説明

低誘電率膜の前駆体組成物及びこれを用いた低誘電率膜の製造方法

【課題】紫外線が照射されても疎水性の低下が抑えられ、誘電率の上昇が抑制された低誘電率膜を製造するための低誘電率膜の前駆体組成物、及び、低誘電率膜の製造方法を提供する。
【解決手段】低誘電率膜の前駆体組成物は、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒と、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率膜の前駆体組成物及びこれを用いた低誘電率膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI多層配線には複数の層間絶縁膜が形成される。配線間の電気容量の十分な低減が求められるため、この層間絶縁膜は一般的に比誘電率が3.9以下の低誘電率膜が用いられている。更に、層間絶縁膜には、高い疎水性が求められる。水を吸収すると誘電率が高くなってしまうためである。
【0003】
層間絶縁膜に利用可能な低誘電率膜として膜中に複数の空孔が形成されたポーラスシリカ膜が開発されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示の多孔質膜の作製方法では、まず、シリカ源及び熱分解性有機化合物を含有する所定の前駆体組成物を調製する。この前駆体組成物を基板上に成膜し、熱分解有機化合物を焼成により熱分解して多孔質膜を作製する。そして、作製した多孔質膜に、疎水性化合物を気相反応させて空孔表面を改質することによって、疎水性を有する多孔質膜を得ている。
【0005】
また、非特許文献1に開示の低誘電率膜の製造方法は、疎水化処理工程を備える低誘電率膜の製造方法が開示されている。この方法においては、疎水化処理はヘキサメチルジシラザンなどを用いて行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−265350号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics誌、47巻、2008年、8364頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の多孔質膜の作製方法では、疎水性化合物を気相反応させて改質する工程が必要であり、製造工程が複雑になるとともに、製造コストが高くなる。
【0009】
また、非特許文献1に開示の低誘電率膜の製造方法では、前駆体組成物を基板上に膜状に塗布して焼成した後に疎水化処理を行っている。製造コストが高くなる上に、十分な疎水性を得るのが困難である。
【0010】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、紫外線が照射されても疎水性の低下が抑えられ、誘電率の上昇が抑制された低誘電率膜を製造するための低誘電率膜の前駆体組成物、及び、これを用いた低誘電率膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る低誘電率膜の前駆体組成物は、
ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、
式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、
熱分解性化合物と、
アルコキシシラン加水分解触媒とを含有する。
【0012】
本発明の第2の観点に係る低誘電率膜の前駆体組成物は、
ジエトキシメチルシランと、
テトラエトキシシランと、
熱分解性化合物と、
アルコキシシラン加水分解触媒と、
を含有する。
【0013】
本発明の第3の観点に係る低誘電率膜の製造方法は、
ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒とを備える前駆体組成物を調製する工程と、
前記前駆体組成物を基板上に成膜する成膜工程と、
前記成膜工程で得られた膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた膜を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られた膜を紫外線処理する紫外線処理工程と、を備える。
【0014】
本発明の第4の観点に係る低誘電率膜の製造方法は、
ジエトキシメチルシランと、テトラエトキシシランと、熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒とを備える前駆体組成物を調製する工程と、
前記前駆体組成物を基板上に成膜する成膜工程と、
