説明

低誘電率成型材

【課題】 電子部品用の絶縁性成型体を形成する成型材であって、Pbフリーのハンダを使用したリフローにも耐えられる優れた耐熱性を有し、かつ剛性が高く、誘電率が低い低誘電率成型材を提供する。
【解決手段】 ガラス転移温度が120℃以下の環状オレフィンを含むポリオレフィン系樹脂の架橋物を含有し、300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることを特徴とする低誘電率成型材、好ましくは、さらに無機充填剤を、ポリオレフィン系樹脂の100重量部に対し、5〜100重量部含有していることを特徴とする低誘電率成型材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に用いられる絶縁性成型体を形成する成型材であって、耐熱性及び剛性が高く、かつ誘電率が低い低誘電率成型材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品用の絶縁性成型体を形成する成型材には、その製品の使用環境や用途により種々の特性が求められる。例えば、表面実装タイプの端末コネクターに用いられる成型材には、部品実装のためのハンダリフローの温度に耐える高い耐熱性(リフロー耐熱)とともに、コネクターとしての挿抜性を保証するための剛性が求められる。又、高周波帯域で使用される部品用の成型材には、信号遅延の問題を低減するため、誘電率が低い材料が求められる。従って、表面実装タイプであって高周波ケーブルの端末コネクター用としては、耐熱性及び剛性が高いとともに誘電率が低い成型材が求められる。
【0003】
耐熱性の高い材料としては、液晶ポリマーが知られている。従って、高い耐熱性が求められる表面実装タイプの端末コネクター用には、液晶ポリマーが用いられることが多いが、液晶ポリマーは、誘電率が高いため、高周波帯域で使用される部品用としては用いることができない。
【0004】
誘電率が低い材料としては、環状オレフィンの重合体が挙げられる。又、環状オレフィンの重合体(環状オレフィン系樹脂)を、硫黄架橋、有機過酸化物架橋、電子線架橋、放射線架橋することにより、耐熱性等が改良されることは知られている(特開昭62−34924号公報)。しかし近年、環境問題の発生を防ぐため、融点が高いPbフリーのハンダの使用が望まれている。そこで、電子部品用の成型材にも、より高い耐熱性が求められる場合が増えているが、従来は、樹脂の着色等の劣化を生じない範囲の条件での架橋反応で、この要請を満足する環状オレフィンの重合体の架橋物を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開昭62−34924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子部品用の絶縁性成型体を形成する成型材であって、Pbフリーのハンダを使用したリフローにも耐えられる優れた耐熱性を有し、かつ剛性が高く、誘電率が低い低誘電率成型材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的には、樹脂の耐熱性を向上させるためには、樹脂のガラス転移温度は高い方が好ましいと考えられている。しかし、本発明者が、環状オレフィンから得られるポリオレフィン系樹脂の架橋物について検討した結果、環状オレフィンから得られるポリオレフィン系樹脂としてガラス転移温度が所定温度以下のものを用いると、かえって架橋が進行しやすくなり、樹脂の劣化の問題を生ぜずに、耐熱性を向上できることを見出した。さらに、その架橋を、高温時の貯蔵弾性率が所定値以上となるように行うことにより、Pbフリーのハンダを使用したリフローにも耐えられる優れた耐熱性を有し、かつ室温から高温まで剛性が高い低誘電率成型材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、前記の課題を達成する発明として、環状オレフィン単量体を含む単量体を重合して得られ、かつガラス転移温度が120℃以下のポリオレフィン系樹脂の架橋物を含有し、300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることを特徴とする低誘電率成型材を提供する(請求項1)。
【0008】
このように本発明の低誘電率成型材は、環状オレフィン単量体を含む単量体を重合して得られるポリオレフィン系樹脂の架橋物を含有することをその特徴の一つとする。環状オレフィン単量体とは、特開平8−20692号公報等により公知のものであって、例えば、シクロペンテン、2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン系単量体が好ましく挙げられる。請求項2は、この好ましい態様に該当するものである。
【0009】
