気を行いながらの好気発酵を行った。
【0024】
前記の発酵処理において、図2の表のとおりの発酵液pHが計測された。一次発酵では対照区が4.2程度で試験区が4.1程度であった。これは好気発酵によって乳酸菌の代謝活性が向上した結果と推測される。また二次発酵においては、対照区が3.9程度で試験区が4.0程度であった。
【0025】
発酵処理の後には、除去洗浄処理を行うもので、除去洗浄処理は、二次発酵の液切りを行った後、流水で2時間の洗浄を行い、発酵中に生じた有機酸などの発酵生成物や、蛋白分解物質、残存乳酸菌等を洗い流すものである。
【0026】
除去洗浄処理を行った後、105℃で乾燥させ、ケルダール法で蛋白含有量の測定を行った。その結果が図3に示す通りで、試験区(好気発酵処理)が対照区(従前の嫌気発酵処理)に比較して低タンパク化が認められ、好気発酵処理の除蛋白効率が向上したことが裏付けられた。
【0027】
前記実施形態は、原料米として精米を採用したが、本発明は玄米を原料米として、低蛋白玄米の製造にも適用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米を除菌洗浄した後、除菌清浄米を乳酸菌と蛋白分解酵素含有の仕込液に浸漬し、仕込液中に十分な溶存酸素が存在する好気条件下での発酵処理を行い、発酵処理後に水洗して余剰物を除去し、水洗後水切りしてなることを特徴とする低蛋白米の製造方法。
【請求項2】
仕込液と米の混合液1kgに対して1L/分以上の通気量による通気発酵で発酵処理を行ってなる請求項1記載の低蛋白米の製造方法。
【請求項3】
振盪速度を200回/分以上の振盪発酵で発酵処理を行ってなる請求項1記載の低蛋白米の製造方法。
【請求項4】
発酵温度を25〜45℃の間で、発酵時間が12〜240時間の発酵処理を行ってなる
請求項1乃至3記載の何れかの低蛋白米の製造方法。
【請求項5】
好気条件下の発酵終了後に仕込液の液切りを行い、再度仕込液又は温水への浸漬による嫌気状態での再発酵処理を行ってなる請求項1乃至4記載の何れかの低蛋白米の製造方法。
【請求項6】
原料米が精米である請求項1乃至5記載の何れかの低蛋白米の製造方法。
【請求項7】
原料米が玄米である請求項1乃至5記載の何れかの低蛋白米の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−252714(P2010−252714A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107603(P2009−107603)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(595093049)株式会社バイオテックジャパン (15)
【Fターム(参考)】