前記成膜工程で得られた膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた膜を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られた膜を紫外線処理する紫外線処理工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る低誘電率膜の前駆体組成物は、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物を含有している。この前駆体組成物を用いて低誘電率膜を製造すると、疎水化処理が不要であるため、製造工程が少なく簡便に低誘電率膜を製造することができる。
【0016】
更に、得られた低誘電率膜は、紫外線照射による疎水性の低下が抑制されるので、誘電率の上昇が抑制される。このため、この低誘電率膜を多層配線LSIの層間絶縁膜として用いる際に、成膜後の紫外線処理を行っても低誘電率膜の誘電率が低く保持されるので、層間絶縁膜として好適に利用できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で製造した低誘電率膜の赤外線透過スペクトルの図である。
【図2】実施例1で製造した低誘電率膜の窒素雰囲気中、及び空気中における紫外線照射時間に対する比誘電率を示すグラフである。
【図3】実施例2で製造した低誘電率膜の赤外線透過スペクトルの図である。
【図4】実施例2で製造した低誘電率膜の窒素雰囲気中、及び空気中における紫外線照射時間に対する比誘電率を示すグラフである。
【図5】実施例3で製造した低誘電率膜の赤外線透過スペクトルの図である。
【図6】実施例3で製造した低誘電率膜の窒素雰囲気中、及び空気中における紫外線照射時間に対する比誘電率を示すグラフである。
【図7】参考例1で製造した低誘電率膜の赤外線透過スペクトルの図である。
【図8】参考例1で製造した低誘電率膜の窒素雰囲気中、及び空気中における紫外線照射時間に対する比誘電率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係る低誘電率膜の前駆体組成物、及び、この前駆体組成物を用いた低誘電率膜の製造方法について詳述する。まず、低誘電率膜の前駆体組成物について説明する。
【0019】
低誘電率膜の前駆体組成物は、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、熱分解の温度が250℃以上である熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒とを含有し、これらが溶媒中に溶解し、混合した形態である。
【0020】
式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基(−CH2−)、エチレン基(−CH2CH2−)、ビニレン基(−CHCH−)、1,4−フェニレン基(−C6H4−)から選択される)で表される化合物、Si(OR)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質は、シリカ源であり、低誘電率膜の主要な原料である。シリカ源は低誘電率膜の構造の骨格となるシロキサンネットワークの原料となる。
【0021】
ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物はシリル化剤である。これらのシリル化剤は、アルコキシ基を備えるシラン化合物であり、加水分解によってアルコキシ基が離脱した際にシリカ源あるいは他のシリル化剤分子とシロキサン結合(Si−O−Si)を形成し、大規模なシロキサンネットワークを形成させる。また、上記のシリル化剤は、分子構造中にSi−H結合を備えている。
【0022】
熱分解の温度が250℃以上である熱分解性化合物は、界面活性剤である。この界面活性剤として、長鎖アルキル基及び親水基を有する化合物や、ポリアルキレンオキサイド構造を有する化合物など、種々の化合物が挙げられる。具体的には、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテルが挙げられる。この界面活性剤は、前駆体組成物を用いて成膜した後、膜を焼成することで熱分解し消失する。界面活性剤が消失することにより、多孔質構造の膜が形成される。
【0023】
前駆体組成物中において、界面活性剤の周囲をシロキサンネットワークが取り囲んでいる。これが多数自己組織的に集合する事により、均一な空孔径を有する多孔質シリカ膜が形成される。
【0024】
アルコキシシラン加水分解触媒は、シリル化剤が有するアルコキシ基の切断を促進させる触媒である。アルコキシシラン加水分解触媒は、アルコキシ基の切断を促進させることが可能である限りいずれでもよい。このような作用を備える触媒として、酸性触媒、塩基性触媒のいずれでもよい。酸性触媒として塩酸等の無機酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0025】