具体的には、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロ−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ−3−ドデセン、8−ヘキシルテトラシクロ−3−ドデセン、2,10−ジメチルテトラシクロ−3−ドデセン、5,10−ジメチルテトラシクロ−3−ドデセン、1,4:5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−2,3−シクロペンタジエノナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4:5,10:6,9−トリメタノ−1,2,3,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a−ドデカヒドロ−2,3−シクロペンタジエノアントラセン等が挙げられる。さらに、シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物、その前記と同様の誘導体や置換体が挙げられる。
【0010】
本発明の低誘電率成型材の必須成分であるポリオレフィン系樹脂は、前記の環状オレフィン単量体を含む単量体を重合して得ることができるものである。重合反応に供される単量体としては、前記の環状オレフィン単量体以外の単量体を含んでいてもよい。前記の環状オレフィン単量体以外の単量体としては、環状オレフィン単量体との共重合可能な不飽和基を持つ単量体が使用され、具体的には、
エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−イコセン等のα−オレフィン類;
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸類;
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類;
マレイン酸ジメチル、フマール酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル類;
無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸無水物類;
ビニルアルコール、酢酸ビニル等のビニルアルコールやビニルエステル類;
スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類が例示される。
【0011】
ポリオレフィン系樹脂の製造に用いられる単量体中の、前記の環状オレフィン単量体の割合は好ましくは、10〜60モル%であり、この範囲で特に優れた耐熱性、剛性が得られ、又より望ましい低誘電率が達成される。又環状オレフィン単量体の割合が前記の範囲を越える場合は、ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が高くなり、従って架橋反応が進みにくくなる。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂は、例えば、前記の環状オレフィン単量体と他の単量体をランダム付加共重合する方法や、他の単量体とともに環状オレフィン単量体を開環重合し開環重合体に水素添加する方法等により製造される。用いる触媒や溶媒、反応温度等の重合の条件は、特開平8−20692号公報等に記載の公知の条件を採用することができる。
【0013】
このようにして得られるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、下記の構造式(1)または(2)で表わされる樹脂が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式中、R、R及びXは、水素原子、炭化水素基、または、ハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換炭化水素基であって、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
【化2】

【0017】
式中、R〜R12は、水素原子または炭化水素基、Xは、水素原子、炭化水素基、または、ハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換炭化水素基である。
【0018】
本発明は、必須成分であるポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度が120℃以下であることもその特徴の一つとする。ガラス転移温度が120℃を越える環状オレフィンを含むポリオレフィン系樹脂を用いた場合は、充分な架橋が達成されず、その結果、Pbフリーのハンダを使用したリフローにも耐えられる優れた耐熱性を達成することができない。
【0019】
ガラス転移温度としては、60〜100℃の範囲が好ましく、特に70〜90℃とすることでより優れた高温時での剛性を得ることができる。なお、ガラス転移温度は、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定において10℃/minの昇温速度で得られたtanδピーク値より求めた値とする。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂の架橋物とは、前記のポリオレフィン系樹脂を架橋したものである。架橋の方法としては硫黄や有機過酸化物等を用いる方法、電子線や他の放射線を用いて架橋する方法等が挙げられる。硫黄を用いる場合は、ポリオレフィン系樹脂に硫黄系化合物、必要に応じて加硫促進剤、加硫促進助剤を配合して加熱し、架橋反応を行う。