また、溶媒は上述したシリル化剤、シリカ源、界面活性剤、アルコキシシラン加水分解触媒が溶解し得る液体であれば、特に限定されず、モノアルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、含窒素系溶媒等の有機溶媒が挙げられる。
【0026】
続いて、低誘電率膜の製造方法について述べる。低誘電率膜の製造方法は、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、熱分解の温度が250℃以上である熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒とを含有する前駆体組成物を調製する工程と、前駆体組成物を成膜する工程と、膜を乾燥する工程と、膜を焼成する工程と、膜を紫外線処理する工程とを備える。
【0027】
(前駆体組成物調製工程)
反応容器にシリル化剤、シリカ源、及びアルコキシシラン加水分解触媒を溶媒と共に混合する。また別の反応容器に溶媒に溶解した界面活性剤を準備し、前記の反応容器の内容物と混合する。シリル化剤はアルコキシ基を備えるシラン化合物であり、加水分解によってアルコキシ基が離脱した際にシリカ源あるいは他のシリル化剤分子とシロキサン結合(Si−O−Si)を形成し、大規模なシロキサンネットワークを形成する。また、前駆体組成物において、このシロキサン重合体が界面活性剤を取り囲んで自己組織的に集合することによって大きいサイズの構造体を形成していると考えられる。
【0028】
シリル化剤として、上述したジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物を用いる。
【0029】
シリカ源として、上述した式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質を用いる。
【0030】
アルコキシシラン加水分解触媒として、上述した酸性触媒や塩基性触媒を用いる。例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸(フッ化水素)、リン酸、ホウ酸、臭化水素酸、アンモニウム塩、窒素含有化合物、酢酸等を用いてよい。
【0031】
溶媒は、上記の材料物質を溶解する目的で使用されるものであり、上述した有機溶媒を用いる。
【0032】
界面活性剤として、上述した長鎖アルキル基及び親水基を有する化合物や、ポリアルキレンオキサイド構造を有する化合物などを用いる。
【0033】
(成膜工程)
上記工程で得られた前駆体組成物を基板上に塗布し成膜を行う。基板としては特に制限されず、例えば、シリコンウエハ等が挙げられる。前駆体組成物の塗布法は特に限定されず、例えば、スピン塗布法、キャスティング法、ディップコート法等の一般的な方法が用いられる。
【0034】
(乾燥工程)
成膜後は、溶媒を揮発させるために乾燥処理を行う。乾燥条件や乾燥方法は特に限定されず、用いた溶媒を揮発させて除去できればよい。
【0035】
(焼成工程)
上記工程で成膜された膜の焼成を、250℃以上の高温で行う。前駆体組成物を焼成処理すると、上述したシロキサンネットワークの構造が維持されたまま、界面活性剤が熱分解し、消失する。この界面活性剤が消失した箇所が空孔(ポーラス)になる。このようにして多孔質膜が形成される。
【0036】
(紫外線処理工程)
上記工程で焼成された膜に対して紫外線照射アニール処理を施し、多孔質シリカ膜のシロキサン結合を促進させる事により高機械強度化を行う。
【0037】
以上の工程を経て低誘電率膜が得られる。得られた低誘電率膜は高い疎水性を有する。すなわち、水分を含む空気に曝露しても、水分の吸収が抑制されるため、比誘電率の変化は小さい。また、この低誘電率膜のもつ高疎水性および低誘電率は、紫外線照射によって損なわれにくい。すなわち、上記の疎水性は紫外線照射アニール処理を行っても高い水準に維持される。以下に、その理由を記す。
【0038】
上記のシリル化剤は、分子構造中にSi−H基を備えており、このSi−H基は、低誘電率膜の形成後、低誘電率膜の表面に多数存在しているものと考えられる。Si−H基は疎水性官能基であるため、膜の疎水性が高まる。
【0039】
低誘電率膜の紫外線照射アニール処理に用いられる紫外線の波長は一般的に172nm〜308nmの範囲にあり、Si−H基の持つバンドギャップと比較して低エネルギーである。このためSi−H基は紫外線照射に際して結合が解離せず安定に存在する。この安定なSi−H基のために、膜の疎水性は紫外線照射アニール処理を行っても高い水準に維持される。
【0040】
一般的に、ポーラスシリカ膜をはじめとするシリカ原料を用いた膜は、親水性が高いという特徴を持つ。これは、膜の表面に露出したシラノール基が空気中の水分を補足する能力を持つことに起因する。膜表面に存在するシラノール基が空気中の水分子を水素結合によって捕捉するため、水分子を吸着させる能力が高い。この現象は膜の疎水性の低下を招く。これは、シリカ原料を用いた膜が本質的に備える性質である。ポーラスシリカ膜では空孔を有するため表面積が大きく、表面に露出するシラノール基が多いので空孔を備えない膜に比べ、親水性が高い。
【0041】
ポーラスシリカ膜の上記の性質は、これを多層配線LSIの層間絶縁膜として使用する際に問題となる。層間絶縁膜が水分を吸収すると、誘電率上昇の原因となり、またリーク電流増加の原因となる。
【0042】
本実施の形態に係る低誘電率膜の製造方法で得られた低誘電率膜は、膜表面にSi−H結合を多数有しており、シラノール基の含有率が相対的に抑えられている。このため、膜の疎水性が高い水準に保たれ、誘電率は低い水準に保たれているものと考えられる。
【0043】
また、上記の前駆体組成物の調製工程において、シリル化剤とシリカ源との配合比を変化させることで比誘電率を変化させることができる。例えば、後述の実施例に示すように、シリカ源に対し、シリル化剤の配合量を増加させれば比誘電率が低下する。更に、紫外線を照射しても比誘電率の変化が小さい。
【0044】
なお、熱分解性化合物の分子量や添加量を変化させることでも、低誘電率膜の比誘電率を変化させることが可能である。熱分解性化合物の分子量や添加量を変化させることで、得られる低誘電率膜中の空孔が変化する。低誘電率膜中の空隙率を高くすることで比誘電率を低くすることも可能である。
【実施例1】
【0045】
以下に記すように、低誘電率膜を製造し、製造した低誘電率膜の比誘電率を測定した。
(前駆体組成物混合)
PFA容器にジエトキシメチルシラン(トリケミカル研究所、電子工業グレード)6.07ml、テトラエトキシシラン(トリケミカル研究所、電子工業グレード)2.77mlを入れた後、純水360mlと34%塩酸(電子工業グレード)0.098mlとの混合液0.9mlと、エタノール(電子工業グレード)11.08mlとを混合した。
【0046】
PFA容器に蓋をして、60℃に加熱したウォーターバスで90分還流させ、流水中で冷却後、純水9.35mlと34%塩酸0.40mlとの混合液を0.49ml添加し、さらに純水3.14mlを添加した。蓋をして室温で15分攪拌後、50℃に加熱したウォーターバスで15分熟成した後、流水で冷却し、エタノール23.05mlを添加した。
【0047】
別のPFA容器にエタノール30mlを入れた後、界面活性剤Brij−78(αオクタデシルωヒドロキシポリ(オキシエチレン))を2.06g添加し、溶解液が透明になるまで1時間攪拌した。この溶解液を上記のジエトキシメチルシラン/テトラエトキシシラン溶解液に添加した後、室温で一晩攪拌した。
【0048】
(成膜)
2インチシリコン基板上に得られた前駆体組成物をスピン塗布(2000rpm、30秒)して成膜した。
【0049】
(乾燥)
その後、直ぐに150℃に加熱されたホットプレートで90秒間乾燥し、溶媒を除去した。
【0050】
(焼成)
窒素でパージされたアニール炉中で、シリコン基板温度350℃で3時間焼成し(昇温・降温レートは1℃/分)、界面活性剤を消失させた。
【0051】
(UV処理)
窒素でパージされた紫外線照射装置内で、シリコン基板温度350℃でエキシマ光(Xeランプ、波長172nm、15mW/cm)を300秒間照射した。そして、エキシマ光照射20秒間、60秒間、120秒間、300秒間それぞれについて、赤外スペクトル及び比誘電率の測定を行った。
【0052】
(赤外スペクトルの測定)
1−10Ω・cmの高抵抗率シリコン基板上に形成された疎水性低誘電率膜の化学結合状態は、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO、FT/IR−660 plus)を用いて行い、窒素パージされたチャンバー内にサンプルをセット後、赤外透過率を測定した。参照ウェハとしては、ベアシリコンウェハを用いた。
【0053】
測定した赤外透過スペクトルを図1に示す。孤立シラノール基、水分子等とのすなわち水素結合していないシラノール基は3745cm−1付近に吸収を持ち、水素結合しているシラノール基は3000〜3745cm−1に吸収を持つ。また、膜中水分も3000〜3745cm−1の吸収によって特定される。本測定においては、3000〜3745cm−1の範囲において、極めて小さな吸収しか観測されなかった。これは、膜中に孤立シラノール基、水素結合シラノール基、膜中水分のいずれも、ほとんど存在していないことを示す。また、エキシマ光(紫外線)照射後においても、孤立シラノール基、水素結合シラノール基、膜中水分の増加は観測されなかった。
【0054】
(比誘電率の測定)