【0021】
有機過酸化物を用いる場合は、ポリオレフィン系樹脂に、有機過酸化物を配合し、必要に応じて架橋助剤を配合して加熱し、架橋反応を行う。有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3、ジ−t−ブチルペルオキシド、イソプロピルクミル−t−ブチルペルオキシド、ビス(α−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルペルオキシド類あるいは1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、エチル−3,3−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブチレート、3,3,6,6,9,9−ヘキサメチル−1,2,4,5,−テトラオキシシクロノナン等のペルオキシケタール類;ビス(t−ブチルペルオキシ)イソフタレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類;t−ブチルハイドロペルオキシド、t−ヘキシルハイドロペルオキシド、クミンハイドロペエルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド、p−メンタンハイドロペルオキシド等のハイドロペルオキシド類が挙げられる。
【0022】
架橋の方法としては、電子線や他の放射線を用いて架橋する方法が、射出成型時の温度、流動性の制限を伴わないため好ましい。請求項3は、この好ましい態様に該当する。放射線としては、電子線の他、γ線等を挙げることができる。
【0023】
硫黄や有機過酸化物等を用いる方法、放射線を用いて架橋する方法のいずれの場合も、架橋助剤の併用下に架橋することにより、架橋を促進し、優れた耐熱性や剛性が得られるので好ましい。請求項4は、この好ましい態様に該当する。
【0024】
架橋助剤としては、p−キノンジオキシム、p,p'−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレートもしくはメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物類;N,N'−m−フェニレンビスマレイミド、N,N'−(4,4'−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0025】
本発明の低誘電率成型材は、300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることもその特徴の一つとする。300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上とすることにより、満足する耐熱性を有する成型材が得られるし、又室温からリフロー温度を越える高温まで満足する剛性が得られる。従って、リフロー加熱時でも熱変形の問題を生ぜず、優れた成型体が得られる。より優れた耐熱性及び剛性を得るためには、300℃における貯蔵弾性率が1.0MPa以上が好ましい。
【0026】
ここで、貯蔵弾性率は、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する一項であり、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により10℃/minの昇温温度にて測定される値である。
【0027】
このようにして得られる本発明の低誘電率成型材は、優れた耐熱性及び剛性とともに、2.5〜3.0程度の低誘電率を有する。さらに、この樹脂は、比重が小さく軽量であり、電子部品の小型化、軽量化に寄与できるとの特徴も有する。
【0028】
さらに又、通常、環状オレフィン単量体から得られる樹脂は透明樹脂であるので、透明性に優れるとの特徴も有する。従って、この低誘電率成型材の成型体を用いて得られた電子部品では、内部構造の目視や、配線の不具合の外部よりの確認が可能であり、又着色等の意匠性に優れるとの特徴を得ることができる。
【0029】
前記のポリオレフィン系樹脂単独の場合、高温での高い剛性(弾性率)を得るためには、すなわち300℃における貯蔵弾性率を0.5MPa以上とするためには、架橋度を大幅に高める必要があり、架橋剤量を高めるまたは電子線等の照射量を高める必要がある。そこで好ましくは、補強材として、無機充填剤を、ポリオレフィン系樹脂の100重量部に対し、5〜100重量部添加する。請求項5は、この好ましい態様に該当する。
【0030】
無機充填剤の含有量が5重量部未満の場合は、架橋剤量を高めるまたは電子線等の照射量を高める必要があり、成型体の着色等の問題が生じやすくなることに加え、脆くなる傾向にある。無機充填剤の含有量が100重量部を越える場合は、得られる成型体が脆くなる傾向がある。
【0031】
無機充填剤としては、ガラス繊維、塩基性硫酸マグネシウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ等の無機系ウィスカ、モンモリロナイト、合成スメクタイト等が挙げられる。中でも平均繊維長が1〜3mm程度のチョップドストランドのガラス短繊維が好ましく用いられる。請求項6は、この好ましい態様に該当する。