作成した膜の比誘電率の測定を次の方法で行った。作成した膜の上部に直径2mmのアルミ電極を真空蒸着により形成後、吸着水除去のため窒素パージされたチャンバー内でステージを200℃加熱で5時間ベークした。その後、比誘電率を測定した。結果を図2に示す。図2に示す通り、窒素雰囲気中での2分以下の紫外線照射では、比誘電率は1.79から1.82であり、5分の紫外線照射では比誘電率は1.92であった。このように、紫外線照射によって比誘電率が大きく低下していないことが分かる。また、窒素雰囲気中での測定値と空気中の測定値との差が小さいことから、疎水性も高く保たれていることが分かる。
【実施例2】
【0055】
ジエトキシメチルシランとテトラエトキシシランの量をそれぞれ4.04ml及び5.55mlにした以外、実施例1と同様の方法にて、低誘電率膜の作成を行った。得られた低誘電率膜について、実施例1と同様に、赤外透過スペクトルの測定及び比誘電率の測定を行った。
【0056】
赤外透過スペクトルの測定結果を図3に示す。図3から分かるように、3745cm−1の孤立シラノール基、3000−3745cm−1の水素結合シラノール基及び膜中水分による吸収は非常に小さい。これは、膜中に存在する孤立シラノール基、水素結合シラノール基、及び膜中水分が非常に少ないことを示す。また、紫外線照射後の孤立シラノール基、水素結合シラノール基、及び膜中水分の増加も観測されなかった。
【0057】
比誘電率の測定結果を図4に示す。図4に示すように、窒素雰囲気中での2分以下の紫外線照射では比誘電率は1.92から1.94であり、5分の紫外線照射では比誘電率は2.1であった。このように、紫外線照射によって比誘電率が大きく低下していないことが分かる。また、窒素雰囲気中での測定値と空気中の測定値との差が小さいことから、疎水性も高く保たれていることが分かる。
【実施例3】
【0058】
実施例1と同一の方法において、ジエトキシメチルシランとテトラエトキシシランの量をそれぞれ2.02ml及び8.31mlに設定し、低誘電率膜の作成を行った。その後、実施例1と同一の方法において赤外透過スペクトルの測定及び比誘電率の測定を行った。
【0059】
赤外透過スペクトルの測定結果を図5に示す。図5から分かるように、3745cm−1の孤立シラノール基、3000−3745cm−1の水素結合シラノール基及び膜中水分による吸収は非常に小さい。これは、膜中に存在する孤立シラノール基、水素結合シラノール基、膜中水分が非常に少ないことを示す。紫外線照射後の透過スペクトルにおいては、膜中に存在する孤立シラノール基、水素結合シラノール基、及び膜中水分の増加が見られた。
【0060】
比誘電率の測定結果を図6に示す。図6に示すように、窒素雰囲気中での2分以下の紫外線照射では比誘電率は2.10から2.25であり、5分の紫外線照射では比誘電率は2.55であった。
【0061】
(参考例1)
以下に示すように、非特許文献1に記載の製造方法に基づいて低誘電率膜を製造し、実施例1〜3と同様に赤外透過スペクトルの測定及び比誘電率の測定を行った。
【0062】
(前駆体組成物の調製)
PFA容器にテトラエトキシシラン(トリケミカル研究所、電子工業グレード)11.08mlを入れた後、純水360mlと34%塩酸(電子工業グレード)0.098mlとの混合液0.9mlと、エタノール(電子工業グレード)11.08mlとを混合した。
【0063】
PFA容器に蓋をして、60℃に加熱したウォーターバスで90分還流させ、流水中で冷却後、純水9.35mlと34%塩酸0.40mlとの混合液を0.49ml添加し、さらに純水3.14mlを添加した。蓋をして室温で15分攪拌後、50℃に加熱したウォーターバスで15分熟成した後、流水で冷却し、エタノール23.05mlを添加した。
【0064】
別のPFA容器にエタノール30mlを入れた後、界面活性剤Brij−78を3.00g添加し、溶解液が透明になるまで1時間攪拌した。この溶解液を上記のテトラエトキシシラン溶解液に添加した後、室温で一晩攪拌した。
【0065】
(成膜)
得られた前駆体組成物を、2インチシリコン基板上に2000rpmでスピン塗布することによって成膜した。
【0066】
(乾燥)
その後、直ぐに150℃に加熱されたホットプレートで90秒間乾燥した。
【0067】
(焼成)
窒素でパージされたアニール炉中でシリコン基板温度を350℃に加熱し、テトラメチルシクロテトラシロキサンガス(1g/min)とピュア窒素(1L/min)を焼成炉内に流しつつ、30分間焼成した。続いて、ナノ空孔表面に吸着したテトラメチルシクロテトラシロキサンのシロキサン重合度を増加させるため、酸素雰囲気(窒素2.5L/min、酸素0.8L/min)下400℃で3時間焼成した。
【0068】
(疎水化処理)
この際に発生したシラノール基をシリル化するため、再度テトラメチルシクロテトラシロキサンガス雰囲気中での焼成を上と同じ条件で行った。
【0069】
(UV処理)
窒素でパージされた紫外線照射装置内でシリコン基板温度350℃においてエキシマ光(Xeランプ、波長172nm、15mW/cm)を120秒から300秒間照射した。
【0070】
上記の方法で低誘電率膜を製造した後、他の実施例と同じ方法で赤外透過スペクトルの測定および比誘電率の測定を行った。