【0032】
一般に、無機充填剤としては、短繊維状の充填剤が最も弾性率を高める効果が大きいが、前記のサイズを有するガラス短繊維を用いた場合も同様である。又ガラス短繊維は、ガラスからなるので成型体の透明性を高めることができる。さらに、カーボンファイバーを使用する場合のように導電性が生じる問題もない。
【0033】
中でも、前記ガラス短繊維が、表面処理剤で表面処理されている場合は、ポリオレフィン系樹脂とガラス短繊維との親和性が高まり透明性がさらに高まる。特に、前記ガラス短繊維が、表面処理剤で表面処理されており、前記ポリオレフィン系樹脂の架橋物が、架橋助剤の併用下に架橋された架橋物であり、かつ、前記架橋助剤が前記表面処理剤と反応する官能基を有する場合、ガラス短繊維とポリオレフィン系樹脂が、表面処理剤及び架橋助剤を通して化学的に結合され、貯蔵弾性率、強度、透明性がより高まるので好ましい。請求項7は、この好ましい態様に該当する。
【0034】
ここで、表面処理剤としては、アミノ基、グリシジル基、メルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基を有するアルキル鎖をもったシランカップリング剤、チタンカップリング剤が例示される。又、表面処理剤と反応する官能基を有する架橋助剤としては、アミノ基、グリシジル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、カルボキシル基、カルボジイミド基を有するものが例示される。
【0035】
本発明の低誘電率成型材は、前記の本発明の課題が達成される範囲で、他の成分、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候性安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤等を添加することができる。
【0036】
本発明の低誘電率成型材は、電子部品内に用いられる、または電子部品として用いられる絶縁性の成型体、例えば、高周波ケーブル用端末コネクターやDVD等のレンズホルダー、を形成するために用いられる。例えば、本発明の低誘電率成型材を構成するオレフィン系樹脂、必要により加えられる無機充填剤及び架橋助剤等の均一混合物を、射出成型等の手段により成型した後、加熱や放射線照射がされ、本発明の低誘電率成型材を得ることができる。成型方法としては、他に、ブロー成型、トランスファー成型等の方法がある。このようにして得られた低誘電率成型材は、そのまま電子部品に用いられる成型体である場合もあるが、さらに、エッチング、めっき、切削、塗装、研磨等が施されて、電子部品に用いられる成型体に加工される場合もある。このようにして、得られた成型体は、耐熱性、剛性に優れ、誘電率の低いものである。
【発明の効果】
【0037】
以上詳述したように、本発明の低誘電率成型材は、Pbフリーのハンダを使用したリフローにも耐えられる優れた耐熱性を有し、又室温から高温までの剛性(弾性率)が高く、例えば、コネクター等に求められる高い挿抜性も達成できる。又、誘電率が低いので、高周波帯域で使用される電子部品等に適用される。
【0038】
さらに、本発明の低誘電率成型材は、通常、高い透明性も有するので、この低誘電率成型材を用いることにより、内部構造の目視や、配線の不具合の外部よりの確認を可能とし、又着色等の意匠性に優れる電子部品を製造することができる。さらに、本発明の低誘電率成型材は軽量であり、電子部品の小型化、軽量化のために好ましい。従って、本発明の低誘電率成型材は、高温環境下での使用が考えられ、高周波帯域で使用される電子部品等の製造に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に本発明を実施するための最良の形態を、実施例により説明する。なお、本発明はこの実施例の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態への変更も可能である。
【実施例】
【0040】
実施例1〜11及び比較例1〜3
[ポリオレフィン系樹脂]
ポリオレフィン系樹脂としては、次に示す市販品を用いた。いずれも、環状オレフィン単量体を含む単量体を重合して得られた樹脂であり、(1)アペル8008Tと(4)アペル6015Tは、前記の構造式(2)(環状オレフィンの繰返し単位の全繰返し単位に対する割合は、アペル8008Tは20モル%程度、アペル6015Tは40モル%程度である。)で表わされる樹脂である。(2)ゼオノア750Rと(3)ゼオノア1060Rは、前記の構造式(1)で表わされる樹脂である。又(5)トパス8007は、エチレン又はα−オレフィンと、2−ノルボルネンの共重合体からなる樹脂である。
【0041】
(1)アペル8008T : Tg=70℃ : 三井化学株式会社製
(2)ゼオノア750R : Tg=70℃ : 日本ゼオン株式会社製
(3)ゼオノア1060R: Tg=100℃ : 日本ゼオン株式会社製
(4)アペル6015T : Tg=145℃ : 三井化学株式会社製
(5)トパス8007 : Tg=75℃ : ポリプラスチックス社製
Tg : ガラス転移温度