【0071】
図7に示すように、3745cm−1の孤立シラノール基、3000〜3745cm−1の水素結合シラノール基および膜中水分による吸収は紫外線照射により大幅に増加することが分かった。
【0072】
また、図8に示すように、窒素雰囲気中の比誘電率の測定値は紫外線照射時間に伴って上昇しており、紫外線によって膜の低誘電率性能が劣化していることが分かる。また、窒素雰囲気中の比誘電率の測定値と空気中のそれとの差もまた、紫外線照射時間に伴って大きくなっている。このことは、膜の疎水性が紫外線照射に伴って大きく低下していることを意味する。
【0073】
実施例1〜3の低誘電率膜と、参考例の低誘電率膜を比較すると、実施例1〜3の低誘電率膜は、疎水性が高く、紫外線照射に対して耐性が高いことが判明した。すなわち、本発明に係る低誘電率膜は、シラノール基の含有量が少なく、また、紫外線照射によるシラノール基の増加が抑制されていることが分かった。
【0074】
また、実施例1〜3では、シリル化剤とシリカ源との配合比を異ならせてそれぞれ低誘電率膜を製造したが、シリル化剤とシリカ源との配合比によって、異なる比誘電率を備える低誘電率膜を製造できることがわかった。実施例1に示したように、シリル化剤としてジエトキシメチルシラン6.07ml、シリカ源としてテトラエトキシシラン2.77mlと、シリル化剤の配合比を高くすると、得られる低誘電率膜の比誘電率が低く、また、紫外線照射しても比誘電率の変化が小さいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る低誘電率膜の前駆体組成物を用いて得られる低誘電率膜は、低誘電率を有し、疎水性が高く、紫外線照射耐性が高い。この低誘電率膜を使用した多層配線LSIは、リーク電流が低減され、多層配線LSIのより高度な集積化が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、
式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、
熱分解性化合物と、
アルコキシシラン加水分解触媒と、
を含有することを特徴とする、低誘電率膜の前駆体組成物。
【請求項2】
ジエトキシメチルシランと、
テトラエトキシシランと、
熱分解性化合物と、
アルコキシシラン加水分解触媒と、
を含有することを特徴とする、低誘電率膜の前駆体組成物。
【請求項3】
ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジシラン、ジメトキシジシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン及びジメチルメトキシシランから選択される一種以上の化合物と、式:(RO)−Si−X−Si−(RO)(ROはアルコキシ基、Xは有機架橋基であってメチレン基、エチレン基、ビニレン基、1,4−フェニレン基から選択される)で表される化合物、式:Si(OR)(Rは一価の有機基)で表される化合物、環状シロキサン、二重環状シロキサン及びゼオライト微結晶から選択される一種以上の物質と、熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒とを備える前駆体組成物を調製する工程と、
前記前駆体組成物を基板上に成膜する成膜工程と、
前記成膜工程で得られた膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた膜を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られた膜を紫外線処理する紫外線処理工程と、
を備えることを特徴とする、低誘電率膜の製造方法。
【請求項4】
ジエトキシメチルシランと、テトラエトキシシランと、熱分解性化合物と、アルコキシシラン加水分解触媒とを備える前駆体組成物を調製する工程と、
前記前駆体組成物を基板上に成膜する成膜工程と、
前記成膜工程で得られた膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた膜を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られた膜を紫外線処理する紫外線処理工程と、
を備えることを特徴とする、低誘電率膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−104616(P2012−104616A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251350(P2010−251350)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(596063056)公益財団法人ひろしま産業振興機構 (24)
【Fターム(参考)】