【0042】
前記のポリオレフィン系樹脂のそれぞれに、表1〜表3に示す配合割合で、ガラスファイバー:ECS03T−289/PL(アミノシラン処理チョップドガラスファイバー:セントラル硝子社製)、モスハイジA(塩基性硫酸マグネシウムウィスカ:宇部マテリアル社製)、パナテトラWZ0501(酸化亜鉛ウィスカ:松下電器産業社製)、ティスモN(チタン酸カリウムウィスカ:大塚化学社製)、エスベンNX(モンモリロナイトの結晶表面に4級アンモニウムカチオンを変性させた有機ベントナイト:日本有機粘土株式会社製)、フェノール系酸化防止剤:イルガノックス1010(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製)、及び下記の架橋助剤を配合し、射出成型により5cm×7cm×厚さ1mmのプレートを成型した。
【0043】
[架橋助剤]
DA−MGIC: ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート
TAIC : トリアリルイソシアヌレート
【0044】
成型後、表1〜表3に示す照射量の電子線を照射し、架橋を行った。その後、下記の方法で、貯蔵弾性率(30℃、300℃)、リフロー耐熱、誘電損を測定し、又架橋後の着色状態を目視した。その結果を、表1〜表3に示す。
【0045】
[測定法]
貯蔵弾性率:アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により10℃/minの昇温速度に測定される値
リフロー耐熱:300℃半田槽に1分浸漬し、変形の有無を確認
誘電損:円筒空洞共振法により誘電率、tanδを測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1〜表3の結果より明らかなように、ガラス転移温度が120℃以下であるポリオレフィン系樹脂を用い、かつ300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上となる条件で電子線照射を行い架橋した実施例1〜11では、優れた貯蔵弾性率、リフロー耐熱が得られ、誘電率も低い。特に、ガラス転移温度が70〜75℃のポリオレフィン系樹脂を用い、ガラスファイバー等の無機充填剤を添加した実施例2〜4及び実施例6〜11では、より優れた貯蔵弾性率が得られている。
【0050】
一方、300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上となる条件での架橋を行わなかった比較例1、2では、リフロー耐熱は低く、特に比較例1では、300℃で溶融している。一方、ガラス転移温度が120℃を越えるポリオレフィン系樹脂を用いた比較例3では、高温での充分な貯蔵弾性率やリフロー耐熱を得るためには、電子線照射の照射量を大きくする必要があり、樹脂の着色が生じている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン単量体を含む単量体を重合して得られ、かつガラス転移温度が120℃以下のポリオレフィン系樹脂の架橋物を含有し、300℃における貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることを特徴とする低誘電率成型材。
【請求項2】
前記環状オレフィン単量体が、シクロペンテン、2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン系単量体骨格を有することを特徴とする請求項1に記載の低誘電率成型材。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂の架橋物が、放射線架橋による架橋物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低誘電率成型材。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂の架橋物が、架橋助剤の併用下に架橋された架橋物であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の低誘電率成型材。
【請求項5】
さらに無機充填剤を、前記ポリオレフィン系樹脂の100重量部に対し、5〜100重量部含有していることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の低誘電率成型材。
【請求項6】
前記無機充填剤が、ガラス短繊維であることを特徴とする請求項5に記載の低誘電率成型材。
【請求項7】
前記ガラス短繊維が、表面処理剤で表面処理されており、前記ポリオレフィン系樹脂の架橋物が、架橋助剤の併用下に架橋された架橋物であり、かつ前記架橋助剤が前記表面処理剤と反応する官能基を有することを特徴とする請求項6に記載の低誘電率成型材。

【公開番号】特開2006−313660(P2006−313660A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135083(P2005−135083)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】